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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1373714
審判番号 不服2020-6517  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-14 
確定日 2021-05-31 
事件の表示 特願2018-516115「電気セラミック構成素子、とりわけ多層圧電アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日国際公開、WO2017/054950、平成30年11月 1日国内公表、特表2018-532268、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年9月29日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 6月24日付け :拒絶理由通知書
令和元年 9月27日 :意見書,手続補正書の提出
令和元年 12月26日付け :拒絶査定
令和2年 5月14日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和2年 12月21日付け :拒絶理由通知書(当審)
令和3年 3月19日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は,令和3年3月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
構成素子(1)であって,
セラミックマトリックス(5)と,
前記セラミックマトリックス(5)内に配置されており,第1の表面(7)において露出されている少なくとも1つの内部電極(2)と,
前記内部電極(2)に電気的に接続されている少なくとも1つの導電性の集電コンタクト部(8)と,
前記セラミックマトリックス(5)の表面上に設けられた絶縁層(15)であって,前記セラミックマトリックス(5)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されており,かつ前記内部電極(2)の少なくとも一部を露出させる少なくとも1つの開口部(16)を有する,絶縁層(15)と,
前記内部電極(2)と前記集電コンタクト部(8)との間,および前記絶縁層(15)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されている導電性の別の層(19)と
を有する,構成素子(1)において,
前記別の層(19)は,少なくとも2つの層(30A,30B)を有するマルチレイヤ層(30)として形成されており,
前記マルチレイヤ層(30)は,第1の層(30A)として,前記集電コンタクト部(8)に隣接する電流収集層を含み,第2の層(30B)として,前記絶縁層(15),前記セラミックマトリックス(5)および前記内部電極(2)に隣接する拡散遮断層を含み,
前記集電コンタクト部(8)に隣接する前記電流収集層(30A)は,銀-パラジウム合金から形成され,前記集電コンタクト部(8)への接着を提供し,
前記拡散遮断層(30B)は,チタンを含む接着媒体層であり,かつ,前記セラミックマトリックス(5)への拡散遮断を提供する,
ことを特徴とする,構成素子(1)。」

