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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1377743
審判番号 不服2021-246  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-07 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2016-204337「レーザ用電源」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日出願公開、特開2018- 68003、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成28年10月18日の出願であって,令和2年7月3日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月2日に意見書とともに手続補正書が提出され,同年10月9日付けで拒絶査定(謄本送達日同年10月13日)がなされ,これに対して令和3年1月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年2月15日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ,同年5月17日に上申書が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和2年10月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1,2,4
・引用文献等 1,2

・請求項 3
・引用文献等 1-3


<引用文献等一覧>
1.特開2000-068573号公報
2.特開2014-131420号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2002-218743号公報(周知技術を示す文献)


第3 審判請求時の補正について

審判請求時の補正(以下,「本件補正」という。)は,以下に示すとおり,特許法17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
本件補正により,本件補正前の請求項1に記載された,「前記第1リアクトルのコアの表面に取り付けられ。または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第1温度センサと、」との記載は,「前記第1リアクトルのコアの表面に取り付けられ、または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第1温度センサと、」と補正された。(以下,「補正事項1」という。
また,本件補正により,本件補正前の請求項4は削除された。(以下,「補正事項2」という。)
補正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであり,補正事項2は,請求項の削除を目的とするものであることは明らかである。
また,補正事項1及び補正事項2は,当初明細書等に新規事項を追加するものではないことは明らかである。
そして,以下,第4?第6に示すように,補正後の請求項1?3に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明

本願請求項1?3に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明3」という。)は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された,次のとおりのものと認める。(下線は補正された箇所を示す。)

「 【請求項1】
バンクコンデンサと、
入力が前記バンクコンデンサと接続され、レーザ光源に交番電圧を間欠的に供給する高周波電源と、
前記高周波電源の休止期間に前記バンクコンデンサを充電する第1スイッチングコンバータを含む充電回路と、
を備え、
前記第1スイッチングコンバータは、
第1リアクトルと、
第1スイッチングトランジスタと、
前記第1リアクトルのコアの表面に取り付けられ、または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第1温度センサと、
前記第1温度センサが検出した前記第1リアクトルの前記コアの温度にもとづいて、前記第1リアクトルのインダクタンスを取得し、当該インダクタンスを利用して前記第1スイッチングトランジスタのオン時間を計算する第1コントローラと、
を含むことを特徴とするレーザ用電源。
【請求項2】
前記第1コントローラは、前記バンクコンデンサの電圧の検出値と目標電圧の差にもとづいて、前記第1スイッチングトランジスタのオン時間を計算することを特徴とする請求項1に記載のレーザ用電源。
【請求項3】
前記充電回路は、前記第1スイッチングコンバータによる前記バンクコンデンサの粗い充電動作の後に、前記バンクコンデンサを高精度に充電する第2スイッチングコンバータをさらに含み、
前記第2スイッチングコンバータは、
第2リアクトルと、
第2スイッチングトランジスタと、
前記第2リアクトルのコアの表面に取り付けられ。または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第2温度センサと、
前記第2温度センサが検出した前記第2リアクトルの前記コアの温度にもとづいて、前記第2リアクトルのインダクタンスを取得し、当該インダクタンスを利用して前記第2スイッチングトランジスタのオン時間を計算する第2コントローラと、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ用電源。」


第5 引用例

1 引用例1に記載された事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2000-68573号公報(平成12年3月3日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0003】この種のレーザ装置において、レーザ電源装置は、励起ランプに駆動電力を供給する。従来のレーザ電源装置は、交流の商用電源入力を直流に変換する整流回路及び該直流電圧を高電圧に昇圧するコンバータ回路を有している。該レーザ電源装置は、該コンバータ回路の出力で充電されたコンデンサからインバータによりスイッチングして励起ランプに電力を供給し、該励起ランプを発光させる。」

