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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1374149
審判番号 不服2020-10261  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-21 
確定日 2021-06-01 
事件の表示 特願2017-506147「光学積層体,偏光板及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月22日国際公開,WO2016/147764,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-506147号(以下「本件出願」という。)は,2016年(平成28年)2月10日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年3月16日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
令和元年 8月22日付け:拒絶理由通知書
令和元年12月27日付け:意見書
令和元年12月27日付け:手続補正書
令和2年 5月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 7月21日付け:審判請求書
令和2年 7月21日付け:手続補正書
令和2年 9月 8日付け:前置報告書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,令和2年7月21日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,請求項1?請求項9の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
基材層及び第一表面層を備え,
前記基材層は,非晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み,
前記第一表面層は,結晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み,
前記結晶性の脂環式構造を含有する重合体のラセモ・ダイアッドの割合は51%以上であり,
前記基材層の厚みと前記第一表面層の厚みとの比(第一表面層厚み/基材層)が,1/200以上,1/8以下である,光学積層体。

【請求項2】
前記光学積層体のレターデーションが,400nm以下であり,
前記第一表面層の厚みが,0.1μm?5.0μmである,請求項1記載の光学積層体。

【請求項3】
前記結晶性の脂環式構造を含有する重合体が,ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物である,請求項1又は2記載の光学積層体。

【請求項4】
波長380nmにおける前記光学積層体の透過率が,10%以下である,請求項1?3のいずれか一項に記載の光学積層体。

【請求項5】
前記基材層の前記第一表面層とは反対側に,第二表面層を備え,
前記第二表面層は,結晶性の脂環式構造を含有する重合体を含む,請求項1?4のいずれか一項に記載の光学積層体。

【請求項6】
前記光学積層体が,長尺形状を有し,
前記光学積層体の遅相軸が,前記光学積層体の長手方向に平行でもなく垂直でもない,請求項1?5のいずれか一項に記載の光学積層体。

【請求項7】
前記光学積層体の長手方向に対する配向角が,40°以上50°以下である,請求項6記載の光学積層体。

【請求項8】
請求項1?7のいずれか一項に記載の光学積層体及び偏光子を含む,偏光板。

【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を備える,液晶表示装置。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の(令和元年12月27日した手続補正後の)請求項1?請求項7,請求項9及び請求項10に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:特開2002-194067号公報
引用文献2:特開2015-031753号公報
引用文献3:国際公開第2013/136975号
引用文献4:国際公開第2015/002019号
引用文献5:特開2013-010309号公報

なお,主引用例は引用文献1であり,引用文献2及び引用文献3は副引用例,引用文献4及び引用文献5は周知技術を例示する文献である。
また,前置報告書において,以下の引用文献6?引用文献8も,周知技術を例示する文献として挙げられている。
引用文献6:特開2013-116621号公報
引用文献7:特開2010-072516号公報
引用文献8:国際公開第2014/142034号

