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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1375515
審判番号 不服2019-8180  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-19 
確定日 2021-06-22 
事件の表示 特願2016-543395「光吸収モニタシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日国際公開、WO2015/044020、平成28年 9月29日国内公表、特表2016-530546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)9月18日(パリ条約による優先権主張 2013年9月24日 インド)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月19日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成31年2月8日付けで拒絶査定されたところ、令和元年6月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において令和2年2月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日付けで意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出され、同年9月25日付けで拒絶理由(最後の拒絶理由)が通知され、同年12月1日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 UV域の光を発光できる発光ダイオード(UV-LED)を備える光源と、
光検出器の間に吸収検出光路を画成するように、かつ、吸収信号を記録するように配置された光検出器と、
流体流路及び2つの対向する窓を有するフローセルであって、2つの対向する窓が、2つの対向する窓の間に吸収検出光路を提供しており、一方の窓が、前記UV-LEDからの光を受光するように配置され、他方の窓が、前記吸収検出光路からの光を前記光検出器へ出力するように配置されている、フローセルと、
光源の動作を制御するように構成されたコントローラと、
前記UV-LEDの温度を記録するための温度センサと、
を備える吸収モニタシステムであって、
前記コントローラが、UV-LEDが動作した総時間(LED使用時間)を記録し、所定の使用時間補正曲線に基づいて前記光検出器によって記録された前記吸収信号に使用時間補正を加えるように構成されており、
前記UV-LEDの温度は、前記UV-LEDに熱伝達ユニットを配置することによって設定温度に能動的に制御されることを特徴とする吸収モニタシステム。」

第3 拒絶の理由
令和2年9月25日付けの当審が通知した拒絶理由(最後の拒絶理由)は、次のとおりである。
本願発明は、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に例示される周知技術に基づいて、その優先権主張日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2002-5826号公報
引用文献2:特開2008-249418号公報
引用文献3:国際公開第2013/137145号
引用文献4:特開平9-5038号公報
引用文献5:特開昭64-49937号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(引1ア)
「【0025】図1は本発明の第1の実施例に係る光吸収式オゾン濃度計の構成を示す模式図である。図1に示すように、光吸収式オゾン濃度計1の試料セル2は、その試料入口2aが三方電磁弁3を介して、一方のみオゾン分解器4に接続しており、試料導入口(図示せず)から導入されたオゾン含有した試料ガス又は試料水、あるいは試料導入口からオゾン分解器4を通過してオゾンフリーとなった試料ガス又は試料水が試料セル2へ導かれるように構成されている。試料セル2の試料出口2bは流量計5及びニードルバルブ6を介して吸引ポンプ7に接続され、一定流量の試料ガス又は試料水が試料セル2を通過するように吸引されている。
【0026】紫外線光源はダイヤモンド薄膜を使用した固体式紫外線発光素子8(以下、固体式LEDという。)を有し、パルス電圧を出力するパルス電源9及び電流計10に接続され、パルス電源9より出力されたパルス電圧によりパルス的な発光が行われる。このパルス発光に同期して、試料セル2の固体式LED8とは反対側に設けられた検出器11にて固体式LED8により発光され試料セル2を透過した透過光13の強度が検出される。また、電流計10により電流を測定し、固体式LED8に印加される電圧が適切に制御されている。検出器11はCPU14に接続されており、検出器11によって透過光13を光電変換し、その検出信号15がCPU14にてオゾン濃度に変換され、このCPU14に接続した表示部12によりこのオゾン濃度が表示される。
【0027】このように構成された光吸収式オゾン濃度計1の動作について説明する。先ず、試料導入口から試料ガス又は試料水を導入し、オゾン分解器4にて試料ガス又は試料水内のオゾンを除去する。そして、オゾンフリーとなった試料ガス又は試料水を試料入口2aから試料セル2内へ導入する。この試料セル2に固体式LED8より発光された紫外線12を透過し、試料セル2内のオゾンフリーの試料ガス又は試料水を透過した透過光13の強度I0を検出器11によって計検出する。続いて、三方電磁弁3を切替え、オゾン分解器4を通過せずに、オゾンを含有したままの状態の試料ガス又は試料水を試料セル2内へ導入する。この試料セル2に固体式LED8より発光された紫外線12を透過すると、試料ガス又は試料水に含まれるオゾンにより紫外線12が吸収を受け、この透過光13の強度Iを検出器11によって検出する。そして検出された透過光13の強度I0及び強度Iの検出信号15を検出器11からCPU14へ送り、ここで強度I0及び強度Iを後述する返還式にてオゾン濃度cに変換し、これを表示器16により表示する。なお、試料セル2へ導かれた試料ガス及び試料水は、試料出口2bから吸引ポンプ7により一定流量吸引され、流量計5及びニードルパイプを通って排出されている。
【0028】このように構成された第1の実施例においては、光吸収式オゾン濃度計1に、紫外線光源として固体式紫外線発光素子を使用しているため、従来使用されている低圧水銀ランプと比較して、光源及び検出部を一体化できる等、装置の小型化ができると共に光源が長寿命化する。
【0029】また、光吸収式オゾン濃度計1は、光源の固体式LED8による紫外線は、放電発光に見られるようなちらつきが少ないため、輝度のバラツキがなく、発光強度が安定しており、固体式LED8に流す電流を制御することにより輝度を一定値に維持することができるため、従来の低圧水銀ランプでは必要であった輝度変動を補正するための発光強度モニタ及び発光強度を補正するシステムを設ける必要がなく、装置を小型化及び低コスト化することができる。」

