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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1375898
異議申立番号 異議2021-700278  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-16 
確定日 2021-07-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6755631号発明「電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6755631号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6755631号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成30年8月30日に出願され、令和2年8月28日にその特許権が設定登録され、令和2年9月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年3月16日に特許異議申立人藤本一男(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6755631号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
第1成分(X)および第2成分(Y)を有する2液硬化型樹脂組成物であって、
前記第1成分(X)は、ポリオール(A)および水(B)を含み、
前記第2成分(Y)は、イソシアネート(C)を含み、
前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の少なくともいずれか一方は、難燃剤(D)を含み、
前記ポリオール(A)は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含み、
前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)に含まれる前記難燃剤(D)の合計量は、前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の合計量100質量部に対して25?75質量部であり、
前記ポリオール(A)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して20?150質量部であり、
前記分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量は、前記ポリオール(A)100質量部に対して70?100質量部であり、
前記水(B)の量は、第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0.35質量部以下である、電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記分子量が2000以上のポリオール(a-1)は、複数のオキシエチレン基が直列に結合した構造を各末端部に有するポリエーテルポリオール(a-1-1)を含み、前記各末端部において直列に結合したオキシエチレン基の合計量は、ポリエーテルポリオール(a-1-1)全体の5?35モル%である、請求項1に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート(C)は、イソシアネート基を末端部に有するウレタンプレポリマー(c-1)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(c-1)は、少なくとも、芳香族イソシアネートとポリオール(cp)とを反応させることに得られる、請求項1または2に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族イソシアネートは、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートの変性体の少なくともいずれか一方である、請求項3に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
前記イソシアネート(C)は、イソシアネート基を末端部に有するウレタンプレポリマー(c-1)を含み、
前記ウレタンプレポリマー(c-1)は、少なくとも、イソシアネート(ci)と、ヒマシ油系ポリオールとを反応させることに得られる、請求項1から4のいずれか1項に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオール(A)は、さらに、分子量が200以下のポリオール(a-2)を含み、
前記分子量が200以下のポリオール(a-2)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して1.5?15質量部である、請求項1から5のいずれか1項に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物の硬化物である発泡ウレタン。
【請求項8】
請求項7に記載の発泡ウレタンによりポッティングされた電池パック。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記甲第1ないし11号証を提出して、以下の申立理由1ないし4により、請求項1ないし8に係る本件特許を取り消すべきである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術(甲第2号証ないし甲第8号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるあるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 申立理由2(実施可能要件)
甲第9号証ないし甲第11号証を考慮すると、「ポリオール(A)」の種類、数(組合せ)及び配合量、「イソシアネート(C)」の種類、及び配合量、「難燃剤(D)」の種類、及び質量比、「組成物中の成分」の数及び種類について、発明の詳細な説明において、当業者が請求項1ないし8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件発明1ないし8に対する特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 申立理由3(サポート要件)
甲第9号証ないし甲第11号証を考慮すると、「ポリオール(A)」の種類、数(組合せ)及び配合量、「イソシアネート(C)」の種類、及び配合量、「難燃剤(D)」の種類、及び質量比、「組成物中の成分」の数及び種類について、請求項1ないし8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
本件特許請求の範囲の記載には不備があり、本件発明1ないし8に対する特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4(明確性要件)
「ポリオール(A)」の分子量の上限が不明であるため、請求項1ないし8の記載は、明確でない。
「水(B)」の配合量の下限が不明であり、水(B)の量として、0質量部の場合が包含されているため、請求項1ないし8の記載は、明確でない。
請求項1ないし6に記載の「・・・2液硬化型樹脂組成物」には、請求項7及び8に記載の発泡ウレタン以外のものが含まれているのか不明であるため、請求項1ないし6に係る発明は、明確でない。
本件特許請求の範囲の記載には不備があり、本件発明1ないし8に対する特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開昭60-197718号公報
甲第2号証:火災問題対策委員会編、日本ウレタン工業協会発行、”硬質ポリウレタンフォームの火災及び防災に関するQ&A集”、第2版、2009年5月発行、[令和3年3月10日検索]、インターネット<URL:http://www.urethane-jp.org/topics/doc/koushitsu_urethane_qa.pdf>
甲第3号証:特表2013-511589号公報
甲第4号証:国際公開第2015/129850号
甲第5号証:特開2010-184974号公報
甲第6号証:再公表特許2010/026732号(当審注:「国際公開第2010/026732号」は「再公表特許2010/026732号」の誤記と認める。)
甲第7号証:特開2006-196277号公報
甲第8号証:特表2011-523168号公報
甲第9号証:特開2003-327654号公報
甲第10号証:新村出 編、広辞苑第七版、第一刷、株式会社岩波書店、2018年1月12日発行、第3107頁
甲第11号証:新村出 編、広辞苑第七版、第一刷、株式会社岩波書店、2018年1月12日発行、第349頁

第4 甲号証の記載、甲号証に記載された発明
1 甲第1号証
甲第1号証には、「ポリウレタンの製法」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「2. 特許請求の範囲
1. 有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとを必要により発泡剤の存在下に反応させてポリウレタンを製造する方法において、ポリオールの少なくとも一部として、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)を使用することを特徴とする、自己離型性を有するポリウレタンの製法。
2. (A)を、高分子ポリオールの重量に基いて20%以上の量使用する、特許請求の範囲第1項記載の製法。
3. (b)の末端ポリオキシエチレン鎖含量が10重量%以上である、特許請求の範囲第1または2項記載の製法。
4. (b)のポリオキシエチレン鎖含量が10?30重量%である、特許請求の範囲第1または3項記載の製法。
5. (A)と他の高分子ポリオール(B)または/および低分子活性水素含有化合物(C)を併用する、特許請求の範囲第1?4項のいずれか記載の製法。
6. (B)が末端ポリオキシエチレン鎖含有ジオールおよび/またはトリオールである、特許請求の範囲第5項記載の製法。
7. (C)が低分子ジオールである、特許請求の範囲第5または6項記載の製法。
8. (A),(B),(C)の合計重量に基づいて4?25%の(C)を用いる、特許請求の範囲第5?7項のいずれか記載の製法。
9. 発泡剤をポリウレタンの全密度が0.5g/cm^(3)以上となる量使用する特許請求の範囲第1?8項の何れか記載の製法。
10. 有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとを必要により発泡剤の存在下に反応させてポリウレタンを製造する方法において、ポリオールの少なくとも一部として、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)を使用し、且つRIM法により成形することを特徴とするポリウレタン成形品の製法。
11. 型に離型剤を毎回塗布することなく有機ポリイソシアネートおよびポリオールの導入を行なう特許請求の範囲第10項記載の製法。」(第1頁左下欄第4行?第2頁左上欄第11行)

「3.発明の詳細な説明
本発明はポリウレタンの製法、詳しくは高反応性、自己離型性を有するポリウレタンの製法、とくにRIM法(リアクシヨン・インジエクシヨン・モールド法)で成型した場合に優れた高反応性、自己離型性を与えるポリウレタンの製法に関するものである。
従来、バンパー、計器パネル、操縦ハンドルなどの自動車の外装材および内装材のような用途に適用するウレタン成型品の製造手段としてRIM法が実用化されている。このようなRIM用ウレタン原料としては、高い反応性を有し短時間でキユアー、脱型できることが要求されるとともに、自己離型性を有し型に離型剤を毎回塗布しなくても離型が可能なことが要望されている。
本発明者らはこのような要件を満足させる原料ポリオールおよびポリウレタン製造法を見出すべく検討した結果、特定の重合体ポリオールを使用することにより、高反応性と自己離型性を有するポリウレタン成形品が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとを必要により発泡剤の存在下に反応させてポリウレタンを製造する方法において、ポリオールの少なくとも一部として、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)を使用することを特徴とする自己離型性を有するポリウレタンの製法(第1発明);および上記ポリウレタン製法においてRIM法により成形することを特徴とするポリウレタン成形品の製造法(第2発明)である。
本発明において使用する重合体ポリオール(A)の原料物質である上記ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)としては、少なくとも5個(好ましくは6?12個)の活性水素原子を有する化合物(たとえば多価アルコール、多価フェノール、アミン類)にエチレンオキサイドおよび他のアルキレンオキサイドを、上記末端オキシエチレン鎖を形成するようにブロック付加した構造の化合物およびそれらの混合物が挙げられる。」(第2頁左上欄第12行?同頁左下欄第13行)

「上記ポリオール(b)の当量(OH当りの分子量)は1450以上好ましくは1500?3200とくに好ましくは1600?3000 である。当量が1450より低いものでは、得られるポリウレタンの温度特性や伸びなどの物性が低下する。当量が3200を越えると、粘度が高くなり流れ性が悪くなり反応性が低下するので、好ましくない。
(b)の末端ポリオキシエチレン鎖含量(以下末端EO量と略記)は、通常10%(重量%、以下同様)以上、好ましくは12?80%、さらに好ましくは15?28%である。」(第3頁右上欄第1?11行)

「また、(b)の全ポリオキシエチレン鎖含量(以下全EO量と略記)は通常10%以上好ましくは12?30%である。」(第3頁左下欄第4?6行)

