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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1374669
審判番号 不服2019-17040  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-17 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2015-103548「フィブロイン溶液、フィブロインナノ薄膜、ナノ薄膜シート及びその製造方法、並びに、転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-216620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月21日を出願日とする出願であって、平成31年2月15日付けの拒絶理由に対し、同年4月22日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
-i
第2 令和1年12月17日提出の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年12月17日提出の手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の適否に関する判断
令和1年12月17日提出の手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、補正前の、
「膜厚が1?300nmであるフィブロインナノ薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液であって、
フィブロイン、水及び添加剤を含有し、
前記添加剤が、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を含み、
前記添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部である、
フィブロイン溶液。」を、
補正後の、
「膜厚が1?300nmであると共に皮膚貼付用であるフィブロインナノ薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液であって、
フィブロイン、水及び添加剤を含有し、
前記添加剤が、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を含み、
前記添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部である、
フィブロイン溶液。」とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。
(以下、「本件補正発明1」という。下線部は補正された箇所を示し、当審が下線を付与した。)

2 補正の適否に関する検討
(1)補正の目的について
補正事項1は、本件補正前の「フィブロイン溶液」が「フォブロインナノ薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液」であったものを、「皮膚貼付用であるフォブロインナノ薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液」とするものであって、「フィブロイン溶液」の用途である「フィブロインナノ薄膜を形成するため」との用途について、さらに本件補正前の請求項3にあった「皮膚貼付用である」ことを追加し、請求項1に記載の「フィブロイン薄膜」を限定して減縮するものであるといえる。そして、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

ア 引用文献
引用文献1:特表2012-505297号公報
引用文献5:特開平11-253155号公報
引用文献6:特開2013-177385号公報
引用文献7:特開2014-214133号公報
引用文献A:特開平4-264137号公報
引用文献B:特開平5-228204号公報
引用文献C:特開平1-118545号公報
引用文献D:特表2013-537632号公報
引用文献E:山田和志、「絹フィブロイン超薄膜の2次構造の温度変化」、Netsu Sokutei 36(5) 2009, p.271-276
引用文献F:堤一代ら、「フィブロイン膜の不溶化に係る諸要因の解明」、日本食品工学会誌、Vol.11,No.2,pp.105?112、2010年6月
引用文献G:国際公開第2013/161896号

イ 引用文献に記載された事項
(ア)引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
絹フィブロイン及び約10%(w/w)?約50%(w/w)のグリセロールを含む絹フィルム。
【請求項2】
前記絹フィルムのグリセロール含有量が約20%(w/w)?約40%(w/w)である、請求項1に記載の絹フィルム。
【請求項3】
前記絹フィルムのグリセロール含有量が約30%(w/w)である、請求項1または2に記載の絹フィルム。
【請求項4】
少なくとも1種類の活性物質を更に含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の絹フィルム。
【請求項5】
前記絹フィルムに包埋された絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアをさらに含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の絹フィルム。
・・・
【請求項14】
以下の段階を含む、絹フィルムを調製するための方法:
絹フィブロイン溶液をグリセロールとブレンドする段階であって、絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液中のグリセロールの濃度が約10%?約50%(w/w)である段階;
該絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液をフィルム支持表面上にキャストする段階; および
該絹フィルムを乾燥する段階。
【請求項15】
グリセロールが溶解する液体中に、前記絹フィルムからグリセロールを枯渇させるための期間にわたり該絹フィルムを浸漬する段階; および
グリセロールが枯渇した該フィルムを乾燥する段階
を更に含む、請求項14に記載の方法。」

b 「【0004】
背景
絹フィブロインは優れたフィルム形成能を有し、人体における使用に対する適合性も有する。絹フィブロインフィルムは主としてランダムコイルタンパク質構造からなるために、更なる操作や処理を行わなくても水に溶解する。このタンパク質の構造上の特徴は、ランダムコイルからβ シート構造へと、機械的伸展、極性有機溶媒への浸漬、水蒸気中での硬化を含む幾つかの処理によって変化させることができる。この構造転移によって水への不溶性がもたらされ、したがってこの材料の使用に関する広範な生体医療用途および他の用途における選択肢が与えられる。しかしながら一部の純粋な絹フィブロインフィルムは時間が経つにつれて乾燥状態では固く脆くなる傾向があり、優れた引張強度を示すが延性は低くなる。絹フィブロインフィルムの物理的および機械的な特性を改変して機械的特性を改善することならびに生体医療用途および他の用途のためのより柔軟な絹フィブロインベースのシステムを提供することが未だ求められている。」

c 「【0005】
本発明は、グリセロールを含まない絹フィブロインフィルムと比較して独特な特性を有する、絹フィブロインおよびグリセロールを含むフィルムを提供する。より詳細には、可塑剤としてグリセロールを使用または添加することによって水に対する溶解度および生体適合性が向上する。更に、絹フィブロインを水中で処理することにより、生体適合性および、生物活性化合物をその機能を喪失させずに充填する性能の両方が向上し、これらの生体材料に「グリーンケミストリー」の価値が付与される。例えば、グリセロール濃度が30%(w/w)よりも高い絹フィブロインとグリセロールとのブレンドをフィルムにキャストすることで、絹の二次構造がランダムコイルからαヘリックス構造に転換し、水和時の絹の溶解が防止され、独特なフィルムナノ構造形態が与えられ、乾燥(キャストしたままのフィルム)環境および湿潤(グリセロールの浸出後)環境におけるフィルム柔軟性が向上し、かつ、細胞に対する生体適合性が維持された。機械的には、グリセロールは絹フィブロイン鎖水和の際に水を置換し得、これによりランダムコイルまたはβシートの構造とは対照的にヘリックス構造の初期の安定化がもたらされる。フィルムの構造、非水溶性および機能の安定化に対してグリセロールが与える影響は、グリセロール濃度が約20重量%よりも高いと生じるようである。材料の処理加工においてグリセロールを絹フィブロインと組み合わせて使用することにより、この繊維状タンパク質によって実現可能な機能的特徴の幅が広がり、生体材料および装置の用途における潜在的な有用性を有するより柔軟性の高いフィルムの形成が可能となる。
【0006】
本発明は、完全に水中でのプロセスによって調製される、絹フィブロインおよび約10%(w/w)?約50%(w/w)のグリセロールを含む絹フィルムを提供し、該絹フィルムは、延性を有するとともに実質的に非水溶性である。本発明の絹/グリセロールブレンドフィルムの多くの態様は、必要ならばメタノール処理または水アニール後に、グリセロールを含まない絹フィルムよりも高い延性を示す。理論に束縛されずに言うならば、絹フィブロインフィルム中のグリセロールは、絹フィブロインのαヘリックス構造を安定化させると考えられる。したがって一態様では、延性を有する絹フィブロインフィルムは、絹フィルムからグリセロールを抽出し、フィルムを再乾燥することによって、αヘリックス構造からβシート構造へと転換させることができる。」

