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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04B
管理番号 1376727
異議申立番号 異議2020-700779  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-09 
確定日 2021-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6684848号発明「木質構造部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6684848号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6684848号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6684848号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年6月12日に出願した特願2015-119071号(以下、「原出願」という。)の一部を平成30年4月25日に新たな特許出願としたものであって、令和2年4月1日に特許権の設定登録がされ、令和2年4月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和2年10月9日に、特許異議申立人 丸山 博隆(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

その後の経緯は、以下のとおりである。
令和 2年12月25日付け: 取消理由通知
令和 3年 3月 5日: 特許権者による意見書の提出及び訂正
の請求
(以下、「本件訂正請求」という。)
令和 3年 4月22日: 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「円柱状の木質の荷重支持部と、前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された燃止層と、前記燃止層の中に埋設された金網と、を備える木質構造部材。」
と記載されているのを、
「円柱状の木質の荷重支持部と、前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層と、前記燃止層の中に埋設された円筒状の金網と、を備える木質構造部材。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「角部が円弧状の略四角柱状の木質の荷重支持部と、前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された燃止層と、前記燃止層の中に埋設された金網と、を備える木質構造部材。」
と記載されているのを、
「角部が円弧状の略四角柱状の木質の荷重支持部と、前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された四角筒状の燃止層と、前記燃止層の中に埋設された金網と、を備える木質構造部材。」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3及び4も、同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無及び一群の請求項について

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、
(ア)訂正前の請求項1における、「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された燃止層」について、「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層」と限定し、
(イ)訂正前の請求項1における、「前記燃止層の中に埋設された金網」について、当該「金網」が「円筒状」であることを限定する、
という内容であるから、訂正前の請求項1に係る発明を限定したものと認めることができる。
そして、同訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1の上記ア(ア)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0015】には、「図2及び図3に示すように、木質柱100は、円柱状の木質の荷重支持部110(図5も参照)と、荷重支持部110の外側に間隔をあけて配置された円筒状の木質の燃代層130(図5も参照)と、荷重支持部110と燃代層130との間に石膏Sが充填されて硬化することで形成された円筒状の燃止層120と、の三層構造とされている。」と記載されている。また、願書に添付した明細書の段落【0026】には、「そして、図5に示すように、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに流動状の石膏Sを上から流し込んで充填し、充填後に石膏Sが硬化することで燃止層120が形成される。なお、図4は、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに流動状の石膏Sが流し込まれて充填されている途中の状態の図である。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(ア)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(イ)訂正事項1の上記ア(イ)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0027】には、「燃止層120に金網を埋設させる場合は、荷重支持部110と燃代層130との隙間Tに円筒状に加工した金網を設けてから石膏Sを上から流し込んで充填する。」と記載されている。
そのため、訂正事項1において、上記ア(イ)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(ウ)小括
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項1についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正目的及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、
(ア)訂正前の請求項2における、「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された燃止層」について、当該「燃止層」が「四角筒状」であることを限定する、
という内容であるから、訂正前の請求項2に係る発明を限定したものと認めることができる。
そして、同訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項2の上記ア(ア)に示した限定に関して、願書に添付した明細書の段落【0046】には、「(第二変形例)図8に示す第二変形例の木質柱200は、略四角柱状の木質の荷重支持部210と、荷重支持部210の外側に間隔をあけて配置された四角筒状の木質の燃代層230と、荷重支持部210と燃代層230との間に石膏Sが充填されて硬化することで形成された略四角筒状の燃止層220と、の三層構造とされている。」と記載されている。
そのため、訂正事項2において、上記ア(ア)に示した限定を行った点は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で行ったものと認めることができる。

(イ)小括
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で、訂正前の請求項2についてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1、3及び4について、請求項3及び4は、請求項1を直接的に引用しているから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。また、訂正前の請求項2ないし4について、請求項3及び4は、請求項2を引用しているから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正がされるものである。そして、訂正前の請求項1、3及び4と、請求項2ないし4とは、共通する請求項3及び4を介して一体として特許請求の範囲の一部を形成するように連関している。
そのため、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
訂正事項1及び2は、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし4について、特許請求の範囲を減縮するものであるから、本件訂正は、一群の請求項[1-4]に対して請求されたものである。

3 申立人の主張
申立人は、令和3年4月22日付け意見書において、訂正事項1について「荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層」と限定されることにより、実質的に「燃止層」の外周に新たな耐火構造物である「燃代層」を導入し、訂正前の耐火機能とは異なる耐火機能を備えた木質構造材の発明としたものであるので、実質変更に該当する旨を主張している(第7頁第19行?第8頁第5行)。
しかしながら、訂正後の請求項1における「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層」は、「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料」で構成されたものであることは明らかであって、訂正前の発明特定事項を全て備えるものであり、その上でさらに「燃止層」が「不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された」「円筒状」のものであることを特定したものであるから、特許請求の範囲を変更するものではない。
したがって、申立人の主張を考慮しても、本件訂正が訂正要件を満たすか否かについて、上記2と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし4に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
円柱状の木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層と、
前記燃止層の中に埋設された円筒状の金網と、
を備える木質構造部材。

【請求項2】
角部が円弧状の略四角柱状の木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された四角筒状の燃止層と、
前記燃止層の中に埋設された金網と、
を備える木質構造部材。

【請求項3】
前記燃止層は、石膏を材料として構成されている、
請求項1又は請求項2に記載の木質構造部材。

【請求項4】
前記燃止層は、グラウト材を材料として構成されている、
請求項1又は請求項2に記載の木質構造部材。」

第4 特許異議申立理由の概要及び証拠
申立人は、申立書において、概ね以下の1に示す申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の2に示す各甲号証を提出している。
また、申立人は、令和3年4月22日提出の意見書に添付して、以下の3に示す各甲号証を提出している。

1 特許異議申立理由の概要
申立人が異議申立書において主張する特許異議申立理由は、異議申立書第2?4頁の「1 申立ての理由の要約」の記載、第20?43頁の「4-1-3」?「4-2」の記載等からみて、概略次のとおりであると認められる。

(1)訂正前の本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい、同様に訂正前の本件特許の請求項2ないし4に係る発明をそれぞれ「本件特許発明2」ないし「本件特許発明4」という。)は、原出願に記載されていない発明であるので、本件特許出願は出願日の遡及適用を受けることができず、甲第2号証に記載された発明と同一、あるいは、当該発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである、又は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである(第2頁「理由1」、第20?27頁「4-1-3」等)。

(2)本件特許発明1ないし4は、甲第3号証に記載された発明と同一である(第3頁「理由2」、第28?30頁「4-1-4-1」等)。

(3-1)本件特許発明1ないし4は、甲第3号証、甲第8号証に記載された発明、及び、甲第4号証及び甲第5号証に例示する周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである(第3頁「理由3(1)」、第28?30頁「4-1-4-1」等)。