(引1イ)図1


2 引用発明
上記1からみて、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。

「 光吸収式オゾン濃度計であって、試料セル2は、その試料入口2aが三方電磁弁3を介して、一方のみオゾン分解器4に接続しており、試料導入口から導入されたオゾン含有した試料ガス又は試料水、あるいは試料導入口からオゾン分解器4を通過してオゾンフリーとなった試料ガス又は試料水が試料セル2へ導かれるように構成され、試料セル2の試料出口2bは流量計5及びニードルバルブ6を介して吸引ポンプ7に接続され、一定流量の試料ガス又は試料水が試料セル2を通過するように吸引されており、
紫外線光源はダイヤモンド薄膜を使用した固体式紫外線発光素子8(以下、固体式LEDという。)を有し、パルス電圧を出力するパルス電源9及び電流計10に接続され、パルス電源9より出力されたパルス電圧によりパルス的な発光が行われ、このパルス発光に同期して、試料セル2の固体式LED8とは反対側に設けられた検出器11にて固体式LED8により発光され試料セル2を透過した透過光13の強度が検出され、また、固体式LED8に流す電流を制御することにより輝度を一定値に維持することができ、検出器11はCPU14に接続されており、検出器11によって透過光13を光電変換し、その検出信号15がCPU14にてオゾン濃度に変換され、このCPU14に接続した表示部12によりこのオゾン濃度が表示される、光吸収式オゾン濃度計。」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(引2ア)
「【0014】
特に、LEDなどの半導体発光素子は、水銀ランプ等の光源に比べて、発光量の温度依存性が高かったり、点灯直後と安定状態とにおける発光量の差が大きかったりすることがあり、その発光量を参照用受光素子によって監視することが重要となることがある。更に、最近開発された紫外光LEDのように、寿命が非常に短く、更には光量が小さいLEDを用いる場合などには、その寿命や光量を参照用受光素子によって検出することが重要となることがある。」

