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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
管理番号 1374892
異議申立番号 異議2020-700271  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-16 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6592319号発明「排ガス処理用触媒およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6592319号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6592319号の請求項1?4、6に係る特許を維持する。 特許第6592319号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6592319号(以下、「本件」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年 9月30日になされ、令和 1年 9月27日に特許権の設定登録がなされ、令和 1年10月16日に特許掲載公報が発行された。

その後、本件の請求項1?6に係る特許に対し、特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下「申立人」という。)より、令和 2年 4月16日付けで特許異議の申立てがなされたが、その後の経緯は次のとおりである。

令和 2年 6月16日付け 取消理由通知
同年 7月28日 通知書(特許権者に対して)
(職権による指定期間延長について)
同年 9月15日付け 意見書の提出及び訂正請求書の提出
(特許権者)
同年11月 6日付け 意見書の提出(申立人)
同年12月22日付け 訂正拒絶理由通知
令和 3年 1月19日付け 意見書案の提出及び手続補正書案
(訂正請求書について)の提出
(特許権者)
同年 2月 9日 応対記録の作成(特許権者との連絡)
(意見書案及び手続補正書案について)
同年 1月29日付け 意見書の提出及び手続補正書
(訂正請求書について)の提出
(特許権者)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和 2年 9月15日付けの訂正請求は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付の訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正するものであって、以下の訂正事項1?18からなる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し」とあるのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?4及び6も訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」とあるのを、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?4及び6も訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「排ガス処理用触媒」とあるのを、「ハニカム状の排ガス処理用触媒」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?4及び6も訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス処理用触媒。」とあるのを、「前記担体の前期比表面積A(SA_(Hg))が25?41.0m^(2)/gの範囲にあり、
前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス処理用触媒。」に訂正し、その結果として、請求項2を引用する請求項3?4及び6も訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」とあるのを、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に、「成形し、乾燥、焼成する工程。」とあるのを、「成形した後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥、焼成する工程。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0008】に、
「本発明は、以下の(1)?(7)である。
(1)(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表
面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、触媒の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)
=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満たし、酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、構造規制剤と、活性金属成分とを含むことを特徴とする排ガス処理用触媒。
(2)前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、上記(1)に記載の排ガス処理用触媒。
(3)前記活性金属成分が、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の排ガス処理用触媒。
(4)前記構造規制剤は、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物であることを特徴とする、上記(1)?(3)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒。
(5)工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料および/または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物と、活性金属成分を含む混合体を、成形し、乾燥、焼成する工程。
を含む、上記(1)?(4)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
(6)工程(b)の前記混合体の成形加工後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥させることを特徴とする乾燥工程をさらに含む、上記(5)に記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
(7)上記(1)?(4)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。」とあるのを、
「本発明は、以下の(1)?(5)である。
(1)(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表
面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の
細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)
=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満たし、酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤と、活性金属成分とを含むことを特徴とするハニカム状の排ガス処理用触媒。
(2)前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、上記(1)に記載の排ガス処理用触媒。
(3)前記活性金属成分が、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の排ガス処理用触媒。
(4)工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料および/または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)と、活性金属成分を含む混合体を、成形した後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥、焼成する工程。
を含む、上記(1)?(3)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
(5)上記(1)?(3)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0016】に、「構造規制剤が含んでもよい」とあるのを、「構造規制剤が含む」に訂正する。

(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0020】に、「また本発明触媒の形状は、ハニカム構造以外にも円柱状やパイプ状なども選択可能である。」とあるのを、「また本発明触媒の形状は、ハニカム構造である。」に訂正する。

(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0023】に、「触媒の全比表面積SA_(total)」とあるのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)」に訂正する。

(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の段落【0025】に、「ハニカム状の構造体であることが好ましい。」とあるのを、「ハニカム状の構造体である。」に訂正する。

(13)訂正事項13
願書に添付した明細書の段落【0028】に、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」とあるのを、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」に訂正する。

(14)訂正事項14
願書に添付した明細書の段落【0038】に、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」とあるのを、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」に訂正する。

(15)訂正事項15
願書に添付した明細書の段落【0039】に、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」とあるのを、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」に訂正する。

(16)訂正事項16
願書に添付した明細書の段落【0041】に、「ここで成形した後に乾燥することが好ましい。」とあるのを、「ここで成形した後に乾燥する。」に訂正する。

(17)訂正事項17
願書に添付した明細書の段落【0042】に、「乾燥させることが好ましい。」とあるのを、「乾燥させる。」に訂正する。

(18)訂正事項18
願書に添付した明細書の段落【0053】に、「[原料調製3(Ti-W-V原料:TiO_(2)-5質量%WO_(3)-4.35%V_(2)O_(5)複合酸化物原料)]」とあるのを、「[原料調製3(Ti-W-V原料:TiO_(2)-3.5質量%WO_(3)-4.305質量%V_(2)O_(5)複合酸化物原料)]」に訂正する。

(19)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6について、訂正前の請求項2?6は直接的又は間接的に請求項1を引用する関係にあり、訂正事項1?3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、当該請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?3、5?7は、一群の請求項〔1?6〕に対して請求されたものである。

(20)明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項9?18は、訂正前の請求項1?6に関係する本件明細書の記載を訂正するものであるから、訂正事項9?18は、一群の請求項〔1?6〕についてする訂正である。

2 令和 2年12月22日付け訂正拒絶理由通知について
上記1の訂正請求について、令和 2年12月22日付けで特許権者に通知した訂正拒絶理由は、概略下記のとおりである。
(1)訂正事項1について
願書に添付した明細書には、「触媒の全比表面積SA_(total)」が、「水銀圧入ポロシメトリー法」により測定されたものであり、「5nmから5400nmの触媒細孔」の全比表面積であることを定義又は示唆する記載は見当たらない。
そうすると、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。また、訂正事項1による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるともいえない。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5条の規定に適合しないので、本件訂正は適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。

(2)訂正事項4について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面、及び、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「触媒」ではなく「担体」の比表面積A(SA_(Hg))が25?41.0m^(2)/gの範囲にあることは記載も示唆もされていない。
してみれば、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。また、訂正事項4による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるともいえない。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5条の規定に適合しないので、本件訂正は適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。

(3)訂正事項8及び11について
訂正事項8及び11は、訂正事項1と同様、願書に添付した明細書の段落【0008】及び【0023】に「触媒の全比表面積SA_(total)に対し、」とあるのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SAtotalに対し、」とする訂正を含むものである。
また、訂正事項8は、訂正事項4と同様、願書に添付した明細書の段落【0008】に「前記担体の前記比表面積A(SA_(Hg))が25?41.0m_(2)/gの範囲にあり、」との事項を加える訂正を含むものである。
そうすると、上記(1)及び(2)と同様に、訂正事項8及び11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとはいえず、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるともいえない。

(4)審尋について
令和 2年12月22日付け訂正拒絶理由通知において、併せて下記の審尋がなされた。
上記訂正事項1、8及び11における、「触媒の全比表面積SA_(total)に対し、」とあるのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、」とする訂正について、本件明細書段落【0063】、【0071】及び【0072】の記載から、本件明細書においては、「触媒の全比表面積SA_(total)」が、「水銀圧入ポロシメトリー法」により測定されたものであり、「5nmから5400nmの触媒細孔」の全比表面積を意味するということが示唆されているということができるのか。

3 令和 3年 1月29日付け手続補正書について
上記2の訂正拒絶理由通知に対し、特許権者は、令和 3年 1月29日付けの手続補正において、訂正請求書を以下のとおり補正することを求める。
(1)訂正事項4を削除する。
(2)訂正事項8を削除する。
(3)上記(1)及び(2)の訂正事項の削除に整合させるために必要な範囲において、訂正請求書の記載を変更する。
(4)上記(1)及び(2)の訂正事項の削除に整合させるために必要な範囲において、訂正特許請求の範囲及び訂正明細書の記載を変更する。

4 令和 3年 1月29日付け手続補正書による手続補正の適否について
上記3の(1)(2)の補正は、訂正事項の削除であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同様第131条の2第1項に規定される要旨の変更にはあたらない。
したがって、令和 3年 1月29日付け手続補正書による手続補正は適法なものであり、令和 2年 9月15日付けの訂正請求は、上記1の訂正事項1?3、5?7、9?18からなるものとなった。

5 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
a 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1において「全比表面積SA_(total)」が、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))」とは異なる用語を用いて記載されている上、いかなる種類の測定方法によって、いかなる細孔径範囲を測定した値であるか訂正前の特許請求の範囲の請求項1において規定されていなかったことから、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積であるか明確ではなかったのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の触媒細孔の全比表面積SA_(total)」に訂正して明確にするものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
特許権者が令和 3年 1月29日付け意見書の「5 意見の内容」において、訂正拒絶理由通知書に記載された審尋に対して回答したとおり、下記のことがいえる。
本件明細書には、下記のとおり記載されている(当審注:「…」は記載の省略を表す。)。
「【0063】
[試験例1] 水銀ポロシメータ比表面積測定による比表面積の見積もり
実施例および比較例において得られた各触媒について、水銀ポロシメータによる5nmから5400nmの範囲の比表面積分布測定を行った。…
【0064】

【0071】
結果を表1に示す。
【0072】
【表1】



上記記載において、「試験例1」では比表面積の測定はすべて水銀ポロシメータにより5nmから5400nmの範囲内で行われている。また、表1中には、一つの欄に「トータルSA(Hg):SAtotal」と記載されており「トータルSA(Hg)」と「SAtotal」が同じ意味であるということが示唆されている。
これらのことから、本件明細書においては、「触媒の全比表面積SA_(total)」が、「水銀圧入ポロシメトリー法」により測定されたものであり、「5nmから5400nmの触媒細孔」の全比表面積を意味するということが示唆されているということができる。
そうすると、訂正事項1による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「全比表面積SA_(total)」を、本件明細書において示唆される意味のとおり「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の触媒細孔の全比表面積SA_(total)」とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことについて
上記bに示したとおり、訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「全比表面積SA_(total)」は、本件明細書において示唆されるとおり、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の触媒細孔の全比表面積SA_(total)」を意味するものであったといえるから、これを、上記当初の意味を明示して「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の触媒細孔の全比表面積SA_(total)」とする訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

d 申立人の主張について
申立人は、令和 2年11月 6日付け意見書において、下記のように主張する。

(a)「本件発明における『SA_(total)』とは、SA_(Hg)やSA_(X)のような限定がない『触媒のすべての』比表面積を意味するものと理解するのが合理的である。そして、触媒分野の当業者であれば、細孔径等について何の限定もなされていない単なる『全比表面積』は、BET法により測定された比表面積を意味すると理解するはずであると言える。」(第4頁)
当該主張は、訂正事項1が新規事項の追加であるとの主張であると解されるものである。