「上記ポリオール(b)は必要により他のポリオール〔たとえば後述の(B)、(C)の例として挙げる高分子ポリオールおよび/または低分子ポリオール〕と併用して重合体ポリオールを製造してもよい。この場合、ポリオール合計量中の(b)の量は通常20%以上、好ましくは50%以上、低分子ポリオールの量は通常20%以下である。」(第3頁右下欄第11?17行)

「本発明のポリウレタンの製法を実施するに当っては、該重合体ポリオール(A)を単独でまたは他の高分子ポリオール(B)または/および低分子活性水素含有化合物(C)と併用して有機ポリイソシアネートと反応させることにより行なうことができる。場合により併用される他の高分子ポリオール(B)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、および他の重合体ポリオールが使用できる。」(第4頁右上欄第4?12行)

「場合により使用される低分子活性水素含有化合物(C)としては、低分子ジオール、ジアミン、アミノアルコール等のような鎖伸長剤が使用できる。低分子ジオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、分子量200?400のポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、環状基を有する低分子ジオール類(たとえば特公昭45-1474号記載のもの;ビスフエノールAのプロピレンオキサイド付加物等)、第3級または第4級窒素原子含有低分子ジオール類(たとえば特開昭54-130699号公報記載のもの;アルキルジアルカノールアミン等およびそれらの4級化物)、チオジエチレングリコール等が挙げられる。」(第5頁左上欄第12行?同頁右上欄第7行)

「(C)の使用量(重合体ポリオール中に低分子ポリオールが含有されている場合はその量も含む。以下、同様)は要求される性能(剛性等)に応じて種々変えることができる。低分子ジオールの場合全ポリオール中通常30%以下好ましくは4?25%の量用いられる。」(第5頁左下欄第14?19行)

「本発明において使用する有機ポリイソシアネートとしては従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。例えば脂肪族ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなど)、脂環式ポリイソシアネート(水添ジフエニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネートなど)、芳香族ポリイソシアネート〔トルエンジイソシアネート(TDI) 、ジフエニルメタンジイソシアネート(MDI) 、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど〕およびこれらの混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは芳香族ジイソシアネートであり、とくに好ましいものはTDI 、 MDIである。これらのポリイソシアネートは粗製ポリイソシアネート、たとえば粗製TDI 、 粗製MDI〔粗製ジアミノフエニルメタン[ホルムアルデヒドと芳香族アミンまたはその混合物との縮合物生成物;ジアミノジフエニルメタンと少量(たとえば5?20重量%)の3官能以上のポリアミンとの混合物]のホスゲン化物:ポリアリルポリイソシアネート(PAPI)〕 、あるいは変性ポリイソシアネートたとえば液状MDI(カーボジイミド変性、トリヒドロカルビルホスフエート変性など)や過剰のポリイソシアネート(TDI 、 MDI など)とポリオールとを反応させて得られる遊離インシアネート含有プレポリマーとして使用することもでき、またこれらを併用(たとえば変性ポリイソシアネートとプレポリマーを併用)することもできる。上記プレポリマー製造に用いるポリオールとしては、当量が30?200のポリオールたとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリンなどのトリオール;ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの高官能ポリオール;およびこれらのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド)付加物が挙げられる。」(第6頁左上欄第1行?同頁右上欄第18行)

「発泡は通常発泡剤を用いて行なわれるが成形時に空気等の気体を導入するなどの方法(エアーローディング)で発泡させることもできる。
発泡剤としては水および/またはハロゲン置換脂肪族炭化水素系発泡剤(トリクロロモノフロロメタンなどのフロン類)が使用できる。水の使用量は高分子ポリオール(ポリエーテルポリオール)に対し通常0.4%以下好ましくは0.2%以下である。水の使用量が0.4%を越えると反応により発生した炭酸ガスが泡で表面に露出し成形品外観を損う。」(第6頁左下欄第14行?同頁右下欄第4行)

「また必要により触媒(第3級アミン類、有機スズ化合物、有機鉛化合物など)、界面活性剤(シリコーン系界面活性剤など)、その他の助剤の存在下に反応を行なうことができる。必要により顔料、フィラー、難燃剤、溶剤、内部離型剤、揺変剤などを添加することもできる。」(第7頁左上欄第2?7行)

「本発明(第2発明)においてRIM法により成形してポリウレタン成形品を製造する方法は通常の方法で行うことができる。例えばポリオールに鎖伸長剤、架橋剤、触媒、必要により発泡剤(水および/またはフロン類)、顔料、整泡剤を加え均一に混合したものをA液とし、B液としては有機イソシアネートを予め用意しておき、高圧発泡機のAおよびBのタンクに充てんする。予め高圧発泡機の注入ノズルとモールドの注入口とを接続しておきミキシングヘッドでA液、B液を混合し密閉モールドに注入し硬化後脱型する。」(第7頁左上欄第15行?同頁右上欄第5行)

「さらに本発明の方法はRIM法以外にも各種のポリウレタン製造法(フオーム、エラストマー、シート等)において特に従来比較的多量の触媒を必要としていたポリウレタン製造法、鎖伸長剤を使用するポリウレタン製造法において優れた効果を発揮する。
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。(実施例中に示す部は重量部をあらわす。)以下実施例および比較例において使用した各成分は次の通りである。
ポリオールI:ソルビトール182部にプロピレンオキサイド9418部、次いでエチレンオキサイド2400部を付加して得たOH価28のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル10部とスチレン10部とを予め混合したモノマーを125?135℃の温度にて10部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールII:グリセリン92部と蔗糖228部とを混合し、平均官能基数5としたものにプロピレンオキサイド6115部とエチレンオキサイド1815部とを付加して得たOH価84のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル8部とスチレン2部とを予め混合したモノマーを125?135℃の温度にて0.5部のアゾイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールIII:蔗糖842部にプロピレンオキサイド13400部、次いでエチレンオキサイド1027部、さらにプロピレンオキサイド1027部、続いてエチレンオキサイド2154部を付加して得たOH価25のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリルニトリル25部を125?135℃の温度にて1.0部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールIV:平均官能基数6のノボラック622部にプロピレンオキサイド7800部次いでエチレンオキサイド2800部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリルニトリル20部を125?130℃の温度にて1.0部のアゾイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールV:トリエチレンテトラミン146部にプロピレンオキサイド9841部、次いでプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの7対3(重量比)混合物2833部、更にエチレンオキサイド1630部を付加して得たOH価24のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル10部とスチレン10部とを予め混合したモノマーを125?135℃の温度にて1.0部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールVI:ソルビトール182部にプロピレンオキサイド13726部、次いでエチレンオキサイド2100部を付加して得たポリエーテルポリオール21000 部と無水トリメリット酸774部とを反応した後、続いてエチレンオキサイド2400部を反応して得た12官能でOH価28のポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル13部を125?135℃の温度にて0.5部のアゾビスイソブチルニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールA:グリセリン92部にプロピレンオキサイド4908部、次いでエチレンオキサイド2000部を付加して得たOH価24のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル25部を125?135℃の温度にて1.0部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールB:ペンタエリスリトール136部にプロピレンオキサイド4660部、次いでプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを1対1(重量比)で混合したもの1200部、続いでエチレンオキサイド1500部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール100部と、エチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル12.5部とスチレン12.5部とを予め混合したモノマーを125?135℃の温度にて1.0部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールC:プロピレングリコール76部にプロピレンオキサイド3124部、次いでエチレンオキサイド800部を付加して得たOH価28のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリロニトリル20部とスチレン5部とを予め混合したモノマーを125?135℃の温度にて1.0部のアゾビスイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの。
ポリオールD:グリセリン92部にプロピレンオキサイド4908部、次いでエチレンオキサイド2000部を付加して得たOH価24のポリエーテルポリオール。
ポリオールE:プロピレングリコール76部にプロピレンオキサイド3124部、次いでエチレンオキサイド800部を付加して得たOH価28のポリエーテルポリオール。
ポリオールF:プロピレングリコール76部にプロピレンオキサイド1600部、次いでエチレンオキサイド700部を付加して得たOH価47のポリエーテルポリオール。
ダイフロン-11u:ダイキン工業社製フロン-11
黒トナー :カーボンブラック、老化防止剤(紫外線吸収剤と酸化防止剤および耐熱性向上剤の混合物等)をポリエーテルポリオールに分散したもの。
DABCO 88LV :三共エアープロダクツ社製アミン触媒。
DABCO DC-2 :三共エアープロダクツ社製触媒。
DBTDL :ジブチルチンジラウレート
フオムレツUL-28:化成アップジョン(株)取扱いスズ触媒。
スミジュール PC:住友バイエルウレタン社製変性MDI
ミリオネート MTL:)日本ポリウレタン社製変性MDI
コロネートCE-141:」(第8頁左上欄第2行?第9頁右下欄第7行)

