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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E05F
管理番号 1375900
異議申立番号 異議2021-700348  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-16 
確定日 2021-07-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6770991号発明「ウインドレギュレータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6770991号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6770991号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年3月26日に出願され、令和2年9月30日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年4月16日に、特許異議申立人 伊東 沙織(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6770991号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、本件発明1ないし4をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
車両の窓ガラスの昇降方向に沿って設けられる金属製のガイドレールと、
前記ガイドレールと摺動して前記窓ガラスと共に移動するキャリアプレートと、
モータによって回転駆動するドラムと、
前記ガイドレールの上端に設けられた方向転換部材を介して前記ドラムと前記キャリアプレートとの間に配索され、前記キャリアプレートを牽引するケーブルと、
前記ドラムと前記方向転換部材との間で前記ケーブルを支持するケーブル支持部と、を備え、
前記ケーブル支持部は、前記ケーブルと摺動する樹脂製の摺動部材と、前記摺動部材が取り付けられる被取付部と、を含み、
前記被取付部が前記ガイドレールと一体に設けられており、
前記ガイドレールは、前記ガイドレールの長手方向に延在する平板部と、前記平板部における前記長手方向に直交する方向の端部から立設された一対の側板部と、を有し、
前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ、前記平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部と、前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部と、を有している、
ウインドレギュレータ。
【請求項2】
車両の窓ガラスの昇降方向に沿って設けられる金属製のガイドレールと、
前記ガイドレールと摺動して前記窓ガラスと共に移動するキャリアプレートと、
モータによって回転駆動するドラムと、
前記ガイドレールの上端に設けられた方向転換部材を介して前記ドラムと前記キャリアプレートとの間に配索され、前記キャリアプレートを牽引するケーブルと、
前記ドラムと前記方向転換部材との間で前記ケーブルを支持するケーブル支持部と、を備え、
前記ケーブル支持部は、前記ケーブルと摺動する樹脂製の摺動部材と、前記摺動部材が取り付けられる被取付部と、を含み、
前記被取付部が前記ガイドレールと一体に設けられており、
前記ガイドレールは、前記ガイドレールの長手方向に延在する平板部と、前記平板部における前記長手方向に直交する方向の端部から立設された一対の側板部と、を有し、
前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ、前記平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部と、前記設置部の板厚方向に貫通して形成され、前記摺動部材に形成された係止部を係止する係止孔と、を有している、
ウインドレギュレータ。
【請求項3】
前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記ガイドレールの長手方向における中間部に設けられている、
請求項1又は2に記載のウインドレギュレータ。
【請求項4】
前記ケーブル支持部の前記被取付部における前記設置部の前記長手方向における両端部には、前記設置部の板厚方向に突出するように湾曲した湾曲部が形成されている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウインドレギュレータ。」


第3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)において主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第2頁第1行?第6頁最終行)。


第4 証拠について
1 証拠一覧
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。

甲1: 特開2014-177838号公報
(平成26年9月25日公開)
甲2: 実願昭63-117089号(実開平2-39088号)
のマイクロフィルム(平成2年3月15日公開)

(当審注;申立人は申立書において、甲2の番号を「実開平2-39088号公報」と表記しているが、実際に証拠として提出され申立人の主張の根拠とされているのは同実用新案の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムであるので、申立書における「実開平2-39088号公報」の表記は、当審において、実願昭63-117089号(実開平2-39088号)のマイクロフィルムを指す趣旨と読み替えることとする。)

