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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1375912
異議申立番号 異議2020-700832  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-26 
確定日 2021-07-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6690393号発明「蓄電装置用外装材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6690393号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6690393号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成28年 5月 2日を出願日とする特願2016-92449号であって、令和 2年 4月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月28日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 2年10月26日付けで、特許異議申立人 岡林 茂(以下、「申立人1」という。)により、請求項1?9に係る本件特許に対して特許異議の申立て(以下、「異議申立1」という。)がなされ、同年同月28日付けで、特許異議申立人 岡本 正義(以下、「申立人2」という。)により、請求項1?9に係る本件特許に対して特許異議の申立て(以下、「異議申立2」という。)がなされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 3年 2月22日付け : 取消理由通知書
同年 4月26日 : 特許権者による意見書の提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許に係る願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9(以下、「本件請求項1」?「本件請求項9」という。)に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、
前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層であり、且つ、前記最内層は前記架橋層ではない、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記架橋層が、酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層である、請求項1記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記架橋層が、前記シーラント層中で前記腐食防止処理層に最も近い位置に配置された層であり、且つ、前記腐食防止処理層と接している、請求項1又は2記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、前記酸変性ポリオレフィン樹脂が無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂である、請求項1?3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記腐食防止処理層が、カチオン性ポリマーを含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
前記腐食防止処理層が、酸化セリウムと、該酸化セリウム100質量部に対して1?100質量部のリン酸又はリン酸塩と、カチオン性ポリマーとを含む、請求項1?5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項7】
前記腐食防止処理層が、前記金属箔層に化成処理を施して形成されており、カチオン性ポリマーを含む、請求項1?5のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項8】
少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し、前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなる、蓄電装置用外装材の製造方法であって、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層を、ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂と、架橋助剤としての(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物とを含む樹脂層に活性エネルギー線を照射して架橋させることで、架橋構造を有する架橋層として形成する工程を備える、蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂層が光開始剤としてのベンゾイル基を有する化合物又はアジド化合物を更に含む、請求項8記載の蓄電装置用外装材の製造方法。」

第3 申立理由の概要
1 申立人1の申立理由
申立人1は、証拠方法として、後記する甲第1?7号証(以下、「甲1-1」?「甲1-7」という。)を提出し、以下の理由により、本件請求項1?9に係る特許を取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1-1(進歩性)
本件発明1?5、7、8は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?1-5の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?1-6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明9は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?1-5、1-7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1?9に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由1-2(サポート要件)
本件発明1?9については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件請求項1?9に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。

<証拠方法>
甲1-1:特開2015-144122号公報
甲1-2:特開2001-102016号公報
甲1-3:特開2012-216364号公報
甲1-4:特開2015-88415号公報
甲1-5:特表2015-507828号公報
甲1-6:特開2015-144121号公報
甲1-7:国際公開第2010/084913号

2 申立人2の申立理由
申立人2は、証拠方法として、後記する甲第1?8号証(以下、「甲2-1」?「甲2-8」という。)を提出し、以下の理由により、本件請求項1?9に係る特許を取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由2-1(進歩性)
本件発明1?3、8、9は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?2-6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4、6は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明5、7は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?2-7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1?9に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2-2(進歩性)
本件発明1?8は、甲2-2に記載された発明及び甲2-1、2-7、2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明9は、甲2-2に記載された発明及び甲2-1、2-3、2-5、2-7、2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1?9に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

<証拠方法>
甲2-1:特開2002-319381号公報
甲2-2:特開2001-102016号公報(当審注:甲1-2と同一の公報である。)
甲2-3:特開平10-147720号公報
甲2-4:Satoshi SHUKUSHIMA et al. “Modification of radiation cross-linked polypropylene”、Radiation Physics and Chemistry、2001年、Vol.60、pp.489-493
甲2-4の2:甲2-4の抄訳
甲2-5:特開2003-238885号公報
甲2-6:特開昭57-172926号公報
甲2-7:特開2015-170462号公報
甲2-8:特開2016-66546号公報

第4 取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審は、上記1の申立理由1-1、1-2及び上記2の申立理由2-1、2-2について検討した結果、申立理由1-2(サポート要件)、申立理由2-2(進歩性)について採用せず、申立理由1-1(進歩性)、申立理由2-1(進歩性)について採用し、令和 3年 2月22日付け取消理由通知書において取消理由1(進歩性)及び取消理由2(進歩性)として通知した。

1 取消理由1(進歩性)
本件発明1?5、7、8は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲1-1に記載された発明、並びに、甲1-2及び甲1-6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明9は、甲1-1に記載された発明、並びに、甲1-2の記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(進歩性)
本件発明1?3、8は、甲2-1に記載された発明及び甲2-3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4、5、7は、甲2-1に記載された発明、並びに、甲2-3及び甲2-7の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲2-1に記載された発明、並びに、甲2-3及び甲1-6の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明9は、甲1-1に記載された発明、並びに、甲1-2の記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 各甲号証の記載及び記載された発明
本願の出願日より前に頒布された刊行物である甲1-1?1-7、2-1?2-8には、以下の事項及び発明が記載されている(下線は当審が付したものである。また、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1 甲1-1の記載事項及び甲1-1に記載された発明
(1)甲1-1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、単層構成または複層構成の腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、
腐食防止処理層は少なくとも第二の接着剤層側に設けられ、少なくとも第二の接着剤層に接する層にカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含み、かつ腐食防止処理層は、金属箔層に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を施して形成され、
第二の接着剤層は、前記第二の接着剤層に接する層に含まれる前記ポリマーと反応性を有する化合物を含む、リチウム電池用外装材。」

「【請求項6】
第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含む、請求項1?5のいずれか一項に記載のリチウム電池用外装材。」

「【0001】
本発明は、リチウム電池用外装材に関する。」

「【0003】
上記ラミネートフィルムの構成としては、アルミニウム箔等の金属箔層の一方の面に接着剤層を介してシーラント層(熱融着性フィルム)を積層し、他方の面に接着剤層を介して基材層(プラスチックフィルム)を積層する構成(基材層/接着剤層/金属箔層/接着剤層/シーラント層)が一般的である。」

「【0008】
また、特許文献1に記載の接着剤層は架橋構造を形成しているため、例えば電極タブとのシールや、電池製造時のデガッシングシール工程などの絶縁層として機能することが可能となる。
しかし、シーラント層と金属箔層とを十分に接着させることが困難であると、例えば冷間成型によって外装材をポケット状に成型した場合、成型時の応力がシーラント層と金属箔層との界面に集中して微細な浮きが発生することがあった。その結果、その微細な浮きを基点として絶縁性が低下することがあった。」

「【0014】
以下、本発明のリチウム電池用外装材の一例として、図1に示すリチウム電池用外装材(以下、単に「外装材」という。)10について説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。 本実施形態の外装材10は、図1に示すように、基材層11と、第一の接着剤層12と、金属箔層13と、腐食防止処理層14と、第二の接着剤層15と、シーラント層16とがこの順に積層された積層体から構成されている。 外装材10は、基材層11を最外層、シーラント層16を最内層として使用される。
【0015】
「基材層」
基材層11は、リチウム電池を製造する際のヒートシール工程における耐熱性の付与、成形加工や流通の際に起こり得るピンホールの発生の抑制等の役割を果たす。特に大型用途のリチウム電池の外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。」

「【0020】
「第一の接着剤層」
第一の接着剤層12は、基材層11と金属箔層13とを接着する層である。…」

「【0038】
「金属箔層」
金属箔層13は、水分が電池内に浸入を防止する水蒸気バリア性を有する。また、金属箔層13は、深絞り成形をするために延展性を有する。
金属箔層13としては、アルミニウム、…等の各種金属箔を使用することができ、重量(比重)、防湿性、加工性、コストの面から、アルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔からなる金属箔層を「アルミニウム箔層」ともいう。」

「【0041】
「腐食防止処理層」
腐食防止処理層14は、電解液あるいはフッ酸による金属箔層13の腐食を防止するために設けられる層である。
腐食防止処理層14は、少なくとも第二の接着剤層に接する層にカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含む。また、腐食防止処理層14は、金属箔層13に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を施して形成される。…
以下、脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理を総称して「腐食防止処理」という。」

「【0062】
腐食防止処理層14としては、以下の処理層(a)?(j)が挙げられる。
(a)腐食防止処理で形成した層上に、カチオン性ポリマーで形成した層が積層された複層。…」

「【0071】
「第二の接着剤層」
第二の接着剤層15は、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する層である。 第二の接着剤層15は、腐食防止処理層14の第二の接着剤層に接する層に含まれるポリマーと反応性を有する化合物(以下、「反応性化合物」ともいう。)を含む層である。例えば腐食防止処理層14が前記処理層(a)、(e)、(f)、(j)の場合、第二の接着剤層15はカチオン性ポリマーと反応性を有する化合物を含む。…
また、第二の接着剤層15は、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含んでいてもよい。
ここで、「反応性を有する」とは、カチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーと共有結合を形成することである。
【0072】
カチオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。 これら多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物としては、第一の接着剤層の説明において先に例示したイソシアネート化合物やオキサゾリン化合物、カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤として先に例示した多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。 これらの中でも、カチオン性ポリマーとの反応性が高く、架橋構造を形成しやすい点で、多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0073】
アニオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、グリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物、カルボジイミド化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
これらグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物、カルボジイミド化合物としては、第一の接着剤層の説明において先に例示したオキサゾリン化合物やカルボジイミド化合物、カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤として先に例示したグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。 これらの中でも、アニオン性ポリマーとの反応性が高い点で、グリシジル化合物が好ましい。
【0074】
第二の接着剤層15が後述する酸変性ポリオレフィン樹脂を含む場合、反応性化合物は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基とも反応性を有する(すなわち、酸性基と共有結合を形成する)ことが好ましい。これにより、腐食防止処理層14との接着性がより高まる。加えて、酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋構造となり、外装材10の耐溶剤性がより向上する。
反応性化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基に対し、等量から10倍等量であることが好ましい。等量以上であれば、反応性化合物が酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基と十分に反応する。一方、10倍等量を超えると、酸変性ポリオレフィン樹脂との架橋構造が不十分となり、上述した耐溶剤性などの物性の低下が懸念される。
【0075】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸性基をポリオレフィン樹脂に導入したものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基などが挙げられ、カルボキシ基が特に好ましい。
カルボキシ基をポリオレフィン樹脂に導入した酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂に対し、不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物、又は不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物のエステルをラジカル開始剤の存在下でグラフト変性してなる酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。以下、不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物と、不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物のエステルを合わせてグラフト化合物ということがある。
【0076】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などが挙げられる。
不飽和カルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
不飽和カルボン酸もしくはその酸無水物のエステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、フマール酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロ無水フタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチルなどが挙げられる。」

「【0080】
「シーラント層」
シーラント層16は、外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層である。
シーラント層16を構成する材質としては、例えばポリオレフィン樹脂、または酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。これらポリオレフィン樹脂および酸変性ポリオレフィン樹脂としては、第二の接着剤層15の説明において先に例示したものが挙げられる。
【0081】
シーラント層16は、単層フィルムであっても、複数の層を積層させた多層フィルムであってもよい。…」

「【図1】



(2)上記(1)の記載事項、特に【0038】、【0041】、【0062】、【0071】?【0076】、【0080】、図1の記載事項を総合勘案すると、甲1-1には、以下の二つの発明が記載されている。
「基材層11と、第一の接着剤層12と、金属箔層13と、金属箔13に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理による腐食防止処理で形成した層上にカチオン性ポリマーで形成された複層である腐食防止処理層14と、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15と、シーラント層16とがこの順に積層された積層体から構成されているリチウム電池用外装材10であって、
第二の接着剤層15は、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂と、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物を有する化合物などの架橋剤を含み、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂は架橋構造となり、
シーラント層16を構成する材質としては、ホモポリプロピレン樹脂である
リチウム電池用外装材。」(以下、「甲1-1発明1」という。)

「基材層11と、第一の接着剤層12と、金属箔層13と、腐食防止処理層14と、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15と、シーラント層16とがこの順に積層された積層体から構成されているリチウム電池用外装材10の製造方法であって、
第二の接着剤層15は、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂と、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物を有する化合物などの架橋剤を含み、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂は架橋構造となり、
シーラント層を構成する材質としては、ホモポリプロピレン樹脂である
リチウム電池用外装材10の製造方法。」(以下、「甲1-1発明2」という。)

2 甲1-2及び甲2-2の記載事項並びに甲2-2に記載された発明
(1)甲1-2及び甲2-2の記載事項
甲1-2及び甲2-2には、以下の記載がある。
「【請求項1】 金属層を含み且つ非水電解質媒体、正極及び負極を封入する袋体の内面に融着される非水電解質電池用リード線であって、
前記正極又は前記負極に電気的に接続されるリード導体と、
前記リード導体を被覆し、前記袋体の内面に融着される絶縁体とを備え、
前記絶縁体が架橋ポリオレフィン樹脂からなる架橋層を含む、ことを特徴とする非水電解質電池用リード線。
【請求項2】 前記絶縁体が、前記リード導体に接着され且つ熱可塑性ポリオレフィン樹脂からなる熱可塑層を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池用リード線。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器の電源等としての非水電解質電池に用いるリード線に係り、より詳細には、正極、負極、非水電解質媒体等を封入する袋体を備える非水電解質電池に用いるリード線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】電子機器の小型化の要求に合わせて、その電源として用いられる電池の小型化、軽量化の要求が強まっている。一方、電池に対する高エネルギー密度化、高エネルギー効率化も求められている。こうした要求を満たすため、主として合成樹脂等からなる袋体の内部に電極及び電解液等が封入された非水電解質電池(例えばLiイオン電池など)への期待が高まっている。」

