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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G16H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G16H
管理番号 1377305
審判番号 不服2020-16370  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-28 
確定日 2021-09-13 
事件の表示 特願2019-210076「介入方法優劣比較システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日出願公開、特開2021- 82092、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年11月21日を出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :令和2年 3月 2日(起案日)
手続補正 :令和2年 6月11日
拒絶査定 :令和2年 9月 9日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :令和2年11月28日
手続補正 :令和2年11月28日
拒絶理由通知(当審) :令和3年 4月22日(起案日)
手続補正 :令和3年 6月13日

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献A-Cに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2004-341611号公報
B.特開2019-192065号公報
C.特開2014-164722号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1(明確性)この出願の請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の記載の、
『「対象集団」と「母集団」は、どのように異なるか明らかではなく明確ではない』、
『「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、対象集団が抽出された母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、
「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」、
のそれぞれの記載が、理由2にて指摘するとおり「発明を実施するための形態」のどの記載に対応するか明らかではなく明確ではない』
から、この出願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2(サポート要件)この出願の請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の、
「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、対象集団が抽出された母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、
「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」、
のそれぞれの記載が、「発明を実施するための形態」のどの記載に対応するか明らかではなく、発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできないから、この出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3(進歩性)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.勝田江朗,一色隼人、医療ビッグデータ解析技術による医療革新への貢献、Fujitsu、日本、2017.11.発行、68(6)、68-74頁
2.特開2008-276761号公報

第4 本願発明
本願請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、令和3年6月13日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
医療や介護の記録である電子カルテを用いて治療や介護の介入方法の優劣を統計学的に検討する介入方法優劣比較に際して、
(i) 母集団となる電子カルテから対象集団を抽出する対象集団抽出手段、
(ii)前記抽出された対象集団を、優劣を比較したい介入方法によりグループに分類する介入方法別グループ分類手段、
(iii)前記介入方法別グループ分類ごとに評価を行い、介入方法の優劣を評価する介入方法別グループ分類評価手段、
(iv) 前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段、
(v) 前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段を備えたことを特徴とする介入方法優劣比較システム。
【請求項2】
前記電子カルテの文書作成において、
(i)入力項目タグを作成する入力項目タグ作成手段と、
(ii)前記入力項目タグのリストを管理する入力項目タグリスト管理手段と、
(iii)前記入力項目タグを用いて文書を作成するタグ付き文書作成手段を備え、
(iv)さらに前記入力項目タグリスト管理手段において、当該入力項目タグから前記タグ付き文書へのタグ付き文書参照リストを管理するタグ付き文書参照リスト管理手段を備え、
前記対象集団抽出手段、前記介入方法別グループ分類手段、前記介入方法別グループ分類評価手段において必要な情報に対応する入力項目タグと同一の入力項目タグを有する既存タグ付き文書を検索し、発見された既存タグ付き文書の入力項目タグに記載された最新の内容を参照し、前記対象集団抽出手段、前記介入方法別グループ分類手段、前記介入方法別グループ分類評価手段に提供する入力項目タグ参照手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の介入方法優劣比較システム。

