ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
---|---|
管理番号 | 1376654 |
審判番号 | 不服2020-12083 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-28 |
確定日 | 2021-08-04 |
事件の表示 | 特願2018-563550「縁部シーリングを向上させた大電力用ワークピースキャリア」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日国際公開、WO2017/213828、令和 1年 7月11日国内公表、特表2019-519926〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2017年5月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年6月7日,2016年6月21日,2016年11月30日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 元年12月25日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 4月 6日 :意見書,手続補正書の提出 令和 2年 4月22日付け:拒絶査定 令和 2年 8月28日 :審判請求書,手続補正書の提出 第2 令和2年8月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年8月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。) 「【請求項1】 ワークピースを支持するためのパックと, 接着剤によって前記パックに接合された冷却プレートと, 前記パックと冷却プレートとを囲む装着リングと, 前記接着剤を保護するように構成された,前記装着リングと前記冷却プレートとの間に水平方向で配置されたガスケットとを備え, 前記接着剤の第1の部分が前記ガスケット上に垂直にあり,前記接着剤の第2の部分が,前記ガスケットを超えて広がっておりかつ前記冷却プレートの上に垂直にあり,前記接着剤の前記第1の部分が前記接着剤の前記第2の部分と連続している,ワークピースキャリア。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,令和2年4月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 ワークピースを支持するためのパックと, 接着剤によって前記パックに接合された冷却プレートと, 前記パックと冷却プレートとを囲む装着リングと, 前記接着剤を保護するように構成された,前記装着リングと前記冷却プレートとの間のガスケットとを備え, 前記接着剤の第1の部分が前記ガスケット上に垂直にあり,前記接着剤の第2の部分が,前記ガスケットを超えて広がっておりかつ前記冷却プレートの上に垂直にあり,前記接着剤の前記第1の部分が前記接着剤の前記第2の部分と連続している,ワークピースキャリア。」 2 補正の適否 本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について,上記のとおり限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2007-194616号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付した。以下,同じ。) 「【請求項1】 基板を上面に載置可能な板状体と,該板状体の下面に接着剤層を介して接合されたベース部材と,前記板状体と前記ベース部材との接合部の外周に沿って形成された環状の凹部内に配設された環状の保護部材とを有しており,前記板状体の下面と前記保護部材の上面との間および前記ベース部材の上面と前記保護部材の下面との間の少なくとも一方に隙間が設けられていることを特徴とするサセプタ。 ・・・ 【請求項10】 前記隙間は,前記板状体の下面と前記保護部材の上面との間に設けられていることを特徴とする請求項1?請求項9のいずれかに記載のサセプタ。 ・・・ 【請求項12】 前記隙間に接着剤が充填されていることを特徴とする請求項1?請求項11のいずれかに記載のサセプタ。 ・・・ 【請求項15】 前記板状体の内部に,または前記板状体と前記ベース部材との間に静電吸着用電極が形成されていることを特徴とする請求項12に記載のサセプタ。