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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1373798 |
異議申立番号 | 異議2021-700054 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-18 |
確定日 | 2021-05-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6726235号発明「セルロース含有樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6726235号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6726235号に係る出願(特願2018-131628号、以下、「本願」ということがある。)は、平成30年7月11日に出願人旭化成株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和2年6月30日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、特許掲載公報が令和2年7月22日に発行されたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき令和3年1月18日に特許異議申立人野中 恵(以下「申立人」という。)により、「特許第6726235号の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された各発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許第6726235号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?7に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、それらを総称して、「本件発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。) 「【請求項1】(A)アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):[-NH_(2)] < [-COOH] ・・・(1) を満たすポリアミドと、(B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維とを含む、ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下であり、前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部であり、前記ポリアミド樹脂組成物が、前記セルロース繊維100質量%に対して0.1?10質量%のリグニンを含む、ポリアミド樹脂組成物。 【請求項2】 前記セルロース繊維が1?20質量%のヘミセルロース及び0.1?10質量%のリグニンを含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項3】 前記セルロース繊維100質量部に対して、分散剤0.1?50質量部を更に含む、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項4】 樹脂ペレット形状であり、かつ水分率が10ppm以上1200ppm以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項5】(A)アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):[-NH_(2)] < [-COOH] ・・・(1)を満たすポリアミドと、(B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維とを含むポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下であり、前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部であり、前記ポリアミド樹脂組成物が、前記セルロース繊維100質量%に対して0.1?10質量%のリグニンを含み、前記方法が、水を含んだ状態の平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維の存在下で、ポリアミド樹脂の原料モノマーを重合反応させることを含む、方法。 【請求項6】 前記セルロース繊維が1?20質量%のヘミセルロース及び0.1?10質量%のリグニンを含む、請求項5に記載の方法。 【請求項7】 請求項1?4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を成型すること、或いは、請求項5又は6に記載の方法でポリアミド樹脂組成物を調製し、次いで前記ポリアミド樹脂組成物を成型すること、を含む、成型品の製造方法。」 第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由 申立人が申し立てた特許異議申立の理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。 