• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S
管理番号 1377647
審判番号 不服2020-16771  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-04 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2018- 27923「ファイバレーザ発振器用の電源回路」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-145650、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)2月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年12月26日付け:拒絶理由通知書
令和2年 2月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 4月 3日付け:拒絶理由通知書
令和2年 5月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 7月 9日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和2年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 9月17日付け:令和2年8月25日付けの手続補正について
の補正の却下の決定、拒絶査定
令和2年12月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 4月12日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月17日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2017-103413号公報
2.特表2013-504285号公報
3.特開2016-152686号公報
4.特表2018-503966号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?6に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、令和2年12月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1?6は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
複数の整流回路ユニットと、電源ユニットと、レーザダイオードモジュールとを有するファイバレーザ発振器用の電源回路であって、
前記複数の整流回路ユニットは、前記電源ユニットと分離して設置され、互いに異なる複数の特定の値の電圧が入力可能で、前記電圧に基づいて直流電圧を前記電源ユニットに供給し、
前記電源ユニットは、前記複数の整流回路ユニットのうち1つのみが選択され接続され、
前記レーザダイオードモジュールは、レーザ光を生成し、レーザ加工ヘッドにレーザ光を提供するように設置され、レーザキャビティに接続され、
前記電源回路は、前記ファイバレーザ発振器内に複数並列に配置され、それぞれ、レーザキャビティに接続され、各レーザキャビティから発振されるレーザがビームコンバイナにより合成された後、レーザ加工ヘッドから出力される、ファイバレーザ発振器用の電源回路。
【請求項2】
前記整流回路ユニットは、力率を1に調整する力率改善回路を有する、請求項1に記載のファイバレーザ発振器用の電源回路。
【請求項3】
前記整流回路ユニットは、複数のダイオードを含み、
前記力率改善回路は、前記複数のダイオードと前記整流回路ユニットの出力端子との間に接続されている、請求項2に記載のファイバレーザ発振器用の電源回路。
【請求項4】
前記整流回路ユニットは、複数のダイオードと、前記複数のダイオードと並列に接続された容量素子と、を含む、請求項1に記載のファイバレーザ発振器用の電源回路。
【請求項5】
前記電源ユニットは、スイッチング回路と、前記スイッチング回路のスイッチングを制御するように構成された制御回路と、を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載のファイバレーザ発振器用の電源回路。
【請求項6】
前記制御回路は、前記整流回路ユニットに接続されている、請求項5に記載のファイバレーザ発振器用の電源回路。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付与した。以下同じ。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ電源装置に関し、特に安価で破損の影響が小さいレーザ電源装置に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
レーザ電源装置は、レーザ発振器に励起光を供給する発光部(キャビティユニット)と、キャビティユニットに電流を供給し、複数個の発光素子の発光を制御するための電源ユニットと、を有する。キャビティユニットは、一般に複数個の発光素子を有する。電源ユニットの回路構成として、整流回路、スイッチング回路、平滑回路、電流検出回路、制御回路から成るスイッチングレギュレータが知られている。スイッチングレギュレータの回路の部品はプリント基板上に実装され、そのプリント基板は筐体フレームに囲われ、レーザ電源装置の製造や破損時の修理交換は、電源ユニット単位で取り扱われる。レーザ電源装置では、電源ユニットの電圧入力部に供給される電圧(例えばAC200V)を整流回路で整流した後、スイッチング回路と平滑回路でDC電圧に変換し、キャビティユニットの複数個の発光素子に電流を供給し、その電流値は電流検出回路で検出される。電流値は、電流指令部からの電流指令値に対し一定になるようにフィードバック制御される。
【0003】
一般に、LEDや半導体レーザ等の発光素子は、電流に応じて出力される光強度(光パワー)が変化する。発光素子の端子間(順方向)電圧Vfは、製造ばらつきや温度等の環境要因に応じて特性が変化するため、電源ユニットからキャビティユニットに供給する電流を制御して光パワーを制御する。
【0004】
電源ユニットにおいてAC入力電圧をA、発光素子の順方向電圧をVfとすると、キャビティユニットで直列に接続可能な発光素子の数Nは、A×2^(1/2)≧Vf×Nとする必要がある。そのため、所要の光パワーを得るために発光素子の個数を増やすには、発光素子を並列に接続する必要がある。発光素子の故障は一般に短絡の形で発生する。そのため、この構成では、どれか一つでも発光素子が破損(短絡)した際には、装置の稼働が停止するという課題があった。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザ電源装置で、搭載する発光素子の個数を容易に増加させることが可能で、どれか一つの発光素子が破損(短絡)した際でも、装置が稼働し続けられることが要望されている。
【0009】
本発明の目的は、搭載する発光素子の個数を低コストで増加可能で、発光素子の破損の影響が小さいレーザ電源装置を実現することである。」