2 各証拠の記載
(1)甲1
ア 記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

(ア)「【0012】
図3は、本願の発明による自動車用ウインドウレギュレータ1の一実施例を示したものである。
このウインドウレギュレータ1は、自動車のドアパネル内に納められており、ガイドレール2、キャリアプレート3、ワイヤドラム4を備えたドラム駆動装置5及び閉じ用ワイヤ6と開き用ワイヤ7を備える。符号8はプーリーであり、ガイドレール2の上端部に軸支されている。符号9はワイヤガイドであり、閉じ用ワイヤ6が移動するときの振れを抑制する。
【0013】
ガイドレール2は横断面をコ字形(図4)とした頑丈な鋼板の成形品であり、底壁10と左右の立上り壁11,12を有し、一方の右立上り壁12の上端から側方(車の前後方向)へ屈曲されたガイド辺縁13を有する。ガイド辺縁13は底壁10と略平行に形成され、ガイドレール2の長手方向に延びている。なお、この実施例においてガイドレール2は、窓ガラスの湾曲に合わせて、中間部が車の幅方向で外側へわずかに凸となるよう湾曲している。
【0014】
キャリアプレート3は窓ガラスの下辺を支持し、ガイドレール2に案内されて上下方向に移動される部材であり、内面側(車の幅方向内側の面)に凸条部14とガイドレール2のガイド辺縁13に前記の底壁10側から接してガイドするガイド用ひれ面15を一体に有している。
符号16は閉じ用ワイヤ6の係合部であり、閉じ用ワイヤ6のキャリアプレート3側を係合し取り付ける。符号17は開き用ワイヤ7のキャリアプレート3側を係合固定する係合部である。」

(イ)「【0017】
ワイヤガイド9は、ガイドレール2の底壁10の外面に固定したブラケット19(図4ロ〕の先端部に設けられている。この実施例において、ブラケット19は左立上り壁11から側方に突出している。
以上の構成であって、ドラム駆動装置5によってワイヤドラム4が駆動されると、閉じ用ワイヤ6が巻き込まれるときキャリアプレート3が上昇して窓ガラスが閉じ、開き用ワイヤ7が巻き込まれるときキャリアプレート3が下降して窓ガラスが開く。
ガイドレール2は、横断面がコ字形をしていることにより頑丈であり、小形にできる。一方、キャリアプレート3の上昇、下降は、ガイドレール2の左右立上り壁11,12によって車の前後方向が規制され、底壁10とガイド辺縁13とによって車の内外方向が安定して規制されるので、キャリアプレート3のスライド移動はスムーズである。」

(ウ)「


上記(ア)に摘記した段落【0012】及び(イ)に摘記した【0017】の記載をふまえると、図3より、閉じ用ワイヤ6は、ガイドレール2の上端部に軸支されているプーリー8を介してワイヤドラム4とキャリアプレート3との間に張られていることが、看取される。

(エ)「


上記(ア)に摘記した段落【0012】の記載をふまえると、上記図4[ロ]より、ワイヤガイド9は、閉じ用ワイヤ6が移動するときの振れを、閉じ用ワイヤ6に当接して抑制することが、看取される。
また、上記(イ)に摘記した段落【0017】の記載をふまえると、上記図4[ロ]より、ガイドレール2の底壁10の外面に固定したブラケット19の先端部は、左立上り壁11よりも側方に突出する板状面を有し、ワイヤガイド9はブラケット19の当該板状面に設置される様子が、看取される。

イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「自動車のドアパネル内に納められており、ガイドレール2、キャリアプレート3、ワイヤドラム4を備えたドラム駆動装置5、閉じ用ワイヤ6と開き用ワイヤ7、ガイドレール2の上端部に軸支されているプーリー8、及び閉じ用ワイヤ6が移動するときの振れを閉じ用ワイヤ6に当接して抑制するワイヤガイド9を備える、自動車用ウインドウレギュレータ1であり、
ガイドレール2は、横断面をコ字形とした頑丈な鋼製の成形品であり、底壁10と左右の立上り壁11,12、右立上り壁12の上端から側方(車の前後方向)へ屈曲されたガイド辺縁13を有し、
キャリアプレート3は、窓ガラスの下辺を支持し、ガイドレール2に案内されて上下方向に移動される部材であり、ガイドレール2のガイド辺縁13に接してガイドするガイド用ひれ面15を一体に有しており、
ガイドレール2の底壁10の外面に固定したブラケット19の先端部は、左立上り壁11よりも側方に突出する板状面を有し、ワイヤガイド9はブラケット19の当該板状面に設置され、
ドラム駆動装置5によってワイヤドラム4が駆動されると、閉じ用ワイヤ6が巻き込まれるときキャリアプレート3が上昇して窓ガラスが閉じ、開き用ワイヤ7が巻き込まれるときキャリアプレート3が下降して窓ガラスが開き、
閉じ用ワイヤ6は、ガイドレール2の上端部に軸支されているプーリー8を介してワイヤドラム4とキャリアプレート3との間に張られている、
自動車用ウインドウレギュレータ1。」

