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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03B
管理番号 1377748
異議申立番号 異議2019-700694  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-04 
確定日 2021-07-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6477026号発明「映像投影窓」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6477026号の特許請求の範囲を、令和3年2月19日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6477026号の請求項2、5に係る特許を維持する。 特許第6477026号の請求項1、3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯の概要
特許第6477026号(以下「本件特許」という。)の請求項1-5に係る特許についての出願は、平成27年3月3日に出願され(優先権主張 平成26年6月2日)、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。

令和元年9月4日:特許異議の申立て(全ての請求項である請 求項1から5に対して)
令和元年12月19日付け :取消理由通知
令和2年2月21日 :訂正の請求、意見書の提出
令和2年4月1日 :意見書の提出(特許異議申立人)
令和2年6月15日付け :訂正拒絶理由通知
令和2年7月22日 :手続補正書(訂正請求書及び訂正特許請求の範囲の補正)及び意見書の提出
令和2年9月4日付け :取消理由通知
令和2年10月26日 :面接
令和2年11月9日 :訂正の請求、意見書の提出
令和2年12月9日 :意見書の提出(特許異議申立人)
令和2年12月24日付け :取消理由通知(決定の予告)
令和3年2月19日 :訂正の請求、意見書の提出
令和3年3月10日付け :訂正請求書に対する手続補正指令
令和3年4月12日 :手続補正書(訂正請求書の補正)の提出

なお、令和3年2月19日に提出された訂正請求書による請求の内容は、実質的に、取消理由が通知された請求項を削除する訂正のみであるから、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合(特許法120条の5第5項)に該当すると認め、特許異議申立人が意見書を提出する機会は、設けなかった。


第2 訂正の適否
1 訂正の請求の趣旨及び訂正の内容
令和3年2月19日にされた訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、特許第6477026号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から請求項5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2を独立請求項の形式に書き改める。

訂正事項2-2
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「光を透過する第1の透明基板と、光を透過する第2の透明基板と、」
との記載を、
「光を透過するガラス製の第1の透明基板と、光を透過するガラス製の第2の透明基板と、」
と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項2-3
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層と、を有し、」
との記載を、
「前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなり、」
と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項2-4
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、」
との記載を、
「前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、」
と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項2-5
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち」
との記載の前に、
「前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であり、」
という記載を挿入する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項2-6
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓において反射された映像を見ることができ、」
との記載を、
「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、」
と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項2-7
独立請求項の形式に書き改めた特許請求の範囲の請求項2における、
「反射率が25%以上である」
との記載を、
「前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下である」
と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)

訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における「請求項1から4のいずれか一つ」との記載を、「請求項2」と訂正する。

なお、本件訂正の請求がされたので、特許法120条の5第7項の規定により、令和2年2月21日にされた先の訂正の請求(その後、令和2年7月22日の手続補正で補正された。)及び令和2年11月9日にされた先の訂正の請求は、いずれも取り下げられたものとみなされる。

2 本件訂正についての当合議体の判断
本件訂正は、本件訂正前の請求項1から請求項5について請求項ごとにする訂正の請求であり、かつ、本件訂正前の請求項1から請求項5からなる一群の請求項ごとにする訂正の請求であり、特許法120条の5第3項及び第4項の規定に従ってされたものである。その他の訂正要件についての判断は、以下のとおりである。
なお、これらの請求項は、いずれも特許異議の申立てがされた請求項であるから、本件訂正に特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の要件(独立特許要件)は、課されない。

(1) 訂正事項1、3、4、5について
訂正事項1、3、4は、それぞれ請求項1、3、4を削除する訂正であり、訂正事項5は、多数項を引用する請求項5の引用請求項数を削減する訂正である。したがって、訂正事項1、3、4及び5は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1、3、4、5はいずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、いずれも特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(2) 訂正事項2-1から訂正事項2-7について
ア 訂正事項2-1について
(ア) 訂正事項2-1は、特許請求の範囲の請求項2を独立請求項の形式に書き改める訂正であり、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2-2について
(ア) 訂正事項2-2は「光を透過する第1の透明基板と、光を透過する第2の透明基板と」を、いずれも「ガラス製の」ものに限定する訂正であるから、訂正事項2-2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-2は、【請求項4】の、「前記第1の透明基材及び前記第2の透明基材は、いずれもガラス基板、または、いずれもポリカーボネートにより形成されている」との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項2-3及び訂正事項2-4について
(ア) 訂正事項2-3は「映像投影膜」につき、「3層からなり」と限定する訂正であり、訂正事項2-4は「第1の透明樹脂層」及び「第2の透明樹脂層」につき、それぞれ「前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、」及び「前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、」と限定する訂正であるから、これらの訂正事項は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 願書に添付した図面の【図1】(下記参照)から、映像投影膜20が第1の透明樹脂層21、反射膜30及び第2の透明樹脂層22の3層からなり、また、第1の透明樹脂層21及び第2の透明樹脂層22につき、それぞれ、第1の透明基板11から近い表面が平坦であり、第2の透明基板12から近い表面が平坦であることが見て取れるから、訂正事項2-3及び訂正事項2-4は、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。そして、いずれも特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、から、訂正事項2-3及び訂正事項2-4は、いずれも特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
「【図1】



エ 訂正事項2-5について
(ア) 訂正事項2-5は「第1の透明樹脂層」及び「第2の透明樹脂層」につき、「光硬化樹脂であり、」と限定する訂正であるから、訂正事項2-5は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-5は明細書の段落【0024】?【0025】の次の記載を根拠とするものであるから、訂正事項2-5が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、訂正事項2-5は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
「【0024】
第1の透明層21は、透明樹脂層であることが好ましい。透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の光硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂が好ましい。窓としての機能が損なわれないよう、透明感を維持するため、透明樹脂のイエローインデックスが10以下であると好ましく、5以下がより好ましい。第1の透明層21の透過率は50%以上であると好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0025】
第2の透明層22は、透明樹脂層であることが好ましい。透明樹脂としては、第1の透明層21におけるのと同様のものであってよい。第1の透明層21と同一の材料により構成されていても異なる材料により構成されていてもよいが、同一の材料により構成されていることが好ましい。第2の透明層22は、透明樹脂層であることが好ましい。第2の透明層22の透過率は50%以上であると好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。」

