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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1377779
異議申立番号 異議2020-700799  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-15 
確定日 2021-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6681495号発明「吸水性樹脂粒子、吸収体及び吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6681495号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第6681495号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6681495号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成31年3月22日(優先権主張 同年1月30日)の出願であって、令和2年3月25日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年4月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月15日に特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、令和3年1月15日付けで取消理由が通知され、同年3月19日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年4月12日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年5月14日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年3月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、」とあるのを「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり、」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが10mm以下である」とあるのを「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下」であることを付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2による請求項1についての訂正は、「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項1及び2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2ないし4についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項2ないし4についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし4についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%であり、
生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、
Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり、
中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである、吸水性樹脂粒子。
(1)底面積50cm^(2)の凹部を有する容器を前記凹部が鉛直方向に開口した状態で配置する。
(2)前記凹部内に吸水性樹脂粒子1.00gを配置する。
(3)前記凹部内において前記吸水性樹脂粒子上に不織布を配置する。
(4)前記不織布上に質量90gの重りを配置する。
(5)前記凹部内に生理食塩水を供給する。
(6)前記吸水性樹脂粒子の膨潤開始時から300秒経過したときの前記重りの鉛直方向の移動距離を前記膨潤高さとして測定する。
【請求項2】
請求項1に記載の吸水性樹脂粒子を含有する、吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の吸収体を備える、吸収性物品。
【請求項4】
おむつである、請求項3に記載の吸収性物品。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年10月15日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1ないし9及び13号証のいずれかに基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1ないし9及び13号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第5、7、9、10及び11号証の組み合わせ、12又は13号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の証拠に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、この理由は、以下の証拠又は証拠の組み合わせに基づくものである。
・甲第5号証
・甲第7号証
・甲第9号証
・甲第10号証と甲第11号証の組み合わせ
・甲第12号証
・甲第13号証

(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件請求項1には、膨潤高さについて下限が規定されておらず、本件発明1は膨潤高さが0mmの吸水性樹脂粒子も含む。
当業者は、膨潤高さが0mである吸水性樹脂粒子が本件発明1の課題を解決すると理解することはできない。
よって、「膨潤高さ」の下限を規定しない本件請求項1ないし4に係る発明は、明細書に記載された範囲(本願実施例1?3の膨潤高さ(8.4?9.1mm)を超えている。

(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件請求項1の吸水性樹脂粒子について、本件明細書には、水溶液重合または逆相懸濁重合にて製造できる旨が記載されている。
しかし、本件明細書にて具体的に開示されている吸水性樹脂粒子は、逆相懸濁重合で得られ、さらにシリカ微粒子を添加した吸水性樹脂粒子のみである。
当業者は、シリカ微粒子を添加した逆相懸濁重合によって、実施例1?3に記載された吸水性樹脂粒子以外の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。また、特に、例え本件明細書に水溶性重合の例示があるといっても、本件明細書に製造方法が一切開示されていないため、当業者は、水溶液重合によって本件発明1の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。
したがって、本件明細書の記載は、当業者が本件発明1?4を実施することができる程度に明確に記載されたものとは言えない。

(5)証拠方法
甲第1号証:特開平11-71425号公報
甲第2号証:特開平11-80248号公報
甲第3号証:特開2006-68731号公報
甲第4号証:特開2005-111474号公報
甲第5号証:国際公開第2017/170605号
甲第6号証:国際公開第2018/062539号
甲第7号証;特開平9-124955号公報
甲第8号証:特開2001-98170号公報
甲第9号証:特開2012-7062号公報
甲第10号証:国際公開第2017/026530号
甲第11号証:国際公開第2011/136087号
甲第12号証:国際公開第2012/023433号
甲第13号証:国際公開第2016/006129号
甲第14号証:甲第1号証の実施例5の実験成績証明書
甲第15号証:甲第2号証の実施例5の実験成績証明書
甲第16号証:甲第3号証の実施例2の実験成績証明書
甲第17号証:甲第4号証の実施例32の実験成績証明書
甲第18号証:甲第5号証の実施例2の実験成績証明書
甲第19号証:甲第6号証の実施例23の実験成績証明書
甲第20号証:甲第7号証の実施例3の実験成績証明書
甲第21号証:甲第8号証の実施例10の実験成績証明書
参考資料1:Modern Superabsorbent Polymer Technology(1998) p.189
なお、参考資料1は令和3年5月14日に特許異議申立人が提出した意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書の記載及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
令和3年1月15日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(甲3ないし7、9、10及び13のいずれかに基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3ないし7、9、10及び13のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は申立理由1のうち甲3ないし7、9及び13のいずれかに基づく新規性を包含するものである。

(2)取消理由2(甲5、7、9、10又は13のいずれかを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5、7、9、10又は13に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由2のうち甲5、7、9、10と11の組み合わせ又は13に基づく進歩性とおおむね同旨である。

(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由3は申立理由3とおおむね同旨である。

・本件特許発明1は、膨潤高さが0mmの吸水性樹脂粒子も含むものであるが、膨潤高さが0mmの吸水性樹脂粒子とは、5分で全く膨潤しない吸水性樹脂粒子(吸水倍率で0g/g)であるから、5分で全く吸水せず、膨潤しない吸水性樹脂粒子が吸収性物品として実使用に耐えるとは当業者は理解できず、単に液もれすると理解する。
それゆえ、当業者は、膨潤高さが0mmである吸水性樹脂粒子が本件特許発明1の課題を解決すると理解することはできない。
そして、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が「8.4?9.1mm」に特定されたものが、発明の課題を解決できると認識する。
しかし、本件特許発明1は、「(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」を「8.4?9.1mm」に特定するものではない。
したがって、本件特許発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし4についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。

第5 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲3に記載された事項及び甲3発明
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「吸水性樹脂を主成分とする粒子状吸水剤、その製造方法及び吸水性物品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【0148】
[アクリル酸の製造例1]
市販のアクリル酸(アクリル酸ダイマー2000ppm、酢酸500ppm、プロピオン酸500ppm含有)を、無堰多孔板50段を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留し、マレイン酸やアクリル酸からなる二量体(アクリル酸ダイマー)等の除去後、さらに晶析を行なうことで、アクリル酸(アクリル酸ダイマー20ppm、酢酸50ppm、プロピオン酸50ppm含有)を得た。」

・「【0151】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却機、温度計、窒素ガス導入管及び滴下漏斗を付した2Lの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン1.0Lをとり、分散剤としてのショ糖脂肪酸エステル(第一工業薬品株式会社製、DK-エステルF-50、HLB=6)3.8gを加えて溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。フラスコ中に、製造例1のアクリル酸の中和物であるアクリル酸ナトリウム84.6g、製造例1のアクリル酸21.6g及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド0.016gをイオン交換水197gに溶解し、さらにヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製、HEC-ダイセルEP-850)0.4gを溶解させ、モノマー濃度35質量%のモノマー水溶液を調製した。このモノマー水溶液に過硫酸カリウム0.15gを加えて溶解させた後、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する酸素を追い出した。次いでこのフラスコ内のモノマー水溶液を上記セパラブルフラスコに加えて攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させた後、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後、シクロヘキサンとの共沸脱水により含水ゲル中の水を留去した後、ろ過し、80℃で減圧乾燥し、球状のポリマー粉体を得た。得られたポリマー粉体の含水率は、5.6%であった。
【0152】
上記ポリマー100質量部に、プロピレングリコール0.5質量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03質量部と、1,4-ブタンジオール0.3質量部と、水2.7質量部とからなる表面架橋剤3.53質量部とを混合した。上記の混合物を210℃で45分間加熱処理した。表面架橋後さらに、水3質量部を添加して60℃で30分密閉して加熱し、850μmで分級することで造粒された粒子状吸水剤(1)を得た。得られた粒子状吸水剤(1)の無加圧下吸収倍率、1.9kPaでの加圧下吸収倍率、粒度分布、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)及び粒子径150μm未満の質量百分率、水可溶分、耐尿性評価、吸収速度、吸湿ブロッキング率、揮発性有機溶媒、及び180℃での3時間加熱後の残存モノマーの含有量が表1及び表2に示される。」

・「【0155】
[実施例2]
実施例1で得られた粒子状吸水剤(1)100質量部に微粒子状の二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製、アエロジル200(1次粒子の平均粒子径12nm))0.3質量部を添加・混合(ドライブレンド)して、粒子状吸水剤(2)を得た。得られた粒子状吸水剤(2)を実施例1と同様に評価した結果が、表1及び表2に示される。」

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「市販のアクリル酸(アクリル酸ダイマー2000ppm、酢酸500ppm、プロピオン酸500ppm含有)を、無堰多孔板50段を有する高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留し、マレイン酸やアクリル酸からなる二量体(アクリル酸ダイマー)等の除去後、さらに晶析を行なうことで、アクリル酸(アクリル酸ダイマー20ppm、酢酸50ppm、プロピオン酸50ppm含有)を得、攪拌機、還流冷却機、温度計、窒素ガス導入管及び滴下漏斗を付した2Lの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン1.0Lをとり、分散剤としてのショ糖脂肪酸エステル(第一工業薬品株式会社製、DK-エステルF-50、HLB=6)3.8gを加えて溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、フラスコ中に、上記アクリル酸の中和物であるアクリル酸ナトリウム84.6g、上記アクリル酸21.6g及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド0.016gをイオン交換水197gに溶解し、さらにヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製、HEC-ダイセルEP-850)0.4gを溶解させ、モノマー濃度35質量%のモノマー水溶液を調製し、このモノマー水溶液に過硫酸カリウム0.15gを加えて溶解させた後、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する酸素を追い出し、次いでこのフラスコ内のモノマー水溶液を上記セパラブルフラスコに加えて攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させた後、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後、シクロヘキサンとの共沸脱水により含水ゲル中の水を留去した後、ろ過し、80℃で減圧乾燥し、球状のポリマー粉体を得、得られたポリマー粉体100質量部に、プロピレングリコール0.5質量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03質量部と、1,4-ブタンジオール0.3質量部と、水2.7質量部とからなる表面架橋剤3.53質量部とを混合し、上記の混合物を210℃で45分間加熱処理し、表面架橋後さらに、水3質量部を添加して60℃で30分密閉して加熱し、850μmで分級することで造粒された粒子状吸水剤(1)を得、この粒子状吸水剤(1)100質量部に微粒子状の二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製、アエロジル200(1次粒子の平均粒子径12nm))0.3質量部を添加・混合(ドライブレンド)して、得た粒子状吸水剤(2)。」

(2)甲4に記載された事項及び甲4発明
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「吸水剤およびその製法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0248】
(実施例15)
断熱材である発泡スチロールで覆われた内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸192.2g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)2.79g、およびジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム0.01gを混合した溶液(A)と、48.5重量%NaOH水溶液156.8gと40℃に調温したイオン交換水239.3gを混合した溶液(B)を、マグネチックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系で一気に加え混合した。中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液(単量体濃度39重量%、中和率71.3モル%が得られた。さらに、この単量体水溶液に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.89gを加え、数秒攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いだ。
【0249】
単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始した。水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮した。この膨張収縮は約1分以内に終了し、3分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出した。
【0250】
この細分化された含水重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径325μm、対数標準偏差(σζ)0.35の不定形破砕状の吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂のCRCsは31.4g/g、ゲル層膨潤圧は40.1kdyne/cm^(2)であった。その他の諸物性を表12、13に示した。
【0251】
得られた吸水性樹脂粒子100重量部にエチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール1重量部、純水3重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を190℃で35分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。得られた吸水剤(15)の諸物性を表12に示した。」

・「【0270】
(実施例20)
実施例15に記載の方法においてポリエチレングリコールジアクリレートを0.05モル%に変更した以外は同様の操作を行い、重量平均粒子径323μm、対数標準偏差(σζ)0.37の不定形破砕状の吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂のCRCsは43.5g/g、ゲル層膨潤圧は35.1kdyne/cm^(2)であった。その他の諸物性を表12、13に示した。
【0271】
得られた吸水性樹脂100重量部に1,4-ブタンジオール0.5重量部、プロピレングリコール0.5重量部、純水4重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を200℃で35分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得た。得られた吸水剤(20)の諸物性を表12に示した。」

・「【0282】
(実施例32)
実施例20で得られた吸水剤(20)100重量部に、ReolosilQS-20(親水性アモルファスシリカ、TOKUYAMA社製)0.3重量部を均一に混合し、吸水剤を得た。得られた吸水剤の諸物性を表14、15に示した。」

・「【0296】
【表14】



イ 甲4発明
甲4に記載された事項を、特に実施例32に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「断熱材である発泡スチロールで覆われた内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸192.2g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.70g(アクリル酸に対して0.05モル%)、およびジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム0.01gを混合した溶液(A)と、48.5重量%NaOH水溶液156.8gと40℃に調温したイオン交換水239.3gを混合した溶液(B)を、マグネチックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系で一気に加え混合し、中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液(単量体濃度39重量%、中和率71.3モル%)が得られ、さらに、この単量体水溶液に3重量%の過硫酸ナトリウム水溶液8.89gを加え、数秒攪拌した後すぐに、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注ぎ、単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始し、水蒸気を発生し上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮し、この膨張収縮は約1分以内に終了し、3分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出し、この細分化された含水重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で40min間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmのJIS標準篩で分級することにより、重量平均粒子径323μm、対数標準偏差(σζ)0.37の不定形破砕状の吸水性樹脂を得、得られた吸水性樹脂粒子100重量部に1,4-ブタンジオール0.5重量部、プロピレングリコール0.5重量部、純水4重量部の混合液からなる表面架橋剤を混合した後、混合物を190℃で35分間加熱処理し、さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面が架橋された吸水性樹脂を得、この吸水性樹脂100重量部に、ReolosilQS-20(親水性アモルファスシリカ、TOKUYAMA社製)0.3重量部を均一に混合し、得た吸水剤。」

