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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1373590
審判番号 不服2020-8454  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-17 
確定日 2021-04-30 
事件の表示 特願2017-137290号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-185317号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年4月28日に出願した特願2015-91737号の一部を平成29年7月13日に新たな特許出願(特願2017-137290号)としたものであって、平成30年4月13日に上申書及び手続補正書が提出され、同年12月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成31年3月1日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年8月16日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年10月24日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年3月25日付け(謄本送達日:同年同月31日)で、令和1年10月24日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに拒絶査定(以下「原査定」ともいう。)がなされ、これに対し、令和2年6月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年3月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認められる(記号A?Gは、分説するため当審で付した。)。

「【請求項1】
A 音声信号を出力するデジタルシグナルプロセッサと、
B 前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する音声信号増幅手段と、
C 前記音声信号増幅手段によって増幅された音声信号に基づいて音声を出力する音声出力装置と、
を備え、
D 前記デジタルシグナルプロセッサが第一基板に設けられ、前記音声信号増幅手段が前記第一基板とは異なる第二基板に設けられており、
E 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられておらず、
F 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線、または前記第二基板に設けられた前記音声信号増幅手段の入力側の配線には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている
G ことを特徴とする遊技機。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の理由である、令和1年8月16日付け拒絶理由通知書に記載された理由は、概略、次のとおりのものである。

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2014-212881号公報
引用文献2.特開2010-115346号公報

4.引用文献1、引用発明
原査定の拒絶理由において引用文献1として引用され、本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2014-212881号公報(平成26年11月17日出願公開、以下同じく「引用文献1」という。)には、遊技機(発明の名称)に関し、図面と共に次の事項が記載されている(下線部は当審で付した。以下同様。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号を出力する音声信号出力手段および当該音声信号出力手段から出力された音声信号を増幅する音声信号増幅手段を有する基板を備えた遊技機に関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の遊技機において、設計・開発段階において音声を確認する場合、図4に示すように、音声信号増幅手段103と音声出力装置104との間で、ヘッドホンやイヤホンといった、上記音声出力装置104とは別の確認用音声出力装置106を接続して音声を確認したりする。
【0005】
しかし、ヘッドホンやイヤホンで音声を確認する場合、音声信号増幅手段103によって増幅された音声信号は出力レベルが高すぎるため、一旦変換装置105によってレベルを落とした上でその信号をヘッドホンやイヤホンに送る必要がある。このような音声確認手法は、変換装置105によって低下させなければならないレベルが大きいため、レベルの調整が煩わしいし、変換装置の発熱や音質の低下を招くこともある。
【0006】
本発明の目的は、設計・開発段階における音声確認を容易にする遊技機を提供することである。」

(3)「【0012】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、図1を参照して遊技機1の全体構成について簡単に説明する。遊技機1は、額縁形状の機枠90を有し、この機枠90には前面枠91が回動自在に支持されている。前面枠91には、前側から遊技盤92を視認可能とする透明な板が設けられている。また、前面枠91の左上および右上には音声出力装置であるスピーカ33が設けられている。」

(4)「【0017】
図2に示すように、本実施形態にかかる遊技機1は、主制御基板20およびサブ制御基板30(本発明における基板に相当する)を備える。主制御基板20は、上述した始動入賞口924、925や大入賞口926等において遊技球が入賞したことを検出するセンサ類22と中継回路21を介して接続されている。また、払出制御回路23を介して貸球払出装置24や賞球払出装置25等の払出装置や、払出制御回路23および発射制御回路26を介して発射装置に接続されている。主制御基板20は、始動入賞口924、925に遊技球が入賞したことに基づく大当たりの抽選や、各種入賞口に遊技球が入賞したことに基づく遊技球の払い出し等を制御する。
【0018】
サブ制御基板30は、主に、主制御基板20からの信号(大当たりフラグの成否や、所定の入賞領域に遊技球が入賞したことを知らせる信号等)を受けて、実行する演出を決定、制御する。演出は、表示装置93に画像を表示したり、各種照明32(ランプ)を点灯、点滅させたり、スピーカ33から音声を出力したりする。すなわち、サブ制御基板30は、表示装置93(表示制御基板)、ランプ制御回路31、スピーカ33等に接続されている。
【0019】
これらの機能のうち、スピーカ33から出力される音声を制御するための回路である、音声制御回路40がサブ制御基板30に形成されている。音声制御回路40はサブ制御基板30に搭載されたCPU等によって駆動する回路である。
【0020】
音声制御回路40の詳細は図3に示す通りである。主制御基板20から送られる各種信号を受けたサブ制御基板30(CPU)は、その信号に基づき、実行する演出を決定(抽選)する。その演出が音声出力を伴う場合には、サブ制御基板30は音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から実行することが決定された演出で使用する音声信号を出力させる。出力された音声信号は、音声信号増幅手段42(アンプ回路)によって増幅される。この増幅された信号が基板外に設けられた上記スピーカ33に電線を通じて送られ、当該スピーカ33から演出の音声として出力される。
【0021】
本実施形態におけるサブ制御基板30には、音声制御回路40における、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43に接続部44が設けられている。接続部44は、音声信号出力手段41から出力される音声信号を、音声信号増幅手段42によって増幅される前に取り出すための基板に形成されたポートである。
【0022】
この接続部44を利用した、遊技機1の設計・開発段階における音声確認の一例は以下の通りである。接続部44は、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43と電気的に接続された、スルーホールまたはビア(ビアホール)から構成される。具体的には、基板に形成されたホール(孔)の内側に、当該信号線43と電気的に接続される導電部である。
【0023】
この接続部44に対し電線の一端を直接、またはコネクタなどを介して間接的に接続する。電線の他端に信号レベルを調整することが可能な変換装置50(トランスを含む装置が例示できる。本発明における外部機器に相当する)が接続される。この変換装置50によって信号レベルを調節した上で、当該信号をヘッドホンやイヤホン、外付スピーカといった、遊技機1に搭載されたスピーカ33とは別の確認用音声出力装置51(遊技機1に搭載されたスピーカ33よりも出力レベルが小さい装置)から出力し、音声の確認を行う。なお、音声出力装置51を利用せず、音声出力が正常になされているかどうかを視覚的に確認(モニタリング)することができる確認装置(本発明における外部機器の別例に相当する)を用いてもよい。
【0024】
音声確認終了後には、電線やコネクタなどを接続部44(サブ制御基板30)から取り外す。これにより、接続部44であるスルーホールやビアなどが残った状態にある点以外の構成については、従来のサブ制御基板と変わらないサブ制御基板30が搭載された遊技機1として出荷される。
【0025】
このように、本実施形態にかかる遊技機1では、サブ制御基板30(音声制御回路40)に設けられた接続部44を利用して、音声信号出力手段41から出力された音声信号を、音声信号増幅手段42によって増幅される前の段階で取り出すことが可能である。そのため、従来のように、増幅された高レベルの信号を、ヘッドホンやイヤホンなどの音声出力装置51用に大きく低下させる必要がなくなるから、従来よりも音声確認時のレベルの調整を容易にすることが可能である。また、変換装置50の発熱や音質の低下を抑制することも可能である。
【0026】
また、接続部44はスルーホールやビアといった基板に形成される「孔」にすぎないため、音声確認終了後、接続部44から電線やコネクタを取り外してしまえば、当該接続部44が残っていること以外は従来の基板と変わりがない。したがって、基板を収納するケースの形状を変更したりする必要がない。また、接続部44としてあらかじめ基板にコネクタが実装された構成とすることが考えられるが、このような何も嵌合していないコネクタを基板に残したまま製品として出荷した場合、当該コネクタが不正行為に利用されるおそれがあるが、接続部44がスルーホールやビアであるためそのような問題も生じない。」

