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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E04H |
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管理番号 | 1375896 |
異議申立番号 | 異議2021-700299 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-03-22 |
確定日 | 2021-07-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6770785号発明「多層箱型循環式駐車装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6770785号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6770785号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年12月20日に出願され、令和2年9月30日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年2月22日に、特許異議申立人 川股 くみ子(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6770785号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、本件発明1ないし3をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 出入口とは異なる複数層の格納スペースを有し、前記各格納スペースに配置されたトレーを水平方向に移動させる層水平方向移動装置と、前記層水平方向移動装置の両側で前記トレーを層間で移動するよう上昇または下降させる循環昇降装置をそれぞれ構成した多層箱形循環式駐車装置において、 前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成し、前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と、を備え、 前記出入口に設けられた操作盤に、急ぎ出庫を行うときに利用者によって操作される急ボタンを設け、前記急ボタンからの操作信号を受けたとき、前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える、 ことを特徴とする多層箱形循環式駐車装置。 【請求項2】 出入口とは異なる複数層の格納スペースを有し、前記各格納スペースに配置されたトレーを水平方向に移動させる層水平方向移動装置と、前記層水平方向移動装置の両側で前記トレーを層間で移動するよう上昇または下降させる循環昇降装置をそれぞれ構成した多層箱形循環式駐車装置において、 前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成し、前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と、を備え、 前記出入口に設けられた操作盤に、前記同時循環と前記省エネ循環を切り替える切替ボタンを設け、前記切替タイミング検出部は、前記切替ボタンからの操作信号を受けたとき、前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える、 ことを特徴とする多層箱形循環式駐車装置。 【請求項3】 駐車車両の利用状況から混雑状況を判定する混雑状況判定部を設け、前記切替タイミング検出部は、前記混雑状況判定部からの判定信号を受けたとき、前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層箱形循環式駐車装置。」 第3 申立理由の概要 申立人が申立書において主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第7号証に示される技術的事項又は周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第2頁第1行-第5頁第16行)。 第4 証拠について 1 証拠一覧 申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。 甲1: 特開2006-342501号公報 (平成18年12月21日公開) 甲2: 特開2013-83080号公報 (平成25年5月9日公開) 甲3: 特開2013-139677号公報 (平成25年7月18日公開) 甲4: 特開平7-71130号公報 (平成7年3月14日公開) 甲5: 特開平4-231553号公報 (平成4年8月20日公開) 甲6: 特公平7-96857号公報 (平成7年10月18日公告) 甲7: 特開2004-92116号公報 (平成16年3月25日公開) 2 各証拠の記載 (1)甲1 ア 記載事項 甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は箱形循環式駐車装置およびその運転方法に関する。さらに詳しくは、複数のパレットが横方向に連結された状態で上下複数段の横移送路に収容され、横移送路の両端側にある昇降路において上下の横移送路相互間のパレット受け渡しを行うことにより、パレットを循環させることができる、いわゆる箱形循環式駐車装置およびその運転方法に関する。」 (イ)「【0005】 このような駐車装置51におけるハイルーフ車の入出庫時には、ハイルーフ車用横移送路III、IVの左右の入出庫リフトおよび循環リフトに各一台のパレット7、11を対角配置することにより、二層の横移送路III、IVのパレット1?7、11を図12(c)に示すごとく循環(箱形循環という)可能にする。