(3-2)本件特許発明1ないし4は、甲第6号証、甲第8号証に記載された発明、及び、甲第4号証及び甲第5号証に例示する周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである(第3頁「理由3(2)」、第31?33頁「4-1-4-2」等)。

(3-3)本件特許発明1ないし4は、甲第7号証、甲第8号証に記載された発明、及び、甲第4号証及び甲第5号証に例示する周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである(第3頁「理由3(3)」、第34?36頁「4-1-4-3」等)。

(4)訂正前の本件特許の請求項1ないし4には、燃代層を欠く、荷重支持部と燃止層の二層構造の木質構造部材が記載されているのに対して、本件特許明細書に記載された木質構造部材は、すべて荷重支持部、燃止層及び燃代層を備えた三層構造であるので、本件特許発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載されておらず、サポート要件違反である。また、本件特許発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載されていないことから、発明として何を意味するのか理解できず、明りょう性を欠いている(第3頁「理由4」、第37頁「4-2(1)」等)。

(5)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、そもそも本件発明が何か理解することができず、本件発明の成立が客観的に確認できず、本件発明について耐火試験を追試して作用効果を検証することができないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件違反に該当する(第3?4頁「理由5」、第37?42頁「4-2(2)」等)。

2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証: 特開2017-2614号公報
甲第2号証: 特開2018-12958号公報
甲第3号証: 「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針」(平成
25年 3月29日、国土交通省大臣官房官庁営繕部)
甲第4号証: 特開2006-342608号公報
甲第5号証: 特開2013-19135号公報
甲第6号証: 特開2015-61969号公報
甲第7号証: 特開2007-46286号公報
甲第8号証: 特開2011-179177号公報

3 意見書に添付して提出された証拠方法
甲第9号証: 特開2011-196118号公報
甲第10号証: 特開平6-108645号公報
甲第11号証: 特開2014-114672号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

(1)本件特許発明1は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術に基いて、原出願の特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

(2)本件特許発明2は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明、慣用技術並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術に基いて、原出願の特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

(3)本件特許発明3及び4は、本件特許の原出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術に基いて、又は、甲第3号証に記載された発明、慣用技術並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術に基いて、原出願の特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消されるべきものである。

2 甲各号証について
(1)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。

(ア)「・・・現在、部材ごとに耐火構造としての認定が取得され、建築物として実現している工法には、「メンブレン型工法」、「燃え止まり型工法」、「鋼材内蔵型工法」の3通りがある。・・・」(第21頁第3?5行)

(イ)「3.1 メンブレン型建築物の技術的事項
メンブレン型建築物の整備に当たっては、工法の特性に合わせた計画を行う。
メンブレン型建築物とは、構造耐力上主要な部分である心材(木部)を強化せっこうボード等で被覆することでメンブレン層(耐火被覆)を形成し、所定の耐火性能を確保する工法を用いた建築物であり、木造軸組工法によるものと枠組壁工法によるものがある。」(第21頁第8?13行)

(ウ)「メンブレン型部材イメージ」(第21頁)は、次のものである。



ここに示される「メンブレン型部材」がメンブレン型建築物の部材であることは、この「メンブレン型部材イメージ」が上記(イ)の「3.1メンブレン型建築物の技術的事項」の欄に掲載されていることからも明らかである。
そして、この「メンブレン型部材イメージ」からは、「メンブレン型部材」の「心材が四角柱状であり、四角筒状の耐火被覆が前記心材の全周面を被覆している」点が看て取れる。

(エ)「3.2 燃え止まり型建築物の技術的事項
燃え止まり型建築物の整備に当たっては、工法の特性に合わせた全体計画を行う。
燃え止まり型建築物とは、構造耐力上主要な部分である心材(木材)を難燃処理木材、モルタル等で被覆することで燃え止まり層を形成し、所定の耐火性能を確保する工法を用いた建築物であり、さらに燃えしろとして機能する化粧用木材で被覆する場合がある。」(第30頁第1?6行)

(オ)「燃え止まり型部材イメージ」(第30頁)は、次のものである。



ここに示される「燃え止まり型部材」が燃え止まり型建築物の部材であることは、この「燃え止まり型部材イメージ」が上記(エ)の「3.2 燃え止まり型建築物の技術的事項」の欄に掲載されていることからも明らかである。よって、上記(エ)の「燃えしろとして機能する化粧用木材」は、この「燃え止まり型部材イメージ」の燃えしろ層に該当することは明らかである。
また、この「燃え止まり型部材イメージ」からは、「燃え止まり型部材」の「心材が四角柱状であり、燃え止まり層及び燃えしろ層が四角筒状であり、燃え止まり層が前記心材の全周面を被覆している」点が看て取れる。

イ 甲第3号証に記載された発明
上記ア(ア)、(エ)及び(オ)より、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3-1発明」という。)が記載されている。

(甲3-1発明)
「構造耐力上主要な部分である心材(木材)をモルタルで被覆することで燃え止まり層を形成し、さらに化粧用木材からなる燃えしろ層で被覆する場合がある燃え止まり型部材であって、
前記心材は四角柱状であり、前記燃え止まり層及び前記燃えしろ層は四角筒状であり、
前記燃え止まり層が前記心材の全周面を被覆している、
燃え止まり型部材。」

また、上記ア(ア)ないし(ウ)より、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3-2発明」という。)が記載されている。

(甲3-2発明)
「構造耐力上主要な部分である心材(木部)を強化せっこうボード等で被覆することでメンブレン層(耐火被覆)を形成したメンブレン型部材であって、
前記心材が四角柱状であり、前記耐火被覆が四角筒状であり、
前記耐火被覆が前記心材の全周面を被覆している、
メンブレン型部材。」

(2)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
甲第4号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、塗り厚ガイド、防耐火構造体および防耐火構造体の構築方法に関し、さらに詳しくは湿式工法で構築される防耐火構造体の塗り厚の目安として用いる塗り厚ガイド、およびこれを用いた防耐火構造体、ならびにその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式工法は、下張材の表面にモルタル塗り下地としてラスを取り付け、当該ラスにモルタルを塗り付けることにより、壁等を構築する方法である。・・・(以下略)」

(イ)「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ラスに塗り付ける左官材料として、防火性能・耐火性能を備える左官材料(例えば石こう系材料やセメント系材料で練ったモルタル等)を使用することにより、構造体に所望の防火性能、耐火性能(以下、「防耐火性能」という場合がある。)を付与することが行われている(以下、このような構造体を「防耐火構造体」という。)。・・・(以下略)」

