• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1377527
審判番号 不服2021-770  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-19 
確定日 2021-09-02 
事件の表示 特願2018-116661「半導体チップのピックアップ装置,半導体チップの実装装置および実装方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開,特開2019- 29650〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2018年(平成30年) 6月20日(優先権主張 2017年(平成29年) 7月26日 日本)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 5月30日 :手続補正書の提出
令和 2年 3月12日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 3月30日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年 5月22日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 2年 7月31日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年10月15日付け:令和 2年 7月31日の手続補正についての補正却下の決定,拒絶査定(以下,「原査定」という。)
令和 3年 1月19日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和 3年 1月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和 3年 1月19日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1-6の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。以下,それぞれ,「補正後の請求項1」-「補正後の請求項6」という。)
【請求項1】
粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置であって,
前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構と,
軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた複数の押し上げ体を有し,前記粘着シートにおいて前記ピックアップ機構によってピックアップされる前記半導体チップが位置する部分に,前記半導体チップとは反対側から負圧を作用させ,当該半導体チップが前記ピックアップ機構によってピックアップされるときに,当該半導体チップを前記複数の押し上げ体によって突き上げる突き上げ機構と,
前記突き上げ機構にゲージ圧で-85kPa以下の負圧を安定して供給する負圧源と,
前記負圧源から前記突き上げ機構に供給される負圧の大きさを検出する圧力検出器と,
前記圧力検出器の検出値がゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となるように設定する負圧調整機構と,を備え,
前記複数の押し上げ体は,中央に配置された角柱状の押し上げ体と,この角柱状の押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からなり,
前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分に,前記安定して供給され前記ゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となった負圧を作用させる
ことを特徴とする半導体チップのピックアップ装置。
【請求項2】
前記角筒状の押し上げ体は,複数設けられ,軸心を同じにして多重に配置されてなることを特徴とする請求項1記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項3】
前記角筒状の押し上げ体は,その上端部に周方向に沿って凸部と凹部とが交互に設けられてなることを特徴とする請求項2記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項4】
前記凹部の前記周方向に沿う長さは,前記凸部の前記周方向に沿う長さに対して,0.8倍以上1.2倍以下に設定されることを特徴とする請求項3記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項5】
半導体チップを貼着保持した粘着シートを保持する供給装置と,
基板を載置する基板ステージと,
前記供給装置が保持した前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ装置と,
前記ピックアップ装置によって取り出された前記半導体チップを,前記基板に実装する実装機構と,を備え,
前記ピックアップ装置は,請求項1?4いずれかに記載のピックアップ装置である
ことを特徴とする半導体チップの実装装置。
【請求項6】
粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップし,ピックアップした半導体チップを基板上に実装する半導体チップの実装方法であって,
前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構によって前記半導体チップを前記粘着シートからピックアップするときに,当該半導体チップとは反対側から,前記粘着シートに負圧を作用させるとともに,軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた,中央に配置された角柱状の押し上げ体と,この角柱状の押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からなる複数の押し上げ体を有する突き上げ機構によって当該半導体チップを突き上げるにあたり,
前記突き上げ機構にゲージ圧で-85kPa以下の負圧を安定して供給する負圧源から供給される前記負圧の大きさを,前記負圧源から前記突き上げ機構に供給される負圧の大きさを検出する圧力検出器の検出値がゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となるように負圧調整機構によって設定し,
前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分に,前記安定して供給され前記ゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となった負圧を作用させる
ことを特徴する半導体チップの実装方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1-7の記載は次のとおりである。(以下,それぞれ,「補正前の請求項1」-「補正前の請求項7」という。)
「 【請求項1】
粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置であって,
前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構と,
軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた複数の押し上げ体を有し,前記粘着シートにおいて前記ピックアップ機構によってピックアップされる前記半導体チップが位置する部分に,前記半導体チップとは反対側から負圧を作用させ,当該半導体チップが前記ピックアップ機構によってピックアップされるときに,当該半導体チップを前記複数の押し上げ体によって突き上げる突き上げ機構と,
前記突き上げ機構にゲージ圧で-85kPa以下の負圧を安定して供給する負圧源と,
前記負圧源から前記突き上げ機構に供給される負圧の大きさを検出する圧力検出器と,
前記圧力検出器の検出値がゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となるように設定する負圧調整機構と,を備える,
ことを特徴とする半導体チップのピックアップ装置。
【請求項2】
前記複数の押し上げ体は,中央に配置された角柱状の押し上げ体と,この角柱状の押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体とを有することを特徴とする請求項1記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項3】
前記角筒状の押し上げ体は,複数設けられ,軸心を同じにして多重に配置されてなることを特徴とする請求項2記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項4】
前記角筒状の押し上げ体は,その上端部に周方向に沿って凸部と凹部とが交互に設けられてなることを特徴とする請求項2または3記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項5】
前記凹部の前記周方向に沿う長さは,前記凸部の前記周方向に沿う長さに対して,0.8倍以上1.2倍以下に設定されることを特徴とする請求項4記載の半導体チップのピックアップ装置。
【請求項6】
半導体チップを貼着保持した粘着シートを保持する供給装置と,
基板を載置する基板ステージと,
前記供給装置が保持した前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ装置と,
前記ピックアップ装置によって取り出された前記半導体チップを,前記基板に実装する実装機構と,を備え,
前記ピックアップ装置は,請求項1?5いずれかに記載のピックアップ装置である
ことを特徴とする半導体チップの実装装置。
【請求項7】
粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップし,ピックアップした半導体チップを基板上に実装する半導体チップの実装方法であって,
前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構によって前記半導体チップを前記粘着シートからピックアップするときに,当該半導体チップとは反対側から,前記粘着シートに負圧を作用させるとともに,軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた複数の押し上げ体を有する突き上げ機構によって当該半導体チップを突き上げるにあたり,
前記突き上げ機構にゲージ圧で-85kPa以下の負圧を安定して供給する負圧源から供給される前記負圧の大きさを,前記負圧源から前記突き上げ機構に供給される負圧の大きさを検出する圧力検出器の検出値がゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となるように負圧調整機構によって設定する
ことを特徴する半導体チップの実装方法。」

