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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1374674
審判番号 不服2020-2201  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-18 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2017-503675「CMP用研磨液,及び,これを用いた研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 9日国際公開,WO2016/140246〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年(平成28年) 3月 2日(優先権主張 2015年(平成27年) 3月 4日 日本)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 9月19日付け:拒絶理由通知
令和 1年10月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年11月13日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年 2月18日 :審判請求書の提出
令和 2年 9月14日付け:拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)
令和 2年10月29日 :意見書, 手続補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1-15(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明15」という。)に係る発明は,令和 2年10月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される発明であるところ,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ルテニウム系金属を研磨するためのCMP用研磨液であって,
砥粒と,水と,前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.005?0.050質量部である金属酸化剤と,を含有し,
前記砥粒が,シリカ及びシリカの変性物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み,
前記金属酸化剤が,水酸化物イオンの授受を伴う酸化還元電位を有し,
前記酸化還元電位が標準水素電極に対して0.68V以上であり,
前記CMP用研磨液のpHが7.0?13.0であり,
前記砥粒の含有量が,前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.10質量部以上である,CMP用研磨液。」

なお,請求項2-11は,請求項1の構成を全て引用する従属請求項,請求項12-15は請求項1の研磨液を用いた研磨方法に係る発明である。

第3 拒絶の理由
令和 2年 9月14日付けの,当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は,概略,次のとおりのものである。
理由1(進歩性) この出願の請求項1-4に係る発明は,下記の引用文献1に記載された発明に基いて,この出願の請求項5-11に係る発明は,下記の引用文献1-3に記載された発明に基いて,この出願の請求項12-15に係る発明は,下記の引用文献1-4に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 特表2011-503873号公報
引用文献2 特開2014-69260号公報
引用文献3 特開2015-29001号公報
引用文献4 特開2009-10031号公報

第4 引用文献の記載,引用発明等
1 引用文献1に記載されている事項及び引用発明
ア 当審拒絶理由通知で引用された特表2011-503873号公報(以下,引用文献1という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「【請求項1】
(a)砥材,
(b)水性キャリア,
(c)標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい標準還元電位を有する酸化剤,及び
(d)所望により,ホウ酸アニオン源(ただし,該酸化剤が,過ホウ酸塩以外の過酸化物,過炭酸塩,または過リン酸塩を含むときに,化学機械研磨組成物がホウ酸アニオン源を含む),
を含む,化学機械研磨組成物。」

「【請求項12】
(i)基板を準備する工程;
(ii)(a)砥材、 (b)水性キャリア、 (c)標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい標準還元電位を有する酸化剤、及び (d)所望により、ホウ酸アニオン源(ただし、該酸化剤が、過ホウ酸塩以外の過酸化物、過炭酸塩、または過リン酸塩を含むときに、化学機械研磨組成物がホウ酸アニオン源を含む) を含み、pHが7?12である化学機械研磨組成物を準備する工程;
(iii)該基板と、研磨パッド及び該化学機械研磨組成物とを接触させる工程;並びに
(iv)該研磨パッド及び該化学機械研磨組成物を、該基板に対して相対的に動かし、該基板の表面の少なくとも一部を磨耗して、該基板を研磨する工程、
を含む基板の研磨方法。
【請求項13】 該基板が、ルテニウム、タンタル、銅、TEOS、またはそれらの組み合わせを含み、該基板の少なくとも一部を磨耗して該基板を研磨する、請求項12に記載の方法。」

「【0005】
ルテニウムを含む基板の研磨用に開発された化学機械研磨組成物は,さらなる課題を有する。研磨組成物は概して,ルテニウム金属を,溶解性形態または磨耗によって除去される柔らかい酸化膜のいずれかに変換する酸化剤を含む。」

