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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
管理番号 1374878
異議申立番号 異議2019-701068  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-27 
確定日 2021-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6537215号発明「カーボンブラック分散液およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6537215号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について、訂正することを認める。 特許第6537215号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6537215号(以下「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、2016年8月26日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年9月25日(KR)韓国〕を国際出願日とする特願2018-513763号として特許出願されたものであって、令和元年6月14日に特許権の設定登録がされ、令和元年7月3日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?11に係る発明の特許に対し、令和元年12月27日に安藤宏(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 3月12日付け 取消理由通知
同年 6月15日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 6月23日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月29日 意見書(特許異議申立人)
同年10月 6日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 1月12日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 1月15日 上申書(特許異議申立人)
同年 1月20日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 2月16日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和2年6月15日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなされるところ、令和3年1月12日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6537215号の特許請求の範囲の請求項1-11を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-11について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?7からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「残留二重結合(RDB)値が0.5?40重量%である部分水素化ニトリルゴム」とあるのを、
訂正後の請求項1で「残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴム」との記載に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に「前記分散媒は、非共有電子対を有する窒素原子(N)および酸素原子(O)からなる群から選択される何れか1つまたは2つ以上のヘテロ原子を含む有機溶媒であり」とあるのを、
訂正後の請求項1で「前記分散媒はN-メチルピロリドンであり」との記載に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「0.1?2μmであることを特徴とする」との記載における「ある」との記載部分を「あり、」との記載に改めるとともに、当該訂正後の記載に続けて「前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?130,000g/molであり、」との記載を追加して訂正する。

(4)訂正事項4
訂正事項3の訂正後の記載に続けて、訂正前の請求項1の記載に「バインダー樹脂を含まず、」との記載を追加して訂正する。

(5)訂正事項5
訂正事項4の訂正後の記載に続けて、訂正前の請求項1の記載に「前記カーボンブラックの含有量が15重量%?30重量%である」との記載を追加して訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項7に「重量平均分子量が10,000?700,000g/molである」とあるのを、
訂正後の請求項7で「重量平均分子量が10,000?125,000g/molである」との記載に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項9に「残留二重結合(RDB)値が0.5?40重量%である」とあるのを、
訂正後の請求項9で「残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である」との記載に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1?5について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「残留二重結合(RDB)値が0.5?40重量%である部分水素化ニトリルゴム」との記載にある数値範囲を「0.5?1重量%」に限定するものである。
訂正事項2は、訂正前の請求項1に「前記分散媒は、非共有電子対を有する窒素原子(N)および酸素原子(O)からなる群から選択される何れか1つまたは2つ以上のヘテロ原子を含む有機溶媒であり」との記載にある有機溶媒の種類を、本件特許明細書の段落0050の「前記分散媒としては、…N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒…などが挙げられ」等の記載に基づき「N-メチルピロリドン」に限定するものである。
訂正事項3は、訂正前の請求項1の記載に「前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?130,000g/molであり、」との記載を追加することにより、部分水素化ニトリルゴムの「重量平均分子量」を限定するものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項1の記載に「バインダー樹脂を含まず、」との記載を追加することにより、カーボンブラック分散液の組成を限定するものである。
訂正事項5は、訂正前の請求項1の記載に「前記カーボンブラックの含有量が15重量%?30重量%である」との記載を追加することにより、カーボンブラック分散液の組成を限定するものである。
してみると、訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1?5は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項1は、本件特許明細書の段落0083の表1の実施例7及び8のRDB(%)が1%である旨の記載に基づいて導き出されるものである。
訂正事項2は、本件特許明細書の段落0050及び段落0075などの「N-メチルピロリドン」との記載に基づいて導き出されるものである。
訂正事項3は、本件特許明細書の段落0083の表1の実施例7のMWが130,000g/molである旨の記載に基づいて導き出されるものである。
訂正事項4は、本件特許明細書の段落0075及び段落0083の表1の具体例の組成がバインダーを含まない旨の記載に基づいて導き出されるものである。
訂正事項5は、本件特許明細書の段落0031の「分散液中のカーボンブラックは、全分散液(100重量%)を基準として10?30重量%…で含まれ」との記載、及び段落0084の表2の具体例におけるカーボンブラックの含有量が15重量%である記載に基づいて導き出されるものである。
したがって、訂正事項1?5は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項7に「重量平均分子量が10,000?700,000g/molである」とあるのを、訂正後の請求項7で「重量平均分子量が10,000?125,000g/molである」との記載に訂正することにより、部分水素化ニトリルゴムの「重量平均分子量」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項6は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項6は、本件特許明細書の段落0083の表1の実施例8のMWが125,000g/molである旨の記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項9の「残留二重結合(RDB)値が0.5?40重量%である部分水素化ニトリルゴム」との記載にある数値範囲を「0.5?1重量%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項7は、上記ア.に示したように「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無
訂正事項7は、本件特許明細書の段落0083の表1の実施例7及び8のRDB(%)が1%である旨の記載に基づいて導き出されるものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
訂正事項1?7に係る訂正前の請求項1?11について、その請求項2?11はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正前の請求項1?11に対応する訂正後の請求項1?11は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?7による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1?7による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1?11に係る発明(以下「本1発明」?「本11発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】カーボンブラックと、分散媒と、下記数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴムと、を含み、
前記分散媒はN-メチルピロリドンであり、
前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D50が0.1?2μmであり、
前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?130,000g/molであり、
バインダー樹脂を含まず、
前記カーボンブラックの含有量が15重量%?30重量%であることを特徴とする、カーボンブラック分散液。
[数学式1]
RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100
(前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)
【請求項2】前記部分水素化ニトリルゴムは、α,β‐不飽和ニトリル由来の構造単位、共役ジエン由来の構造単位、および水素化された共役ジエン由来の構造単位を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項3】前記α,β‐不飽和ニトリル由来の構造単位が、ゴムの総重量に対して20?50重量%で含まれる、請求項2に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項4】前記カーボンブラックの表面に前記部分水素化ニトリルゴムが導入されたカーボンブラック複合体を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項5】前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D90が10μm以下であり、D10が0.1?0.4μmである、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項6】前記部分水素化ニトリルゴムは、下記化学式1の単位、下記化学式2の単位、および下記化学式3の単位を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項7】前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?125,000g/molである、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項8】前記部分水素化ニトリルゴムは2?6の多分散指数PDI(Mw/Mn)の比を有する、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項9】カーボンブラック、分散媒、および数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴムを混合するステップを含む、請求項1から6及び8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項10】請求項1から6及び8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液、電極活物質、およびバインダー樹脂を混合するステップを含む、電極スラリーの製造方法。
【請求項11】請求項1から6及び8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液、電極活物質、およびバインダー樹脂を混合して電極スラリーを製造するステップと、前記電極スラリーを用いて電極を成形するステップと、を含む、電極の製造方法。」

