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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1374772
審判番号 不服2020-7681  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-04 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2016- 17074「力覚提示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-138651、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月1日の出願であって、令和元年8月5日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月9日に意見書が提出され、令和2年3月3日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月4日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がされたものである。
なお、令和2年6月4日にされた手続補正は、明細書に対するものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 特開平7-146751号公報
2 特開2015-31976号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 操作者の操作によって変位する変位部を有する操作部と、
前記変位部の変位量を検出するための変位量検出部と、
前記変位部の変位動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流の大きさに応じた回転抵抗を前記回転部に付与するように構成された回転抵抗発生部と、
予め設定された変位量と電流値の対応情報と、前記変位量検出部が検出する変位量とに基づいて定まる値の電流を前記回転抵抗発生部に供給する制御装置と、
前記変位量検出部が検出する変位量に応じて変形する仮想物体を仮想空間に表示する表示装置と、
を備えることを特徴とする力覚提示装置。」

なお、本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、計算機内部にあるデータとしての仮想物体を、操作者にあたかも存在するかのように感じさせて、造形作業などを計算機内部で行わせ、製品の使い勝手などを、試作することなく事前に体験することができるもの、あるいは、遠方などにある対象物体を、操作者があたかも手元にあるように感じながら操作できるもの等に適用可能な力覚呈示デバイス、データ入力デバイス、およびデータ入力装置に関するものである。」

