• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1374866
異議申立番号 異議2020-700335  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-13 
確定日 2021-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6604000号発明「インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6604000号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6604000号の請求項1、2、4?9に係る特許を維持する。 特許第6604000号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6604000号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成27年2月24日に出願され、令和元年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?9に係る特許に対し、令和2年5月13日に特許異議申立人渡辺陽子により特許異議の申立てがされ、当審は、同年7月14日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年9月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月30日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年10月29日及び11月2日に意見書を提出した。当審は、同年12月2日付けで訂正拒絶理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和3年1月5日に意見書及び手続補正書の提出を行った。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1?5からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含」むことを特定するとともに、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」ること及び「前記一般式 (2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」することを特定する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、5?9も同様に訂正する)。
さらに、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」を特定する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、5?9も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を、請求項1及び請求項3を引用するものについて独立形式に改め、「一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」ること及び「一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」することを特定する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5?9も同様に訂正する)。
さらに、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」を特定する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5?9も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5?9の引用関係について、次のように訂正する。
ア 請求項5について、請求項1?4のいずれか1項を引用するものから、請求項1?2、4のいずれか1項を引用するものに訂正する。
イ 請求項6について、請求項1?5のいずれか一項を引用するものから、請求項1?2、4?5のいずれか一項を引用するものに訂正する。
ウ 請求項7について、請求項1?6のいずれか一項を引用するものから、請求項1?2、4?6のいずれか一項を引用するものに訂正する。
エ 請求項8について、請求項1?7のいずれか一項を引用するものから、請求項1?2、4?7のいずれか一項を引用するものに訂正する。
オ 請求項9について、請求項1?7のいずれか一項に記載のインクジェット組成物または請求項8に記載のインクセットを引用するものから、請求項1?2、4?7のいずれか一項に記載のインクジエットインク組成物または請求項8に記載のインクセットを引用するものに、それぞれ訂正する。

(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の0044段落に記載された「式(1)で表される化合物」を「式(2)で表される化合物」に訂正する。

(6)別の訂正単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項4と、訂正後の請求項4の記載を引用する訂正後の請求項5?9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、溶剤として一般式(2)で表される化合物の1種以上を含むこと及び環状エステル化合物の具体的な成分については特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1は、「溶剤として一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み」との記載、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」るとの記載、「前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」するとの記載により、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものである。
また、訂正後の請求項1は、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
同様に、訂正後の請求項2、5?9は、訂正後の請求項1の上記の記載を引用することにより、訂正後の請求項2、5?9に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、以下のとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される構成である。
すなわち、本件特許明細書の段落【0036】には、「溶剤として一般式(2)で表される化合物(グリコールエーテルともいう)を含有することが好ましい。」と記載されており、段落【0042】には、一般式(2)で表される化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する合計の含有量が記載されており、下限値「65.5質量%」は実施例の数値(例えば、組成物No.13のインク)として記載されており、段落【0044】には、一般式(2)で表される化合物のうち、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有すること及びその作用効果が記載されており、段落【0029】には、環状エステルの具体例の一つとしてγ-ブチロラクトンが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2、5?9の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2、5?9の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項2、5?9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項3の記載を引用する記載であるところ、請求項3を引用しないものとした上で、請求項1及び請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であるといえる。
また、訂正後の請求項4は、訂正前の請求項2を引用する請求項3の引用を削除するものであるから、当該訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
さらに、訂正後の請求項4は、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上90質量%以下であ」るとの記載、「前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」するとの記載、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」との記載により、訂正後の請求項4に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものといえる。
同様に、訂正後の請求項5?9は、訂正後の請求項4の上記の記載を引用することにより、訂正後の請求項5?9に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものといえる。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものでもあるといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、以下のとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される構成である。
すなわち、本件特許明細書の段落【0042】には、一般式(2)で表される化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する合計の含有量が記載されており、下限値「65.5質量%」は実施例の数値(例えば、組成物No.13のインク)として記載されており、段落【0044】には、一般式(2)で表される化合物のうち、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有すること及びその作用効果が記載されており、段落【0029】には、環状エステルの具体例の一つとしてγ-ブチロラクトンが記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正後の請求項4に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載を引用する訂正前の請求項5?9の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項4の記載は、訂正前の請求項4との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載以外に、訂正前の請求項5?9の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項5?9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項5?9のそれぞれについて引用する請求項数を滅縮するものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、請求項5?9のそれぞれについて 引用する請求項を減縮するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、請求項5?9のそれぞれについて引用する請求項数を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の本件特許明細書の段落【0036】?【0044】は式(2)で表される化合物について説明していることが明らかなので、訂正前の明細書の段落【0044】に記載された「式(1)で表される化合物」は、「式(2)で表される化合物」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。

イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、明細書の段落【0036】に記載されている「式(2)で表される化合物」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであることが明らかであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項5は、単に明細書中の誤記を訂正するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。

エ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項5は、誤記を訂正することを目的とするものであり、これは一群の請求項1?9に関係する訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものといえる。

(6)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについての判断
訂正前の請求項1?9について、請求項2、3、5?9はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、請求項4は請求項3を引用しているものであるので、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
一方、訂正後の請求項5?9は、訂正後の請求項4を引用するとともに、訂正後の請求項1をも引用しているから、請求項1、2、4?9は一群の請求項であって、請求項4及び請求項5?9が別の訂正単位であるといえないから、別の訂正単位とする求めは認められない。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6604000号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?9について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?9に係る発明は、令和3年1月5日付けの手続補正により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明9」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対 して、0.5?5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項2】
請求項1において、
前記環状エステルの総含有量に対する定着樹脂の総含有量の比が0.1?1.0である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上90質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項5】
請求項1?2、4の何れか1項において、
前記環状エステルの含有量が5?40質量%である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項1?2、4?5のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記定着樹脂が、さらに(メタ)アクリル系樹脂を含有する、請求項1?2、4?6のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1?2、4?7のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。
【請求項9】
請求項1?2、4?7のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物または請求項8に記載のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が令和2年7月14日付けで特許権者に通知した取消理由(理由1及び2)の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性) 本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証?甲第7号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
理由2(サポート要件) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2014-227812号公報
甲第2号証:Organic Pigments Handbook 有機顔料ハンドブック、2006年5月初版発行、p.248、499-500
甲第3号証:特開2012-162002号公報
甲第4号証:特許2010-43149号公報
甲第5号証:特許2009-215461号公報
甲第6号証:特許2009-215460号公報
甲第7号証:特許2015-7206号公報
甲第9号証:特許2010-59364号公報
甲第10号証:日本画像学会誌、第52巻、第2号、2013年、p.147-153

2 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【0005】
本発明の目的は、ポリ塩化ビニル基材への印字に適し、印字品質、印刷安定性、印字乾燥性、インクの保存安定のいずれにも優れる油性インクセットであって、特に、色再現性、色彩度の高い画像を得ることができる油性インクセットの提供を課題とする。」

1b「【0041】
本発明の第1の油性インクセットとしては、波長領域400?700nmにおける反射率の関係を満たすものであればよく、格別、限定されるものではないが、インク種としては・・・第2の油性インクとしてオレンジインクが例示される。・・・第2の油性インクであるオレンジインクとしては、ピグメントオレンジ64、71、ピグメントレッド254等が例示される。・・・
【0044】
また、第1の油性インクセットには、さらにシアンインクおよび/またはブラックインクを含むことができる。シアンインクとしては、ピグメントブルー15:4を、また、ブラックインクとしては、ピグメントブラック7を挙げることができる。」

1c「【0078】
(インク1の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 60.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 15.0質量部
・ γ-ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0079】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントイエロー150(ランクセス社製、YELLOW PIGMENT E4GN-GT)を3.0質量部と分散剤としてルブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0080】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク1(20℃での粘度4.3mPa・s)を調製した。」

1d「【0087】
(インク4の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 48.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 18.0質量部
・ テトラエチレングリコールモノブチルエーテル・・・ 5.0質量部
・ γ-バレロラクトン ・・・ 20.0質量部。
【0088】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントオレンジ71(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R) DPP ORANGE TR)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0089】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂としてロームアンドハース社の「パラロイドB99N」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg82℃、重量平均分子量15,000)を4.0質量部とダウケミカル社「VAGC」(ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、Tg65℃、重量平均分子量24,000)を1.0質量部、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して油性インク4(20℃での粘度4.0mPa・s)を調製した。」

1e「【0093】
(インク6の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 48.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 28.0質量部
・ γ-ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0094】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)を3.0質量部と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0095】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)を調製した。」

1f「【0132】
(第1の油性インクセット)
下記表1に示す各油性インクを組合せて実施例1?6、比較例A、比較例1、2のインクセットとし、実施例1?6、比較例A、比較例1、2を用いて第1の油性インクセットについて説明する。
【0133】
【表1】

【0134】
セイコーエプソン社製「4色インクジェットプリンター MJ8000C」に上記で得た各油性インクを充填し、軟質ポリ塩化ビニルシート(リンテック社製、LAGマウントP-223RW)上に印字し、印字された各インクにおける反射率スペクトル、L* 値、a* 値、b* 値、色相角H°を、グレタグ社製「GRETAG Spedtrolino」(D65光源、視野角2°)で測定した。」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「