本願発明2?7は,それぞれ本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用例1(特表2011-507221号公報)には,図1,2,4とともに,次の記載がある。
「【0001】
本発明は気相堆積層を有する外部電極を備えた圧電コンポーネントに関している。またその他に本発明は前記圧電コンポーネントの製造方法にも関している。」
「【0019】
前記気相堆積層はそれぞれ1つの唯一の金属堆積層を有するものであってもよい。特に有利な構成によれば,前記導電性の少なくとも1つの気相堆積層及び/又は少なくとも1つのさらなる気相堆積層が,複数の気相堆積層部分を備えた多層構造部を有している。例えば最下位に位置する気相堆積層部分は(これは表面区分に直接被着されている),チタン若しくはクロムからなる,又はクロム・チタン合金からなる良好な接着層からなっている。さらに1つの層を導電性の改善のために堆積させてもよい。この導電性の改善のためには,さらに前記少なくとも1つの電気的な貫通コンタクトが前記少なくとも1つの気相堆積層に被着されるガルバニック補強部を有し,及び/又は,前記少なくとも1つのさらなる電気的な貫通コンタクトは前記少なくとも1つのさらなる気相堆積層に被着されるガルバニック補強部を有する。前記ガルバニック補強部は例えば電解析出された銅層であってもよい。この層の厚さは例えば数μm?10μmか,それ以上であってもよい。
【0020】
さらに前述した金属は,圧電コンポーネントのさらに別の導電性の構成要素内に存在していてもよい。別の有利な構成によれば,前記電極材料,前記さらなる電極材料,前記気相堆積層,前記さらなる気相堆積層,前記コンタクト形成材料及び/またはさらなるコンタクト形成材料は,クロム,金,銅,ニッケル,パラジウム,プラチナ,銀を含んだグループから選択された少なくとも1つの金属を有している。これらの構成要素は圧電素子ないし圧電素子積層部の積層方向に沿って構造化されるかまたは積層方向に対して横方向に構造化される。この構造化は次のように構成される。すなわち圧電素子ないしは圧電素子積層部の伸張と収縮に基づいて生じる前述した構成要素内の機械的な引っ張り応力が剪断応力に変換される。さらに横方向の構造化は圧電素子ないし圧電素子積層部において生じる伸張と収縮の効果的な機械的減結合に結びつく。従って構成要素内の引っ張り負荷は低減される。」
「【0026】
圧電コンポーネントの主要部は,積層形態の圧電素子10である。この圧電素子10は,1つの電極層12と,さらに別の電極層13と,積層方向11でみてこれら2つの電極層の間に配置された圧電層14とを含んでいる。電極層の電気的な材料とさらなる電極層のさらなる電極材料はそれぞれ銀-パラジウム合金である。この圧電層の圧電材料は,例えばチタン酸・ジルコン酸・鉛等であり,つまり圧電セラミックである。この圧電素子はモノリシックである。
【0027】
本発明の実施例によれば,それぞれ1つの圧電コンポーネントがモノリシックな多層構造で形成されている。図2によれば,複数の圧電素子が積層方向101でみて上下に重ねられて圧電積層部100を形成している。この圧電積層部の終端は,それぞれ1つのカバープレート110を形成している。このカバープレート110もチタン酸・ジルコン酸・鉛から形成されている。いずれにせよこれらのカバープレートでは圧電的な活動はない。なぜならここでは電界の結合が生じないからである。圧電積層部はモノリシックである。このモノリシックな圧電積層部は,次のことによって得られる。すなわち,セラミックグリーンシートをある電極材料とさらに別の電極材料と一緒にプリントし,上下に積層することによって得られる。その結果,多層の圧電基体が得られ,この圧電基体には脱バインダ(脱脂)とそれに続く焼結が施される。この焼結により,モノリシックな圧電積層部が生成される。
【0028】
セラミックグリーンシートの印刷は次のように行われる。すなわち,圧電積層部の圧電素子において電極層及び/又はさらなる電極層がそれぞれ当接する圧電層を完全にフラットな状態で接するようにして行われる。
【0029】
電極層は圧電素子の側方表面区分15まで延在する。さらなる電極層は,圧電素子のさらなる側方表面区分16まで延在している。前記側方表面区分15には絶縁層19が被着されており,さらに別の表面区分16には別のさらなる絶縁層20が被着されている。第1の実施形態によれば,この絶縁層の絶縁材料とさらなる絶縁層のさらなる絶縁材料は,それぞれシリコーンエラストマーである。第2の実施形態によれば,前記絶縁材料はそれぞれガラスである。第3の実施形態によれば,前記絶縁材料はチタン酸ジルコン酸鉛である。
【0030】
絶縁層は電極層の上の表面区分において開口部を有している。この開口部には電気的な貫通コンタクト17が挿入される。この場合表面区分まで延在する電極層に直接,気相堆積層170が被着される。絶縁層と気相堆積層には外部電極21が次のように被着される。すなわち,外部電極と電極層とが貫通コンタクトを介して相互に間接的に導電接続されるように被着される。それに対して外部電極とさらなる電極層は相互に絶縁される。外部電極は第1実施形態によれば,導電性のシリコーンエラストマーから形成される。また代替的な実施形態では,外部電極は,気相堆積層に蝋付けされたメタルメッシュである。貫通コンタクトは有利には台形状の断面25を有している。
【0031】
さらなる電極層は圧電素子のさらなる側方表面区分16まで案内される。電気的なコンタクト形成ないし絶縁のために,さらなる表面区分では,さらなる絶縁層20,さらなる貫通コンタクト18,さらなる気相体積層180とさらなる外部電極22が設けられている。
【0032】
第1実施例によれば,気相堆積層ないしはさらなる気相堆積層が単層である(図3参照)。気相堆積層はスパッタリングを用いて生成された1μmの層厚さ171ないしさらなる層厚さ181のチタン層である。それに対しては代替的に前記層は同じ1μmの層厚さのクローム・ニッケル合金で形成されてもよい。さらに代替的に前記気相堆積層は多層構造であってもよい(図4参照)。そこでは気相堆積層が複数の気相堆積層部分から形成される。
【0033】
圧電積層部100では,複数の圧電素子が上下に次のように配置される。すなわちこれらの圧電素子の表面区分が共通のスタック表面区分102を形成するように配置される。圧電素子の絶縁層は共通のスタック絶縁層104となる。同様に圧電素子の外部電極も共通のスタック外部電極106に統合される。同じことはさらなる電極層に対しても当てはまる。すなわち圧電素子のさらなる表面区分は,共通のさらなるスタック表面区分103を形成し,圧電素子のさらなる絶縁層は共通のさらなるスタック絶縁層105を形成し,圧電素子のさらなる外部電極は共通のさらなるスタック外部電極107を形成する。前記共通のスタック外部電極の電圧供給に対しては電気的な接続端子108が設けられている。相応のさらなる電気的な接続端子109は共通のさらなるスタック外部電極に設けられている。これらの接続端子を介して電極層とさらなる電極層への電圧供給が行われている。これらの電極層とさらなる電極層の配置構成並びにそれらの電気的なコンタクト形成ないし絶縁に基づいて,前記電極層とさらなる電極層に異なる電位の電気的なエネルギーの印加が可能になる。」