(ウ)「【0030】
(ラス3)
ラス3は、図1に示すように、下張材2の屋外側に取り付けられた網状の部材であり、いわゆるモルタル塗り下地としての役割を担うものである。第1実施形態では、ラス3は、いわゆるメタルラスで構成されている。メタルラスは、金属板に切れ目を入れて、当該金属板を切れ目と垂直な方向に引き伸ばして形成される部材であり、図1および図2(b)に示すように、菱形形状のラス目3a(「網目」ともいう。)を有している。」

(3)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載
甲第5号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、木造の建築物に形成されたモルタル外壁の施工方法に係り、特に、壁面の窓枠などが配置される矩形状に形成された開口部の隅部の外側部分、入り隅部および出隅部などにひび割れが発生するのを防止するのに好適なモルタル外壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木造軸組工法などにより建築された木造の建築物の外壁として、モルタルでメタルラスを埋設した耐火性を具備するモルタル外壁が広く用いられている。」

(イ)「【0021】
(壁構造の第1実施形態)
図1は本発明に係るモルタル外壁の施工方法により形成されるモルタル外壁の壁構造の第1実施形態の要部を示す模式的横断面図である。
【0022】
本実施形態のモルタル外壁の壁構造10(以下、単に、壁構造と記す。)は、木造軸組方法による建築物にモルタル外壁40を直張り工法により形成したものである。
【0023】
すなわち、図1に示すように、本実施形態の壁構造10は、柱材(間柱)21や図示しない梁などの構造躯体20と、この構造躯体20の室外側の面である外面に取り付けられた木基材30としての例えば厚さ9mmの構造用合板30aと、この構造用合板30aの外面に設けられたモルタル外壁40とにより構成されている。また、モルタル外壁40は、構造用合板30aの外面に防水シート41を介して取り付けられたメタルラス42(以下、下地用ラスと記す。)と、この下地用ラス42を埋設するように設けられたモルタルの下塗り層43と、この下塗り層43の外面のうち少なくとも壁面のモルタルにひび割れが発生し易い部位C(以下、易ひび割れ部と記す。)に取り付けられた補強用メタルラス44(以下、補強用ラスと記す。)と、この補強用ラス44を埋設するように設けられたモルタルの上塗り層45とにより構成されている。」

(ウ)「【0039】
なお、耐圧試験に用いた試験体の形状と大きさを図7に示す。この試験体は、図7に示すように、縦横がそれぞれ300mmの正方形の左下角部に、矩形状の開口部140としての縦横がそれぞれ70mmの切り欠きを形成し、この切り欠きの隅部140aとしてのコーナー部の外側部分を易ひび割れ部Cとした。また、試験体は、図1および図2に示すモルタル外壁40の構造を用いた。すなわち、木基材30としての厚さ9mmの構造用合板30aの一面に防水シート41を介して下地用ラス42としての波形ラス1号をステープルにより取り付けてから、この波形ラス1号を埋設するように軽量モルタルをコテにより厚さ10mmで下塗りして下塗り層43を形成し、ついで、下塗り層43の表面のうちの易ひび割れ部Cに、補強用ラス44としての幅100mm、長さ150mmの平ラス4号を、そのメッシュ部分の長手方向Rが隅部140aの角度の二等分線に沿うひび割れ予想線Lと直交するように(90度で交差するように)配置してステープルにより取り付け、その後、平ラス4号を埋設するように軽量モルタルをコテにより厚さ5mmで上塗りして上塗り層45を形成してモルタルの総厚15mmのモルタル外壁40(補強用ラス44の伏せ込み深さ5mm)を形成し、その後9日間養生したものを耐圧試験に供した。なお、伏せ込み深さとは、補強用ラス44のモルタル表面(上塗り層45の外面)からの位置である。」

(4)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載
甲第6号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造部材として使用できる耐火性物品およびその製造方法に関する。」

(イ)「【0016】
図1は、芯材および耐火層を有する耐火性物品の一態様の断面図である。耐火性物品10において、芯材11の周囲に耐火層12が配置されている。一般に、耐火層12は芯材11に密着している。あるいは、芯材11と耐火層12の間に中間層(図示せず)が存在していてもよい。中間層は、例えば、芯材11および耐火層12の両方への付着性に優れている材料(例えば、接着剤)、および耐熱性に優れている材料(例えば、金属、特に鉄)の一方または両方からできていてよい。
【0017】
図2は、芯材、耐火層および表面層を有する耐火性物品の他の態様の断面図である。耐火性物品20において、芯材21の周囲に耐火層22が配置され、耐火層22の周囲に表面層23が配置されている。一般に、耐火層22は芯材21および表面層23に密着している。あるいは、芯材21と耐火層22の間にまたは耐火層22と表面層23の間の一方または両方に中間層(図示せず)が存在していてもよい。中間層は、例えば、芯材21、耐火層22および表面層23への付着性に優れている材料(例えば、接着剤)、および耐熱性に優れている材料(例えば、金属、特に鉄)の一方または両方からできていてよい。表面層23は、燃え代層として働く。表面層は、装飾として機能することが好ましい。
【0018】
図1および図2の耐火性物品は、正方形の断面を有している四角柱である。
図1および図2は、耐火性物品が正方形の断面を有する態様を表しているが、耐火性物品の断面は、正方形以外の形状であってよい。他の断面形状として、例えば、長方形(例えば、板状)、四角形以外の多角形、円形、楕円形が挙げられる。」

(ウ)「【0021】
芯材は、一般木材、無垢の木材、集成材、CLT(Cross Laminated Timber)などからできていてよい。
【0022】
耐火層は、ポリイソシアヌレート樹脂からできている。ポリイソシアヌレート樹脂は、ポリイソシアネートの三量化によって得られるイソシアヌレート環構造を含有する樹脂である。通常、イソシアヌレート化(三量化)触媒などの存在下で、ポリイソシアネートを反応させる。本発明では、イソシアネート反応性活性水素を有する化合物(例えば、ポリ(モノ)オール)の存在下で、ポリイソシアネートをイソシアヌレート化することが好ましい。またイソシアネート反応性活性水素を有する化合物(例えば、ポリ(モノ)オール)の不存在下で、ポリイソシアネートをイソシアヌレート化することも可能である。 ポリイソシアヌレート樹脂は、常温(20℃)で固体である。ポリイソシアヌレート樹脂は、発泡材料または非発泡材料であってよいが、非発泡材料であることが好ましい。」

(エ)「【0039】
耐火性物品は、
(i)芯材と枠の間に空間をとるように芯材の外側周囲に枠を配置する工程、
(ii)芯材と枠の間の空間にポリイソシアヌレート原料液を流し込む工程、および
(iii)ポリイソシアヌレート原料液を反応させて固体のポリイソシアヌレート樹脂の層を得る工程
を有する製造方法によって製造できる。」

