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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1375688
審判番号 不服2020-8907  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-26 
確定日 2021-06-30 
事件の表示 特願2019-529586「半ハイブリッド変圧器コア」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日国際公開、WO2018/099737、令和 2年 1月16日国内公表、特表2020-501365〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年11月17日(パリ条約による優先権主張 2016年12月2日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和元年10月4日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月27日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたが、令和2年3月2日付けで拒絶査定がなされ(送達日:令和2年3月10日)、これに対し、令和2年6月26日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、令和元年12月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のヨーク(2a)および前記第1のヨーク(2a)に対向する第2のヨーク(2b)と、
それぞれが第1の端部(4a、4b)及び第2の端部(6a、6b)を有する少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)であって、前記第1の端部(4a、4b)のそれぞれは前記第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)に結合され、前記第1の表面(5a)は前記第2のヨーク(2b)と対向し、前記第2の端部(6a、6b)のそれぞれが前記第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)に結合され、前記第2の表面(5b)は前記第1のヨーク(2a)と対向している、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)と
を備える変圧器コア(1a、1b、1c)であって、
前記第1のヨーク(2a)が方向性電磁鋼製であり、前記第2のヨーク(2b)および前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つのうちの少なくとも1つがアモルファス鋼製である、
変圧器コア(1a、1b、1c)。」

第3 拒絶査定の理由の概要
原査定の概要は、次のとおりである。

理由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1、3-5、8、10-15
・引用文献等 1、4-7

・請求項 2、6-7、9
・引用文献等 1-7

<引用文献等一覧>
1.特開2013-48138号公報
2.実願昭56-152571号(実開昭58-56422号)のマイクロ フィルム
3.特開昭62-222614号公報
4.実願昭60-116722号(実開昭62-26013号)のマイクロ フィルム(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)
5.実願昭48-99550号(実開昭50-44615号)のマイクロフ ィルム(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)
6.登録実用新案第3189478号公報
(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)
7.欧州特許出願公開第2685477号明細書
(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)

第4 引用発明、引用文献等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された、上記引用文献1(特開2013-48138公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1)引用文献1に記載された事項
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は変圧器やリアクトル等の静止誘導電器用積層鉄心に係り、特に低損失特性を有して信頼性の高い静止誘導電器用積層鉄心に関する。」

イ「【0009】
本発明の目的は、低損失特性を有して信頼性が高く、経済的に製作できる静止誘導電器用積層鉄心を提供することにある。」

ウ「【0013】
また、非晶質性合金薄帯製の鉄心脚と下部継鉄で構成したU字形の積層鉄心に巻線を装着後、非晶質性合金薄帯より剛性の高い珪素鋼板を上部継鉄の形成のために挿鉄しているので、製作作業効率が向上するから経済的に製作することができるし、珪素鋼板を挿鉄する際に非晶質性合金薄帯で発生し易い破片を低減できから、静止誘導電器の信頼性を向上することができる。」

