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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1373612 |
審判番号 | 不服2020-7598 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-03 |
確定日 | 2021-05-18 |
事件の表示 | 特願2016-556353「薄膜トランジスタおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開、WO2016/067590、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)10月27日(優先権主張2014年(平成26年)10月29日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年 6月19日付け:拒絶理由通知書 令和 1年 8月20日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年11月29日付け:最後の拒絶理由通知書 令和 2年 1月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 2月27日付け:令和2年1月24日付け手続補正書による補正の却下の決定、拒絶査定 令和 2年 6月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年2月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1 本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1-7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2005-259737号公報 2.特開2009-111000号公報 3.特開2005-216705号公報 4.国際公開第2014/045543号(周知技術を示す文献) 5.国際公開第2011/052721号(周知技術を示す文献) 6.特開2008-311402号公報(周知技術を示す文献) 7.特開2010-199130号公報 第3 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ順に「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和2年6月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、5、6は、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 基板上に少なくともゲート電極と、ゲート絶縁層と、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極に接続された半導体層と、保護層とを有する薄膜トランジスタであって、ウェット成膜法で形成した前記ソース電極および前記ドレイン電極表面が凹凸構造を有し、 前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり、 前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり、ソース電極およびドレイン電極が、ペンタフルオロベンゼンチオールと化学的に反応させた自己集積化膜(SAM)の表面処理されている、 薄膜トランジスタ。」 「【請求項5】 基板上にゲート電極と、ゲート絶縁層と、ウェット成膜法で形成したソース電極およびドレイン電極とを順次形成する工程と、前記ソース電極と前記ドレイン電極表面に凹凸構造を形成する工程と、前記ソース電極、前記ドレイン電極およびその間に、半導体材料を塗布して、前記ソース電極および前記ドレイン電極に接続された半導体層を形成する工程と、保護層を形成する工程とを有し、 前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり、 前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり、ソース電極およびドレイン電極が、ペンタフルオロベンゼンチオールと化学的に反応させた自己集積化膜(SAM)の表面処理されている、薄膜トランジスタの製造方法。」 「【請求項6】 基板上にウェット成膜法で形成したソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、前記ソース電極および前記ドレイン電極に凹凸構造を形成する工程と、前記ソース電極、前記ドレイン電極およびその間に、半導体材料を塗布して、前記ソース電極および前記ドレイン電極に接続された半導体層を形成する工程と、ゲート絶縁層と、ゲート電極とを順次形成する工程とを有し、 前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり、 前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり、ソース電極およびドレイン電極が、ペンタフルオロベンゼンチオールと化学的に反応させた自己集積化膜(SAM)の表面処理されている、薄膜トランジスタの製造方法。」 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は合議体が付加した。以下、同じ。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は特性の良い有機半導体及びその製造方法に関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明の目的は、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタにおいて、且つソース電極及びドレイン電極の材料に導電性ペーストを用いたことを特徴とする有機半導体素子において、デバイス特性の良好な有機半導体素子を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記目的は、本発明による有機半導体素子を提供することで達成された。即ち、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタにおいて、有機薄膜トランジスタが基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、ソース電極、ドレイン電極によって構成されており、ソース電極及びドレイン電極に用いる電極材料は樹脂及び導電性粉末を含有する導電性ペーストであることを特徴とし、且つ該電極材料の仕事関数が4eV以上であることを特徴とする有機半導体素子により、上記目的を叶えられることを見出した。 【0008】 良好なデバイス特性を得る為には、電極と有機半導体材料との界面で授受される電荷の注入効率が良いことが好ましい。電荷注入効率とはソース電極から放出された電荷に対して有機半導体材料に注入された電荷の割合、あるいは、有機半導体材料から放出された電荷に対してドレイン電極に注入された電荷の割合のことである。 【0009】 電荷注入効率を決める要因の一つとしてソース電極及びドレイン電極と有機半導体材料とのエネルギー障壁がある。有機半導体材料とソース電極及びドレイン電極とのエネルギー障壁の差は小さいことが好ましい。特に、P型有機半導体において、有機半導体材料のHOMO準位がソース電極又はドレイン電極の仕事関数より深いことが好ましく、又、N型有機半導体素子において、有機半導体材料のLUMO準位がソース電極又はドレイン電極の仕事関数より浅いことが好ましい。 【0010】 又、電荷注入効率を向上する方法として、電極の表面積を大きくすることにより電極と有機半導体材料との接触面積の増大が望め、電荷注入量を増大できることが期待される。 【0011】 本発明において、上述した有機半導体材料とソース電極及びドレイン電極とのエネルギー障壁の差を小さくし、且つ電極と有機半導体材料との接触面積を大きくする方法として、有機半導体材料を用いた有機薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極の製造方法において、導電性ペーストを用いた印刷工程によってソース電極及びドレイン電極から選ばれる少なくとも一方の電極を形成した後、紫外線照射処理を施す工程を有することを特徴としている。 