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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規)  A63F
管理番号 1375891
異議申立番号 異議2021-700391  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-27 
確定日 2021-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6777491号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6777491号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6777491号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(以下「本件特許出願」という。)は、平成28年9月29日に出願した特願2016-191528号であって、令和2年10月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和3年4月27日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、A?Gの符号は、当審にて分説するために付した。分説された本件発明の発明特定事項を、符号に基づき「特定事項A」等という。以下同様。)。
「【請求項1】
A 遊技を行う遊技機において、
B 画像を表示可能な画像表示手段と、
C キャラクタを用いて遊技に関する演出を前記画像表示手段を用いて実行可能な演出手段と、
D エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を前記画像表示手段を用いて実行可能なエラー表示手段と、を備え、
E 前記画像表示手段は、第1領域と、当該第1領域よりも広い第2領域とを含み、
F 前記エラー表示手段は、エラーが発生したときに、前記第1領域においてエラーの種類を表示するとともに、前記第2領域において店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する、
G 遊技機。」

2 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件特許に対し次の理由を申し立てている。

(1)理由1
本件特許発明は、自然法則を利用していないもの、技術的思想でないものであるから、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものである。
よって、本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきである。

(2)理由2
本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当する。
よって、本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平11-262574号公報
甲第2号証:特開2014-221359号公報

第3 当審の判断
1 理由1について
(1)特許法第29条第1項柱書にいう「発明」の該当性について
特許法第29条第1項柱書は「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と定め、その前提となる「発明」については同法第2条第1項が「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定めている。
ところで、本件発明は遊技機でエラーが発生した際の表示に関する発明である。ここで、どのような情報を表示するかを決めること自体や一定の内容を表示すること自体は、人為的な取決め又は情報の単なる提示にすぎないものとして、「自然法則を利用した技術的思想の創作」とはいえない可能性がある。しかしながら、本件発明がエラーの表示を遊技機に行わせ、そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであり、それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると解することができる(知財高裁平成21年6月16日判決、平成20年(行ケ)第10279号参照)。
そこで、以下において、本件発明の技術的課題及び技術的意義の観点から、本件発明の発明該当性について検討する。

(2)本件発明の技術的課題について
本件発明が解決しようとする技術的課題は、本件特許の明細書に以下のとおり記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、遊技を行う遊技機に関する。
【背景技術】
【0002】
遊技機として、所定の賭数を設定し、スタート操作が行われたことに基づいて、複数種類の識別情報の可変表示が行われるスロットマシンや、遊技球などの遊技媒体を発射装置によって遊技領域に発射し、該遊技領域に設けられている入賞口などの始動領域に遊技媒体が入賞したときに複数種類の識別情報の可変表示が行われるパチンコ遊技機などがある。
【0003】
従来、この種の遊技機の一例として、エラーが発生したときに係員を呼ぶことを遊技者に促すエラー表示が実行されるものがあった(たとえば、特許文献1)。」(下線部は当審で付した。以下同様。)

イ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の遊技機によれば、エラー表示について十分とはいえず、更なる改良の余地があった。
【0006】
この発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、エラー表示の更なる向上を実現できる遊技機を提供することである。」

上記ア、イを勘案すると、本件発明は、遊技機で「エラーが発生したときに係員を呼ぶことを遊技者に促すエラー表示」(【0003】)を行うという従来技術を前提として、「エラー表示の更なる向上を実現できる遊技機を提供する」(【0006】)という技術的課題を解決しようとするものであるといえる。

(3)本件発明の技術的意義について
本件特許の明細書において、上記(2)の技術的課題を解決するための構成(本件発明と同旨)が【0007】に記載され、その技術的意義については【0008】に次のように記載されている。
「【0008】
このような構成によれば、キャラクタを用いて遊技者にエラーが発生したときの動作を示すことができるため、遊技者への興趣の向上を図りつつ、遊技者が実行するべき動作を示すことができる。」
本件発明の特定事項Fにおいて「前記第2領域において店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」とされていることに鑑みれば、本件発明は実際に上記【0008】の技術的意義を有するといえる。
また、本件発明の特定事項Eにおいて「エラーの種類を表示する」「第1領域よりも」、「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」「第2領域」が「広い」とされていることに鑑みれば、本件発明は上記【0008】に記載の技術的意義を(特定事項Fの上記構成のみの場合に比べて)より効果的に生じさせているといえる。

(4)本件発明の「発明」該当性について
上記(2)及び(3)に鑑みれば、本件発明は、遊技機という装置において、「エラー表示の更なる向上を実現」するという技術的課題を解決しようとするものであり、全体として「キャラクタを用いて遊技者にエラーが発生したときの動作を示すことができるため、遊技者への興趣の向上を図りつつ、遊技者が実行するべき動作を示すことができる」という技術的意義を有するものであるといえる。
したがって、本件発明は特許法第2条第1項でいう「発明」に該当し、本件特許は同法第29条第1項柱書に違反してなされたものとはいえない。

(5)申立人の主張
ア 「自然法則を利用していないもの」(人為的な取り決め)について
申立人は、本件発明は、審査基準(特許庁が公表している特許・実用新案審査基準。以下同じ。)の「発明」に該当しないものの類型である「自然法則を利用していないもの」(人為的な取り決め)に該当する旨を主張する。
しかしながら、上記(1)?(4)で検討したとおり、本件発明は、エラーの表示を遊技機に行わせ、そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであり、それが全体として一定の技術的意義を有するものであり、単なる人為的な取り決めにはあたらない。
したがって、本件発明が「自然法則を利用していないもの」(人為的な取り決め)に該当するとはいえない。

