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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02G
管理番号 1374723
審判番号 不服2020-14090  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-07 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 特願2018-190692「配線部材」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月16日出願公開、特開2020- 61841〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成30年10月9日の出願であって,令和1年9月19日付けで拒絶の理由が通知され,同年12月2日に意見書とともに手続補正書が提出され,令和2年2月21日付けで拒絶の理由が通知され,同年4月28日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年6月29日付けで拒絶査定(謄本送達日同年7月7日)がなされ,これに対して同年10月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年11月26日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 令和2年10月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和2年10月7日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)

「6本の電線をシースによって束ねてなる第1束電線部が第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐し、前記第2束電線部が第2分岐位置にて第2分岐電線部と第3分岐電線部とに分岐し、
前記第1分岐位置にて前記シースの端部と前記シースの端部から延びる前記電線とを覆い、前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部と、前記第2分岐位置にて前記電線を覆い、前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部とを含み、前記第1保持部と前記第2保持部とが一体に形成されている樹脂成形部を備え、
前記6本の電線が2本ずつ3組に分かれたうちの第1の組、第2の組及び第3の組の電線が、それぞれ前記第1分岐電線部の電線、前記第2分岐電線部の電線、及び前記第3分岐電線部の電線であり、
前記第1分岐電線部、前記第2分岐電線部、及び前記第3分岐電線部の電線は、すべて前記第1束電線部から延びており、
前記第1分岐電線部の電線は、前記第2分岐電線部の電線及び前記第3分岐電線部の電線とは異なる種類の電線であり、
前記樹脂成形部は、前記第1保持部と前記第2保持部との間で前記第2束電線部の経路保持をしている、配線部材。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の,令和2年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「複数の電線をシースによって束ねてなる第1束電線部が第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐し、前記第2束電線部が第2分岐位置にて第2分岐電線部と第3分岐電線部とに分岐し、
前記第1分岐位置にて前記シースの端部と前記シースの端部から延びる前記電線とを覆い、前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部と、前記第2分岐位置にて前記電線を覆い、前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部とを含み、前記第1保持部と前記第2保持部とが一体に形成されている樹脂成形部を備え、
前記第1分岐電線部、前記第2分岐電線部、及び前記第3分岐電線部の電線は、すべて前記第1束電線部から延びており、
前記樹脂成形部は、前記第1保持部と前記第2保持部との間で前記第2束電線部の経路保持をしている、配線部材。」

2 補正の適否

本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電線」,及び「第1分岐電線部の電線」について,上記のとおり限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項

ア 引用例1の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2003-331663号公報(平成15年11月21日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0002】
【従来の技術】一般に自動車用のワイヤハーネスは、図9(A)に示すように、多数の電線wを束ねて構成される幹線1と、この幹線1から分岐する複数の分岐線2を有し、分岐線2の各端末部には、コネクタCが取り付けられている。幹線1および分岐線2は通常テープTを巻き付けて結束し、全体として自動車への配索形態に対応する所要形態とされている。

…(中略)…

【0018】下型11と上型12の集結用金型部11a、12a及び分岐線用金型部11b、12bの対向面には、ワイヤハーネスを構成する電線群Wを布線する溝(凹部)を設けている。集結用金型部11a、12aの略中央部に設ける溝11c、12cはボックス形状の凹部とし、該溝11c、12cの4隅からは、分岐線用金型部11b、12bの先端まで断面半円形状の溝11d、12dを設けている。また、下型11の集結用金型部11aの溝11cの内部には、布線する電線群Wの分岐位置を規定する分岐位置決めピン11gを突設している。」