普通車の入出庫時には、普通車用横移送路I、IIの左右の入出庫リフトおよび循環リフトに各一台のパレットを対角配置することにより、二層の横移送路I、IIのパレットを箱形循環可能にする。箱形循環には、図12(c)に示す左行と右行、および、上昇と下降をそれぞれ同時に行ういわゆる2工程方式と、左行、右行、上昇、下降を1工程ずつ順次行ういわゆる1工程方式とがあり、いずれの方式をも実施することが可能であるが、2工程方式のほうが入出庫時間が短くて済むことは言うまでもない。」 (ウ)「【0024】 図1は本発明の運転方法が適用されうる箱形循環式駐車装置の一例を示す縦断面図である。図2は図1のII-II線断面図であり、駐車装置における最下層の横移送路およびその両端側の昇降路を示す平面図でもある。図3および図4は本発明の運転方法の一実施形態を説明するための駐車装置の縦断面図である。図5は図1のV-V線断面図であり、図1の駐車装置における最上部に位置する入出庫部を示す平面図でもある。 【0025】 この駐車装置20には上下四層I、II、III、IVにわたって形成された車両収容のための横移送路21、22、23、24が形成されている。また、全横移送路の左端側には各横移送路および入出庫部40に通じる入出庫昇降路25が形成されており、右端側には各横移送路に通じる循環昇降路26が形成されている。もちろん、循環昇降路26にも入出庫部が形成されていてもよい。すなわち、全横移送路の左右両端側に入出庫昇降路を形成してもよい。 【0026】 横移送路は下から順に、天井高さの低いI層およびII層の横移送路21、22には普通車Nしか収容することができず、天井高さの高いIII層およびIV層の横移送路23、24にはハイルーフ車Hのみならず、普通車Nをも収容することが可能である。本実施形態では各層の横移送路21、22、23、24には車両搭載用のパレットを3台分収容することができる。もちろん、各横移送路の収容台数は3台に限定されることはなく、一台以上であれば何台であってもよい。また、2工程循環のために普通車用横移送路およびハイルーフ車用横移送路はともに二層以上必要であるが、とくに二層に限定する必要はない。」 (エ)「【0028】 各横移送路21、22、23、24にはパレット1?14(以下、適宜符号1で代表させる)が横行するための横行レール27が付設されている。パレット1の下面には横行レール27上を転動する横行輪28が設置されている。パレット1の下面にはさらに被係合溝部材30が配設されている。この被係合溝部材30は、各横移送路に設置されたパレット横行装置29(図1および図2参照)が係合してパレットに横行力を加えるためのものである。 【0029】 パレット1の両側辺にはパレット同士を連結するための雌雄連結器(単に連結器と呼ぶ)31が設置されている。図6に示すように、この連結器31は連結されたパレット1相互の上下相対移動によって係合および係合解除され、横移動時には連結を維持するものである。 【0030】 入出庫昇降路25および循環昇降路26にはそれぞれ車両を昇降するためのリフト32、33が設置されている。いずれのリフトにおいても、昇降路の上下端に設置されたスプロケット34、35に四本の無端チェーン36が掛け回されており、横方向に対向するチェーンには、パレット1を載置するための昇降用レール37が水平に掛け渡されている。下部スプロケット35にはリフトを昇降駆動するための駆動装置38が接続されている。この駆動装置の出力は、必要最小限の出力、すなわち、最大重量の車両(本実施形態ではハイルーフ車H)を搭載したパレット一台の昇降に必要な出力しか発揮できない。ただし、昇降しない停止状態のリフト32、33には二台の車両搭載パレットを仮置きすることは可能になっている。本実施形態におけるパレットの台数は、横移送路に収容される十二台と昇降路に位置する二台の合計十四台である。」 (オ)「【0032】 図1、図5および図7に示すように、入出庫昇降路25の上端部には車両の入出庫部40が形成されている。入出庫部40には車両の進出等を確認するためのセンサ(光電検出器)39が設置されている。具体的には、車両の入出庫口40a通過を検出して入出庫を確認するセンサ39a、パレット1上に車両が存在しているか否かを確認するセンサ39b、パレット1の前後からの車両のはみ出しを検出するセンサ39c、パレット1の左右からの車両のはみ出しを検出するセンサ39d、車両の高さを検出して普通車Nかハイルーフ車Hかを確認するセンサ39eが設置されている。また、入出庫部40の外方には入庫する車両を180°旋回するためのターンテーブル41が配設されている。さらに、図5に示すように、入出庫口40aの外側にはこの駐車装置20の運転を制御する制御装置43を装備した運転操作盤42が設置されている。」 (カ)「【0034】 制御装置43は、操作盤42による指示操作に応じて、入出庫リフト、循環リフトおよび各層の横行装置の作動を開始させてパレットの循環動作や入出庫部40への搬送動作を行う。また、ターンテーブル41の旋回や入出庫口扉の開閉を行う。さらに、車両の高さや適正位置への停車を確認するためのセンサ39の検出結果を判断し、必要に応じて警報器や入庫誘導案内表示器を作動させる。」 (キ)「【0037】 空車(車両が搭載されていない状態)または実車(車両が搭載された状態)に拘わらず合計六台のハイルーフ車専用パレット1?6がハイルーフ車用横移送路23、24に整列した状態がこの駐車装置20の初期配置状態として設定されている。そして、一回の入出庫動作はこの初期配置状態に戻して完了したとされる。 【0038】 普通車専用として登録された八台のうちの二台のパレットは、それが実車であるか空車であるかに拘わらず、ハイルーフ車の入出庫作業に際してハイルーフ車用パレットの循環工程に参加させられる。