1.特許異議申立の理由の概要 本件発明1?7は、甲第3?12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1?7についての特許は、同法29条に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。 2.証拠方法 甲第1号証:本件特許に係る出願についての審査における令和1年10月 11日付け拒絶理由通知書 甲第2号証:本件特許に係る出願についての審査における令和2年2月 13日付け拒絶理由通知書 甲第3号証:国際公開第2018/123150号 甲第4号証:特開2018-9095号公報 甲第5号証:北川和昭、中野利一「射出成形不良対策事例集」、日刊工業 新聞社、2014年、220?221頁、264?265頁 甲第6号証:高野菊雄「プラスチック成形技術の要点」、丸善出版、 平成30年3月30日、114?121頁、177?179頁 甲第7号証:特開2016-176052号公報 甲第8号証:吟斯、井野晴洋、木村照夫「植物繊維の熱劣化による変色と 強度変化」、SEN’I GAKKAISHI、Vo1. 70、No.5、2014、p.89?95 甲第9号証:「竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズ に微細化する技術を開発?セルロースナノファイバーが拓く 新素材の可能性?」、NanotechJapan Bull etin、Vo1.8、No.4、2015、p.1?13 甲第10号証:木村良次、寺谷文之「パルプ及び製紙に関する研究 第20 報 紙の透気度に就ての基礎的実験(4)」、木材研究、第 21号、昭和34年、1?11頁 甲第11号証:国際公開第2011/126038号 甲第12号証:石津 敦「酸素・アルカリに対する炭水化物の挙動」、紙 パ協会誌、Vo1.27、No.8、昭和48年、371? 377頁 (以下、「甲1」?「甲12」という。) 第4 当審の判断 当審は、申立人が主張する上記の申立理由については理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1?7についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。 1.甲3、甲11の記載事項及び甲3、甲11に記載された発明 (1)甲3,甲11の記載事項 ア.甲3の記載事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 甲3-1(ポリアミド) 「[0035] ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、 20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/g であり、更に好ましくは80μモル/gである。 本実施形態のポリアミドにおいて、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30?0.95であることがより好ましい。…上記カルボキシル末端基比率は、セルロース成分の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。 [0036] ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、 公知の方法を用いることができる。 例えば、 ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、 ジアミン化合物、 モノアミン化合物、 ジカルボン酸化合物、 モノカルボン酸化合物、 酸無水物、 モノイソシアネー ト、 モノ 酸ハロゲン化物、 モノエステル、 モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。」 「[0306] <<熱可塑性樹脂>> ポリアミド6(以下、単にPAと称す。) 宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン1013B」 カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.6…」 甲3-2(セルロース) 「[0307] <<セルロース成分>> セルロースウィスカー(以下、CWと略すことがある)…」 「[0308] セルロースファイバーA(以下、CF-Aと略すことがある) リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに1.5時間叩解を実施し、セルロースファイバーAを得た。得られたセルロースファイバーの特性を後述の方法で評価した。結果を下記に示す。 L/D=300 平均繊維径=90nm… [0309] セルロースファイバーB(以下、CF-Bと略すことがある)… 平均繊維径=100nm… [0310] セルロースファイバーC(以下、CF-Cと略すことがある)… 平均繊維径=90nm… [0311] セルロースファイバーD(以下、CF-Dと略すことがある)… 平均繊維径=90nm」 甲3-3(ポリアミドとセルロースが配合された組成物) 「[0337] [実施例A1?46及び比較例A1?10] ポリアミド、ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーを、それぞれ表A3?5記載の割合で混合し、東芝機械(株)製のTEM48SS押出機で、スクリュー回転数350rpm、吐出量140kg/hrで溶融混練し、真空脱揮した後、ダイからストランド状に押出し、水浴で冷却し、ペレタイズした。