「【0068】次に、第4の本発明のデータ入力デバイスの一実施例である、各手指の曲がりを入力する部分について説明する。図6はその斜視図である。図1の力覚呈示デバイスと兼用可能な、データ入力デバイス30はケーブル3により、情報処理手段2と接続され、情報処理手段2は表示手段4と接続されている。操作者はデータ入力デバイス30を掌でおおうように把持する。このとき、人差指および中指の先端部分はデータ入力デバイス30の表面上の窪み34、33の上に添えられる。窪み33、34には、圧力センサ31a,31b,31c,31d,31e、32a,32b,32c,32d,32eが搭載されており、指の押す力を検出することができるようになっている。たとえば右手で把持するとして人差指の場合、窪み34に指の腹が添えられ、指を曲げようとする力は圧力センサ32dで検出することができる。また、指を前にずらそうとする力は圧力センサ32aで検出でき、指を手前に戻そうとする力は圧力センサ32eで検出でき、指を右にずらそうとする力は圧力センサ32bで検出でき、指を左にずらそうとする力は圧力センサ32cで検出することができる。圧力センサとしては感圧式の導電ゴムなどが可能である。このようにして検出された指の力は、情報処理手段2に送られ、表示手段4による表示で確認することにより、例えば複数のポインティングデバイスによる複数点の位置情報と等価な情報として用いられる。また、指の力の情報を、遠隔地や仮想物体を操作するための手指あるいは手指に相当する物の曲げ角度として用いることができる。図7は図6で説明したデータ入力デバイス30を添えられる指と直行方向、すなわち窪みの長手方向とは直角に切った断面図である。窪み34は空白で表示されている。また、圧力センサは右から32c,32d,32bが描かれている。また、圧力センサは指の腹に直接当たらないようにカバー36で被われている。指による圧力の変化は増幅回路35c,35d,35bを経て、情報処理手段2へ送られる。
【0069】なお、図9および図10での実施例では指の腹の部分に対して全ての方向の圧力を検出し、同様に全ての方向に対して反力を生じることができる事例で説明しているが、指の押す方向のみの検出および制御することができるデバイスとすることも容易に考えられることである。また、圧力の検出に圧力センサを用いる例で説明しているが、駆動軸42b,42c,42dへの駆動負荷より指が押している力を計算で求める方法でも可能である。また、図6では指の先端部分の腹の部分のみの検出および制御ができる場合を記述しているが、それ以外の指部分の圧力検出および制御も同様の方法で可能であることは明白である。
【0070】図8は、第5の本発明であるデータ入力装置の一実施例を示す斜視図である。図6、図7で説明したデータ入力デバイス30を掌で把持して操作する。データ入力デバイス30に入力された手指の腹の圧力に基づく手指の曲げ意図はケーブル3を通して情報処理手段2に送られて仮想の手指の曲げ角度などに変換される。仮想の手指の曲げ角度は表示手段4により、画面の中で仮想物体40に示すごとく、手指の形状そのままに表示される。このとき、仮想物体41との相互の位置関係も画像として表示されている。操作者はこの表示を見ながらデータ入力デバイスの操作を行うため、容易に仮想物体41の操作が実現できる。なお、図8で用いたデータ入力デバイスには、手の空間の位置及び姿勢を検知する検出器が必要であるが、その形状や取り付け方法については、従来公知であるので、図8ではその具体記述は省略している。
【0071】図9は、第6の本発明である、データ入力デバイス30の指に反力を与える部分の一実施例を示した構成断面図である。指の腹が入る窪み34に対して、図7と同様に圧力検出センサ32c,32d,32bを設ける。各圧力センサは可動部分41c、41d,42bに搭載されており、駆動軸42c,42d,42bを回転させることによりピニオン歯車とラック歯車の関係により、圧力センサを指の当たる方向に移動制御することができる。図9では、駆動方法として回転系の駆動方法で例を示したが、ボイスコイルモータなどによる直進型の電動機を用いて可動部分41c,41d,41bを駆動することなども可能であることは明白である。また圧力センサの代わりに変位検知手段でも可能である。
【0072】図10は、第7の本発明である制御系の構成を示した回路ブロック図である。圧力センサの検出した圧力情報は増幅器35c,35d,35bを経由して情報処理手段2へ送られると共に、比較制御手段45c,45d,45bに送られ、情報処理手段2より送られてきた目標反力値が得られるよう比較制御処理が行われる。比較制御手段45c,45d,45bの出力は駆動軸42c,42d,42bに送られることにより、目標値通りの反力が得られるよう制御される。
…(中略)…
【0075】第8の本発明については、再び図8を用いて説明する。図8は、第8の本発明であるデータ入力装置を使用している一例を示す図でもある。図9、図10で説明したデータ入力デバイス(ここでは力覚呈示デバイス)30を掌で把持して操作する。力覚呈示デバイス30に入力された手指の腹の圧力に基づく手指の曲げ意図はケーブル3を通して情報処理手段2に送られて仮想の手指の曲げ角度などに変換される。仮想の手指の曲げ角度は表示手段4により、画面の中で仮想物体40に示すごとく、手指の形状そのままに表示される。このとき、仮想物体41との相互の位置関係も画像として表示されている。画面上での手指の位置が仮想物体41に当たっている場合は、情報処理手段2は画面を表示しているわけであるので、画面上で指の位置が仮想物体41に接触していることは容易に知ることができる。このとき情報処理手段2は力覚呈示デバイス30に対して反力を大きく与えるように指示を送る。力覚呈示デバイス30では手の指に反力を与えるので操作者は容易に手指の先が仮想物体41に当たっていることを知ることができ、かつ、表示手段4からの画像出力を併せて知ることができるので、より高度な作業が実現できる。例えば、仮想物体41が剛体ではなく、粘土などの弾塑性体の場合などには微妙な変形作業などが可能になる。」