「【0012】
本発明は,基板を研磨するための化学機械研磨(CMP)組成物を提供する。CMP組成物は,(a)砥材,(b)水性キャリア,(c)標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい標準還元電位を有する酸化剤,及び(d)所望により,ホウ酸アニオン源(ただし,酸化剤が,過ホウ酸塩以外の過酸化物,過炭酸塩,または過リン酸塩を含むときに,化学機械研磨組成物がホウ酸アニオン源を含む)を含み,CMP組成物のpHは7?12である。
【0013】
砥材は任意の好適な砥材であることができ,それらの多くは当技術分野で良く知られている。砥材は望ましくは金属酸化物を含む。金属酸化物は任意の好適な形態の金属酸化物であることができ,例えば,ヒュームド,沈降された,縮合重合された,またはコロイド状の金属酸化物であることができる。好適な金属酸化物には,アルミナ,シリカ,チタニア,セリア,ジルコニア,酸化ゲルマニウム,酸化マグネシウム,それらの共形成生成物,及びそれらの組み合わせからなる群から選択される金属酸化物が含まれる。好ましくは,金属酸化物はシリカまたはアルミナである。さらに好ましくは,砥材はシリカである。シリカの有効な形態には,限定されるものではないが,ヒュームドシリカ,沈降シリカ,縮合重合シリカ,及びコロイド状シリカが含まれる。さらに好ましくは,シリカはコロイド状シリカである。本明細書で言及する場合,「コロイド状シリカ」という用語は,以下に述べるように,CMP組成物中でコロイド的に安定な分散体を形成することができるシリカ粒子を意味する。概して,コロイド状シリカ粒子はばらばらに分離しており,内部表面積を有さない実質的に球形のシリカ粒子である。コロイド状シリカは概して,例えばアルカリ金属ケイ酸塩含有溶液の酸性化のような湿式化学プロセスによって製造される。
【0014】
砥材は,任意の好適な粒径を有することができる。概して,砥材は,1μm以下(例えば5nm?1μm)の平均粒径を有する。好ましくは,砥材は,500nm以下(例えば10nm?500nm)の平均粒径を有する。粒子径は,粒子の直径であり,または球形でない粒子の場合は粒子を取り囲む最小球の直径である。
【0015】
本発明用に好適な砥粒は,処理されたもの,または未処理のものであることができる。可能な処理には,疎水性化処理並びに表面荷電特性を変える処理,例えばカチオン化またはアニオン化処理が含まれる。したがって,本発明用に好適な砥粒は,1以上の金属酸化物を含むことができるか,本質的に1以上の金属酸化物からなることができるか,あるいは1以上の金属酸化物からなることができる。例えば,砥材は,シリカを含むことができるか,本質的にシリカからなることができるか,あるいはシリカ(SiO_(2))からなることができる。好ましくは,砥粒は未処理のものである。
【0016】
砥材は,任意の好適な量でCMP組成物中に存在することができる。例えば,砥材は,CMP組成物中に,0.1質量%以上,例えば0.2質量%以上,0.5質量%以上,または1質量%以上の量で存在することができる。別法で,あるいは加えて,砥材は,CMP組成物中に,20質量%以下,例えば15質量%以下,12質量%以下,10質量%以下,8質量%以下,5質量%以下,4質量%以下,または3質量%以下の量で存在することができる。したがって,砥材は,CMP組成物中に,0.1質量%?20質量%,例えば,0.1質量%?12質量%,または0.1質量%?4質量%の量で存在することができる。」