ペレットは円柱状の形状で、直径が2.3mmで、長さが5mmであった。」 「[0338] [表3] 」 甲3-4(分散剤) 「[0291] ≪分散剤≫ 樹脂組成物は、界面活性剤、表面処理剤、無機充填剤等の分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、セルロース製剤と樹脂との間を取り持って、両者の相溶性を向上させる機能を有する。つまり、セルロース粒子を樹脂組成物中で凝集させずに良好に分散させ、樹脂組成物全体を均一にする機能を有する。従って、樹脂組成物に含有させる分散剤としては、樹脂組成物中でセルロース粒子を均一に分散できるものであれば、特に制限なく使用することができる。このような分散剤としては、公知の界面活性剤、表面処理剤、無機充填剤等の中から、少なくともセルロース粒子と樹脂の両者に親和性を有しているものを適宜用いることができる。… [0292] 樹脂組成物の分散剤の含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。…」 甲3-5(成形) 「【特許請求の範囲】… 51.請求項1?23及び36?49のいずれか一項に記載の樹脂組成物より形成される、樹脂成形体。」 イ.甲11の記載事項 甲11-1(ポリアミドとセルロースが配合された組成物) 「【特許請求の範囲】 1.ポリアミド樹脂100質量部に対して、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維0.01?50質量部を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。」 甲11-2(セルロース) 29頁の表1には、ポリアミド樹脂に配合するセルロース繊維の平均繊維径が10?1410nmであり、セルロース繊維の含有量が0.5?20質量部であることが記載されている。 (2)甲3、甲11に記載された発明 ア.甲3に記載された発明(以下、「甲3発明」という。) 甲3-3[0337]、[0338]に記載された実施例A1?A5、比較例A2に着目して、甲3-1の[0306]及び甲3-2の[0308]の記載を参酌すると、甲3には、以下の発明(甲3発明)が記載されているものと認められる。 「カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6である、宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン1013B」ポリアミド(PA)を100質量部、[0308]に記載される製造方法により製造される平均繊維径90nmのセルロースナノファイバーA(CF-A)を0.5?20重量部、セルロースウィスカーを10?20重量部で混合するか又はセルロースウィスカーを不含とする、東芝機械(株)製のTEM48SS押出機で、スクリュー回転数350rpm、吐出量140kg/hrで溶融混練し、真空脱揮した後、ダイからストランド状に押出し、水浴で冷却して、ペレタイズしたペレット」 イ.甲11に記載された発明(以下、「甲11発明」という。) 甲11-1には、ポリアミド樹脂100質量部とセルロース繊維0.01?50質量部を含有するポリアミド樹脂組成物が記載されており、甲11-2には、実施例1として、平均繊維径が55nmのセルロース繊維を2.0質量部で含有させることが記載されるので、甲11には、以下の発明(甲11発明)が記載されているものと認められる。 「ポリアミド樹脂を100質量部、平均繊維径が55nmのセルロース繊維を2.0質量部にて含有するポリアミド樹脂組成物」 2.甲4?10、12の記載事項 (1)甲4の記載事項 「【0007】 特開2013-185068号公報(特許文献3)には、セルロースナノファイバーをカチオン変性させた変性セルロースナノファイバーと、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が記載されている。…また、この文献には、樹脂として、セルロース系材料との親和性が高いという理由から、ポリアミド樹脂を用いることが好ましいことが記載されており、この文献の実施例では、変性セルロースナノファイバーとポリアミド11粉体とを混合してスラリーを形成し、このスラリーを乾燥させて粉砕した複合粉体と、ポリアミド11ペレットとを170℃以上で溶融混練して樹脂組成物(複合材料)を製造することが記載されている。 【0008】 しかし、この文献では、セルロース(原料セルロース)を予め微細化処理したり、セルロースナノファイバーをカチオン変性処理させたり、スラリー液を調製し、乾燥及び粉砕して複合粉体を形成したりするなど、混練以外に多くの工程を必要とし、煩雑であり、生産効率が十分でない。また、この方法では、セルロースナノファイバーの表面の水酸基が変性されるため、ポリアミドとセルロースナノファイバーの表面に有する水酸基との水素結合点が減少し、ポリアミドとセルロースナノファイバーとの界面強度が低下する虞がある。」 「【0038】 [セルロースナノ繊維] セルロースナノ繊維(又はセルロースナノファイバー)は、セルロース(原料セルロース又は繊維径がマイクロメータサイズ以上のセルロース繊維、例えばパルプ)の平均繊維径をナノオーダーまで微細化(又はミクロフィブリル化)したセルロース繊維である。