イ 「技術的思想でないもの」(情報の単なる提示)について
申立人は、本件発明は、審査基準の「発明」に該当しないものの類型である「技術的思想でないもの」(情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提供を主たる目的とするもの))に該当する旨を主張する。
確かに、本件発明は一定の情報の表示に特徴があるものであるから、情報の提示に関連するものではある。ここで、審査基準のいう「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するものであって、情報の提供を主たる目的とするもの)」の具体例を見ると「録音された音楽にのみ特徴を有するCD」、「デジタルカメラで撮影された画像データ」などが挙げられている。これらの例に照らすと、例えば、遊技機のエラー表示において、あるキャラクタの図柄にのみ特徴を有するものであって、そのようなキャラクタの図柄の提供(その図柄のキャラクタを表示して鑑賞させること)を主たる目的とする場合などは「情報の単なる提示」であると言い得る。
しかし、本件発明は、「キャラクタ」が「店員を呼ぶための操作をする」表示をしたり、そのキャラクタの表示領域(第2領域)を「エラーの種類を表示する」「第1領域よりも」「広い」ものとしたりするというような、一定の技術的思想を含むものであり、情報の内容にのみ特徴を有するものでもなければ、情報の提供を主たる目的とするものでもなく、「情報の単なる提示」を行うものではないことは明らかである。
したがって、本件発明が「技術的思想でないもの」(情報の単なる提示)に該当するとはいえない。

ウ 著作権との関係について
申立人は異議申立書において、
「なお、発明の前提として、遊技機、画像表示手段が構成としてあるので、発明全体としては自然法則を利用し、技術思想があるとの主張もあり得るが、これは次の理由により成り立たない。
例えば、TVの表示画面において、dボタン(データボタン)を押してクイズに回答するタイミングにおいて、キャラクタがdボタンを押すような表示画面が出現したTVには発明成立性はない。すなわち、TVの表示画面には著作権が存在し、特許権の対象にはならないといえるからである。」(異議申立書7頁3行ないし10行)と主張している。
しかしながら、特許法が保護する「発明」は「技術的思想」を対象とし(特許法第2条第1項参照)、著作権が保護する「著作物」は「表現」を対象とする(著作権法第2条第1項第1号参照)ものであり、それぞれ別個の法律で別個の要件によりこれらの該当性が判断されるべきものである。したがって、機器上で表示を行う際の「表現」について著作物性が認められ得るからといって、当然に、当該表示を行う際の「技術的思想」について特許法上の発明の該当性が否定されるものでないことは明らかであり、上記主張は採用できない。

エ 小括
以上より、理由1に関する申立人の主張はいずれも採用できない。

(6)まとめ
以上より、本件特許は特許法第29条第1項柱書に違反してなされたものではないから同法第113条第2号の規定には該当せず、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由2について
(1)甲第1号証(特開平11-262574号公報)について
甲第1号証(平成11年9月28日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0014】本形態に係る遊技機用表示装置10は、図1に示すように、パチンコ機12の上部周辺でかつ当該パチンコ機12で遊技する遊技者から見える位置に配置されている。」

イ 「【図1】



ウ 「【0015】遊技機用表示装置10には、上部に無色透明カバー14、無色透明カバー14の下部に赤色透明カバー16、及び黄色透明カバー18が設けられている。また、遊技機用表示装置10には、無色透明カバー14、赤色透明カバー16、及び黄色透明カバー18の中央部の遊技者側に液晶表示装置20が設けられている。更に、遊技機用表示装置10には、黄色透明カバー18の下部に、店員を呼び出すための呼出ボタン22、液晶表示装置20の表示内容を切替えるための表示切替ボタン24、遊技者毎の遊技状況(プレイデータ)を液晶表示装置20に表示させるためのプレイボタン26、及びパチンコ機12の番号が記載された台番プレート28が設けられている。
【0016】一方、パチンコ機12は、本体の前面枠内に遊技盤30が配置されている。遊技盤30の中央上部には、図及び数字の少なくとも一方の複数の図柄から複数の図柄の組合せを表示しながら選択する図柄表示装置(液晶表示装置で構成されている)38が配置されている。図柄表示装置38の下位には、始動口13が配置され、更にその下位には比較的開放面積が大きい大入賞口15が配置されている。なお、パチンコ機12は、始動口13にパチンコ玉が投入された場合に、図柄表示装置38に上記選択を開始させ、選択された組合せが予め定められた組合せである場合に、特賞が発生したとして、大入賞口15を開放させる。」

エ 「【0022】次に、遊技機用表示装置10の制御系を説明する。本制御系は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)40を含んで構成されている。このマイコンは、図2に示すように、各種の制御処理を行うCPU42、CPU42で実行される各種制御プログラムやデータ等を記憶したROM44、各種の処理において作業用の記憶領域として一時的に用いられるRAM46及び入出力ポート48を備えており、これらはデータバス、制御バス等を含んで構成されるバス50を介して互いに接続されている。
【0023】入出力ポート48には、前述した液晶表示装置20、呼出ボタン22、表示切替ボタン24、及びプレイボタン26が接続されている。また、入出力ポート48には、メインランプドライバ54を介して、赤色メインランプ(ML_(R))56N_(1)?56N_(4)、及び黄色メインランプ(ML_(Y))56N_(5)、56N_(6)が接続されている。
【0024】また、入出力ポート48には、補助ランプドライバ60を介して、青色補助ランプ(SL_(B))62A、62B、緑色補助ランプ(SL_(G))64A、64Bが接続されている。
【0025】更に、入出力ポート48には、効果音発生装置19、受信装置52、及び接続装置(所謂Pボックス)13を介してパチンコ機12が接続されている。なお、接続装置13は、図示しない他のパチンコ機が接続された接続装置13と接続されている。」