「【0018】
水性キャリアは,任意の好適な水性キャリアであることができる。水性キャリアは,砥材(水性キャリア中に懸濁される場合),酸化剤,及びその中に溶解または懸濁される任意の他の成分を,研磨される(例えば,平坦化される)好適な基板の表面に適用することを促進するために用いられる。水性キャリアは,水のみであることができるか(すわなち,水からなることができるか),本質的に水からなることができるか,水及び好適な水混和性溶媒を含むことができるか,またはエマルジョンであることができる。好適な水混和性溶媒には,例えばメタノール,エタノール等のアルコール,並びにジオキサン及びテトラヒドロフランのようなエーテルが含まれる。好ましくは,水性キャリアは,水を含むか,本質的に水からなるか,または水からなり,さらに好ましくは脱イオン水を含むか,本質的に脱イオン水からなるか,または脱イオン水からなる。
【0019】
化学機械研磨組成物は酸化剤をさらに含む。酸化剤は,任意の好適な酸化剤であることができる。ルテニウム金属は,+2,+3,+4,+6,+7,及び+8酸化状態に酸化され得る(例えば,M.Pourbaix, Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, 343-349 (Pergamon Press 1966)を参照)。一般的な酸化形態は,Ru_(2)O_(3),すなわち,Ru(OH)_(3),RuO_(2),及びRuO_(4)であり,それぞれ,ルテニウムは,+3,+4,及び+8酸化状態に酸化されている。+8酸化状態へのルテニウムの酸化,すなわちRuO_(4)の形成は,有毒ガスを生成する。そのため,CMPに適用する際に,+8酸化状態へのルテニウムの酸化を避けることが望ましい。強酸化剤,例えば,ペルオキシ一硫酸水素カリウム(potassium hydrogen peroxymonosulfate)(OXONE(商標)酸化剤),及びKBrO_(3)は,ルテニウムをその高い酸化状態に酸化するが,それゆえに,CMP組成物用には好ましくない。+4酸化状態へのルテニウムの酸化,すなわちRuO_(2)の形成は,ルテニウムの表面への保護層の形成をもたらし,除去するための硬い砥材,例えばαアルミナを必要とし得る。+3酸化状態へのルテニウムの酸化,すなわちRu(OH)_(3)の形成は,保護的ではない層をもたらす。この層は,除去するための硬い砥材を必要とせず,例えばコロイド状シリカによって除去され得る。
【0020】
したがって,ルテニウムを研磨するためのCMP組成物は,望ましくは,+8酸化状態にルテニウムを酸化することを避けつつ,+3または+4酸化状態にルテニウムを酸化する酸化剤を含む。CMP組成物はまた,望ましくは,ルテニウムが+4酸化状態に酸化される場合,RuO_(2)の保護的性質を改質する。
【0021】
潜在的な酸化剤は,電気化学的試験(Jian Zhang, Shoutian Li, & Phillip W.Carter, “Chemical Mechanical Polishing of Tantalum, Aqueous Interfacial Reactivity of Tantalum and Tantalum Oxide,” Journal of the Electrochemical Society, 154(2), H109-H114(2007)を参照)によって,特徴付けられ得る。酸化剤は,標準水素電極に対して任意の好適な標準還元電位を有することができる。望ましくは,CMP組成物用に適切な穏やかな酸化剤は,ルテニウムを+3酸化状態に酸化するために必要な電気化学ポテンシャル,すなわちR^(0)→Ru^(+3)とするためのE^(0)値よりわずかに大きい電気化学ポテンシャルを有するが,ルテニウムを+8酸化状態に酸化するために必要な電気化学ポテンシャル,すなわちR^(0)→Ru^(+8)とするためのE^(0)値よりわずかに低い電気化学ポテンシャルを有する。
【0022】
図1は,標準水素電極(SHE)を基準として,pHに対するルテニウムの電位をプロットしたグラフである。次の表は,図1による様々なpH値における特定のルテニウム化合物を形成するために必要なおおよその電位(V)をまとめたものである。

【表1】


【0023】
酸化剤は,ルテニウムを+8酸化状態に酸化することを避けつつ,ルテニウムを+3または+4酸化状態に酸化する標準還元電位,すなわち標準状態且つpH=0における還元電位を有する任意の好適な酸化剤であることができる。例えば,酸化剤は,標準水素電極に対して0.7Vより大きい,例えば0.75Vより大きい,0.8Vより大きい,0.9Vより大きい,1Vより大きい,または1.25Vより大きい,標準還元電位を有することができる。別法では,または加えて,酸化剤は,標準水素電極に対して1.3Vより小さい,例えば1.2Vより小さい,1Vより小さい,または0.9Vより小さい標準還元電位を有することができる。したがって,酸化剤は,標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい,例えば0.7Vより大きく0.8Vより小さい,0.7Vより大きく0.9Vより小さい,0.8Vより大きく0.9Vより小さい,0.9Vより大きく1.3Vより小さい,0.9Vより大きく1.1Vより小さい,または1Vより大きく1.3Vより小さい標準還元電位を有することができる。
【0024】
望ましくは,酸化剤は,実質的に,ルテニウムを+8酸化状態に酸化しない。さらに,図1及び上表に見ることができるように,ルテニウムはより高いpH値においてより低い電位を有する。望ましくは,これらのより高いpH値において,ルテニウムの電位は銅の電位に近く,それによって,ルテニウム及び銅の間のガルバニック不適合性(galvanic incompatibility)のリスクを軽減する。
【0025】
好ましい酸化剤には,限定するものではないが,過ホウ酸塩,過炭酸塩,過リン酸塩,過酸化物,またはそれらの組み合わせを含む酸化剤が含まれる。過ホウ酸塩,過炭酸塩,過リン酸塩,及び過酸化物は,任意の好適な化合物源から提供され得る。
【0026】
好適な過ホウ酸塩化合物には,限定するものではないが,過ホウ酸カリウム及び過ホウ酸ナトリウム一水和物が含まれる。好適な過炭酸塩化合物には,限定するものではないが,過炭酸ナトリウムが含まれる。好適なリン酸塩化合物には,限定するものではないが,過リン酸カリウムが含まれる。
【0027】
好適な過酸化物化合物は,少なくとも1つのペルオキシ基(--O--O--)を含む化合物であり,且つ有機過酸化物,無機過酸化物,及びそれらの混合物からなる群から選択される。少なくとも1つのペルオキシ基を含む化合物の例には,限定するものではないが,過酸化水素並びに過酸化尿素及び過炭酸塩などの過酸化水素の付加化合物,過酸化ベンゾイル,過酢酸,及びジ-tert-過酸化ブチルなどの有機過酸化物,一過硫酸塩(SO_(5)^(2-)),二過硫酸塩(S_(2)O_(8)^(2-)),並びに過酸化ナトリウムが含まれる。好ましくは,過酸化物は過酸化水素である。
【0028】
酸化剤は,任意の好適な量でCMP組成物中に存在することができる。例えば,酸化剤は,10質量%以下,例えば8質量%以下,5質量%以下,3質量%以下,2質量%以下,または1質量%以下の量で存在することができる。別法では,または加えて,酸化剤は,0.05質量%以上,例えば0.07質量%以上,0.1質量%以上,0.25質量%以上,0.5質量%以上,または0.75質量%以上の量で存在することができる。したがって,酸化剤は,0.05質量%?10質量%,例えば,0.07質量%?8質量%,0.1質量%?5質量%,0.25質量%?3質量%,0.5質量%?2質量%,または0.75質量%?1質量%の量で存在することができる。好ましくは,酸化剤は,CMP組成物中に0.25質量%?1質量%の量で存在する。」