なお、ここでいうセルロースナノ繊維は、未修飾セルロースナノ繊維であってもよく、修飾セルロースナノ繊維であってもよい。修飾セルロースの場合には、ポリアミドとの水素結合性を損なわないという観点より、修飾量が低い方が好ましい。」 (2)甲5の記載事項 「バリ(図4-149) 樹脂の粘性が低い場合や特に金型温度、樹脂温度、射出速度、射出圧力などの影響で、金型のパーティングライン(P.L.)に材料がはみ出す現象で、成形品にバリとなって現れる。」(264頁3?6行) (3)甲6の記載事項 「ばり発生に関与する樹脂特性 (1)溶融粘度の絶対値 溶融粘度が 低いと小さい隙間にも溶融樹脂が入り込みやすく,ばりが発生しやすいから,金型設計に際しては,樹脂グレードの溶融粘度の絶対値の状況を把握していなければならない。」(117頁下から8行?4行) (4)甲7の記載事項 「【0155】 【0156】 以下リグノパルプについて説明を行う。リグノパルプの一例として,150℃にて砕木パルプ(GP)を1時間蒸解処理を行ったリグノパルプ150-1(GP150-1)の組成は、モル比で大よそセルロース(Cel):66%、ヘミセルロース(HCel):12%(マンナン(Man):7%及びキシラン(Xyl):5%)、及びリグニン(Lig):22%で構成)を例に挙げて説明する。」 「【0048】 (1)繊維強化樹脂組成物 本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾セルロースナノファイバー(化学修飾CNF)及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、前記化学修飾CNF及び熱可塑性樹脂が下記の条件:(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SPpol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SPcnf)の比率R(SPcnf/SPpol)が0.87?1.88の範囲である、及び(b)(A)化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上であるを満たす。」 (5)甲8の記載事項 「また、ヘミセルロースはセルロースと同様にほとんど無彩色であるが、セルロースと同様の機構により加熱で変色する。…リグニンは本来白?薄い黄色であるがリグニン中にはフェノール性水酸基、カルボニル基、二重結合などが存在し、これらが種々に組み合って潜在的発色団を構成している[28]。加熱するとフェノール基成分が空気中の酸素と反応したり熱分解したりして変色する。」(91頁左欄13?23行) Table 1(表1)には、Cotton(コットン繊維)が、Hemicellulose(ヘミセルロース)を0.8軍量%含むとともに、Lignin(リグニン)を0.2重量% 未満含むことが記載され、Ramie(ラミー繊維)の場合は、ヘミセルロースを16.0重量%含むとともにリグニンを4.5重量%含むこと、Kenaf(ケナフ繊維)の場合は、ヘミセルロースを16.4重量%含むとともにリグニンを3.8璽量%含むことが記載されている(90頁右欄)。 (6)甲9の記載事項 図2の円グラフには、竹と広葉樹と針葉樹の、パルプ中のヘミセルロースとリグニンと成分比率が記載されており、竹ではヘミセルロースを14.78%、リグニンを2.05%含むこと、広葉樹ではヘミセルロースを11.71%、リグニンを0.08%含むこと、針葉樹ではヘミセルロースを15.12%、リグニンを1.28%含むことが記載されている(3頁)。 (7)甲10の記載事項 Table 2(表2)には、Buna(ブナ)、Shirakaba(シラカバ)、Doro(ドロ)、Akamatsu(アカマツ)のパルプ中のリグニンとヘミセルロースとの含量が記載され、ブナではリグニンの含量が3.3%かつヘミセルロースの含量が12.6%であること、シラカバではリグニンの含量が2.5%かつヘミセルロースの含量が19.7%であること、ドロではリグニンの含量が1.6%かつヘミセルロースの含量が12.5%であること、アカマツではリグニンの含量が12.9%かつヘミセルロースの含量が13.1%であることが記載されている(3頁)。 (8)甲12の記載事項 「1.1 ピーリング反応と停止反応 1・4結合多糖類のアルカリ処理時に見られる最も重要な反応は,いわゆるピーリング反応である〔第1図〕。セルロースを例にとればグルコース型還元性末端基(1)はフラクトース型末端基 (2)に異性化し,続いてβ-アルコキシ・カルボニル脱離〔第2図参照〕を受けることにより重合度の一つ小さいセルロース(4)を生ずる。生じたセルロースは再び(1)から(4)への過程を経て,重合度が更に一つ小さいセルロースに変る。このようにして還元性末端から糖残基が一つづつ脱離していく反応をピーリング反応という。この反応によりセルロース,ヘミセルロースはアルカリ処理時にその重量の一部を失なう。」(371頁右欄5?17行) 3.本件発明の申立理由の検討 (1)本件発明1について ア.甲3発明を主引例とする申立理由の検討 (ア)対比 本件発明1(第2)と甲3発明(第4の1(2)ア)を対比する。 甲3発明のペレットは、ポリアミドを主成分とする組成物であるから、ポリアミド樹脂組成物に相当し、甲3発明で使用されているポリアミドは、カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6であるから、前者の「アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]が、[-NH_(2)]<[-COOH]の関係を満たしているといえる。 