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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  B21B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B21B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B21B
管理番号 1376723
異議申立番号 異議2020-700802  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-16 
確定日 2021-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6687128号発明「鋼製品の製造方法および鋼製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6687128号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-10〕について訂正することを認める。 特許第6687128号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6687128号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)12月19日(優先権主張 平成28年12月19日)を国際出願日として出願されたものであり、令和2年4月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月22日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年10月16日 : 特許異議申立人井上潤(以下「特許異議
申立人」という)による請求項1ないし
10に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年12月24日付け: 取消理由通知書
令和 3年 3月 5日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出

なお、特許権者による訂正請求書による訂正は、特許請求の範囲の軽微な訂正のみであり、特許法第120条の5第5項ただし書の特別な事情に該当することから、特許異議申立人に対し意見書の提出を求めないものとした。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年3月5日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)による訂正事項は、特許請求の範囲の請求項3について、「前記鋼製品コード」を「前記鋼製品管理コード」に訂正することを求めるものであるところ、この訂正は、一群の請求項3-10についてなされるものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記1.の訂正事項に係る特許請求の範囲の請求項3についての訂正について検討する。
請求項3の「前記鋼製品コード」との記載は、「前記」される構成を特定しようとするものであることは明らかであるところ、請求項3が引用する請求項1、2においては、「鋼製品管理コード」についての記載はあるものの、「鋼製品コード」についての記載はない。また、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)においては、「鋼製品管理コード」の用語は記載があるものの、「鋼製品コード」という用語については、特許請求の範囲の請求項3に対応する記載である段落【0017】以外には記載がないことから、「前記鋼製品コード」が「前記鋼製品管理コード」を意図したものであることは明らかである。
そうすると、この訂正事項は、誤記の訂正を目的とするものと認められる。

また、上記訂正事項に関し、願書に最初に添付した明細書の段落【0068】には、「さらに本発明においては、鋼製品管理コードは、切断工程において切断された鋼中間材における切断部分の位置を示す部分情報と対応付けられているものであってもよい。」と記載されているから、上記訂正事項に係る請求項3についての訂正は、当該明細書に記載された事項の範囲内で行われたものであり、新規事項の追加に該当しない。

また、上記訂正事項に係る請求項3についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

3.小括
上記のとおり、訂正事項に係る請求項3についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」という。)は以下のとおりである。

【請求項1】
鋼製品の製造方法であって、
鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、
前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、
前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、
前記鋼中間材に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程、
前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び
前記鋼製品を結束する結束工程、
を含み、
前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている
ことを特徴とする鋼製品の製造方法。
【請求項2】
鋼製品の製造方法であって、
鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、
前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、
前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、
前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び
前記鋼製品に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程、
前記鋼製品を結束する結束工程、
を含み、
前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている
ことを特徴とする鋼製品の製造方法。
【請求項3】
前記鋼製品管理コードは、さらに、前記切断工程において切断された前記鋼中間材における切断部分の位置を示す部分情報と対応付けられている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項4】
前記分割工程において前記鋼中間材が進行する方向と、
前記切断工程において前記鋼製品が進行する方向とが互いに逆方向である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程において、前記冷却床は複数の溝を備え、前記冷却床に配列した前記鋼中間材を、前記複数の溝を、配列を変えずに移動することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項6】
前記切断工程は、前記冷却床の溝情報に基づき前記鋼中間材を選択し、選択した前記鋼中間材を切断することを特徴とする請求項5に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項7】
前記鋼片は連続鋳造で製造され、その際に該鋼片に鋼片識別コードを付与することを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項8】
前記マーキング工程において、前記鋼製品管理コードのマーキングは、前記鋼製品又は前記鋼中間材の端面に、切断順に行うことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項9】
前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明した場合、前記鋼片から製造された複数の鋼製品のうち、当該鋼片部位から製造された鋼製品を破棄する工程を含む請求項1?8のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項10】
前記鋼製品は棒鋼であり、前記鋼中間材は該棒鋼と同径であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。