「【0032】
CMP組成物は,任意の好適なpHを有することができる。CMP組成物のpHは,例えば,12以下,例えば11以下,10以下,または9以下であることができる。別法では,または加えて,CMP組成物のpHは,7以上,例えば,8以上,9以上,10以上,または11以上であることができる。望ましくは,CMP組成物のpHは,7?12,例えば,7?9,9?12,9?11,10?12,または11?12である。このpH範囲において,図1に示すように,ルテニウムはより低い電位を有する。すなわち,ルテニウムは,より低いpH,例えばpH2におけるルテニウムの電位と比べて,銅の電位に近い電位を有する。望ましくは,比較的低いルテニウムの電位は,ルテニウム及び銅の間のガルバニック不適合性のリスクを軽減して,ルテニウムバリアーのCMPの際にCMP組成物が薄い銅線をガルバニック溶解することを防ぐ。
【0033】
CMP組成物のpHは,任意の好適な手段によって,達成され及び/または維持され得る。より具体的には,CMP組成物は,pH調整剤をさらに含むことができる。pH調整剤は,任意の好適なpH調整化合物であることができる。例えば,pH調整剤は,硝酸,水酸化カリウム,水酸化アンモニウム,水酸化テトラアルキルアンモニウム,またはそれらの組み合わせであることができる。CMP組成物は,任意の好適な量のpH調整剤を含むことができる。ただし,好適な量は,本明細書に示す範囲内のCMP組成物のpHを達成及び/または維持するために用いられる。」

イ 上記記載について検討する。
(ア)引用文献1の請求項13や段落0005の記載を参照すると,引用文献1の化学機械研磨(CMP)組成物は,ルテニウムを含む基板の研磨に用いられると認められる。

(イ)引用文献1の段落0012には,CMP組成物は,(a)砥材,(b)水性キャリア,(c)標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい標準還元電位を有する酸化剤,を含み,CMP組成物のpHは7?12である点が記載されている。

(ウ)引用文献1の段落0013には,砥材としてシリカが好ましいことが,また,段落0016には,砥材は,任意の好適な量でCMP組成物中に存在することができ,CMP組成物中に0.1質量%以上とする点が記載されている。

(エ)引用文献1の段落0018には,水性キャリアとして水を含むことが記載されている。

(オ)引用文献1の段落0019?0028,特に段落0019を参照すると,酸化剤が,ルテニウム金属をRu(OH)_(3)に酸化した際に,コロイド状シリカにより除去可能である点が記載されている。
ここで,酸化剤は,ルテニウム金属をRu(OH)_(3)に酸化するものであるから,酸化剤が,水酸化物イオンの授受を伴う酸化還元電位を有することは明らかである。