甲3発明の「平均繊維径90nmのセルロースナノファイバー」は、本件発明1の「平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維」に相当し、甲3発明の、「ポリアミドを100重量部」に対して「セルロールファイバーを0.5?20重量部」とすることは、本件発明1の「ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部」であることに相当する。 また、本件発明1のポリアミド樹脂組成物は、「を含む」と記載されていること、更に、本件発明2,3において、ヘミセルロースや分散剤のように本件発明1の発明特定事項に記載のない成分を含むことが記載されていることから、甲3の表3において、実施例1A?5A、比較例1Aの組成物が、セルロースウィスカーを含むことは相違点にならないと認められる。 更に、本件発明1は、ポリアミド樹脂組成物の製造方法を特定するものではないので、甲3発明の「東芝機械(株)製のTEM48SS押出機で、スクリュー回転数350rpm、吐出量140kg/hrで溶融混練し、真空脱揮した後、ダイからストランド状に押出し、水浴で冷却して、ペレタイズ」することも相違点にならない。 そうすると、本件発明1と甲3発明は、以下の点で一致していると認められる。 「(A)アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):[-NH_(2)] < [-COOH] ・・・(1)を満たすポリアミドと、 (B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維とを含む、ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部である、ポリアミド樹脂組成物」 他方、 本件発明1では、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下である」と規定しているのに対し、甲3発明では、ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度についての規定がない点(相違点1)、 本件発明1では、「セルロース繊維100質量%に対して0.1?10質量%のリグニンを含む」のに対し、甲3発明では、リグニンの含有量について規定していない点(相違点2)で相違している。 (イ)相違点1の検討 甲3には、甲3発明の「カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6である、宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン1013B」ポリアミド(PA)」(以下、「PA」という。)の末端カルボキシル基濃度についての記載は無い。 一方、甲3の[0035]には、「ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。本実施形態のポリアミドにおいて、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30?0.95であることがより好ましい。」との記載がある。 この[0035]に記載された、末端カルボキシル基濃度の下限値である20μモル/g及び上限値である150μモル/gと、甲3発明のPAのカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])である0.6を用いて、全末端基(([-NH_(2)]+[-COOH])を計算すると、下限値の20μモル/gの場合、20/0.6=33μモル/gであるものの、上限値の150μモル/gの場合、150/0.6=250μモル/gとなり、100μモル/gを大幅に上回るものとなる。 よって、甲3の[0035]を参酌しても、甲3発明のPAが、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下」を満たすことは直ちに認定できないうえ、「100μモル/g以下」の濃度に設定すべき動機付けが甲3に記載されているともいえない。 もっとも、本件明細書の【0112】には、「≪ポリアミド樹脂≫ ・「UBEナイロン 1013B」宇部興産株式会社製ポリアミド6(以下、PAと称す。) カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.58」との記載があり、その【0143】の【表1】には、PAを使用した実施例9、10の([-NH_(2)]+[-COOH])が「111」μmol/gと表記されていることに照らすと、同じ製品名を有し、カルボキシル末端基比率で近似する、甲3発明のPAは、本件明細書で使用されているPAと同様に、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下」の要件を満たさない蓋然性が高い。 更に、甲4?12を参照しても、甲3発明のPA、すなわち、カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6である特定のポリアミドについて、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])」を、「10μモル/g以上100μモル/g以下」となるように調整することを当業者に動機付ける記載は見当たらない。 