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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61G
管理番号 1374290
審判番号 不服2020-16715  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-04 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2018-516199号「移乗装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日国際公開、WO2018/043592、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続きの経緯
本願は、2017年(平成29年)8月30日(優先権主張 平成28年8月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 3月28日 :手続補正書(自発)の提出
令和 元年 5月21日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年12月19日付け:(最後)拒絶理由通知書
令和 2年 3月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月31日付け:補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年12月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?6、8、9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2007-283076号公報
2.特開2005-304893号公報
3.実願平4-40515号(実開平6-64633号)のCD-ROM

第3 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、令和2年12月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
座面部と、
前記座面部に接続される釣り紐と、
前記釣り紐を支持する釣り紐支持部と、
前記釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引いて
前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける座面モータと、を備え、
前記釣り紐支持部は、前記座面部に座る利用者に対して肘掛となる位置に配置される移乗装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移乗装置において、
前記釣り紐支持部の上下方向の移動を制御する高さ制御モータを更に備える、移乗装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の移乗装置であって、
前記座面部に接続される背もたれ部と、
前記背もたれ部及び前記釣り紐支持部を接続する支持紐と、を更に備える移乗装置。
【請求項4】
請求項3に記載の移乗装置であって、
前記支持紐は、前記背もたれ部と前記釣り紐支持部とを近づける方向に付勢されている、移乗装置。
【請求項5】
請求項3又は4のいずれか一項に記載の移乗装置であって、
前記支持紐は、前記釣り紐支持部の端面を介して接続されている、移乗装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の移乗装置において、
一対の前記釣り紐支持部の互いの距離を変化させる幅制御モータを更に備える、移乗装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の移乗装置であって、
一対の前記釣り紐支持部は、互いに平行で、かつ床面と平行に延伸している、移乗装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の移乗装置であって、
前記座面部は柔軟性のある材料で形成されている、移乗装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
「【請求項1】
車椅子の座面を、肘掛けの高さまで吊り上げ、スライドさせながら、背もたれ部と下肢支持部と共に、水平直線状に変形させることによって、車椅子の座面、背もたれ部及び下肢支持部を、ベッドのマッドと同じ高さの水平状態として、車椅子利用者の寝返り横回転、または横滑りの動作により、車椅子からベッドへの移動、あるいはベッドから車椅子への移動を可能とした車椅子。
【請求項2】
車椅子の座面を、肘掛けの高さまで吊り上げ、スライドさせながら、背もたれ部と下肢支持部と共に、水平直線状に変形させる手段として、背もたれ部と肘掛け部、座面との連結点、下肢支持部と肘掛け部、座面との連結点の4点を、変形が可能な平行四辺形の構成とし、巻取りレバーの往復操作あるいは電動の操作により、座面に連結したワイヤロープを、滑車を介してドラムに巻取り、座面を吊り上げスライドさせる構造と機能。」

「【0013】
本発明の車椅子の座面を、肘掛けの高さまで吊り上げスライドさせながら、背もたれ部と下肢支持部を、水平直線状に移動する機能と構造について、図1及び図2により説明をする。フレーム1、2、3及び4は、肘掛けと保護カバーを兼ねた堅固な側板である。フレーム1の下に、高さを調整するためのスクリュージャッキ15があり、その下側に後輪13が付いている。フレーム4の下に、高さを調整するためのスクリュージャッキ16があり、その下側に前輪14が付いている。スクリュージャッキ15と16を調節して、車椅子の肘掛けの高さとベッドのマッドの高さを合わせる。この調節は車椅子利用者のベッドが変わらない限り、最初に調整するだけで、その後の調整は不要である。背もたれ17は、6でフレーム2と連結し、5で座面18と連結する。また5から上側の部分には、背もたれクッションシートを取付ける。下肢支持部19は、8でフレーム肘掛け部と連結し、7で座面18と連結する。12には足置き部27が付いている。座面18は、背もたれ17の5-6と、下肢支持部19の7-8によって吊り下げられ、5、6、7及び8の4点は、変形可能な平行四辺形を形成する。座面18と背もたれ17との連結点5には、ワイヤロープを連結し滑車20を経由して巻取りドラム22に接続されている。同様に、座面18と下肢支持部19との連結点7には、ワイヤロープを連結し滑車21を経由して、巻取りドラム22に接続されている。巻取りドラム22は、カムと逆転防止爪の組み合わせにより、逆転しない構造になっているが、逆転防止爪を切替えることによって、巻取り方向と巻戻し方向を切替えることが出来る。ワイヤロープの巻取りレバー23を前後に往復操作をして、巻取りドラム22にワイヤロープを巻取ると、5は滑車20に向かって、7は滑車21に向かって移動する。すなわち、巻取りレバー23を操作して、巻取りドラム22にワイヤロープを、巻取ることによって、座面18は、フレーム2?3の肘掛けの高さまで上昇スライドする。それに伴い背もたれ17は、6を支点として後輪13方向に倒れ、下肢支持部19は、8を支点として足置き部27が上昇し、最終状態では背もたれ17、座面18及び下肢支持部19は、肘掛けの高さで水平直線状になる。
・・・
【0019】
下肢支持部7の7?8、滑車20、滑車21、巻取りドラム22及びワイヤロープは、フレーム1、2、3及び4の保護カバー内に納め、座面を吊り上げスライドする時に、車椅子利用者の衣服などが巻き込まれないようにする。」