オ 「【図2】



カ 「【0093】フラグKに0がセットされている場合には、ステップ204に進み、フラグKに1がセットされている場合(なお、本形態ではフラグKに1がセットされている(質問項目Q10参照))には、ステップ208で、遊技機用表示装置10の機能説明表示処理を実行する。遊技機用表示装置10の機能説明表示処理は、図8(a)?図8(d)に示すように、キャラクタ140の動作により当該機能が説明されるように遊技機用表示装置10の液晶表示装置20の画面が画面20G_(1)?20G_(4)のように切替り表示される。即ち、最初の画面20G_(1)は、図8(a)に示すように、3[秒]間、キャラクタ140がどのパチンコ機12で遊技するか探すように表示される。そして、遊技するパチンコ機12が決定されると、1[秒]間、キャラクタ140が該遊技するパチンコ機12を指差すように動作する。
【0094】次の画面20G_(2)では、遊技機用表示装置10の液晶表示装置20が表示され、かつ、表示された遊技機用表示装置10の表示切替ボタン24をキャラクタ140の指140Yが押圧する毎に、表示された液晶表示装置20の画面が、図11(a)?図11(c)に示す3種類の履歴データが表示される。
・・・
【0102】ステップ222で、図11(a)に示すように、当日、前日、及び前々日の各々の特賞(大当り)の発生回数を表示する。このように、図11(a)に示すように液晶表示装置20の画面20Gを見れば、当日では21回、前日では13回、前々日では32回、特賞(大当り)が発生したことを認識することができる。
【0103】次のステップ224では、表示切替ボタン24がオンされたか否かを判断する。表示切替ボタン24がオンされた場合には、ステップ226で、総スタート回数と総大当り回数との比を計算して、大当りの発生確率(特賞発生確率)として、図11(b)に示すように、当日、前日、及び前々日の各々毎に表示すると共に総スタート回数を表示する。このように、図11(b)に示すように液晶表示装置20の画面20Gを見れば、当日、前日、及び前々日の各々における大当りの発生確率(特賞発生確率)及び総スタート回数を認識することができ、遊技者の遊技感が向上する。
【0104】次のステップ228では、表示切替ボタン24がオンされたか否かを判断する。表示切替ボタン24がオンされた場合には、ステップ230で、図11(c)に示すように、当日及び前日の特賞(大当り)の発生確率及びスタート回数の経時変化を棒グラフで表示する。このように、図11(c)に示すように液晶表示装置20の画面20Gを見れば、当日及び前日の各々における特賞(大当り)の発生確率及びスタート回数の経時変化を認識することができ、遊技者の遊技感が更に向上する。なお、特賞(大当り)の発生確率及びスタート回数の経時変化を折れ線グラフで表示するようにしてもよい。」

キ 「【図8】



ク 「【図11】



ケ 「【0116】ところで、パチンコ機12で長時間遊技した遊技者は、食事休憩、トイレ休憩等を望む場合や、パチンコ機12が故障して店員に援助を望む場合がある。このような場合、遊技者は、遊技機用表示装置10の呼出ボタン22をオンする。このように呼出ボタンがオンされた場合には、図15に示すように、『呼出中』を表示すると共にこの表示が開始したときからの経過時間を表示する。なお、『呼出中』の表示開始からの経過時間の表示は、予め定められた時間をダウンカウントして表示するようにしてもよく、『呼出中』の表示開始からの経過時間をアップカウントして表示するようにしてもよい。なお、『呼出中』及び経過時間の表示は、店員用リモコン120の呼出リセットキー132がオンされ、リセット信号を受信した場合及び遊技機用表示装置10の呼出ボタン22が再度オンされた場合に終了する。」

コ 「【0119】ここで、パチンコ機12にエラーが発生した場合に遊技機用表示装置10は、エラー発生信号をパチンコ機12から入力する。このようにエラー発生信号を入力した遊技機用表示装置10は、現画面20Gへの表示処理に割り込んで、図17に示すように、キャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示する。このようにエラーが発生したことが表示された場合、遊技者は、パチンコ機12にエラーが発生したことを認識でき、前述したように呼出ボタン22をオンすることにより、店員を呼び出す。このように、パチンコ機12にエラーが発生した場合、店員を迅速に呼び出し対処させることができ、遊技者の遊技感が損なわれることを最少減にすることができる。なお、エラーが解除された場合に、当該エラー発生の表示も解除されて、元の画面に切り替わる。」

サ 「【図17】



シ 「【0121】前述したようにパチンコ機12は、始動口13にパチンコ玉が投入された場合に、図柄表示装置38により上記選択を開始させ、選択された組合せが予め定められた組合せである場合に、特賞が発生したとして、大入賞口15を開放すると共に接続装置13を介して遊技機用表示装置10に特賞発生信号を出力する。このように、パチンコ機12から特賞発生信号を入力した場合、本ルーチンがスタートして、ステップ262で、通常は、大当りが発生したことを、図19(a)に示すように、液晶表示装置20の画面20Gにおいて、キャラクタの動作により祝福表示する。なお、現時点が連続中である場合には、後述するフラグF(現時点が連続中であることを識別するためのフラグ)が1にセットされているか否かを判断し、フラグFが1にセットされている場合には、図19(a)に示すようにキャラクタの動作による祝福表示が終了した後、図19(b)で、液晶表示装置20の画面20Gの上側において、キャラクタの動作を継続して、大当りの発生の祝福表示を継続し、下側において、『連続中』を表示する。」