d 「【0016】
絹フィブロインは、優れたフィルム形成能を有し、人体における使用にもまた適合性である。Altman et al., 24 Biomats. 401-16 (2003);Vepari & Kaplan, 32 Prog. Polym. Sci. 991-1007 (2007)。絹フィブロインフィルムはヒト皮膚と同様に、湿潤状態で良好な溶存酸素透過性を有し、このことは、創傷の包帯および人工皮膚システムにおけるこれらのフィルムの潜在的用途を示唆する。Minoura et al., 11 Biomats., 430-34 (1990);Minoura et al., 31 Polymer, 265-69 (1990a)。しかしながら、絹フィブロインから形成されたフィルムは、主としてランダムコイルタンパク質構造に占められているために、さらなる操作を行わなくても水に可溶である。このタンパク質の構造上の特徴は、加熱(Hu et al., 41 Macromolecules 3939-48 (2008))、機械的伸展(Jin & Kaplan, 424 Nature 1057-61 (2003))、極性有機溶媒への浸漬(Canetti et al., 28 Biopolymers - Peptide Sci. §1613-24 (1989))、および水蒸気中での硬化(Jin et al., 15 Adv. Funct. Mat. 1241-47 (2005))を伴う処理により、ランダムコイルからβシート型へ変換することができる。この構造転移は非水溶性をもたらし、従って、生物医学的用途およびセンサープラットフォームなどその他の用途の範囲におけるこの材料の使用についての選択肢を提供する。Zhang, 16 Biotechnol. Adv. 961-71 (1998)。しかしながら、いくつかの純粋な絹フィブロインフィルムは、時間が経つにつれて乾燥状態では硬く脆くなる傾向があり、優れた引張強度を示すが伸びには乏しい。Jin et al., 2005。従って、絹フィルムの物理的および機械的な特性を改変し、主により柔軟なシステムに向けて特性を制御することが未だ求められている。」

e 「【0030】
絹フィルムにおけるグリセロール含量は、絹の二次構造転移を制御するため、およびフィルムの機械的特性に影響を及ぼすために重要であり得る。グリセロールのヒドロキシル基と絹のアミド基との間の水素結合である可能性が最も高い分子間力を介して、グリセロール分子は、絹フィブロイン鎖と相互作用し得る。Dai et al., 86 J. Appl. Polymer Sci. 2342-47 (2002)。タンパク質鎖は高含量のグリシン-アラニンリピートにより疎水性タンパク質となるため、この相互作用は該タンパク質鎖の疎水性水和状態を変化させる可能性があり(Bini et al., 335 J. Mol. Biol. 27-40 (2004))、従って、最も多数を占めているランダムコイル(絹溶液状態またはキャストしたままのフィルム)からαへリックスへと絹の二次構造変化を誘導する(図7)。フィルムが水およびメタノールなどの溶媒により処理されていない限り、この相互作用によって絹のへリックス期(helical stage)が安定化され得る。溶媒処理すると、一部のグリセロール分子はフィルムから可溶化して周囲の媒質中に拡散するが、堅く結合したグリセロール分子は絹フィブロイン鎖と会合したままでいる可能性が高く、これにより、絹αへリックス構造が安定化し、フィルムの柔軟性が保存される。浸出しれたグリセロールと置き換わってフィブロイン分子とより弱い水素結合を形成する水分子もまた、絹構造および機械的特性の維持に寄与し得る。グリセロールが枯渇したこれらのフィルムを再乾燥すると、絹分子の間の強い分子間相互作用が支配的となり得、このことがαへリックスからより熱力学的に安定なβシートへの転移を促進する(図7)。そのような過程は、タンパク質鎖の疎水性水和状態における変化に基づく絹構造転移についての以前に報告された機構に類似している。Matsumoto et al., 110 J. Phys. Chem. B 21630-38 (2006)。」

f 「【0036】
グリセロール改変による絹フィルムまたは絹ブレンドフィルムの柔軟性向上により、本発明の方法を用いて、血管創傷修復装置、止血包帯、スポンジ、貼付剤および接着剤を含む創傷閉鎖システム、縫合術、薬物送達(WO 2005/123114)、バイオポリマーセンサー(WO 2008/127402)などの種々の医学的用途において、ならびに、例えば、組織工学で作製される器官または人体中への他の生分解性移植(WO2004/0000915;WO2008/106485)などの組織工学用途において、様々な絹ブレンドフィルムまたはコーティングを改変することができる。機能的な包帯材料または筋肉組織のような組織材料などの一部の用途に必要とされるような生物医学的材料へ柔軟な拡張性または収縮性を提供し得るため、絹フィルムの柔軟性向上は有利である。例えば、本発明の延性絹フィルムは、構造体(例えばインプラント)を囲むように成形され得る。絹フィルムは、装置の目的を助成するように選択された追加的な活性物質、例えば歯科装置における組織促進剤または骨促進剤を含み得る。追加的に、延性フィルムが構造体へと成形されたら、本明細書において説明されるような浸出によりグリセロールを除去してもよい。」

g 「【実施例】
【0059】
実施例1 絹フィブロインの精製
これまでに述べられているようにして絹フィブロインのストック水溶液を調製した(Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. 139-48(2001))。簡単に述べると、カイコガ(Bombyx mori)の繭を0.02Mの炭酸ナトリウム水溶液中で20分間煮沸した後、純水で徹底的にすすいだ。乾燥後、抽出した絹フィブロインを9.3Mの臭化リチウム溶液に60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液とした。この溶液をSLIDE-A-LYZER(登録商標)透析用カセット(3,500MWCO)(ピアース社(Pierce)イリノイ州ロックフォード)を使用して蒸留水に対して3日間透析して塩を除去した。透析後の溶液は光学的に透明であり、これを遠心分離して、繭表面に存在する環境中の汚染物質に通常由来する、上記の過程で形成された少量の絹凝集体を除去した。絹フィブロイン水溶液の最終濃度は約6%(w/v)であった。この濃度は、既知の体積の溶液の乾燥後に残留固体を計量することによって求めた。
【0060】
この6%絹フィブロイン溶液は使用時まで4℃で保存し、超純水で低濃度に希釈してもよい。高濃度の絹フィブロイン溶液を得るために、6%絹フィブロイン溶液を、ポリエチレングリコール(PEG)、アミラーゼまたはセリシンなどの吸湿性ポリマーに対して透析してもよい。例えば6%絹フィブロイン溶液を浸透圧により2?12時間、SLIDE-A-LYZER(登録商標)3,500MWCO透析用カセットの外側で25重量%?50重量%のPEG(分子量8,000?10,000)溶液に曝露してもよく、絹水溶液の最終濃度は8重量%?30重量%またはそれ以上まで濃縮された。
【0061】
実施例2 絹/グリセロールブレンドフィルムの調製
精製した絹フィブロイン溶液を0%、5%、10%、20%、30%、40%、50%(w/w)の重量比でグリセロールと混合した。混合溶液をペトリ皿に注ぎ、層流フード内で室温で終夜乾燥した。特に断らないかぎり「乾燥ブレンドフィルム」とは、この直接キャスト及び終夜乾燥によって調製したフィルムを指し、「湿潤ブレンドフィルム」とは同じくキャスト及び乾燥させたフィルムであって、そこからその後、超純水中で37℃で1時間グリセロールを抽出した後、空気中で再び乾燥させたフィルムを指す。処理群の更なる変量に関しては、メタノール処理を用い、その場合、フィルム(グリセロールを含むまたは含まない)を90%(v/v)のメタノールに1時間浸漬した後、風乾した。
【0062】
実施例3 絹/グリセロールフィルムの溶解
ブレンドフィルムを約5mm×5mmの正方形に切断し、正方形フィルムの1枚を秤量して、2mlの試験管中で1%(フィルムの重量/水の容量)の濃度となるように超純水に浸漬し、37℃で1時間または1日間維持した。インキュベーションの後、絹フィルムを溶液から取り出し、終夜風乾し、秤量し、最初のフィルムの質量と比較して残留質量(%)を求めた。残った溶液について280nmで紫外線吸光度測定を行った。様々な濃度の精製絹フィブロイン溶液を標準液として用いて、吸光度の値を水に可溶化した絹の量に変換した。次いで、溶解した絹の量をフィルム中の絹の全質量と比較して、水中で絹を溶解したフィルムのパーセンテージを求めた。」