(5)図3から、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42は、サブ制御基板30に設けられることがみてとれる。

「【図3】



上記(1)?(5)の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(記号a?g等は、本願発明の記号A?Gに対応させて付した。)。

「a 主制御基板20から送られる各種信号を受けたサブ制御基板30(CPU)は、その信号に基づき、実行する演出を決定(抽選)し、その演出が音声出力を伴う場合には、サブ制御基板30は音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から実行することが決定された演出で使用する音声信号を出力させ(【0020】)、
b 出力された音声信号は、音声信号増幅手段42(アンプ回路)によって増幅され(【0020】)、
c この増幅された信号が基板外に設けられた上記スピーカ33に電線を通じて送られ、当該スピーカ33から演出の音声として出力され(【0020】)、
d’ 音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42は、サブ制御基板30に設けられ((上記(5)、図3)、
f サブ制御基板30には、音声制御回路40における、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43に接続部44が設けられ、接続部44は、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43と電気的に接続された、スルーホールまたはビア(ビアホール)から構成され、この接続部44に対し電線の一端を直接、またはコネクタなどを介して間接的に接続し、電線の他端に信号レベルを調整することが可能な変換装置50(トランスを含む装置が例示できる。本発明における外部機器に相当する)が接続され、この変換装置50によって信号レベルを調節した上で、当該信号をヘッドホンやイヤホン、外付スピーカといった、遊技機1に搭載されたスピーカ33とは別の確認用音声出力装置51(遊技機1に搭載されたスピーカ33よりも出力レベルが小さい装置)から出力し、音声の確認を行う(【0021】?【0023】)
g 遊技機(【0001】)。」

5.拒絶査定副引例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-115346号公報(平成22年5月27日出願公開、以下「拒絶査定副引例」という。)には、遊技機(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、パチスロ、パチンコその他の遊技機に関する。」

(2)「【0049】
フロントドア9の裏側の上部には、副制御回路56を構成する基板(制御基板)が設けられている。副制御回路56は、ランプ24の点消灯、音声の発生、映像の表示等による演出の実行を制御する回路である。副制御回路56の具体的な構成は後述する。」

(3)「【0064】
次に、フロントドア9の裏側に配されている副制御回路56の制御基板と、それに接続されている周辺装置及び各種中継基板について、図3及び図4を用いて説明する。図4は、副制御回路56とその周辺の構成を示す図である。
【0065】
副制御回路56は、主制御回路55と通信により接続されており、主制御回路55から送信されるコマンドに基づいて演出内容の決定や実行等の処理を行う。副制御回路56は、サブCPU61、サブROM62、サブRAM63、レンダリングプロセッサ69、描画用RAM70、表示用のドライバ71、DSP72(Digital Signal Processor)、オーディオRAM73、オーディオ信号出力用のS/PDIF(Sony/Philips Digital Interface Format)に基づいた電線(COAXIAL)又は光ファイバ(OPTICAL)によるインターフェース(S/PDIF変換器92)等を含んで構成されている。」

