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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1374891
異議申立番号 異議2019-700900  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-14 
確定日 2021-03-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6511424号発明「積層体及び、その製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6511424号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?15]、[16?20]について訂正することを認める。 特許第6511424号の請求項1?20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6511424号の請求項1?20に係る特許についての出願は、2015(平成27)年 3月20日を国際出願日とする特願2016-508828号(優先権主張:平成26年 3月20日 日本国)の一部を平成28年11月 2日に新たな特許出願としたものであって、平成31年 4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和 元年 5月15日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 元年11月14日 :特許異議申立人廣瀬妙子(以下、「申立人」という。)による請求項1?20に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 1月27日付け:取消理由通知書
令和 2年 3月27日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 2年 7月14日 :申立人による意見書の提出
令和 2年 9月15日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年11月19日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」という。)
令和 2年12月23日 :申立人による意見書の提出

なお、令和 2年 3月27日に特許権者がした訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
(1)請求項1?15について
ア 訂正事項1
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項1における「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に」との記載を、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて」に変更する。

イ 訂正事項2
訂正請求書の「6 請求の趣旨」、「7 請求の理由(1)」の「2)b」及び「4)b」を総合的に勘案すると、積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項1における「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を」との記載を、「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%」に変更するものと認める。

ウ 訂正事項3
積層体に特徴のある特許請求の範囲の請求項1において「(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)」と限定する。

エ 訂正事項4
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項2における「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に」との記載を、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて」に変更する。

オ 訂正事項5
訂正請求書の「6 請求の趣旨」、「7 請求の理由(1)」の「2)e」及び「4)e」を総合的に勘案すると、積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項2における「銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を」との記載を、「銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%」に変更するものと認める。

カ 訂正事項6
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項2において、「(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)」と限定する。

キ 訂正事項7
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項4における「Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%」との記載を、「Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%」に変更する。

ク 訂正事項8
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項4における「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%」との記載を、「Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%」に変更する。

ケ 訂正事項9
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項4における「Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%」との記載を、「Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%」に変更する。

コ 訂正事項10
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項5における「Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%」との記載を、「Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%」に変更する。

サ 訂正事項11
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項5における「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%」との記載を、「Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%」に変更する。

シ 訂正事項12
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項5における「Tiを含有する場合はTi濃度が0.0001?8.5質量%」との記載を、「Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%」に変更する。

ス 訂正事項13
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項5における「Zrを含有する場合はZr濃度が0.0001?8.0質量%」との記載を、「Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%」に変更する。

セ 訂正事項14
積層体に特徴がある特許請求の範囲の請求項5における「Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%」との記載を、「Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%」に変更する。

(2)請求項16?20について
ア 訂正事項15
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項16における「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を」との記載を、「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように」に変更する。

イ 訂正事項16
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項16における「熱圧着により積層させる」との記載を、「熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合される」に変更する。

ウ 訂正事項17
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項16において、「(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)」と限定する。

エ 訂正事項18
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項17における「銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を」との記載を、「銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように」に変更する。

オ 訂正事項19
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項17における「熱圧着により積層させる」との記載を、「熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合される」に変更する。

カ 訂正事項20
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項17において、「(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)」と限定する。

キ 訂正事項21
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項18における「Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%」との記載を、「Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%」に変更する。

ク 訂正事項22
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項18における「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%」との記載を、「Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%」に変更する。

ケ 訂正事項23
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項18における「Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%」との記載を、「Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%」に変更する。

コ 訂正事項24
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項19における「Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%」との記載を、「Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%」に変更する。

サ 訂正事項25
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項19における「Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%」との記載を、「Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%」に変更する。

シ 訂正事項26
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項19における「Tiを含有する場合はTi濃度が0.0001?8.5質量%」との記載を、「Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%」に変更する。

ス 訂正事項27
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項19における「Zrを含有する場合はZr濃度が0.0001?8.0質量%」との記載を、「Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%」に変更する。

セ 訂正事項28
積層体の製造方法に特徴がある特許請求の範囲の請求項19における「Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%」との記載を、「Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%」に変更する。

(3)明細書に係る訂正
ア 訂正事項29
明細書[0067]に「参考例1?15及び実施例5、6、8、10、12、13、16、17、44、45、48、50?55」とあるのを、「参考例1?15、33及び実施例5、6、8、10、12、13、16、17、45、48、50?55」に訂正する。

イ 訂正事項30
明細書[0075]に「実施例44」とあるのを、「参考例33」に訂正する。

2.一群の請求項について
(1)訂正前の請求項1?15について、訂正前の請求項3?15は、訂正前の請求項1、2を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1?3によって訂正される請求項1及び訂正事項4?6によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。また、訂正前の請求項6?15は、訂正前の請求項4、5を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項7?9によって訂正される請求項4及び訂正事項10?14によって訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?15に対応する訂正後の請求項[1?15]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされてないから、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1?15に対応する訂正後の請求項〔1?15〕を訂正単位とするものであり、訂正事項1?14は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

(2)訂正前の請求項16?20について、訂正前の請求項18?20は、訂正前の請求項16、17を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項15?17によって記載が訂正される請求項16及び訂正事項18?20によって記載が訂正される請求項17に連動して訂正されるものである。また、訂正前の請求項20は、訂正前の請求項18、19を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項21?23によって記載が訂正される請求項18及び訂正事項24?28によって記載が訂正される請求項19に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項16?20に対応する訂正後の請求項[16?20]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされてないから、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項16?20に対応する訂正後の請求項〔16?20〕を訂正単位とするものであり、訂正事項15?28は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

(3)また、訂正事項29、30に係る明細書の訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、上記の一群の請求項〔1?15〕、〔16?20〕を訂正の単位として請求されたものである。

3.訂正の適否について
(1)請求項1?15について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正事項1は、請求項1において、銅合金層が窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に直接的に接合されていることを特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項1は、本件明細書の【0021】に記載されているので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

イ 訂正事項2について
(ア)訂正事項2は、請求項1において、択一的な発明特定事項であるNb、Li、Snを削除した上で、銅合金中のSi、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfの合計の濃度を特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項2は、本件明細書の【0026】、【0075】の【表1】実施例51に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項2は、択一的な発明特定事項を削除し、また発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正事項3は、請求項1において、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を、いわゆる除くクレームとして特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項3は、請求項1に係る発明が甲1に係る発明と重なる可能性があるために新規性進歩性が否定されるおそれがあるため、その重なりを除くものであって、本件明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項3は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

エ 訂正事項4について
(ア)訂正事項4は、請求項2において、銅合金層が窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に直接的に接合されていることを特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項4は、本件明細書の【0021】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項4は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

オ 訂正事項5について
(ア)訂正事項5は、請求項2において、択一的な発明特定事項であるNb、Li、Snを削除した上で、銅合金中のSi、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfの合計の濃度を特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項5は、本件明細書の【0026】、【0075】の【表1】実施例51に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項5は、択一的な発明特定事項を削除し、また発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

カ 訂正事項6について
(ア)訂正事項6は、請求項2において、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を、いわゆる除くクレームとして特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項6は、請求項2に係る発明が甲1に係る発明と重なる可能性があるために新規性進歩性が否定されるおそれがあるため、その重なりを除くものであって、本件明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項6は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

キ 訂正事項7について
(ア)訂正事項7は、請求項4において、Si濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項7は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項7は、Si濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ク 訂正事項8について
(ア)訂正事項8は、請求項4において、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項8は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項8は、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ケ 訂正事項9について
(ア)訂正事項9は、請求項4において、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項9は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項9は、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

コ 訂正事項10について
(ア)訂正事項10は、請求項5において、Si濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事10は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項10は、Si濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

サ 訂正事項11について
(ア)訂正事項11は、請求項5において、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項11は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項11は、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

シ 訂正事項12について
(ア)訂正事項12は、請求項5において、Ti濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項12は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項12は、Ti濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ス 訂正事項13について
(ア)訂正事項13は、請求項5において、Zr濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項13は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項13は、Zr濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

セ 訂正事項14について
(ア)訂正事項14は、請求項5において、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項14は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項14は、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ソ 小括
以上のとおりであるから、請求項1?15について訂正する訂正事項1?14は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)請求項16?20について

ア 訂正事項15について
(ア)訂正事項15は、請求項16において、択一的な発明特定事項であるNb、Li、Snを削除した上で、銅合金中のSi、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfの合計の濃度を特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項15は、本件明細書の【0026】、【0075】の【表1】実施例51に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項15は、択一的な発明特定事項を削除し、また発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

イ 訂正事項16について
(ア)訂正事項16は、請求項16において、銅合金層が窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に直接的に接合されていることを特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項16は、本件明細書の【0021】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項16は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

ウ 訂正事項17について
(ア)訂正事項17は、請求項16において、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を、いわゆる除くクレームとして特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項17は、請求項16に係る発明が甲1に係る発明と重なる可能性があるために新規性進歩性が否定されるおそれがあるため、その重なりを除くものであって、本件明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項17は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

エ 訂正事項18について
(ア)訂正事項18は、請求項17において、択一的な発明特定事項であるNb、Li、Snを削除した上で、銅合金中のSi、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfの合計の濃度を特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項18は、本件明細書の【0026】、【0075】の【表1】実施例51に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項18は、択一的な発明特定事項を削除し、また発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

オ 訂正事項19について
(ア)訂正事項19は、請求項17において、銅合金層が窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に直接的に接合されていることを特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項19は、本件明細書の【0021】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項19は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

カ 訂正事項20について
(ア)訂正事項20は、請求項17において、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を、いわゆる除くクレームとして特定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項20は、請求項17に係る発明が甲1に係る発明と重なる可能性があるために新規性進歩性が否定されるおそれがあるため、その重なりを除くものであって、本件明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項20は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する

キ 訂正事項21について
(ア)訂正事項21は、請求項18において、Si濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項21は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項21は、Si濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ク 訂正事項22について
(ア)訂正事項22は、請求項18において、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項22は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項22は、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ケ 訂正事項23について
(ア)訂正事項23は、請求項18において、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項23は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項23は、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

コ 訂正事項24について
(ア)訂正事項24は、請求項19において、Si濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事24は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項24は、Si濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

サ 訂正事項25について
(ア)訂正事項25は、請求項19において、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項25は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項25は、Mn濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

シ 訂正事項26について
(ア)訂正事項26は、請求項19において、Ti濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項26は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項26は、Ti濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ス 訂正事項27について
(ア)訂正事項27は、請求項19において、Zr濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項27は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項27は、Zr濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

セ 訂正事項28について
(ア)訂正事項28は、請求項19において、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くすることにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項28は、本件明細書の【0026】に記載されているので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正事項28は、Hf濃度の数値限定の範囲を狭くするものであり、カテゴリーや発明特定事項を変更するものではなく、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ソ 小括
以上のとおりであるから、請求項16?20について訂正する訂正事項15?28は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)明細書に係る訂正
ア 訂正事項29について
(ア)訂正事項29は、明細書の段落【0067】において「実施例44」を削除するとともに「参考例33」を追加して、「参考例33」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにすることにより、訂正事項2及び訂正事項15により生じる不明瞭な記載を整合させるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)訂正事項29は、「参考例33」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするものであるから、新規事項を追加するものではないことは明らかであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項30について
(ア)訂正事項30は、明細書の段落【0075】において「実施例44」を削除するとともに「参考例33」を追加して、「参考例33」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにすることにより、訂正事項2及び訂正事項15により生じる不明瞭な記載を整合させるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)訂正事項30は、「参考例33」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするものであるから、新規事項を追加するものではないことは明らかであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 むすび
以上のとおりであるから、訂正事項1?30は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号の特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するものである。

よって、明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-15]、[16-20]について訂正することを認める。

第3 訂正後の発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?請求項20に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明20」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?請求項20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%含有する、積層体。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項2】
窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%を含有する、積層体。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項3】
前記銅合金層が銅合金板または銅合金箔からなる、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記銅合金層が、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?85質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?85質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項2に記載の積層体。
【請求項6】
前記窒化物セラミックス基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化インジウム又は窒化ガリウムを主成分とし、あるいは、炭化チタンと窒化チタンとの複合材料、又は、窒化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料を主成分としてなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
窒化アルミニウムを主成分とする前記窒化物セラミックス基板が、Ca、Y、Oからなる群から選択される一種以上の元素を含有し、Caを含む場合には、Ca濃度は0.0001?3質量%であり、Yを含む場合にはY濃度は0.0001?10質量%であり、Oを含む場合には、O濃度は0.0001?20質量%である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記窒化物セラミックス基板のO含有濃度が0.0001?20質量%である、請求項1?6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記銅合金層の厚みを、1μm?7000μmとし、前記窒化物セラミックス基板の厚みを、1μm?7000μmとしてなる、請求項1?8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する放熱体。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有するパワーデバイス。
【請求項12】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する素子。
【請求項13】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する電子部品。
【請求項14】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する電子機器。
【請求項15】
請求項11に記載のパワーデバイスまたは請求項12に記載の素子または請求項13に記載の電子部品を有する車両。
【請求項16】
銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金とが、直接的に接合される、積層体の製造方法。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項17】
銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金とが、直接的に接合される、積層体の製造方法。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項18】
前記銅合金層が、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項16に記載の積層体の製造方法。
【請求項19】
前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項17に記載の積層体の製造方法。
【請求項20】
前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合するに際し、窒素もしくはアルゴン雰囲気中または真空中で、800?1000℃の温度の下、0.6N/mm^(2)?1.5N/mm^(2)の圧力を作用させることにより、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合する、請求項16?19のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。

第4 取消理由の概要
当審が令和 2年 9月15日付けで特許権者にした取消理由通知書<決定の予告>(以下、単に「取消理由通知書<決定の予告>」という。)の概要は、次のとおりである。

《理由1》
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

《理由4》
本件特許の請求項1?20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

《引用例一覧》
甲1.特開2011-124585号公報
甲2.特開平2-175674号公報
甲3.特開昭63-310934号公報
甲4.特開平4-48041号公報
甲5.特開2003-63879号公報
甲6.特開2007-297225号公報
甲7.特開昭63-55812号公報

