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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1376700
異議申立番号 異議2020-700849  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-28 
確定日 2021-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6689574号発明「外用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6689574号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6689574号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6689574号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に出願され、令和2年4月10日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年10月28日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年1月13日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年3月19日付け意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、当審は、申立人に訂正請求があった旨を通知し(特許法第120条の5第5項)、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは何ら応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1の「(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩」を「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1の「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を「(B)構成単糖の数が2?10の・・・ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1の「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を「(B)・・・不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する。
(4)本件訂正請求は、一群の請求項〔1?7〕に対して請求されたものである。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1において、訂正前の「(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩」が有する物性である平均分子量を、訂正後の「平均分子量が50万以上の」という特定の範囲に規定し、「(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩」の構造を明確化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1は、(A)成分の平均分子量を特定の範囲に規定することで、(A)成分の構造を明確化するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】?【0016】には、「(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量については、特に制限されないが、例えば50万以上、好ましくは50万?300万が挙げられる。」ことが記載されているから、(A)成分の平均分子量を「50万以上」とする訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2、3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2、3は、合わせて、請求項1において、訂正前の「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を、訂正後の「構成単糖の数が2?10の不飽和型」という特定の構造に規定し、「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」の構造を明確化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項2、3は、(B)成分を特定の構造に規定することで、(B)成分を明確化するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】?【0024】には、「(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数については、特に制限されないが、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及びべたつき抑制をより一層効果的に向上させるという観点から、好ましくは2?12糖、更に好ましくは2?10糖、特に好ましくは2?8糖が挙げられる。」こと、同段落【0081】には、「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」が記載されているから、(B)成分の構造を「構成単糖の数が2?10の不飽和型」とする訂正事項2、3は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明1?7及び本件明細書の記載事項
1 本件発明1?7
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載の事項によって特定される発明(以下、「本件発明1?7」という。)は以下のとおりのものである。
【請求項1】
(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩と、(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩と、(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有する、外用組成物(但し、ヒドロキシアルキル尿素を含む場合を除く)。
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a)(I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
【請求項2】
前記式(I)において、AOとEOがランダム状に付加している請求項1記載の外用組成物。
【請求項3】
前記式(I)において、AOがオキシプロピレン基である請求項1又は2記載の外用組成物。
【請求項4】
前記式(I)において、3?9個の水酸基を有する化合物がグリセリンである、請求項1?3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、重量比で前記(B)成分の同量以上含まれる、請求項1?4のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項6】
化粧料である、請求項1?5のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項7】
前記(A)成分の平均分子量が110?250万である、請求項1?6のいずれかに記載の外用組成物。

2 本件明細書の記載事項
(1)技術分野
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸を含有する外用組成物に関する。より具体的には、本発明は、ヒアルロン酸を含んでいながら、ヒアルロン酸が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易く、優れた浸透感が得られる外用組成物に関する。

(2)背景技術
【0002】
ヒアルロン酸及びその塩は、皮膚に保湿感や重厚な塗布感を付与できるため、化粧料等の外用組成物の分野で広く使用されている。また、近年、外用組成物の機能性の向上に対する要求は益々高まっており、ヒアルロン酸及びその塩を高濃度で含有させることにより、ヒアルロン酸による保湿感や重厚な塗布感をより一層効果的に付与できる外用組成物が要望されている。
【0003】
一方、ヒアルロン酸及びその塩には、べたつきが生じる、塗布時の伸ばし易さが低下する等の欠点がある。従来、このようなヒアルロン酸及びその塩の欠点を解消する処方について種々検討されている。例えば、特許文献1には、ヒアルロン酸と共に、ガム質、特定の四級アンモニウム塩を配合することによって、べたつきを抑制して使用感を向上できることが報告されている。また、特許文献2には、ヒアルロン酸と、1,2-ペンタンジオール、ポリグリセリン、及び/又はポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルとを併用することによっても、べたつきを抑制して使用感を向上できることが報告されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、ヒアルロン酸及びその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感が損なわれてしまうという欠点がある。そのため、従来の処方で高濃度のヒアルロン酸を配合しても、ヒアルロン酸及びその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつき抑制、塗布時に伸ばし易さの向上を図ることができず、また、良好な浸透感も得られないことから、消費者の要求を満足できる使用感を備えさせることができなかった。
【0005】
組成物に優れた感触と保湿性を付与する成分としては、下記式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体が知られている(特許文献3)。当該アルキレンオキシド誘導体は、べたつきの強い基剤と組み合わせて使用することで、べたつき感を抑制できることが知られている。
【0006】
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-95432号公報
【特許文献2】特開2000-344656号公報
【特許文献3】国際公開第2006/038724号パンフレット
【発明の概要】

(3)発明が解決しようとする課題
【0008】
本発明者は、ヒアルロン酸及び/又はその塩のべたつきを抑制するために、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体を配合したが、べたつきを効果的に抑制することができなかった。また、塗布時に伸ばし易さや優れた浸透感も満足いくものではなかった。本発明の目的は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供することである。

(4)課題を解決するための手段
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物に、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩ならびに式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体を配合することによって、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易くなり、優れた浸透感を備えさせ得ることを見出した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)ヒアルロン酸及び/又はその塩と、(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩と、(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有する、外用組成物。
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
項2. 前記式(I)において、AOとEOがランダム状に付加している項1記載の外用組成物。
項3. 前記式(I)において、AOがオキシプロピレン基である項1又は2記載の外用組成物。
項4. 前記式(I)において、3?9個の水酸基を有する化合物がグリセリンである、項1?3のいずれかに記載の外用組成物。
項5. 前記(A)成分が、重量比で前記(B)成分の同量以上含まれる、項1?4のいずれかに記載の外用組成物。
項6. 化粧料である、項1?5のいずれかに記載の外用組成物。

(5)発明の効果
【0011】
本発明によれば、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易く、優れた浸透感を与えるという特性を備えさせることができる。そのため、本発明によれば、高い機能性と良好な使用感を兼ね備えた外用組成物の提供が可能になる。

(6)発明を実施するための形態

【0012】
1.外用組成物
本発明の外用組成物は、(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩と、(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩と、(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有することを特徴とする。以下、本発明の外用組成物について詳述する。
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)


【0013】
(A)ヒアルロン酸及び/又はその塩
本発明の外用組成物は、重厚な塗布感及び保湿感を備えさせるために、ヒアルロン酸(所謂、高分子ヒアルロン酸)及び/又はその塩((A)成分と表記することもある)を含有する。
【0014】
ヒアルロン酸は、グルクロン酸の1位の炭素原子とN-アセチルグルコサミンの3位の炭素原子がグリコシド結合により結合した2糖を繰り返し単位として含む多糖である。
【0015】
本発明で使用されるヒアルロン酸の塩については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;トリ(n-ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩等が挙げられる。これらのヒアルロン酸の塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。これらのヒアルロン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明で使用されるヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量については、特に制限されないが、例えば50万以上、好ましくは50万?300万が挙げられる。特に、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制作用及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、ヒアルロン酸の平均分子量として、好ましくは80万?250万、更に好ましくは100万?250万が挙げられる。本発明において、ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)法によって、プルランを標準物質として使用して求められる重量平均分子量である。
【0017】
本発明で使用されるヒアルロン酸及び/又はその塩の由来については、特に制限されず、鶏冠、臍帯、皮膚、関節液等の生体組織から得られた天然由来であってもよく、また、酵素反応、化学合成、微生物培養等によって生成させたものであってもよい。
【0018】
ヒアルロン酸及び/又はその塩は市販されており、本発明では、市販品を使用してもよい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の市販品としては、具体的には、商品名「ヒアルロンサン HA-LQH」(平均分子量120?220万;キユーピー株式会社)、商品名「ヒアルロンサン HA-LQ」(平均分子量85?160万;キユーピー株式会社)、商品名「ヒアルロン酸FCH-200」(平均分子量180?220万;キッコーマンバイオケミファ株式会社)、商品名「ヒアルロン酸FCH-150」(平均分子量140?180万;キッコーマンバイオケミファ株式会社)、商品名「ヒアルロン酸FCH-120」(平均分子量100?140万;キッコーマンバイオケミファ株式会社)、商品名「バイオヒアルロン酸ナトリウム HA9」(平均分子量80?120万;株式会社資生堂)、商品名「バイオヒアルロン酸ナトリウム HA12」(平均分子量110?160万;株式会社資生堂)、商品名「バイオヒアルロン酸ナトリウム HA20」(平均分子量190?270万;株式会社資生堂)等が挙げられる。
【0019】
本発明の外用組成物において、(A)成分として、ヒアルロン酸又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の外用組成物において、(A)成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.05重量%以上という濃度に設定することによって、ヒアルロン酸及び/又はその塩特有の重厚な塗布感と保湿感が効果的に発揮することが可能になる。また、従来技術では、このような濃度で(A)成分を含有させると、べたつきが生じたり、塗布時に伸ばし難くなったり、浸透感に悪影響を与えたりするが、本発明の外用組成物では、後述するヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩ならびに式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体により、重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易くなり、浸透感の向上が図られる。これらの使用感をより一層効果的に向上させるという観点から、(A)成分の濃度として、好ましくは0.05?2重量%、更に好ましくは0.05?1重量%が挙げられる。