第4 取消理由通知の概要
令和2年10月6日付けの取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

〔理由1〕本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物(甲第1号証及び/又は参考文献A)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2015-133302号公報
参考文献A:特開2015-128013号公報
よって、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項1?11に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2015-133302号公報
甲第2号証:特開2011-184664号公報
甲第3号証:特許第3585122号公報
甲第4号証:特表2013-538263号公報
参考文献A:特開2015-128013号公報
参考文献B:特開2006-253157号公報
参考文献C:特開2015-115106号公報
よって、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由3〕本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
(あ)カーボンブラックの分散粒径の作り分け
(い)カーボンブラックの分散粒径の測定方法
(お)分散効率の不備
よって、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由4〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(う)RDB値、重量平均分子量、多分散指数PDIの比の範囲
(え)分散媒の範囲
よって、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由5〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
(か)カーボンブラックの分散粒径の意味
よって、本件特許の請求項1?6及び8?11に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由3(実施可能要件)について
(1)カーボンブラックの分散粒径の作り分けの点
上記第4の〔理由3〕の(あ)の記載不備の要旨は『実施例1及び5並びに比較例5のものは、その製造条件が全く同じであるにもかかわらず、その「分散粒径」の値が相互に異なっていることから、本件特許の請求項1及び5に記載された「カーボンブラックの分散粒径」を満たす「カーボンブラック分散液」については、当業者が明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、どのように作り分けできるのか、全く理解できない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第6?7頁の(4-2-1)の項では『本件発明1が「残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴム」という特徴を有することによって、実施例1及び実施例5が本件発明1の技術的範囲から除外』される結果、上記(あ)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(あ)の記載不備は、本1発明に該当しない態様に関するものとなったから、上記〔理由3〕の(あ)の実施可能要件について、理由があるとはいえない。

(2)カーボンブラックの分散粒径の測定方法の点
上記第4の〔理由3〕の(い)の記載不備の要旨は『本件特許明細書の段落0029の記載を含む発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1の「カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D50が0.1?2μmである」という発明特定事項、及び請求項5の「カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D90が10μm以下であり、D10が0.1?0.4μmである」という発明特定事項の「分散粒径」という「機能・特性等」について「その機能、特性等を定量的に決定するための試験方法又は測定方法」が、実施可能な程度に明確に記載されていない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第7頁の(4-2-2)の項では『本願におけるカーボンブラックの分散粒径は、カーボンブラック分散液を製造した直後に測定されたものです。明細書において測定のタイミングが特段言及されていない以上、当業者は、カーボンブラックの分散粒径が、カーボンブラック分散液を製造した直後に測定された値を意味することを当然に理解すると思料します。』と主張され、上記(い)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(い)の記載不備は、その試験方法又は測定方法が実施不能な程度に不明確であるとはいえないから、上記〔理由3〕の(い)の実施可能要件について、理由があるとはいえない。

(3)分散効率の不備の点
上記第4の〔理由3〕の(お)の記載不備の要旨は『同じ条件で行った実施例1と実施例5の「分散効率」の値が相互に異なることから、本件特許明細書の表3などに提示されたデータには何らかの不備があるものと思料されるので、当業者といえども、本件特許に係る発明を正しく理解できない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第7?8頁の(4-2-3)の項では『実施例1及び5が、請求項に記載された発明から除外されたことによって、当業者は請求項に記載された発明を理解し、実施できると思料します。』と主張され、上記(お)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(お)の記載不備は、本1発明に該当しない態様に関するものとなったことから、上記〔理由3〕の(お)の実施可能要件について、理由があるとはいえない。

(4)実施可能要件のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1?11に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるとはいえないから、上記第4の〔理由3〕の実施可能要件の取消理由について、理由があるとはいえない。


2.理由4(サポート要件)について
(1)RDB値、重量平均分子量、及び多分散指数PDIの比の範囲の点
上記第4の〔理由4〕の(う)の記載不備の要旨は『本件特許明細書の「比較例5」の具体例においては、RDB値が14であり、重量平均分子量が260,000g/molであり、PDIの比が2.9である(…)にもかかわらず、その試験結果は「電極コーティング不良が発生」となっており、…RDB値の「0.5?40重量%」という数値の示す範囲、重量平均分子量の「10,000?700,000g/mol」という数値の示す範囲、及び/又は多分散指数PDI(Mw/Mn)の比の「2?6」という数値の示す範囲と、得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時の技術常識を参酌しても理解できない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第8?9頁の(4-3-1)の項では『実施例1、5、比較例5が、請求項に係る発明の技術的範囲から除外されたことによって、請求項に係る発明の技術的範囲が、課題を解決できない範囲を含まないことが明らかとなり、換言すれば、請求項に係る発明が課題を解決できることが明らかになったと思料します。』と主張され、上記(う)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(う)の記載不備は、本1発明に該当しない態様に関するものとなったことから、上記〔理由4〕の(う)のサポート要件について、理由があるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。

(2)分散媒の範囲の点
上記第4の〔理由4〕の(え)の記載不備の要旨は『例えば「ジエチルエーテル」や「ピリジン」などの他の種類の「分散媒」であっても、上記課題を解決できると認識できる程度の「試験結果」や「作用機序」についての記載が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に見当たらず、そのような記載が無くとも「NMP」と「ジエチルエーテル」等の「分散媒」としての有用性が同程度であるといえる「技術常識」の存在も見当たらない。このため、本件特許の請求項1の「前記分散媒は、非共有電子対を有する窒素原子(N)および酸素原子(O)からなる群から選択される何れか1つまたは2つ以上のヘテロ原子を含む有機溶媒であり」という「分散媒」の全ての範囲のものにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第9頁の(4-3-2)の項では『分散媒を、実施例で使用されたNMPに限定したことによって、本取消理由は解消したと思料します。』と主張され、上記(え)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(え)の記載不備は、分散媒の範囲が実施例で裏付けられた範囲のものに限定されたことから、上記〔理由4〕の(え)のサポート要件について、理由があるとはいえない。

(3)サポート要件のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1?11に係る発明の特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえないから、上記第4の〔理由4〕のサポート要件の取消理由について、理由があるとはいえない。