(イ)引用文献5
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項8】 α型またはα-ヘリックスのX線回折図を示す絹フィブロインを主成分として含有する材料からなる創傷被覆材。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はヒトおよび哺乳動物の表皮細胞の付着、増殖および細胞層形成を促進するための活性化素材に関する。この活性化素材は、表皮細胞培養床として、また生体における欠損皮膚の修復のための素材あるいは創傷被覆材として利用できる。」

c 「【0026】〔α化処理方法〕フィブロインおよびセリシンを含む上記原料を精練し、その後、中性塩の存在下に水性溶媒に溶解し、脱塩して得たフィブロイン水溶液を平滑な固体表面に流延し乾燥させることにより、水溶性の乾燥絹皮膜を作成する。次いで、上記水溶性の乾燥絹皮膜をα型またはα-ヘリックス構造の結晶形態の水不溶性の絹皮膜(シート状又はフイルム状)に変換するために、室温で上記絹皮膜を含水率が40%±15%となるように環境湿度(例えば、相対湿度が80?90%程度)を調整し、長時間(例えば、12?24時間程度)放置する。
・・・
【0028】ここで、上記絹皮膜においては、絹皮膜の厚さに注意しなければならない。絹皮膜の厚さが薄い場合、被覆下地の材質によって絹皮膜の分子形態は影響を受け、目的とする結晶形態が必ずしも満足するものとはならない場合がある。一方、絹皮膜の厚さが厚い場合、該皮膜は剥がれ易くなる。このような観点から、絹皮膜の厚さは、0.05?20μmが採用されるとよく、更に好ましくは0.5?10μmである。」

(ウ)引用文献6
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
浸透性基材、溶解性支持層、及びナノ薄膜層を備えるナノ薄膜転写シートであって、前記浸透性基材が、溶解性支持層を溶解する溶液を浸透、又は通過させる、ナノ薄膜転写シート。
・・・
【請求項5】
ナノ薄膜層が、厚さ1nm?300nmである請求項1?4のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。
・・・
【請求項10】
ナノ薄膜層が、皮膚貼合用である、請求項1?9のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート。」

b 「【0009】
このように、化粧用の皮膚貼合用シートには、肌に貼付した状態にある貼付剤自体が目立たないことや、被適用者が貼付状態に違和感を持たないことが求められている。一方で、誰でも簡単に使用可能な新たなナノ薄膜転写シートが求められている。」

c 「【0015】
上記ナノ薄膜層は、上述のような効果を奏するため、皮膚貼合用ナノ薄膜層として好適に使用することができる。また、化粧用ナノ薄膜層として好適に使用することができる。さらに、化粧用皮膚貼合用ナノ薄膜層としても好適に使用することができる。
【0016】
本発明のナノ薄膜転写シートは、浸透性基材シートを使用しているために取扱性が良好である。加えてナノメートルサイズの薄膜層であるため、皺や肌の細かな凹凸(微細な溝 )にも適合し、さらに、透明であるために貼付箇所が目立つことがない。また、非常に薄い薄膜であるため、貼り付けた際の違和感がない。さらに、皮膚に対する自己密着性を有するため、接着剤(粘着剤)を用いる必要がなく、接着剤によるかぶれや肌荒れの心配がない。さらに、ナノ薄膜層に生分解性又は生体適合性ポリマーを使用しているため、皮膚に貼り付けた際に皮膚アレルギーが生じにくく、かつ廃棄後、環境に悪影響を及ぼさないという利点を有する。」

d 「【0053】
本実施形態のナノ薄膜層の厚みは特に制限されないが、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性がより優れたものとなることから、1?300nmの範囲内であることが好ましく、40?300nmであることがより好ましく、40?250nmの範囲内であることが特に好ましく、40?200nmの範囲内であることが最も好ましい。」

e 「【0078】
〔実施例1〕
キトサン水溶液は、上記0.1質量%のキトサン水溶液をそのまま使用した。アルギン酸ナトリウム水溶液は、0.1質量%アルギン酸ナトリウム水溶液100質量部に対して、リンゴ酸(1質量%水溶液)1質量部をアルギン酸ナトリウム水溶液に滴下したものを使用した。
後にカバーフィルムとなる、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、A4100、150mm×100mm×125μm厚)を基材として、これを(ア)キトサン水溶液に1分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)に1分間浸漬し、(イ)アルギン酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬した後、リンス用の超純水に1分間浸漬した。
(ア)と(イ)を順番に行う手順を1サイクルとして、このサイクルを30回繰り返し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(カバーフィルム)上にキトサンとアルギン酸ナトリウムのナノ薄膜層を得た。得られたナノ薄膜層の膜厚を、フィルメトリスク社製型番:F20によって測定した。その結果、膜厚は100nmであった。続いて、溶解性支持層として、ポリビニルアルコール500(関東化学株式会社製、平均重合度=500)を超純水に溶解した10質量%水溶液を用いて、乾燥後、10μmとなるように、バーコーターによって、ナノ薄膜層上に塗布した。その後、浸透性基材として、ポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、株式会社セミテックス製、PES45)を被覆し、室温(25℃)にて、水分を蒸発させた。その結果、カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレート基材)上に、ナノ薄膜層(キトサン、アルギン酸の交互積層膜)、溶解性支持層(ポリビニルアルコール)、浸透性基材シート(ポリエチレンテレフタレートメッシュシート)が順次積層された、ナノ薄膜転写シートが形成できた。
・・・
【表1】



(エ)引用文献7
引用文献7には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
浸透性基材、溶解性支持層、及びナノ薄膜層を備えるナノ薄膜転写シートであって、ナノ薄膜層を被着体へ面するように接触させ、浸透性基材シート側から、溶解性支持層を溶解する溶液を浸透、通過させ浸透性基材シートを剥がし、ナノ薄膜層を被着体に転写するのに用いるナノ薄膜転写シートを、水蒸気透過率が1.5g/m^(2) day(温度40℃、湿度90%RH)以下である水蒸気バリア性のある梱包材で梱包することを特徴とするナノ薄膜転写シート製品の製造方法。
・・・
【請求項8】
ナノ薄膜転写シートのナノ薄膜層が、厚さ40nm以上、300nm未満である請求項1?7のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート製品の製造方法。
・・・
【請求項13】
ナノ薄膜転写シートのナノ薄膜層が、皮膚貼合用である、請求項1?12のいずれか一項に記載のナノ薄膜転写シート製品の製造方法。」

b 「【0009】
このように、化粧用の皮膚貼合用シートには、肌に貼付した状態にある貼付剤自体が目立たないことや、被適用者が貼付状態に違和感を持たないことが求められている。一方で、長期間保管可能で、誰でも簡単に使用可能な新たなナノ薄膜転写シートが求められている。」