【0021】
(B)ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩
本発明の外用組成物は、前記(A)成分と共に、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩((B)成分と表記することもある)を含有する。ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩を後述する(C)成分とともに使用することにより、(A)成分が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきを抑制し、更には塗布時に伸ばし易くなり、浸透感が向上し、外用組成物に優れた使用感を備えさせることが可能になる。また、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩を使用することにより、(A)成分の水への溶解性を向上させ、(A)成分の溶解に要する時間を短縮することも可能になる。
【0022】
ヒアルロン酸オリゴ糖は、グルクロン酸の1位の炭素原子とN-アセチルグルコサミンの3位の炭素原子がグリコシド結合により結合した2糖を繰り返し単位として、当該繰り返し単位を1個以上含むオリゴ糖である。
【0023】
本発明で使用されるヒアルロン酸オリゴ糖の塩については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;トリ(n-ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩等が挙げられる。これらのヒアルロン酸オリゴ糖の塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。これらのヒアルロン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数については、特に制限されないが、例えば、2?16糖程度が挙げられる。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及びべたつき抑制をより一層効果的に向上させるという観点から、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の構成単糖の数として、好ましくは2?12糖、更に好ましくは2?10糖、特に好ましくは2?8糖が挙げられる。
【0025】
本発明で使用されるヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩は、飽和型又は不飽和型いずれか一方を単独で使用してもよく、飽和型及び不飽和型を組み合わせて使用してもよい。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、好ましくは不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩が挙げられる。本発明において、飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩とは、全ての構成単糖におけるピラノース骨格が単結合で形成されているヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩である。不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩とは、少なくとも1つの構成単糖におけるピラノース骨格に二重結合が含まれているヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩である。不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩として、具体的には、非還元末端に位置するグルクロン酸の4位の炭素原子に結合している水酸基が除去され、4位の炭素原子と5位の炭素原子が二重結合で結合しているヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩が挙げられる。
【0026】
ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩は、ヒアルロン酸を加水分解することによって製造することができ、また、酵素反応、化学合成、微生物培養等によって製造することもできる。ヒアルロン酸を加水分解してヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩を製造する方法としては、例えば、酵素分解法、アルカリ分解法、加熱処理法、超音波処理法等の公知の方法が挙げられる。具体的には、酵素分解法としては、ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアルロニダーゼ(Streptomyces由来)、ヒアルロニダーゼSDなど)等のヒアルロン酸加水分解酵素で、ヒアルロン酸を分解する方法が挙げられる。また、アルカリ分解法としては、具体的には、ヒアルロン酸を含む水溶液に1N程度の水酸化ナトリウム等の塩基を加え、数時間加温して、低分子化させる方法等が挙げられる。更に、微生物培養によって製造する方法としては、例えば、ヒアルロン酸及び/又はその塩の水溶液中で、ヒアルロン酸及び/又はその塩の分解能を有する微生物(例えば、Streptomyces、Streptococcus、Peptococcus、Arthrobacter、Proteus、Flavobacterium等)を培養する方法が挙げられる。
【0027】
ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩は市販されており、本発明では、市販品を使用してもよい。ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の市販品としては、具体的には、飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩としては、商品名「ヒアルロン酸オリゴ糖6糖」(株式会社糖質科学研究所)、商品名「ヒアルロン酸オリゴ糖8糖」(株式会社糖質科学研究所)、商品名「ヒアルロン酸オリゴ糖10糖」(株式会社糖質科学研究所)、商品名「ヒアルロン酸オリゴ糖12糖」(株式会社糖質科学研究所)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide」(2糖と4糖の混合物、AdipoGen社製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide」(4?8糖の混合物、AdipoGen社製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide(<1.5kDa)」(2糖と4糖の混合物、AdipoGen社製)、商品名「マイクロヒアルロン酸FCH」((12?14糖の混合物、キッコーマンバイオケミファ社製)等が挙げられる。また、不飽和型のヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩としては、具体的には、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp2」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp4」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp6」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp8」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp10」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp12」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp14」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp18」(Iduron Ltd製)、商品名「Hyaluronic Acid Oligosaccharide,dp20」(Iduron Ltd製)等が挙げられる。
【0028】
本発明の外用組成物において、(B)成分として、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の外用組成物において、(B)成分の濃度については、特に制限されないが、例えば0.0001?1.5重量%が挙げられる。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、(B)成分の濃度として、好ましくは0.0001?1重量%、更に好ましくは0.00025?1重量%、特に好ましくは0.001?1重量%が挙げられる。
【0030】
また、本発明の外用組成物において、(A)成分と(B)成分の比率については、特に制限されないが、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、(A)成分100重量部当たり、(B)成分が、好ましくは0.1重量部以上、更に好ましくは0.1?300重量部が挙げられる。また、(A)成分が、(B)成分の同量以上、即ち、(A)成分100重量部当たり、(B)成分が100重量部以下、好ましくは0.1?100重量部、更に好ましくは0.1?80重量部、特に好ましくは0.1?50重量部を充足する場合には、(A)成分の溶解性がより一層向上する傾向が見られると共に、格段に優れた重厚な塗布感及び保湿感を備えさせることが可能になる。


【0031】
(C)アルキレンオキシド誘導体
本発明の外用組成物は、前記(A)成分、(B)成分と共に、下記式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体((C)成分と表記することもある)を含有する。当該アルキレンオキシド誘導体を(B)成分とともに使用することにより、(A)成分が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきを抑制し、更には塗布時に伸ばし易くなり、浸透感が向上し、外用組成物に優れた使用感を備えさせることが可能になる。
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
【0032】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基であり、aはZの化合物の水酸基の数であり3?9である。3?9個の水酸基を有する化合物として、例えば、a=3であればグリセリン、トリメチロールプロパン、a=4であれば、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、アルキルグリコシド、ジグリセリン、a=5であればキシリトール、a=6であればジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトール、a=8であればショ糖、トレハロース、a=9であればマルチトール、及び、これらの混合物等が挙げられる。好ましくは、Zは3?6個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基であり、3≦a≦6を満たす。3?9個の水酸基を有する化合物としてはグリセリン、トリメチロールプロパンが好ましく、グリセリンが特に好ましい。なお、a≦2では、油脂などの油性成分との相溶性に劣り油性製剤への配合安定性が悪化する傾向がある。10≦aではべたつき感が生じる。
【0033】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基であり、例として、オキシプロピレン基、オキシブチレン基(オキシn-ブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt-ブチレン基)、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基等が挙げられる。好ましくは、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、さらに好ましくはオキシプロピレン基である。
【0034】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、lはAOの平均付加モル数であり、1≦l≦50、好ましくは2≦l≦20、更に好ましくは3≦l≦7である。mはEOの平均付加モル数であり、1≦m≦50、好ましくは2≦m≦20、更に好ましくは6≦m≦10である。lが0であるとべたつき感を生じてしまい、50を超えると保湿効果が低下してしまうので好ましくない。また、mが0であると保湿効果が低下してしまい、50を超えるとべたつき感が生じてしまうので好ましくない。
【0035】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり、好ましくは1/4?4/1である。1/5より小さいとべたつき感を生じてしまい、5/1より大きいと保湿感が低下してしまうので好ましくない。AOとEOの付加する順序は特に指定はなく、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。より優れた肌荒れ防止効果を得るためには、ランダム状に付加されているものが好ましい。
【0036】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、BOは炭素数4のオキシアルキレン基であり、例としてはオキシブチレン基(オキシn-ブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt-ブチレン基)、オキシテトラメチレン基等が挙げられる。好ましくはオキシブチレン基である。
【0037】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、nはBOの平均付加モル数であり、0.5<n≦5であり、好ましくは0.8≦n≦3であり、より好ましくは1≦n≦3である。0.5以下であるとべたつき感が生じてしまい、5を超えると保湿感が低下してしまうので好ましくない。なお、式(I)において、(BO)nは末端水素原子に結合していることが必要である。
【0038】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体は、公知の方法で製造することができる。例えば、3?9個の水酸基を有している化合物にエチレンオキシドおよび炭素数3?4のアルキレンオキシドを付加重合した後に、炭素数4のアルキレンオキシドを反応させることによって得られる。なお、3?9個の水酸基を有している化合物にエチレンオキシドおよび炭素数3?4のアルキレンオキシドを付加重合する段階においては、エチレンオキシドとアルキレンオキシドとをランダム重合してもよく、又は、ブロック重合してもよい。
【0039】
式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体のうち、好ましいものとしては、例えば、下記式(II)のアルキレンオキシド誘導体(ポリオキシブチレンポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセロール)が挙げられる。
Gly-[O(PO)_(s)(EO)_(t)-(BO)_(u)H]_(3) (II)
(式中、
Glyはグリセリンから水酸基を除いた残基を表し;
POはオキシプロピレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
sおよびtはそれぞれPOおよびEOの平均付加モル数であって、1?50の値であり、POとEOとの質量比(PO/EO)は1/5?5/1であって、
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
uはBOの平均付加モル数であって、0.5?5の値であり;
PO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
【0040】
式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、sはPOの平均付加モル数であり、1≦s≦50である。POの平均付加モル数sの好ましい範囲は、式(I)におけるAOの平均付加モル数lと同様である。式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、tはEOの平均付加モル数であり、1≦t≦50である。EOの平均付加モル数tの好ましい範囲は、式(I)におけるEOの平均付加モル数mと同様である。
【0041】
式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、POとEOとの重量比(PO/EO)は1/5?5/1であり、その好ましい範囲についても、式(I)におけるAOとEOとの質量比(AO/EO)と同様である。式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、POとEOの付加する順序は特に指定はなく、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。より優れた肌荒れ防止効果を得るためには、ランダム状に付加されているものが好ましい。
【0042】
式(II)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、uはBOの平均付加モル数であり、0.5<n≦5である。BOの平均付加モル数uの好ましい範囲は、式(I)におけるBOの平均付加モル数nと同様である。
【0043】
式(II)で表されるアルキレンオキシド誘導体は、グリセリンにプロピレンオキシドおよびエチレンオキシドをそれぞれグリセリンに対して3?150モル当量の割合で付加させた後に、炭素数4のアルキレンオキシドをグリセリンに対して1.5?15モル当量の割合で付加させて得られる。グリセリンにこれらのアルキレンオキシドを付加させる場合、アルカリ触媒、相関移動触媒、ルイス酸触媒などを用いて付加反応を行う。一般的には、水酸化カリウムなどのアルカリ触媒を用いることが好ましい。
【0044】
式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体のうち、更に好ましいものは、グリセリンに6?10モルのエチレンオキシド及び3?7モルのプロピレンオキシドを付加させた後に、2?4モルのブチレンオキシドを付加させたものである。
【0045】
式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体のうち、特に好ましいものは、グリセリンに8モルのエチレンオキシド及び5モルのプロピレンオキシドを付加させた後に、3モルのブチレンオキシドを付加させた、ポリオキシブチレンポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセロールであり、INCI名でPEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリンと称される。PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリンの市販品としては、具体的には、商品名「WILBRIDE S-753」(日油株式会社)等が挙げられる。
【0046】
本発明の外用組成物において、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度については、特に制限されないが、例えば0.1?30重量%が挙げられる。(A)成分の重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつき感のなさ、伸ばし易さ、及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度として、好ましくは1?20重量%、更に好ましくは1?10重量%が挙げられる。