第4 取消理由通知の取消理由の概要
本件訂正前の特許に対して、当審が令和2年12月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.実施可能要件違反
本件明細書の段落【0002】等には「内質欠陥」と記載され、段落【0010】には「内質の欠陥」と記載され、段落【0099】及び【0100】には「内部欠陥」と記載されているが、「内質欠陥」、「内質の欠陥」及び「内部欠陥」の異同が不明であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.明確性要件違反
(1)請求項3の明確性
請求項3には、「前記鋼製品コードは、さらに、前記切断工程において切断された前記鋼中間材における切断部分の位置を示す部分情報と対応付けられている・・・請求項1又は2に記載の鋼製品の製造方法。」と記載されているが、請求項1及び2には「鋼製品コード」が記載されておらず、「前記鋼製品コード」とは何か不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)請求項6の明確性
請求項6には、「前記切断工程は、前記冷却床の溝情報に基づき前記鋼中間材を選択し・・・請求項5に記載の鋼製品の製造方法。」と記載されているところ、「前記冷却床の溝情報・・・」において「前記」されるものが「冷却床」なのか、「溝情報」なのかが不明である。また、(前記されるものが溝情報であるか否かにかかわらず)請求項6が引用する請求項5や請求項5が引用する各請求項、及び発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「溝情報」に関する記載がなく、「溝情報」とは何なのかが不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)実施可能要件違反
上記第4の1.に関し、本件明細書の段落【0003】、【0010】には、それぞれ以下のとおり記載されている(下線は当審で付与した。以下の下線についても同様である。)。
「【0003】
従来、棒鋼の製造においては、鋼片段階までトレーサビリティ(製造履歴情報)を確保し、品質の維持・安定化を図っているが、通常、長尺の棒鋼材を所定の長さの棒鋼に切断した後は、棒鋼1本単位で、個別に、最終製品段階までトレーサビリティを確保していない。それ故、結束した棒鋼の中に、表面疵や介在物などの内質欠陥を有する棒鋼が存在する場合、これら棒鋼の発生原因を鋳片段階まで遡って解明することはできない。」
「【0010】
前述したように、鋼製品として出荷する棒鋼を製造する場合、鋼片段階まで、トレーサビリティ(製造履歴情報)を確保し、品質の維持・安定化を図っているが、最終製品段階まで、トレーサビリティを確保していないので、結束した棒鋼(鋼製品)の中に、表面疵や介在物などの内質の欠陥を含む棒鋼が見つかっても、その発生原因を、鋳片段階まで遡って解明することはできない。」

上記記載から、段落【0003】の「内質欠陥」と段落【0010】の「内質の欠陥」とは、両者とも、棒鋼の表面疵や介在物を指すものであるから、同じ意味として用いられていることは明らかである。

また、本件明細書の段落【0099】、【0100】には、以下の記載がある。
「【0099】
(実施例2)
連続鋳造鋳片から棒鋼を製造する際、本発明の鋼製品の製造方法に従って、棒鋼のを製造した。内質欠陥を有する棒鋼(鋼製品)が一定の割合で発生した。棒鋼(鋼製品)に表示した鋼製品管理コードにより表面疵の発生した棒鋼の元となった鋼片及び鋼片における位置を特定することによって、内部欠陥は、連続鋳造の操業指標に変動があった鋼片に由来する棒鋼材(鋼中間材)の棒鋼(鋼製品)に多く発生することを解明することができた。
【0100】
内部欠陥の発生原因が判明したので、操業指標が変動した鋼片を厳格に検査し、棒鋼(鋼製品)としての合格基準を厳しくして、需要家に供給する最終鋼製品における欠陥発生率を抑制することができた。」

上記記載から、段落【0099】において、棒鋼に「表面疵」が発生した場合、その棒鋼の元となる綱片に由来する他の棒鋼に「内部欠陥」が多く発生することが記載され、段落【0100】において、「内部欠陥」の発生原因が判明したことから対策が講じられたことが記載されるところ、段落【0099】の「内部欠陥」に関する記載の直前の文章において、「内質欠陥」が一定の割合で発生したことが記載されており、両者が同じものを指すと解されること、この箇所以外では「内部欠陥」という用語は見られず、別の意味と解すべき理由がないことから、「内部欠陥」と「内質欠陥」が同じものを指していることが明らかである。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

(2)明確性要件違反
ア 請求項3の明確性
上記第4の2.(1)に関し、本件訂正前の請求項3の「前記鋼製品コードは、さらに、前記切断工程において切断された前記鋼中間材における切断部分の位置を示す部分情報と対応付けられている・・・請求項1又は2に記載の鋼製品の製造方法。」における「前記鋼製品コード」は、本件訂正により「前記鋼製品管理コード」に訂正された。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。

イ 請求項6の明確性
上記第4の2.(2)に関し、請求項6の「前記冷却床の溝情報に基づき」と記載されるところ、請求項6が引用する請求項5には、「前記冷却工程において、前記冷却床は複数の溝を備え、前記冷却床に配列した前記鋼中間材を、前記複数の溝を、配列を変えずに移動することを特徴とする・・・」と記載され、冷却床については記載があるが溝情報という記載はないのであるから、請求項6で「前記」とされるものは「冷却床」であることは明らかである。
また、請求項5では、上記のとおり、冷却床が複数の溝を備えること、鋼中間材は冷却床に配列されること、複数の溝を、その配列を変えずに移動することが特定されるところ、これらの特定事項からは、鋼中間材は、溝が設けられた冷却床に配列されるものであり、冷却床の溝の配列が変わることなく移動するものであることが理解できる。
そうすると、請求項6の「溝情報」は、冷却床に設けられ、配列が変わることなく移動する溝についての何らかの情報を指すものであることは明らかである。

