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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J |
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管理番号 | 1376479 |
審判番号 | 不服2019-12878 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-09-27 |
確定日 | 2021-07-27 |
事件の表示 | 特願2018-502691「バッテリ充電器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日国際公開、WO2017/013388、平成30年 7月26日国内公表、特表2018-520634〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年6月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年7月21日 英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成30年 8月29日付け:拒絶理由通知書 平成31年 2月21日 :意見書の提出 令和 1年 5月16日付け:拒絶査定 令和 1年 9月27日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 2年 1月10日 :上申書の提出 令和 2年 8月28日付け:当審による拒絶理由の通知 令和 2年12月11日 :意見書の提出 第2 本願発明 本件特許出願の請求項に係る発明は、令和1年9月27日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1から9に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された次の事項により特定されるものであると認める。 「【請求項1】 AC電源に接続するための入力端子と、充電されるべきバッテリに接続するための出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に接続されるPFC回路とを備えるバッテリ充電器であって、前記PFC回路が前記AC電源から引き込まれる入力電流を調整するための電流制御ループを備え、前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され、前記出力電流の波形が、前記入力電流の周波数の2倍の周波数および少なくとも50%のリップルで周期的である、バッテリ充電器。」 第3 令和2年8月28日付け当審の拒絶理由通知の概要 令和2年8月28日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は以下のとおりである。 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。 引用文献2:特開2012-16239号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【0029】 次に、外部充電のための構成を詳細に説明する。電動車両100は、さらに、外部充電リレー60、充電装置200を備える。充電装置200には、外部充電用のインレット205が設けられる。 【0030】 外部充電リレー60は、電動車両100の走行時にはオフされる一方で、外部充電時にオンされる。インレット205は、充電ケーブル400を介して、外部電源500と電気的に接続される。外部電源500は、代表的には商用の系統電源である。 【0031】 充電装置200は、外部電源500から供給される交流電力を、メインバッテリ10を充電するための直流電力に変換する。 【0032】 充電装置200は、DC-DC変換器210と、平滑コンデンサ220と、AC-DC変換器250と、制御装置300と、電圧センサ302,307と、電流センサ305とを含む。」 イ.「【0035】 AC-DC変換器250は、非絶縁型の電力変換器で構成されて、外部電源500からの交流電圧vac(以下、電源電圧vacとも称する)を直流電圧に変換して電源ラインPL1に出力する。平滑コンデンサ220は、電源ラインPL1および接地ラインGLの間に電気的に接続される。電圧センサ307は、電源ラインPL1の電圧、すなわち平滑コンデンサ220の直流電圧vdcを検出する。 【0036】 DC-DC変換器210は、非絶縁型の電力変換器で構成されて、電源ラインPL1および電源ラインPL2の間で直流電力変換を実行する。電源ラインPL2は、外部充電リレー60がオンすると、メインバッテリ10の正極と電気的に接続される。