この二台の普通車線用パレットはいずれかの昇降路25、26に位置することになるが、I層およびII層の対角位置(たとえば図4(g)に示すパレット8とパレット12の配置)かまたはIII層およびIV層の対角位置(たとえば図3(b)に示すパレット7とパレット11の配置)にあるのが次の動作、とくに2工程循環を行うためには便利である。 【0039】 ハイルーフ車の入出庫作業が完了したとき、すなわち前述した初期配置状態に復帰したときには六台のハイルーフ車専用パレット1?6全てがハイルーフ車用横移送路23、24に整列した状態となるので、循環工程に参加した上記二台の普通車専用パレットは両昇降路25、26それぞれに位置する(III層およびIV層の対角位置)こととなる。以下、図3および図4を参照しながら具体的に説明する。」 (ク)「【0043】 また、初期配置状態(図3(a)でもよく、図4(e)でもよく、図4(f)でもよく、図4(g)でもよい)から普通車を入庫させるときには、普通車用の空パレット7か11を直接入出庫部まで迎えに出す。そして、上記初期配置状態に戻ればよい。このように、初期配置状態において昇降路25、26に位置する普通車用パレットは実車であっても空車であってもその後の入出庫作業に差し障りはない。入出庫作業のために待機しているときには、常に上記した初期配置状態(昇降路に配置される二台の普通車用パレットはとくに対角配置である必要はない)であれば、その後の入出庫の工程の煩雑さが解消され、工数も少なくなる。」 イ 甲1に記載された発明 上記アより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「箱型循環式駐車装置の二層の横移送路のパレットの箱型循環には、左行と右行、および、上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式と、左行、右行、上昇、下降を1工程ずつ順次行う1工程方式があるところ、 最上部に位置する入出庫部40と、上下四層I、II、III、IVにわたって形成された車両収容のための横移送路21、22、23、24とを有し、 全横移送路の左端側には各横移送路および入出庫部40に通じる入出庫昇降路25が形成され、右端側には各横移送路に通じる循環昇降路26が形成されており、 天井高さの低いI層およびII層の横移送路21、22には普通車Nしか収容することができず、天井高さの高いIII層およびIV層の横移送路23、24にはハイルーフ車Hのみならず、普通車Nをも収容することが可能であり、各横移送路21、22、23、24にはパレット1?14が横行するための横行レール27が付設され、パレット横行装置29が設置され、 入出庫昇降路25および循環昇降路26にはそれぞれ車両を昇降するためのリフト32、33が設置され、 入出庫口40aの外側にはこの駐車装置20の運転を制御する制御装置43を装備した運転操作盤42が設置され、 制御装置43は、操作盤42による指示操作に応じて、入出庫リフト、循環リフトおよび各層の横行装置の作動を開始させてパレットの循環動作や入出庫部40への搬送動作を行う、 駐車装置20において、 一回の入出庫動作は初期配置状態に戻して完了し、次の動作、とくに2工程循環を行うために便利であるよう、初期配置状態に復帰したときにはハイルーフ車専用パレット1?6全てがハイルーフ車用横移送路23、24に整列し、二台の普通車専用パレットは両昇降路25、26それぞれに位置することとし、 初期状態から普通車を入庫させるときには、普通車用の空パレット7か11を直接入出庫部まで迎えに出し、そして、上記初期状態に戻す、 駐車装置20。」 (2)甲2 甲2には、次の事項が記載されている。 ア 「【0050】 図10は、従来の機械式駐車装置10において、前側機16Aに対して出庫呼出が要求され、後側機16Bに対して入庫呼出が要求された場合における消費電力の変化を示す模式図である。図10に示されるように、前側機16Aが出庫呼出モードのP旋回を行うと共に後側機16Bが入庫呼出モードの空P下降を行う場合に、機械式駐車装置10としての消費電力のピークが生じる。また、前側機16Aが出庫呼出モードの実P下降を行うと共に後側機16Bが入庫呼出しの空P取出を行う場合に、機械式駐車装置10としての回生電力のピークが生じる。 【0051】 このように、従来の機械式駐車装置10は、複数の昇降装置62が同じタイミングで力行運転することによって、電力系統42から供給される電力の消費量のピークが上昇する場合があった。また、複数の昇降装置62が同じタイミングで回生運転することによって、回生電力を効率良く利用できない場合があった。 また、図5から図10に示されるように、昇降モータ54が力行運転する空P下降及び実P上昇における消費電力が、相対的に大きい。一方、昇降モータ54が回生運転する実P下降及び空P上昇における回生電力が、相対的に大きい。 【0052】 そこで、本実施形態に係る機械式駐車装置10は、図3に示される制御装置52によって、一の昇降装置62を運転させる場合に、他の昇降装置62の運転状態を判定し、判定した他の昇降装置62の運転状態に応じて、一の昇降装置62を運転させるタイミングを導出する。そして、制御装置52は、導出したタイミングで一の昇降装置62が運転するように制御する。 このように、本実施形態に係る機械式駐車装置10は、複数の昇降装置62を運転させるタイミングを調整するので、電力系統42から供給される電力の消費量を抑制すると共に、回生電力を効率良く消費できるようになる。」 イ 「【0054】 下記表1は、前側機16Aに対して入庫呼出が要求された場合に、後側機16Bの運転状態に応じて、前側機16Aの運転タイミング、すなわち昇降装置62の運転タイミングを示した表である。・・・(中略)・・・。 」 (3)甲3 甲3には、次の事項が記載されている。 ア 「【0037】 図3に示されるように、支援盤20は、第1スケジュール決定部21、スケジュール実行部(スケジュール実行手段)22、第2スケジュール決定部23、及び記憶部(記憶手段)24を備えている。 