ウ 以上ア,イで示した事項,特に砥材としてシリカが好ましい点,及び,酸化剤がルテニウム金属をRu(OH)_(3)に酸化する点の記載を参酌すると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 ルテニウムを含む基板のCMP組成物であって,
CMP組成物は,砥材,水性キャリア,標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい,水酸化物イオンの授受を伴う標準還元電位を有する酸化剤,を含み,
CMP組成物のpHは7?12であり,
砥材としてシリカを,CMP組成物中に0.1質量%以上含有させ,
水性キャリアとして水を含み,
酸化剤は,ルテニウム金属をRu(OH)_(3)に酸化すること。」

第5 対比
1 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

(1)引用発明の「ルテニウムを含む基板のCMP組成物」は,本願発明1の「ルテニウム系金属を研磨するためのCMP用研磨液」である点で一致することは明らかである。

(2)引用発明の「砥材」は,本願発明1の「砥粒」に対応する。
また,引用発明の「砥材」は,「シリカ」であるから,本願発明1の「前記砥粒が,シリカ及びシリカの変性物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」む点で一致する。

(3)引用発明の「水性キャリア」は「水を含む」から,本願発明1の「水」に相当する。

(4)引用発明の「水酸化物イオンの授受を伴う標準還元電位を有する酸化剤」は,本願発明1の「金属酸化剤」に相当し,本願発明1と引用発明は,「前記金属酸化剤が,水酸化物イオンの授受を伴う酸化還元電位を有」する点で一致する。

2 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 ルテニウム系金属を研磨するためのCMP用研磨液であって,
砥粒と,水と,金属酸化剤と,を含有し,
前記砥粒が,シリカ及びシリカの変性物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み,
前記金属酸化剤が,水酸化物イオンの授受を伴う酸化還元電位を有する,
CMP用研磨液。」

(相違点)
(相違点1)金属酸化剤の酸化還元電位に関して,本願発明1は,「標準水素電極に対して0.68V以上であり」と特定されているのに対し,引用発明は,「標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい」点。
(相違点2)CMP用研磨液のpHに関して,本願発明1は,「pHが7.0?13.0」と特定されているのに対して,引用発明は,「pHは7?12」である点。
(相違点3)砥粒の含有量に関して,本願発明1は,「前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.10質量部以上」と特定されているのに対して,引用発明は,「CMP組成物中に,0.1質量%以上」である点。
(相違点4)金属酸化剤の含有量に関して,本願発明1は,「前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.005?0.050質量部である」と特定されているのに対して,引用発明は,そのように特定されていない点。

第6 判断
1 上記相違点1-4について検討する。

(1)相違点1について
引用発明において,金属酸化剤の酸化還元電位は「標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい」ものであり,本願発明1の「標準水素電極に対して0.68V以上であり」と,「標準水素電極に対して0.7Vより大きく1.3Vより小さい」範囲で一致するから,相違点1は実質的な相違点でない。
また,研磨速度等を考慮し,酸化剤の酸化還元電位の値を最適化することは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎず,引用発明において,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

(2)相違点2について
引用発明において,CMP用研磨液のpHは「pHは7?12」であり,本願発明1の「pHが7.0?13.0」と,「pHが7.0?12.0」である範囲で一致するから,相違点2は実質的な相違点でない。
また,研磨速度等を考慮し,CMP用研磨液のpHを最適化することは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎず,引用発明において,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

(3)相違点3について
引用発明において,砥粒の含有量は「CMP組成物中に0.1質量%以上」であるから,砥粒,水,金属酸化物からなるCMP用研磨液においては,砥粒の含有量及び水の含有量の合計99.9質量部に対して0.1質量部以上,すなわち,砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して約0.1001質量部以上であり,本願発明1とほぼ同様の値であるから,相違点3は実質的な相違点でない。