B 「【0021】図2に示すように、作業台20の治具21の支持ピン21bを下型11の集結用金型部11aのピン挿入穴11eに挿入すると共に、治具22の支持ピン21bを分岐線用金型部11bのピン挿入孔11eに挿入して、下型11を作業台20上に搭載する。次に、図3に示すように、電線群Wの端末にコネクタCを予め接続した仮結束状態の電線群Wを、下型11の溝11c、11dに挿入して布線していく。これら電線群Wの端末はコネクタ位置決め治具23の電線挿通溝23aに通し、接続したコネクタCを治具23で位置決め保持する。
【0022】上記のように、下型11に電線群Wを布線した後に、図4に示すように、樹脂充填器100より電線保護材となる絶縁性の樹脂Rを溝11c、11dの上面から注入していく。下型11の溝11c、11dの全域に十分に樹脂Rを充填し、電線群Wを樹脂R中に埋設した状態とした後に、図5に示すように上型17を下型11に被せて型締めする。
【0023】上記型締めされた状態で樹脂Rを硬化させた後、下型11と上型12とを離型することで、図6に示すように、電線群Wが樹脂RでモールドされたワイヤハーネスW/Hが成形される。」

C 「【0025】また、製造される成形ワイヤハーネスは端末のコネクタ接続部を除いて、全体を樹脂モールドしているため、配索形態に沿った形態で成形され、各分岐線を分岐方向となるように位置決めされているため、自動車への配索作業が容易となる。」

D 「

図1」

E 「

図6」

イ 引用発明

(ア)上記記載事項Aの「自動車用のワイヤハーネス…(中略)…ワイヤハーネスを構成する電線群W」との記載から,引用例1には,“自動車用のワイヤハーネスを構成する電線群”について記載されているといえる。

(イ)上記記載事項Bの「仮結束状態の電線群Wを、下型11の溝11c、11dに挿入して布線し…(中略)…下型11に電線群Wを布線した後に…(中略)…電線保護材となる絶縁性の樹脂Rを溝11c、11dの上面から注入し…下型11の溝11c、11dの全域に十分に樹脂Rを充填し、電線群Wを樹脂R中に埋設し…(中略)…電線群Wが樹脂RでモールドされたワイヤハーネスW/Hが成形され」との記載から,引用例1には,“仮結束状態の電線群を,下型の溝に挿入して布線し,前記下型に前記電線群を布線した後に,電線保護材となる絶縁性の樹脂を溝の上面から注入し,前記下型の前記溝の全域に十分に前記樹脂を充填し,前記電線群を前記樹脂中に埋設し,前記電線群が前記樹脂でモールドされたワイヤハーネスが成形され”ることが記載されているといえる。

(ウ)上記記載事項Cの「製造される成形ワイヤハーネスは端末のコネクタ接続部を除いて、全体を樹脂モールドしている…(中略)…各分岐線を分岐方向となるように位置決めされている」との記載,及び上記(イ)の認定事項から,引用例1には,“製造される前記ワイヤハーネスは端末のコネクタ接続部を除いて,全体を樹脂モールドしており,各分岐線を分岐方向となるように位置決めされ”ていることが記載されているといえる。

(エ)上記記載事項Dの図1及び上記記載事項Eの図6の記載を参照すると,図1に記載された「W」は,上記(ア)にいう,「ワイヤハーネスを構成する電線群」を表すものであり,図6に記載された「W/H」は,上記(イ)にいう,「前記電線群が前記樹脂でモールドされたワイヤハーネス」の様子を表すものであることを読み取ることができる。
そして,図6で,4つ「C」と符号が付されている部分は,上記(ウ)にいう,「コネクタ接続部」を表していて,当該「コネクタ接続部」から延びている電線は,「ワイヤハーネスを構成する電線群」から分岐した電線であることを読み取ることができる。
さらに,図1に示される「W」の電線群は,左側の「C」と符号が付された部分から,3つの分岐された電線からなることを読み取ることができ,さらに図6の「W/H」と符号が付された態様から,その3つのそれぞれの電線は,“分岐電線部”といい得るものである。
そして,当該分岐電線部その分岐態様を,図6を参照してみるに,全ての分岐電線部を含む「R」と符号が付されている部分から,まず第1分岐位置で下方向に分岐し,残りの分岐電線部を含んだ部分は,右上方向へ向けて延び,第2分岐位置で右方向へ延びる方向と上方向へ分岐していて,そのそれぞれの箇所で分岐した分岐電線部(下方向,右方向,上方向)はそれぞれ,“第1分岐電線部”,“第2分岐電線部”,及び“第3分岐電線部”といい得るところ,引用例1には,“第1分岐電線部は第1分岐位置で下方向に分岐して延び,残りの第2分岐電線及び第3分岐電線部が右上方向に向けて延び,第2分岐電線部は第2分岐位置で右方向へ分岐して延び,第3分岐電線部は前記第2分岐位置で上方向へ分岐して延び”ることが記載されているといえる。
また,上記第1分岐電線部を第1分岐位置で樹脂モールドしている部分は,第1分岐電線部をその伸長方向に“保持”している部分という意味で,“第1保持部”といい得るものである。同じく,上記第2分岐電線部及び第3分岐電線部を,第2分岐位置にて右方向及び上方向に延びるよう保持している部分は,“第2保持部”といい得るものである。
以上を総合すると,引用例1には,“前記電線群は,第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部を有し,前記第1分岐電線部は第1分岐位置で下方向に分岐して延び,残りの前記第2分岐電線及び前記第3分岐電線部が右上方向に向けて延び,前記第2分岐電線部は第2分岐位置で右方向へ分岐して延び,前記第3分岐電線部は前記第2分岐位置で上方向へ分岐して延び,前記第1分岐位置での前記第1分岐電線部の伸長方向を保持する第1保持部と,前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部を前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部を有”することが記載されているといえる。