「実施例および比較例
ポリオールI?VIおよびポリオールA?Fを使用し、次の条件で高密度ポリウレタンを形成した。即ちポリオールと鎖伸長剤、触媒を主成分とする。ポリオール成分(A液)、イソシアネート成分(B液)を高圧発泡機の原料タンクにそれぞれ仕込み、A液とB液を高圧発泡機で混合後、表-2?5の成形品は厚み2.5mm ,幅400mm ,長さ1000mmの温度調節が可能なる平板形密閉モールド(以下平板型と略す)で、また表-6?7は前記モールドの成形品厚みを5mmに変更した平板型に注入し高密度および中密度のポリウレタン成形品を作成した。」(第10頁右上欄第1?13行)


上記摘記事項の記載より、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているといえる。
・第7頁左上欄第15行?同頁右上欄第5行の記載によれば、「ポリオールに鎖伸長剤、架橋剤、触媒、必要により発泡剤(水および/またはフロン類)、顔料、整泡剤を加え均一に混合したものをA液とし、B液としては有機イソシアネートを予め用意しておき、高圧発泡機のAおよびBのタンクに充てん」し、「ミキシングヘッドでA液、B液を混合し密閉モールドに注入し硬化後脱型する」ことにより「ポリウレタン成形品」を製造するものであるから、甲第1号証には、ポリオールに水を加え混合したA液と、有機イソシアネートのB液との2液を混合し硬化することにより樹脂であるポリウレタンを製造することが記載されている。
そして、A液及びB液からなるポリウレタンの製造に用いられる材料は2液硬化型樹脂組成物といえるから、甲第1号証には、ポリオールに水を加え混合したA液と、有機イソシアネートのB液を有する2液硬化型樹脂組成物が記載されているといえる。
・第2頁左上欄第12行?同頁左下欄第13行の記載によれば、「ポリオールの少なくとも一部として、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)を使用する」ものであり、第3頁右上欄第1?11行の記載によれば、「当量(OH当りの分子量)」であるから、ポリオールの少なくとも一部は、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量(OH当りの分子量)が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)から成る。
・第7頁左上欄第2?7行の記載によれば、ポリウレタンの製造に用いられる材料は「必要により難燃剤を添加する」ものである。
・第8頁左上欄第2行?第9頁右下欄第7行の記載によれば、「ポリオールIV」は「平均官能基数6のノボラック622部にプロピレンオキサイド7800部次いでエチレンオキサイド2800部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール100部とエチレン性不飽和単量体としてアクリルニトリル20部を125?130℃の温度にて1.0部のアゾイソブチロニトリルを開始剤として反応させたもの」である。
表-2によれば、実施例3は、「使用ポリオール」がIVであり、成形処方(部)が「ポリオール90、黒トナー10、エチレングリコール20、ダイフロン-11u4、水0.15、DABCO 88LV1.2、DBTDL0.004、ミリオネート MTL100」である。
第8頁左上欄第2行?第9頁右下欄第7行の記載によれば、「実施例中に示す部は重量部をあらわす。」
以上のことより、甲第1号証の実施例3で用いられる材料の組成は、平均官能基数6のノボラック622部にプロピレンオキサイド7800部次いでエチレンオキサイド2800部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール100重量部とエチレン性不飽和単量体としてアクリルニトリル20重量部を125?130℃の温度にて1.0重量部のアゾイソブチロニトリルを開始剤として反応させたポリール:90重量部、黒トナー:10重量部、エチレングリコール:20重量部、ダイフロン-11u:4重量部、水:0.15重量部、DABCO 88LV:1.2重量部、DBTDL:0.004重量部、ミリオネート MTL:100重量部である。

上記技術的事項より、甲第1号証には、実施例3でポリウレタンの製造に用いられる材料として以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリオールに水を加え混合したA液と、有機イソシアネートのB液を有する2液硬化型樹脂組成物であり、
ポリオールの少なくとも一部は、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量(OH当りの分子量)が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)から成り、
必要により難燃剤が添加される2液硬化型樹脂組成物において、
平均官能基数6のノボラック622部にプロピレンオキサイド7800部次いでエチレンオキサイド2800部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール100重量部とエチレン性不飽和単量体としてアクリルニトリル20重量部を125?130℃の温度にて1.0重量部のアゾイソブチロニトリルを開始剤として反応させたポリール:90重量部、
黒トナー:10重量部、
エチレングリコール:20重量部、
ダイフロン-11u:4重量部、
水:0.15重量部、
DABCO 88LV:1.2重量部、
DBTDL:0.004重量部、
ミリオネート MTL:100重量部とした
2液硬化型樹脂組成物。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、「硬質ポリウレタンフォーム」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「Q9.硬質ウレタンフォームの発火点、引火点、酸素指数はどれくらいですか。
A.可燃物の燃焼特性値には、発火点、引火点、酸素指数があります。各種材料のデータを以下に示します。

これらのデータによれば、硬質ウレタンフォームを含めてプラスチック材料は、木材と比較して発火点や引火点が低い方ではありません。

引用文献:1) 火災便覧 第3版 共立出版p.800,802(1997)
2) a.EK.Moss,JonrnalofCellularPlastics,Nov./Dec、332-336(1976)
b.M.M.Hirschler,JoumalofFireSciences,5,289-307(1987)」(第10頁)

「Q13.ウレタンフォームは難燃化できますか。
A.硬質ウレタンフォームは、リン酸エステル系難燃剤を増やしたり、イソシアネート指数を大きくすることで難燃化(燃え難くすること)ができますが、有機物である限り不燃化には至りません。
ウレタンフォームの難燃化は、火災の初期段階で火災の拡大を遅らせて手のつけられない火災状態になる前に人が避難できる時間を増やすことを目指しています。
ウレタンフォームの難燃化では、以下のデータがあります。


空気中の酸素濃度が21%なので、上図の酸素指数のようにその値より大きいほど燃えにくくなります。しかし、難燃化にも限界があり、ウレタンフォームをさらに燃えにくくするためには、イソシアヌレート化する必要があります。(Q-14参照)

参考文献: 1) J.E.Kresta,Journal of Cellular Plastics 11(2),68-751995)
2) G.E.Hartzell,Journal of Cellular Plastics,28,330-358(1992)」(第14頁)

上記摘記事項の記載より、甲第2号証には、次の技術的事項(以下、「甲第2号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「硬質ウレタンフォームは、木材と比較して発火点や引火点が低い方ではなく、リン酸エステル系難燃剤を増やしたり、イソシアネート指数を大きくすることで難燃化(燃え難くすること)ができること。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、「良好な難燃特性を有する中密度装飾成形フォームの減少した成形時間での製造方法」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】
中密度難燃性成形ポリウレタンフォームの製造方法であって、
a)(1)50?90重量部のポリウレタンフォーム形成性反応性混合物、
(2)10?50重量部の固体難燃剤であって、
(i)メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、
(ii)ホウ酸亜鉛、および
(iii)必要に応じて、1以上の金属酸化物またはその水和物
を、
(A)ポリリン酸アンモニウムとホウ酸亜鉛との重量比が3:1?1:3の範囲となり、および
(B)製造されるポリウレタンフォームが、フォームの100重量%を基準として少なくとも5重量%のホウ酸亜鉛を含む
ような量で含んでなる固体難燃剤
を含む組成物を金型中へ導入する工程、
b)金型中へ導入した組成物を硬化させて中密度ポリウレタンフォームを形成する工程、および
c)中密度ポリウレタンフォームを金型から取り出す工程
を含み、工程b)およびc)の間で経過する時間は、ポリリン酸アンモニウムおよびホウ酸亜鉛を含む固体難燃剤組成物をポリウレタンフォーム形成性反応性混合物(1)に含ませる場合より短い、方法。」

「【0004】
長年にわたり、ポリウレタンフォームを発泡させるために用いてられてきた主要な発泡剤は、クロロフルオロカーボンであった。該発泡剤は、成層圏オゾンにとって脅威となると決定された後、次第に使用されなくなった。クロロフルオロカーボンが次第に使用されなくなった後、非常に一般的な種類の発泡剤は、水素化クロロフルオロカーボンとなった。水素化クロロフルオロカーボンは、多少は環境に優しい発泡剤であると考えられているが、依然として塩素を幾らか含有する。水素化クロロフルオロカーボンの塩素原子は、成層圏下の高度で安定するため、より少ないオゾン層破壊係数(「ODP」)を有する。しかしながら、水素化クロロフルオロカーボンは、依然として小さいODPを有するため、これも最終的に廃止することが義務付けられている。水および/または二酸化炭素は、急速に、ポリウレタンフォーム製造業者が選択する発泡剤になりつつある。」

「【0008】
このように、上記難燃性ポリウレタンフォームの開発は、極めて望ましいことである。環境問題のために、上記フォームが、非クロロフルオロカーボン/水素化クロロフルオロカーボン含有発泡剤、例えば水および/または二酸化炭素を用いることが望ましい。」

「【0030】
本発明の実施に有用な適当なポリウレタンフォーム形成性反応性混合物は、水発泡ポリウレタンフォーム形成性反応性混合物であり、存在させる水の量は、中密度、すなわち、約10?約30の密度のフォームを生じさせるのに十分である。典型的には、これは、ポリウレタンフォーム系の100重量部を基準として約0.1?約1.0(好ましくは約0.2?約0.7)重量部の水である。水の量は、ポリウレタンフォーム形成性反応性混合物中の全量であり、難燃剤固体の含水表面上にしばしば吸着される水を含む。」

