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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41H
管理番号 1374352
審判番号 不服2019-14457  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-30 
確定日 2021-05-20 
事件の表示 特願2017-45404「型紙作成方法、型紙作成プログラムおよび型紙作成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月21日出願公開、特開2017-166114〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願発明は平成29年3月9日(優先権主張 平成28年3月10日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月29日付け 拒絶理由通知
平成31年2月4日 意見書及び手続補正書提出
令和元年7月26日付け 拒絶査定
令和元年10月30日 本件審判請求
令和2年5月22日 上申書提出

第2 本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、平成31年2月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
三次元構造をなす製品を作製するための基準型紙データであって、前記製品を装用する対象の基準形状を表現し、各々が変形可能な複数のメッシュからなるメッシュ構造を有するフレームを含む基準ボディと対応付けられ、基準ボディに対応する製品を構成する複数の型紙を含む基準型紙データをもとに、複数の型紙からなる型紙データを作成する型紙作成装置が行う型紙作成方法であって、
三次元スキャンデータによって構成され、前記製品を装用する対象の形状を表現した対象ボディであって、前記基準ボディと同一のメッシュ構造を有するフレームを含む対象ボディを取得する取得ステップと、
前記対象ボディにおいて、少なくとも前記基準ボディに対して登録されている計測箇所の寸法をリスト化した基準寸法リストに登録されている前記計測箇所に応じた寸法を含む対象寸法リストを生成する対象寸法リスト生成ステップと、
前記基準寸法リストにおける寸法と、前記対象寸法リストにおける寸法と、前記基準型紙データとをもとに、前記基準型紙データを構成する型紙のサイズを変更することによって、前記対象ボディに対応する型紙を含む対象型紙データを作成する対象型紙データ作成ステップと、
を含むことを特徴とする型紙作成方法。」

第3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の国内優先権の主張の基礎となった出願の出願日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に例示される周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2008-121134号公報
引用文献2:特開2014-71878号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献
1. 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(なお「・・・」は省略を意味する。)。
(1) 「【0001】
本発明は、衣服等の体形を確定させる際に好適なパーソナル人台の生成技術に関する。」
(2) 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1の技術では、体形データを計測するために、3次元データ計測装置が必要となるため、極めて高額なシステムになるという問題があった。従って、各地域における中小・中堅の衣服作製メーカーがこのシステムを導入することができない。結局、地域に在住する高齢者等は、従来どおりパタンナーに衣服作製を依頼するか、サイズに不満を抱きつつも既製服を利用するか、或いは、大都市圏の大手メーカーまで自ら赴いて、3次元データ計測による衣服作製を依頼する必要があり、いずれにしろ、移動を含めて顧客の負担が増大してしまうという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、合理的な発想の下、3次元計測装置を用いることなく個人の体形を衣服に反映するために好適なパーソナル人台生成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は、以下の手段によって達成されるものである。
