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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N |
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管理番号 | 1377383 |
審判番号 | 不服2020-8232 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-15 |
確定日 | 2021-09-14 |
事件の表示 | 特願2018-232757「画像形成装置、画像形成方法、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月23日出願公開、特開2019- 80322、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年3月10日に出願した特願2015-47632号の一部を平成30年12月12日に新たな特許出願(特願2018-232757号)としたものであって、平成31年1月9日付けで手続補正がされ、令和元年12月4日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年2月7日付けで手続補正がされ、令和2年3月11日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年6月15日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年3月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1-3,5-7及び9に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、また、本願請求項4及び8に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、それぞれ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2009-065322号公報 2.特開平05-236260号公報 3.特開2008-153742号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正(令和2年6月15日付の手続補正(以下、「本件補正」という。))について、以下に検討する。 1 本件補正の内容 (1)令和2年2月7日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1乃至9は、以下のとおりである。 「【請求項1】 画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置であって、 前記画像データにおける細線部を特定する特定手段と、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部の濃度値を大きくする制御を行い、かつ、前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を行う制御手段と、 を有し、 前記制御手段により大きくされた前記細線部の濃度値は、前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく、前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値は、濃度値が大きくされる前の前記細線部の濃度値よりも小さいことを特徴とする画像処理装置。 【請求項2】 前記制御手段は、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記細線部の濃度値および前記非細線部の濃度値を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。 【請求項3】 前記制御手段によって濃度値が大きくされた前記細線部および前記非細線部に、スクリーン処理を行うスクリーン処理手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至2の何れか1項に記載の画像処理装置。 【請求項4】 前記特定手段は、パターンマッチングによって前記細線部を特定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像処理装置。 【請求項5】 画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置の制御方法であって、前記画像データにおける細線部を特定する特定ステップと、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部の濃度値を大きくする制御を行う第1の制御ステップと、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を行う第2の制御ステップと を有し、 前記第1の制御ステップにおいて大きくされた前記細線部の濃度値は、前記第2の制御ステップにおいて大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく、前記第2の制御ステップにおいて大きくされた前記非細線部の濃度値は濃度値が大きくされる前の前記細線部の濃度値よりも小さいことを特徴とする制御方法。 【請求項6】 前記第1の制御ステップは、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記細線部の濃度値を大きくし、前記第2の制御ステップは、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記非細線部の濃度値を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の制御方法。 【請求項7】 前記第1の制御ステップ及び前記第2の制御ステップによって濃度値が大きくされた前記細線部および前記非細線部に、スクリーン処理を行うスクリーン処理ステップをさらに有することを特徴とする請求項5乃至6の何れか1項に記載の制御方法。 