また、以下に示すように、図1及び2には、車いすの構造図が図示されている。





(2)引用文献1の認定事項
上記(1)から、以下のことが認定できる。
ア 段落0019の「滑車20、滑車21、巻取りドラム22」が「フレーム1、2、3及び4の保護カバー内に納め」られていることの記載と、図1で図示された「滑車20、滑車21、巻取りドラム22」と「フレーム1、2、3及び4」との配置関係から、「滑車20、滑車21、巻取りドラム22」は「フレーム1、2、3及び4」に固定されているものと認定できる。

イ 図1から、ワイヤロープにおける滑車20、21からワイヤロープに連結された座面18までの部分は上方から座面18に向かって延びるものと認定できる。

ウ 図1から、座面18が最も下に移動した位置において、座面18は側面視でフレーム1、2、3及び4の上端と下端の間に位置し、フレーム1、2、3、4の最下部は座面18よりも更に下に配置されているものと認定できる。

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「車椅子の座面18を、肘掛けの高さまで吊り上げ、スライドさせながら、背もたれ部17と下肢支持部19と共に、水平直線状に変形させることによって、車椅子の座面18、背もたれ部17及び下肢支持部19を、ベッドのマッドと同じ高さの水平状態として、車椅子利用者の寝返り横回転、または横滑りの動作により、車椅子からベッドへの移動、あるいはベッドから車椅子への移動を可能とした車椅子であって、
滑車20、滑車21及び巻取りドラム22はフレーム1、2、3及び4に固定され、
フレーム1、2、3及び4は、肘掛けと保護カバーを兼ねた堅固な側板であり、
座面18が最も下に移動した位置において、座面18は側面視でフレーム1、2、3及び4の上端と下端の間に位置し、フレーム1、2、3、4の最下部は座面18よりも更に下に配置され、
電動の操作により、座面18に連結したワイヤロープを、滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取り、座面18を吊り上げスライドさせ、
滑車20、滑車21、巻取りドラム22及びワイヤロープは、フレーム1、2、3及び4の保護カバー内に納められ、
ワイヤロープにおける滑車20、21からワイヤロープに連結された座面18までの部分は上方から座面18に向かって延びる車椅子。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0014】
図1ないし図3は、第1発明の一実施の形態を示したもので、その身体不自由者の吊りモッコMは、座面シート1と、背もたれシート2と、吊下げ支持具3とからなり、座面シート1には左右1対のループ状吊り紐5,5が、背もたれシート2には左右1対の副吊り紐7,7が取り付けられ、吊り紐5,5と副吊り紐7,7とが吊下げ支持具3で吊り上げられるようになっている。なお、吊下げ支持具3の吊り移動については、その機械的な吊り移動装置Tを用いる場合を例示した。」

「【0024】
身体不自由者の吊りモッコMの機械的な吊り移動については、ベッドから傍の車椅子というような間近の場合は、フック17の揺動範囲で移動距離が取れることもあるので、建設作業において使用される単なるチェーンブロックやレバーホイスト、或いはレバーブロック、さらには電動モーター等を天井に吊るす等して設置して、簡便に使用することもできる。また、ベッドから浴室のように距離がある場合は、天井に沿ってレールを配設し、レールに走らせる装置にフック17を吊り下げたものが考えられるというように様々となる。」(公報8-9頁の平成16年5月19日に提出された手続補正書の内容を示す段落【0024】)