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2002-194067号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
…省略…
【請求項3】 融点を有するノルボルネン系開環重合体,もしくは,該開環重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化して得られた,融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する層と,ゴム質重合体もしくは他の樹脂を含有する層とを有する積層体。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ノルボルネン系開環重合体または該開環重合体の水素化物を成形してなるフィルムおよびシートに関し,さらに詳しくは,融点を有するノルボルネン系開環重合体または該開環重合体水素化物を成形してなるフィルムおよびシートに関する。
…省略…
【0003】…省略…ノルボルネン系開環重合体およびその水素化物は,透明性に優れ,低複屈折性を有することから,光学レンズや光学シート用の材料として提案されている。また,これらの重合体は溶融時の流動性に優れ,低誘電性や耐薬品性にも優れているため,光学用途以外の種々の用途に使用することが唱導されている。ノルボルネン系開環重合体およびその水素化物は,非晶性であり,融点を有しない。しかしながら,この非晶性である従来のノルボルネン系開環重合体およびその水素化物は,その用途によっては,機械的強度,耐熱性,耐溶剤性などが不十分で改善が望まれていた。このように,最近の情報分野,食品分野,医療分野,土木分野などにおける透明性,耐熱性,耐薬品性,機械的強度等のより優れた性能の要求に応えられるフィルムやシートの出現が待望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,透明性,耐熱性および耐薬品性に優れ,高強度である熱可塑性樹脂製のフィルムおよびシートを提供することにある。
…省略…
【0007】
【発明の実施の形態】本発明で用いるノルボルネン系開環重合体は,ノルボルネン環を有する単量体を開環重合して得られる重合体である。…省略…本発明に用いるノルボルネン系開環重合体は,従来のノルボルネン系開環重合体と異なり,融点(以下,Tmと記すことがある。)を有する。融点は重合体の結晶部分が融解する温度である。
…省略…
【0017】本発明において好適なノルボルネン系単量体は,3環体以上の多環式ノルボルネン系単量体(a’)である。
…省略…
【0022】これらの中でも,重合体の結晶性が高くなるという点で,三環体または四環体のものが好ましく,中でも直鎖状または分岐状の置換基を持たないジシクロペンタジエン,トリシクロ[4.3.0.1^(2,5)]-デカ-3-エン,テトラシクロ[6.5.0.1^(2,5 ).0^(8,13)]トリデカ-3,8,10,12-テトラエン,テトラシクロ[6.6.0.1^(2,5 ).0^(8,13)]テトラデカ-3,8,10,12-テトラエン,テトラシクロドデセン,8-メチルテトラシクロドデセンがさらに好ましく,ジシクロペンタジエンが特に好ましい。
【0023】上記の単量体には,エンド体とエキソ体の異性体が含まれる。本発明に用いる結晶性ノルボルネン系樹脂を得るための単量体は,これら異性体の混合物であってもよいが,結晶性をより高めるためには,異性体混合物中において,いずれかの異性体成分の組成比が高いもの,すなわち,エンド体が70重量%以上のものかエキソ体が70重量%以上のものが好ましい。
…省略…
【0025】本発明で使用する,融点を有する結晶性ノルボルネン系樹脂を得るために用いられる好適な重合触媒は,周期表第6族遷移金属と結合するイミド基を少なくとも一つ有し,さらに,アルコキシ基,アリールオキシ基,アルキルアミド基およびアリールアミド基からなる群から選ばれる置換基を少なくとも一つ有する化合物を主成分として含有するものである。
…省略…
【0046】本発明に用いる結晶性ノルボルネン系樹脂には,その他の重合体を配合して使用することができる。その他の重合体としては,ゴム質重合体やその他の樹脂が挙げられる。
…省略…
【0048】ゴム質重合体の量は,使用目的に応じて適宜選択される。耐衝撃性や柔軟性が要求される場合にはゴム質重合体の量は,結晶性ノルボルネン系樹脂100重量部に対して,通常0.01?100重量部,好ましくは0.1?70重量部,より好ましくは1?50重量部の範囲である。その他の樹脂としては,例えば,非晶性ノルボルネン系開環重合体,非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物,結晶性ノルボルネン系付型加重合体,非晶性ノルボルネン系付加型重合体,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,超低密度ポリエチレン,エチレン-エチルアクリレート共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体,ポリプロピレン,ポリスチレン,水素化ポリスチレン,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリフェニレンスルフィド,ポリフェニレンエーテル,ポリアミド,ポリエステル,ポリカーボネート,セルローストリアセテート,ポリエーテルイミド,ポリイミド,ポリアリレート,ポリスルホン,ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。
…省略…
【0053】…省略…本発明のフィルムおよびシートの厚みは特に限定されないが,通常,1μm?20mm,好ましくは5μm?5mm,より好ましくは10μm?2mmである。フィルムとシートの区別に格別な規定はなく,厚みによって区別することもあるが,用途や業種における慣習により呼称が変わるのが実状である。
…省略…
【0056】本発明においてフィルムおよびシートの成形に供する結晶性ノルボルネン系樹脂は,融点を有する重合体,すなわち結晶構造を形成する重合体であるので,フィルムおよびシートの成形体内部に結晶部を形成し,これと非晶部とが相俟って成形品に大きな引張り強度などの機械的強度を与え,それでいて,結晶が大きくないので透明性の良さをも与えるのである。フィルムおよびシートの機械的強度を増大すべく,結晶化度を高めるために好ましくは延伸を行う。
…省略…
【0057】本発明においては,結晶性ノルボルネン系樹脂を含有する層と,その他の重合体を含有する層とを有する積層体を形成させてもよい。その他の重合体としては,ゴム質重合体またはその他の樹脂が挙げられ,それらの具体例は,いずれも本発明の結晶性ノルボルネン系樹脂に配合して使用できるものとして前記したものと同様である。積層する層の数は,通常,2層または3層であるが,更に多層の積層体とすることができる。3層以上の多層における重合体種による層の配置順序は,目的や用途により決めることができる。また,同種の重合体の層を他の重合体の層を隔てて配置してもよく,例えば,結晶性ノルボルネン系樹脂を含有する2つの層の間にポリスチレンを含む層を挟む3層の積層体や,さらにその一方の外側に水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体を含む層が積層された4層の積層体などが可能である。積層方法としては,層と層の間に接着剤を塗布して貼り合わせる方法,単層もしくは複数層のフィルムまたはシートを熱もしくは高周波により融点以上に加熱して融着する方法,結晶性ノルボルネン系樹脂またはその他の重合体のフィルムまたはシートの表面に,その他の重合体または結晶性ノルボルネン系樹脂を分散もしくは溶解させた有機溶媒を塗布して乾燥させる方法などがある。また,押出機で結晶性ノルボルネン系樹脂とその他の重合体とを共押出して積層体を製造することもできる。
【0058】本発明の融点を有する結晶性ノルボルネン系樹脂を成形してなるフィルムおよびシートは,耐熱性,透明性,耐薬品性に優れ,かつ,引張強度など機械的強度が大きい。また,熱分解温度が高いので,加工温度範囲が広い利点を有する。これらの特徴を有する本発明のフィルムおよびシートは,食品分野,医療分野,光学分野,民生分野,土木建築分野などの多岐の用途で利用することができる。なかでも,食品分野,医療分野,光学分野などの用途に好適である。食品分野としては,ラップフィルム,シュリンクフィルム,菓子や漬物などの食品包装袋などで使用できる。医療分野では,輸液用バッグ,点滴用バッグ,プレス・スルー・パッケージ用フィルム,ブリスター・パッケージ用フィルムなどで使用できる。光学分野では,位相差フィルム,偏光フィルム,,光拡散シート,集光シート,光カード,光ディスク,フレンネルレンズ,レンティクラーレンズなどが挙げられる。
…省略…
【0072】
【発明の効果】本発明により,透明性,耐熱性および耐薬品性に優れ,かつ,高強度の,ノルボルネン系開環重合体もしくはその水素化物からなるフィルムおよびシートが提供される。」

