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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1377799
異議申立番号 異議2020-700059  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-04 
確定日 2021-07-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6563292号発明「ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6563292号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6563292号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6563292号に係る出願(特願2015-188908号、以下「本願」ということがある。)は、平成27年9月25日に出願人旭化成ケミカルズ株式会社によりされた特許出願であり、平成28年4月1日に旭化成株式会社(以下「特許権者」ということがある。)に名義変更されたものであって、令和元年8月2日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、令和元年8月21日に特許掲載公報が発行されたものである。

2.本件特許異議の申立ての趣旨
本件特許につき、令和2年2月4日に特許異議申立人渋谷都(以下「申立人」ということがある。)により、「特許第6563292号の特許請求の範囲の請求項1ないし8、すなわち全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」ということがある。)

3.審理すべき範囲
上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6563292号の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものであって、本件特許異議の申立てに係る審理の対象外となるものはない。

4.以降の手続の経緯
令和2年 6月25日付け 取消理由通知
令和2年 8月31日 意見書・訂正請求書
令和2年 9月 3日付け 通知書(申立人あて)
令和2年10月 6日 意見書(申立人)
令和2年12月24日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 3月 2日 意見書・訂正請求書
令和3年 3月11日付け 通知書(申立人あて)
令和3年 4月13日 意見書(申立人)
(なお、令和3年3月2日に訂正請求されたことにより、令和2年8月31日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなされた。)

第2 申立人が主張する取消理由の概要
申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。

申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証及び甲第2号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし3及び8に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、それらの特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1ないし5及び8に係る発明は、いずれも甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、甲第1号証に記載された発明に基づく理由を「取消理由2-1」、甲第2号証に記載された発明に基づく理由を「取消理由2-2」、両者を併せて「取消理由2」という。)
(3)本件の請求項1ないし8の記載は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)
(4)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、記載不備であり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由4」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特許第4060831号公報
甲第2号証:特開2004-359791号公報
(以下、上記「甲第1号証」及び「甲第2号証」を、それぞれ、「甲1」及び「甲2」と略す。)

第3 当審が通知した取消理由の概要
当審は、本件特許第6563292号に対する上記第2に示す特許異議の申立てを審理した上、以下の取消理由を通知した。

1.令和2年6月25日付けで通知した取消理由
●本件の請求項1ないし8の記載は、いずれも記載不備であり、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下、第1号に係る理由を「取消理由A-1」、第2号に係る理由を「取消理由A-2」という。)

2.令和2年12月24日付けで通知した取消理由
●本件の請求項3ないし8の記載は、いずれも下記の理由により記載不備であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないから、本件の請求項3ないし8に係る発明についての特許は、上記要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由B」という。)

第4 令和3年3月2日付訂正請求による訂正の適否

1.訂正内容
令和3年3月2日にされた訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8を一群の請求項ごとに訂正するものであって、以下の訂正事項を含むものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であり、かつ、(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含む、
ポリアセタール樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であり、かつ、(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である、
ポリアセタール樹脂組成物。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「前記カルボン酸が、カルボン酸含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、及び、ポリマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許諸求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。」
と引用して記載されているのを、
「請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。」
に訂正する。

2.検討
以下の検討において、本件訂正前の請求項1ないし8をそれぞれ項番に従い「旧請求項1」のようにいい、訂正後の請求項1ないし8についてそれぞれ項番に従い「新請求項1」のようにいう。

(1)訂正の目的
上記訂正事項1に係る訂正では、旧請求項1につき、旧請求項2の記載に基づき、「酸成分」について、カルボン酸に限定することにより、旧請求項1に係る特許請求の範囲が減縮されて新請求項1となっていることが明らかであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項2に係る訂正では、旧請求項2につき、明細書の【0033】の記載に基づき、「カルボン酸」について、特定の3種のものに限定することにより、旧請求項2に係る特許請求の範囲が減縮されて新請求項2となっていることが明らかであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項3に係る訂正では、旧請求項1及び2を選択的に引用していた旧請求項3につき、訂正事項2に係る訂正がされたことにより引用関係が不明となった請求項2との引用関係を解消し、請求項1のみを引用するものとして引用関係を整合させて新請求項3としたものであるから、訂正事項3に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって、本件訂正における上記訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる目的要件に適合する。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
上記(1)でそれぞれ説示したとおり、訂正事項1及び2に係る各訂正は、訂正前の特許請求の範囲又は明細書の記載に基づいて、旧請求項1及び2に係る特許請求の範囲を実質的に減縮していることが明らかであり、また、訂正事項3に係る訂正は、引用関係の不整合を単に整合させているのであるから、訂正事項1ないし3に係る訂正は、いずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正前の各請求項に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでもない。
したがって、上記各訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、請求項1ないし8の全ての請求項についてされているから、本件訂正に係る訂正の適否の検討において、独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。