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は,CVD,PVD,スパッタリング等の成膜装置やエッチング装置などの加工装置において,被処理体を保持するサセプタ,特に静電チャックに好適に用いることのできるサセプタに関するものである。」 「【0029】 本発明のサセプタは,成膜処理またはエッチング処理される基板を上面に載置可能な板状体と,該板状体の下面に接着剤層を介して接合されたベース部材と,前記板状体と前記ベース部材との接合部の外周に沿って形成された環状の凹部内に配設された環状の保護部材とを有しており,前記板状体の下面と前記保護部材の上面との間および前記ベース部材の上面と前記保護部材の下面との間の少なくとも一方に隙間が設けられていることから,前記保護部材が膨張しても前記板状体を押し上げることがなく,基板を載せる載置面を変形することがない。また,プラズマ雰囲気中で使用してもプラズマが前記隙間を通して接着層に進入し難いことから接着層が浸食されることがなくパーティクルの発生が少ない。」 「【0036】 また,上記各構成において,前記隙間に接着剤が充填されていると,接着層の腐食が抑えられて静電吸着用電極とベース部材間の漏れ電流の増加を防止し,絶縁性を長期間に渡って維持することができる。また,使用温度が上昇しても載置面の形状変化が少なくヘリウム等の熱伝導性ガスの漏れ量を均一にすることができるため,ウェハ表面の温度分布を均一に保つことができる。また,接着層の浸食を防止することができるため,ガス供給孔まで浸食されないのでヘリウム等の熱伝導性ガスの漏れ量が大きく変化することのないサセプタを提供できる。」 「【発明を実施するための最良の形態】 【0041】 本発明の実施形態についてウェハを加工処理する静電チャックを例にあげて説明する。 【0042】 図1(a)は,本発明のサセプタ101の一例を示す概略の正面図である。図1(b)は,そのX-X線の概略断面図である。 【0043】 サセプタ101は,静電チャック部とベース部材107とを接着剤層111を介して接着したものである。静電チャック部は,板状体102,静電吸着用電極104a,104bで構成され,所望により絶縁性のフィルム113を有する。 【0044】 板状体102は,成膜処理またはエッチング処理される基板Wを上面に載置可能な載置面103を有している。載置面103は,板状体102の一方の主面に形成され,半導体ウェハ等の基板であるウェハWを載せることができる。板状体102の他方の主面には一対の静電吸着用電極104a,104bが設けられている。静電吸着用電極104a,104bを絶縁性のフィルム113で覆って保護し,絶縁性を高めることもできる。絶縁性保護の観点からは,フィルム113は,静電吸着用電極104よりも大きい面積を有するもので,特に板状体の他方の主面のほぼ全面に設けることが好ましい。 【0045】 板状体102の他方の主面に一対の静電吸着用電極104a,104bを備えることで,板状体102の絶縁層厚みを均一にすることができるとともに,載置面103内の吸着力を均一にすることができる。絶縁層厚みとは,載置面103から静電吸着用電極104a,104bまでの距離をいう。例えば,静電吸着用電極104a,104bが板状体102の他方の主面にある場合には絶縁層厚みが板状体102の厚みに相当する。また,静電吸着用電極104a,104bが板状体102の内部に設けられた場合には絶縁層厚みが載置面103から静電吸着用電極104a,104bまでの距離となる。 【0046】 なお,図1(b)では載置面103とウェハWとの間に大きな隙間があるように描かれているが,静電吸着用電極104a,104bに電圧を印加すると,ウェハWは載置面103に吸着される。 【0047】 ベース部材107は,熱伝導率が大きいものを採用でき,例えば金属を用いることができる。板状体102と静電吸着用電極104a,104bとを含む静電チャック部107の下面とベース部材107の上面とは,絶縁性の接着剤層111で接着されている。 【0048】 載置面103の周辺部103aには,静電チャック部およびベース部材107を貫通する複数のガス供給孔108を備えており,ウェハWを載置面103に吸着保持をしたとき,載置面103をガス溝112より外側の載置面103とウェハWの周辺部103aとでガスがシールされ,載置面103の周縁部に設けたガス供給孔108を通してヘリウム等の熱伝導性ガスを供給すると,ウェハWと載置面103との隙間にガスが充填されこの充填ガスにより熱伝達が高まりウェハWを均一に冷却することができる。 