ス 「【図19】



セ 認定事項
甲第1号証の【0014】?【0015】、【0022】?【0025】、【図1】?【図2】等の記載に照らせば、「パチンコ機12」と「遊技機用表示装置10」とは接続装置13を介して接続され、両者は連動して一体のシステム(以下、「遊技システム」という。)として動作するものと認められる。

ソ 上記ア?セより、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、特定事項A等に概ね対応させて符号a等を付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。以下同様。)。

甲1発明
「a パチンコ機12と遊技機用表示装置10からなる遊技システムにおいて(上記セの認定事項)、遊技機用表示装置10は、パチンコ機12の上部周辺でかつ当該パチンコ機12で遊技する遊技者から見える位置に配置され(【0014】)、遊技機用表示装置10の入出力ポート48には、接続装置13を介してパチンコ機12が接続され(【0022】、【0025】)、
b パチンコ機12には、図及び数字の少なくとも一方の複数の図柄から複数の図柄の組合せを表示しながら選択する図柄表示装置(液晶表示装置で構成されている)38が配置され(【0016】)、
c 遊技機用表示装置10には、液晶表示装置20が設けられ(【0015】)、大当りが発生したことを、液晶表示装置20の画面20Gにおいて、キャラクタの動作により祝福表示し(【0121】、図19(a))、
d パチンコ機12にエラーが発生した場合に、遊技機用表示装置10は、現画面20Gへの表示処理に割り込んでキャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示し(【0119】、図17)、
f 遊技機用表示装置10には、店員を呼び出すための呼出ボタン22が設けられ(【0015】)、パチンコ機12が故障して店員に援助を望む場合や、エラーが発生したことが表示された場合、遊技者は、遊技機用表示装置10の呼出ボタン22をオンすることにより店員を呼び出すことができる(【0116】、【0119】)
g 遊技システム(上記セの認定事項)。」

(2)甲第2号証(特開2014-221359号公報)について
甲第2号証(平成26年11月27日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0052】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、この実施の形態にかかるスロットマシンの全体構造を示す正面図である。図2は、スロットマシンの内部構造を示す図である。スロットマシン1は、前面が開口する筐体1aと、この筺体の左側端に回動自在に枢支された前面扉1bとを含むように構成されている。」

イ 「【0068】
前面扉1bの上部には、演出装置50が搭載されている。演出装置50の中央には、後述するリールの停止操作を促す促進報知や、エラー発生を報知するエラー報知や、ゲームに関連する各種演出を行なう表示画面を有する第2液晶表示器51cが配置されている。また、第2液晶表示器51cの表示画面の前面左右側方には、演出用の可動部材としての演出用扉60a、60bが左右方向にスライド移動自在に設けられている。演出用扉60a、60bは、各々、中央寄りの一辺の上端または下端に台形状の突出部と窪み部とが形成された平板から構成されている。演出用扉60a、60bの正面側には、その後面に配置される第2液晶表示器51cの表示画面を視認不能にするための装飾が施されている。演出用扉60a、60bは、突出部と窪み部とが噛み合うようにして第2液晶表示器51cの表示画面を隠蔽可能に構成されている。本実施例においては、この演出用扉60a、60bおよび第2液晶表示器51cの双方を用いた各種演出が実施されるようになっており、この演出の一例として、たとえばゲームが開始されたときに、後述する内部抽選により当選した可能性がある入賞役を報知する予告演出として振動演出が実施されるようになっている。また、演出装置50は、演出用扉60a、60b各々の左右方向における位置を特定するための位置特定用センサ83a?83dを含み、演出用扉60a、60b各々の閉状態および開状態を判別可能に構成されている。」

ウ 「【0082】
ゲームが開始可能な状態でスタートスイッチ7を操作すると、各リール2L、2C、2Rが回転し、各リール2L、2C、2Rの図柄が連続的に変動する。この状態でいずれかのストップスイッチ8L、8C、8Rを操作すると、対応するリール2L、2C、2Rの回転が停止し、透視窓3に表示結果が導出表示される。」

エ 「【0483】
エラーコマンドを受信したときには、図15(f)に示すように、演出用扉60a、60bを開状態にして演出用扉モータ56、57の駆動を停止させ、第2液晶表示器51cの表示画面にエラーが発生した旨およびエラーの種類が報知される。図15(f)では、前述した投入エラーが発生したことを報知するために、「投入エラー発生!係員を呼んで下さい!」というメッセージが表示される。さらに、エラー報知と合わせて、スピーカ53、54から所定のエラー音が後述するように最大レベルの音量で出力される。」

オ 「【図15】



カ 認定事項
図15(f)によれば、「投入エラー発生」という表示の領域よりも、「係員を呼んで下さい!」という表示の領域の方が広く表示されることが看取できる。

キ 上記ア?カより、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

甲2発明
「a ゲームが開始可能な状態でスタートスイッチ7を操作すると、各リール2L、2C、2Rが回転し、各リール2L、2C、2Rの図柄が連続的に変動し、この状態でいずれかのストップスイッチ8L、8C、8Rを操作すると、対応するリール2L、2C、2Rの回転が停止し、透視窓3に表示結果が導出表示されるスロットマシン1であって(【0052】、【0082】)、
b エラー発生を報知するエラー報知や、ゲームに関連する各種演出を行なう表示画面を有する第2液晶表示器51cが配置され(【0068】)、
ef エラーコマンドを受信したとき、第2液晶表示器51cの表示画面にエラーが発生した旨およびエラーの種類が報知され、例えば、投入エラーが発生したことを報知するために、「投入エラー発生!係員を呼んで下さい!」というメッセージが表示され(【0483】、【図15】(f))、「投入エラー発生」という表示の領域よりも、「係員を呼んで下さい!」という表示の領域の方が広く表示される(上記カの認定事項)
g スロットマシン1(【0052】)。」