オ 訂正事項2-6について
(ア) 訂正事項2-6は「前記映像投影窓において反射された映像」につき、「凹凸において」反射されたものに限定する訂正であるから、訂正事項2-6は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-6は明細書の段落【0043】の次の記載を根拠とするものであるから、訂正事項2-6が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、訂正事項2-6は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
「【0043】
映像投影膜20は、下記の構成であってもよい。ハーフミラーに散乱材料を積層したものであってもよい。体積ホログラムによって、反射、偏向、拡散されるものであってもよい。キノフォーム型ホログラム、その他凹凸表面やその表面に反射膜を形成した構成によって、偏向、反射、拡散されるものであってもよい。コレステリック液晶、高分子コレステリック液晶を利用したものであってもよい。コレステリック液晶は、凹凸表面上に配向、形成したものであってもよい。高分子コレステリック液晶の表面をエッチング等で凹凸をつけたものであってもよい。コレステリック液晶を水平配向と垂直配向の基材にて液晶層を形成したものであってもよい。コレステリック液晶に界面活性剤を添加したものを基材上に塗布して、塗布表面を垂直配光させたものであってもよく、また、塗布表面の配向性を落としたものであってもよい。」

カ 訂正事項2-7について
(ア) 訂正事項2-7は「映像投影窓」の光学特性につき、「前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が」「70%以下である」と限定する訂正であるから、訂正事項2-7は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ) 訂正事項2-7は明細書の段落【0014】?【0017】の次の記載を根拠とするものであるから、訂正事項2-7が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。したがって、訂正事項2-7は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
「【0014】
〔第1の実施の形態〕
(映像投影窓)
本実施の形態における映像投影窓は、外の景色が透過して見えるように、可視光における透過率は1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、スクリーンとしてのゲインを適切に保つために、可視光における透過率は90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。スクリーンとして機能させるためには、スクリーンゲインが高い方が良いため、反射率は5%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。また、透過率を確保する視点から、反射率は70%以下が好ましい。
【0015】
前方ヘイズは、15以下であってよく、10以下であってよい。また、前方ヘイズは、スクリーン特性との両立という観点からは、0.2以上であってよく、0.5以上であってよく、0.8以上であってよい。前方ヘイズとは、透過光のうち、入射光から2.5°以上それた透過光を百分率で表したものである。
【0016】
後方ヘイズは、5以上であってよい。また、後方ヘイズは、透明性という観点からは、90以下であってよく、80以下であってよい。後方ヘイズとは、反射光のうち、正反射光から2.5°以上それた反射光を百分率で表したものである。
【0017】
映像投影構造体は、周囲に外光が存在する環境下で利用されることに適しており、映像投影構造体を見る観察者の視線が届く範囲に100ルクス以上の環境があっても、視認性良く、投影された映像と背景が見えることが好ましい。そのためには、前方ヘイズに対し、後方ヘイズが大きいことが好ましい。」

(3) 本件訂正についての当合議体の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号若しくは4号に掲げる事項を目的とし、同法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであるから、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、令和3年2月19日の手続補正で補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の請求項1-5に係る発明
上記のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1-5に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」などという。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、訂正後の請求項1-5の記載は次のとおりである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】
光を透過するガラス製の第1の透明基板と、
光を透過するガラス製の第2の透明基板と、
前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜と、
を有する映像投影窓であって、
前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなり、
前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、
前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であり、
前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、
前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であり、
前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸であることを特徴とする映像投影窓。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記映像投影窓は、車両に用いられる映像投影車両窓であることを特徴とする請求項2に記載の映像投影窓。」


第4 取消理由及び判断
1 取消理由の概要
当審が令和2年12月24日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

願書に添付した明細書の段落【0006】には、
「本発明は、映像投影構造体を透過して見える背景の像の視認性を低下させることなく、投影された映像の視認性の高い映像投影構造体を提供することを課題とする。」
と記載されており、背景の像と投影された映像の双方について視認性を確保することが課題であることが明示されている。
ここで、映像投影膜を形成する第1の透明樹脂層の表面の凹凸が強い規則性を有している場合、凹凸の周期によっては干渉効果が生じるなどして、凹凸は十分な乱反射(散乱)体として機能が発生せず、投影された映像を視認することが困難となることは技術常識であるといえる。
そうすると、前記表面の凹凸がランダムなものであることの特定がなされていない請求項1の記載で特定される発明は、「映像投影構造体を透過して見える背景の像の視認性を低下させることなく、投影された映像の視認性の高い映像投影構造体を提供する」という課題を解決できるものとして、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいうことができない。
したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項5に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審の判断
本件訂正により、表面の凹凸がランダムなものであることの特定がされていない請求項1が削除された。また、請求項5は、表面の凹凸がランダムであると特定されている請求項2のみを引用するものとなった。
したがって、上記取消理由は解消された。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1
本件訂正前の請求項1から5に係る発明は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当する。

2 申立理由2
(1) 申立理由2-1
本件訂正前の請求項1から5に係る発明は、甲1号証に記載された発明及び甲3号証から甲7号証に示されたような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 申立理由2-2
本件訂正前の請求項1から5に係る発明は、甲2号証に記載された発明及び甲3号証から甲9号証に示されたような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 申立理由3
(1) 申立理由3-1
本件発明は、「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓において反射された映像を見ることができ」との特定がされた映像投影窓の発明であるが、映像投影装置が存在せず、物の発明としてどのような事項を特定しているのかが不明瞭であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1から5について、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

(2) 申立理由3-2
本件発明は、反射膜を備えておらず、反射率が15%以下である透過型スクリーンの発明として明細書に記載された第2の実施形態と矛盾するものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1から5について、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。


4 引用文献一覧
本異議の決定で引用する文献は、次のとおりである。
甲1号証:特表2005-530627号公報
甲2号証:特表2014-509963号公報
甲3号証:特開2002-99047号公報
甲4号証:特開2007-171468号公報
甲5号証:特開平4-95901号公報
甲6号証:特開2000-249965号公報
甲7号証:特開平11-142961号公報
甲8号証:国際公開第2013/190959号
甲9号証:特開2006-201637号公報
参考資料1:特表平6-500056号公報
参考資料2:特開2012-3027号公報
参考資料3:特開2013-114073号公報