【0047】
(D)低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩
本発明の外用組成物は、前記(A)、(B)及び(C)成分に加えて、低分子化ヒアルロン酸及び/又はその塩((D)成分と表記することもある)を含んでいてもよい。このような低分子化ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合することによって、重厚な塗布感、保湿感、及び伸ばし易さ、特に重厚な塗布感をより一層効果的に向上させることが可能にある。
【0048】
本発明で使用される低分子ヒアルロン酸の塩については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;トリ(n-ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩等が挙げられる。これらの低分子ヒアルロン酸の塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。これらの低分子ヒアルロン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
本発明で使用される低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量は、通常8千?12万程度であればよいが、好ましくは5万?12万が挙げられる。本発明において、低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)法によって、プルランを標準物質として使用して求められる重量平均分子量である。
【0050】
低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩は、ヒアルロン酸を加水分解することによって製造することができ、また、酵素反応、化学合成、微生物培養等によって製造することもできる。
【0051】
低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩は市販されており、本発明では、市販されているものを使用してもよい。低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の市販品としては、具体的には、商品名「ヒアロオリゴ」(平均分子量1万以下、キユーピー株式会社)、商品名「ヒアルロン酸FCH-SU」(平均分子量5?11万、キッコーマンバイオケミファ株式会社)、商品名「ヒアルロン酸(L)」(平均分子量5万以下、株式会社FAPジャパン)、商品名「ヒアルロン酸(SL)」(平均分子量1万以下、株式会社FAPジャパン)等が挙げられる。
【0052】
本発明の外用組成物において、(D)成分として、低分子ヒアルロン酸又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0053】
本発明の外用組成物において、低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の濃度については、特に制限されないが、例えば0.001?3重量%が挙げられる。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及び浸透感、特に濃厚な塗布感をより一層効果的に向上させるという観点から、低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の濃度として、好ましくは0.002?2重量%、更に好ましくは0.002?1重量%が挙げられる。
【0054】
また、本発明の外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩と低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩との比率については、特に制限されないが、重重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及び浸透感、特に濃厚な塗布感をより一層効果的に向上させるという観点から、ヒアルロン酸及び/又はその塩の総量100重量部当たり、低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の総量が、好ましくは0.1?300重量部、更に好ましくは0.2?200重量部、更に好ましくは0.5?150重量部、特に好ましくは1?100重量部が挙げられる。


【0055】

本発明の外用組成物は、水を基剤として用いて所望の剤型に調製される。本発明の外用組成物において、水の濃度については、外用組成物の剤型等に応じて適宜設定すればよいが、例えば20?95重量%、好ましくは30?95重量%、更に好ましくは35?95重量%が挙げられる。
【0056】
その他の成分
本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、生理学的に有用な機能性を示す機能性成分が含まれていてもよい。このような機能性成分としては、化粧料や外用医薬品等に配合可能なものであることを限度として特に制限されないが、例えば、水溶性のビタミン類、油溶性のビタミン類、酵素、ペプチド、アミノ酸、ホルモン、各種サイトカイン、各種動植物抽出物、ステロイド剤、保湿剤、美白剤、生薬、抗ヒスタミン剤、収斂剤、細胞賦活剤、角質軟化剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、酸化防止剤、抗菌剤、鎮痒剤、皮膚保護剤、血行促進剤、ステロール類等が挙げられる。
【0057】
また、本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、所望の剤型に調製するために、他の基剤や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤としては、化粧料や外用医薬品等に配合可能でものであることを限度として特に制限されないが、例えば、油性成分、低級アルコール、界面活性剤、防腐剤、増粘剤、香料、顔料、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0058】
油性成分としては、動物油、植物油、合成油等の起源や、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等の性状を問わず、例えば、炭化水素類、油脂類、高級アルコール類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類、油溶性紫外線吸収剤類等が挙げられる。油性成分として、具体的には、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテン、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャトロプスワックス等の炭化水素類;オリーブ油、ヒマシ油、ホホバ油、ミンク油、マカデミアンナッツ油等の油脂類;ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ゲイロウ、モクロウ、モンタンワックス等のロウ類;2-エチルヘキサン酸セチル、イソステアリン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸セチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリベヘン酸グリセリル、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、コレステロール脂肪酸エステル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、マカデミアンナッツ脂肪酸フィトステリル等のエステル類;ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール類;パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤類;ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体;デキストリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、デンプン脂肪酸エステル、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等の油性ゲル化剤類;パラアミノ安息香酸エチル、パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、オキシベンゾン等の油溶性紫外線吸収剤類等が挙げられる。これらの油性成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の低級1価アルコール;プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール、1,2-ペンタンジオール等挙げられる。これらの低級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0061】
非イオン性界面活性剤としては、具体的には、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等);グリセリンポリグリセリン脂肪酸類(例えば、モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、α,α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等);プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等);硬化ヒマシ油誘導体;グリセリンアルキルエーテル、POE-ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、POE-ソルビタンモノオレート、POE-ソルビタンモノステアレート、POE-ソルビタンモノオレート、POE-ソルビタンテトラオレエート等);POEソルビット脂肪酸エステル類(例えば、POE-ソルビットモノラウレート、POE-ソルビットモノオレエート、POE-ソルビットペンタオレエート、POE-ソルビットモノステアレート等);POE-グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、POE-グリセリンモノステアレート、POE-グリセリンモノイソステアレート、POE-グリセリントリイソステアレート等のPOE-モノオレエート等);POE-脂肪酸エステル類(例えば、POE-ジステアレート、POE-モノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等);POE-アルキルエーテル類(例えば、POE-ラウリルエーテル、POE-オレイルエーテル、POE-ステアリルエーテル、POE-ベヘニルエーテル、POE-2-オクチルドデシルエーテル、POE-コレスタノールエーテル等);プルロニック型類(例えば、プルロニック等);POE・POP-アルキルエーテル類(例えば、POE・POP-セチルエーテル、POE・POP-2-デシルテトラデシルエーテル、POE・POP-モノブチルエーテル、POE・POP-水添ラノリン、POE・POP-グリセリンエーテル等);テトラPOE・テトラPOP-エチレンジアミン縮合物類(例えば、テトロニック等);POE-ヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体(例えば、POE-ヒマシ油、POE-硬化ヒマシ油、POE-硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE-硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE-硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE-硬化ヒマシ油マレイン酸等);アルカノールアミド(例えば、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等);ショ糖脂肪酸エステル;アルキルエトキシジメチルアミンオキシド;トリオレイルリン酸等が挙げられる。
【0062】
アニオン性界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸セッケン(例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等);高級アルキル硫酸エステル塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等);アルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、POE-ラウリル硫酸トリエタノールアミン、POE-ラウリル硫酸ナトリウム等);N-アシルサルコシン酸(例えば、ラウロイルサルコシンナトリウム等);高級脂肪酸アミドスルホン酸塩(例えば、N-ミリストイル-N-メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウリルメチルタウリンナトリウム等);スルホコハク酸塩(例えば、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、モノラウロイルモノエタノールアミドポリオキシエチレンスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等);アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、リニアドデシルベンゼンスルホン酸等);高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩(例えば、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等);N-アシルグルタミン酸塩(例えば、N-ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N-ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N-ミリストイル-L-グルタミン酸モノナトリウム等);POE-アルキルエーテルカルボン酸;POE-アルキルアリルエーテルカルボン酸塩;α-オレフィンスルホン酸塩;ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム;N-パルミトイルアスパラギン酸ジトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0063】
カチオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等);アルキルピリジニウム塩(例えば、塩化セチルピリジニウム等);塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩;塩化ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム);アルキル四級アンモニウム塩;アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩;アルキルイソキノリニウム塩;ジアルキルモリホニウム塩;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0064】
両性界面活性剤としては、例えば、イミダゾリン系両性界面活性剤(例えば、2-ウンデシル-N,N,N-(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)-2-イミダゾリンナトリウム、2-ココイル-2-イミダゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等);ベタイン系界面活性剤(例えば、2-ヘプタデシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アミドアミン型両性界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)等が挙げられる。
【0065】
これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビン酸及びその塩、グルコン酸クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリエチレングリコール、ベントナイト、アルギン酸、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。