3.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。

第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
訂正後の本件特許に係る請求項1ないし8には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であり、かつ、(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である、
ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸が、カルボン酸含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、及び、ポリマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がアクリル酸である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、さらに(C)ホルムアルデヒド捕捉剤を0.01?5質量含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、さらに(D)耐候剤を0.01?5質量部含む、請求項1?4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリアセタール樹脂がブロック成分を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
前記ブロック成分が水素添加ポリブタジエン成分である、請求項6に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む成形体。」
(以下、上記請求項1ないし8に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した上記取消理由及び申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに本件の各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、当審が通知した取消理由及び申立人が主張する取消理由につき具体的に検討・詳述する。

I.取消理由1及び2について
申立人が主張する取消理由1及び2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反して特許されたものであることをいうものであるから、併せて検討する。

1.各甲号証に記載された事項及び各甲号証に記載された発明
上記取消理由1及び2につき検討するにあたり、甲1及び甲2に記載された事項を確認し、記載された事項に基づき、甲1及び甲2に記載された各発明の認定を行う。(記載事項に係る下線は、元々あるものを除き、当審が付した。)

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「【請求項1】
集束剤として、ポリアクリル酸、ハロゲン化アンモニウム、ポリウレタン樹脂、及びアミノシラン系カップリング剤とを含み、前記集束剤の固形分がチョップドストランドの全量に対し0.1?1.0質量%付着していることを特徴とするチョップドストランド。
【請求項2】
前記集束剤は、ポリアクリル酸の固形分100質量部に対し、ハロゲン化アンモニウムの固形分が0.3?3質量部、ポリウレタン樹脂の固形分が10?100質量部、及びアミノシラン系カップリング剤の固形分が5?50質量部である請求項1に記載のチョップドストランド。
【請求項3】
前記集束剤の成分として更に蛍光増白剤を含む請求項1又は2に記載のチョップドストランド。
・・(中略)・・
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1つに記載のチョップドストランドと、ポリアセタール樹脂とを混練してなるガラス含有率が5?70質量%である繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料。」

(1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、機械強度に優れたポリアセタール樹脂成形品を得るためのチョップドストランド及び繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械強度、電気特性、化学特性に優れており、エレクトロニクス、自動車、OA機器、機械、家電製品等多方面で利用されている。
【0003】
一般的に熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品は、ガラス繊維をはじめとするチョップドストランド等を補強材として用い、該補強材を樹脂と混練することで機械強度を向上させている。しかしながら、ポリアセタール樹脂は、化学的に不活性であるため、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂等に比べ、ガラス繊維をはじめとする補強材を配合しても、目立った補強効果が得られにくいという問題点がある。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、集束剤に含まれるカチオン系潤滑剤を水溶化させ、均質なものとするため、集束剤に酢酸を用いている。そのため、該集束剤をガラス繊維に付与した際、ガラス繊維の表面に酢酸が残存することがある。この残存した酢酸がポリアセタール樹脂を分解してしまい、ポリアセタール樹脂成形材料の機械強度の向上を阻害してしまう。
【0007】
また、上記特許文献2では、ポリアセタール樹脂の分解を抑制することでポリアセタール樹脂成形品の機械強度向上を図っており、カチオン系潤滑剤を水溶化させて均質な集束剤とするため、pH調整剤として亜リン酸を用いている。しかしながら、ポリアセタール樹脂自体が化学的に不活性であるため、ポリアセタール樹脂とガラス繊維との接着性は良好とはいえず、充分な機械強度を得ることができない。
【0008】
よって、本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ポリアセタール樹脂成形品の機械強度を向上させることのできるチョップドストランド及び繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリアセタール樹脂自体が化学的に不活性であるため、ガラス繊維でポリアセタール樹脂を補強した際、ガラス繊維とポリアセタール樹脂とが接着不良になりやすく、これがポリアセタール樹脂の補強効果に影響を及ぼしていると考えた。
【0010】
そこで、ポリアセタール樹脂とガラス繊維との接着性を向上させることに注目し、集束剤に含有させる成分のうちポリアセタール樹脂を適度に分解して活性化させる成分について鋭意検討した結果、本発明に至った。」

(1c)
「【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料用チョップドストランドは、ポリアクリル酸、ハロゲン化アンモニウム、ポリウレタン樹脂、及びアミノシラン系カップリング剤を含む集束剤の固形分が、該チョップドストランドの全量に対し、0.1?1.0質量%付着しており、特にポリアセタール樹脂に対し高い補強効果をもたらすことができる。
【0021】
そして、本発明のチョップドストランドを用いた繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料は、機械強度に優れたポリアセタール樹脂成形品を提供することができる。」