(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。

ア(明細書第5頁第17行?第6頁第7行)
「第2図にはパワー式のウインドーレギュレータが示されている。ガイドレール(ガイド手段)1が上方ブラケット11および下方ブラケット12によって自動車のサイドドアの内部にほぼ上下方向に取付けられ、このガイドレール1の上端部には上側プーリー13、下端部には下側プーリー14がそれぞれ取付けられている。このガイドレール1によって支持ブラケット(ガラス支持手段)2がこのガイドレール1に沿って昇降可能に保持され、この支持ブラケット2によって上記サイドドアのウインドーガラスGが支持されている。」

イ(明細書第6頁第19行?第7頁第1行)
「上記駆動手段4は巻取りドラム4aと、この巻取りドラム4aを回転駆動する駆動モータ4bとから基本構成され、上記巻取りドラム4aには、・・・(後略)」

ウ(明細書第8頁第10行?第17行)
「上記ガイドレール1には、第2図に示すようにその中間部に取付片5が駆動手段4側に突出するように溶接により取付けられ、この取付片にはケーブルホルダー(位置規制手段)6が着脱可能に取付けられている。このケーブルホルダー6は、第1図に示すように基板61と、係止片62と、挟持部63とが合成樹脂によって一体成形されたものである。」

エ(明細書第16頁第14?第17行)
「さらに上記第1?第4の実施例においては、取付片5,5a,5b,5cはガイドレール1に対して溶接により取付けているが、例えば上記取付片とガイドレールとを一体的に形成してもよい。」

オ(第1図、第2図、第3図、第4図)











第5 判断
1 本件発明1について
(1)甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、「自動車のドアパネル内」に納められた「自動車用ウインドウレギュレータ1」が開閉する「窓ガラス」は、自動車の窓ガラスであることが明らかであるから、本件発明1における「車両の窓ガラス」に相当する。
甲1発明において、「鋼製の成形品」である「ガイドレール2」は、「窓ガラスの下辺を支持」する「キャリアプレート3」を「案内」して「上下方向に移動」させるものであるから、窓ガラスが移動する上下方向に沿って設けられていることは明らかであり、本件発明1における「車両の窓ガラスの昇降方向に沿って設けられる金属製のガイドレール」に相当する。
甲1発明において、「窓ガラスの下辺を支持し、ガイドレール2に案内されて上下方向に移動される部材」である「キャリアプレート3」は、本件発明1における「窓ガラスと共に移動するキャリアプレート」に相当する。甲1発明において、「キャリアプレート3」が「ガイドレール2のガイド辺縁13に接してガイドするガイド用ひれ面15を一体に有して」いる構成は、本件発明1において、「キャリアプレート」が「ガイドレールと摺動」する構成に相当する。
甲1発明における「ワイヤドラム4」は、駆動されて「閉じ用ワイヤ6」又は「開き用ワイヤ7」が「巻き込まれる」ものであるから、回転駆動されることは明らかであり、本件発明1における「回転駆動するドラム」に相当する。
甲1発明における「閉じ用ワイヤ6」及び「開き用ワイヤ7」は、巻き込まれるときに「キャリアプレート3」を「上昇」又は「下降」させるものであるから、本件発明1における「キャリアプレートを牽引するケーブル」に相当する。このうち、甲1発明における「閉じ用ワイヤ6」は、「ガイドレール2の上端部に軸支されているプーリー8を介してワイヤドラム4とキャリアプレート3との間に張られている」から、本件発明1における「前記ガイドレールの上端に設けられた方向転換部材を介して前記ドラムと前記キャリアプレートとの間に配索され」た「ケーブル」に相当する。
甲1発明において、「ガイドレール2の上端部に軸支されているプーリー8を介してワイヤドラム4とキャリアプレート3との間に張られている」「閉じ用ワイヤ6」が「移動するときの振れ」を「閉じ用ワイヤ6に当接して抑制するワイヤガイド9」、及び「ワイヤガイド9」を設置する「ブラケット19」は、本件発明1における「前記ドラムと前記方向転換部材との間で前記ケーブルを支持するケーブル支持部」に相当する。
甲1発明において、「閉じ用ワイヤ6」が「移動するときの振れ」を「閉じ用ワイヤ6に当接して抑制するワイヤガイド9」と、本件発明1において、「ケーブル支持部」が有する「前記ケーブルと摺動する樹脂製の摺動部材」とは、「ケーブル支持部」が有する「前記ケーブルと摺動する摺動部材」という点で共通する。甲1発明において、「ワイヤガイド9」が設置される「ブラケット19」は、本件発明1において、「ケーブル支持部」が有する「前記摺動部材が取り付けられる被取付部」に相当する。
甲1発明において、「横断面をコ字形とした頑丈な鋼製の成形品」である「ガイドレール2」が有する「底壁10」は、本件発明1において、「ガイドレール」が有する「ガイドレールの長手方向に延在する平板部」に相当する。甲1発明において、「横断面をコ字形とした」「ガイドレール2」が有する「左右の立上り壁11,12」は、「横断面」がガイドレール2の長手方向に略直交する横断面であることが明らかであること、及び、「左右の立ち上り壁11,12」が「底壁10」の横断面の端部から立ち上がることで「コ字形」となっていることが明らかであることをふまえると、本件発明1において、「ガイドレール」が有する、「前記平板部における前記長手方向に直交する方向の端部から立設された一対の側板部」に相当する。
甲1発明において、「右立上り壁12」は「上端から側方(車の前後方向)へ屈曲されたガイド辺縁13」を有しており、「キャリアプレート3」は「ガイドレール2のガイド辺縁13に接してガイドするガイド用ひれ面15を一体に有して」いるから、甲1発明における「右立上り壁12」は、本件発明1における「前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部」に相当する。
甲1発明において、「ガイドレール2の底壁10の外面に固定したブラケット19の先端部は、左立上り壁11よりも側方に突出する板状面を有し、ワイヤガイド9はブラケット19の当該板状面に設置」される構成と、本件発明1において、「前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ、前記平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部と、前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部と、を有している」構成とは、「前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に、前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部を有している」という点で、共通する。

整理すると、本件発明1と甲1発明とは、
「車両の窓ガラスの昇降方向に沿って設けられる金属製のガイドレールと、
前記ガイドレールと摺動して前記窓ガラスと共に移動するキャリアプレートと、
回転駆動するドラムと、
前記ガイドレールの上端に設けられた方向転換部材を介して前記ドラムと前記キャリアプレートとの間に配索され、前記キャリアプレートを牽引するケーブルと、
前記ドラムと前記方向転換部材との間で前記ケーブルを支持するケーブル支持部と、を備え、
前記ケーブル支持部は、前記ケーブルと摺動する摺動部材と、前記摺動部材が取り付けられる被取付部と、を含み、
前記ガイドレールは、前記ガイドレールの長手方向に延在する平板部と、前記平板部における前記長手方向に直交する方向の端部から立設された一対の側板部と、を有し、
前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に、前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部を有している、
ウインドレギュレータ。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
「ドラム」の「回転駆動」に関し、
本件発明1においては、「モータ」によることが特定されているのに対し、
甲1発明においては、「モータ」によることが特定されていない点。

<相違点2>
「ケーブルと摺動」する「摺動部材」の材質に関し、
本件発明1においては、「樹脂製」であると特定されているのに対し、
甲1発明においては、「樹脂製」であるとは特定されていない点。

<相違点3>
「被取付部」がどのように設けられているかという構成に関し、
本件発明1においては、「被取付部が前記ガイドレールと一体に設けられており」、「被取付部は、前記一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ、前記平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部」を有するのに対し、
甲1発明においては、「ブラケット19」は「ガイドレール2の底壁10の外面に固定」されるものであって「ガイドレールと一体に設けられ」るものではなく、「一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ」るものではなく、また「ブラケット19」が有する「板状面」も、「ガイドレール2の底壁10の外面に固定」された「ブラケット19」の「先端部」が「左立上り壁11よりも側方に突出」しているものであって、「底壁10」の「端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して」はいない点。

