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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1374949
異議申立番号 異議2021-700165  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-16 
確定日 2021-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6742073号発明「セラミックス回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742073号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6742073号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年3月11日に特許出願され、令和2年7月30日にその特許権の設定登録がされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1及び2に係る特許に対して、令和3年2月16日に特許異議申立人廣瀬妙子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属と錫とを含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板であって、ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
セラミックス基板が窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素からなることを特徴とする請求項1記載のセラミックス回路基板。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証?甲第4号証を提出し、本件発明1及び2に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

(1)申立理由1
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記6(3)ア(ア)及び(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証 特開2000-31609号公報
甲第2号証 特開2002-137974号公報
甲第3号証 特開平10-145039号公報
甲第4号証 安秉局、白石裕、ガラス及びセラミックスの接合、東北大學
選鑛製錬研究所彙報、平成元年6月、第45巻、第1号、第
77?88頁

4 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に放熱銅板が、それぞれAg成分と活性金属成分を含むろう材を用いて接合されてなるものにおいて、放熱銅板側へ固体拡散しているAg層の厚みが銅回路側よりも10μm以上厚くなっていることを特徴とする回路基板。」

イ 「【0007】本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、熱履歴を受けたときに発生する反りが小さい高信頼性の回路基板を提供することを目的とするものである。」

ウ 「【0017】セラミックス基板に銅回路及び放熱銅板を形成する方法としては、セラミックス基板と銅板との接合体をエッチングする方法、銅板から打ち抜かれた回路及び放熱板のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができ、これらの際における接合方法としては、活性金属ろう付け法を用いる。」

エ 「【0020】
【実施例】以下、本発明を実施例と比較例をあげて具体的に説明する。
【0021】実施例1?3
重量割合で、Ag粉末90部、Cu粉末10部、TiH_(2)粉末3部、Zr粉末3部にテルピネオール15部を配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練し、ろう材ペースト1を調製した。また、同様に、Ag粉末85部、Cu粉末15部、TiH_(2)粉末3部、Zr粉末3部にテルピネオール15部を配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練し、ろう材ペースト2を調製した。窒化アルミニウム基板(サイズ:60mm×36mm×0.65mm 曲げ強さ:40kg/mm^(2) 熱伝導率:135W/mK)の銅回路形成面にペースト1を、放熱銅板形成面にペースト2をそれぞれスクリーン印刷によって回路パターン状に塗布した。その際の塗布量(乾燥後)は9mg/cm^(2)とした。
【0022】次に、窒化アルミニウム基板の銅回路形成面に、56mm×32mm×0.3mmの銅回路パターンを、また放熱銅板形成面に56mm×32mm×0.15mmの放熱銅板のパターンを接触配置してから、真空度1×10^(-5)Torr以下の真空下、表1で示される条件で加熱した後、600℃まで急冷し、その後2℃/分の降温速度で冷却して回路基板を作成した。
【0023】比較例1
窒化アルミニウム基板の両面にペースト1を塗布したこと以外は実施例1と同様にして回路基板を作成した。
【0024】比較例2
放熱銅板の厚みを0.30mmとしたこと以外は実施例1と同様にして回路基板を作成した。
【0025】これら一連の処理を経て製作された回路基板について、空気中、350℃×5分、25℃×5分を1サイクルとする通炉試験を5回行い、回路基板のJISB 0621に従う平面度及び抗折強度を測定した。また、耐ヒートサイクル性を評価するため、空気中、-40℃×30分保持後、25℃×10分放置、更に125℃×30分保持後、25℃×10分放置を1サイクルとした耐久性試験を行い、銅回路又は放熱銅板が剥離開始したサイクル数を測定した。更には、銅回路及び放熱銅板に固体拡散しているAg層の厚みを特開平10-145039号公報に示されている方法に従い、任意の5箇所で測定しその値を平均した。それらの結果を表1に示す。
【0026】
【表1】



(2)甲第2号証の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パワーモジュールに使用される回路基板の製造に好適なセラミック体と平滑無酸素銅板との接合方法に関する。」

イ 「【0012】本発明の特徴は、平滑な無酸素銅板とセラミック体とを接合する際に、金属成分として、銀75?89%、銅1?23%、錫1?5%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属成分1?6%を含んでなる接合ろう材を用い、温度800?830℃で接合することである。」