甲1?甲7は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証?甲第7号証であり、甲1?甲7の各々に記載された事項を各々、甲1記載事項?甲7記載事項という。また、甲第1号証に記載された発明を甲1-1発明、甲1-2発明という。

(1)理由1(サポート要件)について
ア 本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には、「主として銅からなる金属層」と窒化物セラミックス基板とを十分強固に接合することを本件発明が解決しようとする課題とするものであって、単に銅が含まれているだけの金属層である銅合金層を対象とするものでないが、請求項1、2、16、17に係る発明は、銅合金が含有する元素の量を「合計の濃度が0.0001?95質量%以下となるように含有する」ものであって、「主として銅からなる金属層」ではなく、単に銅が含まれているだけの金属層である銅合金層を含むものである旨、記載されている。

イ 請求項1、2、16、17に列挙する元素は、特性が異なる元素を一つの元素群に挙げているが、これらの元素は、融点などの物性値が大きく異なり、銅合金層に添加する際の必要な添加量も大きく異なるものと考えられるが、これらの全ての元素について、銅合金層における合計の含有量が「0.0001?95質量%以下」との広い数値範囲の全域において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明で記載されているとはいえない。

ウ 本件明細書等の発明の詳細な説明には、請求項1、2、16、17に列挙する元素の銅合金層における合計の含有量の最小値が0.01質量%(実施例53)、最大値が85質量%(実施例51)であって、これら元素の銅合金層における合計の含有量が「0.0001?95質量%以下」との広い数値範囲の全域において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明で記載されているとはいえない。

エ 特許権者が「例証されている」と主張する実施例5、6、8、10、12、13、16、17、31、32、34、36、38、39、45、48及び50?55には、Nb、Li、Tiを含有する銅合金層が含まれておらず、請求項1、2、16、17に列挙する全ての元素について、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明で記載されているとはいえない。

(2)理由4(進歩性)について
請求項1?15に係る発明は、甲1-1発明、甲1記載事項、甲2記載事項?甲4記載事項、甲6記載事項及び甲7記載事項に例示される周知技術に基いて、請求項16?20に係る発明は、甲1-2発明、甲1記載事項、甲2記載事項?甲4記載事項、甲7記載事項に例示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 当審の判断
1. 取消理由通知書<決定の予告>に記載した取消理由について
1-1 理由1(サポート要件)について
(1)本件発明が解決しようとする課題
ア 本件発明が解決しようとする課題は、明細書の段落【0007】?【0009】、【0023】、【0025】、【0026】の記載を総合的に判断すると、単に銅が含まれている合金層と窒化物セラミックス基板とを十分強固に接合するとともに、その製造工程を削減することのできる積層体及びその製造方法を提供することにあると認められる。

イ また、明細書の段落【0035】、【0036】には、以下の事項が記載されている。
「【0035】
以上の検討に基き、発明者は、Cu金属層を、上述したチタンのような、窒化アルミニウムと銅との接合をもたらす元素を銅に含有させた銅合金層とすることにより、銅合金層に含まれる当該元素が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成して、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を実現できると考えた。
このことを検証するため、Tiを3.1質量%で含有するチタン銅合金(Cu-Ti)と窒化アルミニウムとの界面状態につき、同様のシミュレーションを行ったところ、図4に示す結果を得た。
図4に示すシミュレーション結果から、チタン銅合金に含まれるTiと、窒化アルミニウムのNでTiNが形成され、これが、チタン銅合金と窒化アルミニウムとの接合に有効に働くと考えられる。
【0036】
また発明者は、窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素であって、かつ銅合金に含有させることのできる元素を検討し、窒化物を形成する元素であってかつCuに固溶する元素として、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Cr、Co、B、C、Sn、Mo、Hfがあり、また、窒化物を形成する元素であって、かつCuに固溶はしないかまたはほとんど固溶しないがCuとの状態図が存在する元素(すなわちCuとの化合物が存在する元素)として、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Baがあることから、Tiだけでなく、これらの元素を含有する銅合金は、窒化物セラミックス基板と接合される銅合金層に用いることができると考えた。」

当該記載から、本件に係る発明が解決しようとする課題は、窒化物を形成する元素であってかつ銅に固溶する元素、または窒化物を形成する元素であってかつ銅に固溶しないかまたはほとんど固溶しないが銅との状態図が存在する元素(すなわち銅との化合物が存在する元素)を含有する銅合金であれば、窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素であって、かつ銅合金に含有することのできる元素Mを銅合金層に含有させることにより、窒化物セラミックスの窒素Nと銅合金層に含まれる銅以外の元素Mとが、窒化物セラミックスと銅合金層との界面で化合物(M-N)を形成し、窒化物セラミックスと銅合金層との接合が実現できると当業者が認識し得るものである。

ウ そして、明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】には、実施例又は参考例として、各種元素を含有する銅合金層と窒化物セラミックス基板との間の剥離強度が示されている。

(2)銅合金層が含有する元素について
ア 本件訂正発明1、16について
本件訂正発明1は、銅合金層が「Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%含有する」ことを発明特定事項とし、本件訂正発明16は、銅合金層が「Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有する」ことを発明特定事項とするものである。

(ア)元素の種類について
本件明細書の段落【0036】の記載から、本件訂正発明1、16に列挙される元素は、高融点金属(例えば、Mo、W等)であっても軽元素(例えば、Li、B等)であっても、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素であって、かつ銅合金に含有させることのできる元素」である点において共通の性質を有していることは明らかである。

そして、令和 2年11月19日に特許権者が提出した意見書に添付した参考文献である「社団法人日本化学会編“化学便覧 基礎編 改訂5版”、丸善株式会社、平成16年2月20日、II-291?II-300ページ」によれば、標準生成ギブスエネルギーが、AlN:-287、BN:-228.4、CrN:-100.3、Cr_(2)N:-104.2、GaN:-78.6、InN:-229、Mg_(3)N_(2):-400.6、Si_(3)N_(4):-676.46、TiN:-309.6、VN:-191.2、ZrN:-336.4となっており、軽元素であっても高融点金属であっても、窒素との結びつきの強さとの観点では同程度であると推察され、本件訂正発明1、16に列挙された元素は、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものである。

そして、本件訂正発明1、16に列挙された元素は、いずれも本件明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】において実施例として例証されているところである。

(イ)元素の含有量について
本件発明が解決しようとする課題は、上記ア(ア)のとおり、単に銅が含まれている合金層と窒化物セラミックス基板とを十分強固に接合するとともに、その製造工程を削減することのできる積層体及びその製造方法を提供することであるから、銅合金層の成分が主として銅であるか否かを問わないものである。

そして、本件明細書の段落【0035】、【0036】の記載からみて、銅合金層中に本件訂正発明1、16で列挙される元素は、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものである。そのため、銅合金層中に当該元素が多く含まれるほど、窒化物セラミックス基板と銅合金層との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することも理解できる。

そして、本件明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】において例証されている実施例において、本件訂正発明1、16で列挙する元素から選択される少なくとも1つの元素の銅合金層における含有量の最小値は0.01質量%(実施例53、実施例55)であり、最大値は85質量%(実施例51)である。

(ウ)小括
してみると、本件訂正発明1、16は、上記(1)に示した発明の詳細な説明において課題を解決することができると当業者が認識できる程度に記載された範囲内のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明ということができるから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たすものである。

イ 本件発明2、17について
本件訂正発明2は、銅合金層が「Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%を含有する」ことを発明特定事項とし、本件訂正発明17は、銅合金層が「Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有する」ことを発明特定事項とするものである。

(ア)元素の種類について
本件明細書の段落【0036】の記載から、本件訂正発明2、17に列挙される元素は、高融点金属(例えば、Mo、W等)であっても軽元素(例えば、Li、B等)であっても、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素であって、かつ銅合金に含有させることのできる元素」である点において共通の性質を有していることは明らかである。

そして、令和 2年11月19日に特許権者が提出した意見書に添付した参考文献である「社団法人日本化学会編“化学便覧 基礎編 改訂5版”、丸善株式会社、平成16年2月20日、II-291?II-300ページ」によれば、標準生成ギブスエネルギーが、AlN:-287、BN:-228.4、CrN:-100.3、Cr_(2)N:-104.2、GaN:-78.6、InN:-229、Mg3N2:-400.6、Si_(3)N_(4):-676.46、TiN:-309.6、VN:-191.2、ZrN:-336.4となっており、軽元素であっても高融点金属であっても、窒素との結びつきの強さとの観点では同程度であると推察され、本件訂正発明2、17に列挙された元素は、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものである。

そして、本件訂正発明2、17に列挙された元素は、Tiを除いて、いずれも本件明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】において実施例として例証されているところである。

また、Tiについては、本件明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】において、銅合金層中に単独で含む例である参考例1?4、8?11、13?25、29?32が記載されており、これらの参考例の剥離強度が15kN/m以上であることから、銅合金層中のTiが単独で密着性の向上という効果を奏していることが理解できる。そして、銅合金層中にTiが含まれれば、密着性の向上という効果を奏するのであるから、Tiのほかに、本件訂正発明2、17に列挙されるTi以外のいずれかの元素を含む銅合金層であっても、単独でTiを含んでいる場合と同様に、窒化物セラミックス基板の窒素と反応して化合物(窒化物)を形成することで、銅合金層と窒化物セラミックス基板との密着性を向上させることができることは明らかである。

(イ)元素の含有量について
本件発明が解決しようとする課題は、上記ア(ア)のとおり、単に銅が含まれている合金層と窒化物セラミックス基板とを十分強固に接合するとともに、その製造工程を削減することのできる積層体及びその製造方法を提供することであるから、銅合金層の成分が主として銅であるか否かを問わないものである。

そして、本件明細書の段落【0035】、【0036】の記載からみて、銅合金層中に本件訂正発明2、17で列挙される元素は、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものである。そのため、銅合金層中に当該元素が多く含まれるほど、窒化物セラミックス基板と銅合金層との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することも理解できる。

なお、本件明細書の段落【0075】の【表1】、段落【0076】の【表2】において例証されている実施例において、本件訂正発明2、17で列挙する元素から選択される少なくとも2種類の元素の銅合金層における合計の含有量の合計の最小値は0.5質量%(実施例8)であり、最大値は質量2.52質量%(実施例53)である。

しかしながら、上記のとおり、本件訂正発明2、17で列挙する元素から選択される少なくとも2種類の元素の含有量の合計値が多いほど、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックス基板と銅合金層との密着性が向上するものと理解できるのであるから、銅合金層として存在し得る限りにおいて、含有量を85質量%まで増やしたとしても、同様の作用効果を奏することができるものと理解することができ、最小値を0.01質量%とすることについても、窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」の「総量」であることに変わりはないから、2種類の元素の合計の含有量の最小値が、1種類の元素の総量の最小値と同程度の0.01程度であることは、当業者が予測できる範囲内であるということができる。

(ウ)小括
してみると、本件訂正発明2、17は、上記(1)に示した発明の詳細な説明において課題を解決することができると当業者が認識できる程度に記載された範囲内のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明ということができるから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たすものである。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和2年12月23日に提出した意見書(以下、「申立人意見書」という。)の第3ページ第7行?第14行において、「しかしながら、本件特許明細書の実施例は、実施例51、52においてMo、Wを主成分とする合金層しか開示しておりません。すなわち、本件特許明細書の実施例には、特定の金属元素を主成分とする銅合金層しか記載されておらず、例えばCu、Mo、W以外の金属元素やSi等の非金属元素を主成分とする銅合金層について何ら記載されておりません。」、「よって、本件特許明細書は、銅を含む金属層の全てにおいて必ず上記課題を解決できることが発明の詳細な説明に記載されたものであるとは到底認められるものではありません。」と主張する。

しかしながら、上記(2)ア(イ)及びイ(イ)に示したとおり、本件訂正発明1、2、16及び17に列挙された元素は、本件明細書の段落【0035】、【0036】の記載から、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものであって、銅合金層中に当該元素が多く含まれるほど、窒化物セラミックス基板と銅合金層との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することも理解できるところである。

してみると、Cu、Mo、W以外の元素についても、本件訂正発明1、2、16及び17に列挙された元素のいずれかを主成分としたものであっても、銅合金として存在し得る限り、(1)で示した発明の詳細な説明において課題を解決することができると当業者が認識できる程度に記載された範囲内のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明ということができるから、申立人の主張を採用することはできない。

(イ)申立人は、申立人意見書の第3ページ第16行?第20行において、「・・・訂正後の請求項1、2、16、17は、特性が異なる元素を一つの元素群に挙げておりますが、これらの元素は、融点等の物性値が大きく異なり、必要な添加量も元素ごとに大きくことなります。これは本件特許明細書の[表1]、[表2]において、各実施例の上記元素の添加量が元素の種類によって大きく異なることからも明らかです。・・・」と主張する。

しかしながら、上記(2)ア(ア)及びイ(ア)で述べたとおり、令和 2年11月19日に特許権者が提出した意見書に添付した参考文献である「社団法人日本化学会編“化学便覧 基礎編 改訂5版”、丸善株式会社、平成16年2月20日、II-291?II-300ページ」によれば、本件訂正発明1、2、16及び17で列挙された元素については、標準生成ギブスエネルギーが軽元素であっても高融点金属であっても、窒素との結びつきの強さとの観点では同程度であると推察され、これら元素は、「窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素」であるから、銅と比べて窒化物セラミックス基板との間で化合物(窒化物)を形成しやすいものであり、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することが理解できるものであって、融点等の違いがあったとしても、窒化物セラミックス基板と銅合金層との密着性の向上という課題を解説できる点において、なんら変わるものではないから、申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)申立人は、申立人意見書の第4ページ第17行?第23行において、「また、訂正後の請求項2や請求項17の範囲内であって、上記元素からなる群より選ばれる少なくとも2種類の元素を含む実施例において、上記元素の合計濃度の最小値は0.5質量%(実施例8)であり、最大値は2.52質量%(実施例53)であります。」、「よって、本件特許明細書は、上記1種類または2種類の元素の合計濃度が0.01?85質量%以下の全ての値において必ず上記課題を解決できることが発明の詳細な説明に記載されたものであるとは到底認められるものではありません。」と主張する。