「【0051】
ウレタンまたはウレア基を既に含有するポリヒドロキシル化合物および未変性天然ポリオール、例えばヒマシ油、炭水化物またはデンプンを、本発明の実施に用いてもよい。アルキレンオキシドおよびフェニル/ホルムアルデヒド樹脂の付加生成物またはアルキレンオキシドおよびウレア/ホルムアルデヒド樹脂の付加生成物もまた、本発明に従って適当である。」

「【0104】
ポリオールA55.68部、ポリオールB20.87部、ポリオールC19.26部、水0.23部、相容化剤1.0部、界面活性剤1.5部、ポリオールD3.29部、触媒A0.10部、触媒B1.3部および顔料0.65部の混合物を、30分間激しく撹拌した。該ブレンドに55部の難燃剤AまたはBを添加し、該混合物を再び、更に15分間激しく撹拌した。難燃剤を含有するブレンドに、イソシアネート102部を添加した。反応性は、当業者に既知のこれらのカップショット法を用いて決定した:実験室において、いずれも77°Fにて組み合わせた反応物を、5秒間高剪断下で撹拌し、種々の反応状態を記録した。Krauss-Maffei反応射出成形機により、成分(100°Fに加熱したポリオールブレンドおよび88°Fに加熱したイソシアネート)を、衝撃混合ヘッド中で両方の流れの圧力により約2000psiにて組み合わせた。再び、同じ反応状態を記録した。部品は、変形することなく、および/または継続して膨張することなく金型(140°Fに加熱)から取り出すことができる場合に硬化したと見なされた。」

上記摘記事項の記載より、甲第3号証には、次の技術的事項(以下、「甲第3号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「中密度難燃性成形ポリウレタンフォームの製造方法において、ポリリン酸アンモニウムを含んでなる固体難燃剤を含む組成物を金型中へ導入する工程を含」ませる技術。

4 甲第4号証
甲第4号証には、「難燃性ポリウレタン発泡体を現場で形成するための現場発泡システム」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「[0048] 現場発泡システムに使用される三量化触媒の添加量はウレタン樹脂100重量部に対して、0.1重量部?10重量部の範囲であることが好ましく、0.1重量部?8重量部の範囲であることがより好ましく、0.1重量部?6重量部の範囲であることが更に好ましく、0.4重量部?3.0重量部の範囲であることが最も好ましい。0.1重量部以上の場合にイソシアネートの三量化が阻害される不具合が生じず、10重量部以下の場合は適切な発泡速度を維持することができ、取り扱いやすい。
D)発泡剤
現場発泡システムに使用される発泡剤は、ウレタン樹脂の発泡を促進する。
[0049] 前記発泡剤としては、例えば、水、 プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の低沸点の炭化水素、ジクロロエタン、プロピルクロリド、イソプロピルクロリド、ブチルクロリド、イソブチルクロリド、ペンチルクロリド、イソペンチルクロリド等の塩素化脂肪族炭化水素化合物、
トリクロルモノフルオロメタン、トリクロルトリフロオロエタン、CHF_(3)、CH_(2)F_(2)、CH_(3)F、例えばトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィン(HFO)等のフッ素化合物、
ジクロロモノフルオロエタン、(例えばHCFC141b(1、1-ジクロロ-1-フルオロエタン)、HCFC22(クロロジフルオロメタン)、HCFC142b(1-クロロ-1、1-ジフルオロエタン)等のハイドロクロロフルオロカーボン化合物、
HFC-245fa(1、1、1、3、3-ペンタフルオロプロパン)、HFC-365mfc(1、1、1、3、3-ペンタフルオロブタン)等のハイドロフルオロカーボン化合物、
ジイソプロピルエーテル等のエーテル化合物、あるいはこれらの化合物の混合物等の有機物理発泡剤、
窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス等の無機物理発泡剤等が挙げられる。
[0050] 発泡剤の範囲は、ウレタン樹脂100重量部に対して、0.1重量部?30重量部の範囲であることが好ましい。発泡剤は、ウレタン樹脂100重量部に対して、0.1重量部?18重量部の範囲であることがより好ましく、0.5重量部?18重量部の範囲であることが更に好ましく、1重量部?15重量部の範囲であることが最も好ましい。
[0051] 発泡剤の範囲が0.1重量部以上の場合は発泡が促進され、得られる成形品の密度を低減することができ、30重量部以下の場合は、発泡体が発泡せず発泡体が形成されないことを防ぐことができる。」

「[0053] 三量化触媒、発泡剤および整泡剤はそれぞれ一種もしくは二種以上を使用することができる。
(F)添加剤
添加剤は、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む。
[0054] この場合、使用する添加剤の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記の(a)? (n)のいずれか等が挙げられる。
(a)赤リンおよびリン酸エステル
(b)赤リンおよびリン酸塩含有難燃剤
(c)赤リンおよび臭素含有難燃剤
(d)赤リンおよびホウ素含有難燃剤
(e)赤リンおよびアンチモン含有難燃剤
(f)赤リンおよび金属水酸化物
(g)赤リンおよび針状フィラー
(h) 赤リン、リン酸エステルおよびリン酸塩含有難燃剤
(i) 赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、および臭素含有難燃剤
(j)赤リン、リン酸エステルおよびホウ素含有難燃剤
(k)赤リン、リン酸エステルおよび針状フィラー
(l)赤リン、リン酸塩含有難燃剤および臭素含有難燃剤
(m)赤リン、リン酸塩含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(n)赤リン、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(n)赤リン、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(o)赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤および臭素含有難燃剤
(p)赤リン、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤およびホウ素含有難燃剤
(q)上記の(l)?(p)にさらに針状フィラーを加えたもの
(r) 赤リンと;リン酸エステルおよびリン酸塩含有難燃剤と;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ
(s)赤リンと;リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、および臭素含有難燃剤から選択される1つまたは2つと;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ
(t) 赤リンと;リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、および臭素含有難燃剤と;ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つ
本発明に使用する赤リンに限定はなく、市販品を適宜選択して使用することができる。
[0055] 本発明の現場発泡システムに使用する赤リンの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、3.0重量部?18重量部の範囲であることが好ましい。
[0056] 赤リンの範囲が3.0重量部以上の場合は、難燃性ウレタン樹脂組成物の自己消火性が保持され、また18重量部以下の場合には難燃性ウレタン樹脂組成物の発泡が阻害されない。
[0057] また本発明に使用するリン酸エステルは特に限定されないが、モノリン酸エステル、縮合リン酸エステル等を使用することが好ましい。
[0058] モノリン酸エステルとしては、特に限定はないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレ二ルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレ二ルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レジルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ホスフアフエナンスレン、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート等が挙げられる。
[0059] 縮合リン酸エステルとしては、特に限定はないが、例えば、トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート(大八化学工業社製、商品名PX-200)、ハイドロキノンポリ(2,6-キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物等の縮合リン酸エステルを挙げられる。
[0060] 市販の縮合リン酸エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート(商品名CR-733S)、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート(商品名CR-741)、芳香族縮合リン酸エステル(商品名CR747)、レゾルシノールポリフェニルホスフェート(ADEKA社製、商品名アデカスタブPFR)、ビスフェノールAポリクレジルホスフェ-ト(商品名FP-600、FP-700)等を挙げることができる。
[0061] 上記の中でも、硬化前の組成物中の粘度を低下させる効果と初期の発熱量を低減させる効果が高いためモノリン酸エステルを使用することが好ましく、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェートを使用することがより好ましい。
[0062] リン酸エステルは一種もしくは二種以上を使用することができる。
[0063] リン酸エステルの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、1.5重量部?52重量部の範囲であることが好ましく、1.5重量部?20重量部の範囲であることがより好ましく、2.0重量部?15重量部の範囲であることが更に好ましく、2.0重量部?10重量部の範囲であることが最も好ましい。
[0064] リン酸エステルの範囲が1.5重量部以上の場合には難燃性ウレタン樹脂組成物からなる成形品が火災の熱により形成される緻密残渣が割れることを防止でき、52重量部以下の場合には難燃性ウレタン樹脂組成物の発泡が阻害されない。」

「[0075] 本発明に使用するリン酸塩含有難燃剤の添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、1.5重量部?52重量部の範囲であることが好ましく、1.5重量部?20重量部の範囲であることがより好ましく、2.0重量部?15重量部の範囲であることが更に好ましく、2.0重量部?10重量部の範囲であることが最も好ましい。」

「[0132]
[表1]



「[0133][表2]



「[請求項1]
(A)ポリイソシアネートを含む第1液、
(B)ポリオールを含む第2液、
(C)三量化触媒、
(D)発泡剤、
(E)整泡剤、および
(F)赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、および金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つとを含む添加剤
を有する難燃性ポリウレタン発泡体を現場で形成するための現場発泡システム。」