(オ)「【0043】
表面層を有する耐火性物品は、工程(i)において、表面層と芯材の間に空間を形成するように枠の内側に表面層を配置することによって製造することが好ましい。これにより、表面層を有する耐火性物品が容易に得られる。ポリイソシアヌレート樹脂は、一般に、芯材および表面層に接着性を有するので、接着剤の使用を省略できるという利点がある。
あるいは、上記製造方法によって表面層を有しない物品を製造した後に、表面層を貼り合わせてもよい。」

(カ)上記(エ)及び(オ)の記載に照らして、表面層を有する耐火性物品は、表面層と芯材の間に空間を形成するように芯材の外側周囲に表面層を配置し、芯材と表面層の間の空間にポリイソシアヌレート原料液を流し込むことによって耐火層が形成されるといえる。

イ 甲第6号証に記載された発明
上記ア(ア)?(カ)より、甲第6号証には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。

(甲6発明)
「一般木材からできる芯材21の周囲に耐火層22が配置され、耐火層22の周囲に表面層23が配置され、
耐火層22は芯材21の周囲に密着しており、ポリイソシアヌレート樹脂からなり、
表面層23と芯材21の間に空間を形成するように芯材21の外側周囲に表面層23を配置し、芯材21と表面層23の間の空間にポリイソシアヌレート原料液を流し込むことによって耐火層22が形成され、
断面形状は正方形又は円形である、
建築構造部材として使用できる耐火性物品。」

(5)甲第7号証
ア 甲第7号証の記載
甲第7号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、集成材からなる柱を前提として本発明を適用して具現化した、木製建築部材の第1実施形態を示す。
材軸が鉛直方向に延びる柱10は、荷重を受ける長尺かつ矩形横断面の構造部12と、構造部12の横断面周囲をその全長に亘って被覆する被覆部14と、構造部12と被覆部14との間に層状に介在し、構造部12に作用した荷重が被覆部14に伝達されないようにする絶縁部16と、を含んで構成される。
【0011】
構造部12は、柱10に作用する各種荷重に応じた横断面積を有し、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ね、合成樹脂接着剤により接着して一体化された集成材からなる。被覆部12は、柱10の横断面において所定厚さtを有し、構造部12と同様に、所定寸法に切断された木材板を平行に積み重ね、合成樹脂接着剤により接着して一体化された集成材からなる。絶縁部16は、建築基準法で規定された不燃材料又は難燃材料から構成することが望ましい。ここで、「不燃材料」としては、厚さが9mm以上の石膏ボード(ボード用原紙の厚さが0.6mm以下のもの),厚さが15mm以上の木毛セメント板,厚さが9mm以上の硬質木片セメント板(かさ比重が0.9以上のもの),厚さが30mm以上の木片セメント板(かさ比重が0.5以上のもの),厚さが6mm以上のパルプセメント板などが該当する。「難燃材料」としては、厚さが5.5mm以上の難燃合板,厚さが7mm以上の石膏ボード(ボード用原紙の厚さが0.5mm以下のもの)などが該当する。なお、不燃材料又は難燃材料として石膏ボードを用いれば、建築物で広く利用されている安価かつ耐火上信頼性の高い素材を用いて絶縁部16を実現することができる。絶縁部16は、構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち,合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定される。」

イ 甲第7号証に記載された発明
上記ア(ア)より、甲第7号証には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されている。

(甲7発明)
「集成材からなり、荷重を受ける長尺かつ矩形横断面の構造部12と、
構造部12の横断面周囲をその全長に亘って被覆する被覆部14と、
不燃材料又は難燃材料から構成されて、構造部12と被覆部14との間に層状に介在し、構造部12に作用した荷重が被覆部14に伝達されないようにする絶縁部16とを含んで構成され、
絶縁部16は、構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち、合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定される、
木製建築部材である柱10。」

(6)甲第8号証
ア 甲第8号証の記載
甲第8号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0075】
(木質構造材の切欠き状スペースへの発泡耐火材の充填)
耐火材層に発泡耐火材を用い、当該耐火材層の裏面側では燃え代用板材の目地部に沿って木質構造材に切欠き状スペースを設けて、この切欠き状スペースに発泡耐火材を充填しておくと、第7発明の効果の欄で前記したように、火災時において発泡耐火材の発泡物が燃え代用板材の目地部の開き部分に押し出されるようにして、目地部の開き部分を閉塞する。従って、木質構造材に対して極めて強力な耐火・耐熱シーリングが確保される。
【0076】
このような、切欠き状スペースへの発泡耐火材の充填についての実施形態例を図3に基づいて説明する。図3(a)の実施形態では、耐火被覆構造体の角部に燃え代用板材4の目地部5が形成され、耐火材層3が発泡耐火材からなると共に、耐火材層3の裏面側では、目地部5に沿って木質構造材2に切欠き状スペース7を設け、この切欠き状スペース7に発泡耐火材8を充填している。」

イ 甲第8号証に記載された技術事項
上記ア(ア)より、甲第8号証には、次の技術事項(以下「甲8記載技術事項」という。)が記載されている。

(甲8記載技術事項)
「耐火被覆構造体の角部に燃え代用板材4の目地部5が形成され、耐火材層3が発泡耐火材からなると共に、耐火材層3の裏面側では、目地部5に沿って木質構造材2に切欠き状スペース7を設け、この切欠き状スペース7に発泡耐火材8を充填して、
火災時において発泡耐火材の発泡物が燃え代用板材の目地部の開き部分に押し出されるようにして、目地部の開き部分を閉塞する点。」

(7)甲第9号証
ア 甲第9号証の記載
甲第9号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0070】
第3の実施形態では、第1の実施形態で示した構造部材10を製造する方法の一例を示す。構造部材10の製造方法は、まず、図10(a)の斜視図に示すように、円板状の底型枠54の上に螺旋形状保持手段としての籠56を設置する。籠56は、金網によって円筒状に形成されている。」

(8)甲第10号証
ア 甲第10号証の記載
甲第10号証には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0006】
【実施例】以下、この発明の実施例を図1乃至図3に基づいて説明する。ベ-ス材1を通常の要領で斜設し、次いでメタルラスを階段形状に適応して屈曲させて得た型枠2を、前記ベ-ス材1上に支持材3で支持させて設置する。前記型枠2は定尺のメタルラスを工場で予め階段状に屈曲した上で現場に搬入し、現場では支持材3への固定のみを行なう。そして、従来必要とされたいなずま筋や補強筋の配設はしない。尚、前記型枠2の蹴上げ面2aは蹴込みが得られるように僅かに内側へ傾斜させてある。また、定尺材から得られる型枠は数段分であるから、階段の段数にあわせて必要段数分組み合わせて使用する。」