(4)「【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係るレーザ電源装置では、整流回路に対し、複数のサブスイッチングレギュレータを並列に接続し、複数のサブスイッチングレギュレータの各々の出力部に、発光素子を直列に1列接続する。
【0011】
すなわち、本発明のレーザ電源装置は、AC電流が入力される電圧入力部と、AC電流を整流する整流回路と、複数のサブスイッチングレギュレータ部と、を有する電源ユニット、および発光ユニットを備え、複数のサブスイッチングレギュレータ部は、整流回路の出力に並列に接続され、発光ユニットは、複数のサブ発光ユニットを有し、各サブ発光ユニットは、複数個の発光素子を直列に接続した1列の発光素子列を有し、複数のサブスイッチングレギュレータ部のそれぞれから1列の発光素子列に電流が供給され、各サブスイッチングレギュレータ部は、スイッチング回路と、平滑回路と、出力電流を検出する電流検出回路と、電流指令値および検出した出力電流に基づいてスイッチング回路を制御する制御回路と、を有することを特徴とする。」

(5)「【0020】
本発明の実施形態を説明する前に、従来例のレーザ電源装置について説明する。
図4は、従来の一般的なレーザ電源装置の構成例を示す図である。
【0021】
一般的なレーザ電源装置100は、電源ユニット110と、発光(キャビティ)ユニット150と、を有する。電源ユニット110は、3相AC電流が入力される端子111-113を含む電圧入力部と、外部の電流指令部140からの電流指令値の入力端子114を含む電流指令値入力部と、3相AC電流を整流する整流回路120と、スイッチングレギュレータ部130と、DC電流を出力する端子116および117を有するDC出力部と、を有する。図示の整流回路120は、6個のダイオードおよび容量素子を有する。スイッチングレギュレータ部130は、スイッチング回路131と、インダクタンス素子(コイル)132と、容量素子133と、電流検出回路134と、制御回路135と、を有する。スイッチング回路131は、スイッチング用トランジスタとダイオードを有する。スイッチング用トランジスタは制御回路135からの制御信号に応じてオンオフし、ダイオードと協働して充電電流を生成する。インダクタンス素子132および容量素子133からなる平滑回路は、充電電流から容量素子133の両端にDC電圧を生成する。容量素子133は、端子116および117からDC電流を出力する。電流検出回路134は出力されるDC電流の電流値を検出し、制御回路135は検出した電流値および電流指令値に基づいてスイッチング用トランジスタの制御信号を生成する。整流回路120およびスイッチングレギュレータ部130は、広く知られている回路であり、これ以上の説明は省略する。
・・・(中略)・・・
【0029】
以下に説明する実施形態のレーザ電源装置では、搭載する発光素子の個数を低コストで増加可能で、発光素子の破損の影響を小さくできる。
【0030】
図1は、本発明の第1実施形態のレーザ電源装置の構成を示す図である。
第1実施形態のレーザ電源装置1は、電源ユニット10と、発光(キャビティ) ユニット50と、を有する。電源ユニット10は、端子11-13を含む電圧入力部と、外部の電流指令部40からの電流指令値の入力端子14および15を含む電流指令値入力部と、整流回路20と、第1サブスイッチングレギュレータ部30Aと、第2サブスイッチングレギュレータ部30Bと、端子16および17を有する第1DC出力部と、端子18および19を有する第2DC出力部と、を有する。整流回路20は、6個のダイオード21-26および容量素子27を有する。2個のダイオード21および22、23および24、25および26は、それぞれ直列に接続されて3列のダイオード列をなし、3列のダイオード列は高電位線と低電位線の間に並列に接続される。各列のダイオードの接続ノードは、端子11-13にそれぞれ接続される。容量素子27は、高電位線と低電位線の間に並列に接続される。このような整流回路20は、広く知られているので、これ以上の説明は省略する。