【0006】
・・・計算機を用いることで、個人体形に近似するパーソナル人台情報を生成するパーソナル人台生成装置であって、体形分類化された複数の基本人台情報が保存される基本人台情報部と、複数の前記基本人台情報から、個人に最も近似する体形を選択するように促す基本人台選定部と、個人の体形実測寸法が入力且つ保存される実測寸法情報部と、前記体形実測寸法を利用して、選定された前記基本人台情報を変形し、パーソナル人台情報を生成するパーソナル人台生成部と、を備えることを特徴とするパーソナル人台生成装置。」
(3)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衣服作成時に利便性の高いパーソナル人台を得ることが可能となり、また、利用者の体形に適合した衣服を容易に作製することが可能になる。」
(4)「【0014】
まず、本発明の実施形態に係る型紙パターン生成支援装置で利用する基本人台の生成方法について説明する。この基本人台情報は、高齢者の生理的、体力的変化をカバーし、体への拘束を排除した衣服を設計する為の基礎データとして用いるものである。標本となる複数名の3次元体形データから、衣服設計上重要な断面の幾何学的特徴量を算出して主成分分析手法により分析を行う。高齢者の体形差は、主として側面図にみられる前後方向への骨格や脂肪量などの変異として解釈することが妥当であると判断され、高齢者の生理的、解剖学的変化に呼応した"肥痩度"、"丸胴・扁平胴"、"年齢的変化"、"前傾・後傾"に関する人体3次元形状の特徴が抽出される。これにより、各特徴を表現する類型ごとの単純な模式図及び人台作成用3次元データを得る。・・・」
(5)「【0045】
本具体例のように、この手法によれば、主成分分析を効率的に利用することで具体的な体形分類が可能となり、図15に示されるような体形別基本人台を得ることができる。この基本人台情報は、実際の利用者が選定する際に非常に便利であり、また、自分の体形に近似させ易いものとなる。この結果、例えばJIS規格等によって決められている単人台を全ての人に適用し、これを大きく変形させる場合と比較して、この体形別基本人台を個人毎に変形させるようにすれば、深い知識や経験が無くても、個人の体形に適合したパーソナル基本人台を極めて容易に生成できる。特に、高齢者の体形差は、前後方向への骨格や脂肪量などの変異として現れることが多く、本基本人台生成方法等によれば、高齢者の生理的、解剖学的変化に呼応した体形別の基本人台となる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態の例に係る型紙パターン生成支援装置について説明する。
【0047】
図16は、型紙パターン生成支援装置(以下、支援装置という)1のシステム構成を示すブロック図である。なお、この支援装置1は、その内部にパーソナル人台生成装置30、及び人台情報に対して衣服を製作するためのゆとり値を導入するゆとり値設定装置50を含んでおり、これらが1台の計算機によって実現されている。
【0048】
この支援装置1は、情報を保存可能なHDDやメモリ等によって構成される記憶手段2、各種情報を利用者に示すディスプレイ等によって構成される表示手段4、利用者や外部機器からの情報を受け付ける入力手段6、記憶手段2に保存されるプログラム等を利用して各種情報処理を行う中央演算手段(CPU)8、外部記録媒体やネットワーク等に対して情報の入出力を行う情報伝達手段10、これらの各手段を連結するシステムバス等によって構成される連結手段12を備える。
【0049】
図17は、支援装置1によって実現される機能を説明する為のブロック図である。なお、これらの機能は、記憶手段2に保存されている各種情報やプログラムが中央演算手段8によって処理されることで、各手段を連動させて実現する。この支援装置1は、個人情報保存部100、基本人台情報部102、基本人台選定部104、実測寸法情報部106、パーソナル人台生成部108、衣服アイテム選択部110、ゆとり値設定部112、ゆとり展開処理部114、パターン出力部116を備える。なお、パーソナル人台生成装置30は、これらのうち個人情報保存部100、基本人台情報部102、基本人台選定部104、実測寸法情報部106、パーソナル人台生成部108を備えて構成されている。ゆとり値設定装置50は、これらのうち衣服アイテム選択部110、ゆとり値設定部112を備える。
【0050】