(オ)上記記載事項Eの図6の記載,及び上記(エ)の認定事項から,第1分岐位置から第2分岐位置にかけて延びる,上記記載事項Dの図1において,「11c」と符号が付された部分に対応する樹脂モールドされた部分は,第2分岐電線部及び第3分岐電線部を含んでその経路の保持を行っている態様を読み取ることができるから,引用例1には,“前記第1保持部と前記第2保持部との間で,前記第2分岐電線部及び第3電線部が樹脂モールドされて経路保持されている”ことが記載されているといえる。

(カ)上記(ア)?(オ)より,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「自動車用のワイヤハーネスを構成する電線群であって,
仮結束状態の電線群を,下型の溝に挿入して布線し,前記下型に前記電線群を布線した後に,電線保護材となる絶縁性の樹脂を溝の上面から注入し,前記下型の前記溝の全域に十分に前記樹脂を充填し,前記電線群を前記樹脂中に埋設し,前記電線群が前記樹脂でモールドされたワイヤハーネスが成形され,
製造される前記ワイヤハーネスは端末のコネクタ接続部を除いて,全体を樹脂モールドしており,各分岐線を分岐方向となるように位置決めされ,
前記電線群は,第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部を有し,前記第1分岐電線部は第1分岐位置で下方向に分岐して延び,残りの前記第2分岐電線及び前記第3分岐電線部が右上方向に向けて延び,前記第2分岐電線部は第2分岐位置で右方向へ分岐して延び,前記第3分岐電線部は前記第2分岐位置で上方向へ分岐して延び,前記第1分岐位置での前記第1分岐電線部の伸長方向を保持する第1保持部と,前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部を前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部を有し,
前記第1保持部と前記第2保持部との間で,前記第2分岐電線部及び第3電線部が樹脂モールドされて経路保持されている
電線群。」

ウ 引用例2に記載された事項及び引用発明2

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2016-91731号公報(平成28年5月23日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F 「【0002】
自動車等の車両には電動パーキングブレーキ(EPB:Electric Parking Brake)システムやアンチロックブレーキシステム(ABS:Antilock Brake System)が搭載されている。
近年、ABSセンサとEPB機構の取付位置が近いことから、図3に示すように、電動パーキングブレーキシステムのケーブル102と、ABSセンサのケーブル101とを一つのシースSでまとめた複合ハーネス100が開発されている。このような各種システムには種々のケーブルが接続される場合がある(例えば、特許文献1参照)。