【0031】
第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30Bは、図4のスイッチングレギュレータ部30と同様の構成を有し、整流回路20の出力に並列に接続されている。第1サブスイッチングレギュレータ部30Aの出力は第1DC出力部の端子16および17に接続され、第2サブスイッチングレギュレータ部30Bの出力は第2DC出力部の端子18および19に接続される。第1サブスイッチングレギュレータ部30Aの制御回路35Aは、電流指令値入力部の端子14から入力される電流指令値および電流検出回路34Aの検出した出力電流値に基づいてスイッチング回路31Aのトランジスタの制御信号を生成する。第2サブスイッチングレギュレータ部30Bの制御回路35Bは、電流指令値入力部の端子15から入力される電流指令値および電流検出回路34Bの検出した出力電流値に基づいてスイッチング回路31Bのトランジスタの制御信号を生成する。スイッチングレギュレータの構成および動作は広く知られているので、詳しい説明は省略する。
【0032】
キャビティユニット50は、電源ユニット10の端子16および17にケーブルで接続される端子53および54と、電源ユニット10の端子18および19にケーブルで接続される端子55および56と、端子53および54間に接続された1列の発光素子列50Aと、端子55および56間に接続された1列の発光素子列50Bと、を有する。この例では、発光素子列50Aは直列に接続された2個の発光素子51Aおよび52Aを有し、発光素子列50Bは、直列に接続された2個の発光素子51Bおよび52Bを有する。ここでは、発光素子列50Aおよび50Bを、サブ発光(キャビティ)ユニットと称する場合がある。
・・・(中略)・・・
【0038】
以上の通り、第1実施形態のレーザ電源装置では、整流回路20は1個で、2つのサブスイッチングレギュレータ部30Aおよび30Bが整流回路20に共通に接続され、2つのサブスイッチングレギュレータ部30Aおよび30Bが、キャビティユニット50の2つの発光素子列50Aおよび50Bに供給するDC電流をそれぞれ電流指令値に基づいて制御する。ここでは2つのサブスイッチングレギュレータ部30Aおよび30Bを設けた例を説明したが、3つ以上のサブスイッチングレギュレータ部を設け、キャビティユニット50にも3つ以上の発光素子列を設けてもよく、この場合も整流回路は1個で共通である。
【0039】
したがって、第1実施形態のレーザ電源装置では、電源ユニット10は、筐体フレーム60、整流回路20、プリント基板61、および冷却板63(冷却機構64)が共通であり、従来例のように単純に電源ユニット数を増加する場合に比べて、装置を安価に構成できる。同様に、キャビティユニット50についても、筐体フレーム70、および冷却板73(冷却機構74)が共通であり、装置を安価に構成できる。
【0040】
各サブスイッチングレギュレータ部のDC出力部に接続される発光素子列は、1列のみであり、他の発光素子列の発光素子が破損した場合でも駆動可能である。言い換えれば、キャビティユニット50内の複数の発光素子列は、互いに独立しており、相互に破損が影響しない。このように、発光素子の破損の際のリスクが低減でき、破損していない発光素子列で発生した光でレーザ発振器を励起して稼働を続行することができる。
【0041】
さらに、各サブスイッチングレギュレータ部が駆動する発光素子列は1列のみであり、電流指令値に対応する電流を供給するようにフィードバック制御可能であり、各発光素子列に流れる電流を電流指令値により個別に制御できる。それにより、レーザ発振器の低出力における制御性を向上できる。」