(9)甲第11号証
ア 甲第11号証の記載
甲第11号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0016】
梁部材10は、荷重を支持する木製の心材としての梁心材12と、梁心材12の周囲を取り囲む燃え止まり層14と、燃え止まり層14の周囲を取り囲む木製の燃え代層16とを備えている。」

(イ)「【0022】
本発明の第1実施形態に係る耐火木質構造部材の製造方法による梁部材10の製造は、まず、図3(a)の横断面図に示すように、梁心材12の外周面に接着剤や釘等により木質部20を取り付ける。木質部20は、木質部20の間に凹部32を形成するようにして、周方向24に間隔をおいて複数配置する。これにより、梁心材12の外周面に、凹部32と木質部20とを備えた木質層38が形成される。」

(ウ)「【0058】
なお、第2実施形態では、燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で凹部32にコテ等により塗り付けて、凹部32にモルタルMを充填する例を示したが、燃え止まり材としてのモルタルMを流動化した状態で凹部32に圧入することによって、凹部32に充填してもよい。
【0059】
例えば、図8の横断面図に示すように、凹部32を燃え代層16で覆うことによって形成された空洞40に、モルタルMを流動化した状態で圧入することにより、空洞40(凹部32)にモルタルMを充填する。
【0060】
モルタルMの空洞40(凹部32)への圧入は、空洞40(凹部32)の、梁心材12下面中央部の下方付近に形成された圧入孔46からモルタルMを圧入し、梁成方向26に対する空洞40(凹部32)の上端部に形成された排出孔48からモルタルMを排出することによって行なう。排出孔48は、モルタルMを圧入する際の空気抜き、及びモルタルMの充填確認のために設けられている。」

3 当審の判断
(1)請求項1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3-1発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)甲3-1発明の「構造耐力上主要な部分である心材(木材)」は、本件訂正発明1の「木質の荷重支持部」に相当する。

(イ)甲3-1発明において「燃え止まり層」が「モルタル」からなる点は、本件訂正発明1において示されている「燃止層」の材料に関する選択肢のうち「不燃材料」により形成された態様に相当する。
また、甲3-1発明の「心材(木材)をモルタルで被覆することで」「形成し」た「燃え止まり層」を「さらに化粧用木材からなる燃えしろ層で被覆」し「燃えしろ層は四角筒状であ」ることと、本件訂正発明1の「前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層」であることとは、「前記荷重支持部の外側に配置された燃代層」である点で共通する。
してみれば、甲3-1発明における「前記心材の全周面を」「モルタルで被覆することで」「形成し」た「燃え止まり層」を「さらに化粧用木材からなる燃えしろ層で被覆」し「前記燃え止まり層及び前記燃えしろ層は四角筒状であ」ることと、本件訂正発明1における「前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層」であることとは、「前記荷重支持部の全周面を被覆して設けられ、不燃材料により前記荷重支持部の外側に配置された燃代層との間に形成された燃止層」である点で共通する。

(ウ)甲3-1発明が、「木材」からなる「心材」及び「化粧用木材からなる燃えしろ層」を有する「燃え止まり型部材」である点は、本件訂正発明1が「木質構造部材」である点に相当する。

したがって、本件訂正発明1と甲3-1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面を被覆して設けられ、不燃材料により前記荷重支持部の外側に配置された燃代層との間に形成された燃止層と、
を備える木質構造部材。」

<相違点>
(相違点1)本件訂正発明1の荷重支持部は「円柱状」であるとともに、燃代層及び燃止層は「円筒状」であるのに対し、甲3-1発明の心材は四角柱状であるとともに、燃えしろ層及び燃え止まり層は四角筒状である点。

(相違点2)燃止層の形成について、本件訂正発明1には、荷重支持部の全周面に「密着」して設けられるものであるとともに、「充填されて形成された」と特定されているのに対し、甲3-1発明にはそのような特定がなされていない点。

(相違点3)燃止層について、本件訂正発明1は、「円筒状の金網」が中に埋設されたものであるのに対し、甲3-1発明の燃え止まり層は、円筒状の金網が中に埋設されているか否か特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
建築に関する技術分野において、柱状の部材を四角柱以外の形状である円柱とすることは、例えば甲第6号証に記載されているとおり(上記2(4)イ参照)、周知の技術である(以下、「周知技術1」という。)。甲3-1発明は建築に関するものであり、属する技術分野が当該周知技術と共通する。
また、本件訂正発明1は、周知技術1を適用したことによって当業者の予測できない格別の効果を奏するものではない。
したがって、甲3-1発明の四角柱状の心材並びに四角筒状の燃えしろ層及び燃え止まり層に周知技術1を適用し、もって本件訂正発明1の相違点1に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2及び3について
相違点2及び3は、燃止層の特定事項として密接に関連するため、合わせて検討する。
a.まず、相違点2について検討する。
建築に関する技術分野において、燃止層を充填して形成することは、例えば甲第6号証に記載されているとおり(上記2(4)参照)、周知の技術である(以下、「周知技術2」という。)。また、周知技術2において、燃止層が施工対象面に対して密着することは明らかである。
そして、甲3-1発明は燃止層を設けた耐火構造に関するものであり、属する技術分野が周知技術2と共通する。また、甲3-1発明と周知技術2とは、燃止層によって耐火性を発揮するという機能も共通する。したがって、甲3-1発明において、燃え止まり層を形成するうえで周知技術2を適用し、もって本件訂正発明1の相違点2に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことであると認められる。

b.つぎに、相違点3について検討する。
建築に関する技術分野において、耐火性を有する材料としてモルタルを用い、当該モルタルを施工する方法として、メタルラスを埋設するようにモルタルを塗ることは、例えば甲第4号証及び甲第5号証に記載されているとおり(上記2(2)及び(3)参照)、周知の技術である(以下、「周知技術3」という。)。
そして、周知技術3は、相違点3における、燃止層について「金網」が中に埋設されたものであることに一応相当するといえる。
しかしながら、周知技術3はメタルラスにモルタルを塗ることを前提とするものであるところ、上記a.のように甲3-1発明に周知技術2を適用すれば、燃止層を充填するものになるから、燃止層を塗るという前提を欠くものとなる。