個人情報保存部100は、利用者の氏名、年齢、性別、身長、体重等の基本情報の入力を受け付けて、これらの基本情報を記憶手段2に保存する。基本人台情報部102は、HDD等の記憶手段2を利用して、既に図15等で示した体形別且つ複数の基本人台情報を保存している。基本人台選定部104は、この基本人台情報を表示手段4を介して利用者に立体的映像によって表示し、利用者が、自分にもっとも近似する基本人台情報を選択するように促す。更に、基本人台選定部104は、利用者が選択した基本人台情報を記憶手段2に基本情報と関連付けて保存する。
【0051】
実測寸法情報部106は、図18に示されるように、選択された基本人台情報を表示手段4によって表示すると共に、この基本人台情報を変形するために必要な採寸部位を表示してその入力を促す。採寸部位としては、例えば、バスト、アンダーバスト、ウエスト、中ヒップ、ヒップ等であり、基本人台情報を変形するために要する基本情報となる。この採寸部位に沿って計測された実測値は、入力手段6によって入力され、この入力された情報は記憶手段2に保存される。
【0052】
パーソナル人台生成部108は、実測寸法情報部106によって得られた実測値を利用して、選択された基本人台情報を変形する。これにより、利用者個人の体形に適合したパーソナル人台情報が生成される。表示手段4にはこのパーソナル人台情報が立体的体形として表示される。
【0053】
衣服アイテム選択部110は、シャツ、ジャケット、ドレスなど、製作予定の衣類アイテムを表示して利用者に選択を促し、この選択結果を記憶手段2に保存する。このように、衣服アイテムを選択させることで、後述するゆとり値の入力部位を、衣服に合わせて変更したり、基本的に必要なゆとり値を、衣服アイテム毎に予め提案(表示)したりすることが可能になる。
【0054】
ここで、基本人台情報は、熟練者の知識をもとにして展開に適したメッシュ構造と、型紙パターンに展開するときに重要な構造線を併せもつように構成されている。従って、基本人台情報には、熟練者の知識に基づいた最適なゆとり設定部位(ゆとり導入断面)を示すゆとり構造線と、型紙パターン展開するときに必要となるパターン構造線が含まれるようになっているのが特徴である。
【0055】
ゆとり値設定部112は、選択された衣服アイテムに合わせて、ゆとりを設定すべき部位(ゆとり設定部位)をリスト表示し、各ゆとり設定部位に対してゆとり設定を利用者に促す。ゆとり設定部位としては、例えば、首回り、バスト、アンダーバスト、ウエスト、ヒップ等が存在する。また、ゆとり設定部位をリストから選択すると、画面上にゆとり設定部位の断面(ゆとり導入断面)が表示されるようになっており、この断面形状を見ながら、視覚的にゆとり値を設定できるようになっている。ゆとり値の入力が完了すると、パーソナル人台情報が、ゆとり値によって変形され、これが展開用人台情報となる。このゆとり値設定部112におけるゆとり値の設定手法の詳細は後述する。」
(6)「【0056】
ゆとり展開処理部114は、生成された展開用人台情報を表示手段4によって立体表示する。既に述べたように、本実施形態の人台(体形別基本人台、パーソナル人台、展開用人台)は、パターン構造線が示されているので、利用者は、これらのパターン構造線から今回の衣服アイテムに最適なものを選択し、それを切開線とする。この結果、パターン出力部116では、選択された切開線に基づいて、展開用人台情報を型紙パターン情報に展開し、表示手段4に表示する。また、この型紙パターン情報は、CADシステムによって利用できるように、情報伝達手段10を介して外部に出力できるようになっている。
【0057】
次に、この支援装置1の利用手順等について説明する。本支援装置1では、予め展開用人台を生成することで、この人台の展開によって型紙パターンの生成を可能にする。具体的には、体形別基本人台を顧客実測データに基づいて変形して、パーソナル人台を作成し、このパーソナル人台をゆとり値導入によって展開用人台に変化させて、型紙パターンを出力できる。この人台情報は、図19に示されるように、縦(垂直)・横(水平)ラインとしての複数の構造線が含まれており、これらの構造線が型紙展開時の切開線となり得る。また、これらの構造線は、ゆとり設定部位の断面にも対応することになる。特に、各人台のポリゴン(メッシュ構造)に対して、これらの構造線は常に体の基幹軸に対して垂直・水平のラインを保つようにしている。また、構造線となる位置には、人台のポリゴンラインが設定される。つまり、全ての構造線はすべてポリゴンライン上に設定されている。女性の場合は、胸の膨らみに対応するため、胸部に水平方向の構造線が複数必要である。これにより、詳細にゆとり値を設定することができる。