【0049】 また,本発明のサセプタ101は,板状体102とベース部材107との接合部の外周に沿って環状の凹部114を設け,凹部114内に配置された環状の保護部材105を有し,板状体102の下面と保護部材105の上面との間およびベース部材107の上面と保護部材105の下面との間の少なくとも一方に隙間106を有することを特徴とする。図2(a),(b)は,図1(b)のA部を示す概略の部分拡大図である。耐プラズマ性の良好なセラミックから成る板状体102の外周部の下方に凹部114を設け,この凹部114に保護部材105を配設することで,板状体102の外周部にベース部材107をプラズマから保護するためのガードリング115を設置した場合でも,板状体102とガードリング115の隙間から入り込むプラズマにより,ベース部材107がプラズマに晒され難いように距離を保つことができるとともに,接着剤層111にプラズマが直接晒され難いように保護することができる。 【0050】 また,板状体102の下面と保護部材105の上面との間またはベース部材107の上面と保護部材105の下面との間の少なくとも一方に隙間106を有することで,ウェハWの成膜処理工程やエッチング処理工程で温度が上がった場合,保護部材105が熱膨張して縦方向(図1における上下方向)に伸びても板状体102の外周部が押し上げられる虞がなくなり,載置面103の周辺部103aの形状の変化を抑制し,ウェハWと載置面103との間に充填されたガスのシール性が変化することなくヘリウムガスの漏れが増大することを抑制することができる。 【0051】 隙間106は,0.01?0.1mmの範囲で形成することが好ましい。また,より好適には0.01?0.05mmの範囲で形成することが好ましい。この隙間106を上記の範囲に設定することで,保護部材105が熱膨張で縦方向に伸びても板状体102の外周部を押し上げるのを抑制し,載置面103の形状の変化を小さくし,ヘリウムガスの漏れ量が増大するのを抑制し易くなる。また,隙間106からプラズマが進入して接着剤層111が浸食され,パーティクルの発生や絶縁破壊を引き起こすのを効果的に抑制することができる。 【0052】 図3(a),(b),(c)は,図1(b)のA部の凹部114の他の形態を示す概略の部分拡大図である。図3(a),(b)に示すように,凹部114は,ベース部材107または板状体102の周辺部のいずれかに形成されていることが好ましい。図3(a)に示すように,凹部114をベース部材107の周辺に形成する場合は,板状体102の厚みが2mm以下と薄い場合は有効である。また,図3(b)に示すような凹部114を板状体102の周辺に形成する場合は,板状体102の厚みが5mm以上の場合に特に有効である。図3(b)は,接着剤層111を保護部材105で完全に覆うことができ,接着剤層111がプラズマ雰囲気に直接晒されることを防ぐことができることから接着剤層111をより効果的に保護することができる。 【0053】 また,図3(c)に示すように凹部114は,板状体102とベース部材107とにわたって形成されていることが好ましい。これは,板状体102の厚みが2?5mmのときに特に有効である。図3(c)は,接着剤層111を保護部材105で完全に覆うことができることから,接着剤層111をプラズマより,より確実に保護することができる。」 「【0062】 また,接着剤層111は,その端部が保護部材105によって円環状に取り囲まれていることが好ましい。このことにより,本発明のサセプタ101をプラズマ下の環境で使用しても接着剤層111は保護部材105によりプラズマから遮断され,接着剤層111の浸食を抑制することができると共に,プラズマによるパーティクルの発生を抑制することができる。 【0063】 また,図6は,本発明のサセプタ101に設けた保護部材105の断面形状の一例を示す概略図である。図6(a)(b)に示すように,隙間106には接着剤215が充填されていることが好ましい。これは,隙間106に接着剤215を充填しない場合,プラズマ下において,隙間106を形成している板状体102と保護部材105の角部にプラズマが集中し,板状体102または保護部材105の角部が浸食されパーティクルの発生する虞があるが,このパーティクルの発生を抑制するために隙間106に接着剤215を充填し,表面を角部のない滑らかな面にすることにより,プラズマが集中することを抑制し,パーティクルの発生を少なくすることができる。 【0064】 このとき,隙間106に充填する接着剤215は,耐プラズマ性に優れ,硬化後にゴム状の弾性体となるシリコーン接着剤が好ましい。