また、本件明細書の記載を参酌すると、段落【0030】、【0051】、【0052】には以下の記載がある。
「【0030】
本発明の鋼製品の製造方法においては、鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで鋼中間材と、鋼片識別コードの示す情報及び位置情報との対応づけを保ったまま鋼中間材を移動させることが必要である。たとえば、冷却床が、搬入される鋼中間材を、圧延順と分割順に配列できる複数の溝を有し、配列された鋼中間材を、冷却床上の配列のまま切断テーブルに搬出できる搬出手段を備え、切断テーブルが、冷却床から搬出される鋼中間材を、冷却床上の配列のまま収容できる複数の溝を備えている構成を例示できる。」
「【0051】
冷却床7は、冷却床7の入口から出口まで連続的に並行して設けられた複数の溝を備える。冷却床7に搬入された鋼中間材は、最初、最も入口に近い溝に格納される。鋼中間材は、冷却工程の間、格納されている溝から、その隣の溝へ移動を順に行いつつ、大気又は冷却水への放熱により冷却される。冷却方法は特に限定されず、大気放冷、水冷のいずれも可能である。大気放冷であっても、比較的早い冷速が必要であれば、送風することで衝風冷却(通常の空冷よりも冷速の早い冷却)を行ってもよい。
【0052】
さらに、特に遅い冷却速度が必要であれば、冷却床7の上面を保温カバーで覆うことにより、通常の空冷よりもさらに冷速の遅い緩冷却を実現してもよい。複数の溝の間を順に移動した鋼中間材は、もっとも出口に近い溝に格納された後、出口から排出される。本発明にかかる冷却工程では、このように、鋼中間材は、配列を変えずに複数の溝を順に移動することにより、鋼中間材と、鋼片識別コードの情報及び位置情報との対応付けを保ったまま移動する。」

上記本件明細書の記載から、複数の溝を設けた冷却床に鋼中間材が格納(配列)され、その配列を変えずに複数の溝を移動することにより、鋼中間材と、鋼片識別コードの情報及び位置情報との対応付けを保ったまま移動するものであることが理解できるから、鋼中間材と、鋼片識別コードの情報及び位置情報との対応付けをするためには、溝に関して何らかの情報を用いる必要があることも明らかである。
そうすると、本件明細書には溝情報という直接的な記載がなくても、溝に関する何らかの情報を用いているものと認められるところ、このことは上記請求項6及び請求項6が引用する請求項5の記載から理解できる事項と整合する。
よって、本件発明6は明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。

2.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、上記第4の1.に記載した取消理由と同趣旨の特許異議申立理由の他、以下の特許異議申立理由がある旨主張している.
(1)記載要件違反
ア 本件明細書に記載の発明の名称は「鋼製品の製造方法および鋼製品」であるが、特許請求の範囲には「鋼製品」の発明は含まれていないから、発明の名称と特許請求の範囲が整合しておらず、本件発明1ないし10は不明確である。

イ 本件明細書では専ら棒鋼の製造方法のみに言及があり、それ以外の鋼製品については何ら言及がないところ、本件発明1ないし9は鋼製品についてのものであり、棒鋼以外のものをも含むものとなっているから、本件発明1ないし9はサポート要件を充たさない。

ウ 本件明細書の段落【0053】及び【0062】には、複数の溝の配置を特定した冷却床のみが開示され、複数の溝が入口から出口まで連続的に並行して設けられることが、その作用効果を発揮するために必須であることが示されるが、本件発明5では、単に「冷却床が複数の溝を備えている」ことのみが特定され、この特定事項のみでは作用効果を発揮しないから、本件発明5はサポート要件を充たさない。

エ 本件発明9は、「前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明した場合、前記鋼片から製造された複数の鋼製品のうち、当該鋼片部位から製造された鋼製品を破棄する工程を含む」ものであるところ、本件発明9が引用する本件発明1ないし8に特定される「鋼製品管理コード」の情報から、どのように「前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明」するという判断を導くことができるのか不明であるから、本件発明9は不明確である。

オ 本件明細書の段落【0031】には、「また、熱間圧延工程においては、鋼片識別コードを読み取り、鋼片の検査・手入れ情報を、鋼片識別コード毎に記憶する。」と記載があるが、本件発明1ないし10には、熱間圧延工程において、鋼片の検査・手入れ情報を、鋼片識別コード毎に記憶することが特定されていないから、本件発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を充たさない。(なお、特許異議申立書第11及び12ページの(4-3-7)欄には「発明の明確性の要件(特許法第36条6項2号)」と記載されているが、当該特許異議申立理由の記載内容からみて、サポート要件をいうものと解して判断する。)

カ 本件発明1では、最終工程である「結束工程」と、その直前の工程である「切断工程」との間には「及び」があり、他の工程間は単に読点で結ばれているのに対し、本件発明2では、最終工程の一つ前の工程である「マーキング工程」と、その直前の工程である「切断工程」との間には「及び」があり、他の工程間は単に読点で結ばれている。このように特許請求の範囲の中で「及び」の使い方が異なっていることから、その技術的意味合いが明確でなく、本件発明1ないし10は不明確である。

キ 本件発明9は、本件発明1ないし8を引用するものであるところ、本件発明1ないし8の「鋼製品管理コード」の記載を見ても、どのように本件発明9の「前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むこと」を判明するのかが明確でない。