(3)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

ア 特定事項A、Gについて
甲1発明のaにあるように甲1発明では「遊技者」が「パチンコ機12で遊技する」ものであるから、甲1発明のa、gの「遊技システム」において、「パチンコ機12」は特定事項Aの「遊技を行う遊技機」及び特定事項Gの「遊技機」に相当する。
よって、甲1発明のa、gは本件発明の特定事項A及びGに相当する構成を有する。

イ 特定事項Bについて
甲1発明のbにあるとおり、甲1発明のパチンコ機12には液晶表示装置で構成されている図柄表示装置38が配置され、「図柄表示装置38」は図及び数字の少なくとも一方の複数の図柄(画像)を表示可能であるから、本件発明の「画像を表示可能な画像表示手段」に相当する。
よって、甲1発明のbは、本件発明の特定事項Bに相当する構成を有する。
なお、甲1発明のc、dにあるとおり、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」も、祝福表示やエラーが発生したことの表示が可能である点で「画像を表示可能な画像表示手段」ではある。もっとも、本件発明の「画像表示手段」は、「【請求項1】遊技を行う遊技機において、画像を表示可能な画像表示手段と、・・・を備え、・・・遊技機。」と特定されているように、遊技機自体に備えられるものであるから、甲1発明において本件発明の「画像表示手段」に対応するのは、パチンコ機12(遊技機)自体に備えられる図柄表示装置38であって、パチンコ機12とは別体の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」ではない。

ウ 特定事項Cについて
甲1発明において、パチンコ機12(遊技機)に備えられた図柄表示装置38(画像表示手段)においては、「キャラクタを用いて遊技に関する演出」を行うか否かは不明である。
なお、甲1発明のcにあるとおり、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」の画面20Gにおいては「大当りが発生した」際、「キャラクタの動作により祝福表示(甲1発明のc)が行われる。当該「大当りが発生した」際の「祝福表示」を行うことは「遊技に関する演出」といえるから、甲1発明の遊技システムは、「キャラクタを用いて遊技に関する演出を」「実行可能な演出手段」を有する点では本件発明と共通する。もっとも、上記イで述べたとおり、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」は遊技機自体に備えられるものではないから、本件発明の「画像表示手段」に相当するものではない。

エ 特定事項Dについて
甲1発明において、パチンコ機12(遊技機)に備えられた図柄表示装置38(画像表示手段)において「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を行うか否かは不明である。
なお、甲1発明のdにあるとおり、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」の画面20Gにおいては「パチンコ機12にエラーが発生した場合に」「キャラクタの動作によりエラーが発生したこと」が表示される。当該キャラクタの動作は「エラーに対応」した表示であるといえるから、甲1発明の遊技システムは「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を」「実行可能なエラー表示手段」を有する点では本件発明と共通する。もっとも、上記イで述べたとおり、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」は遊技機自体に備えられるものではないから、本件発明の「画像表示手段」に相当するものではない。

オ 特定事項E、Fについて
上記エで述べたとおり、甲1発明ではパチンコ機12(遊技機)に備えられた図柄表示装置38(画像表示手段)において、特定事項Dの「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を前記画像表示手段を用いて実行可能なエラー表示手段」に相当する構成を有するか否か不明である。よって、本件発明においてエラー表示手段の表示態様をより詳細に特定する特定事項E、Fに相当する構成を、甲1発明が有するか否かも不明である。
なお、甲1発明の遊技システムでは、エラーが発生したときに「キャラクタの動作」により表示する構成(甲1発明のd)は有しているが、当該表示は「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」において行われるものであり、パチンコ機12(遊技機)に備えられた図柄表示装置38(画像表示手段)において行われるものではない。
また、甲1発明の遊技システムでは、エラーや故障が発生した際に、「遊技者は、遊技機用表示装置10の呼出ボタン22をオン」することで店員に援助を求める(店員を呼び出す)ことが可能な構成(甲1発明のf)を有しているものの、甲第1号証には「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示」することは記載されていない。

カ 一致点、相違点
以上のとおりであるから、本件発明の「遊技機」と甲1発明の「遊技システム」とは、
「A 遊技を行う遊技機において、
B 画像を表示可能な画像表示手段
を備える
G 遊技機。」を含む点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)(特定事項C)
本件発明では、「キャラクタを用いて遊技に関する演出を前記画像表示手段を用いて実行可能な演出手段」を備える(すなわち、遊技機が備える「画像表示手段」において「キャラクタを用いて遊技に関する演出」が行われる)のに対して、
甲1発明では、「遊技機用表示装置10」が備える「液晶表示装置20」において「キャラクタを用いて遊技に関する演出」は行われるものの、パチンコ機12(遊技機)が備える図柄表示装置38(画像表示手段)においてそのような演出が行われるか否か不明な点。