しかしながら、上記(2)イ(イ)で述べたとおり、本件訂正発明2、17で列挙する元素から選択される少なくとも2種類の元素の含有量の合計値が多いほど、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックス基板と銅合金層との密着性が向上するものと理解できるのであるから、銅合金層として存在し得る限りにおいて、含有量を85質量%まで増やしたとしても、同様の作用効果を奏することができるものと理解することができ、最小値を0.01質量%とすることについても、当業者が推測できる範囲内であるということができるから、申立人の主張を採用することはできない。

(エ)さらに申立人は、申立人意見書の第5ページ第14行?第17行において「・・・本件特許明細書には、Cu-O共晶化合物液相を結合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体について何ら記載されておりません。また、本件特許明細書の実施例においても上記酸化膜相が無いことについて全く検証されておりません。」と主張する。

しかしながら、本件訂正発明1、2、16及び17における「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。」とは、いわゆる除くクレームであって、甲1に記載されたDBC法により形成されるCu-O共晶化合物液相を結合剤とし、当該Cu-O共晶化合物液相からなる酸化膜相により銅合金層と窒化物セラミックス基板とが接合された積層体を除くものであるから、本件特許明細書の各実施例に当該Cu-O共晶化合物液相が存在しないことは明らかであって、申立人の主張を採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、16、17は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件訂正発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明3?15、本件訂正発明16、17を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明18?20についても同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

1-2 理由4(進歩性)について
(1)事実認定
ア 甲1記載事項
取消理由通知で引用した甲1である特開2011-124585号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、銅又は銅を主成分とする銅合金からなり前記セラミックス基板の一面に接合された金属回路板と、銅又は銅を主成分とする銅合金からなり前記セラミックス基板の他面に接合された金属放熱板とから構成されたセラミックス配線基板において、
前記金属回路板の前記銅又は前記銅合金の平均再結晶粒子径は、前記金属放熱板の前記銅又は前記銅合金の平均再結晶粒子径と等しいか又はそれより小さく、
前記金属回路板の前記セラミックス基板との接合界面近傍における前記銅又は前記銅合金の平均再結晶粒子径は、前記金属回路板の前記銅又は前記銅合金の平均再結晶粒子径より小さく、その比が0.12?0.5であり、さらに前記金属回路板および金属放熱板の平均再結晶粒子径はいずれも100?400μmであることを特徴とするセラミックス配線基板。
【請求項2】
前記銅合金は、前記銅と、少なくともニッケル、亜鉛、ジルコニウム又はスズの何れかを含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス配線基板。
【請求項3】
前記セラミックス基板は、窒化珪素からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス配線基板。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のセラミックス配線基板と、前記セラミックス配線基板に搭載された半導体素子とからなることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項5】
前記セラミックス配線基板の前記金属放熱板に、前記銅又は前記銅合金からなる放熱ベース板を結合したことを特徴とする請求項4記載の半導体モジュール。
【請求項6】
セラミックス基板と、銅又は銅を主成分とする銅合金からなり前記セラミックス基板の一面に接合された金属回路板と、銅又は銅を主成分とする銅合金からなり前記セラミックス基板の他面に接合された金属放熱板とから構成されたセラミックス配線基板の製造方法において、
接合前の初期結晶粒子径の平均値がいずれも11?15μmの金属回路板および金属放熱板を各々セラミックス基板の一面および他面に配置し、500?1000℃の温度で加熱して金属回路板および金属放熱板をセラミックス基板に接合する、ことを特徴とするセラミックス配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記銅合金は、前記銅と、少なくともニッケル、亜鉛、ジルコニウム又はスズの何れかを含むことを特徴とする請求項6に記載のセラミックス配線基板の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス基板は、窒化珪素からなることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミックス配線基板の製造方法。」

(イ)「【0001】
本発明は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の両面にそれぞれ接合された金属回路板及び金属放熱板とから構成されたセラミックス配線基板、その製造方法及びこのセラミックス配線基板を用いた半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、電動車両用インバータとして高電圧、大電流動作が可能なパワー半導体モジュール(IGBT、MOSFET等)が用いられている。パワー半導体モジュールに使用される配線基板としては、窒化アルミニウム(AlN)や窒化珪素(Si_(3)N_(4))からなる絶縁性のセラミックス基板の一方の面(上面)に回路パターンが形成される金属板(以下、「金属回路板」と称する。)を接合するとともに、他方の面(下面)に放熱用の金属板(以下、「金属放熱板」と称する。)を接合したセラミックス配線基板が広く用いられている。この金属回路板及び金属放熱板としては、銅(Cu)板又はアルミニウム(Al)板等が使用されている。なお、金属回路板及び金属放熱板を総称する場合には、適宜「金属板」と呼ぶことにする。
【0003】
セラミックス基板と金属板との接合は、例えば、銅直接接合(DBC:Direct Bonding Copper)法や活性金属ろう付け法等が用いられている。ここで、DBC法とは、セラミックス基板と銅板とを不活性ガス又は窒素雰囲気中で共晶温度以上の温度に加熱し、生成したCu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合するものである。・・・
【0004】
ところで、金属板をセラミックス基板に接合したセラミックス配線基板を用いたパワー半導体モジュールにおいては、大電流を流せるように金属板の厚さを0.3?0.5mmと比較的厚くしている場合が多い。特に、金属板に熱伝導率の高い銅板を用いた場合、熱膨張率が大きく異なるセラミックス基板と銅板を接合すると、接合後の冷却過程で熱応力が発生する。この応力は、セラミックス基板と銅板との接合部付近で圧縮と引張りの残留応力として存在する。この残留応力は、セラミックス基板にクラックを生じさせたり、絶縁耐圧不良を起こしたり、あるいは金属板の剥離の発生原因となり、熱衝撃(ヒートショック)や冷熱サイクル等によって生じる損傷に対して十分な耐久性があるとはいえないため、信頼性に問題があった。」

(ウ)「【0009】
上記したように、第3の従来例によれば、ろう材の金属回路板の表面への流出、これに起因する電子部品と金属回路板との接続信頼性低下という問題を解決することはできる。しかし、上記した第1及び第2の従来例が解決した、熱衝撃等により生じる損傷に対する耐久性低下という課題を解決することはできない。
さらに、第3の従来例では、金属層及びその形成工程が必要であるため、その分コストアップにつながってしまう。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような課題を解決することができるセラミックス配線基板、その製造方法及び半導体モジュールを提供することを目的とする。」

(エ)「【0017】
本発明の実施の形態に係るセラミックス配線基板は、セラミックス基板と、銅又は銅を主成分とする銅合金からなり、上記セラミックス基板の両面にそれぞれ接合された金属回路板及び金属放熱板とから構成されているものである。・・・
【0018】
以下、さらに詳しく本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施の形態で用いられるセラミックス基板の材質としては、窒化珪素(Si_(3)N_(4))基板が望ましい。この窒化珪素基板の詳細については、後述する。
次に、金属回路板及び金属放熱板は、いずれも銅又は銅を主成分とする銅合金からなるが、・・・」

(オ)「【0021】
以上のことから、接合処理後のセラミックス基板に加えられる応力を低減する観点では、銅の降伏強度が小さく変形しやすいような状態にしておくことが肝要であり、さらに、冷熱サイクル性を向上させる観点では、温度変化による応力を銅の変形に分散させることにより、冷熱繰り返しで銅の加工硬化度を抑制して、セラミックス基板に加えられる応力値の増大を抑止することが肝要である。・・・ここで、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)などを含んだ銅合金は、銅よりも軟化点温度が高く、粒成長は銅結晶粒子にこれらの金属が固溶するため抑制される。従って、セラミックス配線基板を構成する銅又は銅合金の初期結晶粒子、軟化点及び熱処理温度を規定することにより、セラミックス配線基板の信頼性を高めることが可能となる。以下では、特に矛盾がない限り、「銅」という語は適宜「銅合金」も含むものとする。」

(カ)「【0032】
さて、セラミックス配線基板を作製するにあたっては、上記したように、DBC法や活性金属ろう付け法等を用いて、セラミックス基板と銅板とを600?900℃の温度で加熱しつつ接合することにより金属回路板及び金属放熱板を作製した後、金属回路板には、エッチング処理により回路パターンを形成している。・・・」

(キ)「【0034】
また、金属回路板及び金属放熱板の素材としては、銅板に限らず、上記したように、銅合金板を用いることもできる。この場合、銅合金板としては、銅を主成分とし、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)又はスズ(Sn)等を添加したものが望ましい。銅合金を用いた場合には、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)又はスズ(Sn)により、純銅とは異なり、接合温度を上昇させても、銅合金の再結晶の成長が抑えられるので、再結晶粒子径は、微細となる。銅合金を用いた場合、銅のみの場合に比べて、耐熱性、耐腐食性に優れ、また高剛性を有している。特に、銅合金が高剛性であることにより、銅合金を用いたセラミックス配線基板も高剛性となり、半導体モジュール稼動時の冷熱サイクルに対して、セラミックス配線基板の厚さ方向の繰り返し変形(凹凸変形)の挙動が抑えられ、セラミックス基板と金属回路板の接合界面に発生する応力値を低減することができ、ひいては、セラミックス配線基板自体の耐久性が向上し、高寿命となる。
【0035】
次に、セラミックス基板は、上記したように、実装信頼性及び冷熱サイクル特性の観点から、特に厚さ方向に対する高靭性を有し、かつ、高強度であって、放熱性の観点から高熱伝導性を備えた窒化珪素(Si_(3)N_(4))基板が好ましく、本発明者らが先に提案した窒化珪素基板を一例として以下に示す。
(a)マグネシウム(Mg)とルテチウム(Lu)及びイットリウム(Y)を含む希土類元素(RE)から選択された少なくとも1種の希土類元素(RE)を焼結助剤として添加する窒化珪素質焼結体であって、焼結体中にマグネシウム(Mg)を酸化マグネシウム(MgO)換算で0.03?8.0mol%、ルテチウム(Lu)を酸化ルテチウム(Lu_(2)O_(3))換算で0.14?1.30mol%、希土類元素(RE)から選択された少なくとも1種の元素を酸化物(RE_(x)O_(y))換算で0.12?1.30mol%含有し、残部がβ窒化珪素からなる窒化珪素質焼結体を用いた窒化珪素基板。
(b)マグネシウム(Mg)とルテチウム(Lu)及びイットリウム(Y)を含む希土類元素(RE)から選択された少なくとも1種の希土類元素を焼結助剤として添加する窒化珪素質焼結体であって、焼結体中にマグネシウム(Mg)を酸化マグネシウム(MgO)換算で0.03?8.0mol%、ルテチウム(Lu)を酸化ルテチウム(Lu_(2)O_(3))換算で0.14?1.30mol%、希土類元素(RE)から選択された少なくとも1種の元素を酸化物(RE_(x)O_(y))換算で0.12?1.30mol%含有し、残部がβ窒化珪素からなり、当該焼結体中の総酸素量が2.5質量%以下である窒化珪素質焼結体を用いた窒化珪素基板。」

(ク)「【0038】
次に、セラミックス基板に上記した窒化珪素基板の何れかを用いた場合の金属回路板及び金属放熱板の厚さについて説明する。金属回路板及び金属放熱板の厚さは、いずれも0.4?3.0mmであることが望ましい。図2に、厚さ方向の熱伝導率が90W/m・Kである窒化珪素基板(厚さ0.32mm)を用いた場合の半導体モジュールの初期熱抵抗値(R_(jc))の金属板の厚さに対する依存性の一例を示す。図2において、例えば、(0.4+0.3)とは、左側の数値が金属回路板の厚さ、右側の数値が金属放熱板の厚さを示している。」

(ケ)「【0044】
まず、窒化珪素基板の上面にスクリーン印刷等により、ろう材ペーストを予め設計された回路パターン形状に沿って塗布し、所定の厚さのろう材層を形成する。次に、脱脂を行い、バインダー成分を除去する。脱脂中の加熱温度、時間等の処理条件は、バインダー成分によって種々異なるが、処理中の雰囲気については窒素(N_(2))中、アルゴン(Ar)中のような非酸化雰囲気又は真空中での処理を行えば、活性金属が酸化されることなく好適である。また、ろう材ペースト用のバインダーを適宜選定すると、別途脱脂プロセスを設けることなく、ろう付け処理の昇温過程において、所定温度で保持することにより、脱脂・ろう付け処理を同時に行うことができる。
【0045】
一方、ろう材層のパターンと相似形の回路パターンの銅からなる金属回路板を別途用意する。この金属回路板の回路パターンを予め形成する方法としては、例えば、プレス加工、エッチング法、放電加工等がある。次に、ろう材層が金属回路板と窒化珪素基板との間に配置されるように部材同士を重ねる。また、窒化珪素基板の下面には、ろう材層を形成した後、銅からなる金属放熱板を載置し、それぞれ加圧状態で保持する。これら試料を保持する際には、カーボン製、ステンレス製あるいは高融点金属であるモリブデン製、タングステン製の治具を用いる。
【0046】
次に、金属回路板と金属放熱板を載置した窒化珪素基板を所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属回路板と金属放熱板を強固にろう材層を介して接合する。この場合、ろう材が窒化珪素基板と銅からなる金属回路板及び金属放熱板を十分に濡らし、また、回路パターンつぶれが発生しないようにするため、さらに両者の熱膨張係数の違いからくる残留応力による耐熱衝撃性の低下を防止するために、接合温度は、700?800℃、また、冷却速度は、保持温度から400℃までの降温が2℃/min以下であることが好ましい。また、雰囲気については真空中で処理を行うことが活性金属粉末及び銅粉末、銅板が酸化されることなく良好な接合状態を得ることができ、特に10^(-2)Pa以下の真空度で接合することが望ましい。さらに接合時に適度な荷重をかけることで銅からなる金属回路板及び金属放熱板とろう材、窒化珪素基板とろう材がそれぞれより確実に接触でき、良好な接合状態が得られる。重さとしては20?150g/cm^(2)の荷重を採用することができる。保持時間は、接合体をセットするカーボン製治具の形状及び積載量により調整する必要があり、5?30分が望ましい。
【0047】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例に係るセラミックス配線基板1を適用した電力装置2の構成の一例を示す断面図である。セラミックス配線基板1は、窒化珪素基板からなるセラミックス基板11の上面に図示せぬろう材を介して接合された金属回路板12と、下面に図示せぬろう材を介して接合された金属放熱板13とから構成されている。このセラミックス配線基板1の金属回路板12の上面にMOSFET等からなる半導体素子14が半田15により接合されて半導体モジュール3が構成されている。」