」(第248ページ)
2b「


」(第499?500ページ)

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【請求項1】
特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、
前記画像を形成する工程は、
前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、
前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、
前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、
前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法。」
3b「【0103】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7,10、及びC.I.Pigment Brawn 3,5,25,26、及びC.I.Pigment Orange 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。
【0104】
本インクに顔料を用いる場合は、その平均粒径が10?200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50?150nm程度のものである。
本インクに色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1?25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5?15質量%程度の範囲である。
本インクに顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。
本インクが色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、グリーン、オレンジ、ブルー、ホワイトなどの特色や、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のレッド、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。」
3c「【0114】
〔定着樹脂〕
本実施形態の特定インクは定着樹脂を含有してもよい。この定着樹脂として、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくともいずれかから製造されるアクリル樹脂、それらとスチレンの共重合体であるスチレン-アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタンや水素添加石油樹脂が挙げられる。」
3d「【0123】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I Pigment Violet 19(表中「PV19」と省略)
・C.I Pigment Yellow 213(表中「PY213」と省略)
・C.I Pigment Blue 15:3(表中「PB15:3」と省略)
・カーボンブラック(CB) MA77(商品名、三菱化学社製)(表中「CB MA77」と省略)
〔分散剤〕
・ポリエステル系高分子 Solsperse32000(商品名、アビシア(Avecia)社製)(表中「Sol32000」と省略)
〔定着樹脂〕
・塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 UCAR Solution Vinyl VROH (商品名、日本ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製、分子量15000,Tg=65℃)(表中「P(VC-VAc)」と省略)
・ポリアクリルポリオール樹脂エマルジョン N-2043-60MEX(商品名、ハリマ化成社(Harima Chemicals, Inc.)製)(表中「AP-e」と省略)
〔界面活性剤〕
・BYK-UV3500(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)(表中「BYK3500」と省略)
【0124】
〔各種溶剤〕
(1.グリコールエーテル系溶剤)
・プロピレングリコールジメチルエーテル(表中「PGDME」と省略)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(表中「PGME」と省略)
・プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表中「PGMEA」と省略)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表中「DPGDME」と省略)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(表中「DEGDEE」と省略)
・トリエチレングリコールジメチルエーテル(表中「GL-3」と省略)
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(表中「EGBEA」と省略)
・ジプロピレングリコールプロピルエーテル(表中「DPGPE」と省略)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraglyme、表中「GL-4」と省略)
・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(表中「PEGME」と省略)
(2.非プロトン極性溶剤)
・N-エチル-2-ピロリドン(表中「NEP」と省略)
・ジメチルスルホキシド(表中「DMSO」と省略)
・N-メチル-2-ピロリドン(表中「NMP」と省略)
・γ-ブチロラクトン(表中「GBL」と省略)
・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(表中「DMI」と省略)
・2-ピロリドン(表中「ピロリドン」と省略)
・γ-ウンデカラクトン(表中「GUL」と省略)
(3.その他の有機溶剤)
・メチルエチルケトン(表中「MEK」と省略)
・2-プロパノール(表中「プロパノール」と省略)
・シクロヘキサノン
・1,2-ヘキサンジオール(表中「ヘキサンジオール」と省略)
・ジプロピレングリコール(表中「DPG」と省略)
・トリエチレングリコール(表中「TEG」と省略)
【0125】
[実施例1?6、比較例1?5、参考例1?2]
〔特定インクの調製〕
まず、下記表1及び表2に示す組成で材料を混合して、インクA?Kを調製した。
なお、表1及び表2中、空欄部は無添加を意味し、数値の単位は質量%である。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
〔印刷〕
次に、下記の印刷装置を用いて、上記表1及び表2のインクA?Kを下記の被印刷媒体にそれぞれ印刷した。
(被印刷媒体)
・塩ビフィルム(ローランド社(Roland DG Corporation)製、商品名「LLEX」)
・PPフィルム(エイブリィ・デニソン社(Avery Dennison Corporation)製、商品名「BA2076」)
・PETフィルム(リンテック社(Lintec Corporation)製、商品名「K2411」)
・PEフィルム(エイブリィ・デニソン社製、商品名「BA1201」)
・印刷本紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製、商品名「OKトップコート+」)
【0129】
(印刷装置(印刷方式))
(1.プリンター1)
図2に示すものと同様の基本構成を備える印刷装置を用いた。但し、ヘッドのノズル列におけるノズル密度は180dpiであった。ホットプラテン23に静止した被印刷媒体に対してヘッド40を所定パス数、走査させて1回の印刷動作による画像の形成を行った。」

(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
4a「【請求項5】
前記レッドインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントレッド170および/またはC.I.ピグメントレッド254であり、前記ブルーインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントブルー60であり、前記オレンジインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントオレンジ43であり、前記グリーンインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントグリーン36であることを特徴とする請求項4に記載のインクセット。」

(5)甲第5号証(以下、「甲5」という。)
5a「【請求項5】
前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1?4のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。
C.I.ピグメントオレンジ36
C.I.ピグメントバイオレット23,37、及び
C.I.ピグメントグリーン7」

(6)甲第6号証(以下、「甲6」という。)
6a「【請求項7】
前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1?6のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。
C.I.ピグメントオレンジ36,38,43,71、
C.I.ピグメントバイオレット23,32,37,39、及び
C.I.ピグメントグリーン7,36,37」

(7)甲第7号証(以下、「甲7」という。)
7a「【0020】
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物は、色材、溶剤及びアクリル樹脂を含有する油性インク組成物であって、必要に応じて他の成分を含有していても良いものである。
以下、構成成分について順に説明する。」

(8)甲第9号証(以下、「甲9」という。)
9a「【0021】
また、含まれる2種類以上のバインダー樹脂には、塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂を使用する事ができる。印刷物光沢や塗膜延伸性に優れている塩化ビニル系樹脂と、印刷物の乾燥性に優れているアクリル系樹脂を併用する事により、印刷速度の速いインクジェットプリンターでも裏写り(ブロッキング)無く優れた印刷物を得ることができる。」

(9)甲第10号証(以下、「甲10」という。)
10a「

」(第150ページ左欄第29行?第151ページ左欄第9行)



3 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証にはインク4として「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部、γ-バレロラクトン20.0質量部、ピグメントオレンジ71を3.0質量部、分散剤を1.0質量部、バインダー樹脂としてメチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体を4.0質量部とヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部含む、油性インク4。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。

(2)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証にはインクFとして「PY213を4質量%、分散剤を2質量%、P(VC-VAc)を4質量%、界面活性剤を0.5質量%、PGMEを10質量%、DEGDEEを50質量%、GL-3を9.5質量%、GBLを20質量%含むインク。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3d参照)。

4 当審の判断
(1)対比・判断
ア 甲1発明を主たる引用発明とする場合
(ア)本件特許発明1
a.甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「γ-バレロラクトン20.0質量部」は本件特許発明1の「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種・・・を含み・・・前記環状エステル化合物の含有量がインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり」に相当する。
甲1発明の「バインダー樹脂として・・・ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部」は本件特許発明1の「定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量がインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%である」に相当する。
甲1発明の「油性インク」は本件特許発明1の「非水系・・・インク組成物」に相当する。
甲1発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部」は、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテルは、いずれも、本件特許発明1の一般式(2)で表される化合物に該当し、その合計含有量は68重量部であり、そのうちテトラエチレングリコールモノブチルエーテルは一般式(2)においてR^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルに該当するから、本件特許発明1の「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み・・・前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し・・・R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
に相当する。
そうすると、本件特許発明と甲1発明とは「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有・・・する非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
顔料が、本件特許発明1ではC.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)であるのに対し、甲1発明ではピグメントオレンジ71である点。

<相違点2>
インク組成物が、本件特許発明1ではインクジェットインク組成物であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