「【0006】そこで、本発明は、非水電解質電池においてリード導体と袋体の金属層との絶縁性を十分に確保することができる非水電解質電池用リード線を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上述の目的を達成させるべく鋭意検討した結果、リード導体を絶縁体で被覆し、且つその絶縁体が、架橋したポリオレフィン系樹脂からなる架橋層を含むように構成することで、非水電解質電池においてリード導体と袋体の金属層との間のショートを十分に防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

「【0010】上記リード線においては、絶縁体が、リード導体に接着され且つ熱可塑性ポリオレフィン樹脂からなる熱可塑層を含むことが好ましい。この場合、熱可塑性ポリオレフィン樹脂は加熱によって接着性を有するため、リード導体と熱可塑層との密着性が確保される。
【0011】リード導体に対する熱可塑層の接着強度は4.9N/cm以上であることが好ましい。接着強度が4.9N/cm未満では、非水電解質電池に用いられる非水電解質媒体が非水電解液である場合に、その電解液が袋体から漏出する傾向がある。」

「【0015】また、熱可塑性ポリオレフィン樹脂がポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。」

「【0018】図1は、本発明のリード線の好適な実施形態を示す斜視図である。本発明のリード線は、例えば図1に示すような薄肉形の非水電解質電池10に組み込まれる。この非水電解質電池10は、非水の溶媒(例えば有機溶媒)に電解質(例えばリチウム化合物)が溶解された非水電解液(非水電解質媒体)を含む単一の電気化学セルを、周縁部が熱融着されてヒートシールされる部分12が形成された封入袋(袋体)14に封入することにより構成されている。この非水電解質電池10においては、第1のリード線18a、第2のリード線18bの一端が封入袋14の上部から上方に延び、外部との電気的な接続を可能にしている。なお、第1のリード線18a、第2のリード線18bはそれぞれ、第1のリード導体19a、第2のリード導体19bを有しており、それらの外周にはそれぞれ絶縁体21a,21bが被覆されている。
【0019】図2は、図1の非水電解質電池10のA-A線又はB-B線に沿った断面図である。図2に示すように、この封入袋14は、非水電解液20の浸透を抑制する観点から、例えばアルミニウムからなる金属箔又は金属層22をプラスチック層からなる層24?28が挟持することにより形成された多層フィルムからなっている。
【0020】より詳細に述べると、封入袋14は、非水電解液20と接触する上記多層フィルムの最も内側の層24の周縁部を熱融着することにより形成されている。ここで、最も内側の層24は、多層フィルムの内側層24の周縁部に形成されるヒートシール部分12における非水電解液20の漏出を防止する観点から、例えばマレイン酸変性ポリオレフィン(例えばマレイン酸変性低密度ポリエチレン)からなり、封入袋14の最も外側の層28は、金属層22を外傷から保護するために設けられ、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる。」

「【0025】絶縁体21aは、第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aを含み、この熱可塑層23aは、熱可塑性ポリオレフィン樹脂からなる。このような熱可塑性ポリオレフィン樹脂としては、第1のリード導体19aに接着可能なものが用いられ、このうち、加熱により溶融して第1のリード導体19aに対してより接着しやすくなる傾向があることから、ポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン、酸変性ポリプロピレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、アイオノマー等の反応性樹脂又はこれらの混合物が好ましい。ここで、封入袋14の最も内側の層24を構成する材料として耐熱性に優れるポリプロピレンが用いられる場合には、上記の熱可塑性ポリオレフィン樹脂のうちポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。この場合、熱可塑性ポリオレフィン樹脂としてポリエチレンやエチレン酢酸ビニル共重合体を用いる場合に比べて、絶縁体21a,21bと封入袋14の最も内面の層24との接着性を高め、非水電解質電池10に高い耐熱性を付与することが可能となる。なお、上記のアイオノマーとしては、ポリエチレン、ポリプレピレン等の単独重合体若しくはエチレンとメタクリル酸等の共重合体をNa、Mg、K等で架橋させたものが用いられる。」

「【0027】また、絶縁体21aは、熱可塑層23aの外側に架橋層25aを含む。架橋層25aは、架橋されたポリオレフィン樹脂からなる。ポリオレフィン樹脂は、封入袋14の最も内側の層24と熱融着可能であるものであればよいが、上述の熱可塑性ポリオレフィン樹脂と同じ樹脂が用いられることが好ましい。これは、上述の熱可塑性ポリオレフィン樹脂と異なる樹脂が用いられると、熱可塑層23aと架橋層25aとの間の接着力が低下する傾向があるからである。ここで、封入袋14の最も内側の層24を構成する材料として耐熱性に優れるポリプロピレンが用いられる場合には、上記のポリオレフィン樹脂としてポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンが用いられることが好ましい。この場合、上記ポリオレフィン樹脂としてポリエチレンやエチレン酢酸ビニル共重合体を用いる場合に比べ、絶縁体21a,21bと封入袋14の最も内面の層24との接着性、及び非水電解質電池10の耐熱性が一層向上することになる。ポリオレフィン樹脂を架橋する方法としては、電子線やガンマ線等の電離放射線の照射による架橋、パーオキサイド等による化学架橋、シラン架橋等が用いられる。上記ポリオレフィン樹脂を電離放射線によって架橋する場合、必要に応じてポリオレフィン樹脂に架橋助剤が添加される。この架橋助剤としては、例えばトリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が用いられる。架橋されたポリオレフィン樹脂は、その融点以上に加熱されても耐熱変形性に優れ、また、第1のリード線18aの絶縁体19aを封入袋14の内面と熱融着させるときでも、第1のリード導体18aと封入袋14の金属層22との間のショートを十分に防止することが可能となる。
【0028】また、架橋ポリオレフィン樹脂においては、そのゲル分率が20%?90%であることが好ましい。ゲル分率は、架橋の度合いを示す指標であり、キシレン等の溶媒に不溶になった架橋ポリオレフィン樹脂中のゲル(不溶になった高分子鎖)の割合をいう。ゲル分率が20%未満では、架橋の度合いが不十分であり、封入袋14の内面と架橋層25aとを熱融着するときに封入袋14の金属層22と第1のリード導体19aとがショートする傾向がある。一方、ゲル分率が90%を超えると、架橋の度合いが大きすぎ、封入袋14と架橋層25aとの間の接着性が悪くなり、非水電解液20が漏出する傾向がある。」

「【図1】



「【図2】



(2)甲2-2に記載された発明
上記(1)の記載事項、特に請求項1、【0001】、【0025】、【0027】、図1、2の記載事項を総合勘案すると、甲1-2には、以下の発明が記載されている。
「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24と金属層22とがこの順に積層された積層体を含む非水電解質電池用リード線であって、
熱可塑層23aは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンからなり、
架橋層25aは、架橋されたポリオレフィン樹脂からなり、トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が架橋助剤として添加される
非水電解質電池用リード線。」(以下、「甲2-2発明1」という。)
「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24と金属層22とがこの順に積層された積層体を含む非水電解質電池用リード線の製造方法であって、
熱可塑層23aは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンからなり、
架橋層25aは、架橋されたポリオレフィン樹脂からなり、トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が架橋助剤として添加される
非水電解質電池用リード線の製造方法。」(以下、「甲2-2発明2」という。)

3 甲1-3の記載事項
甲1-3には、以下の記載がある。

「【0026】
また、接着層には、酸変性ポリプロピレン樹脂だけでなく架橋剤も含まれる必要がある。そして、本発明では、架橋剤としてオキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方、すなわち両化合物の一方又は両者を使用する必要がある。
【0027】
オキサゾリン化合物は、前記酸変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基と架橋反応することで、電解液に対する耐性が著しく向上する。…」

「【0029】
一方、エポキシ化合物も、同じく前記酸変性ポリプロピレン樹脂のカルボキシル基と架橋反応することで、電解液に対する耐性が著しく向上する。…」

4 甲1-4の記載事項
甲1-4には、以下の記載がある。
「【0054】
接着剤層15に含まれるポリオレフィンは、イミド結合によって架橋されていることが好ましい。接着剤層15内のイミド結合による架橋は、第一のポリオレフィン間、第二のポリオレフィン間、第一のポリオレフィンと第二のポリオレフィンとの間など、少なくとも2種類以上の酸変性ポリオレフィン間を3次元的に架橋していることが好ましい。
イミド結合を形成する方法としては、イミド結合を有する化合物を重合で酸変性ポリオレフィンに重合させても、酸変性ポリオレフィンのカルボン酸と多官能イソシアネート化合物などを反応させ、酸変性ポリオレフィン間にイミド結合を形成してもよい。このように酸変性ポリオレフィン間をイミド結合で架橋することで、酸変性ポリオレフィンの分子量が増加するため、低分子量の未反応物が低下し、耐薬品性や耐熱性を向上させることができる。また、イミド結合による架橋は、弾性率(ヤング率)及び破断強度も向上するため、接着剤層15の膜強度を向上させることができる。」

5 甲1-5の記載事項
甲1-5には、以下の記載がある。
「【0033】
前記内層に架橋化された高分子層を含ませるために、架橋剤が混合された高分子、および架橋剤と混合されていない高分子をマルチダイ押出システムで押出した後、押出された内層にエネルギーを照射して作ることができる。前記架橋剤が混合された高分子において、架橋剤は特別な制限はないが、好ましくは、ペルオキシド系架橋剤を使用することができる。また、前記架橋剤は、混合された高分子総重量を基準として1?3重量%含まれることが好ましい。前記範囲を満足しない場合、架橋剤の含有量が1重量%未満であれば、架橋化がよく起こらず、3重量%を超えると、架橋剤添加量の増加による効果が無くなる。
【0034】
前記エネルギーの照射は、γ-ray、ε-beam、またはUVビームなどを照射する方法によって行うことができる。」

6 甲1-6の記載事項
甲1-6には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、リチウム電池用外装材に関する。」

「【0042】
本実施形態の腐食防止処理層14は、図1に示すように、第一の腐食防止処理層14aと、第二の腐食防止処理層14bの2層構成となっている。
第一の腐食防止処理層14aは金属箔層13と接する層であり、希土類元素酸化物とリン酸またはリン酸塩を含む。第二の腐食防止処理層14bは後述する第二の接着剤層15と接する層であり、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含む。
第二の腐食防止処理層14bは、カチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーを含むことが好ましい。
【0043】
希土類元素酸化物としては、例えば酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタン等が挙げられる。これらの中でも、電解液耐性の点から、酸化セリウムが好ましい。
第一の腐食防止処理層14aを形成させる際には、リン酸またはリン酸塩を分散安定化剤として用い、希土類元素酸化物を分散安定化させてゾルの状態にしたもの(希土類元素酸化物ゾル)を使用してもよい。
希土類元素酸化物ゾルは、液体分散媒中に希土類元素酸化物の微粒子(例えば平均粒径100nm以下の粒子)が分散したものである。希土類元素酸化物ゾルの液体分散媒としては、例えば水系溶媒、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等の各種溶媒が挙げられ、水系溶媒が好ましい。」

「【0046】
リン酸またはその塩の含有量は、希土類元素酸化物100質量部に対して1?100質量部であり、5?50質量部が好ましく、5?20質量部がより好ましい。リン酸またはその塩の含有量が上記下限値以上であれば、希土類元素酸化物ゾルの安定性が向上し、十分な機能を備えた外装材10が得られる。一方、リン酸またはその塩の含有量が上記上限値以下であれば、希土類元素酸化物ゾルの機能が高まり、電解液の浸食を防止する性能に優れた第一の腐食防止処理層14aが形成される。」

「【図1】



7 甲1-7の記載事項
甲1-7には、以下の記載がある。
「[0043] 本発明における活性エネルギー線硬化性化合物(D)は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線を照射することによって、硬化する化合物である。その硬化の機構は特に限定されず、ラジカル重合であってもカチオン重合であってもよい。ラジカル重合により硬化する活性エネルギー線硬化性化合物としてはエチレン性不飽和基を有する化合物が例示される。エチレン性不飽和基を有する化合物の具体例としては、(メタ)アクリレート、ビニルエーテルおよびN-ビニルピロリドン等のビニル基を有する化合物、ならびに(メタ)アリル化合物等が挙げられる。」

「[0069] 本発明の組成物を紫外線により硬化させる場合には、光重合開始剤(E)を配合することもできる。光重合開始剤(E)は、ラジカル重合やカチオン重合等、活性エネルギー線硬化性化合物(D)の硬化機構に応じて適宜選択することができる。
[0070] ラジカル重合を引き起こす光重合開始剤(E)としては、以下のものが例示される。
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;
アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよび2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン等のアセトフェノン;
2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリ-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノンおよび2-アミルアントラキノン等のアントラキノン;
2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンおよび2,4-ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;
アセトフェノンジメチルケタールおよびベンジルジメチルケタール等のケタール;
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシドあるいはビスアシルホスフィンオキシド;
ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びに
キサントン類。
[0071] カチオン重合を引き起こす光重合開始剤(E)としては、紫外線照射によりカチオン種を発生させる化合物であれば特に限定されないが、一般的にはオニウム塩がよく知られている。オニウム塩としてはルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨウドニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩などが挙げられる。具体的には、例えば、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨウドニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨウドニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ-4-メチルフェニルスルホニウム塩等が挙げられる。
[0072] これらの光重合開始剤(E)は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。」

8 甲2-1の記載事項及び甲2-1に記載の発明
(1)甲2-1には、以下の記載がある。
「【請求項1】電池本体を挿入し周縁部をヒートシールにより密封する電池の外装体を形成する包装材料であって、少なくとも基材層、接着層1、アルミニウム、化成処理層、接着層2、ヒートシール層が酸変性ポリオレフィン樹脂からなる多層シーラント層から構成される積層体であり、多層シーラント部のゲル分率が0.5%?80%となるように架橋処理されていることを特徴とする電池用包装材料。」

「【請求項3】多層シーラントがポリプロピレン、ポリエチレン、酸変性ポリオレフィンからなる3層シーラントであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した電池用包装材料。
【請求項4】多層シーラントが、ポリエチレン、酸変性ポリオレフィンからなる2層シーラントであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した電池用包装材料。
【請求項5】ヒートシール層が酸変性ポリプロピレンからなることを特徴とする請求項1?請求項4のいずれかに記載した電池用包装材料。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明の電池用包装材料は、防湿性、耐内容物性を有する、液体または固体有機電解質(高分子ポリマー電解質)を持つ電池、または燃料電池、コンデンサ、キャパシタ等に用いられ、外装体のバリア層とリード線との間にショートを起さない電池本体を包装する外装体およびそれを用いた電池に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明における電池とは、化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する素子を含む物、例えば、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、燃料電池等や、または、液体、固体セラミック、有機物等の誘電体を含む液体コンデンサ、固体コンデンサ、二重層コンデンサ等の電解型コンデンサを示す。…」

「【0004】
…本発明の目的は、電池包装において、酸変性ポリオレフィン系樹脂をヒートシール層とする外装体に電池本体を挿入してその周縁をヒートシールして密封する際に、ヒートシールの熱と圧力によって外装体のバリア層とリード線とがショートすることなく安定して密封可能な電池用包装材料を提供しようとするものである。」

「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の電池用包装材料は、少なくとも基材層、接着層、化成処理層1、アルミニウム、化成処理層2、多層シーラント層から構成される電池の外装体の前記シーラント層が、少なくともヒートシール層に酸変性ポリオレフィン層とする多層フィルムであり、前記シーラント層がゲル分率0.5%?80%になるように架橋されたものとする。該架橋されたシーラント層は耐熱性に優れ、外装体の密封シールの際にも架橋されたシーラント層部分において膜状を保持しており、前記アルミニウムと金属であるリード線とが接触してショートするおそれのない材質としたものである。…」

「【0010】本発明者らは、前記ショートSを防止することについて、鋭意研究の結果、電池の包装材料の積層体として基材層、バリア層およびシーラント層からなり、シーラント層を少なくともヒートシール面となる内層が酸変性ポリオレフィンからなる多層のシーラント層として、多層シーラント層のゲル分率が0.5%?80%となるように架橋処理されたものとすることによって、ヒートシールの際の熱と圧力によるバリア層とリード線とのショートを防止できることを見出し本発明を完成するに到った。
【0011】本発明の電池用包装材料は、図2(a)に示すように、少なくとも基材層11、接着層16、アルミニウム12、化成処理層15、接着層13d、多層シーラント層14から構成される積層体であり、また、後述する外装体がエンボスタイプの場合には、図2(b)に示すように、前記積層体が基材層11、接着層16、化成処理層15(1)、アルミニウム12、化成処理層15(2)、接着層13d、多層シーラント層14とすることが望ましい。以下の説明において、多層シーラントはそのヒートシール層を内層S3として、3層シーラントは外層S1、中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とし、2層シーラントは中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とする。従って、3層シーラントの場合、シーラントとしてのラミネート面は外層S1とし、2層シーラントの場合は中間層S2として説明する。
【0012】本発明における電池用包装材料のシーラントは、例えば、3層シーラントとしては、外層S1をポリプロピレン、中間層S2をポリエチレン、内層S3を酸変性ポリプロピレン(ヒートシール面)、あるいは、2層シーラントとしては、中間層S2をポリエチレン、内層S3を酸変性ポリプロピレン(ヒートシール面)のように、少なくともヒートシール層をポリプロピレンとするものであり、シーラント層のゲル分率を0.5%?80%となるようにを電子線照射等により架橋するものである。前記架橋は、製膜されたシーラント層を架橋してもよいし、基材層、バリア層及びシーラント層をすべてラミネートした積層体とした後に架橋してもよい。本発明にいうゲル分率は、架橋ポリオレフィンの電子線、紫外線、ガンマ線、熱架橋などによる架橋の程度を示す指標で、キシレン等の溶媒に不溶になった架橋ポリオレフィン樹脂中のゲル(不溶になった高分子鎖)の割合を表わすものである。
【0013】前記架橋について説明する。ポリエチレン樹脂は、電子線架橋することによって分子内で架橋が起こり、室温下では勿論融点以上の高温下での機械的強度、例えば引張り強度、突き刺し強度、圧縮強度が向上する。例えば、融点105℃のポリエチレンをゲル分率が20%および50%となるように架橋を施した樹脂物は、未架橋の樹脂物に比べ190℃、面圧1.0MPa,3秒での高温、圧縮ひずみ量が少なく、未架橋品が80%に対し、20%ゲル分率樹脂物60%、50%ゲル分率品で40%となる。しかし、通常の酸変性ポリプロピレン樹脂またはポリプロピレン樹脂は、電子線の照射等によって分解するが、これらの樹脂に、ポリエチレン成分、ブテン成分、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー成分、密度が900kg/m3の低結晶のエチレンとブテンの共重合体、非晶性のエチレンとプロピレンの共重合体、プロピレンα・オレフィン共重合体成分、ブタジエンゴム等を5%以上添加することにより、これらが電子線架橋することで分子内で架橋が起こり、室温下では勿論融点以上の高温下での機械的強度、例えば引張り強度、突き刺し強度、圧縮強度が向上する。
【0014】例えば、エチレン成分量が10%となるようにエチレンとブテンと共重合体からなる成分を10%添加された融点145℃の酸変性ポリプロピレンをゲル分率が20%および50%となるように架橋を施した樹脂物は、未架橋の樹脂物に比べ190℃、面圧1.0MPa,3秒での高温、圧縮ひずみ量が少なく、未架橋品が70%に対し、20%ゲル分率樹脂物50%、50%ゲル分率品で35%となる。また、同じ厚さで比較した場合でもこのように架橋された酸変性ポリエチレン、ポリエチレン、酸変性ポリプロピレンおよびポリプロピレンは、未架橋のものに比べヒートシール時にリード線4にある微少なエッジ(いわゆる、バリ)で発生するピンホールによるショートも防止する効果がある。」

「【0017】本発明の電池用包装材料のヒートシール層とする架橋された酸変性ポリプロピレンは、金属に対する接着性があり、金属に対して接着性を持たないヒートシール層における、密封シール時に、電池リード線部と外装体との間に、ヒートシール層とリード線との双方にヒートシール性を有するリード線用フィルムを介在させる必要がない。ただし、架橋により、ヒートシール適性が低下した場合には、低温シール性等を目的として、リード線用フィルムを用いてもよい。
【0018】前記リード線用フィルムを用いる場合、具体的には、前記架橋した酸変性ポリオレフィンとリード線の何れにも熱接着性を有する酸変性ポリオレフィンからなるフィルム等を用いる。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボングラフトポリオレフィン、金属架橋ポリエチレン、エチレンとアクリル酸またはメタクリル酸誘導体との共重合体物、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体物の単体、またはブレンド物等を用いることができる。
【0019】外装体における前記基材層11は、延伸ポリエステルまたはナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしては、ポリアミド樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。」

「【0022】前記バリア層12は、外部から電池の内部に特に水蒸気が浸入することを防止するための層で、バリア層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形性)を安定化し、かつ耐ピンホールをもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、または、無機化合物、例えば、酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルムなども挙げられるが、バリア層として好ましくは厚さが20?80μmのアルミニウムとする。…」

「【0024】本発明者らは、電池用包装材料のバリア層12であるアルミニウムの表、裏面に化成処理を施すことによって、前記包装材料として満足できる積層体とすることができた。前記化成処理とは、具体的にはリン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによってエンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止と、電池の電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、エンボス成形時、ヒートシール時の基材層11とアルミニウム12とのデラミネーション防止、電解質と水分との反応により生成するフッ化水素によるアルミニウム内面側でのデラミネーション防止効果が得られた。…」

「【0026】本発明の電池用包装材料のシーラント層は、前述のようにヒートシール層として酸変性ポリオレフィン層を含む多層シーラントである。架橋による分解を避けるために、他のエチレン成分を含む共重合体をブレンドして製膜することもできる。その共重合体とは、密度が900kg/m3の低結晶のエチレンとブテンとの共重合体、非晶性のエチレンとプロピレンとの共重合体、プロピレンとα・オレフィンとの共重合体、エチレンとプロピレンとブテンとの共重合体、ブタジエン、ポリエチレン成分等である。多層シーラント層に用いられるポリプロピレン樹脂としては、ホモタイプポリプロピレン、ランダムタイプポリプロピレン、ブロックタイブポリプロピレンである。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンである。また、酸変性ポリオレフィンとは、不飽和カルボン酸がグラフトされたポリプロピレンならびにポリエチレンである。その他、エチレンとメタクリル酸あるいはアクリル酸との誘導体との共重合体、金属イオン結合ポリエチレン等を用いることもできる。」

「【0032】
【実施例】本発明の電池用包装材料ついて、実施例によりさらに具体的に説明する。
(1)化成処理層
外装体のバリア層に施した化成処理は、実施例、比較例ともに、処理液として、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を、ロールコート法により、塗布し、皮膜温度が180℃以上となる条件において焼き付けた。クロムの塗布量は、1mg/m^(2) (乾燥重量)である。
(2)外装体のタイプ
以下の、実施例および比較例において、パウチタイプの外装体としては、巾30mm巾、長さ50mm(いずれも内寸)とし、…プレス成形して成形性の評価をした。…さらに、パウチタイプは、実施例、比較例ともに、いずれも、基材層を12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムとし、バリア層を、片面に化成処理層を設けた20μmのアルミニウムとし、シーラントは、前記化成処理層の面にラミネートした。…
(4)シーラント層および接着樹脂層
外装体のシーラント層は、外層(S1)、中間層(S2)、内層(S3、ヒートシール層)の3層からなる場合と、中間層(S2)、内層(S3、ヒートシール層)からなる2層の場合とを例示した。従って、3層シーラントの場合は、化成処理層と接着する面はS1となり、2層シーラントの場合は、化成処理層と接着する面はS2となる。シーラント層および接着樹脂層に用いた酸変性ポリエチレンは、不飽和カルボン酸グラフトポリエチレンであり、また、酸変性ポリプロピレンは不飽和カルボン酸グラフトランダムプロピレン(エチレン成分量4%)である。
(5)架橋処理
また、架橋処理は電子線照射法により行った。所定のゲル分率になるように100から400KGyの間で処理した。なお、ゲル分率はキシレン(100℃)で8時間加熱し、不溶化物量の割合とした
(6)ヒートシール条件
リード線部分のヒートシール条件は、実施例、比較例のいずれも次の条件で行い、シール後のショートの有無を確認した。
ヒートシール条件 200℃、2.0MPa、5.0sec
[実施例1]外装体をパウチタイブとし、化成処理層の面に、シーラント層をドライラミネートにより積層した。得られた積層体を用いてパウチを形成した。シーラント層の構成は、(S1)ポリプロピレン(以下PP)10μm/(S2)線状低密度ポリエチレン(以下、LLDPE)10μm/(S3)酸変性ポリプロピレン(以下PPa)10μmの共押出しフィルムをゲル分率が0.6%となるように架橋した。電池本体を、パウチに挿入しヒートシールにより密封シールして検体実施例1を得た。
[実施例2]外装体をパウチタイプとし、化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン(以下PEa)15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートした。得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した。架橋した積層体を用いてパウチを形成した。シーラント層の構成は、(S2)LLDPE20μm/(S3)PPa10μmの共押出しフィルムとした。電池本体を、パウチに挿入しヒートシールにより密封シールして検体実施例2を得た。」

「【0035】
【発明の効果】本発明の電池用包装材料のシーラント層を少なくとも、ヒートシール層を酸変性ポリオレフィンとした多層とし、包装材料としてラミネートにより得られた積層体を、前記シーラント層のゲル分率が0.5%?80%となるように架橋させることによって、外装体のパウチまたはエンボス成形部に電池本体を収納しその周縁をヒートシールして密封する際、架橋されたシーラント層が絶縁層として機能するため、外装体のバリア層とリード線とが接触(ショート)するおそれがなくなった。また、外装体のアルミニウムの両面に施した化成処理によって、エンボス成形時、及びヒートシール時の基材層とアルミニウムとの間でのデラミネーションの発生を防止することができ、また、シーラント層を、ドライラミネート法、熱ラミネート法、サンドイッチラミネート法または共押出ラミネート法により形成した場合に、積層体の形成時の加熱、または積層体形成後の加熱によって、電池の電解質と水分との反応により発生するフッ化水素によるアルミニウム面の腐食を防止できることにより、アルミニウムとの内容物側の層とのデラミネーションをも防止できる外装体である。」

「【図1】



「【図2】



(2)上記(1)の記載事項、特に【0032】の冒頭、(2)、(4)、(5)及び[実施例2]の記載事項を総合勘案すると、甲2-1には、以下の二つの発明が記載されている。
「基材層を12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムとし、バリア層を、片面に化成処理層を設けた20μmのアルミニウムとし、シーラントは、前記化成処理層の面にラミネートし、
化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし、電池本体を、パウチに挿入しヒートシールにより密封シールし、
酸変性ポリプロピレンは不飽和カルボン酸グラフトランダムプロピレン(エチレン成分量4%)であり、
架橋処理は電子線照射法により行った
電池用包装材料。」(以下、「甲2-1発明1」という。)

「基材層を12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムとし、バリア層を、片面に化成処理層を設けた20μmのアルミニウムとし、シーラントは、前記化成処理層の面にラミネートし、
化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし、電池本体を、パウチに挿入しヒートシールにより密封シールし、
架橋処理は電子線照射法により行った
電池用包装材料の製造方法。」(以下、「甲2-1発明2」という。)

9 甲2-3の記載事項
甲2-3には以下の記載がある。
「【請求項1】 数平均分子量が10,000?300,000の範囲にある融点90℃以上の結晶性ポリマー(A)100重量部に対して、活性エネルギー線照射により該結晶性ポリマー(A)の分子鎖を拘束できる架橋性モノマー(B)0.1?30重量部を配合してなる架橋性樹脂組成物。」

「【0002】
【従来の技術】結晶性ポリマーに、活性エネルギー線を照射し、分子間架橋を行う技術は公知であり、ポリエチレンに活性エネルギー線を照射し分子間架橋することにより電線やケーブルの被覆に実用化されている。また結晶性ポリマーを架橋させることにより、形状記憶性が発現することも公知である。ポリエチレンのように、活性エネルギー線によって架橋し易くポリマー鎖の切断や臭気の発生が少ないポリマーに対しては、直接、活性エネルギー線を照射しても問題は少ないが、ポリプロピレンのようにポリマー鎖の切断が起こり易い樹脂に対しては、活性エネルギー線を直接照射することによって架橋成形体を得ることは困難であった。また、ポリエチレンに対しても、より少ないエネルギーによって、架橋を起こす方が、効率的であることは明らかであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、低エネルギーの活性エネルギー線を直接照射することによってポリマー鎖の切断を抑え、溶融時のゴム弾性や形状記憶性を有する架橋成形体を得ること、および、上記架橋成形体の効率的な製造方法を確立することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、数平均分子量が10,000?300,000の範囲にある融点90℃以上の結晶性ポリマー(A)の分子鎖を、特定の架橋性モノマー(B)に活性エネルギー線を照射して形成される架橋構造によって拘束することにより、耐溶媒性が向上し、溶融時のゴム弾性や形状記憶性を有する架橋成形体が得られること、およびこれらのシート、フィルム、繊維、トレイ、ボトル、袋等の架橋成形体の製造方法を見い出し、本発明を完成するに至った。」

「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の架橋性樹脂組成物に用いる融点(Tm)90℃以上の結晶性ポリマー(A)は特に限定を受けなく、公知の結晶性ポリマーのほとんどすべてを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性共重合ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸、ポリ酪酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルまたはそれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート等の芳香族ポリエステルまたはそれらの共重合体、ポリオキシメチレン等の結晶性ポリエーテル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド樹脂またはこれらの樹脂の混合物が挙げられる。また、本発明で使用する結晶性ポリマー(A)が生分解性を有する脂肪族ポリエステルである場合には、使用後に自然環境中で容易に分解され、環境保全の点で好ましい。この様な生分解性を有する脂肪族ポリエステルとして、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコールと、無水フタル酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸その他の脂肪族ジカルボン酸等の多塩基酸との重縮合物(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等);ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリバレロラクトン、ポリブチロラクトン等のポリラクトン;ポリ乳酸等のヒドロキシカルボン酸の自己縮合物;ラクトンやグリコリドを含むラクチド等との共重合体等が例示できる。また、上記樹脂を主体とする共重合体や変性物の他、上記樹脂を50重量%以上含有する他の非晶性ポリマーおよび/または他の結晶性ポリマーとの混合物等も使用できる。」

「【0010】架橋性モノマー(B)としては、多官能アクリル系モノマー、多官能アリル系モノマー、およびこれらの混合モノマー等が挙げられる。更に具体例を挙げると、例えば、多官能アクリル系モノマーとしては、…ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、…トリメチロールプロパントリアクリレート、…が一般的である。…
【0011】多官能アリル系モノマーとしては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートおよびこれらの混合物等がある。
【0012】架橋性モノマー(B)には、必要に応じて開始剤、触媒、安定剤等を添加することができる。これらの開始剤、触媒、安定剤等は架橋性モノマー(B)に添加してもよいし、結晶性ポリマー(A)に添加してもよいし、活性エネルギー線照射によって架橋できれば特に制限を受けない。例えば活性エネルギー線として、紫外線を用いる場合は、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサンソン系等の光開始剤や光開始助剤、鋭感剤等が挙げられる。」

10 甲2-4の記載事項
甲2-4には、以下の記載がある。また、申立人2による抄訳(甲2-4の2)を付記する。
“?In order to improve the heat-deformation property,? we searched for the most efficient multi-functional? monomer for cross-linking.”(第491頁右欄第1?3行)
訳「熱変形特性を向上させるために、架橋のために最も有効な多官能性モノマーを調査した。」

“Though the gel fraction of the sample including TMPTMA is almost same as that of the sample including TAIC at higher dose than 200kGy, the deformation retention of the sample including TMPTMA is much higher than that of the sample including TAIC. Contrary to the expectation, TMPTMA is the most efficient multi-functional monomer for PP cross-linking.
It was found that TAIC was more efficient than TMPTMA in case of polyethylene cross-linking, while TMPTMA was more efficient than TAIC in case of polyurethane cross-linking. Both of polypropylene and polyurethane are difficult to cross-link. Therefore, it seems that TMPTMA is more efficient than TAIC for cross-linking of the polymer that is difficult to cross-link.
We have selected TMPTMA as the most efficient multi-functional monomer.”(第492頁左欄第5-21行)
訳「200kGy以上の高線量照射でのTMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を含むサンプルのゲル分率とほぼ同じであったが、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)を含むサンプルの耐変形性は、TAICを含むサンプルに比べ高かった。予想に反し、TMPATMAは、PPの架橋に対する多官能性モノマーとしてより有効であった。
ポリエチレンの架橋の際には、TMPTMAより、TAICが有効であり、一方、ポリウレタンの架橋の際には、TAICより、TMPTMAが有効であることが分かった。ポリプロピレンとポリウレタンはともに架橋しにくい化合物である。このため、架橋しにくいポリマーの架橋のためには、TAICよりTMPTMAが有効であると考えられる。
最も有効な多官能性モノマーとして、TMPTMAを選択した。」

“Moreover, the tensile strength and elongation of polypropylene including 20 phr of TMPTMA remained high after irradiation, except 360kGy sample.”(第492頁右欄第4-6行)
訳「さらに、20phrのTMPTMAを含むポリプロピレンの引張強度および伸びは、360kGyのサンプルを除いて、放射線照射後も高い値を維持した。」

11 甲2-5の記載事項
甲2-5には、以下の記載がある。
「【請求項1】 ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体でグラフト変性され、変性ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が、0.1?90重量%含有され、かつ重量平均分子量が15,000?200,000である変性ポリオレフィン樹脂(A)を0.1?90重量%含有することを特徴とする紫外線硬化型コーティング組成物。
【請求項2】 さらに、光硬化性化合物(B)、光重合開始剤(C)を含有する請求項1記載の紫外線硬化型コーティング組成物。」

「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ポリオレフィン系基材に対して良好な付着性を有する紫外線硬化型コーティング組成物を提供することである。」

「【0014】本発明に用いる変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるポリオレフィン樹脂とは、エチレン、プロピレン、…などの単独または共重合体である。」

「【0016】不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体としては、マレイン酸、…等の不飽和カルボン酸あるいはこれらの誘導体を用いる。誘導体としては、例えば、不飽和カルボン酸の酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、エステルなどである。これらは、単独でも複数併用することもできる。」

「【0026】紫外線硬化性化合物(B)としては、(メタ)アクリル化合物やエポキシ化合物が使用される。
【0027】(B)として用いる(メタ)アクリル化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個含む化合物である。例えば、…トリメチロールプロパントリアクリレート、…ペンタエリスリトールトリアクリレート、…等の(メタ)アクリレートモノマー…が挙げられる。」

「【0029】光重合開始剤(C)としては、紫外線硬化性化合物(B)が(メタ)アクリル化合物の場合には、紫外線照射により分解してラジカルを生じ、ラジカル重合の開始反応を引き起こす化合物が好ましい。例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン、…等が挙げられる。…」

12 甲2-6の記載事項
甲2-6には、以下の記載がある。
「2. 特許請求の範囲
(1)ポリオレフイン100重量部に対して、分子中にアクリロイロキシ基、またはメタクリロイロキシ基を少くとも3個有する化合物を0.1?20.0重量部とフエノール系誘導体0.55?5.0重量部配合した組成物を用いたポリオレフインの融点以上の温度で加熱成形し、しかるのち、この成形体に電離性放射線を照射することを特徴とする架橋ポリオレフイン成形体の製造方法。
(2)ポリオレフインが、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ4-メチルベンテン-1の群から選ばれたいずれかのポリマーである特許請求の範囲第1項記載の架橋ポリオレフイン成形体の製造方法。
(3)分子中にアクリロイロキシ基またはメタクリロイロキシ基を少くとも3個有する化合物が、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレートの群から選ばれたいずれかの化合物である特許請求の範囲第1項記載の架橋ポリオレフイン成形体の製造方法。」

「ポリプロピレンなどのポリエチレン以外のポリオレフィンポリマー100重量部に対して、分子中にアクリロイロキシ基、またはメタクリロイロキシ基を少くとも3個有する化合物を0.1?20.0重量部およびフェノール系誘導体を0.55?5.0重量部と多量に配合し、この組成物を用いたポリオレフィンの融点以上の温度で加熱成形し、しかるのち、得られた成形体に電離性放射線を照射することにより高いゲル化度と500%以上の高い伸び特性を併せ持ち、樹脂の劣化の少ない架橋ポリオレフィン成形体が得られることを見出し、本発明を確立したものである。」(第2頁右上欄第13行?左下欄第4行)

「ポリプロピレンなどのポリマーが、分子中にアクリロイロキシ基またはメタクリロイロキシ基を少くとも3個有する化合物およびフエノール系誘導体の存在下で電離放射線の照射を受けると、ポリマーにアクリロイロキシ基またはメタクリロイロキシ基を有する化合物が反応し、架橋を著しく促進するため、電離性放射線の少ない照射線量でも高い架橋度が達成される。」(第2頁左下欄第8?15行)

「この発明における電離性放射線とは、電子線、中性子線、α線、γ線、X線、紫外線等を意味し」(第3頁右下欄第1?3行)

「この発明は以上記載したようにポリオレフインに対して分子中にアクリロイロキシ基またはメタクリロイロキシ基を、少なくとも3個有する化合物とフエノール系誘導体とを存在させ、電離性放射線照射を行うことにより架橋せしめるもので、後記実施例からも明らかなように、得られる架橋ポリオレフイン成形体の特性を著しく改善しえたものであり、その工業的価値は非常に大である。」(第3頁右下欄第7?14行)

13 甲2-7の記載事項
甲2-7には、以下の記載がある。
「【請求項1】
基材層と、第一の接着剤層と、金属箔層と、腐食防止処理層と、第二の接着剤層と、シーラント層とが、この順に積層した積層体から構成され、
腐食防止処理層は、金属箔層に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を施して形成され、
第二の接着剤層は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなり、第二の接着剤層の赤外吸収スペクトルにおいて、CH3のC-H変角振動に由来する吸収(X)と、ビューレット結合のN-H変角振動に由来する吸収(Y)との比(Y/X)が0.3以下である、リチウム電池用外装材。」

「【0003】
上記ラミネートフィルムの構成としては、アルミニウム箔等の金属箔層の一方の面に接着剤層を介してシーラント層(熱融着性フィルム)を積層し、他方の面に接着剤層を介して基材層(プラスチックフィルム)を積層する構成(基材層/接着剤層/金属箔層/接着剤層/シーラント層)が一般的である。」

「【0014】
以下、本発明のリチウム電池用外装材の一例として、図1に示すリチウム電池用外装材(以下、単に「外装材」という。)10について説明する。
本実施形態の外装材10は、図1に示すように、基材層11と、第一の接着剤層12と、1層構成の腐食防止処理層13と、金属箔層14と、2層構成の腐食防止処理層15と、第二の接着剤層16と、シーラント層17とがこの順に積層された積層体から構成されている。
外装材10は、基材層11を最外層、シーラント層17を最内層として使用される。」

「【0016】
基材層11としては、絶縁性を有する樹脂により形成された樹脂フィルムが好ましい。 該樹脂フィルムとしては、例えばポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルムが挙げられる。…」

「【0037】
「腐食防止処理層」
腐食防止処理層13、15は、電解液あるいはフッ酸による金属箔層14の腐食を防止するために設けられる層である。
なお、本発明において第一の接着剤層12と金属箔層14との間の腐食防止処理層13を「外層側腐食防止処理層13」といい、金属箔層14と第二の接着剤層16との間の腐食防止処理層15を「内層側腐食防止処理層15」ともいう。
【0038】
内層側腐食防止処理層15は、金属箔層14に…、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理を施して形成される。内層側腐食防止処理層15は、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーを含むことが好ましく、外装材10の耐電解液性や耐フッ酸性がより向上する観点から、内層側腐食防止処理層15はカチオン性ポリマーを含むことが特に好ましい。…」

「【0040】…化成処理は、浸漬型、塗工型が挙げられる。浸漬型の化成処理としては、例えば…セリウム処理…からなる各種化成処理が挙げられる。…
【0041】
塗工型の化成処理に用いられるコーティング剤は、3価クロムを含有する。 塗工型の化成処理に用いられるコーティング剤には、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーが含まれていてもよい。この場合、第一の内層側腐食防止処理層15aと第二の内層側腐食防止処理層15bの両方にポリマーが含まれることになる。」

「【0062】
外層側腐食防止処理層13は、金属箔層14の腐食を防止できるものであれば特に制限されないが、例えば希土類元素酸化物と、該希土類元素酸化物100質量部に対して1?100質量部のリン酸またはリン酸塩とを含むことが好ましい。さらに、カチオン性ポリマーやアニオン性ポリマーを含んでいてもよく、これらポリマーは架橋剤により架橋構造を形成していてもよい。」

「【0063】
「第二の接着剤層」
第二の接着剤層16は、内層側腐食防止処理層15が形成された金属箔層14とシーラント層17とを接着する層である。
本実施形態の第二の接着剤層16は、酸変性ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネート化合物とを含む接着剤組成物からなる層である。」

「【0070】
粘着剤組成物に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸性基をポリオレフィン樹脂に導入したものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基などが挙げられ、カルボキシ基が特に好ましい。
カルボキシ基をポリオレフィン樹脂に導入した酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル、不飽和カルボン酸の酸無水物のエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を、ラジカル開始剤の存在下でグラフトさせた酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。…
【0071】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-エチレン-αオレフィン共重合体(多元共重合体)などが挙げられる。これらの中でも、ホモポリプロピレン(プロピレンの単独重合体)、プロピレン-αオレフィン共重合体が好ましい。…不飽和カルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、…などが挙げられる。…」

「【0080】
「シーラント層」 シーラント層17は、外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層である。 シーラント層17を構成する材質としては、例えばポリオレフィン樹脂、または酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。これらポリオレフィン樹脂および酸変性ポリオレフィン樹脂としては、第二の接着剤層16の説明において先に例示したものが挙げられる。」

「【図1】



14 甲2-8の記載事項
甲2-8には、以下の記載がある。
「【請求項1】
少なくとも、樹脂コーティング層、基材層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記樹脂コーティング層は、JIS R 1611の規定に基づき測定された熱伝導率が20?5000W/K・mの無機フィラーを含んでいる、電池用包装材料。」

「【0001】
本発明は、耐酸性及び放熱性に優れる電池用包装材料に関する。」

「【0014】
また、本発明の電池用包装材料は、図1に示すように、基材層1と金属層3との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層2が設けられていてもよい。また、図2に示すように、金属層3とシーラント層4との間に、これらの接着性を高める目的で、必要に応じて接着層5が設けられていてもよい。」

「【0031】
[基材層1]
電池用包装材料において、基材層1は、電池用包装材料の基材となる層である。基材層1を形成する素材については、絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されない。基材層1を形成する素材としては、例えば、ポリエステル、…が挙げられる。
【0032】
ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、…等が挙げられる。」

「【0044】
[金属層3]
電池用包装材料において、金属層3は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止するためのバリア層として機能する層である。金属層3を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタンなどが挙げられ、好ましくはアルミニウムが挙げられる。…」

「【0046】
また、金属層3は、接着の安定化、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも一方の面、好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、金属層の表面に耐酸性皮膜を形成する処理をいう。…」

「【0052】
また、金属層3に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし、150℃以上で焼付け処理を行うことにより、金属層3の表面に耐食処理層を形成する方法が挙げられる。また、耐食処理層の上には、カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層をさらに形成してもよい。ここで、カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフト重合させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンまたはその誘導体、アミノフェノールなどが挙げられる。これらのカチオン性ポリマーとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの架橋剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。」

「【0061】
シーラント層4は、熱可塑性樹脂により形成されていることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンなどが挙げられる。」

「【0064】
カルボン酸変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンをカルボン酸で変性したポリマーである。変性に使用されるカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。」

第6 取消理由についての当審の判断
当審は、特許権者が提出した令和 3年 4月26日付け意見書を踏まえて検討した結果、上記第4に概要を示した取消理由1、同2はいずれも、本件請求項1?9に係る特許の取消理由に該当しないと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 取消理由1(進歩性)(申立理由1-1に対応)について
(1)本件発明1?7について
ア 本件発明1と甲1-1発明1とを対比する。
(ア)甲1-1発明1の「基材層11」、「第一の接着剤層12」、「金属箔層13」、「腐食防止処理層14」及び「リチウム電池用外装材10」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「接着剤層」、「金属箔層」、「腐食防止処理層」及び「蓄電装置用外装材」に相当する。

(イ)甲1-1発明1の「腐食防止処理層が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着層15」は、「金属箔層13」と「シーラント層16」とを接着するものであり、本件発明1の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」の「シーラント層と金属箔層との密着を高める」(本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)【0010】)機能と同様の機能を有している。また、甲1-1発明1の「第二の接着層15」は、本件発明1と同様に、架橋構造を有しているものである。さらに、及び、甲1-1発明1の「第二の接着層15」は、「腐食防止処理層14」と「シーラント層16」との間に積層されているものであって、本件発明1の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」と同じ積層位置にある。
よって、甲1-1発明1における「腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着層15」は、本件発明1における「シーラント」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する。
そして、甲1-1発明1の「シーラント層16」は、その積層位置から本件発明1の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層」に相当する。
してみると、甲1-1発明1の「腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15」と「シーラント層16」を合わせたものは、本件発明1の「シーラント層」に相当する。

(ウ)甲1-1発明1の「基材層11と、第一の接着剤層12と、金属箔層13と、金属箔13に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理よりなる群から選ばれる少なくとも1種の処理による腐食防止処理で形成した層上にカチオン性ポリマーで形成された複層である腐食防止処理層14と、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15と、シーラント層16とがこの順に積層された積層体から構成されている」は、本件発明1の「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する」及び「前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており」に相当する。

(エ)甲1-1発明1の「第二の接着剤層15は、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂と」、「架橋剤を含み」、「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂は架橋構造となり」、「シーラント層を構成する材質としては、ポリオレフィン樹脂である」は、本件発明1の「前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり」、「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が」、「架橋された架橋構造を有する架橋層であり、且つ、前記最内層は前記架橋層ではない」に相当する。

イ 以上から、本件発明1と甲1-1発明1を対比すると、以下の点で一致し、相違点1で相違する。

<一致点>
「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、
前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋構造を有する架橋層であり、且つ、前記最内層は前記架橋層ではない、蓄電装置用外装材。」

<相違点1>
本件発明1では、「前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋され」ているのに対し、甲1-1発明1の「第二の接着剤層」は、「多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、グリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物などの架橋剤を含」むものである点。

ウ 相違点1についての判断
(ア)相違点1に関連し、上記第5 2(1)で摘記した甲1-2には、「非水電解質電池に用いるリード線」(【0001】)ないしはその製造方法について記載されている。
そして、甲1-2の【0006】には、甲1-2の記載事項における課題として「本発明は、非水電解質電池においてリード導体と袋体の金属層との絶縁性を十分に確保することができる非水電解質電池用リード線を提供すること」が記載され、同【0025】、【0027】、図2には、「絶縁体21a」は、「酸変性ポリプロピレン(例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン)」等からなる「熱可塑層23a」と「熱可塑層23aの外側に架橋層25aを含」み、「架橋層25aは、架橋されたポリオレフィン樹脂からな」り、「ポリオレフィン樹脂は、封入袋14の最も内側の層24と熱融着可能」であって、「ポリオレフィン樹脂を電離放射線によって架橋する場合、必要に応じてポリオレフィン樹脂に架橋助剤が添加され」、「この架橋助剤としては、例えばトリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が用いられる」旨が記載されている。

(イ)しかしながら、甲1-1発明1は、「リチウム用外装材」に関するものであるのに対して、甲1-2の記載事項は、「非水電解質電池に用いるリード線」(甲1-2の【0001】)に関するものであり、甲1-1発明1と甲1-2の記載事項とは技術分野が異なる。
また、甲1-1発明1の課題は、「短いエージング時間でも高いラミネート強度を発現し、耐電解液性に優れ、かつ冷間成型を行っても絶縁性を確保できるリチウム電池用外装材の提供」(甲1-1の【0010】)であるのに対して、甲1-2の記載事項における課題は、「非水電解質電池においてリード導体と袋体の金属層との絶縁性を十分に確保することができる非水電解質電池用リード線を提供すること」(甲1-2の【0006】)であり、甲1-1発明1の課題と甲1-2の記載事項における課題は異なる。

(ウ)甲1-1発明1において、「第二の接着剤層15」は、「腐食防止処理層14」が形成された「金属箔層13」と「シーラント層16」とを接着する層であるところ、甲1-2に記載の「架橋助剤」として「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が用い」られる「架橋層25a」は、「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23a」と「封入袋14の最も内面の層24」とを接着する層であり(【0025】、【0027】、図2)、甲1-1発明1の「第二の接着剤層15」と甲1-2の記載事項における「架橋造25a」とは、作用、機能、及び、配置場所がいずれも異なっている。

(エ)そうすると、甲1-1発明1と甲1-2の記載事項とは、技術、課題、作用、機能、及び、用いられる場所が異なっており、甲1-2に記載の「架橋層25a」に「架橋助剤」として含有される「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」を甲1-1発明の「第二の接着剤層15」の「架橋助剤」として用いることの動機付けはない。
また、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基」である架橋助剤について記載のある甲2-3?2-6には、甲1-1発明1と同様の技術、課題、作用、機能、及び、用いられる場所について記載されているとも認められず、甲1-1発明1に、これら甲2-3?2-6の記載事項を参酌して、架橋助剤を「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基」とする動機付けもない。

(オ)さらに、本件発明1によれば、「良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる蓄電装置用外装材」等を提供することができるが(本件明細書の【0022】)、このような効果について甲1-1?1-7、2-1?2-8には何ら記載も示唆もなく、これらから本件発明1の効果を予測することは困難である。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1-1発明1及び甲1-2?1-7、2-1?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明2?7は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、少なくとも上記相違点1において甲1-1発明1と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明2?7も、甲1-1発明1及び甲1-2?1-7、2-1?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明8、9について
ア 本件発明8と甲1-1発明2とを対比する。
(ア)甲1-1発明2の「基材層11」、「第一の接着剤層12」、「金属箔層13」、「腐食防止処理層14」及び「リチウム電池用外装材10の製造方法」は、それぞれ本件発明8の「基材層」、「接着剤層」、「金属箔層」、「腐食防止処理層」及び「蓄電装置用外装材の製造方法」に相当する。

(イ)上記(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、甲1-1発明2の「腐食防止処理層が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着層15」は、本件発明8の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する。
そして、甲1-1発明2の「シーラント層16」は、その積層位置からみて、本件発明8の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層」に相当する。
してみると、甲1-1発明2の「腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15」と「シーラント層16」を合わせたものは、本件発明8の「シーラント層」に相当する。

(ウ)甲1-1発明2の「基材層11と、第一の接着剤層12と、金属箔層13と、腐食防止処理層14と、腐食防止処理層14が形成された金属箔層13とシーラント層16とを接着する第二の接着剤層15と、シーラント層16とがこの順に積層された積層体から構成されている」は、本件発明8の「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し」及び「前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており」にも相当する。

(エ)甲1-1発明2の「第二の接着剤層15は、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂と」、「を含み」、「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂は架橋構造となり」、「シーラント層を構成する材質としては、ポリオレフィン樹脂である」ことは、本件発明8の「前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなる」ことに相当する。
また、甲1-1発明2の「第二の接着剤層15は、無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂と」、「架橋剤を含み」、「無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂は架橋構造となり」、「シーラント層を構成する材質としては、ポリオレフィン樹脂である」ことは、本件発明8の「シーラント層」を構成する「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層を」、「酸変性ポリオレフィン樹脂と、架橋助剤」「とを含む樹脂層」を「架橋させることで、架橋構造を有する架橋層」であることに相当する。そして、甲1-1発明2は「架橋構造を有する架橋層」を備えていることから、本件発明8の「架橋構造を有する架橋層として形成する工程」を備えているものと認められる。

イ 本件発明8と甲1-1発明2を対比すると、以下の点で一致し、相違点2で相違する。

<一致点>
「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し、前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなる、蓄電装置用外装材の製造方法であって、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層を、ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋助剤を架橋させることで、架橋構造を有する架橋層として形成する工程を備える、蓄電装置用外装材の製造方法。」

<相違点2>
本件発明8では、「架橋助剤としての(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物とを含む樹脂層に活性エネルギー線を照射して架橋させ」ているのに対し、甲1-1発明2では、「第二の接着剤層」は、「多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、グリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物などの架橋剤を含」むものであり、また「活性エネルギー線を照射して架橋させ」ているものではない点。

ウ 相違点2についての判断
(ア)甲1-1発明2は、「リチウム電池用外装材10の製造方法」であるのに対して、上記(1)ウ(ア)で摘記したとおり、甲1-2の記載事項は、「非水電解質電池に用いるリード線」(甲1-2の【0001】)の製造方法に関するものであり、甲1-1発明1と甲1-2の記載事項とは技術分野が異なる。
また、甲1-1発明2の課題は、「短いエージング時間でも高いラミネート強度を発現し、耐電解液性に優れ、かつ冷間成型を行っても絶縁性を確保できるリチウム電池用外装材の提供」(甲1-1の【0010】)であるのに対して、甲1-2の記載事項における課題は、「非水電解質電池においてリード導体と袋体の金属層との絶縁性を十分に確保することができる非水電解質電池用リード線を提供すること」であり、甲1-1発明2の課題と甲1-2の記載事項における課題は異なる。

(イ)甲1-1発明2において、「第二の接着剤層15」は、「腐食防止処理層14」が形成された「金属箔層13」と「シーラント層16」とを接着する層であるところ、甲1-2に記載の「架橋助剤」として「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が用い」られる「架橋層25a」は、「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23a」と「封入袋14の最も内面の層24」とを接着する層であり(【0025】、【0027】、図2)、甲1-1発明2の「第二の接着剤層15」と甲1-2の記載事項における「架橋造25a」とは、作用、機能、及び、配置場所がいずれも異なっている。

(ウ)そうすると、甲1-1発明2と甲1-2の記載事項とは、技術、課題、作用、機能、及び、用いられる場所が異なっており、甲1-2に記載の「架橋層25a」に「架橋助剤」として含有される「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」を甲1-1発明の「第二の接着剤層15」の「架橋助剤」として用いることの動機付けはない。
また、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基」である架橋助剤について記載のある甲2-3?2-6には、甲1-1発明2と同様の技術、課題、作用、機能、及び、用いられる場所について記載されているとも認められず、甲1-1発明2に、これら甲2-3?2-6の記載事項を参酌して、架橋助剤を「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基」とする動機付けもない。

(エ)さらに、本件発明8によれば、「良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる蓄電装置用外装材」の「製造方法」を提供することができるが(本件明細書の【0022】)、このような効果について甲1-1?1-7、2-1?2-8には何ら記載も示唆もなく、これらから本件発明8の効果を予測することは困難である。

エ 小括
したがって、本件発明8は、甲1-1発明2及び甲1-2?1-7、2-1?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9は、本件請求項8を引用するものであるから、少なくとも上記相違点2において甲1-1発明2と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明9も、甲1-1発明2及び甲1-2?1-7、2-1?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)取消理由1についての結論
よって、本件発明1?9は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?1-7、2-1?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

2 取消理由2(進歩性)(申立理由2-1に対応)について
(1) 本件発明1?7について
ア 本件発明1と甲2-1発明1とを対比する。
(ア)甲2-1発明1の「基材層」、「電池用包装材料」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「蓄電装置用外装材」に相当する。

(イ)甲2-1発明1の「バリア層」は、「外部からの電池の内部に特に水蒸気が侵入することを防止するための層」(【0022】)であって、「水分が蓄電装置の内部に侵入することを防止する水蒸気バリア性を有する。」(本件明細書【0013】)「金属箔層」と機能が共通するものであることから、本件発明1の「金属箔層」に相当する。

(ウ)甲2-1発明1の「バリア層」の片面に設けられた「化成処理層」は、「電池用包装材料のバリア層12であるアルミニウムの…裏面に化成処理を施す」(【0024】)ものであって、「アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止」(同【0024】)するものであるところ、本件発明1の「腐食防止処理層」も「電解液、又は、電解液と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層13の腐食を防止するために設けられる」(本件明細書【0052】)ものであって機能が共通することから、本件発明1の「腐食防止処理層」に相当する。

(エ)甲2-1発明1の「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」は、「接着樹脂」であることから「化成処理層」と「シーラント層」とを接着するものと認められ、本件発明1の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」の「シーラント層と金属箔層との密着を高める」(本件明細書【0010】)機能と同様の機能を有している。
また、甲2-1発明1の「酸変性ポリエチレン」は、「化成処理層」と「シーラント層」との間に積層されているものであって、本件発明1の「シーラント」を構成する「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」と同じ積層位置にある。
よって、甲2-1発明1における「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」は、本件発明1における「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する。

(オ)甲2-1発明1の「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン」の積層順を考慮すれば、甲2-1発明1の「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」も、本件発明1の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当し、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、本件発明1の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層」に相当する。
そうすると、甲2-1発明1の「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」と、「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン」を合わせたものは、本件発明1の「シーラント層」に相当する。

(カ)甲2-1発明1の「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートし」、「シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし」た構成は、本件発明1の「前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からな」る構成に相当する。

(キ)「ポリエチレン樹脂は、電子線架橋することによって分子内で架橋が起こ」る(甲2-1の【0013】)ものと認められ、少なくとも、本件発明1の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する甲2-1発明1の「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」では、架橋が起こっていると認められる。
そうすると、甲2-1発明の「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルム」であって、「架橋処理は電子線照射法により行った」ものは、本件発明1の「シーラント層」を構成する「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が」、「架橋された架橋構造を有する架橋層であり」に相当する。

(ク)甲2-1発明1の「基材層を12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムとし、バリア層を、片面に化成処理層を設けた20μmのアルミニウムとし、シーラントは、前記化成処理層の面にラミネートし」た構成、及び、「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし」た構成は、各々、本件発明1の「少なくとも基材層」「金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材」である構成、及び、「前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられて」いる構成に相当する。

イ 以上から、本件発明1と甲2-1発明1を対比すると、以下の点で一致し、相違点3?5で相違する。

<一致点>
「少なくとも基材層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、
前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋された架橋構造を有する架橋層である、蓄電装置用外装材。」

<相違点3>
本件発明1では、「基材層、接着剤層、金属箔層」の順に「接着剤層」が設けられているのに対し、甲2-1発明1では、「基材層」と「バリア層」との間に「接着剤層」が設けられているか不明である点。

<相違点4>
本件発明1では、「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層」を有しているのに対し、甲2-1発明1では、少なくとも「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」では、架橋が起こっているが、「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」や「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」において、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された」ものではない点。

<相違点5>
本件発明1では、「最内層」は「架橋層ではない」のに対し、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、「最内層」は「架橋層ではない」か明らかではない点。

ウ 相違点5についての判断
事案に鑑み、相違点5から判断する。
(ア)甲2-1の【0010】には、「…電池の包装材料の積層体として基材層、バリア層およびシーラント層からなり、シーラント層を少なくともヒートシール面となる内層が酸変性ポリオレフィンからなる多層のシーラント層として、多層シーラント層のゲル分率が0.5%?80%となるように架橋処理されたものとすることによって、ヒートシールの際の熱と圧力によるバリア層とリード線とのショートを防止できることを見出し本発明を完成するに到った。」、同【0011】には、「多層シーラントはそのヒートシール層を内層S3として、3層シーラントは外層S1、中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とし、2層シーラントは中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とする。」、同【0017】には、「本発明の電池用包装材料のヒートシール層とする架橋された酸変性ポリプロピレンは、金属に対する接着性があり、金属に対して接着性を持たないヒートシール層における、密封シール時に、電池リード線部と外装体との間に、ヒートシール層とリード線との双方にヒートシール性を有するリード線用フィルムを介在させる必要がない。…」との記載があることから、ヒートシール層における酸変性ポリプロピレンは、架橋されている蓋然性は高い。
なお、甲2-1の【0013】には、「…通常の酸変性ポリプロピレン樹脂またはポリプロピレン樹脂は、電子線の照射等によって分解するが、これらの樹脂に、ポリエチレン成分、ブテン成分、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー成分、密度が900kg/m^(3)の低結晶のエチレンとブテンの共重合体、非晶性のエチレンとプロピレンの共重合体、プロピレンα・オレフィン共重合体成分、ブタジエンゴム等を5%以上添加することにより、これらが電子線架橋することで分子内で架橋が起こり、室温下では勿論融点以上の高温下での機械的強度、例えば引張り強度、突き刺し強度、圧縮強度が向上する。」との記載はあるものの、甲2-1発明1における「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、「不飽和カルボン酸グラフトランダムプロピレン(エチレン成分量4%)」であって、エチレンの成分量が特定されているだけにすぎず、「ポリエチレン成分」等を「5%以上添加」していないのか明らかではないことから、上記甲2-1の【0013】の記載をもって、甲2-1発明1の「内層」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」が架橋されないものとは認めることはできない。
そうすると、甲2-1発明1の「内層(ヒートシール層)」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」が「架橋層ではない」と認めることはできない。

(イ)そして、甲2-1には、「内層(ヒートシール層)」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」ようにすることについての記載や示唆はなく、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」ようにする動機付けはない。

(ウ)甲1-1には、甲1-1発明1でも確認したように「第二の接着剤層12」は架橋構造となっており、「シーラント層16」は架橋構造ではない旨は記載されているものの、甲2-1発明1に採用する動機付けはない。
また、甲1-2?1-7、2-2?2-8には、「(S2)線状低密度ポリプロピレン」と「(S3)酸変性ポリプロピレン」の多層シーラントにおいて、「(S2)線状低密度ポリプロピレン」を「架橋層」とし、「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」とする構成にすることについて記載も示唆もなく、甲2-1発明1に、甲1-2?1-7、2-2?2-8の記載事項を参酌して、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」とする動機付けはない。

エ 小括
したがって、相違点3、4を論ずるまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明1及び甲1-1?1-7、2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明2?7は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、少なくとも上記相違点5において甲2-1発明1と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明2?7も、甲2-1発明1及び甲1-1?1-7、2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明8、9について
ア 本件発明8と甲2-1発明2とを対比する。
(ア)甲2-1発明2の「基材層」、「電池用包装材料」は、それぞれ本件発明8の「基材層」、「蓄電装置用外装材」に相当する。

(イ)甲2-1発明2の「バリア層」は、「外部からの電池の内部に特に水蒸気が侵入することを防止するための層」(【0022】)であって、「水分が蓄電装置の内部に侵入することを防止する水蒸気バリア性を有する。」(本件明細書【0013】)「金属箔層」と機能が共通するものであることから、本件発明8の「金属箔層」に相当する。

(ウ)甲2-1発明2の「バリア層」の片面に設けられた「化成処理層」は、「電池用包装材料のバリア層12であるアルミニウムの…裏面に化成処理を施す」(【0024】)ものであって、「アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミが溶解、腐食することを防止」(同【0024】)するものであるところ、本件発明8の「腐食防止処理層」も「電解液、又は、電解液と水分の反応により発生するフッ酸による金属箔層13の腐食を防止するために設けられる」(本件明細書【0052】)ものであって機能が共通することから、本件発明8の「腐食防止処理層」に相当する。

(エ) 甲2-1発明2の「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」は、「接着樹脂」であることから「化成処理層」と「シーラント層」とを接着するものと認められ、本件発明8の「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」の「シーラント層と金属箔層との密着を高める」(本件明細書【0010】)機能と同様の機能を有している。
また、甲2-1発明2の「酸変性ポリエチレン」は、「化成処理層」と「シーラント層」との間に積層されているものであって、本件発明1の「シーラント」を構成する「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」と同じ積層位置にある。
よって、甲2-1発明2における「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」は、本件発明8における「シーラント層」の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する。

(オ)甲2-1発明2の「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン」の積層順を考慮すれば、甲2-1発明2の「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」も、本件発明8の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当し、甲2-1発明2の「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、本件発明8の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層」に相当する。
そうすると、甲2-1発明2の「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」と、「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン」を合わせたものは、本件発明8の「シーラント層」に相当する。

(カ)甲2-1発明2の「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートし」、「シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし」た構成は、本件発明8の「前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からな」る構成に相当する。

(キ)「ポリエチレン樹脂は、電子線架橋することによって分子内で架橋が起こ」る(甲2-1の【0013】)ものと認められ、少なくとも、本件発明8の「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層」に相当する甲2-1発明1の「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」では、架橋が起こっていると認められる。
そうすると、甲2-1発明2の「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルム」であって、「架橋処理は電子線照射法により行った」ものは、本件発明8の「シーラント層」を構成する「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が」、「架橋された架橋構造を有する架橋層であり」に相当する。

(ク)甲2-1発明2の「基材層を12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムとし、バリア層を、片面に化成処理層を設けた20μmのアルミニウムとし、シーラントは、前記化成処理層の面にラミネートし」た構成、及び、「化成処理層の面に、酸変性ポリエチレン15μmを接着樹脂として、化成処理したアルミニウムの面を遠赤外線と熱風とにより、酸変性ポリエチレンの軟化点以上に加熱した状態として、シーラント層をサンドイッチラミネートして得られた積層体を、そのシーラント層のゲル分率が45%になるように架橋した積層体を用いてパウチを形成し、シーラント層の構成は、(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm/(S3)酸変性ポリプロピレン10μmの共押出しフィルムとし」た構成は、各々、本件発明8の「少なくとも基材層」、「金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造」、及び、「前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられて」いる構成に相当する。

イ 以上から、本件発明8と甲2-1発明2を対比すると、以下の点で一致し、相違点6?8で相違する。

<一致点>
「少なくとも基材層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し、前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており、前記シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなる、蓄電装置用外装材の製造方法であって、
前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋された架橋構造を有する架橋層である、蓄電装置用外装材の製造方法。」

<相違点6>
本件発明8では、「基材層、接着剤層、金属箔層」の順に「接着剤層」が設けられているのに対し、甲2-1発明2では、「基材層」と「バリア層」との間に「接着剤層」が設けられているか不明である点。

<相違点7>
本件発明8では、「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層」を有しているのに対し、甲2-1発明2では、少なくとも「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」では、架橋が起こっているが、「化成処理層の面」に、「接着樹脂」として設けられた「酸変性ポリエチレン」や「シーラント層」を構成する「(S2)線状低密度ポリプロピレン20μm」において、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された」ものではない点。

<相違点8>
本件発明8では、「最内層」は「架橋層ではない」のに対し、甲2-1発明2の「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、「最内層」は「架橋層ではない」か明らかではない点。

ウ 相違点8についての判断
事案に鑑み、相違点8から判断する。
(ア)甲2-1の【0010】には、「…電池の包装材料の積層体として基材層、バリア層およびシーラント層からなり、シーラント層を少なくともヒートシール面となる内層が酸変性ポリオレフィンからなる多層のシーラント層として、多層シーラント層のゲル分率が0.5%?80%となるように架橋処理されたものとすることによって、ヒートシールの際の熱と圧力によるバリア層とリード線とのショートを防止できることを見出し本発明を完成するに到った。」、同【0011】には、「多層シーラントはそのヒートシール層を内層S3として、3層シーラントは外層S1、中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とし、2層シーラントは中間層S2、内層(ヒートシール層)S3とする。」、同【0017】には、「本発明の電池用包装材料のヒートシール層とする架橋された酸変性ポリプロピレンは、金属に対する接着性があり、金属に対して接着性を持たないヒートシール層における、密封シール時に、電池リード線部と外装体との間に、ヒートシール層とリード線との双方にヒートシール性を有するリード線用フィルムを介在させる必要がない。…」との記載があることから、ヒートシール層における酸変性ポリプロピレンは、架橋されている蓋然性は高い。
なお、甲2-1の【0013】には、「…通常の酸変性ポリプロピレン樹脂またはポリプロピレン樹脂は、電子線の照射等によって分解するが、これらの樹脂に、ポリエチレン成分、ブテン成分、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー成分、密度が900kg/m^(3)の低結晶のエチレンとブテンの共重合体、非晶性のエチレンとプロピレンの共重合体、プロピレンα・オレフィン共重合体成分、ブタジエンゴム等を5%以上添加することにより、これらが電子線架橋することで分子内で架橋が起こり、室温下では勿論融点以上の高温下での機械的強度、例えば引張り強度、突き刺し強度、圧縮強度が向上する。」との記載はあるものの、甲2-1発明1における「(S3)酸変性ポリプロピレン」は、「不飽和カルボン酸グラフトランダムプロピレン(エチレン成分量4%)」であって、エチレンの成分量が特定されているだけにすぎず、「ポリエチレン成分」等を「5%以上添加」していないのか明らかではないことから、上記甲2-1の【0013】の記載をもって、甲2-1発明2の「内層」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」が架橋されないものとは認めることはできない。
そうすると、甲2-1発明2の「内層(ヒートシール層)」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」が「架橋層ではない」と認めることはできない。

(イ)そして、甲2-1には、「内層(ヒートシール層)」である「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」ようにすることについての記載や示唆はなく、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」ようにする動機付けはない。

(ウ)甲1-1には、甲1-1発明2でも確認したように「第二の接着剤層12」は架橋構造となっており、「シーラント層16」は架橋構造ではない旨は記載されているものの、甲2-1発明2に採用する動機付けはない。
また、甲1-2?1-7、2-2?2-8には、多層シーラントにおいて、「(S2)線状低密度ポリプロピレン」を「架橋層」とし、「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」とする構成にすることについて記載も示唆もなく、甲2-1発明1に、甲1-2?1-7、2-2?2-8の記載事項を参酌して、甲2-1発明1の「(S3)酸変性ポリプロピレン」を「架橋層ではない」とする動機付けはない。

エ 小括
したがって、相違点6、7を論ずるまでもなく、本件発明8は、甲2-1発明2及び甲1-1?1-7、2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9は、本件請求項8を引用するものであるから、少なくとも上記相違点8において甲2-1発明2と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明9も、甲2-1発明2及び甲1-1?1-7、2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)取消理由2についての結論
よって、本件発明1?9は、甲2-1に記載された発明及び甲1-1?1-7、2-2?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

第7 取消理油通知おいて採用しなかった申立理由についての当審の判断
当審は、上記第3 1(2)、2(2)に概要を示した申立理由1-2、2-2のいずれも、本件請求項1?9に係る特許の取消理由に該当しないものと判断する。その理由は次のとおりである。

1 申立理由1-2(サポート要件)について
(1)本件明細書及び図面の記載事項
本件明細書及び図面には以下の記載事項がある。
「 【0001】
本発明は、蓄電装置用外装材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置としては、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、及び鉛蓄電池等の二次電池、並びに電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタが知られている。携帯機器の小型化又は設置スペースの制限等により蓄電装置のさらなる小型化が求められており、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池が注目されている。リチウムイオン電池に用いられる外装材としては、従来は金属製の缶が用いられていたが、軽量で、放熱性が高く、低コストで作製できる多層フィルム(例えば、基材層/金属箔層/シーラント層のような構成のフィルム)が用いられるようになっている。
【0003】
上記多層フィルムを外装材に用いるリチウムイオン電池では、内部への水分の浸入を防止するため、金属箔層としてアルミニウム箔層を含む外装材により電池内容物を覆う構成が採用されている。このような構成を採用したリチウムイオン電池は、アルミラミネートタイプのリチウムイオン電池と呼ばれている。リチウムイオン電池の電池内容物には、正極、負極及びセパレータとともに、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質としてリチウム塩を溶解した電解液、もしくはその電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層が含まれる。


「【0007】
近年、スマートフォン、タブレットPCなどの電子機器の薄型化及び大型化に伴い、電子機器に搭載される電池には、薄型化及び大容量化が求められている。その中で、電池容量の増加及びコスト削減の観点から、電池用外装材には薄型化が要求され、絶縁体である内層の薄膜化も求められている。しかし、上記特許文献1に記載されたような従来の外装材では、内層を薄膜化すると、冷間成型時の応力などによって微細なクラックがシーラント層中に発生しやすく、電解液がクラックに浸透して、成型後に絶縁性の低下を生じやすいという問題がある。また、リチウムイオン電池としてエネルギーを蓄積させる為には、電流値や電圧値、環境温度などを所定の条件にして充放電を行い、化学変化を起こさせる(化成)ことが必要となる。この化成工程は、電解液を注入した仮電池の状態で行われる。そして、化成によって発生したガスの除去や電解液の補充のため、電池は一度開封され、その後最終シールを行って電池が完成する。この最終シールは一度電解液に浸った部分をシールするため、電解液が噛み込んだ状態でヒートシールを行うデガッシングシール(デガッシングヒートシール)となる。従来の外装材では、内層を薄膜化すると、このデガッシングヒートシールにおいて、電解液の揮発によると考えられるシーラント層の変形(発泡)が大きくなり、絶縁性が低下しやすいという問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる蓄電装置用外装材及びその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0010】
上記構成を有する蓄電装置用外装材によれば、良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる。かかる効果についてより具体的に説明する。蓄電装置用外装材のシーラント層は、ヒートシールやデガッシングヒートシール、成型などの蓄電装置作製工程において、電解液膨潤や結晶化、延伸など体積変化を伴う変形を何度も経ることにより、欠陥を生じやすい。特に、シーラント層の薄膜化により、電解液を噛み込んだ状態でヒートシールを行うデガッシングヒートシールにおいて、電解液の揮発によると考えられるシーラント層の変形(発泡)が大きくなり、絶縁性が低下しやすい。また、冷間成型時の応力などによって微細なクラックがシーラント層中に発生しやすくなり、電解液がクラックに浸透して、成型後に絶縁性の低下を生じやすくなる。これに対し、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、シーラント層の架橋処理による高分子量化が、デガッシングヒートシールのような電解液が関与するヒートシールや成型による絶縁性低下の抑制に有効であり、中でもポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造が極めて有効であることを見出した。但し、このような架橋構造を有する架橋層は、分子の流動が抑制されるため、ヒートシール特性が悪くなることから、最内層には適さない。そこで、上記蓄電装置用外装材では、シーラント層を2以上の層とし、最内層を架橋層とせず、最内層以外の少なくとも1層を上記架橋構造を有する架橋層とすることで、良好なヒートシール性を有しつつ、クラックの発生を抑制して成型後の絶縁性を十分維持することを可能とし、且つ、デガッシングヒートシールにおける電解液の揮発によると考えられるシーラント層の変形(発泡)を抑制してデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することを可能とした。更に、シーラント層と金属箔層との密着も絶縁性低下抑制に重要であるため、金属箔層のシーラント層側に少なくとも腐食防止処理層を設け、シーラント層との密着性を高める構成とした。また、上記架橋層は腐食防止処理層との密着性に優れると共に電子の授受を抑制できるため、架橋層を最内層よりも金属箔層に近い位置に配置することで、絶縁性の低下を効率的に抑制することができる。これらの理由により、上記蓄電装置用外装材は、良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる。」

「 【0083】
<シーラント層16>
シーラント層16は、外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層である。シーラント層16は、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり、少なくとも金属箔側層16a及び最内層16bの2層を有する。腐食防止処理層14との密着性、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を向上する観点から、金属箔側層16aは酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層であることが好ましく、電解液が関与するシール特性を向上する観点から、最内層16bはポリオレフィン樹脂(酸変性されていないポリオレフィン樹脂)を主成分とする層であることが好ましい。ここで、「主成分」とは、全構成成分のうち最も多い成分を意味する。図1に示した外装材10においては、金属箔側層16aが架橋層であり、最内層16bは架橋層ではない(非架橋層である)。
【0084】
<金属箔側層16a>
外装材10における金属箔側層16aは、ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層である。上記架橋構造を有する金属箔側層16aは、ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂と、架橋助剤としての(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物とを含む樹脂組成物を用いて樹脂層を形成し、当該樹脂層に活性エネルギー線を照射してポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂を架橋させることで形成することができる。また、上記樹脂層は、光開始剤としてのベンゾイル基を有する化合物又はアジド化合物を更に含むことが好ましい。以下、金属箔側層16aの形成に用いる樹脂組成物の成分について詳細に説明する。」