(相違点2)(特定事項D)
本件発明では、「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を前記画像表示手段を用いて実行可能なエラー表示手段」を備える(すなわち、遊技機が備える「画像表示手段」において「エラー表示」が行われる)のに対して、
甲1発明では、「遊技機用表示装置10」が備える「液晶表示装置20」において「エラーが発生したこと」の表示(エラー表示)が行われるものの、パチンコ機12(遊技機)が備える図柄表示装置38(画像表示手段)において「エラー表示」が行われるか否か不明な点。

(相違点3)(特定事項F)
本件発明では「前記エラー表示手段は、エラーが発生したときに、前記第1領域においてエラーの種類を表示する」構成を有する(すなわち、エラー表示手段は遊技機が備える画像表示手段の第1領域においてエラーの種類を表示する)のに対して、
甲1発明ではそのような構成を有するか否か不明な点。

(相違点4)(特定事項F)
本件発明では「前記エラー表示手段は」「前記第2領域において店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」(すなわち、エラー表示手段は遊技機が備える画像表示手段の第2領域において店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する)のに対して、
甲1発明では、「遊技機用表示装置10」が備える「液晶表示装置20」において、「キャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示」する構成や、「遊技者は、遊技機用表示装置10の呼出ボタン22をオンすることにより店員を呼び出すことができる」構成を有してはいるものの、パチンコ機12(遊技機)が備える図柄表示装置38(画像表示手段)において、「前記第2領域において店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」か否かは不明な点。

(相違点5)(特定事項E)
本件発明では「前記画像表示手段は、第1領域と、当該第1領域よりも広い第2領域とを含」む(すなわち、「エラーの種類を表示する」「第1領域」よりも、「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」「第2領域」の方が広い)とされているのに対して、
甲1発明では、パチンコ機12(遊技機)が備える図柄表示装置38(画像表示手段)において、上記第1領域及び第2領域のような表示が行われるか否か不明(相違点3、4参照)であるから、「第2領域」が「第1領域よりも広い」という構成を有しているか否かも不明である点。

(4)判断
ア 相違点1、2について
相違点1、2は、「画像表示手段」に関連するのでまとめて検討する。
甲1発明において、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)は「図及び数字の少なくとも一方の複数の図柄から複数の図柄の組合せを表示」するものとされている。一方、「キャラクタを用いて遊技に関する演出」を行うこと(相違点1)や、「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を行うこと(相違点2)は、パチンコ機12の上部周辺でかつ当該パチンコ機12で遊技する遊技者から見える位置に配置される「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」において行われるものとされている。
このような甲1発明において、「キャラクタを用いて遊技に関する演出」や「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で行う構成に代えてパチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)で行うとすれば、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で表示する情報が減り、「遊技機用表示装置10」を有効に活用できなくなる。
また、「キャラクタを用いて遊技に関する演出」や「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で行う構成に加えて、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)で行う構成とすることについても、「遊技機用表示装置10」が「パチンコ機12の上部周辺でかつ当該パチンコ機12で遊技する遊技者から見える位置に配置される」にもかかわらず、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)でも同じような表示を行う必要性に乏しい。
そうすると、甲1発明において、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)において「キャラクタを用いて遊技に関する演出」を行うこと(相違点1)や、「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を行うこと(相違点2)が当業者にとって容易に想到可能であったとはいえない。このように、相違点1、2について容易想到性が否定されるのであれば、その余の相違点について検討するまでもなく、申立人の挙げる証拠からは、本件発明の進歩性を否定することはできない。
もっとも、一般論としては遊技機が備える「画像表示手段」において「キャラクタを用いて遊技に関する演出」を行うこと(相違点1)や、「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示」を行うこと(相違点2)は周知技術であるとも考えられる。そこで、以下においては、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)において、これらの周知技術を採用することが当業者にとって容易に想到可能であると仮定して、他の相違点についても念のため検討を行う。