この理由は,ウェハWの処理工程で使用温度が上がり保護部材105が熱膨張によって上方に伸びたとき,弾性体であるシリコーン接着剤が保護部材105の押し上げる力を緩和し,板状体102を変形することを抑制することができるからである。上記接着剤215は,具体的には,GE東芝シリコーン社製「TSE-3360」等が好ましい。 【0065】 また,接着剤215は,硬化後の伸び率が100%以上であることが良い。これは,ウェハWの処理工程で使用温度が上がり保護部材105が熱膨張して縦方向に伸びても,接着剤215が容易に縮むことで,板状体102に押し上げる応力を緩和することができ,板状体102を押し上げることが無いようにするためである。逆に,接着剤215の硬化後の伸び率が100%未満であると,保護部材105が熱膨張によって縦方向に伸びたとき,接着剤215の縮み量が小さくなり板状体102を押し上げることから載置面103の形状が変形し,ウェハWと載置面102の間に隙間が生じ,ヘリウムガスが漏れ,ウェハWの表面温度を均一にすることができなくなる虞れがあるからである。まお,接着剤の硬化後の伸び率とは,単位長さの接着剤硬化体を一定の力で引っ張り,接着剤が破断するまでの伸び量を引っ張り前の寸法で除した値とする。また,伸び率が大きいほど,弾性体として柔らかいことを示し,圧縮に対しても縮みやすいことを示す。」 「【0072】 板状体102は,耐食性が優れたセラミックスであることが好ましく,特にAl_(2)O_(3),SiC,AlN及びSi_(3)N_(4)のうち少なくとも1種を主成分とするセラミック焼結体を用いることが,より高い耐食性を得る上で重要である。これらの中でもハロゲン系腐食性ガスやプラズマに対する耐食性の点で,Al_(2)O_(3)又はAlNを主成分とするセラミック焼結体を用いることが好ましい。さらに安価に製造する場合には,Al_(2)O_(3)を主成分とするセラミック焼結体を,ウェハの均熱性が要求される場合には,熱伝導率の100W/(m・K)以上のAlNを主成分とするセラミック焼結体を用いることが良い。」 「【0077】 次に本発明の製造方法について説明する。 【0078】 板状体102はセラミック焼結体を所定の外径,厚み寸法に加工した後,メッキ法により導体層を形成し,不要箇所をブラストにて除去して静電吸着用電極104を形成することによって製作された。静電吸着用電極104とベース部材107との絶縁を確保するために,所望により静電吸着用電極104をポリイミド等の絶縁フィルムで覆い保護することができる。 【0079】 ベース部材107はセラミックス,アルミニウムや超硬,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材から成り,内部に冷却用の水路を設け,冷却液等を循環することで,プラズマによりウェハW上に発生した熱を系外へ逃がすことができる。また,ベース部材107の表面は絶縁性を持たせるためにアルマイト等の表面処理を施すことが好ましい。 【0080】 保護部材105は,円環状に製作し,その内径寸法をベース部材107の接着面の外径寸法より小さく加工し,熱を加えて保護部材105を膨張させてベース部材107の外形寸法より大きくなったところで圧入嵌合させる。テフロン(登録商標)樹脂からなる保護部材105は,約100℃の温度で加熱し圧入嵌合することが最適であった。その後,旋盤加工により保護部材105の外径を板状体の外形寸法より同じか若干小さく仕上げる。また,保護部材105の板状体102側に面する端面はベース部材107の接着面よりも低く加工し,さらに,外周の厚みが内周の厚みより大きくなるように保護部材105の断面形状が略L字形かまたは,テーパ形状になるように加工する。 【0081】 次に,ベース部材107の接着面にシリコーン接着剤をスクリーン印刷にて均一に塗布し,板状体102を接着固定する。このとき,保護部材の端面にもシリコーン接着剤を塗布しておけば,簡単に隙間106に接着剤を充填することができる。」 「【図1】 」 「【図6】 」 上記摘記を参照すれば,図1(a)及び(b)から,ガードリング115が,板状体102とベース部材107を囲むとともに,保護部材105が,ガードリング115とベース部材107との間に水平方向で配置されていることを見てとることができる。 (イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a 引用文献2の請求項1,10,12を引用する請求項15には, 「基板を上面に載置可能な板状体と, 該板状体の下面に接着剤層を介して接合されたベース部材と, 前記板状体と前記ベース部材との接合部の外周に沿って形成された環状の凹部内に配設された環状の保護部材とを有しており, 前記板状体の下面と前記保護部材の上面との間に隙間が設けられているサセプタであって, 前記隙間に接着剤が充填されており, 前記板状体の内部に静電吸着用電極が形成されているサセプタ。」 