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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1377058
審判番号 不服2020-13148  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-18 
確定日 2021-08-12 
事件の表示 特願2016-153911「積層光学フィルムの製造方法、及び、積層光学フィルムの製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 58664〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016-153911号(以下「本件出願」という。)は、平成28年8月4日(先の出願に基づく優先権主張 平成27年9月14日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 3月 9日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月18日提出:意見書
令和2年 5月18日提出:手続補正書
令和2年 6月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 9月18日提出:審判請求書
令和2年 9月18日提出:手続補正書


第2 令和2年9月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和2年9月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年5月18日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項9の記載は、次のとおりである。

「 第1の光学フィルムの片面又は両面に硬化性樹脂を介して第2の光学フィルムを重ね合わせて積層体を得る積層手段と、
前記硬化性樹脂を硬化させる第1の硬化手段と、
前記第1の硬化手段から供給される前記積層体の前記硬化性樹脂を更に硬化させる第2の硬化手段と、を備え、
前記第1の光学フィルムは、偏光子であり、
前記第2の光学フィルムは、保護フィルムであり、
前記第1の硬化手段と前記第2の硬化手段との間には、接触型搬送装置を備えない、積層光学フィルムの製造装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項7の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。また、本件補正前の請求項3及び請求項6が削除されたので、本件補正前の請求項9は本件補正後の請求項7に対応することになったものである。