【0068】
製造方法
本発明の外用組成物は、前記(A)、(B)及び(C)成分と共に、必要に応じて添加される(D)成分、他の機能性成分、基剤、添加剤等を混合し、所望の製剤形態に調製することによって得ることができる。
【0069】
また、前記(A)成分は、(B)成分によって水への溶解性が向上するので、本発明の外用組成物の製造において、(A)成分を水に溶解させる際に、(B)成分を共存させることが好ましい。(A)成分を水に溶解させる際に(B)成分を共存させる方法としては、例えば、(A)及び(B)成分を同時に水に添加する方法;水に(A)成分を添加し、(A)成分が溶解するまでに(B)成分を添加する方法;水に(B)成分を添加した後に(A)成分を添加する方法が挙げられる。
【0070】
剤型及び製剤形態
本発明の外用組成物は、液状、固形状、クリーム状、ジェル状等のいずれの剤型であってもよい。これらの剤型の中でも、液状の外用組成物は、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及びべたつき抑制等の効果を実感し易いため、本発明の外用組成物の剤型として好適である。
【0071】
本発明の外用組成物は、化粧料、外用医薬品等の皮膚外用剤の製剤形態で使用される。本発明の外用組成物の製剤形態については、特に制限されないが、例えば、クリーム、化粧水、美容液、乳液、ジェル、口紅、ファンデーション等の化粧料;液剤(ローション剤、スプレー剤、エアゾール剤、及び乳液剤を含む)、フォーム剤、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、貼付剤等の外用医薬品が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、及びべたつき抑制等の効果を実感させ易くするという観点から、好ましくは化粧料、更に好ましくは化粧水、美容液及び乳液が挙げられる。


【0072】
2.ヒアルロン酸及び/又はその塩の溶解方法
前述するように、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩には、ヒアルロン酸及び/又はその塩の水への溶解性を向上させる作用がある。従って、本発明は、更に、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩((B)成分)の存在下で、ヒアルロン酸及び/又はその塩((A)成分)を水に溶解させることを特徴とする、ヒアルロン酸及び/又はその塩の溶解方法を提供する。
【0073】
本発明の溶解方法において、使用する(A)成分の種類、(B)成分の種類等については、前記「1.外用組成物」の欄に記載の通りである。
【0074】
本発明の溶解方法において、水に溶解させる(A)成分の最終濃度については、特に制限されず、例えば、0.01重量%以上、好ましくは0.03?2重量%が挙げられる。特に、(A)成分の最終濃度を0.05重量%以上という高濃度にする場合には、ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量が多くなるため、従来技術では、溶解時に大きなダマが生じて溶解時間が長期化するという欠点がある。これに対して、本発明の溶解方法では、このような高濃度の(A)成分を溶解させる場合であっても、(A)成分の溶解性を向上させて溶解時間を短縮することができる。このような本発明の効果を鑑みれば、水に溶解させる(A)成分の最終濃度として、好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.05?2重量%、特に好ましくは0.05?1重量%が挙げられる。
【0075】
また、本発明の溶解方法において、(B)成分の使用量については、特に制限されないが、水中での(B)成分の最終濃度が、例えば、0.0001?1.5重量%、好ましくは0.0001?1重量%、更に好ましくは0.00025?1重量%、特に好ましくは0.001?1重量%となる量が挙げられる。
【0076】
本発明の溶解方法において、(A)成分と(B)成分の比率については、特に制限されないが、例えば、(A)成分100重量部当たり、(B)成分が0.1重量部以上、好ましくは0.1?300重量部であり、(A)成分の溶解性をより一層向上させるという観点から、(A)成分は重量比で前記(B)成分の同量以上含まれることが好ましく、(A)成分100重量部当たり、更に好ましくは0.1?100重量部、より好ましくは0.1?80重量部、特に好ましくは0.1?50重量部が挙げられる。
【0077】
本発明の溶解方法において、(B)成分の存在下で(A)成分を水に溶解させる手法としては、具体的には、(A)及び(B)成分を同時に水に添加する方法;水に(A)成分を添加し、(A)成分が溶解するまでに(B)成分を添加する方法;水に(B)成分を添加した後に(A)成分を添加する方法が挙げられる。
【0078】
本発明の溶解方法は、化粧料、医薬品、食品等のあらゆる分野において、(A)成分を水に溶解させた製品や原料を製造する際の(A)成分の溶解工程に用いることができる。特に、化粧料や外用医薬品等の外用組成物の製造時の(A)成分の溶解工程、とりわけ前記「1.外用組成物」の欄に示す外用組成物の製造時の(A)成分の溶解工程において、好適に用いられる。
【0079】
本発明の溶解方法において、(A)成分を溶解させる水には、(B)成分以外の成分が含まれていてもよい。例えば、本発明の溶解方法を、前記「1.外用組成物」の欄に示す外用組成物の製造時の(A)成分の溶解工程に用いる場合であれば、(A)成分を溶解させる水には、前記「1.外用組成物」の欄に記載の(C)成分や(D)成分、他の機能性成分、基剤、添加剤等が含まれていてもよい。


【実施例】
【0080】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
製造例:「ヒアルロン酸オリゴ糖」の製造方法
以下に示す実施例及び比較例において、「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」は、特開2008-35858号公報に記載の方法に従って製造したものを使用した。具体的には、ヒアルロン酸ナトリウムの1重量%水溶液中で、アースロバクターアトロシアネウスJU-01(Arthrobacter atrocyaneus JU-01)株(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター受託番号:NITEP-245)を25℃で120時間静置培養した。その後、0.22μmのメンブレンフィルターで当該菌株を除去し、凍結乾燥することにより不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖を得た。得られたヒアルロン酸オリゴ糖は、2糖(構成単糖数が2)であり、非還元末端に位置するグルクロン酸の4位の炭素原子に結合している水酸基が除去され、4位の炭素原子と5位の炭素原子が二重結合で結合している構造を有していた。
【0082】
試験例1:ヒアルロン酸の水への溶解性の評価
表1に示す所定量のヒアルロン酸と不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖を添加した200mL容の容器に、室温の精製水を所定量添加(容器内の内容物の合計量100g)し、室温でプロペラ攪拌機にて500rpmの速度で撹拌を開始した。撹拌開始からヒアルロン酸のダマがなくなり、ヒアルロン酸が完全に溶解するまでの時間(溶解時間)を計測した。
【0083】
得られた結果を表1に示す。この結果から、ヒアルロン酸オリゴ糖の存在下でヒアルロン酸を水に溶解させることによって、ヒアルロン酸の溶解に要する時間を大幅に短縮できることが確認された。溶解時間については、ヒアルロン酸ナトリウムの含有量を、不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖の同量以上にすることで短縮できる傾向が見られた。また、参考例1?5において、PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン(WILBRIDE S-753(日油株式会社))5重量%をさらに含有させた場合でも、溶解時間の傾向に変化は見られなかった。
【0084】
【表1】