(4)「【0077】
また、副制御回路56のサブCPU61、DSP72(音声情報生成手段)、オーディオRAM73は、演出内容により指定されたサウンドデータに従ってBGM等の時系列の音声情報を生成して、I^(2)S規格に基づくデジタルの音声情報をS/PDIF変換器92(音声信号出力手段の一形態)に出力する。S/PDIF変換器92は、入力したI^(2)S規格に基づく音声情報をS/PDIFに基づくシリアル音声信号に変換して各周辺基板90に出力する。
【0078】
S/PDIFに基づくシリアル音声信号を各周辺基板90のS/PDIF逆変換器94(音声情報抽出手段)が受信すると、その送信されてきたシリアル音声信号をI^(2)S規格に基づくデジタルの音声情報に変換する。D/A変換器74(音声情報抽出手段)は、I^(2)S規格に基づくデジタルの音声情報をアナログの音声情報に逆変換し、アンプ75がそのアナログの音声情報に対して電力増幅を行って、それぞれのスピーカ21に出力する。各スピーカ21は、周辺基板90のアンプ75から出力される増幅信号を入力して、音声に変換して出力する。
【0079】
スピーカ21は、例えばパチスロ1の前面中央の左右に2個、前面下部のメダル受皿17の奥に2個、パチスロ1の背面に1個配置されており、それぞれ固有の音や異なる音量、異なる位相の音を発することで、立体的な音響効果を得ることができる。
【0080】
ここで、副制御回路56が直接多数のスピーカ21を駆動することも可能であるが、直接多数のスピーカ21を駆動するためには、副制御回路56からスピーカ21に対してそれぞれ配線を行わなければならず、副制御回路56の制御基板に多量のスピーカケーブルを接続しなければならなくなる。
【0081】
スピーカケーブルの専有面積が増加すると、これに伴ってケーブルの接続不良等による故障の発生率が増加したり、パチスロ1のメンテナンスが困難になったり、各素子の冷却が困難になったり、パチスロ1の価格が上昇するなどの不具合を生ずる。」

(5)「【0095】
次に、I^(2)S規格に基づいた通信を用いずに、直接副制御回路56のDSP72A(音声情報生成手段)と、周辺基板90のD/A変換器74A(音声情報抽出手段)との間でS/PDIFによる音声情報を転送する実施形態について、図6を用いて説明する。なお、図4に示したブロックと同一のブロックについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0096】
図4に示した実施形態では、DSP72がI^(2)S規格に基づくデジタルの音声情報を出力し、S/PDIF変換器92がその信号をS/PDIFによるシリアル音声信号に変換して出力していた。図6に示す実施形態では、DSP72Aが直接S/PDIFによるシリアル音声信号を出力して、各周辺基板90AのD/A変換器74Aに転送する。D/A変換器74Aは、S/PDIF入力を備えたD/A変換器である。
【0097】
S/PDIFによるシリアル音声信号を入力したD/A変換器74Aは、シリアル音声信号をアナログの音声情報に直接逆変換して、アンプ75に出力する。アンプ75は、入力したアナログの音声情報に対して電力増幅を行って、それぞれのスピーカ21に出力する。
【0098】
図6に示すように構成することで、少ない配線でDSP72Aから周辺基板90Aに対して音声情報の転送を行うことができる。また、USB規格に基づいたオーディオデータの転送のように、ハンドシェイクやエラー復帰等を行う必要がないので、開発時や実装時におけるソフトウェアの負担を軽減し、遊技機を安価にて提供することができる。」

(6)図6から、DSP72Aは副制御回路56に設けられ、アンプ75は各周辺基板90Aに設けられることがみてとれる。

「【図6】



(7)上記(1)ないし(6)からみて、拒絶査定副引例には、次の事項(以下「拒絶査定副引例の記載事項」という。)が記載されている。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。

「パチスロ、パチンコその他の遊技機において(【0001】)、
制御基板は副制御回路56を構成し(【0049】)、
DSP72Aが直接S/PDIFによるシリアル音声信号を出力して、各周辺基板90AのD/A変換器74Aに転送し(【0096】)、
S/PDIFによるシリアル音声信号を入力したD/A変換器74Aは、シリアル音声信号をアナログの音声情報に直接逆変換して、アンプ75に出力し、アンプ75は、入力したアナログの音声情報に対して電力増幅を行って、それぞれのスピーカ21に出力し(【0097】)、
DSP72Aは副制御回路56に設けられ(上記(6)、図6)、
アンプ75は各周辺基板90Aに設けられ(上記(6)、図6)、
副制御回路56には、DSP72Aから出力された音声信号を増幅する手段が設けられていないこと。」

6.対比
本願発明と引用発明を対比する(見出し(a)ないし(g)は、本願発明の特定事項AないしGに対応する。)。

(a)引用発明の「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」(a)は、本願発明の「音声信号を出力するデジタルシグナルプロセッサ」に相当する。
そうすると、引用発明の構成aは、本願発明の特定事項Aに相当する。

(b)引用発明の「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」(b)は、音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から出力される音声信号を増幅するものであるから、本願発明の「前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する音声信号増幅手段」に相当する。
そうすると、引用発明の構成bは、本願発明の特定事項Bに相当する。

(c)引用発明の「スピーカ33」(c)は、音声信号増幅手段42(アンプ回路)によって増幅された信号が送られ、演出の音声として出力するものであるから、本願発明の「前記音声信号増幅手段によって増幅された音声信号に基づいて音声を出力する音声出力装置」に相当する。
そうすると、引用発明の構成cは、本願発明の特定事項Cに相当する。

(d)引用発明の「サブ制御基板30」(d)は、デジタルシグナルプロセッサ(引用発明における「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」)が設けられる点で、本願発明の「第一基板」と一致する。