<相違点3>
環状エステル化合物が、本件特許発明1ではγ-ブチロラクトンであるのに対し、甲1発明ではγ?バレロラクトンである点。

b.相違点についての検討
相違点1及び3について検討する。
甲1には、第1の油性インクセットのインク種としてオレンジインクが例示され、当該オレンジインクとしてはピグメントオレンジ64、71が例示されることは記載されている(摘記1b参照)としても、C.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)を用いることについては記載も示唆もない。
確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知のオレンジ顔料であるといえるにしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43とγ-ブチロラクトンを含む溶剤との組み合わせである組成物No.13は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1?甲7、甲9、甲10に記載も示唆もない。
したがって、甲1には、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することまでも開示されているということはできないことに加えて、甲2?甲7、甲9、甲10の記載を参照しても、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することの動機付けは見いだせない。
よって、上記相違点1及び3に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

c.本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性等の特性が良好となるという、甲1発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。

d.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において「ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用すること当業者が容易に想到し得ることである」と主張し、令和2年10月29日提出の意見書において「γ-バレロラクトンに代えて、γ?ブチロラクトンを採用することは当業者が容易に想到し得ることであり、本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲1のインクでも得られるはずである。」と主張している。
しかし、上記(イ)のとおり、甲1には、本件特許発明1の上記のようなPO-43を含有するインク組成物は具体的には開示されておらず、そのようなインク組成物とする動機付けもないし、甲1のインクはいずれも本件特許発明1とは組成が異なるものであり、本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲1のインクでも得られるはずであるとまではいえない。
なお、特許異議申立人は、訂正によって溶剤の種類と溶剤の含有量を限定したことにより生じた事項について、参考資料1?3に基づく、特許法第29条第2項の規定に関する新たな取消理由が採用されるべきであると主張するが、本件訂正は、訂正前の明細書の記載に基づいて、溶剤の種類を特定したものであるから、訂正によって、実質的に新たな内容を含む部分が生じたとはいえず、参考資料1?3に基づく取消理由は、新たな取消理由として採用されるべきものではない。

e.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(イ)本件特許発明2、4?9について
本件特許発明2、4?9は、「PO-43」及び「γ-ブチロラクトン」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件発明1と甲1発明との相違点1及び3と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2、4?9は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 甲3発明を主たる引用発明とする場合
(ア)本件特許発明1
a.甲3発明との対比
甲3発明の「P(VC-VAc)を4質量部」は、P(VC-VAc)は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であるから(摘記3d参照)、本件特許発明1の「定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量がインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%である」に相当する。
甲3発明の「GBLを20質量部含む」は、GBLはγ-ブチロラクトンであるから、本件特許発明1の「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種・・・を含み、前記環状エステル化合物の含有量がインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり」に相当する。
甲3発明の「PY213」は、本件特許発明1の「顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」と顔料である限りにおいて一致する。
甲3発明の「DEGDEE」は、DEGDEEはジエチレングリコールジエチルエーテルであるから(摘記3d参照)、本件特許発明1の「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み・・・R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、 R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%であり、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
顔料が、本件特許発明1ではC.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)であるのに対し、甲3発明ではPY213である点。

<相違点5>
インク組成物が、本件特許発明1では非水系インクジェットインク組成物であるのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。

<相違点6>
溶剤について、本件特許発明1は「一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し」と特定されているのに対し、甲3発明では、一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、50質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有していない点。

b.相違点についての検討
相違点4について検討する。
確かに、甲3にはマゼンタ、シアン、及びイエロー以外に使用される顔料として、C.I.ピグメントグリーン、C.I.ピグメントブラウンと並んで、C.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)等が列記されてはいるものの(摘記3b参照)、単なる例示にすぎず、また、多数列挙される選択肢の一つであり、さらに、実施例として具体的に開示されている甲3発明の顔料はイエローのみであり、オレンジではないことから、甲3に、甲3発明においてPY213に代えて、PO-43を採用することまでの記載や示唆があるとはいえない。
また、確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知の顔料であるといえるとしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43とγ-ブチロラクトンを含む溶剤との組み合わせである組成物No.13は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1?甲7、甲9、甲10に記載も示唆もない。
したがって、相違点4は実質的相違点であり、甲3に、甲3発明において、PY213に代えて、PO-43を採用することまでも開示されているということはできないし、甲1、甲2、甲4?甲7、甲9、甲10の記載を参照しても、甲3発明において、PY213に代えて、PO-43を採用すること動機付けは見いだせない。
よって、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

c.本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、顔料として、PO-43を採用し、一般式(2)においてR^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含む上記特定の有機溶剤を用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性が良好となるという、甲3発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。

d.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書においてPY213に代えて、PO-43を採用すること当業者が容易に想到し得ることである」と主張し、令和2年10月29日提出の意見書において「本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲3のインクでも得られるはずである。」と主張している。
しかし、上記(イ)のとおり、甲3には、本件特許発明1の上記のようなPO-43を含有するインク組成物は具体的には開示されておらず、そのようなインク組成物とする動機付けもないし、甲3のインクはいずれも本件特許発明1とは組成が異なるものであり、本件特許発明1の発色性、凝集ムラ、耐擦性、光沢性等が良好であるという効果は、甲3のインクでも得られるはずであるとまではいえない。

e.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、上記相違点5及び6について検討するまでもなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(イ)本件特許発明2、4?9について
本件特許発明2、4?9は、「PO-43」という点を発明特定事項に備えているところ、本件発明1と甲3発明と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2、4?9は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

5 理由2(サポート要件)について
本件特許発明の課題は、段落【0008】の記載からみて、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供し、また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供し、また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにあると認める。
ここで、本件特許発明1、2、4?9は、溶剤としてγ?ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むものを包含する。
そして、発明の詳細な説明の実施例等を参酌すると、溶剤としてγ?ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供し、また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供し、また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できることは、記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1、2、4?9が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。
したがって、本件特許発明1、2、4?9は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由

(1)特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1?9は甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明である。

(2)特許法第36条第6項第1号
本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むこと、及びその含有量が0.5?5質量%であることは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっているから、本件特許発明1の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件特許発明1?9は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(3)特許法第36条第4項第1号
本件特許発明1では、環状エステル化合物の少なくとも1種を含むこと、環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して2?40質量%含むことが特定されているものの、他の溶剤については含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっており、また、本件特許発明1では、各溶剤の配合比率は何ら特定されておらず、さらに、本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むこと、及びその含有量が0.5?5質量%であることは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっているから、発明の詳細な説明の記載は当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1) 特許法第29条第1項第3号
上記第4、4(1)イで対比検討したとおり、本件特許発明1?9と甲3発明には相違点4があり、相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1?9は甲3に記載された発明とすることはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号
本件特許明細書の段落【0059】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0075】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、本件特許発明1の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできないとすることはできない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
本件特許発明1は溶剤としてγ?ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むインク組成物であり、本件特許明細書の実施例(特に組成物No.13)の記載からみて、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。
また、本件特許明細書の段落【0059】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0075】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和2年7月14日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
訂正前の請求項3は本件訂正により削除されたため、請求項3についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドのノズル孔からインクの微小な液滴を吐出させ記録媒体に付着させて、画像や文字を記録するインクジェット記録装置が知られている。また、係る記録に用いるインクとして、例えば、色材、界面活性剤、水、有機溶剤等の種々の成分を含むインクジェット用インクが知られている。また、インクジェット用インク組成物においては水を主溶媒としない溶剤系(非水系)のインク組成物の開発も行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には炭化水素系溶剤、エステル基とエーテル基とを持つ溶剤、その双方に溶解する溶剤を含むインク組成物が開示され、特許文献2には、アミド系溶剤(エーテルアミド類)が配合されたインク組成物が開示され、特許文献3には沸点の異なる3種のアルコールが配合されたインク組成物がそれぞれ開示されている。このような、非水系インク組成物は、塩化ビニル系の記録媒体への適応性が良好であり、例えば、屋外の看板等のいわゆるサイン用途の記録に用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-012432号公報
【特許文献2】特開2012-046671号公報
【特許文献3】特開2010-018730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非水系インクジェットインク組成物を、サイン用途に使用する場合には、記録物の耐候性が不十分となる場合があった。すなわち、サイン用途の記録物は、雨や日光等にさらされる屋外環境で使用されることが多く、屋内での使用よりも高い耐候性が求められている。発明者らによると、インクのうちでも、オレンジ色系の顔料を含むインクを使用することで暖色系の色再現領域を広げようとする際に、耐候性にも優れたインクとすることが重要であること、暖色系の色再現領域の特に広いインクとすることが重要であることがわかってきた。また、インクの発色性がよいことも色再現領域を広げる機能を十分発揮するために重要であることが分かってきた。
【0006】
インクジェットインク組成物の耐候性を向上させるための手段の一つとしては、耐候性の高い色材を用いることが考えられる。しかし、インクジェット記録においては、インク組成物、記録装置、記録媒体などの複数の構成のそれぞれに対して多くの性能が要求され、その上、各構成間の高度なバランスが要求される。そのため、単に色材に耐候性の高いものを選択するだけでは、インクジェットインク組成物の他の性能が不十分となることが懸念される。さらに、記録物の耐擦性を優れたものとするために、非水系インク組成物に溶剤として環状エステル化合物や特定のアミド系化合物などを含有させた場合、インクの発色性が劣ってしまう課題があった。
【0007】
発明者らは、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、耐候性、発色性、耐擦性を向上させるために、特定の顔料種と溶剤の組み合わせが重要であることを見出し本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明の幾つかの態様に係る目的の1つは、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供することにある。また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供することにある。また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するために為されたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。このようなインクジェットインク組成物は、暖色系の色再現領域が優れかつ耐候性が優れる。また、さらに、記録物の耐擦性、発色性が優れる。
【0010】
[適用例1]
[1]
環状エステル化合物と下記一般式(1)で表される化合物からなる溶剤群Aの少なくとも1種を含む溶剤と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、を含む非水系インクジェットインク組成物。
【0011】
【化1】