引用例1の図1として,以下の図面が示されている。


引用例1の図2として,以下の図面が示されている。


引用例1の図4として,以下の図面が示されている。


(2)摘記の整理
以上の摘記及び図面によれば,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。
ア 圧電コンポーネントが複数の圧電素子10が積層方向でみて上下に重ねられて圧電積層部100を形成していること。(段落0027,図1,2)
イ 圧電素子10は,1つの電極層12と,さらに別の電極層13と,積層方向でみてこれらの2つの電極層の間に配置された圧電層14とを含んでいること。(段落0026,図1)
ウ 電極層12,13は圧電素子10の側方表面区分15,16まで延在していること。(段落0029,図1)
エ 圧電素子10の側方表面区分15,16には絶縁層19,20が被着されていること。(段落0029,図1)
オ 絶縁層19,20は電極層12,13の上の表面区分15,16において開口部を有していること。(段落0030,図1)
カ 開口部において,気相堆積層170,180が表面区分まで延在する電極層12,13に直接被着されること。(段落0030,図1)
キ 外部電極21,22が,気相堆積層170,180を介して電極層12,13と相互に間接的に導電接続されるように,被着されること。(段落0030)
ク 外部電極21,22が,絶縁膜19,20上及び絶縁層19,20上に延在する気相堆積層170,180上に被着されること。(図1)
ケ 気相堆積層170,180が,複数の気相堆積層部分を備えた多層構造部を有し,表面区分に直接被着されている気相堆積層部分が,チタンからなる良好な接着層からなること。(段落0019,図4)
コ 気相堆積層は,クロム,金,銅,ニッケル,パラジウム,プラチナ,銀を含んだグループから選択された少なくとも1つの金属を有していること。(段落0020)
サ 電極層12,13の材料が銀-パラジウム合金であること。(段落0026)

(3)引用発明1
以上の事項によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「圧電コンポーネントであって,
前記圧電コンポーネントが,複数の圧電素子10が積層方向でみて上下に重ねられて圧電積層部100を形成しており,
前記圧電素子10は,1つの電極層12と,さらに別の電極層13と,積層方向でみてこれらの2つの電極層の間に配置された圧電層14とを含んでおり,
前記電極層12,13は前記圧電素子10の側方表面区分15,16まで延在しており,
前記側方表面区分15,16には,前記電極層12,13の上の表面区分15,16において開口部を有する絶縁層19,20が被着されており,
前記開口部において,気相堆積層170,180が,前記表面区分15,16まで延在する電極層12,13に直接被着されており,
外部電極21,22が,前記気相堆積層170,180を介して前記電極層12,13と相互に間接的に導電接続されるように,前記絶縁膜19,20上及び前記絶縁層19,20上に延在する前記気相堆積層170,180上に被着されており,
前記気相堆積層170,180は,複数の気相堆積層部分を備えた多層構造部を有し,表面区分に直接被着されている気相堆積層部分が,チタンからなる良好な接着層からなる,
圧電コンポーネント。」