ウ 「【0022】実施例1?5 比較例1?11
表1に示す質量割合で、銀粉末、銅粉末、錫粉末、活性金属粉末及びテルピネオールを配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練し、接合ろう材ペーストを調製した。この接合ろう材ペーストを窒化アルミニウム基板(サイズ:60mm×36mm×0.65mm 曲げ強さ:500MPa 熱伝導率:155W/mK、純度95%以上)の両面にロールコーターによって基板全面に塗布した。塗布量は、乾燥基準で9mg/m^(2)とした。
【0023】つぎに、窒化アルミニウム基板の金属回路形成面には表1に示す無酸素銅板(56mm×32mm×0.3mm)を、また金属放熱板形成面には表1に示す種無酸素銅板(56mm×32mm×0.15mm)を接触配置してから、真空度0.1Torr以下の真空下、表1に示す温度で30分加熱した後、600℃まで急冷し、その後2℃/分の降温速度で冷却した。そして、金属回路形成面には回路パターン状に、金属放熱板形成面に放熱板状にレジストインクをスクリーン印刷してから銅板と接合層のエッチングを行い、回路及び放熱板を形成した。その後、無電解Ni-Pメッキ(厚み3μm)を施し回路基板とした。」

(3)甲第3号証の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品のパワーモジュール等に使用される回路基板及びその耐ヒートサイクル性の評価方法と製造方法に関するものである。」

イ 「【0003】このような回路基板を作製するには、AgとCuを主成分とし、Zr、Ti、Hf等の活性金属成分を副成分として含有するろう材をセラミックス基板に回路パターン状に印刷した後、回路パターンと同形状の金属板を載置し加熱接合する方法、ろう材を回路パターン状に印刷後ベタ金属板を加熱接合し、不要な金属をエッチングして金属回路を形成する方法、ろう材を全面に塗布した後ベタ金属板を加熱接合し、不要な金属とろう材をエッチング等により除去して金属回路を形成する方法、等により行われている(例えばWO91/16805号公報)。このような作製方法は、いずれも活性金属を含むろう材を用いる技術であるので活性金属ろう付け法とも呼ばれている。」

ウ 「【0014】本発明において、セラミックス基板と銅板とがろう材ペーストを介した状態で温度を高めていくと、まずろう材が銅板と接触している部分から溶融し、次いでAgリッチの組成から共晶組成に移行するが、更に温度が高まるとAgの拡散が開始すると考えた。したがって、この場合において、ワークが受け取るエネルギーEは、銅板とAgのみの反応を考慮した場合、E=E1 +E2 となる。ここで、E1 はAg(S) +Cu(S) →AgCu(共晶)によって消費するエネルギーであり、E2 は銅板中へAgが固体拡散する際の消費エネルギーである。E1 はろう材中のAg量によって定まるものであり、Agリッチの組成ほど大きくなると考えられる。したがって、ろう材中のAg量が極端に少ないか、又は共晶組成に近いとE1 が小さくなり、Agの拡散が起こりやすくなる。」

(4)甲第4号証の記載事項
ア 「Fig.9は1500℃でNi合金のAlNに対する濡れ性の例を示す.」(第84頁下から5行)

イ 「


(第85頁)

5 申立理由1に対する判断
(1)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)について
甲第1号証の比較例1は、上記4(1)ウ及びエの記載によれば、窒化アルミニウム基板の銅回路形成面及び放熱銅板形成面に、重量割合で、Ag粉末90部、Cu粉末10部、TiH_(2)粉末3部、Zr粉末3部にテルピネオール15部を配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練して調製したろう材ペースト1を塗布して、銅回路形成面に銅回路パターン、放熱銅板形成面に放熱銅板パターンをそれぞれ接触配置してから、真空下で加熱して、窒化アルミニウム基板に銅回路パターン及び放熱銅板パターンを接合した回路基板が記載されており、銅回路パターン及び放熱銅板パターンに固体拡散しているAg層の厚みが、それぞれ30μmであることも記載されている。
したがって、比較例1の上記記載を整理すると、甲第1号証には、
「窒化アルミニウム基板の銅回路形成面に銅回路パターン、放熱銅板形成面に放熱銅板パターンが、重量割合で、Ag粉末90部、Cu粉末10部、TiH_(2)粉末3部、Zr粉末3部にテルピネオール15部を配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練して調製したろう材ペースト1を介して接合されてなる回路基板であって、銅回路パターン及び放熱銅板パターンに固体拡散しているAg層の厚みが、それぞれ30μmである、回路基板。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「窒化アルミニウム基板」、「銅回路形成面」、「銅回路パターン」、「放熱銅板形成面」、「放熱銅板パターン」は、それぞれ、本件発明1の「セラミックス基板」、「一方の面」、「銅回路」、「他方の面」、「銅放熱板」に相当する。
また、甲1発明の「重量割合で、Ag粉末90部、Cu粉末10部、TiH_(2)粉末3部、Zr粉末3部にテルピネオール15部を配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練して調製したろう材ペースト1」は、本件発明1の「チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属」「を含有するAg-Cuろう材」に相当する。
さらに、甲1発明の「銅回路パターン及び放熱銅板パターンに固体拡散しているAg層の厚みが、それぞれ30μmである」ことは、銅回路パターン及び放熱銅板パターンに固体拡散しているAg層の厚みの差が0μmとなることから、本件発明1の「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属を含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板であって、ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であるセラミックス回路基板。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1のろう材は、錫を含有しているのに対して、甲1発明のろう材ペースト1は、錫を含有していない点。

イ 相違点の検討
甲第1号証には、上記4(1)ア及びイの記載によれば、熱履歴を受けたときに発生する反りが小さい高信頼性の回路基板を提供することを目的として、放熱銅板側へ固体拡散しているAg層の厚みを銅回路側よりも10μm以上厚くすることが記載されているから、甲第1号証に接した当業者であれば、甲1発明を改良しようとする場合には、銅回路パターン及び放熱銅板パターンに固体拡散しているAg層の厚みを変更することを想起するし、そもそも、当業者は、甲第1号証において、欠陥を有するとされている比較例をわざわざ改良しようとは考えないと理解するのが相当であるから、比較例1から認定した甲1発明において、そのろう材ペーストを改良して錫を加える動機は存在しないというべきである。
したがって、甲第2号証の記載(上記4(2)参照)に関わらず、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ また、甲第1号証の比較例2の記載に基づき、甲第1号証に記載された発明を認定したとしても、上記イで検討したのと同様の理由により、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由1に理由はない。

6 申立理由2に対する判断
(1)サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)サポート要件適合性の判断
ア 発明の詳細な説明の段落【0002】?【0011】の記載からみて、本件発明の課題は、銅回路と銅放熱板の接合ろう材に同じ材料を用いても優れた耐熱サイクル性を有するセラミックス回路基板を得ることといえる。

イ そして、発明の詳細な説明の実施例には、窒化ケイ素からなるセラミックス基板の表面に銅回路、裏面に銅放熱板が、銀粉末90質量部及び銅粉末10質量部の合計100質量部に対して、チタンを3.5質量部及び錫を3質量部含む活性金属ろう材を介して接合した回路基板であって、銅回路側のAg拡散距離が15?73μmの範囲であり、銅放熱板側のAg拡散距離が11?77μmの範囲であり、銅回路側と銅放熱板側のAg拡散距離の差が0?9μmの範囲である回路基板(実施例1?13)、及び、銅回路側及び銅放熱板側のAg拡散距離が7?9μmの範囲又は85?100μmの範囲である回路基板(比較例1?4)が具体的に記載されており、実施例1?13の回路基板の耐ヒートサイクル性試験の水平クラック発生率が1%未満となり、比較例1?4の回路基板と比較して、銅板とセラミックス基板との接合や熱サイクル性が向上することも具体的に記載されているから、上記実施例1?13に記載された回路基板であれば、当業者において、銅回路と銅放熱板の接合ろう材に同じ材料を用いて、優れた耐熱サイクル性を有するセラミックス回路基板が得られ、本件発明の課題を解決できると認識できる。
また、発明の詳細な説明には、「本発明のAg成分の銅板への拡散距離は、10?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であることが好ましく、・・・。Ag成分の拡散距離が10μmより短い場合、銅板とセラミックス基板との接合が不十分となる。一方、80μmより長い場合、銅板の硬度が増加するため熱サイクル試験の際にクラックの発生をし易い傾向に進行し、銅板の剥離が発生する可能性が高くなるためである。」(段落【0023】)こと、「本発明のセラミックス回路基板に使用されるセラミックス基板としては、特に限定されるものではなく、・・・。但し、金属板を活性金属法でセラミックス基板に接合するため、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の非酸化物系セラミックスが好適である。」(段落【0015】)こと、及び、「活性金属法は、4A族元素や5A族元素のような活性金属を含むろう材層を介してセラミックス基板上に金属板を接合する方法である。」(段落【0006】)ことが記載されている。
加えて、Ag-Cuろう材中の活性金属やセラミックス基板の種類が、銅板へのAg拡散に基づく耐熱サイクル性に影響するとの技術常識が存在することを示す証拠もない。
したがって、発明の詳細な説明の上記記載や技術常識を併せ考えると、セラミックス基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブから選択される少なくとも一種の活性金属と錫とを含有するAg-Cuろう材を介して接合されてなるセラミックス回路基板であって、ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満であるセラミックス回路基板についても、上記実施例1?13と同様に、本件発明の課題を解決できることを当業者であれば認識することができるといえる。

ウ これに対して、本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、上記2のとおりであるところ、上記イのとおり、発明の詳細な説明には、本件発明1及び2に対応する「セラミックス回路基板」が記載され、さらに、当業者であれば、当該発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件発明1及び2が本件発明の課題を解決できると認識することができる。

エ したがって、上記(1)の判断手法に従えば、本件発明1及び2に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(3)申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
(ア)主張1
発明の詳細な説明には、本件発明に対応する実施例が記載されているが、当該実施例は、(i)銅回路側のAg拡散距離と銅放熱板側のAg拡散距離は、各部材の組成が同じであれば同じになることが技術常識であるところ、実施例1又は比較例5において、銅回路側のAg拡散距離と銅放熱板側のAg拡散距離が大きく異なっている点、(ii)甲第3号証の記載(上記4(3)参照)によれば、ろう材中のAg量が少ないとAgの拡散が起こりやすくなるといえるところ、実施例1よりも銀粉末の割合が少ないろう材を使用している比較例5における銅回路側のAg拡散距離(52μm)が、実施例1の同距離(54μm)より短くなっている点、(iii)比較例5において銅回路側のAg拡散距離と銅放熱板側のAg拡散距離との大小関係が、実施例1と逆転している点、及び、(iv)比較例5に対する「回路パターンの精度がその他の基板に対して悪化してしまった」(段落【0036】)との評価が具体的に記載されていない点で、不明瞭なものであるから、当該実施例は、本願発明1の「ろう材中のAg成分の銅板への拡散距離が10μm?80μmであり、且つ銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」との特定事項により、優れた耐熱サイクル性を有するセラミックス回路基板を得ることを裏付けるものではない(特許異議申立書第12頁第5行?第13頁第5行)。

(イ)主張2
発明の詳細な説明の実施例には、活性金属としてTiを用いる例しか記載されておらず、甲第4号証の記載(上記4(4)参照)によれば、活性金属の種類によって合金の濡れ性が異なるし、それぞれの活性金属の融点は異なっており、融点が異なればろう材の熔融状態での拡散の程度が大きく異なるし、さらに、Zr、Hf及びNbの場合においても、Tiの場合と同じ効果を奏することは記載されていないから、本件発明1の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できない(特許異議申立書第13頁第6行?第14頁第1行)。

イ 申立人の主張の検討
上記(2)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載にサポート要件違反の不備は見当たらないが、念のため、上記主張1及び2についてみてみる。

(ア)主張1について
申立人は、比較例5においても、銅回路側と銅放熱板側で同じ組成のAg-Cuろう材が使用されていることを前提にしているが、発明の詳細な説明の段落【0032】に記載されているとおり、比較例5では、銅回路側と銅放熱板側で異なる組成のAg-Cuろう材が使用されており、その前提が誤っているから、(i)の比較例5、(ii)及び(iii)に関する主張は採用できない。
次に、(i)の実施例1の点について検討すると、化学実験を行った場合に誤差が生じることは一般的であるから、同じ組成のAg-Cuろう材が使用されていたときのAg拡散距離に誤差が生じたとしても、実施例1が不明瞭となっているといえない。
最後に、(iv)の点について検討すると、本件発明1の「銅回路側と銅放熱板側の拡散距離の差が10μm未満である」との特定事項による作用効果は、本件発明の課題に直接関係するものでないから、当該作用効果の具体的に裏付けがないからといって、サポート要件を満たさない根拠にならない。
以上のとおりであるから、申立人1の主張1は採用できない。

(イ)主張2について
Ag-Cuろう材中の活性金属の種類によって、Ag-Cuろう材の濡れ性や融点が変化したとしても、当該活性金属が、銅板へのAg拡散に基づく耐熱サイクル性に影響しているといえないから、Zr、Hf及びNbの場合においても、Tiの場合と同じ効果を奏すると当業者であれば認識できる。
よって、申立人の主張2は採用できない。

(4)小括
以上で検討したとおりであるから、申立理由2に理由はない。

7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-25 
出願番号 特願2015-47905(P2015-47905)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 伊藤 真明
宮澤 尚之
登録日 2020-07-30 
登録番号 特許第6742073号(P6742073)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セラミックス回路基板  

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