イ 相違点3について
甲2発明において「スロットマシン1」は本件発明の「遊技機」に相当する。また、甲2発明のefにおける「投入エラー」は本件発明でいうところの「エラーの種類」を示すものであるといえる。さらに、甲2発明において「投入エラー発生」という画像が表示される「第2液晶表示器51c」は、「スロットマシン1」(遊技機)に配置されるものであるから、本件発明の「画像表示手段」に相当する。そうすると、甲2発明は、本件発明の「エラーが発生したときに、前記第1領域においてエラーの種類を表示する」構成を有している。
甲1発明と甲2発明は、遊技機に関する発明である点で技術分野が共通し、エラー表示を行う点で作用、機能が共通するものであるから、甲1発明の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で行われているエラー表示を、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)で行う構成とすることが当業者にとって容易に想到可能なのであれば、その際に、甲2発明のごとく、図柄表示装置38(画像表示手段)の所定の領域(第1領域)に「エラーの種類」も表示することも当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点4について
甲1発明では、「遊技機用表示装置10」が備える「液晶表示装置20」において、「キャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示」する構成や、「遊技者は、遊技機用表示装置10の呼出ボタン22をオン」することで店員に援助を求める(店員を呼び出す)ことが可能な構成を有している。もっとも、これらは「パチンコ機12」(遊技機)ではなく「遊技機用表示装置10」に関するものであり、その点はさておくとしても、甲1発明は「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」構成を開示していない。
また、甲2発明においてはエラーコマンドを受信したときに「係員を呼んで下さい!」という表示を行うが、当該表示は「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像」であるとはいえず、甲2発明も本件発明の第2領域を開示していない。
もっとも、甲第1号証の【0094】、【図8】(b)、【図11】(a)?(c)には、上記の甲1発明で認定した事項の他に、遊技機用表示装置10の機能説明表示処理では、画面20G_(2)に遊技機用表示装置10の液晶表示装置20が表示され、かつ、表示された遊技機用表示装置10の表示切替ボタン24をキャラクタ140の指140Yが押圧する毎に、表示された液晶表示装置20の画面に、3種類の履歴データが切り替えられて表示されることが記載されている。すなわち、甲第1号証には、エラー表示に関してではないが、「遊技機用表示装置10の表示切替ボタン24」の操作をするキャラクタを用いた画像を表示することは記載されている。
また、例えば特開2006-122363号公報(平成18年5月18日出願公開)の【図30】(a)、特開2016-123482号公報(平成28年7月11日出願公開)の図73(d)には、遊技行為に関連する所定のボタンの操作をするキャラクタを用いた画像を表示すること(以下「先行技術」という。)が記載されている。
これらの先行技術に照らせば、「遊技行為に関連する所定のボタンの操作をするキャラクタを用いた画像を表示する」ことは、本件特許の出願時において周知技術であった可能性はある。ただし、本件発明は、エラーが発生したときに店員を呼ぶというような、遊技行為そのものとは別の操作に関するものであるのに対して、上記周知技術は遊技行為に関連する所定のボタンの操作に関するものである点で相違する。
そうすると、甲1発明の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で行われているエラー表示を、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)で行う構成とする際に、さらに上記周知技術を適用しても、図柄表示装置38(画像表示手段)の所定の領域(第2領域)に「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」構成には至らず、相違点4に係る構成は当業者にとって容易に想到可能とはいえない。
このように、相違点4について容易想到性が否定されるのであれば、相違点5について検討するまでもなく、申立人の挙げる証拠や、上記周知技術からは、本件発明の進歩性を否定することはできない。
ただし、遊技者にボタン操作を促すために「所定のボタンの操作をするキャラクタを用いた画像を表示する」手法が、遊技行為に関するボタン以外のボタンも含めて遊技機の技術分野において慣用的に行われているような周知性の高い周知技術であり、当業者が慣用している手法であるとすれば、相違点4について容易想到性を肯定する余地もあるため、さらに相違点5についても念のため検討を行う。

エ 相違点5について
上記イ、ウで述べたとおり、甲1発明は「エラーの種類を表示する」「第1領域」と「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」「第2領域」を共に開示せず、甲2発明は「第1領域」は開示するものの、「第2領域」は開示していない。そのため、本件発明のごとく「第2領域」が「第1領域よりも広い」とすることを開示する証拠はなく、相違点5の想到容易性は認められない。
仮に、第2領域と第1領域のいずれを広くするかを決定すること自体は設計的事項である等の理由で当業者にとって想到容易と評価し得るとしても、甲1発明から相違点5に係る構成をなすためには、甲1発明の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」で行われているエラー表示を、パチンコ機12(遊技機)の図柄表示装置38(画像表示手段)で行う構成とするステップ(段階1)を経て、図柄表示装置38(画像表示手段)でエラー表示を行う際に、「エラーの種類を表示する」「第1領域」と、「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」「第2領域」とを設ける構成を採用するステップ(段階2)を経て、さらに、「第2領域」が「第1領域よりも広い」構成を採用するステップ(段階3)を経る必要がある。
このように、複数の段階を経なければ相違点に係る構成に想到できない場合、知財高裁平成29年3月21日判決、平成28年(行ケ)第10186号において「仮に、当業者において、摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップに装着することを想到し得たとしても、前記エのとおり引用発明1に引用発明2を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように、引用発明1に基づき、2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない。」と判示されていることに照らせば、3つもの段階を経て初めて相違点5に係る本件発明の構成に至るという事情のもとでは、相違点5に構成に想到することが当業者にとって容易であったとはいえない。


(5)申立人の主張について
ア 異議申立書における対比について
(ア)異議申立書における対比の概要
申立人は、異議申立書において、甲1発明と本件発明とは「特定事項A?Eで一致」し、特定事項Fの一部で「(相違点1)甲1発明は、第1領域において、「エラーの種類を表示する」か否かが不明な点。」、「(相違点2)甲1発明は、第2領域において、「操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」か否かが不明な点。」が相違する旨主張している(異議申立書26頁3行ないし11行)。
そこで、申立人の当該主張について検討する。

(イ)特定事項Bについて
申立人は、甲1発明が本件発明の特定事項Bの「画像を表示可能な画像表示手段」に一致する根拠として、甲1発明の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」を挙げている。しかしながら、上記(3)イの「特定事項Bについて」で述べたように、本件発明の「画像表示手段」は、「【請求項1】遊技を行う遊技機において、画像を表示可能な画像表示手段と、・・・を備え、・・・遊技機。」と特定されているように、遊技機自体に備えられるものであるから、甲1発明において本件発明の「画像表示手段」に対応するのは、パチンコ機12(遊技機)自体に備えられる図柄表示装置38であって、パチンコ機12とは別体の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」ではない。
そうすると、本件発明の特定事項Bを甲1発明と一致すると評価した結論は是認できるものの、「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」を一致点の根拠とすることは適切ではなく、採用できない。

(ウ)特定事項Cについて
申立人は、甲1発明が本件発明の特定事項Cの「キャラクタを用いて遊技に関する演出を前記画像表示手段を用いて実行可能な演出手段」に一致する構成として、「大当りが発生したことを、液晶表示装置20の画面20Gにおいて、キャラクタの動作により祝福表示する手段」を挙げている。
しかしながら、本件発明の特定事項Cにおいて「「キャラクタを用いて遊技に関する演出を」実行するのは「前記画像表示手段」においてであり、上記(イ)で述べたとおり、本件発明の「画像表示手段」に対応するのは、パチンコ機12(遊技機)自体に備えられる図柄表示装置38であって、パチンコ機12とは別体の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」ではない。
よって、甲1発明が本件発明の特定事項Cと一致するとの申立人の主張は採用できない。

