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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F |
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管理番号 | 1374275 |
審判番号 | 不服2020-13531 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-28 |
確定日 | 2021-06-01 |
事件の表示 | 特願2017-134361「コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月31日出願公開、特開2019- 16726、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年7月10日の出願であって、令和元年9月12日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月5日に手続補正がなされ、令和2年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年9月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 第2 原査定の理由の概要 原査定(令和2年6月25日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである(なお、令和2年9月28日の手続補正により請求項3が削除され、拒絶査定の対象とされた請求項4ないし8は、請求項3ないし7に繰り上がっている。)。 「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-5,8 ・引用文献等 1 ●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-5,8 ・引用文献等 1 ・請求項 1-8 ・引用文献等 1-3 <引用文献等一覧> 1.特開2014-194980号公報 2.特開2008-227045号公報 3.特開2016-096259号公報」 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正によって、請求項3を削除し、請求項1に「ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成された」絶縁体、及び「前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である」という事項を追加する補正は、請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、上記事項は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。 そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-7に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和2年9月28日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である(下線部は、補正箇所を示す。)。 「【請求項1】 第1磁性体と、 前記第1磁性体に積層され、ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成された絶縁体と、 前記絶縁体に積層された第2磁性体と、 前記絶縁体内に設けられ、前記第1磁性体、前記絶縁体および前記第2磁性体の積層方向に配列された第1コイル導体層および第2コイル導体層を含むコイルとを備え、 前記積層方向に沿った断面において、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の形状は前記第2磁性体側に凸となる三角形であり、前記第1コイル導体層と前記第2コイル導体層の互いに対向する対向部分のうち、前記第2コイル導体層の対向部分は辺であり、前記第1コイル導体層の対向部分は角であり、 前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である、コイル部品。 【請求項2】 前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角の数は、奇数である、請求項1に記載のコイル部品。 【請求項3】 前記積層方向に沿った断面において、少なくとも一部の前記第2コイル導体層は、該第2コイル導体層に隣接する前記第1コイル導体層と積層方向に重なる、請求項1または2に記載のコイル部品。 【請求項4】 前記積層方向に沿った断面において、少なくとも一部の前記第2コイル導体層は、該第2コイル導体層に隣接するふたつの前記第1コイル導体層の間に位置する前記絶縁体と積層方向に重なる、請求項1または2に記載のコイル部品。 【請求項5】 前記積層方向に沿った断面において、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層のそれぞれの幅Wと厚みTの関係は、W<Tを満たす、請求項1から4の何れか一つに記載のコイル部品。 【請求項6】 前記積層方向に沿った断面において、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層のそれぞれの幅Wと厚みTの関係は、W>Tを満たす、請求項1から4の何れか一つに記載のコイル部品。 