(6)図1及び図4は次のとおりである。





(7)上記(1)?(6)から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の各構成の根拠箇所を参考として当審で付した。

引用発明
「レーザ電源装置は、レーザ発振器に励起光を供給する発光部(キャビティユニット)と、キャビティユニットに電流を供給し、複数個の発光素子の発光を制御するための電源ユニットと、を有し、
キャビティユニットは、一般に複数個の発光素子を有し(【0002】)、
LEDや半導体レーザ等の発光素子は、電流に応じて出力される光強度(光パワー)が変化するものであり(【0003】)、
レーザ電源装置1は、電源ユニット10と、発光(キャビティ)ユニット50と、を有し、
電源ユニット10は、端子11-13を含む電圧入力部と、整流回路20と、第1サブスイッチングレギュレータ部30Aと、第2サブスイッチングレギュレータ部30Bと、端子16および17を有する第1DC出力部と、端子18および19を有する第2DC出力部と、を有し、
整流回路20は、6個のダイオード21-26および容量素子27を有し、2個のダイオード21および22、23および24、25および26は、それぞれ直列に接続されて3列のダイオード列をなし、3列のダイオード列は高電位線と低電位線の間に並列に接続され、各列のダイオードの接続ノードは、端子11-13にそれぞれ接続され、容量素子27は、高電位線と低電位線の間に並列に接続され(【0030】)、
第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30Bは、一般的なレーザ電源装置と同様に、スイッチング回路と、インダクタンス素子(コイル)と容量素子からなる平滑回路と、制御回路と、を有し、整流回路20の出力に並列に接続され、
第1サブスイッチングレギュレータ部30Aの出力は第1DC出力部の端子16および17に接続され、第2サブスイッチングレギュレータ部30Bの出力は第2DC出力部の端子18および19に接続され(【0020】、【0021】、【0031】)、
キャビティユニット50は、電源ユニット10の端子16および17にケーブルで接続される端子53および54と、電源ユニット10の端子18および19にケーブルで接続される端子55および56と、端子53および54間に接続された1列の発光素子列50Aと、端子55および56間に接続された1列の発光素子列50Bと、を有し(【0032】)、
レーザ電源装置では、整流回路20は1個で、2つのサブスイッチングレギュレータ部30Aおよび30Bが整流回路20に共通に接続され、2つのサブスイッチングレギュレータ部30Aおよび30Bが、キャビティユニット50の2つの発光素子列50Aおよび50Bに供給するDC電流をそれぞれ電流指令値に基づいて制御し(【0038】)、
各サブスイッチングレギュレータ部のDC出力部に接続される発光素子列は、1列のみであり、他の発光素子列の発光素子が破損した場合でも駆動可能であり、キャビティユニット50内の複数の発光素子列は、互いに独立しており、相互に破損が影響せず、発光素子の破損の際のリスクが低減でき、破損していない発光素子列で発生した光でレーザ発振器を励起して稼働を続行することができる(【0040】)、
レーザ電源装置1。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる交流グリッド源から電力を負荷に供給するための電源システム及び方法に関する。更に、本発明は、そのような電源システムを有する照明器具に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
大部分の電気又は電子デバイスは、公共配電網(以降、単に「グリッド」又は「本線」と呼ぶ。)から引き込んだ電力により動作する。異なる国のグリッドは異なる交流電圧(例えば、米国では約115ボルト、欧州では約230ボルト)を供給するので、そのような異なる電圧供給に対するデバイスの適応を可能にする規定が採られる必要がある。欧州特許出願公開第0531995(A2)号明細書(特許文献1)によれば、例えば、関連する装置が接続されるべきグリッドに依存してユーザがスイッチを開閉する必要がある回路が、知られている。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の背景技術に基づき、本発明は、異なるグリッドによって供給される電圧に対して電気又は電子負荷を適応させる代替手段を提供することを目的とする。望ましくは、解決法は、大きな部品を必要とすることなしに、又は付加的な高い損失をもたらすことなしに、機能すべきである。」