【0085】
試験例2:ヒアルロン酸組成物の評価
表2に示す組成の外用組成物を調製した。具体的には、室温の水に、他の含有成分を同時に所定量添加し、室温でプロペラ攪拌機にて500rpmの速度で撹拌することにより、ヒアルロン酸を完全に溶解させたヒアルロン酸組成物を製造した。
【0086】
評価モニター10名によって、各外用組成物約0.5gを腕に塗布し、塗布時の使用感(伸ばし易さ、塗布感、べたつき感のなさ)及び塗布後の使用感(浸透感、保湿感)について評価した。評価は、以下に示す基準で1点?10点の間で評点化したVisual Analogue Scale(以下、VASと記載する)によるアンケートを実施することにより行った。アンケート結果を平均し、小数点第一位を四捨五入することにより、評価結果をまとめた。
<伸ばし易さ>
1点:塗布時に伸ばし難い
10点:塗布時に伸ばし易い
<塗布感>
1点:塗布時に重厚な塗布感がない
10点:塗布時に重厚な塗布感がある
<べたつき感のなさ>
1点:塗布時にべたつく
10点:塗布時にべたつかない
<浸透感>
1点:塗布から15秒後に浸透感がない
10点:塗布から15秒後に浸透感がある
<保湿感>
1点:塗布から15秒後にしっとりとした感じがない
10点:塗布から15秒後にしっとりとした感じがある
【0087】
得られた結果を表2及び3に示す。ヒアルロン酸を単独で含む場合(比較例1及び2)では、塗布感及び保湿感の評価は高くなる傾向が認められたものの、ヒアルロン酸の溶解性が悪く、更に塗布時に伸ばし難く、しかもヒアルロン酸独特のべたつきが感じられ、十分な浸透感が得られなかった。PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリンを含有する場合(比較例3及び4)でも、ヒアルロン酸の溶解性は悪く、依然として塗布時に伸ばし難く、べたつきが感じられ、十分な浸透感が得られなかった。ヒアルロン酸オリゴ糖を含有する場合(比較例5及び6)においては、塗布時の伸ばしやすさや浸透感、べたつき感のなさが改善される傾向が見られたものの、やはり満足のいくものではなかった。
【0088】
これに対して、ヒアルロン酸と共に、ヒアルロン酸オリゴ糖及びPEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリンを含む場合(実施例1?7)では、ヒアルロン酸の溶解性が良好であり、しかも、伸ばし易さ、塗布感、べたつき感のなさ、浸透感及び保湿感の全ての点で良好であった。特に、ヒアルロン酸ナトリウムが0.1?1重量%の場合、PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリンが1重量%以上、ヒアルロン酸オリゴ糖が0.1重量%以上であることで、とくに使用感が向上する傾向が見られた。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
表4及び5に示す組成の化粧水を調製した。具体的には、ヒアルロン酸ナトリウム、PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン、ヒアルロン酸オリゴ糖及び低分子ヒアルロン酸を所定量、水に加え、撹拌することにより、化粧水を調製した。得られた化粧水は、いずれも、塗布時の伸ばし易さ、塗布感、べたつき感のなさ、浸透感及び保湿感の全ての点で良好であった。特に、低分子ヒアルロン酸を配合した化粧水(処方例1、3、6、8、10及び13)では、塗布感、保湿感、及び伸ばし易さ、特に重厚な塗布感をより一層向上させることが確認された。
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】


(7)上記(1)?(6)の記載からみて、本件明細書には、以下の事項が記載されていると認められる。
ア 本発明は、ヒアルロン酸を含有する外用組成物に関する。より具体的には、本発明は、ヒアルロン酸を含んでいながら、ヒアルロン酸が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易く、優れた浸透感が得られる外用組成物に関する。(【0001】)
イ 本発明の目的は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供することである。(【0008】)
ウ 本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物に、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩ならびに式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体を配合することによって、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易くなり、優れた浸透感を備えさせ得ることを見出した。(【0009】)
エ 本発明によれば、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を維持しつつ、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易く、優れた浸透感を与えるという特性を備えさせることができる。そのため、本発明によれば、高い機能性と良好な使用感を兼ね備えた外用組成物の提供が可能になる。(【0011】)

第4 取消理由の概要
当審が通知した取消理由は、本件訂正請求による訂正前の請求項1?7に記載の事項によって特定される発明(以下、「本件訂正前発明1?7」という。)に対するものであり、概要は以下のとおりである。
1(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
申立人の提出した「甲第●号証」を「甲●」のように表記する。
甲1:「ヒアロオリゴ」(平均分子量1万以下、キューピー株式会社)商品ウェブサイト
https://www.kewpie.co.jp/finechemical/pdf/hyaluronic/fc_20181217_funcitonalHA_phamphlet.pdf
https://www.kewpie.co.jp/finechemica1/pdf/hya1uronic/hyaloorigo_process.pdf
甲2:「ヒアルロン酸FCH-SU」(平均分子量5?11万、キッコーマンバイオケミファ株式会社)商品カタログ
甲3:特開2009-112260号公報
甲4:株式会社日東分析センターのウェブサイト
https://www.natc.co.jp/result/?id=l404541069-424477&pca=9&ca=42
甲5:FAPジャパンウェブサイト
http://www.fap-jp.com/products/cosmetics/
http://www.fap-jp.com/wp-content/up1oads/44a835ce8adedSed383944d3e857d46a.pdf
(合議体注:上記URLは直接アクセスできないが、その上のURLであるhttp://www.fap-jp.com/products/cosmetics/にアクセスして、「化粧品原料別」表の「製品名:低分子ヒアルロン酸」「規格書:PDF」をクリックすると表示できる。上記URLは当該「規格書:PDF」のURLを転記したものである。)
甲6:「Streptococcus種ヒアルロン酸リアーゼの三次元構造とヒアルロン酸分解のメカニズム」2002年8月16日
甲7:ウィキペディア(Wikipedia)「シクロヘキセン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%98%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%83%B3
甲8:ウィキペディア(Wikipedia)「シクロヘキサノール」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%98%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB
甲9の1:特許第6553341号公報(特願2014-201438号の特許公報)
甲9の2:甲9の1の出願に係る拒絶理由通知書に対する平成30年8月28日付意見書
甲10:特許第6656803号公報(特願2014-238846号の特許公報)
甲11:特許第6656804号公報(特願2014-238847号の特許公報)

第5 当審の判断
1 取消理由1:明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
(1)取消理由1の内容は、おおむね以下のとおりである。
なお、取消理由1は、特許異議申立書に記載した申立理由1と同趣旨である。
ア 本件訂正前発明1?7が明確性要件を充足するためには、(A)成分、(B)成分、(D)成分が明確に区別され、かつ、いかなる分子量のヒアルロン酸がいずれの成分(ないしその一部)該当するのか、否かについて、明確に理解できることが必要である。

イ まず(A)成分に関し、具体的にどのような分子量のヒアルロン酸がこれに含まれるのか、明確ではない。すなわち、平均分子量が12万から50万のいずれかのヒアルロン酸は、それが(A)成分に該当するのか、(D)成分に該当するのか、(A)成分、(D)成分のいずれにも該当しないのか、はたまたその混合物と解釈されるのか、本件明細書の記載からは明確でない。

ウ さらに(B)成分に関し、具体的にどのような分子量のヒアルロン酸が該当するのか、明確でない。

エ 「平均」分子量という記載は、その平均値付近を中心に一定の分子量分布としての幅(ブロード)を持つという概念であり、本件明細書の段落【0018】、【0027】、【0051】において記載されているものは、例えば、本件明細書に例示された商品名「ヒアロオリゴ」(平均分子量1万以下、キューピー株式会社)(甲1)、商品名「ヒアルロン酸FCH-SU」(平均分子量5?11万、キッコーマンバイオケミファ株式会社)(甲2)等において、その製造方法が乳酸菌属の発酵培養であることが記載されていることからも明らかなとおり、化粧品用途等で用いられるヒアルロン酸は乳酸菌属を発酵培養して得られるものであるが、分子量分布がブロードになることが一般的である。
然るところ、例えば、甲3の段落【0018】【図5】(乳酸菌属の発酵培養によるヒアルロン酸の分子量分布)に示すとおり、平均分子量が100万を超えるような高分子ヒアルロン酸においても、その分布はかなり広範に及ぶ(低分子領域では10万を下回る領域にもかかる)ことが理解できる。
甲3の【図5】

さらに、実際に販売されている市販品に関し、例えば、甲4に記載されているように、分子量の異なる市販のヒアルロン酸A(22万)およびB(98万)、ヒアルロン酸ナトリウム(Na)(54万)の分子量は、以下のような分布を示していることが記載されている。

このうち、例えばヒアルロン酸A(22万)であれば、分子量が少ない領域では1万程度、大きい領域では100万程度にまで分布していることが読み取れる。
以上を踏まえて検討するに、例えばヒアルロン酸A(22万)は、平均分子量だけを見れば22万程度なので、一見すると(A)成分に該当しないようにも見えるが、そもそも本件発明1?6の(A)成分には分子量が規定されていないので、この場合に(A)成分の使用に当たるのか、または、(D)成分の使用に当たるのか判別できない。