(f)引用発明の「接続部44に対し、その一端が直接、またはコネクタなどを介して間接的に接続された電線の他端に接続された信号レベルを調整することが可能な変換装置50」(f)及び「変換装置50によって信号レベルを調節した上で、当該信号を出力する、ヘッドホンやイヤホン、外付スピーカといった、遊技機1に搭載されたスピーカ33とは別の確認用音声出力装置51」(f)は、遊技機1とは別の外部機器であると認められる。
したがって、引用発明の
「サブ制御基板30には、音声制御回路40における、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43に接続部44が設けられ、接続部44は、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43と電気的に接続された、スルーホールまたはビア(ビアホール)から構成され、この接続部44に対し電線の一端を直接、またはコネクタなどを介して間接的に接続し、電線の他端に信号レベルを調整することが可能な変換装置50(トランスを含む装置が例示できる。本発明における外部機器に相当する)が接続され、この変換装置50によって信号レベルを調節した上で、当該信号をヘッドホンやイヤホン、外付スピーカといった、遊技機1に搭載されたスピーカ33とは別の確認用音声出力装置51(遊技機1に搭載されたスピーカ33よりも出力レベルが小さい装置)から出力し、音声の確認を行う」
(f)との事項は、本願発明の
「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線」「には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている」ことに相当する。したがって、引用発明は、本願発明の「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線、または前記第二基板に設けられた前記音声信号増幅手段の入力側の配線には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている」こと
に相当する構成を有している。
そうすると、引用発明の構成fは、本願発明の特定事項Fに相当する。

(g)引用発明の「遊技機」(g)は、本願発明の「遊技機」に相当する。
そうすると、引用発明の構成gは、本願発明の特定事項Gに相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「A 音声信号を出力するデジタルシグナルプロセッサと、
B 前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する音声信号増幅手段と、
C 前記音声信号増幅手段によって増幅された音声信号に基づいて音声を出力する音声出力装置と、
を備え、
D’ 前記デジタルシグナルプロセッサが第一基板に設けられ、
F 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている
G 遊技機。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1(特定事項D)
「音声信号増幅手段」が、本願発明では、(デジタルシグナルプロセッサが設けられる)「前記第一基板とは異なる第二基板に設けられて」いるのに対して、引用発明では、(デジタルシグナルプロセッサが設けられる)サブ制御基板30に設けられている点。

相違点2(特定事項E)
本願発明では、「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられて」いないのに対して、引用発明では設けられている点。

7.判断
相違点1及び相違点2について検討する。
拒絶査定副引例の記載事項において、「DSP72A」は、副制御回路56に設けられるものであり、制御基板が副制御回路56を構成することから、制御基板に設けられるものである。また、拒絶査定副引例の記載事項において、「アンプ75」は、各周辺基板90Aに設けられるものであり、各周辺基板90Aは制御基板とは異なる基板である。引用発明と、拒絶査定副引例の記載事項とは、デジタルシグナルプロセッサである音声信号出力手段(拒絶査定副引例の記載事項においては「DSP72A」)と、当該音声信号出力手段から出力された音声信号を増幅する音声信号増幅手段(拒絶査定副引例の記載事項においては「アンプ75」)を備えた遊技機である点で共通するから、引用発明において、拒絶査定副引例の記載事項のごとく、「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」を「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」が設けられる「サブ制御基板30」とは異なる基板に設け、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、上記のように、引用発明において、拒絶査定副引例の記載事項のごとく、「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」を「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」が設けられる「サブ制御基板30」とは異なる基板に設けたならば、「サブ制御基板30」に設けられた「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」の出力側の配線には、当該「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」から出力された音声信号を増幅する手段が設けられないこととなり、相違点2に係る本願発明の構成となる。

8.効果
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、拒絶査定副引例の記載事項の奏する効果から、予測することができた程度のものである。

9.まとめ
以上のように、本願発明は、当業者が、引用発明及び拒絶査定副引例の記載事項に基いて容易に発明をすることができたものである。

10.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「【請求の理由】」の「(4)原査定が取り消されるべき理由」において、以下の旨主張する。