2.引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用例2(実願平05-051227号(実開平07-022557号)のCD-ROM)には,次の記載がある。
「【0024】
図2は実施例に係る積層型アクチュエータ10を摸式的に示した斜視図であり,また図3は実施例に係る外部電極部分を拡大して示した模式的断面図である。図中10は積層型圧電アクチュエータを,11は積層型圧電体をそれぞれ示しており,積層型圧電体11の両側面であって絶縁被膜14上及び内部電極13端面上には幅が約1mmで厚さが約1000ÅのCr蒸着膜16aが形成され,Cr蒸着膜16a上には厚さが約4000ÅのNi蒸着膜16bが形成され,Ni蒸着膜16b上には厚さが約1000ÅのAu蒸着膜16cが形成されており,これらCr蒸着膜16a,Ni蒸着膜16b及びAu蒸着膜16cにより下地層16が構成されている。さらに,下地層16上には外層として厚さが約500μmのAuを含む金属ペーストの塗布膜17が形成され,これら下地層16及び塗布膜17により外部電極15が構成されており,外部電極15は一層おきに内部電極13と接続されている。」


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1を比較する。
ア 引用発明1における「圧電積層部100」が本願発明1における「セラミックマトリックス(5)」に相当し,以下同様に,「側方表面区分15,16」が「第1の表面(7)」に,「電極層12,13」が「内部電極(2)」に,「外部電極21,22」が「集電コンタクト部(8)」に,「圧電コンポーネント」が「構成素子(1)」に,それぞれ相当する。
イ 引用発明1における「前記電極層12,13は前記圧電素子10の側方表面区分15,16まで延在して」いることは,本願発明1における「内部電極(2)」が「第1の表面(7)において露出されている」ことに相当する。
ウ 引用発明1における「絶縁層19,20」は,「前記側方表面区分15,16」に被着され,「外部電極21,22」が被着され,「前記電極層12,13の上の表面区分15,16において開口部を有する絶縁層19,20」であるから,本願発明1における「絶縁膜(15)」に相当し,両者はともに,「前記セラミックマトリックス(5)の表面上に設けられた絶縁層(15)であって,前記セラミックマトリックス(5)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されており,前記内部電極(2)の少なくとも一部を露出させる少なくとも1つの開口部(16)を有する」点で一致する。
エ 引用発明1では,「外部電極21,22が,前記気相堆積層170,180を介して前記電極層12,13と相互に間接的に導電接続されるように,前記絶縁膜19,20上及び前記絶縁層19,20上に延在する前記気相堆積層170,180上に被着されて」ているから,引用発明1における「気相堆積層170,180」は,「絶縁膜19,20」と「外部電極21,22」との間に配置されているといえる。そうすると,引用発明1における「気相堆積層170,180」は,本願発明1における「導電性の別の層(19)」に相当し,両者はともに,「前記絶縁層(15)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されている」点で一致する。
オ 引用発明1における「気相堆積層170,180」は,「複数の気相堆積層部分を備えた多層構造部を有」するものであるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「前記別の層(19)は,少なくとも2つの層(30A,30B)を有するマルチレイヤ層(30)として形成されて」いる点で一致する。
カ 引用発明1の「表面区分に直接被着されている気相堆積層部分」は,「チタンからなる良好な接着層からなる」ものであり,本願発明1における「拡散遮断層」と引用発明1における当該「気相堆積部分」は,「前記セラミックスマトリックス(5)及び前記内部電極(2)に隣接」し「チタンを含む」点で一致する。そうすると,引用発明1における当該「気相堆積層部分」もまた,当然に「前記セラミックマトリックス(5)への拡散遮断を提供する」ものであると理解できる。よって,本願発明1と引用発明1は,ともに「第2の層(30B)として,前記絶縁層(15),前記セラミックマトリックス(5)および前記内部電極(2)に隣接する拡散遮断層を含み」「前記拡散遮断層(30B)は,チタンを含む接着媒体層であり,かつ,前記セラミックマトリックス(5)への拡散遮断を提供する」点で一致する。