「[請求項6]
(A)ポリイソシアネートを含む第1液と(B)ポリオールを含む第2液とからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
(C)の三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
(D)の発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
(E)の整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
(F)の添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
前記赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、
前記赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項5に記載の難燃性ポリウレタン発泡体。」

上記摘記事項の記載より、甲第4号証には、次の技術的事項(以下、「甲第4号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤から選ばれる少なくとも1つとを含む添加剤を有する難燃性ポリウレタン発泡体において、リン酸エステルの添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、1.5重量部?52重量部の範囲とし、リン酸塩含有難燃剤の添加量は、ウレタン樹脂100重量部に対して、1.5重量部?52重量部の範囲とする」技術。

5 甲第5号証
甲第5号証には、「耐火断熱被覆材」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】
少なくとも有機イソシアネート、活性水素含有化合物、水、ウレタン化触媒、難燃剤及び整泡剤を用いてなるポリウレタン発泡体からなり、加熱発泡させていない黒曜石粉末および膨張性黒鉛を、それぞれ活性水素含有化合物に対して重量比で40PHR以上、1500PHR以下、含有してなる耐火断熱被覆材。
【請求項2】
前記難燃剤として、液状燐酸エステル類及び/又は液状ハロゲン化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の耐火断熱被覆材。」

「【0034】
<実施例1>
以下の、b?lの材料及び、水、発泡剤、整泡剤を、表1に示す配合で混合した。そして、この混合組成物と、材料a(4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート)を表1の配合で混合し、混合後に直ちに200mm角の離型処理した容器に注入し、発泡させて、実施例1の耐火断熱被覆材を得た。
【0035】
a)4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート:スミジュール44V-20(住化バイエルウレタン)、NCO%=31.0%
b)トリメチロールプロパンとプロピレンオキサイドを付加重合した分子量約400の3官能ポリオール
c)グリセリンとプロピレンオキサイドを付加重合した分子量約3000の3官能ポリオール
d)アジピン酸とネオペンチルグリコールを縮重合した水酸基当量500の2官能ポリオール
e)第4級アンモニウム塩触媒(Dabco TMR)(エアプロダクツ)
f)ジブチル錫ジラウレート12%液:TN-12(堺化学)
g)トリス(クロロプロピル)フォスフェート
h)黒曜石粉末:フヨーエクス0号(芙蓉パーライト)
i)膨張性黒鉛:SYZR1002(三洋貿易)
j)燐酸アンモニウム:タイエンS(太平化学産業)
k)水酸化アルミニウム:ハイジライトH-310(昭和電工)
l)セピオライト:ミラクレーLFC-2Z(近江鉱業)
整泡剤:ポリジメチルシロキサンのオキシアルキレン共重合体(SZ-580 東レ、ダウコーニング株式会社)
発泡剤:1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)
【0036】
<実施例2?5>
材料を表1の配合に変える他は、上記実施例1と同様にして、実施例2?5の耐火断熱被覆材を得た。」

「【0039】
【表1】



上記摘記事項の記載より、甲第5号証には、次の技術的事項(以下、「甲第5号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「難燃剤を用いてなるポリウレタン発泡体からなる耐火断熱被覆材において、難燃剤として液状燐酸エステル類を用いる」技術。

6 甲第6号証
甲第6号証には、「電池パック」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項1】
二次電池と、
前記二次電池を内部に収容する成形体と、
前記二次電池と前記成形体の内表面との間に設けられ、前記成形体の外表面での温度上昇を抑制する昇温抑制層と、
前記二次電池と前記昇温抑制層との間に設けられ、前記二次電池からの漏出物をせき止めるブロック層と、
を有する電池パック。」

「【0029】
<電池パック1の製造方法>
実施の形態1に係る電池パック1は、以下の工程(A)-(E)に従って作製できる。
(A) 充放電可能な二次電池2を収容できるよう、内部に収容空間を有する成形体11を形成する工程。
(B) 化学反応に伴う吸熱作用を利用して熱を吸収する吸熱剤と、難燃性結着剤とを含む塗布液を調製する工程。
(C) 前記塗布液を前記成形体11の内壁に塗布し、吸熱層13を形成する工程。
(D) 前記吸熱層13の内表面(前記収容空間に接する表面)側に、耐熔融アルカリ塩の素材からなるブロック層12を設置する工程。
(E) 前記ブロック層12の内表面側に、二次電池2を収容する工程。

まず、工程(A)において、二次電池2を収容するための成形体11は樹脂を用いて形成する。樹脂成形体11は、「ノート型PCにおけるリチウムイオン二次電池の安全利用に関する手引書」((社)電子情報技術産業協会、(社)電池工業会)で求められているように、UL-94規格のV-0以上の難燃性樹脂を成形して形成された成形体が好ましい。具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などに難燃剤を混合することで難燃化処理を施した難燃性樹脂組成物を用いることができる。ここで用いられる難燃剤としては,臭素系難燃剤としてペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、塩素系難燃剤として塩化パラフィン、リン系難燃剤としてトリフェニルホスフェートなどの芳香族のリン酸エステル、赤リンやハロゲンを含むリン酸エステルのほか、アンチモン化合物として三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化合物、金属水酸化物として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが用いられる。成型方法は特に限定されず、周知の方法を適用できる。

続いて工程(B)において、化学反応に伴う吸熱作用を利用して熱を吸収する吸熱剤と、難燃性結着剤とを含む塗布液を調製する。塗布液は溶媒を適宜配合して、塗布に適した性状を示すようにする。具体的には、硫酸カルシウム二水和物(CaSO_(4)・2H_(2)O)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))、水酸化アルミニウム(Al(OH)_(3))、水酸化マグネシウム(Mg(OH)_(2))、及び、炭酸カルシウム(CaCO_(3))からなる群より選択される少なくとも一つの吸熱剤と、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、硫酸カルシウム二分の一水和物(CaSO_(4)・0.5H_(2)O)からなる群より選択される少なくとも1つの結着剤とを混合して塗布液たるペーストを作製する。結着剤としてポリ塩化ビニリデン又はポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、あらかじめそのN-メチルピロリドン(1-メチル-2-ピロリドン)等の有機溶媒溶液を調製し、この溶液と吸熱剤とを混合することが望ましい。また、結着剤として硫酸カルシウム二分の一水和物を用いる場合には、これと水とを練り合わせた後、吸熱剤と混合することが望ましい。」

「【0044】
本実施形態にかかる電池パック1は、難燃性樹脂製の成形体11の内側に、断熱層14が設けられ、さらに断熱層14の内側表面に接して、耐熔融アルカリ塩の素材からなるブロック層12が設けられている。ブロック層12は、二次電池2に最も近い位置に配置されている。断熱層14以外は、実施の形態1と同様である。」

「【0047】
断熱層14を構成する材料に特に制限はないが、有効的な断熱効果を確保するためには、熱伝導率が低い素材、具体的には0.1W/m・K以下の熱伝導率を有する素材を用いることが好ましい。このような熱伝導率を有する材料を用いることにより、断熱層14の厚みが小さくても断熱効果を確保することが可能となる。このような観点から、断熱層14の材料としては、グラスウール、ロックウール等の繊維断熱材;ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム等の発泡断熱材;真空断熱材などが挙げられる。」

上記摘記事項の記載より、甲第6号証には、次の技術的事項(以下、「甲第6号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「二次電池を内部に収容する成形体の内側に断熱層が設けられ、断熱層の材料をウレタンフォームとする」技術。

7 甲第7号証
甲第7号証には、「パック電池」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【0007】
以上のパック電池は、電池を熱伝導性絶縁物やポッティング材に埋設し、電池の熱を熱伝導性絶縁物等で伝導してその外部から冷却する。この構造は、各々の電池の温度差を小さくすることには有効であるが、電池を理想的な状態で効率よく冷却できない。それは、熱伝導性絶縁物やポッティング材に電池の熱を伝導させて、外部に放熱して冷却するからである。すなわち、電池の熱を熱伝導性絶縁物やポッティング材を介してケースに伝導し、ケースを冷却して、電池を間接的に冷却するからである。」

上記摘記事項の記載より、甲第7号証には、次の技術的事項(以下、「甲第7号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「パック電池は、電池を熱伝導性絶縁物やポッティング材に埋設したものとする」技術。

8 甲第8号証
甲第8号証には、「電池組立品」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【請求項13】
流体を導入し、それによって少なくとも一つの電池サブパックを持つ前記電池組立品の温度に影響を与えるためのデバイスを持つ車両用の電池パック組立品であって、:
サイドエッジを持つ複数の角形セルを含み、ターミナルエンド及び熱転写エッジを持つそれぞれの熱伝素子が前記角形セルの間を延伸する複数の熱転写素子を含み、前記熱転写エッジの少なくとも一つが前記角柱セルの前記エッジを越えて延び、前記ヒートシンクおよび前記角形セルが取り外し可能で相互に連結され、それによって前記角形セルに圧力がかかっている複数の熱伝素子を含む、電池モジュール;
前記電池モジュールが入るケース;
少なくとも部分的に前記電池モジュールを包むために前記ケース内に配置されたポッティング材料;ならびに
前記ポッティング材料と前記電池モジュールとの間に配置するために必要な範囲で前記電池モジュールを包囲するブランケット材料
を含む電池パック組立品。」