B 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来のレーザ電源装置の典型的な構成を含むレーザ装置の一例の要部を図3に示す。図3に示すレーザ電源装置は、商用電源である3相電源51の電力を用いて制御対象である励起ランプ58を発光させるためのものである。
【0006】レーザ電源装置は、アナログ処理される整流回路52、コンバータ回路53、インバータ回路54、電流センサ55、システムLSI(大規模集積回路)56及びコンデンサ57と、ディジタル処理されるコンバータ電圧制御部61及びインバータ電流制御部62とで構成される。
【0007】システムLSI56は、コンバータ回路53、インバータ回路54、電流センサ55及びコンデンサ57からなるアナログ処理部分と、コンバータ電圧制御部61及びインバータ電流制御部62からなるディジタル処理部分とのインタフェース機能を有している。すなわち、システムLSIは、2組のPWM(パルス幅変調)発生回路及びA/D(アナログ-ディジタル)変換部を有している。
【0008】一方のPWM発生回路は、コンバータ電圧制御部61の制御出力に基づいて、コンバータ回路53を駆動するPWM指令を発生する。一方のA/D変換部は、コンデンサ57の端子電位差であるDC電圧値Vdcをディジタル値に変換してコンバータ電圧制御部61に供給する。他方のPWM発生回路は、インバータ電流制御部62の制御出力に基づいて、インバータ回路54を駆動するPWM指令を発生する。他方のA/D変換部は、電流センサ55で検出された負荷電流値Ifをディジタル値に変換してインバータ電流制御部62に供給する。」

C 「【0012】図4に、図2の構成のレーザ電源装置を用いてレーザを出力させたときのDC電圧値A、レーザ出力の検出値B及びレーザ出力の指令値Cの波形を示す。
【0013】レーザパルス出力を開始すると、コンデンサは放電のみを行い充電されないので、レーザパルスの後半になるほどDC電圧値Aは大きく低下する。これに伴って、レーザパルスの出力も低減してしまう。また、電圧低下が大きいため、パルス出力停止後の充電時間が大きくなり、次の出力まで時間がかかる。
【0014】このように、従来のレーザ電源装置では、コンデンサに充電した電気エネルギを瞬時に放電してレーザ励起用の励起ランプに供給して該励起ランプを点灯させる。レーザ出力、つまり放電、を行っていない時に、所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサに充電する。このため、コンデンサの容量が小さいとレーザ出力中に電圧低下が起こり、充分なレーザ出力を得ることができない場合がある。より大きなレーザ出力を得るためには、コンデンサの容量を大きくすればよいが、大容量になるほど充電の時間も必要となり、次の運転までの時間が長くなる。また、大容量コンデンサは容積も大きく、装置全体の小型化が出来ない。」

D 「

図3」

E 「

図4」

2 引用発明

(1)上記記載事項Aの,「レーザ電源装置は、励起ランプに駆動電力を供給する…(中略)…該レーザ電源装置は、該コンバータ回路の出力で充電されたコンデンサからインバータによりスイッチングして励起ランプに電力を供給し、該励起ランプを発光させる」との記載から,引用例1には,“コンバータ回路の出力で充電されたコンデンサからインバータによりスイッチングして励起ランプに電力を供給し,該励起ランプを発光させるレーザ電源装置”が記載されているといえる。

(2)上記記載事項Bの,「図3に示すレーザ電源装置は…(中略)…励起ランプ58を発光させるためのものである。…レーザ電源装置は、…(中略)…コンバータ回路53、インバータ回路54、…(中略)…システムLSI(大規模集積回路)56及びコンデンサ57と…(中略)…で構成され」との記載,及び上記記載事項Dの図3の回路図,並びに上記(1)の認定事項から,引用例1には,“前記レーザ電源装置は,前記励起ランプを発光させるためのものであり,コンバータ回路53,インバータ回路54,システムLSI(大規模集積回路)56及びコンデンサ57とを含”むことが記載されているといえる。