第6 当審の判断
1 各甲号証について
(1) 甲1号証について
ア 甲1号証の記載
甲1号証には、次の記載がある。(下線は当合議体が付した。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、従来見られなかった独特の視覚的外見と併せて太陽光線の高い反射性を有する、建築物および自動車用途向け破砕防止の積層窓アセンブリの使用に関する。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書に開示されている発明は、2つの高分子支持部の間に配置された金属被膜を備えた多層の表面模様構造を備えるガラス積層品用中間膜として使用する型押し装飾用複合材料について説明するものである。この型押し装飾用複合材料はさらに2つの接着層の間に配置し、その結果得られる中間膜を形成することができる。この中間膜はさらに2枚のガラス板の間に配置し、これによってガラス積層最終製品を形成することができる。
【0013】
図1について説明すると、日射量を調整するための光学的に透明な安全窓ガラスのガラス板4および6などの1つまたは複数の硬質透明層で使用する積層品2が図1に示されている。図1の実施形態において、安全窓ガラスは、分かりやすくするために積層品2から間隔を置いて示した対向するガラス板4および6にしっかりと接合された積層品2を含んでいる。積層品2は、好ましくはポリビニルブチラール(PVB)の2つの接着層8および10、および型押し装飾用複合材料18を含んでいる。型押し装飾用複合材料18は図2にも示されている。型押し装飾用複合材料18は、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)の2つの高分子支持層14および16を含んでいる。このような高分子支持層の1つは、その上に配置された薄い金属被膜12を有し、接着剤を使用して他の高分子支持層に接合されている。
【0014】
本発明の型押し装飾用複合材料の中心で、高分子支持層上に配置された薄い金属被膜を使用し、金属被覆フィルムを形成している。この金属被覆フィルムは、さらに接着剤によって第2の高分子支持層に接合されて装飾用複合材料を形成している。この装飾用複合材料は型押しされ、その結果、安全窓ガラスにおいて日光にさらされた場合に赤外太陽光線および大部分の可視光を反射する。自動車用ガラスおよび建築建造物用途で本発明を使用するためにいくらかの可視光透過が必要なので、本発明の型押し装飾用複合材料は可視光すべてを完全には反射しない。本発明の型押し装飾用複合材料は、可視光透過率が約2%から約70%の範囲であることが好ましい。一般に、金属被覆フィルムの金属被膜が厚くなればなるほど、可視光透過率が低く/可視光反射が大きくなる。金属被膜に使用する好適な金属としては、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、亜鉛、銅,錫、金およびそれらの合金ならびに真鍮やステンレス鋼などのその他の合金がある。本発明の好ましい金属はアルミニウムである。」

「【0033】
それぞれが粗面化されて脱気する表面を有する型押し装飾用複合材料層18ならびに層8および10は、対向して回転するプレスロール68a、68bの間の積層ニップ内に導かれ、そこで3層が1つに結合する。これによって層間の空気が追い出されるが、高背型の型押しされた金属被覆フィルムにとって、この工程は、層の間からできるだけ多くの空気を除去するのに必須のものであるので重要なステップである。この結合の結果、層8および10の外側の非接合脱気面を平坦化することなく、装飾用複合材料層18がPVB層8および10内に封入されてゆるく接合された図1の積層品2を形成する。層8および10はロール72a、72bから供給され、またテンションロール73をPVB層供給ラインに設けることができる。所望する場合は、場合によってはプレスロール68a、68bを加熱して接合を促進することができる。プレスロール68a、68bが示す接合圧力は、選択されるキャリアフィルムおよび用いられる接合温度によって変わりうるが、一般には約0.7から5kg/cm2の範囲になり、好ましくは約1.8?2.1kg/cm2である。積層品2の張力はアイドラロール74上に通すことによって制御されている。図2のアセンブリ全体の代表的なライン速度は5?30フィート/分(1.5?9.2メートル/分)である。」

「【0037】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、本発明を限定または制約するものではなく、次の材料を使用して例示されている。型押し装飾用複合材料の製造で使用するために公称厚さ0.002インチ(51ミクロン)のデュポン-帝人社製の2軸配向PETフィルムのロール2本を得た。このPETフィルム基材タイプは、高温低収縮特性(150℃で30分後の収縮が1%未満)、良好な透明度および良好なウェブ取扱特性を有し、メーカーによれば特に金属被覆用途に好適であるとのことであった。
【実施例1】
【0038】
PETフィルム表面の接着処理
PETフィルムはPVBに対し十分な接着性を有していなかったので、許容接着レベルを得るためにアルゴン/窒素ガス混合物を使用して、PETの2本のロールそれぞれについて一方の面を高真空「グロー放電」プラズマによって処理した。PETフィルムの著しい黄化を招くことなくPETに対するPVBの接着性を最大限にするようにプロセスのエネルギー入力およびライン速度を選択した。
・・・<中略>・・・
【実施例2】
【0042】
PETフィルムのアルミニウム被膜
一方の面をプラズマ処理したフィルム(実施例1)のロールを「金属被覆加工」するために真空室に挿入した。一連の真空ポンプを使用してアルミニウムの蒸発圧力(6.7×10-2Pa/0.5ミクロン水銀柱)に達するまで真空室の圧力を下げた。この圧力点においてアルミニウム供給源の電気抵抗加熱によりアルミニウムの蒸発を開始し、未処理のPET表面上にアルミニウムを蒸着させた。被膜厚さ?50オングストロームを得るように蒸着速度を調整した。
【実施例3】
【0043】
金属被覆フィルムの積層(→装飾用複合材料)
アルミニウム表面の酸化を最小限にするために、アルミニウム金属被覆フィルム(実施例2)のロールを、前以って接着を促進した(実施例1)PETフィルムの2番目のロールの未処理表面に積層した。従来の2層被膜/オーブン乾燥/ニップロール積層工程を用い、イソシアネート架橋ポリエステル接着剤システムを使用して1つのフィルムのアルミニウムで被膜した表面を他のフィルムの未処理表面に接合し装飾用複合材料を得た。
・・・<中略>・・・
【実施例4】
【0045】
形押し加工
実施例3で形成された積層装飾用複合材料を、2つの円筒形ロールの使用を伴い、一方のロールは軟らかい表面を有し他方のロールは模様を彫り刻んだ硬い表面を有するニップロール型押しプロセスにかけた。この実施例に対しては異なる2つの彫刻ロール、すなわち1つは代表的な「ゆず肌」模様、もう1つは「六角形ピン」模様を利用した。2つの型押しロールのそれぞれについて、PETフィルムを軟化させ型押し工程時にそれをより適合性のあるものにするために赤外線(IR)加熱を用いて装飾用複合材料を予熱した。装飾用複合材料は、この後ニップロールを通して移送され、十分なニップロール圧力を用いて彫刻ロールの模様をその表面上に付与して型押し装飾用複合材料を形成する。「ゆず肌」および「六角形ピン」の各模様を備えた型押し装飾用複合材料を作成した。
【実施例5】
【0046】
PVBシートとの組み合わせ
封入法および米国特許第5091258号に記載の条件と同様の処理条件を用いて、実施例4から得た六角形ピン模様の型押し装飾用複合材料を、ソルティア社が製造、販売している0.015インチ厚のSaflex(登録商標)PVB-RB11シート2つの層と結合し、ガラス積層品の製造に使用するのに好適な中間膜を形成した。
【実施例6】
【0047】
ガラス積層品の作製/評価テスト
実施例5で形成した中間膜を使用し、下記の手順を用いてガラス積層品を作成した。
・・・<中略>・・・
【0049】
(b)対流式オーブンで華氏105度(40.6℃)に予熱した12インチ×12インチの清浄な焼きなまし透明ガラス2枚を、工程(1)で得た状態を調整した中間膜と結合した。
・・・<中略>・・・
【0053】
(f)積分球を備えた分光光度計Lambda 900を用い、10度の観測角でD65イルミナントを用い、ISO9050-空気質量2.0を用いて積層品太陽光特性を評価した。特性を以下の表1にまとめた。
【0054】
【表1】





