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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03B
管理番号 1375620
審判番号 不服2020-16650  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-03 
確定日 2021-07-20 
事件の表示 特願2018-106252号「視覚センサのレンズまたはレンズカバーの異常検出システム」拒絶査定不服審判事件〔令和元年12月12日出願公開、特開2019-211571号、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成30年6月1日を出願日とするものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 4月 6日付け:拒絶理由通知
令和2年 6月 4日 :意見書の提出
令和2年 9月 9日付け:拒絶査定(謄本発送日 同年同月15日 以下
「原査定」という。)
令和2年12月 3日 :審判請求書の提出

2 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明12」とそれぞれいう。)は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりのものである(A?Cは、本願発明1を分説するために当審で付した。以下「構成A」などという。)。
「【請求項1】
A 産業機械またはその周辺領域に設置され、複数の画像データを取得する視覚センサを備える、視覚センサのレンズまたはレンズカバーの異常検出システムであって、
B 前記視覚センサによって撮影された前記画像データに基づいて、前記視覚センサのレンズまたはレンズカバーの汚れ度合いを算出する算出部と、
C 前記算出部によって計測された前記レンズまたはレンズカバーの汚れ度合いに基づき、前記レンズまたはレンズカバーの将来実施されるべき予測清掃タイミングに関する情報を算出する予測部と、を有する
A 視覚センサのレンズまたはレンズカバーの異常検出システム。」

3 引用文献及び引用発明
(1)引用文献A及び引用発明
ア 本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2012-173045号公報(以下「引用文献A」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板などの検査対象物の表面に存在する微小欠陥を検査する表面検査装置の検査性能を評価する評価装置及び評価方法に関する。

(イ)「【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(構成)
図1は、本実施形態における表面検査装置とその評価装置の構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図中、符号1は製造ライン上を搬送中の鋼板(検査対象物)であり、符号10は鋼板1の表面(検査面)1aに存在するスケール残り等の微小表面欠陥を検査する表面検査装置である。この図1は、表面検査装置10による検査面1aの検査時における状態を示している。
表面検査装置10は、リング照明11と、光源12と、カメラ13と、カメラケース14と、画像処理装置15とを備える。リング照明11は、鋼板1の検査面1aに平行に配置されて検査面1aを照射するものであり、光源12と連結されている。光源12としては、キセノンストロボ装置等が好適である。