(1d)
「【0046】
本発明において、チョップドスランドを製造する方法については特に限定は無く、従来公知の様々な方法を使用することができる。
【0047】
例えば、溶融したガラスをブッシングの底部に取り付けた多数のノズルより引き出し、このガラス繊維にアプリケーターまたはスプレーで集束剤を塗布し、ガラス繊維束を好ましくは1.5?13mmに切断する。その際、ガラス繊維束を一度巻き取ってから切断しても良く、巻き取らずそのまま切断しても良い。
【0048】
次いで、ガラス繊維束切断物の乾燥工程に移るが、乾燥工程前に再度集束剤を塗布しても良い。乾燥温度及び乾燥時間は任意で特に限定はないが、ガラス繊維束の集束性を損なわせず乾燥工程を効率的に実施するため、乾燥温度を120?220℃、乾燥時間を10秒?10分間とすることが好ましい。
【0049】
上記のようにして本発明のチョップドストランドが得られる。
【0050】
また、上記のチョップドストランドを、溶融したポリアセタール樹脂に含浸させることで繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料が得られる。
【0051】
本発明において、ポリアセタール樹脂としては特に限定はなく、例えば、単独重合体のポリオキシメチレン、トリオキサンとエチレンオキシドから得られるホルムアルデヒド-エチレンオキシド共重合体、ポリウレタン含有ポリアセタール、又はエラストマー含有ポリアセタール等の変性ポリアセタール樹脂等が挙げられる。」

(1e)
「【実施例】
【0055】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかし、これらの実施例は本発明の実施態様を具体的に説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
〔チョップドストランドの作製〕
平均径10μmのガラス繊維を3,000本集束させ、表1に示す原料を用い、表2に示す配合割合(質量部)で調整した製造例1?11の集束剤を付与し、3mmに切断して、実施例1?8、及び比較例1?3のチョップドストランドを得た。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
〔ポリアセタール樹脂成形品の作製〕
ポリアセタールコポリマー(MFR45)に、実施例1?8、比較例1?3のチョップドストランドを添加し、スクリュー径35mmの2軸押出機を用い、成形温度220℃でガラス含有率25質量%の繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料を得た。
【0060】
次いで、型締め荷重75t、シリンダー温度190?210℃、金型80℃で成形し、ペレット状のポリアセタール樹脂成形品を得た。
【0061】
〔チョップドストランド及び、ポリアセタール樹脂成形品の性能評価〕
<毛羽量測定>
内部に中羽根を設置した容量10リットルのVミキサーにチョップドストランド3kgを投入しミキサー回転数30rpm、中羽根回転数480rpm(ミキサーの回転とは逆方向)にて15分間攪拌する。その後、目開き3.35mmの篩でふるい、篩上に残った毛羽を回収し、毛羽重量を精秤した。毛羽重量が10g以下であればチョップドストランドの集束性が良好であると判断した。
【0062】
<引張り強度測定>
ASTM D-638に準拠した方法で測定し、130MPa以上であれば良好であると判断した。
【0063】
<曲げ強度測定>
ASTM D-790に準拠した方法で測定し、190MPa以上であれば良好であると判断した。
【0064】
<IZOD衝撃強度測定>
1/8インチノッチ付で、ASTM D-256に準拠した方法で測定し、6.5MPa以上であれば良好であると判断した。
【0065】
<色調>
色差計(Σ-90、日本電色社製)を用い、ペレット状体の樹脂成形材料の色調を測定した。色調はb値が1?5の範囲内であれば、ポリアセタール樹脂が有している色調とほぼ同等であるため、色調が良好であると判断した。
【0066】
<熱減量率>
1.5gに調整したポリアセタール樹脂成形品を230℃で60分間焼成し、熱減量率を求めた。熱減量率が1.5%以下あれば、ガスの発生量は充分抑制できると判断した。
【0067】
実施例1?8、比較例1?3のチョップドストランド及び、ポリアセタール樹脂成形品について上記の項目の評価を行い、結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
上記結果より、集束剤にハロゲン化アンモニウムを用いていない比較例1、及びハロゲン化アンモニウムとポリアクリル酸を用いていない比較例3のポリアセタール樹脂成形品は機械強度が劣るものであり、また、ウレタン樹脂を用いていない比較例2のチョップドストランドは集束性の悪いものであった。
【0070】
これに対し、ポリアクリル酸、ハロゲン化アンモニウム、ウレタン樹脂、及びアミノシラン系カップリング剤を含む集束剤を用いた実施例1?8のチョップドストランドは、集束性に優れ、またそれを用いたポリアセタール樹脂成形品は機械強度に優れたものである。
【0071】
また、固形分換算で0.3?3質量%の蛍光増白剤を更に含む集束剤を用いた実施例1?6のポリアセタール樹脂成形品は、黄味がかりや青味がかりを抑えることができ、ポリアセタール樹脂とほぼ同等の色調を備えることができる。
【0072】
そして、ポリウレタン樹脂の含有量が10?100質量部である実施例1?5のポリアセタール樹脂成形品はより機械強度に優れるものであり、更には、ハロゲン化アンモニウムの固形分量が0.3?3質量部である実施例1?4のポリアセタール樹脂成形品は加熱によるガス発生量を低減することができる。
【0073】
よって、本発明によれば、色調及び集束性に優れ、加熱によるガス発生量の少ないチョップドストランドとすることができ、また、該チョップドストランドを補強材として用いた繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料は、機械強度、及び色調の良いポリアセタール樹脂成形品を提供とすることができる。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.の記載事項(特に摘示(1a)の下線部)からみて、
「ポリアクリル酸の固形分100質量部に対し、ハロゲン化アンモニウムの固形分が0.3?3質量部、ポリウレタン樹脂の固形分が10?100質量部、及びアミノシラン系カップリング剤の固形分が5?50質量部である集束剤が、チョップドストランドの全量に対し固形分として0.1?1.0質量%付着しているチョップドストランドと、ポリアセタール樹脂とを混練してなるガラス含有率が5?70質量%である繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
上記甲2には、以下の事項が記載されている。