3.理由5(明確性要件)について
上記第4の〔理由5〕の(か)の記載不備の要旨は『カーボンブラックの分散粒径の「測定のタイミング」について、示唆を含めて記載が見当たらないので、本1発明及び本件特許の請求項5に係る発明の「カーボンブラックの分散粒径」の測定方法ないし定義が明確であるとはいえない。』というものである。
そして、令和3年1月12日付けの意見書の第9?10頁の(4-4)の項では『本願におけるカーボンブラックの分散粒径は、カーボンブラック分散液を製造した直後に測定されたものです。明細書において測定のタイミングが特段言及されていない以上、当業者は、カーボンブラックの分散粒径が、カーボンブラック分散液を製造した直後に測定された値を意味することを当然に理解すると思料します。』と主張され、上記(か)の記載不備が解消された旨の主張がなされている。
してみると、上記(か)の記載不備は、本願におけるカーボンブラックの分散粒径は、カーボンブラック分散液を製造した直後に測定されたものであると解すべきものであることについて、これを裏付ける証拠などが特段提出されていないものの、妥当な解釈であると認められるから、上記〔理由5〕の(か)の記載不備について、理由があるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1?11に係る発明の特許は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとはいえないから、上記第4の〔理由5〕の明確性要件の取消理由について、理由があるとはいえない。

4.理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)引用刊行物及びその記載事項
甲第1号証:特開2015-133302号公報
甲第2号証:特開2011-184664号公報
甲第3号証:特許第3585122号公報
甲第4号証:特表2013-538263号公報
甲第6号証:特開2013-8485号公報
参考文献A:特開2015-128013号公報
参考文献B:特開2006-253157号公報
参考文献C:特開2015-115106号公報

甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1、3及び6
「【請求項1】導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、
前記導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程と、
前記導電材ペースト2と正極活物質とを混合する第三の工程と、
を含み、
前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有してなり、
前記第二結着樹脂がフッ素系重合体よりなる、二次電池正極用スラリーの製造方法。…
【請求項3】前記第一結着樹脂がニトリル基含有単量体単位を2質量%以上50質量%以下含む、請求項1又は2に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。…
【請求項6】請求項1?5のいずれか一項に記載の製造方法により得られた二次電池正極用スラリーを、集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して正極合材層を形成する工程を含むことを特徴とする二次電池用正極の製造方法。」

摘記1b:段落0024
「【0024】…導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、二次電池の電池容量を維持しつつレート特性を十分に向上させる観点からは、導電材として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はファーネスブラックを用いることが好ましい。」

摘記1c:段落0030、0035?0036及び0038
「【0030】…上記第一結着樹脂中での共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位の合計量の割合は、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、50質量%以上が好ましく、98質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。…第一結着樹脂中の共役ジエン単量体単位及び1-オレフィン単量体単位の含有量が上記範囲内であれば、導電材ペースト1中における導電材の沈降を防ぎ、導電材ペースト1の経時安定性を一層向上させることができる。…
【0035】…α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては…例えば、アクリロニトリル…などが挙げられる。…
【0036】…上記第一結着樹脂中でのニトリル基含有単量体単位の割合は、第一結着樹脂中の全単量体単位を100質量%とした場合に、2質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が特に好ましい。…第一結着樹脂中のニトリル基含有単量体単位の配合量が上記範囲内であれば、導電材ペースト1中における導電材の分散性を向上させ、かかる導電材ペースト1を用いて製造した二次電池用正極の電解液に対する安定性を向上させることができる。…
【0038】…第一結着樹脂としては、共役ジエン単量体と、ニトリル基含有単量体とを含む単量体組成物を重合して得た重合体に、水素添加したものを用いることが好ましい。具体的には、1,3-ブタジエン及びアクリロニトリルを含む単量体組成物を重合して得られたニトリルゴム(NBR)に対して、水素添加して得られる水素添加ニトリルゴム(HNBR)を第一結着樹脂として使用することが好ましい。…なお、水素添加した重合体のヨウ素価は60mg/100mg以下であることが好ましく、30mg/100mg以下であることが更に好ましく、20mg/100mg以下であることが特に好ましい。また、下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく、8mg/100mg以上であることが更に好ましい。」

摘記1d:段落0052
「【0052】…有機溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。」

摘記1e:段落0096?0097、0100?0105、0119及び0127
「【0096】以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、導電材ペーストの経時安定性、並びに、二次電池の低温特性及び高温サイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0097】<導電材ペーストの経時安定性>
導電材ペースト2を15mlのガラス瓶中で一週間静置する。そして、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求める。下記基準で分散性を判断する。分散粒子径が1次粒子(バインダーが吸着していない状態での導電材の体積平均粒子径)に近いほど凝集性が小さく分散が進んでいることを示している。
A:2μm未満…
【0100】(実施例1)…撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート(BA)35部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)18.6部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン(BD)46.4部を圧入し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、共役ジエン単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及びニトリル基含有単量体単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。…
【0101】得られた重合体に対してイオン交換水を添加して全固形分濃度を12質量%に調整した400ミリリットル(全固形分48グラム)の溶液を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
【0102】次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(以下、「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0103】その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して結着樹脂の水分散液を得た。また、この結着樹脂の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、水素添加した重合体よりなる第一結着樹脂A1のNMP溶液を得た。
【0104】…導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業)3.0部と、第一のバインダーとして上記第一結着樹脂A1のNMP溶液を固形分相当量で0.6部(固形分濃度8.0質量%)と、導電材ペースト1の固形分濃度が10質量%となるような適量のNMPとをディスパーにて攪拌(3000rpm、10分)し導電材ペースト1を得た。…
【0105】…その後、第二のバインダーとしてPVdF(KFポリマー#7200、株式会社クレハ社製)よりなる第二結着樹脂を固形分相当で2.4部と、導電材ペースト2の固形分濃度が10質量%になるように適量のNMPとを入れてディスパーで撹拌(3000rpm、10分)して導電材ペースト2を調製した。なお、表1に示す通り、導電材ペースト2に含まれる全結着樹脂(第一のバインダーおよび第二のバインダー)の固形分量を100%とした場合の第二結着樹脂の配合比率は80%であった。得られた導電材ペースト2の粘度は、5000mPa・sであった。作製した導電材ペースト2を用いて導電材ペースト2の経時安定性の評価を行った。…
【0119(実施例8) 第一結着樹脂A2を以下のようにして製造した。…(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート(BA)を配合せず、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)37部、及び共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン(BD)63部を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一結着樹脂A2を得た。得られた第一結着樹脂A2のNMP溶液の固形分濃度は、12質量%であった。…
【0127】【表1】



甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記2a:請求項1?3
「【請求項1】カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアセタール樹脂と、N-メチル-2-ピロリドンとを含む、カーボンブラック分散体。
【請求項2】カーボンブラックの分散粒径(D50)が0.1?2μmである請求項1記載のカーボンブラック分散体。
【請求項3】請求項1または2記載の分散体を使用して電極合材層が形成された電池用電極。」

摘記2b:段落0040
「【0040】カーボンブラックの分散粒径は、0.03μm以上、2μm以下、好ましくは、0.05μm以上、1μm以下、更に好ましくは0.05μm以上、0.5μm以下に微細化することが望ましい。カーボンブラックの分散粒径が0.03μm未満の組成物は、その作製が難しい場合がある。また、カーボンブラックの分散粒径が2μmを超える組成物は、塗工した際に膜欠陥を生じたり、貯蔵安定性が悪い場合がある。ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。」

摘記2c:段落0044?0045、0050、0056及び0062
「【0044】実施例及び比較例で使用したカーボンブラック、ポリビニルアセタール樹脂、分散剤、活物質、バインダー、ポリイミド前駆体溶液を以下に示す。
【0045】<カーボンブラック>…
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径35nm、比表面積68m2/g、以下粒状品と略記する。
・EC-300J(アクゾ社製):ケッチェンブラック、一次粒子径40nm、比表面積800m2/g。…
【0050】<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下PVDFと略記する。…
【0056】【表1】

…【0062】[実施例11、実施例12、比較例12?比較例15]…実施例または比較例で調製した各種分散体、およびPVDFをディスパーにて混合し、各種電池電極用合材を得た。」

甲第3号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記3a:段落0046
「【0046】…アセチレンブラックおよび水素化ニトリルゴムを、NMPを分散媒として練合し、固形分濃度22重量%の導電剤ペーストBを調製した。…図2より、アセチレンブラックが鱗状になって高密度に積層された様子が観察できる。…アセチレンブラックの嵩密度は、0.59g/mlであった。このことは、ペーストB中におけるアセチレンブラックの分散性が非常に高いことを示している。」

甲第4号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記4a:段落0206
「【0206】【表2】



甲第6号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記6a:段落0039?0040
「【0039】本発明に用いるバインダーのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の重量平均分子量は、好ましくは10,000?700,000、より好ましくは50,000?500,000、特に好ましくは100,000?300,000である。バインダーの重量平均分子量を上記範囲とすることで、正極に柔軟性を持たせることができ、更に正極スラリーの製造時に塗工しやすい粘度に調整することが容易である。
【0040】上記のように、バインダーは、ニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位をそれぞれ含有し、さらに親水性基を有する重合単位を含有することが好ましい。このようなバインダーは、ニトリル基を有する重合単位を導く単量体、直鎖アルキレン構造単位を導く単量体及び親水性基を有する重合単位を導く単量体を重合して得られる。なお、直鎖アルキレン構造単位は、不飽和結合を有する構造単位を有する重合体を得た後に、これを水素添加して形成することができる。」

参考文献Aには、次の記載がある。
摘記A1:請求項1及び4
「【請求項1】負極活物質、結着剤及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であって、
前記負極活物質がリチウムチタン酸化物を含み、
前記結着剤が、フッ化ビニリデン単量体単位を80質量%以上含む重合体X、及び共役ジエン水素化物単量体単位を30?80質量%含む重合体Yを含む、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。…
【請求項4】導電材をさらに含み、
前記導電材のBET比表面積が35?3000m^(2)/gである、請求項1?3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。」

摘記A2:段落0043、0045?0048及び0056
「【0043】…重合体Yは、共役ジエン水素化物単量体単位を含む重合体である。共役ジエン水素化物単量体単位は、共役ジエン単量体の重合により得られる単位をさらに水素化して得られる構造を有する単位である。…
【0045】重合体Yにおける共役ジエン水素化物単量体単位の割合は、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、一方80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。共役ジエン水素化物単量体単位の割合が前記下限以上であることにより、スラリー分散性を良好なものとすることができ、それにより、スラリー粘度安定性及び出力特性を向上させることができる。…
【0046】…本発明の効果を得る観点からは、重合体Yにおけるかかる水素化されていない単位の割合は、所定以下であることが好ましい。…重合体Yのヨウ素価を、水素化されていない単位の割合の指標としうる。重合体Yのヨウ素価は、好ましくは30mg/100mg以下、より好ましくは15mg/100mg以下である。
【0047】重合体Yは、任意の単位として、ニトリル基含有単量体単位を含みうる。…ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物…の例としては、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル…が挙げられる。…
【0048】重合体Y中のニトリル基含有単量体単位の割合は、好ましくは10質量%以上であり、一方好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。ニトリル基含有単量体単位の割合が前記下限以上であることにより、NMP等の溶媒との親和性を高めることができる。…
【0056】重合体Yのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の質量平均分子量は、好ましくは10,000?700,000、より好ましくは50,000?500,000、特に好ましくは100,000?300,000である。」

摘記A3:段落0063?0064及び0068
「【0063】導電材は、…ケッチェンブラック(登録商標)、…等の導電性炭素材料;…が挙げられる。これらの中でも、…アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、及びグラファイトが好ましく、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがさらに好ましい。…
【0064】導電材のBET比表面積は、好ましくは35m^(2)/g以上、より好ましくは400m^(2)/g以上であり、一方好ましくは3000m^(2)/g以下、より好ましくは2000m^(2)/g以下である。…BET比表面積を前記上限以下とすることにより、導電材に対する結着剤Yの影響を高め、スラリー組成物の分散性を向上させることができる。…
【0068】有機溶媒の例としては…取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、N-メチルピロリドンが最も好ましい。」