(2) 引用発明
引用文献1の【請求項3】には,次の「積層体」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「融点を有するノルボルネン系開環重合体,もしくは,該開環重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化して得られた,融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する層と,ゴム質重合体もしくは他の樹脂を含有する層とを有する積層体。」

2 対比及び判断
(1) 対比
請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると,引用発明の「積層体」と本願発明1の「光学積層体」は,「積層体」である点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,「積層体」である点で一致する。

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
「積層体」が,本願発明1は「光学」積層体であり,「光学積層体」が,「基材層及び第一表面層を備え」,「前記基材層は,非晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み」,「前記第一表面層は,結晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み」,「前記結晶性の脂環式構造を含有する重合体のラセモ・ダイアッドの割合は51%以上であり」,「前記基材層の厚みと前記第一表面層の厚みとの比(第一表面層厚み/基材層)が,1/200以上,1/8以下である」という構成を具備するのに対して,引用発明は,「光学」積層体であるとは特定されておらず,また,「融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する層」及び「ゴム質重合体もしくは他の樹脂を含有する層」のどちらが「基材層」でどちらが「第一表面層」か特定されておらず,その余の構成も特定されていない点。

(3) 判断
引用文献1の【0057】には,「本発明においては,結晶性ノルボルネン系樹脂を含有する層と,その他の重合体を含有する層とを有する積層体を形成させてもよい。」と記載されている。また,【0048】には,「その他の樹脂としては,例えば,非晶性ノルボルネン系開環重合体,非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物,結晶性ノルボルネン系付型加重合体,非晶性ノルボルネン系付加型重合体,低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,超低密度ポリエチレン,エチレン-エチルアクリレート共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体,ポリプロピレン,ポリスチレン,水素化ポリスチレン,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリフェニレンスルフィド,ポリフェニレンエーテル,ポリアミド,ポリエステル,ポリカーボネート,セルローストリアセテート,ポリエーテルイミド,ポリイミド,ポリアリレート,ポリスルホン,ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。」と記載されている。
したがって,当業者が,【0057】に記載された態様に着目し,かつ,【0048】に列挙された「その他の樹脂」の選択肢の中から,「非晶性ノルボルネン系開環重合体」,「非晶性ノルボルネン系開環重合体水素化物」又は「非晶性ノルボルネン系付加型重合体」を選択した場合には,相違点に係る本願発明1の構成のうち,「非晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み」という要件を満たす層と,「結晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み」という要件を満たす層を備えた「積層体」の構成に到ることとなる。
しかしながら,これだけでは,どちらを「基材層」とし,どちらを「第一表面層」とするかは定まらず,また,その余の構成に到るともいえない。

ところで,引用文献1の【0057】には,「例えば,結晶性ノルボルネン系樹脂を含有する2つの層の間にポリスチレンを含む層を挟む3層の積層体や,さらにその一方の外側に水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体を含む層が積層された4層の積層体などが可能である。」と記載されており,当業者がこの記載に着目した場合,引用発明の「融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する層」を「第一表面層」とし,「ゴム質重合体もしくは他の樹脂を含有する層」を「基材層」にすると考える余地がある。