(引2イ)
「【0023】
実施例1
[光源モジュールの全体構成]
先ず、本発明に係る測定装置用光源モジュール(以下、単に「光源モジュール」という)の一実施例の全体構成について説明する。本実施例では、この光源モジュールは、本発明に係る測定装置の一実施例である後述する有機物濃度測定装置において用いられる。
【0024】
図1は、本実施例の光源モジュール1の概略分解図である。図2は、本実施例の光源モジュール1の概略断面図である。又、図3は、本実施例の光源モジュール1の内部構造を示す概略平面図である。
・・・
【0027】
パッケージ2内にパッケージ化される内部構造10は、第1の半導体発光素子としてのピーク波長が255nmのチップ型の紫外光LED(紫外光LEDチップ)11と、第2の半導体発光素子としてのピーク波長が660nmのチップ型の可視光LED(可視光LEDチップ)12と、参照用半導体受光素子(半導体光電変換素子)としてのフォトダイオード(以下「参照用PD」という)13と、温度検出素子としての測温抵抗体センサ(以下「温度センサ」という)14と、を有する。又、内部構造10において、紫外光LED11、可視光LED12、参照用PD13及び温度センサ14は、固定部としての基板15の同一面上に固定されている。更に、内部構造10には、基板15を支持するように設けられた冷却機構としての熱電冷却機構16が設けられている。尚、本実施例では、光源モジュール1が後述する有機物濃度測定装置に搭載された状態で、基板15の紫外光LED11などが固定される面は、光源モジュール1から試料導入部に向けて延びる光軸と交差(本実施例では略直交)するようになっている。
・・・
【0035】
温度センサ14は、パッケージ2の内部の温度(パッケージ2の内部の雰囲気温度で代表)を検出するようになっている。
・・・
【0037】
熱電冷却機構16は、ペルチェ冷却機構であり、上下に間隔をあけて対向配置された第1、第2の冷却機構基板16a、16bと、これら第1、第2の冷却機構基板16a、16bの間に配置された熱電変換素子であるペルチェ素子16cと、を有する。図示は省略するが、ペルチェ素子16cは、第1、第2の冷却機構基板16a、16bの対向する面に沿って間隔をあけて複数起立して設けられている。又、図示は省略するが、第1、第2の冷却機構基板16a、16bの対向する面には、複数のペルチェ素子16c間を電気的に接続する電極が設けられている。そして、パッケージ2のベース21側の第2の冷却機構基板16bがこのベース21に固定され、ベース21とは反対側の第1の冷却機構基板16a上に、紫外光LED11などが固定された基板15が固定される。このように、ベース21は、熱電冷却機構16を介して、紫外光LED11などの各種素子を支持する。
【0038】
本実施例では、パッケージ2の内部には封入ガスとして乾燥窒素(N2)が封入される。そして、少なくとも光源モジュール1の作動中、特に、発光中には、パッケージ2の内部の温度が5℃になるように冷却機構16によって温度制御がなされる。
・・・
【0048】
斯かる構成により、制御回路105は、詳しくは後述する所定の態様で紫外光LED11、可視光LED12を点灯/消灯させて、測定用PD103からの出力信号と参照用PD13からの出力信号とに基づいて、セル102内を流通する試料液中の有機物の濃度を求めることができる。又、制御回路105は、温度センサ14からの出力信号に応じて冷却機構16を駆動させて、光源モジュール1のパッケージ2内の温度を所望の温度(本実施例では5℃)に調整する。
【0049】
本実施例の測定装置100では、図16を参照して前述した従来の測定装置200と同様にして、試料液の濁度成分の影響をキャンセルして、試料液中に含まれる有機物の濃度を求めることができる。即ち、制御回路105は、測定用PD103がピーク波長255nmの紫外線を検出してその光量に応じて出力した信号V_(UV)と、光源モジュール1に内蔵された参照用PD13がピーク波長255nmの紫外線を検出してその光量に応じて出力した信号(V_(REF1))とに基づいて、下記式より紫外線の吸光度(見かけ上の吸光度)を求める。
A_(UV)=logV_(REF1)/V_(UV)
【0050】
又、制御回路105は、測定用PD103がピーク波長660nmの可視光を検出してその光量に応じて出力した信号(V_(VIS))と、光源モジュール1に内蔵された参照用PD13がピーク波長660nmの可視光を検出してその光量に応じて出力した信号V_(REF2)とに基づいて、下記式より可視光の吸光度を求める。
A_(VIS)=logV_(REF2)/V_(VIS)
【0051】
そして、濁度による吸光度を含んでいる見かけ上の紫外線の吸光度A_(UV)から、濁度による吸光度である可視光の吸光度A_(VIS)を差し引き、試料液中の有機物による吸光度A_(UV-VIS)を求めることができる。
A_(UV-VIS)=A_(UV)-A_(VIS)
【0052】
更に、制御回路105は、予め求められて制御回路105に内蔵されるか制御回路105に接続されている記憶手段(ROM等)に格納されている有機物濃度と吸光度との関係を参照することで、上述のようにして求めた有機物による吸光度から、試料液中の有機物濃度を求めることができる。」