【0058】
図20には、計測から型紙作製までのフローが示されている。まず、氏名・性別等の顧客データを入力し、その後、体形別基本人台を利用して体形を選択する。その後、顧客の体形をメジャーで計測して、その実測値を入力して、パーソナル人台を生成する。次に、作製したい衣服アイテムを選択して、この衣服アイテムに併せて「ゆとり値」を導入する。これにより、顧客の展開用(パーソナル)人台が生成できる。これをもとに切開線などを指定して型紙パターンを作製するために展開を行い、DXFデータを出力する。このあとは、CADシステムを用いて型紙を作製する。」
(7)「【0060】
着心地の良い衣服の製作にゆとりは重要な要素の1つである。従来の型紙作製はグレーディングによって体形に合わせているが、本支援装置1では、3次元のパーソナル人台に「ゆとり値」を導入して形状変形を行うようにして、展開用人台を得る。そして、この展開用人台をもとに展開することにより型紙を作製する。これにより、感覚や経験に依存しやすい従来のアパレル製作手順を回避することが可能になる。なお、この「ゆとり値」は、衣服にゆとりを持たせるための分量をいい、どんなシルエットの衣服でもゆとりは必要である。ゆとりは、(1)動きやすさ(着やすさ)のため、(2)服のラインを保つため、(3)着る人を満足させるため、にも必要となる。ゆとり分量は、服種や素材によって異なるので、素材を選択させて、必要なゆとり値の支援装置1側から提案することも好ましい。
【0061】
図17に戻って、支援装置1のゆとり値設定部112は、ゆとり基準設定部200、ゆとり画面表示部202、ゆとり導入部204を備えている。ゆとり基準設定部200は、パーソナル人台情報に含まれるゆとり導入断面(ゆとり構造線)と、このゆとり導入断面の外周に設定される複数の外周管理点と、ゆとり導入断面の内部に複数設定されるゆとり基準点と、このゆとり基準点を連結するゆとり基準線等を設定する。更に、ゆとり基準設定部200は、複数のゆとり基準点間の距離及びゆとり基準点の前後方向位置を自在に変更できるようになっている。また、ゆとり基準設定部200は、ゆとり導入断面の部位を断面垂直方向に移動できるようにしている。このゆとり導入断面は、衣服アイテム選択部110によって選択された衣服アイテムによって変更する。これは、衣服アイテム毎にゆとり導入断面部位を示す情報を予め記憶手段2に保存しておくことによる。これらによって、ゆとりを導入するための基本条件が設定されることになる。
【0062】
ゆとり画面表示部202は、これらのゆとり導入断面、外周管理点、ゆとり基準点、ゆとり基準線等を3次元的に表示手段4に表示する。ゆとり導入部204は、外周管理点のうちゆとり基準点に近接するものについては、外周管理点とゆとり基準点を結ぶ放射線の延長線内でこの外周管理点を移動させる。一方、外周管理点のうちゆとり基準線に近接するものについては、外周管理点からゆとり基準線に下ろした垂線の延長線内でこの外周管理点を移動させる。この外周管理点の移動によってゆとり導入断面が変形し、これによってゆとりが導入されることになる。」
(8)「【0063】
具体的にゆとり導入部204では、入力されたゆとり量に基づいて、外周管理点からの放射線又は垂線の長さに比例させ、その放射線又は垂線上の移動距離を決定する。つまり、放射線又は垂線の長さが短い外周管理点は移動距離が短い。一方、放射線又は垂線の長さが長い外周管理点は移動距離が大きい。利用者によるゆとり量の入力は、ここでは「ウエスト16センチ追加」等のようにゆとり導入断面の外周長さであるので、この追加量を満足させるように、全外周管理点を上記比例ルールに基づいて移動させることになる。ゆとり導入断面の実際の形状を考慮して、ゆとり基準点の数やその間の距離を調整することで、断面形状を相似形に変形させたり、非相似形に変形させたりというように、好みに応じて適宜ゆとりを確保することが可能になる。
【0064】
図21及び図22には、その一例として、ウエストに「ゆとり値」を導入する為の画面状態が示されている。図21は、ゆとり基準点が2つある場合であり、図22はゆとり基準点を1つにした場合である。この図において、Dはゆとり導入断面を示し、Gはゆとり導入断面Dの外周に複数配置される外周管理点を示す。Tはゆとり導入断面D内に配置されるゆとり基準点であり、Sはゆとり基準点Tを連結することで構成されるゆとり基準線である。なお、外周管理点Gは、人台を形成するためのポリゴンのメッシュポイントを採用している。このようにすると、ゆとり導入断面を変形させると同時に、3次元人台を同時に変形させることが容易となる。外周管理点Gのうち、ゆとり基準点Tに近接するものについては、外周管理点Gとゆとり基準点Tを結ぶ放射線Hの延長線内でこの外周管理点Gを移動させる。一方、外周管理点Gのうち、ゆとり基準線Sに近接するものについては、外周管理点Gからゆとり基準線Sに下ろした垂線Vの延長線内でこの外周管理点Gを移動させる。」