上記ア?カによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「構成素子(1)であって,
セラミックマトリックス(5)と,
前記セラミックマトリックス(5)内に配置されており,第1の表面(7)において露出されている少なくとも1つの内部電極(2)と,
前記内部電極(2)に電気的に接続されている少なくとも1つの導電性の集電コンタクト部(8)と,
前記セラミックマトリックス(5)の表面上に設けられた絶縁層(15)であって,前記セラミックマトリックス(5)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されており,かつ前記内部電極(2)の少なくとも一部を露出させる少なくとも1つの開口部(16)を有する,絶縁層(15)と,
前記絶縁層(15)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されている導電性の別の層(19)と
を有する,構成素子(1)において,
前記別の層(19)は,少なくとも2つの層(30A,30B)を有するマルチレイヤ層(30)として形成されており,
前記マルチレイヤ層(30)は,第2の層(30B)として,前記絶縁層(15),前記セラミックマトリックス(5)および前記内部電極(2)に隣接する拡散遮断層を含み,
前記拡散遮断層(30B)は,チタンを含む接着媒体層であり,かつ,前記セラミックマトリックス(5)への拡散遮断を提供する
ことを特徴とする,構成素子(1)。」である点。
(相違点1)
本願発明1は「導電性の別の層(19)」が「前記内部電極(2)と前記集電コンタクト部(8)との間,および前記絶縁層(15)と前記集電コンタクト部(8)との間に配置されている」のに対し,引用発明1では,「気相堆積層170,180」が「電極層12,13」と「外部電極21,22」「の間に配置されている」ことは特定されていない点。
(相違点2)
本願発明1は,「前記マルチレイヤ層(30)は,第1の層(30A)として,前記集電コンタクト部(8)に隣接する電流収集層を含み,」「前記集電コンタクト部(8)に隣接する前記電流収集層(30A)は,銀-パラジウム合金から形成され,前記集電コンタクト部(8)への接着を提供」するのに対し,引用発明1では,上記「第1の層(30A)」が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,はじめに相違点2について検討する。
上記第3の1.(2)コ,サで指摘したとおり,引用例1には,「気相堆積層」が,クロム,金,銅,ニッケル,パラジウム,プラチナ,銀を含んだグループから選択された少なくとも1つの金属を有していること(段落0020),及び,「電極層12,13」の材料が銀-パラジウム合金であること(段落0026)が記載されている。
しかしながら,引用例1には,「外部電極21,22」(本願発明1の「集電コンタクト部(8)」)に隣接する「気相堆積層部分」を,「銀-パラジウム合金から形成され,前記集電コンタクト部への接着を提供」する「電流収集層」とする構成は,記載も示唆もされていない。また,上記引用例2にも当該構成は記載されていない。
そうすると,引用発明1において上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は引用発明1及び引用例2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2?7について
本願発明2?7は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用例2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1?11について上記引用例1及び2に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,令和3年3月19日付け手続補正により補正された請求項1は,「前記マルチレイヤ層(30)は,第1の層(30A)として,前記集電コンタクト部(8)に隣接する電流収集層を含み,」「前記集電コンタクト部(8)に隣接する前記電流収集層(30A)は,銀-パラジウム合金から形成され,前記集電コンタクト部(8)への接着を提供」するという事項を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1?7は,上記引用例1に記載された発明及び上記引用例2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では,特許法36条6項2号について,(i)請求項1の「前記電流収集層(30A)」がどの程度の接着力を提供するものが含まれるのかが不明確であり,(ii)「前記拡散遮断層(30B)」がどの程度の接着力及び拡散遮断を提供するものが含まれるのかが不明確である,との拒絶の理由を通知しているが,令和3年3月19日提出の手続補正書でした補正により,「前記電流収集層(30A)」は「銀-パラジウム合金から形成され」ることが特定され,「前記拡散遮断層(30B)」は「チタンを含む」ことが特定された結果,この拒絶の理由は解消した。


第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-05-12 
出願番号 特願2018-516115(P2018-516115)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 俊哉  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小川 将之
発明の名称 電気セラミック構成素子、とりわけ多層圧電アクチュエータ  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  

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