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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1376230
審判番号 不服2020-4355  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-02 
確定日 2021-08-03 
事件の表示 特願2016-540339「多層光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月12日国際公開、WO2015/034899、平成28年 9月29日国内公表、特表2016-530136、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016-540339号(以下「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)9月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年9月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 7月24日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月 4日提出:意見書
平成30年10月 4日提出:手続補正書
平成31年 3月26日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月21日提出:意見書
令和 元年 6月21日提出:手続補正書
令和 元年11月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月 2日提出:審判請求書
令和 2年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 4月28日付け:手続補正書
令和 3年 4月28日付け:意見書

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本件出願の請求項1?7に係る発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
A.特表2012-509496号公報
B.特表2008-517139号公報(周知技術を示す文献)
C.特開2013-122589号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
令和2年11月27日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
(理由1)本件出願の請求項1?7に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
2.特表2012-509496号公報(拒絶査定時の引用文献A)
4.特開2012-162518号公報(当審において新たに引用した文献)
(当合議体注:引用文献2及び4は、いずれも主引用例である。)

(理由2)本件出願の請求項1?7に係る発明は、不明確であり、本件出願は、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本件発明
本件出願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、令和3年4月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。
「 熱可塑性複屈折性多層光学フィルムであって、
2つの外層の間にある、線形層特性を有する交互に重なる第1層と第2層を含み、前記第1の層と前記第2の層の一方がポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含み、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの前記2つの外層の両方が300nmより薄いが、150nmより厚く、
前記2つの外層の間にある層がいずれも350nmより厚くはなく、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの前記2つの外層の両方が、第1層又は第2層と同じ材料を含有し、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの最低平均層間剥離が、250g/インチ以上であり、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムが20マイクロメートルより薄く、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムが200層より少ない、熱可塑性複屈折性多層光学フィルム。」
(当合議体注:3行目の「前記第1の層と前記第2の層」は、「前記第1層と第2層」の誤記である。)

なお、本件発明2?8は、本件発明1の「熱可塑性複屈折性多層光学フィルム」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。

第5 引用文献等の記載事項、及び引用発明
1 引用文献4の記載事項
令和2年11月27日付けの拒絶の理由に引用された、引用文献4(特開2012-162518号公報)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はプラズマディスプレイ前面板用近赤外線反射フィルムおよびそれからなる積層体に関する。更に詳しくは、プラズマディスプレイ等の映像表示パネル面に好適に使用できる近赤外線反射フィルムおよびそれからなる積層体に関する。
・・・省略・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、プラズマディスプレイの前面パネル用として、プラズマディスプレイの表示面から放射される近赤外線による周辺機器への誤作動の防止機能を持ち、安価で、光線透過率が高く、広帯域の近赤外線の放射防止に対応できるプラズマディスプレイの前面パネル用に好適に使用することのできる近赤外線反射フィルムを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、映像機器の表示面から放射される近赤外線による周辺機器の誤作動の防止を、近赤外線吸収剤を使用しなくても、多層積層延伸フィルムの使用により行うことで解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、屈折率の異なる2種のポリマーを交互にかつ、どちらかの層における厚みの最大と最小の比を制御して積層させることにより、周辺機器の誤作動を招く近赤外線波長帯を反射させる層間の光干渉作用を均等に発現したものである。
【0007】かくして本発明によれば、主たる繰り返し単位がエチレンー2,6-ナフタレートであるポリエステルから主としてなる第一の層と第一の層を構成するポリエステルの屈折率よりも低い屈折率を有する熱可塑性樹脂から主としてなる第二の層とを、交互に少なくとも41層積層させ且つ少なくとも1方向に配向させた多層積層延伸フィルムであって、第一の層と第二の層の少なくとも1方の層は平均粒径0.01?2μmの不活性粒子を0.001?5重量%含有し、第一の層と第二の層の個々の層の厚みはそれぞれ0.05?0.5μmの範囲にあり、第一の層または第二の層のいずれかは個々の層の厚みが異なり、最も厚い層の厚みを最も薄い層の厚みで割った比が1.2以上であることを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用近赤外線反射フィルム(以下、反射フィルムと称することがある。)が提供される。
・・・省略・・・
【0009】さらにまた、本発明によれば、好ましい反射フィルムとして、第2の層が、(1)融点が210?245℃の範囲にある主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルから主としてなるもの、(2)融点が210?245℃の範囲にあるナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートで、第1の層と第2の層のガラス転移温度(Tg)差が40℃以上であるもの、(3)融点210?245℃であるイソフタル酸共重合ポリエチレンー2,6-ナフタレートであり且つ第1の層と第2の層のガラス転移温度(Tg)差が40℃以上であるもの、(4)ポリエチレンー2,6-ナフタレートとポリエチレンテレフタレートもしくはイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートとを混合してなる組成物であるものまたは(5)融点が220?270℃であるシンジオタクティックポリスチレンからなる反射フィルムも提供される。」