摘記A4:段落0094?0098、0100、0110及び0113
「【0094】〔実施例1〕…
【0095】(1-2.重合体Yの製造)…アクリロニトリル20部、ブチルアクリレート35部をこの順で入れ、…1,3-ブタジエン45部を圧入し、…重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
【0096】…6時間水素添加反応させた(第一段階の水素添加反応)。第一段階の水素添加反応後の重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
【0097】次いで、…6時間水素添加反応させた(第二段階の水素添加反応)。
【0098】その後、…重合体Y水分散液100部にNMP320部を加え、…60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、重合体Yは、重合体全量に対して、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を35質量%含んでいた。…また重合体Yのヨウ素価は10mg/100mgであった。…
【0100】(1-4.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製)負極活物質として、工程(1-3)で得られた炭素材料被覆LTO粒子を100部、導電材としてケッチェンブラック(比表面積:800m^(2)/g)を2.0部、重合体Xを1.6部(固形分相当、8%NMP溶液20質量部)、工程(1-2)で得た重合体Yを0.4部(固形分相当、8%NMP溶液5質量部)、及び適量のNMPをプラネタリーミキサーに加え、撹拌することでスラリー(初期粘度値η0=6500mPa・s)を作製した。これを減圧下で脱泡処理して、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物とした。この負極用スラリー組成物について、スラリー粘度安定性を評価した。結果を表1に示す。…
【0110】〔実施例8〕工程(1-2)の重合体Yの製造において、1,3-ブタジエンの添加量を65部に変更し、アクリロニトリルの添加量を35部に変更し、ブチルアクリレートの添加量をゼロ部とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。重合体Yの製造において、第一段階の水素添加反応後の重合体のヨウ素価は20mg/100mgであった。また重合体Yのヨウ素価は5mg/100mgであった。…
【0113】【表1】



参考文献Bには、次の記載がある。
摘記B1:段落0007及び0045
「【0007】…バインダーとして、…水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)とを併用する…
【0045】実施例1…正極塗膜形成用塗料の組成:
リチウムニッケル酸化物98質量部
〔日本化学工業製セルシードC-10(商品名)〕
アセチレンブラック1質量部
〔昭和電工製デンカブラック(商品名)〕
水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム 0.2質量部(固形分)
〔日本ゼオン製BM720H(商品名) 8%N-メチルピロリドン溶液〕
ポリビニリデンフルオライド0.8質量部
〔呉羽化学製KFポリマー(商品名)〕
N-メチルピロリドン25質量部
〔上記日本ゼオン製BM720H(前出)の溶剤分も含む〕」

参考文献Cには、次の記載がある。
摘記C1:段落0061、0066及び0099
「【0061】結着剤は、例えば、…アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile-butadiene rubber)、…
【0066】…複合化カーボン、および複合化カーボンを分散可能な第1のバインダを、ナノヴェイタ(吉田機械興業製)を用いて所望の割合で溶剤(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に分散させ、導電組成物を作製する。…
【0099】実施例1?17と、比較例10を比較すると、実施例1?17は、第1のバインダとして複合化カーボンを分散可能な水素化アクリロニトリルブタジエン共重合体(H-NBR)を使用しているため、第1のバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用している比較例10に対してカーボンナノチューブの分散性が向上していることがわかる。」

(2)刊行物に記載された発明
ア.甲1発明
摘記1aには「導電材と、第一結着樹脂を主成分として含む第一のバインダーとを混合して導電材ペースト1を得る第一の工程と、前記導電材ペースト1に、第二結着樹脂を主成分として含む第二のバインダーを添加して導電材ペースト2を得る第二の工程…前記第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有してなり、…前記第一結着樹脂がニトリル基含有単量体単位を2質量%以上50質量%以下含む」との記載がなされているところ、甲第1号証(特に請求項1を引用する請求項3)には、その「導電材ペースト2」として、
『導電材と第一結着樹脂と第二結着剤樹脂を含む導電材ペースト2であって、第一結着樹脂が、共役ジエン単量体単位、1-オレフィン単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる群から選択される少なくとも一種の単量体単位を含有してなり、前記第一結着樹脂がニトリル基含有単量体単位を2質量%以上50質量%以下含む導電材ペースト2。』が記載されているといえる。

そして、当該「導電材ペースト2」の具体的態様について、
摘記1cには「第一結着樹脂としては、共役ジエン単量体と、ニトリル基含有単量体とを含む単量体組成物を重合して得た重合体に、水素添加したものを用いることが好ましい。…水素添加した重合体のヨウ素価は60mg/100mg以下であることが好ましく、…下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく、8mg/100mg以上であることが更に好ましい。」との記載がなされ、
摘記1dには「有機溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。」との記載がなされ、
摘記1eには「実施例に基づき具体的に説明するが、…量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。…導電材ペーストの経時安定性…導電材ペースト2を15mlのガラス瓶中で一週間静置する。そして、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定し、体積平均粒子径D50を求める。下記基準で分散性を判断する。…A:2μm未満…(実施例1)…撹拌機付きのオートクレーブに、…n-ブチルアクリレート(BA)35部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル(AN)18.6部をこの順で入れ、…共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン(BD)46.4部を圧入し、…共役ジエン単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及びニトリル基含有単量体単位を含んでなる重合体を得た。…第一段階の水素添加反応…のとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
…次いで、…第二段階の水素添加反応…させた。…この結着樹脂の水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、水素添加した重合体よりなる第一結着樹脂A1のNMP溶液を得た。…導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉:電気化学工業)3.0部と、第一のバインダーとして上記第一結着樹脂A1のNMP溶液を固形分相当量で0.6部(固形分濃度8.0質量%)と、導電材ペースト1の固形分濃度が10質量%となるような適量のNMPとをディスパーにて攪拌(3000rpm、10分)し導電材ペースト1を得た。…その後、第二のバインダーとしてPVdF(KFポリマー#7200、株式会社クレハ社製)よりなる第二結着樹脂を固形分相当で2.4部と、導電材ペースト2の固形分濃度が10質量%になるように適量のNMPとを入れてディスパーで撹拌(3000rpm、10分)して導電材ペースト2を調製した。…作製した導電材ペースト2を用いて導電材ペースト2の経時安定性の評価を行った。…【表1】…スラリー粘度安定性…A」との記載がなされている。