【請求項8】 前記特定ステップは、パターンマッチングによって前記細線部を特定することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の制御方法。 【請求項9】 コンピュータを、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。」 (2)令和2年6月15日提出の手続補正書により補正された後(以下「本件補正後」という。)の特許請求の範囲の請求項1乃至7は、以下のとおりである。(下線は、補正箇所である。) 「【請求項1】 画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置であって、 前記画像データにおける細線部を特定する特定手段と、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部の濃度値を大きくする制御を行い、かつ、前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を行う制御手段と、 前記制御手段によって濃度値が大きくされた前記細線部および前記非細線部に、ドット平坦型のディザマトリクスを用いてスクリーン処理を行い、階調数M(Mは4以上の整数)の画像データに変換するスクリーン処理手段と を有し、 前記制御手段により大きくされた前記細線部の濃度値は、前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく、前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値は、濃度値が大きくされる前の前記細線部の濃度値よりも小さいことを特徴とする画像処理装置。 【請求項2】 前記制御手段は、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記細線部の濃度値および前記非細線部の濃度値を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。 【請求項3】 前記特定手段は、パターンマッチングによって前記細線部を特定することを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。 【請求項4】 画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置の制御方法であって、前記画像データにおける細線部を特定する特定ステップと、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部の濃度値を大きくする制御を行う第1の制御ステップと、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を行う第2の制御ステップと、 前記第1の制御ステップ及び前記第2の制御ステップによって濃度値が大きくされた前記細線部および前記非細線部に、ドット平坦型のディザマトリクスを用いてスクリーン処理を行い、階調数M(Mは4以上の整数)の画像データに変換するスクリーン処理ステップと、 を有し、 前記第1の制御ステップにおいて大きくされた前記細線部の濃度値は、前記第2の制御ステップにおいて大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく、前記第2の制御ステップにおいて大きくされた前記非細線部の濃度値は濃度値が大きくされる前の前記細線部の濃度値よりも小さいことを特徴とする制御方法。 【請求項5】 前記第1の制御ステップは、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記細線部の濃度値を大きくし、前記第2の制御ステップは、前記特定された細線部の濃度値に対応付けられた値に基づいて、前記非細線部の濃度値を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の制御方法。 【請求項6】 前記特定ステップは、パターンマッチングによって前記細線部を特定することを特徴とする請求項4または5に記載の制御方法。 【請求項7】 コンピュータを、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。」 2 補正の適否について 本件補正について、特許法17条の2第3項から第6項までの要件に適合するものか否か検討する。 本件補正後の請求項1に関する補正は、本件補正前の請求項3について、請求項1を引用する形式で記載されていた請求項を引用しない形式で記載した上で、「スクリーン処理手段」で行われる「スクリーン処理」について「ドット平坦型のディザマトリクスを用いて」、「階調数M(Mは4以上の整数)の画像データに変換する」と限定したものである。(この補正による限定を「本件限定」という。) また、本件補正後の請求項4は、方法の発明である補正前の請求項5に、本件限定と同様の限定を付したものである。 そして、本件補正後の請求項2-3及び5-6は、それぞれ本件補正後の請求項1または4を引用する請求項であり、本件補正前の請求項2,4,6及び8に、本件限定と同様の限定を付したものである。 また、プログラムの発明である本件補正後の請求項7は、本件補正後の請求項1乃至3のいずれか1項を引用する請求項であり、本件補正前の請求項9に本件限定と同様の限定を付したものである。 ここで、本件限定が新規事項を追加するものではないかについて検討する。本願明細書の段落【0033】には16階調の画像データに変換するディザマトリクスを用いた画像処理について記載されており、かつ、【0034】には出力する画像データの階調数は2のL乗であり、Lは2以上の整数であることが記載されている。したがって、ディザマトリクスによる画像処理によって出力される画像データの階調数は4以上であることが記載されていると認められる。したがって本件限定に係る事項は明細書に記載された範囲の事項であるから、新規事項を追加するものではない。 そして、本件補正前の請求項1-9に記載された発明と本件補正後の請求項1-7に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 また、これに伴い本件補正前の請求項1及び5が削除されたものである。よって、本件補正は、同条第5項第1号の請求項の削除、または、同項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、下記「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1-7に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 したがって、本件補正は、同条第3項から第6項までの要件に適合するものであるから、適法になされたものである 。 第4 本願発明 本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、令和2年6月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、上記第3の1(2)に記載のとおりの発明である。 なお、本願発明2-7の概要は以下のアからウまでとおりである。 ア 本願発明2-3は、本願発明1を減縮した発明である。 イ 本願発明4-6は、それぞれ、装置の発明である本願発明1-3に対応する方法の発明であり、本願発明1-3とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。 ウ 本願発明7は、装置である本願発明1-3を引用するプログラムの発明であり、本願発明1-3の装置をプログラムと置き換えた発明である。 第5 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付したものである。) 「【0002】 画像出力装置を用いて画像出力(例えば、印刷や表示)する場合、スクリーン処理を施して画像を出力することが行われている。スクリーン処理により画像出力した場合、画像に含まれる図や表の罫線(細線)が途切れたり、画像に含まれる文字のエッジ部分にがたつきが発生したりすることが問題となる。細線の途切れやエッジのがたつきの解決方法として、入力画像データから文字のエッジ部分や細線を検出し、文字のエッジ部分や細線の部分のみスクリーン処理とは異なる処理で印字することが行われている。そのように処理することにより、文字のエッジ部分や細線の再現性を向上させることができる。」 「【0008】 本発明による画像出力装置は、出力対象の画像データの属性を示すタグデータを入力するタグデータ入力手段と、タグデータ入力手段が入力したタグデータに基づいて、出力対象の画像データに含まれる細線を検出する細線検出手段と、細線検出手段による細線検出結果に基づいて、出力対象の画像データに対する細線調整を実行する細線調整手段と、細線調整手段が細線調整した出力対象の画像データを出力する画像出力手段とを備えたことを特徴とする。」 「【0023】 図1に示すように、画像出力装置は、細線検出部10、タグ保存メモリ20、細線調整部30、色変換部40、ガンマ補正部50、スクリーン処理部60、エッジ強調部70及び出力選択部80を含む。」 「【0026】 細線検出部10は、画像データのタグデータを入力し、入力したタグデータをタグ保存メモリ20に保存させる機能を備える。また、細線検出部10は、タグ保存メモリ20が保存するタグデータに基づいて、入力画像中の細線を検出する機能を備える。」 「【0031】 また、細線検出部10は、求めたXORの演算結果に対して所定の重み付けを行う。図3は、細線検出部10がXORの演算結果に対して重み付け処理を行う重み係数Wi(i=1,...,16)の例を示す説明図である。 【0032】 また、細線検出部10は、縦、横及び斜め方向について求めたそれぞれXORの最大値を、その注目画素の計算値COUNTとする演算処理を行う(式(1)参照)。なお、計算値COUNTは、0から6までの値をとるため、3ビットで表現することが可能である。 【0033】 【数1】 【0034】 そして、細線検出部10は、求めた計算値COUNTと予め設定された閾値Cth1との比較処理を行うことによって、注目画素を細線として検出したことを示す細線検出信号THINを生成する演算処理を行う(式(2)参照)。ここで、条件として、注目画素のタグデータは、全て細線検出を行うことが予め選択されたもの(例えば文字のタグデータ)のみであるとする。なお、式(2)を用いてTHIN=1と求めた場合には、注目画素が細線として検出されたことを示す。また、THIN=0と求めた場合には、注目画素が細線として検出されなかったことを示す。」 「【0037】 細線調整部30は、細線検出部10の細線検出結果に基づいて、細線を太くする処理を行う等の細線調整処理を行う機能を備える。例えば、細線調整部30は、注目画素のTHIN値と、COUNT値と、予め設定された閾値Cth2とによって、細線の左右に並ぶ画素の濃度を置き換える処理を行うことによって、細線を太くする調整する処理を行う。又は、例えば、細線調整部30は、注目画素の濃度を置き換える処理を行うことによって、細線を太くする調整する処理を行う。 【0038】 例えば、注目画素の左右の参照画素の濃度をC8、C9とし、注目画素の濃度をPする。また、細線と注目画素の左右の画素の濃度差とによって予め設定された調整値をCTHINとする。この場合、細線調整部30は、以下に示す演算処理を行うことによって、濃度の置き換えを行う(式(3)参照)。なお、調整値CTHINは、0以上1以下の値をとり、0に近づくほど置き換えた注目画素の濃度Pに近くなる。また、調整値CTHINは、1に近づくほど元の周辺画素の濃度C8、C9に近くなる。 【0039】 Ci=P+CTHIN×(Ci-P):(THIN=1かつCOUN+T≦Cth2かつ(P-Ci)≧0のとき) Ci=P-CTHIN×(Ci-P):(THIN=1かつCOUNT≦Cth2かつ(P-Ci)<0のとき) 式(3)」 「【0066】 次いで、スクリーン処理部60は、入力画像データに対してスクリーン処理を行う(ステップS16)。また、スクリーン処理部60は、ガンマ補正部50から入力したタグデータの値に応じて、スクリーン処理を行う際の変換係数を選択する。スクリーン処理を完了すると、スクリーン処理部60は、スクリーン処理された画像データを出力選択部80に送る。」 