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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1377486 |
審判番号 | 不服2020-9158 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-01 |
確定日 | 2021-09-14 |
事件の表示 | 特願2016- 16527「光学積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017-134370、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2016-16527号(以下「本件出願」という。)は、平成28年1月29日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成31年 1月 8日提出:手続補正書 令和 元年11月14日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月15日提出:意見書 令和 2年 3月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 7月 1日提出:審判請求書 令和 2年 7月 1日提出:手続補正書 令和 3年 2月10日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 4月13日提出:意見書 令和 3年 4月13日提出:手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?9に係る発明(令和2年7月1日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1:国際公開第2013/161894号 引用文献2:特開2001-311062号公報 引用文献3:特開2008-143931号公報 引用文献4:特開2013-189657号公報 (当合議体注:引用文献1は主引用例であり、引用文献2?4は副引用例である。この「引用文献1」?「引用文献4」を、以下、それぞれ「引用文献A」?「引用文献D」という。) 第3 当合議体の拒絶理由通知の概要 当合議体が令和3年2月10日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?9に係る発明(令和3年4月13日に提出された手続補正書による補正前のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1:特開2015-212815号公報 引用文献2:国際公開第2015/111572号 引用文献3:特開2012-237965号公報 (当合議体注:引用文献1及び引用文献3は主引用例であり、引用文献2は副引用例である。この「引用文献1」?「引用文献3」を、以下、それぞれ「引用文献1」?「引用文献3」という。) 第4 本願発明 本件出願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、令和3年4月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるところ、本願発明1は、以下のとおりのものである。 「偏光子と、保護層と、応力緩和層と、基材と、ZnO、AlおよびSiO_(2)を含む第1の酸化物層と、SiO_(2)で構成された第2の酸化物層と、をこの順に有し、 該応力緩和層の弾性率が0.01MPa?70GPaであり、かつ、厚みが13μm?200μmであり、 該基材が光学的に等方性である、 光学積層体。」 なお、本願発明2?9は、本願発明1の「光学積層体」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。 第5 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献1(特開2015-212815号公報)について (1)記載事項 当合議体が令和3年2月10日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている引用文献1には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、偏光板ならびに画像表示装置および液晶表示装置に関する。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明者らは、特許文献1および2に記載のように偏光子の表面にハードコート層を配置した場合であっても、偏光板の薄型化に伴い、偏光板表面の鉛筆硬度が不足する場合があることを明らかにした。 そこで、本発明は、薄型化した場合であっても表面の鉛筆硬度に優れた偏光板ならびにそれを用いた画像表示装置および液晶表示装置を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、偏光子とポリマーフィルムとの間に、ポリマーフィルムと所定の関係を満たす弾性率を有する応力緩和層を設けることにより、偏光板全体の厚みを薄くした場合であっても、偏光板表面の鉛筆硬度を良好なものとできることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。 【0008】 [1] ポリマーフィルムと偏光子とを有する偏光板であって、 ポリマーフィルムと偏光子との間に応力緩和層を有し、 ポリマーフィルムおよび応力緩和層の弾性率が、下記式(1)の関係を満たし、 ポリマーフィルムの厚みが10μm以上であり、 偏光板のポリマーフィルム側の表面からポリマーフィルムと応力緩和層との界面までの距離Dsが15μm以上であり、 距離Dsと、ポリマーフィルムの厚みCとの差が15μm未満であり、 ポリマーフィルムおよび応力緩和層の合計の厚みが80μm以下である、偏光板。 