そうすると、甲3?12の記載に接した、本件特許の出願日当時の当業者(以下、「当業者」と略す。)が、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項を容易に想到し得たということはできない。 なお、申立人は、甲3の「【0035】にはカルボキシル基濃度が20μモル/g以上であり、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30?0.95であることが記載されていることから、アミノ基末端濃度とカルボキシル基末端濃度との合計すなわち、([-NH_(2)]+[-COOH])は、20/0.95?20/0.30=21?66μモル/gであると、簡単に知ることができる。」と主張する。 しかし、[0035]にあるカルボキシル基濃度の上限値である150μモル/gを用いて、同様の計算をすると、([-NH_(2)]+[-COOH])は、150/0.95?150/0.30=158?500μモル/gとなり、いずれの場合も100μモル/gを大幅に上回ることになるから、甲3の[0035]の記載から、甲3に記載されているポリアミドが、一般的に、PAである場合を含めて、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が、「10μモル/g以上100μモル/g以下」の要件を満たしているということはできない。 また、申立人は、(i)甲4の【0008】の「水素結合点の減少」、「界面強度の低下」や、【0038】の「ポリアミドとの水素結合性を損なわないという観点より、修飾量が低い方が好ましい」との記載から、界面強度が低下しないように濃度を一定範囲内にすることは容易である、(ii)甲5,6における、樹脂の粘度が低いと射出成形品にバリが発生することは、周知であるとし、そうならないように末端基濃度を特定値以下にして樹脂の粘度が低くなり過ぎないようにすることは、当業者にとって容易になし得たことである、と主張する。 しかし、甲4の【0008】、【0038】は、カチオン変成セルロース等の修飾セルロースに関する記載であるから、甲4の上記記載が、セルロースとは化学構造が異なるポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度を調整することを示唆するものとはいえない。また、甲5、6に記載のある樹脂の「粘性」、「溶融粘度」についてみても、これらとポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との関係を示す証拠は何ら提示されていない。 そうすると、上記の甲4?甲6の記載が、甲3発明における、PAの「カルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])」について、「10μモル/g以上100μモル/g以下」に設定することを動機付ける記載にはなり得ない。 したがって、相違点1に関する申立人の主張は、いずれも理由がない。 (ウ)相違点2の検討 甲3には、甲3発明のセルロースナノファイバーA(CF-A)に加え、セルロースナノファイバーB?D(CF-B?D)についても、リグニンの含有量を示す記載は無い。 一方、甲8には、繊維中のリグニン量について、コットン繊維が0.2重量%未満、ラミー繊維が4.5重量%、ケナフ繊維が3.8重量%含むことが記載され、甲9には、パルプ中のリグニン量について、竹が2.05%、広葉樹が0.08%、針葉樹が1.28%含むことが記載され、甲10には、パルプ中のリグニン量について、ブナが3.3%、シラカバが2.5%、ドロが1.6%、アカマツが12.9%含むことが記載されている。 以上の甲8?甲10の記載によると、広葉樹のように、「0.1?10質量%のリグニン」を満たさないものや、コットン繊維のように、本件発明1の下限値である「0.1質量%」に近い「0.2重量%未満」であるセルロース繊維等も存在するから、リグニン含有量は、セルロースの原料によって大きく異なり、「「0.1?10質量%」を満たさない場合があると認められる。 一方で、甲10の上記のTable 2によると、木材中のリグニン含量は、木材からパルプに変換する工程で大きく変動することが示されているので、ナノファイバー化の方法や条件によっても、セルロース中のリグニン含有量が減少することは否定できないといえる。 そうすると、甲3に記載されるセルロースナノファイバーに含まれるリグニン含有量は、セルロースの原料や、ナノファイバー化の方法や条件により左右されると解されるので、甲3に記載されたセルロースナノファイバーA(CF-A)やセルロースナノファイバーB?D(CF-B?D)のリグニン含有量が、「0.1?10質量%」を満たすとは限らない。 また、甲4?7、12の記載事項も、甲3発明のセルロースナノファイバーA(CF-A)やセルロースナノファイバーB?D(CF-B?D)のリグニン含有量が「0.1?10質量%」であることを当業者に窺わせるものではない。 更に、甲3,4?10、12を参酌しても、甲3発明のセルロースナノファイバーにおいて、リグニン含有量を「0.1?10質量%」の範囲となるように調整することを当業者に動機付ける記載は見当たらない。 そうすると、甲3?12の記載に接した当業者が、相違点2として挙げた本件発明1の発明特定事項を容易に想到し得たということはできない。 