(3)上記記載事項Bの「システムLSIは、…PWM(パルス幅変調)発生回路…(中略)…を有し…(中略)…PWM発生回路は、…(中略)…コンバータ回路53を駆動するPWM指令を発生する」との記載,及び上記(2)の認定事項から,引用例1には,“システムLSI56は、PWM(パルス幅変調)発生回路を有し,前記PWM発生回路は,コンバータ回路53を駆動するPWM指令を発生”することが記載されているといえる。

(4)上記記載事項Cの「図4に、図2の構成のレーザ電源装置を用いてレーザを出力させたときのDC電圧値A、レーザ出力の検出値B及びレーザ出力の指令値Cの波形を示す…(中略)…レーザパルス出力を開始すると、コンデンサは放電のみを行い充電されない…(中略)…レーザ電源装置では、コンデンサに充電した電気エネルギを瞬時に放電してレーザ励起用の励起ランプに供給して該励起ランプを点灯させる。レーザ出力、つまり放電、を行っていない時に、所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサに充電する」との記載,及び上記記載事項Eのグラフ(波形),並びに上記(1)及び(2)の認定事項から,引用例1には,“前記レーザ電源装置は,コンデンサ57に充電した電気エネルギを瞬時に放電してレーザ励起用の前記励起ランプに供給して該励起ランプを点灯させ,レーザ出力,つまり放電,を行っていない時に,コンバータ回路53により所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサ57に充電し,レーザパルス出力を開始すると,コンデンサ57は放電のみを行い充電されない”ことが記載されているといえる。

(5)以上,上記(1)?(4)より,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「コンバータ回路の出力で充電されたコンデンサからインバータによりスイッチングして励起ランプに電力を供給し,該励起ランプを発光させるレーザ電源装置であって,
前記レーザ電源装置は,前記励起ランプを発光させるためのものであり,コンバータ回路53,インバータ回路54,システムLSI(大規模集積回路)56及びコンデンサ57とを含み,
前記システムLSIは、PWM(パルス幅変調)発生回路を有し,前記PWM発生回路は,コンバータ回路53を駆動するPWM指令を発生し,
前記レーザ電源装置は,コンデンサ57に充電した電気エネルギを瞬時に放電してレーザ励起用の前記励起ランプに供給して該励起ランプを点灯させ,レーザ出力,つまり放電,を行っていない時に,コンバータ回路53により所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサ57に充電し,レーザパルス出力を開始すると,コンデンサ57は放電のみを行い充電されない
レーザ電源装置。」

3 引用例2に記載された事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2014-131420号公報(平成26年7月10日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

F 「【0024】
電源装置Aは、AC/DCコンバータCvと、スイッチング素子(MOSFET)1と、コイル2と、コンデンサ3と、ダイオード4と、出力電圧検出部5と、制御部6と、スイッチングドライバ7とを備えている。電源装置Aでは、スイッチング素子1、コイル2、コンデンサ3及びダイオード4とが降圧型のDC/DCコンバータを構成している。」

G 「【0077】
(第3実施形態)
本発明にかかる電源装置のさらに他の例について図面を参照して説明する。図7は本発明にかかる電源装置のさらに他の例の回路図である。図7に示すように電源装置Cは、コイル2の温度を測定する温度測定部21を備えている以外、電源装置Aと同じ構成を有している。そのため、電源装置Cでは、電源装置Aと実質上同じ部分には同じ符号を付すとともに、同じ部分の詳細な説明を省略する。
【0078】
電源装置では、LEDランプ8を点灯させるとき、コイル2の温度が変化(上昇)する。コイル2のインダクタンスは、温度変化(温度上昇)に伴って変化する場合がある。上述しているとおり、制御部6がコイル2のインダクタンスを一定として、スイッチング素子1の動作周期及びON時間Tonを決定している場合、コイル2のインダクタンスが変化すると、供給電流Ioutがばらつく。
【0079】
そこで、電源装置Cでは、温度測定部21でコイル2の温度を測定し、その結果を制御部6に送信している。そして、メモリ61にコイル2の温度とインダクタンスとを関係付けたデータベースが備えられており、制御部6はメモリ61にアクセスし、取得した温度情報に対応したインダクタンスを抽出する。制御部6は、コイル2の温度に対応したインダクタンスで、スイッチング素子1の動作周期及びON時間Tonを決定する。
【0080】
電源装置Cでは、コイル2の温度によるインダクタンスが変化した場合でも、電源装置Cを損失が少ない、すなわち、効率のよい動作モードを維持して、LEDランプ8の定電流制御可能である。なお、コイル2の温度を測定する温度測定部21として非接触型、接触型の温度センサを用いるものや、コイル2の近傍の空気の温度からコイル2の温度を推測するもの等、コイル2の温度を正確に且つ迅速に測定できるものを広く採用することができる。その他の特徴については第1実施形態と同じである。」