同様に、接地ラインGLは、外部充電リレー60がオンすると、メインバッテリ10の負極と電気的に接続される。」 ウ.「【0041】 AC-DC変換器250は、キャパシタC0と、インダクタL2と、スイッチング素子Q3および逆並列ダイオードD3と、ダイオードD4と、ダイオードブリッジを構成するダイオードD5?D8とを有する。 【0042】 キャパシタC0は、外部電源500からの電源電流iacの高周波成分を除去する。ダイオードD5?D8は、ダイオードブリッジを構成して、外部電源500からの電源電圧vacを整流して電源ラインPL3へ出力する。インダクタL2は、電源ラインPL3およびノードN2の間に電気的に接続される。電流センサ305は、インダクタL2の通過電流iLを検出する。」 エ.「【0054】 ここで、目標電流iL*を、電源電圧vacと同位相の交流電流の絶対値に設定すると、電源電流iacおよび電源電圧vacが同位相となり、外部電源500から供給される電力の力率を1に近付けることができる。これにより、電源電流iacおよび電源電圧vacの積で示される瞬時電力VAが常に正値となるので、瞬時電力VAの平均値である有効電力Peが大きくなる。すなわち、AC-DC変換器250は、AC-DC変換に加えて、PFC(Power Factor Correction)回路としても動作できる。」 オ.「【0064】 図5を参照して、上アームオン制御モードでは、DC-DC変換器210は、スイッチング素子Q1をオンに固定する。一方で、スイッチング素子Q2はオフに固定される。したがって、電源ラインPL1およびPL2は、常時電気的に接続されることになる。 【0065】 この結果、DC-DC変換器210では電流および電圧が制御されなくなり、スイッチング素子Q1を通過する電流I(Q1)およびインダクタL1の電流ILには、AC-DC変換器250でのAC-DC変換の際に発生した、電源周波数の2倍の周波数の変動成分が含まれることになる。 【0066】 図6を参照して、AC-DC変換器250は、通常制御モードと同様に動作して、外部電源500からの電源電圧vacを、電源電圧vacのピーク値よりも高い直流電圧(vdc)に変換する。 【0067】 上アームオン制御モードでは、オンに固定されるスイッチング素子Q1を介して、メインバッテリ10と平滑コンデンサ220とが接続されるため、直流電圧vdcは、バッテリ電圧VBと同等となる。そして、平滑コンデンサ220が電力バッファとして機能することはなく、AC-DC変換器250から供給される電流が、そのままメインバッテリ10を充電するバッテリ電流IBとなる。したがって、AC-DC変換器250では、目標電流iL*(図3)の大きさ(振幅)が、直流電圧vdcに応じて制御されることはなく、目標充電電流IB*に対応した定数として設定される。 【0068】 AC-DC変換器250から電源ラインPL1へ供給される電流には、通常制御モードと同様に、電源周波数の2倍の周波数のリップル成分が含まれる。このリップル成分は、DC-DC変換器210での電流IL、図5に示したスイッチング素子Q1の電流I(Q1)、およびメインバッテリ10のバッテリ電流IBの各々にもそのまま重畳される。」 カ.「【0070】 図7を参照して、制御装置300は、AC-DC変換器250を制御するための制御部320と、制御モード選択部340と、DC-DC変換器210を制御するための制御部350とを含む。 【0071】 制御部320は、減算部322,328,334と、PI演算部324,332と、制御スイッチ330と、乗算部326と、PWM制御部336とを含む。 【0072】 減算部322は、直流電圧vdcの目標電圧vdc*から、電圧センサ307により検出された直流電圧vdcを減算する。PI演算部324は、減算部322によって演算された電圧偏差Δvdcに基づく比例積分演算を実行する。PI演算部324による制御演算値は、直流電圧vdcを目標電圧vdc*に一致させるためのフィードバック演算値に相当する。 【0073】 制御スイッチ330は、制御モード選択部340からの制御信号Smに従って制御される。制御信号Smによって通常制御モードが指示されるときには、制御スイッチ330は、“a”側に制御されて、PI演算部324による制御演算値を、目標電流振幅iLAに設定する。一方、制御信号Smによって上アームオン制御モードが指示されるときには、制御スイッチ330は、“b”側に制御されて、目標充電電流IB*に対応して定められた、フィードバック演算によらない定数Iconstを、目標電流振幅iLA*に設定する。 【0074】 乗算部326は、制御スイッチ330が選択した目標電流振幅iLA*と、正弦波関数|sinωt|とを乗算することによって、目標電流iL*を算出する。このωは、外部電源500の電源周波数に対応する。 【0075】 減算部328は、乗算部326が算出した目標電流iL*と、電流センサ305によって検出された電流iLとの電流偏差ΔiLを演算する。