エ「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の静止誘導電器用積層鉄心は、巻線を巻回する少なくとも2つ以上の鉄心脚と、前記鉄心脚間を磁気的に結合する上部及び下部継鉄とからなっている。そして、非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成し、上部及び下部継鉄のうち少なくとも上部継鉄は珪素鋼板を積層して形成している。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の静止誘導電器用積層鉄心を、図1から図4に示す変圧器鉄心の例で説明する。本発明を適用した図1に示す単相2脚の変圧器積層鉄心10は、通常と同様に2つの鉄心脚11、12と、これら鉄心脚11、12間を磁気的に結合する上部継鉄13及び下部継鉄14により閉磁路を構成している。そして、鉄心脚11、12及び下部継鉄14は、短冊状に切断した非晶質性合金薄帯を後述するように積層して形成し、また上部継鉄13は短冊状に切断した珪素鋼板を積層して形成している。
【0017】
一般的な珪素鋼板の板厚は、300μm或いは350μmであるから、1枚の珪素鋼板に対して、板厚が25μm程度の非晶質性合金薄帯は、所定枚数を積層して一つの単位の積層体にし、例えば12?14枚を一組として組み合わせたものを積層体単位にして使用する。
【0018】
図1に示す単相2脚の変圧器積層鉄心10の例では、図2(a)及び(b)に示す2種類の積層単位を積層して構成する。即ち、図2(a)に示す如く鉄心脚11と12及び下部継鉄14の形成に使用する積層体単位にした非晶質性合金薄帯11A、12A、14Aと、上部継鉄13の形成に使用する珪素鋼板13Aを、接合部が時計方向の順になるように配置した一層目の積層単位10Aを形成する。また、これとは逆に図2(b)に示す如く同様な構成部材である非晶質性合金薄帯11B、12B、14Bと珪素鋼板13Bを、左右反転した配置にして接合部が逆時計方向の順になるようにした二層目の積層単位10Bを形成している。そして、これらの奇数層目及び偶数層目の積層単位10Aと10Bを交互に積層し、図1に示す変圧器積層鉄心10を構成している。
【0019】
この変圧器積層鉄心10では、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、下部継鉄14となる非晶質性合金薄帯14A、14Bは交互に積層されているから、これら間の下方の積層接合部は図1に実線と破線で示す交互積層構成となる。また、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、上部継鉄13となる珪素鋼板13A、13Bも交互に積層されているから、同様にこれら間の上方の積層接合部は図1に実線と破線で示す交互積層構成となる。
【0020】
上記のように非晶質性合金薄帯と珪素鋼板を組み合わせて積層した図1に示す変圧器積層鉄心10は、積層した平置きの状態のままで、非酸化性雰囲気中において焼鈍温度約400℃及び10分?2時間の条件で歪取り焼鈍を実施し、非晶質性合金薄帯の歪を除去して、鉄損や磁気特性の向上を図るようにする。歪取り焼鈍終了後に、鉄心当板及び鉄心締付金具(図示せず)を設けてから、変圧器積層鉄心10全体を起立させる。その後、図3に示すように上部継鉄13を形成する珪素鋼板13A及び13Bを取り外し、鉄心脚11、12にそれぞれ巻線15、16を装着し、再度珪素鋼板13A及び13Bの挿鉄作業を行って上部継鉄13を形成し、変圧器中身本体を構成する。
【0021】
このように構成すると、巻線15、16を装着後に非晶質性合金薄帯よりも剛性の高い珪素鋼板を上部継鉄3の形成に挿鉄するため、珪素鋼板の挿鉄する際に発生する非晶質性合金薄帯の破片の発生を低減すことが可能となり、従来に比べて信頼性の高い変圧器積層鉄心10とすることができる。」


オ「【0023】
上記の例では、上部継鉄13を珪素鋼板13A及び13Bで形成した変圧器積層鉄心10で説明したが、下部継鉄14も非晶質性合金薄帯に比べて剛性の高い珪素鋼板で形成すると、鉄心脚11、12と上部継鉄13の重量を支えるのに十分な強度が得られる。」

カ「【0027】
上記した各実施例においては、本発明を単相2脚及び三相3脚の変圧器積層鉄心の例で説明したが、本発明は単相3脚や三相5脚の変圧器積層鉄心、更にはリアクトルにも適用でき、同様な効果を達成することができる。」

(2)引用文献1に記載された技術事項
したがって、引用文献1には、次の技術事項が記載されている。
ア 引用文献1に記載された技術は、「変圧器やリアクトル等の静止誘導電器用積層鉄心」(【0001】)に関するものであり、「低損失特性を有して信頼性が高く、経済的に製作できる静止誘導電器用積層鉄心を提供すること」(【0009】)を課題としたものである。

イ 「単相2脚の変圧器積層鉄心10は」、「2つの鉄心脚11、12と、これら鉄心脚11、12間を磁気的に結合する上部継鉄13及び下部継鉄14により閉磁路を構成している。」「鉄心脚11、12及び下部継鉄14は、短冊状に切断した非晶質性合金薄帯を」「積層して形成し、また上部継鉄13は短冊状に切断した珪素鋼板を積層して形成している。」(【0016】)

ウ 「変圧器積層鉄心10では、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、下部継鉄14となる非晶質性合金薄帯14A、14Bは交互に積層され」「、これら間の下方の積層接合部は」「交互積層構成となる。また、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、上部継鉄13となる珪素鋼板13A、13Bも交互に積層され」「、同様にこれら間の上方の積層接合部は」「交互積層構成となる。」(【0019】)、

エ 「下部継鉄14も非晶質性合金薄帯に比べて剛性の高い珪素鋼板で形成すると、鉄心脚11、12と上部継鉄13の重量を支えるのに十分な強度が得られる。」(【0023】)