[当審注]
【0071】の「可動部分41c、41d,42b」は、後記【図9】の記載からすると、「可動部分41c、41d,41b」の誤記と認められる。

「【図8】



「【図9】



「【図10】



(2)引用発明1
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「 計算機内部にあるデータとしての仮想物体を、操作者にあたかも存在するかのように感じさせて、造形作業などを計算機内部で行わせ、製品の使い勝手などを、試作することなく事前に体験することができる力覚呈示デバイスであって、
データ入力デバイス30はケーブル3により、情報処理手段2と接続され、情報処理手段2は表示手段4と接続され、操作者がデータ入力デバイス30を掌でおおうように把持するとき、人差指および中指の先端部分はデータ入力デバイス30の表面上の窪み34、33の上に添えられ、窪み33、34には、圧力センサ31a,31b,31c,31d,31e、32a,32b,32c,32d,32eが搭載されており、指の押す力を検出することができるようになっており、圧力センサとしては感圧式の導電ゴムなどが可能であり、
検出された指の力は、情報処理手段2に送られ、表示手段4による表示で確認することにより、例えば複数のポインティングデバイスによる複数点の位置情報と等価な情報として用いられ、また、指の力の情報を、仮想物体を操作するための手指あるいは手指に相当する物の曲げ角度として用いることができ、
データ入力デバイス30に入力された手指の腹の圧力に基づく手指の曲げ意図はケーブル3を通して情報処理手段2に送られて仮想の手指の曲げ角度などに変換され、仮想の手指の曲げ角度は表示手段4により、画面の中で仮想物体40に示すごとく、手指の形状そのままに表示され、このとき、仮想物体41との相互の位置関係も画像として表示され、なお、データ入力デバイスには、手の空間の位置及び姿勢を検知する検出器が必要であり、
各圧力センサは可動部分41c、41d,41bに搭載されており、駆動軸42c,42d,42bを回転させることによりピニオン歯車とラック歯車の関係により、圧力センサを指の当たる方向に移動制御することができ、ボイスコイルモータなどによる直進型の電動機を用いて可動部分41c,41d,41bを駆動することなども可能であり、圧力センサの代わりに変位検知手段でも可能であり、
圧力センサの検出した圧力情報は増幅器35c,35d,35bを経由して情報処理手段2へ送られると共に、比較制御手段45c,45d,45bに送られ、情報処理手段2より送られてきた目標反力値が得られるよう比較制御処理が行われ、比較制御手段45c,45d,45bの出力は駆動軸42c,42d,42bに送られることにより、目標値通りの反力が得られるよう制御され、
力覚呈示デバイス30では手の指に反力を与えるので操作者は容易に手指の先が仮想物体41に当たっていることを知ることができ、かつ、表示手段4からの画像出力を併せて知ることができるので、より高度な作業が実現でき、例えば、仮想物体41が剛体ではなく、粘土などの弾塑性体の場合などには微妙な変形作業などが可能になる、
力覚呈示デバイス。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0004】
しかしながら、ボイスコイルモータを用いて、指先に付与する力覚を指間距離に応じてリアルに再現するには、コイルに流す電流の制御系が複雑になるという問題がある。また、ボイルコイルモータはそもそも大きな推力を発生させることを不得手とするため、簡単な構成で大きな抗力を指先に与えることが容易ではない。例えば、鉄球等の固い物体を掴む際の力覚をリアルに再現することは難しい。
【0005】
本発明は、簡易な構成、構造、制御系でも、遠隔にある物体や仮想物体を手で扱う際の力覚をリアルに再現できる力覚提示システムを提供することを目的とする。」

「【0015】
以下、本発明の実施形態に係る力覚提示システムについて図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の実施形態に係る力覚提示システム100は、操作ユニット10、従動ユニット20、保存・再生ユニット30等で構成されている。この力覚提示システム100では、操作者が操作ユニット10を操作することで、遠隔にある対象物体1を従動ユニット20を介して疑似的に掴むことができ、その力覚を操作ユニット10の操作部においてリアルに再現し、操作者の指先等にあたかもその対象物体1が実在しているかのように感じさせることができる。また、保存・再生ユニット30を利用して上記力覚情報を保存し、その保存した力覚情報を操作ユニット10において再生させることができる。以下、各ユニットについて詳細に説明する。」