(3)甲5に記載された事項及び甲5発明
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「粒子状吸水剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「<ダメージ付与後の微粉増加量>
[0293] 吸水剤に下記のペイントシェーカーテストを行い、目開き150μmのJIS標準篩で分級し、テスト前後における150μm以下の粒子径を有する粒子の増加量を測定した。
[0294] [ペイントシェーカーテスト]
ペイントシェーカーテスト(PS-test)とは、直径6cm、高さ11cmのガラス製容器に、直径6mmのガラスビーズ10g、吸水性樹脂30gを入れてペイントシェーカー(東洋製機製作所 製品No.488)に取り付け、800cycle/min(CPM)で30分間、振盪するものであり、装置詳細は特開平9-235378号公報に開示されている。」

・「[0331] [製造例2]
アクリル酸300重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液100重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数9)0.61重量部、1.0重量%エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液6.5重量部、脱イオン水346.1重量部からなる単量体水溶液(2)を作製した。
[0332] 次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(2)を定量ポンプで連続供給した後、更に48重量%水酸化ナトリウム水溶液150.6重量部を連続的にラインミキシングした。尚、この時、中和熱によって単量体水溶液(2)の液温は81℃まで上昇した。
[0333] 更に、4重量%過硫酸ナトリウム水溶液14.6重量部を連続的にラインミキシングした後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合機に、厚みが10mmとなるように連続的に供給した。その後、重合(重合時間3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル(2)を得た。得られた帯状の含水ゲル(2)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が300mmとなるように等間隔に連続して切断することで、含水ゲル(2)を得た。含水ゲル(2)は、CRC36.0[g/g]、樹脂固形分48.1重量%であった。」

・「[0351] [実施例1]
(ゲル粉砕)
上記製造例1で得られた含水ゲル(1)を、スクリュー押出機に供給しゲル粉砕した。該スクリュー押出機としては、先端部に直径100mm、孔径9.5mm、孔数40個、開孔率36.1%、厚さ10mmの多孔板が備えられた、スクリュー軸の外径が86mmのミートチョッパーを使用した。該ミートチョッパーのスクリュー軸回転数を130rpmとした状態で、含水ゲル(1)を4640[g/min]、同時に、水蒸気を83[g/min]でそれぞれ供給する。この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は26.9[J/g]、GGE(2)は13.6[J/g]であった。尚、ゲル粉砕前の含水ゲル(1)の温度は80℃であり、ゲル粉砕後の粉砕ゲル、即ち粒子状含水ゲル(1)の温度は85℃に上昇していた。
[0352] 上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(1)は、樹脂固形分49.1重量%、重量平均粒子径(D50)994μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)1.01であった。当該ゲル粉砕工程の条件を表1に、粒子状含水ゲル(1)の物性を表2に示す。
[0353](乾燥)
次に、上記粒子状含水ゲル(1)をゲル粉砕終了後1分以内に通気板上に散布(この時の粒子状含水ゲル(1)の温度は80℃)し、185℃で30分間乾燥を行い、乾燥重合体(1)を得る。熱風の平均風速は通気ベルトの進行方向に対して垂直方向に1.0[m/s]である。尚、熱風の風速は、日本カノマックス株式会社製定温度熱式風速計アネモマスター 6162で測定する。
[0354](粉砕・分級)
次いで、上記乾燥工程で得られた乾燥重合体(1)全量を3段ロールミルに供給して粉砕(粉砕工程)し、その後更に、目開き710μm及び175μmのJIS標準篩で分級することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得る。吸水性樹脂粒子(1)は、重量平均粒子径(D50)348μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.32であり、CRC42.1[g/g]、150μm通過粒子(目開き150μmの篩を通過する粒子の割合)0.5重量%である。
[0355](表面処理・添加剤添加)
次に、上記吸水性樹脂粒子(1)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、1,4-ブタンジオール0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(1)のCRCが35g/gとなるように加熱処理する。その後冷却を行い、上記ペイントシェーカーテストを実施し、製造プロセス相当のダメージを付与した後に、吸水性樹脂粒子100重量部に対して、水1重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.01重量部からなる水溶液を均一に混合する。60℃で1時間乾燥した後、目開き710μmのJIS標準篩を通過させ、二酸化ケイ素(商品名:アエロジル200、日本アエロジル製)0.4重量部を均一に添加する。こうして、粒子状吸水剤(1)を得た。粒子状吸水剤(1)の諸物性を表3?6に示す。なお、ペイントシェーカーテスト後の150μm通過粒子増加量は粒子状吸水剤に対して、さらにペイントシェーカーテストを実施した際(おむつなどの吸収体製造時のプロセスダメージを想定したもの)の150μm通過粒子の増加量を示す。」

・「[0356] [実施例2]
実施例1と以下に示す操作以外は同様の操作を行う。含水ゲル(1)のかわりに上記製造例2で得られた含水ゲル(2)を用いる。スクリュー押出機の先端部の多孔板の孔径を8mmに変更する。この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は31.9[J/g]、GGE(2)は17.5[J/g]であった。尚、ゲル粉砕前の含水ゲル(2)の温度は80℃であり、ゲル粉砕後の粉砕ゲル、即ち粒子状含水ゲル(2)の温度は84℃に上昇していた。
[0357] 上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(2)は、樹脂固形分47.5重量%、重量平均粒子径(D50)860μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.95であった。当該ゲル粉砕工程の条件を表1に、粒子状含水ゲル(2)の物性を表2に示す。
[0358] 次いで、実施例1と同様の乾燥・粉砕・分級操作を行い、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(2)を得る。吸水性樹脂粒子(2)は、重量平均粒子径(D50)355μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.32であり、CRC48.2[g/g]、150μm通過粒子(目開き150μmの篩を通過する粒子の割合)0.4重量%である。
[0359] 次に、上記吸水性樹脂粒子(2)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、エチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(2)のCRCが38g/gとなるように加熱処理する。その後、実施例1と同様の操作を行う。こうして、粒子状吸水剤(2)を得た。粒子状吸水剤(2)の諸物性を表3?6に示す。」

・「[0360] [実施例3]
実施例2で使用する目開き710μmの網にかえて、850μmの網を使用した以外は、実施例2と同じ操作を行う。こうして得られる吸水性樹脂粒子(3)は、重量平均粒子径(D50)431μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)0.35であり、CRC48.2[g/g]、150μm通過粒子(目開き150μmの篩を通過する粒子の割合)0.3重量%である。また、得られた粒子状吸水剤(3)の諸物性を表3?6に示す。」

イ 甲5発明
甲5に記載された事項を、特に実施例2又は実施例3に関して整理すると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸300重量部、48重量%水酸化ナトリウム水溶液100重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数9)0.61重量部、1.0重量%エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム水溶液6.5重量部、脱イオン水346.1重量部からなる単量体水溶液(2)を作製し、次に、40℃に調温した上記単量体水溶液(2)を定量ポンプで連続供給した後、更に48重量%水酸化ナトリウム水溶液150.6重量部を連続的にラインミキシングし、更に、4重量%過硫酸ナトリウム水溶液14.6重量部を連続的にラインミキシングした後、両端に堰を備えた平面状の重合ベルトを有する連続重合機に、厚みが10mmとなるように連続的に供給し、その後、重合(重合時間3分間)が連続的に行われ、帯状の含水ゲル(2)を、得られた帯状の含水ゲル(2)を重合ベルトの進行方向に対して幅方向に、切断長が300mmとなるように等間隔に連続して切断することで、含水ゲル(2)を得、上記含水ゲル(2)を、スクリュー押出機に供給しゲル粉砕し、該スクリュー押出機としては、先端部に直径100mm、孔径8mm、孔数40個、開孔率36.1%、厚さ10mmの多孔板が備えられた、スクリュー軸の外径が86mmのミートチョッパーを使用し、該ミートチョッパーのスクリュー軸回転数を130rpmとした状態で、含水ゲル(2)を4640[g/min]、同時に、水蒸気を83[g/min]でそれぞれ供給し、この時のゲル粉砕エネルギー(GGE)は31.9[J/g]、GGE(2)は17.5[J/g]であり、上記ゲル粉砕工程で得られた粒子状含水ゲル(2)をゲル粉砕終了後1分以内に通気板上に散布(この時の粒子状含水ゲル(2)の温度は80℃)し、185℃で30分間乾燥を行い、乾燥重合体(2)を得、熱風の平均風速は通気ベルトの進行方向に対して垂直方向に1.0[m/s]であり、次いで、上記乾燥工程で得られた乾燥重合体(2)全量を3段ロールミルに供給して粉砕(粉砕工程)し、その後更に、目開き710μm(目開き850μm)及び175μmのJIS標準篩で分級することで、不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(2)を得、次に、上記吸水性樹脂粒子(2)100重量部に対して、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.025重量部、エチレンカーボネート0.4重量部、プロピレングリコール0.6重量部及び脱イオン水3.0重量部からなる(共有結合性)表面架橋剤溶液を均一に混合し、190℃で30分間程度、得られる吸水性樹脂粉末(2)のCRCが38g/gとなるように加熱処理し、その後冷却を行い、ペイントシェーカーテストを実施し、製造プロセス相当のダメージを付与した後に、吸水性樹脂粒子100重量部に対して、水1重量部、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.01重量部からなる水溶液を均一に混合し、60℃で1時間乾燥した後、目開き710μm(目開き850μm)のJIS標準篩を通過させ、二酸化ケイ素(商品名:アエロジル200、日本アエロジル製)0.4重量部を均一に添加して得た粒子状吸水剤(2)。」(当審注:目開き710μmは実施例2に基づいて発明を認定した場合であり、()内の目開き850μmは実施例3に基づいて発明を認定した場合である。)

(4)甲6に記載された事項及び甲6発明
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「吸水性樹脂組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「[0347] 〔製造例2〕
容量2Lのポリプロピレン製容器に、アクリル酸441.0g、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.768g(カルボキシル基含有不飽和単量体に対して0.024モル%)、1.0質量%のジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)水溶液2.70g、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液181.69g、および脱イオン水(イオン交換水)366.44gを投入し混合させて、単量体水溶液(a2’)を作製した。
[0348] 次に、前記単量体水溶液(a2’)を攪拌しながら冷却した。液温が39.5℃となった時点で、40℃に調温した48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液189.76gを加え、混合することで単量体水溶液(a2)を作製した。このとき、該単量体水溶液(a2)の作製直後の温度は、2段目の中和熱によって79.8℃まで上昇した。
[0349] 次に、攪拌状態の前記単量体水溶液(a2)に4.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液17.68gを加えた後、直ちにステンレス製バット型容器(底面340mm×340mm、高さ25mm、内面;テフロン(登録商標)コーティング)に大気開放系で注いだ。なお、2段目の中和開始から前記バット型容器に単量体水溶液(a2)を注ぎ込むまでの時間は、55秒間とし、前記バット型容器はホットプレート(NEO HOTPLATE HI-1000/株式会社井内盛栄堂社)を用いて、表面温度が40℃となるまで加熱した。
[0350] 前記単量体水溶液(a2)がバット型容器に注がれてから58秒経過後に、重合反応が開始した。前記重合反応は、生成する重合体が水蒸気を発生しながら四方八方に膨脹発泡して進行した後、バット型容器よりも若干大きなサイズまで収縮した。重合反応の開始から3分経過後に、含水ゲル(2)を取り出した。なお、これら一連の操作は、大気開放系で行った。
[0351] 前記重合反応で得られた含水ゲル(2)を、ミートチョッパー(HL-3225N、プレート孔径:10.0mm/レマコ株式会社)を用いてゲル粉砕し、粒子状の含水ゲル(2)とした。
[0352] 前記含水ゲル(2)の投入量は230g/minであり、前記含水ゲル(2)の投入と並行して、90℃に調温した脱イオン水を50g/minで添加しながらゲル粉砕を行った。
[0353] 前記操作で得られた粒子状の含水ゲル(2)を、目開き850μmのステンレス製の金網上に広げ、180℃で30分間、熱風を通気させることで乾燥した。続いて、乾燥処理で得られた乾燥重合体(2)をロールミル(WML型ロール粉砕機/有限会社井ノ口技研社)を用いて粉砕した後、目開き710μmおよび45μmのJIS標準篩で分級することにより、粒径710?45μmの不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(A2)を得た。吸水性樹脂粒子(A2)の遠心分離機保持容量(CRC)は48.3g/g、溶出可溶分量は24.6質量%であった。」

・「[0354] 〔実施例1〕
製造例1で得た、不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A1)(粒径:850?150μm)100質量部に、エチレンカーボネート0.385質量部、プロピレングリコール0.644質量部、純水2.6質量部、および濃度10質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート溶液0.01質量部(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートとして0.001質量部)を混合してなる表面処理剤溶液を均一に混合した。その後、混合物を200℃に加熱されたパドルミキサー中で加熱処理した。混合物の平均滞留時間は約50分であった。加熱物を冷却して、目開き850μmと150μmのJIS標準篩で分級することにより、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)を得た。なお、850μm篩上にあった表面架橋後の吸水性樹脂粒子(粒径850μmを超える凝集粒子)は850μm篩を通過するまで解砕した。
[0355] 次いで、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)100質量部に対し、純水1.0質量部およびジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)0.01質量部を混合してなる溶液を、均一に混合した。その後、無風条件下、60℃で45分間加熱処理した後、850μmを超える凝集粒子は目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(1)を得た。」

・「[0356] 〔実施例2〕吸水性樹脂の変更
実施例1において、製造例2で得た不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A2)(粒径:710?45μm)100質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、表面架橋された吸水性樹脂粒子(2)、および850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(2)を得た。」

・「[0376] 〔実施例23〕多価金属塩の添加
実施例2において、さらに、実施例2で得られた吸水性樹脂組成物(2)に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.53質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.16質量部、およびプロピレングリコール0.01質量部からなる混合液を添加した。得られた混合物を、無風条件下、60℃にて1時間乾燥させた後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(23)を得た。」

イ 甲6発明
甲6に記載された事項を、特に実施例23に関して整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