第1スケジュール決定部21は、稼働実績情報に基づいて、時間情報と、機械式駐車装置10の異なる複数の運転モードから少なくとも1つ選定される運転モードとが対応づけられる第1スケジュールを決定する。また、第1スケジュール決定部21は、所定期間内に少なくとも1回、バッチ処理により第1スケジュールを決定する。所定期間とは、例えば、1日、1週間、1カ月等の期間である。 なお、第1スケジュールにおける時間情報に対応づけられる運転モードは、車両12を入出庫させるまでの待機時間を低減させる運転モードが選定されることが好ましい。 【0038】 ここで、運転モードは、機械式駐車装置10の所定の運転処理を優先させる優先モード、及び優先モードをオフ状態にする非優先モードのうち、どちらか一方のモードとされる。優先モードとは、例えば、機械式駐車装置10が、車両12の入庫処理を優先させる入庫優先モード、車両12の出庫処理を優先させる出庫優先モード等がある。非優先モードとは、所定の運転処理を優先する制御をしない態様である。」 イ 「【0045】 以下に、第2スケジュール決定部23が第2スケジュールを決定する方法の一例を具体例を挙げて説明する。 図7(a)に示されるように、稼働実績情報の単位時間(例えば、1時間、30分、15分等、特に限定されない。)当たりの入出庫件数(=入庫件数+出庫件数)と、入出庫件数に対して設定される規定値C及び規定値D(ここで、規定値C>規定値Dとする)とを比較する。入出庫件数≧規定値Cの場合、入出庫件数≧規定値Dの場合、入出庫件数<規定値Dの場合のそれぞれを順に、混雑度合いを示す混雑区分「繁忙期」「通常期」「閑散期」とし、時間帯毎に混雑区分を割り当て、区分スケジュールとする。 【0046】 さらに、図7(b)に示されるように、各混雑区分と、入出庫モードから待機モードへの移行期間である第1期間及び待機モードから省エネモードへの移行期間である第2期間の組み合わせと、を対応付け、対応情報とする。ここで、閑散期、通常期、繁盛期の第1期間をそれぞれ期間A、期間A´、期間A´´とする場合、それぞれの大小関係は、A<A´<A´´とすることが好ましい。また、閑散期、通常期、繁盛期の第2期間をそれぞれ期間B、期間B´、期間B´´とする場合、それぞれの大小関係は、B<B´<B´´とすることが好ましい。 第2スケジュール決定部23は、区分スケジュールと対応情報とに基づいて、待機モードへの移行スケジュール及び省エネモードへの移行スケジュールを決定し、スケジュール実行部22に出力する。 【0047】 例えば、深夜から明け方(0時から5時)の時間帯では、入出庫件数が規定値Dを下回っているので「閑散期」となるが、「閑散期」の入出庫モードから省エネモードまでの移行期間(例えば、5分+10分=15分)は、「繁忙期」の移行期間(例えば、15分+60分=75分)より短く設定することにより、繁忙期の場合よりも速やかに(例えば、75分-15分=60分早く)、省エネモードに移行させることができる。このように、速やかに省エネモードに移行することにより、消費電力を低減でき、省エネに寄与できる。」 ウ 「【0059】 図9は、縦列式の機械式駐車装置10の概略図である。 図9に示されるように、本実施形態にかかる機械式駐車システム1bは、前側号機の機械式駐車装置(以下「前側号機」という)10Aと、後側号機の機械式駐車装置(以下「後側号機」という)10Bとを備えた機械式駐車装置10と、支援盤20bを備えている。車両12を入出庫させる出入口となる出入口扉15は、前側号機10A側に設けられており、後側号機10Bに入出庫させる車両12は、前側号機10Aを通じて行われる。つまり、前側号機10Aは、前側号機10Aの格納棚18及び後側号機10Bの格納棚18の車両12の入出庫で稼働し、後側号機10Bは、後側号機10Bの格納棚18の車両12の入出庫においてのみ稼働する。 【0060】 運転モードは、前側号機10Aを優先的に使用する前側優先モード(優先モード)と、前側優先モードをオフ状態にする前側非優先モード(非優先モード)とを含んでいる。 前側優先モードは、車両12の入庫時に優先的に前側号機10Aが選定され、後側号機10Bの運転を最小化(つまり、出庫運転以外の運転はしない)し、省エネを図る運転モードであり、例えば、入庫が少ない夜間に用いて好適である。また、前側優先モードをオフ状態にする前側非優先モードは、入庫時には前側号機10Aと後側号機10Bとを交互に選定するので、前側号機10Aと後側号機10Bとに均等に入庫される運転モードである。前側優先モードをオフ状態にする前側非優先モードにした場合には、出庫運転は、前側号機10Aと後側号機10Bとに処理が分散されるので、出庫にかかる待ち時間が低減される。」 エ 「【0072】 〔第3の実施形態〕 次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態にかかる機械式駐車システムは機械式駐車装置が複数縦列して設けられており、運転モードにおいて、使用電力の最大値と回生電力の最大値とをずらして運転するピークカットモードを含んでいる点で、第1の実施形態、第2の実施形態と異なる。以下、本実施形態の制御装置について、第1の実施形態、第2の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。 【0073】 運転モードは、使用電力の最大値と回生電力の最大値とをずらして運転するピークカットモード(優先モード)を含んでいる。ここで、ピークカットモードについて説明する。 ピークカットモードには、主に3つのモードがあり、ア)前側号機と後側号機に同時に入庫予約がされた場合には、リフト搬送機の昇降タイミングを意図的にずらし、消費電力のピークカットを行う。イ)前側号機と後側号機に同時に出庫予約がされた場合には、リフト搬送機の昇降タイミングを意図的にずらし、回生電力のピークカットを行う。