…(中略)…

【0012】
図2に示すように、ABSセンサ用ケーブル11とパーキングブレーキ用ケーブル12は、シースSの端部S1で分岐されるようになっている。
図1及び図2に示すように、ABSセンサ用ケーブル11は、2本の信号線11aで構成される。この信号線11aは、導体の周囲を絶縁体で被覆されている。ABSセンサ用ケーブル11は、その先端にABSセンサが取り付けられるようになっている。
【0013】
パーキングブレーキ用ケーブル12は、主に車両の停車後に所定のボタンを押圧操作することにより、車輪の回転を抑止するための機構(電動パーキングブレーキ(EPB)機構)を機能させるための電流を流す導電路として用いられるものである。パーキングブレーキ用ケーブル12は、EPB制御ユニット(図示略)と、EPB機構とを電気的に接続するためのものである。このため、パーキングブレーキ用ケーブル12は、2本の電源線12aを有する。ちなみに、前記EPB機構は、例えばアクチュエータにより従来のパーキングブレーキ機構のワイヤを牽引するタイプであったり、油圧ブレーキキャリパに専用の電動アクチュエータを搭載するタイプなどが挙げられる。
【0014】
上述したように、本実施形態の複合ハーネス10のシースS内には、ABSセンサ用ケーブル11を構成する2本の信号線11aと、パーキングブレーキ用ケーブル12を構成する2本の電源線12aとが収容された、所謂4芯電線で構成される。
【0015】
また、本実施形態の複合ハーネス10は、シースSの端部S1において、ウレタン成形された成形部20が設けられる。成形部20は、止水部21とブラケット取付部22とがウレタン成形によって一体成形されている。
【0016】
止水部21は、シースSの端部S1、ABSセンサ用ケーブル11及びパーキングブレーキ用ケーブル12の分岐部位を覆うように構成されている。このとき、ABSセンサ用ケーブル11はシースSの長手方向に沿うように引き出され、パーキングブレーキ用ケーブル12はシースSの長手方向と直交するように引き出されるようにして前記止水部21によって覆われている。」

G 「【0023】
・上記実施形態では、ブラケットBをブラケット取付部22にかしめ固定する構成としたが、これに限らない。
・上記実施形態では、複合ハーネス10は所謂4芯電線で構成したが、これに限らない。例えば複合ハーネス10のシースS内に6本の電線(ケーブル)を有する6芯電線で構成してもよい。6芯電線の一例として、複合ハーネス10のシースS内には、上記実施形態の4芯電線に加えてアクティブサスペンション用の電線を2本加えた物が通線されてなる。」

H 「

図2」

上記記載事項F?Hから,引用例2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「自動車等の電動パーキングブレーキシステムのケーブルと,ABSセンサのケーブルとを一つのシースでまとめた複合ハーネスであって,
前記シースの端部で分岐された,ABSセンサ用ケーブルとパーキングブレーキ用ケーブルを有し,
前記ABSセンサ用ケーブルは,2本の信号線で構成されるとともに,前記パーキングブレーキ用ケーブルは,2本の電源線を有し,
前記複合ハーネスのシース内には,前記ABSセンサ用ケーブルを構成する2本の信号線と,前記パーキングブレーキ用ケーブルを構成する2本の電源線とが収容されて,4芯電線で構成され,
前記複合ハーネスは,前記シースの端部において,ウレタン成形された成形部が設けられ,前記成形部は,止水部とブラケット取付部とがウレタン成形によって一体成形され,
前記止水部は,前記シースの端部,前記ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位を覆うように構成されており,
前記複合ハーネスは,前記複合ハーネスの前記シース内に6本の電線(ケーブル)を有する6芯電線で構成してもよく,6芯電線の一例として,複合ハーネスのシース内には,前記4芯電線に加えてアクティブサスペンション用の電線を2本加えた物が通線されてなる
複合ハーネス。」

3 対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「ワイヤハーネスを構成する電線群」は,本件補正発明の「電線」に相当する。引用発明の「電線群」は,「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部を有」するものであるところ,当該「第1分岐電線部」,「第2分岐電線部」,及び「第3分岐電線部」は,それぞれ本件補正発明の「第1分岐電線部」,「第2分岐電線部」,及び「第3分岐電線部」に相当する。
引用発明の「電線群」のうち,「第1分岐位置」で「第1分岐電線部」が分岐するまでの部分は,本件補正発明の「第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐」するところの「第1束電線部」に相当する。また,引用発明の「第2分岐電線部」及び「第3分岐電線部」は,「電線群」のうち,「第1分岐位置」で「第1分岐電線部」と枝分かれして分岐しているところ,これらはまとめて,本件補正発明の「第2束電線部」に相当するものといえる。さらに引用発明の「第2分岐電線部」及び「第3分岐電線部」は,「電線群」が,「第2分岐位置」で分岐したものであることから,以上を総合して,引用発明と本件補正発明とは,下記の点(相違点1,相違点2)で相違するものの,“電線の第1束電線部が第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐し,前記第2束電線部が第2分岐位置にて第2分岐電線部と第3分岐電線部とに分岐”する点で一致する。