H 「

図7」

4 引用例3に記載された事項

原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2002-218743号公報(平成14年8月2日公開。以下,これを「引用例3」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

I 「【0062】(実施形態3)図4は、本発明の他の実施形態を示す主回路構成図である。同図が図1と異なる部分は、微調整用インバータ回路を設けた点にある。
【0063】この微調整用インバータ回路は、図6におけるインバータ3と、共振用コンデンサ6と共振用リアクトル8の直列接続になるLC共振回路と、トランス10および整流回路12と同様の構成にされ、昇圧チョッパ回路によるコンデンサC_(0)の充電後の電圧低下を防止する。」

J 「

図4」


第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「コンデンサ57」は,本願発明の「バンクコンデンサ」に相当するといえるから,引用発明と本願発明1とは,“バンクコンデンサ”を備える点で一致する。

イ 引用発明の「励起ランプ」は,本願発明の「レーザ光源」に相当する。
引用発明は,「コンバータ回路の出力で充電されたコンデンサからインバータによりスイッチングして励起ランプに電力を供給」するものであるところ,当該「インバータ」,すなわち「インバータ回路54」は,「励起ランプ」に対して,“交番電圧を間欠的に供給する高周波電源”であるといえ,上記アの認定事項を踏まえると,引用発明と本願発明1とは,“入力が前記バンクコンデンサと接続され,レーザ光源に交番電圧を間欠的に供給する高周波電源”を備える点で一致する。

ウ 引用発明の「レーザ電源装置」は,「コンデンサ57に充電した電気エネルギを瞬時に放電してレーザ励起用の前記励起ランプに供給して該励起ランプを点灯させ,レーザ出力,つまり放電,を行っていない時に,コンバータ回路53により所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサに充電」するから,当該「コンバータ回路53」は,“高周波電源の休止期間にバンクコンデンサを充電するスイッチングコンバータを含む充電回路”といい得るので,上記ア及びイの認定事項を踏まえると,引用発明と本願発明1とは,“前記高周波電源の休止期間に前記バンクコンデンサを充電する第1スイッチングコンバータを含む充電回路”を備える点で一致する。

エ 引用発明の「レーザ電源装置」は,「コンバータ回路53,インバータ回路54,システムLSI(大規模集積回路)56及びコンデンサ57とを含み,」「前記システムLSIは、PWM(パルス幅変調)発生回路を有し,前記PWM発生回路は,コンバータ回路53を駆動するPWM指令を発生」するものであるところ,当該「コンバータ回路53」は,「システムLSI」からの「PWM指令」を受けて,「所望の充電電圧まで昇圧してコンデンサ57」へ充電を行うものであることに鑑みれば,所定の“リアクトル”及び“スイッチングトランジスタ”を有することは自明である。
そして,「システムLSI」からの「PWM指令」は,当該“スイッチングトランジスタ”の“オン時間を計算するコントローラ”といい得ることから,引用発明と本願発明1とは,下記の点(相違点)で相違するものの,“前記第1スイッチングコンバータは,”“第1リアクトルと,”“第1スイッチングトランジスタと,”“前記第1スイッチングトランジスタのオン時間を計算する第1コントローラと,”“を含む”点で一致する。