c 「【0017】
本発明のナノ薄膜転写シート製品は、ナノ薄膜転写シートを水蒸気バリア性のある梱包材で梱包しているため、長期間保管可能で、長期間保管後でも、溶解性支持層が溶解し、ナノ薄膜層の貼り合わせが出来なくなるなどの取扱性が悪くなることはなく、取扱性が良好である。加えてナノメートルサイズの薄膜層であるため、皺や肌の細かな凹凸(微細な溝)にも適合し、さらに、透明であるために貼付箇所が目立つことがない。また、非常に薄い薄膜であるため、貼り付けた際の違和感がない。さらに、皮膚に対する自己密着性を有するため、接着剤(粘着剤)を用いる必要がなく、接着剤によるかぶれや肌荒れの心配がない。さらに、生分解性又は生体適合性ポリマーを使用しているため、皮膚に貼り付けた際に皮膚アレルギーが生じにくく、かつ廃棄後、環境に悪影響を及ぼさないという利点を有する。」

d 「【0054】
本実施形態のナノ薄膜層の厚みは特に制限されないが、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性がより優れたものとなることから、1?300nmの範囲内であることが好ましく、40?300nmであることがより好ましく、40?250nmの範囲内であることが特に好ましく、40?200nmの範囲内であることが最も好ましい。」

e 「【0082】
〔実施例1〕
キトサン水溶液は、上記0.1質量%のキトサン水溶液をそのまま使用した。アルギン酸ナトリウム水溶液は、0.1質量%アルギン酸ナトリウム水溶液100質量部に対して、リンゴ酸(1質量%水溶液)1質量部をアルギン酸ナトリウム水溶液に滴下したものを使用した。
後にカバーフィルムとなる、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、A4100、150mm×100mm×125μm厚)を基材として、これを(ア)キトサン水溶液に1分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗18MΩ・cm)に1分間浸漬し、(イ)アルギン酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬した後、リンス用の超純水に1分間浸漬した。
(ア)と(イ)を順番に行う手順を1サイクルとして、このサイクルを30回繰り返し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上にキトサンとアルギン酸ナトリウムのナノ薄膜層を得た。得られたナノ薄膜層の膜厚を、フィルメトリスク社製型番:F20によって測定した。その結果、膜厚は100nmであった。続いて、溶解性支持層として、ポリビニルアルコール500(関東化学株式会社製、重合度=500)を超純水に溶解した10質量%水溶液を用いて、乾燥後、10μmとなるように、バーコータによって、ナノ薄膜層上に塗布した。その後、浸透性基材として、ポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、株式会社セミテックス製、PES45)を被覆し、室温(25℃)にて、水分を蒸発させた。その結果、カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレート基材)上に、ナノ薄膜層(キトサン、アルギン酸の交互積層膜)、溶解性支持層(ポリビニルアルコール)、浸透性基材シート(ポリエチレンテレフタレートメッシュシート)が順次積層された、ナノ薄膜転写シートが形成できた。
その後、ナノ薄膜転写シートを、アルミ蒸着フィルム〔水蒸気透過率0.7?1.0g/m^(2 )day (温度40℃、湿度90%RH)程度〕にヒートシール梱包しナノ薄膜転写シート製品を製造し、これを80℃、85%RHの高温高湿環境下にて、1週間放置した。」

(オ)引用文献A
引用文献Aには、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】 フィブロイン水溶液から固形フィブロインを形成せしめ、 次いでこれを高温高圧の水蒸気で処理して得られる水不溶性フィブロイン形成体。」

b 「【0005】固形フィブロインは、通常フィブロインを水に溶かし、所望の形状をした型にとり、再び脱水乾燥して得ることができる。しかし、水を加えると容易に溶け出すので不溶化処理が必要となる。具体的には延伸やずり応力といった物理的作用を加える方法か、メタノール・エタノール・ジオキサン・アセトン等の極性有機溶媒による脱水変性といった化学的作用を加える方法がとられている。」

c 「【0018】本発明で得られる水不溶性フィブロイン成形体は、皮膚損傷被覆保護材、コンタクトレンズ、人工血管、薬のカプセルなどの医療用具、その他食品素材などにも使用することができる。」

(カ)引用文献B
引用文献Bには、以下の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 創傷面に接触する創傷接触層と、水分透過調節層とを含む多層構造の創傷被覆材において、創傷接触層と水分透過調節層がフィブロインを主成分とすることを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】 創傷接触層の主成分が、フィブロインを含む水溶液から電気泳動により電極付近に析出させて得られるフィブロインの含水ゲルであることを特徴とする請求項1記載の創傷被覆材。
【請求項3】 水分透過調節層の主成分が、フィブロインのフィルム状シートであることを特徴とする請求項1又は2に記載の創傷被覆材。」

b 「【0002】
【従来の技術】創傷被覆材は、広範囲な擦過傷や熱傷の創傷面、あるいは巨大母斑などを切除した後の手術創などに用いられるものであり、適用する患部や治療の目的に応じて多種多様な製品が開発され、使用されている。創傷被覆材を用いる目的は、創傷面の乾燥を防ぎ、あるいは創傷面の過剰な水分を蒸散し、病原菌の感染を防ぎ、患部の痛みを緩和し、患部の回復を早め、その治療痕をめだたなくすること等である。」

c 「【0016】以下、本発明を詳細に説明する。
<1>水分透過調節層(フィブロインシート状フィルム)
上述したように、本発明の創傷被覆材は、フィブロインシート状フィルムを水分透過調節層とする。このフィブロインシート状フィルムは、フィブロイン水溶液層を加熱乾燥することにより得られる。
【0017】このフィブロイン水溶液は、生糸、絹紡糸、生糸屑、キキ、ビス、屑繭、ブーレット等の絹及び絹原料を、常法によりセリシンや他の夾雑物を精錬除去した後、例えば銅-アンモニア水溶液、水酸化銅-エチレンジアミン水溶液、ロダン酸塩水溶液、臭化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、硝酸カルシウム、あるいは硝酸マグネシウム水溶液等の塩溶液に溶解し、更に水に対して透析脱塩することにより調製することができる。また別法として、蚕等の絹糸腺を、昆虫生体内より取り出して水に溶解しフィブロイン水溶液を調製することができる。尚、フィブロインの濃度は、0.5?25重量%が好ましい。
【0018】この水溶液を、所望の形状の容器に注ぎ入れ、加熱乾燥させると固形のフィブロインシート状フィルムが得られる。加熱乾燥は、例えば40?90℃の乾燥器に前記容器を入れて、乾燥による重量減少がみられなくなるまで放置すればよい。このようにして得られたフィルムは、水を加えると容易に溶解するので、高圧水蒸気で処理して不溶化処理を行う。この処理は、通常湿熱殺菌に用いる条件である121℃で15分処理すれば充分である。」