なお、申立人は、相溶性の指標であるSP値が近い値であれば相溶性が向上することは周知であるとして、甲7に記載されたSP値より、リグニンのSP値が、セルロースのSP値とナイロン6のSP値との中間の値であることを知れば、「本件特許明細書の【0050】に記載されているようにポリアミド樹脂とセルロース繊維とのSP値差を緩和する効果を増すためにリグニンの含有量を適量とすることは、容易になし得たことである」と主張する。 しかし、リグニンの含有量を調整することで、ポリアミド樹脂とセルロース繊維のSP値差が緩和され、ひいては、ポリアミド樹脂とセルロース繊維の相溶性が向上するとの技術常識が、本件特許の出願日当時に存在していたとは証拠上認められないし、SP値の観点から、リグニンの含有量を調整することを当業者が一般的に行っていたことを示す証拠も存在しない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲3発明と、甲4?12に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ.甲11発明を主引例とする申立理由の検討 (ア)対比 本件発明1(第2)と甲11発明(第4の1(2)イ)を対比する。 甲11発明の「平均繊維径が55nmのセルロース繊維」は、本件発明1の「平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維」に相当し、甲11発明の、「ポリアミド樹脂を100質量部」に対する「セルロール繊維を2.0質量部」は、本件発明1の「ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲11発明は、以下の点で一致していると認められる。 「(A)ポリアミドと、 (B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維とを含む、ポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1?100質量部である、ポリアミド樹脂組成物」 他方、 本件発明1では、ポリアミドとして、「アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1): [-NH_(2)] < [-COOH] ・・・(1) を満た」し、「カルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])が10μモル/g以上100μモル/g以下であ」るものを使用しているのに対して、甲11発明では、[-NH_(2)]<[-COOH]の関係を有するか不明であり、アミノ基末端濃度[-NH_(2)]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]についての規定がない点(相違点3) 本件発明1では、「セルロース繊維100質量%に対して0.1?10質量%のリグニンを含む」のに対し、甲11発明では、リグニンの含有量について規定していない点(相違点4)で相違している。 (イ)相違点3の検討 甲3には、「カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6である、宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン1013B」ポリアミド(PA)を使用することが記載されているものの、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])は、「10μモル/g以上100μモル/g以下」であるとはいえないので(第4の3(1)ア(イ))、甲11発明に甲3の記載事項を組み合わせたとしても、相違点3として挙げた本件発明1の発明特定事項には到達しない。 また、「ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH_(2)]+[-COOH])は、「10μモル/g以上100μモル/g以下」であることは、甲4?12に記載された技術的事項を勘案しても導き出せないので(第4の3(1)ア(イ))、甲3?12の記載に接した当業者が、相違点3として挙げた本件発明1の発明特定事項を容易に想到し得たということはできない。 なお、申立人は、甲12には、セルロース繊維がアルカリ下においてピーリング反応を生じることが記載されているため、当業者であれば、甲11の樹脂組成物において、ピーリング反応を抑制するためにポリアミドを酸性のコンディションとすること、すなわち[-NH_(2)]<[-COOH]とすることは、容易になし得たことであるに過ぎない、また、[-NH_(2)]<[-COOH]であることは甲3に記載されている、と主張する。 しかし、セルロース繊維のピーリング反応が、ポリアミドに含まれる、どの程度の[-COOH]の含有量及び含有濃度によって抑制できるかについては、甲12には記載されていないし、甲3?10を見ても、明らかにされていない。 なお、甲3では、カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が0.6であるポリアミドが用いられているが、ピーリング反応の抑制を企図して、このポリアミドが用いられているものではないし、甲3の[0035]には、「カルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30?0.95であることがより好ましい。」