(2a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂成分(A)100重量部にガラス系無機充填材(B)3?200重量部を配合してなるポリアセタール樹脂組成物であって、該ポリアセタール樹脂成分(A)が、分子中に0?20mmol/kgの水酸基を有するポリアセタール樹脂(A1)99.9?80重量部と分子中に50?2000mmol/kgの水酸基を有する変性ポリアセタール樹脂(A2)0.1?20重量部とからなることを特徴とするポリアセタール樹脂組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】
ガラス系無機充填材(B)が、ガラスファイバー、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー及びガラスフレークから選ばれた少なくとも1種である請求項1?4の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
ガラス系無機充填材(B)が、シラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種で表面処理されたものである請求項1?5の何れか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。」

(2b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的特性の優れたポリアセタール樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアセタール樹脂の機械的特性、例えば強度や剛性を向上させるために、ガラス系無機充填材などの強化材を配合することが知られている。
【0003】
しかしながら、ポリアセタール樹脂は活性に乏しく、またガラス系無機充填材も活性に乏しいため、単にポリアセタール樹脂にガラス系無機充填材を配合し溶融混練しただけでは両者の密着性は不十分なものとなり、期待するほどの機械的特性の向上が得られない場合が多い。
【0004】
そこで、ポリアセタール樹脂とガラス系無機充填材との密着性を向上させて機械的特性を改良するための各種の方法が提案されている。
・・(中略)・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの手法はいずれも、ガラス系無機充填材の化学的活性を高めるためには機能するものの、これだけでは化学的に不活性なポリアセタール樹脂との密着性を改善し優れた機械的強度を達成するためには必ずしも十分ではない。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決し、近年、ポリアセタール樹脂の利用分野の拡大に伴い要求されるより高度の機械的特性に応え得るポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(2c)
「【0032】
次に、本発明で用いられるガラス系無機充填材(B)としては、繊維状(ガラスファイバー)、粒状(ガラスビーズ)、粉状(ミルドガラスファイバー)、板状(ガラスフレーク)及び中空状(ガラスバルーン)の充填材が挙げられ、その粒径、繊維長等に特に制限はなく、公知の何れのものも使用できる。
【0033】
本発明においては、目的に応じてこれらの充填材から選択した1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
また、本発明において、これらのガラス系無機充填材は未処理のものでも使用できるが、シラン系、或いは、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理を施されている無機充填材を使用する方が好ましい。
【0035】
シラン系カップリング剤としては、例えばビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、アリルアルコキシシラン等が挙げられる。
・・(中略)・・
【0041】
また、チタネート系表面処理剤としては、例えば、チタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレート、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン等が挙げられる。
【0042】
表面処理剤の使用量は、無機充填材100重量部に対して0.01?20重量部、好ましくは0.05?10重量部、特に好ましくは0.05?5重量部である。
【0043】
又、ガラス系無機充填材(B)がガラスファイバーの場合においては、更にサイズ剤として、ポリマーバインダー、接着促進剤、他の助剤などを使用しているものが好適に使用される。ポリマーバインダーとしては、一般に有機系の材料、例えば水分散性/水溶性の酢酸ポリビニル、ポリエステル、エポキシド、ポリウレタン、ポリアクリレートまたはポリオレフィン樹脂、それらの混合物など、従来公知のものが好適に使用される。
【0044】
本発明において、ガラス系無機充填材(B)の配合量は、ポリアセタール樹脂成分(A)100重量部に対して3?200重量部、好ましくは5?150重量部、特に好ましくは10?100重量部である。3重量部未満では機械的物性の改善が不十分であり、200重量部を越えると成形加工が困難になる。」