オ 低分子領域における(B)成分と(D)成分との関係においても同様のことがいえる。すなわち、本件明細書の段落【0049】では、(D)成分の例示として、商品名「ヒアルロン酸(SL)」(平均分子量1万以下、株式会社FAPジャパン)が記載されているが、その現行品として販売されている「ナノヒアルロン酸(C)」(株式会社FAPジャパン)の商品情報には、「分子量:3,000?10,000D.」(甲5)との記載があり、このヒアルロン酸も乳酸菌属を発酵培養して得られることが記載され、「ヒアロオリゴ」(平均分子量1万以下、キューピー株式会社)に関しても、乳酸菌属を発酵培養して得られることが記載されている(甲1)。
以上のことから、本件明細書において(D)成分とされている低分子ヒアルロン酸に、(B)成分と重複するものが一定程度含まれ得ることが推測され、その場合に「2?16糖程度」(分子量400?3200程度)の領域に分布しているヒアルロン酸を(B)成分と解釈すべきか、あるいは(D)成分の一部と解釈すべきか明確でない。その上、本件訂正前発明1?7においては、(B)成分自体の配合割合に関する規定が存在しないので、仮にそれを(B)成分と解釈する場合に、具体的にどの程度含まれていれば本件訂正前発明1?7の範囲に該当するのかも判別できない。

カ 以上のとおり、本件訂正前発明1?7はいずれも明確性要件に違反している。

(2)検討
ア 上記第3の1のとおり、本件訂正前発明1?7は、本件訂正請求により訂正され、本件発明1?7となり、本件発明1において、「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」及び「(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を含有することが規定され、明確化された。

イ 上記(1)イについて検討する。
本件発明1において、(A)成分が「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」と規定されることによって、平均分子量が50万以上のものが、(A)成分に含まれることが明らかとなり、平均分子量が12万から50万のいずれかのヒアルロン酸において、(1)平均分子量が50万のヒアルロン酸は、(A)成分に含まれ、(2)平均分子量が12万のヒアルロン酸は、「(D)低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩が、本発明で使用される低分子ヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量は、通常8千?12万程度であればよいが、好ましくは5万?12万が挙げられる」(【0049】)との記載からすれば、(D)成分に含まれ、(3)平均分子量が12万超から50万未満のヒアルロン酸は、(A)、(D)成分のいずれにも含まれないことが明らかである。

ウ 上記(1)ウについて検討する。
本件発明1において、(B)成分が「構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」と規定されることによって、構成単糖の数が2?10のもの、すなわち、分子量が、約400?2000のものが、(B)成分に含まれることが明らかである。

エ 上記(1)エについて検討する。
本件発明1において、(A)成分が「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」と規定されることによって、平均分子量が50万以上のものが、(A)成分に含まれることが明らかとなり、ヒアルロン酸A(22万)は、平均分子量が22万程度なので、(A)成分に該当しないことが明らかである。

オ 上記(1)オについて検討する。
本件発明1において、(B)成分が「構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」と規定されることによって、分子量が、約400?2000のものが、(B)成分に含まれることが明らかとなり、(D)成分の例示である、(1)分子量:3,000?10,000D.、乳酸菌属を発酵培養して得られる「ナノヒアルロン酸(C)」(株式会社FAPジャパン)と(B)成分とは分子量の点で区別され、(2)平均分子量1万以下、乳酸菌属を発酵培養して得られる「ヒアロオリゴ」と(B)成分とは、「ヒアロオリゴ」が平均分子量を中心に分子量が分布しており、(B)成分の約400?2000以外の分子量を含み得る点で区別されることが明らかである。

カ 申立人の主張について
(ア)申立人は、以下の主張をしている(異議申立書16頁16行?17頁8行)。
仮に(A)成分の平均分子量を50万以上、(B)成分の平均分子量を400?3200(2?16糖)、(D)成分の平均分子量を8千?12)万程度と解釈した場合に、それぞれの間の領域(3200?8000の領域、及び12万?50万)の領域に分布するヒアルロン酸を、どちらの成分と分類するかという点においても明確でない。
すなわち、一般的に用いられるヒアルロン酸は相当程度分布するのが通常であるところ、例えば、(A)成分に該当し得るヒアルロン酸と、(D)成分に該当し得る低分子ヒアルロン酸を併用した場合、分子量12万?50万の領域に両成分由来のヒアルロン酸が分布しオーバーラップすることは通常想定し得る。しかし、ヒアルロン酸の分子量の値に関して、(A)成分ないし(D)成分と切り分けるのかに関する明確な指標(例えば、分子量25万以上のものは(A)成分の一部とし、それ以下のものは(D)成分の一部とするというような定義)が存在しないことから、(A)成分、又は、(D)成分に該当すべきヒアルロン酸が具体的にどの範囲なのか特定することができない(両者が混合された外用組成物においては、同じ分子量のヒアルロン酸について、その由来によって識別し得ない)。その結果、いずれの成分についての平均分子量の値も配合割合も決定することができない((B)成分、(D)成分との関係においても3200?8000の領域に関して同様のことがいえる)。
(イ)上記の点について検討すると、
申立人は、(A)成分に該当し得るヒアルロン酸と、(D)成分に該当し得る低分子ヒアルロン酸を併用した場合、分子量12万?50万の領域に両成分由来のヒアルロン酸が分布しオーバーラップすることから、両者が混合された外用組成物においては、同じ分子量のヒアルロン酸について、その由来によって識別し得ない結果、いずれの成分についての平均分子量の値も配合割合も決定することができない旨主張していると認められる。
しかし、(A)成分と(D)成分が混合された外用組成物において、同じ分子量のヒアルロン酸について、(A)成分と(D)成分の由来によって識別し得ないとしても、上記イのとおり、本件発明1において、(A)成分と(D)成分との平均分子量を明確に区別することができ、(A)成分と(D)成分自体は明確であり、(A)成分と(D)成分の配合割合を決めることができるから、申立人の主張を採用することができない。

カ 上記ア?カのとおり、取消理由1は成り立たないし、本件発明1?7が明確でないとするその他の理由も存在しないから、本件発明1?7は明確である。

2 取消理由2:サポート要件(特許法第36条第6項第1号、合議体注:取消理由通知34頁19行の「2 サポート要件(特許法36条6項2号)」は「2 サポート要件(特許法36条6項1号)」の誤記である。)について
(1)取消理由2の内容は、おおむね以下のとおりである。
なお、取消理由2は、特許異議申立書に記載した申立理由2と同趣旨である。
ア サポート発明の課題について
本件訂正前発明1?7の課題は、技術分野(段落【0001】)背景技術(段落【0002】?【0007】)、発明が解決しようとする課題(段落【0008】)からみて、
「ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供すること」と認められる。

イ 本件訂正前発明1?7について
(ア)(B)成分の飽和型/不飽和型の別並びに構成単糖の数について
本件訂正前発明1?7では、(B)成分である、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩の分子量、構成単糖の数や飽和型/不飽和型の別に関して何ら規定がなされておらず、本件明細書には、構成単糖の数については「特に制限されないが、例えば2?16糖程度」(段落【0024】)と記載があり、また、飽和型/不飽和塑の別については「飽和型又は不飽和塑いずれか一方を単独で使用しても良く、飽和型及び不飽和型を組み合わせて使用しても良い」(段落【0025】)と記載されている。
一方、本件明細書で用いられている不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖(2糖)の実施例(段落【0081】には、「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」は、本件明細書の段落【0081】に記載のとおり、特開2008-35858号公報に記載の方法に従って製造したものであり、2糖(構成単糖数が2)で、非還元末端に位置するグルクロン酸の4位の炭素原子に結合している水酸基が除去され、4位の炭素原子と5位の炭素原子が二重結合で結合している構造を有するものである。
上記「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」の構造、並びにその製造のための分解反応をより視覚的に分かりやすくするために、甲6に記載の以下の反応式を引用する。

(高分子ヒアルロン酸) (不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖)
以上のとおり、「ヒアルロン酸オリゴ糖」は、生成物である非還元末端に位置するグルクロン酸の4位の炭素原子に結合している水酸基が除去され、4位の炭素原子と5位の炭素原子が二重結合で結合している構造を有しているが、例えばシクロヘキセンとシクロヘキサノールとでその物性が全く異なることからも明らかなとおり、これらの物性は大きく異なるものである。
すなわち、例えば甲7、甲8によれば、、炭素の六員環骨格において水酸基を有する飽和型か、その部分が脱水されてアルケンになっているかの違いが、当該分子の物性に大きな相違を示している。
さらに、その立体構造に関し、甲7の記載から、炭素の六員環骨格において二重結合を含む場合、アルケン及びその両隣の炭素を含めた4炭素が同一平面に存在することにより、飽和型の一般的ないす形配座ではなく特殊な半いす形配座を採ることになる。上述した「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」においても、2糖のうちグルクロン酸部分がこのような半いす形配座を採ることは、物理化学の技術常識より明らかといえる。