(2)「【0011】
【発明の実施の形態】本発明における反射フィルムは、屈折率の低い層と高い層を交互にかつ、すくなくともどちらかの層において、個々の層の厚みを連続的にあるいは段階的に変化させながら積層させることで、周辺機器の誤作動を招く近赤外線波長帯を均等に反射させることができた反射フィルムである。すなわち、主たる繰り返し単位がエチレンー2,6-ナフタレートであるポリエステルから主としてなる第一の層と第一の層の該ポリエステルの屈折率よりも低い屈折率を有する熱可塑性樹脂から主としてなる第二の層とを、交互に少なくとも41層積層させ且つ少なくとも1方向に配向させた多層積層延伸フィルムであって、第一の層と第二の層の少なくとも1方の層は平均粒径0.01?2μmの不活性粒子を0.001?5重量%含有し、第一の層と第二の層の個々の層の厚みはそれぞれ0.05?0.5μmの範囲にあり、第一の層または第二の層のいずれかが最大厚みを最小厚みで割った比が1.2以上の反射フィルムである。なお、光学用途として用いることから、本発明の反射フィルム全体の光線透過率は少なくとも70%であることが好ましい。
・・・省略・・・
【0014】本発明における第一の層は、ポリエチレン-2,6-ナフタレートホモポリマー、または、全繰り返し単位の少なくとも70モル%、好ましくは85モル%以上がエチレン-2,6-ナフタレートで占められた共重合ポリエチレン-2,6-ナフタレートで構成される。特に好ましい第1の層を構成するポリエステルは、ポリエチレン-2,6-ナフタレートホモポリマーである。これらのポリエチレン-2,6-ナフタレートを第一の層として用いれば、延伸によって高度の屈折率を第1の層に付与できるという利点がある。
【0015】また、第1の層を構成するのが共重合ポリエチレンテレフタレートである場合、その共重合成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸のような2,6-ナフタレンジカルボン酸以外の芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等が酸成分として挙げられ、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等がグリコール成分として挙げられる。
【0016】本発明における第2の層の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。さらに、第2の層の配向結晶性を低くするために、融点は210?245℃であることが好ましい。融点が210℃未満では、結晶性が低くなりすぎ製膜が難しく、また、第2の層の耐熱性が悪くなりフィルム全体の耐熱性に悪影響を与える。他方、融点が245℃を超えると第2の層の結晶性が高くなり、第2の層のガラス転移点(Tg)より高い延伸温度で延伸すると配向結晶化が進み連続製膜性が悪くなる。なお、ポリエチレンテレフタレートの融点およびガラス転移点は、共重合させることで調整することができる。共重合成分は、ジカルボン酸成分であってもグリコール成分であってもよく、ジカルボン酸成分としては例えばイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等を挙げることができ、グリコール成分としては例えばブタンジオール、へキサンジオール等の如き脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等を挙げることができる。特に共重合酸成分として、イソフタル酸を用いることが、融点、ガラス転移点(Tg)を調整する上で好ましい。これらの共重合成分は単独または二種以上を使用することができる。例えばイソフタル酸の共重合量としては、好ましくは4?18モル%、さらに好ましくは8?15モル%である。第2の層には不活性粒子は実質上無いほうがよいが、光学的な特性が悪化しない範囲であれば、添加されていても支障はない。イソフタル酸を共重合させた場合、第1の層と第2の層のガラス転移点(Tg)差は40℃以上あることが好ましい。この範囲であれば、第2の層のガラス転移点(Tg)に合せて延伸すると第2の層のポリマーにとっては、過大の延伸温度となり、延伸による配向が抑えられ、ほとんど流動に近くなる。したがって、第2の層は延伸により配向し屈折率が増大するが、第2の層の配向は抑えられ屈折率の変化が少なく、結果として両層の屈折率差が大きくなる。
【0017】また、本発明における第2の層の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン-2,6-ナフタレートとポリエチレンテレフタレートの混合物、またはポリエチレン-2,6-ナフタレートとイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートの混合物も用いることができる。これらの混合物もその融点は上記多層積層延伸フィルムの第2の層と同様、210?245℃であることが好ましい。一般に、低結晶性ポリマーを無乾燥で溶融押出しするには、特別の設備(乾燥設備またはそれに類する設備)が必要となる。しかし第2の層に上記混合物を用いることにより、混合物が低結晶性であるにもかかわらず、上記の特別な設備が不要になる利点がある。
【0018】さらに本発明における第2の層の熱可塑性樹脂としては、融点が220?270℃のシンジオタクテイックポリスチレンを主体とする層を用いることもできる。シンジオタクチックポリスチレンとは、立体構造がシンジオタクティック構造、すなわち炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法により定量される。この方法で測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアット、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明でいうシンジオタクティックポリスチレンとしては、通常は、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸、これらの水素化重合体およびこれらの共重合体を含む。この中で好ましいシンジオタクティックポリスチレンとしては、融点が220?270℃の範囲にあるものである。特に好ましくは、ポリスチレンとp-メチルスチレンとの共重合体である。かかる共重合体において、その融点を上記範囲とするには、p-メチルスチレンの共重合量で融点を調整することで達成できる。p-メチルスチレンが多いと融点は低下し、結晶性も低下する。共重合量としては、0?15%が好ましい。ポリエチレン-2,6-ナフタレートは、延伸により延伸方向の屈折率は増加するが、シンジオタクティックポリスチレンは、延伸方向の屈折率が増大しにくく、各層間の屈折率差がつきやすい。
【0019】本発明の反射フィルムは、上記のような第一の層と第二の層を41層以上、好ましくは101層以上更に好ましくは101層以上501層交互に積層したものである。ただし、本発明の反射フィルムでは、第一の層及び第二の層のそれぞれ1層の厚みは0.1?0.5μmの範囲で、層間の光干渉により、近赤外線を選択的に反射することが必要である。ここで、各層の厚みの最大と最小の比の下限を1.2以上好ましくは、1.23以上更に好ましくは1.3以上極めて好ましくは1.5以上、上限を3以下にすることにより均一な各層の厚みでは得られないリモートコントロール障害を引き起こす可能性のある800?1000nmにわたる近赤外線の波長域を平均的に透過率を低く抑えることができる。ここで、各層の厚みの最大と最小の比の下限が1.2以下では、さまざまなリモートコントローラの近赤外波長に対応するのに十分な波長域を反射することができず、上限が3以上では、逆に反射波長帯が広くなりすぎ、十分な反射率が得られない。第1層または第2層の厚みのいずれかは、徐々に連続的に変化させるか、厚みの分布曲線を見たときに明瞭に区別できる少なくとも2つ以上の厚みピークが発現するように何段階かに分けてステップ状に変化させるのが好ましい。第1層または第2層の厚みランダムに厚みを変化させることは各層での干渉を弱める結果なり易い。各層の厚みをほぼ均一にすると、幅広い波長帯での反射が得られない。特に好ましいのは、第1層および第2層の厚みを、共に厚み方向に沿って連続的に変化させたものである。なお、ここでいう明瞭に区別できる厚みピークとは、0?1μmの厚み範囲を百分割した分布曲線を描いた際に、2つの厚みピーク間に両ピークの度数の半分以下の谷が存在するものを意味する。
・・・省略・・・
【0021】ところで、本発明の反射フィルムは少なくとも1方向に延伸され、好ましくは2軸延伸されている。延伸温度は第1の層の樹脂のガラス転移点(Tg)からTg+50℃の範囲で行うことが好ましい。延伸倍率としては、1軸延伸の場合、2?10倍で、延伸方向は、縦方向であっても横方向であっても構わない。2軸延伸の場合は、面積倍率として、5?25倍である。延伸倍率が大きい程、第1層および第2層の個々の層における面方向のバラツキが、延伸による薄層化により、絶対的に小さくなり、多層積層延伸フィルムの光干渉が面方向に均一になるので好ましい。延伸方法としては、逐次2軸延伸、同時2軸延伸、チューブラー延伸、インフレーション延伸等の公知の延伸方法が可能であるが、好ましくは逐次2軸延伸が、生産性、品質の面で有利である。また、延伸されたフィルムは、熱的な安定化のために、熱処理により安定化されるのが好ましい。
【0022】熱処理の温度としては、(第2の層の融点-30)℃より高く、(第1の層の融点-30)℃より低いのが好ましい。ただし、あまり高いと第2の層の融解が始まるため、厚み斑の悪化や連続製膜性が低下する。なお、本発明における第1の層および第2の層はその各1層の厚みが0.05?0.5μmである。
【0023】本発明における多層積層延伸フィルムは、例えば、不活性粒子を含有するポリエチレン-2,6-ナフタレートを主とする第1の層を形成するポリマーと、第2の層を形成するポリマーをフィードブロックを用いた同時多層押し出し法により2層が交互に両表面に第1の層が形成されるように積層され、ダイに展開される。この時、フィードブロックで積層されたポリマーは、積層された形態を維持しており、フィードブロック内で積層されている各層の厚みを調整することで。段階的または連続的な厚み方向に沿った厚みの変化を第1層または第2層に付与できる。ダイより押し出されたシートは、キャスティングドラムで冷却固化され、未延伸フィルムとなる。未延伸フィルムは、所定の温度に加熱され、縦かつまたは横方向に延伸され、所定の温度で熱処理され、巻き取られる。
・・・省略・・・
【0026】
【実施例】以下、実施例をもって、本発明を説明する。
【0027】[実施例1]平均粒径0.2μm、長径と短径の比が1.05、粒径の標準偏差が0.15の真球状シリカ粒子を0.1wt%添加したポリエチレンー2,6-ナフタレート(PEN)を第一の層の樹脂として調製し、不活性粒子を含まないイソフタル酸を12モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(IA12)を第二の層の樹脂として調製した。第一の層の樹脂のガラス転移点(Tg)は121℃、第二の層の樹脂のガラス転移点(Tg)は、74℃であった。それぞれの樹脂を170℃で6時間、160℃で3時間乾燥後、押出し機に供給して溶融し、第一の層のポリマーを101層、第二の層ポリマーを100層に分岐させた後、各層のスリット幅が徐々におおきくなり、かつ、第一の層と第二の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用してその積層状態を保持したままダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして各層の厚みが徐々に変化しながら第一の層と第二の層が交互に積層された総数201層の積層未延伸シートを作成した。このとき第一の層と第二の層の押出し量が1:0.8になるように調整し、かつ、両端層が第一の層になるように積層した。この積層未延伸シートを150℃の温度で縦方向に3.5倍延伸し、更に155℃の延伸温度で横方向に5.5倍に延伸し、230℃で3秒間熱固定処理を行い反射フィルムを得た。得られた反射フィルムは、全体厚み約36μm、第一の層の最大厚み約0.25μm、第一の層の最小厚み約0.18μ、第二の層の最大厚み0.16μmおよび第二の層の最小厚み0.12μmであり、両層ともにほぼ連続的に厚みが変化していることが確認された。また、得られた反射フィルムの光学特性は、最大反射率96%、反射率85%以上を示す波長域約750nmから1070nmおよび可視光線の光線透過率70%であった。得られた反射フィルムの特性を表3に示す。
【0028】[実施例2]第一の層と第二の層の分岐する層数をそれぞれ41層及び40層に変更し、フィルム全体の厚み14μmに変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた反射フィルムは両層ともにほぼ連続的に厚みが変化しており、その光学特性は、最大反射率86%、反射率85%以上を示す波長域約840nmから980nmおよび可視光線の透過率78%であった。近赤外線遮断性能テストにおいてはいずれの波長においても問題なかったが、800nm付近の遮断性能は実施例1の反射フィルムに比べやや弱かった。得られた反射フィルムの特性を表3に示す。
・・・省略・・・
【0032】なお、上記特性値および評価方法は、それぞれ次の測定法にて測定したものである。
【0033】(1)融点、ガラス転移点(Tg)サンプルを20mgサンプリングし、TAインスツルメンツ社製DSC(DSC2920)を用い、20℃/min.の昇温速度でガラス転移点及び融点を測定する。
【0034】(2)層の厚み(最大厚み・最小厚み)サンプルを三角形に切り出し、包理カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包理する。そして、包理されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT-S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて加速電圧100kVにて観察・撮影し、写真より各層の厚みを測定し、第一の層のうち最も厚みの大きい層を最大厚みおよび最も薄い層の厚みを最小厚みとした。第二の層においても同様にして最大厚みおよび最小厚みを決定した。
【0035】(3)最大反射反射率
島津製作所製分光光度計MPC-3100を用いて各波長でのアルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を波長350nmから2100nmの範囲で測定する。その反射率の最大値を最大反射率とした。また、最大反射率を示す波長は複数存在する場合は多いためピーク波長は特定しない。
【0036】(4)光線透過率
反射率と同様、島津製作所製分光光度計MPC-3100を用いて各波長での光線透過率を波長350nmから2100nmの範囲で測定する。そのうち、可視光線部分(450?700nm)での平均光線透過率を全光線透過率とする。
【0037】(5)近赤外線遮断性能
家庭用テレビのリモートコントローラ受光部に得られた多層フィルムを設置し、2m離れた位置からリモートコントローラでリモートコントロール信号(信号波長950nm及び850nm)を送って家庭用テレビが反応するかをテストした。PDPディスプレレイから発する近赤外線はリモートコントローラより発する近赤外線より弱いのでこのテストにおいて反応が見られなければリモートコントロール障害の発生防止が可能である。リモートコントローラに反応しないものを「○」反応するものを「×」とした。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】


【0041】ここで、上記表中の、PENはポリエチレン-2,6-ナフタレート、IA18-PENはイソフタル酸成分を全ジカルボン酸成分に対して18モル%共重合させたポリエチレン-2,6-ナフタレート、IA12-PETはイソフタル酸成分を全ジカルボン酸成分に対して12モル%共重合させたポリエチレンテレフタレート、sPSはシンジオタクティックポリスチレン、IA18-PEN/IA15-PETはイソフタル酸成分を全ジカルボン酸成分に対して18モル%共重合させたポリエチレン-2,6-ナフタレートとイソフタル酸成分を全ジカルボン酸成分に対して15モル%共重合させたポリエチレンテレフタレートを50:50の重量比で混合したものである。」

2 引用発明4
上記1の記載に基づけば、引用文献4には、実施例2の反射フィルムとして、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「平均粒径0.2μm、長径と短径の比が1.05、粒径の標準偏差が0.15の真球状シリカ粒子を0.1wt%添加したポリエチレンー2,6-ナフタレート(PEN)を第一の層の樹脂として調製し、不活性粒子を含まないイソフタル酸を12モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(IA12)を第二の層の樹脂として調製し、それぞれの樹脂を170℃で6時間、160℃で3時間乾燥後、押出し機に供給して溶融し、第一の層のポリマーを41層、第二の層ポリマーを40層に分岐させた後、各層のスリット幅が徐々におおきくなり、かつ、第一の層と第二の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用してその積層状態を保持したままダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして各層の厚みが徐々に変化しながら第一の層と第二の層が交互に積層された積層未延伸シートを作成し、この積層未延伸シートを150℃の温度で縦方向に3.5倍延伸し、更に155℃の延伸温度で横方向に5.5倍に延伸し、230℃で3秒間熱固定処理を行って得られた反射フィルムであって、全体厚み14μm、第一の層の最大厚み約0.25μm、第一の層の最小厚み約0.18μ、第二の層の最大厚み0.16μmおよび第二の層の最小厚み0.12μmであり、両層ともにほぼ連続的に厚みが変化している、反射フィルム。
ここで、上記積層未延伸シートは、第一の層と第二の層の押出し量が1:0.8になるように調整し、かつ、両端層が第一の層になるように積層したものである。」

3 引用文献2の記載事項
令和2年11月27日付けの拒絶の理由に引用された、引用文献2(特表2012-509496号公報)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【請求項1】
(a)少なくとも0.15の面内複屈折を632.8nmにて有する複屈折熱可塑性ポリマーを含む少なくとも1つの第1光学層と、
(b)0.040未満の面内複屈折を632.8nmにて有する少なくとも1つの第2光学層と、を含み、前記第2光学層が、少なくとも1つの複屈折熱可塑性ポリマー及び少なくとも1つの第2熱可塑性ポリマーからなる、20?80モル%の共重合ブレンドを含む、多層光学フィルム。
・・・省略・・・
【請求項5】
前記第2光学層の前記複屈折熱可塑性ポリマーが、PEN、coPEN、PBN、又はcoPBNを含む、請求項1に記載の多層光学フィルム。
・・・省略・・・
【請求項7】
前記第2光学層の前記第2熱可塑性ポリマーが、PET、PETg、coPET、PBT、及びcoPBTからなる群から選択される、請求項1に記載の多層光学フィルム。」

(2)「【0021】
図1は、例えば、光学的偏光子(Optical Polarizer)又はミラーとして使用してよい多層ポリマーフィルム10を示す。フィルム10は、1つ以上の第1光学層12、1つ以上の第2光学層14、及び所望により、1つ以上の(例えば、非光学的な)追加の層18を含む。図1は、少なくとも2つの材料の、交互層12、14を有する多層積層体を含む。一実施形態では、層12及び14の材料は、ポリマーである。一般に、層同士の強制アセンブリ工程(layer-by-layer forced assembly process)を用いて多層膜10を作製することができる。
・・・省略・・・
【0022】
高屈折率層12の1つの面内方向での面内屈折率n1は、同じ面内方向での低屈折率層14の面内屈折率n2より大きい。層12、14間の各境界での屈折率差によって、光線の一部が反射される。多層光学フィルム10の透過特性及び反射特性は、層12、14間の屈折率差によって生じる光のコヒーレント干渉及び層12、14の層厚に基づいている。等価屈折率(又は法線入射の場合の面内屈折率)が、層12、14間で異なる場合、隣接層12、14間の界面は、反射面を形成する。界面の反射能層は、層12、14の等価屈折率間の差の二乗(例、(n_(1)-n_(2))^(2))に依存する。層12、14間の屈折率差を増大させることによって、改善された屈折力(より高い反射率)、より薄いフィルム(より薄い又はより少ない層)、及びより広い帯域幅性能を達成することができた。
【0023】
一実施形態では、層12、14の材料は本来的に異なった屈折率を有する。別の実施形態では、層12、14の材料の少なくとも1つが、応力誘発性複屈折の性質を有し、材料の屈折率(n)が、延伸加工の影響を受けるようにする。多層光学フィルム10を一軸方向乃至二軸方向の範囲にわたって延伸することによって、異なった配向をした面-偏光入射光に対して様々な反射率を持つフィルムを作製することができる。
【0024】
代表的実施形態では、多層光学フィルム10は、数十、数百又は数千の層を包含し、各層は多数の異なった材料のいずれかから作製することができる。特定積層体のための材料選択を決定する特性は、多層光学フィルム10の望ましい光学性能による。多層光学フィルム10は、積層体内の層が多くなればなる程、多くの材料を含有することができる。しかし、図示を容易にするために、光学薄膜積層体の代表的実施形態は、わずか2?3種類の異なった材料を示す。
【0025】
一実施形態では、多層光学フィルム10内の層の数は、フィルム厚、柔軟性及び経済性の理由により、最小数の層を使用して所望の光学特性を達成するように選択する。偏光子及びミラーなどの反射性フィルムの場合、層の数は、より好ましくは約2,000未満、より好ましくは約1,000未満、更により好ましくは約500未満である。
【0026】
いくつかの実施形態では、多層ポリマーフィルムは更に、任意の追加的な非光学又は光学層を含む。追加の層18は、積層体16内に配置されたポリマー層である。このような追加層は光学層12、14を損傷から保護し、共押出加工を補助し、及び/又は後処理機械特性を向上させる場合がある。追加の層18は多くの場合、光学層12、14より厚い。追加の(例えば、薄層)層18の厚みは通常、個々の光学層12、14の厚みの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも4倍、より好ましくは少なくとも10倍である。付加層の厚み18は、特定の厚みを有する多層高分子フィルム10を作製するために変化し得る。典型的には、1つ以上の追加の層18は、光学層12、14によって透過、偏光及び/又は反射される光の少なくとも一部もまた、当該追加の層を通って伝わるように定置される(即ち、追加の層は、光学層12、14を通って伝わる又は光学層12、14によって反射される光路内に定置される)。
【0027】
多層光学フィルム10の一実施形態は、低屈折率/高屈折率フィルム層の複数ペアからなり、ここでは、各低屈折率/高屈折率層のペアが、反射するように設計された帯域の中心波長の1/2の光学的な結合厚さを有する。このようなフィルムの積層体は、一般に4分の1波長積層と呼ばれる。可視波長及び近赤外波長に対応する多層光学フィルムの場合、4分の1波長積層の設計は、約0.5マイクロメートル以下の平均厚さを有する多層積層体内の各層12、14を生じる。その他の代表的実施形態では、例えば、広帯域反射光学フィルムが所望される場合、異なる低屈折率/高屈折率層のペアは、異なる光学的な結合厚さを有してよい。
・・・省略・・・
【0029】
更に、非対称反射性フィルム(不均衡二軸延伸から生じたフィルムなど)が、特定の応用には望ましい場合がある。その場合、例えば、可視スペクトル(約380nm?750nm)の帯域幅にわたって、又は可視スペクトル及び近赤外(例えば、約380nm?850nm)にわたって、1つの延伸方向に沿った平均透過率は、望ましくは、例えば、約50%未満であってよく、一方で、その他の延伸方向に沿った平均透過率は、望ましくは、例えば、約20%未満であってよい。
・・・省略・・・
【0031】
光学層12、14及び多層高分子フィルム10の任意の追加の層18は、典型的には、ポリエステルなどのポリマーで構成される。ポリエステルは、カルボキシレート及びグリコールサブユニットを含み、カルボキシレートモノマー分子とグリコールモノマー分子とを反応させることによって生成される。それぞれのカルボキシレートモノマー分子は、2つ以上のカルボン酸又はエステル官能基を有し、それぞれのグリコールモノマー分子は2つ以上のヒドロキシ官能基を有する。カルボキシレートモノマー分子は、全て同じであるか、2つ以上の異なる分子タイプであるかであってよい。グリコールモノマー分子についても同様である。ポリマー層又はフィルムの特性は、ポリエステルのモノマー分子における特定の選択によって異なる。
【0032】
前述したように、面内複屈折性は、偏光子として利用される多層光学フィルムなどの多くのタイプの多層光学フィルムにとって重要である。第1光学層(単一又は複数)は、配向後に面内複屈折性(n_(x)-n_(y)の絶対値)(少なくとも0.10、好ましくは少なくとも0.15)を有する複屈折ポリマーから調製される。
・・・省略・・・
【0042】
本明細書に記載された第2光学層14は、少なくとも1つの複屈折熱可塑性ポリマーと少なくとも1つの第2熱可塑性ポリマーとの共重合(即ち、エステル交換反応(transesterfication)によって)ブレンドを含む。」

(2)「【0063】
以下の実施例にて示すように、ほぼ100%のランダム性を有するcoPEN樹脂は、多層光学フィルム構造体にて貧弱な接着性を示す得るということが見出された。他方では、多層光学フィルムの第2層が複屈折ポリマーを含む共重合ブレンドを含む場合には、層間接着力は著しく向上する。理論に束縛されるものではないが、第2層中の複屈折ポリマーのブロックが、隣接した複屈折層中に拡散して相当数の絡みを形成し、加えて界面層をまたいで共晶化(co-crystallites)すると推察される。第2光学層中に存在する複屈折ポリマーのブロックは、これらのブロックが第1光学層と実質的に同一のカルボキシレート及びグリコールサブユニットを含有する場合には、界面をまたいで拡散する傾向が強い。
・・・省略・・・
【0067】
本明細書で記載されるように、多層光学フィルムが共重合ブレンドを含む場合、(実施例に記載されているように)90°剥離試験にしたがって測定した場合の第1光学層と第2光学層との間の層間接着力は、かなり改善可能である。いくつかの実施形態では、層間接着力は少なくとも300g/インチ(118.1g/cm)、又は400g/インチ(157.5g/cm)であり、好ましくは少なくとも500g/インチ(196.9g/cm)である。600g/インチ(236.2g/cm)、800g/インチ(314.9g/cm)及び1,000g/インチ(393.7g/cm)を超える層間接着力が得られた。
・・・省略・・・
【0106】
90°剥離試験方法:
試験する多層光学フィルムを25.4mm幅のストリップ試験片に切断した。同一幅の両面接着テープ(3M Co.からのスコッチ(Scotch)(登録商標) テープ#396)を使用して、フィルムストリップ試験片をガラス基材(約50mm×150mm)に付着させた。接着テープを多層光学フィルムストリップ試験片全体の頂上に直接供し、更にガラス基材の中央部分に付着させた。また、テープストリップの長さは、手で掴むことができるよう、基材より更に長く付着したテープストリップの端でぶらさげ、未接着のままにした。フィルムの剥離(層間剥離)では、最初にフィルムストリップ試験片を過度に剥離することを避けるために、フィルムストリップ試験片の先端から1/4インチ(0.635cm)の場所を親指でしっかりと押さえ、テープストリップのこの遊離端を鋭く素早く引っ張った。次いで、剥離を始めたプラークをスリップ/ピール試験機(Slip/Peel Tester)(Instrumentors,Inc.)(オハイオ州ストロングスビル(Strongsville))に取り付けた。テープストリップに付着しているフィルムストリップ試験片部分を90°の剥離角、2.54cm/秒、25℃及び50%の相対湿度にて基材から剥離した。測定された剥離強度における誤差は、典型的には、20%以下であると推定した。
・・・省略・・・
【0116】
【表6】



(3)図1「



4 引用文献Bの記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、引用文献B(特表2008-517139号公報)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

「【0024】
図1は、例えば、光学偏光子またはミラーとして使用される、多層ポリマーフィルム10を示す。フィルム10は、1つまたは複数の第1光学層12、1つまたは複数の第2光学層14、1つまたは複数の非光学層18を含む。第1光学層12は好ましくは、一軸または二軸延伸された複屈折性ポリマー層である。第2光学層14は、複屈折性であり、一軸または二軸延伸された複屈折性ポリマー層でもあり得る。しかしながら、さらに一般的には、第2光学層14は、延伸後の第1光学層12の屈折率のうちの少なくとも1つと異なる等方性屈折率を有する。
・・・省略・・・
【0059】
第2光学層および非光学スキン層の形成に有用な他のコポリエステルは、コポリエステルとポリカーボネートとのブレンド、例えばビスフェノールAを含有する新たな脂環式コポリエステルにエステル交換反応することができる、脂環式コポリエステル(coPETなど)とポリカーボネートとのブレンドである。これらのコポリエステル-カーボネートは、100℃を超える、または105℃を超える、または110℃を超えるTgと共に、1.57以下である低い面内屈折率(つまり、n_(x)またはn_(y)、またはその両方)を有する。かかるコポリエステルは、商標キシレックス(Xylex)でGEプラスチックス(GE Plastics)社から市販されており、他のコポリエステルは、商標SA115でイーストマン・ケミカル社(Eastman Chemical)から市販されている。一部の実施形態において、更なるポリカーボネートをキシレックス(Xylex)またはSA115のいずれかとブレンドして、寸法安定性を向上するためにポリマーブレンドのTgを高めることができる。
【0060】
第2光学層および非光学スキン層の形成に有用な他のコポリエステルは、ビスフェノールAを含有する新たな脂環式コポリエステルにエステル交換反応することができる、脂環式CoPENとポリカーボネートとのブレンドである。これらのcoPENポリマーは、110℃を超えるTgと共に1.64以下である低い面内屈折率(つまり、n_(x)またはn_(y)、またはその両方)を有する。一部の実施形態において、コポリエステルとポリカーボネートのポリマーブレンドは、ポリカーボネートを少なくとも20モル%含有する。
【0061】
同様な材料および同様な量の各材料を用いて、第1光学層12または第2光学層14と同様なコポリエステルから、非光学層18もまた製造される。第1光学層12、第2光学層14、および非光学層18のポリエステルは、同様な流動学的特性(例えば、溶融粘度)を有するように選択され、そのため、共押出し成形することができる。第2光学層14および非光学層18は、第1光学層12のガラス転移温度よりも約40℃未満または以下高いガラス転移温度、Tgを有することができる。好ましくは、第2光学層14および非光学層18のガラス転移温度は、第1光学層12のガラス転移温度未満である。」

第6 対比・判断
1 引用発明4を主引用例とした場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明4とを対比する。

(ア)外層、第1層及び第2層
引用発明4の「反射フィルム」は、「第一の層のポリマーを41層、第二の層ポリマーを40層に分岐させた後、」「第一の層と第二の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用してその積層状態を保持したままダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして各層の厚みが徐々に変化しながら第一の層と第二の層が交互に積層された積層未延伸シートを作成し、この積層未延伸シートを150℃の温度で縦方向に3.5倍延伸し、更に155℃の延伸温度で横方向に5.5倍に延伸し、230℃で3秒間熱固定処理を行って得られた」ものであり、上記「上記積層未延伸シートは、」「両端層が第一の層になるように積層したものである」。
上記構成からみて、引用発明4の「反射フィルム」は、最も外側に2つの「第一の層」が位置し、その間に「第一の層」及び「第二の層」が交互に積層された構成を有しているといえる。そうしてみると、引用発明4の「第一の層」のうち最も外側に位置する「第一の層」は、本件発明1の「外層」に相当し、その間の「第一の層」及び「第二の層」は、それぞれ本件発明1の「第1層」及び「第2層」に相当する。
また、上記構成からみて、引用発明4の「第一の層」及び「第二の層」は、交互に重なる配置であるといえる。そうしてみると、引用発明4の「第一層」と「第2層」は、本件発明1の「第1層」と「第2層」の、「2つの外層の間にある、」「交互に重なる」という要件を満たす。

(イ)熱可塑性複屈折性多層光学フィルム
引用発明4の「第一の層」及び「第二の層」は、「平均粒径0.2μm、長径と短径の比が1.05、粒径の標準偏差が0.15の真球状シリカ粒子を0.1wt%添加したポリエチレンー2,6-ナフタレート(PEN)を第一の層の樹脂として調製し」、「不活性粒子を含まないイソフタル酸を12モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(IA12)を第二の層の樹脂として調製し」て作成されたものである。
これらの材料、上記(ア)の構成及び製造方法並びにその機能からみて、引用発明4の「反射フィルム」は、熱可塑性及び複屈折性を有し、第一の層及び第二の層という多数の層を含む、光学フィルムといえる。
そうしてみると、引用発明4の「反射フィルム」は、本件発明1の「熱可塑性複屈折性多層光学フィルム」に相当し、上記(ア)の対比結果からみて、本件発明1における、「2つの外層の間にある、」「交互に重なる第1層と第2層を含み」という要件を満たす。

(ウ)外層の厚さ、外層の間にある層の厚さ
引用発明4の「第一の層」は、「最大厚み約0.25μm」、「最小厚み約0.18μ」であり、「第二の層」は、「最大厚み0.16μm」、「最小厚み0.12μm」である。
この構成及び上記(ア)の対比結果からみて、引用発明4は、本件発明1の「2つの外層の両方が300nmより薄いが、150nmより厚く、」「2つの外層の間にある層がいずれも350nmより厚くはなく」という要件を満たす。

(エ)外層の材料
上記(ア)で述べたとおり、引用発明4の「第一の層」のうち最も外側に位置する「第一の層」が、本件発明1の「外層」に相当する。
そうしてみると、引用発明4は、本件発明1の「2つの外層の両方が、第1層又は第2層と同じ材料を含有し」という要件を満たす。

(オ)熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの厚さ、層数
引用発明4の「反射フィルム」は、「全体厚み14μm」である。そうしてみると、上記(イ)の対比結果から、引用発明4の「反射フィルム」は、本件発明1の「熱可塑性複屈折性多層光学フィルム」の、「20マイクロメートルより薄く」という要件を満たす。
また、上記(ア)の構成からみて、引用発明4の「反射フィルム」の層数は、81層(「41層」+「40層」)である。そうしてみると、上記(イ)の対比結果から、引用発明4の「反射フィルム」は、本件発明1の「熱可塑性複屈折性多層光学フィルム」の、「200層より少ない」という要件を満たす。

イ 一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明4とは、
「 熱可塑性複屈折性多層光学フィルムであって、
2つの外層の間にある、線形層特性を有する交互に重なる第1層と第2層を含み、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの前記2つの外層の両方が300nmより薄いが、150nmより厚く、
前記2つの外層の間にある層がいずれも350nmより厚くはなく、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの前記2つの外層の両方が、第1層又は第2層と同じ材料を含有し、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムが20マイクロメートルより薄く、
前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムが200層より少ない、熱可塑性複屈折性多層光学フィルム。」
の点で一致し、以下の点で相違、あるいは一応相違する。

(相違点1)
本件発明1は、[A]「前記第1の層と前記第2の層の一方がポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含み」、[B]「前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの前記2つの外層の両方が300nmより薄いが、150nmより厚く、」[C]「前記熱可塑性複屈折性多層光学フィルムの最低平均層間剥離が、250g/インチ以上であ」るのに対して、引用発明4は、2つの外層の両方は、300nmより薄いが、150nmより厚いものである一方、第1の層又は第2の層の材料は異なり、最低平均層間剥離が不明である点。
(当合議体注:本件明細書の【0010】、【0012】?【0022】の記載から、上記[A]?[C]の発明特定事項は、第1層と第2層の一方がポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含む構成において、外層の厚みを特定の範囲に薄くすることにより、最低平均層間剥離(層間接着力)が大きくなるという技術的関連性の観点から、ひとまとまりの構成(相違点)として認定した。なお、[B]は、一致点に含まれるものの上記の観点から相違点に含めた。)

(相違点2)
「交互に重なる第1層と第2層」が、本件発明1は、「線形層特性を有する」のに対して、引用発明4は、これが明らかでない点。

ウ 判断
相違点1について検討する。
(ア) 引用文献4には、反射フィルムの第一の層又は第二の層の材料をポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含むようにすること、反射フィルムの最低平均層間剥離(層間接着力)を大きくする(250g/インチ以上とする)ことについては、記載も示唆もされていない。

(イ) ここで、引用文献2には、「多層光学フィルムが共重合ブレンドを含む場合、(実施例に記載されているように)90°剥離試験にしたがって測定した場合の第1光学層と第2光学層との間の層間接着力は、かなり改善可能である。いくつかの実施形態では、層間接着力は少なくとも300g/インチ(118.1g/cm)、又は400g/インチ(157.5g/cm)であり、好ましくは少なくとも500g/インチ(196.9g/cm)である。600g/インチ(236.2g/cm)、800g/インチ(314.9g/cm)及び1,000g/インチ(393.7g/cm)を超える層間接着力が得られた。」(【0067】)と記載されている。
また、引用文献Bには、材料として、「多層ポリマーフィルム」の「第2光学層の形成に有用な」「コポリエステルは、コポリエステルとポリカーボネートとのブレンド」「である。これらのコポリエステル-カーボネートは、100℃を超える、または105℃を超える、または110℃を超えるTgと共に、1.57以下である低い面内屈折率(つまり、n_(x)またはn_(y)、またはその両方)を有する。」(【0024】、【0059】、【0060】)と記載されている。
しかしながら、引用文献2及び引用文献Bのいずれにも、多層光学フィルムの第1層と第2層の一方がポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含む構成において、多層光学フィルムの外層の厚みを特定の範囲に薄くすることにより、最低平均層間剥離(層間接着力)を250g/インチ以上と大きくするという技術思想については記載も示唆もない。
さらに進んで検討する。
仮に、引用文献Bの上記記載に接した当業者が、引用発明4において、引用文献Bの「第2光学層」に対応する、「第二の層」を、ポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含む構成とすることを試みたとしても、そのような設計変更を施してなる引用発明4(反射フィルム)において、250g/インチ以上の最低平均層間剥離(層間接着力)となるかどうかどうか分からない(当合議体注:引用発明4は、その製造工程及びその構造(第一の層の材料、第一の層の厚み、第二の層の材料及び第二の層の厚み)を前提とする。そして、最低平均層間剥離・層間接着力は、フィルムの製造工程や、各層の材料・組成やその特性、各層の厚みに依存する。してみると、引用発明4における「第二の層」をポリカーボネート及びコポリエステルの配合物を含む構成としたものにおいて、250g/インチ以上の(層間接着力)が得られるかどうか分からない。)。
以上総合すると、引用文献2及び引用文献Bには、相違点1に係る構成は記載も示唆もされていない。

(ウ) 以上のとおりであるから、当業者であっても、引用発明4において、引用文献2及び引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、容易になし得たこととはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、引用文献4に記載された発明及び引用文献2並びにBに記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?8も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献4に記載された発明及び引用文献2に記載された発明並びに引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 引用発明2を主引用例とした場合
(1)本件発明1について
本件発明1と、上記3の引用文献2の【0021】、【0031】、【0032】、【0042】及び図1等の記載から理解される、「多層ポリマーフィルム10」(「多層光学フィルム10」)の発明(以下「引用発明2」という。)とを対比すると、少なくとも前記1(1)イの相違点1と同様な相違点が見いだされる。
そうしてみると、前記1(1)ウで述べた理由と同様な理由により、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?8も、本件発明1と同じ理由により、引用文献2に記載された発明並びに引用文献B及び引用文献4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 当合議体が通知した特許法第36条6項2号の理由について
令和3年4月28日付け手続補正書による手続補正で、当合議体が通知した拒絶の理由2(上記「第3」2)は解消した。

第8 原査定の理由についての判断
上記第5、第6(2)で述べたように、本件発明1?8は、原査定における引用文献A(当審拒絶理由における引用文献2)及び引用文献Bに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-07-13 
出願番号 特願2016-540339(P2016-540339)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
P 1 8・ 537- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井亀 諭
河原 正
発明の名称 多層光学フィルム  
代理人 佃 誠玄  
代理人 浅村 敬一  
代理人 赤澤 太朗  
代理人 野村 和歌子  

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