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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1376604 |
審判番号 | 不服2020-10365 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-27 |
確定日 | 2021-08-24 |
事件の表示 | 特願2016-120132「波長変換部材、発光装置および波長変換部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-223869、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-120132号(以下「本件出願」という。)は、平成28年6月16日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和2年1月24日付け:拒絶理由通知書 令和2年3月31日 :意見書 令和2年3月31日 :手続補正書 令和2年4月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年7月27日 :審判請求書 令和2年7月27日 :手続補正書 令和3年3月19日付け:拒絶理由通知書 令和3年3月30日 :意見書 令和3年3月30日 :手続補正書 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は、令和3年3月30日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 一次光を波長変換して二次光を出射する蛍光体部と、 前記一次光を透過する半導体材料で構成された放熱保持部とを備え、 サファイア、SiC、Siの何れか一つで構成され、前記放熱保持部を保持する保持基板を有し、 前記放熱保持部は前記保持基板より熱伝導率が大きい結晶成長層であり、 前記放熱保持部は、前記蛍光体部の少なくとも一部に接触して前記蛍光体部を保持することを特徴とする波長変換部材。 【請求項2】 請求項1に記載の波長変換部材であって、 前記蛍光体部は、蛍光体材料を含んだ焼結体であることを特徴とする波長変換部材。 【請求項3】 請求項1または2に記載の波長変換部材であって、 前記放熱保持部は、前記蛍光体部の側面全体を覆うことを特徴とする波長変換部材。 【請求項4】 請求項1乃至3の何れか一つに記載の波長変換部材であって、 前記放熱保持部は、前記蛍光体部における前記一次光の入射面を覆うことを特徴とする波長変換部材。 【請求項5】 一次光を照射する光源と、 前記一次光を波長変換して二次光を出射する蛍光体部と、 前記一次光を透過する半導体材料で構成された放熱保持部とを備え、 サファイア、SiC、Siの何れか一つで構成され、前記放熱保持部を保持する保持基板を有し、 前記放熱保持部は前記保持基板より熱伝導率が大きい結晶成長層であり、 前記放熱保持部は、前記蛍光体部の少なくとも一部に接触して前記蛍光体部を保持することを特徴とする発光装置。 【請求項6】 保持基板に蛍光体部を載置する載置工程と、 前記保持基板および前記蛍光体部の上に、光源からの一次光を透過する半導体材料を成長させて放熱保持部を形成する成長工程を備え、 前記成長工程の後に、前記保持基板の裏面および/または前記放熱保持部の表面を研磨する研磨工程を備えることを特徴とする波長変換部材の製造方法。 【請求項7】 請求項6に記載の波長変換部材の製造方法であって、 前記載置工程の前に前記保持基板に溝を形成する溝形成工程を備え、 前記載置工程では前記溝に前記蛍光体部を載置することを特徴とする波長変換部材の製造方法。」 3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、概略、[A]本件出願の請求項1、2及び4?6に係る発明(令和2年3月31日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない、[B]本件出願の請求項1?請求項6に係る発明(令和2年3月31日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明(及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった事項)に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2016-27613号公報 引用文献2:特開2007-27688号公報 なお、主引用例は引用文献2であり、引用文献1は副引用例である。 4 当合議体が通知した拒絶の理由 当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、[C]本件出願の請求項6に係る発明(令和2年7月27日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない、[D]本件出願の請求項6に係る発明(令和2年7月27日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献3:特開2013-203822号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献1を主引用例とした場合について (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2016-27613号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 蛍光体層と、 前記蛍光体層の両面に形成され、前記蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを含む積層体を備えることを特徴とする波長変換部材。 …省略… 【請求項8】 前記積層体の側周部に、前記蛍光体層より高い熱伝導率を有する放熱部材が設けられていることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の波長変換部材。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換部材、及びそれを用いた発光装置に関するものである。 …省略… 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 近年、ハイパワー化を目的として、光源として用いるLEDやLDの出力が上昇している。それに伴い、光源の熱や、励起光を照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換部材の温度が上昇し、その結果、発光強度が経時的に低下する(温度消光)という問題がある。また、場合によっては、波長変換部材の温度上昇が顕著となり、構成材料(ガラスマトリクス等)が溶解するおそれがある。 【0007】 そこで、本発明は、ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の溶解を抑制することが可能な波長変換部材、及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。 …省略… 【発明を実施するための形態】 【0034】 以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。 【0035】 (1)第1の実施形態に係る波長変換部材 図1は、本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。波長変換部材11は、蛍光体層1と、その両面に形成された透光性放熱層2とを備えた積層体3からなる。本実施形態に係る波長変換部材11は透過型の波長変換部材である。一方の透光性放熱層2側から励起光を照射すると、入射した励起光の一部が蛍光体層1で波長変換されて蛍光となり、当該蛍光は、透過する励起光とともに他方の透光性放熱層2側から外部に照射される。蛍光体層1に励起光が照射されることにより発生した熱は、各透光性放熱層2を通じて外部に効率良く放出される。よって、蛍光体層1の温度が不当に上昇することを抑制できる。 【0036】 蛍光体層1は、無機バインダー中に蛍光体が分散されてなるものであることが好ましい。このようにすることにより、蛍光体層1中に蛍光体を均一に分散することができる。また、波長変換部材11の耐熱性を向上させることができる。 …省略… 【0037】 蛍光体は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。 …省略… 【0040】 なお、蛍光体層1は、無機バインダー等を含まない、実質的に蛍光体のみから構成されたもの、具体的には多結晶セラミック蛍光体であってもよい。 …省略… 【0042】 透光性放熱層2は、蛍光体層1より高い熱伝導率を有している。具体的には、5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、20W/m・K以上であることがさらに好ましい。また、励起光、及び蛍光体層1から発せられる蛍光を透過させる。具体的には、透光性放熱層2の波長400?800nmにおける全光線透過率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。 【0043】 透光性放熱層2としては、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック基板が挙げられる。 …省略… 【0047】 波長変換部材11は、例えば以下のようにして作製することができる。 【0048】 ガラス粉末と、蛍光体と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム上にドクターブレード法等により塗布し、加熱乾燥することにより、蛍光体層1用のグリーンシートを作製する。グリーンシートを焼成することにより蛍光体層1を得る。 【0049】 蛍光体層1の両面に透光性放熱層2を積層し、加熱圧着することにより波長変換部材11が得られる。あるいは、ポリシラザン等の無機接着剤を介して蛍光体層1と透光性放熱層2を接合してもよい。 …省略… 【0056】 (3)第3の実施形態に係る波長変換部材 図3(a)は、本発明の第3の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。図3(b)は、図3(a)の波長変換部材の模式的平面図である。波長変換部材13は、蛍光体層1と透光性放熱層2からなる積層体3の側周部を包囲するように放熱部材4が設けられている点で、第1の実施形態に係る波長変換部材11と異なる。本実施形態において、積層体3は放熱部材4の略中央部に設けられた孔部4a内に密着するように接合されている。蛍光体層1から発生した熱は、透光性放熱層2を通じて、あるいは直接、放熱部材4に伝達して外部に放出される。本実施形態では、放熱部材4を設けることにより、蛍光体層1に発生した熱をさらに効率良く外部に放出することができる。なお、本実施形態では、積層体3は円柱状であるが、三角柱や四角柱等の角柱状であっても構わない。 【0057】 放熱部材4としては、蛍光体層1より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されない。放熱部材4の熱伝導率は5W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、20W/m・K以上であることがさらに好ましく、50W/m・K以上であることが特に好ましい。放熱部材4の材質の具体例としては、アルミニウム、銅、銀、白金、金等の金属や、窒化アルミニウム等のセラミックスが挙げられる。 【0058】 また、積層体3の側周部に放熱部材4を設けることにより、励起光L0及び蛍光L1が積層体3の側周部から漏出することを抑制でき、波長変換部材13の発光強度を向上させることができる。 …省略… 【0071】 (8)第1の実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置 図8は、本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置の模式的側面図である。本実施形態に係る発光装置は、透過型の波長変換部材を用いた発光装置である。図8に示すように、発光装置21は、波長変換部材11と光源7を備えている。光源7から出射された励起光L0は、波長変換部材11における蛍光体層1により、励起光L0よりも波長の長い蛍光L1に波長変換される。また、励起光L0の一部は、波長変換部材11を透過する。このため、波長変換部材11からは、励起光L0と蛍光L1との合成光L2が出射する。例えば、励起光L0が青色光であり、蛍光L1が黄色光である場合、白色の合成光L2を得ることができる。 …省略… 【産業上の利用可能性】 【0077】 本発明の波長変換部材は、白色LED等の一般照明や特殊照明(例えば、プロジェクター光源、自動車のヘッドランプ光源、内視鏡の光源)等の構成部材として好適である。」 ウ 図1 「 」 エ 図3 「 」 オ 図8 「 」 (2) 引用発明 ア 引用発明1A 引用文献1の【0056】?【0059】には、「第3の実施形態に係る波長変換部材」が記載されている。 ここで、引用文献1【0056】には、「波長変換部材13は、蛍光体層1と透光性放熱層2からなる積層体3の側周部を包囲するように放熱部材4が設けられている点で、第1の実施形態に係る波長変換部材11と異なる。」と記載されている。そうしてみると、「蛍光体層1と透光性放熱層2からなる積層体3」の構成については、「第1の実施形態に係る波長変換部材11」(【0035】?【0049】)のものと同じと考えられる。 以上勘案すると、引用文献1には、次の「波長変換部材13」の発明が記載されている(以下「引用発明1A」という。)。 「 蛍光体層1と透光性放熱層2からなる積層体3の側周部を包囲するように放熱部材4が設けられている波長変換部材13であって、 積層体3は放熱部材4の略中央部に設けられた孔部4a内に密着するように接合され、蛍光体層1から発生した熱は、透光性放熱層2を通じて、あるいは直接、放熱部材4に伝達して外部に放出され、 放熱部材4は、蛍光体層1より高い熱伝導率を有し、放熱部材4の材質は、アルミニウム、銅、銀、白金、金等の金属や、窒化アルミニウム等のセラミックスであり、 積層体3は、蛍光体層1と、その両面に形成された透光性放熱層2とを備え、一方の透光性放熱層2側から励起光を照射すると、入射した励起光の一部が蛍光体層1で波長変換されて蛍光となり、蛍光は、透過する励起光とともに他方の透光性放熱層2側から外部に照射され、 透光性放熱層2は、蛍光体層1より高い熱伝導率を有し、励起光及び蛍光体層1から発せられる蛍光を透過させる、【0043】酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック基板である、 波長変換部材13。」 イ 引用発明1B 引用文献1には、請求項8に係る発明(請求項1の記載を引用するもの)として、次の「波長変換部材」の発明も記載されている(以下「引用発明1B」という。)。 「 蛍光体層と、 蛍光体層の両面に形成され、蛍光体層より高い熱伝導率を有する透光性放熱層とを含む積層体を備える波長変換部材であって、 積層体の側周部に、蛍光体層より高い熱伝導率を有する放熱部材が設けられている、 波長変換部材。」 (3) 対比 本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明1Aを対比すると、次のとおりである。 すなわち、引用発明1Aは、「蛍光体層1と透光性放熱層2からなる積層体3の側周部を包囲するように放熱部材4が設けられている波長変換部材13であって」、「積層体3は放熱部材4の略中央部に設けられた孔部4a内に密着するように接合され」、「積層体3は、蛍光体層1と、その両面に形成された透光性放熱層2とを備え、一方の透光性放熱層2側から励起光を照射すると、入射した励起光の一部が蛍光体層1で波長変換されて蛍光となり、蛍光は、透過する励起光とともに他方の透光性放熱層2側から外部に照射され」る。 上記「蛍光体層1」の機能からみて、引用発明1Aの「蛍光体層1」は、「励起光」を「波長変換」して「蛍光」を「他方の透光性放熱層2側から外部に」出射するものである。また、上記「積層体3」の積層構造及び「透光性放熱層2」の機能からみて、引用発明1Aの「透光性放熱層2」は、「励起光」を透過する材料で構成され、「蛍光体層1」に面接触してこれを保持する放熱部材の層である。さらに、上記「積層体3」及び「放熱部材4」の位置関係からみて、引用発明1Aの「放熱部材4」は、「透光性放熱層2」を保持する部材といえる。 そうしてみると、引用発明1Aの「励起光」、「蛍光」、「蛍光体層1」、「透光性放熱層2」及び「波長変換部材13」は、それぞれ本願発明1の「一次光」、「二次光」、「蛍光体部」、「放熱保持部」及び「波長変換部材」に相当する。また、引用発明1Aの「蛍光体層1」は、本願発明1の「蛍光体部」における「一次光を波長変換して二次光を出射する」という要件を満たし、引用発明1Aの「透光性放熱層2」は、本件発明の「放熱保持部」における「前記蛍光体部の少なくとも一部に接触して前記蛍光体部を保持する」及び「層であり」という要件を満たす。加えて、引用発明1Aの「透光性放熱層2」と本願発明1の「放熱保持部」は「前記一次光を透過する」「材料で構成された」点で共通し、引用発明1Aの「放熱部材4」と本願発明1の「保持基板」とは「前記放熱保持部を保持する」「保持」部材である点で共通する。そして、引用発明1Aの「波長変換部材13」と本願発明1の「波長変換部材」は、「蛍光体部と」、「放熱保持部とを備え」、「保持」部材「を有し」ている点で共通する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明1Aは、次の構成で一致する。 「 一次光を波長変換して二次光を出射する蛍光体部と、 前記一次光を透過する材料で構成された放熱保持部とを備え、 前記放熱保持部を保持する保持部材を有し、 前記放熱保持部は層であり、 前記放熱保持部は、前記蛍光体部の少なくとも一部に接触して前記蛍光体部を保持する波長変換部材。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明1Aは、以下の点で相違する。 (相違点1A) 「保持」部材が、本願発明1は、「サファイア、SiC、Siの何れか一つで構成され」た「基板」であるのに対して、引用発明1Aは、基板とはいえず、また、「アルミニウム、銅、銀、白金、金等の金属や、窒化アルミニウム等のセラミックスであ」る点。そして、「放熱保持部」が、本願発明1は、「半導体」の「前記保持基板より熱伝導率が大きい結晶成長」層であるのに対して、引用発明1Aは、「酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック」であり、熱伝導率の大小関係は不明である点。 (5) 判断 相違点1Aで挙げたとおり、引用発明1Aの「放熱部材4」の材質は、「アルミニウム、銅、銀、白金、金等の金属や、窒化アルミニウム等のセラミックス」であるのに対し、引用発明1Aの「透光性放熱層2」の材質は「酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック」である。 上記材質からみて、引用発明1Aの「波長変換部材13」は、「放熱部材4」として熱伝導率が大きなものを採用する一方、「透光性放熱層2」については、透光性を有するという制約の中で、熱伝導率が大きなものを採用したものと理解される。そして、引用発明1Aの「波長変換部材13」を具体化する当業者ならば、引用発明1Aの「放熱部材4」の材質として、「銅」(398W/m・K)や「銀」(420W/m・K)といった、透光性は有さないとしても熱伝導率に優れたものを選択できる一方、引用発明1Aの「透光性放熱層2」の材質としては、「銅」や「銀」の熱伝導率には及ばないものしか選択することができない。 そうしてみると、たとえ当業者といえども、引用発明1Aを容易推考の出発点として、相違点1Aに係る本願発明1の「前記放熱保持部は前記保持基板より熱伝導率が大きい」という構成には到らないといえる。 (当合議体注:引用文献1には、「放熱部材4」の材質として、「白金」(70W/m・K)も挙げられている。しかしながら、「放熱部材4」としての機能やコストを勘案すると、当業者が「白金」を選択することはないと理解される。) さらにすすんで検討すると、上記のとおり、当業者ならば、引用発明1Aの「放熱部材4」の材質として「銅」や「銀」を選択できるところ、これら材質の熱伝導率は、「半導体」の「結晶成長層」よりも大きいと考えられる(当合議体注:窒化ガリウムの熱伝導率は約130W/m・K、窒化アルミニウムの熱伝導率は約150W/m・Kである。)。 そうしてみると、仮に、当業者が、引用発明1Aの「透光性放熱層2」の材質として透光性を有する「半導体」の「結晶成長層」を採用する余地があるとしても、相違点1Aに係る本願発明1の「前記放熱保持部は前記保持基板より熱伝導率が大きい」という構成に到るとまではいえない。 この点は、原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特開2007-27688号公報)や、当合議体が通知した拒絶の理由において引用された引用文献3(特開2013-203822号公報)の記載内容を考慮しても、変わらない。 したがって、本願発明1は、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明(並びに引用文献2及び引用文献3に記載された事項)に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。 (6) 引用発明1Bについて 引用発明1Aに替えて、引用部発明1Bに基づいて検討しても、同様である。 (7) 他の請求項に係る発明について ア 請求項2?請求項5に係る発明について 請求項2?請求項4に係る発明は、本願発明1の「波長変換部材」に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「波長変換部材」の発明である。 また、請求項5に係る発明は、本願発明1の発明特定事項に、さらに「一次光を照射する光源」を付加した「発光装置」の発明である。 そうしてみると、請求項2?請求項5に係る発明も、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。 イ 請求項6及び請求項7に係る発明について (ア) 引用文献1の【0048】及び【0049】の記載からみて、引用文献1には、次の「波長変換部材11」の製造方法の発明が記載されている(以下「引用発明1C」という。)。 「【0048】 ガラス粉末と、蛍光体と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム上にドクターブレード法等により塗布し、加熱乾燥することにより、蛍光体層1用のグリーンシートを作製する工程(1)、 グリーンシートを焼成することにより蛍光体層1を得る工程(2)、 【0049】 蛍光体層1の両面に透光性放熱層2を積層し、加熱圧着する、あるいは、ポリシラザン等の無機接着剤を介して蛍光体層1と透光性放熱層2を接合して、波長変換部材11を得る工程(3)を含む、 波長変換部材11の製造方法。」 (イ) 本件出願の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)と引用発明1Cを対比すると、両者は、次の点で相違する。 (相違点1C) 「波長変換部材の製造方法」が、本願発明6は、「保持基板に蛍光体部を載置する載置工程」、「前記保持基板および前記蛍光体部の上に、光源からの一次光を透過する半導体材料を成長させて放熱保持部を形成する成長工程」及び「前記成長工程の後に、前記保持基板の裏面および/または前記放熱保持部の表面を研磨する研磨工程」を具備するのに対して、引用発明1Cは、これとは異なる「工程(3)」を具備する点。 (ウ) 相違点1Cについて判断すると、引用文献1には、物としての「波長変換部材11」に関しては、種々の実施形態が記載されているものの、「波長変換部材11の製造方法」に関しては、【0048】及び【0049】程度の記載しかない。 このような引用文献1の記載を勘案すると、当業者が引用発明1Cの「波長変換部材11の製造方法」に着目し、これに対して何らかの創意工夫を行うとはいえない。 さらにすすんで検討すると、本願発明6は、「前記保持基板および前記蛍光体部の上に、光源からの一次光を透過する半導体材料を成長させて放熱保持部を形成する成長工程」「の後に、前記保持基板の裏面および/または前記放熱保持部の表面を研磨する研磨工程」を具備するところ、このような工程は、引用文献1はもちろん、引用文献2及び引用文献3にも記載されておらず、また、示唆もない。さらに、波長変換部材の製造方法として、このような工程が当業者にとって自明の事項であるとも、周知の技術であるともいえない。 したがって、本願発明6は、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。 請求項7に係る発明は、本願発明6の「波長変換部材の製造方法」に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「波長変換部材の製造方法」の発明である。 そうしてみると、請求項7に係る発明も、たとえ当業者といえども、引用文献1に記載された発明(並びに引用文献2及び引用文献3に記載された事項)に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。 2 引用文献2を主引用例とした場合について (1) 引用発明及び対比 引用文献2の【0013】?【0026】及び図3(e)の記載から理解される発明(以下「引用発明2」という。)と本願発明1とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。 (相違点2) 「波長変換部材」が、本願発明1は、「サファイア、SiC、Siの何れか一つで構成され、前記放熱保持部を保持する保持基板を有し」、「前記放熱保持部は前記保持基板より熱伝導率が大きい結晶成長層であ」るのに対して、引用発明2は、「保持基板」を具備しない点。 (2) 判断 相違点2について判断すると、仮に、引用発明2において、蛍光体層に発生した熱をさらに効率よく外部に放出することを着想した当業者ならば、引用文献1に記載されているような「銅」や「銀」を選択することができ、敢えて「熱伝導部材50」(当合議体注:本願発明1の「放熱保持部」に相当する。)よりも熱伝導率が小さい「サファイア、SiC、Siの何れか一つで構成され」た「保持基板」を採用することはないと考えられる。 したがって、本願発明1は、たとえ当業者といえども、引用文献2に記載された発明(及び引用文献1に記載された事項)に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。請求項2?請求項5に係る発明についても、同様である。 また、引用発明2が「保持基板」を具備しないことを考慮すると、請求項6及び請求項7に係る発明についても、たとえ当業者といえども、引用文献2に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。 第3 拒絶の理由について 1 原査定の拒絶の理由について 前記「第2」で述べたとおりであるから、本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができず、また、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 したがって、原査定を維持することはできない。 2 当合議体が通知した拒絶の理由について 当合議体が通知した拒絶の理由(請求項6についての引用文献3を主引用例とする新規性及び進歩性)は、令和3年3月30日にした手続補正(当合議体注:請求項6を削除する補正である。)により解消した。 第4 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することができない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-08-06 |
出願番号 | 特願2016-120132(P2016-120132) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小久保 州洋、川口 聖司 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
下村 一石 河原 正 |
発明の名称 | 波長変換部材、発光装置および波長変換部材の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人プロウィン特許商標事務所 |