(b)「また、万が一、『比表面積SA_(total)』が水銀圧入ポロシメトリー法による触媒細孔の全比表面積を意味すると解されたとしても、細孔径が5nm以下および5400nm以上に存在する細孔の比表面積はSA_(total)から除かれる結果、SA_(total)の値は小さくなり、SA_(X)/SA_(total)の値は大きくなるのであるから、特許請求の範囲が拡張または変更されることは明らかである。」(第5頁)

上記主張(a)について検討するに、「触媒分野の当業者であれば、細孔径等について何の限定もなされていない単なる『全比表面積』は、BET法により測定された比表面積を意味すると理解する」ことは、触媒分野の技術常識及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくとはいえない。すなわち、触媒の全比表面積の測定は、BET法のほか水銀圧入ポロシメトリー法により行われることもあることは技術常識である。そして、上記bのとおり、本件明細書においては、「触媒の全比表面積SA_(total)」が、「水銀圧入ポロシメトリー法」により測定されたものであり、「5nmから5400nmの触媒細孔」の全比表面積を意味するということが示唆されているということができる以上、申立人の上記主張(a)を検討しても、訂正事項1が新規事項を導入するものであるとはいえない。

上記主張(b)について検討するに、上記bのとおり本件明細書に示唆されるように、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における比表面積SA_(total)は、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積であることを意味していると当業者は理解するといえるから、申立人の上記主張(b)を検討しても、訂正事項1による訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとはいえない。

(2)訂正事項2及び5について
a 訂正の目的について
訂正事項2及び5は、それぞれ訂正前の請求項1及び4に記載された「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」を、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項2及び5は、それぞれ訂正前の請求項1及び4における「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物」について、本件明細書の段落【0015】に、「構造規制剤は、その中でも特に、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物を、上記のような無機単一酸化物および無機複合酸化物の混合物とは別途、3?20質量%含有することが好ましく」と記載され、当該「無機複合酸化物」について、段落【0013】に「無機複合酸化物は、W、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの複合酸化物のいずれかを意味する。」と記載されていることに基づいて、無機複合酸化物としてのチタン複合酸化物とは別途のものであることを特定して「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)」とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の5第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことについて
訂正事項2及び5は、上記aのとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
a 訂正の目的について
訂正事項3は、「排ガス処理用触媒」を、「ハニカム状の排ガス処理用触媒」とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項3は、本件明細書の【0020】に、「本発明の触媒におけるハニカム構造を例に説明する。」と記載されていることに基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことについて
訂正事項3は、上記aのとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項6について
a 訂正の目的について
訂正事項6は、「成形し、乾燥、焼成する工程」を、「成形した後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥、焼成する工程」とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項6は、訂正前の請求項5に、「前記混合体の成形加工後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥させることを特徴とする乾燥工程をさらに含む」と記載されていることに基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことについて
訂正事項6による訂正は、上記aのとおり特許請求の範囲を減縮するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項7について
訂正事項7は、請求項5を削除するというものであるから、当該訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(6)訂正事項9?17について
訂正事項9は、上記訂正事項2による訂正に伴って、訂正事項10及び12は、上記訂正事項3による訂正に伴って、訂正事項11は、上記訂正事項1による訂正に伴って、訂正事項13乃至15は、上記訂正事項5による訂正に伴って、訂正事項16及び17は、上記訂正事項6による訂正に伴って、それぞれ、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものである。
ここで、訂正事項11は、訂正事項1と同様、願書に添付した明細書の段落【0008】及び【0023】に「触媒の全比表面積SA_(total)に対し、」とあるのを、「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SAtotalに対し、」とする訂正を含むものであって、上記2(3)のとおり、令和 2年12月22日付け訂正拒絶理由通知書において、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるといえないとされたものであるところ、上記(1)bに記載したのと同様に、訂正事項11は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の5第5項に適合するものである。
そうすると、訂正事項9?17は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(7)訂正事項18について
a 訂正の目的について
訂正事項18は、訂正前の本件明細書の段落【0053】には、「原料調製3(Ti-W-V原料:TiO_(2)-5質量%WO_(3)-4.35%V_(2)O_(5)複合酸化物原料)]」と記載されており、これに続き、Ti、W、Vの使用量について、「TiO_(2 )88.85質量部に対してWO_(3)が5質量部となるように添加し、加えて硫酸バナジル(新興化学工業製)を、TiO_(2 )88.85質量部に対してV_(2)O_(5)が6.15質量部となる」量で使用して「Ti-W-V複合酸化物原料A」を得た上で、メタチタン酸スラリーに、「Ti-W-V複合酸化物原料Aを、メタチタン酸スラリー由来のTiO_(2)30質量部に対してTi-W-V複合酸化物原料Aが70質量部となるように添加」する工程を経て「Ti-W-V複合酸化物原料」を得ることが記載されているところ、この記載によれば、「Ti-W-V複合酸化物原料」中のWO_(3)は3.5質量%(=5×70/100)であり、V_(2)O_(5)は4.305質量%(=6.15×70/100)となるはずであり、これらの値は、上記「5質量%」及び「4.35%」という値と異なっており、「5質量%」及び「4.35%」が誤記であることが明らかであったところを、それぞれ「3.5質量%」、「4.305質量%」に正しく訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

b 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項18は、願書に最初に添付した明細書の段落【0053】の記載から算出される正しい数値に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

c 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことについて
上記aのとおり、訂正事項18は本件明細書の誤記の訂正であって、誤記であることが明らかであるとともに正しい値も明らかであったところを、正しい値に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

4 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?6に係る訂正事項2、3、5?7、18については、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用されない。

5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同条第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」といいい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す)。

「【請求項1】
(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満たし、酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤と、活性金属成分とを含むことを特徴とするハニカム状の排ガス処理用触媒。
【請求項2】
前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス処理用触媒。
【請求項3】
前記活性金属成分が、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の排ガス処理用触媒。
【請求項4】
工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料および/または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)と、活性金属成分を含む混合体を、成形した後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥、焼成する工程。
を含む、請求項1?3のいずれかに記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載の排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。」

第4 取消理由
本件訂正前の請求項1?6に係る特許に対して令和 2年 6月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1 特許法第36条第6項第2号(明確性)
(1)本件訂正前の請求項1?6に係る発明における「構造規制剤」の定義について
本件訂正前の本件明細書段落【0015】の記載から、構造規制剤は、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができ、さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御するという機能を備える剤であると解される。一方、本件訂正前の本件明細書段落【0017】には、「前記構造規制剤の形状は、繊維状や柱状、紡錘状、板状であってもよい。」と記載されていることから、構造規制剤は、繊維状や柱状、紡錘状、板状といった形状を有していることに起因して上記機能を発揮するものであるようにも解され得るが、当該形状を有していることが必須であるか否かは定義されていない。そうすると、本件訂正前の請求項1に係る発明は一の発明として明確に把握することができないものとなっている。本件訂正前の請求項1に係る発明を引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様のことがいえる。

(2)本件訂正前の請求項1?6に係る発明における「全比表面積SA_(total)」の定義について
本件訂正前の請求項1に係る発明に係る「全比表面積SA_(total)」は、いかなる種類の測定方法によって、いかなる細孔径範囲を測定した値であるか請求項1において規定されていない。そして、測定方法の種類や測定する細孔径範囲によって、「SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある」か否かが異なることになり得るのであるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、一の発明として明確に把握できるものであるとはいえない。本件訂正前の請求項1に係る発明を引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様のことがいえる。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件訂正前の本件明細書に記載の比較例2は、本件訂正前の請求項1?4、6に係る発明に包含されるため、本件訂正前の請求項1?4、6に係る発明は、発明の課題を解決すると当業者が認識できる範囲のものとはいえず、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
本件訂正前の本件明細書の実施例中、【0053】には、「原料調製3(Ti-W-V原料:TiO_(2)-5質量%WO_(3)-4.35%V_(2)O_(5)複合酸化物原料)]」と記載されている。
これに続き、【0053】には、Ti、W、Vの使用量について、「TiO_(2 )88.85質量部に対してWO_(3)が5質量部となるように添加し、加えて硫酸バナジル(新興化学工業製)を、TiO_(2 )88.85質量部に対してV_(2)O_(5)が6.15質量部となる」量で使用して「Ti-W-V複合酸化物原料A」を得た上で、メタチタン酸スラリーに、「Ti-W-V複合酸化物原料Aを、メタチタン酸スラリー由来のTiO_(2)30質量部に対してTi-W-V複合酸化物原料Aが70質量部となるように添加」する工程を経て「Ti-W-V複合酸化物原料」を得ることが記載されているところ、この記載によれば、「Ti-W-V複合酸化物原料」中のWO_(3)は3.5質量%(=5×70/100)であり、V_(2)O_(5)は4.305質量%(=6.15×70/100)となるはずであり、これは、上記「5質量%」及び「4.35%」という値と異なっている。

4.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)実施可能要件について
本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明には、「構造規制剤を使用することで、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができる。さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御することも可能となる。」(【0015】)と記載されていることから、構造規制剤を使用して触媒を製造することが、本件訂正前の請求項1に係る発明に係る(i)?(iii)の条件を満たす排ガス処理用触媒を製造する手段であるという事項が示されていると解される。しかしながら、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明には、当該事項を支える論拠としての作用機構や、構造規制剤の有無のみが異なる実施例と比較例の組による経験則に基づく裏付けが示されていない。そうすると、「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物である構造規制剤」という発明特定事項は、本件訂正前の請求項1に係る発明に係る(i)?(iii)の条件を満たす排ガス処理用触媒を製造するための手段であるとはいえず、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。本件訂正前の請求項1に係る発明を引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様のことがいえる。