【請求項7】 前記積層方向に沿った断面において、前記一方の対向部分の辺は、凹部を有する、請求項1から6の何れか一つに記載のコイル部品。」 第5 引用発明、引用文献等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2014-194980号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、セラミック層やガラス層などといった絶縁体層の積層体とその層間に形成された内部電極とを有する積層型電子部品及びその製造方法に関する。 【0002】 従来、積層コモンモードチョークコイルなどに代表される積層型電子部品は、フォトリソグラフ技術を用いて感光性レジストによりパターンニングされた導電性基板のパターン開口部に、電界メッキにて内部電極パターンを形成していた(特許文献1)。図4は、転写前の内部電極パターンの模式断面図である。ベース板56上のレジスト膜66に設けた開口に形成された内部電極パターン76の上部にキノコ状に突出したオーバーメッキ部分(以下バンプ部と呼ぶ。)を積層用シートに押し付けて転写し、更に積層・転写を繰り返して内部導体を形成していた。 【0003】 図5は従来の積層型電子部品の一例である積層コモンモードチョークコイルの模式図である。各層の内部電極1a、1b、2a、2bは、各シートに設けられた導体を印刷したスルーホール3a、3bで結ばれる構造を有する。部品全体の構造としては、前述の内部電極が埋設される中間層1(ほぼ非磁性)を、上下の磁性層2、3で挟む様に積層した構造が一般的である。本部品は積層部品であるため、最終的に部品を、一般的には750?950℃で一体焼成する。 【0004】 積層コモンモードチョークコイルなどといった積層型電子部品が使用される回路は高周波化が進んでおり、小型化、高インピーダンス化も求められている。小型化に伴い、内部導体が細くなると直流抵抗値が大きくなり、入力信号そのものを減衰させてしまう問題が顕在化し始めてきている。高インピーダンスを確保するためには内部電極パターンの巻数を多くする必要があるが、部品の小型化に伴い、内部電極が占有することができる部分が少なくなり、内部電極間ピッチ(内部電極間隔)も狭くなってきている。 【0005】 従来技術においては、内部電極メッキを形成する際に、図4に示すように、レジスト膜の高さより高くめっきを成長させ、バンプ部分が形成される。この時、レジスト膜より高い部分については、めっき成長を制御することは困難である。特に、パターン間が狭ピッチになるとそのバラツキにより、図面中のX部分で示すように、内部電極間ショートを引き起こしてしまうことが懸念される。 【0006】 このため従来技術では、内部電極を小さく細くするためには、内部電極断面積を小さくせざるを得ず、結果として、抵抗値が高くなってしまいがちである。さらには、内部電極間ピッチを確保してショート回避を図るためには、バンプを小さく形成せざるを得ず、積層用シートへの食い込みが小さくなってしまい、転写性が悪化し生産性の低下が懸念される。【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特開2002-038292号公報」 したがって、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 ア 段落【0002】より、引用文献1には、「積層コモンモードチョークコイルなど」の「積層型電子部品」についての従来技術が記載されていることがわかる。 イ 図5(積層コモンモードチョークコイルの模式図)及び段落【0004】の「高インピーダンスを確保するためには内部電極パターンの巻数を多くする必要がある」との記載より、引用文献1に記載された「各層の内部電極1a、1b、2a、2b」は「コイル」であって、「内部電極1b、2b」で一つの「コイル」が形成され、「内部電極1a、2a」で他の一つの「コイル」が形成されていることがわかる。 よって、引用文献1に記載された「内部電極」を「内部電極(コイル)」と読み替えると、段落【0002】より「ベース板56上のレジスト膜66に設けた開口に形成された内部電極(コイル)パターン76の上部のキノコ状に突出したオーバーメッキ部分(以下バンプ部と呼ぶ。)を積層用シートに押し付けて転写し、更に積層・転写を繰り返して内部導体を形成」することを読み取ることができる。 ウ 段落【0005】より、「バンプ部分」は、「内部電極メッキを形成する際に、レジスト膜の高さより高くめっきを成長させ」て「形成される」ことを読み取ることができる。 エ 上記「イ」と同様に「内部電極」を「内部電極(コイル)」と読み替えると、段落【0003】より、「積層コモンモードチョークコイル」は、「各層の内部電極(コイル)1a、1b、2a、2b」が「各シートに設けられた導体を印刷したスルーホール3a、3bで結ばれる構造を有し」、「内部電極(コイル)が埋設される中間層1(ほぼ非磁性)を、上下の磁性層2、3で挟む様に積層」して「750?950℃で一体焼成」したものであることを読み取ることができる。 よって、上記アないしエより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「積層コモンモードチョークコイルなどの積層型電子部品であって、 ベース板56上のレジスト膜66に設けた開口に形成された内部電極(コイル)パターン76の上部のキノコ状に突出したオーバーメッキ部分(以下バンプ部と呼ぶ。)