(ウ)「【0029】
図1において、設置ベース21及び25の移動は、校正装置30が、例えばモータ等で構成されるアクチュエータ31を駆動制御することで実現する。校正装置30は、作業者が図示しない校正ボタン等を押下することで表面検査装置10の校正処理を実行開始するものであり、校正処理を行うに際し、アクチュエータ31を駆動制御して駆動ステージ22及び23上の設置ベース21及び25を、図1に示す検査時の配置状態から図4に示す校正時の配置状態へ移動する。
・・・
【0032】
以下、表面検査装置10の校正処理について具体的に説明する。
図5は、校正装置30で実行する校正処理手順を示すフローチャートである。この校正処理は、上述したように、検査時に作業者が校正ボタン等を押下することで実行開始する。
先ずステップS1で、校正装置30は、リング照明11及びカメラ13を校正位置へ移動し、ステップS2に移行する。即ち、校正装置30は、アクチュエータ31を駆動制御し、設置ベース21を図1に示す検査位置から図4に示す校正位置まで後退させる。」
【0033】
ステップS2では、校正装置30は、校正板40を校正位置へ移動し、ステップS3に移行する。即ち、校正装置30は、アクチュエータ31を駆動制御し、設置ベース25を図1に示す検査位置から図4に示す校正位置へ移動させる。
ステップS3では、校正装置30は、光源12及びカメラ13に対して画像撮像指令を出力する。これにより、ストロボ発光されて校正板40の表面画像が撮像される。
【0034】
次にステップS4では、校正装置30は、前記ステップS3でカメラ13が撮像した校正板40の表面画像を取得し、これをメモリに記憶してステップS5に移行する。
ステップS5では、校正装置30は、前記ステップS4でメモリに記憶した校正板40の表面画像に対して、検査時における検査面1aの表面画像に対する画像処理と同一の画像処理を行う。このとき、校正板40の表面画像を複数の評価領域に分割し、その評価領域毎に画像処理を行う。ここで、評価領域は、穴41を個別に包含する領域(例えば、矩形領域)とし、同一サイズの穴41を包含する複数の評価領域については1つの評価領域にグルーピングするものとする。
【0035】
すなわち、図3に示す校正板40の場合、図6に示すように、校正板40の表面画像内で、横一列に形成された同一サイズの5つの穴41とその周辺領域とで構成される矩形領域を、上記評価領域とする。この評価領域は、穴41の大きさ毎に設定するため、この例では評価領域として5つの範囲(範囲1?範囲5)が設定される。そして、範囲1?範囲5のそれぞれに対して一連の画像処理を実行し、各範囲の平均輝度[cd/m^(2)]と黒点画素数[個]とを算出する。算出した平均輝度及び黒点画素数は、メモリに記憶する。
【0036】
次にステップS6では、校正装置30は、校正板40の表面画像を所定枚数(例えば、10枚)撮像し、取得したか否かを判定する。そして、所定枚数取得していない場合には前記ステップS3に移行し、所定枚数取得している場合にはステップS7に移行する。
ステップS7では、校正装置30は、上記所定枚数の校正板40の表面画像に基づいてそれぞれ算出した平均輝度及び黒点画素数について、それぞれ平均値を算出し、ステップS8に移行する。
【0037】
ステップS8では、校正装置30は、前記ステップS7で算出した平均輝度及び黒点画素数の数値と、予め設定した所定の管理値とを比較して、表面検査装置10の検査性能の良否判定を行う。上記管理値としては、各数値の許容上下限値、前回校正時の数値との許容差異(前回との差異)、及び1ヶ月前の校正時の数値との許容差異(1ヶ月前との差異)を用い、以下の3つの条件をすべて満足するとき、良否結果を「良」とする。
[1]許容下限値<数値<許容上限値
[2]前回校正時の数値に対して差異が±X%以内(例えば、±1.0%以内)
[3]1ヶ月前の校正時の数値に対して差異が±Y%以内(例えば、±2.0%以内)
この良否判定は、各範囲1?5に対してそれぞれ行う。
【0038】
次にステップS9では、校正装置30は、前記ステップS8で行った良否判定結果をモニタ33に表示する。良否判定結果画面の例を図7に示す。図7は、各範囲1?5における各管理値(許容下限、許容上限、前回との差異、1ヶ月前との差異)と良否判定結果(合否)とを表示した例を示している。なお、良否判定結果画面としては、少なくとも各範囲1?5の良否判定結果(合否)が表示されていればよく、図7に示す表示形式に限定されない。
【0039】
作業者は、モニタ33に表示された良否判定結果に基づいて、表面検査装置10の校正処置を行う。具体的には、平均輝度に基づいて良否結果が「否」であると判定された場合、その原因として光源12のランプやリング照明11の劣化、カメラ13や照明部の汚れ等が考えられるため、校正処置として、光源12のランプやリング照明11、カメラ13の交換や清掃作業を行う。一方、黒点画素数に基づいて良否結果が「否」であると判定された場合、その原因としてカメラ13のレンズ汚れた画素劣化が考えられるため、校正処置としてレンズ面の清掃やカメラ13の交換作業を行う。」
(エ)「【0056】
さらに、表面検査装置の性能評価を行う指標として、校正板の表面画像の平均輝度及び黒点画素数を用いるので、これらの数値が許容範囲内にあるか否かを判定することで、表面検査装置の装置異常として、照明の汚れやランプの劣化による光量低下、カメラの汚れによる受光量低下、カメラの劣化等の現象を発見することができる。」

(オ)図1、6、7は次のものである。
【図1】

【図6】

【図7】


イ 以上アによれば、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(a?eは当審が付した。以下「構成a」などという。)。
「a 鋼板の検査面に平行に配置され、リング照明と、光源と、カメラと、カメラケースと、画像処理装置と(【0019】)、
b 下記各ステップからなる校正処理を実行する校正装置と(【0032】)、
(ステップS1)前記リング照明及び前記カメラを校正位置へ移動し(【0032】)、
(ステップS2)前記校正板を校正位置へ移動し(【0033】)、
(ステップS3)前記光源及び前記カメラに対して画像撮像指令を出力し(【0033】)、
(ステップS4)前記ステップS3で前記カメラが撮像した前記校正板の表面画像を取得し、これをメモリに記憶し(【0034】)、
(ステップS5)前記ステップS4でメモリに記憶した前記校正板の表面画像に対して、検査時における検査面の表面画像に対する画像処理と同一の画像処理を行い(【0034】)、
(ステップS6)前記校正板の表面画像を所定枚数撮像し、取得したか否かを判定し(【0036】)、
(ステップS7)前記所定枚数の校正板の表面画像に基づいてそれぞれ算出した平均輝度及び黒点画素数について、それぞれ平均値を算出し(【0036】)、
(ステップS8)前記ステップS7で算出した平均輝度及び黒点画素数の数値と、予め設定した所定の管理値とを比較して、前記表面検査装置の検査性能の良否判定を行い、前記管理値としては、各数値の許容上下限値、前回校正時の数値との許容差異(前回との差異)、及び1ヶ月前の校正時の数値との許容差異(1ヶ月前との差異)を用い、以下の3つの条件をすべて満足するとき、良否結果を『良』とするものであって、
[1]許容下限値<数値<許容上限値
[2]前回校正時の数値に対して差異が±X%以内(例えば、±1.0%以内)
[3]1ヶ月前の校正時の数値に対して差異が±Y%以内(例えば、±2.0%以内)
この良否判定は、各範囲1?5に対してそれぞれ行い(【0037】)、
(ステップS9)前記ステップS8で行った良否判定結果をモニタに表示する(【0038】)、
c を備える表面検査装置(【0019】)であって、
d 前記校正板は、表面画像内で、横一列に形成された同一サイズの5つの穴とその周辺領域とで構成される矩形領域を評価領域とし、前記評価領域は、前記穴の大きさ毎に5つの範囲(範囲1?範囲5)が設定され、範囲1?範囲5のそれぞれに対して一連の画像処理を実行し、各範囲の平均輝度と黒点画素数とを算出し、算出した平均輝度及び黒点画素数をメモリに記憶し(【0035】)、
e 作業者は、前記モニタに表示された良否判定結果が「否」であると判定された場合、前記光源のランプや前記リング照明の劣化、前記カメラや照明部の汚れ等が考えられるため、前記光源のランプや前記リング照明、前記カメラの交換や清掃作業を行い、黒点画素数に基づいて良否結果が「否」であると判定された場合、前記カメラのレンズ汚れた画素劣化が考えられるため、レンズ面の清掃や前記カメラの交換作業を行い(【0039】)、
f 前記表面検査装置の装置異常として、前記照明の汚れや前記ランプの劣化による光量低下、前記カメラの汚れによる受光量低下、前記カメラの劣化等の現象を発見する(【0056】)、
c 表面検査装置。」

(2)引用文献2
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開平11-352852号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、静電複写機や静電プリンタ等の画像形成装置に関し、特にそのクリーニング装置や像担持体のメンテナンスの利便性に関するものである。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述のようなブレードの交換や清掃メンテナンスはトナーの摺り抜けが発生した後に行われることが多く、トナーの摺り抜けが発生してからメンテナンスが行われるまでの間にプリントされた画像には摺り抜けたトナーが転写されてしまい、実用上、ミスプリントとなる。このため、紙やトナーが無駄に消費されて不経済である。
【0009】又、ブレードめくれを生じたまま、誤って装置が継続使用されると、エッジの永久変形や欠損を生じるばかりでなく、像担持体表面にも局所的に過大な荷重が作用するために感光層の破壊や表層の膜剥がれを引き起こし、その場合にはブレードのみならず像担持体の交換を余儀なくされ、消耗品コストの増大を招くこととなる。
【0010】上記事態を避けるには、トナーの摺り抜けが発生する以前にブレードの交換若しくはメンテナンスを行う必要があるが、使用中のブレードの状態を検知する手段がないため、どの時点で交換やメンテナンスが必要になるかを予測することができず、必然的にクリーニング装置を頻繁に取り外してメンテナンスを行うこととなり、ユーザーの負担が大きいという問題があった。」
「【0020】従って、本発明によれば、使用中のブレードのクリーニング性能を検知する手段として像担持体の駆動トルクを検知するトルク検知手段を設け、このトルク検知手段によって検知された像担持体の駆動トルクに基づいてクリーニング手段若しくは像担持体のメンテナンス又はパーツ交換が必要か否かを判定し、或はメンテナンスの必要時期を予測するようにしたため、ブレード等の最適なメンテナンス及び交換時期を事前に知り得て不要なコストを省くことができるとともに、トナーの摺り抜けを防ぐことができる。」