ウ)前側号機と後側号機に同時に入庫予約及び出庫予約がされた場合には、力行運転と回生運転の同期を取り、同時に昇降運転を行うことで、回生運転で発電した電力を、力行運転で利用して、使用(買電)電力を削減する。ピークカットモードは、省エネ対策として好適な運転モードである。 【0074】 一方、ピークカットモードをオフ状態(非優先モード)にする場合において、入庫予約及び出庫予約は、予約されたタイミングで、可能な限りなりゆきで実行されるので、リフト搬送機の昇降運転は、前側号機と後側号機とも指示されたタイミングで動作され、ピークカットモードをオン状態で運転する場合と比較して、入出庫待ち時間を短縮することができる。 このように、縦列式の機械式駐車装置の場合には、前側号機と後側号機とを同時に稼働させ、同時入庫運転及び同時出庫運転が可能であるが、同時に運転できるまで処理が待機されることがあり、入庫待ちや出庫待ち時間を短縮することが見込めない。また、同時入庫運転すると使用電力のピークが発生し、同時出庫運転すると回生電力のピークが発生するので、前側号機と後側号機のリフト搬送機の昇降タイミングを調整するピークカットモードを設け、ピークの回避を行っている。」 (4)甲4 甲4には、次の事項が記載されている。 ア 「【0024】図5に示すように、制御部16には、車両Zの入庫が比較的に集中して行われる時間帯において、車両の入庫による利用者の待ち時間の短縮化を図るための入庫優先モード、車両Zの出庫が比較的に集中して行われる時間帯において、車両の出庫による利用者の待ち時間の短縮化を図るための出庫優先モード、及び車両の入庫と出庫とが同じような割合で行われる時間帯において適用される優先無モードが備えられている。 【0025】・・・・(中略)・・・・。つまり、入庫優先モードにおいては、車両Zの入庫作動または出庫作動の終了に伴って、パレットPを乗降姿勢で外部連通部Bに位置させるとともに、車両搬送部C1を外部連通部Bにて待機させるようにして、車両Zの入庫が比較的に集中して行われる時間帯においての車両Zの入庫による利用者の待ち時間の短縮化を図るようにしている。 【0026】出庫優先モードにおいては、図14のフローチャートに示すような作動を制御部16が行うようになっている。つまり、出庫優先モードにおいては、車両Zの入庫作動または出庫作動の終了に伴って、何も積載していない状態の車両搬送部C1を車両収納部Aの上下方向中間位置にて待機させるようにして、車両Zの出庫が比較的に集中して行われる時間帯においての車両Zの出庫による利用者の待ち時間の短縮化を図るようにしている。 【0027】優先無モードにおいては、図15のフローチャートに示すような作動を制御部16が行うようになっている。つまり、車両Zの入庫作動の終了に伴って、何も積載していない状態の車両搬送部C1を車両収納部Aの上下方向中間位置にて待機させるようにし、また、車両Zの出庫作動の終了に伴って、パレットPを乗降姿勢で外部連通部Bに位置させるとともに、車両搬送部C1を外部連通部Bにて待機させるようにして、車両Zの入庫作動の後の出庫作業においては、車両Zの出庫による利用者の待ち時間を短縮し、かつ、車両Zの出庫作業の後の入庫作動においては、車両Zの入庫による利用者の待ち時間を短縮して、車両Zの入庫と出庫とが同じような割合で行われる時間帯においての車両Zの入庫及び出庫による利用者の待ち時間の短縮化を図るようにしている。」 イ 「【0030】次に、優先自動切換の実行の切り換えについて説明する。各優先モードの開始時刻が設定されている状態において、図10に示す表示画面17bに表示された管理用のタッチスイッチ23のうちの「終了」を押し操作する。すると、図11に示すような優先自動切り換えを使用するか否かを選択するための管理用の案内情報22や管理用のタッチスイッチ23などの管理案内情報が表示される。そして、管理用のタッチスイッチ23のうちの「使用する」を押し操作すると優先自動切り換えが行われるようになっている。また、管理用のタッチスイッチ23のうちの「使用しない」を押し操作すると優先自動切り換えが行われないようになっている。優先自動切り換えが行われない場合は、図12に示す表示画面17bに管理用のタッチスイッチ23として表示された「入庫優先」、「出庫優先」、及び「優先なし」のうち、いずれか押し操作されたものが実行されるようになっている。また、優先自動切り換えが行われている場合に、図12に示す表示画面17bに管理用のタッチスイッチ23として表示された「入庫優先」、「出庫優先」、及び「優先なし」のいずれかを押し操作すると、制御部16は、その押し操作により指令されたモードを優先して実行するとともに、優先自動切り換えを終了するようになっている。つまり、図12に示す表示画面17bに管理用のタッチスイッチ23として表示された「入庫優先」、「出庫優先」、及び「優先なし」は、優先自動切り換えによって現在実行されているモードに対して、他のモードを割り込ませて実行させるための手動式の指令手段Gとして機能するようになっている。ちなみに、割り込みによって実行されたモードは、図12に示す表示画面17bに管理用のタッチスイッチ23として表示された「入庫優先」、「出庫優先」、及び「優先なし」のいずれか、または、図11に示す表示画面17bに管理用のタッチスイッチ23として表示された「使用する」が押し操作されるまで実行されるようになっている。また、図12に示す表示画面17bの表示内容は、図9に示す表示画面17bに表示された管理メンテナンスメニューの作業項目である管理用のタッチスイッチ23のうちの「優先手動切換」を押し操作した場合に表示されるものである。」 (5)甲5 甲5には、次の事項が記載されている。 ア 「【0014】次に、管理装置4の運転作動について説明を加える。管理装置4の自動運転における動作モードには入庫優先モードと出庫優先モードとがある。入庫優先モードと出庫優先モードとの切り換えは、優先切換スイッチ11gによって行う。