PI演算部332は、減算部328によって演算された電流偏差ΔiLに基づく比例積分演算を実行する。減算部334は、電源電圧の絶対値|vac|からPI演算部332による制御演算値を減算することによって、制御指令値を設定する。 【0076】 PWM制御部336は、所定周波数のキャリア信号337と、減算部334からの制御指令値338との比較に基づいて、スイッチング素子Q3のオンオフ制御信号を生成する。具体的には、一般的なパルス幅変調(PWM)制御に従って、制御指令値338がキャリア信号337の電圧よりも高いときにはスイッチング素子Q3がオンされ、反対に、制御指令値338がキャリア信号337の電圧よりも低いときには、スイッチング素子Q3はオフされる。」 「【図1】 」 「【図6】 」 「【図7】 」 上記アによれば、「充電装置200には、外部充電用のインレット205が設けられる」こと、「インレット205は、充電ケーブル400を介して、外部電源500と電気的に接続される」こと、「外部電源500から供給される交流電力」であることが記載されており、充電装置200が、充電ケーブル400を介して交流電力を供給する外部電源500と電気的に接続されるインレット205を備えているといえる。 上記イによれば、「電源ラインPL2」は「メインバッテリ10の正極と電気的に接続され」、「接地ラインGL」は「メインバッテリ10の負極と電気的に接続される」と記載されている。また、電源ラインPL2及び接地ラインGLが充電装置200に備えられていることは図1から明らかであるから、充電装置200が、メインバッテリ10と電気的に接続される電源ラインPL2及び接地ラインGLを備えているといえる。 上記アによれば、「充電装置200は、DC-DC変換器210と、平滑コンデンサ220と、AC-DC変換器250と、制御装置300と、電圧センサ302,307と、電流センサ305とを含む」と記載されており、また、上記イによれば、「AC-DC変換器250」は、「外部電源500からの交流電圧」「を直流電圧に変換」と記載されている。よって、充電装置200が、DC-DC変換器210と、平滑コンデンサ220と、外部電源500からの交流電圧を直流電圧に変換するAC-DC変換器250と、制御装置300と、電圧センサ302,307と、電流センサ305を備えているといえる。 上記エによれば、「AC-DC変換器250は、AC-DC変換に加えて、PFC」「回路としても動作できる」ことが記載されている。 上記カによれば、「制御装置300は、AC-DC変換器250を制御するための制御部320」「を含む」こと、「制御部320は、減算部322,328,334と、PI演算部324,332と、制御スイッチ330と、乗算部326と、PWM制御部336とを含む」こと、「制御スイッチ330は、」「上アームオン制御モードが指示されるときには、」「目標充電電流IB*に対応して定められた」「定数Iconstを、目標電流振幅iLA*に設定する」こと、「乗算部326は、」「目標電流振幅iLA*と、正弦波関数|sinωt|とを乗算することによって、目標電流iL*を算出する」こと、「減算部328は、」「目標電流iL*と、電流センサ305によって検出された電流iLとの電流偏差ΔiLを演算する」こと、「PI演算部332は、」「電流偏差ΔiLに基づく比例積分演算を実行する」こと、「減算部334は、電源電圧の絶対値|vac|からPI演算部332による制御演算値を減算することによって、制御指令値を設定する」こと、「PWM制御部336は、」「制御指令値」「に基づいて、スイッチング素子Q3のオンオフ制御信号を生成する」ことが記載されている。また、上記ウによれば、「電流センサ305は、インダクタL2の通過電流iLを検出する」ものである。 上記記載より、制御装置300に含まれるAC-DC変換器250を制御するための制御部320は、上アームオン制御モードが指示されるときには、目標充電電流IB*に対応して定められた定数Iconstに基づき目標電流iL*を算出し、目標電流iL*と電流センサ305によって検出されたインダクタL2の通過電流iLとの電流偏差に基づいてスイッチング素子Q3のオンオフ制御を行うものといえる。 上記オによれば、「上アームオン制御モードでは、」「メインバッテリ10と平滑コンデンサ220とが接続されるため、直流電圧vdcは、バッテリ電圧VBと同等となる」こと、「AC-DC変換器250から電源ラインPL1へ供給される電流には、」「電源周波数の2倍の周波数のリップル成分が含まれ」「このリップル成分は、」「メインバッテリ10のバッテリ電流IBの各々にもそのまま重畳される」ことが記載されており、上記イには、「平滑コンデンサ220の直流電圧vdc」と記載されている。 上記記載より、上アームオン制御モードでは、メインバッテリ10と平滑コンデンサ220とが接続されるため、平滑コンデンサ220の直流電圧vdcはバッテリ電圧VBと同等となり、AC-DC変換器250から供給される電源周波数の2倍の周波数のリップル成分を含むバッテリ電流でメインバッテリ10を充電するといえる。 