(4)「【0036】
本発明に従う電源システム及び方法は、以下において、照明器具を参照して説明される。なお、本発明の適用は、このような場合に限られない。代わりに、原理及び回路は、異なるグリッド電圧によっても動作すべき他の負荷とともに適用されてよい。特に、本発明は、米国及び欧州各国からの交流電圧により動作すべき直流電源を必要とする負荷に適用されてよい。
・・・(中略)・・・
【0039】
米国の照明器具と欧州の照明器具との間で相違する1つのことは、電源コードである。これは、異なるソケットタイプが異なる国において使用されるためである。従って、ここでは、電源コードに組み込まれて電圧適応に役立つ幾つかの(非常に小さい)部品を有することが提案され、一方、照明器具の残り部分(LEDランプを含む。)は同じままである。以下では、電源コードに組み込まれた整流器と組み合わされる照明器具における電圧倍増トポロジの簡単な構造が記載されており、該構造は、本線コードのみが入力電圧範囲を決定する照明器具を可能にする。
【0040】
例となる実施形態において、「米国電源コード」は通常の電源コードであってよい(如何なる部品を伴わない。又は、それは、誤操作に対する保護としてヒューズを有してよい。)。更に、米国本線グリッドからの115ボルトは、照明器具における「コンバータ回路」によって整流されて倍加され、230ボルトMCLEDに適した供給電圧を生じさせる。
【0041】
上記の照明器具の対応する「欧州電源コード」は、例えば、プラグのプラスチック部分に組み込まれ得る極めて小さい部品として実現されるブリッジ整流器を有してよい。これは、単一の極性のみを照明器具に供給することをもたらす。ランプ内の電圧ダブラーは、この単極電圧を倍加することができない。結果として、整流された供給電圧は、前と同じように、230ボルトMCLEDに適している。
・・・(中略)・・・
【0043】
図1は、上記の概念に従う電源システムを備えた照明器具100を図式的に示す。照明器具100は、交流グリッド電圧源10L(この例では、米国において使用される115ボルト本線に対応)に接続される。グリッド電圧は、例えば、各国において使用される標準規格に従って設計される壁面取り付けコンセントを介して供給されてよい。
【0044】
照明器具100は、次の部品を有する:
a)出力電圧を負荷Lへ供給するコンバータ回路20。
【0045】
b)コンバータ回路20をグリッド電圧源10Lへ接続し、コンバータ回路20に第1の入力電圧を供給する「第1のコネクタデバイス」30L。図示される例では、第1のコネクタデバイス30Lは、本線10Lの端子をコンバータ回路20の入力部に接続するための簡単な通常の115ボルト電源コードである。すなわち、コネクタ出力部(X)での第1の入力電圧は、115ボルトの第1の交流グリッド源と(通常の無視可能な損失に加えて)同じである。
【0046】
c)既に述べられた、ここでは主に直列に接続されているMCLEDチップCh1?Ch4によって実現される負荷L。この図では、夫々のMCLEDは、直列な電圧源及びデカップリングダイオードによって表されている。他の数のチップが可能である。並列も可能である。負荷Lは、更に、任意の部品として電流制限回路(CLC)を有する。最も簡単な場合において、これは抵抗であってよい。
【0047】