以上述べたとおり、炭素の六員環骨格において水酸基を有する飽和型か、その部分が脱水されてアルケンになっているかは、その分子全体の物性や化学構造に大きな相違を示すものであり、この点は無論、2糖の飽和型ヒアルロン酸と不飽和型ヒアルロン酸との比較においても例外ではない。むしろ、2糖のヒアルロン酸糖鎖は分子構造が比較的シンプルで分子量が小さいため、この部分の相違が分子全体の立体構造、物性に与える影響が大きいことが容易に予測できる。
したがって、物性化学見地から見て、2糖の飽和型ヒアルロン酸と不飽和型ヒアルロン酸を同列に扱うべき合理性は何ら見いだせない。
現に、ヒアルロン酸の一般的な定義は、本件明細書の段落【0014】において「ヒアルロン酸は、グルクロン酸の1位の炭素原子とN-アセチルグルコサミンの3位の炭素原子がグリコシド結合により結合した2糖を繰り返し単位として含む多糖である」と記載されているように、グルクロン酸の1位の炭素原子とN-アセチルグルコサミンの3位の炭素原子がグリコシド結合により結合した2糖を繰り返し単位として含む多糖を意味するのが通常であり、グルクロン酸部分の4位の炭素原子と5位の炭素原子が二重結合で結合し、結果、グルクロン酸とNーアセチルグルコサミンとの結合体でなくなっているものは、ヒアルロン酸に該当しないと考える方が一般的である。
この点に関し、ヒアルロン酸オリゴ糖の飽和型/不飽和型の別に関し、特許権者は、本件特許の関連発明(発明の名称:外用組成物)に係る出願(甲9の1)の、平成30年6月22日付け拒絶理由通知書に応答した平成30年8月28日付け意見書(甲9の2)において、以下のとおり主張しているように、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩に関し、飽和型と不飽和型とでは構造が相違するのみでなく、これにより作用効果も異なることがあることは、本件訂正前発明1?7に係る特許権者自身も認めるところである。そればかりか、「不飽和型を選択ずることにより、飽和型を使用する場合に比べて、塗布時の伸ばし易さやベタツキの抑制効果を向上させる」としており、「べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供すること」という本件訂正前発明1?7の発明の課題解決においても、飽和型と不飽和型とで顕著に異なると考えられる。
以上のとおり、本件明細書の実施例・比較例で用いられた「不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖」は、その構造・物性(作用効果)が通常の飽和型ヒアルロン酸とは異なる、特殊な2糖の不飽和型に関するものである上、「べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供すること」という本件訂正前発明1?7の課題解決に関し、顕著に異なるのであるから、本件明細書の実施例で示された不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖をもって、飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖についてまで、発明の課題を解決できると認識することができない。
さらに、(B)成分に関してサポート要件を充足し得ないことは構成単糖数の差異の観点からも明らかである。
以上のことから、本件訂正前発明1?7に規定する(B)成分は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。従って、本件訂正前発明1?7がいずれもサポート要件に違反することは明らかである。

(イ)(A)成分の平均分子量について
本件訂正前発明1?6では、(A)成分(ヒアルロン酸及び/又はその塩)の平均分子量に関して何ら規定がなされておらず、本件明細書には、「平均分子量については、特に制限されないが、例えば50万以上、好ましくは50万?300万が挙げられる。特に、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制作用及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、ヒアルロン酸の平均分子量として、好ましくは80万?250万、更に好ましくは100万?250万が挙げられる。」(段落【0016】)と記載がある。
しかしながら、本件明細書の実施例(段落【0090】【表3】)及び処方例(段落【0091】?【0092】【表4】【表5】)においては、(A)成分について、平均分子量120万?220万のヒアルロン酸しか用いられておらず、極めて限定的な例しか記載されていない。
上記の本件明細書の記載にも示されているとおり、ヒアルロン酸には、低分子量のものから200万以上の高分子のものまで広範囲の分子量のものが存在する。この分子量の違いは、ポリマー構造の違い、溶液中の構造の違いに現れ、粘弾性等に大きな影響を与えることは技術常識である。しかし、本件請求項1に記載の(A)成分には、平均分子量に関する限定が全く存在せず、実施例1?6で用いられている平均分子量120万?220万以外に、少なくとも50万?120万、220万以上の広範囲の平均分子量のものが含まれることになる。そうすると、実施例において、平均分子量120万?220万のヒアルロン酸ナトリウムを用い上記課題を解決できたとしても、分子量が大きく異なり、粘弾性の溶液構造に大きな影響を及ぼす物性の異なるヒアルロン酸においても、上記課題を解決できると認識できるとはいえない。
以上のことから、本件明細書の実施例をもって、本件訂正前発明1?6の範囲にまでその作用効果を一般化・抽象し得ないことは明らかであるから、本件訂正前発明1?6がいずれもサポート要件に違反する。

(ウ)(C)成分の構造について
本件訂正前発明では、(C)成分について、以下のとおり一般式を用いて規定されており、本件明細書の段落【0031】?段落【0046】に(C)成分に係る記載がある。
「(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有する、外用組成物(但し、ヒドロキシアルキル尿素を含む場合を除く)。
Z-{Q(AO)_(l)(EQ)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、
1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)」
しかしながら、本件明細書の実施例(段落【0090】【表3】)及び処方例(段落【0091】?【0092】【表4】【表5】)においては、以下に示す通り、(C)成分について、「PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン(商品名「WILBRIDE S-753」)」しか用いられておらず、極めて限定的な例しか記載されていない。
まず、Z及びaに関していえば、Zの水酸基及びこれに付加するポリオキシアルキレン鎖の数が3?9個の範囲で変化すれば、物性としても分子量としても物性としても大きく異なる化合物になることが容易に想像され、少なくともそれらにおいて同様の作用効果(保湿性、べたつきなど)を奏するという技術常識は存在しない。そうであるにも関わらず、本件明細書で用いられているのはその下限である3の場合のみであり、この1例をもって、本件訂正前発明1?3、5?7の3?9個の範囲にまで、発明の課題を解決できると認識することができない。
さらに、AOに関し、本件訂正前発明1、2、4?7では炭素数3?4のオキシアルキレン基とされており、その炭素骨格の構造すら特定されていないが(すなわち、炭素鎖が直鎖の場合も枝分かれの場合も環状の場合も含めてあらゆる態様が含まれる)、そのいずれを用いるかによって当該化合物の物性が異なることは自明であり、PPGを用いた例のみをもって、本件訂正前発明1、2、4?7の「炭素数3?4のオキシアルキレン基」の範囲についてまで、発明の課題を解決できると認識することができない。
その上、炭素数3?4のオキシアルキレン基、オキシエチレン基、炭素数4のオキシアルキレン基の構成単位の数(l、m、n)並びにそれらの比率が、当該化合物全体の親水性・疎水性ないし分子量に影響し、アルキレンオキシド誘導体の保湿性、べたつきなど本件訂正前発明1?7の課題解決に影響し得るといえるが、実施例の(l、m、n)が(8、5、3)である1例をもって、本件訂正前発明1?7の(l、m、n)並びにそれらの比率についてまで、発明の課題を解決できると認識することができない。
以上のとおり、本件訂正前発明1?7の(C)成分には、実施例1?6で用いられている「PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン(商品名「WILBRIDE S-753」)」以外のものであって、上記実施例からその発明の課題を解決できると当業者が認識し得る範囲を大きく逸脱するアルキレンオキシド誘導体を幅広く含むことになる。そうすると、実施例を基に「PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン(商品名「WILBRIDES-753」)」以外のものである、式(I)を満たすアルキレンオキシド誘導体を用いても、発明の課題を解決できると認識することができない。

(エ)(A)?(C)成分それぞれの配合割合について
本件訂正前発明1?7では、(A)成分、(B)成分、(C)成分いずれについても配合割合について何ら規定がなされていない。
一方、本件明細書には、「本発明の外用組成物において、(A)成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.05重量%以上という濃度に設定することによって、ヒアルロン酸及び/又はその塩特有の重厚な塗布感と保湿感が効果的に発揮することが可能になる。また、従来技術では、このような濃度で(A)成分を含有させると、べたつきが生じたり、塗布時に伸ばし難くなったり、浸透感に悪影響を与えたりするが、本件訂正前発明1?7の外用組成物では、ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩ならびに式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体により、重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易くなり、浸透感の向上が図られる。これらの使用感をより一層効果的に向上させるという観点から、(A)成分の濃度として、好ましくは0.05?2重量%、更に好ましくは0.05?1重量%が挙げられる」(段落【0020】)、「本発明の外用組成物において、(B)成分の濃度については、特に制限されないが、例えば0.0001?1.5重量%が挙げられる。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、(B)成分の濃度として、好ましくは0.0001?1重量%、更に好ましくは0.00025?1重量%、特に好ましくは0.001?1重量%が挙げられる」(段落【0029】)、「本発明の外用組成物において、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度については、特に制限されないが、例えば0.1?30重量%が挙げられる。(A)成分の重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつき感のなさ、伸ばし易さ、及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度として、好ましくは1?20重量%、更に好ましくは1?10璽量%が挙げられる」(段落【0046】)との記載がそれぞれある。
しかしながら、本件明細書の実施例(段落【0090】【表3】)及び処方例(段落【0091】?【0092】【表4】【表5】)においては、(A)成分については0.05?1%、(B)成分については0.0001%?1%、(C)成分については0.5%?10%の場合しか開示されておらず、極めて限定的な例しか記載されていない。
そうすると、これら(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合割合は外用組成物の爪厚な塗布感、保湿感、べたつき、浸透感、伸ばし易さの向上ないし抑制という本件訂正前発明1?7の課題解決に直接影響するものであるから、本件訂正前発明1?7において、(A)成分、(B)成分、(C)成分の配合割合が規定されていないから、発明の課題が解決できると認識できない。