と記載されることに照らすと、甲3が、専ら、[-NH_(2)]<[-COOH]であるポリアミドの使用を推奨しているとはいえない。 また、申立人は、ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計に関し、(i)セルロースが水酸基を有すること、(ii)ポリアミドがカルボキシル基末端とアミノ基末端とを有すること、(iii)セルロースの水酸基と、ポリアミドのカルボキシル基未端およびアミノ基末端とは、相互作用により安定化すること、(iv) セルロースが熱により分解しやすいことは、当業者によく知られた事項であるので、ポリアミドのカルボキシル基末端とアミノ基末端との合計量を一定範囲内のものとして、安定化を図り分解しにくくする程度のことは、当業者にとって容易になし得たことであるに過ぎない、と主張する。 しかし、(i)? (iv)に記載の事項が技術的に正しいものであったとしても、(i)? (iv)に記載の事項と、ポリアミドのカルボキシル基末端濃度及びアミノ基末端濃度との関係は乏しいから、(i)? (iv)に記載の事項が、ポリアミドのカルボキシル基末端とアミノ基末端との合計量([-NH_(2)]+[-COOH])を一定の範囲にすることを示唆するものとは認められない。 以上によると、上記の甲12や甲3の記載、又は、(i)? (iv)に記載の事項は、いずれも相違点3として挙げた本件発明1の発明特定事項を当業者に動機付けるものとはいえない。 したがって、申立人の主張はいずれも理由がない。 (ウ)相違点4の検討 セルロース繊維に含まれるリグニン含有量は、上記のとおり、甲8?10の記載に照らすと、セルロース原料の種類や、ナノファイバー化の方法や条件により左右されるものと解されるので、甲11に記載されたセルロース繊維のリグニン含有量が、「0.1?10質量%」を満たすものであることは推認できない(第4の3(1)ア(ウ))。 また、甲4?7、12の記載事項を勘案しても、甲11発明のセルロース繊維のリグニン含有量が「0.1?10質量%」になるように調整することを動機付ける記載は見当たらないから、甲3?12の記載に接した、当業者が、相違点4として挙げた本件発明1の発明特定事項を容易に想到し得たということはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲11発明と、甲4?12に記載された技術的事項を組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ.本件発明1の効果 本件発明1は、本件明細書の表1、2の記載から判断すると、特に、(1)[-NH_(2)]<[-COOH]を満たすポリアミドを配合する発明特定事項と(2)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維100質量%に対して0.1?10質量%のリグニンを含む発明特定事項とを組み合わせることで、樹脂組成物の着色性や臭気が改善されるという効果を奏するものと認められる。 しかし、甲3?12には、上記の発明特定事項を組み合わせたことによる上記の効果を示唆する記載は見当たらないから、本件発明1の効果が、甲3?12の記載事項より、当業者が容易に予測できたものとは認められない。 エ.本件発明1の申立理由の検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1は、甲3発明又は甲11発明と、甲3?甲12に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (2)本件発明2?7について 本件発明2?4は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。 本件発明5?6は、本件発明1を、直接又は間接的に引用するものではないものの、本件発明1のポリアミド樹脂組成物の製造方法に係るものであり、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものである。 本件発明7は、本件発明2?4及び5?6を引用するものである。 そうすると、本件発明2?7は、いずれも本件発明1の発明特定事項の全てを含むものと認められるので、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る異議申立において申立人が主張する申立理由はいずれも理由がないから、本件発明1?7についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件発明1?7についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-04-28 |
出願番号 | 特願2018-131628(P2018-131628) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中村 英司 |
特許庁審判長 |
杉江 渉 |
特許庁審判官 |
福井 悟 橋本 栄和 |
登録日 | 2020-06-30 |
登録番号 | 特許第6726235号(P6726235) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | セルロース含有樹脂組成物 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 三間 俊介 |
代理人 | 中村 和広 |