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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B60C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C |
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管理番号 | 1375860 |
異議申立番号 | 異議2019-700926 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-20 |
確定日 | 2021-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6517598号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6517598号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし4]について訂正することを認める。 特許第6517598号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6517598号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年6月15日に出願され、平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和1年11月20日 : 特許異議申立人 平田 和恵(以下、「 特許異議申立人」という。)による特許 異議の申立て(対象請求項:全請求項) 令和2年 3月 9日付け : 取消理由通知 同年 5月 7日 : 特許権者 TOYO TIRE株式会社 (以下、「特許権者」という。)による 訂正請求及び意見書の提出 同年 6月29日付け : 訂正拒絶理由通知 同年 7月22日 : 特許権者による意見書の提出 同年 9月25日付け : 特許法第120条の5第5項の通知 同年11月 2日 : 特許異議申立人による意見書の提出 同年12月21日付け : 取消理由通知(決定の予告) 令和3年 2月12日 : 特許権者による訂正請求及び意見書の 提出 同年 2月19日付け : 特許法第120条の5第5項の通知 同年 3月23日 : 特許異議申立人による意見書の提出 なお、令和2年5月7日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和3年2月12日提出の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記主溝に挟まれた陸部が複数の横溝により分割されて」 と記載されているのを、 「前記主溝に挟まれた陸部が複数の一方向に延びる横溝により分割されて」 に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「前記ブロックが、タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部とを有し、 タイヤ周方向に隣り合うブロック間において、一方側のブロックの前記第2凸部と他方側のブロックの前記第1凸部とがタイヤ周方向に重なりを有し、」 と記載されているのを、 「前記ブロックが、タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部とを有し、前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状であって、前記横溝のその他の部分より幅が狭くなるように前記横溝を挟んで平行になっており、 タイヤ周方向に隣り合うブロック間において、タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じるように、一方側のブロックの前記第2凸部の頂部と他方側のブロックの前記第1凸部の頂部とがタイヤ周方向に重なりを有し、」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2ないし4も同様に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正事項1及び訂正事項2による本件訂正は、訂正前の請求項1ないし4を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2ないし4は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項であって、訂正事項1による本件訂正は、一群の請求項[1ないし4]について請求されたものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「横溝」について、訂正後の請求項1は、「一方向に延びる」ことに限定するものである。 したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、請求項1を引用する請求項2ないし4に関する訂正事項1も同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「第1凸部」と「第2凸部」について、訂正後の請求項1は、「前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状であって、前記横溝のその他の部分より幅が狭くなるように前記横溝を挟んで平行になって」いること、及び「タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じるように」なることを限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、請求項1を引用する請求項2ないし4に関する訂正事項2も同様である。 