「容量2Lのポリプロピレン製容器に、アクリル酸441.0g、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.768g(カルボキシル基含有不飽和単量体に対して0.024モル%)、1.0質量%のジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)水溶液2.70g、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液181.69g、および脱イオン水(イオン交換水)366.44gを投入し混合させて、単量体水溶液(a2’)を作製し、次に、前記単量体水溶液(a2’)を攪拌しながら冷却し、液温が39.5℃となった時点で、40℃に調温した48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液189.76gを加え、混合することで単量体水溶液(a2)を作製し、このとき、該単量体水溶液(a2)の作製直後の温度は、2段目の中和熱によって79.8℃まで上昇し、次に、攪拌状態の前記単量体水溶液(a2)に4.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液17.68gを加えた後、直ちにステンレス製バット型容器(底面340mm×340mm、高さ25mm、内面;テフロン(登録商標)コーティング)に大気開放系で注ぎ、なお、2段目の中和開始から前記バット型容器に単量体水溶液(a2)を注ぎ込むまでの時間は、55秒間とし、前記バット型容器はホットプレート(NEO HOTPLATE HI-1000/株式会社井内盛栄堂社)を用いて、表面温度が40℃となるまで加熱し、前記単量体水溶液(a2)がバット型容器に注がれてから58秒経過後に、重合反応が開始し、前記重合反応は、生成する重合体が水蒸気を発生しながら四方八方に膨脹発泡して進行した後、バット型容器よりも若干大きなサイズまで収縮し、重合反応の開始から3分経過後に、含水ゲル(2)を取り出し、なお、これら一連の操作は、大気開放系で行い、前記重合反応で得られた含水ゲル(2)を、ミートチョッパー(HL-3225N、プレート孔径:10.0mm/レマコム株式会社)を用いてゲル粉砕し、粒子状の含水ゲル(2)とし、前記含水ゲル(2)の投入量は230g/minであり、前記含水ゲル(2)の投入と並行して、90℃に調温した脱イオン水を50g/minで添加しながらゲル粉砕を行い、前記操作で得られた粒子状の含水ゲル(2)を、目開き850μmのステンレス製の金網上に広げ、180℃で30分間、熱風を通気させることで乾燥し、続いて、乾燥処理で得られた乾燥重合体(2)をロールミル(WML型ロール粉砕機/有限会社井ノ口技研社)を用いて粉砕した後、目開き710μmおよび45μmのJIS標準篩で分級することにより、粒径710?45μmの不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(A2)を得、得た不定形粒子状の吸水性樹脂粒子(A2)100質量部に、エチレンカーボネート0.385質量部、プロピレングリコール0.644質量部、純水2.6質量部、および濃度10質量%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート溶液0.01質量部(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートとして0.001質量部)を混合してなる表面処理剤溶液を均一に混合し、その後、混合物を200℃に加熱されたパドルミキサー中で加熱処理し、混合物の平均滞留時間は約50分であり、加熱物を冷却して、目開き850μmと150μmのJIS標準篩で分級することにより、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)を得、なお、850μm篩上にあった表面架橋後の吸水性樹脂粒子(粒径850μmを超える凝集粒子)は850μm篩を通過するまで解砕し、次いで、表面架橋された吸水性樹脂粒子(1)100質量部に対し、純水1.0質量部およびジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)0.01質量部を混合してなる溶液を、均一に混合し、その後、無風条件下、60℃で45分間加熱処理した後、850μmを超える凝集粒子は目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(2)を得、得た吸水性樹脂組成物(2)に、硫酸アルミニウム27.5質量%水溶液(酸化アルミニウム換算で8質量%)0.53質量部、乳酸ナトリウム60質量%水溶液0.16質量部、およびプロピレングリコール0.01質量部からなる混合液を添加し、得られた混合物を、無風条件下、60℃にて1時間乾燥させた後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して、得た850μm通過物の粒子状吸水性樹脂組成物(23)。」

(5)甲7に記載された事項及び甲7発明
ア 甲7に記載された事項
甲7には、「吸収剤組成物および吸収体、並びに、吸収体を含む吸収物品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0100】〔実施例1〕中和率75モル%のアクリル酸ナトリウム(親水性不飽和単量体)39重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート3.59gを溶解させて反応液とした。次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。次いで、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換した。」

・「【0108】〔実施例3〕アクリル酸20重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのN,N’-メチレンビスアクリルアミド2.35gを溶解させて反応液とした。次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。次いで、実施例1の反応器と同様の反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換した。
【0109】続いて、反応液を攪拌しながら、過硫酸アンモニウム1.5gおよびL-アスコルビン酸0.07gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、30℃?80℃で重合を行い、重合を開始してから60分後に、中和剤である炭酸ナトリウム606.7gを加えて攪拌し、中和した。その後、反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出した。
【0110】得られた含水ゲル状重合体は、中和率が75モル%であり、その径が約5mmに細分化されていた。この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュの金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥した。次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕し、さらに20メッシュの金網で分級することにより、平均粒子径が390μmで、しかも、粒子径が106μm未満の粒子の割合が4重量%の不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体を得た。
【0111】得られた吸水性樹脂前駆体100重量部に、第一表面架橋剤としてのプロピレングリコール〔SP値:δ=12.6(cal/cm^(3))^(1/2)〕0.75重量部と、第二表面架橋剤としてのプロピレングリコールジグリシジルエーテル〔SP値:δ=10.1(cal/cm^(3) )^(1/2) 〕0.05重量部と、水3重量部と、エチルアルコール0.75重量部とからなる表面架橋剤溶液を混合した。上記の混合物を195℃で40分間加熱処理することにより、吸水性樹脂を得た。得られた吸水性樹脂の平均粒子径は390μmであり、粒子径が106μm未満の粒子の割合は3重量%であった。
【0112】次に、上記の吸水性樹脂100gに、水不溶性無機粉体としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・レオロシールQS-20;徳山曹達株式会社(現・株式会社トクヤマ)製)0.3gを添加・混合することにより、本発明にかかる吸収剤組成物を得た。」

イ 甲7発明
甲7に記載された事項を、特に実施例3に関して整理すると、甲7には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸20重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのN,N’-メチレンビスアクリルアミド2.35gを溶解させて反応液とし、次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気し、次いで、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を30℃に保ちながら系を窒素ガス置換し、続いて、反応液を攪拌しながら、過硫酸アンモニウム1.5gおよびL-アスコルビン酸0.07gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始し、そして、30℃?80℃で重合を行い、重合を開始してから60分後に、中和剤である炭酸ナトリウム606.7gを加えて攪拌し、中和し、その後、反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出し、得られた含水ゲル状重合体は、中和率が75モル%であり、その径が約5mmに細分化されており、この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュの金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥し、次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕し、さらに20メッシュの金網で分級することにより、平均粒子径が390μmで、しかも、粒子径が106μm未満の粒子の割合が4重量%の不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体を得、得られた吸水性樹脂前駆体100重量部に、第一表面架橋剤としてのプロピレングリコール〔SP値:δ=12.6(cal/cm^(3))^(1/2)〕0.75重量部と、第二表面架橋剤としてのプロピレングリコールジグリシジルエーテル〔SP値:δ=10.1(cal/cm^(3) )^(1/2) 〕0.05重量部と、水3重量部と、エチルアルコール0.75重量部とからなる表面架橋剤溶液を混合し、上記の混合物を195℃で40分間加熱処理することにより、吸水性樹脂を得、次に、上記の吸水性樹脂100gに、水不溶性無機粉体としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・レオロシールQS-20;徳山曹達株式会社(現・株式会社トクヤマ)製)0.3gを添加・混合することにより、得た吸収剤組成物。」

(6)甲9に記載された事項及び甲9発明
ア 甲9に記載された事項
甲9には、「吸収性樹脂粒子、これを含む吸収体及び吸収性物品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0097】
<実施例2>
<逆相懸濁重合工程>
アクリル酸145.4部を9.4部の水で希釈し、20?30℃に冷却しつつ25%の水酸化ナトリウム水溶液242.3部を加えて中和した。この水溶液に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.09部、次亜リん酸ソーダ1水和物を0.015部、過硫酸カリウムを0.08部、疎水性物質(C-2){ショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-370}0.78部をポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルリン酸(第一工業製薬社製、プライサーフA210G、オキシエチレン基の平均重合度約7)0.78部に予め混合溶解しておいたものを添加し、25℃でバイオミキサー(日本精機株式会社製 ABM-2型)にて10000rpmで5分間撹拌・分散し、窒素を流入して脱酸素を行い、モノマー水溶液(3)を調整した。
別に、攪拌機、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた反応容器にシクロヘキサン624部を入れた。これに分散剤としてポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルリン酸(第一工業製薬社製、プライサーフA210G、オキシエチレン基の平均重合度約7)0.31部を添加した後、撹拌しつつ窒素置換し、75℃まで昇温して疎水性有機溶媒溶液を調整した。
75℃に保ったまま、前述のモノマー水溶液(3)を撹拌しながら、定量供給ポンプにて60分にわたり上記疎水性有機溶液中に全量滴下し、滴下完了後、75℃にて30分間保持して、吸収性樹脂粒子前駆体を含有する重合液を得た。
<乾燥>
続いて、この重合液から、水及びシクロヘキサンを共沸によって含水率が約15%(赤外水分計(FD-100型、Kett社製、180℃、20分)となるまで除去した。35℃に冷却し撹拌停止後、デカンテーションにより吸収性樹脂粒子前駆体(2)を分離した。
【0098】
<表面処理>
この樹脂粒子前駆体(2)80部にシクロヘキサン140部を反応容器に入れ、これを撹拌しながら70℃に加熱し、これにエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX-801)1%水溶液2.72部を添加し、70℃で30分間保持した。次いで濾過した後に105℃の循風乾燥機で乾燥して吸収性樹脂粒子(2)を得た。吸収性樹脂粒子(2)の重量平均粒子径は410μmであった。」

・「【0099】
<実施例3>
実施例2において、疎水性物質(C-2)を疎水性物質(C-3){グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製、リケマールS-100P)}としてモノマー水溶液(4)を調整したこと、モノマー水溶液(4)の5重量%を3分間で滴下し、滴下完了後75℃で15分間保持した後、残りのモノマー水溶液(4)95重量%を57分間で滴下したこと以外は実施例2と同様にして吸収性樹脂粒子(3)を得た。吸収性樹脂粒子(3)の重量平均粒子径は340μmであった。」

・「【0100】
<実施例4>
実施例2において、疎水性物質(C-2){ショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-370}0.78部をポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルリン酸(第一工業製薬社製、プライサーフA210G、オキシエチレン基の平均重合度約7)0.78部に予め混合溶解しておいたものを疎水性物質(C-4){ステアリン酸カルシウムエマルション(サンノプコ社製、SNコート243)}とした以外は実施例3と同様にして吸収性樹脂粒子(4)を得た。吸収性樹脂粒子(4)の重量平均粒子径は350μmであった。」

・「【0101】
<実施例5>
<逆相懸濁重合>
実施例3において、モノマー水溶液に疎水性物質(C-3)を使用しなかったこと、疎水性有機溶媒溶液のポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルリン酸(第一工業製薬社製、プライサーフA210G、オキシエチレン基の平均重合度約7)0.31部を1.56部としたこと以外は実施例3と同様にして吸収性樹脂粒子前駆体(5)を含有した重合液(5)を得た。
<乾燥>
次に、遠心分離によりこの重合液(5)からシクロヘキサンを除去し、得られた含水ゲル、疎水性物質(C-4)ステアリン酸0.18部、およびポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルリン酸(第一工業製薬社製、プライサーフA210G、オキシエチレン基の平均重合度約7)0.06部を125℃に加熱したディスクドライヤーに投入した。含水率が15%となるまで乾燥して吸収性樹脂前駆体(5)を得た。
<表面架橋>
実施例1と同じ条件で表面架橋を行い、吸収性樹脂粒子(5)を得た。吸収性樹脂粒子(5)の重量平均粒子径は310μmであった。」

イ 甲9発明
甲9に記載された事項を、特に実施例2、4又は5に関して整理すると、甲9には次の発明が記載されていると認める。

<甲9実施例2発明>
「実施例2で得られた重量平均粒子径が410μmの吸水性樹脂粒子(2)。」(当審注:実施例2については上記ア参照。)

<甲9実施例4発明>
「実施例4で得られた重量平均粒子径が350μmの吸水性樹脂粒子(4)。」(当審注:実施例4については上記ア参照。)

<甲9実施例5発明>
「実施例5で得られた重量平均粒子径が310μmの吸水性樹脂粒子(5)。」(当審注:実施例5については上記ア参照。)