c.そうすると、甲3-1発明において、充填施工に係る周知技術2を適用したうえで、塗り施工と密接に関連した周知技術3を適用することは、その前提となる施工手法に整合性がなく、当業者が容易になし得たこととはいえない。この点、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。
したがって、相違点3のうち金網が「円筒状」である点について検討するまでもなく、甲3-1発明において、本件訂正発明1の相違点2及び3に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和3年4月22日付け意見書において、空間に流動性のある石膏を流し込むことは一般的常識である旨、及び、耐火木質構造部材の製造方法にモルタルの充填法を適用できることは甲第11号証に開示されている旨を主張している(第2頁第22行?第3頁第12行)。
しかしながら、申立人の上記主張は、周知技術2と同等の技術事項について、技術常識及び公知であることを示すに留まるから、申立人の上記主張を考慮しても、上記(イ)の検討と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。
また、申立人は、同意見書において、メタルラスなどの金網の上にモルタルを被覆してモルタルの剥離防止に効果があることは、建築技術分野では技術常識である旨、及び、甲第5号証、甲第9号証及び甲第10号証を挙げて、適用対象に応じてメタルラスを屈曲させて用いることは周知技術である旨を主張している(第5頁第10?18行)。
しかしながら、剥離防止に係る上記技術常識は、メタルラスなどの金網の上にモルタルを被覆するという塗り施工についてのものであって、上記(イ)のとおり、甲3-1発明に周知技術2を適用した上で、周知技術3を適用することを、当業者が容易になし得たとはいえないし、メタルラスを屈曲させて用いることは、施工手法の整合性に係る上記(イ)の検討に影響するものではないから、申立人の上記主張を考慮しても、上記(イ)の検討と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲3-1発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項2について
ア 対比
本件訂正発明2と、甲3-1発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)甲3-1発明の「四角柱状であり、」「構造耐力上主要な部分である心材(木材)」と、本件訂正発明2の「角部が円弧状の略四角柱状の木質の荷重支持部」とは、「略四角柱状の木質の荷重支持部」である点で共通する。

(イ)甲3-1発明において「燃え止まり層」が「モルタル」からなる点は、本件訂正発明2において示されている「燃止層」の材料に関する選択肢のうち「不燃材料」で構成された態様に相当する。
また、甲3-1発明において、「燃え止まり層」が「四角筒状」である点は、本件訂正発明2の「燃止層」が「四角筒状」である点に相当する。
してみれば、甲3-1発明における「四角筒状であり、」「前記心材の全周面を被覆して」おり「モルタル」で形成された「燃え止まり層」と、本件訂正発明2における「前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された四角筒状の燃止層」とは、「前記荷重支持部の全周面を被覆して設けられ、不燃材料で構成された四角筒状の燃止層」である点で共通する。

(ウ)甲3-1発明が、「木材」からなる「心材」を有する「燃え止まり型部材」である点は、本件訂正発明2が「木質構造部材」である点に相当する。

したがって、本件訂正発明2と甲3-1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「略四角柱状の木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面を被覆して設けられ、不燃材料で構成された四角筒状の燃止層と、
を備える木質構造部材。」

<相違点>
(相違点4)本件訂正発明2の荷重支持部は「角部が円弧状」であるのに対し、甲3-1発明の心材の角部は円弧状ではない点。

(相違点5)本件訂正発明2の燃止層は、荷重支持部の全周面に「密着」して設けられるものであるとともに、「金網」が中に埋設されたものであるのに対し、甲3-1発明の燃え止まり層は、心材に密着したものか否かが特定されておらず、金網が中に埋設されているか否かも特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点4について
建築に関する技術分野において、木製の角材の角部を円弧状に面取りすることは、文献を挙げるまでもなく慣用されている技術である。しかしながら、他の層が密着して設けられる部材の角部を円弧状とすることまでが周知または慣用技術であるとする証拠はない。
そして、本件訂正発明2は、本件特許明細書の段落【0050】に「しかし、荷重支持部210の角部212には、角Rが形成されているので、その分、燃止層220の角部222の厚みがあつくなる。つまり、角Rが形成されていない場合の厚みL2よりも角Rが形成されている場合の厚みL1の方が厚くなる。よって、二方向加熱となる木質柱200の角部202の耐火性能が向上する。」と記載されているように、燃止層を角部が円弧状の略四角柱状の荷重支持部の全周面に密着して設ける構成を具備することによって、角部が円弧状の荷重支持部と、四角筒状の燃止層とにより、燃止層の厚みが角部とそれ以外とにおいて異なることとなり、本件特許明細書に記載された、当業者の予測できない格別の効果を奏するものといえる。
したがって、甲3-1発明の四角柱状の心材に上記慣用技術を適用し、もって本件訂正発明2の相違点4に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことであるとは認められない。この点、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。

(イ)相違点5について
本件特許明細書には、本件訂正発明2に対応する実施形態の製造(施工)方法について、荷重支持部を燃代層の中に隙間をあけて配置して固定し、荷重支持部と燃代層との隙間に流動状の石膏を上から流し込んで充填する方法が記載されている(段落【0021】?【0027】及び【0046】等)。しかしながら、請求項2には、本件訂正発明2がそのような方法によって製造(施工)されたものであることは特定されていない。したがって、本件訂正発明2の技術的範囲は、荷重支持部の全周面に燃止層を形成した後で、当該燃止層を燃代層によって被覆した木質構造部材をも包含したものである。
以上のことを踏まえると、上記(1)イ(イ)における検討と同様のことがいえるから、甲3-1発明に対して、甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3を適用して本件訂正発明2の相違点5に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和3年4月22日付け意見書において、面取りした四角柱状の木質の荷重支持部の外周に耐火材層と燃え代用木質層を設けた木質の耐火被覆構造材であって、耐火材が充填された面取り部の耐火層が厚く形成されている耐火被覆構造材は、甲第8号証に開示されているように周知である旨を主張している(第5頁第20行?第6頁第12行)。
しかしながら、甲8記載技術事項の面取り部に設けた発泡耐火材8は、火災時において発泡耐火材の発泡物が燃え代用板材の目地部の開き部分に押し出されるようにして目地部の開き部分を閉塞するものであり、耐火材料としてモルタルを用いる甲3-1発明と、目地部等の前提構成及び耐火機能の作用機序が大きく異なるものである。そして、このような点が大きく異なる甲3-1発明と甲8記載技術事項とに基いて、本件訂正発明2の相違点4に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たことであるとは認められない。
よって、申立人の上記主張を考慮しても、上記(ア)の検討と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲3-1発明、上記慣用技術並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項3及び4について
本件訂正発明3及び4は、本件訂正発明1又は2を引用し、さらに限定した発明であり、本件訂正発明1及び2については、それぞれ上記(1)及び(2)において検討したとおりである。
そうすると、本件訂正発明3及び4は、甲3-1発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術1ないし3、又は、甲3-1発明、上記慣用技術並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書において主張した特許異議申立理由であって、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、上記第4の1(1)?(5)のうち、以下のものである。

(1)本件特許発明1ないし4は、原出願に記載されていない発明であるので、本件特許出願は出願日の遡及適用を受けることができず、甲第2号証に記載された発明と同一、あるいは、当該発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである、又は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(2)本件特許発明1ないし4は、甲第3号証に記載された発明と同一である。