上記アないしカの記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「充電ケーブル400を介して交流電力を供給する外部電源500と電気的に接続されるインレット205と、 メインバッテリ10と電気的に接続される電源ラインPL2及び接地ラインGLと、 DC-DC変換器210と、 平滑コンデンサ220と、 外部電源500からの交流電圧を直流電圧に変換するAC-DC変換器250と、 制御装置300と、 電圧センサ302,307と、 電流センサ305と を備えた充電装置200であって、 AC-DC変換器250は、AC-DC変換に加えてPFC回路としても動作でき、 制御装置300に含まれるAC-DC変換器250を制御するための制御部320は、上アームオン制御モードが指示されるときには、目標充電電流IB*に対応して定められた定数Iconstに基づき目標電流iL*を算出し、目標電流iL*と電流センサ305によって検出されたインダクタL2の通過電流iLとの電流偏差に基づいてスイッチング素子Q3のオンオフ制御を行い、 上アームオン制御モードでは、メインバッテリ10と平滑コンデンサ220とが接続されるため、平滑コンデンサ220の直流電圧vdcはバッテリ電圧VBと同等となり、AC-DC変換器250から供給される電源周波数の2倍の周波数のリップル成分を含むバッテリ電流でメインバッテリ10を充電する、充電装置200。」 第5 対比・判断 (1)本願発明と引用発明との対比 ア.引用発明の「充電装置200」「交流電力を供給する外部電源500」は各々、本願発明の「バッテリ充電器」「AC電源」に相当し、引用発明の「交流電力を供給する外部電源500と電気的に接続されるインレット205」は、本願発明の「AC電源に接続するための入力端子」に相当する。 イ.引用発明の「電源ラインPL2及び接地ラインGL」は、引用文献2の段落[0036]及び図1を参照すれば、充電装置200内の回路(DC-DC変換器210)とメインバッテリ10とを電気的に接続するものであり、通常、充電装置内部と外部との間には何らかの接続端子(出力端子)を備えるものであるから、本願発明の「充電されるべきバッテリに接続するための出力端子」を含むものである。 ウ.引用発明の「AC-DC変換器250」は、「交流電圧を直流電圧に変換する」「AC-DC変換」「に加えてPFC回路としても動作でき」るものであるから、本願発明の「PFC回路」に相当する。また、AC-DC変換器250は充電装置200に備えられたものであるから、入力端子と出力端子との間に接続されていることは明らかである。 エ.引用発明の「制御装置300に含まれるAC-DC変換器250を制御するための制御部320は、上アームオン制御モードが指示されるときには、目標充電電流IB*に対応して定められた定数Iconstに基づき目標電流iL*を算出し、目標電流iL*と電流センサ305によって検出されたインダクタL2の通過電流iLとの電流偏差に基づいてスイッチング素子Q3のオンオフ制御を行」うことは、外部電源500から供給されインダクタL2に流れる電流iLが目標電流iL*となるようAC-DC変換器250のスイッチング素子Q3をフィードバック制御し、かつ、メインバッテリ10に対して所定の充電電流IB*が供給されるよう定数Iconstから目標電流iL*を算出するものであるから、本願発明の「前記PFC回路が前記AC電源から引き込まれる入力電流を調整するための電流制御ループを備え、前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働く」ことに相当する。 オ.引用発明の「上アームオン制御モードでは、メインバッテリ10と平滑コンデンサ220とが接続されるため、平滑コンデンサ220の直流電圧vdcはバッテリ電圧VBと同等とな」ることは、AC-DC変換器250の出力における電圧に相当する平滑コンデンサ220の直流電圧vdcとバッテリ電圧VBとが等しく、また、バッテリ電圧VBの変化に応じて平滑コンデンサ220の直流電圧vdcも変化するものといえるから、本願発明の「前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることに相当する。 ここで、本願発明は、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」と記載されているのに対し、引用発明は、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働く」こと、及び、「前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることについては記載されているものの、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることについて特定されていない点で一応相違する。 