「【0016】
<操作ユニット>
操作ユニット10は、図2に示すように、回転抵抗発生装置50、操作部12、回転力伝達機構13、回転量検出部14、ケーシング16等で構成されている。
【0017】
回転抵抗発生装置50は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させることにより、回転軸(回転部)51の回転抵抗を変化させる。回転軸51は、後述する操作部12の変位部(第2把持部12b)の変位動作(回転動作)に連動して回転する。後に、この回転抵抗発生装置50の構成例を示す。」

「【0019】
回転力伝達機構13は、操作部12の支軸17に固設された駆動プーリ13aと、回転抵抗発生装置50の回転軸51に固設された従動プーリ13bと、これらプーリ13a,13b間で動力を伝達するように巻き掛けられた無端ベルト13cとで構成されている。この回転力伝達機構13により、回転抵抗発生装置50における回転抵抗が操作部12の第2把持部12bに伝達される。」

「【0032】
<従動ユニット>
次に、従動ユニット20について説明する。従動ユニット20は、図3に示すように、従動部22、反力検出部23、制御部21、ケーシング25等で構成されている。
【0033】
従動部22は、操作ユニット10から送られてくる変位量(回転量)の情報に応じて、変位(回転)するものである。図3に例示する従動部22は、互いに平行に配置された2つのサーボモータ26の出力軸26aに、それぞれ基端部が固定された左右のアーム22L,22Rで構成されている。これらのアーム22L,22Rは左右対称形状をしており、それらの先端面22La,22Lbは互いに略向かい合っている。2つのサーボモータ26は、互いに反対方向に同じ速度で回転するように制御され、これにより、アーム22L,22Rの先端面22La,22Lbが互いに接近離反するようになっている。両アーム22L,22Rの先端面22La,22Lbにより、所定の大きさの対象物体1を挟持することができる。
【0034】
反力検出部23は、従動部22が対象物体1を挟持する(対象物体に触れる)ことにより発生する従動部22への反力を検出する。図3に例示する反力検出部23は、一方のアーム22Rに、回転半径に直交する方向にスリット22Rbを形成し、そのスリット22Rbに隙間なく挿入された圧力センサ27等によって構成されている。この圧力センサ27によれば、左右のアーム22L,22Rが対象物体1を挟持する際にアーム22R内に発生する応力に応じた荷重が検出される。この検出荷重および所定のパラメータに基づいて、左右のアーム22L,22Rが対象物体1から受ける反力を求めることができる。」
【0035】
制御部21は、マイクロコンピュータなどで構成される。この制御部21には、図1に示すように、回転量検出部14から第2把持部12bの回転量に関する情報と、圧力センサ27の出力値と、電流上限値調整器28からの電流上限値指示信号と、ゲイン調整器28bからのゲイン指示信号と、オフセット量調整器28cからのオフセット量指示信号とが入力される。また、制御部21には、図5(a)に示すような、圧力センサ27の出力から得られる反力[N]と回転抵抗発生装置50に供給すべき電流値[A]との関係が記憶されている。なお、制御部21には、サーボモータ26を駆動するためのコントローラや、回転抵抗発生装置50へ電流を供給するための電流供給装置なども含まれている。
…(中略)…
【0037】
アーム22L,22Rの先端面22La,22Ra同士の間に対象物体1を配置し、その対象物体1をアーム22L,22Rの先端面22La,22Ra間に挟持すると、圧力センサ27の出力値が上昇する。この出力値は挟持力の大きさに比例して大きくなる。制御部21は、この出力値から得られる対象物体1の反力をパラメータとして、図5(a)に示した、反力[N]と電流値[A]との関係から、電流値を読み出し、更に、読み出したその電流値にゲイン調整器28bから指示されるゲインを乗じた値であって、かつ、電流上限値調整器28aが指示する電流値を上限とする電流を回転抵抗発生装置50のコイル57に供給する。電流値の上限を設けるのは、コイル57の焼損防止のためである。なお、制御部21は、コイル57への供給電流値を第1表示部29aにデジタル表示し、対象物体1の反力を第2表示部29bにデジタル表示する。」