(2d)
「【0045】
本発明のポリアセタール樹脂組成物には、更に公知の各種安定剤・添加剤を配合し得る。安定剤としては、ヒンダートフェノール系化合物、メラミン、グアナミン、ヒドラジド、尿素等の窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。又、本発明で用いられる添加剤としては、熱可塑性樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。」

(2e)
「【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ポリアセタール樹脂(A1)の調製]
トリオキサン(水分含有量10ppm)96mol%と1,3-ジオキソラン(水分含有量10ppm)4mol%の混合物に、分子量調整剤としてメチラール1250ppm(全モノマーに対し)を添加し、反応開始触媒として三フッ化ホウ素(BF_(3))20ppm(全モノマーに対し)を加えて重合を行った。得られた重合体は、トリエチルアミンを0.05重量%含有する水溶液に導入することにより触媒の失活化を行い、更に、分離、洗浄、乾燥を行って粗ポリアセタール樹脂を得た。
【0051】
次いで、得られた粗ポリアセタール樹脂100重量部に対して、トリエチルアミン5重量%水溶液を3重量部、メラミン0.15重量部、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフエニル)プロピオネート〕(Irganox1010、チバガイギー社製)0.3重量部を添加し、2軸押出機にて、200℃で溶融混練することにより不安定部分の除去及び安定剤により安定化を行い、ぺレット状のポリアセタール樹脂を得た。得られたポリアセタール樹脂はメルトインデックス(MI)27.0g/10min、重量平均分子量51000、水酸基含有量5mmol/kgのコポリマーであった。
[変性ポリアセタール樹脂(A2-1)の調製]
トリオキサンと1,3-ジオキソランの混合物に水800ppm(全モノマーに対し)を添加した以外は、上記ポリアセタール樹脂(A1)と同様の方法で変性ポリアセタール樹脂を調製し、触媒の失活化を行った。溶融混練処理は行わなかった。得られた変性ポリアセタール樹脂は、重量平均分子量22700で100mmol/kgの水酸基を有するものであった。
[変性ポリアセタール樹脂(A2-2)の調製]
トリオキサンと1,3-ジオキソランの混合物にエチレングリコール4200ppm(全モノマーに対し)を添加した以外は、上記ポリアセタール樹脂(A1)と同様の方法で変性ポリアセタール樹脂を調製し、触媒の失活化を行った。溶融混練処理は行わなかった。得られた変性ポリアセタール樹脂は、重量平均分子量15600で150mmol/kgの水酸基を有するものであった。
実施例1?6、比較例1?3
ポリアセタール樹脂(A1)、変性ポリアセタール樹脂(A2-1又はA2-2)、及び以下に示す各種のガラスファイバー(B-1?3)を、表1に示す割合で配合し、シリンダー温度200℃の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。次いで、このペレット状の組成物から射出成形機を用いて試験片を成形し、以下に示す評価法にて物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
一方、比較のため、変性ポリアセタール(A2)を添加しない場合についても同様にしてペレット状の組成物を調製し、物性評価を行った。結果を表1に併せて示す。
<引張強度及び伸び>
ISO3167に準じた引張り試験片を温度23℃、湿度50%の条件下に48時間放置し、ISO527に準じて測定した。
<使用したガラス系無機充填材>
B-1:γ-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスファイバー
B-2:チタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレートで表面処理したガラスファイバー
B-3:B-1に更にエポキシドをポリマーバインダーとして処理したガラスファイバー
【0053】
【表1】

【0054】
実施例7?11、比較例4?8
ポリアセタール樹脂(A1)、変性ポリアセタール樹脂(A2-1)、及び以下に示す各種のガラスビーズ(B-4?8)を、表2に示す割合で配合し、シリンダー温度200℃の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。次いで、このペレット状の組成物から射出成形機を用いて試験片を成形し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
一方、比較のため、変性ポリアセタール(A2)を添加しない場合についても同様にしてペレット状の組成物を調製し、物性評価を行った。結果を表2に併せて示す。
<使用したガラス系無機充填材>
B-4:表面処理剤無使用のガラスビーズ
B-5:γ-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスビーズ
B-6:ビニルトリエトキシシランで表面処理したガラスビーズ
B-7:γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスビーズ
B-8:チタニウム-i-プロポキシオクチレングリコレートで表面処理したガラスビーズ
【0056】
【表2】