「 第1の光学フィルムの片面又は両面に硬化性樹脂を介して第2の光学フィルムを重ね合わせて積層体を得る積層手段と、
前記硬化性樹脂を硬化させる第1の硬化手段と、
前記第1の硬化手段から供給される前記積層体の前記硬化性樹脂を更に硬化させる第2の硬化手段と、
外周面に前記積層体が密着しながら回転するロールと、を備え、
前記第1の光学フィルムは、偏光子であり、
前記第2の光学フィルムは、保護フィルムであり、
前記第1の硬化手段と前記第2の硬化手段との間には、接触型搬送装置を備えず、
前記第1の硬化手段は、回転する前記ロールの前記外周面に密着した前記積層体に向けて活性エネルギー線を積算光量が60?175mJ/cm^(2)となるように照射して前記硬化性樹脂を硬化させるものである、積層光学フィルムの製造装置。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項9に記載された発明を特定するための必要な事項である「第1の硬化手段」について、本件出願の出願当初の明細書の【0047】及び【0055】等の記載に基づき、[A]「外周面に前記積層体が密着しながら回転するロールと、を備え」ること、及び[B]「前記第1の硬化手段は、回転する前記ロールの前記外周面に密着した前記積層体に向けて活性エネルギー線を積算光量が60?175mJ/cm^(2)となるように照射して前記硬化性樹脂を硬化させるものである」ことを限定することを含むものである。また、本件補正前の請求項9に記載された発明と本件補正後の請求項7に記載される発明の産業上の利用分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0004】及び【0005】)が同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項7に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2009-134190号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものである。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用な偏光板の製造方法に関する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制された偏光板の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、偏光子の片面または両面に保護フィルムを接着剤を介して積層した積層体を正カールとなるように曲げた状態で接着剤を重合硬化させることにより、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明の偏光板の製造方法は、偏光子の片面または両面にそれぞれ保護フィルムを積層接着する偏光板の製造方法であって、前記偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して重ね合わせて積層体を得、ついで、この積層体の長手方向(搬送方向)に沿って円弧状に形成された凸曲面に前記積層体を密着させながら前記接着剤を重合硬化させることを特徴とする。前記凸曲面には、例えば、ロールの外周面を用いることができる。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して重ね合わせた積層体を、この積層体の長手方向(搬送方向)に沿って円弧状に形成された凸曲面に密着させながら活性エネルギー線を照射して接着剤を重合硬化させることにより、偏光板を液晶セルに接着させる際に、接着面に気泡が残って液晶パネルに不良を発生させる原因となる逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を説明する。この実施形態にかかる偏光板は、偏光子およびその両面に接着剤を介して積層した保護フィルムからなる。前記偏光子としては、従来から偏光板の製造に使用されているもの(例えば前記した特許文献1に記載の偏光子)が使用可能であり、一般には一軸延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料による染色を施し、ついでホウ酸処理してなるフィルムが挙げられる。偏光子の厚さは、5?50μm程度が好ましい。
【0013】
前記偏光子の両面に積層される保護フィルムは、同じであってもよく、あるいは異なる種類であってもよい。異なる種類の保護フィルムを使用する場合、保護フィルムの一方としては、非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルムなどの透湿度の低い樹脂フィルムが使用されている。非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムには、例えばドイツのティコナ(Ticona)社製の「トパス」、ジェイエスアール(株)社製の「アートン」、日本ゼオン(株)社製の「ゼオノア(ZEONOR)」や「ゼオネックス(ZEONEX)」、三井化学(株)社製の「アペル」などがある。保護フィルムの他方としては、これらのフィルムのほか、例えばトリアセチルセルロースフィルムやジアセチルセルロースフィルムなどのセルロースアセテート系の樹脂フィルムが使用されている。トリアセチルセルロースフィルムには、例えば富士写真フィルム(株)社製の「フジタックTD80」、「フジタックTD80UF」及び「フジタックTD80UZ」、コニカ(株)社製の「KC8UX2M」及び「KC8UY」などがある。
【0014】
保護フィルムは、偏光子への貼合に先立って、貼合面に、ケン化処理、コロナ処理、プライマ処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。また、保護フィルムの偏光子への貼合面と反対側の表面には、ハードコート層、反射防止層、防眩層などの各種処理層を有していてもよい。保護フィルムの厚みは、通常5?200μm程度の範囲であり、好ましくは10?120μm、さらに好ましくは10?85μmである。
【0015】
接着剤としては、耐候性や屈折率、カチオン重合性などの観点から、例えば特許文献1に記載のような、分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂を接着剤に用いることができるが、これに限定されるものではなく、従来から偏光板の製造に使用されている各種の接着剤が採用可能である。前記したエポキシ樹脂としては、例えば水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが使用されている。エポキシ樹脂成分に重合開始剤、例えば活性エネルギー線照射で重合させるための光カチオン重合開始剤、加熱によって重合させるための熱カチオン重合開始剤、さらに他の添加剤(増感剤など)を添加して塗布用接着剤組成物を調製する。
【0016】
次に図面を参照しながら本発明の偏光板の製造装置および製造方法を説明する。図1は本発明の偏光板の製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【0017】
図1に示す偏光板の製造装置30は、保護フィルム31、32の片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置33、34と、保護フィルム31、32、偏光子35を重ね合わせるためのニップロール36と、前記保護フィルム31、32と偏光子35とが貼合された積層体37を密着させるためのロール38と、該ロール38の外周面と相対する位置に設置された第1の活性エネルギー線照射装置39、40と、さらにこれより搬送方向下流側に設置された第2の活性エネルギー線照射装置41と、搬送用ニップロール42とを搬送方向に沿って順に設けている。
【0018】
すなわち、ロール状に巻回された状態から連続的に繰り出される保護フィルム31、32は、接着剤塗工装置33、34によって片面に接着剤が塗布される。そして、前記保護フィルム31、32と同様にして連続的に繰り出された偏光子35の両面にそれぞれ保護フィルム31、32がニップロール36によって接着剤を介して重ね合わされ積層体37が形成される。この積層体37をロール38の外周面に密着させながら搬送する過程で、第1の活性エネルギー線照射装置39、40からロール38の外周面に向かって活性エネルギー線を照射し、接着剤を重合硬化させる。なお、搬送方向下流側に配置される第2の活性エネルギー線照射装置41は接着剤を完全に重合硬化させるための装置であり、必要に応じて省略することができる。
【0019】
保護フィルム31、32への接着剤の塗工方法は特に限定されないが、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。このうち、薄膜塗工、パスラインの自由度、幅広への対応などを考慮すると、接着剤塗工装置33、34としてはグラビアロールが好ましい。
【0020】
接着剤塗工装置33,34としてグラビアロールを用いて接着剤の塗布を行う場合、接着剤層の厚さはライン速度に対するグラビアロールの速度比であるドロー比によって調整する。保護フィルム31、32のライン速度を15?50m/分とし、グラビアロールを該保護フィルム31、32の搬送方向と逆方向に回転させ、グラビアロールの速度を5?500m/分(ドロー比1?10)とすることで、接着剤層の塗布厚を約1?10μmに調整する。
【0021】
ロール38は、外周面が鏡面仕上げされた凸曲面を構成しており、その表面に積層体37を密着させながら搬送し、その過程で活性エネルギー線照射装置39、40により接着剤を重合硬化させる。接着剤を重合硬化させ、積層体37を充分に密着させる上で、ロール38の直径は特に限定されないが、接着層が未硬化状態の積層体37が、ロール38を通過する間に活性エネルギー線を紫外線の積算光量で30mJ/cm^(2)で照射されるようにすることが好ましい。ロール38は、積層体37のラインの動きに従動または回転駆動させてもよく、あるいは固定させて表面を積層体37が滑るようにしてもよい。また、ロール38は、活性エネルギー線の照射による重合硬化時に積層体37に熱が加わりにくくするために冷却ロールとして作用させてもよい。その場合の冷却ロールの表面温度は、20?25℃が好ましい。
【0022】
活性エネルギー線の照射により重合硬化を行う場合、用いる光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。エポキシ樹脂組成物への光照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって、やはり特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1?100mJ/cm^(2)であることが好ましい。樹脂組成物への光照射強度が0.1mJ/cm^(2)未満であると、反応時間が長くなりすぎ、100mJ/cm^(2)を超えると、ランプから輻射される熱及び組成物の重合時の発熱により、エポキシ樹脂組成物の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。
【0023】
組成物への活性エネルギー線の照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10?5,000mJ/cm^(2)となるように設定されることが好ましい。上記エポキシ樹脂組成物への積算光量が10mJ/cm^(2)未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる保護フィルムの硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5,000mJ/cm^(2)を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0024】
紫外線を活性エネルギー線とするとき、積層体37のライン速度は特に限定されず、長手方向(搬送方向)に100?800Nの張力下、また、少なくとも照射強度を30mJ/cm^(2)以上、照射時間を0.3秒以上の条件下で、積層体37に活性エネルギー線を照射することが好ましい。また、活性エネルギー線装置39、40による活性エネルギー線の照射で積算光量が不十分な場合は、補助的に第2の活性エネルギー線装置41を設け、活性エネルギー線を追加照射させて積層体37の接着剤の重合を完了させてもよい。
【0025】
このようにして得られた偏光板は、従来のように活性エネルギー線装置の下を所定の張力で水平に搬送させる通過させる場合(図3を参照)に比して、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制されているので、液晶セルに貼着する際に、接着面に気泡が残らず、従って液晶パネルの不良発生を低減することができる。
【0026】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
厚さ75μmの非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム「ZEONOR」(日本ゼオン社製)と、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム「KC8UX2MW」(コニカミノルタ社製)とを準備した。非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムおよびトリアセチルセルロースフィルムのそれぞれの片面に接着剤としてエポキシ樹脂組成物「KRX492-30」(ADEKA社製)を接着剤塗工装置であるマイクロチャンバードクター(富士機械社製)を用いて塗工した。積層体のライン速度を11m/分とし、グラビアロールを積層材の搬送方向と逆方向に回転させ、グラビアロールの速度22m/分とすることで、接着剤層の厚さを約2μmとした。
【0028】
次に、厚さ25μmのヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムの両面に前記エポキシ樹脂組成物を介して前記非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムと、前記トリアセチルセルロースフィルムとをニップロールによって重ね合わせた。
【0029】
前記偏光板を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記偏光板のトリアセチルセルロースフィルムが積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させた。その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))であった。紫外線の積算光量は、波長域280?320nmのUVB領域での照射を基に計測された。その後、幅方向が1330mmである積層体を長手方向に600mmで切断したのち、下記の方法にてウェーブカールの度合いを評価した。
【0030】
すなわち、図2(A)に示すように、トリアセチルセルロースフィルムが貼合された面を下にした偏光板50の波数、波長、振幅の値をそれぞれ測定した。波数は偏光板50の幅方向に並ぶ波の山の数であり、図2(B)に示すように波長51は偏光板50の波の山の頂点間の距離を測定した。また同図(A)に示すように振幅52は偏光板50を幅方向に5等分したa?eのそれぞれの箇所における山と谷の頂点の長さを測定し、その半分の値とした。それらの測定結果を表1に示す。
【実施例2】
【0031】
紫外線の積算光量を、143(mJ/cm^(2))とした以外は、実施例1と同様にして偏光板を得た。結果を表1に示す。
【0032】
[比較例1]
ポリビニルアルコール系フィルムの両面に非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムと、トリアセチルセルロースフィルムとが、エポキシ樹脂組成物「KRX492-32」(ADEKA社製)を接着剤として介することで積層された積層体60を、図3に示すように紫外線照射装置61(フュージョン社製)に備えられた紫外線ランプであるLH10-60UV無電極ランプ1灯から照射される紫外線中を600Nの張力下で、ローラに密着させることなく、水平方向にライン速度11m/分で通過させ、重合硬化を行った。その際の紫外線の積算光量は119(mJ/cm^(2))とした。それ以外は、実施例1と同様にして偏光板を得た。結果を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
紫外線の積算光量を、27(mJ/cm^(2))偏光した以外は、比較例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】



【0035】
表1に示すように、比較例1および比較例2の偏光板はいずれもウェーブカールが生じ、比較例2に比べて紫外線の積算光量の多い比較例1の偏光板のほうが強くウェーブカールが生じていた。これに対して、実施例1および実施例2で得た偏光板の波数は0であり、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制されていることがわかる。また、実施例1および実施例2は、得られたフィルムを20cm×30cmの長方形に切り出して、平板上に設置し、四隅の反り状況(カール)を確認したが、全くカールは見られなかった。」

(イ)図1




イ 引用文献1の【0017】及び【0018】には、偏光板の製造装置として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「保護フィルム31、32の片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置33、34と、
保護フィルム31、32、偏光子35を重ね合わせるためのニップロール36と、
前記保護フィルム31、32と偏光子35とが貼合された積層体37を密着させるためのロール38と、
該ロール38の外周面と相対する位置に設置された第1の活性エネルギー線照射装置39、40と、
さらにこれより搬送方向下流側に設置された第2の活性エネルギー線照射装置41と、
搬送用ニップロール42とを搬送方向に沿って順に設けていて、
この積層体37をロール38の外周面に密着させながら搬送する過程で、第1の活性エネルギー線照射装置39、40からロール38の外周面に向かって活性エネルギー線を照射し、接着剤を重合硬化させ、
搬送方向下流側に配置される第2の活性エネルギー線照射装置41は接着剤を完全に重合硬化させるための装置である、
偏光板の製造装置30。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 積層手段
引用発明の「偏光板の製造装置30」は、「保護フィルム31、32の片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置33、34と」、「保護フィルム31、32、偏光子35を重ね合わせるためのニップロール36と」、「前記保護フィルム31、32と偏光子35とが貼合された積層体37を密着させるためのロール38」を具備する。また、引用発明の「偏光板の製造装置30」は、「搬送方向下流側に設置された第2の活性エネルギー線照射装置41」を具備し、「搬送方向下流側に配置される第2の活性エネルギー線照射装置41は接着剤を完全に重合硬化させるための装置である」。
上記の構成からみて、引用発明の「ニップロール36」は、「偏光子35」の両面に硬化性の「接着剤」を介して「保護フィルム31、32」を「重ね合わせ」て「積層体37」を得る手段といえる。また、上記構成からみて引用発明の「偏光子35」はフィルム状のものである。そして、引用発明の「偏光子35」及び「保護フィルム31、32」は、いずれも「偏光板」の部材をなすものであるから、これらは光学フィルムといえる。さらに、引用発明の「接着剤」は、技術的にみて、硬化性の樹脂である。
そうしてみると、引用発明の「ニップロール36」は、本件補正後発明の「積層手段」に相当する。また、引用発明の「ニップロール36」は、本件補正後発明の「積層手段」における、「第1の光学フィルムの片面又は両面に硬化性樹脂を介して第2の光学フィルムを重ね合わせて積層体を得る」という要件を満たす。加えて、引用発明の「偏光子35」及び「保護フィルム31、32」は、それぞれ本件補正後発明の「偏光子であり」及び「保護フィルムであり」という要件を満たす。
(当合議体注:製造装置に関する構成ではないが、引用発明の「偏光子35」、「保護フィルム31、32」及び「接着剤」は、それぞれ本件補正後発明の「第1の光学フィルム」、「第2の光学フィルム」及び「硬化性樹脂」に相当する。)

イ 第1の硬化手段、第2の硬化手段
引用発明の「偏光板の製造装置30」は、「前記保護フィルム31、32と偏光子35とが貼合された積層体37を密着させるためのロール38と」、「該ロール38の外周面と相対する位置に設置された第1の活性エネルギー線照射装置39、40と」、「さらにこれより搬送方向下流側に設置された第2の活性エネルギー線照射装置41」を具備し、「搬送方向下流側に配置される第2の活性エネルギー線照射装置41は接着剤を完全に重合硬化させるための装置である」。
上記の構成及び前記アにおける対比結果からみて、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」は、上記アで述べた「接着剤」を硬化させる手段である。また、引用発明の「第2の活性エネルギー線照射装置41」は、「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」から供給される前記アで述べた「積層体37」の「接着剤」をさらに硬化させる手段である。加えて、引用発明の「ロール38」は、その機能からみて、「ロール38」の外周面に「積層体37」が密着しながら回転するものである(当合議体注:図1からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」、「第2の活性エネルギー線照射装置41」及び「ロール38」は、それぞれ本件補正後発明の「第1の硬化手段」、「第2の硬化手段」及び「ロール」に相当する。また、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」は、本件補正後発明の「第1の硬化手段」における「前記硬化性樹脂を硬化させる」という要件を満たし、引用発明の「第2の活性エネルギー線照射装置41」は本件補正後発明の「第2の硬化手段」にける「前記第1の硬化手段から供給される前記積層体の前記硬化性樹脂を更に硬化させる」という要件を満たす。さらに、引用発明の「ロール38」は、本件補正後発明の「ロール」における「外周面に前記積層体が密着しながら回転するロール」という要件を満たす。加えて、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」と本件補正後発明の「第1の硬化手段」は、「回転する前記ロールの前記外周面に密着した前記積層体に向けて活性エネルギー線を」「照射して前記硬化性樹脂を硬化させるものである」点で共通する。

ウ 積層光学フィルムの製造装置
以上の対比結果を考慮すると、引用発明の「偏光板」及び「偏光板の製造装置30」は、それぞれ本件補正後発明の「積層光学フィルム」及び「積層光学フィルムの製造装置」に相当する。また、引用発明の「偏光板の製造装置30」は、本件補正後発明の「積層光学フィルムの製造装置」における、「積層手段と」、「第1の硬化手段と」、「第2の硬化手段と」、「回転するロールと、を備え」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「 第1の光学フィルムの片面又は両面に硬化性樹脂を介して第2の光学フィルムを重ね合わせて積層体を得る積層手段と、
前記硬化性樹脂を硬化させる第1の硬化手段と、
前記第1の硬化手段から供給される前記積層体の前記硬化性樹脂を更に硬化させる第2の硬化手段と、
外周面に前記積層体が密着しながら回転するロールと、を備え、
前記第1の光学フィルムは、偏光子であり、
前記第2の光学フィルムは、保護フィルムであり、
前記第1の硬化手段は、回転する前記ロールの前記外周面に密着した前記積層体に向けて活性エネルギー線を照射して前記硬化性樹脂を硬化させるものである、積層光学フィルムの製造装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は一応相違する。

(相違点1)
「積層光学フィルムの製造装置」が、本件補正後発明は、「前記第1の硬化手段と前記第2の硬化手段との間には、接触型搬送装置を備えず」という要件を満たすものであるのに対して、引用発明は、接触型搬送装置を備えているかどうかが明らかでない点。
(当合議体注:図1を看取すると、接触型搬送装置を備えているようである。)

(相違点2)
「第1の硬化手段」が、本件補正後発明は、「活性エネルギー線を積算光量が60?175mJ/cm^(2)となるように照射して」いるのに対して、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」の「活性エネルギー線」の積算光量は、明らかでない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。

ア 上記相違点1について
引用文献1の図1において、ロール38と搬送用ニップロール42との間にロールが看取できる。しかしながら、図1において上記ロールには符号が記載されておらず、また、図1に対応する明細書の【0017】及び【0018】にも、上記ロールは何ら言及されていない。そうしてみると、引用文献1において、上記ロールは必須であるとはいえないから、上記ロールを設けるかどうかは、装置レイアウト等との兼ね合いにおいて、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
さらに進んで検討する。ウェブやフィルムを搬送する際に、損傷を防ぐために非接触型のロールを用いることは、周知技術(例えば、特開昭62-167162号公報、実願平3-89073号(実開平5-32353号)のCD-ROM参照。)である。また、引用発明の「偏光板」は、液晶表示装置を構成する光学部品(【0001】)であるから、傷や欠陥等があってはならないものである。そうしてみると、引用文献1において、偏光板の損傷を防ぐために図1の上記ロールを非接触型のロールとすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計変更にすぎない。
以上の点を勘案すると、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」と「第2の活性エネルギー線照射装置41」との間において、ロールを設けない態様とすることや、非接触型のロールを設ける態様とすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 上記相違点2について
引用文献1の【0021】には、「接着剤を重合硬化させ、積層体37を充分に密着させる上で、ロール38の直径は特に限定されないが、接着層が未硬化状態の積層体37が、ロール38を通過する間に活性エネルギー線を紫外線の積算光量で30mJ/cm^(2)で照射されるようにすることが好ましい。」と記載されている。上記記載からは、引用文献1の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」における「活性エネルギー線」の積算光量は、30mJ/cm^(2)であることが好ましいと読み取れる。
しかしながら、上記積算光量は、あくまでも好ましい例であって、30mJ/cm^(2)を超過するものを除外するものではない。むしろ、装置は余裕をもって設計、製造することが一般的であるので、引用文献1の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」の「活性エネルギー線」の積算光量は、30mJ/cm^(2)よりも大きくできるものであると考えるのが自然である。そして、引用文献1の【0023】には、「組成物への活性エネルギー線の照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10?5,000mJ/cm^(2)となるように設定されることが好ましい。」と記載されていて、接着剤の組成に応じて積算光量を制御することが記載されている。
そうしてみると、引用発明の「偏光板の製造装置30」を、装置としてみたときに、相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たすことができるように設計することは、当業者において自然なものといえる(引用文献1の【0029】においても、「前記偏光板を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記偏光板のトリアセチルセルロースフィルムが積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させた。その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))であった。」と記載されている。)。
さらにまた、先の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開2013/051554号の[0114]には、「第1の活性エネルギー線照射工程においては、ロール13を通過する間の紫外線(UVB)の積算光量が10mJ/cm^(2)以上かつ185mJ/cm^(2)以下となるように積層体4に活性エネルギー線が照射される。好ましくは、紫外線(UVB)の積算光量が60mJ/cm^(2)以上かつ175mJ/cm^(2)となる以下となるように活性エネルギー線が照射される。」と記載されている。上記記載からは、第1の活性エネルギー線照射工程において、紫外線(UVB)の積算光量が60?175mJ/cm^(2)となるものが用いられていることが理解できる。
当業者ならば、このような技術をも心得ていると認められるから、引用発明の「第1の活性エネルギー線照射装置39、40」において「活性エネルギー線」の積算光量を60?175mJ/cm^(2)となるようにすることは、当業者にとって何ら格別の困難性はない。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(6)効果について
本件補正後発明に関して、本件明細書の【0022】には、「本発明によれば、打痕系欠陥の発生を抑制することができる積層光学フィルムの製造方法、及び、積層光学系フィルムの製造装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明及び周知技術から予測できる範囲内のものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年9月18日提出の審判請求書において、「引用文献1(及び7)では、第2の硬化工程に相当する工程を行うことは必須ではなく、したがって活性エネルギー線の照射の後に硬化性樹脂の硬化が不十分な状態であることが前提とされていません。このため、引用文献1(及び7)では活性エネルギー線の照射の後に積層体に打痕系欠陥が生じ易い状況となっていることを見出すことは困難であり、それ故、その状況を発生させる「60?175mJ/cm^(2)」との積算量を見出すことも困難であるはずです。」、「非接触型搬送装置が周知であるとはいっても、引用文献1に記載された発明において非接触型搬送装置を適用することを見出すことは容易ではありません。」と主張している。
しかしながら、上記(5)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

(8)小括
したがって、本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明(及び周知技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記「第2 令和2年9月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項9に係る発明(本願発明)は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2009-134190号公報
引用文献2:特開2008-83244号公報
引用文献3:特開昭62-167162号公報
引用文献4:特開2015-16979号公報
引用文献5:特開2001-315142号公報
引用文献6:実願平3-89073号(実開平5-32353号)のCD-ROM
(当合議体注:引用文献1は主引例であり、引用文献2?6は周知技術を示す文献である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る構成を除外したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-05-27 
結審通知日 2021-06-01 
審決日 2021-06-25 
出願番号 特願2016-153911(P2016-153911)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅原 奈津子後藤 慎平  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 積層光学フィルムの製造方法、及び、積層光学フィルムの製造装置  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 三上 敬史  
代理人 福山 尚志  
代理人 阿部 寛  

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