(3-2)本件特許発明1ないし4は、甲第6号証、甲第8号証に記載された発明、及び、甲第4号証及び甲第5号証に例示する周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(3-3)本件特許発明1ないし4は、甲第7号証、甲第8号証に記載された発明、及び、甲第4号証及び甲第5号証に例示する周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)訂正前の本件特許の請求項1ないし4には、燃代層を欠く、荷重支持部と燃止層の二層構造の木質構造部材が記載されているのに対して、本件特許明細書に記載された木質構造部材は、すべて荷重支持部、燃止層及び燃代層を備えた三層構造であるので、本件特許発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載されておらず、サポート要件違反である。また、本件特許発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載されていないことから、発明として何を意味するのか理解できず、明りょう性を欠いている。

(5)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、そもそも本件発明が何か理解することができず、本件発明の成立が客観的に確認できず、本件発明について耐火試験を追試して作用効果を検証することができないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件違反に該当する。

2 当審の判断
(1)甲第2号証及び甲第1号証に基づく同一性、容易性について(第4の1(1))
ア 申立人は、本願の分割要件について、本件特許発明1ないし4は、荷重支持部と燃止層を備えた二層構造の木質構造部材である一方、原出願の出願当初明細書には、荷重支持部と燃代層と燃止層を備えた三層構造の木質構造部材のみが記載されており、燃代層を有さない木質構造部材を確認することができないから、本件特許発明1ないし4は、原出願に記載されていない発明であるので、本願の出願日は遡及せず、甲第2号証に記載された発明と同一、あるいは、当該発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである、又は、甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであることを主張している(異議申立書第2頁「理由1」、第20?27頁「4-1-3」等)。
しかしながら、本件訂正発明1は、荷重支持部及び燃止層に加え、燃代層を有する構造であるといえる。
また、本件訂正発明2では、荷重支持部と燃止層の二層が特定されているものの、燃代層を発明特定事項としないものであって、燃代層を有する三層構造であることを排除するものではない。また、燃代層を有しない二層構造は、甲第3号証(上記第5の2(1)ア(イ)及び(ウ)を参照)、甲第6号証(上記第5の2(4)ア(イ)の段落【0016】を参照)に例示されるようによく知られたものであること、及び、荷重支持部と燃止層が担う機能は、燃代層を有しないものであっても、燃代層を有するものと異ならないことに鑑みると、原出願の出願当初明細書及び本件特許明細書に接した当業者は、燃代層を有しない木質構造部材であっても、燃止層により荷重支持部へ浸入する火災熱を低減し、木質構造部材の耐火性能を向上させることができることを理解できる。そうすると、本件訂正発明1ないし4は、原出願に記載されたものといえ、本件の出願は分割要件を満たす。
したがって、本願が分割要件を満たさないことを前提とする上記1(1)の主張は、採用することができない。

(2)甲第3号証に基づく同一性について(第4の1(2))
ア 甲3-1発明については、上記第5の3(1)?(3)で検討したとおりであって、本件訂正発明1ないし4と甲3-1発明とは、上記相違点1、2及び3、又は、上記相違点4及び5において相違するから、本件訂正発明1ないし4は甲3-1発明と同一ではない。また、甲3-2発明についても、本件訂正発明1ないし4と甲3-2発明とは、少なくとも本件訂正発明1と甲3-1発明との相違点と同じ相違点において相違するから、本件訂正発明1ないし4は甲3-2発明と同一ではない。

(3)甲第6号証に基づく容易性について(第4の1(3-2))
ア 本件訂正発明1と甲6発明を対比すると、甲6発明の「芯材21」、「表面層23」、「耐火層22」は、それぞれ本件訂正発明1の「荷重支持部」、「燃代層」、「燃止層」に相当するから、本件訂正発明1と甲6発明は、上記第5の3(1)ア(ウ)の相違点3で相違し、その余の点で一致しているといえる。
上記相違点3については、上記第5の3(1)イ(イ)での検討と同様であって、ポリイソシアヌレート原料液を流し込む充填施工である甲6発明において、モルタル材料の塗り施工と密接に関連した周知技術3を適用することは、前提となる施工材料及び施工手法に整合性がなく、当業者が容易になし得たこととはいえない。この点、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲6発明並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2と甲6発明を対比すると、上記第5の3(2)ア(ウ)の相違点4、及び、相違点5のうち燃止層への「金網」の埋設に係る点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
上記相違点4については、上記第5の3(2)イ(ア)及び(ウ)での検討と同様であって、甲6発明と甲8記載技術事項に基いて、本件訂正発明2の相違点4に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、上記相違点5のうち燃止層への「金網」の埋設に係る点については、上記アでの相違点3に係る検討のとおりであって、甲6発明に周知技術3を適用することは、前提となる施工材料及び施工手法に整合性がなく、当業者が容易になし得たこととはいえない。
上記の各検討について、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件訂正発明2は、甲6発明、甲8記載技術事項並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明3及び4は、本件訂正発明1又は2を引用し、さらに限定した発明であるから、上記ア又はイに係る検討と同様、甲6発明並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3、又は、甲6発明、甲8記載技術事項並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲第7号証に基づく容易性について(第4の1(3-3))
ア 本件訂正発明1と甲7発明を対比すると、甲7発明の「構造部12」、「被覆部14」、「絶縁部16」は、それぞれ本件訂正発明1の「荷重支持部」、「燃代層」、「燃止層」に相当するから、本件訂正発明1と甲7発明は、上記第5の3(1)ア(ウ)の相違点1、2及び3で相違し、その余の点で一致しているといえる。
上記相違点1、2及び3については、上記第5の3(1)イ(ア)?(ウ)での検討と同様であって、甲7発明において、充填施工に係る周知技術2を適用したうえで、塗り施工と密接に関連した周知技術3を適用することは、その前提となる施工手法に整合性がなく、相違点2及び3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、甲7発明において、絶縁部16は「構造部12に作用する各種荷重が伝達されない程度の弱接合方式、具体的には、釘打ち、合成樹脂接着剤などで構造部12周囲に固定又は半固定される」ものであり、構造部12に作用する各種荷重が伝達され得る密着態様の接合方式を排除しているものといえるから、甲7発明において、施工対象面に対して密着することが明らかである充填施工に係る周知技術2を適用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、甲7発明において、本件訂正発明1の相違点2及び3に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
上記の各検討について、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲7発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2と甲7発明を対比すると、上記第5の3(2)ア(ウ)の相違点4及び5で相違し、その余の点で一致しているといえる。
上記相違点4については、上記第5の3(2)イ(ア)及び(ウ)での検討と同様であって、甲7発明と甲8記載技術事項に基いて、本件訂正発明2の相違点4に係る構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、上記相違点5については、上記アでの相違点2及び3に係る検討のとおりであって、甲7発明に周知技術2及び周知技術3を適用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
上記の各検討について、甲各号証の記載事項及び周知技術を参酌しても同様であり、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとすることもできない。
したがって、本件訂正発明2は、甲7発明、甲8記載技術事項並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明3及び4は、本件訂正発明1又は2を引用し、さらに限定した発明であるから、上記ア又はイに係る検討と同様、甲7発明並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術1ないし3、又は、甲7発明、甲8記載技術事項並びに甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)サポート要件違反及び明りょう性違反について(第4の1(4))
上記(1)での検討のとおり、本件訂正発明では、荷重支持部と燃止層の二層が特定されているものの、燃代層を発明特定事項としないものであって、燃代層を有する三層構造であることを排除するものではない。また、燃代層を有しない二層構造は、甲第3号証、甲第6号証に例示されるようによく知られたものであること、及び、荷重支持部と燃止層が担う機能は、燃代層を有しないものであっても、燃代層を有するものと異ならないことに鑑みると、原出願の出願当初明細書及び本件特許明細書に接した当業者は、燃代層を有しない木質構造部材であっても、燃止層により荷重支持部へ浸入する火災熱を低減し、木質構造部材の耐火性能を向上させることができることを理解できる。
したがって、本件訂正発明1ないし4は本件特許明細書に記載されているとともに、明確である。