(3)引用発明
上記(2)のイ、ウ、エより、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる、
「単相2脚の変圧器積層鉄心10は、2つの鉄心脚11、12と、これら鉄心脚11、12間を磁気的に結合する上部継鉄13及び下部継鉄14により閉磁路を構成し、鉄心脚11、12及び下部継鉄14は、短冊状に切断した非晶質性合金薄帯を積層して形成し、また上部継鉄13は短冊状に切断した珪素鋼板を積層して形成し、変圧器積層鉄心10では、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、下部継鉄14となる非晶質性合金薄帯14A、14Bは交互に積層され、これら間の下方の積層接合部は交互積層構成となり、また、鉄心脚11及び12となる非晶質性合金薄帯11A、12Aと、上部継鉄13となる珪素鋼板13A、13Bも交互に積層され、同様にこれら間の上方の積層接合部は交互積層構成となり、下部継鉄14も非晶質性合金薄帯に比べて剛性の高い珪素鋼板で形成すると、鉄心脚11、12と上部継鉄13の重量を支えるのに十分な強度が得られる、
単相2脚の変圧器積層鉄心10。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「上部継鉄13」及び「下部継鉄14」は、「閉磁路を構成する」よう、「鉄心脚」を挟んで対向して設けられるものである。そして、本願の請求項8に「前記第1のヨーク(2a)が上部ヨークである、請求項1に記載の変圧器コア(1a、1b、1c)。」と記載されていることから、引用発明における「上部継鉄13」が、本願発明1における「第1のヨーク(2a)」に相当し、引用発明における「下部継鉄14」が、本願発明1における「前記第1のヨーク(2a)に対向する第2のヨーク(2b)」に相当する。
また、引用発明における「上部継鉄13」及び「下部継鉄14」は、上記のとおり、「鉄心脚」を挟んで対向して設けられるものであるから、「上部継鉄13」の下面と「下部継鉄14」の上面とが対向していることは明らかであって、このことが本願発明1における「前記第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)」は「前記第2のヨーク(2b)と対向し、」「前記第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)」は「前記第1のヨーク(2a)と対向している」ことに相当する。

イ 本願の請求項13に「全ての脚部(3a、3b、3c、3d)が、ステップラップ接合を用いて少なくとも1つの前記ヨークに取り付けられる、請求項1に記載の変圧器コア(1a、1b、1c)。」と記載され、請求項14に「全ての脚部(3a、3b、3c、3d)が、バットラップ接合を用いて少なくとも1つの前記ヨークに取り付けられる、請求項1に記載の変圧器コア(1a、1b、1c)。」と記載されていることから、本願発明1における、「脚部」の「第1の端部(4a、4b)」と「第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)」との「接合」や、「脚部」の「第2の端部(6a、6b)」と「第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)」との「結合」とは、平坦な接合だけではなく、(外見的には、明確な「端部」や「表面」を有さないとしても)「ラップ接合」、すなわち、脚部の鋼板とヨークの鋼板との交互積層による接合を含む意味であると解される。
すると、引用発明における「2つの鉄心脚11、12」は、「上部継鉄13」との間の「上方の積層接合部」が「交互積層構成とな」り、「下部継鉄14」との間の「下方の積層接合部」が「交互積層構成とな」っていることから、本願発明1における「それぞれが第1の端部(4a、4b)及び第2の端部(6a、6b)を有する少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)であって、前記第1の端部(4a、4b)のそれぞれは前記第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)に結合され、」「前記第2の端部(6a、6b)のそれぞれが前記第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)に結合され、」「それぞれが第1の端部(4a、4b)及び第2の端部(6a、6b)を有する少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)」に相当するといえる。

ウ 引用発明における「変圧器積層鉄心」が、本願発明1における「変圧器コア(1a、1b、1c)」に相当する。

エ 引用発明における「上部継鉄13」が、「珪素鋼板13A及び13B」を「積層」して形成されていることと、本願発明1における「前記第1のヨーク(2a)が方向性電磁鋼製であ」ることとは、「前記第1のヨーク(2a)が電磁鋼製であ」る点で共通するが、電磁鋼が、本願発明1では、「方向性」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

オ 本願発明1において「前記第1のヨーク(2a)が方向性電磁鋼製であ」ると特定されていることを踏まえれば、本願発明1における「前記第2のヨーク(2b)および前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つのうちの少なくとも1つがアモルファス鋼製である」とは、「『第2のヨーク(2b)』及び『少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)』のすべてが『アモルファス鋼製』でない場合」を除外した、すべての組み合わせを含む意味である。
したがって、引用発明における「下部継鉄14」を、「非晶質性合金薄帯14A、14B」あるいは「珪素鋼板」で形成し、「鉄心脚11及び12」を、「非晶質性合金薄帯11A、12A」で形成したものが、本願発明1における上記「前記第2のヨーク(2b)および前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つのうちの少なくとも1つがアモルファス鋼製である」ことに相当するといえる。