(9)「【0067】
図23には、ゆとり展開処理部114及びパターン出力部116によって展開図を作成する様子を示す。展開用人台情報に対してジャケットで必要な切開線を指定する。ベジェ曲線やフリーハンドによる奇跡等を利用して切開線を入力することも可能であり、このとき構造線が入力の助けとなる。また必要であれば構造線そのものを切開線として選択することも可能である。指定した切開線によって展開された展開図は、パターン出力部116によって画面に表示される。表示された中から、特定の型紙パターンPを選択すると、パターンPが着色表示されるとともに、展開用人台情報において対応する領域Xも同時に着色表示される。・・・」
(10) 【図18】



(11) 【図23】





2. 引用発明
上記摘記事項(1)?(9)、並びに、(10)及び(11)の図示を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「衣服を製作するための、個人情報保存部、基本人台情報部、基本人台選定部、実測寸法情報部、パーソナル人台生成部、衣服アイテム選択部、ゆとり値設定部、ゆとり展開処理部、パターン出力部を備え、記憶手段に保存されている各種情報やプログラムが中央演算手段によって処理されることで、各手段を連動させる型紙パターン生成支援装置によって型紙パターンを生成する方法であって、
標本となり得る複数人の3次元体型データを収集し、この3次元体型データを用いて特定部位の体形断面を複数選定し、この体形断面の特定の幾何学的特徴量を算出するとともに、複数の体形断面を断面間距離を用いて主成分分析を行い、主成分分析によって複数の主成分を抽出し、複数の主成分に基づいて生成した複数の体形別基本人台情報が、熟練者の知識をもとにして展開に適したメッシュ構造と型紙展開時の切開線となり得るパターン構造線を併せ持つように構成され、
実測寸法情報部は、選択された基本人台情報を表示手段によって表示するとともに、この基本人台情報を変形するために必要な採寸部位を表示してその入力を促し、
この採寸部位に沿って計測された実測値は、入力手段によって入力され、この入力された情報は記憶手段に保存され、
パーソナル人台生成部は、実測寸法情報部によって得られた実測値を利用して、選択された基本人台情報を変形し、利用者個人の体形に適合したパーソナル人台情報が生成され、
ゆとり値設定部が、ゆとり基準設定部、ゆとり画面表示部、ゆとり導入部を備え、
ゆとり基準設定部は、パーソナル人台情報に含まれるゆとり導入断面(ゆとり構造線)と、このゆとり導入断面の外周に設定され、人台を形成するためのポリゴンのメッシュポイントを採用し、ゆとり導入断面を変形させると同時に、3次元人台を同時に変形させることができる複数の外周管理点と、ゆとり導入断面の内部に複数設定されるゆとり基準点と、このゆとり基準点を連結するゆとり基準線等を設定し、複数のゆとり基準点間の距離及びゆとり基準点の前後方向位置を自在に変更できるようになっており、
ゆとり画面表示部は、これらのゆとり導入断面、外周管理点、ゆとり基準点、ゆとり基準線等を3次元的に表示手段に表示し、
ゆとり導入部は、入力されたゆとり量に基づいて、外周管理点から放射線又は垂線の長さに比例させ、その放射線又は垂線上の移動距離を決定するルールに基づいて、利用者によるゆとり量の入力を満足させるように、全外周管理点を移動させ得るものであり、
ゆとり値設定部は、選択された衣服アイテムに合わせて、ゆとりを設定すべき部位(ゆとり設定部位)をリスト表示し、各ゆとり設定部位に対してゆとり設定を利用者に促し、ゆとり値の入力が完了すると、パーソナル人台情報が、ゆとり値によって変形され、これが展開用人台情報となり、
ゆとり展開処理部は、生成された展開用人台情報を表示手段によって立体表示し、利用者は、パターン構造線から今回の衣服アイテムに最適なものを選択し、それを切開線とし、
パターン出力部は、選択された切開線に基づいて、展開用人台情報を型紙パターン情報に展開する、
型紙パターンを生成する方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「衣服」は、人体の体形に適合する三次元形状を有することが明らかであるから、本願発明の「三次元構造をなす製品」に相当する。