ク 本件明細書の段落【0026】には、発明の効果として、「・・・連続鋳造鋳片から鋼製品を一貫して製造する製造プロセスにおいて、最終の鋼製品まで、一貫してトレーサビリティを確保しているので、検査結果の上工程へのフィードバック、内質欠陥を含む鋼製品の抜取り、異鋼種棒鋼の抜取り、客先への適切な製品情報の提供等が可能となり、一層の品質の維持・安定化と歩留りの向上、操業の安定化、客先への情報の充実化等を図ることができる。」と記載されている。
一方、本件発明7以外は、連続鋳造鋳片から鋼製品するプロセスを特定しておらず、本件発明1ないし6、8ないし10は、発明の詳細な説明に記載された上記発明の効果と対応していないから、特許法第36条第4項第1号に違反してなされたものである。

(2)本件発明1ないし10の進歩性欠如
ア 本件発明1ないし10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明できたものである。
甲第1号証:特開昭61-1408号公報
甲第2号証:特開2010-9189号公報
甲第3号証:特開平8-164407号公報

イ 出願当初の請求項11の棒鋼の発明は、パブリックドメインの発明であるところ、本件発明1ないし10は、当該パブリックドメインの棒鋼(鋼製品)を常套的な手法で製造する程度のものに過ぎない。

3.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)記載要件違反
ア 上記2.(1)アに関し、発明の名称の記載は、特許法第36条第6項柱書でいう「特許請求の範囲の記載」に該当しないし、同法同条第4項柱書でいう「発明の詳細な説明の記載」にも該当しないから、発明の名称と特許請求の範囲の不整合は、取消理由に該当しない。また、本件発明1ないし10は、それぞれ鋼製品の製造方法についての発明であり、鋼製品の発明でないことは、その特定事項から明らかであるから、本件発明1ないし10は明確である。

イ 上記2.(1)イに関し、本件明細書には、確かに棒鋼について専ら説明されているが、本件発明1ないし10の主眼とするところは、鋼片を加熱、圧延、分割して鋼中間材を製造し、該鋼中間材を冷却床により冷却して切断、結束し、最終製品である鋼製品を製造するにあたり、最終製品段階までトレーサビリティを確保することであり、このことは最終製品が棒鋼であるか否かにかかわるものではないことは当業者にとって明らかである。
また、本件明細書の段落【0012】に、「そこで、本発明は、棒鋼に限らず、表面疵や介在物などの内質の欠陥を有する鋼製品において、該欠陥の発生原因を、鋳片段階まで遡って解明するため、鋳造から鋼製品製造までの工程において、一貫して、トレーサビリティを確保して、品質の維持・安定化、歩留りの向上、操業の安定化を図ることを課題とし、該課題を解決する鋼製品の製造方法を提供することを目的とする。」と記載があるように、本件発明は、表面疵や介在物などの内質の欠陥を有する鋼製品に適用可能のものである。
そうすると、本件発明1ないし9において、最終製品である鋼製品を棒鋼に限定する必要はないものであるから、本件発明1ないし9はサポート要件を充たす。

ウ 上記2.(1)ウに関し、本件明細書の段落【0062】には、「本発明では、入口から出口まで連続的に並行して設けられた複数の溝を備える冷却床7を用いて冷却することにより、分割工程で対応付けられた鋼中間材と、鋼片識別コードの情報及び位置情報との対応付けを保ったまま冷却工程を行う。」との記載があり、「入口から出口まで連続的に並行して設けられた複数の溝を備える冷却床7」を用いることが示されているが、段落【0053】には、「冷却床7に設けられた溝機構は、鋼中間材の配列を維持できるものであればよく、特定の溝機構に限定されない。」と記載され、鋼中間材の配列を維持できれば良い旨の記載もある。
このことから、冷却床に設けられる複数の溝は、必ずしも「入口から出口まで連続的に並行して設けられたもの」でなくとも、鋼中間材の配列を維持できるものであれば良いことは明らかである。
他方、本件発明5は、「前記冷却床は複数の溝を備え」、かつ「前記冷却床に配列した前記鋼中間材を、前記複数の溝を、配列を変えずに移動する」ことを特定しているのであるから、本件発明5はサポート要件を充たす。

