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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F |
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管理番号 | 1375398 |
審判番号 | 不服2020-12335 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-02 |
確定日 | 2021-07-06 |
事件の表示 | 特願2020-502244「板状ばね部材」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/189644、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2019年(平成31年)3月28日(優先権主張 平成30年(2018年)3月28日)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年5月7日に意見書が提出されると共に手続補正がされ、令和2年5月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対し、令和2年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、原査定において、請求項5に係る発明は拒絶査定の対象となっていない。 引用文献1:特開2004-144132号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和2年5月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び2は以下のとおりの発明である。 [本願発明1] 「表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部の圧縮残留応力が500MPa以上とされ、前記表面からの深さが50μmを超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる圧縮残留応力分布を有し、 前記表面からの深さが0μmおよび50μmである2点間の圧縮残留応力の差分をΔσとし、前記2点間の前記表面からの深さの差分をΔzとするとき、I=Δσ÷Δzによって定義される残留応力勾配Iの値が、-24?-1.8MPa/μmである、板状ばね部材。」 [本願発明2] 「表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部の圧縮残留応力が500MPa以上とされ、前記表面からの深さが50μmを超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる圧縮残留応力分布を有し、 前記表面からの深さが0μmおよび30μmである2点間の圧縮残留応力の差分をΔσとし、前記2点間の前記表面からの深さの差分をΔzとするとき、I=Δσ÷Δzによって定義される残留応力勾配Iの値が、-40?-3MPa/μmである、板状ばね部材。」 なお、本願発明3は、本願発明1及び2を減縮した発明であり、本願発明4及び5は、それぞれ、本願発明1?3を減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明 1 引用文献1に記載の事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、高強度材を使用し、コンパクト化、軽量化および疲労強度の向上を目的とした皿ばねに関する。」 「【0007】 しかし、高強度の材料に対して、外表面にショットピーニングを施すと、ショットの粒子が軽いと外表面で跳ね返され、表面近傍のみにしか残留圧縮応力が付与されない。その結果、負荷がかかった場合に外表面から少し内部に入った部分、つまり、残留圧縮応力が十分に付与されていない部分で降伏応力に達し、皿ばねは、内部から折損してしまう場合がある。 【0008】 また、降伏応力に達しないように、内部まで十分な残留圧縮応力を付与するために、重い粒子でショットピーニングを行なうと、皿ばねの表面が荒れてしまう。表面に凹凸部が形成されると、負荷がかかった場合に応力が集中しやすいので、疲労破壊、つまり折損の起点となる場合がある。 【0009】 そこで、本発明は、高強度材を用いて耐久性に優れた皿ばね、及びこの皿ばねの製造方法を提供することを目的とする。」 「【0014】 また、皿ばね1は、外表面4,5に700?1500MPaの残留圧縮応力が存在し、かつ、外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲に残留圧縮応力が付与された残留応力付与部6が形成されている。」 「【0029】 残留応力の計測は、X線応力解析装置を用い、外表面からエッチングで少しずつ溶かして実施した。その結果を図3の外表面からの深さと残留応力の関係のグラフに示す。図3に示すように、本実施形態の皿ばねは、板厚2mmの皿ばねに対して0.1mm、すなわち外表面から板厚の5%以上までの範囲にわたって700MPa以上の残留圧縮応力が付与されており、その値はセッチング後にも維持されていることがわかる。また、板厚2mmに対して0.3mm、すなわち板厚に対して15%の範囲まで、残留圧縮応力が付与されている。図3に示した従来の皿ばねの残留応力の分布と比較して、残留圧縮応力が深い位置まで付与されているとともに、セッチングによる残留圧縮応力の低下が小さい。」 「【0037】 図4は、異なる条件でショットピーニングを施し、外表面から残留圧縮応力が付与されている深さが異なる皿ばねについて、耐久試験を行なった結果を示す。耐久試験の条件は、皿ばねの引張応力がかかる範囲の最大応力が667?1569MPaとなる繰返し応力をかけて行なった。また、繰返し回数は、2×10^(6)回を上限とし、1×10^(5)回を耐久性の目標値とした。図4に示すように、残留圧縮応力が付与されている範囲が外表面から板厚方向に深くなるに連れて、皿ばねの耐久性は向上し、板厚の15?20%前後をピークに耐久性が低下する。残留圧縮応力の付与された範囲が増すにつれて耐久性が低下している原因の一つとして、皿ばねの板厚に対して残留圧縮応力の範囲(割合)が大きくなりすぎ、引張応力を担う範囲が狭くなったことが挙げられる。」 2 引用文献1に記載の発明 引用文献1の記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 [引用発明] 「外表面4,5に700?1500MPaの残留圧縮応力が存在し、かつ、外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲に残留圧縮応力が付与された残留応力付与部6が形成されている、皿ばね1。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「皿ばね1」は、本願発明1の「板状ばね部材」に相当する。 引用発明の「外表面4,5」及び「残留圧縮応力」は、本願発明1の「表面」及び「圧縮残留応力」に相当する。 