図2は、欧州各国の230ボルト本線に対応する第2のグリッド電圧によって動作する場合の照明器具100を示す。図1とは対照的に、コンバータ回路20は、この場合に、その入力部により「第2のコネクタデバイス」30Hを介して230ボルトグリッド源10Hへ接続されている。本線の標準規格と互換性があるプラグ(図示せず。)に加えて、第2のコネクタデバイス30Hは「変換回路」を有する。この変換回路は、4つのダイオードD1、D2、D3及びD4を有する整流器ブリッジによって実現される。それは、第1のコネクタデバイス30Lによって供給される上記の第1の入力電圧とは異なる第2の入力電圧をコンバータ回路20へ供給する。
【0048】
第1のコネクタデバイス30L、第2のコネクタデバイス30H、及びコンバータ回路20は、本発明に従う「電源システム」を構成する。この電源システムの機能は、以下の通りである:
コンバータ回路20は、タップ付きバスキャパシタ及び電圧逓倍整流を有する。それは、ダイオードD5及びD6によって構成される整流器を有する。正の入力電圧は、上記の整流器の第1の出力部及び第1の入力の間に接続されている上側キャパシタC1を、D5を介して、(ほぼ)入力電圧のピーク値に充電する。負の入力電圧は、整流器の第2の出力部及び第1の入力部の間に接続されている下側キャパシタC2を、D6を介して、(ほぼ)入力電圧のピーク値に充電する。その場合に、整流器の出力部にかかる、すなわち、4つのLEDCh1?Ch4及び(任意の)電流制限回路(CLC)にかかる総電圧は、バイポーラ入力電圧のピーク値の(ほぼ)2倍である。
・・・(中略)・・・
【0050】
図1において、照明器具100は、米国本線用の電源コード30Lを装備される。この電源コード30Lは、「第1の入力電圧」として115ボルトのバイポーラ電圧をコンバータ回路20へ供給する。電圧ダブラーは、この電圧を約300ボルト直流に変換するよう作動し、次いで、変換された電圧は、電流制限素子を介してLEDCh1?Ch4へ供給される。
【0051】
図2において、照明器具100は、欧州用の電源コード30Hを装備される。この電源コード30Hには、ブリッジ整流器D1?D4が組み込まれている(例えば、プラスチックプラグにモールド成形される、又はインラインコードスイッチに実装される)。従って、電源コードは、「第2の入力電圧」として単極230ボルトをコンバータ回路20へ供給する。これは電圧ダブラーの動作を抑制する。結果として、同じ約300ボルトが生成されて、LEDへ供給される。特定の極性を有する整流された230ボルトをコンバータ回路20へ供給することは、必要とされない。電圧適応機能は単極電圧自体にのみ依存し、極性は重要でない。
・・・(中略)・・・
【0053】
壁面取り付けソケットプラグを備えた電源コードの代わりに、また、整流機能を組み込まれた接続ボックスが、例えば、固定設置において使用される懸垂式ライトのために、使用されてよい。この場合に、図1及び2の2つのコネクタデバイス30L、30Hは、1つのユニット又はボックスに一体化され、該ユニット又はボックスは、コンバータ回路及び負荷Lと別個であっても、又はそれらと一体化されてもよい。特定の交流グリッドのための適切なコネクタデバイスの選択は、その場合に、交流グリッド源及びコンバータ回路への接続のために当該ユニットの正確な端子を選択することによって、行われる。」