【0057】
実施例12?13、比較例9?10
ポリアセタール樹脂(A1)、変性ポリアセタール樹脂(A2-1)、及び以下に示す各種のミルドガラスファイバー(B-9?10)を、表3に示す割合で配合し、シリンダー温度200℃の押出機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。次いで、このペレット状の組成物から射出成形機を用いて試験片を成形し、物性評価を行った。結果を表3に示す。
【0058】
一方、比較のため、変性ポリアセタール(A2)を添加しない場合についても同様にしてペレット状の組成物を調製し、物性評価を行った。結果を表3に併せて示す。
<使用したガラス系無機充填材>
B-9:表面処理剤無使用のミルドガラスファイバー
B-10:γ-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したミルドガラスファイバー
【0059】
【表3】

【0060】
実施例14、比較例11
ポリアセタール樹脂(A1)、変性ポリアセタール樹脂(A2-1)、及び以下に示すガラスフレーク(B-11)を、表4に示す割合で配合し、シリンダー温度200℃の押出
機で溶融混練してペレット状の組成物を調製した。次いで、このペレット状の組成物から射出成形機を用いて試験片を成形し、物性評価を行った。結果を表4に示す。
【0061】
一方、比較のため、変性ポリアセタール(A2)を添加しない場合についても同様にしてペレット状の組成物を調製し、物性評価を行った。結果を表4に併せて示す。
<使用したガラス系無機充填材>
B-11:γ-アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理したガラスフレーク
【0062】
【表4】



イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記ア.の記載事項(特に摘示(2a)の下線部)からみて、以下の発明が記載されている。

「ポリアセタール樹脂成分(A)100重量部に、シラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種で表面処理されたガラスファイバー、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー及びガラスフレークから選ばれた少なくとも1種であるガラス系無機充填材(B)3?200重量部を配合してなるポリアセタール樹脂組成物であって、該ポリアセタール樹脂成分(A)が、分子中に0?20mmol/kgの水酸基を有するポリアセタール樹脂(A1)99.9?80重量部と分子中に50?2000mmol/kgの水酸基を有する変性ポリアセタール樹脂(A2)0.1?20重量部とからなることを特徴とするポリアセタール樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

2.検討
本件の各発明につき、各甲号証に記載された発明又は記載に基づき検討する。

(1)取消理由1及び2-1について(甲1発明に基づく検討)

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「集束剤」は、チョップドストランドの表面に付着しているものであるから、表面処理剤であるという意味において、本件発明1における「サイジング剤」に相当するものといえる。
また、甲1発明における「集束剤」に含まれる「ポリアクリル酸」は、カルボン酸基なる酸基を有するポリマーであることが当業者に自明であるから、本件発明1における「(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み」及び「前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である」に相当し、甲1発明における「チョップドストランド」は、短繊維状物であることが当業者に自明であり、成形材料におけるガラス含有率が規定されていることからみて、ガラス短繊維状物であると解するのが自然であるから、本件発明1における「(B)ガラス系充填材」に相当するものといえる。
さらに、甲1発明における「ポリアセタール樹脂」及び「繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料」は、それぞれ、本件発明1における「ポリアセタール樹脂」及び「ポリアセタール樹脂組成物」に相当するものといえる。
そして、甲1発明における「集束剤が、チョップドストランドの全量に対し固形分として0.1?1.0質量%付着しているチョップドストランドと、ポリアセタール樹脂とを混練してなるガラス含有率が5?70質量%である・・成形材料」は、チョップドストランド中にガラスが99.0?99.9質量%含有されており、おおむねガラス含有率の5?70質量%と同様の組成比でチョップドストランドが含有されているものと認められ、ポリアセタール樹脂100質量部で換算すると、チョップドストランドが5.26?233質量部含有されていることとなるから、本件発明1における「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物」との組成比範囲につき包含・重複する。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である、
ポリアセタール樹脂組成物。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:「ポリアセタール樹脂」につき、本件発明1では「(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であ」るのに対して、甲1発明では、末端OH基濃度につき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点1につき検討すると、甲1には、甲1発明における「ポリアセタール樹脂」について、末端OH基濃度を調節すべきことを認識することができる記載又は示唆がなく、一般に、末端OH基濃度を一定の範囲のものとすべき当業者の技術常識が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点1は実質的な相違点であるものといえる。
また、甲1には、甲1発明における「ポリアセタール樹脂」について、末端OH基濃度を一定の範囲のものに調節することを動機付ける記載又は示唆もなく、さらに、甲2の請求項1には、「ポリアセタール樹脂成分(A)が、分子中に0?20mmol/kgの水酸基を有するポリアセタール樹脂(A1)99.9?80重量部と分子中に50?2000mmol/kgの水酸基を有する変性ポリアセタール樹脂(A2)0.1?20重量部とからなる」と記載され、甲2の【0021】には、ポリアセタール樹脂(A1)は、一般に工業的に生産されているポリアセタール樹脂はこれに属すると記載されているところ、甲1発明におけるポリアセタール樹脂が、甲2に記載されたポリアセタール樹脂(A1)であるとする理由はないし、また、甲2の記載があったとしても、甲1発明において相違点1を構成することに動機づけがあるとはいえないから、甲1発明に基づき、例えば甲2に記載された事項を組み合わせて相違点1につき当業者が適宜なし得ることともいうこともできない。
そして、本件発明は機械的強度等の耐久性に優れ、色調も改善されたという効果を奏するものであり、甲1及び甲2の記載から予測できる効果ではない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であって、さらに甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせたとしても、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。