なお、下線は当審で付与した。 カ.引用発明の「AC-DC変換器250から供給される電源周波数の2倍の周波数のリップル成分を含むバッテリ電流でメインバッテリ10を充電する」ことは、引用文献2の図6も参照すれば、出力電流に相当するバッテリ電流の波形が、外部電源500から供給される入力電流の周波数(電源周波数)の2倍の周波数で周期的であることといえ、また、上アームオン制御モードにおいては、AC-DC変換器250の出力端から充電装置200の出力部分の間には、オン状態のスイッチング素子Q1、インダクタL1、及び高周波成分を除去するためのキャパシタC1のみ存在し、インピーダンスの低い回路(経路)であるから、出力電流の波形が入力電流の少なくとも50%のリップル(本願明細書の段落[0011]を参照すれば、本願発明の「リップル」という用語は、信号の最大値のピークとピークとの間の百分率として表される。)を有することは明らかであり、引用発明の「AC-DC変換器250から供給される電源周波数の2倍の周波数のリップル成分を含むバッテリ電流でメインバッテリ10を充電する」ことは、本願発明の「前記出力電流の波形が、前記入力電流の周波数の2倍の周波数および少なくとも50%のリップルで周期的である」ことに相当する。 (2)一致点・相違点 上記対比より、本願発明と引用発明とは 「AC電源に接続するための入力端子と、充電されるべきバッテリに接続するための出力端子と、前記入力端子と前記出力端子との間に接続されるPFC回路とを備えるバッテリ充電器であって、前記PFC回路が前記AC電源から引き込まれる入力電流を調整するための電流制御ループを備え、前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働き、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され、前記出力電流の波形が、前記入力電流の周波数の2倍の周波数および少なくとも50%のリップルで周期的である、バッテリ充電器。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。 (相違点) 本願発明は、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」と記載されているのに対し、引用発明は、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働く」こと、及び、「前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることについては記載されているものの、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることについて特定されていない点。なお、下線は当審で付与した。 (3)相違点についての判断 上記相違点について、本願明細書を参照すると、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 「【0023】 PFC回路12は、AC電源2から引き込まれる入力電流が実質的に正弦曲線であることを確実にする。AC電源2の入力電圧が正弦曲線であるため、バッテリ充電器1によりAC電源2から引き込まれる入力電力は、サイン二乗波形を有する。バッテリ充電器1が非常に小さい蓄積容量を有するため、バッテリ充電器1の出力電力は、入力電力と実質的に同じ形状を有する、すなわち、出力電力もサイン二乗波形を有する。バッテリ充電器1の出力端子9は、バッテリ電圧に保持される。その結果、バッテリ充電器1は、サイン二乗波形を有する出力電流を出力する電流源として働く。したがって、出力電流の波形は、入力電流の周波数の2倍の周波数および100%のリップルで、周期的である。」 上記記載は、出力電力がサイン二乗波形(Asin^(2)θと仮定する。Aは定数)を有し、出力端子の電圧がバッテリ電圧(Vbatと仮定する)に保持されるため、出力電力を出力電圧で除算したものに相当する出力電流(Ibatと仮定する)は、Ibat=Asin^(2)θ/Vbatで表され、Vbatが所定値に保持されると、出力電流も所定値に保持され、バッテリ充電器1が電流源(負荷の大きさが変動しても、一定の電流を供給できる電源のこと)として動作することを記載したものと解される。 また、本願明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 「【0020】 DC-DC変換器13のインピーダンスは比較的低い。その結果として、PFC回路12の出力における電圧は、バッテリ3の電圧により規定されるレベルに保持される。より詳細には、PFC回路12の出力における電圧は、バッテリ電圧にDC-DC変換器13の巻数比をかけたものに保持される。