(主張1)
「(4-1)審査手続の違法性
本願は、特願2015‐91737号(以下、原出願という)を分割した分割出願である。原出願は、平成30年3月26日付で拒絶審決とされたものである。かかる拒絶審決は、特開2004‐215940号公報(審決にて「刊行物1」とされている)および特開2014‐212881号公報(審決にて「刊行物2」とされている)により進歩性(特許法第29条第2項)が否定されるとするものであった(審決の詳細については割愛する)。」
「これを受け、本願出願人は、最初の拒絶理由通知が通知されるよりも前に、上申書(平成30年4月13日付)にて、本願が原出願にて通知された拒絶理由を包含するものではない理由を述べた。つまり、本願発明は、特開2004‐215940号公報(刊行物1)および特開2014‐212881号公報(刊行物2)により進歩性が否定されるものではないことを同上申書にて述べた。なお、これは、「特許・実用新案審査ハンドブック第VI部 第1章 6104 特許出願の分割をする際の説明書類に関する出願人への要請」に沿うものである。
その後通知された最初の拒絶理由通知(平成30年12月28日付)および最後の拒絶理由通知(令和1年8月16日)では、上記刊行物1および刊行物2により本願発明の進歩性が否定されるとする拒絶理由は通知されていない。」
「しかしながら、最終的に、令和2年3月25日付補正却下の決定謄本において、本願発明は引用文献1および引用文献2により進歩性が否定されるものであるとする判断がなされた。同謄本にて提示された引用文献1、引用文献2は、それぞれ、上記審決での刊行物2、刊行物1と同じである。つまり、主引用例と副引用例の関係が逆ではあるが、原出願と同じ二つの引用例にて本願発明の進歩性が否定されるとする認定が、本願の拒絶査定を招く結果となった。」
「上記上申書が審査において参照されていることや、原出願の審理過程が公開されている以上、審査官は、当初から引用文献1および引用文献2の存在を知っていたはずである。その上で、最初の拒絶理由通知や最後の拒絶理由通知にて、当該引用文献1および引用文献2の存在を理由とした進歩性の拒絶理由を通知せず、拒絶査定時にいきなり本願発明が引用文献1および引用文献2によって進歩性が否定されることを根拠に同査定を行うこと(同査定の原因となる補正却下決定を行うこと)は明らかに不当である。
拒絶査定時の請求項1にかかる発明(上記(3)に記載した発明;以下、補正発明と称することもある)は、最初の拒絶理由通知時の請求項1にかかる発明(以下、当初発明と称することもある)を限定したものである(いわゆるシフト補正要件、新規事項要件が存在する以上、当初発明に対し新たな発明特定事項を付加したり、発明特定事項を下位概念化等したりしたものが補正発明にあたる)から、補正発明が引用文献1および引用文献2によって進歩性が否定されるとするのであれば、当初発明は当然に引用文献1および引用文献2によって進歩性が否定されるものであったはずである。すなわち、同上申書を提出した上で最初の拒絶理由通知や最後の拒絶理由通知を受けた出願人からすれば、少なくとも、引用文献1および引用文献2(刊行物2および刊行物1)という二つの先行文献の存在を理由とした拒絶理由は当初発明の段階から存在していないと審査にて判断されているものと捉える(同上申書にて行った主張が認められたものと捉える)はずである。」
「そうであるにも関わらず、拒絶査定時にいきなり引用文献1および引用文献2によって補正発明の進歩性が否定されると判断することは、出願人にとって明らかに不意打ちにあたる。
したがって、本願についてなされた審査手続は、特許法第50条の規定に反する違法がある。よって、原査定は取り消されるべきものである。」

(主張2)
「(4-2)本願発明が引用文献1および引用文献2によって進歩性が否定されるものではない理由
本願発明は、「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられておらず」とする事項(上記(3)にて示した発明特定事項(E))を特定するものである。
引用文献2には、副制御基板30およびAMP基板40という二つの基板が開示されている。副制御基板30には、音源IC33の出力側に音声信号を増幅するプリAMP34が設けられていることが開示されている。また、AMP基板40には出力AMP41が設けられていることが開示されている。つまり、いずれの基板にも音声信号を増幅する手段が設けられている。したがって、副制御基板30およびAMP基板40に関する構成のいずれも、「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられておらず」とした本願発明の発明特定事項(E)を充足するものであるとはいえない。
引用文献1に記載される発明は、二つの基板(本願発明が特定する第一基板、第二基板)を有するものですらないのであるから、引用文献1は、当然に本願発明の発明特定事項(E)を開示するものであるとはいえない。
このように、少なくとも、本願発明の発明特定事項(E)は、引用文献1および引用文献2のいずれにも開示されていない。よって、その余の事項を検討するまでもなく、本願発明は引用文献1および引用文献2によって進歩性が否定されるものではないと結論付けられる。」
「なお、原出願の審決では、刊行物1(補正却下決定謄本にて示された引用文献2)に記載される発明においてプリAMPを設けないようにすることは当業者が容易であるとする判断等がなされているが、その判断が妥当性を欠くものであることは、平成30年4月13日付上申書で述べた通りである。同上申書にて行った主張は、原出願の審決における刊行物1に記載される発明の認定の誤りに関するものであるから、進歩性否定の論理構成において当該刊行物1が主引用例とされる(原出願での判断)か副引用例とされる(本願での判断)かは関係がないものである。
審査においては同上申書にて行った主張が認められない理由が示されていないため、同上申書にて行った主張以上の主張を行うことができない。」

主張1について検討する。令和2年3月25日付けの補正の却下の決定における引用文献1は、補正の却下の決定より以前に、令和1年8月16日付けの拒絶理由通知に引用されており、当該拒絶理由及び補正の却下の決定においても、主たる引用文献である。補正の却下の決定における引用文献2は、上申書に主張のごとく、補正の却下の決定より以前の平成30年12月28日付け拒絶理由通知書及び令和1年8月16日付け拒絶理由通知書に引用されていない文献であるが、令和2年10月24日付け手続補正書による請求項1の補正により新たに引用することが必要になった文献であり、補正の却下の決定は、以下の主張2についての検討で述べるように、適法になされたものである。したがって、主張1を採用することはできない。

主張2について検討する。主張2は、令和1年10月24日付け手続補正書により補正された請求項1に係る発明が、令和2年3月25日付けの補正の却下の決定において引用された文献によって進歩性が否定されるものではないことを主張するものであり、同主張が平成30年4月13日付けの上申書においてもなされていることから、同上申書における主張も考慮しつつ検討する。

(1)補正却下された発明
令和2年3月25日付けで補正の却下の決定がなされた本願の請求項1に係る発明(以下、「補正却下された発明」という。)は、令和1年10月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認められる(記号A?Fは、分説するため当審で付した。また下線は、本願発明から補正された箇所である。)。

「A 音声信号を出力するデジタルシグナルプロセッサと、
B 前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅するデジタルアンプと、前記デジタルアンプによって増幅された音声信号に基づいて音声を出力する音声出力装置と、を備え、
C 前記デジタルシグナルプロセッサが第一基板に設けられ、前記デジタルアンプが前記第一基板とは異なる第二基板に設けられており、
D 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられておらず、
E 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線、または前記第二基板に設けられた前記デジタルアンプの入力側の配線には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている
F ことを特徴とする遊技機。」

(2)引用発明
令和2年3月25日付けの補正の却下の決定において引用された引用文献1は、特開2014-212881号公報であって、上記「4.引用発明」に記載の引用文献1と同一の文献であり、上記「4.引用発明」で検討したとおり、以下の引用発明(上記「4.引用発明」に記載の「引用発明」を再掲。)が記載されている。

「a 主制御基板20から送られる各種信号を受けたサブ制御基板30(CPU)は、その信号に基づき、実行する演出を決定(抽選)し、その演出が音声出力を伴う場合には、サブ制御基板30は音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から実行することが決定された演出で使用する音声信号を出力させ(【0020】)、
b 出力された音声信号は、音声信号増幅手段42(アンプ回路)によって増幅され(【0020】)、
c この増幅された信号が基板外に設けられた上記スピーカ33に電線を通じて送られ、当該スピーカ33から演出の音声として出力され(【0020】)、
d’ 音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42は、サブ制御基板30に設けられ((上記(5)、図3)、
f サブ制御基板30には、音声制御回路40における、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43に接続部44が設けられ、接続部44は、音声信号出力手段41と音声信号増幅手段42とを繋ぐ信号線43と電気的に接続された、スルーホールまたはビア(ビアホール)から構成され、この接続部44に対し電線の一端を直接、またはコネクタなどを介して間接的に接続し、電線の他端に信号レベルを調整することが可能な変換装置50(トランスを含む装置が例示できる。本発明における外部機器に相当する)が接続され、この変換装置50によって信号レベルを調節した上で、当該信号をヘッドホンやイヤホン、外付スピーカといった、遊技機1に搭載されたスピーカ33とは別の確認用音声出力装置51(遊技機1に搭載されたスピーカ33よりも出力レベルが小さい装置)から出力し、音声の確認を行う(【0021】?【0023】)
g 遊技機(【0001】)。」

(3)補正却下副引例の記載事項
令和2年3月25日付けの補正の却下の決定において引用文献2として引用され、本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2004-215940号公報(平成16年8月5日出願公開、以下「補正却下副引例」という。)には、遊技機(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている(下線は、後述する相違点4に関係する箇所に合議体が付した。)。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、遊技機に関する。」

イ 「【0017】次に、スピーカ50に音声信号を出力する音制御装置について説明する。音制御装置は、例えば、図5に示すように、CPU(処理装置)31、音声データROM32、音源IC33、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36、出力AMP41等の回路や素子により構成されている。通常、出力AMP41には、出力AMPを構成する素子等の熱を放熱させるための放熱部材(例えば、放熱板や放熱フィン等)42が設けられている。CPU31は、例えば、主制御装置11から出力されコマンド信号に対応する音あるいは音パターン等を発生させるための信号を音源IC33に出力する。音源IC33は、入力された信号に対応する音声信号を音声データROM32から読み出し、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36、出力AMP41を介してスピーカ50に出力する。ここで、CPU31、音声データROM32、音源IC33、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36によって音声信号を作成する音声信号作成回路が構成され、出力AMP41(放熱部材42を含めて)によって音声信号作成回路で作成された音声信号を増幅する音声信号増幅回路が構成される。【0018】従来のパチンコ機では、音制御装置を構成する回路や素子等を1つの基板に設けているため、図6に示すように、音制御装置を構成する全ての回路や素子が設けられた音制御基板110を遊技盤2側に配置している。一方、本実施の形態では、図5に示すように、音制御装置を構成する回路や素子を、機種毎に使用される可能性が高い音声信号作成回路を構成する回路や素子と、機種に関係なく共通に使用可能な音声信号増幅回路を構成する回路や素子に分け、音声信号作成回路を構成する回路や素子を副制御基板30に設け、音声信号増幅回路を構成する回路や素子をAMP基板40に設けている。そして、副制御基板30を本体枠1に着脱自在な遊技盤2側に配置し、AMP基板40を本体枠1側に配置している。なお、図5では、副制御基板30に音声信号作成回路を構成する回路しか記載していないが、ランプ14を制御する制御信号を出力するランプ制御装置を構成する回路や素子も設けられている。また、CPU31は、ランプ制御装置のCPUとして用いることもできる。」

ウ 図5によれば、AMP基板40は、副制御基板30とは異なる基板であることがみてとれる。
「【図5】



エ 上記アないしウからみて、補正却下副引例には、次の事項(以下「補正却下副引例の記載事項」という。)が記載されている。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。

「遊技機において(【0001】)、
スピーカ50に音声信号を出力する音制御装置は、CPU(処理装置)31、音声データROM32、音源IC33、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36、出力AMP41等の回路や素子により構成され、音源IC33は、入力された信号に対応する音声信号を音声データROM32から読み出し、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36、出力AMP41を介してスピーカ50に出力し、CPU31、音声データROM32、音源IC33、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36によって音声信号を作成する音声信号作成回路が構成され、出力AMP41(放熱部材42を含めて)によって音声信号作成回路で作成された音声信号を増幅する音声信号増幅回路が構成され(【0017】)、
音声信号作成回路を構成する回路や素子を副制御基板30に設け、音声信号増幅回路を構成する回路や素子をAMP基板40に設けられ(【0018】)、
AMP基板40は、副制御基板30とは異なる基板である(上記ウ、図5)こと。」