(2)サポート要件について
本件訂正前の請求項1に係る発明の課題は、「低温(70?250℃程度)の排ガスを処理した場合にも高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い、排ガス処理用触媒およびその製造方法を提供すること」(本件訂正前の本件明細書段落【0006】)であると認められるところ、本件の発明の詳細な説明には、本件訂正前の請求項1に係る発明が上記構造規制剤を有していることにより、本件訂正前の請求項1に係る発明に係る(i)?(iii)の条件が満たされ、上記課題を解決することができるようになる作用機構や、構造規制剤の有無のみが異なる実施例と比較例との組による経験則基づく裏付けが示されていない。そうすると、本件訂正前の請求項1に係る発明は、当業者が課題を解決することができると認識できるものとはいえず、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。本件訂正前の請求項1に係る発明を引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様のことがいえる。

5 特許法第29条第1項第3号(新規性)
(1)各甲号証
甲第3号証:特開2014-180645号公報
甲第4号証:特開2013-193938号公報

(2)具体的理由
本件訂正前の請求項1?4、6に係る発明は、それぞれ甲第3号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項1?4、6に係る発明は、それぞれ甲第4号証に記載された発明である。

第5 取消理由についての当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号(明確性)
(1)本件発明における「構造規制剤」の定義について
本件明細書段落【0015】の記載から、本件発明に係る構造規制剤は、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができ、さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御するという機能を備える剤であると解される。
また、本件明細書段落【0017】の「前記構造規制剤の形状は、繊維状や柱状、紡錘状、板状であってもよい。」との記載中、「あってもよい」との部分は任意であることを意味するから、構造規制剤は、繊維状や柱状、紡錘状、板状といった形状を有していることは必須ではないと解される。
そして、本件訂正により、訂正前の請求項1及び3に記載された「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物である構造規制剤」は、訂正後の請求項1及び3において「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤」となったから、本件明細書の実施例3の「Ti-M-Si複合酸化物」や実施例4の「Ti-Si複合酸化物」は、本件訂正後の請求項1及び3に記載される「構造規制剤」に該当しないことが明らかであり、実施例3及び4の記載を段落【0015】及び【0017】の定義に照らしても、本件発明が不明確であるといえる事情は見あたらない。
してみれば、本件発明における「構造規制剤」の定義に起因して本件発明1?4、6が不明確であるとはいえず、取消理由1(1)は、理由がない。

(2)本件発明における「全比表面積SA_(total)」の定義について
本件訂正により、訂正前の請求項1に記載の「触媒細孔の全比表面積SA_(total)」は、訂正後の請求項1において「水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)」となり、定義が明確になった。
上記のとおり本件発明1における「全比表面積SA_(total)」の定義は明確になされているから、「全比表面積SA_(total)」の定義に起因して本件発明1及びこれを引用するものである本件発明2?4、6が不明確であるとはいえず、取消理由1(2)は、理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件訂正により、本件発明1に係る排ガス処理用触媒は「ハニカム状」であることが特定されたものとなり、本件明細書に記載の「ハニカムに多数のクラックが発生しサンプルが採取できなかった」ものである比較例2は、本件発明1及びこれを引用するものである本件発明2?4、6に包含されないものであることが明らかになった。
よって、本件発明1?4、6は、比較例2を包含することに起因して課題を解決すると当業者が認識できる範囲のものではないとはいえず、取消理由2は、理由がない。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
本件訂正により、明細書段落【0053】の誤記は解消した。よって、取消理由3は、理由がない。

4 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)当審の判断
a 本件発明の課題は、「低温(70?250℃程度)の排ガスを処理した場合にも高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い、排ガス処理用触媒およびその製造方法を提供すること」(本件明細書段落【0006】)であると認められる。

b また、「SA_(X)/SA_(total)が、0.65?0.90の範囲にあると、理由は明確ではないが、例えば70?250℃の低温度域で、還元剤のアンモニアを含む反応ガスの拡散とアンモニアの活性点への吸着がバランスがとれた状態となり、低温脱硝性が発現するものと考えている。
SA_(X)/SA_(total)が上記のような範囲にあると、70℃という低温の排ガスを処理した場合に高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い。」(本件明細書段落【0023】)との記載から、本件発明1が触媒細孔について少なくとも(ii)の要件を満たすことに起因して、上記課題が解決されるということが記載されている。そして、このことは、SA_(X)/SA_(total)が(ii)の要件を満たさない比較例1の触媒に比べて、SA_(X)/SA_(total)が(ii)の要件を満たす実施例1?4の触媒が、CaCl_(2)溶液スプレー、硫安による曝露試験における相対活性、110℃脱硝性能及び350℃脱硝性能の試験結果が良好であることにより裏付けられている。

c 本件発明1は触媒細孔について(i)?(iii)の要件により特定されているところ、一般的に触媒細孔を制御することは困難であることが技術常識である。当該(i)?(iii)の要件を満たす触媒を製造する手段について、本件明細書段落【0015】の記載から、構造規制剤は、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができ、さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御するという機能を備える剤であると解されるから、本件発明1に係る構造規制剤を使用して触媒を製造することにより、本件発明1において規定される(i)?(iii)の要件を満たす排ガス処理用触媒を製造することができるという事項(以下、事項Aという。)が発明の詳細な説明に記載されているといえる。

d そして、本件明細書には、実施例1、2及び4として、構造規制剤として硝子繊維又は活性白土を用いて本件発明1に規定される(i)?(iii)の要件を満たす排ガス処理用触媒を製造したことが記載されており、製造の際の構造規制剤及びその他の原料の種類及び使用量、乾燥時の湿度、温度及び時間、並びに、焼成時の温度及び時間が記載されている(段落【0057】、【0059】?【0061】、第1表)。

e 上記dの記載からみて、本件明細書の実施例1乃至4は、当業者であれば再現することができる程度に詳細に記載されているといえる。

f また、特許権者は、令和 2年 9月15日付け意見書において、下記のように主張する。

「そこで、以下に『構造規定剤の有無のみが異なる実施例と比較例の組』を示す。具体的には実施例1に対して、構造規定剤が含まれない場合(比較例A)の結果を以下の表に示す。

」(第5?6頁)

g 上記意見書に示された表は、比較例Aとして、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1と、硝子繊維(構造規制剤に相当)を含まない点のみ相違し、他は一致する排ガス処理用触媒について、トータルSA(Hg):SAtotal、細孔分布ピーク位置X、ピークSA(Hg):SAx、SAx/SAtotal、曝露試験による相対活性、110℃脱硝性能及び350℃脱硝性能の試験結果を示したものである。

h 当該表から、比較例Aは、本件発明1に規定される(i)?(iii)の要件を満たさないものであるとともに、実施例1に比べて脱硝性能が劣るものであることを看取できる。

i そうすると、上記fに示した比較例Aから、構造規制剤を使用することに起因して、(i)?(iii)の条件を満たす、本件発明1に係る排ガス処理用触媒を実際に製造することができることが事後的に確認されたといえる。

j 上記e及びiを考慮すると、上記cに示した事項Aは裏付けられており、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることが裏付けられたといえる。よって、取消理由4のうち実施可能要件違反については、理由がない。

k また、サポート要件については、当業者であれば、上記bに示したとおり、本件発明1に係る排ガス処理用触媒におけるSA_(X)/SA_(total)が(ii)の要件を満たすことに起因して、(i)?(iii)の条件を満たす本件発明1が、上記aに示した本件発明の課題を解決することができると認識できるものといえる。

l 以上のとおりであるから、取消理由4に理由はない。

(2)申立人の主張について
申立人は、令和 2年11月 6日付け意見書において、下記のように主張する。

a 「当該意見書の記載の結果によって裏付けられうるのは、せいぜい『ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物である構造規制剤』の中でも『硝子繊維』を対象とした場合についてのみである。言い換えれば、この結果から、直ちに本件発明における構造規制剤全般において同様のことが成立すると理解することはできず、よって、取消理由通知の第2.4(1)、特にサポート要件が解消されたということはできない。」(第6?7頁)

b 「比較例Aの触媒は、『本件発明1に係る(i)?(iii)の条件の全てを満たす』ものではない点でも、実施例1の触媒と異なっているのであるから、『構造規制剤の有無のみが異なる実施例と比較例の組』は依然として提示されていないのが現状である。…比較例Aを参酌したとしても、…いわゆる実施可能要件違反は解消しているとは言えない」し、「サポート要件違反もまた、解消しているとは言えない。」(第7頁)

主張aについて、「硝子繊維」は構造規制剤の一例として本件明細書の実施例1、2及び4において用いられたにすぎないものであり、また、構造規制剤は、本件発明1における(i)?(iii)の条件を満たす排ガス処理用触媒を製造する手段にすぎず、当業者は、上記(1)kに示したとおり、本件発明1に係る排ガス処理用触媒におけるSA_(X)/SA_(total)が(ii)の要件を満たすことに起因して、(i)?(iii)の条件を満たす本件発明1が本件発明の課題を解決することができると認識できるうえ、本件明細書段落【0015】?【0016】に記載された構造規制剤の説明、及び、活性白土を構造規制剤に用いた実施例3から、硝子繊維以外のものも構造規制剤として用いられ得ることが理解されるから、構造規制剤の一例である「硝子繊維」を用いなければ本件発明の課題を解決することができないと当業者が認識するということはできない。

主張bについて、比較例Aは構造規制剤を用いて製造されたものでない以上、本件発明1に係る(i)?(iii)の条件の全てを満たすものではないことは、本件明細書段落【0015】の「構造規制剤を使用することで、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができる。さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御することも可能となる。」との記載に沿ったものである。また、「構造規制剤の有無のみが異なる実施例と比較例の組」における比較例として、本件発明1に係る(i)?(iii)の条件の全てを満たし、かつ構造規制剤を含まないという、申立人の意図する比較例が提示されていなくても、上記(1)で判断したとおり、上記(1)cに示した事項Aが裏付けられ、実施可能要件が満たされているとともに、サポート要件も満たされていると理解でき、取消理由に理由がないことが確かめられたのであるから、申立人の意図する比較例が上記(1)の結論を導くために必要であるとはいえない。