2 補正の目的
(1)本件補正は,補正前の請求項1,7の発明特定事項である「複数の押し上げ体」について,「前記複数の押し上げ体は,中央に配置された角柱状の押し上げ体と,この角柱状の押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からなり」と限定すると共に,「前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分に,前記安定して供給され前記ゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となった負圧を作用させる」と限定し,補正後の請求項1,6とするものであるから,特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。
そして,補正前の請求項1-7に記載された発明と補正後の請求項1-6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。

3 独立特許要件
(1)以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。

そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

本件補正発明は,上記1(1)に補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用文献
ア 引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明
(ア)原審の拒絶査定の理由である令和 2年 5月22日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2008-66452号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置の製造技術に関し,特に,ダイボンダを用いた半導体チップのピックアップ工程に適用して有効な技術に関するものである。」

「【0051】
図8に示すように,個々のチップ1Cへと分割されたウエハ1Wは,たとえばウエハカセットWCに収容されて本実施の形態1のダイボンダまで搬送されてセットされる。ウエハカセットWCから取り出されたウエハ1Wは,XYテーブルHT上に載置され,XYテーブルHTは,水平方向で動作することによって,吸着コレットを含むボンディングヘッドBHによってピックアップされるチップ1Cが所定の位置に配置されるように調整する。配線基板11は,基板カセットFC1に収容された状態でダイボンダにセットされ,1枚ずつ基板カセットFC1から取り出され,搬送レールTRに沿ってチップ1Cがダイボンディングされる所定位置まで搬送され,チップ1Cのダイボンディングが完了すると基板カセットFC2へ収容される。
【0052】
図10に示すように,ウエハ1Wが載置されたXYステージHTの中央には,駆動機構(図示は省略)によって水平方向および上下方向に移動する吸着駒102が配置されている。ダイシングテープ4は,その裏面が吸着駒102の上面と対向するように保持される。本実施の形態1では,この吸着駒102でダイシングテープ4の裏面を吸着しつつチップ1Cのダイシングテープ4からの剥離を行う。
【0053】
図11は吸着駒102の断面図,図12は吸着駒102の上面近傍の拡大断面図,図13は吸着駒102の上面近傍の拡大斜視図である。
【0054】
吸着駒102の上面の周辺部には,複数の吸引口103と,同心円状に形成された複数の溝104とが設けられている。溝104を設けずに吸引口103を全体に多く配置してもかまわない。吸引口103および溝104のそれぞれの内部は,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させる際,吸引機構(図示は省略)によって-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧される。このとき,ダイシングテープ4の裏面が下方に吸引され,吸着駒102の上面と密着する。
【0055】
なお,ダイシングテープ4を下方に吸引する際,上記溝104の幅や深さが大きいと,剥離の対象となるチップ1Cに隣接するチップ1Cの下方のダイシングテープ4が溝104に吸引された際,隣接するチップ1Cとその下方のダイシングテープ4との界面が溝104の上部領域で剥離することがある。特に,比較的粘着力が弱い粘着剤を使用したダイシングテープ4では,このような剥離が生じ易い。このような現象が発生すると,剥離の対象となるチップ1Cをダイシングテープ4から剥がしている作業中に,隣接するチップ1Cがダイシングテープ4から脱落してしまうことがあるので,好ましくない。そこで,このような現象が発生するのを防ぐには,上記溝104の幅や深さをできるだけ小さくし,隣接するチップ1Cの下方のダイシングテープ4と吸着駒102の上面との間にできるだけ隙間が生じないようにすることが有効である。
【0056】
吸着駒102の中心部には,ダイシングテープ4を上方に突き上げる第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cが組み込まれている。直径が最も大きい第1のブロック110Aの内側に,それよりも径の小さい第2のブロック110Bが配置され,さらにその内側に最も径の小さい第3のブロック110Cが配置されている。後述するように,3個の第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cは,外側の第1のブロック110Aと中間の第2のブロック110Bとの間に介在する第1の圧縮コイルばね111A,中間の第2のブロック110Bと内側の第3のブロック110Cとの間に介在し,上記第1の圧縮コイルばね111Aよりもばね定数の大きい第2の圧縮コイルばね111B,および第3のブロック110Cに連結され,図示しない駆動機構によって上下動するプッシャ112と連動して上下動するようになっている。
【0057】
上記3個の第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cのうち,最も径の大きい外側の第1のブロック110Aは,剥離の対象となるチップ1Cよりも一回り(たとえば0.5mm?3mm程度)径の小さいものを使用するとよい。たとえば,チップ1Cが正方形である場合には,それよりも一回り小さい正方形とすることが望ましい。また,チップ1Cが長方形である場合には,それよりも一回り小さい長方形とすることが望ましい。これにより,第1のブロック110Aの上面の外周となる角部がチップ1Cの外縁よりもわずかに内側に位置するようになるので,チップ1Cとダイシングテープ4とが剥離する際の起点となる箇所(チップ1Cの最外周部)に両者を剥離させる力を集中させることができる。
【0058】
また,第1のブロック110Aの上面は,ダイシングテープ4との接触面積を確保するために,平坦な面または大きな局率半径を有する面にすることが望ましい。第1のブロック110Aの上面とダイシングテープ4との接触面積が小さい場合は,第1のブロック110Aの上面によって下から支えられるチップ1Cの周辺部に大きな曲げ応力が集中するので,チップ1Cの周辺部が割れる虞がある。
【0059】
上記第1のブロック110Aの内側に配置された中間の第2のブロック110Bは,第1のブロック110Aよりも1mm?3mm程度小さい径を有している。また,この第2のブロック110Bよりもさらに内側に配置された最も径の小さい第3のブロック110Cは,中間の第2のブロック110Bよりもさらに1mm?3mm程度小さい径を有している。本実施の形態1では,加工の容易さなどを考慮して,中間の第2のブロック110Bおよび内側の第3のブロック110Cのそれぞれの形状を円柱状にしたが,外側の第1のブロック110Aと同じく四角柱状あるいはそれに近い形状にしてもよい。3個の第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cのそれぞれの上面の高さは,初期状態(第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの非動作時)においては互いに等しく,また吸着駒102の上面周辺部の高さとも等しくなっている。
【0060】
図12に拡大して示すように,吸着駒102の周辺部と外側の第1のブロック110Aとの間,および3個の第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの間には,隙間(S)が設けられている。これらの隙間(S)の内部は,図示しない吸引機構によって減圧されるようになっており,吸着駒102の上面にダイシングテープ4の裏面が接触すると,ダイシングテープ4が下方に吸引され,第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの上面と密着するようになっている。」

「【0075】
上記工程P9を経て良品と判定されたピックアップ対象のチップ1Cは,吸着コレットを含むボンディングヘッドBHによってダイシングテープ4からピックアップされ,配線基板11にダイボンディングされる。
【0076】
吸着コレットを含むボンディングヘッドBHと吸着駒102とによってチップ1Cをダイシングテープ4から剥離するには,まず,図18に示すように,剥離の対象となる1個のチップ1C(同図の中央部に位置するチップ1C)の真下に吸着駒102の中心部(第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C)を移動させると共に,このチップ1Cの上方に吸着コレット105を移動させる。ボンディングヘッドBHに支持された吸着コレット105の底面の中央部には,内部が減圧される吸着口106が設けられており,剥離の対象となる1個のチップ1Cのみを選択的に吸着,保持できるようになっている。
【0077】
次に,図19に示すように,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させると共に,前述した吸引口103,溝104および隙間(S)の内部を減圧する。これにより,剥離の対象となるチップ1Cと接触しているダイシングテープ4が第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの上面に密着する。また,このチップ1Cに隣接する他のチップ1Cと接触しているダイシングテープ4が吸着駒102の上面周辺部に密着する。なお,このとき,吸着駒102を僅かに(たとえば400μm程度)突き上げると,前述した押さえ板7とエキスパンドリング8によって水平方向の張力が加えられているダイシングテープ4に対して,さらに張力を加えることができるので,吸着駒102とダイシングテープ4をより確実に密着させることができる。
【0078】
また,吸着駒102の上昇とほぼ同時に吸着コレット105を下降させ,吸着コレット105の底面を剥離の対象となるチップ1Cの上面に接触させてチップ1Cを80kPa程度の吸着力で吸着すると共に,チップ1Cを下方に軽く押さえ付ける。このように,吸着駒102を使ってダイシングテープ4を下方に吸引する際,吸着コレット105を使ってチップ1Cを上方に吸引すると,第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの突き上げによるダイシングテープ4とチップ1Cの剥離を促進させることができる。
【0079】
次に,図20に示すように,3個の第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cを同時に上方に突き上げてダイシングテープ4の裏面に上向きの荷重を加え,チップ1Cとダイシングテープ4とを押し上げる。また,この際,チップ1Cの裏面を,ダイシングテープ4を介して第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの上面(接触面)で支え,チップ1Cにかかる曲げ応力を軽減するとともに,第1のブロック110Aの上面の外周(角部)を,チップ1Cの外周よりも内側に配置することにより,チップ1Cとダイシングテープ4の剥離起点となっている界面に剥離する応力を集中し,チップ1Cの周縁部をダイシングテープ4から効率的に剥離する。このとき,剥離の対象となるチップ1Cに隣接する他のチップ1Cの下方のダイシングテープ4を下方に吸引し,吸着駒102の上面周辺部に密着させておくことにより,チップ1Cの周縁部におけるダイシングテープ4の剥離を促進させることができる。図21は,このときの吸着駒102の上面近傍を示す拡大斜視図である(チップ1Cとダイシングテープ4の図示は省略)。」

「【0089】
続いて,図29に示すように,第3のブロック110Cを下方に引き下げると共に,吸着コレット105を上方に引き上げることにより,チップ1Cをダイシングテープ4から剥がす作業が完了する。」

「【図8】



「【図10】



「【図11】



「【図12】



「【図13】



「【図19】



「【図20】



「【図29】



(イ)ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。

a 上記段落0056及び図11-13の記載を参照すると,引用文献1の「吸着駒102」は,「ダイシングテープ4」を上方に突き上げる「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」が組み込まれており,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」は,駆動機構によって上下動するプッシャ112と連動して上下動するようになっている。
ここで,上記段落0079,0086,0088及び図20,23,26の記載を参照すると,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」は,互いに上下方向に移動自在であるといえる。
また,図11-13を参照すれば,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」が上下方向において,軸心を同じにして配置されていることは明らかである。
そして,段落0057及び図13の記載から,最も径の大きい外側の「第1のブロック110A」は,正方形や長方形の「角柱」であるものと認められる。

b 上記段落0054,0060及び図11,12の記載を参照すると,引用文献1の「吸着駒102」には,複数の吸引口103と,同心円状に形成された複数の溝104とが設けられている。
また,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」の間には,隙間(S)が設けられており,複数の吸引口103,同心円状に形成された複数の溝104,隙間(S)の内部が,図示しない「吸引機構」によって-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧され,「ダイシングテープ4」の裏面が下方に吸引され,「吸着駒102」の上面と密着することが記載されている。
ここで,複数の吸引口103,同心円状に形成された複数の溝104,隙間(S)の内部が「吸着駒102」の内部であることは明らかであるから,「吸引機構」は「吸着駒102」の内部を減圧するものと認められる。

c 上記段落0075-0079,0089及び図18,19,20,29の記載を参照すると,ピックアップ対象の「チップ1C」が,「吸着コレットを含むボンディングヘッドBH」によって「ダイシングテープ4」からピックアップされる際に,剥離の対象となる1個の「チップ1C」の真下に「吸着駒102」の中心部を移動させ,次に,「吸着駒102」を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させると共に,吸引口103,溝104および隙間(S)の内部を減圧し,剥離の対象となる「チップ1C」と接触している「ダイシングテープ4」を「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」の上面に密着させ,次に,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」を上方に突き上げて「ダイシングテープ4」の裏面に上向きの荷重を加え,「チップ1C」と「ダイシングテープ4」とを押し上げ,続いて,「吸着コレット105」を上方に引き上げることにより,「吸着コレットを含むボンディングヘッドBH」と「吸着駒102」とによって「チップ1C」を「ダイシングテープ4」から剥離することが記載されている。
ここで,引用文献1の図20を参照すると,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」を上方に突き上げ「チップ1C」と「ダイシングテープ4」とを押し上げた際には,「ダイシングテープ4」には「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」によって押し上げられて傾斜した部分が存在するものと認められ,この傾斜した部分も「吸引機構」により減圧されていることは明らかである。

d 上記段落0051-0052,0075及び図8,10の記載を参照すると,引用文献1は,ピックアップ対象の「チップ1C」を,「吸着コレットを含むボンディングヘッドBH」によって「ダイシングテープ4」からピックアップするものであり,また,「吸着駒102」で「ダイシングテープ4」の裏面を吸着しつつ「チップ1C」の「ダイシングテープ4」からの剥離を行うものである。
すると,引用文献1は,「吸着コレットを含むボンディングヘッドBH」,「吸着駒102」及び「吸引機構」とにより,「吸着駒102でダイシングテープ4の裏面を吸着しつつチップ1Cのダイシングテープ4からの剥離を行い,ピックアップ対象のチップ1Cを,吸着コレットを含むボンディングヘッドBHによってダイシングテープ4からピックアップする」,一種の「装置」を構成するものと認められる。

(ウ)以上から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 吸着コレット105を含むボンディングヘッドBH,吸着駒102及び吸引機構により,吸着駒102でダイシングテープ4の裏面を吸着しつつチップ1Cのダイシングテープ4からの剥離を行い,ピックアップ対象のチップ1Cを,吸着コレット105を含むボンディングヘッドBHによってダイシングテープ4からピックアップする装置であって,
吸着駒102は,ダイシングテープ4を上方に突き上げる第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cが組み込まれており,第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cは,駆動機構によって上下動するプッシャ112と連動して上下動するようになっており,
第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cは,互いに上下方向に移動自在であり,
第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cが上下方向において,軸心を同じにして配置されており,
最も径の大きい外側の第1のブロック110Aは,角柱であり,
吸引機構は吸着駒102の内部を-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧し,
ピックアップ対象のチップ1Cが,吸着コレット105を含むボンディングヘッドBHによってダイシングテープ4からピックアップされる際には
剥離の対象となる1個のチップ1Cの真下に吸着駒102の中心部を移動させ,
次に,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させると共に,吸引口103,溝104および隙間(S)の内部を減圧し,剥離の対象となるチップ1Cと接触しているダイシングテープ4を第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの上面に密着させ,
次に,第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cを上方に突き上げてダイシングテープ4の裏面に上向きの荷重を加え,チップ1Cとダイシングテープ4とを押し上げ,
この時,ダイシングテープ4には第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cによって押し上げられて傾斜した部分が存在し,この傾斜した部分は吸引機構により減圧されており,
続いて,吸着コレット105を上方に引き上げることにより,吸着コレット105を含むボンディングヘッドBHと吸着駒102とによってチップ1Cをダイシングテープ4から剥離する,
装置。」

イ 引用文献2に記載されている技術的事項
(ア)原審の拒絶査定の理由である令和 2年 5月22日付けの拒絶理由通知において引用された,国際公開第2013/171869号(以下,「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。

「【発明の詳細な説明】
[0001] 本発明は,粘着シートに貼り付けられた状態のダイを剥離するためのダイ剥離装置に関するものである。」

「[0004] 近年,電子部品の小型化に伴って,ダイは薄型化する傾向にある。このため,ピンを押し上げて,シートからダイを剥離する際に,ダイが割れて破損してしまうおそれがある。
[0005] 本発明は,上記した従来の問題点を解決するためになされたもので,ダイを粘着シートから剥離する際における,ダイの破損を防止することができるダイ剥離装置を提供することを目的とするものである。」

「[0011] 請求項1に係る発明によれば,吸引負圧調整部は,吸引面における吸引負圧を調整する。これにより,破損しやすいダイを粘着シートから剥離する場合には,吸引負圧調整部によって,吸引負圧を小さくすることにより,ダイを粘着シートから剥離する際に,ダイが粘着シートから緩慢に剥離し,剥離時にダイへの過大な応力の作用が防止される。このため,ダイを粘着シートから剥離する際における,ダイの破損が防止される。」

「[0017] (ダイ剥離装置の構成)
以下に,本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態のダイ剥離装置100は,図3に示すダイ集合体500を1ずつ剥離するものである。ダイ集合体500は,図3に示すように,樹脂等で構成された枠体501と,枠体の内周側に取り付けられ上面に粘着層が形成された粘着シート502と,粘着シート502上に貼り付けられた複数の半導体素子であるダイ503とから構成されている。
[0018] 本実施形態のダイ剥離装置100は,図1,図2に示すように,主に,基台10,保持テーブル20,押し上げ部30,X方向移動装置40,Y方向移動装置50,負圧源60,制御部70とから構成されている。なお,図1において,左右方向をX方向とし,上下方向をY方向とし,図2において,左右方向をX方向とし,上下方向をZ方向とし,以下説明する。」

「[0021] 押し上げ部30は,保持テーブル20で保持されているダイ集合体500の下面を,吸着しつつ,押し上げて,ダイ503の1つを粘着シート502から剥離するものである。押し上げ部30は,主に,本体31,吸引ノズル32,ピン33,ピン保持部材34,押し上げ装置35,回動装置36,ブラケット38とから構成されている。
[0022] 本体31は,筒状であり,保持テーブル20の下方に配設されている。吸引ノズル32は,本体31の上端に,着脱可能に取り付けられていて,上部に底部を有する有底筒状である。吸引ノズル32の上面は,吸引面32aとなっている。図4に示すように,吸引面32aには,環状及び放射状の複数の溝32bが凹陥形成されている。そして,吸引面32aの溝32bの底部には,吸引ノズル32の内部に連通する流通穴32cが複数形成されている。また,吸引面32aの溝32bの底部には,吸引ノズル32の内部に連通する挿通穴32dが複数形成されている。
[0023] 吸引ノズル32の内部には,ピン保持部材34が上下方向に移動可能に配設されている。ピン保持部材34の上部には,複数のピン33が取り付けられ,当該複数のピン33がそれぞれ,吸引ノズル32の挿通穴32dに挿通している。このような構造により,ピン33は,吸引面32aから上方に突出可能に吸引ノズル32に装着されている。
[0024] 吸引ノズル32又は本体31の内部は,調圧弁80を介して負圧源60に接続されている。負圧源60は,真空ポンプ等で構成され,吸引ノズル32又は本体31の内部を吸引することにより,吸引面32aにおいて吸引負圧を発生させる。調圧弁80は,吸引面32aにおける吸引負圧を調整するものであり,本実施形態では,電磁弁である。
[0025] 吸引ノズル32又は本体31の内部には,吸引ノズル32の内部の負圧(吸引負圧)を検出するための圧力センサ39が配設されている。」

「[0034] 次に,制御部70は,S12において,移動装置43,53に制御信号を出力することにより,吸引ノズル32を,ピックアップするダイ503の直下に移動させ,S13において,吸着ノズル600の移動装置に制御信号を出力することにより,前記ダイ503の直上に移動させたうえで,吸着部602の吸着面602aを前記ダイ503に当接させる(図6(A))。S13が終了すると,プログラムは,S21に進む。
[0035] S21において,制御部70は,S11で取得した「強度情報」に基づいて,「目標吸引負圧」を決定し,負圧源60及び調圧弁80に制御信号を出力することにより,吸引ノズル32内に「吸引負圧」を発生させる(図7(A)の(1))。すると,ピックアップするダイ503の直下の粘着シート502が,吸引面32aにおいて吸引ノズル32で吸引される。なお,「目標吸引負圧」は,ダイ503の割れやすさに応じて,ダイ503が割れない負圧に決定される。S21において,制御部70は,圧力センサ39によって検出され圧力に基づいて,「吸引負圧」が,「目標吸引負圧」となるように,調圧弁80をフィードバック制御する。なお,吸引面32aにおける「吸引負圧」は,吸引ノズル32内の「吸引負圧」に対応(例えば,比例関係)している。S21が終了すると,プログラムは,S31に進む。」

「[0057] (本実施形態の効果)
上述した説明から明らかなように,図5,図8,図10及び図12のS21,図8のS15において,調圧弁80(吸引負圧調整部)が,吸引ノズル32の「吸引負圧」を調整することにより,吸引面32aにおける「吸引負圧」を調整する。これにより,破損しやすいダイ503を粘着シート502から剥離する場合には,調圧弁80によって,吸引面32aにおける「吸引負圧」を小さくすることにより,ピン33の押し上げによりダイ503が粘着シート502から剥離する際に,ダイ503が粘着シート502から緩慢に剥離し,剥離時にダイ503への過大な応力の作用が防止される。このため,ダイ503を粘着シート502から剥離する際における,ダイ503の破損が防止される。」





(イ)以上から,引用文献2には,次の技術的事項(以下,「周知技術1」という。)が記載されているものと認められる。

「ダイを粘着シートから剥離する際における,ダイの破損を防止することができるダイ剥離装置であって,
本体31,吸引ノズル32,ピン33,ピン保持部材34,押し上げ装置35,回動装置36,ブラケット38とから構成されている押し上げ部30により,保持テーブル20で保持されているダイ集合体500の下面を,吸着しつつ,押し上げて,ダイ503の1つを粘着シート502から剥離するものであり,
吸引ノズル32又は本体31の内部は,調圧弁80を介して負圧源60に接続されている。負圧源60は,真空ポンプ等で構成され,吸引ノズル32又は本体31の内部を吸引することにより,吸引面32aにおいて吸引負圧を発生させ,調圧弁80は,吸引面32aにおける吸引負圧を調整するものであり,
吸引ノズル32又は本体31の内部には,吸引ノズル32の内部の負圧(吸引負圧)を検出するための圧力センサ39が配設されており,
吸引ノズル32を,ピックアップするダイ503の直下に移動させ,S13において,吸着ノズル600の移動装置に制御信号を出力することにより,前記ダイ503の直上に移動させたうえで,吸着部602の吸着面602aを前記ダイ503に当接させ,
制御部70は,負圧源60及び調圧弁80に制御信号を出力することにより,吸引ノズル32内に吸引負圧を発生させ,圧力センサ39によって検出され圧力に基づいて,吸引負圧が,目標吸引負圧となるように,調圧弁80をフィードバック制御することにより,
ダイ503を粘着シート502から剥離する際における,ダイ503の破損が防止される
ダイ剥離装置。」

ウ 引用文献3に記載されている技術的事項
(ア)原審の拒絶査定の理由である令和 2年 5月22日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2010-056466号公報(以下,「引用文献3」という。)には,以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
この発明は粘着シートに貼着された半導体チップをピックアップするピックアップ装置及びピックアップ方法に関する。」

「【0034】
上記バックアップ体1の角柱状の収容部24にはピックアップされる半導体チップ3を押し上げるための押し上げ手段33が収容されている。この押し上げ手段33は軸線を同じにして同芯状に設けられた第1乃至第3の押し上げ体34?36からなる。第1の押し上げ体34が最も外側に位置し,第3の押し上げ体36は中心に位置している。」

「【0037】
上記第2の押し上げ体35は上記第1の押し上げ体34内に収容される大きさの角筒状であって,その下端部の対向する一対の側面には断面形状がL字状の一対の第2の鍔41が設けられている。この第2の鍔41は上記第1の押し上げ体34の対向する一対の内面に形成された第2の凹部42に上下方向に移動可能に収容されている。つまり,第2の凹部42の高さ寸法は上記第2の鍔41の高さ寸法よりも大きく設定されている。」

「【0039】
上記第3の押し上げ体36は上記第2の押し上げ体35内に収容される大きさの角軸状であって,その下端部の対向する一対の側面には断面形状がL字状の一対の第3の鍔44が設けられている。この第3の鍔44は上記第2の押し上げ体35の対向する一対の内面に形成された第3の凹部45に上下方向に移動可能に収容されている。つまり,第3の凹部45の高さ寸法は上記第3の鍔44の高さ寸法よりも大きく設定されている。」

「【図3】



(イ)以上から,引用文献3には,次の技術的事項(以下,「周知技術2」という。)が記載されているものと認められる。

「粘着シートに貼着された半導体チップをピックアップするピックアップ装置のバックアップ体1であって,
バックアップ体1の角柱状の収容部24にはピックアップされる半導体チップ3を押し上げるための押し上げ手段33が収容され,
この押し上げ手段33は軸線を同じにして同芯状に設けられた第1乃至第3の押し上げ体34?36からなり,
第1の押し上げ体34が最も外側に位置し,第3の押し上げ体36は中心に位置しており,
上記第2の押し上げ体35は上記第1の押し上げ体34内に収容される大きさの角筒状であって
上記第3の押し上げ体36は上記第2の押し上げ体35内に収容される大きさの角軸状であること。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「チップ1C」,「ダイシングテープ4」は,本件補正発明の「半導体チップ」,「粘着シート」にそれぞれ相当する。
そして,引用発明における,「ピックアップ対象のチップ1Cを,吸着コレット105を含むボンディングヘッドBHによってダイシングテープ4からピックアップする装置」は,本件補正発明の「ピックアップ装置」と,「粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置」である点で一致する。

(イ)引用発明の「吸着コレット105を含むボンディングヘッドBH」は,「チップ1Cを,」「ダイシングテープ4からピックアップする」ものであるから,本件補正発明の「前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構」に相当する。

(ウ)引用発明の「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」は,駆動機構によって上下動するプッシャ112と連動して上下動するようになっているとともに,互いに上下方向に移動自在であり,また,上下方向において,軸心を同じにして配置されているとみることができるから,本件補正発明の「複数の押し上げ体」と,「軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられ」ている点,及び,「前記複数の押し上げ体は,中央に配置された」「押し上げ体と,この」「押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの」「押し上げ体からな」る点で一致する。
また,最も径の大きい外側の「第1のブロック110A」は,「角柱」であるから,引用発明の「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」は,本件補正発明の「複数の押し上げ体」と,後記の点で相違するものの,「前記複数の押し上げ体は,中央に配置された」「押し上げ体と,この」「押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からな」る点で一致する。

(エ)引用発明の「吸着駒102」は,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110C」が組み込まれているから,本件補正発明の「突き上げ機構」と,「軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた複数の押し上げ体を有」する点で一致する。
そして,引用発明においても,「剥離の対象となる1個のチップ1Cの真下に吸着駒102の中心部を移動させ,次に,吸着駒102を上昇させてその上面をダイシングテープ4の裏面に接触させると共に,吸引口103,溝104および隙間(S)の内部を減圧し,剥離の対象となるチップ1Cと接触しているダイシングテープ4を第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cの上面に密着させ,次に,第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cを上方に突き上げてダイシングテープの裏面に上向きの荷重を加え,チップ1Cとダイシングテープ4とを押し上げ」,「続いて,吸着コレット105を上方に引き上げる」ことから,引用発明の「吸着駒102」は,本件補正発明の「突き上げ機構」と,「前記粘着シートにおいて前記ピックアップ機構によってピックアップされる前記半導体チップが位置する部分に,前記半導体チップとは反対側から負圧を作用させ,当該半導体チップが前記ピックアップ機構によってピックアップされるときに,当該半導体チップを前記複数の押し上げ体によって突き上げる」点で一致する。

(オ)引用発明の「吸引機構」は,「吸着駒102」の内部を-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧するものであるから,本件補正発明の「負圧源」と,後記の点で相違するものの,「前記突き上げ機構に」「負圧を供給する」点で一致する。

(カ)引用発明の「ダイシングテープ4」における,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cによって押し上げられて傾斜した部分」が,本件補正発明の「前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分」に相当する。
すると,引用発明の,「第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cを上方に突き上げてダイシングテープ4の裏面に上向きの荷重を加え,チップ1Cとダイシングテープ4とを押し上げた時には,ダイシングテープ4には第1のブロック110A,第2のブロック110Bおよび第3のブロック110Cによって押し上げられて傾斜した部分が存在し,この傾斜した部分は吸引機構により減圧されている」点は,本件補正発明と「前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分に」「負圧を作用させる」点で一致する。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。
<一致点>
「 粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置であって,
前記粘着シートから前記半導体チップをピックアップするピックアップ機構と,
軸心を同じにして配置され互いに軸心方向に移動自在に設けられた複数の押し上げ体を有し,前記粘着シートにおいて前記ピックアップ機構によってピックアップされる前記半導体チップが位置する部分に,前記半導体チップとは反対側から負圧を作用させ,当該半導体チップが前記ピックアップ機構によってピックアップされるときに,当該半導体チップを前記複数の押し上げ体によって突き上げる突き上げ機構と,
前記突き上げ機構に負圧を供給する負圧源と,
を備え,
前記複数の押し上げ体は,中央に配置された押し上げ体と,この押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からなり,
前記押し上げ体が前記半導体チップを突き上げた際に,前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分に,前記負圧を作用させる
ことを特徴とする半導体チップのピックアップ装置。」