(コ)「【0052】
次に、金属回路板及び金属放熱板の調質の種類、厚さ、接合温度をパラメータとしてセラミックス配線基板を製造した場合の実施例1?16の製造条件及び製造結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
以下、表1について説明する。まず、左から2番目及び3番目の列「金属回路板」及び「金属放熱板」における各数値は、金属回路板及び金属放熱板に用いる銅板素材及び銅合金板素材のそれぞれの調質の種類及び加工度を意味している。即ち、「0%」は加工度0%のO材、「5%」は加工度5%の1/4H材、「10%」は加工度10%の1/2H材、「20%」は加工度20%のH材を意味している。
次に、左から4番目及び5番目の列「金属回路板」及び「金属放熱板」における各数値は、金属回路板及び金属放熱板に用いる銅板素材及び銅合金板素材のそれぞれの厚さをミリメートル単位で表している。また、左から6番目及び7番目の列「金属回路板」及び「金属放熱板」における各数値は、金属回路板及び金属放熱板としてセラミックス基板に接合する前の圧延された銅板素材又は銅合金板素材の銅又は銅合金の初期結晶粒子径を上記した評価方法で測定し、マイクロメートル単位で表している。
【0055】
次に、左から8番目の列「接合温度(℃)」における各数値は、金属回路板及び金属放熱板をセラミックス基板に接合する際の接合温度を摂氏で表している。また、左から9番目及び10番目の列「金属回路板」及び「金属放熱板」における各数値は、セラミックス基板に金属回路板及び金属放熱板を熱処理して接合することにより金属回路板及び金属放熱板のそれぞれにおいて再結晶した銅又は銅合金の粒子径をマイクロメートル単位で表している。また、左から11番目の列「金属回路板/金属放熱板」における各数値は、対応する「金属回路板」の平均再結晶粒子径と「金属放熱板」の平均再結晶粒子径との比を表している。さらに、最右列「D_(a)/D_(b)」における各数値は、金属回路板とセラミックス基板との接合界面近傍における接合処理後の銅の再結晶粒子径D_(a)と金属回路板の接合処理後の銅の再結晶粒子径D_(b)との比を意味している。なお、表1には記載していないが、金属放熱板とセラミックス基板との接合界面近傍における接合処理後の銅の再結晶粒子径と金属放熱板の接合処理後の銅の再結晶粒子径との比についても、D_(a)/D_(b)と同様な傾向であった。
【0056】
また、実施例1?4は金属回路板及び金属放熱板の調質の種類に注目して、実施例5?10は金属回路板及び金属放熱板の厚さに注目して、実施例11及び12は上記接合温度に注目して、それぞれセラミックス配線基板を製造した場合の製造条件及び製造結果を示している。さらに、実施例13?16は金属板の素材として銅合金板素材を用いてセラミックス配線基板を製造した場合の製造条件及び製造結果を示している。実施例13及び14は何れも銅合金板素材として銅(Cu)-ジルコニウム(Zr)(0.15%)系合金を用いた場合、実施例15及び16は何れも銅合金板素材として銅(Cu)-スズ(Sn)(0.1%)系合金を用いた場合である。
表2には、上記した表1に示す実施例1?16の製造条件及び製造結果に対応した評価結果を示す。
【0057】
(比較例)
上記実施例1?16と比較するために、表1の比較例1?8に示す製造条件に基づいてセラミックス配線基板を作成し、対応する製造結果を得た。また、評価方法も実施例1?16と同様に行った。以上の製造条件により製造された試料の評価結果を、表2の比較例1?8に示す。
【0058】
【表2】



(サ)「【0073】
表1において、実施例13は、0.6mmの厚さを有し、初期結晶粒子径が15μmであって、加工度20%のH材からなる金属回路板と、0.5mmの厚さを有し、初期結晶粒子径が13μmであって、加工度10%の1/2H材からなる金属放熱板を接合温度760℃でセラミックス基板の両面に接合した。その結果、表1に示すように、熱処理後の金属回路板の再結晶粒子径;110μm、金属放熱板の再結晶粒子径;130μm、金属回路板の再結晶粒子径と金属放熱板の再結晶粒子径の比;0.84、D_(a)/D_(b);0.48がそれぞれ得られた。また、表2に示すように、金属回路板のはんだ濡れ性;良好、金属放熱板のはんだ濡れ性;良好、金属回路板とセラミックス基板との接合界面ボイド率;1.1%、金属放熱板とセラミックス基板のとの接合界面ボイド率;1.0%、熱抵抗;0.152℃/W、冷熱サイクル特性;3000サイクルより大がそれぞれ得られた。
【0074】
表1において、実施例14は、0.6mmの厚さを有し、初期結晶粒子径が15μmであって、加工度20%のH材からなる金属回路板と、0.5mmの厚さを有し、初期結晶粒子径が13μmであって、加工度10%の1/2H材からなる金属放熱板を接合温度1000℃でセラミックス基板の両面に接合した。その結果、表1に示すように、熱処理後の金属回路板の再結晶粒子径;210μm、金属放熱板の再結晶粒子径;280μm、金属回路板の再結晶粒子径と金属放熱板の再結晶粒子径の比;0.75、D_(a)/D_(b);0.39がそれぞれ得られた。 また、表2に示すように、金属回路板のはんだ濡れ性;良好、金属放熱板のはんだ濡れ性;良好、金属回路板とセラミックス基板との接合界面ボイド率;1.1%、金属放熱板とセラミックス基板のとの接合界面ボイド率;1.0%、熱抵抗;0.148℃/W、冷熱サイクル特性;3000サイクルより大がそれぞれ得られた。」

(シ)これら摘記事項(ア)?(サ)から、甲1には、次の二つの発明が記載されているものと認められる(以下、単に「甲1-1発明」及び「甲1-2発明」という。)

≪甲1-1発明≫
窒化珪素基板と、銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からなり、前記窒化珪素基板に、活性金属ろう付け法等を用いて接合される銅合金板である金属回路板及び金属放熱板とからなり、前記窒化珪素基板の一面に前記金属回路板が接合され、前記窒化珪素基板の他面に前記金属回路板が接合されたセラミックス配線基板。

≪甲1-2発明≫
窒化珪素基板の一面、他面に、銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からなる銅合金板である金属回路板、金属放熱板を、それぞれ、載置し、加圧状態で保持し、所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属放熱板を接合する、セラミックス配線基板の製造方法。

イ 甲2記載事項
取消理由通知で引用した甲2である特開平2-1756774号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)「本発明に用いる直接々合法とは、具体的には、セラミックスに金属体を載置し、これを加熱炉に入れ、金属体の過度の酸化を防止するため、酸素濃度を20ppm以下に調整した不活性雰囲気又は真空雰囲気中で最高加熱温度1060℃?1083℃以内の温度で5秒?15分間加熱した後、冷却して接合体を得る方法である。また活性金属方法とは、セラミックスと金属体との接合面に活性金ろう材を箔状、粉末状、又は粉末をバインダーと均一に混練しペーストとし、これをスクリーン印刷した後、この集合体を加熱炉に入れ、不活性雰囲気又は真空度-10^(-2)Torr以下の雰囲気で最高加熱温度700?950℃以内の温度で加熱時間3分?60分間加熱した後、冷却して接合体を得る方法である。」(第3頁左上欄第19行?右上欄第13行)

(イ)「58mm角、厚さ0.3mmのリン脱酸銅基板の端部周囲を塩化第2鉄水溶液で腐触することにより図-3に示すような空隙巾1mm、空隙深さ2μmの条溝を形成した。」(第3頁左下欄第11行?第14行)

ウ 甲3記載事項
取消理由通知で引用した甲3である特開昭63-310934号公報には、以下の事項が記載されている。


」(第3頁第1表)

エ 甲4記載事項
取消理由通知で引用した甲4である特開平4-48041号公報には、以下の事項が記載されている。
「(2)0.50乃至0.75重量%のNi、0.10乃至0.16重量%のSi、0.001乃至0.01重量%のMg、0.005乃至0.20重量%のMn及び0.10乃至1.0重量%のZnを含有すると共に、Cr、Ti及びZrからなる群から選択された少なくとも1種の成分を総量で0.001乃至0.01重量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなることを特徴とする電気抵抗の定質量温度係数が小さい銅合金。」(第1頁左下欄第13行?第20行)

オ 甲6記載事項
取消理由通知で引用した甲6である特開2007-297225号公報には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0013】
本発明に係る焼結助剤には、希土類金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、遷移金属の化合物などが使用できる。中でも、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物が好ましい。これらの焼結助剤は、窒化アルミニウム粉末の酸素すなわちアルミニウム酸化物と反応し複合酸化物の液相(例えば2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)、3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)等)を形成し、この液相が焼結体の高密度化をもたらし、同時に窒化アルミニウム粒子中の不純物である酸素等を抽出し、結晶粒界の酸化物相として偏析させることによって高熱伝導化をもたらす。複合酸化物の液相としては、Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)を主に生成させることが好ましい。2Y_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)や3Y_(2)O_(3)・5Al_(2)O_(3)がY_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)より多く生成されると、窒化アルミニウム基板の熱伝導率や抗折強度、回路形成時の接合性が低下することがある。原料の窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量に応じて、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物などの焼結助剤の配合量を適正化することにより、複合酸化物の液相としてY_(2)O_(3)・Al_(2)O_(3)を主に生成させることが出来る。」

(イ)「【0021】
〈使用材料〉
窒化アルミニウム粉末:1850℃以上に加熱した管状電気炉の頂部からアルミニウム粉末を噴射させてアルミニウム蒸気とし、管内に供給した窒素ガスと反応させて窒化アルミニウムを合成する直接窒化法により作製した。平均粒径1.5μm、酸素含有量0.78%。酸化イットリウム粉末:信越化学工業社製、商品名「Yttrium Oxide」
酸化アルミニウム粉末:アドマテックス社製、商品名「AO-500」
カルボキシメチルセルロース:ダイセル化学工業社製、商品名「CMCダイセル」
グリセリン:花王社製、商品名「エキセパール」
ステアリン酸:サンノプコ社製、商品名「ノプコセラLU-6418」
オレイン酸:和光純薬工業社製、商品名「オレイン酸」
アルミニウム板:三菱アルミニウム社製、商品名「1085材」
ろう合金箔:東洋精箔社製、商品名「A2017R-H合金箔」
UV硬化型レジストインク:互応化学工業社製、商品名「PER-27B-6」」

カ 甲7記載事項
取消理由通知で引用した甲7である特開昭63-55812号公報には、以下の事項が記載されている。

(ア)「(1)基体内に金属との結合に必要な量の結合剤を含有させた焼結窒化アルミニウム系基体に、金属を加熱により直接接合してなる熱伝導性基板。」(第1頁左下欄第5行?第7行)

(イ)「本発明における焼結窒化アルミニウム系基体としては、窒化アルミニウム粉末もしくは窒化アルミニウムに焼結助剤としてイットリウム、アルミニウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の酸化物、炭酸塩、または他の塩類あるいは炭化ケイ素を少なくとも1種添加した粉末に、例えば結合剤として酸素を使用した場合、酸化物の形で金属との結合に必要な量を添加して、これを所望の形状に成形し焼結したものを使用する。
この結合剤の含有量は、例えば結合剤が酸素の場合、組成物中酸化物の形で5?50重量%、好ましくは10?30重量%を占める量が適している。この値未満では接合が不充分になり、この値を超えると本来の窒化アルミニウムの特性が失われる。」(第2頁右上欄第10行?左下欄第3行)

(ウ)「本発明に適用される金属としては、銅、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、銀、コバルト、アルミニウム等の単体、合金あるいは混合物があげられ、その形状は板状等の有形状のもののほか箔状、粒状であってもよい。・・・」(第2頁左下欄8?12行)

(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明の「窒化珪素基板」は、本件訂正発明1の「窒化物セラミックス基板」に相当する。

また、甲1-1発明は、「窒化珪素基板」に、「活性金属ろう付け法等を用いて」、「銅合金」からなる「金属回路板及び金属放熱板」が「接合された」ものであるところ、前記「金属回路板及び金属放熱板」は、「窒化珪素基板」の表面に積層されたものといえること、及び、甲1-1発明の「金属回路板及び金属放熱板」は「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からな」るものであり、本件訂正発明1の「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素の合計濃度が0.01?85質量%を含有する」との要件を満たすものであることを踏まえると、甲1-1発明の「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)等を添加した銅を主成分とする銅合金からなり前記窒化珪素基板に、活性金属ろう付け法等を用いて接合される銅合金板である金属回路板及び金属放熱板」は、本件訂正発明1の「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層」に相当する。

そして、甲1-1発明の「セラミックス配線基板」は、「窒化珪素基板」と「金属回路板及び金属放熱板」とが積層されたものといえるから、本件訂正発明1の「積層体」に相当する。

してみると、本件訂正発明1と甲1-1発明とは、両者が「窒化セラミックス基板と、該窒化セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素の合計濃度が0.01?85質量%含有する、積層体」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
窒化セラミックス基板と銅合金層とが、本件訂正発明1では「直接的に接合されて」積層されるものであって、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」であるのに対して、甲1-1発明では、活性金属ろう付け法等によって接合されて積層される点。