(4)対比
補正却下された発明と引用発明を対比する。
補正却下された発明は、本願発明の「音信号増幅手段」を「デジタルアンプ」に補正したものであるから、上記「6.対比」の(a)ないし(g)と同様の対比を行うと、特に上記「6.対比」の(b)は、以下(b’)のようになる。

(b’)引用発明の「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」は、音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から出力された音声信号を増幅するものであるから、本願発明の「前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅するデジタルアンプ」と、「前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段」である点で一致する。

そうすると、補正却下された発明と引用発明とは、

「A 音声信号を出力するデジタルシグナルプロセッサと、
B 前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段と、
C 前記音声信号を増幅する手段によって増幅された音声信号に基づいて音声を出力する音声出力装置と、
を備え、
D’ 前記デジタルシグナルプロセッサが第一基板に設けられ、
F 前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、スルーホールまたはビアにより構築される外部機器が接続可能な接続部が設けられている
G 遊技機。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3(特定事項B)
「前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段」が、補正却下された発明では「デジタルアンプ」であるのに対して、引用発明では「デジタルアンプ」ではない点。

相違点4(特定事項D)
「前記デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段」が、本願発明では、(デジタルシグナルプロセッサが設けられる)「前記第一基板とは異なる第二基板に設けられて」いるのに対して、引用発明では、(デジタルシグナルプロセッサが設けられる)基板に設けられている点。

相違点5(特定事項E)
本願発明では、「前記第一基板に設けられた前記デジタルシグナルプロセッサの出力側の配線には、当該デジタルシグナルプロセッサから出力された音声信号を増幅する手段が設けられて」いないのに対して、引用発明では設けられている点。

(4)判断
相違点3について検討する。引用発明の「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」は、音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))から出力された音声信号を増幅するものである。デジタルシグナルプロセッサから出力される音声信号を、プリAMPを介することなく、デジタルアンプによって増幅することは、以下の文献に示されているように、周知の技術であるから、引用発明の「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」をデジタルアンプで構成し、相違点3に係る補正却下された発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(周知例1)特開2005-245480号公報
「【0209】 このDSP554により発生されたデジタル音声信号は、D/A変換器559によりアナログ信号に変換され、4チャネルのアンプ560により増幅され、それぞれのチャネルで増幅された音声信号は4つのスピーカ561,562,563,564から放音される。スピーカ563,564入力される信号は、アンプ565にも入力され、ローパスフィルタを通過した後増幅されてウーファーへ出力される。このウーファーは、図示しないがパチンコ機10の下部などに備えられ、低音を増強することにより、より重厚な楽音を楽しむことができる。なお、上記説明では、DSP554により発生されたデジタル音声信号は、D/A変換器559によりアナログ信号に変換され、アナログアンプ560および565により増幅されるものとしたが、DSP554により発生されたデジタル信号を5つのデジタルアンプに出力し、それぞれスピーカ561,562,563,564、566から放音されるようにしてもよい。この場合、デジタルアンプ565に供給されるデジタル信号は、DSP554により形成されるデジタルローパスフィルタを通過した信号である。」(上記の周知の技術に関連する記載に下線を付した。周知例2、3についても同様。)

「【図41】



(周知例2)特開2013-297号公報
「【0083】
また、この実施の形態では、演出制御用マイクロコンピュータ81(演出制御用CPU86)と共動して、各スピーカ27R、27L、27a、27bから出力する音を生成する音声処理IC173とD/AコンバータIC177並びに該D/AコンバータIC177にてアナログ信号に変換された音信号(生成音)を増幅するデジタルアンプ175が演出制御基板80に搭載されており、演出制御用CPU86は、主基板31からの演出制御コマンドにもとづいて音番号(ID)データを音声処理IC173に出力して、該音番号(ID)データに対応する音を音声処理IC173に生成させる。
【0084】 音声処理IC173は、演出制御用マイクロコンピュータ81から音番号データが入力されると、該入力された音番号データに応じた音声や効果音を、各スピーカ27R、27L、27a、27b毎に個別に生成しデジタルアンプ175に出力する。デジタルアンプ175は、D/AコンバータIC177の出力レベルを、演出制御用マイクロコンピュータ81(演出制御用CPU86)により設定されている音量レベルに応じた音量に増幅して各スピーカ27R、27L、27a、27bに出力する。」

「【0087】
ここで、本実施例に用いた音声処理IC173の構成について、図5に基づき説明すると、本実施例の音声処理IC173は、具体的には、各種のデジタルフィルタ等をプログラムにて形成可能なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)にて構成されている。」

「【図4】



「【図5】



(周知例3)特開2012-165921号公報
「【0044】
オーディオプロセッサ18は、オーディオメモリ15に記憶されるオーディオデータを読み出して、アプリケーションプログラムの実行によるCPU11からの命令やデータに基づき、音声処理等の各種情報処理を行なう。オーディオプロセッサ18は、音楽や音声や効果音を出力するためのPCM(Wave)音源等を備えたデジタルシグナルプロセッサ(DSP)等でもよく、また、物理演算音源、FM音源等の計算を行ない、残響や反射等の各種音声効果を計算することもできる。
【0045】
オーディオプロセッサ18の出力は、D/A(デジタル/アナログ)変換され、デジタルアンプ等に接続されて、スピーカ6Bで音楽や音声や効果音として再生される。なお、オーディオプロセッサ18は、図示しないマイクから入力された音声の認識等をサポートしてもよい。」

「【図1】



相違点4について検討する。
補正却下副引例の記載事項において、「音源IC33」は、音声信号を作成する音声信号作成回路を構成する回路又は素子であって、副制御基板30に設けられ、「出力AMP41」は、音声信号作成回路で作成された音声信号を増幅する音声信号増幅回路を構成する回路又は素子であって、副制御基板30とは異なる基板であるAMP基板40に設けられている。
引用発明においても、補正却下副引例の記載事項のごとく、「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」を「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」が設けられる「サブ制御基板30」とは異なる基板に設けることとし、相違点4に係る補正却下された発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

相違点5について検討する。上記で相違点4について検討したように、引用発明において、「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」を「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」が設けられる「サブ制御基板30」とは異なる基板に設けることとすると、「サブ制御基板30」に設けられた「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」の出力側の配線には、当該「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」から出力された音声信号を増幅する手段が設けられないこととなり、相違点5に係る本願発明の構成となる。

(5)効果
補正却下された発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、補正却下副引例の記載事項の奏する効果及び周知の技術から、予測することができた程度のものである。

(6)まとめ
以上のように、補正却下された発明は、当業者が、引用発明、補正却下副引例の記載事項及び周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

(7)上申書の主張について
本願出願人は、平成30年4月13日付け上申書の「3-3)」の(イ)において、以下の旨主張する(上申書の主張における「引用文献1」は、本審決の「補正却下の副引例」と同一の文献であり、上申書の主張における「審決」は、本願の原出願である特願2015-91737号についてなされた拒絶査定不服審判2017-10485号の審決である。)。

「引用文献1を通じて、「プリAMP34」を設ける技術的な意義については記載がない。つまり、「プリAMP」という文言のみから得られる内容以上のものを想定することは不可能である。一般的に、プリAMPとは、一つの増幅器では増幅度合が足りない場合、周波数特性や位相特性が劣化する場合など前段に置かれる増幅器をいうものであると認められる。引用文献1に記載される発明においては、音源IC33の出力信号がプリAMP34によって増幅されていることは事実であるから、デジタルシグナルプロセッサの出力信号が第一基板(引用文献1の副制御基板30)において増幅されない本件分割出願にかかる発明とは明確に相違する。
審決においては、プリAMPを「任意選択的に用いられる素子」と認定しているが、引用文献1を通じてプリAMPを設ける技術的意義や、プリAMPが排除されてもよいといった記載が全く存在しない以上、当該プリAMPを「任意選択的に用いられる素子」と認定することはできないはずである。つまり、審決においてなされたプリAMPが「任意選択的に用いられる素子」とする判断は、具体的な根拠がない。
さらに、審決では、『CPU31、音声データROM32、音源IC33、プリAMP34、フィルタ35、バッファ36によって音声信号を作成する音声信号作成回路』が原出願にかかる発明の「音声信号を出力する音声信号出力手段」に相当するとする判断がなされていることに基づけば、当該審決においては引用文献1の記載から『音声信号出力回路』(原出願にかかる発明でいう音声信号出力手段)を構成するのに『プリAMP』は必要なものであると判断しているものと捉えられ、これを前提とすれば『プリAMP』が設けられていないものは『音声信号出力回路』として成立しないということになるのであるから、「任意選択的に用いられる素子」と認定されるべきではない。」

上申書の主張について検討する。上申書の主張における引用文献1(すなわち補正却下副引例)には、プリAMPを設ける技術的意義や、プリAMPが排除されてもよいといった記載が存在しないことは、上申書の主張のとおりであるが、補正却下副引例の記載事項において、プリAMP34を設けるか否かは、出力AMPに入力される信号から、出力AMP41及びスピーカ50が所望の音量が出力できるか否かによって決定されることであって、出力AMPに入力される信号の大きさ及び出力AMP41及びスピーカ50の性能を、所望の音量を出力するに足るものとすることにより、プリAMP41を不要とすることは、当業者が適宜決定しうることであり、DSPから出力される音声信号を、プリAMPを介することなく、デジタルアンプによって増幅することは、上記(4)の相違点3についての検討でみたように、周知の技術である。すなわち、プリAMP34は、任意選択的に用いられる素子である。
仮に、補正却下副引例の記載事項におけるプリAMP34が任意選択的に用いられる素子ではなかったとしても、引用発明において、「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」と「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」の間に、プリAMP等の音声を増幅する手段は設けられていないことから、上記(4)の相違点5についての検討でみたように、引用発明において、補正却下副引例の記載事項のごとく、「音声信号増幅手段42(アンプ回路)」を「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」が設けられる「サブ制御基板30」とは異なる基板に設けることとすれば、やはり、「サブ制御基板30」に設けられた「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」の出力側の配線には、当該「音声信号出力手段41(音声用回路;DSP(デジタルシグナルプロセッサ))」から出力された音声信号を増幅する手段が設けられないこととなる。
したがって、上申書の主張は採用することができない。

11.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-16 
結審通知日 2021-02-24 
審決日 2021-03-09 
出願番号 特願2017-137290(P2017-137290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 知喜  
特許庁審判長 ▲吉▼川 康史
特許庁審判官 鉄 豊郎
北川 創
発明の名称 遊技機  
代理人 特許業務法人上野特許事務所  

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