エ 上記2.(1)エに関し、本件発明9は、「前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明した場合、前記鋼片から製造された複数の鋼製品のうち、当該鋼片部位から製造された鋼製品を破棄する工程を含む・・・」と特定するところ、その記載自体に不明確な点はない。
また、本件明細書の段落【0004】には、「また、連続鋳造においては、同じ鋼種又は異なる鋼種を連続して鋳造するが、湯混ざり部位(鋼種の継目)では成分組成が乱れ、この部位は、鋼製品製造用の鋼片として使用できないので、湯混ざり部位を含む鋼片は鋼片段階で排除される。」と記載され、段落【0011】ないし【0013】に、「即ち、従来の棒鋼の製造においては、棒鋼を、どの鋼片を用いて製造したのか、又は、鋼片のどの部位で製造したのかを把握できず、結局、欠陥棒鋼の発生原因を、棒鋼材の切断前の上工程に遡って解明することはできない。」、「そこで、本発明は、棒鋼に限らず、表面疵や介在物などの内質の欠陥を有する鋼製品において、該欠陥の発生原因を、鋳片段階まで遡って解明するため、鋳造から鋼製品製造までの工程において、一貫して、トレーサビリティを確保して、品質の維持・安定化、歩留りの向上、操業の安定化を図ることを課題とし、該課題を解決する鋼製品の製造方法を提供することを目的とする。」、「本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意検討した。その結果、最終の鋼製品の端面に、鋼製品管理コードを付与することで上記課題を解決できることを見出した。当該鋼製品管理コードは、当該鋼製品の材料となった鋼片を示す鋼片識別コード、および当該鋼片において対応する位置を示す位置情報と対応づけられていることが必要である。このようにすることで、鋳造から鋼製品製造までの工程において、一貫して、トレーサビリティを確保できることを見出した。・・・」と記載されている。
このことから、鋼製品の材料となった鋼片を示す鋼片識別コード、および当該鋼片において対応する位置を示す位置情報と対応づけられた「鋼製品管理コード」を用い、トレーサビリティを確保することで、当該「鋼製品管理コード」によって、鋼製品から、原料の鋼片及びその位置情報がわかることから、鋼製品製造用の鋼片として使用できない湯混ざり部位に対応する鋼製品が特定できることが理解できるところ、本件発明9の「前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明した場合」との特定事項は、上記の理解と整合する特定事項であるから、この点からも本件発明9に不明確な点はない。

オ 上記2.(1)オに関し、特許請求の範囲に、発明の詳細な説明に記載された事項の全てを記載すべき理由はないから、本件発明1ないし10の特定事項として、実施例に記載された構成である熱間圧延工程において、鋼片の検査・手入れ情報を、鋼片識別コード毎に記憶することが特定されていないということのみで、本件発明1ないし10がサポート要件を充たさないという理由にはならない。

カ 上記2.(1)カに関し、本件発明1においても、本件発明2においても、鋼製品の製造の工程が複数記載されているところ、これらの各工程は、その記載を見れば、工程順に記載されていることは明らかである。
よって、「及び」の位置にかかわらず、本件発明1ないし10は明確である。

キ 上記2.(1)キに関し、上記エに記載したとおり、本件発明9の記載自体に不明確な点はないし、本件明細書の記載とも整合するものであるから、本件発明9は明確である。

ク 上記2.(1)クに関し、必ずしも発明の詳細な説明に記載された全ての事項が特許請求の範囲と整合することを要しないところ、段落【0026】の記載は、連続鋳造鋳片から鋼製品を一貫して製造する場合において、特に効果を奏する旨記載したものであり、同記載からは連続鋳造鋳片でなくても、本件発明1等の製造方法によれば、トレーサビリティの確保をし得るものと理解できる。
そうすると、本件発明1ないし6、8ないし10が、発明の詳細な説明に記載された発明の効果の記載と直接的に対応していないことをもって、実施可能要件違反又は委任省令違反ということはできない。

ケ 小括
以上のとおり、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号の規定に違反してなされたものではない。

(2)甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づく本件発明1ないし10の進歩性欠如
上記2.(2)アについて検討する。
ア 本件発明1ないし10
本件発明1ないし10は上記第3のとおりである。

イ 証拠に記載された事項等
特許異議申立人が、進歩性欠如の証拠とした提出した甲第1号証ないし甲第3号証には以下の事項が記載されている。
(ア)甲第1号証
a 「鋼片の内部欠陥を、その鋼片端からの位置と対応づけて検出記憶し、当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取ることを特徴とする内部欠陥を有する鋼片の圧延処理方法。」(特許請求の範囲)
b 「本発明は、介在物等内部欠陥を有するビレット等の処理方法に関するものである。」(産業上の利用分野)
c 「鋼片aは、搬送ローラーにより長手方向に搬送される。超音波検出部1が、鋼片aの内部に存在する欠陥の検査を連続的に行う。
超音波検出部1は、欠陥の程度に応じたアナログ信号を発生する。このアナログ信号は、測長ローラー4に連動したパルス発振器5が発生する。鋼片の単位長さの送り毎のパルスによる割込信号によって、その都度、欠陥判定部2でA/D変換されるとともに、あらかじめ定めた基準の限界設定値を越えたかどうかが判定され、限界値を越えた場合、すなわち鋼片aに欠陥があるとみなされた場合には、欠陥判定部2から欠陥位置演算部3に信号が出力される。
つまり、欠陥判定部2は、鋼片の単位長さ毎に区分された各区分に対応して、超音波検査データを区分し、この情報をあらかじめ定めた一定の品質管理基準と比較し、その結果、異常と判断された場合に、欠陥位置演算部3に信号を出力する。
欠陥位置演算部3では、欠陥判定部2からの信号と、パルス発振器5からのパルスのカウント値から鋼片端からの欠陥の位置を演算する。
つまり、欠陥位置演算部3は、超音波検出部1が鋼片aに接材した瞬間から、パルス発振器5からのパルスをカウントし、欠陥判定部2からの欠陥有信号が入力された時点までの位置を演算する。
演算された欠陥の位置は、上位の鋼片管理用コンピューター6に記憶され、当該鋼片が加熱炉への装入から圧延工程及び製品抜取りに至るまで追跡される。」(第2ページ左上欄最下行-左下欄第8行)
d 「鋼片管理用コンピューター6と圧延管理用コンピューター7とはリンケージされ、内部欠陥のある鋼片及び欠陥の位置は、圧延管理用コンピュータ7によって、加熱炉8への装入から圧延機群9まで追跡される。
圧延工程では、製品のサイズによる伸び長さの違いに基づき、製品のトップ(先端)から欠陥までの位置が、圧延用コンピューター7により演算される。この情報により、冷却床10を経て、冷間剪断機11における任意の製品長さへの切断時に、製品のトップから何番目の製品が内部欠陥を有する製品かが識別され、冷間剪断機11から結束床13に至るまでに、抜取機12によって抜取られる。
本発明は以上のように構成されており、棒鋼のように圧延後に複数の製品に剪断する場合でも、どの製品に内部欠陥があるかの追跡情報をもとに、自動抜取りを行うことができる。」(第2ページ左下欄第15行-右下欄第12行)