上記相違点1について検討する。
本件訂正発明1の「直接的に接合」とは、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】を参酌すると、「銅合金層自体の組成又はその酸化物からなる銅合金層表面と、窒化物セラミックス基板自体の組成又はその酸化物からなる基板表面とが、他の組成からなる層の介在なしに接触した状態で相互に固着されることをいう。すなわち、相互に積層された銅合金層と窒化物セラミックス基板との間には、その酸化皮膜は存在することがあっても、それら以外の組成からなる他の層が存在しないことを意味する。」ものである。

一方、甲1-1発明における「活性金属ろう付け方法等」とは、甲第1号証の段落【0003】に、「セラミックス基板と金属板との接合は、例えば、銅直接接合(DBC:Direct Bonding Copper)法や活性金属ろう付け法等が用いられている。ここで、DBC法とは、セラミックス基板と銅板とを不活性ガス又は窒素雰囲気中で共晶温度以上の温度に加熱し、生成したCu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合するものである。」と記載されているから、セラミックス基板と金属板との間に「活性金属ろう」を介在するもの、又は「Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合」するものである。

してみると、本件訂正発明1の「直接的に接合」が「酸化皮膜は存在」することを許容しているものであっても、本件訂正発明1が「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」である以上、甲1-1発明において、甲1記載事項で示唆されたDBC法を適用して、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金板と窒化セラミックス基板とを「直接的に接合」するように構成しても、本件訂正発明1を当業者が容易に想到し得たということはできないものである。

そして、窒化セラミックス基板に対して銅合金層を接合する際に、活性金属ろうを介在させず、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として介在させずに直接的に接合することを示唆する文献も見当たらない。

したがって、本件訂正発明1は、甲1-1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明の「窒化珪素基板」は、本件訂正発明2の「窒化物セラミックス基板」に相当する。

また、甲1-1発明の「セラミックス配線基板」は、「窒化珪素基板」と「金属回路板及び金属放熱板」とが積層されたものといえるから、本件訂正発明2の「積層体」に相当する。

そして、甲1-1発明は、「窒化珪素基板」に、「活性金属ろう付け法等を用いて」、「銅合金」からなる「金属回路板及び金属放熱板」が「接合された」ものであるところ、「金属回路板及び金属放熱板」は、「窒化珪素基板」の表面に積層されたものといえることを踏まえると、甲1-1発明の「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)等を添加した銅を主成分とする銅合金からなり前記窒化珪素基板に、活性金属ろう付け法等を用いて接合される銅合金板である金属回路板及び金属放熱板」と、本件訂正発明2の「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層」とは、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層」という限りにおいて一致する。

以上を踏まえると、本件訂正発明2と甲1-1発明とは、両者が「窒化セラミックス基板と、該窒化セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層とを有する、積層体」である点で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2)
窒化セラミックス基板と銅合金層とが、本件訂正発明2では「直接的に接合されて」積層されるものであって、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」であるのに対して、甲1-1発明では、活性金属ろう付け法等によって接合されて積層される点。
(相違点3)
銅合金層について、本件訂正発明2の銅合金層は「Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度が0.01?85質量%含有する」のに対し、甲1-1発明の「金属回路板及び金属放熱板」は、「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からな」るものである点。

上記相違点2について検討すると、上記アにおいて相違点1について述べたとおり、甲1-1発明における「活性金属ろう付け方法等」とは、セラミックス基板と金属板との間に「活性金属ろう」を介在するもの、又は「Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合」するものであって、本件訂正発明2の「直接的に接合」が「酸化皮膜は存在」することを許容しているものであっても、本件訂正発明2が「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」である以上、甲1-1発明において、甲1記載事項で示唆されたDBC法を適用して、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金板と窒化セラミックス基板とを「直接的に接合」するように構成しても、本件訂正発明2を当業者が容易に想到し得たということはできないものである。

そして、窒化セラミックス基板に対して銅合金層を接合する際に、活性金属ろうを介在させず、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として介在させずに直接的に接合することを示唆する文献も見当たらない。

したがって、相違点3について論じるまでもなく、本件訂正発明2は、甲1-1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

ウ 本件訂正発明3?15について
本件訂正発明3?15は、本件訂正発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1又は2と同様に、窒化セラミックス基板と銅合金層とが「直接的に接合されて」積層されるものであって、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」であるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2と同じ理由により、甲1-1発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

エ 本件訂正発明16について
本件訂正発明16と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明の「窒化珪素基板」は、本件訂正発明16の「窒化物セラミックス基板」に相当する。

また、甲1-2発明は、「窒化珪素基板の一面、他面に・・・金属回路板、金属放熱板を、それぞれ、載置し、加圧状態で保持し、所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属放熱板を接合する」ものであるところ、前記「金属回路板及び金属放熱板」は、「窒化珪素基板」の表面に積層されたものといえること、及び、甲1-2発明の「金属回路板及び金属放熱板」は「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)等を添加した銅を主成分とする銅合金からな」るものであり、本件訂正発明16の「銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素の合計濃度が0.01?85質量%となるように含有する」との要件を満たすものであることを踏まえると、甲1-2発明の「窒化珪素基板の一面、他面に」、「銅合金からなる銅合金板である金属回路板、金属放熱板を、それぞれ、載置し、加圧状態で保持し、所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属放熱板を接合する」は、本件訂正発明16の「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させる」限りにおいて一致する。

そして、甲1-2発明の「セラミックス配線基板の製造方法」は、「窒化珪素基板」と「金属回路板及び金属放熱板」とが積層されたものといえるから、本件訂正発明16の「積層体の製造方法」に相当する。

してみると、本件訂正発明16と甲1-2発明とは、両者が「銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度が0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、接合される、積層体の製造方法。」である点で一致し、以下の相違点4で相違する。

(相違点4)
窒化セラミックス基板と銅合金層とが、本件訂正発明16では「直接的に接合される」ことで積層され、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く」ものであるのに対して、甲1-2発明では、活性金属ろう付け法等によって接合されて積層される点。

上記相違点4について検討する。
上記アと同様に、甲1-2発明における「活性金属ろう付け方法等」とは、セラミックス基板と金属板との間に「活性金属ろう」を介在するもの、又は「Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合」するものであって、本件訂正発明16の「直接的に接合」が「酸化皮膜は存在」することを許容しているものであっても、本件訂正発明16が「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」である以上、甲1-2発明において、甲1記載事項で示唆されたDBC法を適用して、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金板と窒化セラミックス基板とを「直接的に接合」するように構成しても、本件訂正発明16を当業者が容易に想到し得たということはできないものである。

そして、窒化セラミックス基板に対して銅合金層を接合する際に、活性金属ろうを介在させず、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として介在させずに直接的に接合することを示唆する文献も見当たらない。

したがって、本件訂正発明16は、甲1-2発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

オ 本件訂正発明17について
本件訂正発明17と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明の「窒化珪素基板」は、本件訂正発明17の「窒化物セラミックス基板」に相当する。

また、甲1-2発明の「セラミックス配線基板の製造方法」は、「窒化珪素基板」と「金属回路板及び金属放熱板」とが積層されたものといえるから、本件訂正発明17の「積層体の製造方法」に相当する。

そして、甲1-2発明は、「窒化珪素基板の一面、他面に」、「銅合金からなる銅合金板である金属回路板、金属放熱板を、それぞれ、載置し、加圧状態で保持し、所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属放熱板を接合する」ものであることを踏まえると、甲1-2発明の「窒化珪素基板の一面、他面に、銅を主成分とし、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からなる銅合金板である金属回路板、金属放熱板を、それぞれ、載置し、加圧状態で保持し、所定温度と時間にわたって熱処理した後、冷却することにより、窒化珪素基板に金属放熱板を接合する」と、本件訂正発明17の「銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度が0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ」とは、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、銅合金層を、熱圧着により積層させ」という限りにおいて一致する。

以上を踏まえると、本件訂正発明17と甲1-2発明とは、両者が「銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、接合される、積層体の製造方法。」である点で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点5)
窒化セラミックス基板と銅合金層とが、本件訂正発明17では「直接的に接合される」ことで積層され、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く」ものであるのに対して、甲1-2発明では、活性金属ろう付け法等によって接合されて積層される点。
(相違点6)
銅合金層について、本件訂正発明17の銅合金層は「Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度が0.01?85質量%となるように含有する」のに対し、甲1-2発明の「金属回路板及び金属放熱板」は、「銅を主成分とし、亜鉛(Zn)又はジルコニウム(Zr)(0.15%)を添加した銅を主成分とする銅合金からな」るものである点。

上記相違点5について検討すると、上記オにおいて相違点4について述べたとおり、甲1-2発明における「活性金属ろう付け方法等」とは、セラミックス基板と金属板との間に「活性金属ろう」を介在するもの、又は「Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅板をセラミックス基板の一面又は両面に酸化膜相を介して直接接合」するものであって、本件訂正発明17の「直接的に接合」が「酸化皮膜は存在」することを許容しているものであっても、本件訂正発明17が「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された層体を除くもの」である以上、甲1-2発明において、甲1記載事項で示唆されたDBC法を適用して、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金板と窒化セラミックス基板とを「直接的に接合」するように構成しても、本件訂正発明17を当業者が容易に想到し得たということはできないものである。

そして、窒化セラミックス基板に対して銅合金層を接合する際に、活性金属ろうを介在させず、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として介在させずに直接的に接合することを示唆する文献も見当たらない。

したがって、相違点6について論じるまでもなく、本件訂正発明17は、甲1-2発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

カ 本件訂正発明18?20について
本件訂正発明18?20は、本件訂正発明16又は17を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明16又は17と同様に、窒化セラミックス基板と銅合金層とが「直接的に接合される」されるものであって、「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」であるから、本件訂正発明16又は17と同じ理由により、甲1-2発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものはない。

(3)申立人の主張
申立人は、申立人意見書の第8ページ第4行?第12行において「しかしながら、前述のとおり、訂正後の請求項1、2、16、17では「酸化膜相」の定義が不明確であります。上記酸化膜相が点状に存在する場合があることは、本件特許発明と同一の技術分野である参考資料2(当審注:特開2004-3023号公報)の段落[0035]等に記載された周知技術であります。」、「よって、仮に上記酸化膜相が点状に存在する態様を含まない場合、訂正後の請求項1、2、16、17に係る発明は、以下のとおり甲1(特開2011-124585号公報)、甲2(特開平2-175674号公報)、甲5(特開2003-63879号公報)、甲7(特開昭63?55812号公報)、および参考資料2に基づいて容易に為し得たものであると思料します。」と主張し、また同ページ第23行?第25行において「さらに、本件特許明細書には、「Cu-O共晶化合物液相を結合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体」を除いた態様の作用・効果についても何ら記載されておりません。」と主張する。

しかしながら、本件訂正発明1、2、16及び17における「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。」は、いわゆる除くクレームであって、甲1に記載されたDBC法により形成されるCu-O共晶化合物液相を結合剤とし、当該Cu-O共晶化合物液相からなる酸化膜相により銅合金と窒化物セラミックス基板とが接合された積層体を除くものであることは明らかであるから、申立人の主張を採用することはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?20は、甲1-1発明又は甲1-2発明、及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。

2.取消理由通知書<決定の予告>において採用しなかった特許異議申立理由について
2-1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合について
申立人は、本件特許の請求項1、2、16及び17について、「銅合金層」を「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面」に「接合層」や「ろう材層」を介して「積層」するものを排除していない旨を主張する。

しかしながら、本件訂正により本件訂正発明1、2、16及び17は、銅合金層と窒化物セラミックス基板とを「直接的に接合」するものであって、「Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除くもの」となったことから、本件訂正発明1、2、16及び17は、「窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面」に「銅合金層」が「直接的に接合される」、すなわち「銅合金層自体の組成又はその酸化物からなる銅合金層表面と、窒化物セラミックス基板自体の組成又はその酸化物からなる基板表面とが、他の組成からなる層の介在なしに接触した状態で相互に固着される」のであって、「接合層」や「ろう材層」を介して「積層」されるものを排除するものであるから、その意味において、本件訂正発明1、2、16及び17が解決しようとする課題を解決し得ないものを含むとはいえないものである。

よって、申立人の主張する特許異議申立理由によって、本件訂正発明1、2、16及び17に係る特許を取り消すことはできない。

本件訂正発明1、2を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明3?15、及び、本件訂正発明16、17を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明18?20についても同様である。

(2)銅合金層の主成分について
申立人は、本件特許の請求項4、5、18、19について、銅合金層がMnを主成分とする組成を含んでいるが、発明の詳細な説明にはMnを主成分とする銅合金層は記載されていない旨を主張する。

しかしながら、上記1.1-1(1)に示したとおり、本件発明が解決しようとする課題は、単に銅を含むだけの銅合金層を対象としているものであって、銅合金層の主成分を銅に限定するものではない。

そして、1.1-1(2)ア(イ)及びイ(イ)で示したように、「銅合金層中に当該元素が多く含まれるほど、窒化物セラミックス基板と銅合金層との間に化合物(窒化物)が形成され、窒化物セラミックスと銅合金層との密着性が向上することも理解できる」のであるから、Mnを主成分とする銅合金が発明の詳細な説明に記載されていないとすることはできず、申立人の主張する特許異議申立理由によって、本件訂正発明4、5、18及び19に係る特許を取り消すことはできない。

本件訂正発明4、5を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明6?15、及び、本件訂正発明18、19を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明20についても同様である。

2-2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(1)本件特許の請求項4、5、18及び19について、「95質量%」の「Mn」を含有する「銅合金層」は、「銅合金」の含有量が5質量%となってしまうため、そのようなものは、銅合金層といえるのか不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとして、令和 2年 1月27日付けで取消理由を通知した。

しかしながら、合金とは「1種の金属元素と1種以上の金属元素または炭素・窒素・ケイ素など非金属元素との共融体の総称。」(広辞苑 第六版)とされており、「1種の金属元素」の含有量が問われるものではない。そして、銅の含有量が50質量%未満であっても、銅を含む合金であれば銅合金ということが一般的であることを勘案すると、本件訂正発明4、5、18及び19の銅合金がMnを主な成分とするものであっても「銅合金層」であることになんら変わりはなく、不明確であるとまでいうことはできない。