イ 以上アによれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用発明2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「静電複写機や静電プリンタ等の画像形成装置に(【0001】)、使用中のブレードのクリーニング性能を検知する手段を設け、検知された結果に基づいてメンテナンスの必要時期を予測して(【0020】)、ブレードの交換や清掃メンテナンス(【0008】)を行うこと。

(3)引用文献3
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開平11-96838号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はブッシングの点検もしくは監視装置に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の方法においては、人手がかかる上に一旦電圧を遮断させなければならなかった。また、劣化及び残存寿命の予測精度が低いため、絶縁信頼性低下やブッシングのメンテナンスコストアップを引き起こした。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、非磁器ブッシングに流れる漏れ電流と部分放電パルスを同時に測定することにより、非磁器ブッシングの劣化及び残存寿命を正確に測定するブッシング監視装置を設けたことである。
【0006】即ち、上述のように構成した本発明の非磁器ブッシング監視装置は非磁器ブッシングの劣化及び残存寿命を正確に予測することができ、洗浄時期及びブッシング交換時期の最適化によるメンテナンスコストの低減と絶縁信頼性向上を達成することができる。」

イ 以上アによれば、引用文献3には、次の事項(以下「引用発明3に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「非磁器ブッシングの劣化及び残存寿命を正確に予測することで、洗浄時期及びブッシング交換時期(【0006】)を予測すること(【0004】)。」

(4)引用文献4
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2007-24638号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、レーザー溶接装置のレーザートーチ内における光学系部材の検査を行うレーザートーチの検査システムおよび検査方法に関する。」
「【0020】
また、撮像された保護ガラス15の画像データは、前記コンピュータ装置3に入力され、該コンピュータ装置3にて記憶手段3aに予め記憶されている基準画像と比較される(S03)。
基準画像との比較としては、まず撮像画像に基準画像にはない線状物が存在するか否かの比較がなされる(S04)。
比較の結果、図4に示すように、撮像画像に基準画像にはない線状物31が存在していた場合には、その線状物31は接眼レンズ13もしくは対物レンズ14に生じているひびや割れが保護ガラス15に映ったもの、または保護ガラス15に生じているひびや割れであると判断される(S11)。
【0021】
一方、S04での比較の結果、撮像画像に線状物31が存在していなかったときには、次に、基準画像にない暗部が撮像画像に存在するか否かの比較が行われる(S05)。
比較の結果、図5に示すように、撮像画像に基準画像にはない暗部32が存在していた場合には、被加工材7からのヒュームやスパッタが付着して生じた汚濁が、保護ガラス15上に存在すると判断される(S12)。
ここで、暗部32とは、撮像画像において、ある一定の範囲で他の部分よりも明度が低くなっている部分であり、他の部分よりも明度が低いか否かの判断は、予め記憶手段3aに設定されている明度の閾値に基づいて行われる。」

イ 以上アによれば、引用文献4には、次の事項(以下「引用発明4に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「撮像画像と基準画像とを比較することにより、接眼レンズもしくは対物レンズに生じているひびや割れ、または保護ガラスに生じているひびや割れを判断(【0020】)、ないしは、保護ガラス上に存在する汚濁を判断(【0021】)することで光学系部材の検査を行うこと(【0001】)。」

(5)引用文献5
ア 原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2013-96922号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査ボトルに充填された飲料液中の異物を検出する飲料液異物検査装置および飲料液異物検査方法に関する。」
「【0044】
そこで、画像処理装置54は、まず、一種のぼかし処理である泡輪郭消去処理によって泡の細い輪郭線を消去する。その結果、図3(b)に示すように、撮像画像の中から泡が消去される。次に、画像処理装置54は、泡輪郭消去処理後の画像を用いて、2値化処理を行う。2値化処理は、図3(c)に示すように、白黒を明確化させる処理なので、この処理により、例えば、ボトルに付いた薄い汚れ(図示せず)などは消去されるが、異物は、明確な黒色の領域として表示される。
【0045】
次に、画像処理装置54は、2つの2値化処理後の画像について差分処理を行う。差分処理では、図3(d)に示すように、最初の時刻t=t0のときに得られた2値化画像と、その後の時刻t=t0+iΔのときに得られた2値化画像との差分画像を求める。このとき、差分画像では、両者で一致する画像部分は消去され、相違する画像部分だけが残される。従って、ボトルの輪郭やラベルなどは消去され、また、2値化処理で消去されずに残ったボトルの濃い汚れなども消去される。
【0046】
一方、S3で被検査ボトル71が倒立する程度まで傾斜されたときに取得された撮像画像では、飲料液中の重い異物は、飲料液中を徐々に沈降する物体として撮像される。そして、このとき撮像された撮像画像のそれぞれは、撮像時刻が時間間隔Δずつ相違しているので、その異物の位置も相違することになる。従って、差分処理後の画像では、異物は、図5(d)に示すように、ある大きさを有する黒色の領域として表示される。
【0047】
同様に、S6で被検査ボトル71が回転された直後に取得された撮像画像では、軽い異物は、飲料液中を浮遊し、回転移動している物体として撮像される。従って、この場合も、異物は静止していないので、差分処理後の画像では、異物は、図5(d)に示すように、ある大きさを有する黒色の領域として表示される。」