すると、上記アないしオによれば、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有するものである。
(一致点)
「第1のヨーク(2a)および前記第1のヨーク(2a)に対向する第2のヨーク(2b)と、
それぞれが第1の端部(4a、4b)及び第2の端部(6a、6b)を有する少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)であって、前記第1の端部(4a、4b)のそれぞれは前記第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)に結合され、前記第1の表面(5a)は前記第2のヨーク(2b)と対向し、前記第2の端部(6a、6b)のそれぞれが前記第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)に結合され、前記第2の表面(5b)は前記第1のヨーク(2a)と対向している、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)とを備える変圧器コア(1a、1b、1c)であって、
前記第1のヨーク(2a)が電磁鋼製であり、前記第2のヨーク(2b)および前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つのうちの少なくとも1つがアモルファス鋼製である、
変圧器コア(1a、1b、1c)。」

(相違点)
本願発明1では、第1のヨーク(2a)の電磁鋼が「方向性」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点。

2 判断
そこで上記相違点について検討すると、変圧器の鉄心に用いられる「ケイ素鋼板」として、磁気特性に優れた「方向性ケイ素鋼板」を使用することは、例えば、上記引用文献4(実願昭60-116722号(実開昭62-26013号)のマイクロフィルムに、「この方向性ケイ素鋼板は、結晶粒がよく発達しており、圧延方向に磁気特性の優れた結晶系がよく発達している」(明細書第5頁第13-15行)と記載されているように、周知技術である。
そして、引用発明においても、「珪素鋼板」として、磁気特性に優れたものを用いることは当業者に動機付けられることであるから、引用発明において、「上部継鉄13」(あるいは、「上部継鉄13」及び「下部継鉄14」)を形成する「珪素鋼板」として、磁気特性に優れた「方向性ケイ素鋼板」を用い、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

3 まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
1 審判請求書における請求人の主張について
(1)請求人は、令和2年6月26日提出の審判請求書において、「請求項1に係る本願発明は、「前記第1のヨーク(2a)が方向性電磁鋼製であり、前記第2のヨーク(2b)および前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つのうちの少なくとも1つがアモルファス鋼製である」という特徴を有する。すなわち、「前記第2のヨーク(2b)」または「前記少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つ」のどちらか一方がアモルファス鋼製であれば、他方は、方向性電磁鋼製でもよい。
したがって、
ア 本願発明は、第1のヨーク(2a)および第2のヨーク(2b)の両方が方向性電磁鋼製であり、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つがアモルファス鋼製であるという構成を有してもよい。あるいは、
イ 本願発明は、第2のヨーク(2b)がアモルファス鋼製であり、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つが方向性電磁鋼製という構成を有してもよい。あるいは、
ウ 少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つがアモルファス鋼製であり、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)のうち他の脚部が方向性電磁鋼製であってもよい。たとえば、本願明細書の[0035]にあるように、
エ 巻線が巻回される脚部を方向性電磁鋼製とし、非巻回脚部をアモルファス鋼製とすることができる。」(「ア」ないし「エ」の見出しは、便宜のため、当審で付与した。)
と主張し、引用文献1-7の発明の構成を組み合わせたとしても、本願請求項1に係る発明の構成を当業者は導き出すことができない旨述べている。

(2)当審の判断
ア しかし、請求人が主張する上記「(1)」「ア」ないし「エ」の構成は、本願発明1に含まれるバリエーションの1つにすぎず、上記「第5」「1」「オ」で述べたとおり、上記「(1)」「ア」ないし「エ」の各構成のみに本願発明1を限定解釈することはできない。

イ なお、念のため、上記「(1)」「ア」ないし「エ」の各構成について、進歩性の有無を検討する。
(ア)上記「(1)」「ア」の構成について、引用発明には、「上部継鉄13」だけでなく「下部継鉄14も非晶質性合金薄帯に比べて剛性の高い珪素鋼板で形成すると、鉄心脚11、12と上部継鉄13の重量を支えるのに十分な強度が得られる」ことが示されている。つまり、請求人のいう、第1のヨーク(2a)および第2のヨーク(2b)の両方が方向性電磁鋼製であり、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)の1つがアモルファス鋼製であるという構成が示されている。
よって、上記「(1)」「ア」の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)次に、上記「(1)」「イ」ないし「エ」の構成について検討すると、例えば、上記引用文献3(特開昭62-222614号公報)に「以上、変圧器用鉄心のヨークを積層した非晶質鋼薄板だけで構成するものとして説明したが、・・・本発明は外鉄形変圧器用鉄心の場合の様な1個の巻線用の脚だけを持つ電力変圧器用鉄心にも同じ様に適用することが出来ることが理解されよう。このような鉄心の巻線を設けない脚(1つ又は複数)はヨークの延長部とみなされ、典型的には磁束戻り脚と呼ばれる。これら磁束戻り脚は、ヨークと共に、場所が許せば、非晶質鋼薄板で作る。そうでない場合は、巻線用の脚及び磁束戻り脚は珪素鋼薄板で作る。」(第6頁左上欄第7行-同頁右上欄第3行、下線は当審で付与した。)と記載されている。
このように、上記引用文献3には、外鉄形変圧器用鉄心の場合に、巻線用の脚だけを珪素鋼薄板で作り、磁束戻り脚を非晶質鋼薄板で作る技術が記載されている。
そして、引用発明は、「第4」「1」「(1)」「カ」に摘記したとおり、「単相3脚や三相5脚の変圧器積層鉄心」「にも適用できる。」のであるから、引用発明を「単相3脚や三相5脚の変圧器積層鉄心」、つまり、外鉄形変圧器用鉄心に適用し、その際、上記引用文献3に記載された技術を用いて、巻線用の脚だけを珪素鋼薄板で作り、磁束戻り脚を非晶質鋼薄板で作り、上記「(1)」「イ」ないし「エ」の構成とすることも、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)したがって、請求人の主張する上記「(1)」「ア」ないし「エ」の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