「【請求項15】
前記ポッティング材料が、ポリウレタン、ウレタンフォーム、シリコンおよびエポキシの群から選択される、請求項13の装置。」

上記摘記事項の記載より、甲第8号証には、次の技術的事項(以下、「甲第8号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「電池モジュールが入るケースと、少なくとも部分的に前記電池モジュールを包むために前記ケース内に配置されたポッティング材料とを含む電池パック組立品において、ポッティング材料をウレタンフォームとする」技術。

9 甲第9号証
甲第9号証には、「ポリウレタンフォームの製造法」に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

「【0061】B3:ポリプロピレントリオール〔旭硝子ウレタン(株)製、商品名:エクセノール230、官能基数:3、水酸基価:56mgKOH/ g、数平均分子量:3000、、不飽和度0.03meq/g〕」

上記摘記事項の記載より、甲第9号証には、次の技術的事項(以下、「甲第9号証記載の技術事項」という。)が記載されているといえる。
「旭硝子ウレタン(株)製、商品名:エクセノール230は、官能基数:3、水酸基価:56mgKOH/ g、数平均分子量:3000、不飽和度0.03meq/g」である。

10 甲第10号証
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
「るい・しょう【類焼】よそから燃え移って焼けること。類火。もらいび。」

11 甲第11号証
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
「えん・しょう【延焼】火事が燃えひろがること。火災が他におよぶこと。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)請求項1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「A液」が「ポリオールに水を加え混合した」ものであることは、本件発明1の「第1成分(X)は、ポリオール(A)および水(B)を含」むことに相当する。
また、甲1発明の「B液」が「有機イソシアネート」であることは、本件発明1の「第2成分(Y)は、イソシアネート(C)を含」むことに相当する。
してみると、甲1発明の「ポリオールに水を加え混合したA液と、有機イソシアネートのB液を有する2液硬化型樹脂組成物」は、本件発明1の「第1成分(X)および第2成分(Y)を有する2液硬化型樹脂組成物」に相当する。

(イ)甲1発明が「必要により難燃剤が添加され」るものであることは、本件発明1の「難燃剤(D)を含」むことに相当する。
ただし、難燃剤は、本件発明1は「前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の少なくともいずれか一方」が含むのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(ウ)ポリオールはOH基を二つ以上持った化合物である。
してみると、甲1発明の「官能基数が5以上で当量(OH当りの分子量)が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)」の分子量は2900以上であり、本件発明1の「分子量が2000以上のポリオール(a-1)」に相当する。
したがって、甲1発明の「ポリオールの少なくとも一部は、エチレン性不飽和単量体(a)と官能基数が5以上で当量(OH当りの分子量)が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)とからの重合体ポリオール(A)であ」ることは、本件発明1の「前記ポリオール(A)は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含」むことに相当する。

(エ)本件発明1は、「前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)に含まれる前記難燃剤(D)の合計量は、前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の合計量100質量部に対して25?75質量部であ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(オ)本件発明1は、「前記ポリオール(A)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して20?150質量部であ」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(カ)甲1発明の「平均官能基数6のノボラック622部にプロピレンオキサイド7800部次いでエチレンオキサイド2800部を付加して得たOH価30のポリエーテルポリオール」(以下、「ポリオールIV-1」という。)は、「官能基数が5以上で当量(OH当りの分子量)が1450以上の末端ポリオキシエチレン鎖含有ブロックポリオキシアルキレンポリオール(b)」である。
甲1発明は、「ポリオール」として、「ポリオールIV-1」100重量部とアクリルニトリル20重量部とを、アゾイソブチロニトリル1.0重量部を反応開始剤として反応させたものを用いるものであるから、「ポリオールIV-1」の量は全ポリオール100質量部に対して82.6質量部であり、上記(ウ)を踏まえれば、本件発明1の「前記分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量は、前記ポリオール(A)100質量部に対して70?100質量部であ」ることに含まれる。

(キ)甲1発明は「ポリオール:90重量部、黒トナー:10重量部、エチレングリコール:20重量部、ダイフロン-11u:4重量部、水:0.15重量部、DABCO 88LV:1.2重量部、DBTDL:0.004重量部、ミリオネート MTL:100重量部である2液硬化型樹脂組成物」である。
してみると、甲1発明の水の量は、「ポリオールに水を加え混合したA液と、有機イソシアネートのB液を有する2液硬化型樹脂組成物」100重量部に対して0.064重量部である。
したがって、甲1発明が「水:0.15重量部」としたものであることは、本件発明1の「前記水(B)の量は、第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0.35質量部以下である」ことに含まれる。

(ク)本件発明は、「電池ポッティング用」の2液硬化型樹脂組成物であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

以上を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
「第1成分(X)および第2成分(Y)を有する2液硬化型樹脂組成物であって、
前記第1成分(X)は、ポリオール(A)および水(B)を含み、
前記第2成分(Y)は、イソシアネート(C)を含み、
難燃剤(D)を含み、
前記ポリオール(A)は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含み、
前記分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量は、前記ポリオール(A)100質量部に対して70?100質量部であり、
前記水(B)の量は、第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0.35質量部以下である、2液硬化型樹脂組成物。」

〈相違点1〉
難燃剤(D)が、本件発明1は「前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の少なくともいずれか一方」に含まれるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない。

〈相違点2〉
本件発明1は「前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)に含まれる前記難燃剤(D)の合計量は、前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の合計量100質量部に対して25?75質量部」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない。

〈相違点3〉
本件発明1は「前記ポリオール(A)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して20?150質量部」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない。

〈相違点4〉
2液硬化型樹脂組成物が、本件発明は「電池ポッティング用」のであるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、難燃剤(D)の合計量に関する相違点2および3について検討する。
甲第2号証記載の技術事項ないし甲第5号証記載の技術事項のように、ポリウレタン発泡体に難燃剤を添加し難燃性ポリウレタン発泡体とすることは周知の技術事項であり、また、甲第6号証記載の技術事項ないし甲第8号証記載の技術事項のように、電池を収容する容器にウレタンを用いること、電池をポッティング材に埋設することも周知の技術事項である。
しかしながら、「難燃剤(D)の合計量」を「前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の合計量100質量部に対して25?75質量部」とすること、及び、「ポリオール(A)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して20?150質量部」とすることは、甲第2号証ないし甲第8号証のいずれにも記載されておらず、また、周知の技術事項であるともいえない。
したがって、甲1発明に甲第2号証記載の技術事項ないし甲第8号証記載の技術事項を適用しても、上記相違点2および3に係る本件発明1の構成を導き出すことはできない。
そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0050】に記載されるように「前記難燃剤(D)の合計量は、前記第1成分(X)および前記第2成分(Y)の合計量100質量部に対して25?75質量部」とすることにより、発泡ウレタンに十分な類焼防止性を与えることができ、樹脂が収縮しないものとし、段落【0046】に記載されるように「前記ポリオール(A)の量は、前記難燃剤(D)の合計量100質量部に対して20?150質量部」とすることにより、発泡ウレタンが収縮してしまわず、十分な類焼防止性を与えるものである。

ウ 小活
以上のことより、相違点1、4について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)請求項2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1にさらに限定した構成を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同じ理由により、請求項2ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由2(実施可能要件)および申立理由3(サポート要件)について
(1)ポリオール(A)について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第34頁第21行?第38頁第23行)において、概略次のように主張している。
以下の(ア)ないし(カ)の点が不明であるため、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
(ア)ポリオール(a-1)の分子量について
分子量が2000以上のポリオール(a-1)について、実施例に記載されるポリオール(エクセノール230又はエクセノール923)以外の請求項1に含まれる広範な化合物の全てが、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

(イ)ポリオール(A)の種類について
請求項1ではポリオール(A)の構造については何ら限定していないのに対して、本件明細書において、具体的にポリオール(A)として記載されているのは、エクセノール230及びエクセノール923のみである。甲第9号証の記載を参酌すると、エクセノール230は、「ポリプロピレントリオール〔旭硝子ウレタン(株)、商品名:エクセノール230、官能基数:3、水酸基価:56mgKOH/g、数平均分子量:3000、不飽和度 0.03meq/g〕」であるといえ、エクセノール923はどのような構造をしているのか判断することができない。つまり、本件明細書の実施例には、実質的に、特定の水酸基価等を示すポリプロピレントリオール、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールしか記載されていない。エクセノール230及びエクセノール923以外の請求項1に含まれる広範なポリオールの全てが、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

(ウ)ポリオール(a-1)の数(組合せ)について
本件明細書の実施例には、分子量が2000以上のポリオール(a-1)として、1種類のみを用いた例は全く示されておらず、請求項1に含まれる分子量が2000以上のポリオール(a-1)の全てについて1種類用いた場合に、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

