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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1377533
審判番号 不服2020-9357  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-03 
確定日 2021-09-03 
事件の表示 特願2018- 55546「分布センシングアプリケーションのための平坦なプロファイルの光ファイバケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日出願公開、特開2018-159927〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月23日(パリ条約による優先権主張2017年3月23日、米国、2017年10月25日、米国)の出願であって、令和元年6月26日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、令和元年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、令和2年3月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和2年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、令和元年10月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「分布センシング光ファイバケーブルであって、
コア領域、
前記コア領域を囲む少なくとも1つのクラッド層、
前記少なくとも1つのクラッド層を覆う保護コーティング、及び
前記保護コーティングを囲むように配置されたエラストマー熱可塑性材料のタイトバッファを含む光ファイバ、
前記光ファイバの両側に長手方向に配置され、非記憶型材料で形成された一対の完全に弾力的な強度部材、並びに
前記光ファイバ及び前記一対の完全に弾力的な強度部材を内包するように形成され、少なくとも1つの比較的平坦な表面を含むプロファイルを有するプラスチックジャケット
を備えた分布センシング光ファイバケーブル。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
本願発明は、最先の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものを含んでいる。

引用文献1 中国特許出願公開第104199159号明細書
引用文献2 特開2009-103496号公報
引用文献3 特開2012-065911号公報
引用文献4 特開平9-258075号公報

第4 引用文献に記載された事項
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与。以下同様。)。



(日本語仮訳;
技術分野
[0001]本発明は、光ファイバセンサケーブルに関し、特に温度とひずみを同時に監視するフラットリボン状の光ファイバセンサケーブルに関する。
背景技術
[0002]分散型光ファイバ測定センシングシステムは、光ファイバ全体の長さにわたり使用することができ、距離の連続関数として示される測定情報は、光ファイバの長さ方向に伴って変化する。光ファイバは、センサ素子であるとともに、検出情報の伝送素子でもある。)



(日本語仮訳:
[0021]図1は、本発明の温度とひずみを同時に監視するフラットリボン状の光ファイバセンサケーブルであり、該光ファイバケーブルは、温度測定ファイバユニット、ひずみ測定ファイバユニット、フラットリボン状のシース5から構成され、フラットリボン状のシース5は、温度測定ファイバユニットとひずみ測定ファイバユニットを緊密に被覆し、フラットリボン状のシース5は、接着手段により測定対象物の表面に固定され、該光ファイバは、1つの温度測定ファイバユニットと2つのひずみ測定ファイバユニット及びフラットリボン状のシース5を含み、温度測定ファイバユニットは、ケーブル内の中心位置に配置され、2つのひずみ測定ファイバユニットは、ケーブルの両側に配置される。フラットリボン状のシース5の一方の平面は接着剤で測定対象物の表面に接着され、ケーブルの耐荷重部は、ケーブル断面の中間、すなわち、温度測定ファイバユニットの外装撚線の上側と下側にある。
[0022]上記温度測定ファイバユニットは、複数の外装撚線3と中心に設けられる一次被覆光ファイバ1から構成され、一次被覆光ファイバ1は、外装撚線3の中心にある隙間内に設けられ、外装撚線の本数は3?8本(通常は6本)であり、その単線の直径が大きく、本数が多いほど、機械的強度が高くなる。一次被覆光ファイバは少なくとも1本であり(図1では2本)、外装層の隙間4が大きいほど、収容される一次被覆光ファイバ1の本数も多くなる。ケーブルの動作環境の要件に応じて、外装撚線3の材料は、高強度鋼線などの金属材料やその他の適切な非金属材料を選択することができる。)



(日本語仮訳;
[0024]ひずみ測定ファイバユニットは、タイトバッファ光ファイバ2であり、タイトバッファ光ファイバ2の外径は、一般的に0.5?1.5mmであり、ひずみ(応力)の測定範囲に応じ、タイトバッファ光ファイバのスクリーニング強度は、100kpsi(ひずみ1%と1秒)または200kpsi(ひずみ2%と1秒)である。
[0025]フラットリボン状のシース5の具体的な寸法と形状及び材料は、測定対象物の具体的な条件に応じて決定され、一般的には高密度ポリエチレンなどの熱可塑性材料を押し出し成型して製造され、温度測定ファイバユニットとひずみ測定ファイバユニットの間隔は、測定対象物の表面の形態によって決定される。)



(日本語仮訳;
[0026]実施例2
図2を参照すると、フラットリボン状のシース5は、機械的手段によって測定対象物の表面に固定され、該光ファイバは、2つの温度測定ファイバユニットと2つのひずみ測定ファイバユニット及びフラットリボン状のシース5を含み、2つの温度測定ファイバユニットはケーブルの両側に配置され、2つのひずみ測定ファイバユニットは中間に配置される。リボン状のシースは、クランプを用いて測定対象物の表面に固定することができ、耐荷重クランプ部は、ケーブル断面の両側、すなわち、温度測定ファイバユニットの外装撚線の上側と下側にある。
[0027]前記温度測定ファイバユニットは、複数の外装撚線と中心に配置された一次被覆光ファイバから構成され、一次被覆光ファイバ1は、外装撚線3の中心の隙間内に設置され、外装撚線の本数は6本であり、一次被覆光ファイバは少なくとも2本である。その他の構造については、実施例1と同じである。)

オ 図1、2は以下のとおりである。

カ 上記エにおける「[0027]・・・その他の構造については、実施例1と同じである。」の記載によれば、実施例2について、[0026][0027]に記載された以外の構成については実施例1と同様である。

(2)引用文献1に記載の発明の認定
上記(1)に記載された事項からみて、引用文献1には、実施例2について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(括弧書きは認定の根拠とした段落番号である。)

引用発明
「温度とひずみを同時に監視するフラットリボン状の光ファイバセンサケーブルであり、該光ファイバケーブルは、温度測定ファイバユニット、ひずみ測定ファイバユニット、フラットリボン状のシース5から構成され、フラットリボン状のシース5は、温度測定ファイバユニットとひずみ測定ファイバユニットを緊密に被覆し([0021])、
フラットリボン状のシース5は、機械的手段によって測定対象物の表面に固定され、該光ファイバは、2つの温度測定ファイバユニットと2つのひずみ測定ファイバユニット及びフラットリボン状のシース5を含み、2つの温度測定ファイバユニットはケーブルの両側に配置され、2つのひずみ測定ファイバユニットは中間に配置され([0026])、
ひずみ測定ファイバユニットは、タイトバッファ光ファイバ2であり([0024])、
温度測定ファイバユニットは、複数の外装撚線と中心に配置された一次被覆光ファイバから構成され、一次被覆光ファイバ1は、外装撚線3の中心の隙間内に設置され、外装撚線の本数は6本であり、一次被覆光ファイバは少なくとも2本であり([0027])、
温度測定ファイバユニットは、外装撚線の単線の直径が大きく、本数が多いほど、機械的強度が高くなり、ケーブルの動作環境の要件に応じて、外装撚線3の材料は、高強度鋼線などの金属材料やその他の適切な非金属材料を選択することができ([0022])、
フラットリボン状のシース5は、一般的には高密度ポリエチレンなどの熱可塑性材料を押し出し成型して製造される([0025])、
光ファイバセンサケーブル。」

2 引用文献2
(1)引用文献2に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
少なくとも1本の歪検出用光ファイバと、少なくとも1本の温度補償用光ファイバを収納するルースチューブと、少なくとも1対の抗張力体とが、タイトに一括被覆されてなる光ファイバセンサケーブルであって、前記歪検出用光ファイバの周囲がショアA硬度90未満の低硬度層で被覆されていることを特徴とする光ファイバセンサケーブル。」

イ 「【発明の効果】
【0008】
本発明の光ファイバセンサケーブルによれば、歪検出用光ファイバの周囲に低硬度層を設けることで、クラック発生時の応力を分散し、歪検出用光ファイバへの歪印加量を低減することができる。」

ウ 「【0012】
本実施形態において、歪検出用光ファイバ11及び温度補償用光ファイバ12は、その材質、コア径、クラッド径、被覆の構造などに関して、特に限定されず、適宜選択して使用することができる。特に、強度や安定性に優れ、かつ良好な伝送特性が得られることから、石英ガラス系光ファイバに1層以上の被覆を施した光ファイバ素線や光ファイバ心線などを用いることが好ましい。歪検出用光ファイバ11及び温度補償用光ファイバ12の本数は、1本に限定されることなく、それぞれ1本または複数本を設けた構成とすることができる。」

エ 「【0017】
図1に示す光ファイバセンサケーブル10においては、光ファイバ及び抗張力体を一括被覆するシースが、ショアA硬度90未満の低硬度層17と、その周囲を被覆する保護層16との2層からなる。低硬度層17は、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ゴム系樹脂、オレフィン系樹脂などが挙げられ、これらの中からショアA硬度90未満のものを選択して用いることができる。本形態例では、低硬度層が1層被覆されているが、特にこれに限られるものではなく、低硬度層を2層以上被覆することもできる。」

オ 図1は以下のとおりである。

カ 上記アの記載及び図1から、低硬度層17は、タイトバッファであるといえる。

(2)引用文献2に記載された事項の認定
上記(1)に記載された事項からみて、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。

「歪検出用光ファイバの周囲を、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどからなるタイトバッファで被覆すること。」

3 引用文献3
(1)引用文献3に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバシートに関する。具体的には睡眠時無呼吸症候群の診断など、横臥人患者の呼吸、心拍、体動の計測に好適に用いられる光ファイバシートに関する。」

イ 「【0006】
このような状況下、特開2007-61306号公報(特許文献1)には、光ファイバを布などからなるシーツに固定若しくは混入した光ファイバシートが開示されている。この光ファイバシートは、体動によって生じた光ファイバの形状変化を、光ファイバ内を伝播する光の偏波状態の変化として捉えるものである。この光ファイバシートを用いた場合には、S/N比がよく、呼吸によって生じるわずかな体動を検出することができ、寝返りや脈拍と呼吸を明確に区別できる、また、通常の生活環境に近い状態で呼吸の状態を観測することができるという利点がある。
【0007】
特開2007-144070号公報(特許文献2)や特開2010-131340号公報(特許文献3)には、一般家庭の通常の睡眠状態でのSASの完全無拘束なスクリーニングを可能とする、光ファイバを用いた睡眠時無呼吸センサ(F-SASセンサ)が開示されている。このF-SASセンサは光ファイバに加わる側圧により発生する過剰損失に基づく伝送信号光の光量変化を計測することによって、体動を検出する装置である。このセンサは小型かつ静音で、座布団を覆うシーツの下に厚みが3.5mm程度の薄い布製の光ファイバシートを敷いて寝るだけのものであり、身体には一切何も付けずに簡易な操作で測定できることが特徴である。これらに開示されている光ファイバシートは、通常の生活環境に近い状態で呼吸の状態を観測することができるという利点がある。」

ウ 「【0019】
光ファイバシート1は光ファイバ11とそれを支持するシート状体12とを有する。図2及び図3に示す光ファイバシート1は光ファイバ11とシート状体12からなる光ファイバ構造体10が2枚の外カバー6と外カバー7で覆われた構造を有している。そして、外カバー6と外カバー7の周縁が縫い合わされ、光ファイバ構造体10と一体化されている。光ファイバシート1は、マットレスのような寝具5 上に置かれて使用される。
・・・
【0022】
光ファイバ構造体10を構成する光ファイバ11は、コアと呼ばれる芯とその外側のクラッドと呼ばれる外層とそれを被覆する被覆層を有する光伝送媒体である。このような構造を有する光ファイバ11であればコアの素材やクラッドの素材、被覆層の素材に関係なく使用できるが、本発明においては、グレーデットインデックス型石英系光ファイバ(石英型GI光ファイバ)が好ましく用いられる。極めて微小な動きである体動を検出できるようになるからである。石英型GI光ファイバとは、屈折率がコアの中心からクラッド方向へ中心軸対称の分布形状を有する屈折率分布(Grated Index)を有する光ファイバであって、コア及びクラッド共に石英ガラスから作製されたものである。
【0023】
光ファイバ11は側圧による応力付加によりマイクロベンディング損失が発生し、光ファイバ11の伝送損失に過剰損失が発生する。本発明の体動検出装置は、この特性を利用するものであって、体動に起因する光ファイバ11への応力負荷変化による過剰損失の変化を計測することにより、体動を測定可能にしている。
・・・
【0026】
GI型石英系の光ファイバ11は強度保持のために通例被覆を有している。このために外部からの光による影響、つまり迷光による影響を受けるおそれがない。そして、本発明においては二次被覆が施された光ファイバ(光ファイバ心線)11が好ましく用いられる。二次被覆は光ファイバを保護する役目を果たすので、さらに光ファイバシート1の作製は容易となる。この場合、二次被覆としては、好ましくは塩化ビニル系樹脂などの柔らかな素材の被覆よりも、ポリエステルエラストマーなどの硬い素材の被覆が好ましい。側圧による圧力が二次被覆に吸収されずに直接光ファイバに加わりやすいからである。」

エ 上記ウから、光ファイバ11は、応力負荷変化による過剰損失の変化を計測することにより、体動を測定可能にしていることから、歪検出用光ファイバであり、光ファイバへの側圧を正確に反映する必要があるため、通例被覆、二次被覆はタイトバッファ(タイトな被覆)であるといえる。

(2)引用文献3に記載された事項の認定
上記(1)に記載された事項からみて、引用文献3には、次の事項が記載されていると認められる。

「歪検出用光ファイバの周囲を、ポリエステルエラストマーなどの素材のタイトバッファで被覆すること。」

4 引用文献4
(1)引用文献4に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光ファイバケーブルおよび該光ファイバケーブルに使用される光ファイバケーブル用テンションメンバーに関する。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の光ファイバケーブルに使用されるテンションメンバーは固く、曲がりにくく、曲げ半径を小さくすると折れやすく、また曲がり癖がつきやすいという欠点があった。
【0004】本発明は以上のような欠点に鑑み、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくく、金属材を用いることなく十分な張力が得られる光ファイバケーブルおよび光ファイバケーブル用テンションメンバーを提供することを目的としている。」

ウ 「【0010】前記光ファイバケーブル用テンションメンバー3はガラス繊維やアラミド繊維等の強化繊維5をポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂等の合成樹脂材6で曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7と、このテンションメンバー本体7の外周部に添うように配置されたアラミド繊維、炭素繊維等の抗張力繊維8とで構成されている。
・・・
【0012】上記構成の光ファイバケーブル1は曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7と抗張力繊維8とで構成された光ファイバケーブル用テンションメンバー3、3を用いているため、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくく、抗張力繊維で十分な張力が得られるとともに、金属材を用いていないためカミナリ等による悪影響を防止できる。」

(2)引用文献4に記載された事項の認定
上記(1)に記載された事項からみて、引用文献4には、次の事項が記載されていると認められる。

ア 「光ファイバケーブルにおいて、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくくすること。」

イ 「光ファイバケーブルにおいて、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくくするために、光ファイバケーブル用テンションメンバーはガラス繊維やアラミド繊維等の強化繊維をポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂等の合成樹脂材で曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体と、このテンションメンバー本体の外周部に添うように配置されたアラミド繊維、炭素繊維等の抗張力繊維とで構成すること。」

第5 対比、判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「光ファイバセンサケーブル」は、光ファイバの長さ方向に沿って測定できるものであることは明らかであり、分布型のセンサということができるから、本願発明の「分布センシング光ファイバケーブル」に相当する。

(2)引用発明の「ひずみ測定ファイバユニットは、タイトバッファ光ファイバ2であ」るから、タイトバッファを含む光ファイバであることは明らかである。また、当該光ファイバがコア領域とクラッド層を有することも、技術常識から見て明らかである。
したがって、引用発明の「ひずみ測定ファイバユニット」は、本願発明の「コア領域、前記コア領域を囲む少なくとも1つのクラッド層、前記少なくとも1つのクラッド層を覆う保護コーティング、及び前記保護コーティングを囲むように配置されたエラストマー熱可塑性材料のタイトバッファを含む光ファイバ」と、「コア領域、前記コア領域を囲む少なくとも1つのクラッド層、及びこれらを囲むように配置されたタイトバッファを含む光ファイバ」の点で一致する。

(3)引用発明において「温度測定ファイバユニットは、外装撚線の単線の直径が大きく、本数が多いほど、機械的強度が高くなり、ケーブルの動作環境の要件に応じて、外装撚線3の材料は、高強度鋼線などの金属材料やその他の適切な非金属材料を選択することができ」ることから、温度測定ファイバユニットは、外装撚線の存在によって、強度を有する部材になっていることは明らかであり、光ファイバセンサケーブルの強度を担保する一種の強度部材であるといえる。
また、引用発明において「2つの温度測定ファイバユニットはケーブルの両側に配置され、2つのひずみ測定ファイバユニットは中間に配置され」ていることから、引用発明の「温度測定ファイバユニット」は「ひずみ測定ファイバユニット」の両側に長手方向に配置されているといえる。
したがって、引用発明の「ケーブルの両側に配置され」た「2つの温度測定ファイバユニット」は、本願発明の「光ファイバの両側に長手方向に配置され、非記憶型材料で形成された一対の完全に弾力的な強度部材」と、「光ファイバの両側に長手方向に配置された一対の強度部材」の点で一致する。

(4)引用発明において「フラットリボン状のシース5は、温度測定ファイバユニットとひずみ測定ファイバユニットを緊密に被覆し」、「一般的には高密度ポリエチレンなどの熱可塑性材料を押し出し成型して製造される」ことから、引用発明の「フラットリボン状のシース」は、本願発明の「光ファイバ及び前記一対の完全に弾力的な強度部材を内包するように形成され、少なくとも1つの比較的平坦な表面を含むプロファイルを有するプラスチックジャケット」と、「光ファイバ及び前記一対の強度部材を内包するように形成され、少なくとも1つの比較的平坦な表面を含むプロファイルを有するプラスチックジャケット」の点で一致する。

(5)上記(1)?(4)から、本願発明と引用発明とは、以下の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「分布センシング光ファイバケーブルであって、
コア領域、
前記コア領域を囲む少なくとも1つのクラッド層、及び
これらを囲むように配置されたタイトバッファを含む光ファイバ、
前記光ファイバの両側に長手方向に配置され、一対の強度部材、並びに
前記光ファイバ及び前記一対の強度部材を内包するように形成され、少なくとも1つの比較的平坦な表面を含むプロファイルを有するプラスチックジャケット
を備えた分布センシング光ファイバケーブル。」

(相違点1)
タイトバッファを含む光ファイバについて、本願発明が「タイトバッファ」に「囲」まれた「少なくとも1つのクラッド層を覆う保護コーティング」を有するのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点2)
タイトバッファについて、本願発明が「エラストマー熱可塑性材料」であるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点3)
強度部材について、本願発明が「非記憶型材料で形成された」「完全に弾力的な」ものであるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

2 判断
(1)相違点1、2について
引用文献2、3に記載されているように、歪検出用光ファイバの周囲を、熱可塑性エラストマーからなるタイトバッファで被覆することは周知である。
そして、引用発明と引用文献2、3に記載された事項は、ひずみ測定用の光ファイバに関する同一の技術分野に属するから、引用発明に、引用文献2、3に記載された事項を適用し、引用発明のタイトバッファを熱可塑性エラストマーからなるようにすることは、当業者が適宜採用しうる程度のことにすぎない。また、光ファイバの周囲を保護する必要性があることは周知の課題であるところ、タイトバッファを設ける際に、タイトバッファとクラッド層の間に保護コーティングを更に設けることも、光ファイバを保護する程度に応じて、当業者が適宜選択しうる設計事項にすぎない。
したがって、引用発明において、相違点1、2に係る本願発明の構成のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことである。

(2)相違点3について
ア 本願発明の「完全に弾力的な」について、本願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には「【0025】・・・本発明の1以上の実施形態によると、強度部材22は、有害な記憶をほとんど又は全く呈さずに柔軟性とともに完全に弾力的かつ反復可能な歪を与えることにおいて重要である。・・・本発明の教示によると、強度部材22は、例えば、エポキシ/ガラス混合物又は固体シリカガラスのような非記憶型のガラス系材料からなる。これらのガラス系材料は、柔軟性とともに完全に弾力的かつ反復可能な歪を2%の伸張まで与えることが分かっている。ガラス系強度部材22は、従来技術の金属強度部材においてしばしば見られたような有害な記憶をほとんど又は全く呈さない。・・・」と記載されており、「完全に弾力的な」とは、変形をしても元の形状に戻ることを意味していると解されるが、「完全に」という用語について、厳密な意味で、寸分の違いもなく完全に元の形状に戻るということは、技術常識から考えてあり得ないから、概ね元の形状に戻ること、つまり曲げ癖がつきにくくする程度の意味であると解することが自然である。
また、本願発明の「非記憶型材料」とは、本件明細書の「【0009】強度部材は、特に「非記憶型」として知られるガラス系材料で形成され、すなわち、屈曲又は圧縮された後に元の形状に戻ることができる。多くの従来技術のケーブル構造体は、分布センシング光ファイバケーブルに沿って、非記憶型でなく不正確な測定値をもたらすものとされていた金属強度部材を利用していた。」の記載によれば、ガラス系材料が少なくとも想定されていると解される。
イ 一般的に、光ファイバは、光学的な手段により情報伝達を行うものであり、様々な場所に配置されると共に、曲げ等の変形により、その情報伝達に影響があることは技術常識であり、例えば引用文献4に記載されているように、光ファイバケーブルにおいて、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくくすることは、一般的な課題である。
そして、引用発明の光ファイバセンサケーブルは、光ファイバケーブルの一種であるから、上記したような一般的な課題に着目すると共に、さらに、引用発明の光ファイバセンサケーブルはひずみ測定ファイバユニットを有しており、変形が元に戻らず維持されるような曲げ癖が残ることは、ひずみ測定において不都合であることも明らかであるから、引用発明において、光ファイバセンサケーブルを曲げ癖がつきにくくする動機付けはあるといえる。
そうすると、引用発明の光ファイバセンサケーブルに曲げ癖がつきにくくするために、強度部材(テンションメンバー)に該当する温度測定ファイバユニットとして、例えば引用文献4に記載されたようなガラス繊維等の強化繊維を用いたテンションメンバーを採用することは、当業者が適宜選択しうる事項にすぎないし、さらに、より曲げ癖がつきにくくなるようなガラス繊維等の強化繊維を用いたテンションメンバーを採用することも、当然の方向性にすぎない。
よって、引用発明において、相違点3に係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到しうる事項にすぎない。

(3)作用効果について
本願発明の作用効果について、引用発明および周知技術から、当業者が予測しうる程度のものにすぎない。

(4)したがって、本願発明は、引用発明よび周知技術から当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

3 請求人の主張について
請求人は、令和2年7月3日付け審判請求書において、
「まず、引用文献4に関し、テンションメンバー3の実際の構造は、請求項1に係る発明の「完全に弾力的な強度部材」とは、構造的および機械的に異なると思料します。審査官殿は、「テンションメンバー3」を「曲げやすく、曲げ癖がつきにくいガラス繊維等の強化繊維で構成することが記載されている」と述べていますが、テンションメンバー3は異なる材料のいくつかの層からなるもののようです。引用文献4は、テンションメンバー3がテンションメンバー本体7と抗張力繊維8とで構成されることを開示しています(段落[0010]、[0012]、図2)。また、引用文献4の図1に示される通り、テンションメンバー本体7は、ガラス繊維やアラミド繊維等の強化繊維5をポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂等の合成樹脂材6で曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて形成されます。段落[0012]にも、「曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7と抗張力繊維8」と開示されています。したがって、拒絶理由通知において最初に言及された「強化繊維5」は「完全に弾力的」であるかもしれないが、これを含んでなる最終的な「テンションメンバー3」はそのような能力を保持しておりません。
したがって、引用文献4の「テンションメンバー3」は、本願の強化部材と同等の機能を果たすとともに、「完全に弾力的」ではなく、曲げ癖のつかないように一体的に固められると定義されています。したがって、請求項1に係る発明は引用文献4に基づき特許法第29条第2項によって拒絶されるものではないと思料します。」(請求書4頁2行?21行)
と主張している。
当該主張について検討するに、引用文献4において「【0010】前記光ファイバケーブル用テンションメンバー3はガラス繊維やアラミド繊維等の強化繊維5をポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂等の合成樹脂材6で曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7と、このテンションメンバー本体7の外周部に添うように配置されたアラミド繊維、炭素繊維等の抗張力繊維8とで構成されている。・・・【0012】上記構成の光ファイバケーブル1は曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7と抗張力繊維8とで構成された光ファイバケーブル用テンションメンバー3、3を用いているため、曲げやすく、曲げ半径を小さくしても曲げ癖がつきにくく」と記載されているように、「ガラス繊維・・・等の強化繊維5」を用いることにより、「曲げやすく、曲げ癖のつかないように固めて一体化したテンションメンバー本体7」とし、その結果、光ファイバケーブル、光ファイバー用テンションメンバーを曲げ癖がつきにくくしていることは明らかである。そして、上記2(2)で説示したように、本願発明の「完全に弾力的」とは、概ね元の形状に戻ること、つまり曲げ癖がつきにくくする程度の意味であると解することが適当であるから、本願発明と引用文献4に記載された事項は、「完全に弾力的」の点で、格別の相違はないと言うべきであるし、いずれにせよ、より曲げ癖がつきにくくなるようにすることは、当然の方向性にすぎないことである。
よって、請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-01 
審決日 2021-04-16 
出願番号 特願2018-55546(P2018-55546)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井部 紗代子  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 井上 博之
野村 伸雄
発明の名称 分布センシングアプリケーションのための平坦なプロファイルの光ファイバケーブル  
代理人 岡部 讓  

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