を積層用シートに押し付けて転写し、更に積層・転写を繰り返して内部導体を形成し、 各層の内部電極(コイル)1a、1b、2a、2bが各シートに設けられた導体を印刷したスルーホール3a、3bで結ばれる構造を有し、内部電極(コイル)が埋設される中間層1(ほぼ非磁性)を、上下の磁性層2、3で挟む様に積層して750?950℃で一体焼成したものであり、 バンプ部分は、内部電極メッキを形成する際に、レジスト膜の高さより高くめっきを成長させて形成された、 積層コモンモードチョークコイルなどの積層型電子部品。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2008-227045号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0014】 この積層型電子部品は、図1、図2に示すように、磁性材料からなる第1?第5の絶縁層11a?11eと、第1?第4の絶縁層11a?11dの上面にそれぞれ設けられた第1?第4の導体パターン12?15とを備え、そして第2の導体パターン13と第3の導体パターン14とを互いに対向させるとともに、これらを一体化して積層体17を構成し、さらにこの積層体17の両端部には第1?第4の外部電極18a?18dを形成しているものである。・・・(途中省略)・・・。 【0015】 上記した積層型電子部品は、第1の導体パターン12と第2の導体パターン13とからなるコイルと、第3の導体パターン14と第4の導体パターン15とからなるコイルとを有し、そしてこれらの2つのコイルが磁気結合することによってコモンモードノイズを除去するコモンモードノイズフィルタを構成しているものである。」 「【0016】 なお、上記した第1?第5の絶縁層11a?11eのうち、一部の絶縁層は非磁性材料で構成してもよい。」 したがって、段落【0014】ないし【0016】より、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。 「磁性材料からなる第1?第5の絶縁層11a?11e(ただし、一部の絶縁層は非磁性材料で構成してもよい)と、第1?第4の絶縁層11a?11dの上面にそれぞれ設けられた第1?第4の導体パターン12?15とを備え、そして第2の導体パターン13と第3の導体パターン14とを互いに対向させるとともに、これらを一体化して積層体17を構成し、さらにこの積層体17の両端部には第1?第4の外部電極18a?18dを形成し、第1の導体パターン12と第2の導体パターン13とからなるコイルと、第3の導体パターン14と第4の導体パターン15とからなるコイルとを有し、そしてこれらの2つのコイルが磁気結合することによってコモンモードノイズを除去するコモンモードノイズフィルタ。」 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2016-096259号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 【0015】 本発明の一実施の形態におけるコモンモードノイズフィルタは、図1に示すように、第1の積層部11と、前記第1の積層部11上に設けられ2つのコイル12が内蔵された非磁性体部13と、前記非磁性体部13上に設けられた第2の積層部14とを備え、前記非磁性体部13の前記コイル12の巻軸部に、下方になるにつれて徐々に面積が小さくなる磁性体部15を形成し、前記第1の積層部11の厚みを前記第2の積層部14の厚みより厚くしている。 よって、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。 「第1の積層部11と、前記第1の積層部11上に設けられ2つのコイル12が内蔵された非磁性体部13と、前記非磁性体部13上に設けられた第2の積層部14とを備え、前記非磁性体部13の前記コイル12の巻軸部に、下方になるにつれて徐々に面積が小さくなる磁性体部15を形成し、前記第1の積層部11の厚みを前記第2の積層部14の厚みより厚くしたコモンモードノイズフィルタ。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明1における「上下の磁性層2、3」のうち「下の磁性層」「3」が、本願発明1における「第1磁性体」に相当する。 イ 引用発明1における「中間層1(ほぼ非磁性)」は、「内部電極(コイル)が埋設され」ている層であるから「絶縁体」であることは明らかである。そして、引用発明1における該「中間層1(ほぼ非磁性)」は、「上下の磁性層2、3で挟」まれていることから「下の磁性層」「3」に積層されていることは明らかであって、本願発明1における「前記第1磁性体に積層され、ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成された絶縁体」とは、「前記第1磁性体に積層された絶縁体」の点で一致する。 しかしながら、「絶縁体」について、本願発明1では「ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成され」ているのに対し、引用発明1ではどのような材質から構成されているか特定されていない点で相違する。 ウ 引用発明1における「上下の磁性層2、3」のうち「上」の「磁性層2」が、本願発明1における「前記絶縁体に積層された第2磁性体」に相当する。 エ 引用発明1は「コモンモードチョークコイル」であるから、「スルーホール3a、3bで結ばれ」た「各層の内部電極(コイル)1a、1b、2a、2b」のうち、ある「層の内部電極(コイル)1a、2a」と、これに隣接する「層の内部電極(コイル)」「1b、2b」が、それぞれ、本願発明1における「第1コイル導体層」および「第2コイル導体層」に相当する。 