「【0038】
<保存・再生ユニット>
保存・再生ユニット30は、図1に示すように、メモリ等の記憶装置で構成される情報記憶部31と、情報記憶部31に力覚情報を書き込んだり、書き込まれた力覚情報を読みだしたりする保存・再生制御部32と、ユーザが保存又は再生を指示するための操作部33とを備えている。なお、保存・再生制御部32は、図5(a)に示したような、対象物体1の反力[N]と回転抵抗発生装置50に供給すべき電流値[A]との関係を記憶している。また、保存・再生制御部32には、回転抵抗発生装置50への電流供給装置なども含まれている。この情報記憶部31に書き込まれる力覚情報は、前述したように実際に従動ユニット20のアーム22L,22Rに対象物体1を挟持させて得た情報でもよいし、仮想物体を想定して作成した、擬似的なものであってもよい。
【0039】
この保存・再生ユニット30において、操作部33の保存ボタン33aを押下すると、現在、保存・再生制御部32に入力されている第2把持部12bの回転量(例えば角度[θ])と、アーム22Rに備え付けられた圧力センサ27の出力値から得られる対象物体1の反力[N]とが対応付けて保存される。そして、第2把持部12bを可動範囲で回転(変位)させることで、図5(b)に例示するような、第2把持部12bの回転量と、対象物体1の反力との関係が保存・再生制御部32により力覚情報として情報記憶部31に書き込まれる。
【0040】
第2把持部12bの回転量と、対象物体1の反力との関係が情報記憶部31に書き込まれた後は、操作部33の再生ボタン33bを押下することで、保存・再生制御部32は、操作ユニット10側から入力されている第2把持部12bの回転量に対応する反力を、図5(b)に示す関係から読み出す。そして、読み出したその反力を図5(a)に示した関係に当てはめて得られる値の電流を回転抵抗発生装置50のコイル57に供給する。これにより、供給される電流値に応じて回転抵抗発生装置50の回転軸51の回転抵抗が変化し、第2把持部12bに対して、変位に応じた抵抗が付与され、操作者は、対象物体1が無くても、指先にあたかもその物体が実在しているかのように感じる。なお、この保存・再生ユニット30においても、従動ユニット20で説明したように、ゲイン調整機能、電流上限値の設定機能等を持たせてもよい。」

「【図1】



「【図4】



「【図5】



(2)引用発明2
したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「 ボイスコイルモータを用いて、指先に付与する力覚を指間距離に応じてリアルに再現するには、コイルに流す電流の制御系が複雑になるという問題の解決のために、簡易な構成、構造、制御系でも、遠隔にある物体や仮想物体を手で扱う際の力覚をリアルに再現できる力覚提示システムであって、
力覚提示システム100は、操作ユニット10、従動ユニット20、保存・再生ユニット30等で構成され、力覚提示システム100では、操作者が操作ユニット10を操作することで、遠隔にある対象物体1を従動ユニット20を介して疑似的に掴むことができ、その力覚を操作ユニット10の操作部においてリアルに再現し、操作者の指先等にあたかもその対象物体1が実在しているかのように感じさせることができ、また、保存・再生ユニット30を利用して上記力覚情報を保存し、その保存した力覚情報を操作ユニット10において再生させることができ、
操作ユニット10は、回転抵抗発生装置50、操作部12、回転力伝達機構13、回転量検出部14、ケーシング16等で構成され、
回転抵抗発生装置50は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させることにより、回転軸(回転部)51の回転抵抗を変化させ、回転軸51は、操作部12の変位部(第2把持部12b)の変位動作(回転動作)に連動して回転し、
回転力伝達機構13により、回転抵抗発生装置50における回転抵抗が操作部12の第2把持部12bに伝達され、
従動ユニット20は、従動部22、反力検出部23、制御部21、ケーシング25等で構成され、
従動部22は、操作ユニット10から送られてくる変位量(回転量)の情報に応じて、変位(回転)するものであり、
反力検出部23は、圧力センサ27等によって構成され、圧力センサ27によれば、左右のアーム22L,22Rが対象物体1を挟持する際にアーム22R内に発生する応力に応じた荷重が検出され、この検出荷重および所定のパラメータに基づいて、左右のアーム22L,22Rが対象物体1から受ける反力を求めることができ、
制御部21には、圧力センサ27の出力から得られる反力[N]と回転抵抗発生装置50に供給すべき電流値[A]との関係が記憶されており,
制御部21は、この出力値から得られる対象物体1の反力をパラメータとして、反力[N]と電流値[A]との関係から、電流値を読み出し、更に、読み出したその電流値にゲイン調整器28bから指示されるゲインを乗じた値であって、かつ、電流上限値調整器28aが指示する電流値を上限とする電流を回転抵抗発生装置50のコイル57に供給し、
保存・再生ユニット30は、情報記憶部31と、保存・再生制御部32と、操作部33とを備え、保存・再生制御部32は、対象物体1の反力[N]と回転抵抗発生装置50に供給すべき電流値[A]との関係を記憶しており、
保存・再生ユニット30において、操作部33の保存ボタン33aを押下すると、第2把持部12bを可動範囲で回転(変位)させることで、第2把持部12bの回転量と、対象物体1の反力との関係が保存・再生制御部32により力覚情報として情報記憶部31に書き込まれ、
第2把持部12bの回転量と、対象物体1の反力との関係が情報記憶部31に書き込まれた後は、操作部33の再生ボタン33bを押下することで、保存・再生制御部32は、操作ユニット10側から入力されている第2把持部12bの回転量に対応する反力を、読み出し、読み出したその反力から得られる値の電流を回転抵抗発生装置50のコイル57に供給し、これにより、供給される電流値に応じて回転抵抗発生装置50の回転軸51の回転抵抗が変化し、第2把持部12bに対して、変位に応じた抵抗が付与され、操作者は、対象物体1が無くても、指先にあたかもその物体が実在しているかのように感じる、
力覚提示システム。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明1の「データ入力デバイス30はケーブル3により、情報処理手段2と接続され、情報処理手段2は表示手段4と接続され、操作者がデータ入力デバイス30を掌でおおうように把持するとき、人差指および中指の先端部分はデータ入力デバイス30の表面上の窪み34、33の上に添えられ、窪み33、34には、圧力センサ31a,31b,31c,31d,31e、32a,32b,32c,32d,32eが搭載されており、指の押す力を検出することができる」との構成からすると、「データ入力デバイス30」は、操作者が掌でおおうように把持し、指の先端部分を表面上の窪み33、34に添え、指の押す力により「データ」を「入力」する「デバイス」と把握することができるから、「操作部」といい得るものである。
また、上記の構成からすると、「データ入力デバイス30」は「圧力センサ」を備えるが、「圧力センサの代わりに変位検知手段でも可能であり」との構成を採用した場合には、「圧力センサ」に替えて「変位検出手段」を備えることとなる。そして、「圧力センサ」が、「指の押す力を検出する」ものであることを考慮すれば、「変位検出手段」は、指による押す操作によって、押す対象である「データ入力デバイス30」の一部が変位し、その「変位量」を検出するものとなる。
そうすると、変位する「データ入力デバイス30」の一部は、操作者の操作によって変位する「変位部」といい得るものである。
よって、引用発明1の「データ入力デバイス30」は、本願発明1の「操作者の操作によって変位する変位部を有する操作部」に相当する。

イ 前記アを参酌すると、引用発明1の「変位検出手段」は、本願発明1の「前記変位部の変位量を検出するための変位量検出部」に相当する。

ウ 引用発明1の「圧力センサは可動部分41c、41d,41bに搭載されており、駆動軸42c,42d,42bを回転させることによりピニオン歯車とラック歯車の関係により、圧力センサを指の当たる方向に移動制御することができ」との構成によれば、「駆動軸42c,42d,42b」は回転する「回転部」といい得るものである。
もっとも、前記アにおいて、「圧力センサ」に代えて「変位検出手段」を採用した場合に、変位する「データ入力デバイス30」の一部の変動に連動して前記「駆動軸42c,42d,42b」が回転する構成になるとは限らない。(引用発明1は、「圧力センサとしては感圧式の導電ゴムなどが可能であり」との構成を備えることを参酌すれば、「変位検出手段」は、窪み33、34に搭載されたゴムの変位量を検出するものである可能性があり、そうすると、当該ゴムの変位に連動して「駆動軸42c,42d,42b」が回転する構成とはならない。)
また、引用発明1は、「圧力センサの検出した圧力情報は増幅器35c,35d,35bを経由して情報処理手段2へ送られると共に、比較制御手段45c,45d,45bに送られ、情報処理手段2より送られてきた目標反力値が得られるよう比較制御処理が行われ、比較制御手段45c,45d,45bの出力は駆動軸42c,42d,42bに送られることにより、目標値通りの反力が得られるよう制御され」との構成を備えることから、「駆動軸42c,42d,42b」は「データ入力デバイス30」に「反力」を与える、反力付与手段といい得るものである。
一方、本願発明1の「回転抵抗発生部」は、操作部の変位部の変位動作に連動して回転する回転部に対して回転抵抗を付与するものであるから、結果として、回転部を介して操作部に対して反力を与える、反力付与手段といい得るものである。
そうすると、引用発明1と、本願発明1の「前記変位部の変位動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流の大きさに応じた回転抵抗を前記回転部に付与するように構成された回転抵抗発生部」とは、「回転する回転部を有し、前記操作部に反力を与える反力付与手段」である点において共通する。

エ 前記ウを参酌すると、引用発明1は、「圧力センサの検出した圧力情報」に基づいて、「増幅器35c,35d,35b」、「情報処理手段2」及び「比較制御手段45c,45d,45b」が協働して、「駆動軸42c,42d,42b」を制御して、目標値どおりの反力が得られるように制御するものであるから、「増幅器35c,35d,35b」、「情報処理手段2」及び「比較制御手段45c,45d,45b」は、「制御装置」といい得るものである。また、「駆動軸42c,42d,42b」を制御する際に、電流を供給することは自明であり、また、「圧力センサ」に代えて「変位検出手段」を採用した場合においては、「圧力情報」に代えて「変位量」が検出されることとなる。
以上からすると、引用発明1の前記「制御装置」は、変位検出手段が検出する変位量に基づいて電流を供給するものといえる。
よって、引用発明1の前記「制御装置」と、本願発明1の「予め設定された変位量と電流値の対応情報と、前記変位量検出部が検出する変位量とに基づいて定まる値の電流を前記回転抵抗発生部に供給する制御装置」とは、「前記変位量検出部が検出する変位量に基づいて電流を前記反力付与手段に供給する制御装置」である点において共通する。

オ 引用発明1の「データ入力デバイス30に入力された手指の腹の圧力に基づく手指の曲げ意図はケーブル3を通して情報処理手段2に送られて仮想の手指の曲げ角度などに変換され、仮想の手指の曲げ角度は表示手段4により、画面の中で仮想物体40に示すごとく、手指の形状そのままに表示され、このとき、仮想物体41との相互の位置関係も画像として表示され」との構成において、表示手段4(表示装置)に表示されるものは「仮想物体40」であるから、これが表示される画面は、「仮想空間」といい得るものである。
よって、引用発明1の「表示手段4」と、本願発明1の「前記変位量検出部が検出する変位量に応じて変形する仮想物体を仮想空間に表示する表示装置」とは、「仮想物体を仮想空間に表示する表示装置」である点において共通する。

カ 引用発明1の「力覚呈示デバイス」は、本願発明1の「力覚提示装置」に相当する。

(2)一致点、相違点
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 操作者の操作によって変位する変位部を有する操作部と、
前記変位部の変位量を検出するための変位量検出部と、
回転する回転部を有し、前記操作部に反力を与える反力付与手段と、
前記変位量検出部が検出する変位量に基づいて電流を前記反力付与手段に供給する制御装置と、
仮想物体を仮想空間に表示する表示装置と、
を備えることを特徴とする力覚提示装置。」

[相違点]
<相違点1>
「反力付与手段」が、本願発明1は、「前記変位部の変位動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流の大きさに応じた強さの磁場を内部に封入された磁気粘性流体に付与して、当該電流の大きさに応じた回転抵抗を前記回転部に付与するように構成された回転抵抗発生部」であるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

<相違点2>
「制御装置」が、本願発明1は、「予め設定された変位量と電流値の対応情報と、前記変位量検出部が検出する変位量とに基づいて定まる値の電流を前記回転抵抗発生部に供給する」ものであるのに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

<相違点3>
「表示装置」が表示する「仮想物体」が、本願発明1は、「前記変位量検出部が検出する変位量に応じて変形する仮想物体」であるのに対し、引用発明1は、「力覚呈示デバイス30では手の指に反力を与えるので操作者は容易に手指の先が仮想物体41に当たっていることを知ることができ、かつ、表示手段4からの画像出力を併せて知ることができるので、より高度な作業が実現でき、例えば、仮想物体41が剛体ではなく、粘土などの弾塑性体の場合などには微妙な変形作業などが可能になる」と、仮想物体の変形について記載があるものの、「変位量に応じて変形する仮想物体」を表示することについて具体的に特定するものではない点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて、先に相違点2について検討する。
引用発明2は、操作部12の変位部の変位動作に連動して回転する回転軸51に対する回転抵抗を変化させる回転抵抗発生装置50と、反力と電流値との関係を予め対応付けて記憶している保存・再生ユニット30とを備え、保存・再生ユニット30は、操作部33の保存ボタン33aを押下することにより、第2把持部12b(回転軸51)の回転量と、対象物体1の反力との関係を力覚情報として記憶し、その後、操作部33の再生ボタン33bを押下することで、操作ユニット10側から入力されている第2把持部12b(回転軸51)の回転量に対応する反力を読み出し、読み出したその反力から得られる値の電流を回転抵抗発生装置50のコイル57に供給するものである。
すると、引用発明2は、反力と電流値とを対応付けた対応情報と、変位量と反力とを対応付けた力覚情報とから、変位量に対する電流値が定まるものであるから、「予め設定された変位量と電流値の対応情報と、前記変位量検出部が検出する変位量とに基づいて定まる値の電流を前記回転抵抗発生部に供給する」ものとはいえない。
仮に、引用発明2において、反力と電流値と対応付けた対応情報と変位量と反力とを対応付けた力覚情報とを結合して、「変位量と電流値の対応情報」を生成して予め設定することが容易であるとしても、引用発明1に、引用発明2の技術事項を適用した上で、変位量と電流値の対応情報を生成して予め設定するように変更することはいわゆる「容易の容易」となり、容易想到ということはできない。
したがって、上記相違点1及び3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3も、本願発明1の「予め設定された変位量と電流値の対応情報と、前記変位量検出部が検出する変位量とに基づいて定まる値の電流を前記回転抵抗発生部に供給する制御装置」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし3は、当業者が引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-01 
出願番号 特願2016-17074(P2016-17074)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 滝谷 亮一  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
林 毅
発明の名称 力覚提示装置  
代理人 芦北 智晴  

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