という発明が開示されていること。 b 引用文献2に記載された技術は,CVD,PVD,スパッタリング等の成膜装置やエッチング装置などの加工装置において,被処理体を保持するサセプタ,特に静電チャックに好適に用いることのできるサセプタに関するものであること。 c 上記aの構成を備えたサセプタは,前記保護部材が膨張しても前記板状体を押し上げることがなく,基板を載せる載置面を変形することがなく,また,プラズマ雰囲気中で使用してもプラズマが前記隙間を通して接着層に進入し難いことから接着層が浸食されることがなくパーティクルの発生が少ないという効果を奏すること。 d 上記aの構成を備えたサセプタにおいて,前記「隙間に接着剤が充填され」ているという構成は,接着層の腐食を抑えて静電吸着用電極とベース部材間の漏れ電流の増加を防止して絶縁性を長期間に渡って維持するとともに,使用温度が上昇しても載置面の形状変化を抑えることでヘリウム等の熱伝導性ガスの漏れ量を均一にしてウェハ表面の温度分布を均一に保ち,さらに,接着層の浸食を防止してガス供給孔までの浸食を防ぐことでヘリウム等の熱伝導性ガスの漏れ量が大きく変化することを防ぐという効果を提供すること。 d 引用文献2の図1(a)には,引用文献2に記載された発明の実施形態に係るサセプタ101の一例を示す概略の正面図が,また,同図(b)には,前記図1(a)のX-X線の概略断面図が描かれており,その詳細は,以下のeないしnのとおりであること。 e サセプタ101は,静電チャック部とベース部材107とを接着剤層111を介して接着したものであり,静電チャック部は,板状体102,静電吸着用電極104a,104bで構成され,所望により絶縁性のフィルム113を有すること。 f 板状体102は,成膜処理またはエッチング処理される基板Wを上面に載置可能な載置面103を有していること。 g 静電吸着用電極104a,104bが板状体102の内部に設けられていること。 h ベース部材107は,熱伝導率が大きいものを採用でき,例えば金属を用いることができ,板状体102と静電吸着用電極104a,104bとを含む静電チャック部107の下面とベース部材107の上面とは,絶縁性の接着剤層111で接着されていること。 i サセプタ101は,板状体102とベース部材107との接合部の外周に沿って環状の凹部114を有し,凹部114内には環状の保護部材105が配置され,板状体102の下面と保護部材105の上面との間に隙間106を有すること。 j 板状体102の外周部にベース部材107をプラズマから保護するためのガードリング115が設置されていること。 k 隙間106には接着剤215が充填されていることが好ましく,これは,隙間106に接着剤215を充填しない場合,プラズマ下において,隙間106を形成している板状体102と保護部材105の角部にプラズマが集中し,板状体102または保護部材105の角部が浸食されパーティクルの発生する虞があるが,このパーティクルの発生を抑制するために隙間106に接着剤215を充填し,表面を角部のない滑らかな面にすることにより,プラズマが集中することを抑制し,パーティクルの発生を少なくすることができること。 l 隙間106は,0.01?0.05mmの範囲で形成することが好ましいこと。 m 隙間106に充填する接着剤215は,耐プラズマ性に優れ,硬化後にゴム状の弾性体となるシリコーン接着剤が好ましいこと。 n ガードリング115が,板状体102とベース部材107を囲むとともに,保護部材105が,ガードリング115とベース部材107との間に水平方向で配置されていること。 o 前記サセプタの製造方法は以下の工程を含む製造方法でされること。 (a)セラミック焼結体を所定の外径,厚み寸法に加工した後,メッキ法により導体層を形成し,不要箇所をブラストにて除去して静電吸着用電極104を形成することによって板状体102を製作する工程と, (b)セラミックス,アルミニウムや超硬,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材から成り,内部に冷却用の水路を設け,冷却液等を循環することで,プラズマによりウェハW上に発生した熱を系外へ逃がすことができるベース部材107を用意する工程と, (c)円環状の保護部材105を製作し,その内径寸法をベース部材107の接着面の外径寸法より小さく加工し,熱を加えて,テフロン(登録商標)樹脂からなる保護部材105を膨張させてベース部材107の外形寸法より大きくなったところで圧入嵌合させる工程であって, 