(キ)引用文献C
引用文献Cには、以下の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
(1)絹フィブロイン膜からなり、該膜は結晶質を含み、水不溶性であることを特徴とする水蒸気透過膜。」

b 「〔構 成〕
本発明によれば、絹フィブロイン膜からなり、該膜は結晶質を含み、水不溶性であることを特徴とする水蒸気透過膜が提供される。
本発明の水蒸気透過膜は、絹フィブロイン水溶液を製膜し、絹フィブロイン膜を得る。この膜は非晶質で水溶性を示す。本発明では、この膜を結晶化し、その膜中に結晶質を含有させ、水不溶性のものとする。絹フィブロイン膜を結晶化させるにはエタノールやメタノール等の絹フィブロインに対する貧溶媒を用いて行うことができる。
原料として用いる絹フィブロインは、家蚕あるいは野蚕由来のものでよい、また絹フィブロイン溶液は、熟蚕体内の絹糸腺より取出した液状絹フィブロインを用いることができるし、吐糸繊維から再生した絹フィブロインを溶液化したものでもよい。絹フィブロイン膜の結晶化処理は、溶媒と水からなる混合溶液中で、絹フィブロイン膜を浸漬処理した後、乾燥することによって実施することができる。この場合、混合溶液の組成、温度、処理時間を変えることによって、膜の水蒸気透過性を制御することができる。乾燥温度は5?80℃である。本発明において、絹フィブロイン膜を結晶化させて水蒸気透過膜とする場合、その結晶化度は少なくとも10%、好ましくは15?80%の範囲に規定するのがよい。
本発明における水蒸気透過膜は、水蒸気透過性を利用して使用される膜を意味するもので、このような水蒸気透過膜の具体例としては、人工皮膚、かつら、発汗性衣料・靴などが挙げられる。」(第1頁右下欄12行?第2頁右上欄1行)

(ク)引用文献D
引用文献Dには、以下の事項が記載されている。
a 「【0007】
とりわけ、本発明は、絹ベースの材料が、改良されたバイオフォトニックセンサー用の有用な構成要素およびかかるバイオフォトニックセンサーを組み込んだ多用途のアッセイプラットフォームを提供するという認識を包含する。特に、本発明は、バイオフォトニックセンサーであって、当該センサーの表面で非周期的なナノ構造とともに絹ベースの材料を組み込んだバイオフォトニックセンサーを提供する。かかる表面を照射すると、特異的パターン(例えば、「分光的特徴(spectral signature)」)に応じて、センサーが光を散乱させる。センサーは光を吸収、反射および/または回析することでパターンを形成してもよい。当該表面が検体と接触すると、検出アッセイシステムに関する基礎を成す、光散乱の局所的摂動が生じ、パターンがシフトまたは変化する。アッセイはナノスケールのフォトニックセンシングに基づいており、決定論的系が関与する(例えば、各表面の立体配置は、予測可能な「特徴的(signature)」散乱パターンと関連する)ので、さまざまなパラメーター(例えば、マルチプレックス)による、試料の柔軟な処理及び特徴付けの手段が可能になる。本明細書に記載の本発明の特定の態様を組み入れたアッセイプラットフォームは「スマートスライド(Smart‐Slide)」プラットフォームと称される。」

b 「【0046】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の非周期的なナノ構造間に付着される絹材料の厚みは、約0.5nm、約1.0nm、約2.0nm、約3.0nm、約4.0nm、約5.0nm、約6.0nm、約7.0nm、約8.0nm、約9.0nm、約10nm、約11nm、約12nmまたはそれ以上である。絹材料などのタンパク質層の界面は、単一のタンパク質層(例えば、絹フィブロイン単層)、または、タンパク質(単数)もしくは、同一タンパク質であってもなくてもよいタンパク質(複数)の多層を含むことが可能である。タンパク質層は、基板上のナノ構造パターン上に制御された態様で付着させ得;そして、多種のタンパク質の単層を付着させる場合、タンパク質層の厚みは、各回、ナノメートルの増分で、増大可能である。」

c 「【0095】
バイオフォトニックセンサーの絹材料は、絹フィブロイン含有水溶液を非周期的ナノパターン基板上に付着させ、当該絹フィブロイン溶液を乾燥させて薄層とすることによって調製してよい。この点に関して、絹フィブロインベースの溶液でコーティングされた基板を、例えば12時間などの一定時間、空気中に暴露してよい。絹フィブロイン溶液の付着は、例えば、スピンコーティング方法を用いて実施可能であり、ここで、絹フィブロイン溶液を基板上にスピンコーティングすることで、高さが不均一な薄膜の製造が可能となる。」

d 「【0107】
いくつかの実施形態では、タンパク質の希釈用液を装置上にスピンコーティングすることにより、絹の薄層を絹スマートスライド装置(機器)上に付着させた。かかる工程により、タンパク質の厚みが30Å増加し、これは、タンパク質の単層に相当する。表面トポグラフィーを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、スピンコーティングの前後で、表面を測定することにより定量化した(図3)。かかる絹の追加の層は、スマートスライドの表面上に既に含められた絹の層のように、スマートスライドの基板上のナノ構造間(例えば、クロムナノ粒子間)に位置する。」

e 「【0127】
絹フィブロイン溶液の調製後、続いて、溶液をナノパターン化水晶基板上に注ぎ、層流フード中で空気乾燥させた。その後、すべての溶媒が蒸発して、固体のフィブロインタンパク質の絹のフィルムまたは構造層(conformational layers)が生じるまで、溶液を24から48時間放置して乾燥させた。基板上に成型した絹フィブロイン溶液の濃度および/または体積を調整することにより、2nmから1mmの厚みの、絹の、フィルムまたは構造層を生じさせることができる。あるいは、絹フィブロイン溶液を、様々な濃度およびスピン速度を使用して、基板上にスピンコーティングさせることで、1nmから100μmのフィルムまたは層を生成させることができる。これらの絹フィブロインフィルムは、優れた表面品質および光学的透明性を有する。」

(ケ)引用文献E
引用文献Eには、以下の事項が記載されている。
a 「

」(273頁左欄1?7行)

b 「

」(273頁右欄15行?274頁左欄22行)

(コ)引用文献F
引用文献Fには、以下の事項が記載されている。
a 「

」(105頁右欄11行?106頁左欄16行)

b 「

」(106頁左欄30行?同頁右欄19行)

c 「

」(106頁右欄35行?107頁左欄15行)

d 「

」(108頁左欄28行?同頁右欄最下行)

e 「

」(110頁右欄下5行?111頁左上欄12行)

(サ)引用文献G
引用文献Gには、以下の事項が記載されている。
a 「[0030] 〔シルクフィブロイン多孔質体の製造方法〕
次に、シルクフィブロイン多孔質体の製造方法について説明する。
本発明で用いられるシルクフィブロイン多孔質体は、例えば、シルクフィブロイン水溶液に特定の添加剤を加えて、該水溶液を凍結させ、次いで融解させることにより製造することができる。
ここで用いられるシルクフィブロインは、家蚕、野蚕、天蚕などの蚕から産生されるものであればいずれでもよく、その製造方法も特に制限されるものではない。シルクフィブロインは溶解性が悪く、直接水には溶解することが困難である。シルクフィブロイン水溶液を得るには、公知のいかなる手法を用いてもよいが、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩、風乾による濃縮を経る手法が簡便であり好ましい。
[0031] シルクフィブロイン多孔質体の製造方法において、シルクフィブロインの濃度は、後述する添加剤等を添加したシルクフィブロイン水溶液中で0.1?40質量%であることが好ましく、0.5?20質量%であることがより好ましく、1.0?12質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。
[0032] 前記添加剤としては、例えば、有機溶媒、脂肪族カルボン酸、アミノ酸などが好ましく挙げられる。添加剤としては、特に制限はないが、水溶性のものが好ましく、水への溶解度が高いものがより好ましい。また、シルクフィブロイン多孔質体の製造において用いられる脂肪族カルボン酸としては、pKaが、5.0以下のものが好ましく、3.0?5.0のものがより好ましく、3.5?5.0のものがさらに好ましい。
[0033] 前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、アセトニトリル、アセトンなどが好ましく挙げられる。これらの有機溶媒は、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。」