(引2ウ)
「【0054】
1)紫外光LEDと可視光LEDの点灯態様 本実施例では、有機物濃度測定装置において従来用いられる水銀ランプの代替光源として、紫外光LEDを使用する。本発明者らの検討によれば、紫外光LEDは、例えば光量が半減するまでの寿命が定格運転で10時間程度と非常に短い。又、この紫外光LEDは、水銀ランプと比較すると光量が小さい。」

(引2エ)図2


4 引用文献3の記載
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

(引3ア)
「[0049] 上記透過型測定装置にかかる実施形態の変形例を図15に示す。この図に示す変形例は、厚肉の被検体などについての透過光型の測定装置である。この変更例においても被検体測定部101は、発光側101aと受光側101bとに分離しており、発光側101aの発光部から放出される光を被検体に照射し、その透過光を受光側101bで受光し、当該被検体の生体成分濃度を測定するものである。なお、発光側101aに備えられる発光素子、処理装置および表示部103は、前記の実施形態と同様であり、受光側101bに備えられる受光素子モジュール等についても、前記の実施形態と同様である。」

(引3イ)
「[0058] さらに、これらの受光素子はペルチエ素子などの温度調整用の素子を受光素子の底辺部、周辺部に配置し所定の温度に保持することによりさらに精度を向上することができる。受光素子61の底面(下部)にペルチエ素子400を配置した構成を図18(a)に示す。このような構成により、受光素子61の温度安定化により検出精度を向上できる。さらに発光素子としてLED(発光ダイオード)等使用する場合は発光素子と受光素子の底面部にそれぞれペルチエ素子400を配置してもよい。また、図18(b)に示すように単一のペルチエ素子400を発光素子部(発光モジュール)407と受光素子(受光モジュール)460に配置する構成としてもよい。この場合、受発光のための両素子を含めた一つのモジュール化を実現させ、発光側407および受光側460を所定の温度に保持することができ小型化、コストダウンに寄与できる。このように所定の温度に保持することにより発光光度、発光波長安定化によりさらに検出精度を向上することができる。」

5 引用文献4(旧引用文献6)の記載
引用文献4は、令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献6(旧引用文献6)であり、以下の事項が記載されている。

(引4ア)
「【0035】尚、図1の実施例では、光源の経時変化を監視するモニタ機構を備えた実施例が示されているが、基本的には、モニタ機構を備えることなく、経時変化を演算処理装置等で補正することも可能であることは言うまでもない。上記実施例では、一例として一波長で測定する実施例が示されているが、二波長以上を選択してより光の強度を高めて吸光度を計測することも可能であることは言うもでもない。」

6 引用文献5(旧引用文献4)の記載
引用文献5は、令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献4(旧引用文献4)であり、以下の事項が記載されている。

(引5ア)
「〈産業上の利用分野〉
本発明は、光源とこの光源から発せられた光の特定の波長領域の光量を計測する受光手段を備え、試料中の葉緑素などの特定物質がもつ波長に関する吸光度差を利用して上記特定物質の濃度を測定する光学濃度計に関する。」(1頁右下欄4?9行)

(引5イ)
「光源である発光ダイオードは、光量やビーク波長が周囲温度や使用時間によって変化するという性質を有するため、正確な測定を行なうには発光光量の予備調整、校正あるいは測定光量の補正が不可欠である。」(2頁右上欄末行?左下欄4行)