<相違点4>
「摺動部材」を「被取付部」に取り付けるための構成に関し、
本件発明1においては、「被取付部」が「前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部」を有するのに対し、
甲1発明においては、「ブラケット19」が「前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部」を有するとは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3について、判断する。
甲2には、上記第4の2(2)に摘記した事項が記載されており、ガイドレール1、支持ブラケット2、巻取りドラム4a、駆動モータ4b、取付け片5、合成樹脂によって成形されたケーブルホルダー6を有するウインドーレギュレータの構造が示されるとともに、溶接により取付けている取付片をガイドレールと一体的に形成してもよいことが記載されている。
しかしながら、甲2に示される取付片5,5a,5b,5cは、上記第4の2(2)オに摘記した第1図ないし4図に示されるとおり、いずれもガイドレール1の底面に取り付けられて側方に突出するものであり、ガイドレール1と一体化するうえで、当該取付片の構造を、ガイドレール1の底面との関係、及び側板との関係を含めて変更することは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲2に「例えば上記取付片をガイドレールとを一体的に形成してもよい。」という記載があることを考慮しても、甲1発明において、「ガイドレール2の底壁10の外面に固定」されている「ブラケット19」を、「左右の立上り壁11,12」のうちキャリアプレート3をガイドするガイド辺縁13を有する「右立上り壁12」と反対側の「左立上り壁11」に設けて「ガイドレール2」と一体化し、「底壁10」の「端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して・・・設置面を有する板状の設置部」を有するように形成して、上記相違点3に係る本件発明1の構成に相当する構成を有する構造へと変更することが、甲2の上記記載から開示あるいは示唆されているということはできず、上記相違点3は当業者が容易に想到できたものではない。
そして、上記相違点3に係る本件発明1の構成が想到容易でないから、その他の相違点1ないし2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2 本件発明2について
(1)甲1発明との対比
本件発明2は、本件発明1において、「被取付け部」と「摺動部材」との結合に関する、「被取付け部」が「前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部」を有するという構成を、「被取付け部」が「前記設置部の板厚方向に貫通して形成され、前記摺動部材に形成された係止部を係止する係止孔」を有するという構成に、置き換えたものである。
その点をふまえて、本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は本件発明1と甲1発明との一致点で一致し、本件発明1と甲1発明との相違点1ないし3、及び、次の相違点5で相違する。

<相違点5>
「被取付け部」と「摺動部材」との結合に関し、
本件発明2においては、「被取付け部」が「前記設置部の板厚方向に貫通して形成され、前記摺動部材に形成された係止部を係止する係止孔」を有するのに対し、
甲1発明においては、「ブラケット19」が「前記設置部の板厚方向に貫通して形成され、前記摺動部材に形成された係止部を係止する係止孔」を有するとは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、本件発明2と甲1発明との相違点1ないし3及び5のうち、まず相違点3について、判断する。
相違点3については、上記1(2)で判断したとおりであって、甲2の記載を考慮しても、甲1発明における「ブラケット19」の構造を、上記相違点3に係る本件発明2の構成となるように変更することが、開示あるいは示唆されていたということはできない。
そして、上記相違点3に係る本件発明2の構成が想到容易でないから、その他の相違点1ないし2及び5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

3 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1又は本件発明2の構成を全て含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記1及び2のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3及び4も、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

4 申立人の主張について
(1)本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点について
申立人は申立書において、甲1の図4[ロ]及び図4[ハ]から、立上り壁11,12は、ガイドレール2の長手方向に直交する方向の端部から立ち上がっていることが看取でき、また、ブラケット19は、一対の立上り壁11,12のうちキャリアプレート3を摺動可能に支持する一方の立上り壁12とは反対側に設けられ、ワイヤガイド9が設置される板状の設置部を有することが看取でき、さらに、ブラケット19が、設置部の外縁部から立ち上がって形成され、ワイヤガイド9に形成された溝(細長い窪み)に嵌合する板状の嵌合部を有することが看取できるから、甲1発明は、「I’.ブラケット19は、一対の立上り壁11,12のうちキャリアプレート3を摺動可能に支持する一方の立上り壁12とは反対側に設けられ、底壁10の端部からガイドレール2の長手方向に直交する方向に張り出してワイヤガイド9が設置される設置面を有する設置部と、設置部の外縁部から立ち上がって形成され、ワイヤガイド9に形成された溝(細長い窪み)に嵌合する板状の嵌合部と、を有している」という構成を有する旨を主張している(申立書第13頁第1行?第14頁第27行)。
そして申立人は、甲1発明の上記構成I’は、本件発明1における次の構成「I.前記ケーブル支持部の前記被取付部は、前記一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ、前記平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して前記摺動部材が設置される設置面を有する板状の設置部と、前記設置部の外縁部から立ち上がって形成され、前記摺動部材に形成された嵌合溝に嵌合する板状の嵌合部と、を有している、」と一致するから、上記1(1)で認定した本件発明1と甲1発明との相違点3及び4のうち、実際に相違点となるのは、「前記被取付部が前記ガイドレールと一体に設けられており」という点である旨を主張している(申立書第20頁第5行?第21頁第11行)。
しかしながら、甲1における「ブラケット19」は、「ガイドレール2の底壁10の外面に固定した」ものであり、図4[ロ]及び[ハ]の図示からしても、その先端部が左立上り壁11よりも側方に突出しているものの、「一対の側板部のうち前記キャリアプレートを摺動可能に支持する一方の側板部とは反対側に設けられ」ているということはできず、また「平板部の前記端部から前記長手方向に直交する方向に張り出して」いるということはできない。また、甲1の図4[ロ]から、請求人が主張するように、「ブラケット19」が「設置部の外縁部から立ち上がって形成され、ワイヤガイド9に形成された溝(細長い窪み)に嵌合する板状の嵌合部」を有する、という構成を看取することもできない。
したがって、甲1に申立人が主張するとおりの甲1発明が記載されているということはできず、甲1発明は上記第4の2(1)イのとおり認定されるべきものであり、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記1(1)のとおり認定されるべきものである。