0.01<B/A<0.9 ・・・(1) ただし、式(1)中、Aはポリマーフィルムの弾性率を表し、Bは応力緩和層の弾性率を表す。 ・・・省略・・・ 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、薄型化した場合であっても表面の鉛筆硬度に優れた偏光板ならびにそれを用いた画像表示装置および液晶表示装置を提供することができる。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明について詳細に説明する。 以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。 なお、本明細書において、「?」を用いて表される数値範囲は、「?」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。 【0012】 [偏光板] 本発明の偏光板は、ポリマーフィルムと偏光子とを有する偏光板であって、ポリマーフィルムと偏光子との間に応力緩和層を有し、ポリマーフィルムおよび応力緩和層の弾性率が、下記式(1)の関係を満たし、ポリマーフィルムの厚みが10μm以上であり、偏光板のポリマーフィルム側の表面からポリマーフィルムと応力緩和層との界面までの距離Dsが15μm以上であり、距離Dsとポリマーフィルムの厚みCとの差が15μm未満であり、ポリマーフィルムおよび応力緩和層の合計の厚みが80μm以下である偏光板である。 0.01<B/A<0.9 ・・・(1) (式中、Aはポリマーフィルムの弾性率を表し、Bは応力緩和層の弾性率を表す。) 【0013】 本発明においては、偏光子とポリマーフィルムとの間に応力緩和層を設け、ポリマーフィルムおよび応力緩和層の弾性率が上記式(1)の関係を満たすことにより、厚みを薄くした場合であっても、偏光板表面の鉛筆硬度が良好なものとなる。 なお、本発明においては、偏光板の厚みは、90μm以下であるのが好ましく、70μm以下であることが好ましく、65μm以下であることがより好ましい。 【0014】 このように偏光板表面の鉛筆硬度が良好となる理由は、詳細には明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。 まず、厚みが15μm以上のフィルムにかかる応力の集中点は、応力がかかるフィルムの表面ではなく、そのフィルムの内部にあると考えられる。 そして、本発明の偏光板においては、ポリマーフィルムの厚みが10μm以上であり、また、偏光板のポリマーフィルム側の表面からポリマーフィルムと応力緩和層との界面までの距離Dsが15μm以上であり、かつ、距離Dsとポリマーフィルムの厚みCとの差が15μm未満であるため、偏光板の視認側(表示素子とは反対側)の表面に応力が加わった場合は、ポリマーフィルムに応力の集中点が存在すると考えられる。 また、フィルムの表面硬度は、応力がかかる面と反対の面に隣接する層(応力がかかる面を構成している層に隣接する層)の固さの影響を受けると考えられる。 そのため、偏光板の視認側の表面に応力が加わった場合、応力集中点が存在する層(本発明においてはポリマーフィルム)に隣接する層(本発明においては応力緩和層)が、応力集中点が存在する層よりも柔らかいことにより、物理的な歪みが深さ方向に広がり、応力集中による局所歪みを減らすことができたためと考えられる。 【0015】 図1および図2は、本発明の偏光板の実施態様の一例を模式的に示す断面図である。 図1に示す偏光板10は、ポリマーフィルム1と、応力緩和層2と、偏光子3とをこの順に有する。 また、図2に示す偏光板10は、ハードコート層4と、ポリマーフィルム1と、応力緩和層2と、偏光子3とをこの順に有する。 ここで、図1に示す偏光板10は、ハードコート層を有していないため、偏光板10のポリマーフィルム1側の表面からポリマーフィルム1と応力緩和層2との界面までの距離Dsと、ポリマーフィルム1の厚みCとの差が0μmとなり、距離Dsとポリマーフィルム1の厚みとが同じ値となる。 一方、図2に示す偏光板10は、ハードコート層4を有しているため、偏光板10のポリマーフィルム1側の表面、すなわち、ハードコート層4の表面からポリマーフィルム1と応力緩和層2との界面までの距離Dsと、ポリマーフィルム1の厚みCとの差が15μm未満となる。 また、図1および図2に示す偏光板10は、ポリマーフィルム1および応力緩和層2の弾性率が上記式(1)の関係を満たし、ポリマーフィルム1の厚みが10μm以上であり、距離Dsが15μm以上であり、ポリマーフィルム1および応力緩和層2の合計の厚みが80μm以下である。 以下に、本発明の偏光板を構成する各層について詳述する。 【0016】 〔ポリマーフィルム〕 本発明の偏光板が有するポリマーフィルムは、特に限定されず、通常用いるポリマーフィルムを用いることができる。 ・・・省略・・・ 【0019】 <厚み> ポリマーフィルムの厚みは、10μm以上であり、偏光板のポリマーフィルム側の表面からポリマーフィルムと応力緩和層との界面までの距離Dsが15μm以上を満たし、応力緩和層との合計厚みが80μm以下であれば特に限定されないが、更なる薄型化の観点から、20μm?60μmであるのが好ましく、20μm?50μmであるのがより好ましい。 【0020】 <弾性率> ポリマーフィルムの弾性率は、後述する応力緩和層の弾性率との関係が上記式(1)を満たすものであれば特に限定されないが、偏光板表面の鉛筆硬度をより良好なものとし、偏光板の脆性をより良好なものとできる等の理由から、1?6GPaであることが好ましく、2?6GPaであることがより好ましく、3?6GPaであることがさらに好ましい。 ・・・省略・・・ 【0021】 〔応力緩和層〕 本発明の偏光板が有する応力緩和層は、応力緩和層の弾性率が上記式(1)に示す関係を満たすものであれば特に限定されないが、その構成材料としては、例えば、不飽和二重結合を有する化合物を含有する組成物(以下、「応力緩和層用硬化性組成物」とも略す。)から形成されてなる層、環状ポリオレフィン系樹脂含有層などが挙げられる。 ・・・省略・・・ 【0077】 <厚み> 応力緩和層の厚みは、上述したポリマーフィルムとの合計厚みが80μm以下であれば特に限定されないが、偏光板表面の鉛筆硬度がより良好となる理由から1.0μm以上であるのが好ましく、更なる薄型化の観点から15μm以下であるのが好ましく、1.0μm?10μmであるのがより好ましく、1.0μm?5μmであるのが更に好ましい。 ・・・省略・・・ 【0079】 <弾性率> 応力緩和層の弾性率は、上述したポリマーフィルムの弾性率との関係が上記式(1)を満たすものであれば特に限定されないが、偏光板表面の鉛筆硬度をより良好なものとし、偏光板の脆性をより良好なものとできる等の理由から、1?5GPaであることが好ましく、1.5?4.5GPaであることがより好ましい。 なお、応力緩和層の弾性率の測定方法、測定装置および測定条件は、上述したポリマーフィルムにおいて説明した弾性率の測定方法等と同様である。 【0080】 <ポリマーフィルムと応力緩和層の弾性率の関係> 本発明においては、上述した通り、ポリマーフィルムおよび応力緩和層の弾性率が下記式(1)の関係を満たすものであるが、偏光板表面の鉛筆硬度がより良好となる理由から、下記式(1’)の関係を満たすものであるが好ましい。 0.01<B/A<0.9 ・・・(1) 0.6<B/A<0.9 ・・・(1’) ( 式中、Aはポリマーフィルムの弾性率を表し、Bは応力緩和層の弾性率を表す。)」 ウ 「【図1】 」 (2)引用発明 前記(1)ア?ウの記載によると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「ポリマーフィルムと、応力緩和層と、偏光子とをこの順に有する偏光板であって、 前記ポリマーフィルムおよび前記応力緩和層の弾性率が下記式(1)の関係を満たし、 前記ポリマーフィルムの厚みが10μm以上であり、 前記偏光板の前記ポリマーフィルム側の表面から前記ポリマーフィルムと前記応力緩和層との界面までの距離Dsが15μm以上であり、 前記ポリマーフィルムおよび前記応力緩和層の合計の厚みが80μm以下である、偏光板。 0.01<B/A<0.9 ・・・(1) ただし、前記式(1)中、Aは前記ポリマーフィルムの弾性率を表し、Bは前記応力緩和層の弾性率を表す。」 2 引用文献3(特開2012-237965号公報)について 当合議体が令和3年2月10日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献3の【0018】?【0092】及び【図1】の記載からみて、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「画像表示パネルの視認側に粘着剤層を介して前面透明板が貼り合わせられ、前面透明板は、視認側表面から外力が加わった際に、画像表示パネルが破損することを防止するものであり、粘着剤層は、23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaであり、厚みが30μm?300μmである、画像表示装置。」 3 引用文献A(国際公開第2013/161894号)について 原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されている引用文献Aの[0033]?[0111]及び[図1]の記載からみて、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。 「光学異方性を有するフィルム基材(位相差フィルム)と、フィルム基材の一方の面に順に配置された平滑層、無機物を含む第1のバリア層、およびポリシラザンを塗布して形成される塗膜を改質処理して得られる第2のバリア層と、フィルム基材の他方の面に配置された直線偏光板(偏光子)から構成されている、ガスバリア性フィルム。」 第6 対比・判断 1 引用文献1を主引用例とする場合 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1の「偏光子」は、本願発明1の「偏光子」に相当する。 (イ)引用発明1は「ポリマーフィルムと、応力緩和層と、偏光子とをこの順に有する偏光板」であるから、「ポリマーフィルム」は層であるということができる。また、引用発明1は「薄型化した場合であっても表面の鉛筆硬度に優れた偏光板」「を提供することを課題とする」(引用文献1の【0006】)ものであるから、引用発明1の「偏光板」の表面を構成する「ポリマーフィルム」は硬度に優れたものであり、引用発明1の「偏光子」を保護する機能を有するということができる。そうすると、引用発明1の「ポリマーフィルム」は、本願発明1の「保護層」に相当する。 (当合議体注:引用発明1の「ポリマーフィルム」は、「偏光板」の構成要素である。また、本願発明1の「保護層」は、偏光板の構成要素であると認められる(本件出願明細書【0018】?【0030】及び【図1】を参照のこと。)。そうすると、引用発明1の「ポリマーフィルム」は、本願発明1の「保護層」に相当するものであって、本願発明1の(偏光板の構成要素でない)「基材」に相当するものではない。) (ウ)引用発明1の「偏光板」は「ポリマーフィルムと、応力緩和層と、偏光子とをこの順に有する」から、光学的な機能を有する積層体であるということができる。そうすると、引用発明1の「偏光板」は、本願発明1の「光学積層体」に相当する。 (エ)前記(ア)?(ウ)により、引用発明1の「偏光板」は、本願発明1の「偏光子と、保護層と、」「をこの順に有し」という要件を満たしている。 イ 一致点及び相違点 以上により、本件発明1と引用発明1とは、 「偏光子と、保護層と、をこの順に有する、光学積層体。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1-1) 本願発明1は、「保護層と、応力緩和層と、基材と、ZnO、AlおよびSiO_(2)を含む第1の酸化物層と、SiO_(2)で構成された第2の酸化物層と、をこの順に有し、該応力緩和層の弾性率が0.01MPa?70GPaであり、かつ、厚みが13μm?200μmであり、該基材が光学的に等方性である」のに対し、引用発明1は、そのような構成を有していない点。 ウ 判断 相違点1-1について検討する。 偏光板において、偏光子の保護層の偏光子と反対側に、応力緩和層(弾性率が0.01MPa?70GPaで、厚みが13μm?200μm)と、基材(光学的に等方性)と、ZnO、AlおよびSiO_(2)を含む第1の酸化物層と、SiO_(2)で構成された第2の酸化物層と、をこの順に設けるようにする技術的事項は、引用文献2に記載されていない。また、当該技術的事項が公知又は周知であることを示す他の証拠を発見しない。さらに、引用発明1において、当該技術的事項を採用しようとする動機付けも見いだせない。そうすると、引用発明1において相違点1-1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。 エ 小括 したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 (2)本願発明2?9について 本願発明2?9は、本願発明1の構成を全て具備するものであるから、本願発明2?9も、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 2 引用文献3を主引用例とする場合 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明3とを対比すると、本願発明1と引用発明3は、少なくとも以下の点で相違する。 (相違点3-1) 本願発明1は、「基材と、ZnO、AlおよびSiO_(2)を含む第1の酸化物層と、SiO_(2)で構成された第2の酸化物層と、をこの順に有」するのに対し、引用発明3は、そのような構成を有していない点。 イ 判断 引用発明3の「前面透明板」は「視認側表面から外力が加わった際に、画像表示パネルが破損することを防止するもの」であるところ、画像表示パネルが破損するような外力が視認側表面から加わることがあり得る、引用発明3の「前面透明板」の「視認側表面」にバリア層を設けるようにする動機付けはないということができる。そうすると、引用文献2(国際公開第2015/111572号)に記載されたようなガスバリア層が公知であったとしても、引用発明3において相違点3-1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。 ウ 小括 したがって、本願発明1は、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 (2)本願発明2?9について 本願発明2?9は、本願発明1の構成を全て具備するものであるから、本願発明2?9も、本願発明1と同じ理由により、引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 3 引用文献Aを主引用例とする場合 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明Aとを対比すると、本願発明1と引用発明Aは、少なくとも以下の点で相違する。 (相違点A-1) 本願発明1は、「基材が光学的に等方性である」のに対し、引用発明Aは、「フィルム基材(位相差フィルム)」が「光学異方性を有する」点。 イ 判断 引用発明Aにおいて、「フィルム基材(位相差フィルム)」が「光学異方性を有する」ことは、発明に欠くことができない(必須の)構成である(当合議体注:引用文献Aの[請求項1]、[0026]、[0028]、[0032]等の記載からも確認できる事項である。)から、引用発明Aの「フィルム基材(位相差フィルム)」を「光学異方性を有」しないフィルム基材で置き換えようとする動機付けはないということができる。そうすると、引用文献B?引用文献Dに記載された技術的事項が公知であったとしても、引用発明Aにおいて相違点A-1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。 ウ 小括 したがって、本願発明Aは、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?引用文献Dに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 (2)本願発明2?9について 本願発明2?9は、本願発明1の構成を全て具備するものであるから、本願発明2?9も、本願発明1と同じ理由により、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?引用文献Dに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということができない。 第7 原査定の拒絶の理由について 前記「第6」「3」で述べたとおりであり、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。 第8 当合議体が通知した拒絶の理由について 前記「第6」「1」及び「2」で述べたとおりであり、当合議体が令和3年2月10日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は解消した。 第9 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-08-26 |
出願番号 | 特願2016-16527(P2016-16527) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 後藤 大思、沖村 美由 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 早川 貴之 |
発明の名称 | 光学積層体 |
代理人 | 籾井 孝文 |