又、管理モードにおいて、時刻を設定することのより、時刻に基づいて入庫優先モードと出庫優先モードとを切り換えるようにすることもできる。 【0015】入庫優先モードでは、基本的には、いずれかの収納棚1から出庫された空パレット7をリフター10に担持させた状態で入庫指令を待機する。入庫すべく進入してきた車は空パレット7が出庫された収納棚1に格納される。そして、その収納棚1に最も近い空の収納棚1から空パレット7を出庫する。つまり、車を入庫させる収納棚1は予め決定されており、利用者が選択する必要は無い。 【0016】出庫優先モードでは、エレベータ3やリフター10に空パレット7を担持させない状態で出庫指令を待機する。尚、エレベータ3の待機位置は、入出庫口2に対応する位置でもよいし、収納棚1の上下中間位置でもよい。出庫指令に伴って指定された収納棚に移動して、出庫動作を行う。そして、空パレットを出庫された収納棚に返却する。」 (6)甲6ないし甲7 甲6ないし甲7には、摘記は省略するが、駐車装置における入庫優先モードと出庫優先モードとの選択に関する記載若しくは図示がされている。 第5 判断 1 本件発明1について (1)甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明において、「箱型循環式駐車装置」である「駐車装置20」が有する「最上部に位置する入出庫部40」及び「入出庫口40a」は、本件発明1における「出入口」に相当する。 甲1発明において、「最上部に位置する入出庫部40」に対して、「上下四層I、II、III、IVにわたって形成された車両収容のための横移送路21、22、23、24」は、本件発明1における「出入口とは異なる複数層の格納スペース」に相当する。 甲1発明において、「各横移送路21、22、23、24にはパレット1?14が横行するための横行レール27が付設され、パレット横行装置29が設置され」ている構成は、本件発明1において、「前記各格納スペースに配置されたトレーを水平方向に移動させる層水平方向移動装置」を有する構成に相当する。 甲1発明において、「全横移送路の左端側には各横移送路および入出庫部40に通じる入出庫昇降路25が形成され、右端側には各横移送路に通じる循環昇降路26が形成され」、「入出庫昇降路25および循環昇降路26にはそれぞれ車両を昇降するためのリフト32、33が設置され」ている構成は、本件発明1において、「前記層水平方向移動装置の両側で前記トレーを層間で移動するよう上昇または下降させる循環昇降装置」を有する構成に相当する。 甲1発明において、「箱型循環式駐車装置」である「駐車装置20」は、本件発明1において、「多層箱形循環式駐車装置」に相当する。 甲1発明において、「次の動作、とくに2工程循環を行うために便利であるよう、初期配置状態に復帰したときにはハイルーフ車専用パレット1?6全てがハイルーフ車用横移送路23、24に整列し、二台の普通車専用パレットは両昇降路25、26それぞれに位置することとし」ていることから、甲1発明では、「箱型循環」において「入出庫昇降路25」と「循環昇降路26」とが「上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式」を実施する場合がある。また、甲1発明において、「初期状態から普通車を入庫させるときには、普通車用の空パレット7か11を直接入出庫部まで迎えに出し、そして、上記初期状態に戻す」際には、空パレット7あるいは11のいずれか一方を入出庫部まで上昇させ、その後下降させれば足りるから、「入出庫昇降路25」と「循環昇降路26」とが「上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式」を実施していない。このように、甲1発明において、「入出庫昇降路25」と「循環昇降路26」とが「上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式」を実施する場合と、同「2工程方式」を実施しない場合とがあることと、本件発明1において、「前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成し」ていることとは、「前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環を実施する場合と、同時循環を実施しない場合とがある」という点で、共通する。 整理すると、本件発明1と甲1発明とは、 「出入口とは異なる複数層の格納スペースを有し、前記各格納スペースに配置されたトレーを水平方向に移動させる層水平方向移動装置と、前記層水平方向移動装置の両側で前記トレーを層間で移動するよう上昇または下降させる循環昇降装置をそれぞれ構成した多層箱形循環式駐車装置において、 前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環を実施する場合と、同時に上昇および下降を行う同時循環を実施しない場合とがある、 多層箱形循環式駐車装置。」 の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1においては、「前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成し、前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と、を備え、前記出入口に設けられた操作盤に、急ぎ出庫を行うときに利用者によって操作される急ボタンを設け、前記急ボタンからの操作信号を受けたとき、前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える」のに対し、 甲1発明においては、「入出庫昇降路25および循環昇降路26」は、上昇及び下降の動作として、「上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式」を実施する場合と、実施しない場合とがあるものの、一方が上昇を行い他方が下降を行う動作として、「2工程方式」のほかに「一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環」を「選択可能」に構成しておらず、「前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と」を備えておらず、「操作盤」の「急ボタン」からの操作信号で「同時循環」への切り替えを行うものでもない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1について、判断する。 甲2には、上記第4の2(2)に摘記した事項が記載されているが、甲2では、前側機16Aと後側機16Bとを有する機械式駐車装置10において、前側機16A又は後側機16Bのうち一方の昇降装置に対する要求があった際に、他方の昇降装置の運転状態に応じて、消費電力又は回生電力のピークをカットし、あるいは回生電力を有効に利用できる場合に、昇降装置の運転のタイミングを調整するものであるから、甲1発明における「入出庫昇降路25」及び「循環昇降路26」の、一方が上昇を行い他方が下降を行う循環動作の制御について、上昇と下降とを同時に行う同時循環制御部と、一方を上昇させた後に他方を下降させる省エネ循環制御部とを設けて選択可能とし、切替タイミング検出部が信号を受けたときに同時循環制御による制御へと切り替えることを示唆するものではない。 甲3には、上記第4の2(3)に摘記した事項が記載されているが、甲3における動作の切替えは、入庫優先モード、出庫優先モード、後側機の運転を最小化することで省エネに繋がる前側号機の優先モード、前側号機の優先モードをオフ状態とする非優先モード、もしくは甲2と同様のタイミング調整を行うピークカットモードであるから、2つの昇降路の一方が上昇を行い他方が下降を行う循環動作の制御について、上昇と下降とを同時に行う同時循環制御部と、一方を上昇させた後に他方を下降させる省エネ循環制御部とを設けて選択可能とすることを示唆するものではない。 甲4ないし甲7には、上記第4の2(4)ないし(7)に摘記した事項が記載されているが、いずれも駐車場の入庫優先モードと出庫優先モードとの切替えに関するものであり、2つの昇降路の一方が上昇を行い他方が下降を行う循環動作の制御について、上昇と下降とを同時に行う同時循環制御部と、一方を上昇させた後に他方を下降させる省エネ循環制御部とを設けて選択可能とすることを示唆するものではない。 したがって、甲2ないし甲7に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成をとることが、開示あるいは示唆されていたということはできず、上記相違点1は当業者が容易に想到できたものではない。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 2 本件発明2について (1)甲1発明との対比 本件発明2は、本件発明1において「操作盤」に設けられる「急ぎ出庫を行うときに利用者によって操作される急ボタン」を、「前記同時循環と前記省エネ循環を切り替える切替ボタン」に替えたものである。 その点をふまえて、本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は本件発明1と甲1発明との一致点で一致し、次の点で相違する。 <相違点2> 本件発明2においては、「前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成し、前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と、を備え、前記出入口に設けられた操作盤に、前記同時循環と前記省エネ循環を切り替える切替ボタンを設け、前記切替ボタンからの操作信号を受けたとき、前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える」のに対し、 甲1発明においては、「入出庫昇降路25および循環昇降路26」は、上昇及び下降の動作として、「上昇と下降をそれぞれ同時に行う2工程方式」を実施する場合と、実施しない場合とがあるものの、一方が上昇を行い他方が下降を行う動作として、「2工程方式」のほかに「一方の前記循環昇降装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環」を「選択可能」に構成しておらず、「前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、信号を受信したとき前記同時循環制御部による前記同時循環を行うように切り替える切替タイミング検出部と」を備えておらず、「操作盤」の「切替ボタン」からの操作信号で「同時循環」への切り替えを行うものでもない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点2について、判断する。 相違点2は、本件発明1と甲1発明との上記相違点1のうち、制御の切替の契機となる「急ボタン」を「切替ボタン」に置き換えたものであるところ、上記1(2)に示したとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、「急ボタン」を除く部分について、甲2ないし甲7を考慮しても当業者が容易に想到し得たものではないから、相違点1における「急ボタン」が「切替ボタン」に置き換えられた上記相違点2に係る本件発明2の構成も、甲2ないし甲7を考慮しても当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって、甲2ないし甲7に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明2の構成をとることが、開示あるいは示唆されていたということはできず、上記相違点2は当業者が容易に想到できたものではない。 