よって、本件訂正発明4、5、18及び19は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであるから、当該取消理由により本件訂正発明4、5、18及び19に係る特許を取り消すことはできない。

本件訂正発明4、5を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明6?15、及び、本件訂正発明18、19を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明20についても同様である。

(2)申立人の主張
申立人は、申立人意見書の第6ページ第18行?第7ページ第7行において、「しかしながら、本件特許明細書には、Cu-O共晶化合物液相を結合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体については何ら記載されておらず、「酸化膜相」の定義が不明確であります。「相」という用語は、酸化物が膜状に存在するだけでなく点状に存在する態様を含みます。Cuは、酸化しやすい成分であるため、一般的に銅を含む層は不可避不純物として酸素をさらに含みます。このため、上記酸化膜相は、点状に存在する場合があります。・・・従って、上記酸化膜相が膜状に存在する積層体を除外しているのか、上記酸化膜相が点状に存在する積層体も除外しているのかが不明であるため、訂正後の請求項1、2、16、17のように、「Cu-O共晶化合物液相を結合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体」を除いた後に何が残るのか想定できません。」と主張する。

しかしながら、本件訂正発明1、2、16及び17における「ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。」は、いわゆる除くクレームであって、甲1に記載されたDBC法により形成されるCu-O共晶化合物液相を結合剤とし、当該Cu-O共晶化合物液相からなる酸化膜相により銅合金と窒化物セラミックス基板とが接合された積層体を除くものであることは明らかであるから、申立人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?20については、取消理由通知書<決定の予告>に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、特許を取り消すことはできない。さらに、本件訂正発明1?20について、他に特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層体及び、その製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅を含む金属層とセラミックス基板とを積層してなる積層体及び、その製造方法に関するものであり、特には、金属層とセラミックス基板との所要の接合強度を確保するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電装化が進む傾向にあり、なかでも電気自動車が実用化されるに至っている。このような中、大電流が用いられるパワーデバイス等の素子が開発されており、当該電気自動車等に使用されつつある。
ここで、パワーデバイスは、セラミックス基板の少なくとも一方の表面、通常は両面のそれぞれに、ヒートシンクとして機能する銅製等の金属層が接合されてなる積層体を、ベース板(放熱板)上に固定し、そして、積層体上に、パワー半導体素子及び、その制御回路が形成されて構成される。
【0003】
かかる積層体では一般に、銅等からなる金属層に接合させるセラミックス基板の材質として、当該金属層との直接接合が可能なアルミナ(Al_(2)O_(3))が用いられていたが、このアルミナ製セラミックス基板に代えて、特許文献1?3等に記載されているような、優れた熱伝導性を有する窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物セラミックス基板とすることが有効である。
【0004】
特許文献1?3に記載された積層体は、Cu導体層(金属層)又は窒化アルミニウム基板の表面に、蒸着、スパッタリングもしくはめっき等により、Ti等からなる薄膜の接合層を予め形成し、その接合層を介して、窒化アルミニウム基板又は銅層を接合することにより製造されるものである。
これによれば、金属との濡れ性に乏しい窒化アルミニウム基板と、Cu導体層との間に形成した上記の接合層が、窒化アルミニウム基板とCu導体層とを有効に接合させることになる。その結果として、以前から使用されてきたアルミナに比して熱伝導性に優れる窒化アルミニウム基板により、半導体素子等が発する熱を有効に放散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64-84648号公報
【特許文献2】特開平5-18477号公報
【特許文献3】特開平5-218229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の特許文献1?3に記載されたいずれの技術も、積層体を製造するに当り、Cu導体層と窒化アルミニウム基板との接合に先立って、それらの間にTi等の接合層を形成するため、Cu導体層もしくは窒化アルミニウム基板に、蒸着、スパッタリングないしめっきを施す必要がある。それに起因して、製造工数の増大を余儀なくされて、積層体を安価かつ簡易に製造することができないという問題があった。
【0007】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、主として銅からなる金属層と、窒化物セラミックス基板とを十分強固に接合するとともに、その製造工数を削減することのできる積層体及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、アルミナとの比較により、窒化アルミニウム等の窒化物セラミックス基板とCu金属層との直接接合が困難となる理由や、上述したような、窒化アルミニウム基板とCu金属層との間にTi等の接合層を設けるとそれらを接合可能になるメカニズム等について鋭意検討した結果、Cu金属層を、所定の元素を含有する銅合金層とすることにより、そのような銅合金層と窒化物セラミックス基板とを、上記の接合層の介在なしに有効に接合できることを見出した。
【0009】
このような新たな知見に基き、この発明の積層体は、窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有するものである。
また、この発明の積層体は、窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を含有するものである。
ここで好ましくは、前記銅合金層が銅合金板または銅合金箔からなるものとする。
【0010】
銅合金層に含まれ得る、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される一種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。
【0011】
この発明の積層体では、前記銅合金層が、特に、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有するものとすることが好ましい。ここで、銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%であることが好ましい。
【0012】
また、銅合金層がSi、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される二種類以上の元素を含有する場合、当該のSi、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される二種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001?99.5質量%であることが好ましく、0.0005?95質量%であることが好ましく、0.0005?70質量%であることが好ましく、0.0005?50質量%であることが好ましい。
【0013】
またこの発明の積層体では、前記窒化物セラミックス基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化インジウム又は窒化ガリウムを主成分とし、あるいは、炭化チタンと窒化チタンとの複合材料、又は、窒化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料を主成分とするものであることが好ましい。
ここで、前記窒化物セラミックス基板が窒化アルミニウムを主成分とするものである場合、その窒化物セラミックス基板がさらに、Ca、Y、Oからなる群から選択される一種以上の元素を含有し、Caを含む場合には、Ca濃度は0.0001?3質量%であり、Yを含む場合にはY濃度は0.0001?10質量%であり、Oを含む場合には、O濃度は0.0001?20質量%であるものとすることができる。
また前記窒化物セラミックス基板のO含有濃度は0.0001?20質量%であることが好ましい。
【0014】
なおこの発明では、たとえば、前記銅合金層の厚みを、1μm?7000μmとし、前記窒化物セラミックス基板の厚みを、1μm?7000μmとすることができる。
【0015】
またこの発明の放熱体は、上記のいずれかの積層体を有するものである。またこの発明のパワーデバイスは、上記のいずれかの積層体を有するものである。またこの発明の素子は、上記のいずれかの積層体を有するものである。また、この発明の電子部品は、上記のいずれかの積層体を有するものである。また、この発明の電子機器は、上記のいずれかの積層体を有するものである。また、この発明の車両は、上記のパワーデバイスまたは上記の素子または上記の電子部品を有するものである。
【0016】
また、この発明の積層体の製造方法では、銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させる。
また、この発明の積層体の製造方法では、銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させる。
【0017】
銅合金層に含まれる、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Sn、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される一種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。
【0018】
この製造方法でもまた、前記銅合金層が、特に、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有することが好ましく、この場合、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.0001?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.0001?95質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.0001?20質量%であることが好ましい。
【0019】
また、銅合金層がSi、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される二種類以上の元素を含有する場合、当該のSi、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される二種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001?99.5質量%であることが好ましく、0.0005?95質量%であることが好ましく、0.0005?70質量%であることが好ましく、0.0005?50質量%であることが好ましい。
【0020】
この発明の製造方法では、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合するに際し、窒素またはアルゴン雰囲気中または真空中で、800?1000℃の温度の下、0.6N/mm^(2)?1.5N/mm^(2)の圧力を作用させることにより、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合することが好ましい。
【0021】
なおこの発明では、積層体の窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合され、又は、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合されることになる。従って、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間には、Ti等の接合層が存在しなくてもよい。
【0022】
ここでいう「直接的に接合」とは、銅合金層自体の組成又はその酸化物からなる銅合金層表面と、窒化物セラミックス基板自体の組成又はその酸化物からなる基板表面とが、他の組成からなる層の介在なしに接触した状態で相互に固着されることをいう。すなわち、相互に積層された銅合金層と窒化物セラミックス基板との間には、その酸化皮膜は存在することがあっても、それら以外の組成からなる他の層が存在しないことを意味する。
また、銅合金層の表面には、たとえば有機物による防錆層等が形成されることがあるので、接合の強さに大きな悪影響を及ぼさない程度に、銅合金層の少なくとも窒化物セラミックス基板側の表面には、一般的に用いられる粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層を施してもよい。この場合は、銅合金層と窒化物セラミックス層とが、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層だけを介して間接的に接合される。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、窒化物セラミックス基板に積層させる金属層を、上述した元素を含有する銅合金層としたことにより、該銅合金層と窒化物セラミックスとを所要の強度で接合できるとともに、従来技術のような接合層を形成する工程を要しないので、製造工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】1000℃の温度条件の下での、酸素の量の変化に対するアルミナと銅との界面状態を示すグラフである。
【図2】1000℃の温度条件の下での、酸素の量の変化に対する窒化アルミニウムと銅との界面状態を示すグラフである。
【図3】1000℃の温度条件の下での、酸素の量の変化に対する窒化アルミニウムとチタンとの界面状態を示すグラフである。
【図4】1000℃の温度条件の下での、酸素の量の変化に対する窒化アルミニウムとチタン銅合金との界面状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、この発明の実施形態について詳細に例示説明する。
たとえば、所定の積層体は、窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に積層された銅合金箔等の銅合金層とを備え、この銅合金層が、Cuの他、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有するものである。なお、銅合金層の導電率や熱伝導率をより良好なものとすることができるため、銅合金層において、Cuが主成分であることが好ましい。
【0026】
また、銅合金層に含まれる、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される一種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。
また、銅合金層は窒化物や酸化物等の化合物や無機物、上述した元素以外の元素を含む金属、上述以外の元素等を含んでもよい。
【0027】
本発明では窒化物セラミックス基板とは、窒化物を含むセラミックス基板を意味する。窒化物セラミックス基板の窒化物の濃度は好ましくは50質量%以上、好ましくは60質量%以上、好ましくは70質量%以上、好ましくは80質量%以上、好ましくは90質量%以上、好ましくは95質量%以上である。窒化物セラミックス基板の窒化物の濃度の上限は設ける必要は無いが、典型的には、100質量%以下、99.999質量%以下、99.99質量%以下、99.9質量%以下とすることができる。ここで、本願ではセラミックス基板は焼結体、及び/又は、多結晶体、及び/又は、単結晶体を含む基板であってもよく、焼結体、及び/又は、多結晶体、及び/又は、単結晶体からなる基板であってもよく、気相成長やエピタキシャル成長により得られる金属または化合物または半導体または導体の基板を含む概念である。
【0028】
また、前記窒化物はNと、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、B、Sr、HfおよびBaからなる群から選択される一種以上の元素とを含む化合物であることが好ましい。
また、前記窒化物はNと、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、B、Sr、HfおよびBaからなる群から選択される一種以上の元素とからなる化合物であることがより好ましい。
また、前記窒化物はNと、Si、Al、B、Ga、InおよびTiからなる群から選択される一種以上の元素とを含む化合物であることがより好ましい。
また、前記窒化物はNと、Si、Al、B、Ga、InおよびTiからなる群から選択される一種以上の元素とからなる化合物であることがより好ましい。
【0029】
ここで、窒化物セラミックス基板は、熱伝導性を高めて半導体素子等を有効に放熱させるとの観点から、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si_(3)N_(4))、窒化チタン(TiN)、窒化ホウ素(BN)、窒化インジウム(InN)又は窒化ガリウム(GaN)を主成分とし、あるいは、炭化チタンと窒化チタンとの複合材料(TiC-TiN)、又は、窒化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料(BN-SiC)を主体とする材質からなることが好ましい。また、窒化物セラミックス基板は、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si_(3)N_(4))、窒化チタン(TiN)、窒化ホウ素(BN)、窒化インジウム(InN)および窒化ガリウム(GaN)からなる群から選択される一種以上の窒化物を含むことが好ましい。