そうすると、甲第1号証の刊行物には、
『導電材としてアセチレンブラックと、
共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン46.4質量部と、ニトリル基含有単量体単位としてアクリロニトリル18.6質量部と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート35質量部とを重合して得た重合体に、重合体のヨウ素価が35mg/100mgとなる第一段階の水素添加反応と、次いで第二段階の水素添加反応をさせた、水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂と、
第二結着剤樹脂としてPVdFと、
有機溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)と
を含む導電材ペーストであって、導電材ペーストの経時安定性がA(導電性ペーストを一週間静置してレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定した体積平均粒子径D50が2μm未満)の評価の導電材ペースト。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ.参A発明
摘記A1の「負極活物質、結着剤及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であって、…前記結着剤が、…共役ジエン水素化物単量体単位を30?80質量%含む重合体Yを含む、…導電材をさらに含み、…リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。」との記載、
摘記A2の「共役ジエン水素化物単量体単位は、共役ジエン単量体の重合により得られる単位をさらに水素化して得られる構造を有する単位である。…重合体Yのヨウ素価を、水素化されていない単位の割合の指標としうる。重合体Yのヨウ素価は、好ましくは30mg/100mg以下、より好ましくは15mg/100mg以下である。」との記載、
摘記A3の「導電材は、…カーボンブラック…が好ましく、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがさらに好ましい。…有機溶媒の例としては…取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、N-メチルピロリドンが最も好ましい。」との記載、並びに
摘記A4の「〔実施例1〕…(1-2.重合体Yの製造)…重合体Yは、重合体全量に対して、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を35質量%含んでいた。…また重合体Yのヨウ素価は10mg/100mgであった。…(1-4.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製)…導電材としてケッチェンブラック(比表面積:800m^(2)/g)を2.0部、…工程(1-2)で得た重合体Yを0.4部(固形分相当、8%NMP溶液5質量部)、及び適量のNMPをプラネタリーミキサーに加え、…リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物とした。…〔実施例8〕工程(1-2)の重合体Yの製造において、1,3-ブタジエンの添加量を65部に変更し、アクリロニトリルの添加量を35部に変更し、ブチルアクリレートの添加量をゼロ部とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。重合体Yの製造において、第一段階の水素添加反応後の重合体のヨウ素価は20mg/100mgであった。また重合体Yのヨウ素価は5mg/100mgであった。」との記載、及び表1の「実施例8」の記載からみて、参考文献Aには、
『負極活物質、結着剤、導電材及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であって、前記結着剤として、アクリロニトリル単量体単位(AN量)35質量%と1,3-ブタジエン由来の単量体単位(BD量)65質量%からなり、水素添加反応後のヨウ素価が5mg/100mgの重合体Yを0.4質量部含み、導電材としてケッチェンブラック(比表面積:800m^(2)/g)を2.0部を含み、有機溶剤としてN-メチルピロリドン(NMP)を含む、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。』についての発明(以下「参A発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲第1号証を主引用例とした場合の検討
ア.対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「導電材としてアセチレンブラック」は、本件特許明細書の段落0025の「カーボンブラックとしては、市販の…アセチレンブラック…が使用できる。」との記載にある「カーボンブラック」の一例としての「アセチレンブラック」に合致するものであることから、本1発明の「カーボンブラック」に相当し、
甲1発明の「有機溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)」は、本件特許明細書の段落0050の「分散媒としては…N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒」との記載、及び同段落0075の「実施例1?8…N-メチルピロリドン(NMP)溶媒」との記載にある「NMP」と合致する分散媒であって、本1発明の「前記分散媒はN-メチルピロリドンであり」に相当し、
甲1発明の「導電材ペーストの経時安定性がA(導電性ペーストを一週間静置してレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定試料中の粒子の分散粒子径を測定した体積平均粒子径D50が2μm未満)の評価の導電材ペースト」は、当該「導電材ペースト」が、測定試料中の粒子としてのカーボンブラックをD50が2μm未満の分散粒子径で含んでいるものとして記載されており、甲第2号証の段落0040(摘記2b)の「カーボンブラックの分散系が0.03μm未満の組成物は、その作製が難しい」との記載をも参酌するに、甲1発明の分散粒子径が0.1μm未満のような極端に低い範囲にある蓋然性は技術常識からみて否定されるべきであるから、本1発明の「前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D50が0.1?2μmであり」に相当する。

次に、甲1発明の「共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン46.4質量部と、ニトリル基含有単量体単位としてアクリロニトリル18.6質量部と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート35質量部とを重合して得た重合体に、重合体のヨウ素価が35mg/100mgとなる第一段階の水素添加反応と、次いで第二段階の水素添加反応をさせた、水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂」は、
参考文献Bの段落0007及び0045(摘記B1)の「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)…日本ゼオン製BM720H(商品名)」との記載にあるような「アクリロニトリル」と「ブタジエン」とを共重合させた重合体(NBR)を「水素化」した重合体(H-NBR)が、一般に「ゴム」としての性状を示すことが技術常識として知られているといえるところ、
甲1発明の「水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂」は、摘記1cの「水素添加した重合体のヨウ素価は…下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく」との記載からみて、100%の完全水素化ではない「部分水素化ニトリルゴム」の一種であることが明らかである。
そして、甲1発明の「重合体のヨウ素価が35mg/100mgとなる第一段階の水素添加反応」における水添率は、ヨウ素の原子量が126.9であり、ブタジエンの分子量が54.09であることから、その水素化されていない単位の割合(H-NBR中の二重結合が残留したBD量)は、35(水素添加後のヨウ素価)/(126.9×2)×54.09=7.459となり、
甲1発明の「水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂」を調製する際に用いた単量体単位の総計100質量部に対する「共役ジエン単量体単位」としての「1,3-ブタジエン」の割合は「46.4質量部」であることから、本1発明のRDB値に換算すると、7.459×(100/46.4)=16.075重量%となる。
また、甲1発明の「次いで第二段階の水素添加反応をさせた」ときの重合体の水添率は、摘記1cの「3mg/100mg」という下限値が、上記に示した計算方法と同様に、3/(126.9×2)×54.09=0.639となり、本1発明のRDB値に換算すると、0.639×(100/46.4)=1.377重量%となることから、
甲1発明(甲第1号証の「実施例1」の具体例)の、第一段階及び第二段階の水素添加反応をさせた「水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂」のRDB値は『1.377重量%以上16.075重量%未満』の範囲にあると合理的には解される。
以上のことから、甲1発明の「共役ジエン単量体単位として1,3-ブタジエン46.4質量部と、ニトリル基含有単量体単位としてアクリロニトリル18.6質量部と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート35質量部とを重合して得た重合体に、重合体のヨウ素価が35mg/100mgとなる第一段階の水素添加反応と、次いで第二段階の水素添加反応をさせた、水素添加した重合体よりなる第一結着剤樹脂」は、
本1発明の記載に即して「下記数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が1.377重量%以上16.075重量%未満である部分水素化ニトリルゴム…[数学式1] RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100 (前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)」に相当するといえる。

