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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1377277
審判番号 不服2020-14829  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-23 
確定日 2021-08-19 
事件の表示 特願2015-202027「半導体受光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日出願公開、特開2017- 76651〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月13日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和元年 6月21日付け:拒絶理由通知書
令和元年 8月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 1月14日付け:拒絶理由通知書
令和2年 3月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 7月13日付け:拒絶査定
令和2年10月23日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、令和2年3月23日に提出された手続補正により補正された請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「基板と、
前記基板上に設けられた半導体細線導波路と
前記基板上に設けられて、前記半導体細線導波路を伝播する光を吸収する受光部とを有し、
前記受光部は、p型の第1半導体層と、前記p型の第1半導体層上に設けられて、i型の第2半導体層の上部にn型の第2半導体層を設けた単一の受光部を形成する複数の第2半導体メサ構造と、前記複数の第2半導体メサ構造の間において前記p型の第1半導体層と接続するp側電極と、前記n型の第2半導体層と接続するn側電極とを有し、
前記第2半導体層の屈折率及び光吸収係数が前記第1半導体層の屈折率及び光吸収係数よりも大きく、
前記n側電極に正バイアス電源を接続し、
前記p側電極に信号線を接続し、
前記半導体細線導波路と前記受光部との間に、前記半導体細線導波路を伝播する光或いは光の強度ピーク位置のいずれかを前記第2半導体メサ構造の数に分岐する光分岐部を有することを特徴とする半導体受光装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2)に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

1.国際公開第2014/147821号
2.特開昭60-134611号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献
(1)引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/147821号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「[0027]
次に、図3及び図4を参照して、本発明の実施例1の波長多重光受信器を説明する。図3は、本発明の実施例1の波長多重光受信器の概念的平面図である。シリコン細線導波路からなる入力導波路21に、入力導波路21から入力した波長多重光を偏波面に応じてTE信号光とTM信号光に分離する偏波スプリッタ22が接続される。この偏波スプリッタ22の出力端にTE信号光とTM信号光が互いに反対回りで伝播するシリコン細線導波路からなるループ状導波路23が接続され、このループ状導波路23に偏波ローテータ24が接続される。なお、偏波スプリッタ22は、シリコン細線導波路からなる方向性結合器型の偏波スプリッタであり、また、偏波ローテータ24は、シリコン細線導波路よりなる偏芯二重コア型の偏波ローテータである。
[0028]
また、ループ状導波路23とアド・ドロップ型リング共振器アレイを構成する互いに異なった光路長のシリコン細線導波路からなる複数のリング導波路25_(1)?25_(4)が光学的に結合される。また、この各リング導波路25_(1)?25_(4)のドロップポート側に2つの出力ポートを有するシリコン細線導波路からなる出力導波路26_(1)?26_(4)を光学的に結合させる。このアド・ドロップ型リング共振器アレイが分波器(DeMUX)となる。」
「[0030]
この2つの出力ポートから伸びる各出力導波路26_(1)?26_(4)に対して、偏波スプリッタ22から第1の受光面及び第2の受光面への光学的距離が等しくなるよう遅延線271?274を挿入してフォトダイオード28_(1)?28_(4)を接続する。
[0031]
図4は、本発明の実施例1の波長多重光受信器に用いるフォトダイオードの概念的構成図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は、図4(a)のA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。図4に示すように、Si基板31上に下部クラッド層を兼ねるSiO_(2)からなるBOX層32を介して厚さが250nmの単結晶Si層を設けたSOI基板を用いる。
[0032]
単結晶Si層を通常のリソグラフィーとエッチングにより光露光プロセスによって図3に示したシリコン細線導波路パターンを形成する。この場合のリソグラフィーは光露光でも電子ビーム露光のいずれでも良く、エッチング法としては、例えば反応性イオンエッチングなどの方法でドライエッチングを用いる。この時、図4(b)に示すようにスラブ部34の高さが50nmになるようにエッチングを行って幅が480nmで高さが200nmの単結晶Siコア層33を形成する。
[0033]
また、フォトダイオード形成領域においては、i型Ge光吸収層35となるノンドープGe層を選択的にエピタキシャル成長させたのち、n型不純物のPを表面にイオン注入してn^(+)型Geコンタクト層36を形成する。一方の単結晶Siコア層33の両脇のスラブ部34にp型不純物であるBをイオン注入してp^(+)型Siコンタクト層37を形成する。
[0034]
次いで、SiO_(2)膜を全面に堆積させて上部クラッド層38を形成したのち、n^(+)型Geコンタクト層36に達するAlからなるn側電極39とp^(+)型Siコンタクト層37に達するAlからなるp側電極40を形成することによりフォトダイオードが完成する。」
「[0036]
次に、図5及び図6を参照して、本発明の実施例2の波長多重光受信器を説明するが、フォトダイオードの構造が異なるだけで、他の構造は上記の実施例1と全く同様であるので、異なった部分のみを説明する。図5は、本発明の実施例2の波長多重光受信器の概念的平面図であり、ここでは、フォトダイオードとして、2つの受光領域が並列に配置されたフォトダイオード29_(1)?29_(4)を用いている。
[0037]
図6は、本発明の実施例2の波長多重光受信器に用いるフォトダイオードの概念的構成図であり、図6(a)は平面図であり、図6(b)は、図6(a)のA-A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。図6に示すように、図4(b)に示したPIN型のフォトダイオードを2つ並列に設けて、その間のスラブ部34にBをイオン注入してp^(+)型Siコンタクト層37を形成したものである。
[0038]
この実施例2の波長多重光受信器においては、同一構造のフォトダイオードを二つ並列し、両方のフォトダイオードから流れる電流の和をとるので、各偏光成分に対するフォトダイオードの特性を独立に最適化できる。また、各フォトダイオードの終端からの洩れ出した光は、出力導波路26_(1)?26_(4)を逆回りして、リング共振器を介してループ状導波路23に侵入することがないので、ノイズの発生を抑制することができる。」
「図5


「図6(a)


「図6(b)


(2)引用文献1に記載された技術的な事項
引用文献1には、実施例2に係る図5の「フォトダイオード29_(1)」を用いた波長多重光受信器について、次の技術的事項が記載されていると認められる。その際、[0036]には、「本発明の実施例2の波長多重光受信器を説明するが、フォトダイオードの構造が異なるだけで、他の構造は上記の実施例1と全く同様であるので、異なった部分のみを説明する。」と記載されていることから、実施例1に係る説明も参照する。

ア 図5は、「実施例2の波長多重光受信器の概念的平面図」([0036])であるところ、この図5より、フォトダイオード29_(1)を用いた波長多重光受信器は、入力導波路21、偏波スプリッタ22、ループ状導波路23、リング導波路25_(1)、出力導波路26_(1)及びフォトダイオード29_(1)がこの順に接続されてなるものであって、入力導波路21から入力した光(λ_(1))を、フォトダイオード29_(1)で受信するものであることが理解できる。
イ フォトダイオード29_(1)を用いた波長多重光受信器は、シリコン細線導波路パターンが形成されたものであるところ、シリコン細線導波路パターンは、SOI基板に設けられた単結晶Si層に対して、光露光プロセスによって形成されたものである([0032])から、SOI基板上に設けられているといえる。
そして、SOI基板は、Si基板31上にSiO_(2)からなるBOX層32を介して単結晶Si層を設けたものである([0031])。
ウ 上記アで認定した入力導波路21、偏光スプリッタ22、ループ状導波路23、リング導波路25_(1)、出力導波路26_(1)は、シリコン細線導波路パターンからなるものである([0027]及び[0028])。
エ 図6は、「実施例2の波長多重光受信器に用いられるフォトダイオードの概念的構成図」([0037])であるから、「フォトダイオード29_(1)」の具体的構成は、図6より次のとおり理解できる。
フォトダイオード29_(1)は、SOI基板に設けられた単結晶Si層より形成されたスラブ部34及び平行な2本の単結晶Siコア層33、2本の単結晶Siコア層33のそれぞれの上に形成されたi型Ge光吸収層35、i型Ge光吸収層35の上面に形成されたn^(+)型Geコンタクト層36、i型Ge光吸収層35が形成された単結晶Siコア層33間のスラブ部34に形成されたp^(+)型Siコンタクト層37(当審注:図6の表記は「27」であるが、[0033]の「一方の単結晶Siコア層33の両脇のスラブ部34にp型不純物であるBをイオン注入してp^(+)型Siコンタクト層37を形成する」の記載を踏まえると、図6に表記された「27」は、「37」の誤記と認められる。)、n^(+)型Geコンタクト層36に接続したn側電極39、p^(+)型Siコンタクト層37に接続したp側電極40より構成されるものである(図6(b)、[0032]?[0034])。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)より、引用文献1には、図5のフォトダイオード29_(1)を用いた波長多重光受信器について、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明>
「入力導波路21、偏波スプリッタ22、ループ状導波路23、リング導波路25_(1)、出力導波路26_(1)及びフォトダイオード29_(1)がこの順に接続されてなるフォトダイオード29_(1)を用いた波長多重光受信器であって、(上記(2)ア)
入力導波路21から入力した光(λ1)を、フォトダイオード29_(1)で受信するものであり、(上記(2)ア)
シリコン細線導波路パターンは、SOI基板上に設けられており、(上記(2)イ)
SOI基板は、Si基板31上にSiO_(2)からなるBOX層32を介して単結晶Si層を設けたものであり、(上記(2)イ)
入力導波路21、偏波スプリッタ22、ループ状導波路23、リング導波路25_(1)、出力導波路26_(1)は、シリコン細線導波路パターンからなるものであって、(上記(2)ウ)
シリコン細線導波路パターンは、SOI基板に設けられた単結晶Si層に対して、光露光プロセスによって形成されたものであって、(上記(2)イ)
偏波スプリッタ22は、光を偏波面に応じてTE信号光とTM信号光に分離し、([0027])
フォトダイオード29_(1)は、
SOI基板に設けられた単結晶Si層より形成されたスラブ部34及び平行な2本の単結晶Siコア層33、
2本の単結晶Siコア層33のそれぞれの上に形成されたi型Ge光吸収層35、
i型Ge光吸収層35の上面に形成されたn^(+)型Geコンタクト層36、
i型Ge光吸収層35が形成された単結晶Siコア層33間のスラブ部34に形成されたp^(+)型Siコンタクト層37、
n^(+)型Geコンタクト層36に接続したn側電極39、
p^(+)型Siコンタクト層37に接続したp側電極40より構成され、(上記(2)エ)
i型Ge光吸収層35は、選択的にエピタキシャル成長させたものであり、([0033])
同一構造のPIN型のフォトダイオードを二つ並列し、両方のフォトダイオードから流れる電流の和をとる、([0037]及び[0038])
波長多重光受信器。」

第5 対比、判断
1 本願発明と引用発明とを、以下に対比する。
(1)引用発明の「Si基板31」は、本願発明の「基板」に相当する。
(2)引用発明の「入力導波路21」は、「シリコン細線導波路パターン」からなり、当該「シリコン細線導波路パターン」は、「Si基板31上にSiO_(2)からなるBOX層32を介して」設けられた「単結晶Si層」を、「光露光プロセスによって」、「シリコン細線導波路パターン」としたものである。
したがって、引用発明の「入力導波路21」は、本願発明の「前記基板上に設けられた半導体細線導波路」に相当するといえる。
(3)引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、「入力導波路21から入力した光(λ1)」を「受信する」ものである。
また、引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、「スラブ部34」及び「単結晶Siコア層33」を含み、「単結晶Siコア層33」上に「i型Ge光吸収層35」を形成したものであるところ、「単結晶Siコア層33」は「Si基板31上に」「設けたものであ」るから、「Si基板31」上に設けられたものといえる。
したがって、引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、本願発明の「受光部」に相当し、「前記基板上に設けられて、前記半導体細線導波路を伝播する光を吸収する」との特定事項を備えるといえる。
(4)引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、「単結晶Si層より形成されたスラブ部34及び平行な2本の単結晶Siコア層33」、「2本の単結晶Siコア層33のそれぞれの上に形成されたi型Ge光吸収層35」及び「i型Ge光吸収層35の上面に形成されたn^(+)型Geコンタクト層36」を備えている。また、当該「フォトダイオード29_(1)」は、「同一構造のPIN型のフォトダイオードを二つ並列し、両方のフォトダイオードから流れる電流の和をとる」ものである。
一方、本願発明の「受光器」は、「p型の第1半導体層と、前記p型の第1半導体層上に設けられて、i型の第2半導体層の上部にn型の第2半導体層を設けた単一の受光部を形成する複数の第2半導体メサ構造」を有している。
ここで、本願発明の「受光部」と引用発明の「フォトダイオード29_(1)」とを対比すると、次のとおりである。
ア 引用発明の「i型Ge光吸収層35」及び「n^(+)型Geコンタクト層36」は、それぞれ本願発明の「i型の第2半導体層」及び「n型の第2半導体層」に相当するといえる。
イ 引用発明の「単結晶Siより形成されたスラブ部34及び平行な2本の単結晶Siコア層33」は、本願発明の「p型の第1半導体層」と、「第1半導体層」である点で、一致するといえる。
ウ 引用発明の「i型Ge光吸収層35」は、「2本の単結晶Siコア層33のそれぞれの上に形成された」層であり、「単結晶Siコア層33」の上に「選択的にエピタキシャル成長させたもの」であるから、その形状は「メサ形状」といえる。
エ 上記ア?ウより、引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、本願発明の「複数の第2半導体メサ構造」を備えるといえ、「同一構造のPIN型のフォトダイオードを二つ並列し、両方のフォトダイオードから流れる電流の和をとる」ものであるから、本願発明の「単一の受光部」といえる。
オ したがって、引用発明の「フォトダイオード29_(1)」は、本願発明の「受光部」と、「第1半導体層と、前記第1半導体層上に設けられて、i型の第2半導体層の上部にn型の第2半導体層を設けた単一の受光部を形成する複数の第2半導体メサ構造」を備える点で、一致するといえる。
(5)引用発明は、「i型Ge光吸収層35の上面に形成されたn^(+)型Geコンタクト層36」、「i型Ge光吸収層35が形成された単結晶Siコア層33間のスラブ部34に形成されたp^(+)型Siコンタクト層37」及び「n^(+)型Geコンタクト層36に接続したn側電極39とp^(+)型Siコンタクト層37に接続したp側電極40」を備えている。
したがって、上記(4)を踏まえると、引用発明は、本願発明の「前記複数の第2半導体メサ構造の間において」「前記第1半導体層と接続するp側電極と、前記n型の第2半導体層と接続するn側電極とを有し」との特定を満たす点で、本願発明と一致するといえる。
(6)引用発明の「i型Ge光吸収層35」及び「単結晶Siコア層33」において、その屈折率及び光吸収係数を比較すると、引用発明の「i型Ge光吸収層35」及び「単結晶Siコア層33」は、本願発明の「前記第2半導体層の屈折率及び光吸収係数が前記第1半導体層の屈折率及び光吸収係数よりも大きく」との特定を満たすといえる。
(7)引用発明の「偏波スプリッタ22」は、「入力導波路21から入力した光を偏波面に応じてTE信号光とTM信号光に分離する」ものであるから、入力光を「二つの光」に分離するものといえる。
そして、分離された「TE信号光」及び「TM信号光」は、「ループ状導波路23」、「リング導波路25_(1)」及び「出力導波路26_(1)」を介して、「フォトダイオード29_(1)」が備える「二つ」の「同一構造」の「フォトダイオード」のそれぞれに入力され、「両方のフォトダイオードから流れる電流の和をとる」ことにより、受信されるものである。
したがって、引用発明の「偏波スプリッタ22」は、本願発明の「前記半導体細線導波路と前記受光部との間に」有する「前記半導体細線導波路を伝播する光或いは光の強度ピーク位置のいずれかを前記第2半導体メサ構造の数に分岐する光分岐部」に相当するといえる。
(8)引用発明の「光受信器」は、「シリコン細線導波路パターンからなる」、「入力導波路21、偏波スプリッタ22、ループ状導波路23、リング導波路25_(1)、出力導波路26_(1)」を有し、「単結晶Siコア層」、「i型Ge光吸収層35」及び「n^(+)型Geコンタクト層」を含む「PIN型のフォトダイオード」を備えているところ、その材料は、半導体であるSi及びGeより構成されている。
したがって、引用発明の「光受信器」は、本願発明の「半導体受光装置」に相当するといえる。
(9)以上より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「基板と、
前記基板上に設けられた半導体細線導波路と
前記基板上に設けられて、前記半導体細線導波路を伝播する光を吸収する受光部とを有し、
前記受光部は、p型の第1半導体層と、前記p型の第1半導体層上に設けられて、i型の第2半導体層の上部にn型の第2半導体層を設けた単一の受光部を形成する複数の第2半導体メサ構造と、前記複数の第2半導体メサ構造の間において前記第1半導体層と接続するp側電極と、前記n型の第2半導体層と接続するn側電極とを有し、
前記第2半導体層の屈折率及び光吸収係数が前記第1半導体層の屈折率及び光吸収係数よりも大きく、
前記半導体細線導波路と前記受光部との間に、前記半導体細線導波路を伝播する光或いは光の強度ピーク位置のいずれかを前記第2半導体メサ構造の数に分岐する光分岐部を有することを特徴とする半導体受光装置。」

<相違点>
・相違点1
「第1半導体層」について、本願発明では、「p型」であるのに対し、引用発明では、そうであるか明記がない点。
・相違点2
「バイアス電源」及び「信号線」の接続について、本願発明では、「n側電極に正バイアス電源を接続し」、「p側電極に信号線を接続し」ているのに対して、引用発明では、不明である点。

2 判断
(1)相違点1について
引用発明において本願発明の「第1半導体層」に相当する構成は、「単結晶Siより形成されたスラブ部34及び平行な2本の単結晶Siコア層33」であり、これが「p型」といえるか否かが問題である。
そこで、この点を検討すると、引用発明の「波長多重光受信器」は、「同一構造のPIN型のフォトダイオードを二つ並列」した構成を備えるものであるところ、技術常識に照らせば、「PIN型フォトダイオード」は、「p型半導体領域」、「i型半導体領域(光吸収領域)」及び「n型半導体領域」より構成されるものである。そして、引用発明における「PIN型フォトダイオード」は「フォトダイオード29_(1)」であるから、「n^(+)型Geコンタクト層36」を「PIN型フォトダイオード」の「n型半導体領域」とみるほかなく、また、光吸収領域として記載があるのは「i型Ge光吸収層35」だけであるから、「単結晶Siコア層33」を「PIN型フォトダイオード」の「p型半導体領域」とみることが自然であり、加えて、引用発明の「p型電極40」が配置された位置からみて、「単結晶Siコア層33」と「p^(+)型Siコンタクト層37」の間の「スラブ部34」も「p型半導体領域」とみることが自然といえる。
これに対し、仮に、「単結晶Siコア層33」が「i型」であるとすれば、当該「単結晶Siコア層33」は、「PIN型フォトダイオード」における「光吸収領域」になると解される。しかしながら、その理解は、「Si」が光吸収をする物質として位置付けられたことをも意味するところ、そのような帰結は、引用発明の「波長多重光受信器」において、「Si」から構成された「シリコン細線導波路パターン」が、光を導波する光導波路とされていることと整合するとは言い難い。
そうすると、引用発明の「単結晶Siコア層33」及び「『単結晶Siコア層33』と『p^(+)型Siコンタクト層37』の間の『スラブ部34』」は、「p型」であり、「p型単結晶Siコア層33」及び「『p型単結晶Siコア層33』と『p^(+)型Siコンタクト層37』の間のp型の『スラブ部34』」、「i型Ge光吸収層35」並びに「n^(+)型Geコンタクト層36」により、「PIN型のフォトダイオード」が構成されるものと解することが自然といえる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、上記相違点1が、実質的な相違点であるとしても、「PIN型フォトダイオード」である「フォトダイオード29_(1)」における「p型半導体層」として、光吸収層として明記された「i型Ge光吸収層35」と「p側電極40」との間の領域を選択することは、i型のSi層に不純物を注入してn型或いはp型領域とすることが例示するまでもなく周知技術であることも踏まえると、当業者であれば容易になし得る事項である。
したがって、上記相違点1が、実質的な相違点であるとしても、当業者が容易になし得たものといえる。

(2)相違点2について
一般に、フォトダイオードは、逆バイアス電圧を印加し、受光した光の強度を信号線より検出する光デバイスである(必要であれば、下記(3)の周知技術文献1を参照のこと)から、引用発明も「バイアス電源」及び「信号線」を備えているもの、と解される。
また、通常、電子デバイスの駆動には「正の電源」が用いられるとの技術常識に照らせば、引用発明の「フォトダイオード29_(1)」にも、「正バイアス電源」を接続して、逆バイアス電圧を印加する構成が、自然である。
そして、「正バイアス電源」が接続されるのは、フォトダイオードのn側電極であるから、フォトダイオードのp側電極より信号を検出するよう構成することもまた、自然な態様といえる。
したがって、引用発明の「n側電極39」に正バイアス電源を接続し、「p側電極40」に信号線を接続して、光を受信することは、当業者が容易になし得た事項といえる。

(3)周知技術を示す文献
・周知技術文献1:特開昭60-134611号公報(原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された文献)
「第1図の光電変換回路は、ホトダイオード10のアノードに負荷抵抗R1を接続した直列回路を、電源の正端子と負端子との間に逆バイアスに接続して構成され、ホトダイオード10と負荷抵抗R1との接続点から信号を取り出すようになされている。」(第2頁左上欄第7行?第12行)
「図1


3 本願発明の効果について
上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書にて、以下のことを主張している。
(1)単結晶Siコア層33がp型層であることはあり得ないこと。
(2)引用文献1には、「前記半導体細線導波路と前記受光部との間に、前記半導体細線導波路を伝播する光或いは光の強度ピーク位置のいずれかを前記第2半導体メサ構造の数に分岐する光分岐部」に相当する構成は具体的には全く開示されていないこと。
しかしながら、下記のとおりであるから、審判請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。
上記(1)に対して、上記2(1)に説示のとおりであって、引用発明は、「PIN型のフォトダイオード」を備えており、「単結晶Siコア層33」上に、「i型Ge光吸収層35」及び「n^(+)型Geコンタクト層36」を形成しているのであるから、当該「単結晶Siコア層33」は、p型であると解することが自然であると共に、単結晶Si層の全域ではなく、フォトダイオード29_(1)を形成する領域(「単結晶Siコア層33」及び「『単結晶Siコア層33』と『p+型Siコンタクト層37』の間の『スラブ部34』」)にアクセプタを注入してp型としているものと解され、そうではないとしてもそのようにすることは、当業者が容易になし得たものである。
上記(2)に対して、上記1(7)のとおり、引用発明の「偏波スプリッタ22」は、本願発明の「光分岐部」に相当するといえる。

5 以上より、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-21 
結審通知日 2021-06-22 
審決日 2021-07-05 
出願番号 特願2015-202027(P2015-202027)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 俊文  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 吉野 三寛
井上 徹
発明の名称 半導体受光装置  
代理人 林 恒徳  
代理人 林 恒徳  
代理人 土井 健二  
代理人 眞鍋 潔  
代理人 土井 健二  
代理人 眞鍋 潔  

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