(2)「被取付部」の構成に関する本件発明1と甲1発明との相違点の容易想到性について
申立人は申立書において、「被取付部」の構成に関して、本件発明1と甲1発明とで相違するのは、本件発明1では被取付部がガイドレールと一体に設けられているのに対し、甲1発明ではブラケット19がガイドレール2と一体に設けられていない点であるところ、甲2にはケーブルホルダー6を取り付ける取付片5がガイドレール1と一体的に形成されることが開示されているから、「被取付部」の構成に関する当該相違点は想到容易である旨を主張している(申立書第21頁第8行?第11行及び第30行)。
しかしながら、上記(1)で指摘したとおり、「被取付部」の構成に関して、本件発明1と甲1発明との相違点は、上記1(1)に認定した相違点3及び相違点4のとおり認定されるべきものである。
そして、本件発明1と甲1発明との相違点3については、上記1(2)で判断したとおりであって、甲2に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものではない。
したがって、申立人の上記主張について検討しても、本件発明1の進歩性について、上記1と異なる判断をすべき事情は見いだせない。

(3)本件発明2について
申立人は申立書において、「被取付部」の構成に関する本件発明2と甲1発明との相違点は、本件発明2では被取付部がガイドレールと一体に設けられているのに対し、甲1発明ではブラケット19がガイドレール2と一体に設けられていない点、及び、本件発明2では「前記設置部の板厚方向に貫通して形成され、前記摺動部材に形成された係止部を係止する係止孔と、を有している」のに対し、甲1発明では係止孔が設けられていない点である旨を主張し、これらの相違点は甲2に照らして想到容易である旨を主張している(申立書第25頁第28行?第26頁第13行)。
しかしながら、上記(1)で指摘したと同様の理由により、「被取付部」の構成に関して、本件発明2と甲1発明との相違点は、上記1(1)で示した上記相違点3及び上記2(1)で示した上記相違点5のとおり認定されるべきものである。そして、本件発明2と甲1発明との相違点3については、上記2(2)で判断したとおりであって、甲2に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたものではない。
したがって、申立人の上記主張について検討しても、本件発明2の進歩性について、上記2と異なる判断をすべき事情は見いだせない。

(4)本件発明3及び4について
申立人は申立書において、本件発明3及び4において付加的に特定される構成は、甲1または甲2に記載された事項であるから、本件発明3及び4も、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨を主張している(申立書第26頁第16行?第27頁第13行)
しかしながら、本件発明3及び4は本件発明1又は2の構成を全て含み、さらに限定を加えたものであるところ、上記1及び2で判断したとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、上記申立人の主張について検討しても、本件発明3及び4の進歩性について、上記3と異なる判断をすべき事情は見いだせない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-28 
出願番号 特願2018-58634(P2018-58634)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E05F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野尻 悠平  
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 有家 秀郎
田中 洋行
登録日 2020-09-30 
登録番号 特許第6770991号(P6770991)
権利者 株式会社城南製作所
発明の名称 ウインドレギュレータ  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  

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