ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L |
---|---|
管理番号 | 1374194 |
審判番号 | 不服2020-9028 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-29 |
確定日 | 2021-06-01 |
事件の表示 | 特願2018-206143「チエノアセンの単結晶性有機半導体膜」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月 4日出願公開、特開2019- 54259、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年3月20日に出願された特許出願(特願2014-59300号)の一部を、平成30年10月31日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって、令和1年9月17日付けで拒絶理由通知がされ、令和1年11月25日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和2年1月7日付けで最後の拒絶理由通知がされ、令和2年3月23日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和2年4月2日付けで令和2年3月23日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定(原査定)がされた。 これに対し、令和2年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和2年9月14日付けで前置報告がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年4月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1(新規性)この出願の請求項1-5、7-9に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2(進歩性)この出願の請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.竹谷純一,“低温塗布できる高性能有機半導体単結晶トランジスタとAM-TFT,日本写真学会誌”,日本,一般社団法人日本写真学会,2013年,第76巻,第4号,p.296?304 2.特開2013-58680号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 1(1)審判請求時の補正によって、請求項1に「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、」という事項を追加する補正事項について検討すると、当該補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)また、当該補正事項は新規事項を追加するものではないかについて検討すると、「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下であり」という事項は、当初明細書の段落【0076】、【0080】に記載された事項であり、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。 2(1)審判請求時の補正によって、請求項6に記載の「1μm以下」を「50nm以下」とする補正事項について検討すると、当該補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)また、当該補正事項は新規事項を追加するものではないかについて検討すると、「平均膜厚が50nm以下である」という事項は、当初明細書の段落【0038】に記載された事項であり、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。 そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-9に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和2年6月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下であり、平均移動度が5cm^(2)/Vs以上であり、移動度の変動係数が30以下であるチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項2】 被覆率が0.98以上である請求項1に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項3】 結晶軸の分布範囲が10°以内である請求項1又は請求項2に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項4】 クラックの角度の標準偏差が0.5rad以下である請求項1?3の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項5】 平均移動度が7cm^(2)/Vs以上である請求項1?4の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項6】 平均膜厚が50nm以下である請求項1?5の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 【請求項7】 チエノアセンが次の式(viii)で表される請求項1?6の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜。 式(viii)中、R^(15)、R^(16)、R^(17)及びR^(18)はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1?14のアルキル基である。 【請求項8】 基板と、その表面上に形成された請求項1?7の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜とを備えた有機半導体デバイス。 