よって、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 3 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記1及び2のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3も、甲1発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 4 申立人の主張について (1)本件発明1と甲1発明との一致点について 申立人は申立書において、甲1には、段落【0005】に「箱形循環には、図12(c)に示す左行と右行、および、上昇と下降をそれぞれ同時に行ういわゆる2工程方式と、左行、右行、上昇、下降を1工程ずつ順次行ういわゆる1工程方式とがあり、いずれの方式をも実施することが可能であるが、2工程方式のほうが入出庫時間が短くて済むことは言うまでもない。」と記載され、また段落【0013】に「目前の入出庫時間の短縮を優先した工程を採用しているので、その後の入出庫に際して2工程循環を行うことができず、1工程動作を順次行うことを余儀なくされ、入出庫作業が繁雑となり、入出庫時間(工程数)が非常に長くなってしまう。」と記載されているから、1工程方式と2工程方式とを選択可能に構成することが記載されており、「前記両循環昇降装置は、同時に上昇および下降を行う同時循環と、一方の前記循環装置の上昇または下降後に他方の前記循環昇降装置の下降または上昇を行う省エネ循環とを選択可能に構成」した点、及び「前記同時循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する同時循環制御部と、前記省エネ循環を行うように前記両循環昇降装置を制御する省エネ循環制御部と、を備える」点は、甲1発明と本件発明1との一致点である旨を主張している(申立書第17頁最終行?第19頁下から3行)。 しかしながら、甲1における段落【0005】の記載は、箱形循環として上昇と下降とを同時に行う2工程方式と、上昇、下降を1工程ずつ順次行う1工程方式とがあり得ることを、一般論として述べるにとどまる。また、甲1における段落【0013】の記載は、高車高車用パレットと低車高車用パレットとが混在する駐車装置において、高車高車用パレットを低車高車用移送路に循環させることができないという制約があるにもかかわらず、パレットの配置状態を適切に選択しなかった場合に、2工程循環を行うことができなくなり、1工程動作を順次行うことを余儀なくされるという問題点を述べたものであるから、段落【0005】の記載と併せて検討しても、2つの昇降路の一方を上昇させ他方を下降させる循環昇降動作について、上昇と下降とを同時に行う制御と、一方の上昇又は下降の後に他方の下降又は上昇を行う制御とを、選択的に切替可能な2つの制御として設定することを記載したものということはできない。 したがって、甲1の記載事項、及び、本件発明1と甲1発明との一致点に関し、上記申立人の主張を採用することはできず、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記1(1)のとおり認定されるべきものである。 (2)相違点1の容易想到性について 申立人は申立書において、駐車装置の待ち時間に関する動作モードを切り替えることは周知技術であるから、切替の契機を利用者が操作する急ボタンとする、本件発明1と甲1発明との相違点1は、想到容易である旨を主張している(申立書第19頁最終行?第21頁第16行)。 しかしながら、上記(1)で指摘したとおり、甲1には、2つの昇降路の一方を上昇させ他方を下降させる循環昇降動作について、上昇と下降とを同時に行う制御と、一方の上昇又は下降の後に他方の下降又は上昇を行う制御とを、選択的に切替可能な2つの制御として設定することは記載されておらず、本件発明1と甲1発明との相違点1は上記1(1)のとおり認定されるべきものである。 そして、本件発明1と甲1発明との相違点1については、上記1(2)で判断したとおりであって、甲2ないし甲7に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものではない。 したがって、申立人の上記主張について検討しても、本件発明1の進歩性について、上記1と異なる判断をすべき事情は見いだせない。 (3)本件発明2及び3について 申立人は申立書において、本件発明2及び3と甲1発明との対比・判断についても、上記(1)及び(2)と概略同様の主張を行っている(申立書第21頁第17行?第25頁第3行)。 しかしながら、上記(1)及び(2)で本件発明1と甲1発明との対比・判断について指摘したと同様に、申立人の当該主張について検討しても、本件発明2及び3の進歩性について、上記2及び3と異なる判断をすべき事情は見いだせない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-06-25 |
出願番号 | 特願2016-246475(P2016-246475) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(E04H)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 須永 聡 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
西田 秀彦 有家 秀郎 |
登録日 | 2020-09-30 |
登録番号 | 特許第6770785号(P6770785) |
権利者 | 日精株式会社 |
発明の名称 | 多層箱型循環式駐車装置 |
代理人 | 中島 愼一 |