【発明の効果】 【0012】 本発明にかかる有機半導体素子を用いることにより、ローコスト且つ良好なデバイス特性を示す薄膜トランジスタを得ることができる。」 ウ 「【0013】 以下に好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。まず、本発明にかかる有機薄膜トランジスタの構造例を図1に示す。101は基板、102は導体膜からなるゲート電極、103はゲート絶縁膜、104はソース電極、105はドレイン電極、106は有機半導体膜である。 ・・・ 【0020】 本発明にかかる有機半導体素子に用いる電極は印刷技術を用いて形成される為、使用する導電性材料は印刷に適した物性範囲に調合されている。 ・・・ 【0024】 本発明にかかる有機半導体素子に用いる電極の形成工程としては、導電性材料を用いて印刷により電極領域を形成し、続いてクリーンオーブンで熱処理を行った後、該電極面に紫外線照射処理を施すことにより形成できる。 ・・・ 【0026】 上記の方法によって形成されたソース電極及びドレイン電極から選ばれるどちらか一方の電極は表面積の観点から表面粗さは3nm?10nmの範囲にあり、且つ点粗さは10nm?30nmであることが好ましい。 【0027】 該電極の形成に用いることができる印刷技術としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、マイクロコンタクト印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの方式が挙げられる。又、近年技術開発が進んでいるソフトリソグラフィ技術やナノプリント技術も用いることも可能である。」 エ 「【0034】 <デバイスの作製> 【実施例1】 【0035】 本発明にかかる有機薄膜トランジスタの作製方法を説明する。 【0036】 基板にはガラスエポキシ、ゲート電極には銅、ゲート絶縁膜にはAl_(2)O_(3)、ソ-ス電極及びドレイン電極には銀ペーストECM-100 AF4810(商品名:太陽インキ製造株式会社製)を用いた。有機半導体には、該有機半導体材料のHOMO準位がソース電極及びドレイン電極の仕事関数より0.3eV高いペンタセンを材料として用いた。該ペンタセンは昇華精製したものを使用した。 【0037】 図2?図6は、本発明にかかる有機薄膜トランジスタの作成方法を示す模式図である。 【0038】 図2において、201は基板、202は導体膜である。201と202は、ガラスエポキシ基板と銅箔の組み合わせで一体となったプリント回路基板、基板厚さ0.2mm、導体膜である銅箔の膜厚35μmのものを使用した。 【0039】 次に、導体膜に対しウェットエッチングによりパターニングを施し、所望のゲート形状に加工した。図3は配線形状に加工した後の状態を示す。202がゲート電極となる導体膜である。ウェットエッチ後に、この導体膜部分を化学機械研磨CMPで研磨を行い、表面粗さが2nm?10nmの範囲になるように調整を行った。該表面粗さは走査型プローブ顕微鏡(AFM)SPA-3800(商品名:セイコーインスツルメンツ株式会社製)にて測定した。 【0040】 図4は、ゲート電極となる導体膜202上にゲート絶縁膜203を形成した状態を示す。ゲート絶縁膜203の形成にはマグネトロンスパッタを用いた。成膜領域はシャドーマスクで規定した。該ゲート絶縁膜の膜厚は250nmである。 【0041】 図5は、ゲート絶縁膜203上にソース電極204とドレイン電極205を設けた状態を示す。ソース電極204及びドレイン電極205の形成にはスクリーン印刷を用いた。該ソース電極及びドレイン電極の膜厚は4000nmである。ゲート長、ゲート幅はそれぞれ400μm、4mmである。スクリーン印刷後にクリーンオーブンで150℃、1時間の熱処理を行い、銀ペーストを焼成した。これに続き、表面処理装置PL16-110(商品名:セン特殊光源株式会社製)にて20分の光照射処理を行った。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の表面を前述の走査型プローブ顕微鏡(AFM)にて測定した。その結果、表面粗さRaは4.6nm、点粗さRnは17nmであった。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)S-4800(商品名:株式会社日立ハイテクノロジー製)にて観察した写真を図7に示す。 【0042】 図6は、有機半導体膜206を形成した状態を示す。有機半導体膜206の形成には真空蒸着を用いた。成膜領域はシャドーマスクで規定した。ペンタセンの膜厚は150nmである。 【0043】 以上の工程を行ってトランジスタ素子Aを作製した。 【実施例2】 【0044】 実施例1の有機半導体材料に使用したペンタセンをテトラセンに変更した以外は、実施例1と同様の工程によりトランジスタ素子Bを作製した。テトラセンのHOMO準位はソース電極及びドレイン電極の仕事関数より0.2eV高い。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の表面粗さRaは4.6nm、点粗さRnは17nmであった。 【0045】 [比較例1] 実施例1で行ったソース電極及びドレイン電極に光照射処理を施さなかった工程以外は、実施例1と同様の工程によりトランジスタ素子Cを作製した。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の表面粗さRaは2.0nm、n点平均粗さRnは4.2nmであった。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図8に示す。 【0046】 [比較例2] 実施例2で行ったソース電極及びドレイン電極に光照射処理を施さなかった工程以外は、実施例2と同様の工程によりトランジスタ素子Dを作製した。紫外線照射後のソース電極204及びドレイン電極205の表面粗さRaは2.0nm、n点平均粗さRnは4.2nmであった。 【0047】 <電圧-電流特性の測定> 上記で得たトランジスタ素子の電圧-電流特性を半導体パラメータアナライザ、HP4155B(商品名:HP社製)で測定した。 【0048】 <移動度> 移動度は、下記の式(1)に従って算出した。 【0049】 【0050】 ここで、Ciはゲート絶縁膜の1×1cm^(2)の静電容量である。W、Lはそれぞれ実施例で示したゲート長及びゲート幅である。得られた結果を表1中に示した。 【0051】 【0052】 <仕事関数の測定> [光照射処理した電極] ソース電極及びドレイン電極の仕事関数の値を得ることを目的として、実施例1と同様の工程により基板からソース電極及びドレイン電極を形成し、ソース電極及びドレイン電極の仕事関数を光電子分光装置AC-1(商品名:理研計器)にて測定した。続いて、実施例1と同様の工程によりペンタセンを用いた有機半導体膜を形成し、該有機半導体膜の仕事関数を測定した。 【0053】 又、実施例2と同様の工程により基板からソース電極及びドレイン電極を形成し、ソース電極及びドレイン電極の仕事関数を上述の光電子分光装置にて測定した。続いて、実施例2と同様の工程によりテトラセンを用いた有機半導体膜を形成し、該有機半導体膜の仕事関数を測定した。 【0054】 [光照射処理を有さない電極] 比較例1と同様の工程により基板からソース電極及びドレイン電極を形成し、ソース電極及びドレイン電極の仕事関数を上述の光電子分光装置にて測定した。続いて、比較例1と同様の工程によりペンタセンを用いた有機半導体膜を形成し、該有機半導体膜の仕事関数を上述の光電子分光装置にて測定した。 【0055】 比較例2と同様の工程により基板からソース電極及びドレイン電極を形成し、ソース電極及びドレイン電極の仕事関数を上述の光電子分光装置にて測定した。続いて、比較例1と同様の工程によりテトラセンを用いた有機半導体膜を形成し、該有機半導体膜の仕事関数を上述の光電子分光装置にて測定した。 【0056】 得られた結果と該結果から求めたエネルギー障壁の値を表2中に示した。 【0057】 【0058】 表1に示した実験結果より、表2に示したようにエネルギー障壁の値が小さく、又、ソース電極及びドレイン電極の表面粗さ及び、点粗さの少なくともどちらか一方の値から類推される電極-有機半導体界面の接触面積の増大により良好なトランジスタ特性が得られることが分かった。」 オ 図1は、以下のとおりのものである。 図1から、有機半導体膜106は、ソース電極104およびドレイン電極105に接続されたものであることが見てとれる。 (2)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「基板101、ゲート電極102、ゲート絶縁膜103、ソース電極104、ドレイン電極105、ソース電極104およびドレイン電極105に接続された有機半導体膜106を有する有機薄膜トランジスタであって、 電極の形成工程は、導電性材料を用いて印刷により電極領域を形成し、続いてクリーンオーブンで熱処理を行った後、該電極面に紫外線照射処理を施すことにより形成するものであり、 ソース電極及びドレイン電極から選ばれるどちらか一方の電極は表面積の観点から表面粗さは3nm?10nmの範囲にあり、且つ点粗さは10nm?30nmであり、 該電極の形成に用いることができる印刷技術としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、マイクロコンタクト印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの方式が挙げられる、有機薄膜トランジスタ。」 2 引用文献2について (1)また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機半導体素子の製造方法、及び有機半導体素子に関し、特に電極と該電極に成膜される有機半導体膜を有する有機TFTの製造方法、及び有機TFTに関する。」 イ 「【0030】 有機TFT1は、図1に示すように、基板P、ゲート電極G、ゲート絶縁膜IF、ソース電極S、ドレイン電極D、半導体膜SF、及びパッシベーション膜PFなどから構成される。 ・・・ 【0036】 有機半導体層SFの成膜方法は特に限定されるものではなく、真空蒸着やスピンコートなども用いることができるが、スクリーン印刷、インクジェット、マイクロコンタクトプリント、ディスペンサ、凸版、転写などの印刷法を用いると、塗布と同時にパターニングもできる為、製造コストを低減することができ特に好適である。 ・・・ 【0038】 パッシベーション膜PFは、有機半導体層SFを外部雰囲気から遮断、保護する為に必要に応じて成膜する。 ・・・ 【0040】 (実施例1) 実施例1による有機TFT1の製造方法を図1を用いて説明する。 【0041】 最初に、住友ベークライト社製のPES基板PにCrをスパッタした後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングし、ゲート電極Gを形成した。続いてゲート電極Gの上に、JSR社製のアクリル樹脂PC403をスピンコートし、ゲート絶縁膜IFを形成した。 【0042】 次に、AgPdナノインクをインクジェットプリンターを用いてゲート絶縁膜IFの上にソース電極Sおよびドレイン電極Dの形状に印刷し触媒層101を形成した。その後、180℃に加熱したオーブン中で溶媒を揮発させた。 【0043】 次に、奥野製薬工業社製のNi-Pめっき液NNPニコロンLTCに5分間浸漬し、本発明の下地層に該当するNi-Pめっき層102を形成した。続いて同社製の置換Auめっき液フラッシュゴールドNCに10分間浸漬して置換Auめっき層103を形成した。さらに同社製の自己触媒型無電解Auめっき液セルフゴールドOTK-SDに10分間浸漬して触媒型無電解Auめっき層104を形成し、ソース電極Sおよびドレイン電極Dを完成させた。 【0044】 次に、完成されたソース電極Sおよびドレイン電極Dを覆うように、TIPSペンタセン(6,13-ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン)をインクジェット法(以下、IJ法とも記す)を用いて塗布し、有機半導体層SFを成膜した。 【0045】 このようにして有機TFT1を10素子作成し、その特性を測定したところ、Ion(ON電流)の平均値は11.7μAと良好な特性を示し、また、そのばらつきは±20%と小さかった。 【0046】 このように本発明に係る実施例1による有機TFT1においては、ソース電極Sおよびドレイン電極Dを多層構成とし、そのうち最も有機半導体層SFに近い層を触媒型無電解Auめっきにより形成した。このような構成にすることにより、製造コストを抑えながら導電性の優れた電極が得られるとともに、電極の表面が緻密で滑らかになり電極と有機半導体層SFとの電気的接触を高められることが確認できた。 【0047】 また、Ni-Pめっき層102と触媒型無電解Auめっき層104の間に置換Auめっき層103を設けることにより、触媒型無電解めっきを安定して行なうことができ、表面が緻密で滑らかな電極を安定して得られることが確認できた。 【0048】 また、有機半導体層SFと接触するソース電極Sおよびドレイン電極Dの最上層がAuであると電気的接触が特に良好であり、下地層(被置換めっき層)にニッケル-リン合金を用いることにより、Auの層をあまり厚くしなくても導電性を確保することができ製造コストを低減できることが確認できた。 ・・・ 【0055】 (実施例3) 実施例3による有機TFT1の構成を図3に示す。図3は、実施例3による有機TFT1の概略構成を示す断面図である。 【0056】 最初に、図3に示すように、実施例1の場合と同様にして、触媒層101?触媒型無電解Auめっき層104を形成した。続いて触媒型無電解Auめっき層104の表面をチオール113で修飾する為に、東京化成社製のペンタフルオロベンゼンチオールのエタノール溶液に20時間浸漬し、エタノールおよび純水で洗浄後、80℃で乾燥させ、ソース電極Sおよびドレイン電極Dを完成させた。その後、完成されたソース電極Sおよびドレイン電極Dを覆うように、TIPSペンタセンをIJ法を用いて塗布し、有機半導体層SFを成膜した。 【0057】 このようにして有機TFT1を10素子作成し、その特性を測定したところ、Ionの平均値は13.0μAと良好な特性を示し、また、そのばらつきは±20%と小さかった。」 (2)上記記載からみて、当該引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 ア 「有機TFTにおいて、有機半導体層SF上にパッシベーション膜PFを設けること。」 イ 「有機TFTにおいて、ソース電極Sおよびドレイン電極Dを多層構成とし、そのうち最も有機半導体層SFに近い層を触媒型無電解Auめっきにより形成することにより、電極の表面が緻密で滑らかになり電極と有機半導体層SFとの電気的接触を高められるものであり、 触媒型無電解Auめっき層104の表面をチオール113で修飾する為に、ペンタフルオロベンゼンチオールのエタノール溶液に浸漬し、洗浄後、乾燥させ、ソース電極Sおよびドレイン電極Dを完成させること。」 3 引用文献3について (1)また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基板上に、対向する第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極の間に、少なくとも一層の有機化合物から構成される発光層を設けた有機EL表示素子において、第1電極の正孔注入電極の有機化合物の発光層と接触する表面には、非周期的な凹凸を有し、かつ前記正孔注入電極の表面粗さRaは、4?100nmの範囲であり、かつ前記表面の非周期的な凹凸の凸部の半値幅rは、5?250nmの範囲であり、かつ前記表面の非周期的な凹凸の高低差hは、0.5<h/r<2.5の範囲であることを特徴とする有機EL表示素子。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機化合物を用いた有機EL表示素子に関し、更に詳しくは、正孔注入電極を有する有機EL表示素子およびその製造方法に関する。」 ウ 「【背景技術】 【0002】 近年、有機EL表示素子が盛んに研究されている。これは、Tangらは正孔輸送層を導入し、正孔と電子がバランスよく正孔注入電極と電子注入電極から注入されることにより、低電圧駆動で、高輝度を有する有機EL表示素子が得られることで注目されている(非特許文献1参照)。 【0003】 有機EL表示素子の基本的な構造は、二層と三層がある。二層構造では、第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極との間に有機発光層があり、該有機発光層が、正孔輸送層/発光層或いは発光層/電子輸送層の二層積層させたものである。三層構造では、第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極との間の有機発光層が、正孔輸送層/発光層/電子輸送層を三層積層させたものである。 【0004】 今まで、高輝度、高効率の有機EL表示素子を実現するために、基本構造を有する有機EL表示素子をベースに、材料の研究が重ねられてきた。高輝度の有機EL表示素子を実現する他の方法として、第1電極の正孔注入電極の表面に凹凸を形成し発光面積を増加させる方法も検討されている。 【0005】 例えば、第1電極の正孔注入電極(以下正孔注入電極と記す)及び第2電極の電子注入電極(以下電子注入電極と記す)から電子や正孔を発光層や電荷輸送層に効率よく注入させるために、一方の電極の表面に微細な凹凸を形成することによって発光層や電荷輸送層との接触面積を大きくする方法がある(特許文献1参照)。その凹凸の形成法としては、正孔注入電極付きガラス基板を酸化アルミニウム粒子を含有する水中に入れて超音波洗浄による正孔注入電極の表面に凹凸を形成する方法である。しかし、この方法はサンドブラスト法の原理に近いもので、形成された凹凸の中に多くの鋭いものが含まれることがある。このような鋭い凹凸はショートやダークスポットなどの原因にもなり、有機EL表示素子のショートを引き起こす問題がある。また、前記方法で処理をする場合、処理前に正孔注入電極の形成していない裏側のガラス面を保護層で覆わなければならなく、工程が増える問題がある。 【0006】 ・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の課題としては、上記のような問題を解決することであり、発光層や電荷輸送層との接触面積を大きくするため、一方の電極の表面に凹凸を形成しても、前記凹凸に起因するショートやダークスポットがなく、工程の少ない製造方法であり、高輝度で安定した有機EL表示素子を提供する。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の請求項1に係る発明は、基板上に、対向する第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極の間に、少なくとも一層の有機化合物から構成される発光層を設けた有機EL表示素子において、第1電極の正孔注入電極の有機化合物の発光層と接触する表面には、非周期的な凹凸を有し、かつ前記正孔注入電極の表面粗さRaは、4?100nmの範囲であり、かつ前記表面の非周期的な凹凸の凸部の半値幅は、5?250nmの範囲であることを特徴とする有機EL表示素子である。 ・・・ 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、正孔注入電極に用いるITOの表面にウェットエッチング法で滑らかな凹凸を形成し、ITOの表面有効面積を増やすことによって、高輝度と長寿命の有機EL表示素子を作製できるという利点がある。さらに、鋭い凹凸が形成されないため、ショートやダークスポット等の不良が発生しない安定した有機EL表示素子の製造方法が提供できる。」 エ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 以下、本発明の有機EL表示素子およびその製造方法について図1?3を用いて詳細に説明する。 【0013】 図1は、本発明の有機EL表示素子の側断面図である。基板1上に、順番に、表面に凹凸を有する第1電極の正孔注入電極31(以下正孔注入電極と記す)と、有機発光層4と、第2電極の電子注入電極5(以下電子注入電極と記す)と、封止層6及び捕水剤7と、基板上の有機EL表示素子の全面を封止板8が接着剤9を介して基板面に密封された構造である。 ・・・ 【0015】 次に、前記表面に凹凸を有する正孔注入電極31では、基板1上に正孔注入電極21用の透明導電膜をスパッタリングで成膜する(図2(a)参照)。なお、該膜厚は、10nm?3μmである。 ・・・ 【0017】 次に、前記正孔注入電極21の表面に滑らかな凹凸を形成する。その粗さRaは4?100nmの範囲にあるが、好ましいRaは6nmである。また、前記正孔注入電極21の表面の滑らかな凹凸の半値幅rは5?250nmの範囲であり、好ましくは50?150nmである。このとき、前記正孔注入電極の表面の滑らかな凹凸の高低差hは、0.5<h/r<2.5の範囲となる。 ・・・ 【0019】 正孔注入電極の表面に滑らかな非周期的な凹凸を形成することによって、正孔注入電極21の表面積を増やすことができ、表面に凹凸を有する正孔注入電極31が形成する。従って、表面に凹凸を有する正孔注入電極31では、正孔注入効率を向上させ高輝度の発光を得られることが期待できる。 」 オ 「【実施例1】 【0036】 まず、ガラス基板1上にスパッタリング法を用いて、正孔注入電極ITOを形成した。さらに、透明性と導電性を向上させるために、空気中で加熱処理を行いITOを結晶化した。なお、正孔注入電極ITOの膜厚は、250nmである(図4(a)参照)。 【0037】 次に、塩化第二鉄の44%wt水溶液+濃塩酸を1:1(容量)で調合したエッチング液を用いて、正孔注入電極ITOの表面に対して、20秒間のエッチングを行うことによって、表面に凹凸を有する正孔注入電極ITO_(3)を形成する。その時のITO層の表面粗さRaは4.228nmである(図4(b)参照)。 【0038】 次に、有機発光層4として銅フタロシアニンと、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミンと、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム錯体とを順番に、20nm、60nm、70nmの膜厚で真空蒸着した。次に、電子注入電極5としてAlを真空蒸着で形成した。なお、電子注入電極5の膜厚は、150nmである(図4(c)参照)。 【0039】 次に、酸化Geを1μmの厚さでイオンプレーティングし封止層6を形成した(図4(d)参照)。 【0040】 最後に、接着剤9を介して捕水剤7を貼り付けた封止板8をガラス基板上に接着することによって、有機EL表示素子を封止した(図4(e)参照)。 【実施例2】 【0041】 実施例1と同様の材料及び工程により実施例2を実施した。なお、実施例1と異なる条件は、図4(b)に示す工程において、塩化第二鉄の44%wt水溶液+濃塩酸を1:1(体積比)で調合したエッチング液を用いて、正孔注入電極に用いるITOの表面に対して、40秒でエッチングを行うことによって、凹凸を形成する。その時のITOの表面粗さRaは5.995nmであった以外は実施例1と同じ工程で有機EL表示素子を作製した。 【0042】 表面粗さRaは、例えばAFM(原子間力顕微鏡)等で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が10μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する平均の粗さである。該振幅の平均値である測定値Raが、実施例1では表面粗さRaは4.228nmであり、実施例2では5.995nmである。 【0043】 前記ITO表面の半値幅の測定方法を説明する。走査電子顕微鏡(SEM)で前記表面に滑らかな凹凸を有するITOのの凸部51の半値幅rを測定した。SEMは試料に電子線を照射し、その表面形態を観察する装置である。図6に示すように、ITOの表面上のSEM像では、凸部51が明るく、凹部61が暗い画像となる。明るい画像(凸部51)では、凸中心部50が最も明るく(図上p4)、暗い画像(凹部61)では、凹中心部60が最も暗い。半値幅の測定方法は、前記SEM像により凸中心部50から暗い画像の凹中心部60までの距離を計測し、該計測値を半値幅とした。図6では、半値幅はp4からp2迄のX軸方向の距離rである。凹凸の高低差はp4からp2迄のY軸方向の距離hである。半値幅が、実施例1は120nmであり、実施例2では80nmであった。 【0044】 以下に比較例として、従来の製造方法を用いて有機EL表示素子を作製し、実施例3とした。 【実施例3】 【0045】 比較するために、図4(b)に示す工程を省く製造工程、すなわち、正孔注入電極に用いるITOの表面に凹凸を形成しない以外に実施例1?2と同じ工程で有機EL表示素子を作製した(図5参照)。実施例3では表面粗さRaは1.39nmである。 【0046】 これらの実施例1?3の有機EL表示素子に電圧8Vを印加したところ、実施例1で作製した有機EL表示素子の発光輝度が、実施例3で作製した有機EL表示素子の発光輝度より1.2倍に増強した。また実施例2で作製した有機EL表示素子の発光輝度が、実施例3で作製した有機EL表示素子の発光輝度より2.3倍に増強した。正孔注入電極に用いるITOの表面粗さが増加すると有機ELの発光輝度も増加する傾向が観察された。 」 (2)上記記載からみて、当該引用文献3には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「基板上に、対向する第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極の間に、少なくとも一層の有機化合物から構成される発光層を設けた有機EL表示素子において、 第1電極の正孔注入電極の有機化合物の発光層と接触する表面には、非周期的な凹凸を有し、かつ前記正孔注入電極の表面粗さRaは、4?100nmの範囲であり、好ましいRaは6nmであり、かつ前記表面の非周期的な凹凸の凸部の半値幅は、5?250nmの範囲であり、かつ前記正孔注入電極の表面の滑らかな凹凸の高低差hは、0.5<h/r<2.5の範囲であり、 正孔注入電極の表面に滑らかな非周期的な凹凸を形成することによって、正孔注入電極21の表面積を増やすことができ、表面に凹凸を有する正孔注入電極31が形成されたものであり、従って、表面に凹凸を有する正孔注入電極31では、正孔注入効率を向上させ高輝度の発光を得られ、 正孔注入電極に用いるITOの表面に滑らかな凹凸を形成し、ITOの表面有効面積を増やすことによって、高輝度と長寿命の有機EL表示素子を作製できるという利点がある、有機EL表示素子。」 4 引用文献7について (1)また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、薄膜トランジスタの製造方法に関し、特に半導体保護膜を有する薄膜トランジスタの製造方法に関する。」 イ 「【実施例】 【0057】 (実施例1-1) 本発明の実施形態に係るボトムゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造方法の実施例の一例を図2を用いて説明する。図2(a)?図2(g)は、本発明の実施形態に係るボトムゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造工程の一例を示す模式図である。尚、各図において、上図は断面模式図、下図は平面模式図である。 【0058】 最初に、基板Pとしてガラスを用い、その上に、スパッタ法を用いてCr膜を厚み50nmで成膜した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングしゲート電極Gを形成した(図2(a))。 【0059】 次に、TEOS・CVD法を用い、SiO_(2)膜を成膜し厚み500nmのゲート絶縁膜IFを形成した(図2(b))。 【0060】 次に、スパッタ法を用いてCr膜を厚み5nm、Au膜を50nmで成膜した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングしソース電極S・ドレイン電極Dを形成した(図2(c))。 【0061】 次に、ポジ型感光性バンク剤NPAR-502(日産化学社製)をスピンコートを用いて塗布した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングし、撥液層CFを形成した(図2(d))。この時、撥液層CFは、ソース電極S・ドレイン電極Dの間のチャネル領域を囲むように形成した。また、露光には、図9(b)に示した遮光マスクM2を用い、撥液層CFの撥液性は、インク塗布領域IAの近傍が最も高く、周縁に向けて段階的に低下するようにした。 【0062】 次に、6,13-ビストリエチルシリルエチニルペンタセンをテトラヒドロナフタレンに溶解した溶液(インクIK)をインクジェット法を用いて、撥液層CFに囲まれた領域(インク塗布領域IA)に塗布し(図2(e))、乾燥させて半導体膜SFを形成した(図2(f))。 【0063】 次に、ポリビニルアルコール水溶液をインクジェット法を用いて半導体膜SFの上に塗布、乾燥させて、保護膜PFを形成し、TFT1を完成させた(図2(g))。 【0064】 このようにして完成させたTFT1を光学顕微鏡及びAFM(キーエンス社製)にて観察したところ、半導体膜SF、及び保護膜PFが適正な膜厚で所定の位置に精度良く形成されていることが確認できた。 (実施例1-2) 本発明の実施形態に係るボトムゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造方法の実施例の別例を図3を用いて説明する。図3(a)?図3(g)は、本発明の実施形態に係るボトムゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造工程の別例を示す模式図である。尚、各図において、上図は断面模式図、下図は平面模式図である。 【0065】 最初に、基板Pとしてガラスを用い、その上に、スパッタ法を用いてCr膜を厚み50nmで成膜した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングしゲート電極Gを形成した(図3(a))。 【0066】 次に、スピンコート法を用い、感光性アクリレート材料であるオプトマーPC403を成膜し厚み500nmのゲート絶縁膜IFを形成した(図3(b))。 【0067】 次に、スパッタ法を用いてCr膜を厚み5nm、Au膜を50nmで成膜した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングしソース電極S・ドレイン電極Dを形成した(図3(c))。 【0068】 次に、感光性バンク剤NPAR-502(日産化学社製)をスピンコートを用いて塗布した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングし、撥液層CFを形成した(図3(d))。この時、撥液層CFは、ソース電極S・ドレイン電極Dの間のチャネル領域を囲むように形成した。また、露光には、図9(a)に示した遮光マスクM1を用い、撥液層CFの撥液性は、インク塗布領域IAの近傍の第1の領域CFaが、その周辺の第2の領域CFbよりも高くなるようにした。 【0069】 次に、テトラベンゾポルフィリン前駆体溶液(インクIK)をインクジェット法を用いて、撥液層CFに囲まれた領域(インク塗布領域IA)に塗布し(図3(e))、加熱焼成して半導体膜SFを形成した(図3(f))。 【0071】 次に、ポリビニルアルコール水溶液をインクジェット法を用いて半導体膜SFの上に塗布、乾燥させて、保護膜PFを形成し、TFT1を完成させた(図3(g))。この時、ポリビニルアルコール水溶液の付着液滴の周縁部が撥液層CFの、撥液性の低い第2の領域CFbに接触するように液滴量を調整した。 【0071】 このようにして完成させたTFT1を光学顕微鏡及びAFM(キーエンス社製)にて観察したところ、実施例1の場合と同様に、半導体膜SF、及び保護膜PFが適正な膜厚で所定の位置に精度良く形成されていることが確認できた。 (実施例2) 本発明の実施形態に係るボトムゲートトップコンタクト型のTFT1の製造方法の実施例を図4を用いて説明する。図4(a)?図4(g)は、本発明の実施形態に係るボトムゲートトップコンタクト型のTFT1の製造工程を示す模式図である。尚、各図において、上図は断面模式図、下図は平面模式図である。 ・・・ 【0078】 このようにして完成させたTFT1を光学顕微鏡及びAFM(キーエンス社製)にて観察したところ、実施例1の場合と同様に、半導体膜SF、及び保護膜PFが適正な膜厚で所定の位置に精度良く形成されていることが確認できた。 (実施例3) 本発明の実施形態に係るトップゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造方法の実施例を図5を用いて説明する。図5(a)?図5(f)は、本発明の実施形態に係るトップゲートボトムコンタクト型のTFT1の製造工程を示す模式図である。尚、各図において、上図は断面模式図、下図は平面模式図である。 【0079】 最初に、基板Pとしてガラスを用い、その上に、スパッタ法を用いてCr膜を厚み5nm、Au膜を50nmで成膜した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングしソース電極S・ドレイン電極Dを形成した(図5(a))。 【0080】 次に、感光性バンク剤NPAR-502(日産化学社製)をスピンコートを用いて塗布した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングし、撥液層CFを形成した(図5(b))。この時、撥液層CFは、ソース電極S・ドレイン電極Dの間のチャネル領域を囲むように形成した。また、露光には、図9(a)に示した遮光マスクM1を用い、撥液層CFの撥液性は、インク塗布領域IAの近傍の第1の領域CFaが、その周辺の第2の領域CFbよりも高くなるようにした。 【0081】 次に、6,13-ビストリエチルシリルエチニルペンタセンをテトラヒドロナフタレンに溶解した溶液(インクIK)をインクジェット法を用いて、撥液層CFに囲まれた領域(インク塗布領域IA)に塗布し(図5(c))、乾燥させて半導体膜SFを形成した(図5(d))。 【0082】 次に、インクジェット法を用い、感光性アクリレート材料であるオプトマーPC403を半導体膜SFの表面に塗布、加熱しゲート絶縁膜IFを形成した(図5(e))。この時、オプトマーPC403の付着液滴の周縁部が撥液層CFの、撥液性の低い第2の領域CFbに接触するように液滴量を調整した。尚、この場合は、ゲート絶縁膜IFが保護膜PFを兼ねている。 【0083】 次に、マスク蒸着法を用いてCr膜を厚み50nmで形成し、ゲート電極Gを形成し、TFT1を完成させた(図5(f))。 【0084】 このようにして完成させたTFT1を光学顕微鏡及びAFM(キーエンス社製)にて観察したところ、実施例1の場合と同様に、半導体膜SF、及び保護膜PFが適正な膜厚で所定の位置に精度良く形成されていることが確認できた。」 (2)上記記載からみて、当該引用文献7には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「ボトムゲートボトムコンタクト型薄膜トランジスタの製造方法と、トップゲートボトムコンタクト型薄膜トランジスタの製造方法であって、スパッタ法を用いてソース電極S・ドレイン電極Dを形成すること。」 5 その他の文献について (1)また、原査定において、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「[0024] ソース電極5、ドレイン電極6の材料は特に限定されるものではないが、例えば金、白金、アニミニウム、ニッケル、インジウム錫酸化物(ITO)などの金属あるいは酸化物の薄膜若しくはポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)やポリアニリンなどの導電性高分子や金や銀、ニッケルなどの金属コロイド粒子を分散させた溶液若しくは銀などの金属粒子を導電材料として用いた厚膜ペーストなどがある。 [0025] なお、ソース電極5とドレイン電極6の仕事関数の向上のため、ソース電極5とドレイン電極6の表面を電子吸引性基を有する化合物で表面処理しても良い。ソース電極5とドレイン電極6の表面処理に用いる電子吸引性基を有する化合物は特に限定されるものではないが、例えば、ベンゼンチオール、クロロベンゼンチオール、ブロモベンゼンチオール、フルオロベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオール、ペンタクロロベンゼンチオール、ニトロチオフェノール、2-メルカプト-5-ニトロベンズイミダゾール、パーフルオロデカンチオール、ペンタフルオロチオフェノール、4-トリフルオロメチル-2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール、5-クロロ-2-メルカプトベンゾイミダゾール等のチオール化合物、ジフェニルジスルフィド等のジスルフィド化合物、ジフェニルスルフィド等のスルフィド化合物、長鎖フルオロアルキルシラン等のシランカップリング剤などを用いることができる。 ・・・ [0027] 電子吸引性基を有する化合物としては、チオール化合物、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、シランカップリング剤が、ソース電極とドレイン電極への密着性が高いことから好ましい。 さらには、電子吸引性の官能基を有する化合物が、ソース電極5とドレイン電極6と、化学的に結合していることが好ましい。電子吸引性の官能基を有する化合物が、ソース電極5とドレイン電極6と、化学的に結合を有していると、ソース電極5とドレイン電極6の仕事関数をより長期間にわたり大きく維持することができ、経時でも安定したキャリア注入効率の高い薄膜トランジスタ100を得ることができ、好ましい。」 イ 「[0032] 次に、上記の各工程について、さらに詳しく説明する。 本発明の第1実施形態では、ゲート電極2、キャパシタ電極3、ソース電極5、ドレイン電極6、半導体層7、及び保護層8を形成する工程のうち、少なくとも1つが印刷法で行われることが望ましい。薄膜トランジスタ100を低コストで形成するためには、印刷法が有用であるからである。例えば、ゲート電極2、キャパシタ電極3、ソース電極5、ドレイン電極6、半導体層7、及び保護層8を真空蒸着法やスパッタリング法、フォトリソグラフィー、エッチングを用いて形成する場合に比べ、工程数を削減することができ、且つ真空プロセスを用いないことでコストを下げることができる。印刷法は特に限定されるものではないが、例えば、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷、反転オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット、熱転写印刷、ディスペンサ、スピンコート、ダイコート、マイクログラビアコート、ディップコートなどの塗布法が挙げられる。 [0033] 特に、半導体層7の形成方法が凸版印刷法であることが望ましい。有機半導体や酸化物半導体を用いる場合、溶解させた溶液や分散させた溶液を用いることによって印刷法を適用することができるが、これらの有機半導体溶液や酸化物半導体溶液は、その溶解度の低さなどから粘度が低い場合が多い。・・・」 (2)また、原査定において、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「[0001] 本発明は、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド環からなる環状共役系骨格構造の両窒素原子に、2価の酸素原子、セレン原子または硫黄原子を有するアルキル基が結合された3,4:9,10-ペリレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含んでいる有機半導体材料、該材料からなる有機半導体薄膜、該有機半導体薄膜を利用した有機薄膜トランジスタに関する。」 イ 「[0049] 本発明の有機半導体材料からなる有機半導体薄膜は、真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成することができるが、これに限定されず、有機半導体材料を溶媒に溶解した溶解液を塗布することにより有機半導体薄膜を形成する溶液塗布法、印刷法を利用することもできる。溶液塗布法、印刷法の利用は、さらなる装置の簡素化と、さらなるコストの低減化がなされ、大面積において有機半導体薄膜が形成されると同時に、蒸着法によって形成した場合に特に顕著であった、有機半導体膜内の結晶粒界、欠損、欠陥がもともと少ない膜が形成される可能性があるので有用である。同様に、有機半導体材料を溶媒・水に分散した分散液を塗布することにより、有機半導体薄膜を形成することも有用である。本発明の有機半導体材料を用いることで、例えば、スピンコート法などの溶液塗布方法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平版印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷方法で有機半導体薄膜を形成することができる。」 ウ 「[0064] 次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する電極材料について説明する。ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極に用いる電極材料は、導電性を有する材料が用いられる。例えば、金・・・などの金属材料、およびこれらの合金、・・・、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)などの導電性酸化物、・・・などが使用できる。なお、有機半導体薄膜との接触面において電気抵抗が小さい金、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ITO、IZO、金/クロム合金がより好ましい。 [0065] これらの電極の形成方法としては、特に限定するものではないが、例えば、導電性材料を溶液に分散させた分散液を用いた印刷法、導電性材料を溶液に溶解させた溶解液を用いた印刷法、蒸着法やスパッタリング法などの方法を用いて形成することができる。」 (3)また、原査定において、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献6には、図面とともに次の事項が載されている。 ア 「【0023】 本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法について説明する。 【0024】 本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法は、請求項1に記載のように、有機半導体材料を含有する塗布液を、基板上へ供給して有機半導体層を形成する工程を有し、且つ、構成層として、該有機半導体層の保護層を有し、前記保護層が、ワックス材料を溶融状態で成膜することにより形成される工程を有することを特徴とするものである。 【0025】 《保護層》 まず、本発明に係る保護層について説明する。 【0026】 本発明では、請求項1に記載のように、有機半導体層を、ワックス材料を溶融状態で成膜する工程を経て形成された保護層により保護することにより、素子形成直後及び1ヶ月経過後においても、良好なキャリア性能(移動度)を示す素子を得ることができた。 ・・・ 【0038】 《保護層の形成方法》 本発明に係る保護層の形成方法について説明する。」 【0039】 本発明に係る保護層の形成手段としては、溶融型インクジェット、サーマルヘッド熱転写法、印刷法及び溶融押し出し法からなる群から選択される少なくともひとつが好ましい形成手段としてあげられる。また、上記の溶融型インクジェット法等により有機半導体層上または有機半導体チャネル上にパターン形成することができる。 ・・・ 【0044】 以下のパターニング形成される場合においても、同様である。 【0045】 本発明に係る保護層の形成では、ワックス材料がパターニングされることにより保護層形成が行われることが好ましい。 【0046】 パターニング形成される場合、種々の方法により行うことができるが、印刷法、溶融型インクジェット法、熱転写法等が好ましい方法としてあげられる。 【0047】 (a)印刷法 印刷法は、別の基材(印刷版)上に保護層材料(保護層形成材料ともいう)をパターニング(印刷版にそって保護層形成材料をインキングする)した後、これを溶融状態で有機半導体層上に転写、印刷する方法である。 【0048】 即ち、融点以上に加熱、溶融状態となり流動化した保護層形成材料は、所謂印刷法によって、有機半導体層やチャネル領域等に所望のパターンに従ってパターニングすることが出来る。 【0049】 印刷法としては、例えば、凸版印刷法、グラビア印刷(グラビア凹版印刷等も含む)、オフセット印刷等公知の方法を用いるいることが出来る。融点以上に加熱され流動化した保護層材料は、保護層形成が必要とされるパターンに従って作製された版上に一旦転写された後、予め、別の基板上に設けられた有機半導体層上に保護層として転写され、これを用いて複数の有機薄膜トランジスタ素子を含む有機薄膜トランジスタ素子シート等が印刷され、有機薄膜トランジスタ素子が所望のパターンに従って形成された有機薄膜トランジスタ素子シートを構成する。」 (4)上記引用文献4、5に記載されているように、「有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層を、インクジェット法、スクリーン印刷法、平版印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法等の方法で形成すること」は、周知技術である。 (5)上記引用文献4、6に記載されているように、「有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層上に保護層を、凸版印刷や凹版印刷等の印刷法やインクジェット法によって形成すること」は、周知技術である。 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における「有機薄膜トランジスタ」、「基板101」、「ゲート電極102」、「ゲート絶縁膜103」、「ソース電極104」、「ドレイン電極105」、「有機半導体膜106」は、本願発明1における「薄膜トランジスタ」、「基板」、「ゲート電極」、「ゲート絶縁層」、「ソース電極」、「ドレイン電極」、「半導体層」に相当する。 イ 引用発明では、「電極の形成工程は、導電性材料を用いて印刷により電極領域を形成し、続いてクリーンオーブンで熱処理を行った後、該電極面に紫外線照射処理を施すことにより形成するものであり」、「該電極の形成に用いることができる印刷技術としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、マイクロコンタクト印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷などの方式が挙げられる」ものであるから、ソース電極104およびドレイン電極105は、「ウェット成膜法で形成した」ものであるといえる。 また、引用発明では、「ソース電極及びドレイン電極から選ばれるどちらか一方の電極は表面積の観点から表面粗さは3nm?10nmの範囲にあり、且つ点粗さは10nm?30nmであ」るから、ソース電極104およびドレイン電極105表面が「凹凸構造」を有するものであるといえる。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「基板上に少なくともゲート電極と、ゲート絶縁層と、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極に接続された半導体層とを有する薄膜トランジスタであって、ウェット成膜法で形成した前記ソース電極および前記ドレイン電極表面が凹凸構造を有する、薄膜トランジスタ。」 <相違点> <相違点1> 本願発明1は、「保護層」を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 <相違点2> ソース電極およびドレイン電極表面が有する「凹凸構造」について、本願発明1は、「前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 <相違点3> 本願発明1は、「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えるか不明な点。 <相違点4> 「ソース電極およびドレイン電極」について、本願発明1は、「ペンタフルオロベンゼンチオールと化学的に反応させた自己集積化膜(SAM)の表面処理されている」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点2、3について 事案に鑑み、まず、上記相違点2、3について、まとめて検討する。 (ア)引用発明は、「ソース電極及びドレイン電極から選ばれるどちらか一方の電極は表面積の観点から表面粗さは3nm?10nmの範囲にあり、且つ点粗さは10nm?30nmであり」、また、引用文献1には、上記「第5」「1(1)イ」に摘記のとおり、段落【0008】には、「良好なデバイス特性を得る為には、電極と有機半導体材料との界面で授受される電荷の注入効率が良いことが好ましい。」と、段落【0010】には、「又、電荷注入効率を向上する方法として、電極の表面積を大きくすることにより電極と有機半導体材料との接触面積の増大が望め、電荷注入量を増大できることが期待される。」と記載されているものの、ソース電極およびドレイン電極表面が有する「凹凸構造」における「平均周期」、「平均高さ」の数値範囲、並びに「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率」の数値範囲に関連する記載も示唆も見出すことはできない。 したがって、相違点2、3に係る本願発明1の上記構成は、引用発明に基づいたとしても当業者が容易に想到できるものではない。 (イ)次に、引用発明と引用文献3に記載された技術的事項の組み合わせについて検討する。 a 引用文献3には、上記「第5」「3(2)」に記載のとおり、以下の技術的事項が記載されていると認められる。 「基板上に、対向する第1電極の正孔注入電極と、第2電極の電子注入電極の間に、少なくとも一層の有機化合物から構成される発光層を設けた有機EL表示素子において、 第1電極の正孔注入電極の有機化合物の発光層と接触する表面には、非周期的な凹凸を有し、かつ前記正孔注入電極の表面粗さRaは、4?100nmの範囲であり、好ましいRaは6nmであり、かつ前記表面の非周期的な凹凸の凸部の半値幅は、5?250nmの範囲であり、かつ前記正孔注入電極の表面の滑らかな凹凸の高低差hは、0.5<h/r<2.5の範囲であり、 正孔注入電極の表面に滑らかな非周期的な凹凸を形成することによって、正孔注入電極21の表面積を増やすことができ、表面に凹凸を有する正孔注入電極31が形成されたものであり、従って、表面に凹凸を有する正孔注入電極31では、正孔注入効率を向上させ高輝度の発光を得られ、 正孔注入電極に用いるITOの表面に滑らかな凹凸を形成し、ITOの表面有効面積を増やすことによって、高輝度と長寿命の有機EL表示素子を作製できるという利点がある、有機EL表示素子。」 b 引用文献3に記載された上記技術的事項は、「正孔注入電極の表面には、凹凸を有し、正孔注入電極21の表面積を増やすことができ、表面に凹凸を有する正孔注入電極31が形成されたものであり、従って、表面に凹凸を有する正孔注入電極31では、正孔注入効率を向上させる」という事項であるといえるから、引用発明と引用文献3に記載された技術的事項は、「電極の表面が凹凸構造を有する」ものである点で共通するといえる。 しかも、引用文献3に記載された上記技術的事項は、「凹凸の凸部の半値幅は、5?250nmの範囲であり、かつ前記正孔注入電極の表面の滑らかな凹凸の高低差hは、0.5<h/r<2.5の範囲であ」るところ、上記「第5」「3(1)オ」に摘記のとおり、引用文献3に記載の表面粗さRaは、実施例1では4.228nmであり、実施例2では5.995nmであり、半値幅rは、実施例1では120nmであり、実施例2では80nmであったから、凹凸の高低差hについて、実施例1では、60nm<h<300nmとなり、実施例2では、40nm<h<200nmとなり、実施例1、2における凹凸の高低差hは、請求項1に記載された「平均高さが20nm以上200nm以下」と数値範囲が重なる。 更に、上記(ア)のとおり、引用文献1の段落【0008】、【0010】には、「電荷の注入効率を向上させるために表面積を大きくする」旨が記載されている。 c そこで、引用発明と引用文献3に記載された技術的事項の組み合わせについて検討すると、引用文献1における「電荷の注入効率」とは、上記「第5」「1(1)イ」に摘記の段落【0008】に記載のとおり、トランジスタにおける、「ソース電極から放出された電荷に対して有機半導体材料に注入された電荷の割合、あるいは、有機半導体材料から放出された電荷に対してドレイン電極に注入された電荷の割合のことである。」 一方、引用文献3に記載の技術的事項は、「正孔注入電極の有機化合物の発光層と接触する表面に、非周期的な凹凸を有する」ものであるといえるから、当該技術的事項における「正孔注入効率」(電荷注入効率)とは、有機EL表示素子において、正孔注入電極から、有機化合物の発光層への電荷注入効率を意味するものである。 したがって、引用文献1における「電荷注入効率」と引用文献3に記載の技術的事項における「電荷注入効率」とは、異なる素子における、技術的意味も異なる電荷注入効率であることが明らかであるから、引用発明において、引用文献3に記載の技術的事項を組み合わせる動機付けを見出すことはできない。 よって、引用発明において、引用文献3に記載された技術的事項に基づき、相違点2、3に係る本願発明1の上記構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ウ)また、上記「第5」の「2」、「4」、「5(1)-(3)」のとおり、引用文献2、引用文献4-7には、ソース電極およびドレイン電極表面が有する「凹凸構造」における「平均周期」、「平均高さ」の数値範囲、並びに「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率」の数値範囲に関連する記載も示唆も見出すことはできない。 したがって、引用発明において、引用文献2、3、7に記載された技術的事項及び引用文献4-6に記載された周知技術に基づき、相違点2、3に係る本願発明1の上記構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 イ したがって、上記相違点1、4について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3、7に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2-4について 本願発明2-4も、本願発明1の「前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり」、「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3、7に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明5、6-9について 本願発明5、6-9は、それぞれ本願発明1に対応する製造方法の発明、第2の実施の形態にかかる薄膜トランジスタ(トップゲート型)の製造方法の発明であり、本願発明1の「前記凹凸構造における、隣り合う凸部同士または隣り合う凹部同士の周期の平均である平均周期が20nm以上500nm以下であり、かつ、凸部の高さが最も高い測定点と前記凸部と隣り合う凹部の最も低い測定点との距離の平均である平均高さが20nm以上200nm以下であり」、「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3、7に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 1 理由1(特許法第29条第2項)について 審判請求時の補正により、本願発明1-9は、「前記ソース電極および前記ドレイン電極の表面の表面積率が、1.05以上1.3以下であり」という構成を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-7に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由1を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-28 |
出願番号 | 特願2016-556353(P2016-556353) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 棚田 一也、高柳 匡克、脇水 佳弘 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
井上 和俊 恩田 春香 |
発明の名称 | 薄膜トランジスタおよびその製造方法 |