してみれば、申立人の主張a及びbを参酌しても、上記(1)で判断したとおりであり、取消理由4に理由はない。

5 特許法第29条第1項第3号(新規性)
(1)各号証の記載事項及び各号証に記載される発明
(1-1)甲第3号証について
ア 甲第3号証には、以下a?iの記載事項がある。
a 「本発明は、チタン・ケイ素・タングステンの酸化物、それを用いた脱硝触媒、当該酸化物の調製方法および脱硝方法に関する。特に、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ガス焚きボイラ、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、火力発電所、ごみ焼却炉および各種工業プロセスから排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NO_(X))の除去に優れた脱硝触媒、その調製方法、および脱硝方法に関する。」(【0001】)

b 「【図1】図1は本発明である実施例1に関する触媒Aを、細孔測定し微分表示したものである。横軸は細孔径、縦軸は強度を示す任意の値である。特定範囲の細孔径におけるピーク面積から細孔容積が算出できる。」(【0010】)

c 「第三発明は、触媒を用いて窒素酸化物を含む排ガスをアンモニア存在下に処理することを特徴とする脱硝方法である。」(【0013】)

d 「Ti-Si-W酸化物を含む脱硝触媒としての機能を更に向上させる目的(触媒活性助剤)で、例えばバナジウム、モリブデン、鉄、マンガン、ニッケル、バリウム、ストロンチウム、銀、セシウム、マグネシウム等の酸化物を当該Ti-Si-W酸化物に対して0.1?20質量%添加することができる。特にバナジウム、タングステンおよびモリブデンからなる群より選ばれる1種以上の元素またはその化合物を活性成分として含むものが好ましい。」(【0023】)

e 「(調製例1)
<化合物A(Ti-Si-W酸化物)の調製>
パラタングステン酸アンモニウム(WO_(3)として90重量%含有)1.4kg、モノエタノールアミン0.6kgを水10Lに混合・溶解させ(WO_(3)として120g/L含有)、均一溶液を調製した。このタングステン含有溶液とシリカゾル(SiO_(2)として30重量%含有)3.4kg、10質量%アンモニア水250Lを混合した溶液(SiO_(2)として4g/L含有)に、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiO_(2)として100g/L含有、硫酸濃度400g/L)190Lをよく撹拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量の25質量%アンモニア水を加えてpHを7に調整した。このスラリーを濾過、洗浄し、150℃で20時間乾燥した。これを空気雰囲気下500℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、化合物A(Ti-Si-W酸化物)を得た。

【0035】
化合物Aの組成はTiO_(2)/SiO_(2)/WO_(3)の質量比(酸化物換算)で89/5/6質量%であった。」(【0034】?【0035】)

f 「(実施例1)
<触媒Aの調製>
調製例1で得られたTi-Si-W酸化物粉体(化合物A)20kgにメタバナジン酸アンモニウム(V_(2)O_(5)として78重量%含有)1.5kg、シュウ酸2.1kg、モノエタノールアミン0.5kgを水3Lに混合・溶解させた均一溶液とパラタングステン酸アンモニウム(WO_(3)として90重量%含有)0.9kg、モノエタノールアミン0.4kgを水2Lに混合・溶解させた均一溶液を成型助剤と適量の水とともに加え、ニーダーで混練した後、押出成型機で外形80mm角、長さ500mm、目開き2.9mm、肉厚0.4mmのハニカム状に成型した。これを80℃で乾燥した後、空気雰囲気下450℃で5時間焼成し、触媒Aを得た。
【0043】
触媒Aの組成は化合物A/V_(2)O_(5)/WO_(3)の質量比(酸化物換算)で91/5/4質量%であった。」(【0042】?【0043】)

g 「(細孔径および細孔容積の測定)
実施例1、2、3で得られた触媒A、B、Cおよび比較例1で得られた触媒aを水銀圧入式ポロシメーターにより細孔径および細孔容積を測定した。
」(【0050】)

h 「細孔径を横軸、細孔容積を縦軸とし、かつ微分型の表示にした細孔径分布の結果を触媒A(実施例1)は図1、触媒B(実施例2)は図2、触媒C(実施例3)は図3、触媒a(比較例1)は図4に示した。」(【0052】)
i 「

」(図1)

イ そうすると、甲第3号証には、「触媒A」に基づく発明として、
「細孔を有し、Ti-Si-W酸化物粉体と、V_(2)O_(5)としてのバナジウムと、WO_(3)としてのタングステンとを含有する、排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するための脱硝触媒。」の発明(以下、「甲3発明」という)が記載されているといえる。

ウ また、前記アe?fによれば、甲第3号証には、「触媒A」の製造方法に基づく発明として、
「パラタングステン酸アンモニウムを含む水溶液と、シリカゾル、アンモニア水を混合した溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液を滴下し、沈殿を生成させた後、アンモニア水を加えてpHを7に調整して得られるスラリーを濾過、洗浄、乾燥、焼成、粉砕してTi-Si-W酸化物粉体を得る工程と、
当該Ti-Si-W酸化物粉体と、メタバナジン酸アンモニウムを含む水溶液と、パラタングステン酸アンモニウムを含む水溶液とを含む混練物を、押出成型し、乾燥し、焼成する工程とを含む、甲3発明の脱硝触媒の製造方法。」の発明(以下、「甲3’発明」という)が記載されているといえる。

エ さらに、前記アa、cによれば、甲第3号証には、
「甲3発明の脱硝触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。」の発明(以下、「甲3’’発明」という)が記載されているといえる。

(1-2)甲第4号証について
ア 甲第4号証には、以下a?eの記載事項がある。
a 「本発明は、脱硝触媒、その調製方法、および脱硝方法に関する。特に、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ガス焚きボイラ、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、火力発電所、ごみ焼却炉および各種工業プロセスから排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の除去に優れた脱硝触媒、その調製方法、および脱硝方法に関する。」(【0001】)

b 「更に当該触媒を用いて窒素酸化物(NOx)を処理することができる。」(【0015】)

c 「上記成分の他に当該触媒の活性成分として、バナジウム、タングステン、モリブデン、鉄、マンガンおよびニッケルからなる群より選ばれる1種以上の元素またはその化合物を加えることができる。」(【0031】)

d 「(実施例2)
<化合物B(Ti-W複合酸化物)の調製>
パラタングステン酸アンモニウム(WO_(3)として90重量%含有)2.3kg、モノエタノールアミン1kgを水10Lに混合・溶解させ、均一溶液を調製した。このタングステン含有溶液と10質量%アンモニア水240Lを混合した溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiO_(2)として70g/L含有、硫酸濃度290g/L)260Lをよく撹拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量の25質量%アンモニア水を加えてpHを5に調整した。このスラリーをそのまま40時間放置して熟成した後、濾過、洗浄し、150℃で20時間乾燥した。これを空気雰囲気下500℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、化合物B(Ti-W複合酸化物)を得た。
【0041】
化合物Bの組成はTiO_(2)/WO_(3)の質量比(酸化物換算)で90/10質量%であった。」(【0040】?【0041】)

e 「(実施例4)
<化合物D(Ti-Si複合酸化物)の調製>
シリカゾル(SiO_(2)として30重量%含有)8kgと10質量%アンモニア水240Lを混合した溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiO_(2)として70g/L含有、硫酸濃度290g/L)260Lをよく撹拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量の25質量%アンモニア水を加えてpHを8に調整した。このスラリーをそのまま40時間放置して熟成した後、濾過、洗浄し、150℃で20時間乾燥した。これを空気雰囲気下550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、化合物D(Ti-Si複合酸化物)を得た。
【0053】
化合物Dの組成はTiO_(2)/SiO_(2)の質量比(酸化物換算)で88/12質量%であった。
<触媒Aの調製>
上記の方法で調製したTi-Si複合酸化物粉体(化合物D)8.3kgと、実施例2で得られたTi-W複合酸化物粉体(化合物B)11.7kgとを混合した。次にメタバナジン酸アンモニウム(V_(2)O_(5)として78重量%含有)1.5kg、シュウ酸2.1kg、モノエタノールアミン0.5kgを水3Lに混合・溶解させた均一溶液とパラタングステン酸アンモニウム(WO_(3)として90重量%含有)0.9kg、モノエタノールアミン0.4kgを水2Lに混合・溶解させた均一溶液を成型助剤と適量の水とともに、先に混合したTi-Si複合酸化物粉体(化合物D)とTi-W複合酸化物粉体(化合物B)の混合粉体に加え、ニーダーで混練した後、押出成型機で外形80mm角、長さ500mm、目開き2.9mm、肉厚0.4mmのハニカム状に成型した。これを80℃で乾燥した後、空気雰囲気下450℃で5時間焼成し、触媒Aを得た。
【0054】
触媒Aの組成は化合物D/化合物B/V_(2)O_(5)/WO_(3)の質量比(酸化物換算)で38/53/5/4質量%であった。」(【0052】?【0054】)

イ そうすると、甲第4号証には、「触媒A」に基づく発明として、
「Ti-Si酸化物粉体と、Ti-W複合酸化物粉体と、V_(2)O_(5)としてのバナジウムと、WO_(3)としてのタングステンとを含有する、排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するためのハニカム状の脱硝触媒。」の発明(以下、「甲4発明」という)が記載されているといえる。

ウ また、前記アd?eによれば、甲第4号証には、「触媒A」の製造方法に基づく発明として、
「パラタングステン酸アンモニウムを含む水溶液と、アンモニア水を混合した溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液滴下し、沈殿を生成させた後、アンモニア水を加えてpHを5に調整して得られるスラリーを、熟成、濾過、洗浄、乾燥、焼成、粉砕してTi-W複合酸化物粉体を得る工程と、
シリカゾルとアンモニア水を混合した溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液を滴下し、沈殿を生成させた後、アンモニア水を加えてpHを8に調整して得られるスラリーを、熟成、濾過、洗浄、乾燥、焼成、粉砕してTi-Si複合酸化物粉体を得る工程と、
メタバナジン酸アンモニウム、を含む水溶液と、パラタングステン酸アンモニウムを含む水溶液と、上記Ti-Si複合酸化物粉体と上記Ti-W複合酸化物粉体の混合粉体とを含む混練体を、押出成型、乾燥、焼成する工程を含む、甲4発明の脱硝触媒の製造方法。」の発明(以下、「甲4’発明」という)が記載されているといえる。
ウ さらに、前記アa?bによれば、甲第4号証には、
「甲4発明の脱硝触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。」
の発明(以下、「甲4’’発明」という)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
(2-1)甲第3号証に記載された発明との対比・判断
(2-1-1)本件発明1及び甲第3号証について
ア 甲3発明の「Ti-Si-W酸化物粉体」は、チタン複合酸化物かつ無機複合酸化物であって、甲第3号証中、前記(1)(1-1)アe?fに示される、甲3発明の脱硝触媒の製造方法によれば、WO_(3)及びV_(2)O_(5)を担持するための担体となっていることから、本件発明1の「酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体」に相当する。