7 旧引用文献1の記載
令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献1:特表2009-517641号公報(以下「旧引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(旧引1ア)
「【0013】
核酸の検出系における光源として深UV発光ダイオードを使用することが米国特許出願公開第2005/0133724号に開示されている。ただし、LEDを用いた検出系が開示されてはいるが、提案された系がPCRアッセイでの核酸量の測定に実際にうまく使用できたことを示す実験データはない。この系は、バンドパスフィルターも、ビームスプリッターと対照検出器も使用していないので、感度、直線性及びダイナミックレンジに欠けると思料される。LEDは温度のわずかな変化にも極めて感受性であり、摂氏百分の一度程度の温度変化でもベースラインにドリフトを生じる。しかも、この系には、バンド幅を狭くするとともに可視スペクトル域の光を遮蔽する働きをするバンドパスフィルターが存在しない。試料の本来のバンド幅よりも狭い、好ましくは1/10比の狭いバンド幅で、応答の良好な直線性及び広いダイナミックレンジが得られる(Practical Absorbance Spectrometry. Ed. A Knowles and C. Burgess, Chapman and Hall, New York)。」

8 旧引用文献2の記載
令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献2:特開2003-65951号公報(以下「旧引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(旧引2ア)
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】一般的に、吸光度検出器の発光部に用いる光源の発光量は温度や時間経過などにより変動するため、吸光度の測定値に誤差を与える要因になっている。このような場合には、光源の光強度の変動を補正するため、サンプルの入ったセル部を透過した光の強度を測定すると同時に、サンプルを透過していない光源からの直接光を測定する方式か、又はサンプルの入ったセル部に2つの光路を設け、サンプルを透過した光と透過していない光の両方の光強度を測定する2光路方式が採用される場合が多い。
【0010】2光路方式の吸光度検出器の場合、光源からの光をハーフミラーなどによってサンプル用の光路と参照用の光路とに分ける方法が頻繁に用いられる。しかし、このような2光路方式は、構造が極めて複雑になるだけでなく、製造コストも非常に高くなるという欠点があった。特にLEDを光源に用いた簡易的な吸光度検出器の場合には、このような2光路方式の吸光度検出器では簡便で安価であるというメリットが完全に失われてしまう。」

9 旧引用文献3の記載
令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献3:特開昭62-249033号公報(以下「旧引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(旧引3ア)
「発光素子M1及び受光素子M2は、その使用温度が変化すると、発・受光特性が変化するが、本発明では発光素子M1及び受光素子M2を収納するケーシングM6内にその温度を検出する温度センサM7が設けられ、検出回路M4に設けられた補正手段M8が、温度センサM7の検出結果に応じて発光索子M1に供給する電流値もしくは受光素子M2からの受光信号を補正する。従って検出回路M4から出力される検出信号は発光素子M1や受光素子M2の使用温度に影響されることなく、常にスモーク濃度に対応した値となる。」(3頁右下欄13行?4頁左上欄4行)

(旧引3イ)
「電流検出用抵抗R2の両端に生ずる電圧は、発光ダイオード52やフォトダイオード54の温度特性、特に第8図に示した発光ダイオード52の発光強度の温度変化により、高温となる程低くなるので、非反転増幅回路74にはその温度変化による検出誤差を補償するため、増幅度を決定する抵抗の一つに上記サーミスタ56が用いられている。」(5頁左上欄14行?右上欄1行)

10 旧引用文献5の記載
令和2年2月13日付け当審拒絶理由で引用された引用文献5:特開2009-279576号公報(以下「旧引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(旧引5ア)
「【0036】
各補正テーブルは、各LEDチップ8の出力低下(出力劣化)を補正するために、各LEDユニット2への供給電力の設定に用いられる補正値を累積放射時間ごとに対応付けたものである。各補正テーブルは、図2(a)に示すような、累積放射時間に対するLEDユニット2の相対光出力を示す相対光出力特性から求められる。相対光出力とは、LEDユニット2の使用開始時の光出力に対する光出力の比を示す。各補正テーブルは、図2(b)?(d)に示す。

(旧引5イ)図2


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「固体式紫外線発光素子8(以下、固体式LEDという。)」は、本願発明の「UV域の光を発光できる発光ダイオード(UV-LED)を備える光源」に相当する。

2 引用発明の「試料セル2の固体式LED8とは反対側に設けられた検出器11」は、本願発明の「光検出器の間に吸収検出光路を画成するように、かつ、吸収信号を記録するように配置された光検出器」に相当する。

3 引用発明の「一定流量の試料ガス又は試料水が」「通過する」「試料セル2」であって、「試料セル2の固体式LED8とは反対側に」「検出器11」が「設けられ」、「固体式LED8により発光され試料セル2を透過した透過光13の強度が検出され」る、「試料セル2」は、本願発明の「流体流路及び2つの対向する窓を有するフローセルであって、2つの対向する窓が、2つの対向する窓の間に吸収検出光路を提供しており、一方の窓が、前記UV-LEDからの光を受光するように配置され、他方の窓が、前記吸収検出光路からの光を前記光検出器へ出力するように配置されている、フローセル」に相当する。

4 引用発明は、「固体式LED8に流す電流を制御することにより輝度を一定値に維持することができ」るから、「固体式LED8に流す電流を制御する」手段を備えていることは明らかである。よって、引用発明は、本願発明の「光源の動作を制御するように構成されたコントローラ」に相当する構成を備えているといえる。

5 引用発明の「光吸収式オゾン濃度計」は、本願発明の「吸収モニタシステム」に相当する。

第6 一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。

(一致点)
「 UV域の光を発光できる発光ダイオード(UV-LED)を備える光源と、
光検出器の間に吸収検出光路を画成するように、かつ、吸収信号を記録するように配置された光検出器と、
流体流路及び2つの対向する窓を有するフローセルであって、2つの対向する窓が、2つの対向する窓の間に吸収検出光路を提供しており、一方の窓が、前記UV-LEDからの光を受光するように配置され、他方の窓が、前記吸収検出光路からの光を前記光検出器へ出力するように配置されている、フローセルと、
光源の動作を制御するように構成されたコントローラと、
を備える吸収モニタシステム。」

(相違点1)
本願発明は、「前記UV-LEDの温度を記録するための温度センサ」を備え、「前記UV-LEDの温度は、前記UV-LEDに熱伝達ユニットを配置することによって設定温度に能動的に制御される」のに対し、引用発明は、このように構成されていない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記コントローラが、UV-LEDが動作した総時間(LED使用時間)を記録し、所定の使用時間補正曲線に基づいて前記光検出器によって記録された前記吸収信号に使用時間補正を加えるように構成されて」いるのに対し、引用発明は、このように構成されていない点。

第7 判断
上記相違点について、判断する。

(1)相違点1について
引用文献2(上記第4の3参照。)には、パッケージ2の内部において、紫外光LED11及び温度センサ14が固定されている基板15に、熱電冷却機構16が設けられ、温度センサ14からの出力信号に応じて紫外光LED11の発光中には、パッケージ2の内部の温度が5℃になるように熱電冷却機構16によって温度制御がなされることが記載されていることから、紫外光LED11の温度を温度センサ14からの出力信号に応じて所定の温度に能動的に保持することが開示されているといえる。また、引用文献3(上記第4の3参照。)には、LEDの底面部に温度調整用の素子を配置することにより、LEDを所定の温度に保持することが記載され、温度調整用の素子の温度調整に温度センサからの出力信号を用いることは自明であるから、LEDを温度センサからの出力信号に応じて所定の温度に能動的に保持することが開示されているといえる。よって、引用文献2及び3の記載から、LEDを光源に用いた吸収度測定装置において、LEDに熱伝達ユニットを配置することによって、LEDの温度を温度センサからの出力信号に応じて設定温度に能動的に制御することは、周知技術であるといえる。
そして、LEDを光源に用いた吸収度測定装置において、LEDの発光量が、温度により変動するため、吸光度の測定値に誤差を与える要因になることは、引用文献2、3、5及び旧引用文献1?3(上記第4参照。)に記載されているようによく知られていることから、LEDを光源に用いた吸収度測定装置である引用発明において、吸光度の測定値に誤差を与える要因を抑えることは、内在する課題である。
してみると、引用発明において、吸光度の測定値に誤差を与える要因を抑えるために、上記周知技術に鑑み、LEDに熱伝達ユニットを配置することによって、LEDの温度を温度センサからの出力信号に応じて設定温度に能動的に制御することで、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
吸収度測定装置において、光源の発光量に基づいて吸光度の測定値に補正を加えることは、例えば、引用文献4、5及び旧引用文献3(上記第4参照。)に記載されているように周知技術である。また、LEDの発光量が使用時間に応じて低下することは、引用文献2、5及び旧引用文献2、5(上記第4参照。)に記載されているように周知技術であり、旧引用文献5の図2(a)からは、LEDの発光量が非線形に低下することを読み取ることができる。
してみると、引用発明において、吸光度の測定値に誤差を与える要因を抑えるために、上記種々の周知技術に鑑み、LEDの使用時間曲線に基づいて吸光度の測定値に補正を加えることで、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用文献1?5及び旧引用文献1?3、5の記載から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)したがって、本願発明は、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び上記種々の周知技術に基づいて、その優先権主張日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 請求人の主張について

請求人は、令和2年12月1日提出の意見書において、「UV-LEDの使用時間と温度との両方を考慮することは相乗効果をもたらします。これは、UV-LEDの使用時間補正曲線が非線形であるためです(図5を参照)。したがって、UV-LEDの使用時間と動作温度との両方を考慮しないと、UV-LEDの出力強度を制御するために適用できる補正の精度は低くなります。使用時間と温度制御との両方により、UV-LEDは、UV-LEDのライフサイクル全体を通じて最適なポイントにバイアスをかけることができます。これにより、製品濃度を測定する際の精度が維持され(図6を参照)、UV-LEDの動作寿命も長くなります。」と主張する。
ここで、「使用時間と温度制御との両方により、UV-LEDは、UV-LEDのライフサイクル全体を通じて最適なポイントにバイアスをかけることができ」ることによる相乗効果について検討する。
本願明細書には、「温度制御」と「適切なポイントにバイアスをかけること」との関係については、「一実施形態によれば、UV-LED20の温度は、設定温度に能動的に制御されてもよい(例えば、UV-LED20の温度を所望の設定点に維持するためにUV-LED20を加熱及び/又は冷却するための、ペルチェ素子などの熱伝達ユニットを備える温度制御機構(図示せず)によって)。」(【0029】)と記載され、UV-LED20の温度の能動的制御の一例として、適切なポイントにバイアスをかけるために(所望の設定点に維持するために)UV-LED20の温度を能動的に制御することが示されている。しかしながら、本願明細書では、適切なポイント(所望の設定点)がUV-LED20の使用時間に応じてどのように変化するのかの記載がないことから、UV-LED20の使用時間を考慮した適切なポイント(所望の設定点)が不明である以上、「UV-LEDは、UV-LEDのライフサイクル全体を通じて最適なポイントにバイアスをかける」ための温度制御を行う構成が不明である。
仮に、当業者にとってUV-LED20の使用時間を考慮した適切なポイント(所望の設定点)が不明でなければ、「UV-LEDのライフサイクル全体を通じて最適なポイントにバイアスをかける」ための温度制御を行うことができると思われる。
しかし、本願発明は、「前記UV-LEDの温度は、前記UV-LEDに熱伝達ユニットを配置することによって設定温度に能動的に制御される」と特定されているだけであり、「設定温度」が「UV-LED20の使用時間を考慮した所望の設定点に維持するための温度」であると特定されていない。
よって、本願発明は、必ずしも「UV-LEDのライフサイクル全体を通じて最適なポイントにバイアスをかける」ための温度制御ができるとの効果を奏する発明であるとはいえない。
したがって、相乗効果に関する請求人の上記主張は、本願発明の構成に基づく主張でなく、採用することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-08 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-02-03 
出願番号 特願2016-543395(P2016-543395)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 真吾塚本 丈二  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
発明の名称 光吸収モニタシステム  
代理人 崔 允辰  
代理人 田中 研二  
代理人 飯田 雅人  

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