しかしながら,【0057】の記載に着目した当業者が採用する「基材層」は,「ポリスチレンを含む層」であるから,相違点に係る本願発明1の構成のうち,「非晶性の脂環式構造を含有する重合体を含み」という構成に到るとはいいがたく,また,その余の構成に到るともいえない。

さらに、引用文献1の【0058】には,「本発明の融点を有する結晶性ノルボルネン系樹脂を成形してなるフィルムおよびシートは,耐熱性,透明性,耐薬品性に優れ,かつ,引張強度など機械的強度が大きい。また,熱分解温度が高いので,加工温度範囲が広い利点を有する。これらの特徴を有する本発明のフィルムおよびシートは,食品分野,医療分野,光学分野,民生分野,土木建築分野などの多岐の用途で利用することができる。」と記載されている。(当合議体注:下線は当合議体で付した。)そうすると「光学分野」の当業者ならば,引用発明の「積層体」を「光学積層体」とする着想を得るかもしれない。
しかしながら,【0058】の記載に着目した当業者が,引用発明の2つの層のどちらを「基材層」とし,どちらを「第一表面層」とするかは定まらず,また,その余の構成に到るともいえない。加えて,【0058】には「本発明の融点を有する結晶性ノルボルネン系樹脂を成形してなるフィルムおよびシートは,耐熱性,透明性,耐薬品性に優れ,かつ,引張強度など機械的強度が大きい。」と記載されている。そうしてみると,当業者が,引用発明の「融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する層」を,「ゴム質重合体もしくは他の樹脂を含有する層」の「1/8以下」といった程度にまで薄くすることには,阻害要因がある。
(当合議体注:仮に,阻害要因があるとまではいえないとしても,原査定の引用文献2(特開2015-31753号公報)に「中間層12の厚みと表面層11,13の厚み(2層の合計値)の比は,生産安定性の観点から,(中間層の厚み)/(表面層の厚みの合計値)が1?3であることが好ましい。」(【0030】)と記載されていることに鑑みると,引用文献2が、厚みを「1/8以下」とする構成を示唆するとはいえない。)

次に,本願発明1の「前記基材層の厚みと前記第一表面層の厚みとの比(第一表面層厚み/基材層)が,1/200以上,1/8以下である」という構成に関して,本件出願の明細書の【0164】?【0226】に記載された実施例を参照する。
実施例1?実施例7のうち,上記「前記基材層の厚みと前記第一表面層の厚みとの比(第一表面層厚み/基材層)が,1/200以上,1/8以下である」という構成を具備するのは,実施例1?実施例4及び実施例7である。また,実施例5は,この構成を具備しない(「第一表面層厚み/基材層」は,7.5μm÷10μm=3/4と計算される。)。
実施例1?実施例4及び実施例7と,実施例5を比較すると,前者のヘイズは,いずれも0.1%以下であるのに対し,実施例5のヘイズは0.5%に達している。
そうしてみると,「光学積層体」という積層体の用途との関係においては,上記「前記基材層の厚みと前記第一表面層の厚みとの比(第一表面層厚み/基材層)が,1/200以上,1/8以下である」という構成は,有利な構成といえる。

以上勘案すると,引用文献1には,引用発明に加えて,本願発明1に関係する構成が断片的には記載されているとしても,相違点1に係る本願発明の構成に到るとまではいうことができないというのが相当である。
この点は,原査定の拒絶の理由等において挙げられた引用文献2?引用文献8の記載を考慮しても,変わらない。

(4) 小括
本願発明1は,引用文献1に記載された発明(並びに引用文献2に記載された技術,引用文献3に記載された技術及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 他の請求項に係る発明について
請求項2?請求項7に係る発明は,本願発明1の「光学積層体」に対してさらに他の発明特定事項を付加してなる「光学積層体」の発明である。また,請求項8及び請求項9に係る発明も,少なくとも本願発明1の「光学積層体」の構成を含む「偏光板」及び「液晶表示装置」の発明である。
したがって,これらの発明も,引用文献1に記載された発明(並びに引用文献2に記載された技術,引用文献3に記載された技術及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第3 原査定について
前記「第2」で述べたとおりであるから,原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第4 まとめ
以上のとおり,本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,いずれも,引用文献1に記載された発明(並びに引用文献2に記載された技術,引用文献3に記載された技術及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-14 
出願番号 特願2017-506147(P2017-506147)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
植前 充司
発明の名称 光学積層体、偏光板及び液晶表示装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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