イ 以上アによれば、引用文献5には、次の事項(以下「引用発明5に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。
「撮像画像に対して、白黒を明確化させ、異物は明確な黒色の領域として表示される2値化処理を行い(【0044】)、最初の時刻のときに得られた2値化画像と、その後の時刻のときに得られた2値化画像との、2つの2値化処理後の画像について差分処理を行い、差分画像を求めること(【0045】)で異物を検出すること(【0001】)。」

4 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「校正板の表面画像」及び「カメラ」は、本願発明1の「画像データ」及び「視覚センサ」に相当するから、引用発明の、「校正板の表面画像を所定枚数撮像」する(ステップS6)「カメラ」「を備え」(構成a)、「カメラの」「レンズ面」(構成e)「の汚れ」を「装置異常として」「発見する」(構成f)「表面検査装置」(構成c)の「校正装置」(構成b)は、本願発明1の「産業機械またはその周辺領域に設置され、複数の画像データを取得する視覚センサを備える、視覚センサのレンズまたはレンズカバーの異常検出システム」(構成A)と、「複数の画像データを取得する視覚センサを備える、視覚センサのレンズ異常検出システム」(以下「構成A′」という。)の点で一致する。

(イ)引用発明の「前記カメラが撮像した前記校正板の表面画像」(テップS4)「に基づいてそれぞれ算出した平均輝度及び黒点画素数」(ステップS7)「の数値と、予め設定した所定の管理値とを比較して、前記表面検査装置の検査性能の良否判定を行」う(ステップS8)校正装置は、本願発明1の「前記視覚センサによって撮影された前記画像データに基づいて、前記視覚センサのレンズまたはレンズカバーの汚れ度合いを算出する算出部」(構成B)と、「前記視覚センサによって撮影された前記画像データに基づいて、前記視覚センサのレンズの汚れの良否判定を行う算出部」(以下「構成B′」という。)の点で一致する。

(ウ)以上(ア)及び(イ)によれば、引用発明と本願発明1は、
「A′ 複数の画像データを取得する視覚センサを備える、視覚センサのレンズ異常検出システムであって、
B′ 前記視覚センサによって撮影された前記画像データに基づいて、前記視覚センサのレンズの汚れの良否判定を行う算出部を有する
A 視覚センサのレンズの異常検出システム。」
である点で一致し、下記各点で相違する。

(相違点1)
異常検出システムが、本願発明1は、「産業機械またはその周辺領域に設置され」るのに対して、引用発明は、「鋼板の検査面に平行に配置され」る点。

(相違点2)
算出部が、本願発明1は、視覚センサのレンズまたはレンズカバーの「汚れ度合いを算出する」のに対して、引用発明は、カメラのレンズの「汚れの良否判定を行う」点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記算出部によって計測された前記レンズまたはレンズカバーの汚れ度合いに基づき、前記レンズまたはレンズカバーの将来実施されるべき予測清掃タイミングに関する情報を算出する予測部」を有するのに対して、引用発明は、このような予測部を備えない点。