(エ)特定事項Dについて
申立人は、甲1発明が本件発明の特定事項Dの「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を前記画像表示手段を用いて実行可能なエラー表示手段」に一致する根拠として、「エラーが発生した場合に、現画面20Gへの表示処理に割り込んで、キャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示する手段」を挙げている。
しかしながら、本件発明の特定事項Dにおいて「「エラーが発生したときに、エラーに対応するエラー表示を」実行するのは「前記画像表示手段」においてであり、上記(イ)で述べたとおり、本件発明の「画像表示手段」に対応するのは、パチンコ機12(遊技機)自体に備えられる図柄表示装置38であって、パチンコ機12とは別体の「遊技機用表示装置10」の「液晶表示装置20」ではない。
よって、甲1発明が本件発明の特定事項Dと一致するとの申立人の主張は採用できない。

(オ)特定事項E、Fについて
申立人は、甲1発明が本件発明の特定事項Eの「前記画像表示手段は、第1領域と、当該第1領域よりも広い第2領域とを含み」に一致する根拠として、「画面20Gは、「エラー」という画像を表示する領域と、当該領域よりも広い「店員を呼ぶための動作をするキャラクタ」の画像を表示する領域とを含み」という点を挙げている。
また、申立人は本件発明の特定事項Fに関連して、甲第1号証の【0119】、【図17】を根拠に「「エラー」という画像を表示する領域において「エラー」という画像を表示するとともに、「店員を呼ぶための動作をするキャラクタ」の画像を表示する領域において、「店員を呼ぶための動作をするキャラクタ」を用いた画像を表示する、パチンコ機12」が甲1発明に開示されているとする。
しかしながら、甲1発明において、これらの画像を表示するのはパチンコ機12(の図柄表示装置38)ではなく、遊技機用表示装置10(の液晶表示装置20)である。その点はさておくとしても、甲1発明において「エラー」という文字の画像を表示することは、エラーが発生したことを表示しているにすぎず、エラーの種類を表示するものではないため、「エラー」という文字の画像を表示する領域は、本件発明の第1領域に相当するものとはいえない。
また、申立人は、甲1発明は「操作をする前記キャラクタを用いた画像を表示する」か否かが不明」であるとしつつも、【0119】、【図17】で「店員を呼ぶための動作をするキャラクタ」(下線部は当審で追加)の画像は表示されていて、当該キャラクタを表示する領域は「第2領域」に相当するという。
しかしながら、甲第1号証の【0119】において「キャラクタの動作によりエラーが発生したことを表示する」と記載されているように、【図17】のキャラクタは「エラー」という文字画像と同様に、「エラーが発生したことを表示する」のみであって、甲1発明は「店員を呼ぶための動作をするキャラクタ」を開示しない。よって、甲1発明は「第2領域」も開示していない。
以上より、甲1発明において「エラー」という文字の画像を表示する領域よりも、エラーが発生したことを表示する「キャラクタ」の画像の表示する領域の方が広いとしても、これらの各領域は本件発明の「第1領域」、「第2領域」に相当するものではないから、甲1発明は本件発明の「当該第1領域よりも広い第2領域とを含み」という構成を開示しない。
また、申立人は甲2発明について「第2液晶表示器51cの表示画面は「投入エラー発生!」が表示される領域と、「投入エラー発生!」が表示される領域よりも広い「係員を呼んで下さい!」が表示される領域とを含」むとしている。
この点、上記のとおり、「投入エラー発生!」という表示はエラーの種類を示すものであるから、本件発明の第1領域に相当するといえるが、「係員を呼んで下さい!」という表示は、当該表示は「店員を呼ぶための操作をする前記キャラクタを用いた画像」であるとはいえず、甲2発明も第2領域を開示していない。
また、甲2発明において「投入エラー発生!」という表示の領域と「係員を呼んで下さい!」という表示の領域とを比較すると、確かに、後者の方が広い。しかしながら、両表示は共に文字の表示であり、文字の大きさもほぼ同じであるため、単に後者の方が字数が多い結果として広い領域で表示されているものとも考えられ、そうすると、甲2発明は、エラーの種類の表示よりも、係員を呼ぶことを促す表示の方を、より広い領域で表示するという技術思想を積極的に開示しているといえるかは疑問が残る。
よって、甲2発明においても、本件発明の特定事項E、Fを開示しているとはいえない。
以上より、特定事項E、Fに関する、一致点、相違点についても、申立人の主張は採用できない。

(カ)小括
以上より、申立人の対比した一致点、相違点の認定は適切とはいえない。


イ 異議申立書における相違点の判断について
上記アのとおり、申立人は、誤った一致点・相違点の認定に基づいて、本件発明は進歩性を有しない旨の主張をしているため、採用できない。

(6)まとめ
本件発明は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえない。

3 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-06-30 
出願番号 特願2016-191528(P2016-191528)
審決分類 P 1 651・ 1- Y (A63F)
P 1 651・ 121- Y (A63F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安藤 達哉  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 千本 潤介
澤田 真治
登録日 2020-10-12 
登録番号 特許第6777491号(P6777491)
権利者 株式会社三共
発明の名称 遊技機  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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