(2)引用発明は,「仮結束状態の電線群を,下型の溝に挿入して布線し,前記下型に前記電線群を布線した後に,電線保護材となる絶縁性の樹脂を溝の上面から注入し,前記下型の前記溝の全域に十分に前記樹脂を充填し,前記電線群を前記樹脂中に埋設し,前記電線群が前記樹脂でモールドされたワイヤハーネスが成形され」るものであるところ,当該「電線群」が「樹脂でモールドされた」部分は,本件補正発明の「樹脂成形部」に対応するものといえ,当該部分は,引用発明の「電線群」を“覆”っていることは明らかである。
また,引用発明は,「第1分岐位置での前記第1分岐電線部の伸長方向を保持する第1保持部と,前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部を第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部を有」するものであるところ,当該「第1分岐位置」,「前記第1分岐電線部の伸長方向を保持する第1保持部」,「第2分岐位置」,及び「前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部を第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部」は,それぞれ本件補正発明の「第1分岐位置」,「前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部」,「第2分岐位置」,及び「前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部」に相当するといえる。
そして,引用発明の「第1保持部」,及び「第2保持部」は,「仮結束状態の電線群」を,「樹脂中に埋設し,前記電線群が前記樹脂でモールドされ」ることから,本件補正発明の「第1保持部」及び「第2保持部」と,“一体に形成されている”点で一致するといえ,以上を総合して,引用発明と本件補正発明とは,下記の点(相違点3)で相違するものの,“前記第1分岐位置にて前記電線とを覆い,前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部と,前記第2分岐位置にて前記電線を覆い,前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部とを含み,前記第1保持部と前記第2保持部とが一体に形成されている樹脂成形部を備え”る点で一致する。

(3)引用発明の「電線群」は,「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部を有」するところ,これら「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部」の電線は,上記(1)の対比を踏まえれば,本件補正発明と同様,“すべて前記第1束電線部から延びて”いるといえることから,引用発明と本件補正発明とは,“前記第1分岐電線部,前記第2分岐電線部,及び前記第3分岐電線部の電線は,すべて前記第1束電線部から延びて”いる点で一致する。

(4)引用発明は,「前記第1保持部と前記第2保持部との間で,前記第2分岐電線部及び第3電線部が樹脂モールドされて経路保持されている」ものであるから,上記(1)及び(2)の認定を踏まえれば,引用発明と本件補正発明とは,“前記樹脂成形部は,前記第1保持部と前記第2保持部との間で前記第2束電線部の経路保持をしている”点で一致する。

(5)引用発明の「電線群が前記樹脂でモールドされたワイヤハーネス」は,本件補正発明の「配線部材」といい得ることを踏まえ,上記(1)?(4)の検討を総合して,引用発明と本件補正発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
電線の第1束電線部が第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐し,前記第2束電線部が第2分岐位置にて第2分岐電線部と第3分岐電線部とに分岐し,
前記第1分岐位置にて前記電線とを覆い,前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部と,前記第2分岐位置にて前記電線を覆い,前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部とを含み,前記第1保持部と前記第2保持部とが一体に形成されている樹脂成形部を備え,
前記第1分岐電線部,前記第2分岐電線部,及び前記第3分岐電線部の電線は,すべて前記第1束電線部から延びており,
前記樹脂成形部は,前記第1保持部と前記第2保持部との間で前記第2束電線部の経路保持をしている,配線部材。