b 「[0035] シルクフィブロイン水溶液中の添加剤の含有量は、シルクフィブロイン水溶液の全量に対して、0.1?18質量%であることが好ましく、0.1?5.0質量%であることがより好ましく、0.2?4.0質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持ったシルクフィブロイン多孔質体を製造することができる。また、18.0質量%以下であれば、シルクフィブロイン水溶液に前記添加剤を添加したシルクフィブロイン水溶液を静置する際、該水溶液がゲル化しにくく、安定して良質なシルクフィブロイン多孔質体が得られる。
[0036] 次に、前記添加剤が加えられたシルクフィブロイン水溶液を型あるいは容器に流し込み、低温恒温槽中に入れて凍結させ、次いで融解する工程を経て、シルクフィブロイン多孔質体を製造する。凍結温度は、添加剤を含有させたシルクフィブロイン水溶液が凍結する温度であれば特に制限されないが、-10?-30℃程度が好ましい。また、凍結時間は、十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、所定の凍結温度で4時間以上であることが好ましい。
なお、凍結の方法としては、シルクフィブロイン水溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、一旦、-5℃程度に2時間程度保持して過冷却状態とし、その後、凍結温度まで下げて凍結することが、力学的強度の高いシルクフィブロイン多孔質体を得る上で好ましい。-5℃から凍結温度までにかける時間を調整することで、シルクフィブロイン多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
[0037] その後、凍結したシルクフィブロイン水溶液を、融解することによってシルクフィブロイン多孔質体が得られる。融解の方法は特に制限はないが、自然融解のほか、恒温槽内に保持する方法などが好ましく挙げられる。
[0038] 得られたシルクフィブロイン多孔質体には前記の添加剤が含まれる。用途に応じて、添加剤を除去する必要がある場合には、適当な方法でシルクフィブロイン多孔質体から添加剤を除去すればよい。例えば、シルクフィブロイン多孔質体を、純水中に浸漬して、添加剤を除去する方法が最も簡便な方法として挙げられる。あるいは、シルクフィブロイン多孔質体を凍結乾燥することによって、添加剤と水分を同時に除去することも可能である。」

ウ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項14には、「以下の段階を含む、絹フィルムを調製するための方法:絹フィブロイン溶液をグリセロールとブレンドする段階であって、絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液中のグリセロールの濃度が約10%?約50%(w/w)である段階;該絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液をフィルム支持表面上にキャストする段階; および該絹フィルムを乾燥する段階。」が記載されており、上記絹フィルムを調製する方法において、絹フィブロイン溶液をグリセロールとブレンドして絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液とし、グリセロールの濃度が約10%?約50%(w/w)である絹フィブロイン/グリセロールブレンド溶液を得ることが記載されている。
そして、引用文献1の実施例1及び2には、カイコガの繭から得た絹フィブロインを臭化リチウム溶液に溶解し、蒸留水に対して3日間透析して塩を除去し、さらに遠心分離して絹凝集体を除去して、精製した6%(w/v)の絹フィブロイン水溶液を得た後、0%、5%、10%、20%、30%、40%、50%(w/w)の重量比でグリセロールと混合して、混合溶液をペトリ皿に注ぎ、室温の層流フード内で乾燥して、絹/グリセロールブレンドフィルムを得たことが記載されているといえる(【0059】?【0061】)。そして、上記グリセロールの重量比を10%、20%、30%、40%及び50%(w/w)としたものは、絹フィブロイン溶液を10%?50%(w/w)の重量比でグリセロールと混合した混合溶液中のグリセロールの濃度が10%?50%(w/w)であるから、請求項14に係る発明の具体例であるといえる。
そうすると、引用文献1には、上記実施例における、絹フィブロイン溶液を10%(w/w)の重量比でグリセロールと混合した混合溶液に着目すると、以下の発明が記載されているといえる。
「絹/グリセロールブレンドフィルムを調製するために用いられ、6%(w/v)の絹フィブロイン水溶液に、10%(w/w)の重量比でグリセロールを混合した混合溶液」(以下、「引用発明1」という。)

エ 本件補正発明1との対比及び検討
(ア)対比
引用発明1の「グリセロール」は、本件補正発明1の「添加剤」である「グリセリン」に相当する。そして、引用発明1は、6%(w/v)の絹フィブロイン溶液90%(w/w)にグリセロールを10%(w/w)の割合で混合したものであり、6%(w/v)は5.66%(w/w)(=6/106×100)であるから、絹フィブロイン100質量部に対してグリセロール196.3質量部(=10/(0.0566×90)×100)を含有したものであり、これは本件補正発明1の「添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部」と重複するといえる。
引用発明1の「混合溶液」は、絹フィブロイン水溶液にグリセロールを混合したものであり、絹フィブロイン、水及びグリセロールを含有するものであるから、本件補正発明1の「フィブロイン、水及び添加剤を含有」する「フィブロイン溶液」に相当する。
そして、引用発明1の「絹/グリセロールブレンドフィルム」は、上記混合溶液を乾燥して調製したフィルムであるから(実施例2の【0061】)、フィブロイン薄膜である限りにおいて、本件補正発明1の「フィブロインナノ薄膜」と共通する。
そうすると、本件補正発明1と引用発明1とは、
「フィブロイン薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液であって、
フィブロイン、水及び添加剤を含有し、
前記添加剤が、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を含み、
前記添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部である、
フィブロイン溶液。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1a:本件補正発明1は、「フィブロイン溶液」の用途である「フィブロイン」「薄膜」の用途が「皮膚貼付用」であるのに対して、引用発明1は、「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」の用途が特定されていない点
相違点1b:本件補正発明1は、「フィブロイン溶液」の用途である「フィブロインナノ薄膜」の「膜厚が1?300nmである」のに対して、引用発明1は、「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」の厚みが特定されていない点

(イ)相違点の検討
a 引用発明1の課題
引用文献1には、「絹フィブロインは優れたフィルム形成能を有し、人体における使用に対する適合性も有する」、「このタンパク質の構造上の特徴は、ランダムコイルからβシート構造へと、機械的伸展、極性有機溶媒への浸漬、水蒸気中での硬化を含むいくつかの処理によって変化させることができる。この構造転移によって水への不溶性がもたらされ・・・生体医療用途および他の用途における選択肢が与えられる」、「絹フィブロインフィルムの物理的および機械的な特性を改変して・・・生体医療用途および他の用途のためのより柔軟な絹フィブロインベースのシステムを提供することが未だに求められている」と記載され(【0004】)、これらの記載から、絹フィブロインフィルムは、人体適合性を有し、構造転移による水への不溶性によって生体医療用途に使用できるが、より柔軟なものが求められていたことが示されているといえる。
また、引用文献1には、「絹フィブロインフィルムはヒト皮膚と同様に、湿潤状態で良好な溶存酸素透過性を有し、このことは、創傷の包帯および人工皮膚システムにおけるこれらのフィルムの潜在的用途を示唆する。」と記載され(【0016】)、絹フィブロインフィルムは、人体適合性及び水への不溶性の他、ヒト皮膚と同様の溶存酸素透過性を有することから、絹フィブロインフィルムを、創傷の包帯や人工皮膚システムに使用することが示されている。
そうすると、引用発明1の課題の一つは、人体適合性やヒト皮膚と同様の溶存酸素透過性を有し、水に不溶性であるフィブロイン膜を、生体医療用途などの用途に使用するために、より柔軟性の高いものとすることであるといえる。

b 引用発明1におけるフィブロイン膜の用途について
引用文献1には、「グリセロール改変による絹フィルムまたは絹ブレンドフィルムの柔軟性の向上により、本発明の方法を用いて、血管創傷修復装置、止血包帯、スポンジ、貼付剤および接着剤を含む創傷閉鎖システム・・・などの種々の医学的用途、・・・組織工学で作製される器官または人体中への他の生分解性移植・・・などの組織工学的用途において、様々な絹ブレンドフィルムまたはコーティングを改変することができる。機能的な包帯材料または筋肉組織のような組織材料などの一部の用途に必要とされるような生物医学的材料の柔軟な拡張性または収縮性を提供し得るため、絹フィルムの柔軟性向上は有利である。」(【0036】)と記載され、絹フィブロイン/グリセロールブレンドフィルムの柔軟性が向上したことにより、血管創傷修復装置、止血包帯、貼付剤を含む創傷閉鎖システムの医学用用途のために使用でき、包帯などの生物医学的材料としては、フィルムの柔軟性の向上に伴い拡張性や収縮性を示すようになることは有利であることが示されており、このような用途は、皮膚を含めた人体に貼付する用途であるといえる。
また、引用文献1には、「柔軟な絹/グリセロールフィルムは、医療用装置、組織工学で作製される材料、またはインプラントなどの生物医学的材料に対するコーティングとしてもまた使用され得る。・・・改変絹フィルムは伸長、収縮、伸展、または変形の際に破断する傾向が低いため、そのようなフィルム由来のコーティングは適合性向上を提供すると考えられ、かつ基材の輪郭に十分に適合すると考えられる。」(【0039】)と記載され、引用発明1における絹/グリセロールブレンドフィルムが人体適合性及び柔軟性を有することにより、医療用装置、組織工学で作製される材料、インプラントなどの生物医学的材料に対するコーティングの用途にも使用できることが示されている。
さらに、上記aで述べたように、絹フィブロインフィルムは、ヒト皮膚と同様に、湿潤状態で良好な溶存酸素透過性を有するものである。
このように、引用発明1は、人体適合性及びヒト皮膚と同様の溶存酸素透過率を有し、水に不溶性であるフィブロイン膜を改変し、柔軟性を向上した絹/グリセロールブレンドフィルムを、皮膚を含めた人体、器官、医療用装置などに貼付して使用する用途に使用できるものであるといえる。

c 相違点1a(皮膚貼付用)について
上記a及びbで述べたように、絹フィブロインは、人体適合性及びヒト皮膚と同様の溶存酸素透過性に優れることから、フィブロイン膜を創傷の包帯や人工皮膚システムの用途に使用されることや、引用発明1に係る溶液から作製された絹/グリセロールブレンドフィルムは、柔軟性に優れることから、これを血管創傷修復装置、止血包帯、貼付剤を含む創傷閉鎖システムなどの医学用用途や、医療用装置等のコーティングの用途に使用されるのであり、上記用途のうち、創傷の包帯及び人工皮膚システムの用途、並びに、血管創傷修復装置、止血包帯、貼付剤を含む創傷閉鎖システムの用途は、皮膚を含めた人体に貼付するものであるといえるから、引用発明1における「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」について、その用途を「皮膚貼付用」とすることは動機付けられるといえる。
また、水に不溶性のフィブロイン膜を、皮膚損傷被覆保護材(引用文献Aの【0018】、【0025】)、創傷被覆材(引用文献Bの特許請求の範囲、【0002】【0018】)、人工皮膚、かつら(引用文献Cの第2頁左上欄18行?右上欄1行)など、フィブロインフィルムを皮膚の表面に貼り付けて使用することは知られており、フィブロインフィルムを皮膚貼付用に使用することは本願出願前に周知の事項である。このことからも、引用発明1に記載の「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」について、その用途を「皮膚貼付用」とすることは動機付けられるといえる。
そうすると、引用発明1において、「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」の用途を「皮膚貼付用」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

d 相違点1b(膜厚が1?300nmであるフィブロインナノ薄膜)について
(a)上記aで述べたように、引用発明1の課題の一つは、フィブロインフィルムの柔軟性を高めることであり、グリセロールをブレンドした「改変絹フィルムは伸長、収縮、伸展、または変形の際に破断する傾向が低い」(【0039】)ものである。また、上記bで述べたように、引用発明1に係る溶液から作製される絹/グリセロールブレンドフィルムは、皮膚を含めた人体への貼付を用途の一つとするものであり、上記フィルムの柔軟性が高められて変形の際に破断しにくいものであれば、柔軟性等の機能の向上や、作製にかかる時間や費用の低減などのためにその厚さを薄くすることは当業者が通常指向することであるから、引用発明1に係る溶液から作製される絹/グリセロールブレンドフィルムの厚みを薄くすることは動機付けられるといえる。
(b)また、皮膚貼付用フィルムの厚さをナノオーダーとすることは、本願出願前に周知の事項であり(引用文献5の【0026】及び【0028】、引用文献6の【0015】、【0016】、【0053】、【0078】及び表1、引用文献7の【0009】、【0017】、【0054】及び【0082】を参照)、引用文献6及び7には、ナノ薄膜層の厚みが1?300nmであれば自己密着性や乾燥状態での柔軟性に優れたものとなることや、化粧用の皮膚貼合用シートの場合は、被適用者が貼付状態に違和感を持たないことが求められていることも記載されており(引用文献6の【0009】、引用文献7の【0009】)、1?300nmの厚さのナノ薄膜層がもつ、自己密着性や乾燥状態での柔軟性に優れ、被適用者が違和感を持たないという機能は、上記(a)で述べたように、引用発明1に係る溶液から作製される絹/グリセロールブレンドフィルムを、皮膚を含めた人体に貼付する用途が例示されていることや、絹/グリセロールブレンドフィルム自体の柔軟性が高められて変形の際に破断しにくいものであることと符合するものである。
そして、皮膚貼付用フィルムの厚さは、皮膚に貼付する目的、フィルムを皮膚に貼付する際の取り扱いやすさ、フィルムの厚さを制御しながら成形するためのコストや歩留まりなどに応じて、当業者が適宜設定することである。なお、1?300nmの厚さを有するフィブロイン膜の成形方法は、引用文献D(【0046】、【0107】及び【0127】)や、引用文献E(273頁右欄15行?274頁左欄13行)に記載されているとおり、本願出願前に周知の事項であるといえる。
そうすると、引用発明1において、「混合溶液」の用途である「絹/グリセロールブレンドフィルム」の膜厚を「1?300nm」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