4 小括 以上のとおりであるから、訂正事項1及び2は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、令和3年2月12日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 複数のタイヤ周方向に伸びる主溝を有し、前記主溝に挟まれた陸部が複数の一方向に延びる横溝により分割されて、タイヤ周方向に並ぶ複数のブロックが形成された空気入りタイヤにおいて、 前記ブロックが、タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部とを有し、前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状であって、前記横溝のその他の部分より幅が狭くなるように前記横溝を挟んで平行になっており、 タイヤ周方向に隣り合うブロック間において、タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じるように、一方側のブロックの前記第2凸部の頂部と他方側のブロックの前記第1凸部の頂部とがタイヤ周方向に重なりを有し、 前記ブロックに両端が閉塞した細溝が形成され、前記細溝の溝底にサイプが形成された、空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記細溝が前記第1凸部及び前記第2凸部とタイヤ周方向に重なりを有する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記横溝の深さが前記主溝の深さの70%以上である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記細溝の深さが前記主溝の深さの5%以上20%以下であり、前記サイプの深さが前記主溝の深さから前記細溝の深さを引いた深さの40%以上90%以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由(決定の予告)の概要 1 特許異議申立書に記載した申立理由の概要 令和1年11月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)証拠方法 特許異議申立書に添付して以下の証拠が提出された。 甲第1号証:特開平9-142108号公報 甲第2号証:特開2006-160195号公報 甲第3号証:特開平11-078433号公報 甲第4号証:特開2012-153157号公報 甲第5号証:特許第4149219号公報 甲第6号証:特開2009-269500号公報 以下、それぞれ「甲1」ないし「甲6」という。 2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要 当審が令和2年12月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりであり、特許異議申立書に記載した申立理由を全て含むものである。 (1)取消理由1(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、当該取消理由1の具体的理由は次のとおりである。 本件発明1は、横溝が「直線状」であることが特定されている。ところで、本件特許明細書の段落【0015】には、「本実施形態では、第1凸部51の頂部(センター横溝41幅方向の端部)51aと第2凸部52の頂部(同上)52aとが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状になっており、センター横溝41を挟んで平行になっている。」と記載され、横溝の一部が直線状を構成しているものの、【図1】を参酌すると、横溝の形状は、全体として、略S字型或いは屈曲状となっている。このため、横溝が「直線状」とは、どのような態様まで包含されるのか、その範囲が不明確である。 (2)取消理由2(甲1を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 1 取消理由1(明確性)について 令和3年2月12日提出の訂正請求による訂正により、請求項1の「横溝」の特定について、不明確とされた「直線状」が削除された。このため、当該取消理由1(明確性)は解消されることとなった。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではないので、取消理由通知(決定の予告)の取消理由1(明確性)によっては取り消すことはできない。 2 取消理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)について (1)甲号証に記載された事項等 ア 甲1の記載事項等 (ア)甲1の記載事項 甲1には、重荷重用空気入りタイヤについて、概略、次の記載がある(下線については当審において付与したものである。以下、同様。)。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 トレッド面にタイヤ周方向に延びるストレート状の複数の主溝を設け、該主溝により区分される陸部を形成し、前記主溝間に配置された陸部にタイヤ幅方向に延びる横溝をタイヤ周方向に沿って所定のピッチで配置し、その陸部を主溝と横溝により区画するブロックに形成した重荷重用空気入りタイヤにおいて、 前記横溝を主溝に開口する溝幅を広くした左右一対の太溝部とこの太溝部間を連通する溝幅を狭くした細溝部とから構成すると共に、それら太溝部と細溝部とを屈曲状に配置し、前記左右の太溝部をタイヤ周方向にずらして配置すると共に、主溝に向けて拡開する構成にする一方、前記細溝部をストレート状に形成すると共に、そのタイヤ周方向に対する傾斜角度θを25?45°、タイヤ周方向における長さZをピッチ長さPに対して0.2P≦Z≦0.75Pにした重荷重用空気入りタイヤ。」 b「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ブロックパターンを有する重荷重用空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、高い制駆動性能を確保しながら、ブロックに発生するレールウェイ摩耗やヒールアンドトウ摩耗等の偏摩耗を低減するようにした重荷重用空気入りタイヤに関する。」 c「【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ブロックパターンを有する重荷重用空気入りタイヤにおいて、高い制駆動性能を確保しながら、レールウェイ摩耗やヒールアンドトウ摩耗等の偏摩耗を抑制することができる重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。」 d「【0006】このように従来の傾斜を大きくしたジグザグジ状の主溝に代えて、ストレート状の主溝を配置したので、主溝に面した陸部にレールウェイ摩耗が発生するのを抑えて、その改善を図ることができる一方、横溝を屈曲するように形成し、その横溝に対面するブロックのエッジ長を充分に確保して高いエッジ効果を得るようにしたので、従来の傾斜を大きくしたジグザグジ状の主溝の両側エッジで得るようにしたエッジ効果を補うことができ、そのため、ストレート状の主溝を設けても高い制駆動性能を確保することができる。 【0007】また、太溝部をタイヤ周方向にずらし、かつ主溝に向かって拡開させる一方、ストレート状に形成した細溝部の傾斜角度θと長さZを上記の範囲にしたことにより、高い制駆動性能を維持しながら、陸部に形成されたブロック列において、タイヤ幅方向でブロックが重複するラップ量の最大値と最小値の差を小さくコントロールすることができるため、ブロックの前後に発生するヒールアンドトウ摩耗の改善も可能になる。」 e「【0012】9は、各ブロック4内に形成された屈曲状の溝部で、細溝部3bよりもその溝幅を狭くし、タイヤ周方向Tに対して傾斜して配設されている。CLは、トレッド面1のタイヤセンターラインである。このように本発明は、従来の傾斜を大きくしたジグザグジ状の主溝に代えて、ストレート状の主溝2をタイヤ周方向Tに沿って配置したので、主溝2に面したブロック4とリブ5の側部にレールウェイ摩耗が発生するのを抑制することができる一方、横溝3を屈曲状に形成したので、その横溝3に面するブロックエッジの長さを充分に確保した高いエッジ効果により、従来の傾斜を大きくしたジグザグジ状の主溝2の両側エッジで得るようにしたエッジ効果を補うことができるため、高い制駆動性を得ることができる。 【0013】しかも、太溝部3aをタイヤ周方向にずらして配置すると共に、主溝2に向けて拡開する構成にする一方、ストレート状に形成した細溝部3bの傾斜角度θと長さZを上記のように設定することにより、高い制駆動性能を損なうことなく、タイヤ周方向に並ぶブロック4の列におけるタイヤ幅方向のブロックラップ量の最大値と最小値の差を小さくして、ブロック前後に発生するヒールアンドトウ摩耗を抑制することができる。 【0014】上記細溝部3bの傾斜角度θが25°、タイヤ周方向Tにおける長さZが0.2Pよりも小さいと、共にヒールアンドトウ摩耗を効果的に抑制することが困難となり、また、傾斜角度θが45°よりも大きくなっても、長さZが0.75Pを越えても、制駆動性能が低下する。また、本発明では、ブロック4に上記切欠き溝6を設けることにより、また更に、ショルダー部のリブ5にも切欠き溝7とラグ溝8を配置することにより、一層高い制駆動性能を確保することができる。」 f「【図1】 」 (イ)甲1に記載された発明 甲1には、上記載事項(ア)a、eの特に下線部の記載からみて、次のとおりの発明が記載されていると認める。 「トレッド面にタイヤ周方向に延びるストレート状の複数の主溝を設け、該主溝により区分される陸部を形成し、前記主溝間に配置された陸部にタイヤ幅方向に延びる横溝をタイヤ周方向に沿って所定のピッチで配置し、その陸部を主溝と横溝により区画するブロックに形成した重荷重用空気入りタイヤにおいて、 前記横溝を主溝に開口する溝幅を広くした左右一対の太溝部とこの太溝部間を連通する溝幅を狭くした細溝部とから構成すると共に、それら太溝部と細溝部とを屈曲状に配置し、 前記左右の太溝部をタイヤ周方向にずらして配置すると共に、主溝に向けて拡開する構成にし、 前記細溝部をストレート状に形成すると共に、そのタイヤ周方向に対する傾斜角度θを25?45°、タイヤ周方向における長さZをピッチ長さPに対して0.2P≦Z≦0.75Pにし、 各ブロック内に屈曲状の溝部を形成し、該溝部は前記細溝部よりもその溝幅が狭く、タイヤ周方向に対して傾斜して配設してなる、重荷重用空気入りタイヤ。」(以下「甲1発明」という。) イ 甲6の記載事項 甲6には、空気入りタイヤについて、概略、次の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 トレッド部に、タイヤ赤道の両側をタイヤ周方向にのびる内の縦主溝と、その外側に配される外の縦主溝とからなりかつ溝巾HGが4mm以上の4本の縦主溝を設けることにより、前記内の縦主溝間に中央の陸部、内の縦主溝と外の縦主溝との間に中間の陸部、及び外の縦主溝とトレッド接地縁との間に外の陸部を具えた空気入りタイヤであって、 前記中央の陸部と中間の陸部と外の陸部は、各陸部を横切る横溝によって区画されるブロックが周方向に並ぶブロック列からなり、しかも各ブロックにサイピングが配されるとともに、 前記中央の陸部のタイヤ軸方向の陸部巾Wcは、トレッド接地巾TWの10?15%、前記中間の陸部のタイヤ軸方向の陸部巾Wmは、トレッド接地巾TWの15?22%、かつ前記外の陸部のタイヤ軸方向の陸部巾Wsは、トレッド接地巾TWの15?22%とし、 しかも、前記中間の陸部に、タイヤ周方向にのびかつ溝巾Hgが2?6mmの縦細溝を設けることにより、前記中間の陸部を、該縦細溝よりもタイヤ軸方向内側となる中間の内陸部分と、タイヤ軸方向外側となる中間の外陸部分とに区分したことを特徴とする空気入りタイヤ。」 (イ)「【0030】 なお前記横溝深さDsは、前記縦主溝3の溝深さDGの0.8?1.0倍の範囲であり、本例では、Ds=DGの場合が例示されている。又前記縦細溝9の溝深さDgは、前記横溝深さDmi以下であることが、偏摩耗抑制の観点から好ましい。 【0031】 次に、前記中央の横溝5cは、図3に示すように、タイヤ赤道Cを横切る中央溝部10と、この中央溝部10の両側に連なる外側溝部11、11とから形成される。本例では、前記外側溝部11の溝巾W11は、前記中央溝部10の溝巾W10よりも大である。特に本例では、前記中央溝部10は、その全長に亘って溝巾一定であり、又外側溝部11では、溝巾W11が前記内の縦主溝3iに向かって漸増している。このように外側溝部11を形成することにより、前記内の縦主溝3i内での雪柱の形成が容易となるとともに、雪柱強度が増すなど大きな雪柱せん断力を得ることができる。その結果、雪上にてハンドル操作したときの手応え感を高めることができる。」 (ウ)「【図3】 」 (2)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明において、各「ブロック」は「主溝と横溝により区画」されてなるものであって、当該「横溝」を「左右一対の太溝部とこの太溝部間を連通する溝幅を狭くした細溝部」とから構成し、これら太溝部と細溝部とを「屈曲状」に配置し、さらに「細溝部」を「ストレート状」に「タイヤ周方向に対する傾斜角度θを25?45°」となるように形成するものである。 そして上述のとおり、甲1発明は、「横溝」を「左右一対の太溝部とこの太溝部間を連通する溝幅を狭くした細溝部」とから構成し、これら太溝部と細溝部とを「屈曲状」に配置してなるから、甲1発明において、横溝を挟んで配置してなるブロックは、「タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する凸部」を有することになるといえ、このような構成は本件発明1の「タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部」に相当するものといえる。 また、甲1発明における各ブロック内に屈曲状に形成された「溝部」は、本件発明1におけるブロックに両端が閉塞するように形成してなる「細溝」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「複数のタイヤ周方向に伸びる主溝を有し、前記主溝に挟まれた陸部が複数の横溝により分割されて、タイヤ周方向に並ぶ複数のブロックが形成された空気入りタイヤにおいて、 前記ブロックが、タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部とを有し、 前記ブロックに両端が閉塞した細溝が形成された空気入りタイヤ。」である点 <相違点1> 本件発明1は、横溝について「一方向に延びる」と特定すると共に、ブロックについて「前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状であって、前記横溝のその他の部分より幅が狭くなるように前記横溝を挟んで平行になっており、 タイヤ周方向に隣り合うブロック間において、タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じるように、一方側のブロックの前記第2凸部の頂部と他方側のブロックの前記第1凸部の頂部とがタイヤ周方向に重なりを有し」と特定するのに対し、甲1発明はこのような特定を有しない点。 <相違点2> 細溝について、本件発明1は「細溝の溝底にサイプが形成された」と特定するのに対し、甲1発明はこのような特定を有しない点。 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点1>について 甲1発明は、横溝に関し、「それら太溝部と細溝部とを屈曲状に配置し、前記左右の太溝部をタイヤ周方向にずらして配置すると共に、主溝に向けて拡開する構成にし、前記細溝部をストレート状に形成すると共に、そのタイヤ周方向に対する傾斜角度θを25?45°、タイヤ周方向における長さZをピッチ長さPに対して0.2P≦Z≦0.75P」とする構成を備えるもので、当該構成により、「高い制駆動性能を維持しながら、陸部に形成されたブロック列において、タイヤ幅方向でブロックが重複するラップ量の最大値と最小値の差を小さくコントロールすることができるため、ブロックの前後に発生するヒールアンドトウ摩耗の改善も可能になる。」という作用効果を奏するものである。そして、特に前記細溝部のタイヤ周方向に対する傾斜角度θが25?45°であることから、太溝部と細溝部とを屈曲状に配置した「横溝」は、「一方向に延びる」構成をとることができない。 また、仮に、他の証拠に「横溝」について「一方向に延びる」ことについての記載があったとしても、「横溝」について「一方向に延びる」ようにする動機付けとなる記載は甲1にはなく、また他の証拠にもないし、加えて甲1発明の課題あるいは作用効果からみて阻害要因があるともいえる。 したがって、本件発明1は、<相違点2>について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし4について 本件発明2は、本件発明1に、「前記細溝が前記第1凸部及び前記第2凸部とタイヤ周方向に重なりを有する」という発明特定事項を追加したものである。 本件発明3は、本件発明1又は2に、「前記横溝の深さが前記主溝の深さの70%以上である」という発明特定事項を追加したものである。 本件発明4は、本件発明1ないし3のいずれかに、「前記細溝の深さが前記主溝の深さの5%以上20%以下であり、前記サイプの深さが前記主溝の深さから前記細溝の深さを引いた深さの40%以上90%以下である」という発明特定事項を追加したものである。 そうすると、本件発明2ないし4と甲1発明との間には、上記アにおける<相違点1>が存在するから、他の相違点について検討するまでもなく、上記アで検討したように、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和3年3月23日に提出された意見書において、以下の主張をしている。 <主張1>本件発明1には、「タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じる」という発明特定事項が特定されているところ、このような変形が生じるには、ブロックに一定以上の力が負荷される必要があります。これに対して、本件特許の明細書には、前述の事項に関して「負荷される力」の条件は明記されていない。 また、上記のような変形が生じるには、頂部どうしの相互間隔(溝幅)や、溝深さ(ブロックの高さ)といった要素が重要になるところ、本件特許の段落[0044]に提示される表1には、「センター横溝(第1凸部と第2凸部がタイヤ周方向に重なっている部分)」の幅が「5.5mm」、深さが「18.9mm」であることが記載されるが、本件特許には、この幅および深さを満たすことで「前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じる」ことは記載されていない。 したがって、上記発明特定事項は明確でない。 <主張2>本件発明1の上記2(2)アの<相違点1>に係る「ブロック」の構造は、甲6から周知であるから、本件特許に係る発明は、甲1発明及び周知技術(例えば甲6) に基いて当業者が容易に推考し得るものである。 そこで、上記主張について検討する。 <主張1>について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)検討 上記発明特定事項は、「タイヤ周方向の力が負荷されたときに」「前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じ」ることを規定するもので、上記観点に照らして何ら不明確な点はない。 そして、本件特許の明細書において、「負荷される力」の条件が明記されていないことや、「本件特許には、この幅および深さを満たすことで『前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じる』ことは記載されていない。」ことは、本件の明確性要件の充足性を何ら左右するものではない。 よって、特許異議申立人の<主張1>は失当である。 <主張2>について 上記2(2)アで検討したように、横溝について「一方向に延びる」構成をとるようにする動機付けとなる記載は甲1及びその他の証拠にはなく、加えて甲1発明の課題あるいは作用効果からみて阻害要因があるのであるから、たとえ、上記2(2)アの<相違点1>に係る「ブロック」の構造が甲6から周知であったとしても、「一方向に延びる」横溝の構成を共に備える甲6の図3の横溝を採用することはできない。 よって、特許異議申立人の<主張2>を首肯することができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
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発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数のタイヤ周方向に伸びる主溝を有し、前記主溝に挟まれた陸部が複数の一方向に延びる横溝により分割されて、タイヤ周方向に並ぶ複数のブロックが形成された空気入りタイヤにおいて、 前記ブロックが、タイヤ幅方向の一方側の部分からタイヤ周方向の一方側へ突出する第1凸部と、タイヤ幅方向の他方側の部分からタイヤ周方向の他方側へ突出する第2凸部とを有し、前記第1凸部の頂部と第2凸部の頂部とが、それぞれタイヤ幅方向に対して傾斜した直線状であって、前記横溝のその他の部分より幅が狭くなるように前記横溝を挟んで平行になっており、 タイヤ周方向に隣り合うブロック間において、タイヤ周方向の力が負荷されたときに前記第1凸部の頂部と前記第2凸部の頂部とが接触し、その接触部において前記横溝が閉じるように、一方側のブロックの前記第2凸部の頂部と他方側のブロックの前記第1凸部の頂部とがタイヤ周方向に重なりを有し、 前記ブロックに両端が閉塞した細溝が形成され、前記細溝の溝底にサイプが形成された、空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記細溝が前記第1凸部及び前記第2凸部とタイヤ周方向に重なりを有する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記横溝の深さが前記主溝の深さの70%以上である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記細溝の深さが前記主溝の深さの5%以上20%以下であり、前記サイプの深さが前記主溝の深さから前記細溝の深さを引いた深さの40%以上90%以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-04-16 |
出願番号 | 特願2015-120346(P2015-120346) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B60C)
P 1 651・ 537- YAA (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 細井 龍史 |
登録日 | 2019-04-26 |
登録番号 | 特許第6517598号(P6517598) |
権利者 | TOYO TIRE株式会社 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 瓜本 忠夫 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 栄二 |
代理人 | 林 栄二 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 尋木 浩司 |
代理人 | 瓜本 忠夫 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 林 一好 |