また、以下に示すように、図2には、吊りモッコMの使用状態を示す斜視図が示されている。



(2)引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)より、引用文献2には次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認める。
「座面シート1と、背もたれシート2と、吊下げ支持具3とからなり、座面シート1には左右1対のループ状吊り紐5,5が、背もたれシート2には左右1対の副吊り紐7,7が取り付けられ、吊り紐5,5と副吊り紐7,7とが吊下げ支持具3で吊り上げられ、
吊りモッコMの機械的な吊り移動については、電動モーターを天井に吊るす等して設置して、使用することもできる、
吊りモッコM。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
車椅子を使用の際に、使用者は装置付属の昇降座1.を尻下え引き込み、付属のリモコン2.の昇りボタンを押すと、昇降座の4隅の綱は引き上がり張力が懸かる。此の時点でボタンを放し綱を持って上半身を起こす、昇りボタンを押すと昇降座1.は引き上がるので、車椅子の肘掛けを越した時点でボタンを放し、脇に置いてある車椅子の方へ移動する様に、リモコン2.の左・右ボタンの何れかを押す。昇降座1.が車椅子の真上に来た時点でポタンを放し、降りボタンを押すと昇降座1.は車椅子の座席に向かって下が行く。着座の際には都合に依り手をかす場合もある。着座すれば昇降座1.の綱のキャッチ外しボタン5.を押して綱を外す。車椅子からベツトや寝床等に戻る際は、乗る時の反対の操作をする。以上のことが使用者単独にて出来る、車椅子の乗り降り装置。」(合議体注;「尻下え引き込み」は「尻下へ引き込み」の誤記と認める。)

また、以下に示すように図1には、車椅子の乗り降り装置の全体図が示されている。


(2)引用文献3に記載された技術的事項
上記(1)より、引用文献3には次の技術的事項(以下「引用文献3に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認める。
「使用者は装置付属の昇降座1.を尻下へ引き込み、付属のリモコン2.の昇りボタンを押すと、昇降座の4隅の綱は引き上がり張力が懸かり、此の時点でボタンを放し綱を持って上半身を起こし、昇りボタンを押すと昇降座1.は引き上がる、
車椅子の乗り降り装置。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「座面18」は、本願発明1の「座面部」に相当する。

イ 引用発明1の「ワイヤロープ」は、「巻取りドラム22に巻取」られて「座面18を吊り上げ」るものであるから、本願発明1の「釣り紐」に相当する。そうすると、引用発明1の「座面18に連結したワイヤロープ」は、上記アも踏まえると、本願発明1の「座面部に接続される釣り紐」に相当する。

ウ 引用発明1の「ワイヤロープ」は、「滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取」られるから、当該「ワイヤロープ」は、「滑車20、21」、及び「巻取りドラム22」に支持されている。そして、「滑車20、滑車21及び巻取りドラム22はフレーム1、2、3及び4に固定され」ているから、「フレーム1、2、3及び4」は、「滑車20、滑車21及び巻取りドラム22」を介して「ワイヤロープ」を支持しているといえる。そうすると、かかる構成を有する引用発明1の当該「フレーム1、2、3及び4」は、上記ア、イも踏まえると、本願発明1の「釣り紐を支持する釣り紐支持部」に相当する。

エ 本願発明1の「前記釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引いて前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける」との事項について、「釣り紐」は、「釣り紐支持部の下面側から延び」、当該「釣り紐」が、「釣り紐支持部の内部に引」かれることにより、「前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける」といえるから、当該事項は、「釣り紐支持部」に支持された「釣り紐」を「引」いて、「釣り紐」に「接続される」「座面部」を「吊り上げ」るものと認められる。
一方、引用発明1の「座面18に連結したワイヤロープを、滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取り、座面18を吊り上げスライドさせ」る事項について、「座面18に連結したワイヤロープを、滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取」るから、「座面18に連結したワイヤロープ」を引いいて、「座面18を吊り上げ」るものと認められる。
また、引用発明1の「電動の操作によ」るということは、電動の駆動装置を有することは技術的に明らかである。また、本願発明1の「座面モータ」については、電動モータとの特定まではなされていない。そうすると、本願発明1の「座面モータ」の構成と、引用発明1の「電動の操作によ」る構成とは、「駆動装置」という構成において共通している。
これらのことから、引用発明1の「電動の操作により、座面18に連結したワイヤロープを、滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取り、座面18を吊り上げスライドさせ」る事項と、本願発明1の「前記釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引いて前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける座面モータ」とは、上記ア?ウも踏まえると、「釣り紐支持部に支持された釣り紐を引いて、座面部を吊り上げる駆動装置」という事項において共通している。

オ 引用発明1の「フレーム1、2、3及び4」が、「肘掛け」を「兼ね」る事項は、「肘掛け」が座面18に座る利用者に対するものであることは明らかであるから、上記ア、ウも踏まえると、本願発明1の「釣り紐支持部は、前記座面部に座る利用者に対して肘掛となる位置に配置される」事項に相当する。

カ 引用発明1の「車椅子」は、「車椅子からベッドへの移動、あるいはベッドから車椅子への移動を可能と」するものであるから、本願発明1の「移乗装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点>
「座面部と、
前記座面部に接続される釣り紐と、
前記釣り紐を支持する釣り紐支持部と、
前記釣り紐支持部に支持された釣り紐を引いて、座面部を吊り上げる駆動装置と、を備え、
前記釣り紐支持部は、前記座面部に座る利用者に対して肘掛となる位置に配置される移乗装置。」

<相違点>
上記<一致点>に記載した「前記釣り紐支持部に支持された釣り紐を引いて、座面18を吊り上げる駆動装置」との事項に関して、本願発明1は「前記釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引いて前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける座面モータ」であるのに対して、引用発明1は、「電動の操作により、座面18に連結したワイヤロープを、滑車20、21を介して巻取りドラム22に巻取り、座面18を吊り上げスライドさせる」ものである点。

(2)相違点についての判断
ア 物体を吊り上げるにあたっては、物体の上方側から当該物体に向かって延びる紐状部材を用いることが技術常識(引用文献2の図2の座面シート1に対する吊り紐5,5、引用文献3の図1に示される綱参照)であり、引用発明1においても、「ワイヤロープにおける滑車20、21からワイヤロープに連結された座面18までの部分は上方から座面18に向かって延び」ている。
また、引用発明1の「フレーム1、2、3及び4」は、座面18が最も下に移動した位置において、「最下部は座面18よりも更に下に配置され」ているし、「ワイヤロープ」は、「フレーム1、2、3及び4の保護カバー内に納められ」ている。
そうすると、上記技術常識も踏まえると、引用発明1において、「座面18」よりも下に配置される「フレーム1、2、3及び4」の最下部の構造として面形状を採用して「下面」とした上で、さらに、「フレーム1、2、3及び4の保護カバー内に納められ」た、「座面18」を「吊り上げ」るための「ワイヤロープ」を、当該「下面」から延ばすように変更をする動機付けがあるとはいえず、むしろ阻害要因があるといえる。

イ 引用文献2に記載された技術的事項の「座面シート1」、「吊り紐5,5」及び「吊下げ支持具3」は、それぞれ、本願発明1の「座面部」、「釣り紐」及び「釣り紐支持部」に相当する。そうすると、引用文献2に記載された技術的事項は、座面部には左右1対の釣り紐が取り付けられ、釣り紐が釣り紐支持部で吊り上げられるものといえる。しかしながら、引用文献2に記載された技術的事項は、本願発明1のように「釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引」くものではない。
引用文献3に記載された技術的事項の「昇降座1.」、「綱」は、それぞれ、本願発明1の「座面部」、「釣り紐」に相当する。そうすると、引用文献3に記載された技術的事項は、付属のリモコン2.の昇りボタンを押すと、座面部の4隅の釣り紐は引き上がり張力が懸かり、此の時点でボタンを放し釣り紐を持って上半身を起こし、昇りボタンを押すと座面部は引き上がるものといえる。しかしながら、引用文献3に記載された技術的事項は、本願発明1のように「釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引」くものではない。
また、引用発明1の「座面18」は、「最も下に移動した位置において」、「側面視でフレーム1、2、3及び4の上端と下端の間に位置し」ているから、「座面18」を「吊り上げ」たときに「フレーム1、2、3及び4」に近づいているとはいえない。
したがって、仮に引用発明1に引用文献2に記載された技術的事項ないし引用文献3に記載された技術的事項を適用したとしても、上記相違点における本願発明1の「前記釣り紐支持部の下面側から延びる前記釣り紐を、前記釣り紐支持部の内部に引いて前記座面部を前記釣り紐支持部に近づける」との構成には至らない。

2 本願発明2?8について
本願発明2?8は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 小括
上記1、2のとおり、本願発明1?8は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
令和2年12月4日に提出された手続補正書による補正により、本願発明1?8は、上記相違点に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、上記第5で述べたとおり、拒絶査定において引用された、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。




 
審決日 2021-05-27 
出願番号 特願2018-516199(P2018-516199)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 畔津 圭介
出口 昌哉
発明の名称 移乗装置  
代理人 青山 高弘  

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