(6)実施可能要件違反について(第4の1(5))
ア 本件訂正発明1、3及び4は、荷重支持部、燃止層及び燃止層の中に埋設される金網に加え、燃代層を有する構造であるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0020】及び【0071】?【0072】等には、本件訂正発明1、3及び4に係る、荷重支持部110、燃代層130、燃止層120及び燃止層120の中に埋設される金網を備える円柱状の木質構造部材の構造が具体的に開示されているとともに、段落【0021】?【0027】等には、当該円柱状の木質構造部材の製造(施工)方法が具体的に開示されている。

イ 本件訂正発明2ないし4は、荷重支持部、燃止層及び燃止層の中に埋設される金網を有する構造であるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】?【0051】及び【0071】?【0072】等には、変形例として、本件訂正発明2ないし4に係る、円弧状の角部212が形成される荷重支持部210、燃代層230及び燃止層220を備える四角柱状の木質構造部材の構造が具体的に開示されている。
また、燃止層220の中に埋設される金網については、上記アの構造及び製造(施工)方法を援用して、当該金網を有する四角柱状の木質構造部材の構造及び製造(施工)方法を実施可能であることは明らかである。
さらに、燃代層230は、最外層として付随する部材であるとともに、上記(1)での検討のとおり、荷重支持部と燃止層が担う機能は、燃代層を有しないものであっても、燃代層を有するものと異ならないことに鑑みると、木質構造部材として、燃代層230を有するもののみならず、燃代層230を有しないものも実施可能であることも明らかである。

ウ 申立人は、本件特許発明の実施可能要件について、各請求項に記載されている荷重支持部と燃止層の二層構造で構成された木質構造部材である発明としての成立を客観的に確認することができないので、当業者が、本件特許発明を意味ある発明として実施することができないことを主張している(異議申立書第3?4頁「理由5」、第37?38頁「4-2(2)ア」等)。
しかしながら、上記アでの検討のとおり、本件訂正発明1、3及び4は、荷重支持部及び燃止層に加え、燃代層を有する三層構造であるといえる。
また、上記イでの検討のとおり、本件訂正発明2ないし4は、燃代層を有しない、荷重支持部及び燃止層の二層構造であっても実施可能であるといえる。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

エ 申立人は、本件特許明細書に記載された、燃代層と荷重支持部と燃止層の三層構造である木質構造部材を用いた耐火試験について、本件特許発明に記載された荷重支持部と金網を埋設した燃止層から構成される二層構造である木質構造部材を対象とした耐火試験を、当業者が追試して作用効果を検証することができないことを主張している(異議申立書第3?4頁「理由5」、第38?40頁「4-2(2)イ」等)。
しかしながら、上記アでの検討のとおり、本件訂正発明1、3及び4は、荷重支持部及び燃止層に加え、燃代層を有する三層構造であるといえる。
また、上記イでの検討のとおり、本件訂正発明2ないし4は、燃代層を有しない、荷重支持部及び燃止層の二層構造であっても実施可能であるといえるし、当該二層構造が実施可能である以上、当該二層構造の耐火試験も可能であることは明らかである。加えて、実施と効果確認は別の工程であるから、当該実施に際して、効果確認にあたる耐火試験の追試可否が影響するとは必ずしもいえない。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

オ 申立人は、本件特許明細書には、燃代層を有する、燃代層と荷重支持部と燃止層の三層構造である木質構造部材が記載されているが、請求項に記載されている荷重支持部と燃止層から構成される二層構造である木質構造部材が記載されていないことを主張している(異議申立書第3?4頁「理由5」、第40?42頁「4-2(2)ウ」等)。
しかしながら、上記アでの検討のとおり、本件訂正発明1、3及び4は、荷重支持部及び燃止層に加え、燃代層を有する三層構造であるといえる。
また、上記イでの検討のとおり、本件訂正発明2ないし4は、燃代層を有しない二層構造であっても実施可能であるといえる。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

カ 上記ア?オの検討を踏まえると、申立人の実施可能要件違反に係る主張はいずれも理由がない。
そして、上記ア及びイのとおり、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の開示に基づき、本件訂正発明に係る木質構造部材を把握し実施することが可能であるといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものである。

第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件訂正発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料を前記荷重支持部の外側に配置された円筒状の燃代層との間に充填されて形成された円筒状の燃止層と、
前記燃止層の中に埋設された円筒状の金網と、
を備える木質構造部材。
【請求項2】
角部が円弧状の略四角柱状の木質の荷重支持部と、
前記荷重支持部の全周面に密着して設けられ、不燃材料又は前記荷重支持部よりも着火温度が高い材料で構成された四角筒状の燃止層と、
前記燃止層の中に埋設された金網と、
を備える木質構造部材。
【請求項3】
前記燃止層は、石膏を材料として構成されている、
請求項1又は請求項2に記載の木質構造部材。
【請求項4】
前記燃止層は、グラウト材を材料として構成されている、
請求項1又は請求項2に記載の木質構造部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-18 
出願番号 特願2018-83785(P2018-83785)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (E04B)
P 1 651・ 537- YAA (E04B)
P 1 651・ 113- YAA (E04B)
P 1 651・ 121- YAA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 美紗子  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 田中 洋行
土屋 真理子
登録日 2020-04-01 
登録番号 特許第6684848号(P6684848)
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 木質構造部材  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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