してみると、本1発明と甲1発明は『カーボンブラックと、分散媒と、部分水素化ニトリルゴムと、を含み、前記分散媒はN-メチルピロリドンであり、前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D50が0.1?2μmである、カーボンブラック分散液。』という点において一致し、次の(α)?(δ)の4つの点において一応相違する。

(α)部分水素化ニトリルゴムの重量平均分子量が、本1発明は「10,000?130,000g/mol」であるのに対して、甲1発明は重量平均分子量の値が不明である点。

(β)部分水素化ニトリルゴムの数学式1〔RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100(前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)〕によって計算される残留二重結合(RDB)値が、本1発明は「0.5?1重量%」であるのに対して、甲1発明は「1.377重量%以上16.075重量%未満」である点。

(γ)バインダー樹脂を、本1発明は「含ま」ないのに対して、甲1発明は「第二結着剤樹脂としてPVdF」を「含む」ものである点。

(δ)カーボンブラックの含有量が、本1発明は「15重量%?30重量%」であるのに対して、甲1発明は、甲第1号証の段落0127(摘記1e)の【表1】の「実施例1…導電材(アセチレンブラック)…配合量[質量部]…3…第一結着樹脂…配合量[質量部]…0.6…第二結着樹脂…配合量[質量部]…2.4…性状…固形分濃度[質量%]…10」との記載からみて、10質量%×3/(3+0.6+2.4)=5質量%である点。

イ.判断
(ア)上記(α)の相違点について
甲第4号証の段落0206(摘記4a)には、部分水素化ニトリルゴム(PH-NBR)の重量平均分子量(Mw)が177,000?283,000程度であることが記載されているところ、甲1発明の部分水素化ニトリルゴムの重量平均分子量を、本1発明の「10,000?130,000g/mol」にすべき動機付けは、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cの全ての記載を精査しても見当たらない。このため、上記(α)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
そして、本件特許明細書の段落0048には「前記ニトリルゴムが上記の範囲の重量平均分子量…を有する場合、カーボンブラックを分散媒中に均一に分散させることができる。」との記載がなされているところ、本1発明は、上記(α)に係る構成を具備することで、本件特許明細書の実施例7などの実験データで確認されたとおりの格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、上記(α)の相違点は、実質的な差異であるから、本1発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、甲1発明に、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cに記載の技術事項を組み合わせ、さらに本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、上記(α)の相違点に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)上記(β)の相違点について
甲1発明の残留二重結合(RDB値)は、上記のとおり「1.377重量%以上16.075重量%未満」の範囲にあるものであるから、そのRDB値を1.377重量%よりも低い値にすることには阻害事由があるというべきである。また、甲1発明のRDB値を本1発明の「0.5?1重量%」の範囲にすべき動機付けは、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cの全ての記載を精査しても見当たらない。このため、上記(β)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
そして、本件特許明細書の段落0024には「残留二重結合(RDB)値が0.5?40重量%である場合、分散媒に対する混和性が増加し、カーボンブラックの分散性を高めることができる。」との記載がなされているところ、本1発明は、上記(β)に係る構成を具備することで、本件特許明細書の実施例7などの実験データで確認されたとおりの格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、上記(β)の相違点は、実質的な差異であるから、本1発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、甲1発明に、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cに記載の技術事項を組み合わせ、さらに本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、上記(β)の相違点に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和3年1月15日付けの上申書において『カーボンブラック濃度を15?30重量%に限定した案は、少なくとも進歩性を有するとはいえません。』と主張し、令和3年2月16日付けの意見書において『カーボンブラック濃度を15?30重量%に限定したとしても、少なくとも進歩性を有するとはいえません。』と主張する。
しかしながら、当該上申書及び意見書においては、上記(α)?(γ)の相違点を容易に想到し得るといえる根拠が何ら示されていないので、特許異議申立人の上記主張を斟酌しても、本1発明に進歩性がないとすることはできない。

(エ)甲第1号証を主引用例とした場合のまとめ
以上総括するに、本1発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、上記(α)及び(β)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
したがって、上記(γ)及び(δ)の相違点について検討するまでもなく、本1発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、甲第1号証を主引用例とした場合に、上記第4の〔理由1〕の新規性及び〔理由2〕の進歩性の取消理由について、理由があるとはいえない。

(4)参考文献Aを主引用例とした場合の検討
ア.対比
本1発明と参A発明とを対比する。
参A発明の「結着剤」としての「アクリロニトリル単量体単位(AN量)35質量%と1,3-ブタジエン由来の単量体単位(BD量)65質量%からなり、水素添加反応後のヨウ素価が5mg/100mgの重合体Y」は、
参考文献Bの段落0007及び0045(摘記B1)の「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)…日本ゼオン製BM720H(商品名)」との記載にあるような「アクリロニトリル」と「ブタジエン」とを共重合させたものを「水素化」した「ゴム」として普通に知られる「H-NBR」に該当するものであって、
参A発明の「H-NBR」は、その「1,3-ブタジエン由来の単量体単位」を「水素化されていない単位の割合の指標」となる「ヨウ素価」が「5mg/100mg」になるまで水添されてなるものであるところ、ヨウ素の原子量が126.9であり、ブタジエンの分子量が54.09であることから、その水素化されていない単位の割合(H-NBR中の二重結合が残留したBD量)は、5(水素添加後のヨウ素価)/(126.9×2)×54.09=1.066となり、 参A発明の「H-NBR」を調製する際に用いた単量体単位の総計100質量部に対する「1,3-ブタジエン由来の単量体単位(BD量)」は「65質量%」であることから、本1発明のRDB値に換算すると、1.066×(100/65)=1.64重量%となるので、
本1発明の記載に即して「下記数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が1.64重量%である部分水素化ニトリルゴム…[数学式1] RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100 (前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)」に相当する。

次に、参A発明の「導電材」としての「ケッチェンブラック(比表面積:800m^(2)/g)」は、本件特許明細書の段落0025の「カーボンブラックとしては、市販の…ケッチェンブラック…が使用できる。」との記載にある「カーボンブラック」の一例としての「ケッチェンブラック」に合致するものであることから、本1発明の「カーボンブラック」に相当し、
参A発明の「有機溶剤」としての「N-メチルピロリドン(NMP)」は、本件特許明細書の段落0050の「分散媒としては…N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒」との記載、及び同段落0075の「実施例1?8…N-メチルピロリドン(NMP)溶媒」との記載にある「NMP」と合致する分散媒であって、本1発明の「前記分散媒はN-メチルピロリドンであり」に相当し、
参A発明の「リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物」は、その組成に「ケッチェンブラック」というカーボンブラックが分散されていることから、本1発明の「カーボンブラック分散液」に相当する。