イ 甲3発明の「V_(2)O_(5)としてのバナジウム」及び「WO_(3)としてのタングステン」は、前記(1)(1-1)アdによれば、甲第3号証における触媒活性助剤にあたるものであるから、本件発明1の「活性金属成分」に相当する。

ウ 甲3発明の「脱硝触媒」は、(1)(1-1)アaによれば、排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するものであるから、本件発明1の「排ガス処理用触媒」に相当する。
エ そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、活性金属成分とを含むことを特徴とする排ガス処理用触媒。」という点で一致し、以下の点で少なくとも相違する。

<相違点1-1>
本件発明1は「(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満た」すのに対し、甲3発明はこの点が不明である点。
<相違点1-2>
本件発明1は「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤」含むのに対し、甲3発明はこの点が不明である点。
<相違点1-3>
本件発明1は「ハニカム状の」ものであるのに対し、甲3発明はこの点が不明である点。

エ 上記<相違点1-2>について検討するに、甲3発明は、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物であって、かつチタン複合酸化物ではない化合物を含むものではない。そうすると、<相違点1-2>は実質的なものであり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明でない。

(2-1-2)本件発明2?4、6について
本件発明2?3は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の発明である。そうすると、上記(2-1-1)と同様に、本件発明2?3は甲3発明でない。
同様に、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備える製造方法の発明である本件発明4は、少なくとも上記(2-1-1)に示した<相違点1-2>と同じ相違点において甲3’発明と実質的に相違するから甲3’発明でなく、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備える処理方法の発明である本件発明6は、少なくとも当該<相違点1-2>と同じ相違点において甲3’’発明と実質的に相違するから、甲3’’発明でない。

(2-1-3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?4、6は、甲第3号証に記載された発明でない。

(2-2)甲第4号証に記載された発明との対比・判断
(2-2-1)本件発明1及び甲4発明について
ア 甲4発明の「Ti-Si酸化物粉体」及び「Ti-W複合酸化物粉体」は、ともに、チタン複合酸化物かつ無機複合酸化物であって、甲第4号証中、前記(1)(1-2)アd?eに示される甲4発明の脱硝触媒の製造方法によれば、WO_(3)及びV_(2)O_(5)を担持するための担体となっていることから、本件発明1の「酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体」に相当する。

イ 甲4発明の「V_(2)O_(5)としてのバナジウム」及び「WO_(3)としてのタングステン」は、前記(1)(1-2)アcによれば、甲第4号証における触媒の活性成分にあたるものであるから、本件発明1の「活性金属成分」に相当する。

ウ 甲4発明の「ハニカム状の脱硝触媒」は、(1)(1-2)アaによれば、排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するものであるから、本件発明1の「ハニカム状の排ガス処理用触媒」に相当する。

エ そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、活性金属成分とを含むことを特徴とするハニカム状の排ガス処理用触媒。」という点で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点2-1>
本件発明1は「(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満た」すのに対し、甲4発明はこの点が不明である点。
<相違点2-2>
本件発明1は「ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤」含むのに対し、甲4発明はこの点が不明である点。

オ 上記<相違点2-1>について検討するに、甲4発明は、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物であって、かつチタン複合酸化物ではない化合物を含むものではない。そうすると、<相違点2-1>は実質的なものであり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明でない。

(2-2-2)本件発明2?4、6について
本件発明2?3は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものである。そうすると、上記(2-2-1)と同様に、本件発明2?3は甲4発明でない。
同様に、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備える製造方法の発明である本件発明4は、少なくとも上記(2-2-1)に示した<相違点2-2>と同じ相違点において甲4’発明と実質的に相違するから甲4’発明でなく、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備える処理方法の発明である本件発明6は、少なくとも当該<相違点2-2>と同じ相違点において甲4’’発明と実質的に相違するから甲4’’発明でない。

(2-2-3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?4、6は、甲第4号証に記載された発明でない。

(3)小括
よって、取消理由5に理由はない。

第6 取消理由通知で採用されなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
(1)具体的理由
a 申立人は、特許異議申立書において、下記dに示す甲第1?9号証を提出し、下記のように主張するものと認められる。
本件訂正前の請求項1?3、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
また、本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明、又は、甲第6号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合、甲第1?6号証のいずれかを参照して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

b また、申立人は、本件訂正請求後の令和 2年11月6日付け意見書において、dに示す甲第10?11号証を追加して、さらに以下のように主張するものと認められる。
本件発明1は、甲第3号証に記載の発明、及び、甲第10号証に記載の周知慣用技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである(第7?11頁)。

c よって、ここでは、本件発明1?4、6について、甲第1号証に記載された発明に対する新規性、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明、又は、甲第6号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合の進歩性について、甲第1?6、10?11号証に基づいて判断する。

d 証拠方法
甲第1号証:特開平5-285399号公報
甲第2号証:特開2002-102696号公報
甲第3号証:特開2014-180645号公報
甲第4号証:特開2013-193938号公報
甲第5号証:特開平9-47637号公報
甲第6号証:特開平5-96165号公報
甲第7号証:特開2001-137664号公報
甲第8号証:特開平11-156190号公報
甲第9号証:特開2001-286729号公報
甲第10号証:手塚 眞、排煙脱硝の技術(安全工学、27巻6号、第367?372頁、1988年、独立行政法人科学技術振興機構(JST)ウェブサイト「J-STAGE」掲載、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/27/6/27_367/_pdf/-char/ja)
甲第11号証:「安全工学」27巻6号目次(独立行政法人科学技術振興機構(JST)ウェブサイト「J-STAGE」、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/safety/27/6/_contents/-char/ja)

(2)各号証の記載内容
甲第1号証には、Ti/Mo/Vを原子比83/5/2で含むペーストと、Eガラス繊維からなる無機繊維織布とを用いて作製した排ガス浄化触媒が記載されている(特許請求の範囲及び実施例3参照)。
甲第3号証には、上記第5 5(1)(1-1)に記載したとおりの甲3発明、甲3’発明及び甲3’’発明が記載されている。
甲第4号証には、上記第5 5(1)(1-2)に記載したとおりの甲4発明、甲4’発明及び甲4’’発明が記載されている。
甲第5号証には、無機繊維を含みTi/W/V原子比が95.3/3.7/1の原子比で含むペーストを用いて作製した排ガス脱硝用触媒が記載されている(特許請求の範囲及び実施例1参照)。
甲第6号証には、Mo/Ti=1/9(原子比)の第一成分、V/Ti=5/95(原子比)の第二成分及びAl_(2)O_(3)/SiO_(2)系無機繊維(商品名カオウール)を含むペーストを用いて作製した脱硝触媒が記載されている(特許請求の範囲及び実施例1参照)。
甲第7号証には、酸化チタン、酸化モリブデンおよび酸化バナジウムを主成分とする特定の触媒を存在させることによってDXNs類の分解が促進されることを見出した旨、及び、触媒成分がTiとVだけのものでも一定の、NO_(2)によるDXNs類分解活性を示すが、これにMoを共存させることにより、NO_(2)によるDXNs類の分解活性が大幅に向上する旨記載されている。(段落【0011】及び【0018】参照)
甲第8号証には、下記の記載がある。


」(図8)
甲第9号証には、SiO_(2)とMoO_(3)が高分散しているSiO_(2)-MoO_(3)-TiO_(2)3元系複合酸化物担体に活性成分が担持された触媒は、塩素化有機化合物の分解性能が著しく高い旨記載されている(段落【0011】参照)。
甲第10号証には、ガラス繊維などの補助材料によって脱硝触媒の機械的強度を保持することが記載されている(第369-371頁参照)。
甲第11号証は、甲第10号証が本件発明に係る出願前に公知であったことを示すものである。

(3)当審の判断
a 甲第1号証に記載された発明に対する新規性について
甲第1号証に記載の触媒は、水銀圧入ポロシメトリー法による測定結果が甲第1号証に開示されたものでなく、追試により当該測定結果が得られたものでもない。
また、甲1号証に記載された触媒は、無機繊維織布を含むものであるところ、触媒の比表面積及び細孔分布は、無機繊維の成分、形状及び含有量や、無機繊維以外の成分やその形状及び含有量、並びに触媒の製造方法によっても影響を受け、さまざまな比表面積及び細孔分布となりうるという事情(以下、事情Aという)がある以上、甲1号証に記載された触媒が単に無機繊維織布を含むからといって直ちに本件発明1に係る(i)?(iii)の条件を満たすということはできない。
この点、本件明細書段落【0015】には、「構造規制剤を使用することで、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができる。さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御することも可能となる。」と記載され、構造規制剤の例として「無機系構造規制剤」(段落【0015】)及び「繊維状」(段落【0016】)のものが挙げられているところ、本件明細書には、触媒が無機繊維を含むのであれば必ず本件発明1に係る(i)?(iii)の条件を満たすとは記載されていないし、上記事情Aを考慮すると、触媒が無機繊維を含むのであれば必ず本件発明1に係る(i)?(iii)の条件を満たすことが示唆されているともいえない。
よって、甲第1号証に記載された触媒は、水銀圧入ポロシメトリー法による比表面積や細孔分布が本件発明1に係る(i)?(iii)の条件を満たすか否かは不明である。
そうすると、甲第1号証に記載された触媒の発明は、本件発明1と対比した場合、(i)?(iii)の条件を満たすか否か不明である点で相違し、この点は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の発明である本件発明2?3、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の製造方法の発明である本件発明4、本件発明1を引用しするとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法の発明である本件発明6についても同様である。

b 甲第1号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明、又は、甲第6号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合の進歩性について
上記aのとおり、甲第1号証に記載された触媒の発明は、本件発明1と対比した場合、(i)?(iii)の条件を満たすか否か不明である点で相違し、この点は、実質的な相違点である。
また、甲第5号証又は甲第6号証に記載された触媒の発明も同様に検討すると、同じ相違点において本件発明1と相違する。