第5 当審が通知した拒絶理由についての検討
1.理由1、理由2について
(ア)「対象集団」と「母集団」との関係について
上記本願発明1の記載によれば、令和3年6月13日になされた補正により、対象集団と母集団との関係は「母集団となる電子カルテから対象集団を抽出する」との記載に改められた。
上記記載によれば、最も上位概念の電子カルテの集合を母集団とし、当該電子カルテの集合から対象集団となる電子カルテの集合を抽出することが明確となった。
当該事項は、
【課題を解決するための手段】の段落【0006】に「前記目的を達成するための手段として、請求項1記載の介入方法優劣比較システムでは、医療や介護の記録である電子カルテを用いて治療や介護等の介入方法の優劣を統計学的に検討する介入方法優劣比較に際して、(i)電子カルテから対象集団を抽出する対象集団抽出手段」の記載が、
【発明を実施するための形態】の段落【0017】に「図3は、介入方法優劣比較の例を示す。母集団の時性として東京在住の田中病院で加療中の患者群とし、この中から疾患名として変形性膝関節症を有する患者を対象集団抽出条件として抽出している。」との記載があり、これらを総合すれば、「対象集団抽出手段」は、電子カルテ(の集合)から対象集団を抽出するものであって、母集団(田中病院で加療中の患者群)から変形性膝関節症を有する患者を対象集団抽出条件として抽出することが開示されているから、発明の詳細な説明に記載されている事項の範囲内のものである。
以上のことから、「対象集団」と「母集団」との関係は明確になったから、この点についての拒絶の理由は解消した。
(イ)介入方法別グループ分類評価記録手段と介入方法別グループ分類評価記録検索手段について
上記拒絶理由は、概略、
「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、対象集団が抽出された母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、
「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」、
のそれぞれの記載が、発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできず、また、明確でもないというものである。
上記拒絶理由に対して、令和3年6月13日になされた補正により、「介入方法別グループ分類評価記録手段」は、「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」の記載に改められ、意見書において、「介入方法別グループ分類評価記録検索手段」は、「介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する」機能を備えることは、【0019】及び図4に記載した事項から明らかであるから、「介入方法別グループ分類評価記録手段」と「介入方法別グループ分類評価記録検索手段」のそれぞれの関係及び機能は明らかであると主張する。
当該補正後の請求項の記載について検討するに、【発明を実施するための形態】の【0019】に「各医療介護機関での種々の対象集団抽出条件、介入方法別グループ分類手段、介入方法別グループ分類評価手段での検討結果を共有サーバーに記録しておく。・・・対象集団抽出条件、介入方法別グループ分類手段、介入方法別グループ分類評価手段などの条件を組み合わせて検討結果群の検索を行い、状況に必要な判断材料を得ることができる。」との記載があり、また、「介入方法別グループ分類評価記録手段で記録された検討結果を、介入方法別グループ分類評価記録検索手段で必要部分を検索、抽出する説明図である」図4を参酌すると、医療介護機関も含めて検索結果が得られることから、検索されるデータには医療介護機関を表す情報も含まれることは明らかであり、上記医療介護機関を表す情報は、【0017】の「母集団の時性として東京在住の田中病院で加療中の患者群」の「田中病院」に対応するから、母集団の特性である。
したがって、「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」は、「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果」と「前記母集団の特性(田中病院など)」とが「介入方法別グループ分類評価記録手段」に記録されることを表しているといえ、上記のとおり発明の詳細な説明及び図面から導かれる事項であることが明確となった。
また、「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」の記載は、先に摘記したとおり、段落【0019】の記載によれば、「各医療介護機関での種々の対象集団抽出条件、介入方法別グループ分類手段、介入方法別グループ分類評価手段での検討結果を共有サーバーに記録してお」き、当該記録から「対象集団抽出条件、介入方法別グループ分類手段、介入方法別グループ分類評価手段などの条件を組み合わせて検討結果群の検索を行」う「検索手段」を特定していることは明らかであるから、発明の詳細な説明の記載に基づく構成であり(サポート要件を満たし)、明確である。
したがって、「介入方法別グループ分類評価記録手段」、「介入方法別グループ分類評価記録検索手段」の構成は、発明の詳細な説明に記載されているものであり、また明確であって、この点についての当審が通知した拒絶の理由は解消した。
(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、当審が通知した、拒絶の理由のうち、理由1、理由2は解消した。

2.理由3について
(ア)引用文献、引用発明等
(a)引用文献1について
令和3年4月22日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(a1)「医療ビッグデータ活用のトレンド
電子カルテシステムの普及に伴い,蓄積された診療情報を活用することで,個別化医療への貢献が期待される。電子カルテシステムは,従来医師が診療の経過を記入していた紙のカルテを電子的なシステムに置き換え,電子情報として編集・管理し,記録する仕組みである。・・・
このように,電子カルテの普及率の増加とゲノム情報の統合化によって,医療分野におけるデータ量は飛躍的に増加したが,大量情報を人手で処理するには限界がある。これらの大量情報を処理し,個別化医療を支援する手段の一つが,医療ビッグデータ解析である。」(69頁右欄2行-最下行)
(a2)「開発した医療ビッグデータ解析技術の機能
富士通は個別化医療の実現に向けて,大量に集積された診療情報などを用いて対象患者の類似症例群を抽出し,病態の進行や治療効果を予測する「医療ビッグデータ解析技術」を開発した。」(70頁右欄1行-5行)
(a3)「● 類似症例検索機能と変数選択機能
類似症例検索機能は,欠損値を含む項目を持つ大量のデータを,メモリ上に置いて高速に解析処理する。」(70頁右欄6行-9行)
(a4)「解析に用いる数千万もの変数の中から,医師が注目するような関連変数を抽出できる変数選択機能を実装している。」(70頁右欄11行-13行)
(a5)「● 知見抽出機能
・・・ここで言う知見とは,類似患者情報を要約したものである。そのため本機能では,知見の根拠として類似患者情報の生データを提示し,信頼性を確保している。また,類似症例群を統計集団として扱うことにより,統計的検定が可能になる。」(70頁右欄24行-29行)
(a6)「● 知見抽出機能の活用例
上述の知見抽出機能には,病態進行予測機能と治療効果予測の機能が実装されている。この二つの機能の活用例として,糖尿病とその合併症である糖尿病性腎症の発症したケースを説明する(図-2)。病態進行予測結果から,この類似症例は類似患者群の発症期間の中央値が2,200日となり,そのほかの患者群と比較すると500日短いという顕著な差が見られた。つまり,この対象患者は確かに不良であると判断される。一方,治療効果予測から,予後不良の類似症例中の患者に代表的な注射剤であるインスリン注射剤とGLP1注射剤を併用した場合では,ほかの治療行為と比較して糖尿病性腎症の発症を強く抑えることが分かる。つまり,この患者は糖尿病性腎症も合併症として併発する可能性が高いが,インスリン注射剤とGLP1注射剤を併用することで,糖尿病性腎症の発症を予防する可能性が高いことが予測される。」(71頁左欄3行-20行)
(a7)「なおこの例では,利用者が医学的知識のみで簡易的に操作し,容易に解析結果を解釈できるインターフェースが実装されていることも付言しておく。その特徴として,類似症例検索画面と病態進行予測画面を図-3と図-4に示す。いずれの画面でも,複雑な数式や処理の理解を含む解析スキルを必要としない,類似患者や解析結果を医学的知識から解釈可能な画面としている。例えば,図-3の類似症例検索画面は,患者間の検査項目値の違いから類似性を判断できるインターフェースとしている。また,図-4の病態進行予測画面は,医薬ガイドラインや症例報告で扱われるログランク検定やKaplan-Meier曲線の統計的検定法を採用し,解析結果を表現している。こうした操作使用や画面表示は,現場の医師から理解しやすく操作しやすいと高い評価をいただいた。」(71頁左欄最下行-右欄15行)

図-2

図-3

図-4

(a8)上記図-2(糖尿病性腎症の発生したケース)から、病態進行予測結果では,対象患者の類似症例群の発症期間は中央値が2,200日であり,そのほかの症例群と比較して,発症期間が500日短いことを示すグラフが表示され,治療効果予測では,類似症例群に対し「GLP1注射」、「インスリン注射」、「GLP1注射とインスリン注射の併用」という異なる治療を行ったグループごとに治療効果を比較可能なグラフが表示されていることがみてとれる。
(a9)上記図-3(類似症例検索画面)では、最上段に患者(蒲田次郎)の富士通病院におけるID(P0000001),氏名,年齢などは表示され、次の段には「疾病分類」として「糖尿病」が表示され,さらに「ユースケース」として「糖尿病性腎症」が選択されており,その隣に「類似症例を検索」のラジオボタンが表示されていることがみてとれる。
また、「総件数:79件」と記載された行には,「類似度」として「70」以上が選択され,「自病院の患者のみ表示する」の左のチェック欄にチェックがなく,「自病院の患者のみ表示する」の右には「更新」のラジオボタンが表示されていることがみてとれる。
さらに,一覧表において,最上段には,各列が示す項目が「施設患者ID」,「類似度(%)」,「氏名」,「登録日」,「eGFR」などのパラメータであることが表記され,一番上に表示されている患者は,「蒲田次郎」本人であり、その下から順に「類似度」が高い患者から,上記項目が表示されていることがみてとれる。なお,登録日よりも右の各種パラメータは、その項目名から,少なくとも腎機能が正常であるか否か等を表すバイタルパラメータであることは、当該技術分野において常識である。
以上のことから見て、図-3から、患者(蒲田次郎)について、疾病やそのユースケースを選択し、「類似症例を検索」のラジオボタンを押下すると上記選択された類似症例の患者が検索され,さらに,「類似度」,「自病院の患者のみ表示する」などの選択を行い「更新」のラジオボタンを押下すると,類似度が高い順に他の患者の情報(当該疾病にかかるバイタルパラメータなど)が一覧で表示されることが記載されているといえる。
以上の記載から、引用文献1には,以下の技術が記載されている。