(オ)以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をもって、本件訂正前発明1?7の範囲にまで発明の課題を解決できると認識することができないことは明らかであるから、本件訂正前発明1?7はいずれもサポート要件に違反する。

(2)検討
ア 上記第3の1のとおり、本件訂正前発明1?7は、本件訂正請求により訂正され、本件発明1?7となり、本件発明1において、「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」及び「(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を含有することが規定されている。
本件発明1?7の課題は、上記(1)アのとおり、技術分野(段落【0001】)背景技術(段落【0002】?【0007】)、発明が解決しようとする課題(段落【0008】)からみて、
「ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む外用組成物において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が本来備える重厚な塗布感及び保湿感を損なうことなく、べたつきを抑え、塗布時に伸ばし易くして、優れた浸透感を備えさせる製剤技術を提供すること」と認められる。


(ア)上記(1)イ(ア)について
本件発明1?7において、「(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を含有することが規定され、本件明細書において、「飽和型又は不飽和型いずれか一方を単独で使用してもよく、飽和型及び不飽和型を組み合わせて使用してもよい。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、好ましくは不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩が挙げられる。」ことが記載され(段落【0025】)、不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖を含有する実施例が、「伸ばしやすさ」、「塗布感」、「べたつき感のなさ」、「浸透感」、「保湿感」が向上することが読み取れるから(段落【0085】?【0090】)、当業者であれば、これらの事項を考慮すれば、「(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩」を含有することによって、上記本件発明1?7の課題を解決できると認識することができる。

(イ)上記(1)イ(イ)について
本件発明1?7において、「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」を含有することが規定され、本件明細書には、「本発明で使用されるヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量については、特に制限されないが、例えば50万以上、好ましくは50万?300万が挙げられる。特に、重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制作用及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、ヒアルロン酸の平均分子量として、好ましくは80万?250万、更に好ましくは100万?250万が挙げられる。」ことが記載され(段落【0016】)、平均分子量120万?220万のヒアルロン酸を含有する実施例において、「伸ばしやすさ」、「塗布感」、「べたつき感のなさ」、「浸透感」、「保湿感」が向上することが読み取れるから(段落【0085】?【0090】)、当業者であれば、これらの事項を考慮すれば、「(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩」を含有することによって、上記本件発明1?7の課題を解決できると認識することができる。

(ウ)上記(1)イ(ウ)について
本件発明1?7において、「(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有する、外用組成物(但し、ヒドロキシアルキル尿素を含む場合を除く)。
Z-{Q(AO)_(l)(EQ)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、
1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)」を含有することが規定され、本件明細書には、式(I)で示されるアルキレンオキシド誘導体において、「lはAOの平均付加モル数であり、・・・lが0であるとべたつき感を生じてしまい、50を超えると保湿効果が低下してしまうので好ましくない。また、mが0であると保湿効果が低下してしまい、50を超えるとべたつき感が生じてしまうので好ましくない。」こと(段落【0034】)、「AOとEOとの重量比(AO/EO)は・・・1/5より小さいとべたつき感を生じてしまい、5/1より大きいと保湿感が低下してしまうので好ましくない。AOとEOの付加する順序は特に指定はなく、ブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。より優れた肌荒れ防止効果を得るためには、ランダム状に付加されているものが好ましい。」こと(段落【0035】)、「nはBOの平均付加モル数であり、・・・0.5以下であるとべたつき感が生じてしまい、5を超えると保湿感が低下してしまうので好ましくない。」こと(段落【0037】)が記載されているから、(C)式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体であれば、保湿効果、保湿感、肌荒れ防止効果に優れ、べたつき感が生じないことが読み取れる。
そして、(C)式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体である「PEG/PPG/ポリブチレングリコール-8/5/3グリセリン」を含有する実施例において、「伸ばしやすさ」、「塗布感」、「べたつき感のなさ」、「浸透感」、「保湿感」が向上することが読み取れるから(段落【0085】?【0090】)、当業者であれば、これらの事項を考慮すれば、「(C)式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体」を含有することによって、上記本件発明1?7の課題を解決できると認識することができる。

(エ)上記(1)イ(エ)について
本件明細書には、
「(A)成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.05重量%以上という濃度に設定することによって、ヒアルロン酸及び/又はその塩特有の重厚な塗布感と保湿感が効果的に発揮することが可能になる。・・・本発明の外用組成物では、後述するヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩ならびに式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体により、重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつきが抑制され、しかも塗布時に伸ばし易くなり、浸透感の向上が図られる。これらの使用感をより一層効果的に向上させるという観点から、(A)成分の濃度として、好ましくは0.05?2重量%、更に好ましくは0.05?1重量%が挙げられる。」こと(段落【0020】)、「(B)成分の濃度については、特に制限されないが、例えば0.0001?1.5重量%が挙げられる。重厚な塗布感、保湿感、伸ばし易さ、べたつき抑制及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、(B)成分の濃度として、好ましくは0.0001?1重量%、更に好ましくは0.00025?1重量%、特に好ましくは0.001?1重量%が挙げられる。」こと(段落【0029】)、「式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度については、特に制限されないが、例えば0.1?30重量%が挙げられる。(A)成分の重厚な塗布感及び保湿感を維持しながら、べたつき感のなさ、伸ばし易さ、及び浸透感をより一層効果的に向上させるという観点から、式(I)で表されるアルキレンオキシド誘導体の濃度として、好ましくは1?20重量%、更に好ましくは1?10重量%が挙げられる。」こと(段落【0046】)が記載されているから、(A)成分、(B)成分、(C)成分が当該範囲であれば、重厚な塗布感、保湿感を維持しながら、べたつきが抑制され、、塗布時に伸ばし易くなり、浸透感の向上が測られることが読み取れる。
そして、実施例(段落【0090】【表3】)及び処方例(段落【0091】?【0092】【表4】【表5】)においては、(A)成分0.05?1%、(B)成分0.0001%?1%、(C)成分0.5%?10%の配合割合で、「伸ばしやすさ」、「塗布感」、「べたつき感のなさ」、「浸透感」、「保湿感」が向上することが読み取れる。
そうすると、当業者であれば、(A)成分、(B)成分、(C)成分を本件明細書の発明の詳細な説明の記載から把握できる「配合範囲」であれば、本件発明1?7の課題を解決できると認識することができる。

ウ したがって、上記ア、イからすれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?7の課題を解決できると認識することができるし、本件発明1?7の課題を解決できないとする事実も見当たらないから、本件発明1?7は、発明の詳細に記載された発明であるといえる。

第6 まとめ

以上のとおりであるから、取消理由1、2及び特許異議申立書に記載した申立理由1、2によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均分子量が50万以上のヒアルロン酸及び/又はその塩と、(B)構成単糖の数が2?10の不飽和型ヒアルロン酸オリゴ糖及び/又はその塩と、(C)下記式(I)で表される、少なくとも1つのアルキレンオキシド誘導体を含有する、外用組成物(但し、ヒドロキシアルキル尿素を含む場合を除く)。
Z-{O(AO)_(l)(EO)_(m)-(BO)_(n)H}_(a) (I)
(式中、
Zは3?9個の水酸基を有する化合物の水酸基を除いた残基を表し;
AOは炭素数3?4のオキシアルキレン基を表し;
EOはオキシエチレン基を表し;
BOは炭素数4のオキシアルキレン基を表し;
aは3?9を表し;
l、m及びnは、それぞれ、AO、EO及びBOの平均付加モル数であって、1≦l≦50、1≦m≦50及び0.5≦n≦5であり;
AOとEOとの重量比(AO/EO)は1/5?5/1であり;
AO及びEOはランダム状又はブロック状に付加していてもよい)
【請求項2】
前記式(I)において、AOとEOがランダム状に付加している請求項1記載の外用組成物。
【請求項3】
前記式(I)において、AOがオキシプロピレン基である請求項1又は2記載の外用組成物。
【請求項4】
前記式(I)において、3?9個の水酸基を有する化合物がグリセリンである、請求項1?3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、重量比で前記(B)成分の同量以上含まれる、請求項1?4のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項6】
化粧料である、請求項1?5のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項7】
前記(A)成分の平均分子量が110?250万である、請求項1?6のいずれかに記載の外用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-31 
出願番号 特願2015-55047(P2015-55047)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫進士 千尋  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 原田 隆興
齋藤 恵
登録日 2020-04-10 
登録番号 特許第6689574号(P6689574)
権利者 小林製薬株式会社
発明の名称 外用組成物  
代理人 田中 順也  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 迫田 恭子  
代理人 水谷 馨也  
代理人 迫田 恭子  

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