引用発明の「外表面4,5に700?1500MPaの残留圧縮応力が存在」することは、外表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部であるといえる外表面(外表面からの深さが0μmである部分)の残留圧縮応力が500MPa以上(700?1500MPa)であるといえるから、本願発明1の「表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部の圧縮残留応力が500MPa以上とされ」ることに相当する。 引用発明の「外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲に残留圧縮応力が付与された残留圧縮応力付与部6が形成されている」ことは、外表面4,5からの深さが、かかる所定範囲を越える部分では、残留圧縮応力が付与されていない、すなわち500MPa未満とされているといえるから、本願発明1の「前記表面からの深さが50μmを超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる」こととの対比において、「前記表面からの深さが所定範囲を超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる」との限度で共通する。 そして、引用発明も、「外表面4,5に700?1500MPaの残留圧縮応力が存在し、かつ、外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲に残留圧縮応力が付与された残留応力付与部6が形成されている」という残留圧縮応力の分布を有しているといえる。 したがって、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部の圧縮残留応力が500MPa以上とされ、前記表面からの深さが所定範囲を超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる圧縮残留応力分布を有する、板状ばね部材。」 [相違点1] 本願発明1では「前記表面からの深さが50μmを超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる」であるのに対し、引用発明では、「残留圧縮応力が付与され」ていない、すなわち、残留圧縮応力が500MPa未満であるといえる範囲が、「外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲」を越える深さの部分とされている点。 [相違点2] 本願発明1では、「前記表面からの深さが0μmおよび50μmである2点間の圧縮残留応力の差分をΔσとし、前記2点間の前記表面からの深さの差分をΔzとするとき、I=Δσ÷Δzによって定義される残留応力勾配Iの値が、-24?-1.8MPa/μmである」とされているのに対し、引用発明では、かかる特定がされていない点。 (2)相違点についての判断 相違点1について検討する。 引用文献1の段落【0007】?【0009】、【0029】及び【0037】の記載からすれば、引用文献1においては、耐久性に優れた皿ばねを提供するためには、外表面から内部にまで十分な残留圧縮応力を付与することが有利であることが示されていると認められ、そのために、皿ばねの表面のみならず、皿ばねの板厚に対してある程度の深さ(例えば、数mmの板厚の15?20%前後の深さ)にまで残留圧縮応力を付与することが記載ないし示唆されているといえる。 そして、引用発明の「皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲」は、皿ばね1の板厚を一般値tで表した際の上記ある程度の深さを示し、その下限近傍の範囲は皿ばね1の板厚tが比較的厚い場合に対応するものといえる。 そうだとすれば、引用文献1に実施形態として示されている、皿ばね1の板厚tを2mmとして(段落【0029】)、引用発明の「外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲に残留圧縮応力が付与され」ていることにおいて、こと更その下限近傍の値である2.5%を選択し、引用発明において、皿ばね1の外表面4,5から50μmの深さまで700?1500MPaの残留圧縮応力を付与し、外表面4,5から50μmを越える部分には残留圧縮応力を付与しないものとする動機付けはないといえる。なお、上記実施形態としては、「板厚2mmの皿ばねに対して0.1mm、すなわち外表面から板厚の5%以上までの範囲にわたって700MPa以上の残留圧縮応力が付与されており」、「板厚2mmに対して0.3mm、すなわち板厚に対して15%の範囲まで、残留圧縮応力が付与されている」(段落【0029】)から、50μmを越える部分にも残留圧縮応力を付与している。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の構成となすことは当業者といえども容易に想到することはできない。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2について (1)対比 1(1)より、本願発明2と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「表面からの深さが50μm以内の部分のうち少なくとも一部の圧縮残留応力が500MPa以上とされ、前記表面からの深さが所定範囲を超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる圧縮残留応力分布を有する、板状ばね部材。」 [相違点1’] 本願発明2では「前記表面からの深さが50μmを超える部分の圧縮残留応力が500MPa未満とされる」であるのに対し、引用発明では、「残留圧縮応力が付与され」ていない、すなわち、残留圧縮応力が500MPa未満であるといえる範囲が、「外表面4,5から内部方向へ皿ばね1の板厚tに対して2?30%までの範囲」を越える深さの部分とされている点。 [相違点2’] 本願発明2では、「前記表面からの深さが0μmおよび30μmである2点間の圧縮残留応力の差分をΔσとし、前記2点間の前記表面からの深さの差分をΔzとするとき、I=Δσ÷Δzによって定義される残留応力勾配Iの値が、-40?-3MPa/μmである」とされているのに対し、引用発明では、かかる特定がされていない点。 (2)判断 相違点1’は、相違点1と同じであるから、1(2)と同様の理由により、引用発明において、相違点1’に係る本願発明2の構成となすことは当業者といえども容易に想到することはできない。 したがって、相違点2’について検討するまでもなく、本願発明2は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明3及び4について 本願発明3及び4は、本願発明1又は2をさらに限定したものであるから、1及び2と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1?4は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-06-18 |
出願番号 | 特願2020-502244(P2020-502244) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鵜飼 博人 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 中村 大輔 |
発明の名称 | 板状ばね部材 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 荒 則彦 |
代理人 | 仁内 宏紀 |