引用発明の「衣服を製作するための、個人情報保存部、基本人台情報部、基本人台選定部、実測寸法情報部、パーソナル人台生成部、衣服アイテム選択部、ゆとり値設定部、ゆとり展開処理部、パターン出力部を備え、記憶手段に保存されている各種情報やプログラムが中央演算手段によって処理されることで、各手段を連動させる型紙パターン生成支援装置によって型紙パターンを生成する方法」は、本願発明の「型紙作成装置が行う型紙作成方法」に相当する。
引用発明の「標本となり得る複数人の3次元体型データを収集し、この3次元体型データを用いて特定部位の体形断面を複数選定し、この体形断面の特定の幾何学的特徴量を算出するとともに、複数の体形断面を断面間距離を用いて主成分分析を行い、主成分分析によって複数の主成分を抽出し、複数の主成分に基づいて生成した複数の体形別基本人台情報が、熟練者の知識をもとにして展開に適したメッシュ構造と型紙展開時の切開線となり得るパターン構造線を併せ持つように構成」することは、引用文献の【0067】の記載、【図23】の図示から、引用発明も各々が変形可能な複数のメッシュからなるメッシュ構造を有するフレームを含む基準ボディと対応づけられるデータをもとに、複数の型紙からなる型紙データが作成されていることは明らかであるから、本願発明の「三次元構造をなす製品を作成するための基準型紙データであって、前記製品を装用する対象の基準形状を表現し、各々が変形可能な複数のメッシュからなるメッシュ構造を有するフレームを含む基準ボディと対応付けられ」ることと、「三次元構造をなす製品を作成するためのデータであって、前記製品を装用する対象の基準形状を表現し、各々が変形可能な複数のメッシュからなるメッシュ構造を有するフレームを含む基準ボディに対応付けられる」ことの限りで一致する。
引用発明の「実測寸法情報部は、選択された基本人台情報を表示手段によって表示するとともに、この基本人台情報を変形するために必要な採寸部位を表示してその入力を促すこと」と、本願発明の「前記対象ボディにおいて、少なくとも前記基準ボディに対して登録されている計測箇所の寸法をリスト化した基準寸法リストに登録されている前記計測箇所に応じた寸法を含む対象寸法リストを生成する対象寸法リスト生成ステップ」とは、「必要な採寸箇所を提示すること」である限りにおいて一致する。
引用発明の「ゆとり値設定部が、ゆとり基準設定部、ゆとり画面表示部、ゆとり導入部を備え、
ゆとり基準設定部は、パーソナル人台情報に含まれるゆとり導入断面(ゆとり構造線)と、このゆとり導入断面の外周に設定され、人台を形成するためのポリゴンのメッシュポイントを採用し、ゆとり導入断面を変形させると同時に、3次元人台を同時に変形させることができる複数の外周管理点と、ゆとり導入断面の内部に複数設定されるゆとり基準点と、このゆとり基準点を連結するゆとり基準線等を設定し、複数のゆとり基準点間の距離及びゆとり基準点の前後方向位置を自在に変更できるようになっており、
ゆとり画面表示部は、これらのゆとり導入断面、外周管理点、ゆとり基準点、ゆとり基準線等を3次元的に表示手段に表示し、
ゆとり導入部は、入力されたゆとり量に基づいて、外周管理点から放射線又は垂線の長さに比例させ、その放射線又は垂線上の移動距離を決定するルールに基づいて、利用者によるゆとり量の入力を満足させるように、全外周管理点を移動させ得るものであり、
ゆとり値設定部は、選択された衣服アイテムに合わせて、ゆとりを設定すべき部位(ゆとり設定部位)をリスト表示し、各ゆとり設定部位に対してゆとり設定を利用者に促し、ゆとり値の入力が完了すると、パーソナル人台情報が、ゆとり値によって変形され、これが展開用人台情報となり、
ゆとり展開処理部は、生成された展開用人台情報を表示手段によって立体表示し、利用者は、パターン構造線から今回の衣服アイテムに最適なものを選択し、それを切開線とし、
パターン出力部は、選択された切開線に基づいて、展開用人台情報を型紙パターン情報に展開する」ことと、本願発明の「前記基準寸法リストにおける寸法と、前記対象寸法リストにおける寸法と、前記基準型紙データとをもとに、前記基準型紙データを構成する型紙のサイズを変更することによって、前記対象ボディに対応する型紙を含む対象型紙データを作成する対象型紙データ作成」することとは、「採寸された寸法によって、あらかじめ有していた型紙データを変形して採寸対象者のボディに適した型紙データを作成する」ことの限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「三次元構造をなす製品を作製するためのデータであって、前記製品を装用する対象の基準形状を表現し、各々が変形可能な複数のメッシュからなるメッシュ構造を有するフレームを含む基準ボディと対応付けられるデータをもとに、複数の型紙からなる型紙データを作成する型紙作成装置が行う型紙作成方法であって、