上記相違点について、目標とする比表面積や細孔分布として本件発明1の(i)?(iii)の条件を満たすようにすることは甲第1?6、10?11号証に記載されていない以上、甲第1、5及び6号証に記載された各触媒の比表面積や細孔分布を調節して本件発明1に係る(i)?(iii)の条件を満たすようにする動機付けは、甲第1?6、10?11号証から見出すことはできない。
よって、甲第1号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合、甲第1?6、10?11号証を考慮しても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の発明である本件発明2?3、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の製造方法の発明である本件発明4、本件発明1を引用しするとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法の発明である本件発明6についても同様である。

c 甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合の進歩性について
上記第5 5(2)(2-1)(2-1-1)及び(2-2)(2-2-1)に記載したとおり、本件発明1と甲3発明は少なくとも<相違点1-2>について実質的に相違し、本件発明1と甲4発明は少なくとも<相違点2-2>について実質的に相違する。
当該相違点について、甲3発明又は甲4発明において、仮に、構造規制剤に相当するものである材料を添加する変更を行うことを当業者が試みたとしても、当該変更に伴って触媒の成分が変動する以上、当然触媒の比表面積や細孔分布も変動するといえる。
このとき、上記aに記載した事情A、すなわち、触媒の比表面積及び細孔分布は、ガラス繊維の成分、形状及び含有量や、ガラス繊維以外の成分やその形状及び含有量、並びに触媒の製造方法によっても影響を受け、さまざまな比表面積及び細孔分布となりうるという事情があるのであり、しかも、目標とする比表面積や細孔分布として本件発明1の(i)?(iii)の条件を満たすようにすることが甲第1?6、10?11号証には記載も示唆もされていない以上、当業者が上記変更を行った場合、甲3発明又は甲4発明の触媒の比表面積や細孔分布が上記変更の後にも本件発明1の(i)?(iii)の条件を依然満たすとは必ずしもいえないし、満たすように調節する動機付けを甲第1?6、10?11号証から見出すこともできない。
してみれば、本件発明1は、甲3発明又は甲4発明及び甲第1?6、10?11号証の記載から、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明を主たる引用発明とした場合、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の発明である本件発明2?3、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒の製造方法の発明である本件発明4、本件発明1を引用するとともに本件発明1の発明特定事項をすべて備える排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法の発明である本件発明6についても同様である。