2 令和元年12月27日提出の意見書における請求人の主張について
(1)請求人の主張
また、請求人は、令和元年12月27日提出の意見書において、「本願発明1に係るコアは、図1に示されるようにヨークと脚部とは交互に積層されておりません。」と述べ、本願発明1における「脚部」と「ヨーク」との接合を、図1に描かれたとおりの「平坦な接合」の意味であると解釈した上で、いずれの引用文献にも、本願発明1の特徴の一つである「第1のヨーク(2a)および前記第1のヨーク(2a)に対向する第2のヨーク(2b)と、それぞれが第1の端部(4a、4b)及び第2の端部(6a、6b)を有する少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)であって、前記第1の端部(4a、4b)のそれぞれは前記第1のヨーク(2a)の第1の表面(5a)に結合され、前記第1の表面(5a)は前記第2のヨーク(2b)と対向し、前記第2の端部(6a、6b)のそれぞれが前記第2のヨーク(2b)の第2の表面(5b)に結合され、前記第2の表面(5b)は前記第1のヨーク(2a)と対向している、少なくとも2つの脚部(3a、3b、3c、3d)と」を備える点は開示も示唆もされてない旨主張している。

(2)当審の判断
ア しかし、本願発明1における、「脚部」の「端部」と、「ヨーク」の「表面」との「結合」が、「平坦な接合」だけではなく、「ラップ接合」、すなわち、脚部の鋼板とヨークの鋼板との交互積層による接合を含む意味であると解されることは、上記「第5」「1」「イ」で述べたとおりである。

イ また、念のため検討すると、本願の請求項13、14に記載された「ラップ接合」が、「脚部」の(重ね代を含んだ)「端部」と、「ヨーク」の(重ね代を含んだ)「表面」との「ラップ接合」を意味すると解しても、そのような「ラップ接合」は、上記引用文献5(特に、明細書第2頁第6-18行、第1-2図を参照。)、上記引用文献6(特に、段落【0009】-【0021】、図1-5を参照。)に記載されているように、周知技術である。
<引用文献5>

<引用文献6>

さらに、「脚部」と「ヨーク」との接合を、本願の図1に描かれたとおりの「平坦な接合」とすることも、上記引用文献7の段落[0032]、Fig.1に「・・・Preferably the yokes 2a, 2b are glued to the flat ends of the limbs 3a, 3b. Hence there is no longer any reason to have a 45 degrees connection, a step-lap connection or a non-step-lap connection between the yokes 2a, 2b and the limbs 3a, 3b.・・・」(下線は、当審で付与した。)

(当審訳:好ましくは、ヨーク2a,2bは、脚3a,3bの平坦な端部に接着されている。したがって、ヨーク2a,2bと脚3a,3bとの間に45度接合、ステップ・ラップ接合または非ステップ・ラップ接合を有する理由はもはやない。)と記載されているように、周知技術である。

ウ よって、引用発明において、継鉄と脚部との結合を、交互の「積層」ではなく、「脚部」の「端部」と「ヨーク」の「表面」との「ラップ接合」とすること、あるいは、「ヨーク」を「脚の平坦な端部」に接着させ、「平坦な結合」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

3 請求人の主張に対するまとめ
以上のとおり、請求人の主張は、いずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-01-20 
結審通知日 2021-01-26 
審決日 2021-02-10 
出願番号 特願2019-529586(P2019-529586)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 清水 稔
赤穂 嘉紀
発明の名称 半ハイブリッド変圧器コア  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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