(イ)甲第2号証
a 「本発明の目的は、中間加工業者は一次加工鋼管を最終ユーザーから要望された長さに応じて切断した複数の二次加工鋼管を最終ユーザーに提供することができる自由があり、それでも、最終ユーザーが保有する検査証明書と、二次加工鋼管の製品情報とを正確に照合することができ、ひいては製造業者及び中間加工業者が二次加工鋼管の製品情報を共有して容易且つ確実に確認することができる鋼管の製品情報管理方法を提供することである。」(【0008】)
b 「即ち、鋼管製造の最終工程で一定長さに切断した一次加工鋼管1の切断端面に近い内面又は外面へ、前記一次加工鋼管1の長さを含む製品情報が記載された1枚の親ラベル3と、長さを除く製品情報が記載された複数枚の子ラベル4…とを添付し、前記一次加工鋼管1の製品情報を製造業者Aが管理するコンピューター5へ記憶させた後に、前記一次加工鋼管1を検査証明書6と共に中間加工業者Bへ提供する。前記中間加工業者Bは、前記親ラベル3と子ラベル4を一次加工鋼管1から取り剥がし、親ラベル3は中間加工業者Bが保管し、子ラベル4には二次加工鋼管2の長さをそれぞれ記入して当該二次加工鋼管2の切断端面に近い内面又は外面へ添付し、該子ラベル4が添付された各二次加工鋼管2を検査証明書6と共に最終ユーザーC1?C4へ提供することにより、最終ユーザーC1?C4が子ラベル4a?4dと検査証明書6で保有する二次加工鋼管2の製品情報を、製造業者Aおよび中間加工業者Bが共通に管理可能とする。」(【0016】)
c 「製造業者Aは、図2(A)に示すように、鋼管製造の最終工程で一定長さに切断した一次加工鋼管1(図示例は角形鋼管であるが、この限りではない。)の切断端面に近い内面へ、前記一次加工鋼管1の長さを含む製品情報が記載された1枚の親ラベル3と、長さを除く製品情報が記載された複数枚(図示例では4枚)の子ラベル4…とを添付する。」(【0019】)
d 「親ラベル3および子ラベル4に記載する製品情報は、商品名、規格、板厚・寸法、長さ(但し、子ラベルには長さを除く。)、製造番号、管理番号、製鋼番号、溶接規格などである。前記子ラベル4の二次加工鋼管2の長さを記載する欄には、中間加工業者Bが一次加工鋼管1を切断した後に、各二次加工鋼管2a?2dそれぞれの長さを記入するために空欄とする。また、親ラベル3および子ラベル4には、バーコード31および41が付加されており、前記バーコード31および41をバーコードリーダーで読み取ることで鋼管の製品情報をコンピュータ5に記憶することができる。」(【0020】)

(ウ)甲第3号証
a 「棒鋼および線材を熱間圧延により製造する加熱炉装入前のビレット配列装置において、異なる属性(鋼種、成品サイズ)のビレットを圧延順に従っ交互にまたは周期的に加熱炉に装入する時に異材を発生させずに確実にトラッキングを行う鋼片異材発生防止システムに関するものである。」(【0001】)
b 「その1は、棒鋼および線材を熱間圧延により製造する加熱炉装入前のビレット配列装置において、2つ以上のビレット配列装置入口に端面に文字や記号がマーキングしたビレットを読取りする装置を配置し、トラッキングを行っているコンピュータに伝達して現品照合をし、コンピュータ内の装入順番と整合を取りながら払い出しすることを特徴とする鋼片異材発生防止システムである。」(【0017】)