(式(1)中、R^(1)は炭素数1?8のアルキル基を表し、R^(2)およびR^(3)はメチル基またはエチル基を表す。)
【0012】
[2]
[1]において、さらに、定着樹脂を含む、非水系インクジェットインク組成物。
【0013】
[3]
[1]又は[2]において、
溶剤群Aの総含有量に対する定着樹脂の総含有量の比が0.1?1.0である、非水系インクジェットインク組成物。
【0014】
[4]
[1]?[3]の何れか一において、さらに、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含む、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【0015】
[5]
[4]において、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。
【0016】
[6]
[1]?[5]の何れか1において、
溶剤Aの含有量が2?40質量%である、非水系インクジェットインク組成物。
【0017】
[7]
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、[1]?[6]のいずれか一に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【0018】
[8]
定着樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂の少なくとも何れかである、[1]?[7]のいずれか一に記載の非水系インクジェットインク組成物。
[9]
定着樹脂が、インク組成物に対し2.5?5質量%の(メタ)アクリル系樹脂と、インク組成物に対し0.5?2.5質量%の塩化ビニル系樹脂を含む、[1]?[8]のいずれか一に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【0019】
[10]
溶剤と顔料としてピグメントオレンジ-43(PO-43)とを含む特定の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。
【0020】
[11]
前記特定の非水系インクジェットインク組成物、非水系シアンインクジェットインク組成物、非水系マゼンタインクジェットインク組成物、非水系イエローインクジェットインク組成物が、それぞれ溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含む、[10]記載のインクセット。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【0021】
[12]
前記特定の非水系インクジェットインク組成物が、[1]?[9]の何れか一に記載の非水系インクジェットインク組成物である、[10]又は[11]に記載のインクセット。
【0022】
[13]
[1]?[9]のいずれか一に記載のインクジェットインク組成物または[10]?[12]の何れか一に記載のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0024】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤と、顔料と、を含む。本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、非水系インク組成物であり、揮発性の溶剤(主に有機溶剤)を主成分とする溶剤系インク組成物とすることが好ましい。記録媒体上に付着させた後、加熱あるいは常温により溶剤を乾燥させて固形分を定着させて記録を行う非光硬化型インクとすることが好ましい。放射線(光)を照射して硬化させる光硬化型インクとしてもよいが、放射線照射を不要とする点で非光硬化型インクが好ましい。
非水系インク組成物は、水を主要な溶媒成分とするものではなく、インクの機能や性能を奏するための機能成分としては水を含有しないインク組成物である。インク組成物に対する水の含有量は5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下であり、より特に好ましくは0.1質量%以下であり、さらには水を含有しないとしてもよい。本実施形態における非水系インクジェットインク組成物の溶剤の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは85?98質量%である。
【0025】
1.1.溶剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物に含有される溶剤は、環状エステル化合物または下記一般式(1)で表される化合物からなる溶剤群Aの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0026】
1.1.1.環状エステル化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として環状エステル(環状ラクトン)を含有することが好ましい。インクジェットインク組成物は、環状エステル(環状エステル化合物)が含有されることにより、記録媒体の記録面(好ましくは塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部にインクジェットインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインク組成物が浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。換言すると、環状エステルは、塩化ビニル系樹脂との親和性が高いため、インクジェットインク組成物の成分を記録面に浸潤させやすい(食い付かせやすい)。環状エステルがこのような作用を有する結果、これを配合したインクジェットインク組成物が、屋外環境等の厳しい条件下であっても、耐擦性に優れた画像を形成できるものと考えられる。また、インク組成物中に含む定着樹脂などの固形分成分の溶解性にも優れるため、インクの長期保管中や使用中のインク中の樹脂の析出を防止してインクジェットヘッドからインクを吐出する際の吐出不良の原因となることが無いことや、記録物表面に付着した顔料を樹脂により均一に覆うことができ記録物の耐候性が一層優れ傾向があり好ましい。反面、上記環状エステルは、記録媒体内部へのインクの浸透を促進するため、記録媒体の表面の横方向へインクが広がることを抑制し、このため記録物におけるインク組成物の発色性を妨げる傾向がある。
【0027】
環状エステルとは、ヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する1つの分子において、当該分子内で、該ヒドロキシル基と該カルボキシル基とが脱水縮合した構造を有する化合物である。環状エステルは、炭素原子を2個以上、酸素原子を1個含む複素環を有し、当該複素環を形成する酸素原子に隣接してカルボニル基が配置された構造を有し、ラクトンと総称される化合物である。
【0028】
環状エステルのうち、単純な構造を有するものとしては、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、σ-バレロラクトン、およびε-カプロラクトンなどを例示することができる。なお、環状エステルの複素環の環員数には特に制限が無く、さらに、例えば、複素環の環員には任意の側鎖が結合していてもよい。環状エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0029】
本実施形態のインク組成物によって形成される画像の耐擦性をより高める観点からは、上記例示した環状エステルのうち、3員環以上7員環以下の環状エステルが好ましく、5員環または6員環の環状エステルを用いることがより好ましく、いずれの場合でも側鎖を有さないことがより好ましい。このような環状エステルの具体例としては、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、およびγ-バレロラクトンが挙げられる。またこのような環状エステルは、特に、ポリ塩化ビニルとの親和性が高いので、ポリ塩化ビニルが含有される記録媒体に付着された場合に、耐擦性を高める効果を極めて顕著に得ることができる。
【0030】
環状エステルを配合する場合における、インクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、2質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。含有量が上記範囲内である場合、耐擦性、発色性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ抑制の点で一層好ましい。
【0031】
1.1.2.式(1)で表される化合物。
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として一般式(1)で表される化合物(環状エステルや環状ラクトンともいう)を含有することが好ましい。
【0032】
【化2】

(式(1)中、R^(1)は炭素数1?8のアルキル基を表し、R^(2)およびR^(3)はメチル基またはエチル基を表す。)
式(1)中、R^(1)は、炭素数1?4のアルキル基であることが好ましい。「炭素数1?4のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。R^(1)は、炭素数が少ない場合、炭素数が多い場合と比べて沸点が低くインク組成物の乾燥性を比較的高める点で好ましく、炭素数1が特に好ましい。R^(2)およびR^(3)も同様の点で炭素数が少ない場合好ましい。
【0033】
式(1)で表される化合物は、前述の環状エステル化合物と同様の機能や性質を有し、画像の耐擦性(摩擦堅牢性)や耐候性を向上させインクに含む成分の溶解性を向上させインク組成物の吐出安定性を向上させることができるが、記録媒体の記録面やインク組成物に含有する成分を良好に溶解させる性質は一層優れている。また、式(1)で表される化合物は、非水系インク組成物に適度な擬塑性を付与することでき、これによりインクの良好な吐出安定性を確保することができる。塩化ビニル系樹脂と相互作用するため、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを一層強固に定着させる点でも特に優れている。
【0034】
本実施の形態に係る非水系インク組成物中における前記式(1)で示される溶媒の含有量は、2質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。含有量が上記範囲内である場合、耐擦性、発色性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ抑制の点で一層好ましく、非水系インク組成物に適度な擬塑性が付与され、インクの吐出安定性を確保することができる点でも好ましい。
【0035】
非水系インク組成物中における溶剤群Aの総含有量は、2質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。含有量が上記範囲内である場合、耐擦性、発色性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ抑制の点で一層好ましい。
【0036】
1.1.3.式(2)で表される化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として一般式(2)で表される化合物(グリコールエーテルともいう)を含有することが好ましい。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(1)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)は、少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【0037】
上記のうち、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、mは、2?3の整数が好ましい。
ここで、炭素数1以上5以下のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基が挙げられる。また、炭素数2又は3のアルキレン基としては、エチレン基(ジメチレン)、プロピレン基(トリメチレン、又は、メチルエチレン)が挙げられる。なお、上記一般式(2)に示す化合物は、アルキレングリコールアルキルエーテルである。上記一般式(2)で表される化合物は、1種単独で含有されてもよいし、2種以上含有されてもよい。
【0038】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)(「DEGMEE」又は「MEDG」と略記することがある。)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)(「DEGdME」と略記することがある。)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(65℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(71℃)(「DEGdEE」又は「DEDG」と略記することがある。)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(105℃)(「DEGmME」と略記することがある。)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(112℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(101℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)(「DEGBME」と略記することがある。)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(122℃)(「DEGdBE」と略記することがある。)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(108℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(117℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(139℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(156℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(113℃)(「TriEGdME」又は「DMTG」と略記することがある。)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(123℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(138℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(104℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(177℃)(「TetraEGmBE」又は「BTG-H」と略記することがある。)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)(「TetraEGdME」と略記することがある。)、等が挙げられる。なお、上記例示における括弧内の数値は、引火点を示す。
【0039】
本実施形態における化合物の引火点は、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下では無い場合はクリーブランド開放式引火点試験器による引火点とし、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下の場合は、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt未満の場合はタグ密閉式引火点試験器による引火点とし、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt以上の場合はセタ密閉式引火点試験器による引火点とする。
【0040】
インクジェットインク組成物の乾燥性をより高くすることができる観点からは、これらの化合物のうち、引火点が140℃以下の化合物を用いることが好ましい。引火点が140℃以下の化合物を用いることにより、インクジェットインク組成物の乾燥性が高まり、形成される画像における凝集ムラ(顔料の凝集等)をより生じにくくすることができ耐擦性も優れたものとできる。
【0041】
また、これらの化合物は、溶剤に混合して配合されることができるが、引火点が140℃以下の化合物が配合されることがより好ましい。引火点が140℃を越える化合物のみが配合される場合には、インクジェットインク組成物の乾燥が遅くなる場合があり、インクの記録媒体上での濡れ拡がり性が高まり、形成される画像の光沢性を期待できる反面、例えば、形成される画像における凝集ムラ(顔料の凝集等)が生じてしまう場合がある。他方、引火点が140℃以下の化合物は、インクジェットインク組成物の乾燥性を向上させるため、これを配合することにより、形成される画像における凝集ムラ(顔料の凝集等)を生じにくくすることができる。そして、引火点が140℃を越える化合物と、引火点が140℃以下の化合物との配合量をバランスさせれば、形成される画像の光沢性を高くし、かつ、凝集ムラを抑制することができる。上記化合物は引火点が70℃以下の化合物が配合されることがさらに好ましい。
【0042】
上記式(2)で表される化合物の、インクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、よりさらに好ましくは30質量%以上75質量%以下、特に好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0043】
また、上記式(2)の化合物のうち、引火点が140℃以下の化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以上70質量%以下である。また、上記式(2)の化合物のうち、引火点が70℃以下の化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、10質量%以上90質量%以下であり、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0044】
式(2)で表される化合物のうち引火点がより低い溶剤を含有する場合、インク組成物の乾燥性に一層優れ凝集ムラ抑制や耐擦性に一層優れる。また、その場合において、インク組成物の記録媒体表面において広がり性が劣るためかインクの発色性が劣る傾向があるがこのような場合でも、インク組成物が顔料としてピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことで発色性を優れたものとすることができる。
式(2)で表される化合物のうちR^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテル化合物をインクが含有する場合、上述の効果に加え、凝集ムラが特に優れる傾向があり好ましい。グリコールモノエーテル化合物をインクが含有する場合、その含有量は、上記の点で2?20質量%が好ましく、3?15質量%がより好ましく、3?10質量%が更に好ましい。グリコールモノエーテル化合物は引火点は問わない。
【0045】
1.1.4.その他の溶剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として、上記の他に、以下のような化合物を用いることができる。
【0046】
そのような溶剤としては、例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等)等が挙げられる。
【0047】
また、溶剤として、(多価)アルコール類を含有してもよい。(多価)アルコール類としては、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールや、2-メチルペンタン-2,4-ジオールなどが挙げられる。
【0048】
インクジェットインク組成物に、(多価)アルコール類を含有させる場合の合計の含有量は、記録媒体上での濡れ拡がり性及び浸透性を向上させて濃淡むらを低減させる効果や、保存安定性及び吐出信頼性を確保する観点から、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.05質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。(多価)アルコール類の含有量が上記範囲内にあることで、インクの濡れ性、浸透性、乾燥性が良好となり、良好な印刷濃度(発色性)を備えた画像が得られる場合がある。また、(多価)アルコール類の含有量が上記範囲内にあることで、インクの粘度を適正にすることができ、ノズルの目詰まり等の発生を低減できる場合がある。
【0049】
また、インクジェットインク組成物にはアミン類を配合してもよく、例えば、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N,N-ジメチル-2-アミノエタノール、N,N-ジエチル-2-アミノエタノール等のヒドロキシルアミンが挙げられ、1種または複数種を用いることができる。アミン類を含有させる場合の合計の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、0,05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、溶剤として、ラウリン酸メチル、ヘキサデカン酸イソプロピル(パルミチン酸イソプロピル)、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、炭素数2?8の脂肪族炭化水素のジカルボン酸(炭素数はカルボキシル基の炭素を除く)を炭素数1?5のアルキル基でジエステル化した二塩基酸ジエステル、並びに、炭素数6?10の脂肪族炭化水素のモノカルボン酸(炭素数はカルボキシル基の炭素を除く)をアミド化した(アミド窒素原子を置換している置換基がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1?4のアルキル基である)アルキルアミド(N,N-ジメチルデカンアミド等)等が挙げられる。
【0051】
ここで例示したその他の溶剤は、一種又は複数種を、インクジェットインク組成物に対して、適宜の配合量で添加することができる。
【0052】
1.2.顔料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことが好ましい。C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むことで、記録物が、屋外での使用にも好適な優れた耐候性と暖色系の広い色再現範囲が得られる。
【0053】