保護部材105は,約100℃の温度で加熱し圧入嵌合することが最適であり,その後,旋盤加工により保護部材105の外径を板状体の外形寸法より同じか若干小さく仕上げ,さらに,保護部材105の板状体102側に面する端面はベース部材107の接着面よりも低く加工し,さらに,外周の厚みが内周の厚みより大きくなるように保護部材105の断面形状が略L字形かまたは,テーパ形状になるように加工する工程と, (d)次に,ベース部材107の接着面にシリコーン接着剤をスクリーン印刷にて均一に塗布し,板状体102を接着固定する工程であって,このとき,保護部材の端面にもシリコーン接着剤を塗布しておけば,簡単に隙間106に接着剤を充填することができる工程。 (ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献2には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「静電チャック部であって, 前記静電チャック部は,板状体102,静電吸着用電極104a,104bで構成され,所望により絶縁性のフィルム113を有しており,前記板状体102は,成膜処理またはエッチング処理される基板Wを上面に載置可能な載置面103を有しており,前記静電吸着用電極104a,104bが前記板状体102の内部に設けられた静電チャック部と, ベース部材107であって, 前記ベース部材107は,熱伝導率が大きいものを採用でき,例えば金属を用いることができるベース部材107と, 接着剤層111であって, 前記板状体102と前記静電吸着用電極104a,104bとを含む前記静電チャック部107の下面と前記ベース部材107の上面とを接着する絶縁性の接着剤層111と, 環状の保護部材105であって, 前記板状体102と前記ベース部材107との接合部の外周に沿って形成された環状の凹部114内に,前記板状体102の下面と前記保護部材105の上面との間に隙間106を有するように配置された環状の保護部材105と, ガードリング115であって, 前記板状体102と前記ベース部材107を囲むとともに,前記保護部材105を,ガードリング115と前記ベース部材107との間に水平方向で配置するように設置されたガードリング115と, 接着剤215であって, 前記隙間106を充填する接着剤215と, を備えたサセプタであって, 当該サセプタは, (a)セラミック焼結体を所定の外径,厚み寸法に加工した後,メッキ法により導体層を形成し,不要箇所をブラストにて除去して静電吸着用電極104を形成することによって板状体102を製作する工程と, (b)セラミックス,アルミニウムや超硬,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材から成り,内部に冷却用の水路を設け,冷却液等を循環することで,プラズマにより基板W上に発生した熱を系外へ逃がすことができるベース部材107を用意する工程と, (c)円環状の保護部材105を製作し,その内径寸法をベース部材107の接着面の外径寸法より小さく加工し,熱を加えて,テフロン(登録商標)樹脂からなる保護部材105を膨張させてベース部材107の外形寸法より大きくなったところで圧入嵌合させる工程であって, 保護部材105は,約100℃の温度で加熱し圧入嵌合することが最適であり,その後,旋盤加工により保護部材105の外径を板状体の外形寸法より同じか若干小さく仕上げ,さらに,保護部材105の板状体102側に面する端面はベース部材107の接着面よりも低く加工し,さらに,外周の厚みが内周の厚みより大きくなるように保護部材105の断面形状が略L字形かまたは,テーパ形状になるように加工する工程と, (d)次に,ベース部材107の接着面にシリコーン接着剤をスクリーン印刷にて均一に塗布し,板状体102を接着固定する工程であって,このとき,保護部材の端面にもシリコーン接着剤を塗布しておけば,簡単に隙間106に接着剤を充填することができる工程と, を含む方法によって製造されるサセプタ。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「基板W」は,本件補正発明の「ワークピース」に相当する。したがって,引用発明の「板状体102,静電吸着用電極104a,104bで構成され,所望により絶縁性のフィルム113を有しており,前記板状体102は,成膜処理またはエッチング処理される基板Wを上面に載置可能な載置面103を有しており,前記静電吸着用電極104a,104bが前記板状体102の内部に設けられた静電チャック部」は,本件補正発明の「ワークピースを支持するためのパック」に相当する。 (イ)引用発明の「『セラミックス,アルミニウムや超硬,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材から成り,内部に冷却用の水路を設け,冷却液等を循環することで,プラズマにより基板W上に発生した熱を系外へ逃がすことができるベース部材107を用意する工程』によって設けられた『ベース部材107』」は,本件補正発明の「冷却プレート」に相当する。 (ウ)引用発明の「前記板状体102と前記静電吸着用電極104a,104bとを含む前記静電チャック部107の下面と前記ベース部材107の上面とを接着する絶縁性の接着剤層111」は,本件補正発明の「『パックに』『冷却プレート』を『接合』する『接着剤』」に相当する。 (エ)引用発明の「前記板状体102と前記ベース部材107を囲むとともに,前記保護部材105を,ガードリング115と前記ベース部材107との間に水平方向で配置するように設置されたガードリング115」は,本件補正発明の「前記パックと冷却プレートとを囲む装着リング」に相当する。 (オ)引用発明の「環状の保護部材105」は,上記(2)ア(イ)cのとおり,サセプタをプラズマ雰囲気中で使用してもプラズマが接着層に進入し難いことから接着層が浸食されることがなくパーティクルの発生が少ないという効果を得るために用いられているものであって,「ガードリング115と前記ベース部材107との間に水平方向で配置」されているのであるから,本件補正発明の「前記接着剤を保護するように構成された,前記装着リングと前記冷却プレートとの間に水平方向で配置されたガスケット」に相当する。 (カ)引用発明は,「前記板状体102と前記静電吸着用電極104a,104bとを含む前記静電チャック部107の下面と前記ベース部材107の上面とを接着する絶縁性の接着剤層111」と,「前記隙間106を充填する接着剤215」とを備える構造を有するものである。 そして,引用発明の「前記板状体102と前記静電吸着用電極104a,104bとを含む前記静電チャック部107の下面と前記ベース部材107の上面とを接着する絶縁性の接着剤層111」が,ベース部材107の上に垂直にあり,かつ,当該「接着剤層111」の端部が「隙間106」に露出する位置に存在し,また,引用発明の,「前記隙間106を充填する接着剤215」が,「環状の保護部材105」上に垂直にあることは,互いの位置関係から明らかである。 さらに,「充填」とは,欠けているところや空いているところにものを詰めてふさぐという意味を有する。 そうすると,引用発明において,「前記隙間106を充填する接着剤215」は,隙間106の欠けているところや空いているところに接着剤215を詰めてふさぐものといえるから,「接着剤215」は,前記隙間106にその端部が露出する「前記板状体102と前記静電吸着用電極104a,104bとを含む前記静電チャック部107の下面と前記ベース部材107の上面とを接着する絶縁性の接着剤層111」と接する構造を有するといえる。 すなわち,引用発明において,「接着剤215」と「接着剤層111」は,切れ目なく続き,途中に空隙等の他の構成要素を含まないから,「接着剤215」と「接着剤層111」は「連続」しているといえる。 しかも,引用発明は,「(c)円環状の保護部材105を製作し,その内径寸法をベース部材107の接着面の外径寸法より小さく加工し,熱を加えて,テフロン(登録商標)樹脂からなる保護部材105を膨張させてベース部材107の外形寸法より大きくなったところで圧入嵌合させる工程であって,保護部材105は,約100℃の温度で加熱し圧入嵌合することが最適であり,その後,旋盤加工により保護部材105の外径を板状体の外形寸法より同じか若干小さく仕上げ,さらに,保護部材105の板状体102側に面する端面はベース部材107の接着面よりも低く加工し,さらに,外周の厚みが内周の厚みより大きくなるように保護部材105の断面形状が略L字形かまたは,テーパ形状になるように加工する工程と,(d)次に,ベース部材107の接着面にシリコーン接着剤をスクリーン印刷にて均一に塗布し,板状体102を接着固定する工程であって,このとき,保護部材の端面にもシリコーン接着剤を塗布しておけば,簡単に隙間106に接着剤を充填することができる工程」を含む方法によって製造されるものであり,この方法における,「このとき,保護部材の端面にもシリコーン接着剤を塗布」によって特定される構成は,「ベース部材107の接着面にシリコーン接着剤をスクリーン印刷にて均一に塗布」する工程において,保護部材の端面へのシリコーン接着剤の塗布を,同時に行うことを特定しているものと理解されるから,引用発明においては,シリコーン接着剤の第1の部分が保護部材の端面上にあり,前記シリコーン接着剤の第2の部分が,前記保護部材を超えて広がっておりかつベース部材107の上にあるといえる。 