ウ 甲1発明
甲第1号証には上記イ(ア)の記載があるところ、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「鋼片の鋼片端からの位置をパルス発信器により検出するとともに、超音波検出部で内部欠陥を検出することで、鋼片の内部欠陥を、その鋼片端からの位置と対応づけて検出して鋼片管理用コンピューターに記憶し、鋼片管理用コンピューターとリンケージされた圧延管理用コンピューターにより、当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取るようにした鋼片の圧延処理方法。」

エ 対比、判断
(ア)本件発明1
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「鋼片」、「鋼片の圧延処理方法」は、本件発明1の「鋼製品」、「鋼製品の製造方法」にそれぞれ相当する。
甲1発明は、「当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取る」ものであるところ、「加熱炉への装入から圧延工程まで」の工程は、本件発明1の(前記鋼片を加熱して圧延する)「熱間圧延工程」に相当し、「結束工程」は、本件発明1の「結束工程」に相当する。また、「冷間剪断工程で製品長さへの切断」をすることから、冷却する工程、切断する工程を有するものであるところ、本件発明1の「冷却工程」及び「所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1で相違する。

一致点:鋼製品の製造方法であって、鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、冷却工程、所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、結束工程を有する鋼製品の製造方法。

相違点1:本件発明1は、鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、前記鋼中間材に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程、前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、を含み、前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられているのに対し、甲1発明は、鋼片の内部欠陥を、その鋼片端からの位置と対応づけて検出して鋼片管理用コンピューターに記憶し、鋼片管理用コンピューターとリンケージされた圧延管理用コンピューターにより、当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取るものであって、本件発明1の上記の構成を有さない点。

上記相違点1について検討すると、甲第2号証は鋼管に親ラベル及び子ラベルを付すことで鋼材の管理を行う方法、甲第3号証は多種のビレットを加熱炉に装入する際にその装入順を管理すべく、ビレットに付したマーキングを用いることを示すのみであって、相違点1に係る構成を開示しないし、他にこのような構成を採ることが容易に想到し得ることを示す証拠もない。
そうすると、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項からは本件発明1に到らないから、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得た程度のものとはいえない。

そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を有することによって、「本発明によれば、・・・鋼製品を一貫して製造する製造プロセスにおいて、最終の鋼製品まで、一貫してトレーサビリティを確保しているので、検査結果の上工程へのフィードバック、内質欠陥を含む鋼製品の抜取り、異鋼種棒鋼の抜取り、客先への適切な製品情報の提供等が可能となり、一層の品質の維持・安定化と歩留りの向上、操業の安定化、客先への情報の充実化等を図ることができる。」(【0026】)という効果を奏するものである。

(イ)本件発明2
本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「鋼片」、「鋼片の圧延処理方法」は、本件発明2の「鋼製品」、「鋼製品の製造方法」にそれぞれ相当する。
甲1発明は、「当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取る」ものであるところ、「加熱炉への装入から圧延工程まで」の工程は、本件発明2の(前記鋼片を加熱して圧延する)「熱間圧延工程」に相当し、「結束工程」は、本件発明2の「結束工程」に相当する。また、「冷間剪断工程で製品長さへの切断」をすることから、冷却する工程、切断する工程を有するものであるところ、本件発明2の「冷却工程」及び「所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点2で相違する。

一致点:鋼製品の製造方法であって、鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、冷却工程、所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、結束工程を有する鋼製品の製造方法。

相違点2:本件発明2は、鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び前記鋼製品に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程を含み、前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられているのに対し、甲1発明は、鋼片の内部欠陥を、その鋼片端からの位置と対応づけて検出して鋼片管理用コンピューターに記憶し、鋼片管理用コンピューターとリンケージされた圧延管理用コンピューターにより、当該鋼片を加熱炉への装入から圧延工程まで追跡し、冷間剪断工程で製品長さへの切断時に、該記憶情報をもとに内部欠陥を有する製品条材を識別し、該製品条材を結束工程に至るまでに抜取るものであって、本件発明2の上記の構成を有さない点。

上記相違点2について検討すると、甲第2号証、甲第3号証は、相違点2に係る構成を開示しないし、他にこのような構成を採ることが容易に相当し得ることを示す証拠もない。
そうすると、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項からは本件発明2に到らないから、本件発明2は、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得た程度のものとはいえない。

そして、本件発明2の効果についても、上記(ア)に記載したのと同様である。

(ウ)本件発明3ないし10
本件発明3ないし10は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明1又は2の特定事項の全てを含むものである。
そうすると、甲1発明とは、上記(ア)、(イ)に記載したと同じ相違点1又は2を含むものであるから、同様の理由により、本件発明3ないし10は、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づき当業者が容易に想到し得た程度のものとはいえない。