(ウ)小括
よって、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。

イ.他の本件発明について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5及び8についても、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。

ウ.甲1発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし5及び8は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)取消理由2-2について(甲2発明に基づく検討)

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「ポリアセタール樹脂成分(A)」及び「ガラスファイバー、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー及びガラスフレークから選ばれた少なくとも1種であるガラス系無機充填材(B)」は、それぞれ、本件発明1における「(A)ポリアセタール樹脂」及び「(B)ガラス系充填材」に相当することが明らかである。
また、甲2発明における「ポリアセタール樹脂成分(A)100重量部に、・・ガラス系無機充填材(B)3?200重量部を配合してなる」は、本件発明1における「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含む」と組成範囲が重複する。
さらに、甲2発明における「ポリアセタール樹脂組成物」は、本件発明1における「ポリアセタール樹脂組成物」に相当することが明らかである。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点2a:本件発明1では「(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であ」るのに対して、甲2発明では、「ポリアセタール樹脂成分(A)が、分子中に0?20mmol/kgの水酸基を有するポリアセタール樹脂(A1)99.9?80重量部と分子中に50?2000mmol/kgの水酸基を有する変性ポリアセタール樹脂(A2)0.1?20重量部とからなる」点
相違点2b:本件発明1では「(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、」「前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である」のに対して、甲2発明では「シラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種で表面処理された・・ガラス系無機充填材(B)」である点

(イ)検討
事案に鑑み、まず、上記相違点2bにつき検討すると、甲2には、甲2発明における「シラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種で表面処理された」「ガラス系無機充填材(B)」について、ガラス系無機充填材(B)がガラスファイバーの場合に更にサイズ剤として、ポリマーバインダー、接着促進剤、他の助剤が好適に使用され、当該ポリマーバインダーとして、水分散性/水溶性のポリアクリレートが例示の一つとして記載されているところ、カルボン酸基を有するアクリル樹脂を用いることは明示されておらず、また、具体例の記載もない(摘示(2c)【0043】)のであって、さらに、あくまでシラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種での表面処理と上記ポリマーバインダーサイズ剤とを併用して表面処理されたガラスファイバー無機充填材を好適に使用できることが記載されているにとどまるのであるから、本件発明1に係るカルボン酸である酸成分を含むサイジング剤で処理されたガラス系充填材を使用することを示唆するものとは認められない。
そして、甲2の記載を更に検討しても、甲2発明における「シラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種で表面処理された」「ガラス系無機充填材(B)」について、本件発明1に係るカルボン酸である酸成分を含むサイジング剤で処理されたガラス系充填材に代えるべき動機となる事項が存するものとは認められない。
また、甲1には、機械強度の向上したポリアセタール樹脂成形材料を提供することを課題として、「ポリアクリル酸の固形分100質量部に対し、ハロゲン化アンモニウムの固形分が0.3?3質量部、ポリウレタン樹脂の固形分が10?100質量部、及びアミノシラン系カップリング剤の固形分が5?50質量部である集束剤が、チョップドストランドの全量に対し固形分として0.1?1.0質量%付着しているチョップドストランドと、ポリアセタール樹脂とを混練してなるガラス含有率が5?70質量%である繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料。」が記載されているところ、耐久性及び色調が改善することは記載されていないから、いくら甲2発明において、甲1に記載された「チョップドストランド」を用いたとしても、耐久性及び色調が改善することは予測することができない一方、本件発明は、耐久性及び色調が改善されるという、甲1及び甲2の記載から予測できない効果を奏するポリアセタール樹脂組成物が得られるものである。
したがって、上記相違点2bは、甲2発明に基づき、たとえ甲1に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。