大量に集積された診療情報などを用いて対象患者の類似症例群を抽出し,病態の進行や治療効果を予測する「医療ビッグデータ解析技術」であって,(a2)
類似症例検索機能は,欠損値を含む項目を持つ大量のデータを,メモリ上に置いて高速に解析処理するものであり,(a3)
解析に用いる数千万もの変数の中から,医師が注目するような関連変数を抽出できる変数選択機能を実装し,(a4)
類似症例群を統計集団として扱うことにより,統計的検定が可能であり,(a5)
知見抽出機能には,病態進行予測機能と治療効果予測機能とが実装されており,(a6)
糖尿病性腎症が発生したケースにおいては,(a6,a8,図-2)
病態進行予測では,対象患者の類似症例群の発症期間は中央値が2,200日であり,そのほかの症例群と比較して,発症期間が500日短いことを示すグラフを表示可能であり,
治療効果予測では,類似症例群に対し「GLP1注射」、「インスリン注射」、「GLP1注射とインスリン注射の併用」という異なる治療を行ったグループごとに治療効果を比較可能なグラフを表示可能であり,
類似症例検索画面においては,(a7,a9,図-3)
ユースケースとして、「糖尿病性腎症」を入力し,
「類似症例を検索」のラジオボタンを押すと,類似症例の患者が検索されるものであって,
「類似度:」の右にある入力枠に数値(70)を入力し,あるいは,「自病院の患者のみ表示する」の左にある枠をチェックした後,「更新」のラジオボタンを押すことで,上記入力及びチェックした条件に合致する患者を検索し,
検索結果として上記条件に合致する類似症例患者を表形式で表示することが可能である,
医療ビッグデータ解析技術。

そして,引用文献1には上記「医療ビッグデータ解析技術」と、当該技術を実現するための機能が記載されているといえるから,引用文献1には、「医療ビッグデータ解析技術」を実現するための「医療ビッグデータ解析システム」及び上記システムの具体的な機能実現手段が記載されているといえる。
以上のことから、引用文献1には、以下の「医療ビッグデータ解析システム」に係る発明(以下、引用発明という。)が記載されている。

(引用発明)
医療ビッグデータ解析システムに関する発明であって、
大量に集積された診療情報などを用いて対象患者の類似症例群を抽出し,病態の進行や治療効果を予測する「医療ビッグデータ解析システム」であって,
類似症例検索手段は,欠損値を含む項目を持つ大量のデータを,メモリ上に置いて高速に解析処理する手段,
解析に用いる数千万もの変数の中から,医師が注目するような関連変数を抽出できる変数選択手段を実装し,
類似症例群を統計集団として扱うことにより,統計的検定手段と,
知見抽出手段には,病態進行予測手段と治療効果予測手段とが実装されており,
糖尿病性腎症が発生したケースにおいては,
病態進行予測では,対象患者の類似症例群の発症期間は中央値が2,200日であり,そのほかの症例群と比較して,発症期間が500日短いことを示すグラフを表示する表示手段と,
治療効果予測では,類似症例群に対し「GLP1注射」、「インスリン注射」、「GLP1注射とインスリン注射の併用」という異なる治療を行ったグループごとに治療効果を比較可能なグラフを表示する表示手段と,
を備え,
類似症例検索画面においては,
ユースケースとして、「糖尿病性腎症」を入力し,
「類似症例を検索」のラジオボタンを押すと,類似症例の患者が検索される手段と,
「類似度:」の右にある入力枠に数値(70)を入力し,あるいは,「自病院の患者のみ表示する」の左にある枠をチェックした後,「更新」のラジオボタンを押すことで,上記入力及びチェックした条件に合致する患者を検索する手段と,
検索結果として上記条件に合致する類似症例患者を、患者名と各患者の状態を表形式で表示することが可能な表示手段を備えた,
医療ビッグデータ解析システム。

(b)引用文献2について
令和3年4月22日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

【0044】
新薬の治験を行う場合、製薬会社は、CRF(Clinical Research Form)という書類を作成し、治験を実施する医療機関へ配布する。医療機関は、特定疾患の患者に治験薬を投与してその経過を観察し、必要な情報をCRFに書き込んで製薬会社へ提供する。図14は、CRFの一例を示す図である。図14に示したCRFは、治験薬を投与された患者に何らかの有害な事象が発生したときに記入されるものであり、有害事象名、発現日、発現時刻、重篤度、重傷度、治験薬投与の状況、処置の有無およびその内容、転帰、事象の消失日および消失時刻、当該事象と治験薬との関連性、および医師のコメント等の情報を記載する欄を含む。

【0048】
このため、本実施形態にかかるデータ収集処理システムでは、製薬会社が、CRFのテンプレートをXMLによって作成し、作成したCRFテンプレートを、XMLファイルとして、治験を実施する医療機関へ渡す。この際、製薬会社から医療機関へのCRFテンプレート(XMLファイル)の受け渡し方法は様々であり、特に限定されない。例えば、フレキシブルディスク(FD)やCD-ROM等の媒体に格納した状態で受け渡しがなされても良い。あるいは、製薬会社から医療機関へ、インターネットや専用回線を介して、電子メールに添付した状態またはファイル転送によって、前記XMLファイルの受け渡しがなされても良い。

以上の記載によれば、引用文献2には、医療データをタグ付きデータとして記録することが開示されている。

(c)引用文献Aについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Aの【0016】-【0079】、【0094】-【0098】、図1、3、17、24、37には、次の事項が記載されている。

統合保険者情報システムにおいて、
医療機関は医療サービスを行い医療データサーバに記憶すること、
介入サービス提供会社は、介入サービスの適用実績を統合データベースサーバへ送ること、
健康管理情報として検診情報、生活習慣情報、健康モニタリング情報を記録すること、
同じクラスタの集団から介入サービスの適用を受けた集団と受けていない集団を抽出して、二つの集団の健康度を比較して、介入サービス適用の有無による効果を評価すること、
同じ介入サービスについて異なるプロトコルがある場合は、プロトコル毎に集団の健康度の変化を比較して、介入プロトコルの効果を評価すること、
過去の実績に基づいて介入サービス毎の評価を適用すること。

(d)引用文献Bについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Bの【0023】-【0047】、図1-9には、次の事項が記載されている。

介護介入効果検証装置において、
個票データ、投薬データ、介入実績データ、属性データ、評価ログデータを管理すること、
複数の対象者を個票データ等の類似度に基づいてグルーピングをすること、
作成したグループを2つのサブグループに分割すること、
検証のための実験及び終了後に評価指標の値を計算すること、
実験が完了すると、介護介入の効果の検証を行うこと、
検証は実験の単位毎の実績リストの評価指標の値に基づいて行われること。

(e)引用文献Cについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Cの【0018】-【0022】には、次の事項が記載されている。

入力されたテキストデータを所定の単位で分割して登録すること。

(イ)対比・判断
(イ-1)本願発明1について
(a)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(A)引用文献1の(a1)の記載によれば、引用発明の医療ビッグデータ解析は、「電子カルテの普及率の増加とゲノム情報の統合化によって,医療分野におけるデータ量は飛躍的に増加したが,大量情報を人手で処理するには限界がある。これらの大量情報を処理し,個別化医療を支援する手段の一つ」としており、電子カルテシステムのデータ解析を前提としているから、電子カルテの情報を利用していることは明らかであり、上記電子カルテの情報を統計処理している。
また、医師は、引用発明の図-2にあるような治療効果予測を参酌して、患者に適した(すなわち、優位な)治療法を選択しているから、引用発明は「治療や介護の介入方法の優劣を統計学的に検討する介入方法優劣比較」に際して実行される点で本願発明1と相違はない。
したがって、引用発明は本願発明1の「医療や介護の記録である電子カルテを用いて治療や介護の介入方法の優劣を統計学的に検討する介入方法優劣比較に際して」の構成を有している。
(B)引用発明における「対象患者の類似症例群を抽出」においては、「類似症例検索手段」を用いて、特定の患者(蒲田次郎)と症例の類似度が所定値(70%)以上の患者を類似症例群として抽出している。上記抽出は、大量の電子カルテの情報を母集団として、当該母集団である電子カルテの情報から対象集団を抽出しているから、「母集団となる電子カルテから対象集団を抽出する対象集団抽出手段」を有している。
(C)引用発明では、上記(B)で得られた類似症例群の中から、「GLP1注射」、「インスリン注射」、「GLP1注射とインスリン注射の併用」という異なる治療を行ったグループを得ているから、「前記抽出された対象集団を、介入方法によりグループに分類する介入方法別グループ分類手段」を有している。
また、医師は、上記グループ毎の治療結果(経過)の表示(図-2)を見て、最適な治療法を決定しているのであるから、これらの介入方法(グループ)は「優劣を比較したい介入方法」であるという点で、本願発明1と相違はない。
したがって、引用発明は「前記抽出された対象集団を、優劣を比較したい介入方法によりグループに分類する介入方法別グループ分類手段」を備えている。
(D)引用発明では、介入方法別グループ分類ごとに、治療実績を可視化しているから、当該治療実績(すなわち評価)を得ているといえ、引用発明は、本願発明1の「前記介入方法別グループ分類ごとに評価を行い、介入方法を評価する介入方法別グループ分類評価手段」を有しているといえる。
もっとも、本願発明1では上記評価が「介入方法の優劣を評価する」ことであるのに対し、引用発明では、介入方法の優劣を評価しているかは不明であり、この点で、本願発明1と引用発明とは相違する。
(E)引用発明では、表示手段にて、類似症例群に対し、「GLP1注射」、「インスリン注射」、「GLP1注射とインスリン注射の併用」という異なる治療を行ったグループごとに治療効果を比較可能なグラフを表示しているものの、当該グループごとの治療効果は、対象患者が異なると、当該対象患者に対応する対象集団を抽出して、新たなグラフを表示するから、当該比較可能なグラフ作成に係るデータを記録しておらず、「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」を有しているということはできない。
(F)引用発明では、上記(E)で検討したとおり「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、対象集団が抽出された母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」を有しておらず、したがって、「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」を有していない。

以上によれば、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
医療や介護の記録である電子カルテを用いて治療や介護の介入方法の優劣を統計学的に検討する介入方法優劣比較に際して、
(i) 母集団となる電子カルテから対象集団を抽出する対象集団抽出手段、
(ii)前記抽出された対象集団を、優劣を比較したい介入方法によりグループに分類する介入方法別グループ分類手段、
(iii) 前記介入方法別グループ分類ごとに評価を行い、介入方法を評価する介入方法別グループ分類評価手段
を備えたことを特徴とする介入方法比較システム。

相違点
(相違点1)
「前記介入方法別グループ分類ごとに評価を行い、介入方法を評価する介入方法別グループ分類評価手段」が、本願発明1では、「前記介入方法別グループ分類ごとに評価を行い、介入方法の優劣を評価する介入方法別グループ分類評価手段」であるのに対し、引用発明では、優劣の評価を行っているか明らかではない点。

(相違点2)
本願発明1は「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」を備えているのに対し、引用発明は当該構成を備えていない点。

(相違点3)
本願発明1は「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」を備えているのに対し、引用発明は当該構成を備えていない点。

(b)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2、3について検討する。

引用発明は、特定の対象患者を検索キーとして類似症例群の患者を検索するものであるから、他の対象患者について、特定の対象患者で得られた類似症例群による分析結果を再利用するということは想定されていない。そして、引用文献2の記載を参酌しても、相違点2、相違点3に相当する構成は開示されておらず、引用発明に、相違点2、相違点3の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。
そして、本願発明1では、上記相違点2、3の構成を有することにより、一度実行した分析結果として、対象集団抽出手段、介入方法別グループ分類手段、介入方法別グループ分類評価手段とによる処理の結果をセットとし、介入方法別グループ分類評価記録手段に記録しておき、前記介入方法別グループ分類評価記録手段に対して検索を行うことで、過去に行われた「対象集団抽出」、「介入方法別グループ分類」、「介入方法別グループ分類評価」を利用し、簡便かつ容易に低コストで対象集団に特化した有効な治療法の選択が可能となる効果を奏するものである。
したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ-2)本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の「 前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定についての判断
令和3年6月13日になされた手続補正による補正後の請求項1、2は、「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」という技術的事項を有するものである。当該「前記介入方法別グループ分類評価手段で得られた、介入方法の優劣の評価結果を、前記母集団の特性とともに記録する介入方法別グループ分類評価記録手段」、「前記介入方法別グループ分類評価記録手段から、医療や介護の現場で適切な介入方法を検索する介入方法別グループ分類評価記録検索手段」は、原査定における引用文献A-Cには記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1、2は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審において通知した拒絶の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する

 
審決日 2021-08-26 
出願番号 特願2019-210076(P2019-210076)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G16H)
P 1 8・ 537- WY (G16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 海江田 章裕緑川 隆  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 上田 智志
渡邊 聡
発明の名称 介入方法優劣比較システム  
代理人 大野 浩司  

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