(4)小括
以上のとおりであるから、上記(1)の特許異議申立理由は、理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、請求項1?4、6に係る特許は、令和 2年 6月16日付け取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項5は、訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排ガス処理用触媒およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理用触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば排ガスで熱回収する場合は、排ガス温度が80℃程度となる場合がある。よって、このような低温(70?250℃程度)の排ガスを処理した場合にも高い脱硝性能を発揮する触媒の開発が望まれる。
【0003】
また、燃焼排ガス中の窒素酸化物の除去方法としては、還元剤であるアンモニアの存在下に接触分解する方法が知られているが、通常、燃焼排ガス中には二酸化硫黄が含有されているため、分解温度が300℃以下の場合は、アンモニアとの反応により硫酸アンモニウムが触媒表面に析出して触媒性能を低下させる問題がある。
【0004】
さらに、排ガス中に排煙処理触媒に対する被毒物質が含まれていると、排煙処理触媒が失活し易い。ここで主な被毒物質としてアルカリ金属やアルカリ土類金属が挙げられる。例えば、セメント製造排ガスに含まれるダストの主成分はカルシウムであることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2013-49580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温(70?250℃程度)の排ガスを処理した場合にも高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い、排ガス処理用触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、例えばLNGを燃料としたガスタービン排ガスのような、300?600℃の排ガスを処理した場合でも高い脱硝性能と耐熱性を有する触媒の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)?(7)である。
(1)(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、触媒の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満たし、酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、構造規制剤と、活性金属成分とを含むことを特徴とする排ガス処理用触媒。
(2)前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、上記(1)に記載の排ガス処理用触媒。
(3)前記活性金属成分が、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の排ガス処理用触媒。
(4)前記構造規制剤は、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物であることを特徴とする、上記(1)?(3)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒。
(5)工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料および/または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物と、活性金属成分を含む混合体を、成形し、乾燥、焼成する工程。
を含む、上記(1)?(4)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
(6)工程(b)の前記混合体の成形加工後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥させることを特徴とする乾燥工程をさらに含む、上記(5)に記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
(7)上記(1)?(4)のいずれかに記載の排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温(70?250℃程度)の排ガスを処理した場合にも高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い、排ガス処理用触媒およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 ハニカム構造体の好適例の概略斜視図である。
【図2】 実施例1の触媒の細孔径分布図である。
【図3】 実施例2の触媒の細孔径分布図である。
【図4】 実施例3の触媒の細孔径分布図である。
【図5】 実施例4の触媒の細孔径分布図である。
【図6】 比較例1の触媒の細孔径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の排ガス処理用触媒>
本発明の排ガス処理用触媒について説明する。本発明の排ガス処理用触媒を、以下では「本発明の触媒」または「触媒」ともいう。
【0012】
<担体>
本発明の触媒における担体について説明する。
本発明の触媒において担体は、TiO_(2)および無機複合酸化物の混合物あるいは、それぞれ単一の担体である。
【0013】
無機複合酸化物は、W、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの複合酸化物のいずれかを意味する。
複合酸化物中の、W、Mo、Si、Vの酸化物換算濃度は、これらの合計で0.05?40質量%であることが好ましく、0.1?20質量%であることがさらに好ましい。
【0014】
触媒は、上記のような無機単一酸化物および無機複合酸化物の混合物あるいは、それぞれ単一の担体を50?95質量%含有することが好ましく、70?95質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
<構造規制剤>
また触媒は、構造規制剤を含む。構造規制剤を使用することで、細孔分布制御性に優れ、細孔分布がシャープであるものを調製することができる。さらには、細孔の形状や方向性等を容易に制御することも可能となる。
さらに構造規制剤としては、無機系構造規制剤が好ましく、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、合成繊維、およびこれらのチョップあるいはウィスカーなどが挙げられる。構造規制剤は、その中でも特に、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物を、上記のような無機単一酸化物および無機複合酸化物の混合物とは別途、3?20質量%含有することが好ましく、5?10質量%であることがさらに好ましい。結晶性でも、非結晶性のいずれを用いてもよい。
【0016】
構造規制剤が含む前記ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物としては、MCM-41、48、SBA-15およびSBA-16等の構造を有する化合物、ポーラスシリカ(ミセルテンプレートシリカ)(Langmuir 16(2),356(2000)参照)、ガラス繊維の非結晶物やモンモリロナイト系鉱物のような粘土系結晶鉱物であってもよい。
【0017】
さらに、前記構造規制剤の形状は、繊維状や柱状、紡錘状、板状であってもよい。
【0018】
<活性金属成分>
本発明の触媒における活性金属成分について説明する。
本発明の触媒は、上記のような担体に活性金属成分が担持している。
本発明の触媒において活性金属成分は、タングステン、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0019】
本発明の触媒は、上記のような担体および活性金属成分以外の成分を20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の割合で含んでもよい。また、本発明の触媒は実質的に前記担体、構造規制剤および前記活性金属成分からなることが好ましい。ここで「実質的になる」とは、原料や製造過程から不可避的に含まれる不純物等は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。
上記のような担体、構造規制剤および活性金属成分以外の成分として、例えばCr、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Nd、In、SnおよびIrが挙げられる。
【0020】
<触媒>
本発明の触媒におけるハニカム構造を例に説明する。また本発明触媒の形状は、ハニカム構造である。
【0021】
本発明の触媒は、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔径の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲であり、30?50m^(2)/gであることが好ましい。
【0022】
水銀圧入ポロシメトリー法とは、ポロシメーターを使用する水銀圧入法であり、例えば従来公知の測定装置を用いて測定することができる。
【0023】
本発明の触媒は、細孔径分布が、20?50nmの範囲内に最大ピークを有し、20?50nmの範囲内にある最大ピークの頂点Xnmに対し、細孔径がX×0.562(=10^(-0.25))?X×1.78(=10^(+0.25))nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)が、0.65?0.90となる。このSA_(X)値は25?30m^(2)/gとなることが好ましい。
SA_(X)/SA_(total)が、0.65?0.90の範囲にあると、理由は明確ではないが、例えば70?250℃の低温度域で、還元剤のアンモニアを含む反応ガスの拡散とアンモニアの活性点への吸着がバランスがとれた状態となり、低温脱硝性が発現するものと考えている。
SA_(X)/SA_(total)が上記のような範囲にあると、70℃という低温の排ガスを処理した場合に高い脱硝性能を発揮し、さらにアルカリ金属またはアルカリ土類金属(特にカルシウム)を含む被毒成分ならびに硫安類を多く含む排ガスに用いた場合であっても失活し難い。
【0024】
また、本発明の触媒は、70?600℃程度の範囲において高い脱硝性能を発揮し、同時に高い耐熱性も有する。
【0025】
<ハニカム構造体>
本発明の触媒は、上記のような担体に活性金属成分が担持しているハニカム状の構造体である。
ハニカム状の構造体とは、平行に貫通した多数の小孔(セル)を有する構造体を意味する。このような構造の触媒は、通常、反応管内にぴったりと収めて使用される。また、セルの形(断面形状)としては、六角形、四角形、三角形、円形などがある。通常、セルの大きさ(径)は目開き、セルとセルとの間は隔壁、1つのセルに注目した場合に対向する左右または上下の壁の各中心間の距離はピッチと呼ばれる。
【0026】
図1に、本発明の触媒に相当するハニカム状の構造体の概略斜視図を例示する。
図1において本発明の触媒(1)は、8目×8目のセル(3)を有し、セル(3)の断面形状は四角形の態様のものである。セル(3)の大きさ(径)は目開きの幅(5)、セル(3)とセル(3)との間は隔壁(7)、隔壁(7)の厚さ(9)を肉厚ともいう。さらに、セル(3)の開口部が露出している面を端面(11)とし、それ以外の面を側面(13)とする。また、ハニカム構造体の長手方向の長さをXとする。
【0027】
<本発明の触媒の製造方法>
次に、本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒において担体は、例えば特開2004-41893号公報や特開2005-021780号公報に記載された方法で製造することができる。
本発明の触媒は、前記担体もしくはその原料および前記活性金属成分もしくはその原料を混合してなる混合物を得た後、押出成形法等によってハニカム構造の形状に成形する方法や、ハニカム構造の基材上に担体成分および活性成分を含浸・担持する方法、さらにハニカム構造の担体成分に活性成分を含浸・担持する方法によって製造することができる。
【0028】
本発明の触媒は、下記の工程(a)?(b)を備える製造方法によって製造することが好ましい。
工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)と、活性金属成分を含む混合体を、ハニカム状に押し出して成形し、乾燥、焼成する工程。
このような好ましい製造方法の各工程を、以下で説明する。
【0029】
<工程(a)>
工程(a)では、初めに、Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを得る。
このスラリーは、例えばTiを含む化合物や、さらにW、Mo、Si、およびVを含む化合物を、水等の溶媒に溶解した後、酸やアルカリを用いてpHを調整することでTiの酸化物や、さらにW、Mo、Si、およびVの酸化物を析出させて得ることができる。析出させた後、20?98℃で0.5?24時間、熟成させることが好ましい。
【0030】
ここでTiを含む化合物としては、硫酸法による二酸化チタンの製造工程より得られる硫酸チタン溶液あるいはメタチタン酸が好ましい。
【0031】
Wを含む化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、燐タングステン酸アンモニウムおよびテトラチオタングステン酸アンモニウムなどのタングステン含有窒素化合物、二硫化タングステン、三硫化タングステンなどのタングステン含有硫黄化合物、六塩化タングステン、二塩化タングステン、三塩化タングステン、四塩化タングステン、五塩化タングステン、二塩化二酸化タングステン、四塩化酸化タングステンが挙げられる。
【0032】
Moを含む化合物としては、パラモリブデン酸アンモニウム、メタモリブデン酸アンモニウム、燐モリブデン酸アンモニウムおよびテトラチオモリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン含有窒素化合物、二硫化モリブデン、三硫化モリブデンなどのモリブデン含有硫黄化合物、六塩化モリブデン、二塩化モリブデン、三塩化モリブデン、四塩化モリブデン、五塩化モリブデン、二塩化二酸化モリブデン、四塩化酸化モリブデンが挙げられる。
【0033】
ここでSiを含む化合物としては、シリカゾル、ケイ酸液、ヒュームドシリカ、シリコンアルコキシド等が挙げられる。
【0034】
ここでVを含む化合物としては、硫酸バナジル、シュウ酸バナジル、メタバナジン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0035】
Tiを含む化合物の他にW、Mo、Si、およびVを含む化合物を用いる場合、Tiを含む化合物とW、Mo、Si、およびVを含む化合物との量比は特に限定されないが、TiO_(2)(Tiの全てがTiO_(2)であると仮定した換算値)100質量%に対して3?20質量%となるように調整することが好ましい。
【0036】
上記のようにしてスラリーを得た後、これを脱水し、焼成する。
脱水方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には遠心分離法等を適用して脱水することができる。
焼成方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には焼成炉等を用いて焼成することができる。焼成温度は、例えば110℃以上(好ましくは300℃以上)、700℃以下とする。
脱水後に得られるケーキを焼成する前に、乾燥してもよい。乾燥は、例えば従来公知の方法、具体的には電気乾燥機等を用いることができる。乾燥温度は、例えば30?200℃とする。
【0037】
このような工程(a)によって、Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含む無機複合酸化物原料を得ることができる。
【0038】
<工程(b)>
工程(b)では、工程(a)において得られた無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料とケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)、および活性金属成分を水分を添加した上で混合することが好ましい。
この混合比は特に限定されないものの、無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物と、活性金属成分と、水分との合計に対する無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料の比率((無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料)/(無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料+ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物+活性金属成分+水分)×100)は10?70質量%であることが好ましい。
また、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物の比率((ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物)/(無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料+ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物+活性金属成分+水分)×100)は15質量%以下であることが好ましい。
また、活性金属成分の比率(活性金属成分/(無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料+ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物+活性金属成分+水分)×100)は5質量%以下であることが好ましい。
【0039】
上記のように無機単一酸化物原料または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)、および活性金属成分を、水分を添加した上で混合する際に、必要に応じて成形助剤を、さらに添加して混合してもよい。
【0040】
成形助剤としては、例えば従来公知のものを用いることができ、具体的には、ポリエチレンオキサイド、結晶性セルロース、グリセリン、ポリビニルアルコール等の有機物が挙げられる。
【0041】
そして、得られた混合物を、例えば従来公知の成形機を用いて例えばハニカム状に成形し、その後、焼成する。ここで成形した後に乾燥する。
【0042】
乾燥方法は、成形加工後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥させる。具体的には調湿調温乾燥機等を適用して乾燥することができる。乾燥温度は、例えば30?200℃とする。
【0043】
湿度の低下速度が0.97%/hrより速い場合は、にクラックが発生し、成形体強度など実用上に堪えない可能性がある。
【0044】
湿度の低下速度が0.20%/hrより遅い場合は、生産上効率が悪く適用できない可能性がある。
【0045】
焼成方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法、具体的には焼成炉等を用いて焼成することができる。焼成温度は、例えば400?700℃とする。
【0046】
このような本発明の製造方法によって、本発明の触媒を得ることができる。
<排ガス処理方法>
【0047】
本発明の触媒は、火力発電所排ガス、セメント製造排ガス、ゴミ焼却排ガス、ガラス溶融炉排ガス、鉄鋼コークス炉の排ガス処理触媒として好ましく用いることができる。
【0048】
本発明の触媒は、排ガスに有機塩素化化合物(ダイオキシン類等)が含有されている場合、これを分解除去する装置にも用いることができる。
【0049】
本発明の触媒は、排ガスに水銀が含有されている場合、本触媒を設置し水銀をハロゲン化する装置にも用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例に基づき説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0051】
[原料調製1(Ti酸化物原料:TiO_(2)原料-1)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付撹拌機に仕込み、35質量%H_(2)O_(2)水をTiO_(2)90質量部に対して、H_(2)O_(2)が9質量部となるように添加し、25質量%アンモニア水をpH9.0となるように徐々に添加した後、40℃で3時間に亘り十分な撹拌を行いつつ恒温熟成した。その後、これに25質量%硫酸水をpH2.0となるように徐々に添加した後、40℃で1時間に亘り十分な撹拌を行い、さらにこれに25質量%アンモニア水をpH7.5となるように徐々に添加した後、40℃で3時間に亘り十分な撹拌を行いつつ恒温熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後150℃で焼成して、Ti酸化物原料-1を得た。
【0052】
[原料調製2(Ti酸化物原料:TiO_(2)原料-2)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付撹拌機に仕込み、25質量%アンモニア水をpH7.5以上となるように添加した後、60℃で3時間に亘り十分な撹拌を行いつつ加熱熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後600℃で焼成して、Ti酸化物原料-2を得た。
【0053】
[原料調製3(Ti-W-V原料:TiO_(2)-3.5質量%WO_(3)-4.305質量%V_(2)O_(5)複合酸化物原料)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付撹拌機に仕込み、これに35質量%H_(2)O_(2)水をTiO_(2) 88.5質量部に対して、H_(2)O_(2)が8.9質量部となるように添加し、さらにパラタングステン酸アンモニウム(日本新金属社製)を、TiO_(2) 88.85質量部に対してWO_(3)が5質量部となるように添加し、加えて硫酸バナジル(新興化学工業製)を、TiO_(2) 88.85質量部に対してV_(2)O_(5)が6.15質量部となるように添加し、加えて25質量%アンモニア水をpH7.5以上となるように添加した後、60℃で3時間に亘り十分な撹拌を行いつつ加熱熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後400℃で焼成して、Ti-W-V複合酸化物原料Aを得た。次にメタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付撹拌機に仕込み、これにTi-W-V複合酸化物原料Aを、メタチタン酸スラリー由来のTiO_(2)30質量部に対してTi-W-V複合酸化物原料Aが70質量部となるように添加し、さらにこれに25質量%アンモニア水をpH7.2となるように徐々に添加した後、40℃で3時間に亘り十分な撹拌を行いつつ恒温熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後600℃で焼成して、Ti-W-V複合酸化物原料を得た。
【0054】
[原料調製4(Ti-Mo-Si原料:TiO_(2)-5質量%MoO_(3)-10質量%SiO_(2)複合酸化物原料複合酸化物原料)]
メタチタン酸スラリー(石原産業製)を還流器付撹拌機に仕込み、これに35質量%H_(2)O_(2)水をTiO_(2) 90質量部に対して、H_(2)O_(2)が10質量部となるように添加し、さらにパラモリブデン酸アンモニウムを、TiO_(2) 85質量部に対してMoO_(3)が5質量部となるように添加し、さらにシリカゾル(日揮触媒化成社製、S-20L)を、TiO_(2) 85質量部に対してSiO_(2)が10質量部となるように添加し、加えて25質量%アンモニア水をpH7.2となるように徐々に添加した後、40℃で24時間に亘り十分な撹拌を行いつつ恒温熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後500℃で焼成して、Ti-Mo-Si複合酸化物原料を得た。
【0055】
[原料調製5(Ti-Si原料:TiO_(2)-20質量%SiO_(2)複合酸化物原料)]
硫酸チタニルの硫酸溶液(テイカ製TM結晶を水で溶解したもの)を還流器付撹拌機に仕込み、これに35質量%H_(2)O_(2)水をTiO_(2) 80質量部に対して、H_(2)O_(2)が8質量部となるように添加し、さらにこれにシリカゾル(日揮触媒化成社製、S-20L)を、TiO_(2) 80質量部に対してSiO_(2)が20質量部となるように添加し、さらに32.5質量%の尿素水をTiO_(2) 80質量部に対して、尿素が27質量部となるように添加し、95℃まで加熱した後12時間に亘り十分な撹拌を行いつつ熟成した。そして、得られたスラリーを脱水洗浄し、脱水ケーキを110℃乾燥の後500℃で焼成して、Ti-Si複合酸化物原料を得た。
【0056】
<触媒調製>
【0057】
[実施例1]
上記のようにして得たTi酸化物原料-1、22.7kgに、メタバナジン酸アンモニウム(新興化学工業社製)1.285kg、パラモリデン酸アンモニウム(太陽鉱工製)920g、硝子繊維1.25kg、25質量%アンモニア水2.10kgと水、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製 PEG-20000)125g、結晶セルロース(セオラスTG-101)125gを添加し、水分濃度が30質量%になるようにミキサーにて混練後、ハニカム状に押出成形した。得られた成形体を、湿度90%から30%まで3日間で徐々に減少させ(0.83%/hrの減少率相当)、また温度を40℃から60℃まで3日間で徐々に上昇させた環境下で乾燥させた。その後、500℃で3時間焼成し触媒を得た。得られたハニカム状触媒は、隔壁の肉厚:0.50mm、目開き:3.20mm、外形75mmの態様であった。
【0058】
[比較例1]
同様に、上記のようにして得たTi酸化物原料-2、24.7kgに、メタバナジン酸アンモニウム(新興化学工業社製)1.285kg、25質量%アンモニア水2.30kgと水、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製 PEG-20000)125g、結晶セルロース(セオラスTG-101)125gを添加し、水分濃度が30質量%になるように混練後、ハニカム形状に成形し、実施例1と同じ乾燥条件にて乾燥した後、500℃で3時間焼成し、隔壁厚0.50mm、目開き3.20mm、外径75mmのハニカム状触媒を得た。
【0059】
[実施例2]
上記のようにして得たTi-W-V複合酸化物原料23.7kgに、硝酸ランタン六水和物1.02kgと硝酸イットリウム六水和物1.28kg、硝子繊維1.25kg、25質量%アンモニア水2.10kgと水、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製PEG-20000)125g、結晶セルロース(セオラスTG-101)125gを添加し、水分濃度が30質量%になるようにミキサーにて混練後、ハニカム形状に成形し、実施例1と同じ乾燥条件にて乾燥した後、500℃で3時間焼成し、隔壁厚0.50mm、目開き3.20mm、外径75mmのハニカム状触媒を得た。
【0060】
[実施例3]
上記のようにして得たTi-Mo-Si複合酸化物原料22.7kgに、50質量%硝酸マンガン水溶液4.52kgと、硝酸第一セリウム六水和物1.89kg、活性白土1.25kg、25質量%アンモニア水2.10kgと水、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製 PEG-20000)125g、結晶セルロース(セオラスTG-101)125gを添加し、水分濃度が30質量%になるようにミキサーにて混練後、ハニカム形状に成形し、実施例1と同じ乾燥条件にて乾燥した後、500℃で3時間焼成し、隔壁厚0.50mm、目開き3.20mm、外径75mmのハニカム状触媒を得た。
【0061】
[実施例4]
同様に、Ti-Si複合酸化物原料22.7kgを使用すること以外は実施例1と同様にして触媒を得た。
【0062】
[比較例2]
実施例2と同様に、ハニカム状に成形した後、得られたを、湿度90%から30%まで1日間で急速に減少させ(2.5%/hrの減少率相当)、また温度を40℃から60℃まで1日間で急速に上昇させた環境下で乾燥させた。その結果、ハニカムに多数のクラックが発生しサンプルが採取できなかった。
【0063】
[試験例1] 水銀ポロシメータ比表面積測定による比表面積の見積もり
実施例および比較例において得られた各触媒について、水銀ポロシメータによる5nmから5400nmの範囲の比表面積分布測定を行った。
水銀ポロシメータ比表面積測定装置:Quantachrome PoreMaster
水銀ポロシメータ比表面積測定条件:前処理300℃1時間、水銀圧入角130度、表面張力473erg/cm^(2)
【0064】
各触媒の水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒比表面積分布の内、5nmから500nmの触媒比表面積分布を図1?図5に示す。なお、500nm以上に、識別可能な比表面積ピークはなかった。
【0065】
[試験例2] CaCl_(2)溶液スプレー、硫安による触媒の加速劣化試験
実施例および比較例において得られた各触媒について、4目×4目×107mmLに切り出し(肉厚:0.50mm、目開きの幅:3.20mm)、石英反応管にセットした後、Fresh状態での触媒脱硝性能を測定した。ここで触媒接触前後のガス中の窒素酸化物(NOx)の脱硝率は、下記式により求めることができる。このとき、NOxの濃度は化学発光式の窒素酸化物分析計(株式会社 アバテック・ヤナコ社製、ECL-88AO)で測定した。
脱硝率(%)={(未接触ガス中のNOx(体積ppm)-接触後のガス中のNOx(体積ppm))/未接触ガス中のNOx(体積ppm)}×100
ここで求められた初期脱硝率をη_(0)(%)とした。また反応速度定数k_(0)=?AV×ln(1-η_(0)/100)を算出した。
その後、石英反応管中にCaCl_(2)溶液を噴霧するためのノズルを取り付け、触媒上流側からCaCl_(2)溶液を添加した。ノズルは石英反応管の上流側の端面から300mm離して設置した。CaCl_(2)溶液の濃度は0.1質量%、噴霧時間は48時間で実施した。CaCl_(2)溶液スプレー後、再び触媒の脱硝性能を測定した。ここで求められた劣化後脱硝率をη(%)からk=?AV×ln(1-η/100)を算出した。そして、k/k_(0)を求めて、Fresh状態の性能との比較を行った。性能測定及びCaCl_(2)溶液スプレーはいずれも130℃で実施した。測定条件は以下に示す通りである。
活性測定条件
反応温度:130℃、SV=3000(1/h)、ガス風量=0.075(Nm^(3)/h)、AV=3.30(Nm^(3)/m^(2)h)、NO=180(体積ppm)、NH_(3)=180(体積ppm)、SO_(2)=40(体積ppm)、O_(2)=7体積%、H_(2)O=10体積%、N_(2)=バランス
加速劣化試験条件
SV=3000(1/h)、ガス風量=0.075(Nm^(3)/h)、AV=3.30(Nm^(3)/m^(2)h)、NO=0(体積ppm)、NH_(3)=0(体積ppm)、SO_(2)=1000(体積ppm)、O_(2)=7体積%、H_(2)O=10体積%(CaCl_(2)溶液として)、N_(2)=バランス
【0066】
結果を第1表に示す。比較例1の触媒に比べ、実施例1?4の触媒はCaCl_(2)溶液スプレー後も活性が高いことがわかる。
【0067】
[試験例3] 低温脱硝試験
実施例および比較例において得られた各触媒について、4目×4目×107mmLに切り出し(肉厚:0.50mm、目開きの幅:3.20mm)、石英反応管にセットした後、低温脱硝性能を測定した。
ここで触媒接触前後のガス中の窒素酸化物(NO_(X))の脱硝率は、上記式により求めた。このときNO_(X)の濃度は化学発光式の窒素酸化物分析計(株式会社 アナテック・ヤナコ製、ECL-88AO)にて測定した。
【0068】
低温脱硝性能の測定方法は次の通りである。
反応温度:110℃、空塔速度(SV)=3000hr^(-1)
モデルガス組成:NO_(X)=180体積ppm、NH_(3)=180体積ppm、O_(2)=7体積%、H_(2)O=10体積%、N_(2)=バランス
【0069】
[試験例4] 脱硝試験
実施例および比較例において得られた各触媒について、4目×4目×272mmLに切り出し(肉厚:0.50mm、目開きの幅:3.20mm)、石英反応管にセットした後、脱硝性能を測定した。
ここで触媒接触前後のガス中の窒素酸化物(NO_(X))の脱硝率は、上記式により求めた。このときNO_(X)の濃度は化学発光式の窒素酸化物分析計(株式会社 アナテック・ヤナコ製、ECL-88AO)にて測定した。
【0070】
低温脱硝性能の測定方法は次の通りである。
反応温度:350℃、空塔速度(SV)=29300hr^(-1)
モデルガス組成:NO_(X)=180体積ppm、NH_(3)=180体積ppm、O_(2)=7体積%、H_(2)O=10体積%、N_(2)=バランス
【0071】
結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の比表面積A(SA_(Hg))が25?50m^(2)/gの範囲にある、
(ii)細孔径分布で、20?50nmの範囲内に最大ピークXを有する、
(iii)最大ピークの細孔径Xに対して、X×10^(-0.25)?X×10^(+0.25)nmの範囲の細孔径が占める比表面積SA_(X)が、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5400nmの触媒細孔の全比表面積SA_(total)に対し、SA_(X)/SA_(total)=0.65?0.90の範囲にある、
上記(i)?(iii)の条件を満たし、酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物の少なくとも1種類以上の無機単一酸化物および/または無機複合酸化物からなる担体と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)である構造規制剤と、活性金属成分とを含むことを特徴とするハニカム状の排ガス処理用触媒。
【請求項2】
前記担体がTiO_(2)からなる無機単一酸化物、および/またはW、Mo、SiおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス処理用触媒。
【請求項3】
前記活性金属成分が、バナジウム、モリブデン、マンガン、ランタン、イットリウムおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の排ガス処理用触媒。
【請求項4】
工程(a):Tiを含むスラリー、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとを含むスラリーを脱水し、焼成して、TiO_(2)からなる無機単一酸化物原料、または、W、Mo、Si、およびVからなる群から選ばれる少なくとも1つとTiとの無機複合酸化物原料を得る工程。
工程(b):工程(a)において得られた無機単一酸化物原料および/または無機複合酸化物原料と、ケイ素および/またはカルシウムを含む化合物(但し、チタン複合酸化物は除く)と、活性金属成分を含む混合体を、成形した後、湿度90%以上の環境下から、0.20?0.97%/hrの範囲の速度で湿度を30%まで減少させた環境下で乾燥、焼成する工程。
を含む、請求項1?3のいずれかに記載の排ガス処理用触媒の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1?3のいずれかに記載の排ガス処理用触媒を用いて排ガスを処理する、排ガスの処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2015-193128(P2015-193128)
審決分類 P 1 651・ 852- YAA (B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J)
P 1 651・ 853- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
P 1 651・ 851- YAA (B01J)
P 1 651・ 537- YAA (B01J)
P 1 651・ 113- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 瞳中村 俊之  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
岡田 隆介
登録日 2019-09-27 
登録番号 特許第6592319号(P6592319)
権利者 日揮触媒化成株式会社
発明の名称 排ガス処理用触媒およびその製造方法  
代理人 高橋 政治  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 右田 俊介  
代理人 高橋 政治  
代理人 右田 俊介  

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