<相違点1>
本件補正発明は「負圧源」が,「ゲージ圧で-85kPa以下の負圧を安定して供給する」ものであり,「圧力検出器」及び「負圧調整機構」を備え,「前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分」に,「前記安定して供給され前記ゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となった負圧」を作用させるのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

<相違点2>
「複数の押し上げ体」の形状に関して,本件補正発明は,「中央に配置された角柱状の押し上げ体と,この角柱状の押し上げ体と軸心を同じにして配置された少なくとも1つの角筒状の押し上げ体からなり」と特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

(4)当審の判断
ア 相違点1について
相違点1について検討する。
まず,引用文献1においても,「吸引機構」は「-90kPa?-60kPaの吸引力で減圧」するものであるから,負圧の設定範囲として,「ゲージ圧で-85kPa以下の負圧」を含んでいる。
ここで,どの程度の負圧を突き上げ機構に供給するのかは,例えば引用文献2の段落0057に「破損しやすいダイ503を粘着シート502から剥離する場合には,調圧弁80によって,吸引面32aにおける「吸引負圧」を小さくする」と記載されているように,当業者が,普通に用いられるダイ等に応じて適宜最適化する設計的事項にすぎず,「負圧源」が供給する負圧を「ゲージ圧で-85kPa以下の負圧」とすることは,当業者が適宜に設定し得たものである。
また,周知技術1には,ダイを粘着シートから剥離する剥離装置,すなわち,半導体チップを粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置において,押し上げ部30(本件補正発明の「突き上げ機構」に対応する。)により,保持テーブル20で保持されているダイ集合体500の下面を,吸着しつつ,押し上げて,ダイ503の1つを粘着シート502から剥離する際に,押し上げ部30の本体31又は吸引ノズル32に圧力センサ39(本件補正発明の「圧力検出器」に相当する。)を配設し,制御部70から負圧源60及び調整弁80に制御信号を出力することにより,吸引負圧が目標負圧となるように,調整弁をフィードバック制御する点が記載されている。
ここで,周知技術1において,「負圧源60」は「制御部70」の制御信号により制御されるから,所定の負圧を安定して供給できるものであることは明らかであり,「制御部70」,「負圧源60」及び「調整弁80」が,一種の「負圧調整機構」であるものと認められる。
そして,引用発明と周知技術1は,どちらも,粘着シートに貼着保持された半導体チップを前記粘着シートからピックアップする半導体チップのピックアップ装置において,半導体チップとは反対側から負圧を作用させるという,機能・作用が共通するものであり,チップの破損を防止するという周知の課題を解決するために,引用発明に周知技術1を採用し,相違点1に係るに係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
なお,引用発明に周知技術1を採用した際には,「前記粘着シートの前記押し上げ体によって押し上げられて傾斜した部分」に,「前記安定して供給され前記ゲージ圧で-85kPa以下の所定の圧力となった負圧」が供給されることは明らかである。

イ 相違点2について
相違点2について検討する。
周知技術2に,「ピックアップされる半導体チップ3を押し上げるための押し上げ手段33」において,中心に位置する「第3の押し上げ体36」を「角軸状」,すなわち,角柱状とする点が記載されているように,複数の押し上げ体における中央に配置された押し上げ体の形状として,角柱状のものは当該技術分野における周知技術であると認められる。
また,引用文献1には,段落0059に「本実施の形態1では,加工の容易さなどを考慮して,中間の第2のブロック110Bおよび内側の第3のブロック110Cのそれぞれの形状を円柱状にしたが,外側の第1のブロック110Aと同じく四角柱状あるいはそれに近い形状にしてもよい。」と,「内側の第3のブロック110C」,すなわち,中央に配置された押し上げ体を,角柱状にする点も示唆されている。
すると,引用発明に,周知文献2に記載された事項を採用し,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。

(5)小括
上記で検討したごとく,相違点1-2に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正却下の決定のむすび
以上から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和 3年 1月19日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記「第2」の「1(2)」に,補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,以下のとおりである。
理由1 この出願の請求項1-7に係る発明は,下記の引用文献1-6に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2008-066452号公報
2.国際公開第2013/171869号
3.特開2010-056466号公報
4.特開平09-162204号公報
5.特開2004-152858号公報
6.特開2008-004936号公報

3 引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1-3に記載されている技術的事項及び引用発明は,前記「第2」の「3(2)ア」-「3(2)ウ」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記「第2」の「3」で検討した本件補正発明に関する限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2」の「3」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-06-23 
結審通知日 2021-06-29 
審決日 2021-07-14 
出願番号 特願2018-116661(P2018-116661)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杢 哲次  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小川 将之
発明の名称 半導体チップのピックアップ装置、半導体チップの実装装置および実装方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