甲1号証には以下の図が示されている。

【図1】




イ 甲1号証に記載された事項の認定
前記アの記載事項を踏まえると、甲1号証には以下のことが記載されていると認められる。

(ア) 2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18を、2つの接着層8および10の間に配置して中間膜(積層品2)を形成し、この中間膜(積層品2)を2枚のガラス板4および6の間に配置することによって、建築物および自動車用途向け破砕防止の積層窓アセンブリとして使用されるガラス積層最終製品(安全窓ガラス)を形成すること(【0001】、【0012】-【0014】、【図1】)。

(イ) 上記「(ア)」より、ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)は、ガラス板6、接着層10、高分子支持層16、金属被膜12、高分子支持層14、接着層8、ガラス板4の順に積層しているものと認められる。

(ウ) 以下のa?gの処理を行って、積層最終製品(安全窓ガラス)となるガラス積層品を製造する製造方法(【0037】、【0038】、【0042】、【0043】、【0045】-【0047】、【0049】)。

a 公称厚さ0.002インチ(51ミクロン)のデュポン-帝人社製の2軸配向PETフィルムのロール2本を得ること(【0037】)。

b PETの2本のロールそれぞれについて一方の面を高真空「グロー放電」プラズマによって処理すること(【0038】)。

c 一方の面をプラズマ処理したフィルムのロールを「金属被覆加工」するために真空室に挿入し、被膜厚さ?50オングストロームを得るように蒸着速度を調整して、未処理のPET表面上にアルミニウムを蒸着させること(【0042】)。

d アルミニウム金属被覆フィルムのロールを、前以って接着を促進したPETフィルムの2番目のロールの未処理表面に積層し、2層被膜/オーブン乾燥/ニップロール積層工程を用い、1つのフィルムのアルミニウムで被膜した表面を他のフィルムの未処理表面に接合し装飾用複合材料18を得ること(【0043】)。

e 形成された積層装飾用複合材料18を、一方のロールは軟らかい表面を有し他方のロールは模様を彫り刻んだ硬い表面を有するニップロール型押しプロセスにかけて、「ゆず肌」の模様を備えた型押し装飾用複合材料18を作成すること(【0045】)。

f 得られた型押し装飾用複合材料18と、PVB-RB11シート2つの層(層8および10)が、対向して回転するプレスロール68a、68bの間の積層ニップ内に導かれ、層間の空気が追い出され、3層が1つに結合して中間膜(積層品2)を形成すること(【0033】、【0046】)。

g 透明ガラス2枚を、形成した中間膜(積層品2)と結合し、ガラス積層品を作成すること(【0047】、【0049】)。

(エ) 前記(ウ)a?eの処理によれば、0.002インチ(51ミクロン)の2つのPETフィルムの間に配置された、被膜厚さ?50オングストロームの金属被膜12を備えた装飾用複合材料18は、約0.004インチ(102ミクロン)程度の薄いものであるから、一方のロールは軟らかい表面を有し他方のロールは模様を彫り刻んだ硬い表面を有するニップロール型押しプロセスにかけて作成された、「ゆず肌」の模様を備えた型押し装飾用複合材料18は、その両面に同じ「ゆず肌」の模様が形成されることになると認められる。そして、2つのPETフィルムの間に配置された金属被膜12は「ゆず肌」の模様が形成されているものと認められる。

(オ) 前記(ア)より、型押し装飾用複合材料18は、2つの接着層8および10の間に配置されて中間膜(積層品2)を形成することになる。
この型押し装飾用複合材料18を、前記「(ウ)f」の処理によって、PVB-RB11シート2つの層(層8および10)ともに、対向して回転するプレスロール68a、68bの間の積層ニップ内に導いて、層間の空気を追い出すと、PVB-RB11シート2つの層(接着層8および10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は型押し装飾用複合材料18と同じ「ゆず肌」の模様を備えることになると認められる。そして、上記「エ」のとおり、型押し装飾用複合材料18は、その両面に同じ「ゆず肌」の模様が形成されているから、PVB-RB11シート2つの層(接着層8および10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は共に同じ「ゆず肌」の模様を備えることになる。

(カ) 前記(ウ)cの処理によれば、金属被膜12の被膜厚さが50オングストロームとなるものと認められる。

(キ) ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光透過率Tvが31.7%であり、ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光反射率Rvが46.3%であること(【0012】、【0047】、【0049】、【0053】、【0054】【表1】)。

(ク) 図1から、接着層8はガラス板4から近い表面が平坦であり、接着層10はガラス板6から近い表面が平坦であることが読み取れる。

ウ 甲1号証に記載された発明の認定
前記イ(ア)?(ク)を総合すると、甲1号証には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18を、2つの接着層8および10の間に配置して中間膜(積層品2)を形成し、この中間膜(積層品2)を2枚のガラス板4および6の間に配置することによって形成された、建築物および自動車用途向け破砕防止の積層窓アセンブリとして使用されるガラス積層最終製品(安全窓ガラス)において(前記イ(ア)参照)、
ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)は、ガラス板6、接着層10、高分子支持層16、金属被膜12、高分子支持層14、接着層8、ガラス板4の順に積層しており(前記イ(イ)参照)、
接着層8はガラス板4から近い表面が平坦であり、接着層10はガラス板6から近い表面が平坦であり(前記イ(ク)参照)、
型押し装飾用複合材料18は、約0.004インチ(102ミクロン)程度以下の薄いものであり、PVB-RB11シート2つの層(接着層8および10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は共に同じ「ゆず肌」の模様を備え(前記イ(オ)参照)、
金属被膜12は「ゆず肌」の模様が形成されており(前記イ(エ)参照)、
金属被膜12の被膜厚さが50オングストロームであり(前記イ(カ)参照)、
ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光透過率Tvが31.7%であり、ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光反射率Rvが46.3%である(前記イ(キ)参照)、
建築物および自動車用途向け破砕防止の積層窓アセンブリとして使用されるガラス積層最終製品(安全窓ガラス)(前記イ(ア)参照)。」