イ 上記相違点について検討する。
事案に鑑みて、相違点3から検討する。
引用発明は、「前記ステップS7で算出した平均輝度及び黒点画素数の数値と、予め設定した所定の管理値とを比較して、前記表面検査装置の検査性能の良否判定を行い、前記管理値としては、各数値の許容上下限値、前回校正時の数値との許容差異(前回との差異)、及び1ヶ月前の校正時の数値との許容差異(1ヶ月前との差異)を用い、以下の3つの条件をすべて満足するとき、良否結果を『良』とするものであって、
[1]許容下限値<数値<許容上限値
[2]前回校正時の数値に対して差異が±X%以内(例えば、±1.0%以内)
[3]1ヶ月前の校正時の数値に対して差異が±Y%以内(例えば、±2.0%以内)
この良否判定は、各範囲1?5に対してそれぞれ行」(ステップS8)うものであるから、「前回との差異」及び「1ヶ月前との差異」は見ているが、あくまで、「良」か「否」かを判定しているにとどまる。
そして、引用発明は、上記「許容下限値」及び「許容上限値」に関して、上記「3」「(1)」「ア」「(オ)」の図7を見ても、「許容下限値」と「許容上限値」の差は非常に大きいものであるから、「前回との差異」が「例えば、±1.0%以内」を越えたら「否」となり、あるいは、「1ヶ月前との差異」が「例えば、±2.0%以内」を越えたら「否」となり、いずれであっても、「許容下限値」あるいは「許容上限値」を越えることを待つまでもなく、上記「前回との差異」及び「1ヶ月前との差異」で「否」と判定されるものであると解される。
そうすると、引用発明において、将来「許容下限値」あるいは「許容上限値」を越えるであろう時期を予測する格別の必要性は認められない。
したがって、「静電複写機や静電プリンタ等の画像形成装置に、使用中のブレードのクリーニング性能を検知する手段を設け、検知された結果に基づいてメンテナンスの必要時期を予測して、ブレードの交換や清掃メンテナンスを行う」こと(引用発明2に記載された事項)、及び、「非磁器ブッシングの劣化及び残存寿命を正確に予測することで、洗浄時期及びブッシング交換時期を予測すること」(引用発明3に記載された事項)が公知であっても、そもそも、「鋼板の」「表面検査装置」である引用発明と、「静電複写機や静電プリンタ等の画像形成装置」(引用文献2)あるいは「非磁器ブッシング」(引用文献3)とでは技術分野が大きく異なり、引用発明に引用文献2、3に記載された事項を適用する動機はなく、さらには、引用発明2、3に記載された事項を上記概念として捉えて、「メンテナンス時期を予測すること」が周知の技術的事項であったとしても、そもそも、引用発明は予測することが想定されていないのであるから、引用発明に上記メンテナンス時期を予測するという周知の技術的事項を適用しようがない。
よって、引用発明に引用文献2、3に記載された事項を適用すること、及び、引用発明にメンテナンス時期を予測するとの周知の技術的事項を適用することが容易に想到し得たことであるとは認められない。
よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2、5?8及び11について
本願発明2、5?8及び11は本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2、5?8及び11は、当業者であっても引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本願発明12について
本願発明12は、システムの発明である本願発明1をプログラムの発明としたものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明12は、当業者であっても引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明3について
本願発明3は本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明3は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(5)本願発明4について
本願発明4は本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明4は、当業者であっても引用発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2、5?8、11及び12に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
ここで、引用文献1(特開2012-173405号公報)は「画像形成装置」に関する出願であって、原査定に係る令和2年4月6日付けの拒絶理由の「備考」における摘記事項と齟齬があり、引用文献A(特開2012-173045号公報)の誤記であると解されるところ、請求人は、令和2年6月4日に提出された意見書及び審判請求書において、引用文献1は引用文献Aの誤記であることを踏まえて、引用文献Aに対して主張している(審判請求書の【請求の理由】「2.拒絶査定の要点」においてもその旨記載している。)。
したがって、請求人は、引用文献Aに基づく拒絶理由に対して主張を行うことができたと認められるため、改めて、正しい引用文献Aに基づいて拒絶理由を通知する必要性はなく、以下、原査定の理由における引用文献1は、正しくは引用文献Aであったと解して判断するものとする。
そうすると、本願発明1、2、5?8、11及び12は、上記4で検討したとおり、当業者であっても引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえないものであるから、同じ理由により原査定を維持することはできない。

引用文献1:特開2012-173405号公報
引用文献2:特開平11-352852号公報
引用文献3:特開平11-96838号公報

6 むすび
以上のとおり、本願発明1、2、5?8、11及び12は、引用発明及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではなく、本願発明3は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではなく、本願発明4は、引用発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-06-30 
出願番号 特願2018-106252(P2018-106252)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
吉野 三寛
発明の名称 視覚センサのレンズまたはレンズカバーの異常検出システム  
代理人 星野 寛明  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  

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