PO-43は、CAS登録番号4424-06-0の顔料であり、化学名は、ビスベンゾイミダゾ[2,1-b:2’,1’-i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン-8,17-ジオン、又は、1,8-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)-5,4-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)ナフタレンである。PO-43は、ペノリン構造を有し、一般名として「ペノリンオレンジ」が与えられている。PO-43の色相としては、鮮やかな赤味のオレンジである。なお、「C.I.は、カラーインデックスの略である。非水系インクジェットインク組成物がC.I.ピグメントオレンジ-43(ピグメントオレンジ-43、PO-43)を含むことで、暖色系の色再現領域を広げることができ、かつ、耐候性、発色性にも優れる記録物の記録が可能となる。発色性が優れることは、所定の濃度の印刷を行う際に要する記録媒体へのインクの付着量を少なくできる点で有利である。インクの付着量が少ないことは、乾燥を早めて、凝集ムラ低減などにより画質を向上する点で有利であり、印刷コスト低減の点でも有利である。
【0054】
暖色系の色再現領域は、CIE(国際照明委員会)が推奨した、L^(*)a^(*)b^(*)表色系において、a^(*)とb^(*)が共に正の範囲を言う。本実施形態において、C.I.ピグメントオレンジ-43を含むインク組成物を、特定の非水系インク組成物とも言う。本実施形態のC.I.ピグメントオレンジ-43を含むインク組成物は、少なくともC.I.ピグメントオレンジ-43を含むものであればよく、オレンジインク、イエローインク、レッドインク、マゼンタインクなどにしてもよい。後述の基本色インクと比べて暖色系の色の印刷に特に用いられるインクとしてもよい。特にオレンジ色の色再現領域が広いことからオレンジインク(オレンジインク組成物)とする場合に特に有用である。オレンジインクはオレンジ系の着色に用いるインクである。オレンジインクは、商品名がオレンジインクやこれと実質的に似た意味の商品名のインクである場合は少なくともオレンジインクとする。また、後述の基本色インクと比べてオレンジ色の印刷に特に用いられるインクが該当する。
【0055】
PO-43は、市販品を利用することができ、例えば、Clariant社の「Hostaperm Orange」、「PV Gast Orange GRL」、DIC株式会社製「Fasogen Super Orange 6200」、東洋インキ株式会社製「Lionogen Orange GR-F」等として入手することができる。
【0056】
本実施形態のインクジェットインク組成物に含有されるPO-43の体積平均粒子径は、吐出安定性や耐候性や発色性の点で100nm以上400nm以下が好ましく、より好ましくは150nm以上300nm以下である。ここで顔料の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により評価することができる。具体的には、インク化した検体(顔料)を、DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)にて1000ppm以下となるように希釈し、これをレーザー回折・散乱測定装置(例えば、マイクロトラックUPA250(日機装株式会社製))を用いて20℃の環境下で、メディアン径D50の値を読み取ることにより測定することができる。したがって、異なる体積平均粒子径を有するPO-43を混合して使用する場合においても、それぞれの体積平均粒子径及び混合物の体積平均粒子径を測定することもできる。
【0057】
本実施形態のインクジェットインク組成物の全量に対する、PO-43の含有量は、好ましくは0.05質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、よりさらに好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上8質量%以下、特に好ましくは3質量%以上7質量%以下である。
【0058】
一方、本実施形態のインクジェットインク組成物は、上述のPO-43以外の色材をさらに含有してもよい。そのような色材としては、PO-43と類似する色相の顔料及び染料が挙げられ、例えば、カラーインデックス番号で、C.I.ピグメントオレンジの番号が与えられている顔料や、C.I.ピグメントレッドの番号が与えられているものなどが挙げられる。
【0059】
1.3.定着樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は定着樹脂を含有することが好ましい。定着樹脂は顔料などのインクに含む固形分を記録媒体に保護、接着し耐擦性を高める樹脂である。使用し得る定着樹脂としては塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂などがある。定着樹脂は、インクに含む溶剤が前記溶剤群Aの溶剤である場合、良好に溶解されインクに溶解させることができる。その結果、定着樹脂により記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができ記録物の耐擦性に優れ、また、インクに溶解しきらずに異物となりインクジェット吐出時の吐出安定性を低下させることがない。定着樹脂の中でも、塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂は、溶剤、特に溶剤群Aへの溶解性が特に優れ、耐擦性に特に優れ好ましい。
【0060】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル重合体、塩化ビニル共重合体などがあげられ、塩化ビニル共重合体としては、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体などが挙げられる。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体は、インクに含む溶剤が前記溶剤群Aの溶剤である場合、溶解性が特に優れ良好にインクに溶解させることができる。その結果、溶剤に溶解した塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体により、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができる。
【0061】
塩化ビニル系樹脂は、常法によって得ることができ、例えば、懸濁重合によって得ることができる。具体的には、重合器内に水と分散剤と重合開始剤を仕込み、脱気した後、塩化ビニル及び酢酸ビニルを圧入し懸濁重合を行うか、塩化ビニルの一部と酢酸ビニルを圧入して反応をスタートさせ、残りの塩化ビニルを反応中に圧入しながら懸濁重合を行うことができる。
【0062】
塩化ビニル系樹脂は、その構成として、塩化ビニル単位を70?90質量%含有することが好ましい。上記の範囲であれば、インクジェットインク組成物中に安定して溶解するため長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。
【0063】
塩化ビニル系樹脂は、例えば、塩化ビニル単位及び酢酸ビニル単位とともに必要に応じて、その他の構成単位を備えていても良く、例えば、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位が挙げられ、とりわけビニルアルコール単位が好ましく挙げられる。前述の各単位に対応する単量体を用いることで得ることができる。カルボン酸単位を与える単量体の具体例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。ヒドロキシアルキルアクリレート単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体の含有量は本発明の効果を損なわない限り限定されないが、例えば単量体全量の15質量%以下の範囲で共重合させることができる。
【0064】
塩化ビニル系樹脂は、市販されているものを用いてもよく、例えば、ソルバインCN、ソルバインCNL、ソルバインC5R、ソルバインTA5R、ソルバインCL(以上、日信化学工業社製)などが挙げられる。
【0065】
塩化ビニル系樹脂は、平均重合度は、特に限定されないが、好ましくは150?1100、より好ましくは200?750である。塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が上記の範囲である場合、本実施形態のインク組成物中に安定して溶解するため長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。なお、塩化ビニル系樹脂は、平均重合度は、比粘度を測定し、これから算出されるものであり、「JISK6720-2」に記載の平均重合度算出方法に準じて求めることができる。
【0066】
また、塩化ビニル系樹脂は、数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは10000?50000、より好ましくは12000?42000である。なお、数平均分子量は、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
インクジェットインク組成物中における塩化ビニル系樹脂の含有量は、例えば、0.05?10質量%、好ましくは0.5?5質量%、より好ましくは0.5?3質量%、さらに好ましくは0.5?2.5質量%とすることができ、特に好しくは1?2質量%とすることができる。含有量が前記範囲であると、溶剤への溶解性が良好でインクの吐出安定性に優れ、記録媒体に対して特に優れた定着性が得られ耐擦性が優れる。また含有量が上記範囲内であると、記録物が白っぽく濁って見えてしまうことがなく優れた発色が得られる。このことは、特にC.I.ピグメントオレンジ-43を含むインクの場合、暖色系の色の優れた発色性を得るために特に好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系樹脂((メタ)アクリル樹脂)は、アクリル系樹脂又はメタクリル系樹脂を意味する。(メタ)アクリルモノマーの重合体や(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体である。(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、エチル-、プロピル-、またはブチル-(メタ)アクリレートなどのアルキル-(メタ)アクリレート:ヒドロキシメチル-、ヒドロキシエチル-、ヒドロキシプロピル-、ヒドロキシブチル-、ヒドロキシペンチル-(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられるが、メチル(メタ)アクリレート単独重合体、また、メチル(メタ)アクリレートとブチル(メタ)アクリレートの共重合体、メチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートの共重合体、メチル(メタ)アクリレートとプロピル(メタ)アクリレートの共重合体が好ましい。
(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体としては、スチレン(メタ)アクリル共重合樹脂などのオレフィン(メタ)アクリル共重合樹脂が挙げられる。(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体における(メタ)アクリルモノマーの質量比としては、30質量%以上が好ましく50質量%以上がより好ましい。
【0068】
市販の(メタ)アクリル樹脂としては、例えばロームアンドハース社の「パラロイドB99N」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg82℃、重量平均分子量15,000)、「パラロイドB60」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg75℃、重量平均分子量50,000)等が例示される。
【0069】
(メタ)アクリル樹脂は、上記一般式(1)で示されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテル、または、上記一般式(3)で示されるポリオキシエチレン(アルキレン)グリコールアルキルエーテルアセテート中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合して得られる(メタ)アクリル樹脂とするとよい。
【0070】
(メタ)アクリル樹脂を溶液重合して形成することにより、溶剤への溶解性を向上させることができ、良好な吐出安定性、耐擦性、再溶解性に優れたインクジェットインク組成物とできる。
【0071】
(メタ)アクリル樹脂の分子量ならびにガラス転移温度(Tg)は任意であるが、(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は8,000?100,000、好ましくは10,000?60,000である。また、(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は70℃以上、特に80℃以上であるものが好ましい。なお、ガラス転移温度の上限は120℃程度である。重量平均分子量またはTgが上記範囲内とすることにより、良好なインク保存安定性と、乾燥性、隠蔽性等が良好な印刷物が得られるという効果が特に顕著となるので好ましい。
【0072】
インクジェットインク組成物中における(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、例えば、0.05?10質量%、好ましくは0.5?7質量%、より好ましくは1?6質量%、さらに好ましくは2?5質量%、特に好ましくは2.5?5質量%、よりさらに好ましくは2.5?4.5質量%、より特に好ましくは3?4.5質量%とすることができる。含有量が前記範囲であると、溶剤への溶解性が良好でインクの吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性が得られ耐擦性が優れる。
【0073】
他の定着樹脂をインクに含有させてもよい。他の樹脂としては、例えば、ロジン変成樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、セルロースアセテートブチレート等の繊維素系樹脂、ビニルトルエン-α-メチルスチレン共重合体樹脂等が挙げられ、溶解性、耐擦性が優れる点で、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂が好ましい。
【0074】
インクジェットインク組成物中における定着樹脂の含有量は、例えば、0.05?10質量%、好ましくは0.5?7質量%、より好ましくは1?6質量%、さらに好ましくは2?5質量%とすることができる。定着樹脂の含有量が前記範囲であると、溶剤への溶解性が良好でインクの吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性が得られ耐擦性が優れる。
【0075】
インクジェットインク組成物において、溶剤群Aの総含有量に対する定着樹脂の総含有量の比が質量基準で0.1?1.5であることが好ましく、0.1?1.0であることがより好ましく、0.2?0.5がさらに好ましく、0.3?0.5が特に好ましい。前記量比の範囲内であれば、溶剤中に定着樹脂を容易に溶解させることができノズルの目詰まりが起こりにくくなり、かつ記録媒体の表面へのインク定着性を充分に向上できる。上述の定着樹脂の含有量や量比において、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂及びまたは(メタ)アクリル系樹脂とする場合、上記の点でより好ましい。
インクが定着樹脂として塩化ビニル系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂を含有する場合、耐擦性、耐候性、吐出安定性などを共にバランスよく優れたものとできる点で好ましい。
【0076】
1.4.その他
(界面活性剤)
本実施の形態に係るインクジェットインク組成物には、前記有機溶媒の他に、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる観点から、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、または非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。
【0077】
シリコン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコンを用いることが好ましい。具体例としては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0079】
また、ポリオキシエチレン誘導体としては、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。具体例としては、サーフィノール(登録商標)82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィン(登録商標)STG、E1010(いずれも日信化学株式会社製)、ニッサンノニオン(登録商標)A-10R、A-13R(いずれも日油株式会社製)、フローレンTG-740W、D-90(共栄社化学株式会社製)、ノイゲン(登録商標)CX-100(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0080】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0081】
(分散剤)
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、顔料の分散安定性を向上させる観点から、通常のインク組成物において用いられる任意の分散剤を用いることができる。このような分散剤の具体例としては、ヒノアクトKF1-M、T-6000、T-7000、T-8000、T-8350P、T-8000E(いずれも武生ファインケミカル株式会社製)等のポリエステル系高分子化合物、Solsperse20000、24000、32000、32500、33500、34000、35200、37500(いずれもLUBRIZOL社製「ソルスパース」)、Disperbyk-161、162、163、164、166、180、190、191、192(いずれもビックケミー・ジャパン社製)、フローレンDOPA-17、22、33、G-700(いずれも共栄社化学株式会社製)、アジスパーPB821、PB711(いずれも味の素株式会社製)、LP4010、LP4050、LP4055、POLYMER400、401、402、403、450、451、453(いずれもEFKAケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0082】
また、分散剤としては、金属石鹸、塩基性基を有する高分子分散剤等を用いることもでき、塩基性基を有する高分子分散剤が好ましい。特に、塩基性基としてアミノ基、イミノ基又はピロリドン基を有するものが好ましい。塩基性基を有する高分子分散剤として、ポリアルキレンポリアミン、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、変性ポリウレタン、ポリエステルポリアミン等を用いることができる。
【0083】
塩基性基を有する高分子分散剤の具体例としては、BYKChemie社製の「Anti-Terra-U(ポリアミノアマイドリン酸塩)」、「Anti-Terra-204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk-101(ポリアミノアマイドリン酸塩と酸エステル)130(ポリアマイド)を挙げることができる。また、アビシア社製のソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルポリイミン)、17000、18000、19000(ポリエステルポリアミン)、11200(ポリエステルポリイミン)を挙げることができる。また、ISP社製のV-216、V-220(長鎖アルキル基を持ったポリビニルピロリドン)を挙げることができる。
【0084】
本実施形態に係るインク組成物において、前記分散剤を使用する場合の含有量は、含有される顔料に応じて適宜選択することができるが、インク組成物中の顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上200質量部以下、より好ましくは30質量部以上120質量部以下である。顔料分散剤は用いる顔料に応じて分散安定性に優れるよう適したものを使用すれば良い。
【0085】
(その他)
本実施形態のインクジェットインク組成物は、上記の成分の他にも、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)等のキレート化剤、防腐剤・防かび剤、及び防錆剤など、所定の性能を付与するための物質を含有することができる。
【0086】
2.インクセット
本実施の形態に係るインクセットは、溶剤と、ピグメントオレンジ-43(PO-43)を含む顔料と、を含む非水系インクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセットとすることが、暖色系の色再現範囲が広く、記録物の耐候性にも優れる点で好ましい。インクセットにおいて、溶剤とピグメントオレンジ-43(PO-43)を含む顔料とを含む非水系インクジェットインク組成物をオレンジインク組成物とすると特に好ましい。以下、溶剤とピグメントオレンジ-43(PO-43)を含む顔料とを含む非水系インクジェットインク組成物をオレンジインク組成物としても記載するがオレンジインク組成物には限られない。
【0087】
非水系オレンジインクジェットインク組成物は、溶剤と顔料としてピグメントオレンジ-43(PO-43)を含むものとした前述のインクジェットインク組成物とする場合、前述の効果を奏する点で好ましい。非水系シアンインクジェットインク組成物、非水系マゼンタインクジェットインク組成物、非水系イエローインクジェットインク組成物(以下、基本色インクという)は、それぞれ、顔料として、シアン系顔料、マゼンタ系顔料、イエロー系顔料を含むこと以外は、前述のインクジェットインク組成物とすることができ前述の効果を奏する点で好ましい。
【0088】
基本色インク組成物に含む顔料としては、それぞれ、従来の非水系インク組成物に通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。顔料粒子の平均一次粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0089】
マゼンタインクに用いるマゼンタ系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I,ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド194、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド224等が挙げられる。
【0090】
イエローインクに用いるイエロー系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー180等が挙げられる。
【0091】
シアンインクに用いるシアン系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントブルー15:4等が挙げられる。
【0092】
基本色インクの顔料は、インクに対し1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。インク組成物における顔料の含有量は、好ましくは0.5?25質量%、より好ましくは1?15質量%、さらに好ましくは2?10質量%、特に好ましくは3?7質量%である。
【0093】
基本色インクと非水系オレンジインクジェットインク組成物は、それぞれ、前述の溶剤郡Aの溶剤を含有する場合、耐候性、耐擦製、吐出安定性などが優れる点で好ましい。特に、溶剤郡Aの溶剤を含有することで記録媒体へインクの浸透が促進されることにより、インクの凝集ムラの低減の点でも好ましく、複数のインクを用いて二次色以上の色の記録を行う際に、インクが凝集してしまいきれいな二次色が得られないという問題を低減する点で好ましい。また、溶剤として前述の一般式(2)で表される化合物の1種以上を含む場合、特に、インク組成物としての特性、例えば、乾燥性、凝集ムラ抑制、光沢性、発色性などの点でバランスよく優れ好ましく、一般式(2)で表される化合物の中でも引火点が140℃以下、さらに70℃以下、及びまたはグリコールモノエーテルのものがより好ましい。溶剤として前述の溶剤郡Aの溶剤や一般式(2)で表される化合物の1種以上、その中でも特に好ましいものを含む場合、それらの含有量は前述の範囲が好ましい。
【0094】
基本色インクと非水系オレンジインクジェットインク組成物は、それぞれ、溶剤として前述の溶剤群Aの溶剤の少なくとも何れかを含む場合、耐擦性、耐候性、吐出安定性が一層優れる点で好ましい。溶剤として溶剤群Aの1種以上を含む場合、その含有量は前述の範囲が好ましい。
【0095】
本実施形態のインセットにはさらに他の非水系インクジェットインク組成物を備えても良い。他の非水系インクジェットインク組成物としては、顔料として上記の各系顔料とは異なるものを含有するインク組成物や、着色のために用いるものではないクリアインク組成物などがあげられる。他の非水系インクジェットインク組成物の顔料種以外の構成については前述のインクジェットインク組成物と同様にすることができる。例えばブラック系顔料を含む非水系インクジェットブラックインク組成物を備える場合、濃色系(L^(*)値の低い色領域)の色再現範囲が広く好ましい。ブラック系顔料としては、例えば、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等が挙げられる。
【0096】
3.インクジェット記録方法
本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、前述したインクジェットインク組成物またはインクセットを用いて、記録媒体に対してインクジェット法により記録することを特徴とする。本実施の形態に係るインクジェット記録方法によれば、前述したインクジェットインク組成物またはインクセットを用いるので、耐候性が良好で暖色系色再現領域が広い画像を形成でき、さらに、かつ、安定したインクジェット記録が可能で、画質及び堅牢性の良好な画像の記録が可能である。記録媒体は塩化ビニル系記録媒体が上記の点で好ましい。
【0097】
インクジェットインク組成物又はインクセットのインクに溶剤群Aの溶剤を含む場合、該溶剤は、塩化ビニル系樹脂と相互作用する。そのため、本実施の形態に係るインクジェット記録方法は、塩化ビニル系記録媒体の表面に前述したインクジェットインク組成物の液滴を付着させて画像を記録する場合に、記録媒体上に強固に定着される点で優れている。
【0098】
本実施の形態に係るインクジェット記録方法における塩化ビニル系記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含有するものであれば特に限定されない。塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体としては、硬質もしくは軟質の塩化ビニル系フィルムまたはシート等が挙げられる。前述したインクジェットインク組成物は、塩化ビニル系樹脂基材における無処理表面への画像の記録を可能ならしめるものであり、従来の受容層を有する記録媒体のごとく、高価な記録媒体の使用を不要とする優れた効果を有するが、インク受容層により表面処理された基材であっても適用できることは言うまでもない。
【0099】
本実施の形態に係るインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置は、特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置が好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があるが、いずれの記録方法も採用することができる。また、本実施の形態に係るインクジェットインク組成物は、撥インク処理された吐出ノズル表面に対して不活性であるという利点を有するので、例えば撥インク処理された吐出ノズル表面を有するインクジェット記録用ヘッドから吐出させるインクジェット記録方法に有利に用いることができる。
【0100】
3.実施例
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0101】
3.1.インク組成物例
3.1.1.顔料分散液の調製
顔料として一次粒径160nmのピグメントオレンジ43(PO-43)を用意した。分散剤としてソルスパース17000(ルーブリゾール社製、ポリエステルポリアミン)を用い、当該顔料に対して同質量の範囲で分散剤の添加量をして分散液を作製した。分散媒としては、各インク組成例ごとに溶剤として最も含有量の多い溶剤を分散媒として用い顔料分散液とした。ピグメントオレンジ31、64、71についてもこれと同様にして顔料分散液を得た。顔料の体積平均粒子径はいずれも約200nmとした。
【0102】
3.1.2.インク組成物の調製
上記で調製された顔料分散液を用いて、表に示す材料組成にて顔料や組成の異なるインク組成物を調製した。各インク組成物は、表中に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間混合撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表中の組成欄の数値は、質量%を示す。
【0103】
なお、表に示した略称又は商品名は、以下の通りである。
<顔料>
・PO-43:C.I.ピグメントオレンジ43
・PO-31:C.I.ピグメントオレンジ31
・PO-64:C.I.ピグメントオレンジ64
・PO-71:C.I.ピグメントオレンジ71
<環状エステル溶剤>
・γ-ブチロラクトン:商品名、関東化学株式会社製
・σ-バレロラクトン:商品名、キシダ化学株式会社製
<一般式(1)溶剤>
・M100:商品名、出光興産社製。
・B100:商品名、出光興産社製。
【0104】
<一般式(2)溶剤>
・DEGMEE:ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製、引火点64℃)
・DEGdME:ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点56℃)
・DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)
・DEGBME:ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製、引火点94℃)
・TriEGdME:トリエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「トリエチレングリコールジメチルエーテル」、キシダ化学株式会社製、引火点113℃)
・TetraEGdME:テトラエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点141℃)
・TetraEGmBE:テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製、引火点177℃)
<その他溶剤>
・AF-7:JX日鋼日石エネルギー社製、ナフテン系炭化水素溶剤。
・パルミチン酸イソオクチル:日光ケミカルズ社製、脂肪酸エステル溶剤。
【0105】
<顔料分散剤>
・ソルスパース17000:商品名、ルーブリゾール社製、ポリエステルポリアミン
<界面活性剤>
・BYK340:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコン系界面活性剤
<定着樹脂>
・ソルバインCL:商品名、日信化学工業株式会社製、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体
・パラロイドB60:商品名、ダウケミカル社製、(メタ)アクリル樹脂。
【0106】
3.1.3.評価試験
3.1.3.1.耐候性
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型式「SC-S70650」)により、初期OD値が0.5、1.0、最大値となるようにDutyを調整しながら印刷を行った。記録解像度1440×1440dpiとした。記録媒体には、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)を使用した。得られた記録物を一般環境下で1時間放置して乾燥させた。その後、得られた記録物をキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製)のチャンバー内に投入し、「光照射25分間」→「光照射+水降雨20分間」→「光照射30分間」→「水降雨60分間」のサイクル試験を行った。このサイクル試験を4週間連続して行い、4週間後にその記録物を取り出した。取り出した各記録物について、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてOD値を測定し、OD値の残存率(%)を求め、初期OD値が0.5、1.0、最大値の3種の記録物のうち、残存率が最も低い記録物を評価の対象とした。耐候性は、下記基準に基づき判定した。その結果を表に示す。
5:OD値残存率が90%以上
4:OD値残存率が87%以上90%未満
3:OD値残存率が84%以上87%未満
2:OD値残存率が81%以上84%未満
1:OD値残存率が81%未満
【0107】
3.1.3.2.吐出安定性(間欠評価)
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型式「SC-S70650」)に搭載されているピエゾ素子の振動数を7kHzとし、その駆動波形を最適化した状態で、各インク組成物についてヘッドの各ノズルから250秒間の液滴の連続吐出を行い、その後300秒間液滴の吐出を中断した(1シーケンス)。その後、同様に、液滴の連続吐出、及び、吐出の中断の操作を10シーケンス繰り返し行った。10シーケンス終了時において、ノズル360個中の不吐出ノズル数をカウントすることにより印字安定性評価(間欠評価)を行った。その評価結果を表に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
4:不吐出ノズル数が0個
3:不吐出ノズル数が1?2個
2:不吐出ノズル数が3?4個
1:不吐出ノズル数が5個以上
【0108】
3.1.3.3.光沢性(画質)
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度1440×1440dpiの100%濃度でベタ印刷をした後、25℃-65%RH(相対湿度)にて1日間乾燥させて各例の記録物を作製した。このようにして得られた記録物を、光沢度計MULTI Gloss 268(コニカミノルタ社製)を用いて、記録面20°反射の光沢度を測定した。その評価結果を表に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
4:50以上
3:40以上50未満
2:30以上40未満
1:30未満
【0109】
3.1.3.4.凝集ムラ
上記「光沢性の評価」と同様にして各例の記録物を作製した。このようにして得られた記録物の記録面における顔料の凝集ムラを目視にて観察することにより、凝集ムラの評価を行った。その評価結果を表に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
4:凝集ムラが認められない。
3:拡大観察で凝集ムラが認められる。
2:若干の凝集ムラが認められる。
1:凝集ムラが目立つ。
【0110】
3.1.3.5.耐擦性
上記「光沢性の評価」と同様にして各例の記録物を作製した。このようにして得られた記録物につき、JIS K5701(ISO 11628)に準じて、学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製、商品名「AB-301」)を用いて耐擦性の評価を行った。すなわち、記録物の記録面に綿布を載せ、荷重500gで20回往復させて擦り、擦った後の記録物の記録面の剥離状態を目視にて観察した。その評価結果を表に示す。なお、評価基準は、以下の通りである。
3:綿布に汚れが無い。記録面に傷が無い。
2:綿布に記録物の付着がある。記録面に傷がほとんど無い。
1:綿布に記録物の付着がある。記録面に傷がある。
【0111】
3.1.3.6.発色性
上記の耐候性評価と同様にして印刷を行い、同様に初期OD値を測定した。ただし、記録媒体へのインクの付着量は何れの例も8mg/inch^(2)の付着量とし、記録解像度1440×1440dpiとした。評価結果を表に示す。
4:初期OD値が1.0以上
3:初期OD値が0.85以上1.0未満
2:初期OD値が0.7以上0.85未満
1:初期OD値が0.7未満
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
3.1.4.評価結果
溶剤群Aとピグメントオレンジ43を含むインク組成物である組成物1?16は何れも優れた耐候性、耐擦性、発色性を示した。これに対し、溶剤群Aの溶剤を含まないインク組成物17は耐擦性が劣り、ピグメントオレンジ43を含まない組成物18?20は耐候性と発色性の何れかが劣った。溶剤群Aの溶剤もピグメントオレンジ43も含まないインク組成物21は、組成物20と比べて発色性は比較的良かったが、耐擦性が劣った。また、塩化ビニル系樹脂を比較的多く含有するインク組成物16は発色性がやや劣る傾向が見られたが、記録物が白く白濁して見え、このため発色性がやや劣ったと推測する。このことから、特にピグメントオレンジ43を含有するインクとして暖色系の優れた発色を得る場合に、塩化ビニル系樹脂の特に好ましい範囲があることがわかった。
【0115】
3.2.インクセット例
3.2.1.インク組成物調製
顔料と顔料分散剤の種類を変え、前述のインク組成物例と同様に他の色のインク組成物22?25を調製した。顔料分散液は、顔料毎に適した顔料分散剤を使用した。
<顔料>
・P.B.15:3 C.I.ピグメントブルー15:3
・P.R.122: C.I.ピグメントレッド122
・P.Y.155: C.I.ピグメントイエロー155
・CB: カーボンブラック顔料
【0116】
3.2.2.評価試験
3.2.2.1.耐候性
前述のインク組成物例の耐候性評価と同様にして印刷を行った。ただし、各インクセットの備えるインクを使用して記録媒体へ色再現が可能な、L^(*)値が70、a^(*)b^(*)の成すa^(*)b^(*)平面上の色相角が45°においてC^(*)=√(a^(*2)+b^(*2))の値が最も大きい色の印刷物を印刷し評価に用いた。その際のL^(*)a^(*)b^(*)値の確認には、分光測色系(コニカミノルタ社製)を用いた。耐候加速試験、OD値測定、評価基準はインク組成物例の耐候性評価と同様にして行った。評価結果を表に示す。
【0117】
3.2.2.2.ガマット体積
上記耐候性評価と同様にして印刷を行った。ただし、各インクセットのインクを使用して記録媒体へ色再現が可能な全ての色の印刷を行い、印刷可能なL^(*)a^(*)b^(*)色空間のガマット体積を計算した。結果を表に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
3.2.2.3.凝集ムラ
前述のインク組成物の凝集ムラ評価と同様にして印刷と評価を行った。ただし、インクセットによる二次色以上の色を印刷した場合の凝集ムラの評価をするために、印刷は、インクセットを構成する5つのインクの記録媒体に対する合計のインクの付着量を、インク組成物の凝集ムラの評価の場合のインク付着量と同じとして、各インクごとのインクの付着量は等しくして5等分とした。インクセット1、2を用いて行った。結果を下記に記す。
インクセットNo. 凝集ムラ
インクセット1 4
インクセット2 1
【0121】
3.2.3.評価結果
ピグメントオレンジ43を含むオレンジインク組成物を備えるインクセット1、2は、記録物の優れた耐候性を示しガマット体積も広かった。これに対し、ピグメントオレンジ43を含むオレンジインク組成物を備えないインクセット3?5は、耐候性が劣ったかガマット体積が狭かった。また、各インクが溶剤郡Aの溶剤を含有するインクを含むインクセット1は二次色凝集ムラ低減にも優れていたが、溶剤郡Aの溶剤を含まないインク組成物17を含むインクセット2は二次色凝集ムラ低減の点で劣っていた。
【0122】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項2】
請求項1において、
前記環状エステルの総含有量に対する定着樹脂の総含有量の比が0.1?1.0である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2?40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5?5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上90質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R^(1)及びR^(3)の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R^(1)O-(R^(2)O)_(m)-R^(3) ・・・(2)
[一般式(2)中、R^(1)及びR^(3)は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2?6の整数を表す。ただし、R^(1)及びR^(3)の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項5】
請求項1?2、4の何れか1項において、
前記環状エステルの含有量が5?40質量%である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項1?2、4?5のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記定着樹脂が、さらに(メタ)アクリル系樹脂を含有する、請求項1?2、4?6のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1?2、4?7のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。
【請求項9】
請求項1?2、4?7のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物または請求項8に記載のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-10 
出願番号 特願2015-33763(P2015-33763)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 南 宏樹山本 悦司  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
登録日 2019-10-25 
登録番号 特許第6604000号(P6604000)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法  
代理人 磯部 光宏  
代理人 松本 充史  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 川▲崎▼ 通  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 磯部 光宏  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 仲井 智至  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 布施 行夫  
代理人 松本 充史  
代理人 川▲崎▼ 通  
代理人 仲井 智至  
代理人 布施 行夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