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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1374819
審判番号 不服2020-2577  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2021-06-09 
事件の表示 特願2017-513517「焼結ブランク」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日国際公開、WO2016/037199、平成29年10月19日国内公表、特表2017-530763〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2015年(平成27年)7月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年9月12日 (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 2月26日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月31日付け:拒絶査定
令和 2年 2月26日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、令和元年6月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも1つの焼結プロセスにより歯科用補綴物を製造する焼結ブランク(1)であって、
前記焼結ブランク(1)は、前記歯科用補綴物が得られる少なくとも1つの成形体(2)と、前記焼結プロセス後に除去される少なくとも1つの桟部材(3)と、を有し、
前記桟部材(3)は、前記焼結プロセス中に基準面(5)において前記桟部材(3)を支持するための少なくとも1つの摺動突出部(4)を有することを特徴とする焼結ブランク(1)。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
本願発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。
引用文献:特表2010-528731号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献には、「歯科ブリッジを形成するための方法及び装置」に関して、以下の事項が記載されている。(「・・・」は省略を表し、下線は当審が付与した。以下同様である。)
(1) 「【0044】
・・・第一焼結操作は、物体3がその最終密度に到達せず、得られたブランク21が容易に機械加工されるほど十分に柔らかいような方法で実施される。機械加工操作はブランク21を中間製品4に変形する。かかる中間製品の幾つかの例が図6?11に概略的に示されている。図6?11に示された実施形態では、中間製品4は、矩形横断面を持つブランク21から形成されてもよい。代替例として、図6?11は、元々円柱形のブランクであるがブランクの部分が切断されてブランクに二つの対向する平坦な面を与えるようにしたブランクから形成された物体を表示するものとして理解されることができるだろう。図6を参照すると、中間製品4はブリッジ構造体5を含み、それは最終的には、患者の口内に配置されることができる歯科ブリッジ1になるだろう。中間製品4はまた、支持体6からブリッジ構造体5まで延びる一つ又は複数の保持部分7によってブリッジ構造体5に連結された支持体6を含む。保持部分7はスポーク又は棒として造形されることができる。」
(2) 「【0048】
中間製品4が形成されたとき、それは焼結炉20に配置され、再び焼結されることができる。焼結炉は第一焼結操作のために使用されるのと同じ焼結炉20であってもよいが、それはまた、別個の焼結炉であることができるだろう。第二焼結操作は1200℃?1650℃の範囲の温度で実施されてもよい。例えば、第二焼結操作は1500℃の温度で2時間実施されてもよい。第二焼結操作のため、中間製品4は、保持部分7(例えばスポーク7)が少なくとも部分的に垂直方向に延びる位置に配置される。これはその縁の一つの上に立設する中間製品4を配置することによってなされることができる。図8a及び図8bを参照すると、中間製品4は、ブリッジ構造体5が保持部分7(例えばスポーク)上に載るように立設して示されている。保持部分7は直立して立設し、垂直方向に延びる。従って、それらはブリッジ構造体5を支持するだろう。中間製品がその位置で配置されるとき(即ち、立設)、第二焼結操作が実施される。第二焼結操作は最終的な焼結操作であり、その間、ブリッジ構造体5は患者の口内に配置されるように十分に固くかつ硬くなるだろう。即ち、それはその最終密度に到達するだろう。最終密度は典型的には、酸化ジルコニウムに基づく物体では約6.0?6.1g/cm^(3)であってもよい。・・・」
(3) 「【0049】
第二焼結操作後、保持部分(単数又は複数)7はブリッジ構造体5から除去される。これは、保持部分(単数又は複数)がブリッジ構造体5の近くで、即ちブリッジ構造体5に隣接する保持部分7の端で少し弱いなら一層容易になされることができる。図10では、どのようにして保持部分7がより細い、即ちより小さい横断面を有する部分19を持ちうるかが示される。これは保持部分を破壊するのを容易にするだけでなく、ブリッジ構造体が支持体6から分離されたときに保持部分7の残り50を除去しやすくする。保持部分の残り50は例えば研削によって除去されてもよい。」
(4) 「【0050】
本発明はさらに、図12?15を参照して説明されるだろう。図12?15では、ブリッジ構造体5は、患者の口の大部分をカバーすることを意図されるアーチを形成し、患者の上又は下顎の全ての又は実質的に全ての歯がブリッジによって置き換えられなければならない場合においておそらく使用されることができるだろう。図でわかるように、ブリッジ構造体はアーチ8を形成し、中間製品4は、支持体6をブリッジ構造体5に接続する幾つかの保持部分7を含む。・・・」
(5) 「【0052】
第二焼結操作時に変形を起こしうるのは重力だけではない。変形は摩擦力によっても起こされうる。これはもちろん、図6?11に示された実施形態と図12?15に示された実施形態の両方に対して当てはまる。中間製品4が焼結されるとき、それはある程度収縮し、(支持体のような)他の物体との全ての接触は摩擦力を起こしうる。もしブリッジ構造体5が第二焼結操作時に支持体上に直接載るべきであるなら(支持体6又は保持部分7とは別個の支持体)、ブリッジ構造体5と支持体の間の摩擦による力はブリッジ構造体の変形を起こすことができるだろう。これが起こることを防止するために、中間製品4は、ブリッジ構造体5が第二焼結操作時に保持部分(単数又は複数)7によってのみ支持されるように配置されることができる。もしブリッジ構造体5が保持部分(単数又は複数)によってのみ支持されるなら、ブリッジ構造体に直接作用する摩擦力は避けられることができる。」
(6) 「【0053】
しかしながら、もし支持体6に作用する摩擦力も第二焼結操作時に減少されることができるなら、変形はさらに減少されることができる。第二焼結操作時の摩擦力を減少する幾つかの異なる方法が以下において説明される。」
(7) 「【0059】
図18では、焼結支持体10が中間製品4のための平坦な支持表面を与えるように造形される解決策が示される。しかしながら、中間製品4の支持体6は例えば図12に示されたアーチ状表面13を持たない。その代わり、それは、焼結支持体10と中間製品4の間の二つの接触点(又は接触線)だけが存在するように二つの別個の脚35,36を持つ。従って、摩擦による力は第二焼結操作時に中間製品に対してかかる大きな影響を持たないだろう。結果として、摩擦力による変形は減少され、従って最終製品はより高い精度で製造されることができる。図18に示された形状を用いると、別個の焼結支持体は必要とされず、中間製品4は加熱炉(焼結炉)に直接に配置されることができる。摩擦を最小にするために、平坦な支持表面は、表面粗さ、従って摩擦を減少するために例えば研削することによって処理されてもよい。」
(8) 「【0063】
図16を参照すると、本願はまた、歯科ブリッジ1を製造するための装置に関することが理解されるべきである。この装置は少なくとも一つの加熱炉20を含み、そこではセラミック材料は予め決められた形状を有する固形ブランク21に成形されてもよく、又は予め焼結された物体は追加の焼結操作を受けてもよい。この装置はさらに、予備成形された中間製品が追加の焼結操作時に載りうる焼結支持体10を含む。焼結支持体は、加熱炉に配置されるとき、前に説明されているように水平面に対して傾斜される少なくとも一つの表面11を与えうる焼結支持体10又は回転体として造形された複数の要素16の少なくとも一つを含む。焼結支持体10はV-ブロック12の形状をとってもよい。」
(9) 「【図18】



2 上記1から、以下の点が理解できる。
(1) 上記1(1)及び(2)のそれぞれの下線部の記載より、中間製品4に対して第二焼結操作が実施されることにより、当該中間製品4のブリッジ構造体5は、患者の口内に配置されることができる歯科ブリッジ1になると認められる。換言すれば、第二焼結操作により、中間製品4のブリッジ構造体5から歯科ブリッジ1が得られると認められる。これより、第二焼結操作により、中間製品4は歯科ブリッジ1を製造すると認められる。
(2) 上記1(1)、(3)及び(4)のそれぞれの下線部の記載より、第二焼結操作の後、保持部材7がブリッジ構造体5から除去され、これにより、保持部材7によってブリッジ構造体5に接続される支持体6も該ブリッジ構造体5から除去されると認められる。換言すれば、支持体6は、第二焼結操作後に除去されると認められる。
(3) 上記1(2)、(7)及び(8)のそれぞれの下線部の記載より、支持体6は、第二焼結操作の間、該支持体6が持つ二つの別個の脚35、36によって、焼結支持体10の平坦な支持表面において支持されると認められる。換言すれば、支持体6は、第二焼結操作中に焼結支持体10の平坦な支持表面において前記支持体6を支持する脚35、36を有すると認められる。
(4) 上記1(9)の図示内容より、二つの別個の脚35、36は、支持体6から突出する点が看取される。

3 上記1及び2を踏まえると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも1つの第二焼結操作により歯科ブリッジ1を製造する中間製品4であって、
前記中間製品4は、前記歯科ブリッジ1が得られる少なくとも1つのブリッジ構造体5と、前記第二焼結操作後に除去される少なくとも1つの支持体6と、を有し、
前記支持体6は、前記第二焼結操作中に焼結支持体10の平坦な支持表面において前記支持体6を支持するために前記支持体6から突出する脚35、36を有する中間製品4。」


第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「第二焼結操作」は本願発明の「焼結プロセス」に相当し、以下同様に「歯科ブリッジ1」は「歯科用補綴物」に、「中間製品4」は「焼結ブランク」に、「ブリッジ構造体5」は「成形体」に、「支持体6」は「桟部材」に、「焼結支持体10の平坦な支持表面」は「基準面」にそれぞれ相当する。
引用発明の「脚35、36」は、本願発明の「摺動突出部」と、支持体6を支持するために前記支持体6から突出している突出部である点において共通する。

2 したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致している。
「少なくとも1つの焼結プロセスにより歯科用補綴物を製造する焼結ブランクであって、
前記焼結ブランクは、前記歯科用補綴物が得られる少なくとも1つの成形体と、前記焼結プロセス後に除去される少なくとも1つの桟部材と、を有し、
前記桟部材は、前記焼結プロセス中に基準面において前記桟部材を支持するための少なくとも1つの突出部を有する焼結ブランク。」

3 また、本願発明と引用発明とは、下記[相違点]で一応相違する。
[相違点] 本願発明における突出部は、摺動突出部であるのに対し、引用発明における突出部は、摺動突出部といえるか不明である点。


第6 判断
1 [相違点]について
上記[相違点]について検討する。
上記第4の1(5)及び(6)のそれぞれの下線部によれば、引用発明において、第二焼結操作によって中間製品4が焼結されると、該中間製品4は収縮し、このとき、該中間製品4と他の物体との全ての接触において摩擦力が生じる。さらに、支持体6に作用する摩擦力を減少することができれば、該中間製品4のブリッジ構造体5の変形を減少することができる。
また、上記第4の1(7)の下線部によれば、引用発明において、摩擦力による中間製品4の変形を減少するべく、該中間製品4と脚35、36を介して接触する焼結支持体10の平坦な支持表面は、摩擦を減少するために研削されている。
したがって、引用発明においては、第二焼結操作の際に中間製品4が収縮することによって、脚35、36と焼結支持体10の平坦な支持表面との間に摩擦力が生じるところ、前記平坦な支持表面を研削することによって前記摩擦力を減少させることにより、前記中間製品4の変形を減少させている。
ここで、前記脚35、36と前記平坦な支持表面との間に生じる摩擦力のうち、前記平坦な支持表面を研削することによって減少する摩擦力としては、最大静止摩擦力又は動摩擦力がある。そして、この最大静止摩擦力又は動摩擦力が減少すると、中間製品4が収縮したときに、脚35、36が平坦な支持表面に対して摺動しやすくなり、これにより、前記中間製品4の変形を減少させることができる。したがって、引用発明においては、前記中間製品4が収縮することによる前記中間製品4の変形を減少するために、前記脚35、36は、前記平坦な支持表面に対して摺動するといえる。
また、本願の優先日の技術常識を考慮しても、中間製品4の変形の減少という目的に鑑みれば、脚35、36と焼結支持体10の平坦な支持表面との間の摩擦力の減少によって、前記脚35、36を前記平坦な支持表面に対して摺動させていることは明らかである。
以上より、引用発明の「脚35、36」は、焼結支持体10の平坦な支持表面に対して摺動するといえるから、本願発明の「摺動突出部」に相当する。
よって、上記[相違点]は、実質的な相違点であるとはいえない。

2 請求人の主張について
(1) なお、請求人は、平成2年2月26日提出の審判請求書「3.本願発明が特許されるべき理由」において、要するに、下記[主張]に示す点を主張している。
[主張] 引用文献の段落【0059】には、「その代わり、それは、焼結支持体10と中間製品4の間の二つの接触点(又は接触線)だけが存在するように二つの別個の脚35,36を持つ。」との記載があり、「接触点」と「接触線」とが代替的に並べられているが、二つの接触点では、焼結支持体10の上に中間製品4の支持体6が自立できないことは明らかである。中間製品4の支持体6を焼結支持体10の載置面上に自立させるためには、脚35、36と焼結支持体10との接触の態様が、点接触ではなく、線接触である必要がある。

(2) 上記[主張]について検討する。
本願発明においては、摺動突出部と基準面との接触の態様を特定していない。すなわち、本願発明には、点接触であるもの及び線接触であるものの両者が包含されると解されるのであるから、上記[主張]にあるとおり、引用発明において、脚35、36と焼結支持体10との接触の態様が点接触ではなく線接触であったとしても、この点において本願発明と引用発明とに相違するところはない。
よって、上記[主張]は採用することができない。

3 小括
したがって、本願発明と引用発明とに相違するところはないから、本願発明は、引用文献に記載された発明である。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-08 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-25 
出願番号 特願2017-513517(P2017-513517)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 胡谷 佳津志  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 角田 貴章
莊司 英史
発明の名称 焼結ブランク  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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