(エ)ポリエーテルポリオール(a-1-1)の分子量、種類及びモル%について
請求項2には、「分子量が2000以上のポリオール(a-1)は、複数のオキシエチレン基が直列に結合した構造を各末端部に有するポリエーテルポリオール(a-1-1)を含み、前記各末端部において直列に結合したオキシエチレン基の合計量は、ポリエーテルオリオール(a-1-1)全体の5?35モル%である」と記載されている。
しかしながら、本件明細書の実施例には、分子量が2000以上のポリオール(a-1)として、「各端末部のオキシエチレン基の合計量:24モル%」であるエクセノール230しか記載されておらず、分子量が2000以上のポリオール(a-1)が、末端部において、複数のオキシエチレン基が直列に結合し、各末端部のオキシエチレン基の合計量が24モル%のポリエーテルポリオールではない場合に、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

(オ)分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量について
請求項1には、「分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量は、前記ポリオール(A)100質量部に対して70?100質量部」と記載されている。
これに対して、分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量について、ポリオール(A)100質量部に対して、本件明細書の実施例には、85.4?91.9質量部の例しか記載されておらず、70質量部から85.4質量部未満の範囲の例、及び、91.9質量部を超えて100質量部の範囲までの例は示されていない。

(カ)分子量が200以下のポリオール(a-2)について
本件明細書の実施例には、分子量が200以下のポリオール(a-2)を必ず含む例しか記載されておらず、分子量が200以下のポリオール(a-2)を含まない場合に、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

イ 当審の判断
上記主張について検討する。
まず、本件明細書段落【0081】ないし【0096】には、実施例1ないし10として分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含むポリオール(A)を用いた実施例が記載されており、当該記載に基づき当業者は本件請求項に係る発明を実施できるものと認められ、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
また、明細書に記載される実施例は、請求項に係る発明の例示に過ぎず、請求項に係る発明が実施例の構成のみに制限されるものではない。
そして、以下に検討するように上記ア(ア)ないし(カ)の点が不明ではなく、本件請求項に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(ア)ポリオール(a-1)の分子量について
本件明細書の段落【0005】には、「本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、軽量でありながら、電池間の類焼を防止することが可能な電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物を提供することである。」と、また、段落【0026】には、「本実施の形態に係るポリオール(A)は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含む。ポリオール(a-1)の分子量は、得られる発泡ウレタンの収縮を抑制する観点から、2500以上であることが好ましい。・・・なお、発泡ウレタンが収縮すると、電池と発泡ウレタンとの間に隙間が生じることにより類焼防止性が低下したり、強度が低下することによって電池が爆発的に発火した場合の衝撃に耐えられなかったりする。また、発泡ウレタンが収縮すると、たとえば、発泡ウレタンが充填された容器の壁面が内側に引っ張られて応力が掛かり、当該容器が変形したり割れたりする場合がある。」と記載されている。
当該記載によれば、得られる発泡ポリウレタンの収縮を抑制する観点から、ポリオール(a-1)の分子量は2000以上と特定され、そして、発泡ウレタンの収縮を抑制することにより、本件発明の目的である類焼を防止することが可能であることが解る。
してみると、「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的のためには、ポリオール(a-1)の分子量として2000以上であることが特定されれば足りることが、本件明細書の記載から当業者には明らかである。
よって、分子量が2000以上のポリオール(a-1)について、実施例に記載されるポリオール以外の請求項に含まれる化合物の全てについて実施例が記載されていないからといって、本件明細書の記載が不備であるということにはならない。

(イ)ポリオール(A)の種類について
上記(ア)に記載したように、「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的のためには、ポリオール(a-1)の分子量として2000以上であることが特定されれば足りることが、本件明細書の記載から当業者には明らかである。
そして、本件明細書段落【0027】ないし【0031】には、ポリオール(A)に含まれるポリオール(a-1)としては特に限定されない旨記載されており、本件明細書の記載から、特定の構造を有するポリオールを用いなくとも本件発明の目的が達成できることが解る。
よって、実施例に記載される特定の水酸基価等を示すポリプロピレントリオール、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオールであるエクセノール230及びエクセノール923以外の請求項に含まれるポリオールの全てが、実施例と同様の効果を奏するのか不明ではなく、上記ア(イ)の点が不明ではない。
なお、本件明細書には、ポリオールの構造に関する記載として、段落【0036】ないし【0041】に、ポリオール(a-1)は、衝撃吸収性を高める観点から2官能または3官能であり、外観を整える観点と収縮を押さえる観点からオキシエチレン基の合計量が5モル%以上30モル%以下である所定式のポリオール(a-1-1)を含むことが好ましく、ポリオール(a-1-1)以外の分子量が2000以上のポリオール(a-1-2)を含むことが好ましい旨が記載されているが、当該記載は、官能基の数やオキシエチレン基の合計量が特定の範囲にある特定の構造を有するポリオールを用いなければ「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的が達成できないことを示すものではない。

(ウ)ポリオール(a-1)の数(組合せ)について
上記(ア)に記載したように、「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的のためには、ポリオール(a-1)の分子量として2000以上であることが特定されれば足りることが、本件明細書の記載から当業者には明らかである。
そして、分子量が2000以上のポリオール(a-1)として、複数種類のポリオールを用いなければ本件発明の目的を達成できない理由も認められない。
よって、分子量が2000以上のポリオール(a-1)の全てについて1種類用いた場合の実施例が記載されていないからといって、本件明細書の記載が不備であるということにはならない。

(エ)ポリエーテルポリオール(a-1-1)の分子量、種類及びモル%について
上記(イ)に記載したように、本件明細書の記載から、特定の構造を有するポリオールを用いなくとも本件発明の目的が達成できることが解る。
よって、分子量が2000以上のポリオール(a-1)が、末端部において、複数のオキシエチレン基が直列に結合し、各末端部のオキシエチレン基の合計量が24モル%のポリエーテルポリオールではない場合に、実施例と同様の効果を奏するのか不明ではなく、上記ア(エ)の点が不明ではない。

(オ)分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量について
上記(ア)に記載したように、本件明細書の段落【0005】、【0026】の記載によれば、得られる発泡ポリウレタンの収縮を抑制する観点から、ポリオール(a-1)の分子量は2000以上と特定され、そして、発泡ウレタンの収縮を抑制することにより、本件発明の目的である類焼を防止することが可能であることが解る。
また、本件明細書の段落【0035】には、「分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量は、ポリオール(A)全体を100質量部とした場合に、70?100質量部である。ポリオール(a-1)がこの範囲より少ないと、得られる発泡ウレタンが収縮してしまう」と記載されている。
してみると、本件明細書のこれらの記載から、「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的を達成するためのポリオール(a-1)の量は、ポリオール(A)全体を100質量部とした場合に70?100質量部の範囲であることが、当業者には理解できる。
そして、実施例は本件発明の例示に過ぎないから、分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量について、ポリオール(A)100質量部に対して70質量部から85.4質量部未満の範囲の例、及び、91.9質量部を超えて100質量部の範囲までの例が発明の詳細な説明に示されていないとしても、本件請求項において、分子量が2000以上のポリオール(a-1)の量はポリオール(A)全体を100質量部とした場合に70?100質量部の範囲とすることが、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとはいえない。

(カ)分子量が200以下のポリオール(a-2)について
本件明細書の段落【0042】には、「得られる発泡ウレタンの収縮を抑制する観点から、さらに、分子量が200以下のポリオール(a-2)を含むことが好ましい」と記載されている。
しかしながら、当該記載は、分子量が200以下のポリオール(a-2)を含まなければ「電池間の類焼を防止する」という本件発明の目的が達成できないことを示すものではない。
よって、分子量が200以下のポリオール(a-2)を含まない場合に、実施例と同様の効果を奏するのか不明ではなく、上記ア(カ)の点が不明ではない。

(2)イソシアネート(C)について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第38頁24行?第40頁34行)において、概略次のように主張している。
以下の(ア)ないし(イ)の点が不明であるため、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。
(ア)イソシアネート(C)の種類について(1)
本件明細書において具体的にイソシアネート(C)として記載されているのは、段落【0083】に記載された(c-1-1)イソシアネート基末端プレウレタンプレポリマー、及び段落【0088】に記載された(c-2-1)ポリメリックMDIだけであり、これら以外のイソシアネート全てが、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。

(イ)イソシアネート(C)の種類について(2)
本件明細書の実施例には、ウレタンプレポリマーではないイソシアネートを使用した例は、段落【0088】に記載されたポリメリックMDIを使用した実施例7の1例しか記載されておらず、ウレタンプレポリマーでないイソシアネートを用いて樹脂組成物を製造する場合、実施例7に記載されている原料及び配合割合以外であっても電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物を製造することができるのか不明である。