オ 引用発明1における「内部導体」は、「内部電極(コイル)パターン76」を「積層用シートに」「転写し、更に積層・転写を繰り返して」「形成」され、上下の磁性層2、3で挟」まれた「中間層1(ほぼ非磁性)」に「埋設され」ているから、上記イないしエを踏まえると、本願発明1における「前記絶縁体内に設けられ、前記第1磁性体、前記絶縁体および前記第2磁性体の積層方向に配列された第1コイル導体層および第2コイル導体層を含むコイル」に相当する。 カ 本願発明1では、「前記積層方向に沿った断面において、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の形状は前記第2磁性体側に凸となる三角形であり、前記第1コイル導体層と前記第2コイル導体層の互いに対向する対向部分のうち、前記第2コイル導体層の対向部分は辺であり、前記第1コイル導体層の対向部分は角であり、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である」の対し、引用発明1における「内部電極(コイル)」は、「レジスト膜66に設けた開口に形成された内部電極(コイル)パターン76の上部のキノコ状に突出したオーバーメッキ部分(以下バンプ部と呼ぶ。)を積層用シートに押し付けて転写し、更に積層・転写を繰り返して内部導体を形成し」、「内部電極(コイル)が埋設される中間層1(ほぼ非磁性)を」「750?950℃」で「焼成したもの」であるが、「焼成」後における、ある「層の内部電極(コイル)1a、1b」(本願発明1における「第1コイル導体層」に相当する。)と、これに隣接する「層の内部電極(コイル)」「2a、2b」(本願発明1における「第2コイル導体層」に相当する。)の積層方向に沿った断面形状は、特定されていない点で相違する。 キ 引用発明1における「積層コモンモードチョークコイルなどの積層型電子部品」が、本願発明1における「コイル部品」に相当する。 したがって、上記「ア」ないし「キ」より、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「第1磁性体と、 前記第1磁性体に積層された絶縁体と、 前記絶縁体に積層された第2磁性体と、 前記絶縁体内に設けられ、前記第1磁性体、前記絶縁体および前記第2磁性体の積層方向に配列された第1コイル導体層および第2コイル導体層を含むコイルとを備える、コイル部品。」 (相違点1) 「絶縁体」について、本願発明1では「ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成され」ているのに対し、引用発明1ではどのような材質から構成されているか特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1では、「前記積層方向に沿った断面において、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の形状は前記第2磁性体側に凸となる三角形であり、前記第1コイル導体層と前記第2コイル導体層の互いに対向する対向部分のうち、前記第2コイル導体層の対向部分は辺であり、前記第1コイル導体層の対向部分は角であり、前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である」の対し、引用発明1では、焼成後における「内部電極(コイル)」の積層方向に沿った断面形状は特定されていない点。 (2)相違点についての判断 ア 新規性(第29条1項第3号)について 本願発明1と引用発明1とは、上記の相違点1、相違点2で相違するから、本願発明1は引用文献1に記載された発明ではない。 イ 進歩性(第29条第2項)について 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 (ア)原査定において、引用文献1に記載された「導体パターン」(「コイル導体層」)の形成工程が本願発明の実施例と同様であるから、引用発明1においても、「内部電極(コイル)」の積層方向に沿った断面形状は、「三角形」となっている蓋然性が高いとされているので、この点について検討する。 a 本願明細書には、次のとおり記載されている。 「【0064】 (実施例) 次に、第1実施形態の実施例について説明する。 ・・・(省略)・・・ 【0066】 一方、Ni-Cu-Zn系フェライトや、アルカリ硼珪酸ガラス、アルカリ硼珪酸ガラスとNi-Cu-Zn系フェライトの複合材料などからなる磁性層および絶縁層を準備する。絶縁層には、コイル間をつなぐビア穴を形成しAgを含む導電性材料を充填しておく。 【0067】 その後、めっき形成したコイル導体層を絶縁層に転写して、コイル導体層を形成したシートを準備する。コイル導体層は、反転転写されることで、上に凸となる略きのこ形状になる。 【0068】 磁性層を積層したあとに、コイル導体層を転写した所定枚数の絶縁層を磁性層に対して積層する。 ・・・(省略)・・・ 【0070】 その後、この穴に、磁性体ペーストを充填することで、下に凸となる内部磁性体が形成される。そして、磁性層を続けて積層し、積層体を得る。積層体を静水圧プレスなどの工法により圧着し、カットすることでチップ状の積層体を得る。 【0071】 チップ状の積層体を870℃?910℃で焼成することで、絶縁体のガラスが充分に軟化し、表面張力により球形化しようとする。一方、コイル導体層も焼結することで中心方向への引張り応力がかかるため、絶縁体とコイル導体層の応力の関係で、コイル導体層の角が丸くなる。結果的に、コイル導体層の形状は上に凸となる略きのこ形状から角が丸い略三角形となる。レジストから飛び出した電極寸法を小さくすることで、丸い電極を形成することもできる。」 