そうすると,引用発明と本件補正発明は,いずれも,「前記接着剤の第1の部分が前記ガスケット上に垂直にあり,前記接着剤の第2の部分が,前記ガスケットを超えて広がっておりかつ前記冷却プレートの上に垂直にあり,前記接着剤の前記第1の部分が前記接着剤の前記第2の部分と連続している」という構成を有する点で一致する。 なお,請求人は,審判請求書において,「引用文献2において,接着剤215と接着剤層111とは明確に分離しており,別物であります。」と主張する。 確かに,引用文献2の図6(a)においては,「接着剤215」と「接着剤層111」は,別の種類のハッチングがなされており,また,図番も「215」と,「111」として異なる番号が付されている。 しかしながら,特許の出願書類における図面の記載は,発明を説明するために必要とされる範囲において便宜的になされるものであって,その記載の理解は,発明の詳細な説明の記載によってなされるものであることはいうまでもないことである。 そして,上記で検討したように,本件補正発明の各構成は,引用文献2に記載されているものと認められるから,請求人の前記主張は採用することができない。 (キ)引用発明の「サセプタ」は,「基板W」を「搭載」するものであり,上記(ア)ないし(カ)の検討から,本件補正発明の「ワークピースキャリア」に相当する。 イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明は一致するから,本件補正発明は引用文献2に記載された発明であるといえる。 ウ したがって,本件補正発明は,引用文献2に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年8月28日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし15に係る発明は,令和2年4月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし3,5に係る発明は,本願の優先権の主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明であるか,引用文献2に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項3号に該当し,あるいは,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 また,この出願の請求項4,6,7,9ないし15に係る発明は,本願の優先権の主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明及び引用文献4,5に記載された技術に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 2.特開2007-194616号公報 4.特開2001-297991号公報 5.特表2013-511847号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2の記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から限定事項を削除したものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用文献2に記載された発明であるから,本願発明も,引用文献2に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2021-02-24 |
結審通知日 | 2021-03-02 |
審決日 | 2021-03-22 |
出願番号 | 特願2018-563550(P2018-563550) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮久保 博幸 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 雅博 加藤 浩一 |
発明の名称 | 縁部シーリングを向上させた大電力用ワークピースキャリア |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |