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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1376353
審判番号 不服2020-8482  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-18 
確定日 2021-07-21 
事件の表示 特願2014-101747「有機発光表示装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月 2日出願公開、特開2015- 23023〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-101747号(以下、「本件出願」という。)は、平成26年5月15日(パリ条約による優先権主張 2013年7月22日 韓国)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 3月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月 3日 :手続補正書
平成30年 7月 3日 :意見書
平成30年12月 5日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 5月10日 :手続補正書
令和 元年 5月10日 :意見書
令和 元年10月21日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月27日 :手続補正書
令和 2年 1月27日 :意見書
令和 2年 2月 6日付け:拒絶査定
令和 2年 6月18日 :審判請求書
令和 2年 6月18日 :手続補正書
令和 3年 1月15日 :上申書
令和 3年 1月26日 :面接

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年6月18日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年1月27日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された複数個の有機発光素子を有するディスプレイ部と、
前記ディスプレイ部を密封する封止層と、
前記ディスプレイ部と前記封止層との間に配される保護層と、を含み、
前記有機発光素子は、画素電極、前記画素電極上に配され、有機発光層を含む中間層、及び前記中間層上に配された対向電極を備え、
前記保護層は、前記対向電極の下の層と接する面以外の前記対向電極の側面および上面と接し前記対向電極を覆う有機化合物からなるキャッピング層と、前記キャッピング層上に位置する遮断層と、を含み、
前記遮断層は、前記キャッピング層と接して前記キャッピング層を覆い、
前記封止層は、少なくとも第1無機膜、第1有機膜及び第2無機膜が順次に積層された構造を有し、
前記第1無機膜は、前記キャッピング層と接する部分以外の前記遮断層の側面および上面と接し前記遮断層を覆い、
前記第2無機膜は、前記第1有機膜と接して前記第1有機膜を覆い、前記第1無機膜を取り囲むように設けられる有機発光表示装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は(実質的な)補正箇所を示す。

「【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された複数個の有機発光素子を有するディスプレイ部と、
前記ディスプレイ部を密封する封止層と、
前記ディスプレイ部と前記封止層との間に配される保護層と、を含み、
前記有機発光素子は、画素電極、前記画素電極上に配され、有機発光層を含む中間層、及び前記中間層上に配された対向電極を備え、
前記保護層は、前記対向電極の下の層と接する面以外の前記対向電極の側面および上面と接し前記対向電極の上面及び側面を覆う有機化合物からなるキャッピング層と、前記キャッピング層上に位置する遮断層と、を含み、
前記遮断層は、前記キャッピング層と接して前記キャッピング層を覆い、
前記封止層は、少なくとも第1無機膜、第1有機膜及び第2無機膜が順次に積層された構造を有し、
前記第1無機膜は、前記キャッピング層と接する部分以外の前記遮断層の側面および上面と接し前記遮断層を覆い、
前記第2無機膜は、前記第1有機膜と接して前記第1有機膜を覆い、前記第1無機膜を取り囲むように設けられる有機発光表示装置。」

(3)本件補正についての判断
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「キャッピング層」を、「前記対向電極の側面および上面と接し前記対向電極を覆う有機化合物からなる」というものから、「前記対向電極の側面および上面と接し前記対向電極の上面及び側面を覆う有機化合物からなる」というものにする補正である。
そして、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0005】)。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、本件補正後発明が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件についての判断(進歩性)
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2013-140791号公報(以下「引用文献2」という。)は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
…中略…
【0005】
また、有機発光表示装置は、外部の水分や酸素などにより劣化する特性を有するので、外部の水分や酸素などから有機発光素子を保護するために、有機発光素子を密封する必要がある。
【0006】
最近、有機発光表示装置の薄型化及び/またはフレキシブル化のために、有機発光素子を密封する手段として、有機膜と無機膜とを含む複数層で構成された薄膜封止(Thin Film Encapsulation: TFE)が利用されている。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付された図面を参照して、本発明の望ましい実施形態についてより詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態による有機発光表示装置1を概略的に示す断面図であり、図2は、図1の有機発光表示装置1の一画素領域を概略的に示す断面図である。
【0028】
図1及び図2を参照すれば、一実施形態による有機発光表示装置1は、基板200と;基板200上に配置された画素電極410と、画素電極410上に配置され、光透過が可能に備えられた対向電極430と、画素電極410と対向電極430との間に介在され、少なくとも対向電極430に向かって光を放出する有機発光層420を備える有機発光素子(Organic Light-Emitting Device: OLED)400と;対向電極430上であって、有機発光層420から放出された光の経路上に配置され、無機膜510、及び無機膜510により分離されている複数層の有機膜520を備える透光層500と;を備える。
【0029】
本実施形態の透光層500は、二層の無機膜511,512と、無機膜511,512により分離されている三層の有機膜521,522,523とを備える。対向電極430と接するように配置された第1有機膜521と、透光層500の最外郭に配置された第2有機膜522とは、第1屈折率を有する第1物質520-1と、第2屈折率を有する第2物質520-2とを含む。前記第1屈折率は、前記第2屈折率より大きい。第1物質520-1は、第2物質520-2内に複数個が配置される。
【0030】
基板200は、可撓性基板であり、ポリエチレンエーテルフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン及びポリイミドのように、耐熱性及び耐久性に優れたプラスチックで構成される。しかし、本発明は、これらに限定されず、基板200は、金属やガラスなど多様な素材で構成されてもよい。
【0031】
基板200上には、素子/配線層300が配置され、素子/配線層300には、有機発光素子400を駆動させる駆動薄膜トランジスタTFT、スイッチング薄膜トランジスタ(図示せず)、キャパシタ、及び前記薄膜トランジスタやキャパシタに連結される配線(図示せず)が含まれる。
【0032】
駆動薄膜トランジスタTFTは、活性層310、ゲート電極330、ソース電極及びドレイン電極350a,350bを備える。
【0033】
基板200と素子/配線層300との間には、水分や酸素のような外部の異物が基板200を透過して、有機発光素子400に浸透することを防止するためのバリヤ膜210がさらに備えられる。バリヤ膜210は、無機物及び/または有機物を含み、外部の異物が基板200を透過して、素子/配線層300及び有機発光素子400に浸透することを防止する役割を行う。
【0034】
素子/配線層300上には、有機発光素子400が配置される。有機発光素子400は、画素電極410と、画素電極410上に配置された有機発光層420と、有機発光層420上に形成された対向電極430とを備える。
【0035】
本実施形態において、画素電極410は、アノードであり、対向電極430は、カソードである。しかし、本発明は、これに限定されず、有機発光表示装置1の駆動方法によって、画素電極410がカソードであり、対向電極430がアノードであってもよい。画素電極410及び対向電極430から、それぞれ正孔と電子とが有機発光層420の内部に注入される。注入された正孔と電子とが結合したエキシトンが、励起状態から基底状態になりつつ光を放出する。
【0036】
画素電極410は、素子/配線層300に形成された駆動薄膜トランジスタTFTと電気的に連結される。
…中略…
【0046】
対向電極430上には、少なくとも一層の無機膜510と、複数層の有機膜520とを備える透光層500が配置される。
【0047】
透光層500は、第1屈折率を有する第1物質520-1、及び第1屈折率より低い第2屈折率を有する第2物質520-2を含む第1有機膜521と、第2有機膜522とを備え、第1有機膜521は、対向電極430に接するように配置され、第2有機膜522は、複数層の有機膜520のうち最外郭に配置される。
【0048】
本実施形態による透光層500は、第1有機膜521と第2有機膜522との間に、二層の無機膜511,512と、第3有機膜523とが配置された構成について記載しているが、本発明の無機膜510と有機膜520との層数は、これに限定されない。
【0049】
無機膜510は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物及びそれらの化合物で構成され、例えば、アルミニウム酸化物であり、その他にシリコン酸化物またはシリコン窒化物などである。無機膜510は、外部の水分及び/または酸素などが有機発光素子400に浸透することを抑制する機能を行う。
…中略…
【0081】
また、本発明の無機膜510と有機膜520との形成手順や、無機膜510と有機膜520とが交互に形成される回数は、前記実施形態に限定されない。
…中略…
【0090】
図8は、本発明のさらに他の実施形態による有機発光表示装置3を概略的に示す断面図である。図8を参照すれば、他の構成は、図1及び図2の実施形態による有機発光表示装置1と同じであり、有機発光素子400と透光層500との間に、第1保護層600がさらに備えられ、透光層500上に第2保護層700と光学部材800とがさらに備えられるという点で差がある。
【0091】
透光層500は、交互に配置された複数層の無機膜510と、複数層の有機膜520とを備え、有機膜520は、有機発光素子400と接するように配置された第1有機膜521と、透光層500の最外郭に配置された第2有機膜522と、第1有機膜521と第2有機膜522との間に配置された第3有機膜523とを備える。
【0092】
ここで、第1有機膜521と第2有機膜522とは、第1屈折率を有する第1物質520-1と、第1屈折率より低い第2屈折率を有する第2物質520-2とを含む。
【0093】
この時、第1屈折率は、1.5以上であり、望ましくは、2.0以上である。また、第1物質520-1は、第2物質520-2内に複数個が配置され、球形であり、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)及びケイ素(Si)のうちいずれか一つを含み、直径が0.1μmないし5μmである。
【0094】
第2物質520-2は、アクリル、ポリイミド、ポリカーボネートのような樹脂であり、単量体で構成される。
【0095】
本実施形態の透光層500は、第1有機膜521と第2有機膜522との間に配置された無機膜511,512及び第3有機膜523を備え、対向電極430と透光層500との間には、第1保護層600が配置される。
【0096】
第1保護層600は、キャッピング層610と無機層620とで構成され、キャッピング層610は、8-キノリノラトリチウム、N,N-ジフェニル-N,N-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4’-ジアミン、N(ジフェニル-4-イル)9,9-ジメチル-N-(4(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン、または2-(4-(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン-2-イル)フェニル)-1-フェニル-1H-ベンゾ-[D]イミダゾールなどを含み、無機層620は、LiFなどを含む。
【0097】
第1保護層600は、有機発光表示装置3の使用中または製造過程で、対向電極430が損傷されることを防止する役割を行う。
【0098】
透光層500上には、第2保護層700と光学部材800とが配置される。第2保護層700は、無機物を含み、第2有機膜522と類似した屈折率を有する。第2保護層700は、外部の水分及び/または酸素が、透光層500及び有機発光素子400に浸透することを防止する役割を行う。
【0099】
光学部材800は、位相遅延板810と偏光板820とを備え、位相遅延板810は、1/4波長板(λ/4 plate)である。
【0100】
本実施形態の光学部材800は、外光の反射を抑制して、有機発光表示装置3の視認性とコントラストとを向上させる役割を行う。
【0101】
他の構成は、図1及び図2の実施形態による有機発光表示装置1と同じであるので、その説明を省略する。」