(2) 甲2号証について
ア 甲2号証の記載
甲2号証には、次の事項が記載されている。(下線は当合議体が付した。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散反射特性を有する透明な層状部材に関する。」
「【発明の概要】
【0006】
本発明は、より詳しくは、部材を通して明瞭な視界を有し、部材の鏡のような反射を制限し、そして部材の拡散反射を促進することを同時に可能にする層状部材を提案することによってこれらの欠点を克服しようとするものである。」
「【0025】
本発明の1つの態様によれば、層状部材の拡散反射特性は、放射が入射した側の複数の方向に放射の大部分を反射するのに利用される。この高い拡散反射を得る一方でそれと同時に、層状部材を通した明瞭な視界を有する、すなわち、層状部材は、層状部材の正透過特性のため半透明である。こうした高い拡散反射を有する透明な層状部材は、例えば、ディスプレイスクリーン又はプロジェクションスクリーン向けの適用を満たす。
【0026】
特に、こうした高い拡散反射を有する層状部材は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる。既知の様式において、特に、飛行機コックピット、列車のみならず、今日では、個人の自動車(乗用車、トラックなど)でも使用されているHUDシステムは、ドライバー又は同乗者に向かって反射されるグレージング、一般的に自動車のフロントガラスに映し出された情報を表示することを可能にする。これらのシステムは、ドライバーが自動車の前方視界から目を逸らす必要なしにドライバーに情報提供することを可能するので、それは安全性の大幅な増強を可能にする。ドライバーは、虚像がグレージングの後ろの一定の距離に位置していると認識する。
【0027】
本発明の1つの態様によれば、層状部材は、情報がそれに映し出されるグレージングとしてHUDシステムに組み込まれる。本発明の別の態様によれば、層状部材はHUDシステムのグレージング、特にフロントガラスの主表面上に追加される軟質膜であり、情報が軟質膜側のグレージング上に映し出される。この2つの場合において、層状部材内で放射が遭遇する第1の凹凸のある接触表面において、虚像の良好な視覚化を可能にする高い拡散反射が起こるのに対して、グレージングを通して明瞭な視界を確保するグレージングを通した正透過が維持されている。」

「【0083】
層状部材1を製造する方法の実施例を、図4?7を参照しながら以下に記載する。
・・・<中略>・・・
【0095】
図6の方法において、層状部材1の第2の外層4は、ともに基材2と実質的に同じ屈折率を有する透明ポリマーの積層中間層4_(1)及び透明基材4_(2)の、中心層3から始まる重ね合わせによって形成される。基材2がガラスで作られる場合、第2の外層4は、例えば、基材2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3Bに対して配置された、PVB又はEVAで作られた積層中間層4_(1)と、中間層4_(1)の上に乗せるガラス基材4_(2)との重ね合わせによって形成することができる。
【0096】
この場合、外層4は、従来の積層方法によって、中心層3で前もって覆われている基材2に接着される。この方法において、ポリマーの積層中間層4_(1)と基材4_(2)は、中心層3の凹凸のある主表面3Bから始まって、連続的に配置され、次いで、例えば、プレス機又はオーブンにより、少なくともポリマーの積層中間層4_(1)のガラス転移温度での圧縮及び/又は加熱がその積層構造に加えられ、それよって形成される。この積層工程の間、中間層4_(1)は、中心層3の凹凸のある表面3Bの凹凸に沿っており、そしてそれが、中心層3と外層4の間の接触表面S1に十分に凹凸があり、かつ、中心層3と外層2の間の接触表面S_(0)に平行であることを確保する。
【0097】
図7で例示した方法において、層状部材1は、200?300μm程度の総厚がある軟質膜である。この層状部材の外層2は、その2つの主表面が平坦である、ポリマー材料でできた軟質膜2_(1)、及び膜2_(1)の一方の平坦な主表面に対して適用される、UV照射の作用下で光架橋性及び/又は光重合性である材料でできた層2_(2)の重ね合わせによって形成される。
・・・<中略>・・・
【0099】
樹脂層2_(2)は、膜2_(1)の反対側のその表面2Bに導入されるべき凹凸形成を可能にする粘性で膜2_(1)に適用される。図7で例示したように、表面2Bの凹凸形成は、その表面に、層2_(2)で形成されるべきものに相補的な凹凸を有するロール9を使用することで行うことができる。凹凸が形成されるとすぐに、重ね合わされた膜2_(1)と樹脂層2_(2)に、図7の矢印によって示される、UV照射を照射し、そしてそれが、その凹凸形成、及び膜2_(1)と樹脂層2_(2)の組み立てを伴った樹脂層2_(2)の固形化を可能にする。
【0100】
次いで、外層2とは異なる屈折率を有する中心層3が、マグネトロンスパッタリングによって凹凸を付けた表面2Bに沿って堆積される。この中心層は、先に記載したように、単層であってもよいし、層の積み重ねによって形成されてもよい。それは、例えば、50nm程度の厚みがあり、かつ、550nmにて2.45の屈折率を有するTiO_(2)の層であってもよい。
【0101】
次いで、100μmの厚みを有する第2のPET膜が、層状部材1の第2の外層4を形成するために中心層3に堆積される。この第2の外層4は、PETのガラス転移温度での圧縮及び/又は加熱によって外層2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3Bに沿うようにされる。
・・・<中略>・・・
【0107】
また、図7で例示した軟質膜の形態での層状部材の接着を改善するために、ポリマーの積層中間層を、中心層3と第2のポリマー膜4の間に挿入することもできるが、ここで、この積層中間層は、外層を形成する膜2及び4と実質的に同じ屈折率を有している。この場合、図6の実施例と同様の様式により、第2の外層は、積層中間層と第2のポリマー膜の重ね合わせによって形成され、そしてそれは、中心層3で前もってコーティングされた第1の外層2に(積層構造に適用される、少なくともポリマーの積層中間層のガラス転移温度での圧縮及び/又は加熱である)従来の積層方法によって接着される。
【実施例】
【0108】
本発明による層状部材の4つの実施例の反射特性を、以下の表1に示す。表1に示した層状部材の反射特性は、次のものである。
TL:標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した可視域の光透過(%単位)。
曇り度T:外層2の側面において層状部材に入射する放射に関して標準的なASTM D1003に従ってヘーズメーターを使用して計測した透過(%単位)。
RL:標準的なISO規格9050:2003(光源D65、2°視野の観察者)に従って計測した外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する可視域の総光反射(%単位)。
曇り度R:Minolta製ポータブル機で計測した可視域の総光反射(%単位)を可視域の非正光反射(%単位)で割った比率と規定される、外層2の側面において層状部材に入射する放射に関する反射における曇り度(%単位)。
【0109】
【表1】



「【0110】
表1に示した実施例1?4のそれぞれに関して、外層2として使用した基材は、6mmの厚みを有し、かつ、その主表面の一方に酸処理によって得られた凹凸のあるSaint-Gobain Glass社製のSATINOVO(登録商標)ガラスである。(SATINOVO(登録商標)ガラスの凹凸のある表面の粗さRaに相当する)外層2の凹凸の特徴の平均の高さは3μm程度のものである。
【0111】
さらに、実施例1?4のそれぞれに関して、(単数若しくは複数の)構成層の中心層3を、以下の堆積条件を用いた外層2の凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた:」

【0112】
【表2】



「【0113】
実施例1?3において、外層4を、4mmの厚みを有するSaint-Gobain Glass社製のPLANILUX(登録商標)ガラスと組み合わせた、100μm程度の厚みを有するNorland Optics社製の樹脂NOA75(登録商標)又はNOA65(登録商標)の層によって形成する。実施例1?3のそれぞれにおいて、樹脂を、外層2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3B上に、この表面3Bの凹凸になじむように液体状態で堆積させ、次いで、PLANILUX(登録商標)ガラスで覆った後にUV照射の作用下で硬化させた。」

甲2号証には以下の図が示されている。
【図1】


【図6】


【図7】


イ 甲2号証に記載された発明の認定
前記アの記載事項を総合すると、甲2号証には次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「層状部材1が、主表面の一方に酸処理によって得られた凹凸のあるガラスである外層2(【0001】、【0110】、図1、図6)と、外層2の凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた中心層3(【0111】、【0112】)、及び、ガラスと組み合わせた樹脂NOA75(登録商標)又はNOA65(登録商標)の層によって形成する外層4(【0113】)からなり、
外層4は、外層2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3B上に、この表面3Bの凹凸になじむように液体状態で堆積させ、次いで、PLANILUX(登録商標)ガラスで覆った後にUV照射の作用下で硬化させてなり(【0113】)、
層状部材1が適用され、映し出された情報を表示することを可能にする自動車のフロントガラスであって(【0026】)、
中心層3の厚みが55nmで構成され(【0109】、【表1】の実施例No.1)、
層状部材の特性は、曇り度Tが2.8%、曇り度Rが59.0%、可視域の総光反射RLが14.9%、可視域の光透過TLが76.7%である(【0108】、【0109】、【表1】の実施例No.1)、
映し出された情報を表示することを可能にする自動車のフロントガラス。」

(3) 甲3号証について
甲3号証の【0017】、【0026】、【図1】、【図6】には、投影された像を反射して、反射した像を見ることができるスクリーン装置であって、光の60%を透過し、40%を反射する半透過スクリーンシートを有する装置が、記載されていると認められる。

(4) 甲4号証について
甲4号証の【0009】、【0011】、【0013】、【図4】には、投影された像を反射して、反射した像を見ることができるスクリーンであって、可視光透過率が40?50%、可視光反射率が20?35%である光選択層を有するスクリーンが、記載されていると認められる。

(5) 甲5号証について
甲5号証の第5頁左下欄第5行-同頁右下欄第12行、第2図には、可視光の反射率または透過率が30?70%の範囲を有するヘッドアップディスプレイのスクリーン(コンバイナ)が、記載されていると認められる。

(6) 甲6号証について
甲6号証の【0011】、【0020】、【0021】、【図1】には、可視光線反射率が10?50%の範囲を有するコンバイナが、記載されていると認められる。

(7) 甲7号証について
甲7号証の【0050】、【図6】には、可視光の反射率が10?40%であるスクリーンやコンバイナが、記載されていると認められる。

(8) 甲8号証について
甲8号証の【0079】、【0224】には、反射率が14?30%である透明スクリーンが、記載されていると認められる。

(9) 甲9号証について
甲9号証の【0019】、【図3】には、両面にガラス基板を備えた透過型スクリーンが、記載されていると認められる。


2 申立理由1及び申立理由2-1について(甲1号証を主引例として)
(1) 本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲1発明の対比
本件特許発明2と甲1発明を対比すると、次のことをいうことができる。

(ア) 甲1発明の「ガラス板4」と「ガラス板6」は、本件特許発明2の「光を透過するガラス製の第1の透明基板」と「光を透過するガラス製の第2の透明基板」に相当する。

(イ) 甲1発明において、「PVB-RB11シート2つの層(接着層8および10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は共に同じ「ゆず肌」の模様を備え」ていることは、「接着層10」において「ガラス板6」とは反対側となる「型押し装飾用複合材料18」と接触する部分と、「接着層8」において「型押し装飾用複合材料18」と接触する部分が、同じ凹凸を有していることを意味するから、甲1発明においては、「接着層8」において「型押し装飾用複合材料18」と接触する部分と、「接着層10」において「ガラス板6」とは反対側となる「型押し装飾用複合材料18」と接触する部分とは、凹凸を埋めるような関係となるものと認められる。
してみると、甲1発明において、「型押し装飾用複合材料18は、約0.004インチ(102ミクロン)程度以下の薄いものであり、PVB-RB11シート2つの層(接着層8および10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は共に同じ「ゆず肌」の模様を備え」ていることは、本件特許発明2の「前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、」「前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され」ていることに相当する。
また、甲1発明において、「接着層8はガラス板4から近い表面が平坦であり、接着層10はガラス板6から近い表面が平坦であ」ることは、本件特許発明2の「前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、」「前記第2の透明樹脂層は、」「前記第2の透明基板から近い表面が平坦であ」ることに相当する。

(ウ) 甲1発明においては、「金属被膜12は「ゆず肌」の模様が形成されて」いるから、「金属被膜12」に対して、焦点が合うように映像を投影すれば、「金属被膜12」において該映像が反射されて、該映像を見ることができるものと認められる。
してみると、甲1発明の「2枚のガラス板4および6の間に配置」される「中間膜(積層品2)を形成」する「2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18」は、本件特許発明2の「前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜」に相当するということができる。

(エ) 前記(ウ)より、甲1発明の「「ゆず肌」の模様が形成され」た「金属被膜12」を含む「建築物および自動車用途向け破砕防止の積層窓アセンブリとして使用されるガラス積層最終製品(安全窓ガラス)」は、本件特許発明2の「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ」る「映像投影窓」に相当するということができる。

(オ) 甲1発明においては、「積層最終製品(安全窓ガラス)」は、「2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18」を備えるものであり、「ガラス板6、接着層10、高分子支持層16、金属被膜12、高分子支持層14、接着層8、ガラス板4の順に積層して」いるから、「型押し装飾用複合材料18」が、「ガラス板6」に近い順に、「高分子支持層16」と、「金属被膜12」と、「高分子支持層14」とを有しているものと認められる。そして、このことは、本件特許発明2が「前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からな」ることと、「前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層と、を有し」ている点で共通する。

(カ) 甲1発明の「金属被膜12の被膜厚さが50オングストロームであ」ることは、「金属被膜12の被膜厚さ」が5nmであることを意味するから、本件特許発明2の「前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され」ていることに相当する。

(キ) 甲1発明において、「ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光透過率Tvが31.7%であり、ガラス積層最終製品(安全窓ガラス)の可視光反射率Rvが46.3%である」ことは、本件特許発明2の「可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であ」ることに相当する。

(ク) 甲1発明において、「PVB-RB11シート」「の層(接着層」「10)において型押し装飾用複合材料18と接触する部分は」「「ゆず肌」の模様を備え」ることは、本件特許発明2の「前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸であること」に相当する。

イ 本件特許発明2と甲1発明の一致点及び相違点
前記アの検討結果を総合すると、本件特許発明2と甲1発明の間における一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「光を透過するガラス製の第1の透明基板と、
光を透過するガラス製の第2の透明基板と、
前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜と、
を有する映像投影窓であって、
前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層と、を有し、
前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、
前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、
前記映像投影窓の可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であり、
前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸である映像投影窓。」

[相違点1]
本件特許発明2においては、ガラス製の透明基板に挟まれた「映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からな」るとされているのに対し、甲1発明は「高分子支持層14および16」を含む5層からなるものである点。

[相違点2]
本件特許発明2においては「前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であ」るとされているのに対し、甲1発明の「接着層8」及び「接着層10」は光硬化樹脂ではない点。

[相違点3]
本件特許発明2においては「前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大き」いとされているのに対し、甲1発明においてヘイズ値は不明である点。

ウ 判断
(ア) 相違点1について
甲1発明は、「2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18を、2つの接着層8および10の間に配置して中間膜(積層品2)を形成し、この中間膜(積層品2)を2枚のガラス板4および6の間に配置することによって形成」する生産方法を用いることを主たる目的とする発明であるところ、甲1発明において「型押し装飾用複合材料18」を単層とすることの積極的な動機がないばかりでなく、「型押し装飾用複合材料18」が「表面模様構造」を保持するため(型押し装飾用複合材料として成立するため)には、「高分子支持層14および16」のいずれかが必須であることは明らかであるから、甲1発明から「高分子支持層14および16」の双方を除いて3層からなるものとすることは、不可能なことである。
したがって、甲1発明を基礎として、相違点1を備えるようにするためには、2つの高分子支持部(高分子支持層14および16)の間に配置された金属被膜12を備えた多層の表面模様構造を備える型押し装飾用複合材料18を、2つの接着層8および10の間に配置した中間膜(積層品2)を全体として「前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなる投映膜」に置換するよりほかはないところ、「ガラス製の透明基板に挟まれた投映膜であって、映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなる投映膜」は、前記甲2から9号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲1発明において相違点1を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認めることはできない。
特許異議申立人は、令和2年12月9日付け意見書(8ページ「イー3.」参照)において、反射層に隣接する透明樹脂層を1層で構成することは甲2号証及び特開2012-3027号公報(参考資料2)のように従来周知であるから、前記相違点1は設計的事項である旨の主張を行っているが、前記意見書において引用された甲2の図1の3層構造は、2枚のガラス基板に挟まれたものではなく、参考資料2の図1Aに示された構成は、「波長選択反射層3」の両面にそれぞれ「第1の光学層4」及び「基材4a」、並びに「第2の光学層5」及び「基材5a」を備えるものであって、3層からなる構成ではないから、いずれの文献にも、「ガラス製の透明基板に挟まれた投映膜であって、映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなる投映膜」は記載されていない。したがって、相違点1が設計的事項であるとする特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(イ) 相違点2について
甲2号証(【0113】)の記載からも明らかなように、光学的スクリーンの製造において光硬化樹脂を用いることは周知慣用な手法にすぎず、甲1発明の接着層として光硬化性樹脂を採用する程度のことは、設計事項にすぎない。
そして、光硬化性樹脂を採用することにより、当業者の予測を超える効果を奏するとも認められない。
したがって、相違点2は、格別のものではない。

(ウ) 相違点3について
甲2号証(【0109】の【表1】)にも示されているように、反射型映像投影窓のヘイズ値として、「前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大き」いという特性範囲は一般的なものにすぎず、甲1発明のヘイズ値としてこのような範囲内の数値を採用する程度のことは、設計事項にすぎない。
また、それにより当業者の予測を超える効果を奏するとも認められない。
したがって、相違点3は、格別のものではない。

(エ) 小括
前記(ア)において検討したとおり、本件特許発明2は甲1発明と相違点1の点において相違し、甲1発明において相違点1の点を備えるように変更することは当業者が容易に想到し得たものではないから、本件特許発明2は、甲1発明ではなく、また、甲1号証に記載された発明及び甲2から9号証に記載された事項又は周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは、いうことができない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由1及び2-1によっては、請求項2に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明2の相違点1に係る構成を有しているから、本件特許発明5は、本件特許発明2と同じ理由により、甲1発明ではなく、また、甲1号証に記載された発明及び甲2から9号証に記載された事項又は周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは、いうことができない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由1及び2-1によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2-2について(甲2号証を主引例として)
(1) 本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲2発明の対比
本件特許発明2と甲2発明を対比すると、次のことをいうことができる。

(ア) 甲2発明の「主表面の一方に酸処理によって得られた凹凸のあるガラスである外層2」は本件特許発明2の「光を透過するガラス製の第2の透明基板」に相当し、甲2発明の「外層2の凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた中心層3」及び「ガラスと組み合わせた樹脂NOA75(登録商標)又はNOA65(登録商標)の層によって形成する外層4」の樹脂層部分は、本件特許発明2の「映像投影膜」に相当し、甲2発明の「ガラスと組み合わせた樹脂NOA75(登録商標)又はNOA65(登録商標)の層によって形成する外層4」のガラス部分は本件特許発明2の「光を透過するガラス製の第1の透明基板」に相当する。
したがって、甲2発明において、「層状部材1が、主表面の一方に酸処理によって得られた凹凸のあるガラスである外層2と、外層2の凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた中心層3、及び、ガラスと組み合わせた樹脂NOA75(登録商標)又はNOA65(登録商標)の層によって形成する外層4からな」ることは、本件特許発明2において「光を透過するガラス製の第1の透明基板と、光を透過するガラス製の第2の透明基板と、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜」を有することに相当する。

(イ) 甲2発明の「層状部材1が適用され、映し出された情報を表示することを可能にする自動車のフロントガラス」は、本件特許発明2の「映像投影窓」に相当する。

(ウ) 甲2発明において、「外層4は、外層2の反対側の中心層3の凹凸のある表面3B上に、この表面3Bの凹凸になじむように液体状態で堆積させ、次いで、PLANILUX(登録商標)ガラスで覆った後にUV照射の作用下で硬化させてな」るものであるから、その樹脂部分のガラスから近い表面が平坦であり、遠い表面に凹凸を有することは明らかであって、このことは、本件特許発明2において「前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し」ていることに相当する。

(エ) 甲2発明において「中心層3の厚みが55nmで構成され」ていることは、本件特許発明2の「前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され」ていることに相当する。

(オ) 甲2発明において、「外層4は、・・・UV照射の作用下で硬化させてな」るものであるから、光硬化樹脂からなることは明らかであり、このことは、本件特許発明2において「前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であ」ることと、「前記第1の透明樹脂層は、光硬化樹脂であ」る点で共通する。