以下の議論を簡略化するために、バッテリ電圧V_BATに巻数比Np/Nsをかけたものに言及するとき、「ステップ状バッテリ電圧」という用語を使用することとする。 【0021】 PFC回路12のスイッチS1を開にすると、インダクタL1からのエネルギーは、コンデンサC1に伝達され、コンデンサ電圧を上げさせる。コンデンサ電圧がステップ状バッテリ電圧に到達するとすぐに、インダクタL1からのエネルギーは、バッテリ3に伝達される。DC-DC変換器13の比較的低いインピーダンスのために、コンデンサC1の電圧は、もはや上がらないが、代わりにステップ状バッテリ電圧に保持される。PFC回路12のスイッチS1を閉にすると、コンデンサ電圧とステップ状バッテリ電圧との間に差違があるときにだけ、コンデンサC1が放電する。結果として、スイッチS1が閉となった後、コンデンサC1は、ステップ状バッテリ電圧に保持され続ける。したがって、バッテリ3の電圧がPFC回路12に戻して反映される。」 上記記載は、PFC回路12の出力における電圧は、バッテリ3の電圧により規定されるレベル、具体的には、バッテリ電圧にDC-DC変換器13の巻数比をかけたものに保持されるので、PFC回路12の出力における電圧は、バッテリ3の電圧における変化により調整されること、バッテリ3の電圧はPFC回路12に戻して反映されることを記載したものと解される。 つまり、本願発明の「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働くように、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され、」との記載は、本願明細書を参酌すると、「前記バッテリ充電器が前記出力端子において出力電流を生成する電流源として働き、前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され、」とのことであると解される。 そうすると、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明と引用発明との間に相違するところはない。 第6 審判請求人の主張 1 請求人は令和2年12月11日の意見書にて、以下のように主張している。 審判官殿は、『エ.引用発明2の「上アームオン制御モードにおいては直流電圧vdcはバッテリ電圧VBと同等とな」ることは、直流電圧vdcがPFC回路の出力電圧に相当することから、本願発明1の「前記PFC回路の出力における電圧が、前記バッテリの電圧における変化により調整され、前記バッテリの前記電圧は、前記PFC回路に戻して反映され」ることに相当する。』と述べておられます。 しかしながら、令和2年1月10日付けの上申書においても述べましたように、引用文献2の図1に示されますように、バッテリ電流IB、バッテリ電圧VB、バッテリ温度TBは、電池監視ユニット20から制御装置300へ、専用ループ(則ち、図1における接続“IB,VB(SOC)”)を通して送られます。この専用ループは、制御装置300とバッテリ10との間における接続(則ち、DC-DC変換器210)とは異なります。 すなわち、バッテリ電圧VBは、制御回路とバッテリとの間における接続とは異なる接続を通して反映されます。これは、上述の構成、特にバッテリの電圧がPFC回路に戻して反映される構成とは相違します。 2 上記主張について判断すると、令和2年8月28日付けの拒絶理由通知書や上記「第5 対比・判断」の「オ.」でも指摘したように、引用発明の「直流電圧vdcはバッテリ電圧VBと同等とな」ることが、本願発明の、バッテリ電圧がPFC回路に戻して反映される構成に相当すると認定したものであって、電池監視ユニット20から制御装置300へ専用ループを介してバッテリ電圧VBの情報を送ることを、本願発明の、バッテリ電圧がPFC回路に戻して反映される構成に相当すると認定したものではない。 したがって、上記意見書での主張は、当審で認定した事項とは異なる事項を引用して本願発明との差異を主張するものであって、採用することができない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-02-17 |
結審通知日 | 2021-02-22 |
審決日 | 2021-03-10 |
出願番号 | 特願2018-502691(P2018-502691) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(H02J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 稲葉 崇、猪瀬 隆広、遠山 敬彦 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 赤穂 嘉紀 |
発明の名称 | バッテリ充電器 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |