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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1377568
審判番号 不服2019-15734  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-22 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 特願2018-82259「外傷性脳損傷後のバイオブリッジ形成時に発現する組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月19日 出願公開、特開2018-111733〕について、次のとおり審決する。  
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2013年(平成25年)3月13日(パリ条約による優先権主張 2012年(平成24年)5月16日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2015-512363号(以下「親出願」という。)の一部を、平成28年9月21日に新たな特許出願とした特願2016-184086号(以下「子出願」という。)について、さらにその一部を、平成30年4月23日に新たな特許出願としたものであって、その出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。

平成31年 1月29日付け 拒絶理由通知
令和 1年 7月 3日 意見書及び手続補正書の提出
令和 1年 7月19日付け 拒絶査定
令和 1年11月22日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和 1年12月26日 手続補正書(方式)の提出
令和 2年12月 9日付け 拒絶理由通知(当審による)

なお、令和2年12月9日付け拒絶理由通知では、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

第2 本願発明

本願の請求項1?10に係る発明は、令和1年7月3日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
対象の外傷性脳損傷の治療のための組成物であって、前記組成物は
(a)骨髄付着幹細胞(MSC)の培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の細胞培養物を、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと、
を含むプロセスによって得られる細胞
を含み、
更に前記組成物が前記対象の脳においてマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現を誘導する、組成物。」

第3 当審が通知した拒絶理由

令和2年12月9日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

[理由1](明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由2](新規性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

1.理由1(明確性)について

・請求項1?10
請求項1には、「対象の外傷性脳損傷の治療のための組成物」について、「前記対象の脳においてマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現を誘導する」と記載されているが、「前記対象の脳」とは、「対象の外傷性脳損傷」が起きた部位を指すのか、脳全体を指すのか、それ以外の部位を指すのかが不明確である。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10についても同様である。
よって、請求項1?10に係る発明は明確でない。

2.理由2(新規性)について

・請求項1?10
・引用文献1:特表2015-517520号公報(親出願の公表公報)

第4 当審の判断

1.理由1(明確性)について

請求項1には、「対象の外傷性脳損傷の治療のための組成物」について、依然として、「前記対象の脳においてマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現を誘導する」と記載されており、「前記対象の脳」とは、「対象の外傷性脳損傷」が起きた部位を指すのか、脳全体を指すのか、それ以外の部位を指すのかが不明確である。
したがって、本願発明は明確でない。

なお、本願明細書のMMP-9活性に関する【0045】、【0082】?【0085】の記載から、請求項1における上記「前記対象の脳」とは、「外傷性脳損傷が治療される対象」の「脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織」を意味するものと解して、以下の理由2の判断を行う。

2.理由2(新規性)について

(1)分割要件(特許法第44条第1項)の判断

ア 本分割出願の経緯

上記「第1」のとおり、本願は、2013年(平成25年)3月13日を国際出願日とする「親出願」の一部を、平成28年9月21日に新たな出願として分割出願された「子出願」について、さらにその一部を、平成30年4月23日に新たな出願(以下「孫出願」ということがある。)として分割出願されたものである。

イ 分割要件について

特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願(原出願)の一部を新たな特許出願とするものである(特許法第44条第1項柱書き)から、適法に分割されたものというためには、以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要があり、また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされる(特許法第44条第2項本文)という特許出願の分割の効果を考慮すると、さらに以下の(要件2)も満たされる必要がある(参考:『特許・実用新案審査基準』 第VI部 第1章 第1節「2.2 特許出願の分割の実体的要件」)。
(要件1)原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は、(要件2)が満たされれば、(要件3)も満たされるものといえる。
なお、上記(要件1)?(要件3)における「明細書等」は、「特許請求の範囲、明細書又は図面」を意味する。

分割出願を原出願とする分割出願の分割要件について

次に、特許出願(親出願)を原出願として分割出願(子出願)をし、さらに子出願を原出願として分割出願(孫出願)をする場合には、以下の(i)から(iii)までの全ての条件を満たすときに、孫出願(本願)を親出願の時にしたものとみなすことができるものといえる(参考:『特許・実用新案審査基準』 第VI部 第1章 第1節「5.1 分割出願を原出願とする分割出願」)。
(i) 子出願が親出願に対し分割要件の全てを満たすこと。
(ii) 孫出願が子出願に対し分割要件の全てを満たすこと。
(iii) 孫出願が親出願に対し分割要件のうちの実体的要件の全てを満たすこと。
なお、上記(iii)の要件において、上記イの(要件3)における「原出願の分割直前の明細書等」とは、「親出願から子出願を分割する直前の親出願の明細書等」のことである。

エ 本願(孫出願)の子出願に対する分割要件の判断

上記イ及びウにしたがって、本願の分割要件を検討する。
本願(孫出願)が、子出願に対し、分割要件を満たすかどうかについて、まず、上記イの(要件2)を満たすものであるか、検討する。
本願の明細書及び図面は、子出願の出願当初の明細書及び図面と内容が同一である。
そして、本願発明における、
「対象の外傷性脳損傷の治療のための組成物であって、前記組成物は
(a)骨髄付着幹細胞(MSC)の培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の細胞培養物を、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと、
を含むプロセスによって得られる細胞を含」む
との事項については、子出願の出願当初の明細書及び図面の、【0015】及び実施例等に記載されている。
さらに、本願発明における、
「更に前記組成物が前記対象の脳においてマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現を誘導する」
との事項については、子出願の出願当初の明細書及び図面の、【0040】?【0046】、実施例1?11(特に、実施例11、図8)等において、外傷後脳損傷(TBI)を施されたラットへのSB623細胞(上記ステップ(a)?(d)を含むプロセスによって得られる細胞に相当する。)の移植後に、外傷性脳損傷が治療される対象の脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織において、ビヒクルを移植した場合に比べてMMP-9活性の有意な増加が示されたことが記載されており、SB623細胞の移植によって、MMP-9の発現が誘導されることが記載されているといえる。
そうすると、本願の明細書等(特許請求の範囲、明細書又は図面)に記載された事項は、子出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるといえるから、子出願に対し、上記イの(要件2)を満たすといえる。また、本願は、子出願の明細書等について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされたものであるから、上記イの(要件3)も満たすといえる。そして、本願は、子出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものではないから、上記イの(要件1)を満たすものといえる。
したがって、本願については、「(ii) 孫出願が子出願に対し分割要件の全てを満たすこと。」との要件を満たすものである。

オ 子出願の親出願に対する分割要件の判断

次に、子出願が、親出願に対し、分割要件を満たすかどうかについて、まず、上記イの(要件2)を満たすものであるか、検討する。
子出願の、平成29年12月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、
「対象において神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための組成物であって、
前記組成物はマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の治療的有効量を含む
、組成物。」(下線は当審が付した。)
が記載されており、同請求項2?5は、上記請求項1に記載の組成物をさらに特定するものである。
しかし、親出願の出願当初の特許請求の範囲には、MMP-9についての記載は全くなく、親出願の出願当初の明細書及び図面の【0040】?【0046】、実施例1?11(特に、実施例11、図8)等には、外傷後脳損傷(TBI)を施されたラットへのSB623細胞(本願発明における上記ステップ(a)?(d)を含むプロセスによって得られる細胞に相当)の移植後に、外傷性脳損傷が治療される対象の脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織において、ビヒクルを移植した場合に比べてMMP-9活性の有意な増加が示されたことが記載されており、SB623細胞の移植により、MMP-9の発現が誘導されることが記載されているとはいえるものの、「対象において神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための組成物」が、「マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の治療的有効量を含む」ことについては、何ら記載されていない。
また、親出願の出願日当時の技術常識を参酌しても、親出願の出願当初の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載から、「対象において神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための組成物」が「マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の治療的有効量を含む」という技術的事項が自明であるともいえない。
したがって、子出願の明細書等に記載された事項は、親出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえないから、子出願は、親出願に対し、上記イの(要件2)を満たすとはいえない。
そして、子出願の上記平成29年12月11日付け補正後の請求項1?5について、平成30年1月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対する応答期間内に本願(孫出願)が分割出願され、子出願は上記拒絶理由に対し何らの応答がなされないまま平成30年9月4日付けで拒絶査定がなされ、この拒絶査定は確定した。
そうすると、上記イの他の要件について検討するまでもなく、子出願については、「(i) 子出願が親出願に対し分割要件の全てを満たすこと。」との要件を満たすものではない。

カ 本願の分割要件の判断のまとめ

上記オで説示したように、本願が分割出願された時点で、子出願が親出願に対して分割要件を満たしておらず、そのまま子出願の拒絶査定が確定したことにより、子出願の出願日が親出願の出願日にまで遡及する余地はなく、本願の分割要件については、上記ウの(i)の要件を満たすものでないから、上記ウの(iii)の要件について検討するまでもなく、本願を親出願の時にしたものとみなすことができない。
他方、本願は、上記エで説示したように、子出願に対し分割要件を満たすものであることから、本願は、子出願の現実の出願日である平成28年9月21日にしたものとみなす。

キ 審判請求人の主張について

審判請求人は、令和1年12月26日提出の手続補正書(方式)によって補正された審判請求書において、
(a)子出願の「平成29年8月22日付け補正」は新規事項を追加するものではないこと、
(b)子出願の3回目の拒絶理由通知(最後の拒絶理由通知(二回目))は、最初の拒絶理由通知とされるべきものであったこと、
(c)分割不適法による出願時不遡及の実務が出願人にとって極めて酷であり、法的安定性を損なうものであること、
(d)分割の実体的要件に関して、補正の制限(新規事項の追加禁止)が適用されるべきでないこと、
を主張している。

そこで、審判請求人の上記主張について検討する。

(ア)上記(a)の主張について
子出願における上記「平成29年8月22日付け」の補正は、「対象において神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための組成物」が「マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の治療的有効量を含む」という技術的事項を追加する補正事項を含むものである。そして、子出願の出願当初の明細書及び図面は、親出願の出願当初の明細書及び図面と内容が同一であるから、上記オで説示したのと同様の理由により、上記技術的事項を追加する補正事項を含む補正は、子出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内でなされたものとはいえない。

(イ)上記(b)の主張について
上記(ア)で指摘した子出願における「平成29年8月22日付け補正」による上記技術的事項の追加は、子出願における最初の拒絶理由通知(平成29年6月1日付け)に対する応答時の補正によりされたものであるから、上記技術的事項を追加する補正事項と同じ内容の補正事項を含む、子出願における平成29年12月11日付け補正について、新規事項の追加を指摘する拒絶理由を、最後の拒絶理由として通知したことが誤りであったとはいえない。

(ウ)上記(c)の主張について
孫出願(本願)を親出願の時にしたものとみなすことができるといえるか否かは、上記イ及びウにしたがって判断されるのが相当であるところ、上記ウの「(i) 子出願が親出願に対し分割要件の全てを満たすこと。」との要件を判断するにあたり、上記イで説示した「(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。」を満たすか否かを判断するためには、子出願の審査経緯において提出された手続補正書により補正された事項を含む子出願の明細書等に記載された事項が、親出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かについて判断する必要がある。
そして、子出願における平成29年12月11日付け補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「対象において神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための組成物」が「マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の治療的有効量を含む」との技術的事項は、親出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえず、子出願について、「(i) 子出願が親出願に対し分割要件の全てを満たすこと。」との要件を満たすものでないことは、上記オで説示したとおりであって、この分割要件の判断が子出願の審査において示されていたか否かは、本願の分割要件の判断における子出願の親出願に対する分割の適法性の判断を左右するものではないし、子出願は、親出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるとはいえない技術的事項を含んだまま、本願(孫出願)が分割出願され、拒絶査定が確定している。
本願(孫出願)が分割により享受する出願日の遡及の利益は、あくまでも子出願の出願日の利益であって、親出願の出願日の利益の享受は、子出願が分割要件を満たして親出願から適法に分割が行われることを前提とするものであり、孫出願の出願日は、子出願が分割要件を満たしていなくても無限定に親出願の出願日にまで遡及するものではない。