(カ) 甲2発明において、「外層2の凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた中心層3」での拡散反射により投影画像が表示されることは明らかであるから、甲2発明の「層状部材1が適用され、映し出された情報を表示することを可能にする自動車のフロントガラス」は、本件特許発明2の「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ」る「映像投影窓」に相当する。

(キ) 甲2発明において、「層状部材の特性は、曇り度Tが2.8%、曇り度Rが59.0%、可視域の総光反射RLが14.9%、可視域の光透過TLが76.7%である」ことは、本件特許発明2において「前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であ」ることと、「前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、70%以下であ」る点で共通する。

(ク) 甲2発明において、「中心層3」は、「主表面の一方に酸処理によって得られた凹凸のあるガラスである外層2」の「凹凸のある表面2B上にマグネトロンスパッタリングによって堆積させた」ものであるから、ランダムな凹凸形状をなすことは明らかであり、このことは、本件特許発明2において「前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸であること」に相当する。

イ 本件特許発明2と甲2発明の一致点及び相違点
上記アの検討結果を総合すると、本件特許発明2と甲2発明の間における一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「光を透過するガラス製の第1の透明基板と、
光を透過するガラス製の第2の透明基板と、
前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜と、
を有する映像投影窓であって、
前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、
前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であり、
前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、
前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であり、
前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸である映像投影窓。」

[相違点1]
本件特許発明2においては、ガラス製の透明基板に挟まれた「前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなり、」「前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、」「前記第2の透明樹脂層は、」「光硬化樹脂であ」るのに対し、甲2発明は「第2の透明樹脂層」に相当する構成を有していない点。

[相違点2]
本件特許発明2は、「反射率が25%以上である」構成を有するのに対して、甲2発明は、「総光反射RL」が、「14.9%であ」って、「25%以上」という範囲にない点。

ウ 判断
(ア) 相違点1について
甲2号証の段落【0097】?【0107】、図7には、外層2を「ポリマー材料でできた軟質膜2_(1)、及び膜2_(1)の一方の平坦な主表面に対して適用される、UV照射の作用下で光架橋性及び/又は光重合性である材料でできた層2_(2)の重ね合わせによって形成」する層状部材1を製造する方法が記載されているが、この製造方法はロールを用いて各層を重ね合わせながら硬化、接着を行うものであって、ガラス層の形成を想定したものでないことは明らかである。
その他、甲2号証には、「外層2」をガラスと樹脂からなる複合層とすることに関連する記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点1を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとは、認めることができない。

また、相違点1に係る構成は、前記甲1、3-9号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
特許異議申立人は、令和2年12月9日付け意見書(12ページ参照)において参考資料1から3を引用し、前記甲2号証の図6では、ガラス基材2が中心層3と直接接しているが、当該ガラス基材2と中心層3との間に透明樹脂層を介在させることは当業者が適宜採用しうる設計的事項にすぎない旨の主張をしているが、前記参考資料1から3のいずれも、凹凸を有する反射膜の両側を樹脂層で挟んだものを2枚のガラス層の間に配置したものではないから、相違点1を含む本件特許発明2の構成とすることは、当業者の選択に委ねられた設計事項であるということはできず、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(イ) 相違点2について
甲2号証には、「高い拡散反射を有する層状部材は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用できる。」という事項(【0026】参照)が記載されている。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)システムで使用されるスクリーン(いわゆるコンバイナ)の反射率として、25%という数値範囲が、通常検討される範ちゅうの値であることは、前記甲5から7号証の記載からも明らかであるから、甲2発明において、可視域の総光反射RL」として、25%以上の反射率を選択することは、当業者が容易に着想し得たことである。

(ウ) 小括
以上検討のとおり、本件特許発明2は、甲2号証に記載された発明及び甲1、甲3から9号証に記載された事項又は周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは、いうことができない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由2-2によっては、請求項2に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明2の相違点1に係る構成を有しているから、本件特許発明5は、本件特許発明2と同じ理由により、甲2号証に記載された発明及び甲1、甲3から9号証に記載された事項又は周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは、いうことができない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由2-2によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。


4 申立理由3について
(1) 申立理由3-1について
本件発明は、「前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、」と特定された映像投影窓の発明であるところ、当該記載は、映像投影膜が、凹凸に結像するように投影された映像を散乱反射して観察者が視認できるという、投映膜及びその凹凸の機能を特定していることは明確であるから、当該記載を根拠として、請求項2及び請求項5が不明確であるという特許異議申立人の主張は採用することができない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由3-1によっては、請求項2及び請求項5に係る特許を取り消すことはできない。


(2) 申立理由3-2について
請求項2及び請求項5は、反射型の映像投映窓に係る発明を特定しようとしているものであるから、明細書に記載された透過型の映像投映窓に反射膜の特定がなく、反射率が請求項2及び請求項5における値より低いとしても、それは矛盾することではなく、反射型と透過型の違いからして、むしろ当然のことである。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由3-2によっては、請求項2及び請求項5に係る特許を取り消すことはできない。


第7 むすび
以上のとおり、請求項2、5に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項2、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1、3、4に係る特許は、前記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項1、3、4に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
光を透過するガラス製の第1の透明基板と、
光を透過するガラス製の第2の透明基板と、
前記第1の透明基板と前記第2の透明基板に挟まれた映像投影膜と、
を有する映像投影窓であって、
前記映像投影膜は、前記第1の透明基板に近い順に、第1の透明樹脂層と、反射膜と、第2の透明樹脂層との3層からなり、
前記第1の透明樹脂層は、前記第1の透明基板から近い表面が平坦であり、前記第1の透明基板から遠い表面に凹凸を有し、前記反射膜は、1nm?100nmの厚さ範囲で構成され、前記第2の透明樹脂層は、前記凹凸を埋めるように構成され、前記第2の透明基板から近い表面が平坦であり、
前記第1の透明樹脂層および前記第2の透明樹脂層は、それぞれ、光硬化樹脂であり、
前記映像投影膜に焦点が合うように投影された映像のうち、前記映像投影窓の凹凸において反射された映像を見ることができ、
前記映像投影窓の前方ヘイズが0.2以上、10以下であり、後方ヘイズが5以上、80以下であり、前方ヘイズに対して後方ヘイズが大きく、可視光における透過率が1%以上であり、反射率が25%以上、70%以下であり、
前記第1の透明樹脂層の前記表面の凹凸は、ランダムな凹凸であることを特徴とする映像投影窓。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記映像投影窓は、車両に用いられる映像投影車両窓であることを特徴とする請求項2に記載の映像投影窓。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-21 
出願番号 特願2015-41446(P2015-41446)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G03B)
P 1 651・ 537- YAA (G03B)
P 1 651・ 121- YAA (G03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 浩樹  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
岸 智史
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6477026号(P6477026)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 映像投影窓  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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