イ 当審の判断
上記主張について検討する。
まず、本件明細書段落【0081】ないし【0096】には、実施例1ないし10としてイソシアネート(C)を用いた実施例が記載されており、当該記載に基づき当業者は本件請求項に係る発明を実施できるものと認められ、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
また、明細書に記載される実施例は、請求項に係る発明の例示に過ぎず、実施例の構成のみに請求項に係る発明が制限されるものではない。
そして、以下に検討するように上記ア(ア)および(イ)の点が不明ではなく、本件請求項に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(ア)イソシアネート(C)の種類について(1)
本件明細書の段落【0057】ないし【0065】には、イソシアネート(C)としては、たとえば、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネート、芳香脂肪族イソシアネート等を挙げることができ、イソシアネート(C)としては、たとえば、これらイソシアネートのカルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビューレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体等の変性体を用いることもでき、イソシアネート(C)は、好ましくは、ポリオール(cp)とイソシアネート(ci)とを、水酸基数に対してイソシアネート基数が過剰になるような条件で反応させることにより得られるイソシアネート基を末端部に有するウレタンプレポリマー(c-1)を含み、ウレタンプレポリマー(c-1)の生成に用いられるイソシアネート(ci)としては、特に限定されないが、発泡ウレタンの収縮を抑制する観点から、芳香族イソシアネートが好ましく、MDI、MDIの変性体がより好ましく、MDIの変性体としては、特に限定されないが、ポリメリック体等を挙げることができる旨が記載されている。
当該記載によれば、イソシアネート(C)としては、多様なイソシアネート、その変性体やイソシアネート基を末端部に有するウレタンプレポリマーを用いることができることが、当業者には理解できる。
よって、イソシアネート(C)として特定のイソシアネート基末端プレウレタンプレポリマーや特定のポリメリックMDI以外のイソシアネートを用いても実施例と同様の効果を奏するのか不明ではなく、上記ア(ア)の点が不明ではない。

(イ)イソシアネート(C)の種類について(2)
原料の種類に応じて配合割合を調整することは、当業者が普通に行うことであり、イソシアネート(C)としてウレタンプレポリマーでないイソシアネートを用いて樹脂組成物を製造する場合、当業者は当該使用するイソシアネートに応じて配合割合を調整し、電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物を製造することができるものと認められ、上記ア(イ)の点が不明ではない。

(3)難燃剤について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第40頁第35行?第41頁第33行)において、概略次のように主張している。
本件明細書段落【0050】に「難燃剤(D)の量がこの範囲より少ないと、発泡ウレタンに十分な類焼防止性を与えることができない、」と記載されていることから、当該難燃剤は、本件明細書の段落【0007】に記載された「電池間の類焼を防止する」効果に寄与すると思われる。
ここで、甲第10号証及び甲第11号証に示すように、「類焼」とは「よそから燃え移って焼けること」であり、「延焼」は「類焼」との意味の違いが明確でないところ、本件発明において、難燃剤の効果が、通常の難燃剤の効果ではなく、「類焼を防止する」という効果であるとするならは、本件明細書の実施例に具体的に記載されている難燃剤以外の請求項1に含まれる広範な難燃剤の全てが、実施例と同様に、通常の難燃剤と異なる「類焼を防止する」という効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ 当審の判断
まず、本件明細書段落【0081】ないし【0096】には、実施例1ないし10として難燃剤(D)を用いた実施例が記載されており、当該記載に基づき当業者は本件請求項に係る発明を実施できるものと認められ、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
また、明細書に記載される実施例は、請求項に係る発明の例示に過ぎず、実施例の構成のみに請求項に係る発明が制限されるものではない。
そして、本件明細書の段落【0050】および【0051】には、難燃剤(D)は発泡ウレタンに十分な類焼防止性を与えるものであり、難燃剤(D)としては特に限定されない旨記載されており、本件発明の「電池間の類焼を防止する」という効果は、一般的な難燃剤を用いることに得られるものであると当業者は理解できる。
よって、実施例に具体的に記載されている難燃剤以外の請求項に含まれる難燃剤の全てが、実施例と同様の効果を奏するのか不明ではなく、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)組成物中の成分の数について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第42頁第22行?第43頁第19行)において、概略以下のように主張している。
請求項1には、電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物に含まれる成分は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含むポリオール(A)、水(B)、イソシアネート(C)、及び難燃剤(D)であるが、本件明細書の実施例では、原料として触媒が使用されており、触媒を含まない場合に、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。また、実施例には必ず2種類の触媒を用いることしか記載されていないことから、使用する触媒を1種類とした場合に、実施例と同様の効果を奏するのか、本件出願時の技術常識を参酌しても不明である。
したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。

イ 当審の判断
明細書に記載される実施例は、請求項に係る発明の例示に過ぎず、請求項に係る発明が実施例の構成のみに制限されるものではない。
上記の点を踏まえて、触媒について検討する。
触媒は、化学反応においてそのもの自身は変化しないが反応速度を変化させる物質であるから、触媒の有無により生起する化学反応自体が変化するものではなく、必要とされる化学反応の速度等に基づいて当業者が適宜使用の有無やその種類を決定すべきものである。
よって、本件請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、請求項1ないし8に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、また、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

3 申立理由4(明確性要件)について
(1)ポリオール(A)について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第33頁第30行?第34頁第20行)において、概略次のように主張している。
請求項1には、ポリオール(a-1)の分子量の「上限」は規定されておらず、分子量が10万のポリオール、又は、分子量が1億のポリオールであっても、本件発明を構成するポリオールに包含される。
一般に、分子量が10万又は1億となるポリオールとして、どのような構造のものが含まれるのか不明であり、また、そのようなポリオールをどのように製造するのかも不明である。そして、製造できたとしても、実施例に記載されているものを用いた場合と同様の効果を示すものとは、本件出願時の技術常識を考慮したとしても、理解することは困難である。
そうしてみると、分子量が2000以上のポリオール(a-1)には、どのような化合物までが含まれるのか不明であり、請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?8に係る発明は、明確でない。

イ 当審の判断
本件明細書の段落【0026】には、「本実施の形態に係るポリオール(A)は、分子量が2000以上のポリオール(a-1)を含む。ポリオール(a-1)の分子量は、得られる発泡ウレタンの収縮を抑制する観点から、2500以上であることが好ましい。また、複数の電池の隙間に、発泡中の樹脂が確実に入り込むことにより電池間の類焼防止性を高める観点から、当該分子量は、10000以下であることが好ましく、6000以下であることがより好ましく、5000以下であることがより好ましく、4000以下であることがさらに好ましい。」と記載されている。
当該段落【0026】の記載によれば、ポリオール(a-1)の分子量については、発泡中の樹脂が複数の電池の隙間に確実に入り込めるような粘度、流動性となるよう、当業者が実施にあたり適宜決定すれば足りるのであって、その分子量の上限は、ポリオール(a-1)の粘度、電池の形状、複数の電池の隙間の大きさに応じて当業者が適宜決定し得るものである。
したがって、請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?8に係る発明は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(2)水(B)について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第42頁第1?21行)において、概略次のように主張している。
請求項1には、「前記第1成分(X)は、ポリオール(A)および水(B)を含み、・・・水(B)の量は、第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0.35質量部以下である・・・」と記載されている。
つまり、2液硬化型樹脂組成物は、「水(B)を含み」と規定している一方、「水(B)の量」の下限が規定されていないので、水(B)の量としては、0質量部の場合が包含されており、水(B)が含まれるのか否か不明確である。
そして、水は技術常識を考えると、発泡ウレタンになるために必須な成分であり、水が含まれていない時に、発泡し、ウレタンになり得るのか理解できない。
したがって、請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?8に係る発明は、明確でない。

イ 当審の判断
本件の請求項1には、「前記第1成分(X)は、ポリオール(A)および水(B)を含み」と記載されており、「水(B)」は「第1成分(X)」に含まれる必須の構成である。
してみると、請求項1の「水(B)の量は、第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0.35質量部以下である」との記載は、「水(B)」が第1成分(X)および第2成分(Y)の合計量100質量部に対して0質量部を超え0.35質量部以下であることを意味し、水(B)の量が0質量部の場合が包含されるものではない。
したがって、請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項2?8に係る発明は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)用途について
ア 申立人の主張
申立人は申立書(第43頁第20?26行)において、概略次のように主張している。
請求項1?6には、「電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物」が記載され、請求項7及び8には、「発泡ウレタン」と記載されている。
そうしてみると、請求項1?6に係る発明には、発泡ウレタン以外の2液硬化型樹脂組成物が含まれるのか不明である。
よって、請求項1?6に係る発明は明確でない。

イ 当審の判断
本件明細書の段落【0072】には、「本実施の形態に係る2液硬化型樹脂組成物は、第1成分(X)および第2成分(Y)が混合されると、発泡しながら硬化して発泡ウレタンとなる。」と記載されている。
当該記載から、「2液硬化型樹脂組成物」は混合・発泡前の第1成分(X)および第2成分(Y)を指し、「発泡ウレタン」は「2液硬化型樹脂組成物」の第1成分(X)および第2成分(Y)を混合・発泡させたものを指すことは明らかである。
したがって、請求項1?6に係る発明は明確である。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、請求項1ないし8に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論とのとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-25 
出願番号 特願2018-161005(P2018-161005)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
山田 正文
登録日 2020-08-28 
登録番号 特許第6755631号(P6755631)
権利者 第一工業製薬株式会社
発明の名称 電池ポッティング用2液硬化型樹脂組成物  
代理人 有近 康臣  
代理人 富田 克幸  
代理人 中村 哲士  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 蔦田 正人  
代理人 前澤 龍  

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