前記製品を装用する対象の形状を表現した対象ボディであって、前記基準ボディと同一のメッシュ構造を有するフレームを含む対象ボディを取得する取得ステップと、
必要な採寸箇所を提示するステップと、
採寸された寸法によって、あらかじめ有していた型紙データを変形して採寸対象者のボディに適した型紙データを作成するステップと、
を含むことを特徴とする型紙作成方法。」

<相違点1>
三次元構造をなす製品を作成するためのデータについて、本願発明は、「基準ボディに対応する製品を構成する複数の型紙を含む基準型紙データ」であるのに対し、引用発明は「基本人台情報」である点。

<相違点2>
本願発明は、「三次元スキャンデータによって構成され、前記製品を装用する対象の形状を表現した対象ボディであって、前記基準ボディと同一のメッシュ構造を有するフレームを含む対象ボディを取得する取得ステップ」であるのに対し、引用発明は、選択された基本人台情報を表示手段によって表示するとともに、この基本人台情報を変形するために必要な採寸部位を表示してその入力を促し、
この採寸部位に沿って計測された実測値は、入力手段によって入力され、この入力された情報は記憶手段に保存される点。

<相違点3>
採寸された寸法によって、あらかじめ有していた型紙データを変形して採寸対象者のボディに適した型紙データを作成するステップについて、本願発明は、「前記基準寸法リストにおける寸法と、前記対象寸法リストにおける寸法と、前記基準型紙データとをもとに、前記基準型紙データを構成する型紙のサイズを変更することによって、」行うものであるのに対し、引用発明は、「パーソナル人台生成部」が、「実測寸法情報部によって得られた実測値を利用して、選択された基本人台情報を変形し、利用者個人の体形に適合したパーソナル人台情報が生成」し、
「ゆとり値設定部が、ゆとり基準設定部、ゆとり画面表示部、ゆとり導入部を備え、
ゆとり基準設定部は、パーソナル人台情報に含まれるゆとり導入断面(ゆとり構造線)と、このゆとり導入断面の外周に設定され、人台を形成するためのポリゴンのメッシュポイントを採用し、ゆとり導入断面を変形させると同時に、3次元人台を同時に変形させることができる複数の外周管理点と、ゆとり導入断面の内部に複数設定されるゆとり基準点と、このゆとり基準点を連結するゆとり基準線等を設定し、複数のゆとり基準点間の距離及びゆとり基準点の前後方向位置を自在に変更できるようになっており、
ゆとり画面表示部は、これらのゆとり導入断面、外周管理点、ゆとり基準点、ゆとり基準線等を3次元的に表示手段に表示し、
ゆとり導入部は、入力されたゆとり量に基づいて、外周管理点から放射線又は垂線の長さに比例させ、その放射線又は垂線上の移動距離を決定するルールに基づいて、利用者によるゆとり量の入力を満足させるように、全外周管理点を移動させ得るものであり、
ゆとり値設定部は、選択された衣服アイテムに合わせて、ゆとりを設定すべき部位(ゆとり設定部位)をリスト表示し、各ゆとり設定部位に対してゆとり設定を利用者に促し、ゆとり値の入力が完了すると、パーソナル人台情報が、ゆとり値によって変形され、これが展開用人台情報」とすることによるものである点。

第6 相違点についての判断
1.<相違点1>について
引用文献1には「基本人台情報は、熟練者の知識をもとに展開に適したメッシュ構造と、型紙パターンに展開するときに重要な構造線を併せ持つように構成されている。従って、基本人台情報には、熟練者の知識に基づいた最適なゆとり設定部位(ゆとり導入断面)を示すゆとり構造線と、型紙パターン展開するときに必要となるパターン構造線が含まれる様になっている」(【0054】)、及び、「本支援装置1ではあらかじめ展開用人台を生成することで、この人台の展開によって紙パターンの生成を可能にする。具体的には、体型別基本人台を顧客実測データに基づいて変形して、パーソナル人台を作成し、このパーソナル人台をゆとり値導入によって展開用人台に変形させて、型紙パターンを出力できる。」(【0057】)という記載がある。
そうすると、引用発明の「基本人台情報」は、本願発明の「基準型紙データ」に相当するデータを含んでいるといえるから、本願発明の「基準型紙データ」と同等のものであるともいえ、<相違点1>は実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮に実質的な相違点であったとしても、衣服を作成するために、最後に型紙パターンを生成する点で、本願発明も引用発明も軌を一にするものである。そうすると、引用発明の「基本人台情報」を、最後に生成する型紙データに対応するデータとして、「基準型紙データ」とすることは、当業者にとって格別の困難性は認められない。

2.<相違点2>について
引用文献1には、上記第4の1.(2)に摘記したように、「・・・体形データを計測するために、3次元データ計測装置が必要となるため、極めて高額なシステムになるという問題があった。・・・結局、地域に在住する高齢者等は、従来どおりパタンナーに衣服作製を依頼するか、サイズに不満を抱きつつも既製服を利用するか、或いは、大都市圏の大手メーカーまで自ら赴いて、3次元データ計測による衣服作製を依頼する必要があり、いずれにしろ、移動を含めて顧客の負担が増大してしまうという問題があった。」(【0003】)及び「本発明は、・・・合理的な発想の下、3次元計測装置を用いることなく個人の体形を衣服に反映するために好適なパーソナル人台生成装置を提供することを目的としている。」(【0004】)という記載がある。
そうすると、引用発明は、「三次元データ計測装置」を用いずとも「個人の体型を衣服に反映する」ことを可能とするものであるところ、それは、「三次元データ計測装置」が「極めて高額なシステム」であることが理由であって、「三次元データ計測装置」で得られたデータ自体の精度が悪いことや、必要な人体箇所のデータが得られない等の「個人の体形を衣服に反映する」ことを阻害するような理由であるとの記載は、引用文献1にないし、示唆する記載もない。また、三次元データ計測装置自体は、本願優先日前において周知(例えば、上記引用文献2(特開2014-71878号公報)の【0012】を参照されたい。)であるし、「極めて高額なシステム」であることが当該装置を用いない理由であるならば、金額が折り合えば、「三次元データ計測装置」を用いることの潜在的な動機付けが引用発明には、存在するといえる。
そうすると、引用発明において「衣服を装用する顧客の体型を表現したパーソナル人台」を構成するための「データ」として、三次元データ計測装置によって得られる、「三次元スキャンデータ」を用いること自体、ひいては、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成を適用することは、当業者が容易になし得た事項である。

3.<相違点3>について
引用発明は、衣類に用いる型紙を作成する物であって、「選択された基本人台情報」を「実測寸法情報部によって得られた実測値を利用して」「変形し」て「パーソナル人台情報が生成」し、「パーソナル人台情報が、ゆとり値によって変形され、これが展開用人台情報」となり、選択された切開線に基づいて、展開用人台情報を型紙パターン情報に展開し、型紙データするものである。そして、上記1.のとおり、引用発明の「基本人台情報」は、本願発明の「基準型紙データ」に相当するデータを含んでいるといえるから、本願発明の「基準型紙データ」と同等のものであるともいえ、<相違点3>は実質的な相違点であるとはいえない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、上記2.と同様にすることで、基本人台情報(基準型紙データ)自体を変化させることで型紙データを得ることに格別の困難性は認められない。

4.作用効果について
本願発明が奏する作用効果も、引用発明が奏する作用効果及び本願優先日前周知の作用効果から当業者が予測し得た範囲内の事項であるにすぎない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び本願優先日前において周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-15 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2017-45404(P2017-45404)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木原 裕二西田 侑以  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 佐々木 正章
久保 克彦
発明の名称 型紙作成方法、型紙作成プログラムおよび型紙作成装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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