なお、特許異議申立人は、本件発明1を周知技術と周知技術以外の部分とを分けて、当該周知技術以外の部分のみについて容易想到である旨主張しているが、本件発明1は、その特定事項の全てを備えることによってトレーサビリティを確保しているのであり、発明特定事項を上記のように切り分けて判断することは適当でないから、特許異議申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおり、本件発明1ないし10は、甲1発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された事項に基づき容易に想到し得た程度のものではないから、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(3)パブリックドメインとなった発明に基づく本件発明1ないし10の進歩性欠如
ア 上記2.(2)イに関し、特許異議申立人は、出願当初の請求項11について、本件特許権者が出願段階において、甲第2号証に基づく新規性及び進歩性欠如の拒絶理由が通知され、権利化を断念したことをもって、パブリックドメインの発明となり、パブリックドメインの発明を前提とする進歩性欠如を主張する。
これについて検討すると、特許権者が、出願の過程において、その一部の発明の権利化を断念したことをもって、当該一部の発明が本件の出願時点において公然知られた発明になったということにはならないから、そもそも特許異議申立人の主張に根拠がない。
また、甲第2号証の記載事項は、上記(2)イ(イ)のとおりであり、出願当初の請求項11に係る鋼製品に対応する鋼管に係る発明が記載されているとしても本件発明1ないし10は、製造方法の発明であり、本件発明1は、「前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、/ 前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、/ 前記鋼中間材に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程」(当審注:/は改行を表す。以下同じ。)の各工程を備え、「前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている」ものであり、本件発明2は、「前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、/ 前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、/ 前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び/ 前記鋼製品に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程」の各工程を備え、「前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている」ものであることをそれぞれ具体的に特定しており、本件発明3ないし10は本件発明1又は2を引用するものであるところ、このような具体的な工程を備えることにより、鋼製品を製造する方法が容易に想到し得たという証拠はない。

イ 小括
以上のとおり、パブリックドメインとなった発明を前提とする進歩性欠如の理由には根拠がないし、本件発明1ないし10は、甲第2号証の鋼管に係る発明に基づき容易に想到し得た程度のものではないから、本件発明1ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、本件発明1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製品の製造方法であって、
鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、
前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、
前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、
前記鋼中間材に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程、
前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び
前記鋼製品を結束する結束工程、
を含み、
前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている
ことを特徴とする鋼製品の製造方法。
【請求項2】
鋼製品の製造方法であって、
鋼片識別コードが付された鋼片から、鋼片識別コードを読み取り、前記鋼片を加熱して圧延する熱間圧延工程、
前記圧延された前記鋼片を分割して鋼中間材を製造するに際し、該鋼中間材と、前記鋼片識別コードの情報、及び該鋼中間材が前記鋼片において対応する位置を示す位置情報とを対応づけて順に該鋼中間材を得る分割工程、
前記鋼中間材を冷却床にて冷却するに際し、冷却床の入口から出口まで前記鋼中間材と前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報との対応づけを保ったまま前記鋼中間材を移動させる冷却工程、
前記鋼中間材を所定の長さに切断して鋼製品を製造する切断工程、及び
前記鋼製品に鋼製品管理コードをマークするマーキング工程、
前記鋼製品を結束する結束工程、
を含み、
前記鋼製品管理コードは、前記鋼中間材に対応づけられていた前記鋼片識別コードの情報及び前記位置情報と対応づけられている
ことを特徴とする鋼製品の製造方法。
【請求項3】
前記鋼製品管理コードは、さらに、前記切断工程において切断された前記鋼中間材における切断部分の位置を示す部分情報と対応付けられている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項4】
前記分割工程において前記鋼中間材が進行する方向と、
前記切断工程において前記鋼製品が進行する方向とが互いに逆方向である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程において、前記冷却床は複数の溝を備え、前記冷却床に配列した前記鋼中間材を、前記複数の溝を、配列を変えずに移動することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項6】
前記切断工程は、前記冷却床の溝情報に基づき前記鋼中間材を選択し、選択した前記鋼中間材を切断することを特徴とする請求項5に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項7】
前記鋼片は連続鋳造で製造され、その際に該鋼片に鋼片識別コードを付与することを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項8】
前記マーキング工程において、前記鋼製品管理コードのマーキングは、前記鋼製品又は前記鋼中間材の端面に、切断順に行うことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項9】
前記鋼製品管理コードにより、前記鋼製品の元の鋼片の鋼片部位が湯混ざり部を含むことが判明した場合、前記鋼片から製造された複数の鋼製品のうち、当該鋼片部位から製造された鋼製品を破棄する工程を含む請求項1?8のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
【請求項10】
前記鋼製品は棒鋼であり、前記鋼中間材は該棒鋼と同径であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の鋼製品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-24 
出願番号 特願2018-558009(P2018-558009)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B21B)
P 1 651・ 852- YAA (B21B)
P 1 651・ 537- YAA (B21B)
P 1 651・ 536- YAA (B21B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中西 哲也  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 田々井 正吾
見目 省二
登録日 2020-04-06 
登録番号 特許第6687128号(P6687128)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 鋼製品の製造方法および鋼製品  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 学  
代理人 齋藤 学  
代理人 木村 健治  
代理人 福地 律生  
代理人 木村 健治  
代理人 福地 律生  
代理人 三橋 真二  

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