(エ)上記(d)の主張について
特許法第17条の2第3項が、明細書等の補正について、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないこと、即ち、新規事項を追加してはならないことを規定している趣旨は、補正は出願時に遡って効力を有することから、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正を出願後に許容することは、先願主義の原則に反するためであり、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図るためである。
そして、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという、特許出願の分割の効果を考慮すれば、特許出願の分割の実体的要件として、上記イで説示した、「(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること」という、補正の制限(新規事項の追加禁止)と同様の要件が適用されることは、何ら不合理なことではない。

(オ)以上のように、審判請求人の主張はいずれも採用できない。
したがって、本願の出願日は、上記エ?カで説示したとおり、子出願(原出願)の出願日まで遡及するが、親出願の出願日までは遡及しない。

(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明

子出願(原出願)の出願日前の平成27年6月22日に発行された引用文献1(親出願の公表公報)には、
「外傷性脳損傷の処置のための対象への移植のための細胞であって、
(a)MSCの培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の前記細胞培養物を、NICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと
を含むプロセスによって得られる細胞。」(請求項1)、
及び、
「対象の外傷性脳損傷を処置するための方法であって、請求項1?3のいずれかに記載の細胞の治療的有効量を前記対象の脳に投与することを含む、方法。」(請求項4)
について記載されている。
そして、引用文献1の【0040】?【0046】、実施例1?11(特に、実施例11、図8)等には、外傷後脳損傷(TBI)を施されたラットへのSB623細胞(上記ステップ(a)?(d)を含むプロセスによって得られる細胞に相当)の移植後に、外傷性脳損傷が治療される対象の脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織において、ビヒクルを移植した場合に比べてMMP-9活性の有意な増加が示されたことが記載されている。
また、「治療的有効量」について、「SB623細胞を含む組成物の『治療的有効量』は、TBIの症状を低減するか、脳での幹細胞の移動を刺激する任意の量である」(【0048】)と記載されているから、上記処置するための方法は、「SB623細胞を含む組成物」を用いることによって行われるものといえる。

そうすると、引用文献1には、
「対象の外傷性脳損傷を処置するための組成物であって、前記組成物は、治療的有効量の
(a)MSCの培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の前記細胞培養物を、NICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと
を含むプロセスによって得られる細胞
を含み、
上記組成物の移植後に、外傷性脳損傷が治療される対象の脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織において、ビヒクルを移植した場合に比べてMMP-9活性の有意な増加が示される、組成物。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)本願発明について

引用発明の「組成物」には、「治療的有効量」の上記「細胞」が含まれることから、引用発明における「処置」は、本願発明における「治療」に相当する。
また、引用発明において、「MMP-9活性の有意な増加が示される」ことは、「MMP-9の発現を誘導する」ことに相当するといえるから、引用発明における「上記細胞の移植後に、外傷性脳損傷が治療される対象の脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織において、ビヒクルを移植した場合に比べてMMP-9活性の有意な増加が示された」ことは、本願発明における「更に前記組成物が前記対象の脳(当審注:上記「1.」で説示したとおり、「外傷性脳損傷が治療される対象」の「脳室下帯(SVZ)と衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織」を意味するものと解する。)においてマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)の発現を誘導する」ことに相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「対象の外傷性脳損傷の治療のための組成物であって、前記組成物は
(a)骨髄付着幹細胞(MSC)の培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の細胞培養物を、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと、
を含むプロセスによって得られる細胞
を含み、
更に前記組成物が前記対象の脳においてマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現を誘導する、組成物。」
である点で一致し、相違する点はない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

第5 むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-04-15 
結審通知日 2021-04-16 
審決日 2021-04-27 
出願番号 特願2018-82259(P2018-82259)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 基章  
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 井上 典之
滝口 尚良
発明の名称 外傷性脳損傷後のバイオブリッジ形成時に発現する組成物  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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