オ 以上,ア?エの検討から,引用発明と本願発明1とは,次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
バンクコンデンサと,
入力が前記バンクコンデンサと接続され,レーザ光源に交番電圧を間欠的に供給する高周波電源と,
前記高周波電源の休止期間に前記バンクコンデンサを充電する第1スイッチングコンバータを含む充電回路と,
を備え,
前記第1スイッチングコンバータは,
第1リアクトルと,
第1スイッチングトランジスタと,
前記第1スイッチングトランジスタのオン時間を計算する第1コントローラと,
を含むレーザ用電源。

〈相違点〉
本願発明1の「第1スイッチングコンバータ」が,「前記第1リアクトルのコアの表面に取り付けられ、または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第1温度センサと、」「前記第1温度センサが検出した前記第1リアクトルの前記コアの温度にもとづいて、前記第1リアクトルのインダクタンスを取得し、当該インダクタンスを利用して前記第1スイッチングトランジスタのオン時間を計算する第1コントローラと、」「を含む」のに対し,引用発明の「コンバータ回路53」は,そのような構成を有しない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
本願発明1は,ドリル用のレーザ加工装置において,レーザ光源は不連続運転,すなわち,比較的短い数マイクロ?10マイクロ秒程度の発光期間と,それと同程度,あるいは短い,あるいは長い休止期間とが交互に繰り返されるので,レーザ光源の出力エネルギーを安定化するためには,直流電圧V_(DC)が所定の許容変動範囲に収まっていなければならず(【0003】),レーザ光源の点灯,消灯に応じて,高周波電源は動作期間と休止期間を繰り返し,高周波電源が休止期間から動作期間に移行するときに,直流電源においてフィードバックの応答遅れが生じ,直流電圧V_(DC)が低下し,許容変動範囲から逸脱するおそれがあり,また,高周波電源の動作期間から休止期間に移行したときには,フィードバック遅れにより直流電圧V_(DC)が上昇し,許容変動範囲から逸脱するおそれがあることを背景として(【0005】),レーザ用電源に,スイッチングコンバータが用いられる場合,スイッチングコンバータは,スイッチング素子,リアクトルなどを含み,リアクトルには大電流が流れるため,温度上昇が生じ,リアクトルが発熱すると,そのインダクタンス値が変動するため,スイッチングコンバータのコントローラが,スイッチング素子の制御演算にリアクトルのインダクタンス値を使用している場合,インダクタンス値の変動が直流電圧V_(DC)の変動を引き起こしてしまう課題(【0009】)に対し,高い繰り返し周波数でも,出力エネルギーを高精度に安定化可能なレーザ用電源を提供することを目的とするものである。(【0011】)
一方,引用発明は,本願発明の「第1スイッチングコンバータ」に対応する,「コンバータ回路53」が所定のリアクトルを具備することは自明であるといえるものの,これが「励起ランプ」の点灯・消灯に伴って温度が変化し,当該リアクトルのインダクタンスの値が変化することによって,「システムLSI」の「PWM(パルス幅変調)発生回路」が発する「コンバータ回路53を駆動するPWM指令」に影響を与えることまでの開示は無く,したがって当該「リアクトルのコアの表面に取り付けられ、または当該コアに埋め込まれ、当該コアの温度を測定する第1温度センサ」を取り付ける動機付けを欠くものである。
このことは,上記第5の3及び4に示した引用例2及び3にも記載されておらず,また,本願出願前の周知技術であったともいえない。
したがって,本願発明1は,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2及び3について

本願発明2及び3は,本願発明1をさらに減縮したものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

<特許法29条2項について>

審判請求時の補正では,上記第3に示したとおり,請求項の削除及び誤記の訂正がなされたものの,上記第6に示したとおり,本願発明1?3は,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1?3(上記第5の引用例1?3)に基づいて,容易に発明できたものとはいえないから,原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-10 
出願番号 特願2016-204337(P2016-204337)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土井 悠生  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 レーザ用電源  
代理人 富所 輝観夫  
代理人 森下 賢樹  

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