ウ 「【図1】



エ 「【図8】



(2)引用発明
ア 引用文献2の【0027】?【0029】には、「基板200と;基板200上に配置された画素電極410と、画素電極410上に配置され、光透過が可能に備えられた対向電極430と、画素電極410と対向電極430との間に介在され、少なくとも対向電極430に向かって光を放出する有機発光層420を備える有機発光素子(Organic Light-Emitting Device: OLED)400と;対向電極430上であって、有機発光層420から放出された光の経路上に配置され、無機膜510、及び無機膜510により分離されている複数層の有機膜520を備える透光層500と;を備え」、「透光層500は、二層の無機膜511,512と、無機膜511,512により分離されている三層の有機膜521,522,523とを備える」、図1の「有機発光表示装置1」が記載されている。

イ 図8の「有機発光表示装置3」に関して、引用文献2の【0090】には、「他の構成は、図1及び図2の実施形態による有機発光表示装置1と同じであり、有機発光素子400と透光層500との間に、第1保護層600がさらに備えられ、透光層500上に第2保護層700と光学部材800とがさらに備えられるという点で差がある。」と記載されている。そうしてみると、引用文献2には、上記アの「有機発光表示装置1」の構成において、「有機発光素子400と透光層500との間に、第1保護層600がさらに備えられ、透光層500上に第2保護層700と光学部材800とがさらに備えられ」た、図8の「有機発光表示装置3」が記載されている。

ウ 図8の「有機発光表示装置3」に関して、引用文献2の【0096】には、「第1保護層600は、キャッピング層610と無機層620とで構成され、キャッピング層610は、8-キノリノラトリチウム、N,N-ジフェニル-N,N-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4’-ジアミン、N(ジフェニル-4-イル)9,9-ジメチル-N-(4(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン、または2-(4-(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン-2-イル)フェニル)-1-フェニル-1H-ベンゾ-[D]イミダゾールなどを含み、無機層620は、LiFなどを含む。」ことが記載されている。また、図8からみて、「無機層620」は、「キャッピング層610」上に接して設けられるものである。

エ 上記ア?ウを勘案すると、引用文献2には、次の「有機発光表示装置3」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 基板200と;
基板200上に配置された画素電極410と、画素電極410上に配置され、光透過が可能に備えられた対向電極430と、画素電極410と対向電極430との間に介在され、少なくとも対向電極430に向かって光を放出する有機発光層420を備える有機発光素子400と;
対向電極430上であって、有機発光層420から放出された光の経路上に配置され、無機膜510、及び無機膜510により分離されている複数層の有機膜520を備える透光層500と;を備え、
透光層500は、二層の無機膜511,512と、無機膜511,512により分離されている三層の有機膜521,522,523とを備え、
有機発光素子400と透光層500との間に、第1保護層600がさらに備えられ、透光層500上に第2保護層700と光学部材800とがさらに備えられ、
第1保護層600は、キャッピング層610と、キャッピング層610上に接して設けられた無機層620とで構成され、キャッピング層610は、8-キノリノラトリチウム、N,N-ジフェニル-N,N-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4’-ジアミン、N(ジフェニル-4-イル)9,9-ジメチル-N-(4(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン、または2-(4-(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン-2-イル)フェニル)-1-フェニル-1H-ベンゾ-[D]イミダゾールなどを含み、無機層620は、LiFなどを含む、
有機発光表示装置3。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 基板
前記(2)エで述べた引用発明の構成からみて、引用発明の「基板200」は、本件補正後発明の「基板」に相当する。

イ 有機発光素子及びディスプレイ部
前記(2)エで述べた引用発明の構成からみて、引用発明の「有機発光素子400」は、「基板200」の上に形成され、その文言が意味するとおり機能する。また、表示装置に関する技術常識を考慮すると、引用発明の「有機発光表示装置3」が、複数個の「有機発光素子400」を有する領域を具備することは、明らかである(この領域を、以下「表示領域」という。)。
そうすると、引用発明の「有機発光素子400」及び「表示領域」は、それぞれ本件補正後発明の「有機発光素子」及び「ディスプレイ部」に相当する。また、引用発明の「表示領域」は、本件補正後発明の「ディスプレイ部」における、「前記基板上に形成された複数個の有機発光素子を有する」とされる要件を満たす。
さらに、前記(2)エで述べた「有機発光素子400」の構成からみて、引用発明の「有機発光素子400」は、「画素電極410」、「有機発光層420」及び「対向電極430」が、この順に積層されたものである。
そうすると、引用発明の「画素電極410」、「有機発光層420」及び「対向電極430」は、それぞれ本件補正後発明の「画素電極」、「前記画素電極上に配され、有機発光層を含む」とされる「中間層」、及び「前記中間層上に配された」とされる「対向電極」に相当する。また、引用発明の「有機発光素子400」は、本件補正後発明の「有機発光素子」における、「画素電極、前記画素電極上に配され、有機発光層を含む中間層、及び前記中間層上に配された対向電極を備え」との要件を満たす。

ウ 封止層
前記(2)エで述べた引用発明の構成及び「透光層500」の各層の材料からみて、引用発明の「透光層500」は、本件補正後発明の「ディスプレイ部を密封する」とされる「封止層」に相当する(当合議体注:引用文献2の【0006】の記載からも確認できることである。)。
また、前記(2)エで述べた引用発明の「透光層500」の構成及びその機能から理解される層順からみて、引用発明の「透光層500」は、「有機膜」、「無機膜」、「有機膜」、「無機膜」及び「有機膜」が順次に積層された構造を有する(当合議体注:図8からも確認できる事項である。)。
そうすると、引用発明の「透光層500」は、本件補正後発明の、「少なくとも第1無機膜、第1有機膜及び第2無機膜が順次に積層された構造を有し」及び「前記第2無機膜は、前記第1有機膜と接して前記第1有機膜を覆い」との要件を満たす。

エ 保護層
前記(2)エで述べた引用発明の構成及び各層の層順からみて、引用発明の「第1保護層600」は、本件補正後発明の「前記ディスプレイ部と前記封止層との間に配される」とされる「保護層」に相当する。

オ キャッピング層、遮断層
前記(2)エで述べた引用発明の構成から理解される各層の層順並びに「キャッピング層610」の材料及び機能からみて、引用発明の「キャッピング層610」及び「無機層620」は、それぞれ本件補正後発明の「キャッピング層」及び「遮断層」に相当する。また、引用発明の「キャッピング層610」と本件補正後発明の「キャッピング層」とは、「前記対向電極の下の層と接する面以外の前記対向電極の」「上面と接し前記対向電極の上面」「を覆う有機化合物からなる」点で共通する。さらに、引用発明の「無機層620」は、本件補正後発明の「遮断層」における、「前記キャッピング層上に位置する」及び「前記キャッピング層と接して前記キャッピング層を覆い」という要件を満たす。

カ 全体構成
上記ア?オの対比結果並びに本件補正後発明及び引用発明の全体構成を勘案すると、引用発明の「有機発光表示装置3」は、本件補正後発明の「有機発光表示装置」における「基板と」、「封止層と」、「保護層と、を含み」という要件を満たす。また、引用発明の「第1保護層600」は、本件補正後発明の「保護層」における、「キャッピング層と」、「遮断層と、を含み」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「基板と、
前記基板上に形成された複数個の有機発光素子を有するディスプレイ部と、
前記ディスプレイ部を密封する封止層と、
前記ディスプレイ部と前記封止層との間に配される保護層と、を含み、
前記有機発光素子は、画素電極、前記画素電極上に配され、有機発光層を含む中間層、及び前記中間層上に配された対向電極を備え、
前記保護層は、前記対向電極の下の層と接する面以外の前記対向電極の上面と接し前記対向電極の上面を覆う有機化合物からなるキャッピング層と、前記キャッピング層上に位置する遮断層と、を含み、
前記遮断層は、前記キャッピング層と接して前記キャッピング層を覆い、
前記封止層は、少なくとも第1無機膜、第1有機膜及び第2無機膜が順次に積層された構造を有し、
前記第2無機膜は、前記第1有機膜と接して前記第1有機膜を覆うように設けられる有機発光表示装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は一応相違する。
(相違点1)
「キャッピング層」が、本件補正後発明は、「前記対向電極の下の層と接する面以外の前記対向電極の側面および上面と接し前記対向電極の上面及び側面を覆う」との構成であるのに対し、引用発明は、上記下線を付した構成が、一応明らかではない点。

(相違点2)
「第1無機膜」が、本件補正後発明は、「前記キャッピング層と接する部分以外の前記遮断層の側面および上面と接し前記遮断層を覆」う構成であるのに対し、引用発明は、この要件を満たす無機膜がない(図8からは「有機膜521」が接している様子が看取される)点。

(相違点3)
「第2無機膜」が、本件補正後発明は、「前記第1無機膜を取り囲むように設けられる」のに対し、引用発明は、この点が、一応明らかでない点。

(5)判断
相違点についての判断は以下のとおりである。
ア 相違点1について
引用文献2の【0005】及び【0097】には、「有機発光表示装置は、外部の水分や酸素などにより劣化する特性を有するので、外部の水分や酸素などから有機発光素子を保護するために、有機発光素子を密封する必要がある。」及び「第1保護層600は、有機発光表示装置3の使用中または製造過程で、対向電極430が損傷されることを防止する役割を行う。」と記載されている。また、「密封」や「損傷されることを防止する役割」について検討する当業者であれば、上面だけではなく側面部の保護についても、当然、検討する。
(当合議体注:例えば、特開2012-89436号公報(以下「引用文献3」という。)には、「酸素や水分が浸入するのを防止し、酸素や水分により劣化し易い共通電極50や発光層40を劣化から保護する機能を有する保護膜である」「第1封止層60」(【0056】)が記載され、図3及び図4からは、「共通電極50」の側面と接するとともに、側面を覆う構成を確認できる。また、特開2011-192660号公報(以下「引用文献4」という。)には、「陰極50の上方には、電極保護層55が形成されている」(【0131】)構成において、「電極保護層55」が「陰極50」の側面と接するとともに、側面を覆う構成を確認できる(図13)。)
そうしてみると、相違点1に係る本件補正後発明の構成は、引用文献2の記載から当業者が当然に理解可能な構成である。仮にそうでないとしても、引用発明において、上記引用文献3や引用文献4に例示される周知技術を適用し、相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用文献2の「無機膜510」は、「二層の無機膜511,512」で構成され、「外部の水分及び/または酸素などが有機発光素子400に浸透することを抑制する機能を行う。」ものであるところ、その層数について「本発明の無機膜510と有機膜520との層数は、これに限定されない。」(【0048】?【0049】)と記載されている。また、【0081】には、「本発明の無機膜510と有機膜520との形成手順や、無機膜510と有機膜520とが交互に形成される回数は、前記実施形態に限定されない。」と記載され、これら事項は引用発明にも当てはまる事項と考えられる。
そうしてみると、引用発明において、「外部の水分及び/または酸素などが有機発光素子400に浸透することを抑制する機能」を達成することや「無機層620」との関係を勘案して、「無機膜510」の層数並びに「無機膜510」及び「有機膜520」の層順を調整し、相違点2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者がとりうる選択肢の一つにすぎない。
また、「無機層620」の端部において、その側面及び上面を「無機膜510」で覆うことも、上記アで述べた事項、及び、特開2005-317476号公報(以下「引用文献6」という。)の図4,5等に見られる、有機EL表示装置の「封止体300」の端部の構成を参酌すれば、当業者が当然になし得たことである。

ウ 相違点3について
引用文献3の、【0056】?【0062】及び図2には、有機EL装置の封止に関し、「第1封止層60上には、樹脂封止層70が形成され」、「樹脂封止層70上には、第2封止層80が形成され」る構成において、「第1封止層60が形成されている領域よりも広い範囲で、第1封止層60の全面を覆うように樹脂封止層70が形成され」、「第2封止層80は、」「樹脂封止層70が形成されている領域よりも広い範囲で、樹脂封止層70の全面を覆うように形成されている。」ことが記載されている(「取り囲む」構成は、引用文献3の図2からも確認できる事項である。)。
また、引用文献6の【0029】?【0032】及び図4には、「無機系材料」の「第2バリア層321」が、「有機系材料」の「バッファ層311」、及び、「無機系材料」の「第1バリア層320」を「被覆する」ことが記載されている(当合議体注:「被覆」とは、「おおいかぶせること。」(広辞苑6版)を意味し、「おおう」とは、「露出するところがないように、全体にかぶせてしまう意。」(同)である。)。
そうしてみると、引用発明において、上記記載に基づいて、相違点3に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0043】?【0044】には、「本発明の一実施例によれば、対向電極の酸化を防止して、画素縮小(pixel shrinkage)問題を改善することができる。」及び「進行性暗点の発現を遅延させて、有機発光表示装置の寿命を向上させうる。」と記載されている。
しかしながら、引用発明は、「外部の水分及び/または酸素などが有機発光素子400に浸透することを抑制する機能を行う。」(【0049】)ものであるから、「対向電極430」の酸化が抑制されるものである。
そうしてみると、本件補正後発明の効果は、引用発明も奏するものである。

(7)請求人の主張について
請求人は、令和3年1月15日に提出した上申書の「2-2.意見」において、「本願発明において、遮断層は無機膜であることから、表示領域の端部にあたる点線内の領域では、有機化合物からなるキャッピング層は2層の無機膜によって覆われます。また、本願発明において、表示装置端部にあたる点線内の領域では、第1有機膜は、第1無機膜及び第2無機膜によって挟まれます。…中略…請求項1に係る発明は、以上説明した構成を有することで、外部から水分や酸素が浸透することを、2段階で抑制可能です。…中略…出願前において、当業者は水分や酸素の浸透を1段階で抑制することには想到し得ると考えますが、2段階で抑制する必要性は全く認識していないということになります。」と主張している(この点に関しては、令和3年1月26日に行われた面接においても、詳細かつ丁寧に技術説明を受けたところである。)。
しかしながら、この点については、前記(5)で述べたとおりである。すなわち、引用文献2の【0005】及び【0006】には、「有機発光表示装置は、外部の水分や酸素などにより劣化する特性を有するので、外部の水分や酸素などから有機発光素子を保護するために、有機発光素子を密封する必要がある。」及び「有機発光素子を密封する手段として、有機膜と無機膜とを含む複数層で構成された薄膜封止(Thin Film Encapsulation: TFE)が利用されている。」と記載されている。上記記載から理解されるとおり、引用発明の「無機膜510」及び「有機膜520」は、外部の水分や酸素などから「有機発光素子400」を保護するために、これを密封するものであるところ、「密封」とは、「隙間なく堅く封をすること。」を意味する。また、引用発明の「キャッピング層610」及び「無機層620」の材質を考慮すると、引用発明の「無機膜510」及び「有機膜520」がこれらをも密封し、保護することは明らかである。
また、本件補正後発明は、確かに、各相違点に係る構成を具備するものであるが、本件出願の願書に最初に添付した明細書には「側面を覆う」という明示的記載は存在せず、この構成は、「封止」(【0075】)、「覆う」(【0079】)といった用語から推察され、図3及び図4から看取される構成にとどまる。
以上勘案すると、各相違点に係る本件補正後発明の構成の技術的意義は、引用文献2に開示されたものを超えないと理解するのが相当である。
したがって、請求人の主張は採用することができない。


(8)小括
本件補正後発明は、引用文献2に記載された発明並びに引用文献3、4及び6に記載された事項に基づいて、本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由1を含むものである。
(理由1)本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2.特開2013-140791号公報
引用文献3.特開2012-89436号公報
引用文献4.特開2011-192660号公報
引用文献6.特開2005-317476号公報

3 理由1(29条2項)について
(1)引用文献及び引用発明
引用文献2の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

(2)対比及び判断
本願発明は、前記前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明において、「キャッピング層」が「対向電極の上面及び側面を覆う」との特定を具備しないものであるから、本願発明の範囲には、本件補正後発明が含まれる。
ここで、本願発明の範囲に含まれる本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(3)?(7)に記載したとおり、引用文献2に記載された発明並びに引用文献3、4及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明も、引用文献2に記載された発明並びに引用文献3,4及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-10 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-05 
出願番号 特願2014-101747(P2014-101747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 575- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 大輔▲うし▼田 真悟  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
関根 洋之
発明の名称 有機発光表示装置及びその製造方法  
代理人 特許業務法人PORT  

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