b これに対し、引用文献1の段落【0001】には、「本発明は、セラミック層やガラス層などといった絶縁体層の積層体とその層間に形成された内部電極とを有する積層型電子部品及びその製造方法に関する。」と記載されている。 c よって、引用発明1における「中間層1(ほぼ非磁性)」として「ガラス層」を用いた場合、引用発明1における「内部電極(コイル)パターン」の形成工程と、本願発明1における「コイル導体層」の形成工程とは類似したものとなる。 d しかしながら、表面張力の大きさや軟化の程度がガラスの組成や焼成温度等によって変化することは当業者に自明の事項であるから、本願明細書における上記「a」の段落【0071】記載に関しても、「角が丸い略三角形」を得るための具体的な焼成温度や焼成時間などは、表面張力の大きさや軟化の程度に影響を与えるガラスの組成等により個別に決定する必要があるのであって、引用発明1の「中間層1(ほぼ非磁性)」として「ガラス」を用い、引用発明1に示されているとおり「750?950℃」で焼成しさえすれば、引用発明1における「上部にキノコ状に突出したオーバーメッキ部分(以下バンプ部と呼ぶ。)」を有する「レジスト膜66に設けた開口に形成された内部電極(コイル)パターン76」(以下、「キノコ状の内部電極(コイル)パータン」という。)の断面形状が必ず「角が丸い略三角形」となるものではない。 e よって、ガラスとして「ホウケイ酸ガラスを含むガラス」が一般的なものであることを考慮しても、引用文献1における「導体パターン」(「コイル導体層」)の形成工程が本願発明の実施例と同様であるというだけでは、引用発明1における「キノコ状の内部電極(コイル)パータン」の断面形状が、結果的に本願発明1のように、「角」が「曲面である」「三角形」となっているとまでは認めることはできない。 (イ)そして、引用文献2、3に記載された技術には、「積層方向に沿った断面」における「コイル」の「導体パターン」の断面形状を、「角」が「曲面である」「三角形」とする構成について、何ら示されていない。また、かかる構成が周知技術であるとも認められない。 (ウ)よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本願発明2ないし7について 本願発明2ないし7は、本願発明1にさらに所定の限定を付加した発明であって、上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成を備えている。 よって、本願発明2ないし7は引用文献1に記載された発明と同一ではない。 また、本願発明2ないし7は、上記相違点1及び2に係る本願発明1の構成を備えているから、本願発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第7 原査定について 1.理由1(第29条1項第3号)について 審判請求時の補正により、本願発明1ないし4、7(拒絶査定の対象とされた請求項1ないし5、8に係る発明に対応する)は、「ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成された」絶縁体、及び「前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である」という事項を有するものとなっており、引用文献1に記載された発明とは上記「第6」「1」「(2)」「ア」で述べた相違点1、相違点2で相違しているから、本願発明1ないし4、7は引用文献1に記載された発明ではない。 したがって、原査定の理由1を維持することはできない。 2.理由2(第29条第2項) 審判請求時の補正により、本願発明1ないし7(拒絶査定の対象とされた請求項1ないし8に係る発明に対応する)は、「ホウケイ酸ガラスを含むガラスから構成された」絶縁体、及び「前記第1コイル導体層および前記第2コイル導体層の三角形の角は、曲面である」という事項を有するものとなっており、引用文献1に記載された発明とは上記「第6」「1」「(2)」「ア」で述べた相違点1、相違点2で相違している。 そして、上記「第6」「1」「(2)」「イ」で述べたとおり、相違点2は、引用文献2、3に記載された技術を考慮しても、当業者が容易になし得たことではないから、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1ないし7は当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 なお、原査定では、引用文献2の図3、図4に、本願発明の実施例と同様の「転写用導体」(「コイル導体層」)の形成工程が記載されていることをも根拠として、本願発明1ないし7の進歩性を否定しているが、「転写用導体」(「コイル導体層」)の形成工程が本願発明の実施例と同様というだけでは、「転写用導体」(「コイル導体層」)の断面形状が、結果的に本願発明1のように「角」が「曲面である」「三角形」となっているとまでは認めることができないことは、上記「第6」「1」「(2)」「イ」「(ウ)」で述べたとおりである。 したがって、原査定の理由2を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-11 |
出願番号 | 特願2017-134361(P2017-134361) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 井上 健一 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
清水 稔 畑中 博幸 |
発明の名称 | コイル部品 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 山中 誠司 |