なかでも、窒化アルミニウム及び窒化珪素はいずれも熱伝導率に優れ、しかも、窒化アルミニウムは熱膨張率が低く、この種の積層体のセラミックス基板として用いることが好適である。また、窒化珪素は、強度が高く、製造時に破損しにくいため、生産性の観点から好ましい。
【0030】
窒化物セラミックス基板が窒化アルミニウムもしくは窒化珪素を主成分とする場合、その濃度(窒化アルミニウムの場合、窒素の濃度とアルミニウムの濃度を合計した濃度を窒化アルミニウムの濃度とする。また、窒化珪素の場合、窒素の濃度と珪素の濃度を合計した濃度を窒化珪素の濃度とする。)の下限は、50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上とすることができる。また、窒化アルミニウムもしくは窒化珪素の濃度の上限は特に設ける必要は無いが、例えば100質量%以下、99.999質量%以下、99.99質量%以下、99.9質量%以下とすることができる。また、主として窒化アルミニウムからなる窒化物セラミックス基板は、Ca、Y、Oからなる群から選択される一種以上の元素を含有するものであってもよい。ここで、Caを含有する場合は、Ca濃度は0.0001?3質量%とすることができ、また、Yを含有する場合は、Y濃度は0.0001?10質量%とすることができる。また、O濃度は、たとえば0.0001?20質量%、好ましくは0.005?15質量%、より好ましくは0.01?10質量%とすることができる。
本願において、例えば、Aを「主成分とする」とは、Aを50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることを意味する。また、窒化物の濃度は、窒素の濃度と、窒化物を構成する窒素以外の元素の濃度との合計の濃度とする。
【0031】
このような窒化物セラミックス基板は、優れた熱伝導性を有する一方で、従来から用いられているような純Cu金属層との濡れ性に乏しく、一般に純Cu金属層と直接的に接合することは困難である。
このことに対し、発明者は以下の検討を行った。
【0032】
(アルミナと銅との界面状態の検討)
アルミナ(Al_(2)O_(3))製のセラミックス基板は、純Cu金属層と所要の強度で直接接合することが可能である。この理由を検討するため、1000℃の温度条件の下、酸素の量に応じて、アルミナと銅との界面で安定する各物質量の変化をシミュレーションした結果を、図1にグラフで示す。ここで、横軸は酸素の量を示し、縦軸は物質量を規格化した指標を示す。いずれも数値が大きいほど量が多いことを意味する。また、図1上に記載されている「Al_(2)O_(3)+Cu+<Alpha>^(*)O_(2)」は物質量を規格化した指標で表した場合に、Al_(2)O_(3)が1、Cuが1、O_(2)がAlpha(図1の横軸)で存在する場合の、各物質量をシミュレーションした結果であることを意味する。
図1に示すところから、アルミナと銅との界面では、酸素の量の増減に伴い、Cu単体及びAl_(2)Oが減少又は増加する一方で、CuとAl_(2)Oとで形成される複合酸化物(CuAl_(2)O)の量が増加又は減少することが解かり、この複合化合物が、アルミナと銅との密着力を向上させ、それらの接合に寄与していると考えられる。
【0033】
(窒化アルミニウムと銅との界面状態の検討)
一方、窒化物セラミックスの代表例としての窒化アルミニウム(AlN)のセラミックス基板は、純Cu金属層と直接的に接合することが難しい。窒化アルミニウムと銅との同様のシミュレーション結果を図2にグラフに示す。
図2に示すところでは、酸素の量に関わらず、窒化アルミニウムと銅との間では化合物が形成されず、これにより、窒化アルミニウムと銅との接合が困難になると考えられる。
【0034】
(窒化アルミニウムと銅との間にチタンを介在させた場合の界面状態の検討)
窒化アルミニウムのセラミックス基板と純Cu金属層との間に、その表面へのスパッタリング等によってチタン接合層を形成した場合は、そのチタン接合層を介して、窒化アルミニウムのセラミックス基板と純Cu金属層とが接合されることになる。この場合の窒化アルミニウムとチタンとの界面状態を同様に図3にグラフで示す。
図3によれば、窒化アルミニウムとチタンとの界面には、TiNが形成されており、酸素の量が増加するに従って、このTiNの量が増加する。また、酸素の量が増加するにつれて減少するが、窒化アルミニウムとチタンとの界面にはTiAl_(3)も、形成されることになる。チタンを介在させることにより、これらの化合物が形成されて、窒化アルミニウムと銅とが接合されると考えられる。
【0035】
以上の検討に基き、発明者は、Cu金属層を、上述したチタンのような、窒化アルミニウムと銅との接合をもたらす元素を銅に含有させた銅合金層とすることにより、銅合金層に含まれる当該元素が、窒化物セラミックス基板との化合物を形成して、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合を実現できると考えた。
このことを検証するため、Tiを3.1質量%で含有するチタン銅合金(Cu-Ti)と窒化アルミニウムとの界面状態につき、同様のシミュレーションを行ったところ、図4に示す結果を得た。
図4に示すシミュレーション結果から、チタン銅合金に含まれるTiと、窒化アルミニウムのNでTiNが形成され、これが、チタン銅合金と窒化アルミニウムとの接合に有効に働くと考えられる。
【0036】
また発明者は、窒素と結びついて化合物(窒化物)を形成する元素であって、かつ銅合金に含有させることのできる元素を検討し、窒化物を形成する元素であってかつCuに固溶する元素として、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Cr、Co、B、C、Sn、Mo、Hfがあり、また、窒化物を形成する元素であって、かつCuに固溶はしないかまたはほとんど固溶しないがCuとの状態図が存在する元素(すなわちCuとの化合物が存在する元素)として、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Baがあることから、Tiだけでなく、これらの元素を含有する銅合金は、窒化物セラミックス基板と接合される銅合金層に用いることができると考えた。
【0037】
この知見により、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に接合させる銅合金層は、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、B、C、Sn、Mo、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有するものとすることができる。
【0038】
また、銅合金層に含まれる、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される一種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。
【0039】
特に、これらのなかでも、Si、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfは、窒化物セラミックス基板との接合性等の観点から好ましいので、銅合金層は、Si、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有することが好適である。
【0040】
たとえば、銅合金層がSiを含有する場合は、そのSi濃度の下限値は、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.05質量%とし、より好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%とする。また、Si濃度の上限値は、3.0質量%、なかでも2.7質量%とすることが好ましく、特に2.4質量%、さらには2.0質量%がより一層好適である。
銅合金層がMnを含有する場合は、そのMn濃度の下限値は0.0001質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%とする。Mn濃度の上限値は、好ましくは95質量%、より好ましくは80質量%、より好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、より好ましくは30質量%とする。
【0041】
銅合金層がNiを含有する場合は、そのNi濃度の下限値は0.0001質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%とする。Ni濃度の上限値は、好ましくは95質量%、より好ましくは80質量%、より好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、より好ましくは30質量%とする。
銅合金層がTiを含有する場合は、そのTi濃度の下限値は、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%とする。Ti濃度の上限値は、好ましくは8.5質量%、より好ましくは8.0質量%、より好ましくは7.7質量%、より好ましくは7.5質量%とする。
銅合金層がZrを含有する場合は、そのZr濃度は0.0001?8.0質量%とすることができ、好ましくは0.01?7.0質量%、より好ましくは0.05?5.0質量%である。
銅合金層がCeを含有する場合は、そのCe濃度は、たとえば0.0001?60質量%とすることができ、好ましくは0.001?50質量%、より好ましくは0.01?40質量%、より好ましくは0.01?10質量%、より好ましくは0.01?5質量%とする。
銅合金層がHfを含有する場合は、そのHf濃度は、たとえば0.0001?20質量%とすることができ、好ましくは0.001?15質量%、より好ましくは0.01?10質量%、より好ましくは0.01?8質量%、より好ましくは0.01?5質量%とする。
【0042】
また、銅合金層がSi、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される二種類以上の元素を含有する場合、当該のSi、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される二種類以上の元素の合計の濃度は、窒化物セラミックス基板と銅合金層との接合強度をより適切にするため、0.0001?99.5質量%であることが好ましく、0.0005?95質量%であることが好ましく、0.0005?70質量%であることが好ましく、0.0005?50質量%であることが好ましい。
【0043】
この積層体では、銅合金層と窒化物セラミックス基板とを接合させることができるので、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間には、それらの組成及び酸化物並びに、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層とは異なる、たとえばTiのみの層等が存在しなくてもよいことになる。
それにより、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に他の接合層等を形成するための工程が不要となって、製造工数を減らすことができる。また、接合層等を形成するためのスパッタリング等を行う設備、材料等も不要となって製造コストを小さく抑えることができる。
【0044】
なお、この積層体では、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間には、銅合金層と窒化物セラミックス基板との接合の程度に大きな悪影響を及ぼさない範囲で、銅合金層と窒化物セラミックス基板からの元素及び/またはその酸化物並びに、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層等が存在してもよい。
【0045】
銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層が存在する場合は、その粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層の厚みは合計0.7μm以下、好ましくは0.5μm以下とすることができる。また、銅合金層と窒化物セラミックス基板との間に、粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層が存在する場合は、その粗化処理層、耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層の群から選択される一つ以上の層の合計付着量は70000μg/dm^(2)以下、好ましくは40000μg/dm^(2)以下、好ましくは20000μg/dm^(2)以下、好ましくは10000μg/dm^(2)以下、好ましくは5000μg/dm^(2)以下とすることができる。かかる層がこの程度の厚みまたは付着量であれば、銅合金層と窒化物セラミックス層との接合には悪影響を及ぼさない。
【0046】
また発明者は、窒化アルミニウムから窒素を奪って窒化物を形成し得る元素を、銅合金層に含有させることにより、窒化物セラミックス基板との強固な接合を実現できるとの考えの下、窒化物のエリンガムダイアグラムを用いて、たとえば窒化アルミニウムを基準とし、生成ギブスエネルギーが低く窒化物として安定するCe、Ti、Zr、Hfが有効であると考えた。
この観点からは、銅合金層が、Ce、Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有することが好ましい。
【0047】
このような窒化物セラミックス基板と銅合金層とが互いに積層されてなる積層体は、銅合金層と窒化物セラミックス基板との剥離強度を15kN/m以上とすることができ、これにより、たとえばパワーデバイス等に有効に用いることができる。この剥離強度は20kN/m以上であることが好ましく、さらには30kN/m以上であることがより好ましい。
【0048】
なお、このような積層体では、たとえば、銅合金層の厚みを、0.01μm?7000μmとすることができ、または、0.1μm?7000μmとすることができ、または、1μm?7000μmとすることができる。銅合金層の厚みは、5μm以上2000μm以下とすることが好ましく、より好ましくは10μm以上1500μm以下、より好ましくは20μm以上1200μm以下、より好ましくは50μm以上1100μm以下、より好ましくは100μm以上1050μm以下、好ましくは200μm以上1000μm以下とする。
また、前記窒化物セラミックス基板の厚みは、1μm?15000μm、1μm?7000μmとすることができ、好ましくは5μm以上2000μm以下、より好ましくは10μm以上1500μm以下、より好ましくは20μm以上1200μm以下、より好ましくは50μm以上1100μm以下、より好ましくは100μm以上1050μm以下、より好ましくは200μm以上1000μm以下とすることができる。
【0049】
また、より強固な接合を実現するとの観点から、銅合金層の、少なくとも窒化物セラミックス基板との接合表面(すなわち、銅合金層の窒化物セラミックス基板に積層する側の表面)の表面粗さRaは、0.30μm以下とすることができ、好ましくは0.25μm以下、より好ましくは0.20μm以下、より好ましくは0.15μm以下とする。この表面粗さRaの下限の好ましい値は特にないが、たとえば、0.001μm以上、0.005μm以上、0.007μm以上とすることができる。
銅合金層の上記表面粗さは、たとえば、圧延ロールの表面粗さ及び/又は圧延時の油膜当量を制御して冷間圧延をすることによって調整することが可能である。
【0050】
窒化物セラミックス基板の、少なくとも銅合金層との接合表面(すなわち、窒化物セラミックス基板の銅合金層を積層する側の表面)の表面粗さRaは、3.0μm以下とすることができ、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.7μm以下、より好ましくは1.5μm以下とする。
この窒化物セラミックス基板の表面粗さは、ショットブラスト等によって調整可能である。
【0051】
この発明の実施形態の放熱体、パワーデバイス、素子、電子部品、電子機器は、上述したような積層体を有するものである。なおここで、放熱体は放熱機能を有する物体であり、放熱板、ヒートシンク、放熱機能を有する半導体素子や、放熱機能を有する素子等を含む。また、放熱体はどのような形状を有してもよい。例えば放熱体は帯、板、箔、条、線、棒、直方体、立方体、円錐、円筒、曲線、回路、配線、多角形、四角、円形、平面または曲面あるいは平面と曲面で構成される形状等の形状を有していてもよい。
そして、この発明の実施形態の車両は、上記のパワーデバイスまたは素子または電子部品を有するものである。
【0052】
以上に述べた積層体を製造することのできる方法の一例は以下のとおりである。
はじめに、Cuを含有し、Si、Mn、Ni、Ti、Al、Ce、Ga、In、P、As、Sb、Nb、Cr、Fe、Li、Be、Mg、Zn、Ge、Co、Mo、B、C、Sn、Y、Pr、Nd、Sm、Zr、Bi、V、W、Tl、Ca、Sr、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有する銅合金層、及び、窒化アルミニウムもしくは窒化珪素その他の窒化物セラミックス基板をそれぞれ用意する。なお、銅合金層の導電率や熱伝導率をより良好なものとすることができるため、銅合金層に含まれるCuは主成分であることが好ましい。
この場合、銅合金層は、上記の元素のなかでも、先述したように、銅合金として安定し、かつ窒化物セラミックスとの強固な直接接合を実現できるSi、Mn、Ni、Ti、Zr、Ce、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有することが好ましい。
【0053】
次いで、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面、一般には両面に、上記の銅合金層を、それらの酸化物や防錆層等を除く他の組成の層の介在なしに、熱圧着により接合させる。