(5)図1及び図2は次のとおりである。





第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比する。

ア 本願発明1の「整流回路ユニット」と引用発明の「整流回路20」は、「整流回路手段」である点で共通する。

イ 引用発明の「発光(キャビティ)ユニット50」は、「半導体レーザ等」の「複数個の発光素子を有」するものであるから、本願発明1でいう「レーザダイオードモジュール」を備えるといえる。

ウ 本願発明1の「電源ユニット」は、本願の明細書の【0015】によれば、スイッチング回路と、平滑回路と、制御回路とを有するものを含むところ、引用発明の「第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30B」も、「スイッチング回路と、インダクタンス素子(コイル)と容量素子からなる平滑回路と、制御回路と、を有」するから、本願発明1の「電源ユニット」と、「電源手段」である点で共通する。
また、引用発明の「第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30B」は、「整流回路20の出力に並列に接続され」るから、本願発明1の「前記電源ユニットは、前記複数の整流回路ユニットのうち1つのみが選択され接続される」点と、「前記電源手段は、前記整流回路手段が接続される」点で共通する。

エ 引用発明において、「電圧入力部」は、「端子11-13を含」んでおり、「整流回路20」は、「6個のダイオード21-26および容量素子27を有し、2個のダイオード21および22、23および24、25および26は、それぞれ直列に接続されて3列のダイオード列をなし、3列のダイオード列は高電位線と低電位線の間に並列に接続され、各列のダイオードの接続ノードは、端子11-13にそれぞれ接続され、容量素子27は、高電位線と低電位線の間に並列に接続され」るものであるから、引用発明の「整流回路20」は、「電圧入力部」の「端子11-13」を通じて特定の値の電圧が入力可能で、前記電圧に基づいて直流電圧を出力していることは明らかである。
また、引用発明において、「第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30Bは、整流回路20の出力に並列に接続され」ることから、「整流回路20」は、上記直流電圧を「第1サブスイッチングレギュレータ部30Aおよび第2サブスイッチングレギュレータ部30B」に供給しているといえる。
そうすると、本願発明1の「整流回路ユニット」と引用発明の「整流回路20」は、「特定の値の電圧が入力可能で、前記電圧に基づいて直流電圧を前記電源手段に供給し」ている点で共通する。

オ 引用発明の「レーザ電源装置1」は、本願発明1の「電源回路」に相当する。

カ 引用発明の「レーザ電源装置1」における「キャビティユニット50内の複数の発光素子列」は、「発光素子列で発生した光でレーザ発振器を励起」することから、「レーザ電源装置1」は、レーザ発振器用のものであるといえる。そうすると、本願発明1の「電源回路」と引用発明の「レーザ電源装置1」は、「レーザ発振器用の」ものである点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明の一致点、相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「整流回路手段と、電源手段と、レーザダイオードモジュールとを有するレーザ発振器用の電源回路であって、
前記整流回路手段は、特定の値の電圧が入力可能で、前記電圧に基づいて直流電圧を前記電源手段に供給し、
前記電源手段は、前記整流回路手段が接続され、
前記レーザダイオードモジュールは、レーザ光を生成する、
レーザ発振器用の電源回路。」

<相違点1>
「電源手段」及び「整流回路手段」につき、本願発明1は、「電源ユニットと分離して設置され、互いに異なる複数の特定の値の電圧が入力可能」な「複数の整流回路ユニット」を有するとともに、「電源ユニットは、前記複数の整流回路ユニットのうち1つのみが選択され接続され」るのに対し、引用発明は、「電源手段」及び「特定の値の電圧が入力可能」な「整流回路手段」を有するものの、各手段は「ユニット」をなしておらず、「整流回路ユニット」が「電源ユニットと分離して設置され」るものではないし、「整流回路ユニット」を「複数」有するものでもない点。

<相違点2>
本願発明1では、「レーザダイオードモジュール」は、「レーザ加工ヘッドにレーザ光を提供するように設置され、レーザキャビティに接続され」ており、「電源回路」は、「前記ファイバレーザ発振器内に複数並列に配置され、それぞれ、レーザキャビティに接続され、各レーザキャビティから発振されるレーザがビームコンバイナにより合成された後、レーザ加工ヘッドから出力される」のに対し、引用発明では、そのようなものではない点。