〈相違点1〉
本件補正発明の「電線」が「6本」であるのに対し,引用発明の「ワイヤハーネスを構成する電線群」は何本であるかが特定されていない点。

〈相違点2〉
本件補正発明の「電線」が,「シースによって束ねてなる」ものであるのに対し,引用発明の「電線群」がシースによって束ねられていることが特定されていない点。

〈相違点3〉
本件補正発明の「樹脂成形部」が,「前記シースの端部と前記シースの端部から延びる前記電線とを覆」うものであるのに対し,引用発明の「電線群が前記樹脂でモールドされた」部分は,「電線群」がシースの端部とシースの端部から延びる電線を覆うものである点が特定されていない点。

〈相違点4〉
本件補正発明が,「前記6本の電線が2本ずつ3組に分かれたうちの第1の組、第2の組及び第3の組の電線が、それぞれ前記第1分岐電線部の電線、前記第2分岐電線部の電線、及び前記第3分岐電線部の電線であ」るのに対し,引用発明の「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部」がそれぞれ何本の電線であるのかが特定されていない点。

〈相違点5〉
本件補正発明が,「前記第1分岐電線部の電線は、前記第2分岐電線部の電線及び前記第3分岐電線部の電線とは異なる種類の電線であ」るのに対し,引用発明の「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部」の電線がどのような種類の電線であるかは特定されていない点。

4 判断

上記相違点につき検討する。

(1)相違点1,2及び4について
本件補正発明の「電線」が,「6本の電線をシースによって束ね」られているのは,本願明細書段落【0021】に,「複数の電線20、21、22、23、24、25の周囲は、シース27(ジャケットなどとも呼ばれる)によって覆われている。シース27は、樹脂等によって形成された絶縁被覆であり、複数の電線20、21、22、23、24、25の周囲に樹脂を押出被覆等することによって形成される。シース27は省略されてもよい。」と記載され,同段落【0018】?【0020】に,「配線部材10は、複数の電線20、21、22、23、24、25と、樹脂成形部40とを備える。…(中略)…例えば配線部材10が車載される場合、電線20、21はABS(Anti-Lock Brake System:アンチロックブレーキシステム)において、車輪の速度を検出するためのセンサ(図示省略)からの信号を伝達する信号線とすることができる。…(中略)…電線22、23、24、25は、電線20、21と同様に、芯線と、芯線の周囲を覆う被覆とを備える。例えば、電線22、23、24、25は、電力を伝達する電源線である。例えば配線部材10が車載される場合、電線22、23、24、25はEPB(Electric Parking Brake:電動パーキングブレーキ)などに対して電力を供給する電源線とすることができる。」(下線は,特に留意すべき点として当審で付加したものである。)と記載されているように,本件補正発明の「電線」は,ABSセンサ用ケーブルとパーキングブレーキケーブルといった種類の電線が束ねられ,これらがシースと呼ばれるカバーで覆われた電線群を構成したものであるものと理解される。
一方,引用発明2が記載されている引用例2は,本願明細書段落【0003】に,先行技術文献として例示されているものであるところ,「自動車等の電動パーキングブレーキシステムのケーブルと,ABSセンサのケーブルとを一つのシースでまとめた複合ハーネス」は,本願出願前公知なものであったことが窺える。
そして,引用発明2は,「シースの端部で分岐された,ABSセンサ用ケーブルとパーキングブレーキ用ケーブルを有」するととともに,当該「ABSセンサ用ケーブルとパーキングブレーキ用ケーブル」については,「ABSセンサ用ケーブルは,2本の信号線で構成されるとともに,前記パーキングブレーキ用ケーブルは,2本の電源線を有」し,「複合ハーネスの前記シース内に6本の電線(ケーブル)を有する6芯電線で構成してもよ」いものでもある。引用発明と引用発明2とは,ともに自動車等に用いられる電線に係るものである点で技術的に共通するところ,当該引用発明2の存在を前提として,本件補正発明のように,引用発明の「ワイヤハーネスを構成する電線群」の電線を「6本」とし,そのそれぞれを2本ずつ3組に分かれたものとして構成するとともにシースによって束ねたものを採用することは,格別困難であったということはできず,引用発明において,「自動車用のワイヤハーネスを構成する電線群」を6本の電線で構成し(相違点1),シースによって束ねてなるものとする(相違点2)とともに,6本の電線を2本ずつ3組に分かれたうちの第1の組,第2の組及び第3の組の電線として,それぞれ,「第1分岐電線部,第2分岐電線部,及び第3分岐電線部」の電線とすること(相違点4)は,当業者が容易になし得たものと認められる。
したがって,上記相違点1,2及び4は,格別なものとはいえない。