してみると、本1発明と参A発明は『カーボンブラックと、分散媒と、部分水素化ニトリルゴムと、を含み、前記分散媒はN-メチルピロリドンである、カーボンブラック分散液。』という点において一致し、次の(ε)?(ι)の5つの点において一応相違する。

(ε)カーボンブラックの分散粒径が、本1発明は「粒径分布D50が0.1?2μmである」のに対して、参A発明は、ケッチェンブラック(登録商標)というカーボンブラックの「分散粒径」が不明な点。

(ζ)部分水素化ニトリルゴムの重量平均分子量が、本1発明は「10,000?130,000g/mol」であるのに対して、参A発明は重量平均分子量の値が不明である点。

(η)部分水素化ニトリルゴムの数学式1〔RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100(前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)〕によって計算される残留二重結合(RDB)値が、本1発明は「0.5?1重量%」であるのに対して、参A発明は「1.64重量%」である点。

(θ)バインダー樹脂を、本1発明は「含ま」ないのに対して、甲1発明は「結着剤」を「含む」ものである点。

(ι)カーボンブラックの含有量が、本1発明は「15重量%?30重量%」であるのに対して、参A発明は、参考文献Aの段落0100及び0110(摘記A4)の「炭素材料被覆LTO粒子を100部…ケッチェンブラック…を2.0部…重合体X…8%NMP溶液20質量部…重合体Y…8%NMP溶液5質量部…実施例8…実施例1と同様」との記載からみて、2.0÷(100+2.0+20+5)×100=1.5748≒1.57重量%である点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、上記(η)の相違点について検討する。
参A発明の残留二重結合(RDB値)は、上記のとおり「1.64重量%」であるところ、参A発明のRDB値を本1発明の「0.5?1重量%」の範囲にすべき動機付けは、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cの全ての記載を精査しても見当たらないので、上記(η)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
そして、本1発明は、上記(η)に係る構成を具備することで、本件特許明細書の実施例7などの実験データで確認されたとおりの格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、上記(η)の相違点は、実質的な差異であるから、本1発明は、参考文献Aに記載された発明であるとはいえない。
また、参A発明に、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cに記載の技術事項を組み合わせ、さらに本件特許の出願当時の技術常識をどのように組み合わせたとしても、上記(η)に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ここで、特許異議申立人は、令和3年1月15日付けの上申書において『カーボンブラック濃度を15?30重量%に限定した案は、少なくとも進歩性を有するとはいえません。』と主張し、令和3年2月16日付けの意見書において『カーボンブラック濃度を15?30重量%に限定したとしても、少なくとも進歩性を有するとはいえません。』と主張するが、当該上申書及び意見書においては、上記(ε)?(θ)の相違点を容易に想到し得るといえる根拠が何ら示されていないので、特許異議申立人の上記主張を斟酌しても、本1発明に進歩性がないとすることはできない。
以上総括するに、本1発明は、参考文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、上記(η)の相違点に係る構成を導き出すことが、当業者にとって容易想到であるとは認められない。
したがって、上記(ε)?(ζ)及び(θ)?(ι)の相違点について検討するまでもなく、本1発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号及び同項第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、参考文献Aを主引用例とした場合に、上記第4の〔理由1〕の新規性及び〔理由2〕の進歩性の取消理由について、理由があるとはいえない。

(5)本2?11発明について
本2?11発明は、本1発明を引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の新規性及び進歩性が上記のとおり否定できない以上、本2?11発明が、甲第1号証又は参考文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、甲第1?4及び6号証並びに参考文献A?Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえず、本2?11発明について、上記第4の〔理由1〕の新規性及び〔理由2〕の進歩性の取消理由について、理由があるとはいえない。

5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人が主張する「申立ての理由(特許法第29条第2項(同法第113条第2号))」は「本件特許発明1?11は、甲1号証及び周知技術(甲第2号証)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。」というものである。
そして、この理由は、上記第4の〔理由2〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立に該当しない。

第6 むすび
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の本1?11発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本1?11発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、分散媒と、下記数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴムと、を含み、
前記分散媒はN‐メチルピロリドンであり、
前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D_(50)が0.1?2μmであり、
前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?130,000g/molであり、
バインダー樹脂を含まず、
前記カーボンブラックの含有量が15重量%?30重量%であることを特徴とする、カーボンブラック分散液。
[数学式1]
RDB(重量%)=BD重量/(BD重量+HBD重量)×100
(前記数学式1において、BDは共役ジエン由来の構造単位を、HBDは水素化された共役ジエン由来の構造単位をそれぞれ意味する。)
【請求項2】
前記部分水素化ニトリルゴムは、α,β‐不飽和ニトリル由来の構造単位、共役ジエン由来の構造単位、および水素化された共役ジエン由来の構造単位を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項3】
前記α,β‐不飽和ニトリル由来の構造単位が、ゴムの総重量に対して20?50重量%で含まれる、請求項2に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項4】
前記カーボンブラックの表面に前記部分水素化ニトリルゴムが導入されたカーボンブラック複合体を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項5】
前記カーボンブラックの分散粒径は、粒径分布D_(90)が10μm以下であり、D_(10)が0.1?0.4μmである、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項6】
前記部分水素化ニトリルゴムは、下記化学式1の単位、下記化学式2の単位、および下記化学式3の単位を含む、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【化1】

【化2】

【化3】


【請求項7】
前記部分水素化ニトリルゴムは、重量平均分子量が10,000?125,000g/molである、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項8】
前記部分水素化ニトリルゴムは2?6の多分散指数PDI(Mw/Mn)の比を有する、請求項1に記載のカーボンブラック分散液。
【請求項9】
カーボンブラック、分散媒、および数学式1によって計算される残留二重結合(RDB)値が0.5?1重量%である部分水素化ニトリルゴムを混合するステップを含む、請求項1から8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液、電極活物質、およびバインダー樹脂を混合するステップを含む、電極スラリーの製造方法。
【請求項11】
請求項1から8の何れか一項に記載のカーボンブラック分散液、電極活物質、およびバインダー樹脂を混合して電極スラリーを製造するステップと、前記電極スラリーを用いて電極を成形するステップと、を含む、電極の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-17 
出願番号 特願2018-513763(P2018-513763)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 蔵野 雅昭
木村 敏康
登録日 2019-06-14 
登録番号 特許第6537215号(P6537215)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 カーボンブラック分散液およびその製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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