(7)甲10に記載された事項及び甲10発明
ア 甲10に記載された事項
甲10には、「吸収体の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「[0088]D.吸水性樹脂を使用した吸収体の評価試験
次に、上記実施例で作成した吸収体の評価試験を行った。具体的には、人工尿を用い、以下に示す評価試験を行った。
[0089] (1)人工尿の調製
10L容の容器に適量の蒸留水を入れ、塩化ナトリウム60g、塩化カルシウム・二水和物1.8g、及び塩化マグネシウム・六水和物3.6gを添加し、溶解した。次いで、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.15gを添加し、さらに蒸留水を追加して、全体の質量を6000gとした。さらに、少量の青色1号で着色して、人工尿を調製した。
[0090] (2)吸収体及び吸収性物品の作製
吸水性樹脂10gと吸収性繊維として解砕パルプ(レオニア社製,レイフロック)10gを用い、上述の実施例「吸収体の製造」に準じて、長さ40cm×幅12cmの大きさのシート状の吸収体を作製した。次に、得られた吸収体に霧吹きで約0.6gの水を全体に散布した。その後、この吸収体の上に、吸収体と同じ大きさで坪量16g/m^(2)のティッシュッペーパーを重ね、全体に196kPaの荷重を30秒間加えてプレスすることにより、評価用吸収体を作製した。さらに、この評価用吸収体の上面に、評価用吸収体と同じ大きさで、坪量22g/m^(2)のポリエチレン-ポリプロピレン製エアスルー型多孔質液体透過性シートを配置した。また、同じ大きさ、同じ坪量のポリエチレン製液体不透過性シートを評価用吸収体の下面に配置して評価用吸収体を挟みつけることにより、吸収性物品とした。
[0091] (3)評価試験
次に、上記吸収性物品を用い、以下の評価試験を行った。
[0092] (3-1)吸収性物品の浸透時間
水平の台上に吸収性物品を置き、その吸収性物品の中心部に、内径3cmの液投入用シリンダーを具備した測定器具を置いた。そして、50mLの人工尿をそのシリンダー内に一度に投入するとともに、ストップウォッチを用いて、人工尿がシリンダー内から完全に消失するまでの時間を測定し、1回目の浸透時間(秒)とした。次に、シリンダーを取り除き、吸収性物品をそのままの状態で保存し、1回目の人工尿投入開始から30分後及び60分後にも、1回目と同じ位置に測定器具を用いて同様の操作を行い、2回目及び3回目の浸透時間(秒)を測定した。そして、1回目?3回目の合計時間を合計浸透時間とした。浸透時間が短いほど、吸収性物品として好ましいと言える。
[0093] (3-2)逆戻り量
上述した浸透時間の測定における1回目の試験液投入開始から120分後、吸収性物品上の人工尿投入位置付近に、予め質量(Wd(g))を測定しておいた10cm四方の濾紙80枚程度を置き、その上に底面が10cm×10cmの質量5kgの重りを載せた。5分間の荷重後、濾紙の質量(We(g))を測定し、以下の式のとおり、増加した質量を逆戻り量(g)とした。なお、逆戻り量が小さいほど、吸収性物品として好ましいと言える。
逆戻り量(g)=We-Wd
[0094] (3-3)拡散長
上述した逆戻り量の測定後5分以内に、人工尿が浸透した吸収性物品の長手方向の拡がり寸法(cm)を測定した。人工尿を投入した中心部から両長手方向に広がった液の両端は短手方向において拡散距離にバラツキが生じるため、長手方向に対し青い人工尿の広がった距離の最大長さを“拡散長”として測定し、小数点以下の数値は四捨五入した。
[0095] 吸水性樹脂として、吸水量55倍型の住友精化株式会社製 アクアキープSA55SXIIを用いた場合を実施例2,吸水量60倍型の住友精化株式会社製 アクアキープSA60SXIIを用いた場合を実施例3とした。結果は以下の通りである。
[表1]



イ 甲10発明
甲10に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲10には次の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認める。

「実施例2のシート状吸収体(拡散長19cm)を作製するのに用いられる住友精化株式会社製 アクアキープSA55SXII。」(当審注:実施例2については上記ア参照。)

(8)甲13に記載された事項及び甲13発明
ア 甲13に記載された事項
甲13には、「吸水性樹脂及び吸水性樹脂の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「[0100] <4-2.実施例及び比較例について>
[実施例1]
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、並びに、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径110mm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコに、炭化水素分散媒としてn-ヘプタン300gをとり、高分子系分散剤として無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学株式会社、ハイワックス1105A)0.74gを添加し、攪拌しつつ加温溶解した後、50℃まで冷却した。
[0101] 一方、500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液92g(1.02モル)をとり、外部より冷却しつつ、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液102.2gを滴下して75モル%の中和を行った後、増粘剤としてヒドロキシルエチルセルロース0.092g(住友精化株式会社、HEC AW-15F)、アゾ系化合物として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.092g(0.339ミリモル)、過酸化物として過硫酸カリウム0.037g(0.137ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.010g(0.058ミリモル)とイオン交換水43.8gを加えて溶解し、モノマー水溶液を調製した。
[0102] そして、上述のように調製したモノマー水溶液をセパラブルフラスコに添加して、10分間攪拌した後、n-ヘプタン6.66gに界面活性剤としてHLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-370)0.74gを加熱溶解した界面活性剤溶液7.4gをさらに添加して、攪拌しながら系内を窒素で十分に置換した後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を60分間行うことで第1段目の重合スラリー液を得た。
[0103] 一方、別の500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液128.8g(1.43モル)をとり、外部より冷却しつつ、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液143.1gを滴下して75モル%の中和を行った後、アゾ系化合物として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.129g(0.475ミリモル)、過酸化物として過硫酸カリウム0.052g(0.191ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.012g(0.067ミリモル)とイオン交換水15.9gを加えて溶解し、第2段目のモノマー水溶液を調製した。
[0104] 前述のセパラブルフラスコ系内を25℃に冷却した後、第2段目のモノマー水溶液の全量を、第1段目の重合スラリー液に添加して、系内を窒素で十分に置換した後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第2段目の重合を30分間行った。
[0105] 第2段目の重合後、125℃の油浴で反応液を昇温し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら239gの水を系外へ抜き出した後、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルの2質量%水溶液4.42g(0.51ミリモル)を添加し、80℃で2時間保持した。その後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することによって、乾燥品を得た。この乾燥品に対して0.3質量%の非晶質シリカ(エボニックデグサジャパン株式会社製、カープレックス#80)を混合し、それを目開き1000μmの篩を通過させ、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂231.2gを得た。この吸水性樹脂を、前述の各種試験方法に従って評価した。
[0106] なお、得られた吸水性樹脂は、その全体の割合に占める150?850μmの粒子の質量割合が92質量%であり、300?400μmの粒子の質量割合が32質量%であった。
[0107] [実施例2]
実施例2では、第2段目の重合後、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら236gの水を系外へ抜き出したこと以外は、実施例1と同様とした。これにより、実施例1にて得られた吸水性樹脂とは保水能が異なる吸水性樹脂234.1gを得た。この吸水性樹脂を、前述の各種試験方法に従って評価した。
[0108] なお、得られた吸水性樹脂は、その全体の割合に占める150?850μmの粒子の質量割合が94質量%であり、300?400μmの粒子の質量割合が36質量%であった。」

イ 甲13発明
甲13に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲13には次の発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されていると認める。

「還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、並びに、攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する攪拌翼を備えた内径110mm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備し、このフラスコに、炭化水素分散媒としてn-ヘプタン300gをとり、高分子系分散剤として無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学株式会社、ハイワックス1105A)0.74gを添加し、攪拌しつつ加温溶解した後、50℃まで冷却し、一方、500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液92g(1.02モル)をとり、外部より冷却しつつ、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液102.2gを滴下して75モル%の中和を行った後、増粘剤としてヒドロキシルエチルセルロース0.092g(住友精化株式会社、HEC AW-15F)、アゾ系化合物として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.092g(0.339ミリモル)、過酸化物として過硫酸カリウム0.037g(0.137ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.010g(0.058ミリモル)とイオン交換水43.8gを加えて溶解し、モノマー水溶液を調製し、そして、上述のように調製したモノマー水溶液をセパラブルフラスコに添加して、10分間攪拌した後、n-ヘプタン6.66gに界面活性剤としてHLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社、リョートーシュガーエステルS-370)0.74gを加熱溶解した界面活性剤溶液7.4gをさらに添加して、攪拌しながら系内を窒素で十分に置換した後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を60分間行うことで第1段目の重合スラリー液を得、一方、別の500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液128.8g(1.43モル)をとり、外部より冷却しつつ、30質量%の水酸化ナトリウム水溶液143.1gを滴下して75モル%の中和を行った後、アゾ系化合物として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.129g(0.475ミリモル)、過酸化物として過硫酸カリウム0.052g(0.191ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.012g(0.067ミリモル)とイオン交換水15.9gを加えて溶解し、第2段目のモノマー水溶液を調製し、前述のセパラブルフラスコ系内を25℃に冷却した後、第2段目のモノマー水溶液の全量を、第1段目の重合スラリー液に添加して、系内を窒素で十分に置換した後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第2段目の重合を30分間行い、第2段目の重合後、125℃の油浴で反応液を昇温し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら236gの水を系外へ抜き出した後、後架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルの2質量%水溶液4.42g(0.51ミリモル)を添加し、80℃で2時間保持し、その後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することによって、乾燥品を得、この乾燥品に対して0.3質量%の非晶質シリカ(エボニックデグサジャパン株式会社製、カープレックス#80)を混合し、それを目開き1000μmの篩を通過させて得た球状粒子が凝集した形態であって、生理食塩水の保水能が40.3g/g、中位粒子径が333μmである吸水性樹脂。」

2 取消理由1(甲3ないし7、9、10及び13のいずれかに基づく新規性)について
(1)甲3に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」(当審注:下記(1)?(6)の手順は、次のとおり。以下同様。
(1)底面積50cm^(2)の凹部を有する容器を前記凹部が鉛直方向に開口した状態で配置する。
(2)前記凹部内に吸水性樹脂粒子1.00gを配置する。
(3)前記凹部内において前記吸水性樹脂粒子上に不織布を配置する。
(4)前記不織布上に質量90gの重りを配置する。
(5)前記凹部内に生理食塩水を供給する。
(6)前記吸水性樹脂粒子の膨潤開始時から300秒経過したときの前記重りの鉛直方向の移動距離を前記膨潤高さとして測定する。)と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点3-1について検討する。
甲16によると、甲3発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「9.5mm」であり、「7?9.2mm」の範囲内のものではない。
したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。

よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲3に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲4に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7.2?9mmである」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点4-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点4-1について検討する。
甲17によると、甲4発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「6.4mm」であり、「7?9.2mm」の範囲内のものではない。
したがって、相違点4-1は実質的な相違点である。

よって、相違点4-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲4発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲4に記載された発明であるとはいえない。

(3)甲5に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点5-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲5発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点5-1について検討する。
甲18は、目開き710μmのJIS標準篩を用いて分級して吸水性樹脂粒子を得、得た吸水性樹脂粒子を表面架橋させた後に目開き850μmのJIS標準篩を用いていることから、甲5の実施例2(両方とも目開き710μmのJIS標準篩を用いている。)に記載の粒子状吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書であるとはいえないし、甲5の実施例3(両方とも目開き850μmのJIS標準篩を用いている。)に記載の粒子状吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書であるともいえない。
したがって、甲5の実施例2又は3に記載の粒子状吸収剤を調整し実験した実験成績証明書として甲18を採用することができないので、甲18に基づいて、甲5発明における「生理食塩水の保水量」、「中位粒子径」及び「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」を相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものと認定することはできない。
仮に、甲18を採用することができるとしても、それによると、甲5発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「6.8mm」であり、「7?9.2mm」の範囲内のものではない。
したがって、相違点5-1は実質的な相違点である。

よって、相違点5-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲5に記載された発明であるとはいえない。

(4)甲6に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点6-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び 「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点6-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲6発明においては、そのようには特定されていない点。

事案に鑑み、相違点6-2から検討する。
甲6には、甲6発明における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」の値に関する記載はない。
そして、甲6発明は、相違点6-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点6-2は実質的な相違点である。

よって、相違点6-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲6に記載された発明であるとはいえない。

(5)甲7に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点7-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点7-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲7発明においては、そのようには特定されていない点。

事案に鑑み、相違点7-2から検討する。
甲7には、甲7発明における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」の値に関する記載はない。
そして、甲7発明は、相違点7-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点7-2は実質的な相違点である。

よって、相違点7-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲7発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲7に記載された発明であるとはいえない。

(6)甲9に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9実施例2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点9-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲9実施例2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点9-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲9実施例2発明においては、そのようには特定されていない点。

事案に鑑み、相違点9-2から検討する。
甲9には、甲9実施例2発明における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」の値に関する記載はない。
そして、甲9実施例2発明は、相違点9-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点9-2は実質的な相違点である。

よって、相違点9-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲9実施例2発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1と甲9実施例4発明又は甲9実施例5発明との対比についても同様のことがいえ、本件特許発明1は甲9実施例4であるとはいえないし、甲9実施例5発明であるともいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲9に記載された発明であるとはいえない。

(7)甲10に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
甲11によると、甲10発明における「住友精化株式会社製 アクアキープSA55SXII」は、質量平均粒径:360μm、生理食塩水吸水速度:42秒、生理食塩水保水能:35g/gのポリアクリル酸ナトリウム架橋体である。
ここで、質量平均粒径は本件特許発明1における「中位粒子径」に相当する。
それを踏まえて、本件特許発明1と甲10発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%であり、生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、中位粒子径が250?850μmである、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点10-1>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲10発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点10-2>
本件特許発明1においては、「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲10発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、検討する。
<相違点10-1について>
甲10には、甲10発明における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」の値に関する記載はない。
そして、甲10発明は、相違点10-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点10-1は実質的な相違点である。

<相違点10-2について>
令和3年3月19日に特許権者が提出した意見書に添付した乙第1号証によると、甲10発明における「住友精化株式会社製 アクアキープSA55XII」の「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「6.8mm」であり、「7?9.2mm」の範囲内のものではない。
したがって、相違点10-2も実質的な相違点である。

よって、本件特許発明1は甲10発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲10に記載された発明であるとはいえない。

(8)甲13に基づく新規性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲13発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%であり、
生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、
中位粒子径が250?850μmである、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点13-1>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲13発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点13-2>
本件特許発明1においては、「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲13発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、検討する。
<相違点13-1について>
甲13には、甲13発明における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」の値に関する記載はない。
そして、甲13発明は、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点13-1は実質的な相違点である。

<相違点13-2について>
甲13には、甲13発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の値に関する記載はない。
また、令和3年3月19日に特許権者が提出した意見書に添付した乙第2号証(以下、「乙2」という。)によると、甲13発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の値は、「9.4mm」であるから、甲13発明における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が「7?9.2mm」である蓋然性が高いとはいえない。
なお、特許異議申立人は、令和3年5月14日提出の意見書において、乙2は、測定した数値が甲13の実施例2の数値と10%程度乖離しているから、甲13の実施例2が正しく追試されているかどうか疑わしく、また、乙2が正しく追試されていたとしても、技術的誤差の範囲内である旨主張する。
そこで、検討するに、乙2に記載された30分経過後の生理食塩水の保水能の数値や30分経過後の荷重下膨潤度の数値は甲13に記載された数値とほぼ等しいから、乙2に記載された120分経過後の4.14kPa荷重下での生理食塩水の吸水能の数値が甲13に記載された数値と10%程度乖離していたとしても、それだけでは、正しく追試されていないことにはならないし、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「7?9.2mm」であると明確に特定されており、さらに、この範囲外の技術的誤差を含むとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
そして、甲13発明は、相違点13-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していると認めるに足りる証拠はなく、相違点13-2は実質的な相違点である。