「【0126】
(架橋助剤)
樹脂組成物は、架橋助剤として、(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物を含む。(メタ)アクリロキシ基を有する化合物とアリル基を有する化合物とは併用してもよい。樹脂組成物が上記架橋助剤を含むことにより、樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して架橋構造を形成する際に、架橋反応が進行しやすくなり、架橋が形成され難い高分子においても、架橋構造を形成することが可能となる。
【0127】
(メタ)アクリロキシ基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アミド等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基としては、メチル基、エチル基、ドデシル基、ステアリル基、ラウリル基等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の代わりに、シクロヘキシル基、テトラヒドロフルフリル基、アミノエチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル基などで置換されていてもよい。更に、(メタ)アクリロキシ基を含有する化合物としては、(メタ)アクリル酸とエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多官能アルコールとのエステルが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリロキシ基を有する化合物としては、より緻密な架橋構造が形成されて成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性がより向上する観点から、(メタ)アクリロキシ基を2つ以上有する化合物が好ましく、(メタ)アクリロキシ基を3つ以上有する化合物がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0128】
アリル基を有する化合物としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等が挙げられる。これらの中でも、アリル基を有する化合物としては、より緻密な架橋構造が形成されて成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性がより向上する観点から、アリル基を2つ以上有する化合物が好ましく、アリル基を3つ以上有する化合物がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
樹脂組成物における架橋助剤の含有量は、上述した成分(a)及び成分(b)の総量100質量部に対して0.05?5.0質量部であることが好ましく、0.1?2.0質量部であることがより好ましい。架橋助剤の含有量が0.05質量部以上であれば、架橋構造を十分に形成でき、5.0質量部以下であれば、過度の反応を防止でき、発泡や分解による樹脂の劣化を防ぐことができる。」

「 【図1】



(2)本件明細書の【0007】?【0008】の記載から、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる蓄電装置用外装材及びその製造方法を提供すること」であると認められる。

(3)ここで、本件課題を解決する手段(以下「本件解決手段」という。)として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは、蓄電装置用外装材では、「シーラント層を2以上の層とし、最内層を架橋層とせず」、「最内層以外の少なくとも1層」を「ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造」を有する「架橋層」(【0010】)とすることである。
このような本件解決手段のうち「シーラント層を2以上の層とし、最内層を架橋層」としないことで「架橋構造を有する架橋層」による「分子の流動が抑制されるため、ヒートシール特性が悪くなる」こともなく(【0010】)、また、本件解決手段のうち「最内層以外の少なくとも1層」を「ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造」を有する「架橋層」とすることで、「シーラント層の架橋処理による高分子量化が、デガッシングヒートシールのような電解液が関与するヒートシールや成型による絶縁性低下の抑制に有効であり、中でもポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造が極めて有効である」(【0010】)。
さらに、本件明細書【0126】には「樹脂組成物は、架橋助剤として、(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物を含む」ことで、「樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して架橋構造を形成する際に、架橋反応が進行しやすくなり、架橋が形成され難い高分子においても、架橋構造を形成することが可能となる」旨が記載されている。
これらより、本件解決手段は「良好なヒートシール性を有しつつ、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持することができる」(【0010】)ため、本件解決手段が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できるものであると理解できる。

(4)そして、本件請求項1、8には、「前記2以上の層のうち、前記金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層であり、且つ、前記最内層は前記架橋層ではない」との記載があり、本件発明には本件解決手段を備えているということができるから、本件発明は、本件解決手段である、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲を超えるものではない。

(5)申立人1は、申立書4(3)エ(第29頁第11?23行)において、本件発明1の「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物」は、実施例において、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートを使用して、デガッシングヒートシール後の絶縁性を維持するという課題を解決することを示しているが、その他の「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物」を用いた場合にデガッシングヒートシール後の絶縁性を維持可能かは示されていない旨を主張する。
しかしながら、上記(3)で摘示したとおり、本件明細書【0010】には「最内層以外の少なくとも1層」を「ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造」を有する「架橋層」とすることで「シーラント層の架橋処理による高分子量化が、デガッシングヒートシールのような電解液が関与するヒートシールや成型による絶縁性低下の抑制に」「極めて」「有効」である旨が開示されていることから、実施例におけるトリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート以外の「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物」を用いた場合にデガッシングヒートシール後の絶縁性を維持可能であることは本件明細書から読み取ることができ、本件発明がサポート要件を満たすものといえる。

(6) したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

2 申立理由2-2(進歩性)について
(1) 本件発明1?7について
ア 本件発明1と甲2-2発明1とを対比する。
(ア)甲2-2発明1の「熱可塑層23a」における「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」は、本件発明1の「酸変性ポリオレフィン樹脂」に相当する。
そして、甲2-2発明1の「熱可塑層23a」は架橋されていないことから、本件発明1の「架橋層ではない」といえる。

(イ)甲2-2発明1の「架橋層25a」における「架橋されたポリオレフィン樹脂」は、本件発明1の「ポリオレフィン樹脂」に相当する。
そして、甲2-2発明1の「架橋層25a」に「架橋助剤として添加される」「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」は、本件発明1の「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物」に相当する。
そして、甲2-2発明1の「架橋層25a」に「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」「架橋助剤として添加される」と、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造」が形成されているといえる。

(ウ)甲2-2発明1の「非水電解質電池用」は、本件発明1の「蓄電装置用」に相当する。
そして、甲2-2発明1の「非水電解質電池用リード線」と本件発明1の「蓄電装置用外装材」は、積層体という点で共通している。

イ(ア)以上から、本件発明1と甲2-2発明1を対比すると、以下の点で一致し、相違点9で相違する。

<一致点>
「ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層を有し、
前記2以上の層のうち、1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層であり、且つ、その他の層は前記架橋層ではない蓄電装置用積層体。」

<相違点9>
本件発明1では、「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材」であって、「前記金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられ」、「シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなり」、「最内層」が「架橋層ではない」のに対し、甲2-2発明1では、「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24と金属層22とがこの順に積層された積層体を含む非水電解質電池用リード線」であって、「金属層22」は「腐食防止処理層」を設けておらず、「架橋助剤として添加される」「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」が添加されている「架橋されたポリオレフィン樹脂」からなる層は「絶縁体21a」の「架橋層25a」であって、「シーラント層」の「最内層」以外の層ではなく、そして、「架橋層ではな」いのは、「絶縁体21a」の「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」からなる「熱可塑層23a」であって、「シーラント層」の「最内層」ではない点。

(イ)なお、申立人2は、申立書(4)ウ(イ)a(第54頁第10-14行)において、「甲2発明における非水電解質電池は、例えばLiイオン電池であり(甲第2号証の【0002】)、本件発明1及び8における蓄電装置とは、本件明細書の【0002】の通り、リチウムイオン電池等であるため、甲2発明における非水電解質電池用外装材は、本件発明1及び8における蓄電装置用外装材に相当する。」と主張するが、本件発明の「外装材」は「金属箔層としてアルミニウム箔層を含」み「電池内容物を覆う構成が採用されている」(本件明細書の【0003】)ものであり、甲2-2に記載の「非水電解質電池用リード線」とは異なるものであるから、上記(ア)では本件発明1の「外装体」と甲2-2発明1の「リード線」とは相違するものとした。

ウ 相違点9についての判断
まず、甲2-2発明1の「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材」を「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24とがこの順に積層された積層体を含む非水電解質電池用リード線」に転用する動機付けはない。
そして、甲2-2発明1の「非水電解質電池用リード線」を構成する「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24とがこの順に積層された積層体」を、本件発明1の「蓄電装置用外装材」を構成する「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造」にする動機付けはない。そうすると、甲2-2発明1では「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が架橋助剤として添加される」「架橋層25a」を本件発明1の「シーラント層」として用いること、甲2-2発明1の「架橋層」ではない「熱可塑層23a」を本件発明1の「最内層」として用いる動機付けもない。
甲2-2発明1には「金属層22」を腐食防止することについて記載も示唆もなく、「腐食防止処理層」とする動機付けはない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲2-2発明1及び甲1-1?1-7、2-1、2-3?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明2?7は、本件請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、少なくとも上記相違点9において甲2-2発明1と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明2?7も、甲2-2発明1及び甲1-1?1-7、2-1、2-3?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明8、9について
ア 本件発明8と甲2-2発明2とを対比する。
(ア)甲2-2発明2の「熱可塑層23a」における「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」は、本件発明8の「酸変性ポリオレフィン樹脂」に相当する。
そして、甲2-2発明2の「熱可塑層23a」は架橋されていないことから、本件発明8の「架橋層ではない」といえる。

(イ)甲2-2発明2の「架橋層25a」における「架橋されたポリオレフィン樹脂」は、本件発明8の「ポリオレフィン樹脂」に相当する。
そして、甲2-2発明2の「架橋層25a」に「架橋助剤として添加される」「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」は、本件発明8の「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物」に相当する。
そして、甲2-2発明2の「架橋層25a」に「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」「架橋助剤として添加される」と、「(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造」が形成されているといえる。

(ウ)甲2-2発明2の「非水電解質電池用」は、本件発明8の「蓄電装置用」に相当する。
そして、甲2-2発明2の「非水電解質電池用リード線」と本件発明8の「蓄電装置用外装材」は、積層体という点で共通している。

イ(ア)以上から、本件発明8と甲2-2発明2を対比すると、以下の点で一致し、相違点10で相違する。

<一致点>
「ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層を有し、
前記2以上の層のうち、1層が、前記ポリオレフィン樹脂又は前記酸変性ポリオレフィン樹脂が(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物に由来する構造を介して架橋された架橋構造を有する架橋層である、且つ、その他の層は前記架橋層ではない蓄電装置用積層体の製造方法。」

<相違点10>
本件発明8では、「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有し」、「金属箔層の少なくとも前記シーラント層側の面に腐食防止処理層が設けられており」、「シーラント層が、ポリオレフィン樹脂を主成分とする層と酸変性ポリオレフィン樹脂を主成分とする層とを含む2以上の層からなる」「蓄電装置用外装材の製造方法」であって、「2以上の層のうち」、「金属箔層から最も遠い位置に配置された最内層以外の少なくとも1層を、ポリオレフィン樹脂又は酸変性ポリオレフィン樹脂と、架橋助剤としての(メタ)アクリロキシ基又はアリル基を有する化合物とを含む樹脂層に活性エネルギー線を照射して架橋させることで、架橋構造を有する架橋層として形成する工程を備える」のに対し、甲2-2発明2では、「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24と金属層22とがこの順に積層された積層体を含み」、「金属層22」は「腐食防止処理層」を設けていない、「非水電解質電池用リード線」の「製造方法」であり、「架橋助剤として添加される」「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等」が添加されている「架橋されたポリオレフィン樹脂」からなる層は「絶縁体21a」の「架橋層25a」あって、「シーラント層」の「最内層」以外の層ではなく、そして、「架橋層ではな」いのは、「絶縁体21a」の「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」からなる「熱可塑層23a」であって、「シーラント層」の「最内層」ではない点。

(イ)なお、上記(1)イ(イ)で摘記したとおり、申立人2は、申立書(4)ウ(イ)a(第54頁第10-14行)において、「甲2発明における非水電解質電池は、例えばLiイオン電池であり(甲第2号証の【0002】)、本件発明1及び8における蓄電装置とは、本件明細書の【0002】の通り、リチウムイオン電池等であるため、甲2発明における非水電解質電池用外装材は、本件発明1及び8における蓄電装置用外装材に相当する。」と主張するが、本件発明の「外装材」は「金属箔層としてアルミニウム箔層を含」み「電池内容物を覆う構成が採用されている」(本件明細書の【0003】)ものであり、甲2-2に記載の「非水電解質電池用リード線」とは異なるものであるから、上記(ア)では本件発明1の「外装体」と甲2-2発明2の「リード線」とは相違するものとした。

ウ 相違点10についての判断
まず、甲2-2発明2の「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材」を「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24とがこの順に積層された積層体を含む非水電解質電池用リード線」に転用する動機付けはない。
そして、甲2-2発明2の「非水電解質電池用リード線」を構成する「第1のリード導体19aの外周に接着される熱可塑層23aと、熱可塑層23aの外側に含む架橋層25aを含む絶縁体21aと、封入袋14の最も内面の層24とがこの順に積層された積層体」を、本件発明8の「蓄電装置用外装材」を構成する「少なくとも基材層、接着剤層、金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造」にする動機付けはない。そうすると、甲2-2発明2では「トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が架橋助剤として添加される」「架橋層25a」を本件発明1の「シーラント層」として用いること、甲2-2発明2の架橋層ではない「熱可塑層23a」を本件発明8の「最内層」として用いる動機付けもない。
甲2-2発明2には「金属層22」を腐食防止することについて記載も示唆もなく、「腐食防止処理層」とする動機付けはない。

エ 小括
したがって、本件発明8は、甲2-2発明2及び甲1-1?1-7、2-1、2-3?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件発明9は、本件請求項8を引用するものであるから、少なくとも上記相違点9において甲2-2発明2と相違するものであるところ、当該相違点についての判断は、上記ウのとおりであるから、本件発明2?7も、甲2-2発明2及び甲1-1?1-7、2-1、2-3?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)申立理由2-2についての結論
よって、本件発明1?9は、甲2-2に記載された発明及び甲1-1?1-7、2-1、2-3?2-8の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

第8 結言
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件特許の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-09 
出願番号 特願2016-92449(P2016-92449)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
村川 雄一
登録日 2020-04-13 
登録番号 特許第6690393号(P6690393)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 蓄電装置用外装材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 黒木 義樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 ▲高▼木 邦夫  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 洋平  

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