ここでは、温度条件を、好ましくは800?1000℃、より好ましくは850?950℃とし、互いに重ね合せた窒化物セラミックス基板と銅合金層を挟んで両側から、好ましくは0.6N/mm^(2)?1.5N/mm^(2)の圧力を作用させて、それらの窒化物セラミックス基板と銅合金層とを相互に、固相接合等によって接合する。上記の圧力は、たとえば、0.083時間?5時間、好ましくは0.167時間?4時間、より好ましくは0.5?3時間にわたって作用させることができる。
【0054】
またここでの接合は、窒素もしくはアルゴン雰囲気中または真空中で行うことが好ましい。ここでいう真空中とは、周囲の圧力が5.0×10^(-3)Torr以下、好ましくは7.0×10^(-4)Torr以下、より好ましくは3.0×10^(-4)Torr以下、より好ましくは5.0×10^(-5)Torr以下の圧力である条件をいう。
【0055】
このことによれば、たとえば、銅合金層と窒化物セラミックス基板との界面で、銅合金層に含まれる上記の元素が、窒化物セラミックス基板の元素との化合物を形成すること等により、銅合金層と窒化物セラミックス基板とが所要の強度で十分強固に接合されることになる。
その結果として、蒸着、スパッタリング、めっきその他の処理を施すことなしに、銅合金層と窒化物セラミックス基板を接合できるので、そのような処理を施す工程を経ることに起因する工数の増大を有効に防止することができ、積層体を安価にして容易に製造することができる。なお、蒸着、スパッタリング、めっきその他の処理を銅合金層または窒化物セラミックス基板に行ってもよい。
【0056】
ここで、熱圧着時の温度が低すぎると、接合不良となるおそれがあり、この一方で、温度が高すぎると、銅合金層が溶融し、損傷する可能性がある。また、重ね合せた窒化物セラミックス基板と銅合金層に作用される圧力が低すぎると、接合不良となり、また、当該圧力が高すぎると窒化物セラミックス基板または銅合金層が損傷する場合がある。
【0057】
なお、銅合金層はどのような形状を有していてもよい。例えば銅合金層は帯、板、箔、条、線、棒、直方体、立方体、円錐、円筒、曲線、回路、配線、多角形、四角、円形、平面または曲面あるいは平面と曲面で構成される形状等の形状を有していてもよい。
なお、本発明に係る銅合金層は、銅合金板や銅合金箔であることが好ましい。また本発明に係る銅合金層は、圧延加工により製造された圧延銅合金板、圧延銅合金箔や、電解めっきや無電解めっき等の湿式めっきにより形成された、電解銅合金板、電解銅合金箔であることが好ましい。銅合金板や銅合金箔を用いることで、窒化物セラミックス基板へスパッタリング等の方法により、銅合金層を形成するよりも、生産性が高く、製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0058】
次に、この発明の積層体を試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的とするものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0059】
(製造条件)
表1、表2に示す組成及び形態、厚みの銅合金層を、同表に示す組成の窒化物セラミックス基板に重ね合わせ、0.98N/mm^(2)の圧力を作用させて窒素中(圧力:760Torr)またはアルゴン中(圧力:760Torr)または真空中(圧力:3.0×10^(-4)Torr)で830℃の温度で10分間にわたって加熱して積層させた。
実施例16、参考例8、29は窒素中にて上記加熱・積層を行い、参考例9はアルゴン中にて上記加熱・積層を行い、実施例16及び参考例8、9及び29以外は真空中にて上記加熱・積層を行った。
【0060】
(圧延箔)
なお、圧延箔は表1、表2に記載の組成となるように成分を調整した後に、溶解・鋳造を行ってインゴットを製造した後に、表1、表2の板厚となるまで焼鈍と圧延を繰り返し行うことで製造した。
【0061】
(電解箔)
また、電解箔は電解槽とチタン製の陰極回転ドラムとドラムの周囲に5mm程度の極間距離を置いて電極(アノード)を配置した電解箔製造装置を用いて、以下の条件で表1、表2の記載の厚みとなるまで電気めっきによる析出を行って製造した。
【0062】
実施例6、32の電解箔は下記の条件で製造した。
<めっき液組成>
NaCN:10?30g/L
NaOH:40?100g/L
CuCN:60?120g/L
Zn(CN)_(2):5?40g/L
<めっき条件>
めっき液温度:60?80℃
電流密度:1?10A/dm^(2)
pH:10?13
【0063】
参考例6、27の電解箔は下記の条件で製造した。
<めっき液組成>
銅濃度:60?120g/L
ニッケル濃度:1?10g/L
<めっき条件>
めっき液温度:45?80℃
電流密度:1?10A/dm^(2)
pH:1?4
【0064】
比較例2の電解箔は下記の条件で製造した。
<めっき液組成>
銅濃度:80?100g/L
硫酸濃度:70?90g/L
<めっき条件>
めっき液温度:45?65℃
電流密度:50?70A/dm^(2)
【0065】
(防錆層、クロメート処理層の形成方法)
なお、参考例10については、銅合金層の窒化物セラミックス基板に積層される側の表面に以下の条件で防錆処理を行い、防錆層を形成した銅合金層を用いた。形成された防錆皮膜の厚みは50?500Åである。
<防錆処理液>
ベンゾトリアゾール0.1質量%
ベンゾトリアゾール・モノエタノールアミン塩0.2質量%
イソプロピルアルコール10質量%
残部水
<防錆処理条件>
防錆処理液温度:30℃
処理(浸漬)時間:60秒
【0066】
また、参考例11については、銅合金層の窒化物セラミックス基板に積層される側の表面に以下の条件で防錆層を形成した後、クロメート処理層を形成した銅合金層を用いた。
<防錆層>
・めっき液
Zn:5?50g/L
Ni:5?50g/L
・めっき条件
pH:2.5?4
温度:30?60℃
電流密度:0.5?5A/dm^(2)
めっき時間:6?60秒
・付着量
Zn:300?1500μg/dm^(2)
Ni:300?1500μg/dm^(2)
<クロメート処理層>
・クロメート処理液
K_(2)Cr_(2)O_(7):2?10g/L
NaOH:10?50g/L
ZnSO_(4)・7H_(2)O:0.05?10g/L
・クロメート処理条件
pH:7?13
浴温:20?80℃
電流密度:0.05?5A/dm^(2)
時間:5?50秒
・付着量
Cr付着量:15?100μg/dm^(2)
Zn付着量:30?200μg/dm^(2)
【0067】
(窒化物セラミックス基板)
参考例1?15、33及び実施例5、6、8、10、12、13、16、17、45、48、50?55ならびに、比較例1?8のそれぞれで銅合金層に積層させた窒化物セラミックスとしてのAlNは、一般に市販されているものを用いた。
【0068】
参考例16?18、26、30?32及び実施例31、32のそれぞれで銅合金層に積層させた窒化物セラミックスとしてのAlNは下記のものを用いた。
平均粒径1.4μmのAlN粉末に、Yを含む例においては、Y源として平均粒径0.8μmのY_(2)O_(3)粉末を用い、Caを含む例においてはCa源として平均粒径1.8μmのCaO粉末を用い、表2に記載のY濃度、Ca濃度となるように、Y_(2)O_(3)粉末とCaO粉末を添加し、また参考例32においては表2のO濃度となるように平均粒径1.5μmのA_(2)O_(3)粉末を添加し、ボールミルを用いて粉砕、混合して原料調整した。
次ぎにこの原料にパラフィンワックス6重量%を添加して造粒した後、1000kg/cm^(2)の圧力でプレス成形し、45mm×45mm×3mmの圧粉体とした。この圧粉体を窒素ガス雰囲気中で、まず300℃まで加熱して脱脂した。
その後、前記脱脂済み圧粉体をカーボン型中に収納し、窒素ガス雰囲気中、1800℃で0.5時間常圧焼結することでAlNを主体とした窒化物セラミックス基板を製造した。
【0069】
参考例19?25、27?29及び実施例34、36、38、39のそれぞれで銅合金層に積層させた窒化物セラミックスとしてのTiC・TiN(サーメット)、TiN、Si_(3)N_(4)、BN、BN・SiC、InN、GaNとしてはそれぞれ下記のものを用いた。なお、必要に応じて研磨等を行い厚みを調節した。
【0070】
TiC・TiN(サーメット)、Si_(3)N_(4)、BN、BN・SiC、GaNについてはそれぞれ、一般に市販されているものを用いた。
TiNについては、純チタンの板(Ti濃度99質量%以上)を、1vol%の水素を含んだ窒素中で1000℃で加熱することで作製した。
【0071】
InNについては、下記(1)?(6)に記載した手順に従って製造して窒化インジウムを得た。
(1)サファイア基板を有機洗浄し、基板の昇温性を改善するために裏面に高融点金属モリブデンを蒸着したサファイア基板を、真空に保たれているMBE成長室内の基板ヒーターに設置する。そして、基板を800℃程度まで昇温して、そのまま30分間保持し、サファイア基板表面の高温クリーニングを行う。その後、同温度で基板にRFプラズマで窒素ガスを分解して得た窒素ラジカルを照射してサファイア基板表面を30分間窒化し、表面に薄い窒化アルミニウムを形成する。
(2)RFプラズマセルのシャッターを閉じて基板表面への窒素ラジカルの照射を中断し、基板温度を350℃まで降温する。
(3)その後、GaセルとRFプラズマセルのシャッターを同時に開けて、GaNバッファ層を膜厚20nmとなるまで成長させる。
(4)Gaセルのシャッターを閉じると同時にInセルのシャッターを開き、基板温度350℃のままで、InNバッファ層を膜厚10nmとなるまで成長させる。
(5)InNバッファ層の成長終了後、Inセルのシャッターを閉じ、RFプラズマセルのシャッターを開け、窒素ラジカルだけを試料表面に照射しつづけながら基板を470℃に昇温する。
(6)基板温度が470℃に達したらInセルのシャッターを開き、基板温度470℃でInN層を膜厚2000nmとなるまで成長させる。
【0072】
(各濃度の測定方法)
なお、以上に述べた実施例、参考例及び比較例において、銅合金層および窒化物セラミックス基板中の各元素の濃度は、銅合金層または窒化物セラミックス基板を切断または粉砕した後、一般的に銅合金層または窒化物セラミックス基板を溶かすために用いられる液(例えば硝酸、フッ酸、塩酸またはこれらを混合した酸等)を用いて溶解を行った後に、原子吸光法により定量することができる。また、銅合金層および窒化物セラミックス基板中の酸素濃度、窒素濃度については、銅合金層または窒化物セラミックス基板を切断または粉砕し、LECO社製のO/N同時分析計(TC-300、TC-400、TC-436、TC-500等)にて定量することができる。酸素濃度、窒素濃度が高い場合には、測定する試料の量を少なく(例えば0.01?0.1g等)して、酸素濃度、窒素濃度を測定すると良い。
【0073】
(剥離強度の評価方法)
このようにして作製した積層体で銅合金層と窒化物セラミックス基板の接合強度を評価するためにピ-ル強度試験を行った。ピ-ル強度試験は、銅板の一端部が基板の外部に5mm程度突出するように、また、接合面積を10mm×10mmとして接合し、これを50mm/minの速度で90度上方に引張り上げるのに要する単位幅当りの力(剥離強度)を算出し、評価した。この結果を表1に示す。
ここで剥離強度は、10kN/m未満の場合は不良品であり、10kN/m以上15kN/m未満の場合は一般的な大きさの強度であると評価する。また、剥離強度が15kN/m以上20kN/m未満の場合は、積層体として用いるに適しており、20kN/m以上30kN/m未満の場合はより良く、さらに、30kN/m以上の場合はさらに良いと考えられる。
【0074】
なお、銅合金層の厚みが0.15mmよりも小さい例については、銅めっきをして厚みを厚くして0.15mmとした後に、上記ピール強度を測定した。また、銅合金層の厚みが0.15mmよりも大きい例についてはエッチングにより銅合金層の厚みを薄くして0.15mmとした後に、上記ピール強度を測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1及び表2に示すところから、所定の元素を含有する銅合金層とした例では、15kN/m以上の剥離強度が発揮されていることから、銅合金層と窒化物セラミックス基板とが十分に接合されていることが解かる。一方、所定の元素を含有しない銅合金層とした比較例1?8では、銅合金層が窒化物セラミックス基板とそもそも接合しなかった。
従って、所定の銅合金層は、窒化物セラミックス基板と積層させて、パワーデバイス等の積層体に用いることができることが解った。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%含有する、積層体。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項2】
窒化物セラミックス基板と、該窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、直接的に接合されて積層された銅合金層とを有し、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%含有する、積層体。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項3】
前記銅合金層が銅合金板または銅合金箔からなる、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記銅合金層が、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項2に記載の積層体。
【請求項6】
前記窒化物セラミックス基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化インジウム又は窒化ガリウムを主成分とし、あるいは、炭化チタンと窒化チタンとの複合材料、又は、窒化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料を主成分としてなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
窒化アルミニウムを主成分とする前記窒化物セラミックス基板が、Ca、Y、Oからなる群から選択される一種以上の元素を含有し、Caを含む場合には、Ca濃度は0.0001?3質量%であり、Yを含む場合にはY濃度は0.0001?10質量%であり、Oを含む場合には、O濃度は0.0001?20質量%である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記窒化物セラミックス基板のO含有濃度が0.0001?20質量%である、請求項1?6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記銅合金層の厚みを、1μm?7000μmとし、前記窒化物セラミックス基板の厚みを、1μm?7000μmとしてなる、請求項1?8のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する放熱体。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有するパワーデバイス。
【請求項12】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する素子。
【請求項13】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する電子部品。
【請求項14】
請求項1?9のいずれか一項に記載の積層体を有する電子機器。
【請求項15】
請求項11に記載のパワーデバイスまたは請求項12に記載の素子または請求項13に記載の電子部品を有する車両。
【請求項16】
銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合される、積層体の製造方法。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項17】
銅合金層と窒化物セラミックス基板との積層体を製造するに当り、前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Al、Ga、In、P、As、Sb、Cr、Be、Mg、Zn、Ge、Mo、B、Zr、Bi、V、W、Ca、Ba、Hfから選択される少なくとも二種類の元素を合計の濃度で0.01?85質量%となるように含有するものとし、窒化物セラミックス基板の少なくとも一方の表面に、前記銅合金層を、熱圧着により積層させ、該窒化物セラミックス基板と、その窒化物セラミックス基板の表面に積層された銅合金層とが、直接的に接合される、積層体の製造方法。
(ただし、Cu-O共晶化合物液相を接合剤として銅合金層と窒化物セラミックス基板とが酸化膜相を介して接合された積層体を除く。)
【請求項18】
前記銅合金層が、Si、Mn、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項16に記載の積層体の製造方法。
【請求項19】
前記銅合金層が、Si、Mn、Ti、Zr、Hfから選択される少なくとも一種類の元素を含有し、該銅合金層が、Siを含有する場合はSi濃度が0.01?3.0質量%であり、Mnを含有する場合はMn濃度が0.01?80質量%であり、Tiを含有する場合はTi濃度が0.01?8.5質量%であり、Zrを含有する場合はZr濃度が0.01?8.0質量%であり、Hfを含有する場合はHf濃度が0.01?20質量%である、請求項17に記載の積層体の製造方法。
【請求項20】
前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合するに際し、窒素もしくはアルゴン雰囲気中または真空中で、800?1000℃の温度の下、0.6N/mm^(2)?1.5N/mm^(2)の圧力を作用させることにより、前記銅合金層と前記窒化物セラミックス基板とを接合する、請求項16?19のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-18 
出願番号 特願2016-214888(P2016-214888)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
間中 耕治
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6511424号(P6511424)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 積層体及び、その製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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