よって、本件特許発明1は甲13発明であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲13に記載された発明であるとはいえない。

(9)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことはできない。

3 取消理由2(甲5、7、9、10又は13のいずれかを主引用文献とする進歩性)について
(1)甲5を主引用文献とする進歩性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記2(3)アのとおりである。
まず、相違点5-1について検討する。
甲5には、甲5発明において、相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項のうち、「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」を「7?9.2mm」の範囲内のものとする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲5発明において、相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点5-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、令和3年5月14日提出の意見書において、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が技術的誤差を含むものであること及びその数値範囲に臨界的意義がないから、本件特許発明1は依然として甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
そこで、検討する。
本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「7?9.2mm」であると明確に特定されており、この範囲外にわたって技術的誤差を含むとはいえない。
また、甲5には、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」に相当するパラメータに関する記載はないし、当然それを調整するという考えも記載されていないから、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の「7?9.2mm」という数値範囲に臨界的意義がないとしても、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)甲7を主引用文献とする進歩性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲7発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記2(5)アのとおりである。
事案に鑑み、相違点7-2から検討する。
甲7には、甲7発明において、相違点7-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲7発明において、相違点7-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点7-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、特許異議申立人は、令和3年5月14日提出の意見書において、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が技術的誤差を含むものであること及びその数値範囲に臨界的意義がないから、本件特許発明1は依然として甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
そこで、検討する。
本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「7?9.2mm」であると明確に特定されており、技術的誤差を含むとはいえない。
また、甲7には、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」に相当するパラメータに関する記載はないし、当然それを調整するという考えも記載されていないから、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の「7?9.2mm」という数値範囲に臨界的意義がないとしても、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)甲9を主引用文献とする進歩性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9実施例2発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記2(6)アのとおりである。
事案に鑑み、相違点9-2から検討する。
甲9には、甲9発実施例2発明において、相違点9?2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲9実施例2発明において、相違点9-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点9-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲9実施例2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明1と甲9実施例4発明又は甲9実施例5発明との対比についても同様のことがいえ、本件特許発明1は甲9実施例4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲9実施例5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、特許異議申立人は、令和3年5月14日提出の意見書において、甲9実施例2発明、甲9実施例4発明又は甲9実施例5発明において、本件特許発明1における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」に相当するパラメータを60秒以下に制御することは当業者にとって容易である旨主張する。
そこで、検討する。
甲9実施例2発明、甲9実施例4発明又は甲9実施例5発明が満たしている蓋然性が高いと特許異議申立人が主張する本件特許発明1の発明特定事項が、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」を60秒以下とした場合にも満たすとは限らないし、証拠によって満たすことが示されてもいるわけでもない。
したがって、甲9実施例2発明、甲9実施例4発明又は甲9実施例5発明において、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」に相当するパラメータを60秒以下に制御することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲10を主引用文献とする進歩性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲10発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記2(7)アのとおりである。
そこで、検討する。
<相違点10-1について>
甲10には、甲10発明において、相違点10-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲11を含め他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲10発明において、相違点10-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

<相違点10-2について>
甲10には、甲10発明において、相違点10-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、甲11を含め他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲10発明において、相違点10-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることも当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本件特許発明1は甲10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)甲13を主引用文献とする進歩性について
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲13発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記2(8)アのとおりである。
事案に鑑み、相違点13-2から検討する。
甲13には、甲13発明において、相違点13-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲13発明において、相違点13-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、相違点13-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、令和3年5月14日提出の意見書において、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の「7?9.2mm」という数値範囲に臨界的意義がないから、本件特許発明1は依然として甲13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
そこで、検討する。
甲13には、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」に相当するパラメータに関する記載はないし、当然それを調整するという考えも記載されていないから、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の「7?9.2mm」という数値範囲に臨界的意義がないとしても、甲13発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

3 取消理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細にはおおむね次の記載がある。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸収性物品が吸液した際に液が充分に拡散せずに吸液箇所(液の浸入箇所)の近傍のみに留まると、余剰の液は吸収性物品の表面を流れる等して吸収性物品の外に漏れるといった不具合が生じ得る。そのため、吸収性物品に対しては、吸液した際に液が好適に拡散することが求められ、特に、吸液した際に吸収体の平面方向(厚み方向に対して垂直な方向)に液が好適に拡散することが求められる。
【0005】
本発明の一側面は、吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品を与える吸水性樹脂粒子及び吸収体を提供することを目的とする。また、本発明の他の一側面は、吸液した際に液が好適に拡散し得る吸収性物品を提供することを目的とする。」

・「【0014】
本明細書において、「アクリル」及び「メタクリル」を合わせて「(メタ)アクリル」と表記する。「アクリレート」及び「メタクリレート」も同様に「(メタ)アクリレート」と表記する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「水溶性」とは、25℃において水に5質量%以上の溶解性を示すことをいう。本明細書に例示する材料は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「生理食塩水」とは、0.9質量%塩化ナトリウム水溶液をいう。
【0015】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子において、下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ(ゲル膨潤高さ)は、10mm以下である。
(1)底面積50cm^(2)の凹部を有する容器を前記凹部が鉛直方向に開口した状態で配置する。
(2)前記凹部内に吸水性樹脂粒子1.00gを配置する。
(3)前記凹部内において前記吸水性樹脂粒子上に不織布を配置する。
(4)前記不織布上に質量90gの重りを配置する。
(5)前記凹部内に生理食塩水を供給する。
(6)前記吸水性樹脂粒子の膨潤開始時から300秒経過したときの前記重りの鉛直方向の移動距離を前記膨潤高さとして測定する。
【0016】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子によれば、吸液した際に吸収体の平面方向(厚み方向に対して垂直な方向、吸液面に平行な方向)に液が好適に拡散し得る吸収性物品を得ることができる。本実施形態に係る吸水性樹脂粒子によれば、好適な吸水特性(保水量、吸水速度、荷重下の吸水量等)を有しながらも、吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品を得ることができる。
【0017】
吸水性樹脂粒子が吸液することにより膨潤すると、厚み方向(吸液面に垂直な方向)に吸収体及び吸収性物品が膨張し得る。厚み方向に膨張し過ぎると、充分に吸液して更なる継続使用ができない状態に至ったと使用者、その保護者又は介助者等が誤解しかねない。また、おむつ等の装着物においては、吸液位置から吸収体の平面方向に吸液部材(例えばギャザー)を配置することで漏液を抑制し得るが、厚み方向の膨張に対して従来充分に対策が講じられていない。一方、本実施形態に係る吸水性樹脂粒子によれば、吸収体及び吸収性物品の厚み方向の膨張を抑制しつつ、吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品を得ることができる。
【0018】
膨潤高さは、液が好適に拡散し得る吸収性物品を得やすい観点から、9.5mm以下、9.2mm以下、9.0mm以下、8.8mm以下、又は、8.6mm以下が好ましい。膨潤高さは、8.5mm以下、又は、8.4mm以下であってよい。膨潤高さは、1mm以上、3mm以上、5mm以上、7mm以上、又は、8mm以上であってよい。
【0019】
膨潤高さの試験における工程(1)において、容器は有底の凹部を有しており、凹部の開口方向が鉛直方向に位置するように容器を配置する。容器は、例えば、平坦面である底面を有する。容器において、凹部を形成する側壁は、例えば、凹部の開口方向に伸びている。凹部の開口方向に垂直な断面において凹部は例えば円形を呈している。円形の断面を有する凹部としては、例えば、内径80mm、底面積50.24cm^(2)の凹部を用いることができる。
【0020】
工程(2)では、凹部の底面に吸水性樹脂粒子を配置することができる。工程(2)では、凹部の底面に吸水性樹脂粒子を均一に配置することができる。
【0021】
工程(3)における不織布としては、目付量12g/m^(2)の液体透過性不織布を用いることができる。工程(3)では、容器の凹部内において吸水性樹脂粒子に不織布を接触させることができる。不織布の大きさに特に制限はなく、不織布を用いることで工程(4)の重りと吸水性樹脂粒子とが直接的に接触しなければよい。
【0022】
工程(4)における重りは、容器の内部を鉛直方向に抵抗無く移動することができ、平坦面を有してよい。重りは、液体が通過できる複数の孔が穿たれていてよい。工程(4)では、重りの平坦面を不織布に接触させることができる。工程(4)では、例えば、重りの質量に起因する荷重以外の荷重が吸水性樹脂粒子に負荷されないように重りを不織布上に静かに載せる。重りは、単一の部材であってよく、複数の部材から構成されていてもよい。重りは、例えば、平坦面を有する平板部と、平板部から伸びる凸部と、を有している。
【0023】
工程(5)における生理食塩水の使用量は、吸水性樹脂粒子が生理食塩水に充分に浸漬するように調整できる。生理食塩水の使用量は、例えば20?200gである。
【0024】
工程(6)において吸水性樹脂粒子の膨潤開始時としては、吸水性樹脂粒子が膨潤して重りが移動を開始した時を用いることができる。膨潤開始時から300秒経過したときの移動距離を用いることで、液が好適に拡散し得る吸収性物品を与える吸水性樹脂粒子を容易に選定できる。」

・「【0026】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の生理食塩水の保水量は、下記の範囲が好ましい。保水量は、吸収性物品の吸収容量を高めやすい観点から、20g/g以上、30g/g以上、34g/g以上、35g/g以上、40g/g以上、45g/g以上、又は、50g/g以上が好ましい。保水量は、吸収性物品における過度の膨潤を抑制しやすい観点から、80g/g以下、75g/g以下、70g/g以下、65g/g以下、60g/g以下、又は、55g/g以下が好ましい。これらの観点から、保水量は、20?80g/gが好ましく、30?55g/gがより好ましい。保水量としては、25℃における保水量を用いることができる。保水量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。」

・「【0028】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の生理食塩水の吸水速度は、下記の範囲が好ましい。吸水速度は、液が好適に吸収性物品に吸収されやすい観点から、60秒以下、57秒以下、又は、55秒以下が好ましい。吸水速度は、液が狭い箇所に滞留することで生じるゲルブロッキングを防止しやすい観点から、20秒以上、25秒以上、30秒以上、33秒以上、35秒以上、40秒以上、又は、45秒以上が好ましい。これらの観点から、吸水速度は、20?60秒が好ましい。吸水速度としては、25℃における吸水速度を用いることができる。吸水速度は、Vortex法(日本工業規格JIS K 7224(1996))に準拠して測定することができる。具体的には、600rpm(rpm=min^(-1))で撹拌された生理食塩水50±0.1g中に吸水性樹脂粒子2.0±0.002gを添加し、吸水性樹脂粒子の添加後から、渦が消失し液面が平坦になるまでの時間[秒]として吸水速度を得ることができる。」

・「【0029】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の形状としては、略球状、破砕状、顆粒状等が挙げられる。本実施形態に係る吸水性樹脂粒子の中位粒子径は、250?850μm、300?700μm、又は、300?600μmであってよい。本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、後述する製造方法により得られた時点で所望の粒度分布を有していてよいが、篩による分級を用いた粒度調整等の操作を行うことにより粒度分布を調整してもよい。」

・「【0030】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、例えば、重合体粒子として、エチレン性不飽和単量体を含有する単量体を重合させて得られる架橋重合体を含むことができる。すなわち、本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有することができる。エチレン性不飽和単量体としては、水溶性エチレン性不飽和単量体を用いることができる。重合方法としては、逆相懸濁重合法、水溶液重合法、バルク重合法、沈殿重合法等が挙げられる。これらの中では、得られる吸水性樹脂粒子の良好な吸水特性の確保、及び、重合反応の制御が容易である観点から、逆相懸濁重合法又は水溶液重合法が好ましい。以下においては、エチレン性不飽和単量体を重合させる方法として、逆相懸濁重合法を例にとって説明する。
【0031】
エチレン性不飽和単量体は水溶性であることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。エチレン性不飽和単量体がアミノ基を有する場合、当該アミノ基は4級化されていてもよい。エチレン性不飽和単量体は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。上述の単量体のカルボキシル基、アミノ基等の官能基は、後述する表面架橋工程において架橋が可能な官能基として機能し得る。
【0032】
これらの中でも、工業的に入手が容易である観点から、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸及びその塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、並びに、N,N-ジメチルアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸及びその塩、並びに、アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことがより好ましい。吸水特性(保水量等)を更に高める観点から、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが更に好ましい。すなわち、吸水性樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0033】
吸水性樹脂粒子を得るための単量体としては、上述のエチレン性不飽和単量体以外の単量体が使用されてもよい。このような単量体は、例えば、上述のエチレン性不飽和単量体を含む水溶液に混合して用いることができる。エチレン性不飽和単量体の使用量は、単量体全量に対して70?100モル%であることが好ましい。中でも、(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が単量体全量に対して70?100モル%であることがより好ましい。」

・「【0036】
逆相懸濁重合法においては、界面活性剤の存在下、炭化水素分散媒中で単量体水溶液を分散し、ラジカル重合開始剤等を用いてエチレン性不飽和単量体の重合を行うことができる。ラジカル重合開始剤としては、水溶性ラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0037】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。界面活性剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
・・・(略)・・・
【0040】
逆相懸濁重合では、上述の界面活性剤と共に高分子系分散剤を併せて用いてもよい。高分子系分散剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。高分子系分散剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。・・・(略)・・・
【0042】
炭化水素分散媒は、炭素数6?8の鎖状脂肪族炭化水素、及び、炭素数6?8の脂環式炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含んでいてもよい。炭化水素分散媒としては、・・・(略)・・・が挙げられる。炭化水素分散媒は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
・・・(略)・・・
【0045】
ラジカル重合開始剤は水溶性であることが好ましく、例えば、・・・(略)・・・が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。・・・(略)・・・
【0048】
重合反応の際、重合に用いる単量体水溶液は、連鎖移動剤を含んでいてもよい。連鎖移動剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。
【0049】
重合に用いる単量体水溶液は、吸水性樹脂粒子の粒子径を制御するために増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。なお、重合時の撹拌速度が同じであれば、単量体水溶液の粘度が高いほど、得られる粒子の中位粒子径は大きくなる傾向にある。
【0050】
重合の際に自己架橋による架橋が生じるが、内部架橋剤を用いることで架橋を施してもよい。内部架橋剤を用いると、吸水性樹脂粒子の吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を制御しやすい。内部架橋剤は、通常、重合反応の際に反応液に添加される。内部架橋剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。・・・(略)・・・
【0052】
エチレン性不飽和単量体、ラジカル重合開始剤、界面活性剤、高分子系分散剤、炭化水素分散媒等(必要に応じて更に内部架橋剤)を混合した状態において撹拌下で加熱し、油中水系において逆相懸濁重合を行うことができる。
【0053】
逆相懸濁重合を行う際には、界面活性剤(必要に応じて更に高分子系分散剤)の存在下で、エチレン性不飽和単量体を含む単量体水溶液を炭化水素分散媒に分散させる。このとき、重合反応を開始する前であれば、界面活性剤、高分子系分散剤等の添加時期は、単量体水溶液の添加の前後どちらであってもよい。
・・・(略)・・・
【0055】
逆相懸濁重合は、1段、又は、2段以上の多段で行うことができる。逆相懸濁重合は、生産性を高める観点から、2?3段で行うことが好ましい。
・・・(略)・・・
【0058】
重合後、得られた含水ゲル状重合体に重合後架橋剤を添加して加熱することで架橋を施してもよい。重合後に架橋を行うことで含水ゲル状重合体の架橋度を高めて吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を更に向上させることができる。
【0059】
重合後架橋剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。・・・(略)・・・
【0062】
引き続き、得られた含水ゲル状重合体から水分を除去するために乾燥を行うことにより重合体粒子(例えば、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する重合体粒子)が得られる。乾燥方法としては、例えば、(a)含水ゲル状重合体が炭化水素分散媒に分散した状態で、外部から加熱することにより共沸蒸留を行い、炭化水素分散媒を還流させて水分を除去する方法、(b)デカンテーションにより含水ゲル状重合体を取り出し、減圧乾燥する方法、(c)フィルターにより含水ゲル状重合体をろ別し、減圧乾燥する方法等が挙げられる。中でも、製造工程における簡便さから、(a)の方法を用いることが好ましい。
【0063】
重合反応時の撹拌機の回転数を調整することによって、あるいは、重合反応後又は乾燥の初期において凝集剤を系内に添加することによって吸水性樹脂粒子の粒子径を調整することができる。凝集剤を添加することにより、得られる吸水性樹脂粒子の粒子径を大きくすることができる。凝集剤としては、無機凝集剤を用いることができる。無機凝集剤(例えば粉末状無機凝集剤)としては、・・・(略)・・・が挙げられる。・・・(略)・・・
【0066】
吸水性樹脂粒子の製造においては、乾燥工程(水分除去工程)又はそれ以降の工程において、表面架橋剤を用いて含水ゲル状重合体の表面部分(表面及び表面近傍)の表面架橋が行われることが好ましい。表面架橋を行うことで、吸水性樹脂粒子の吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を制御しやすい。・・・(略)・・・
【0067】
表面架橋剤としては、・・・(略)・・・が挙げられる。表面架橋剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。・・・(略)・・・
【0069】
表面架橋後において、公知の方法で水及び炭化水素分散媒を留去することにより、表面架橋された乾燥品である重合体粒子を得ることができる。
・・・(略)・・・
【0071】
本実施形態に係る吸水性樹脂粒子は、重合体粒子に加えて、例えば、ゲル安定剤、金属キレート剤(エチレンジアミン4酢酸及びその塩、ジエチレントリアミン5酢酸及びその
塩、例えばジエチレントリアミン5酢酸5ナトリウム等)、流動性向上剤(滑剤)等の追加成分を更に含むことができる。追加成分は、重合体粒子の内部、重合体粒子の表面上、又は、これらの両方に配置され得る。
【0072】
吸水性樹脂粒子は、重合体粒子の表面上に配置された複数の無機粒子を含んでいてもよい。例えば、重合体粒子と無機粒子とを混合することにより、重合体粒子の表面上に無機粒子を配置することができる。この無機粒子は、非晶質シリカ等のシリカ粒子であってもよい。」

・「【0075】
本実施形態に係る吸収体は、本実施形態に係る吸水性樹脂粒子を含有する。本実施形態に係る吸収体は、繊維状物を含有していてもよく、例えば、吸水性樹脂粒子及び繊維状物を含む混合物である。吸収体の構成としては、例えば、吸水性樹脂粒子及び繊維状物が均一混合された構成であってよく、シート状又は層状に形成された繊維状物の間に吸水性樹脂粒子が挟まれた構成であってもよく、その他の構成であってもよい。」

・「【0085】
本実施形態に係る吸収性物品は、本実施形態に係る吸収体を備える。本実施形態に係る吸収性物品は、吸収体を保形すると共に吸収体の構成部材の脱落や流動を防止するコアラップ;吸液対象の液が浸入する側の最外部に配置される液体透過性シート;吸液対象の液が浸入する側とは反対側の最外部に配置される液体不透過性シート等が挙げられる。吸収性物品としては、おむつ(例えば紙おむつ)、トイレトレーニングパンツ、失禁パッド、衛生材料(生理用ナプキン、タンポン等)、汗取りパッド、ペットシート、簡易トイレ用部材、動物排泄物処理材などが挙げられる。」

・「【実施例】
【0094】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の内容を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
<吸水性樹脂粒子の製造>
(実施例1)
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管、及び、撹拌機(翼径5cmの4枚傾斜パドル翼を2段有する撹拌翼)を備えた内径11cm、内容積2Lの丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコに、炭化水素分散媒としてn-ヘプタン293gを添加し、高分子系分散剤として無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学株式会社製、ハイワックス1105A)0.736gを添加することにより混合物を得た。この混合物を撹拌しつつ80℃まで昇温することにより分散剤を溶解した後、混合物を50℃まで冷却した。
【0096】
次に、内容積300mLのビーカーに、水溶性エチレン性不飽和単量体として80.5質量%のアクリル酸水溶液92.0g(アクリル酸:1.03モル)を添加した。続いて、外部より冷却しつつ、20.9質量%の水酸化ナトリウム水溶液147.7gをビーカー内に滴下することによりアクリル酸に対して75モル%の中和を行った。その後、増粘剤としてヒドロキシエチルセルロース0.092g(住友精化株式会社製、HEC AW-15F)、水溶性ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.092g(0.339ミリモル)及び過硫酸カリウム0.018g(0.068ミリモル)、内部架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル0.005g(0.029ミリモル)を加えた後に溶解させることにより第1段目の水性液を調製した。
【0097】
そして、撹拌機の回転数550rpmで撹拌しながら上述の第1段目の水性液を上述のセパラブルフラスコに添加した後、10分間撹拌した。その後、n-ヘプタン6.62gにショ糖ステアリン酸エステル(界面活性剤、三菱化学フーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-370、HLB値:3)0.736gを加熱溶解することにより得られた界面活性剤溶液をセパラブルフラスコに添加した。そして、撹拌機の回転数550rpmで撹拌しながら系内を窒素で充分に置換した。その後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合を60分間行うことにより第1段目の重合スラリー液を得た。
【0098】
次に、内容積500mLの別のビーカーに水溶性エチレン性不飽和単量体として80.5質量%のアクリル酸水溶液128.8g(アクリル酸:1.43モル)を添加した。続いて、外部より冷却しつつ、27質量%の水酸化ナトリウム水溶液159.0gをビーカー内に滴下することによりアクリル酸に対して75モル%の中和を行った。その後、水溶性ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.129g(0.475ミリモル)及び過硫酸カリウム0.026g(0.095ミリモル)を加えた後に溶解させることにより第2段目の水性液を調製した。
【0099】
次に、撹拌機の回転数1000rpmで撹拌しながら、上述のセパラブルフラスコ内を25℃に冷却した後、上述の第2段目の水性液の全量を上述の第1段目の重合スラリー液に添加した。続いて、系内を窒素で30分間置換した後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、重合反応を60分間行った。その後、重合後架橋剤として2質量%のエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液0.580g(エチレングリコールジグリシジルエーテル:0.067ミリモル)を添加することにより第2段目の含水ゲル状重合体を得た。
【0100】
上述の第2段目の含水ゲル状重合体に45質量%のジエチレントリアミン5酢酸5ナトリウム水溶液0.265gを撹拌下で添加した。その後、125℃に設定した油浴にフラスコを浸漬し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら223.7gの水を系外へ抜き出した。そして、フラスコに表面架橋剤として2質量%のエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液4.42g(エチレングリコールジグリシジルエーテル:0.507ミリモル)を添加した後、83℃で2時間保持した。
【0101】
その後、n-ヘプタンを125℃にて蒸発させて乾燥させることによって重合体粒子(乾燥品)を得た。この重合体粒子を目開き850μmの篩に通過させた後、重合体粒子の全質量を基準として0.2質量%の非晶質シリカ(オリエンタルシリカズコーポレーション社製、トクシールNP-S)を重合体粒子に混合することにより、非晶質シリカを含む吸水性樹脂粒子を229.6g得た。吸水性樹脂粒子の中位粒子径は346μmであった。実施例1において、内部架橋剤の使用量に対する外部架橋剤の使用量の比率はモル比で19.8であった。
【0102】
(実施例2)
第2段目の含水ゲル状重合体において、共沸蒸留により231.7gの水を系外へ抜き出したこと以外は実施例1と同様にして吸水性樹脂粒子230.6gを得た。吸水性樹脂粒子の中位粒子径は361μmであった。
【0103】
(実施例3)
第2段目の含水ゲル状重合体において、共沸蒸留により234.2gの水を系外へ抜き出したこと以外は実施例1と同様にして吸水性樹脂粒子231.1gを得た。吸水性樹脂粒子の中位粒子径は355μmであった。
【0104】
(比較例1)
・・・(略)・・・
【0117】
<中位粒子径の測定>
吸水性樹脂粒子の上述の中位粒子径は下記手順により測定した。すなわち、JIS標準篩を上から、目開き600μmの篩、目開き500μmの篩、目開き425μmの篩、目開き300μmの篩、目開き250μmの篩、目開き180μmの篩、目開き150μmの篩、及び、受け皿の順に組み合わせた。組み合わせた最上の篩に、吸水性樹脂粒子50gを入れ、ロータップ式振とう器を用いて10分間振とうさせて分級した。分級後、各篩上に残った粒子の質量を全量に対する質量百分率として算出し粒度分布を求めた。この粒度分布に関して粒子径の大きい方から順に篩上を積算することにより、篩の目開きと篩上に残った粒子の質量百分率の積算値との関係を対数確率紙にプロットした。確率紙上のプロットを直線で結ぶことにより、積算質量百分率50質量%に相当する粒子径を中位粒子径として得た。
【0118】
<膨潤高さの測定>
膨潤高さは、図2に示す測定装置Xを用いて測定した。図2に示す測定装置Xは、移動距離測定装置51、凹型円形カップ(高さ45mm、外径90mm、凹部の深さ40mm、凹部の内径80mm)52、及び、プラスチック製の凸型円形ピストン(外径79mm)53から構成される。凸型円形ピストン53は、平坦面を有する平板部と、平板部から伸びる凸部とを有している。凸型円形ピストン53の平板部には、平板部を貫通する直径2mmの貫通孔53aが均等に60個形成されている。測定装置Xは、レーザー光Lにより距離の変位を0.01mm単位で測定することが可能なセンサー(移動距離測定装置51の下部、株式会社キーエンス製、IL-100)を有する。距離の変位は、解析機と測定装置Xとをアンプユニット(株式会社キーエンス製、IL-1000)、チャンネルユニット(株式会社キーエンス製、NR-TH08)、及び、データロガー(株式会社キーエンス製、NR-500)を介して接続した上で、データ解析ソフト(株式会社キーエンス製、WAVE LOGGER)を用いて測定できる。凹型円形カップ52内に所定量の吸水性樹脂粒子54を均一に散布することができる。凹型円形カップ52の凹部内において吸水性樹脂粒子54上に不織布55(目付量12g/m^(2)の液体透過性不織布)を配置することができる。凸型円形ピストン53は、不織布55を介して吸水性樹脂粒子54に対して90gの荷重を均一に加えることができる。
【0119】
測定は温度25℃、湿度60±10%の環境下で行われた。凹型円形カップ52の凹部内における底部の全面に1.0gの吸水性樹脂粒子54を均一に散布した後、吸水性樹脂粒子54上に不織布55を配置した。次に、凸型円形ピストン53を不織布55の上に静かに載せた後、移動距離測定装置51のセンサーのレーザー光Lが凸型円形ピストン53の凸部の先端の中央部に位置するように調整した。凸型円形ピストン53により吸水性樹脂粒子54に90gの荷重が加えられた状態で、予め25℃に調節した生理食塩水(20g)を、凸型円形ピストン53の貫通孔53aを通して凹型円形カップ52内に投入し、吸水性樹脂粒子54が膨潤して凸型円形ピストン53を押し上げたことが感知(0.5mm変位が観測されると自動測定開始)された時点を吸水開始(0秒)とし、吸水性樹脂粒子54が膨潤して凸型円形ピストン53が押し上げられた距離(凹型円形カップ52の凹部の底面に対して垂直な方向の凸型円形ピストン53の変位差)を測定した。生理食塩水の投入開始から3秒おきに生理食塩水の水位を確認し、凸型円形ピストン53の平板部の平坦面の高さ付近に水面を維持するように、間欠的に生理食塩水の注水を続けた。吸水開始から5分(300秒)後における凸型円形ピストン53の移動距離を膨潤高さ[mm]として得た。
【0120】
<吸水性樹脂粒子の保水量>
吸水性樹脂粒子の生理食塩水の保水量(室温、25℃±2℃)を下記手順で測定した。まず、吸水性樹脂粒子2.0gを量り取った綿袋(メンブロード60番、横100mm×縦200mm)を内容積500mLのビーカー内に設置した。吸水性樹脂粒子の入った綿袋内に0.9質量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)500gを、ママコができないように一度に注ぎ込んだ後、綿袋の上部を輪ゴムで縛り、30分静置させることで吸水性樹脂粒子を膨潤させた。30分経過後の綿袋を、遠心力が167Gとなるように設定した脱水機(株式会社コクサン製、品番:H-122)を用いて1分間脱水した後、脱水後の膨潤ゲルを含んだ綿袋の質量Wa[g]を測定した。吸水性樹脂粒子を添加せずに同様の操作を行い、綿袋の湿潤時の空質量Wb[g]を測定し、下記式から吸水性樹脂粒子の生理食塩水の保水量を算出した。結果を表1に示す。
保水量[g/g]=(Wa-Wb)/2.0」

・「【0124】
<吸収体性能の評価>
(試験液の作製)
内容積10Lの容器に、塩化ナトリウム60g、塩化カルシウム二水和物1.8g、塩化マグネシウム六水和物3.6g及び適量の蒸留水を入れた後、完全に溶解させた。次いで、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.02gを添加した後、蒸留水を追加することにより水溶液全体の質量を6000gに調整した。続いて、少量の青色1号で着色することにより試験液(人工尿)を得た。
【0125】
(吸収性物品の作製)
気流型混合装置(有限会社オーテック社製、パッドフォーマー)を用いて、吸水性樹脂粒子10g及び粉砕パルプ10gを空気抄造によって均一混合することにより、40cm×12cmの大きさのシート状の吸収体を作製した。次に、吸収体と同じ大きさを有する坪量16g/m^(2)のコアラップ(ティッシュペーパー)の上に吸収体を配置した後、吸収体の上面に、吸収体と同じ大きさを有する坪量16g/m^(2)のコアラップ(ティッシュペーパー)を配置した。コアラップによって挟まれた吸収体に対して、196kPaの荷重を30秒間加えることにより積層体を得た。さらに、吸収体と同じ大きさを有する坪量22g/m^(2)のポリエチレン-ポリプロピレン製のエアスルー型多孔質液体透過性シートを積層体の上面に配置すると共に、同じ大きさ及び同じ坪量を有するポリエチレン製の液体不透過性シートを積層体の下面に配置することにより吸収性物品を作製した。
【0126】
(拡散長及び浸透速度の評価)
温度25±2℃の室内において、水平の台上に配置された吸収性物品の中心部に、内径3cmの開口部を有する液投入用シリンダーを具備した測定器具を載せた。次に、25±1℃に調整した50mLの試験液をシリンダー内に一度に投入(鉛直方向から供給)すると共にストップウォッチをスタートさせた。投入開始から、試験液が吸収体に完全に吸収されるまでの吸収時間を測定した。この操作を30分間隔で更に2回(計3回)行い、吸収時間の合計値を浸透速度(単位:秒)として得た。浸透速度は短い方が好ましい。また、1回目の試験液の投入開始から120分後に、試験液が浸透した吸収性物品の長手方向(吸収性物品における吸収体の平面方向)の拡がり寸法(吸収性物品の中心部を通り、かつ、試験液の拡散領域の両端部間の距離(拡散距離)。単位:cm)を測定した。拡散長は0.5cm単位で測定した。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1によれば、膨潤高さを低減することにより、吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品が得られることが確認される。」

(4)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0004】及び【0005】によると、本件特許発明1の解決しようとする課題、本件特許発明2の解決しようとする課題並びに本件特許発明3及び4の解決しようとする課題は、それぞれ「吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品を与える吸水性樹脂粒子を提供すること」、「吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散し得る吸収性物品を与える吸水体を提供すること」及び「吸液した際に液が好適に拡散し得る吸収性物品を提供すること」(以下、総称して「発明の課題」という。)である。
そして、上記(3)のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載され、「生理食塩水の保水量」、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」、「中位粒子径」及び「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が、それぞれ、「34g/g」、「45秒」、「346μm」及び「8.6mm」である実施例1、「48g/g」、「54秒」、「361μm」及び「9.1mm」である実施例2及び「51g/g」、「48秒」、「355μm」及び「8.4mm」である実施例3において、吸液した際に吸収体の平面方向に液が好適に拡散したことを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、「生理食塩水の保水量」が「30?80g/g」であり、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」が「60秒以下」であり、「中位粒子径」が「250?850μm」であり、「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が「7?9.2mm」であるものが、発明の課題を解決できると認識する。
したがって、本件特許発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件特許発明2ないし4についても同様である。

(5)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由3によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1のうち甲1、2及び8に基づく新規性、申立理由2のうち甲12に基づく進歩性並びに申立理由4(実施可能要件)である。
そこで、これらの申立理由について検討する。

1 申立理由1のうち甲1に基づく新規性について
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「吸水剤の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0033】・・・(略)・・・
[参考例1]攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてソルビタンモノステアレート3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0034】別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出した。次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得た。さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率5%の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の平均粒径は110μmであった。」

・「【0038】・・・(略)・・・
[参考例3]参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてエチルセルロースを用いた他は同様の操作を行い含水率4%の吸水性樹脂(3)を得た。吸水性樹脂(3)の平均粒径は250μmであった。
[実施例5]上記吸水性樹脂(3)10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行った。
【0039】上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(5)を得た。この吸水剤(5)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。」

イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてエチルセルロース3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出し、次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得、さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率4%の吸水性樹脂(3)を得、得た吸水性樹脂(3)10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い、上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合し、上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより得た吸水剤(5)。」

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点1-1について検討する。
甲1には、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載はない。
ところで、特許異議申立人は、甲1の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として甲14を提示することにより、本件特許発明1が相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有している旨主張する。
しかし、甲14は、「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)」に代えて「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)」を使用していることから、甲1の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書であるとはいえない。
したがって、甲1の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験した実験成績証明書として甲14を採用することができないので、甲1発明における「生理食塩水の保水量」、「中位粒子径」及び「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有しているとはいえない。
よって、相違点1-1は実質的な相違点である。

したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(4)申立理由1のうち甲1に基づく新規性についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由1のうち甲1に基づく新規性によっては取り消すことはできない。

2 申立理由1のうち甲2に基づく新規性について
(1)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「吸水剤の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0035】・・・(略)・・・
[参考例1]攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてソルビタンモノステアレート3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0036】別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出した。次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得た。さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率5%の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の平均粒径は110μmであった。
・・・(略)・・・
[参考例3]参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてエチルセルロースを用いた他は同様の操作を行い含水率4%の吸水性樹脂(3)を得た。吸水性樹脂(3)の平均粒径は250μmであった。
[実施例5]上記吸水性樹脂(3)100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理した。その後得られた含水率1%の表面架橋された樹脂10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500ml中に加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い本発明の吸水剤(5)を得た。」

イ 甲2発明
甲2に記載された事項を、特に実施例5に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてエチルセルロース3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出し、別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出し、次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで攪拌することにより分散させ、その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了し、重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得、さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率4%の吸水性樹脂(3)を得、上記吸水性樹脂(3)100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合し、上記の混合物を150℃で60分間加熱処理し、その後得られた含水率1%の表面架橋された樹脂10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500ml中に加え、1時間攪拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行い得た吸水剤(5)。」

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点2-1について検討する。
甲2には、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載はない。
ところで、特許異議申立人は、甲2の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として甲15を提示することにより、本件特許発明1が相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有している旨主張する。
しかし、甲15は、「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)」に代えて「ポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)」を使用していることから、甲2の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書であるとはいえない。
したがって、甲2の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験した実験成績証明書として甲15を採用することができないので、甲2発明における「生理食塩水の保水量」、「中位粒子径」及び「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たしているとはいえない。
よって、相違点2-1は実質的な相違点である。

したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(4)申立理由1のうち甲2に基づく新規性についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由1のうち甲2に基づく新規性によっては取り消すことはできない。

3 申立理由1のうち甲8に基づく新規性について
(1)甲8に記載された事項及び甲8発明
ア 甲8に記載された事項
甲8には、「吸水剤組成物及びその用途」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0061】そして、上記吸水剤組成物の諸性能を上記の方法によって測定した。その結果を表1に示す。
(実施例10)中和率75モル%のアクリル酸ナトリウム(親水性不飽和単量体)33重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)4.46gを溶解させて反応液とした。次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した(この反応液に窒素ガスを30分間吹き込むことによって該反応液中の溶存酸素を追い出した)。次いで,シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を25℃に保ちながら系を窒素ガス置換した。
【0062】続いて、反応液を攪拌しながら、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム2.4gおよびL-アスコルビン酸0.12gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、25?90℃で重合を行い、重合を開始してから40分後に反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出した。得られた含水ゲル状重合体は、その径が約5mmに細分化されていた。この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュ(目開きの大きさ300μm)の金網上に広げ、170℃で70分間熱風乾燥した。次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕後、分級し、不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体(b)を得た。
【0063】得られた吸水性樹脂前駆体(b)100重量部に、プロピレングリコール0.7重量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.02重量部、水2重量部、エチルアルコール0.7重量部とからなる表面架橋剤水溶液を混合した。上記の混合物を185℃で40分間加熱処理することにより吸水性樹脂(b)を得た。得られた吸水性樹脂(b)の無加圧下吸収倍率は43g/g、加圧下吸収倍率は32g/g、平均粒径は430μmであり、粒径が106μm未満の粒子の割合は3重量%であった。次に、上記の吸水性樹脂(b)100gに、過通液緩衝剤としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・アエロジル200(1次粒子の平均粒径約12nm);日本アエロジル株式会社製)0.3gを添加・混合(ドライブレンド)することにより、本発明にかかる吸水剤組成物(10)を得た。」

イ 甲8発明
甲8に記載された事項を、特に実施例10に関して整理すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

「中和率75モル%のアクリル酸ナトリウム(親水性不飽和単量体)33重量%水溶液5,500gに、内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)4.46gを溶解させて反応液とし、次に、この反応液を、窒素ガス雰囲気下で30分間脱気し、次いで,シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を取り付けて形成した反応器に、上記の反応液を供給し、反応液を25℃に保ちながら系を窒素ガス置換し、続いて、反応液を攪拌しながら、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム2.4gおよびL-アスコルビン酸0.12gを添加したところ、およそ1分後に重合が開始し、そして、25?90℃で重合を行い、重合を開始してから40分後に反応を終了して含水ゲル状重合体を取り出し、この細分化された含水ゲル状重合体を50メッシュ(目開きの大きさ300μm)の金網上に広げ、170℃で70分間熱風乾燥し、次いで、乾燥物を振動ミルを用いて粉砕後、分級し、不定形破砕状の吸水性樹脂前駆体(b)を得、得られた吸水性樹脂前駆体(b)100重量部に、プロピレングリコール0.7重量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.02重量部、水2重量部、エチルアルコール0.7重量部とからなる表面架橋剤水溶液を混合し、上記の混合物を185℃で40分間加熱処理することにより吸水性樹脂(b)を得、次に、上記の吸水性樹脂(b)100gに、過通液緩衝剤としての微粒子状の親水性二酸化ケイ素(商品名・アエロジル200(1次粒子の平均粒径約12nm);日本アエロジル株式会社製)0.3gを添加・混合(ドライブレンド)することにより、得た吸水剤組成物(10)。」

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲8発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点8-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点8-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲8発明においては、そのようには特定されていない点。

まず、相違点8-1について検討する。
甲8には、相違点8-1に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載はない。
ところで、特許異議申立人は、甲8の実施例10に記載の吸収剤組成物を調整し実験したものの実験成績証明書として甲21を提示することにより、本件特許発明1が相違点8-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有している旨主張する。
しかし、甲21は、「ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)」に代えて「ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数9)」を使用していることから、甲8の実施例10に記載の吸収剤組成物を調整し実験したものの実験成績証明書であるとはいえない。
したがって、甲8の実施例10に記載の吸収剤組成物を調整し実験した実験成績証明書として甲21を採用することができないので、甲8発明における「生理食塩水の保水量」、「中位粒子径」及び「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は、相違点8-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすとはいえない。
よって、相違点8-1は実質的な相違点である。

したがって、相違点8-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲8発明であるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲8に記載された発明であるとはいえない。

(4)申立理由1のうち甲8に基づく新規性についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由1のうち甲8に基づく新規性によっては取り消すことはできない。

4 申立理由2のうち甲12に基づく進歩性について
(1)甲12に記載された事項及び甲12発明
ア 甲12に記載された事項
甲12には、「吸水性樹脂」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「[0104][実施例1]
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管並びに攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する撹拌翼を備えた内径110mm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン340gをとり、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)、リョートーシュガーエステルS-370)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、撹拌しつつ80℃まで昇温して界面活性剤を溶解した後、50℃まで冷却した。
[0105] 一方、500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液92g(1.02モル)をとり、外部より冷却しつつ、21質量%の水酸化ナトリウム水溶液146.0gを滴下して75モル%の中和を行った後、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.11g(0.41ミリモル)、内部架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド9.2mg(0.06ミリモル)を加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調製した。
[0106] 攪拌機の回転数を350r/minとして、前記の第1段目の単量体水溶液の全量を、前記セパブルフラスコに添加して、系内を窒素で十分に置換した後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第1段目の重合を30分間行った後、室温まで冷却して第1段目の重合スラリー液を得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて、水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は110μmであった。)
[0107] 一方、別の500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液128.8g(1.43モル)をとり、外部より冷却しつつ、27質量%の水酸化ナトリウム水溶液159.0gを滴下して75モル%の中和を行った後、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.16g(0.59ミリモル)、内部架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド12.9mg(0.08ミリモル)を加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製した。
[0108] 攪拌機の回転数を1000r/minに変更し系内を24℃に冷却した後、前記の第2段目の単量体水溶液の全量を、前記1段目の重合スラリー液に添加して、系内を窒素で十分に置換した後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第2段目の重合を30分間行った。
[0109] 第2段目の重合後、125℃の油浴で反応液を昇温し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら222gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液3.97g(0.46ミリモル)を添加し、80℃で2時間保持した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(A)230.2gを得た。吸水性樹脂の中位粒子径は386μm、水分率は8.2%であった。各性能の測定結果を表1に示す。
[0110][実施例2]
実施例1において、第1段目の攪拌機の回転数を300r/minに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(B)233.5gを得た。1次粒子の中位粒子径は130μm、吸水性樹脂の中位粒子径は415μm、水分率は7.3%であった。各性能の測定結果を表1に示す。
[0111][実施例3]
実施例2において、第2段目重合後のn-ヘプタン還流による脱水量を217gに変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(C)232.9gを得た。1次粒子の中位粒子径は130μm、吸水性樹脂の中位粒子径は424μm、水分率は10.0%であった。各性能の測定結果を表1に示す。
[0112][実施例4]
還流冷却器、滴下ロート、窒素ガス導入管並びに攪拌機として、翼径50mmの4枚傾斜パドル翼を2段で有する撹拌翼を備えた内径110mm、2L容の丸底円筒型セパラブルフラスコを準備した。このフラスコにn-ヘプタン340gをとり、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ(株)、リョートーシュガーエステルS-370)0.92g、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(三井化学(株)、ハイワックス1105A)0.92gを添加し、撹拌しつつ80℃まで昇温して界面活性剤を溶解した後、50℃まで冷却した。
[0113] 一方、500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液92g(1.02モル)をとり、外部より冷却しつつ、21質量%の水酸化ナトリウム水溶液146.0gを滴下して75モル%の中和を行った後、増粘剤としてヒドロキシルエチルセルロース0.92g(住友精化(株)、HEC AW-15F)、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.11g(0.41ミリモル)、内部架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド9.2mg(0.06ミリモル)を加えて溶解し、第1段目の単量体水溶液を調製した。
[0114] 攪拌機の回転数を600r/minとして、前記の第1段目の単量体水溶液の全量を、前記セパブルフラスコに添加して、系内を窒素で十分に置換した後、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第1段目の重合を30分間行った後、室温まで冷却して第1段目の重合スラリー液を得た。(なお、この重合後スラリーを120℃の油浴を用いて、水とn-ヘプタンを共沸し、水のみを系外へ抜き出した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することで得られた、球状の1次粒子の中位粒子径は160μmであった。)
[0115] 一方、別の500mL容の三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液128.8g(1.43モル)をとり、外部より冷却しつつ、27質量%の水酸化ナトリウム水溶液159.0gを滴下して75モル%の中和を行った後、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウム0.16g(0.59ミリモル)、内部架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド12.9mg(0.08ミリモル)を加えて溶解して、第2段目の単量体水溶液を調製した。
[0116] 攪拌機の回転数を1000r/minに変更し系内を21℃に冷却した後、前記の第2段目の単量体水溶液の全量を、前記1段目の重合スラリー液に添加して、系内を窒素で十分に置換した後、再度、フラスコを70℃の水浴に浸漬して昇温し、第2段目の重合を30分間行った。
[0117] 第2段目の重合後、125℃の油浴で反応液を昇温し、n-ヘプタンと水との共沸蒸留によりn-ヘプタンを還流しながら222gの水を系外へ抜き出した後、エチレングリコールジグリシジルエーテルの2%水溶液3.97g(0.46ミリモル)を添加し、80℃で2時間保持した後、n-ヘプタンを蒸発させて乾燥することによって、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(D)231.3gを得た。吸水性樹脂の中位粒子径は434μm、水分率は7.9%であった。各性能の測定結果を表1に示す。
[0118][実施例5]
実施例4において、第1段目の攪拌機の回転数を500r/minに変更し、第2段目重合後のn-ヘプタン還流による脱水量を213gに変更した以外は、実施例4と同様の操作を行い、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(E)232.8gを得た。1次粒子の中位粒子径は230μm、吸水性樹脂の中位粒子径は458μm、水分率は10.0%であった。各性能の測定結果を表1に示す。
[0119][実施例6]
実施例5において、第1段目の攪拌機の回転数を400r/minに変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、球状粒子が凝集した形態の吸水性樹脂(F)234.2gを得た。1次粒子の中位粒子径は250μm、吸水性樹脂の中位粒子径は470μm、水分率は7.2%であった。各性能の測定結果を表1に示す。」

・「[0124]
[表1]



・「請求の範囲
[請求項1] 水溶性エチレン性不飽和単量体を、分散安定剤の存在下に逆相懸濁重合法によって重合して得られた1次粒子を、さらに逆相懸濁重合法によって凝集させて形成される吸水性樹脂であって、該1次粒子の中位粒子径が100?250μmであり、該吸水性樹脂の生理食塩水保水能が30g/g以下であることを特徴とする、吸水性樹脂。」

イ 甲12発明
甲12に記載された事項を、特に実施例1ないし6に関して整理すると、甲12には次の発明(以下、順に「甲12-A発明」のようにいう。)が記載されていると認める。

「実施例1で得られた吸水性樹脂(A)。」
「実施例2で得られた吸水性樹脂(B)。」
「実施例3で得られた吸水性樹脂(C)。」
「実施例4で得られた吸水性樹脂(D)。」
「実施例5で得られた吸水性樹脂(E)。」
「実施例6で得られた吸水性樹脂(F)。」(当審注:上記実施例1ないし6については上記ア参照。)

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲12-A発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%である、吸水性樹脂粒子。」

そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点12-1>
本件特許発明1においては、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」及び「中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである」と特定されているのに対し、甲12-A発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点12-2>
本件特許発明1においては、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり」と特定されているのに対し、甲12-A発明においては、そのようには特定されていない点。

そこで、検討する。
<相違点12-1について>
甲12-A発明は、甲12の[0124]の[表1]によると、本件特許発明1における「生理食塩水の保水量」に相当する「生理食塩水保水能」が、「27.7g/g」であるから、「生理食塩水の保水量が30?80g/gであり」という条件を満たしていないものである。
したがって、相違点12-1は実質的な相違点である。
そして、甲12の[請求項1]の「該吸水性樹脂の生理食塩水保水能が30g/g以下であることを特徴とする」という記載によると、甲12-A発明を含めて甲12に記載された発明は、生理食塩水保水能は低くすることを指向するものであるから、甲12-A発明において、「生理食塩水保水能」を「30g/g」以上にする動機付けがあるとはいえないし、他の証拠にもそうする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲12-A発明において、相違点12-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

<相違点12-2について>
甲12には、甲12-A発明において、相違点12-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲12-A発明において、相違点12-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることも当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

よって、本件特許発明1は甲12-A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件特許発明1と甲12-B発明ないし甲12-F発明との対比についても同様のことがいえ、本件特許発明1は甲12-B発明ないし甲12-F発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)申立理由2のうち甲12に基づく進歩性についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、申立理由2のうち甲12に基づく進歩性によっては取り消すことはできない。

5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件特許発明1ないし4は何れも物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、上記第5 3(3)のとおりである。

(3)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0014】ないし【0024】、【0026】、【0028】、【0029】、【0030】ないし【0033】、【0075】及び【0085】には、本件特許発明1ないし4の各発明特定事項についての具体的な記載があり、【0036】ないし【0072】には吸水性樹脂粒子の製造方法及びその際に添加する原材料についての具体的な記載があり、【0094】ないし【0103】には、実施例1ないし3として、吸水性樹脂粒子の具体的な製造方法及び得られた吸水性樹脂粒子が記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「当業者は、シリカ微粒子を添加した逆相懸濁重合によって、実施例1?3に記載された吸水性樹脂粒子以外の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。また、特に、例え本件明細書に水溶性重合の例示があるといっても、本件明細書に製造方法が一切開示されていないため、当業者は、水溶液重合によって本件発明1の吸水性樹脂粒子を製造することはできない。」旨主張するが、少なくとも、シリカ微粒子を添加した懸濁重合法によって、本件特許発明1に係る物を生産し、使用することができることが示されているから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由4によっては、取り消すことはできない。

第7 令和3年5月14日に特許異議申立人が提出した意見書において特許異議申立人が主張する新たな取消理由について
特許異議申立人は、令和3年5月14日に提出した意見書において、新たに、甲3に基づく進歩性欠如、甲6と甲3又は11の組み合わせに基づく進歩性欠如、甲1に基づく進歩性欠如、甲2に基づく進歩性欠如及び生理食塩水の制御方法に関する実施可能要件違反を主張するので、これらについて検討する。
なお、上記意見書において、特許異議申立人は、甲5に基づく進歩性欠如、甲7と甲3又は甲11の組み合わせに基づく進歩性欠如、甲9と甲3又は甲11の組み合わせに基づく進歩性欠如、甲13と甲3又は甲11の組み合わせに基づく進歩性欠如も主張するが、これらについては上記第5で検討したとおりであり、いずれも理由がない。

1 甲3に基づく進歩性欠如について
この理由は、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」が技術的誤差を含むものであること及びその数値範囲に臨界的意義がないことを前提としたものである。
しかし、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」は「7?9.2mm」であると明確に特定されており、この範囲外にわたって技術的誤差を含むとはいえない。
また、甲1には、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」に相当するパラメータを調整するという考えが記載されていないから、本件特許発明1における「下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さ」の「7?9.2mm」という数値範囲の臨界的意義の有無を問わず、甲1発明に基づいて容易に想到することはできない。
したがって、甲3に基づく進歩性欠如は理由がない。

2 甲6と甲3又は11の組み合わせに基づく進歩性欠如について
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明を対比するに、両者の間の一致点及び相違点は上記第5 2 (4)アのとおりである。
事案に鑑み、相違点6-2から検討する。
甲6には、甲6発明において、相違点6-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。
他方、甲3(【0138】及び【0162】の【表1】)には「吸収速度」(本件特許発明1における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」に相当する。)が「35秒」及び「46秒」である粒子状吸水剤が記載され、甲11([0026])には吸水性樹脂の「生理食塩水吸水速度」(本件特許発明1における「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」に相当する。)は「3?60秒間」が好ましいことが記載されている。
しかし、甲6の実施例23の実験成績証明書である甲19により、甲6の実施例23を根拠とする甲6発明が満たしているとされた相違点6-1に係る本件特許発明1の発明特定事項が、「Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度」を60秒以下とした場合にも満たすとは限らないし、証拠によって満たすことが示されてもいるわけでもない。
したがって、甲6発明において、相違点6-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、相違点6-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6発明並びに甲3又は11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲6発明並びに甲3又は11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲6と甲3又は11の組み合わせに基づく進歩性欠如についてのまとめ
したがって、甲6と甲3又は11の組み合わせに基づく進歩性欠如は理由がない。

3 甲1に基づく進歩性欠如について
この理由は、甲14が甲1の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として採用されることを前提としたものであるが、上記第6 1(2)のとおり、甲14は甲1の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として採用することができない。
したがって、甲1に基づく進歩性欠如は理由がない。

4 甲2に基づく進歩性欠如について
この理由は、甲15が甲2の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として採用されることを前提としたものであるが、上記第6 2(2)のとおり、甲15は甲2の実施例5に記載の吸収剤を調整し実験したものの実験成績証明書として採用することができない。
したがって、甲2に基づく進歩性欠如は理由がない。

5 生理食塩水の制御方法に関する実施可能要件違反について
吸水性樹脂の「生理食塩水の吸水速度」をどのように制御するか発明の詳細な説明に直接的な記載がないとしても、発明の詳細な説明には「内部架橋剤を用いると、吸水性樹脂粒子の吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を制御しやすい。」(【0050】)、「重合後に架橋を行うことで含水ゲル状重合体の架橋度を高めて吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を更に向上させることができる。」(【0058】)及び「表面架橋を行うことで、吸水性樹脂粒子の吸水特性(膨潤高さ、保水量等)を制御しやすい。」(【0066】)等の記載があり、これらの記載及び実施例の記載を参考にして、吸水性樹脂粒子の吸水特性の一つである「生理食塩水の吸水速度」を制御することは、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなくできるといえる。
したがって、生理食塩水の制御方法に関する実施可能要件違反は理由がない。

第8 結語
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する架橋重合体を含む吸水性樹脂粒子であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸及びその塩の割合が、前記吸水性樹脂粒子を得るための単量体全量に対して70?100モル%であり、
生理食塩水の保水量が30?80g/gであり、
Vortex法に準拠して測定される生理食塩水の吸水速度が60秒以下であり、
中位粒子径が250?850μmであり、
下記(1)?(6)の手順により測定される膨潤高さが7?9.2mmである、吸水性樹脂粒子。
(1)底面積50cm^(2)の凹部を有する容器を前記凹部が鉛直方向に開口した状態で配置する。
(2)前記凹部内に吸水性樹脂粒子1.00gを配置する。
(3)前記凹部内において前記吸水性樹脂粒子上に不織布を配置する。
(4)前記不織布上に質量90gの重りを配置する。
(5)前記凹部内に生理食塩水を供給する。
(6)前記吸水性樹脂粒子の膨潤開始時から300秒経過したときの前記重りの鉛直方向の移動距離を前記膨潤高さとして測定する。
【請求項2】
請求項1に記載の吸水性樹脂粒子を含有する、吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の吸収体を備える、吸収性物品。
【請求項4】
おむつである、請求項3に記載の吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-02 
出願番号 特願2019-55308(P2019-55308)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B01J)
P 1 651・ 537- YAA (B01J)
P 1 651・ 113- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飛彈 浩一  
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 大畑 通隆
加藤 友也
登録日 2020-03-25 
登録番号 特許第6681495号(P6681495)
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂粒子、吸収体及び吸収性物品  
代理人 清水 義憲  
代理人 沖田 英樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 古下 智也  
代理人 吉住 和之  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 清水 義憲  
代理人 古下 智也  
代理人 沖田 英樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  

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