(2)相違点3について
引用発明2は,「止水部とブラケット取付部とがウレタン成形によって一体成形され」たうえ,「前記止水部は,前記シースの端部,前記ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位を覆うように構成されて」いるものであって,当該「ウレタン成形によって一体成形され」た部分は,本件補正発明の「樹脂成形部」に対応するものといえるところ,上記(1)で検討したように,引用発明の「ワイヤハーネスを構成する電線群」の電線を引用発明2のようなシースによって束ねられたような構造を採用することによって,引用発明の「電線群が前記樹脂でモールドされた」部分は,結果として樹脂で覆われることとなる。したがって,引用発明の「樹脂でモールドされた」部分を,「電線群」がシースの端部とシースの端部から延びる電線を覆うように構成すること,すなわち,引用発明において上記相違点3に係る構成をなすことは,当業者にとって格別困難であったということはできない。

(3)相違点5について
引用発明2の「複合ハーネスのシース内には,前記ABSセンサ用ケーブルを構成する2本の信号線と,前記パーキングブレーキ用ケーブルを構成する2本の電源線とが収容されて」いるところ,引用発明2は,異なる種類の電線を含むものであるといえる。
そして,上記(1)で検討したように,引用発明において,引用発明2の電線を採用することに格別困難性は無く,その場合,それぞれのケーブル,すなわち分岐電線の種類をどのようなものとするかは,ワイヤハーネスを構成する電線群が配置される場所に応じて当業者が必要に応じて適宜設計すべき事項に過ぎないものであるから,引用発明の「第1分岐電線部」の電線と,「第2分岐電線部,及び第3分岐電線部」の電線とを異なる種類の電線とすること,すなわち,引用発明において上記相違点5に係る構成をなすことは,当業者にとって格別困難であったということはできない。

(4)むすび
以上検討したとおり,相違点1?5は,引用例1及び引用例2の記載に接した当業者にとってみれば,いずれも格別なものとはいえず,またそのことによる効果も,当業者であれば普通に想起し得る程度のことに過ぎない。
したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用発明2に基づいて当業者が容易になし得たものである。

したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 本件補正についてのむすび

以上のとおり,本件補正は特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明

令和2年10月7日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和2年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば,次のとおり。

「複数の電線をシースによって束ねてなる第1束電線部が第1分岐位置にて第1分岐電線部と第2束電線部とに分岐し、前記第2束電線部が第2分岐位置にて第2分岐電線部と第3分岐電線部とに分岐し、
前記第1分岐位置にて前記シースの端部と前記シースの端部から延びる前記電線とを覆い、前記第1分岐電線部の前記第1分岐位置での伸長方向を保持する第1保持部と、前記第2分岐位置にて前記電線を覆い、前記第2分岐電線部及び前記第3分岐電線部の前記第2分岐位置での伸長方向を保持する第2保持部とを含み、前記第1保持部と前記第2保持部とが一体に形成されている樹脂成形部を備え、
前記第1分岐電線部、前記第2分岐電線部、及び前記第3分岐電線部の電線は、すべて前記第1束電線部から延びており、
前記樹脂成形部は、前記第1保持部と前記第2保持部との間で前記第2束電線部の経路保持をしている、配線部材。」

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1?4に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2003-331663号公報
引用文献2:特開2016-91731号公報
引用文献3:特開平9-35540号公報

3 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2(上記2の引用文献1及び2),並びにその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「電線」,及び「第1分岐電線部の電線」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]の4,5に記載したとおり,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願出願前に頒布された引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-04-01 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2018-190692(P2018-190692)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02G)
P 1 8・ 575- WZ (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中嶋 久雄北嶋 賢二  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 配線部材  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  

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