(4)相違点4について
引用文献1の段落0028には,「酸化剤は,任意の好適な量でCMP組成物中に存在することができる。」と,金属酸化剤の含有量が任意であることが記載されている。
また,本願明細書においても,段落0053に「金属酸化剤Aの含有量は,金属が充分に酸化され易く,ルテニウム系金属の研磨速度が更に向上する傾向がある観点から,砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して,0.005質量部以上が好ましく,0.01質量部以上がより好ましく,0.02質量部以上が更に好ましく,0.025質量部以上が特に好ましい。金属酸化剤Aの前記含有量は,0.03質量部以上であってもよく,0.04質量部以上であってもよく,0.05質量部以上であってもよい。」と,金属酸化剤の含有量として,砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.05質量部以上であってもよい旨は記載されているが,0.05質量部以下とすることによる,異質な効果や顕著な効果は何ら記載されていない。
すると,研磨速度等を考慮し,金属酸化剤の含有量を最適化することは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎず,引用発明において,相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

2 請求人の主張について
請求人は,令和 2年10月29日の意見書において,「 まず,引用文献1には,CMP組成物(化学機械研磨組成物)が酸化剤を含有することが記載されているものの(段落[0012]),酸化剤がCMP組成物中に0.05質量%以上の量(基準:CMP組成物の全量)で存在することが記載され(段落[0028]),当該記載に伴い,引用発明1に係るCMP組成物の具体例を示す実施例(段落[0046]以降)において酸化剤の含有量が0.05質量%以上(0.25?1質量%)に調整されているに過ぎません。また,このような引用文献1では,CMP組成物中において0.05質量%を下回る範囲に酸化剤の含有量を調整することの記載及び示唆,並びに,その動機付けとなる記載は何ら認められません。ここで,本願発明の酸化剤の含有量,及び,引用文献1に記載の酸化剤の含有量を対比すると,含有量の基準が異なるところ,引用発明1において「酸化剤がCMP組成物中に0.05質量%以上」である場合,CMP組成物が少なくとも砥粒,酸化剤及び水を含有していることからすれば,砥粒の含有量及び水の含有量の合計に対する酸化剤の含有量の割合は0.05質量%を超えることが明らかです。そのため,このような引用文献1では,砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して酸化剤の含有量を0.005?0.050質量部に調整することの記載及び示唆,並びに,その動機付けとなる記載は何ら認められません。そして,このような引用文献1を参酌した当業者であれば,CMP組成物の全量を基準とした酸化剤の含有量を,実施例において有用性が示された0.05質量%以上の範囲に調整すること(すなわち,酸化剤の含有量を砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して0.05質量部を超える範囲に調整すること)が通常であり,CMP組成物の全量を基準とした酸化剤の含有量を,具体例や有用性が何ら示されていない0.05質量%を下回る範囲に調整すること(すなわち,酸化剤の含有量を砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して0.05質量部以下の範囲に調整すること)は当業者といえども困難であり,ましてや,酸化剤の含有量を砥粒の含有量及び水の含有量の合計100質量部に対して0.05質量部以下の範囲に調整した上で,「ルテニウム系金属を研磨するためのCMP用研磨液であって,砥粒と,水と,前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.005?0.050質量部である金属酸化剤と,を含有し,前記砥粒が,シリカ及びシリカの変性物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み,前記金属酸化剤が,水酸化物イオンの授受を伴う酸化還元電位を有し,前記酸化還元電位が標準水素電極に対して0.68V以上であり,前記CMP用研磨液のpHが7.0?13.0であり,前記砥粒の含有量が,前記砥粒の含有量及び前記水の含有量の合計100質量部に対して0.10質量部以上である」CMP用研磨液を用いることは当業者といえども更に困難です。」と主張している。

上記主張について検討すると,上述したように,引用文献1の段落0028には,「酸化剤は,任意の好適な量でCMP組成物中に存在することができる。」と,金属酸化剤の含有量が任意であることが記載されている。
ここで,引用文献1の段落0028には,「例えば,酸化剤は,10質量%以下,例えば8質量%以下,5質量%以下,3質量%以下,2質量%以下,または1質量%以下の量で存在することができる。別法では,または加えて,酸化剤は,0.05質量%以上,例えば0.07質量%以上,0.1質量%以上,0.25質量%以上,0.5質量%以上,または0.75質量%以上の量で存在することができる。」と,金属酸化剤の含有量の範囲が例示されているが,この記載は例示であり,金属酸化物の含有量としてその範囲以外のものを排除しているとは認められない。

以上から,請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-17 
結審通知日 2021-03-23 
審決日 2021-04-07 
出願番号 特願2017-503675(P2017-503675)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 大志  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 脇水 佳弘
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 CMP用研磨液、及び、これを用いた研磨方法  
代理人 古下 智也  
代理人 清水 義憲  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 吉住 和之  

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