e 本件補正発明1の効果について
(a)本件補正発明1は「水に対して不溶性のフィブロインナノ薄膜を作製できるフィブロイン溶液、及び、前記フィブロイン溶液を用いて得られるフィブロインナノ薄膜を提供することができる。」及び「本発明に係るフィブロイン溶液によれば、フィブロイン溶液を保管した際にフィブロインが析出することを抑制することができる。」(【0015】)という効果を奏するものであり、具体的には、実施例において、シルクフィブロイン溶液を室温に3時間静置後、シルクフィブロインの析出の有無を目視で確認する析出評価、及び、シルクフィブロインナノ薄膜を超純水に10分間浸漬後、シルクフィブロインナノ薄膜の有無を目視で確認する不溶化評価を行い、フィブロインとグリセリンの質量比を1:30?200とした溶液は、フィブロイン溶液の析出がなく、フィブロインナノ薄膜が溶解することがなかったことが示されている(【0084】?【0087】、表1)。
(b)このような効果は、フィブロイン、水及びグリセリン等の添加剤を含有し、上記添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部であるフィブロイン溶液により奏される効果であり、このような構成を備えた引用発明1によっても同様に奏される効果であると解されるが、一応、以下に検討する。
まず、水に対する不溶化の効果に関して、引用文献1には、グリセロール含量が5%(w/w)未満のフィブロイン溶液は、フィルムが水に溶解するが、グリセロール含量を10%から30%(w/w)にまで増加すると、フィルムの溶解性は低下することが記載されており(【0020】【0021】及び図1)、グリセロール含量を増加するにつれてフィルムが水に対して不溶化することが示されている。また、引用文献Fには、「フィブロイン膜の作製では、フィブロイン濃度を6.5mg/mL、乾燥条件・・・グリセリン添加量を0,0.01,0.05・・・0.20v/v%とし」て乾燥して作製したフィブロイン膜を、水に対する溶出試験をし、グリセリン添加0.05v/v%以下のフィブロイン膜は溶出したのに対し、グリセリン添加0.10v/v%以上のフィブロイン膜は溶出しないことが確認された」ことが記載されている。このようなグリセリンの添加量を所定値以上とすることにより、水に不溶性のフィブロイン薄膜を得ることができるという効果は本願出願前に周知の事項であると解される。
(c)フィブロインの析出抑制の効果に関して、引用文献Gには、シルクフィブロイン水溶液における、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、グリセロール等の有機溶媒の含有量が18質量%以下であれば、シルクフィブロイン水溶液を静置する際にゲル化しにくいことが記載されており([0035]、[0031]?[0033])、このようなグリセロール等の作用は、上記(b)で述べたグリセロールの水に対する不溶化の効果と同じ作用によるものであると解され、上記周知の事項から当業者が予測し得るものであって、格別顕著な効果とはいえないものである。
そうすると、本件補正発明1によって奏される、水に対する不溶化及びフィブロインの析出抑制の効果は、引用文献1の記載及び上記周知の事項から、当業者にとって予測し得ることであるといえる。
(d)また、本件補正発明1はフィブロイン溶液であって、フィブロインナノ薄膜ではないが、膜厚が1?300nmであるフィブロインナノ薄膜の効果についても、以下に検討する。
本願明細書には、「フィブロインナノ薄膜の膜厚は、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性が更に優れる観点から、1?300nmであることが好ましく」(【0028】)と記載されているが、このような効果は実施例により具体的に確認されていないものである。
一方、上記イ(ウ)c及びイ(エ)cで述べたように、引用文献6及び引用文献7には、ナノ薄膜層の厚みに関して、「自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性がより優れたものとなることから、1?300nmの範囲内であることが好ましく」と記載されており、これらの記載から予測し得ることである。
(e)さらに、本願明細書には、「フィブロインナノ薄膜を皮膚等に対して用いる際、保湿クリーム等の化粧料を皮膚等に塗布し、その上にフィブロインナノ薄膜を転写することもできる。この場合、化粧料が保持されつつ、剥がれ落ちにくいという効果が得られる。また、フィブロインナノ薄膜を皮膚等に転写した後に、その上に化粧料を塗布することもできる。この場合、皺、たるみ、しみ、あざ、そばかす、毛穴、傷跡、にきび傷、熱傷跡、又は、皮膚疾患による変色等のある肌を目立たなくすることができる。」(【0034】)と記載されているが、引用文献6及び引用文献7には、「ナノ薄膜転写シートは、化粧料又は化粧料成分を保持させてなる化粧用シート、保湿シート、化粧補助貼合シート、及び化粧保護シートとして好適に使用できる。」(【0018】)と記載され、化粧料が皮膚に貼り合わせたナノ薄膜転写シートに保持されることが示されており、一般的な皮膚に似た色みの化粧料がシート全体に均一に保持されて肌の状態を目立たなくすることができることは、当業者にとって予測し得ることである。
(f)これらのことから、本願発明の効果は、いずれも当業者が予測し得ることであり、格別顕著なものとはいえないものである。

f 請求人の主張について
請求人は、審判請求書、上申書の中で、「引用文献1では、絹フィブロインフィルムが、主に、医療用装置の表面や、体内に埋め込まれる部材であるインプラントの表面において有効に用いられることが示されています。」(審判請求書の6頁25?27行、上申書の3頁10?12行)、「引用文献1では・・・当該絹フィブロインフィルムが、上記拒絶査定におけるご認定のように「皮膚への貼合に用いるシート」、すなわち、体内とは異なり体表面(皮膚)に貼合されるシートとして有効であることは何ら示されておらず、その適用箇所が、皮膚に貼合することを目的とする引用文献6,7とは異なります。」(審判請求書の7頁24行?8頁1行。上申書の3頁36?41行にも同内容の記述がある)と主張する。
しかしながら、上記bで述べたように、引用文献1には、絹/グリセロールブレンドフィルムを、創傷の包帯や人工皮膚システムの用途(【0016】)、血管創傷修復装置、止血包帯、スポンジ、貼付剤および接着剤を含む創傷閉鎖システムなどの医学的用途に使用することも記載され(【0036】)、このような用途は、皮膚を含めた人体に貼付する用途であるといえる。また、上記cで述べたように、絹フィブロイン薄膜を皮膚貼付用の用途に使用することは、本願出願前に周知の事項である。
そうすると、請求人の上記主張は妥当なものであるとはいえないから、これを採用することはできない。

(3)小括
したがって、本件補正発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、審判請求時の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年12月17日提出の手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成31年4月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「膜厚が1?300nmであるフィブロインナノ薄膜を形成するために用いられるフィブロイン溶液であって、
フィブロイン、水及び添加剤を含有し、
前記添加剤が、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上を含み、
前記添加剤の含有量がフィブロイン100質量部に対して30?200質量部である、
フィブロイン溶液。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明1は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、引用文献6、引用文献7の記載事項は、上記第2の2(2)イに記載したとおりである。
そして、引用文献1には、第2の2(2)ウに記載されたとおり、引用発明1が記載されている。

4 対比及び検討
本願発明1は、上記第2の2(2)エで検討した本件補正発明1の「膜厚が1?300nmであると共に皮膚貼付用であるフィブロインナノ薄膜」を、本件補正前の「膜厚が1?300nmであるフィブロインナノ薄膜」にしたものである。
そして、本願発明1の発明特定事項を全て含む本件補正発明1が、上記第2の2(2)エで述べたように、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項、及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-29 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2015-103548(P2015-103548)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 佐藤 玲奈
近野 光知
発明の名称 フィブロイン溶液、フィブロインナノ薄膜、ナノ薄膜シート及びその製造方法、並びに、転写方法  
代理人 古下 智也  
代理人 吉住 和之  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  

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