<相違点3>
「電源回路」につき、本願発明1は、「ファイバレーザ発振器用」であるのに対し、引用発明は、「レーザ発振器用」ではあるものの、「ファイバレーザ発振器用」であるかどうか不明である点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、「異なるグリッドによって供給される電圧に対して電気又は電子負荷を適応させる代替手段を提供することを目的」(【0004】)として、「タップ付きバスキャパシタ及び電圧逓倍整流を有」し、「ダイオードD5及びD6によって構成される整流器を有」(【0048】)し、「出力電圧を負荷Lへ供給するコンバータ回路20」(【0044】)と、「コンバータ回路20に第1の入力電圧を供給する「第1のコネクタデバイス」30L」(【0045】)と、「上記の第1の入力電圧とは異なる第2の入力電圧をコンバータ回路20へ供給する」「「第2のコネクタデバイス」30H」(【0047】)と、「MCLEDチップCh1?Ch4によって実現される負荷L」(【0046】)と、を有する「照明器具100」において、「交流グリッド電圧源10L(この例では、米国において使用される115ボルト本線に対応)に接続される」(【0043】、図1)場合には、「この電源コード30Lは、「第1の入力電圧」として115ボルトのバイポーラ電圧をコンバータ回路20へ供給」(【0050】)し、「欧州各国の230ボルト本線に対応する第2のグリッド電圧によって動作する場合」には、「コンバータ回路20」は、「その入力部により「第2のコネクタデバイス」30Hを介して230ボルトグリッド源10Hへ接続され」(【0047】、図2)、「欧州用の電源コード30H」は、「「第2の入力電圧」として単極230ボルトをコンバータ回路20へ供給する」(【0051】)ことが記載されている。
ここで、引用文献2に記載された「コンバータ回路20」は、「タップ付きバスキャパシタ及び電圧逓倍整流を有」し、「ダイオードD5及びD6によって構成される整流器を有する」ことから、引用文献2に記載された「コンバータ回路20」、「第1のコネクタデバイス30L」及び「第2のコネクタデバイス30H」を合わせたものは、整流回路手段であるといえる。また、当該整流回路手段は、「交流グリッド電圧源10L(この例では、米国において使用される115ボルト本線に対応)」と「230ボルトグリッド源10H」が選択的に接続されることから、相違点1に係る本願発明1の「互いに異なる複数の特定の値の電圧が入力可能」との構成を有するといえる。
しかしながら、引用文献2には、「コンバータ回路20」と「第1のコネクタデバイス30L」、「第2のコネクタデバイス30H」とからなる整流回路手段を「複数」有するとともに、当該整流回路手段を「電源ユニットと分離して設置」する構成については記載も示唆もされておらず、当該構成が本願出願前に周知技術であったともいえない。そして、本願発明1は、相違点1に係る構成を備えることによって、各国の電源事情に応じ、電源回路に接続する整流回路ユニットを使い分けることができるため、省スペースで各国の電源事情に柔軟に対応することができ、ファイバレーザ発振器を小型化できるとの効果を奏するものである(本願の明細書の【0009】、【0019】等)。そうすると、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の「電源ユニットと分離して設置され」た「複数の整流回路ユニット」を有するとともに、「電源ユニットは、前記複数の整流回路ユニットのうち1つのみが選択され接続され」るという構成とすることは、引用文献2に記載された事項を参照しても、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

この点、原査定では、「第1のコネクタデバイス30L」及び「第2のコネクタデバイス30H」が、本願発明1の「複数の整流回路ユニット」に相当するとの前提で判断している。そこで検討すると、上記「第2のコネクタデバイス30H」は、「4つのダイオードD1、D2、D3及びD4を有する整流器ブリッジによって実現される」「変換回路」を有する(【0041】、【0047】、図2)ことから、本願発明1の「整流回路ユニット」に相当するということができるとしても、上記「第1のコネクタデバイス30L」については、「通常の電源コード」にすぎず、整流器を有しない(【0040】、【0045】、図1)ことから、本願発明1の「整流回路ユニット」に当たるということはできない。よって、引用文献2に記載された「第1のコネクタデバイス30L」及び「第2のコネクタデバイス30H」が、本願発明1の「複数の整流回路ユニット」に相当するということはできない。

そして、引用文献3及び引用文献4を参酌しても、上記の判断を左右しない。
したがって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?6について
本願発明2?6は、上記1の相違点1に係る本願発明1の「電源ユニットと分離して設置され、互いに異なる複数の特定の値の電圧が入力可能」な「複数の整流回路ユニット」を有するとともに、「電源ユニットは、前記複数の整流回路ユニットのうち1つのみが選択され接続され」るとの構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由(上記1参照)により、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-10 
出願番号 特願2018-27923(P2018-27923)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太吉野 三寛  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 松川 直樹
清水 督史
発明の名称 ファイバレーザ発振器用の電源回路  
代理人 正林 真之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