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「出力対象の画像データに含まれる細線を検出し、 細線検出結果に基づいて出力対象の画像データに対する細線調整を実行する画像出力装置であって、 細線検出部、細線調整部、スクリーン処理部を含み、 細線検出部は、画像データのタグデータに基づいて、入力画像中の細線を検出する機能を備え、 細線調整部は、細線検出部の細線検出結果に基づいて、細線の左右に並ぶ画素の濃度を置き換える処理を行うことによって、細線を太くする調整する処理を行い、 スクリーン処理部は、入力画像データに対してスクリーン処理を行い、 細線調整部は、注目画素の左右の参照画素の濃度をC8、C9とし、注目画素の濃度をPとした場合、以下の式(3)で示す濃度値の置き換えを行うことを特徴とする画像出力装置。 式(3) Ci=P+CTHIN×(Ci-P):(THIN=1かつCOUNT≦Cth2かつ(P-Ci)≧0のとき) Ci=P-CTHIN×(Ci-P):(THIN=1かつCOUNT≦Cth2かつ(P-Ci)<0のとき) ここで、CTHINは、調整値(予め設定された0以上1以下の値)、 THINは、細線検出信号(THIN=1と求めた場合には、注目画素が細線として検出されたことを示す)、 COUNTは、計算値(縦、横及び斜め方向それぞれに求めたXORの最大値) Cth2は、閾値。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付したものである。) 「【0002】 【従来の技術】各種画像処理装置において、写真などの濃淡画像を読み取って得た多値画情報を2値化する場合には、一般に疑似中間処理により値化する。この疑似中間調処理としては、例えば、ディザ法や誤差拡散法などがよく知られている。」 「【0008】本発明は、上記の問題を解決し、網点画像のモアレを無くし、画像を明瞭化することができる画像処理装置を提供することを目的とする。」 「【0056】すなわち、図10は、本実施例で判定する細線画素と補正濃度を算出する演算式の例を示している。同図aは、画素B,X,Gの各濃度が、いずれも他の各画素A,C,D,E,F、Hの各濃度よりも高く、細線が縦方向の場合である。この場合、MTF補正部12は、注目画素Xの濃度を、次式による補正濃度X’に補正する。 X’=3・X-(D+E)」 「【図10】 」 図10において、「a」として斜線で示されている画素B,X,Gが細線として特定された画素であり、細線にあたる画素Xの濃度値Xを補正してX’とする際に、左右の隣接画素の濃度値D,Eを利用して、式「X’=3・X-(D+E)」によって求めることが記載されている。そして、濃度値Xは濃度値D,Eより大きい値であることから、当該式により、補正された濃度値X’はXより大きな値となる。 したがって、上記引用文献2には、「MTF補正部」において「細線部の画素Xの濃度値Xに基づく補正値を用いて、当該細線部Xの濃度値XをXより大きな値X’とする制御」を行うという技術的な事項が記載されていると認められる。 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。 「【0042】 (実施形態1) 本実施形態では、図5(a)および(b)に示す通り、2pixel幅の横方向の注目ラインおよび斜め方向の注目ラインに対し、図5(c)に示す1(横)x4(縦)pixelの検出パターンによるパターンマッチングを注目ラインに対し行って線幅補正する。さらに、1pixelを高輝度化するよう線幅補正に加えて輝度変調を実施する。」 したがって、上記引用文献3には、「2pixel幅の横方向の注目ラインおよび斜め方向の注目ラインに対し、1(横)x4(縦)pixelの検出パターンによるパターンマッチングを注目ラインに対し行って線幅補正する」という技術的な事項が記載されていると認められる。 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における「画像出力装置」は、「出力対象の画像データに含まれる細線を検出」し、「細線検出結果に基づいて出力対象の画像データに対する細線調整を実行」するものであるから、本願発明1における「画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置」に相当する。 イ 引用発明における「細線検出部」は、「画像データのタグデータに基づいて、入力画像中の細線を検出する機能」を備えているから、本願発明1における「前記画像データにおける細線部を特定する特定手段」に相当する。 ウ 引用発明における「細線調整部」は、「細線検出部の細線検出結果に基づいて、細線の左右に並ぶ画素の濃度を置き換える処理を行うことによって、細線を太くする調整する処理」を行う構成を有していることから、「細線調整部」の当該構成は、本願発明1における「制御手段」の「前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御」を行う構成に相当する。 エ 引用発明における「スクリーン処理部」は、「入力画像データに対してスクリーン処理」を行っていることから、本願発明1における「スクリーン処理手段」とは、スクリーン処理を行う手段である点で共通する。 オ 引用発明における「細線調整部」は、「注目画素の左右の参照画素の濃度をC8,C9とし、注目画素の濃度をPとした場合」に「濃度値の置き換え」を行っている。この置き換えは、式(3)として具体的に示されており、調整値CTHINが0以上1以下の値を取るものである(【0038】)ことから、「注目画素の左右の参照画素の濃度」は、自身の値から「注目画素の濃度」までの範囲の何れかの濃度値に置き換えられる構成を備えるものである。ここで、引用発明の濃度値が変更された「参照画素」は、本願発明1の「調整手段」により濃度値を大きくされた「非細線部」の画素に相当するので、引用発明における「細線調整部」の当該構成は、本願発明1における「制御手段」における「前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値は、前記細線部の濃度値よりも小さい」ものとする構成に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。 【一致点】 「画像データにおける細線部に対する画像処理を行う画像処理装置であって、 前記画像データにおける細線部を特定する特定手段と、 前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を行う制御手段と、 スクリーン処理手段と を有し、 前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値は、前記細線部の濃度値よりも小さいことを特徴とする画像処理装置。」 【相違点】 (相違点1)「前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部を挟む2つの非細線部の濃度値を大きくする制御を」行い、「大きくされた前記非細線部の濃度値は、前記細線部の濃度値よりも小さい」ものとする「制御手段」について、 本願発明1は、更に、(A)「前記特定された細線部の濃度値に基づく補正値を用いて、前記細線部の濃度値を大きくする制御」及び(B)「前記制御手段により大きくされた前記細線部の濃度値は、前記制御手段により大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく」する制御を行うのに対し、 引用文献の「細線調整部」は、(A)を行っておらず、また、(B)を行うものとも言えない点。 (相違点2)本願発明1の「スクリーン処理手段」は「前記制御手段によって濃度値が大きくされた前記細線部および前記非細線部に、ドット平坦型のディザマトリクスを用いてスクリーン処理を行い、階調数M(Mは4以上の整数)の画像データに変換する」ものであるのに対し、 引用発明の「スクリーン処理部」はそのような動作を行っているとの特定がない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点1について検討する。 引用文献1の段落【0002】の記載によれば、引用発明は、画像出力装置を用いて画像出力(例えば、印刷や表示)する場合に「スクリーン処理により」「途切れ」が生じる「細線の再現性を向上させる」という課題に対して、細線部を検出して太くする(細線であると判断された注目画素の隣接画素について濃度値を注目画素の値に近づける)処理を行い、細線調整部の後段で行われるスクリーン処理を経ても、最終的に画像処理装置から得られる出力画像によって印刷時の不具合が解消されるという効果が得られるものである。 ここで、引用文献1には、注目画素が細線の隣接画素である場合に濃度値を細線の濃度値に近づける処理について記載がある(【0037】)ものの、注目画素が細線として検出されている場合についても濃度値を変更する(細線であるとして検出された画素の濃度値を強調する)処理については開示されていない。 すなわち、引用発明における細線調整部の処理は、「細線の隣接画素の濃度値を細線の濃度値に近づける」ことによって、後段のスクリーン処理を経た出力においても印刷時の細線に係る不具合を解消するものとして完結するものである。 してみると、引用発明において、細線の隣接画素の濃度値を変更する(細線を太くする)細線調整部に、さらに、細線部自身の濃度値を強調する(細線の濃度値を強調する)引用文献2に記載の処理を追加することについて、動機がない。 また、引用文献2に記載された事項は、多値画情報を2値化する際のディザ処理等についてモアレの発生を抑える事を解決する構成であるのに対し、引用発明は、印刷時のスクリーン処理により細線等の再現性を目的としていることから、引用発明の課題の解決に際して、課題の異なる引用文献2に記載の事項を適用することに動機がない。 したがって、引用発明に、引用文献2に記載の事項を適用する動機はない。 さらに、仮に、引用発明に引用文献2に記載の事項を適用しても、引用文献2には細線部の濃度値を大きくされた非細線部の濃度値と比較してどのような値に設定するかを示唆する記載はなく、本願発明の「大きくされた前記細線部の濃度値は、大きくされた前記非細線部の濃度値よりも大きく」する制御を行う「制御手段」に到るものではない。 そうすると、引用発明及び引用文献2に記載の事項に基づいて、本願発明の上記「制御手段」を想到することは、当業者といえども容易に為し得たものとは認められない。 また、引用文献3に記載の事項を勘案しても同様に容易に為し得たものとは認められない。 イ 上記相違点2について 本願発明1は、上記アにおいて既に当業者が容易に為し得たものと認められないと判断されているから、上記相違点2について判断するまでもなく、当業者が容易に発明できたものではない。 ウ 小括 上記ア,イに記載の通りであるから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。 2.本願発明2-7について 本件補正後の請求項4は、本件補正後の請求項1とカテゴリーが異なるだけであり、上記1(2)アで検討したとおり、上記相違点1は、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではないから、本願発明4についても、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて、その発明の属する技術分野おける通常の知識を有する者が容易に発明できたものではない。 また、本件補正後の請求項2-3及び5-7は、本本補正後の1または4をそれぞれ引用するものであるから、本願発明1または4と同じ理由により、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて、その発明の属する技術分野おける通常の知識を有する者が容易に発明できたものではない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1-7は、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-08-30 |
出願番号 | 特願2018-232757(P2018-232757) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04N)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 野口 俊明 |
特許庁審判長 |
五十嵐 努 |
特許庁審判官 |
木方 庸輔 川崎 優 |
発明の名称 | 画像形成装置、画像形成方法、プログラム |
代理人 | 阿部 琢磨 |
代理人 | 黒岩 創吾 |