【請求項9】 請求項1?7の何れか一項に記載のチエノアセンの単結晶性有機半導体膜を半導体チャンネルとして備えたトランジスタ。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(竹谷純一,“低温塗布できる高性能有機半導体単結晶トランジスタとAM-TFT,日本写真学会誌”,日本,一般社団法人日本写真学会,2013年,第76巻,第4号,p.296?304)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、合議体が付加した。以下、同じ。)。 ア 「本稿では,これまでにホール効果測定が行われた有機FETに用いた高移動度有機半導体について,測定結果を紹介し,キャリア伝導の機構について考察する.即ち,ペンタセンとルブレン以外の系としては,最近Takimiya らによって合成されたdinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno[3,2-b]thiophene(DNTT),2,7-dioctyl[1]benzo-thieno[3,2-b][1]benzothiophene(C8-BTBT),2,9-didecyldinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno[3,2-b]thiophene(C10-DNTT)である^( 7-9)).本稿では,さらに筆者らのグループで最近合成して得られた新規の印刷できる高移動度有機半導体3,11-didecyldinaphtho[2,3-d:2',3'-d']benzo[1,2-b:4,5-b']dithiophene(C10-DNBDT)の極めて高性能のトランジスタ特性を紹介する.」(298ページ左欄第16?26行) イ 「6. 屈曲型コアをもつ新規有機半導体のデバイス 以上のような観点から,分子間の相対的な位置の自由度を少なくして,室温での分子揺らぎを小さくすることが電子のコヒーレンスを高め,高移動度化につながるというひとつの設計指針が得られたため,筆者のグループの岡本,三津井らがFig. 3f に示した屈曲型のp 共役コアを有する分子C10-DNBDT を合成した. 本化合物を塗布結晶化法によって単結晶トランジスタを構成し,得られた特性がFig. 16 である.移動度は16 cm^(2)/Vsに及ぶ高い値を有し,トランジスタ特性の教科書的な振る舞いをすることから,印刷できる論理回路(プリンテッドLSI)への応用にも道が拓かれたといえる. 本化合物は,従来の材料と比べて分子の揺らぎが小さいために高温での構造安定性にも優れ,200 度まで層転移しない特徴を有する.このことは,実際にエレクトロニクス製品を製作する際のプロセス許容度をあげるとともに,製品の熱耐久性にも大きく寄与する重要性がある. また,これまでのエッジキャスト法を改善し,大面積に塗布結晶化するプロセスをFig. 17の方法によって実現した.即ち,ブレードのエッジに保持させる液滴の量が一定になるように溶液を供給し続けながら基板を移動させることにより,同じ条件での結晶化を連続的に続けることが可能となった.その結果,インチサイズの結晶が得られ,有機単結晶ウェーハとも言うべき半導体の基盤材料が供給できるようになった^( 27)).こうした大面積かつ均一な高移動度有機半導体薄膜結晶によって,集積回路やアクティブマトリックスなど,様々な製品群が得られるようになる.実際に,Fig. 18 のような8 倍速駆動が可能な液晶ディスプレイの製作にも成功している.」(第303ページ左欄第4行?同ページ右欄第10行) ウ Fig. 17は以下のとおりであり、「C10-DNBDTの連続した結晶膜を作る方法と得られた結晶膜」が示されている。 (2)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「C10-DNBDTの単結晶性有機半導体膜を用いて構成した単結晶トランジスタの移動度が16 cm^(2)/Vsであること。」 2 引用文献2について また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2013-58680号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア「【技術分野】 【0001】 本発明は任意の位置に任意の向きの有機半導体の単結晶を形成する方法及びそのようにして形成された有機半導体単結晶を使用したデバイスに関する。」 イ 「【0020】 3.有機単結晶のパターニング この溶液を図1(a)のステップ[a-3]に示す状態の基板上にスピンコートすると、Cytopの領域は溶液をはじくため、親液性を有する溝(ドレイン)の部分にのみ溶液が塗布された。溝部分に塗布された溶液中のアニソールが蒸発するにつれて、C8-BTBTとPMMAが層分離し、下層にPMMA、上層にC8-BTBT多結晶の2層構造が形成された(図1(a)のステップ[a-4])。この相分離の詳細については、非特許文献5を参照されたい。この基板を室温のクロロホルムの蒸気によって10時間アニールすると、多結晶のC8-BTBTが自己組織化的に針状の単結晶に再結晶し、親液性の溝の方向に沿って成長した(図1(a)のステップ[a-5])。図1(b)右側の表面粗さ計の測定結果に示すように、C8-BTBT単結晶及びPMMA層の典型的な厚さは夫々260nm及び80nmであった。」 3 その他の文献について (1)参考文献1について また、前置報告書において、周知技術を示す文献として引用された参考文献1(国際公開第2011/034206号)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、電子性伝導を示す有機材料に関する。本発明の液体有機半導体材料は、極めて広範囲の分野に適用が可能であり、例えば、光センサ、有機EL、有機トランジスタ、有機太陽電池や有機半導体メモリ等の有機電子デバイスの新しい製造方法や新しい形態の実現を可能とする。」 イ 「[0006] 一般的に、いわゆる液体、つまり、等方相的な液体状態においては、従来、伝導はイオン伝導によるものと考えられていた。すなわち、有機物の液体状態では電子性伝導を利用した有機電子デバイスは実現できないと考えられてきた。換言すれば、従来技術においては、有機電子デバイスに用いる有機半導体材料は、電子伝導を利用して素子の機能を実現するため、デバイスの駆動温度領域において、従来、電子伝導が確認されているアモルファス固体あるいは結晶、あるいは、液晶物質の液晶相を用いる必要があった。 ・・・ 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0008] 本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消することができる新しいタイプの有機半導体材料を提供することにある。 本発明の他の目的は、液体で電子デバイスを実現できる、新しい有機半導体材料を提供することにある。 課題を解決するための手段 [0009] 本発明者は鋭意研究の結果、等方相を示し、且つ、流動性を有する材料において、電子および/又はホール伝導を示す材料を見出した。 本発明の有機半導体材料は、上記知見に基づいて完成されたものである。 [発明の効果] [0010] 上述したように本発明によれば、作動温度において液体状態を示す有機半導体材料が提供される。本発明の有機半導体材料は、従来より有機半導体材料が利用可能であった分野(例えば、光センサ、有機感光体、有機EL、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機半導体メモリ等)に、特に制限なく適用することが可能である。 [0011] より具体的には、本発明によれば、従来技術においては困難であった液体状態における電子伝導を利用した有機電子デバイスを実現することができるため、従来の固体デバイスにとらわれない有機電子デバイスの新しい、素子構造、形態、機能が実現できる。また、デバイス作製においては、従来の方法にとらわれない作製プロセス技術の適用や選択を可能にし、大面積を必要とするデバイスには特に有効である。これはデバイスの応用範囲を拡大させ、また、デバイスの作製コストの低減に有効である。」 ウ 「[0027] (等方相) 本発明の有機半導体材料が「等方相」であることは、以下の方法によって確認することができる。 [0028] 一般に等方相、すなわち配向を示さない液体は、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察を行うと、クロスニコル下では偏光性を示さないため、光が透過せず黒色になる。実際の観察では、試料をスライドガラスとカバーガラスに挟むか、液晶セルに注入し、必要に応じて加熱することにより、該試料の液体状態を偏光顕微鏡で観察し、クロスニコル下で光透過が遮断されること、すなわち、視野が黒色となることで確認すればよい。」 (2)参考文献2について 更に、前置報告書において、周知技術を示す文献として引用された参考文献2(特開2013-55094号公報(令和2年4月2日付け補正却下の決定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2))には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0089】 (膜厚など) 本発明の有機半導体膜とは、本発明のインク組成物から形成された薄膜であり、半導体素子の一つの構成要素である。半導体薄膜の膜厚は、必要な機能を損なわない限り薄いほど好ましく、通常0.1nm?10μmであり、好ましくは0.5nm?5μmであり、より好ましくは1nm?1μmである。」 イ 「【0107】 [実施例1] ジチエノベンゾチオフェン誘導体前駆体(VI)を使用して、表1に示すインクを作製した。溶媒にはトルエンを用い、ドーパントには、アクセプター性有機材料F4TCNQ(東京化成工業株式会社製)を用いた。 ・・・ 【0109】 次の方法でインクを基板に展開し、前駆体およびドーパントの混合膜を作製した。基板には、膜厚300nmの熱酸化膜付シリコンウェハーを使用した。酸化膜表面をUVオゾン処理で洗浄後、京セラケミカル製ポリイミド(CT4112)を塗布して、ポリイミド膜を形成した。その後、スピンコート法により上記インクを基板上に展開し、前駆体およびドーパントの混合膜を形成した。 【0110】 上記で得られた膜をグローブボックス中のホットプレートで加熱して前駆体を変換させ、有機半導体膜を得た。図5にサンプル1?4の偏光顕微鏡写真を示す。 サンプル1はジチエノベンゾチオフェン誘導体前駆体(VI)単独のインクから作製した有機膜である。明るさが異なって見える領域が一つの結晶ドメインであり、この化合物の特徴は比較的大きな結晶ドメインを形成する点にあり、このことが移動度を向上させている一つの理由である。 これに対して、サンプル2ではサンプル1と膜質の異なる領域があることが確認できる。 これはドーパントとして用いたF4TCNQが凝集したため、また、F4TCNQが結晶核の発生源となった結果、微結晶の集合膜を形成したものと推測される。サンプル3、4については、サンプル1と同様の膜が形成できていることが確認できる。」 イ 図5は、以下のとおりのものである。 (3)参考文献3について 更に、前置報告書において、周知技術を示す文献として引用された参考文献3(特開2013-8927号公報(令和2年4月2日付け補正却下の決定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3))には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0070】 (有機半導体層) 本発明に係る有機半導体層は、上述のように、本発明の有機電子デバイス用組成物を用いて湿式成膜することにより形成させることができる。また、特に、ビシクロベンゾポルフィリン化合物を含有する有機電子デバイス用組成物を基板上に塗布した後、該ビシクロベンゾポルフィリン化合物を逆ディールス・アルダー反応によりベンゾポルフィリン化合物に変化させることにより作製した膜が好ましい。即ち、本発明に係る有機半導体層は、アヌレン構造を有する有機化合物として、ビシクロベンゾポルフィリン化合物又はベンゾポルフィリン化合物を含有する有機電子デバイス用組成物を用いて湿式成膜することにより形成されるベンゾポルフィリン化合物を含有する層が好ましく、アヌレン構造を有する有機化合物として、ビシクロベンゾポルフィリン化合物を含有する有機電子デバイス用組成物を用いて湿式成膜することにより形成されるベンゾポルフィリン化合物を含有する層が特に好ましい。 【0071】 本発明に係る有機半導体層は、通常、低分子であり、多結晶及び単結晶の半導体膜を形成するものであれば特に限定は無く、p型、n型のいずれでもよい。有機半導体層の膜厚は、特に限定されないが、1nm以上であるのが好ましく、10nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、500nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア C10-DNBDTは、引用文献1の上記「第5」「1(1)ア」の摘記及び引用文献1のFig. 3並びに本願明細書の段落【0051】の記載に照らすと、チエノアセンであることは明らかである。 イ 本願発明1の「平均移動度が5cm^(2)/Vs以上」と引用発明の「単結晶トランジスタの移動度が16 cm^(2)/Vs」とを対比する。 本願明細書の段落【0076】には、以下の記載がある。 「(3)キャリア移動度 成膜された結晶を活性層として電界効果トランジスタを多数作製し、その伝達特性から移動度を見積もった。まず薄膜上にチャネル長が 50μmとなるように設計された・・・(略)・・・伝達特性を測定した。得られた伝達特性においてゲート電圧が-25Vから-50Vの範囲をフィッティングすることにより、飽和領域におけるキャリア移動度を先述したFETのIdVgの測定値から求めた。なお、移動度の測定値は活性層に流す電流の方向によって変動するが、ここではそれぞれ最も移動度が高くなる方向に対して電流が流れるようにチャンネルの方向を設定した。」 本願明細書の上記記載に照らすと、本願発明1と引用発明とは、「平均移動度が5cm^(2)/Vs以上」である点で共通する。 ウ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「平均移動度が5cm^(2)/Vsである、チエノアセンの単結晶性有機半導体膜。」 <相違点> <相違点1> 本願発明1は、「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下である」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 <相違点2> 移動度について、本願発明1では、「移動度の変動係数が30以下である」のに対し、本願発明1のそのような構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点1について検討する。 相違点1に係る本願発明1の「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下である」という構成に関連した記載について、上記「第5」「2」及び同「3(1)-(3)」に摘記のとおり、引用文献2、参考文献1、参考文献3には、単結晶有機半導体膜のドメインについて記載も示唆もされておらず、参考文献2には、有機半導体膜の偏光顕微鏡写真におて、結晶ドメインが示されているが、当該顕微鏡写真がクロスニコルな状態で撮影したものであることは記載も示唆もされていない。 一方、参考文献1の段落[0028]には、液体試料を、偏光顕微鏡によるテクスチャー観察を、クロス二コルな状態で行う技術が記載されているが、引用発明は、単結晶有機半導体膜を用いるものであるから、引用文献2、参考文献2及び参考文献3を参照した当業者であっても、引用発明において、参考文献1に記載の技術的事項に基づき、クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真における1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数を所定の数値範囲とする動機付けを見出せない。 したがって、引用発明において、引用文献2、参考文献1-3に記載された技術的事項に基づき、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 イ したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2、参考文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2-9について 本願発明2-9も、本願発明1の「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下である」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、参考文献1-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について 1 理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について 審判請求時の補正により、本願発明1-9は、「クロスニコルな状態で撮影した偏光顕微鏡写真において、0から255までの256段階の明るさのうち、連続して緑色の明るさが60よりも大きい領域を1ドメインとしたとき、1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下である」という構成を有するものとなっており、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明であるとはいえない。また、本願発明1-9は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由1、2を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-17 |
出願番号 | 特願2018-206143(P2018-206143) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 聡一郎、鈴木 智之 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
恩田 春香 小川 将之 |
発明の名称 | チエノアセンの単結晶性有機半導体膜 |
代理人 | アクシス国際特許業務法人 |