(ウ)小括
よって、上記相違点2aにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ.他の本件発明について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5及び8についても、上記ア.で説示した理由と同一の理由により、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということもできない。

ウ.甲2発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし5及び8は、いずれも甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.取消理由1及び2に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3及び8は、いずれも、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1ないし5及び8は、甲1及び甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、申立人が主張する取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

II.取消理由3及び取消理由A-1について
申立人が主張する取消理由3と当審が通知した取消理由A-1は、いずれも特許法第36条第6項第1号に係る理由(いわゆる「明細書のサポート要件」)についてのものであるから、以下併せて検討する。

1.サポート要件に係る考え方について(前提)
一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
以下、この観点に立って検討する。

2.検討

(1)本件発明の解決課題
本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(特に【0005】及び【0008】)からみて、
「機械的強度、耐久性の向上が挙げられる高性能化及び色調の改善が挙げられる高品質化を両立することが可能な樹脂組成物」の提供にあるものと認められる。

(2)検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例に係る部分以外の部分(【0001】ないし【0079】)の記載に基づき、特に、請求項1に記載された「(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である」について検討すると、当該「カルボン酸である」「酸成分」として「カルボン酸含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体等」が挙げられており、また、本件発明における上記「(B)ガラス系充填材」は「サイジング剤にて処理され、表面が変性されたものである」とされている(【0033】)から、少なくともカルボン酸(無水物)基を有する各共重合体であればサイジング剤としての機能を発現することが記載されており、また、「所望の末端OH基濃度を有する(A)ポリアセタール樹脂と、サイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含むガラス系充填材、との組み合わせにより、従来ではなしえなかった、飛躍的な機械的強度、耐久性の向上と、成形後の変色の抑制の両立を達成することができる」ことも記載されている(【0013】)。
また、上記段落【0013】の記載をみた上でカルボン酸が酸成分の具体例であることを勘案すれば、アクリル酸などの上記共重合体以外のカルボン酸をサイジング剤とした際に、上記共重合体と同様の機能を発現するものとも解するのが自然であり、当該機能を発現しないであろうと当業者が認識すべき技術常識が存するものとも認められない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明のうち、実施例に係る部分(【0080】ないし【0109】)の記載を検討すると、「特許第4060831号公報の製造例1のもの(アクリル酸とアクリル酸メチルの共重合体を含有する)」なる特定のサイジング剤組成物又はポリマレイン酸単独を使用して処理したガラス繊維を(B)成分として使用した実施例の場合、上記(1)に示した本件発明に係る解決課題を解決できるような効果を奏することにつき当業者が看取・認識できるものと認められる。
なお、申立人は、上記共重合体以外のカルボン酸では、同様の効果を奏し得ないことを具体的に論証しているものでもない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、請求項1に記載された「カルボン酸である」「酸成分」をサイジング剤として使用する事項を具備する発明(本件発明1)が、上記解決課題を解決できるであろうことは、当業者が認識することができるものと認められる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件の請求項1及び同項を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8に記載された事項で特定される発明につき、上記課題を解決できると認識することができるように記載されているものといえるから、本件の請求項1ないし8の記載では、各項に記載された事項で特定される発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

3.取消理由3及びA-1に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし8の各記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。
よって、申立人が主張する取消理由3及び当審が通知した取消理由A-1はいずれも理由がない。

III.取消理由4について

1.実施可能要件に係る考え方について(前提)
一般に「方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をすることをいい(特許法2条3項2号),物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同項1号),方法の発明については,明細書にその方法を使用できるような記載が,物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が,それぞれ必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用し,又はその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」とされている〔平成22年(行ケ)10348号判決参照。〕。
以下、この観点に立って検討する。

2.検討
本件発明1ないし8はいずれも「ポリアセタール樹脂組成物」又は「成形体」なる物の発明に係るものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件の各請求項に記載された事項を具備するための各事項(成分種別、例示など)に係る記載があるとともに、さらに、少なくとも請求項1に記載された事項を具備するものと認められる実施例1ないし11につき記載されており、各実施例において、上記II.1.で示した本件発明の解決課題に則した効果を奏することも記載されている。
してみると、上記発明の詳細な説明は、本件発明1ないし7における「ポリアセタール樹脂組成物」又は請求項8における「成形体」を当業者が製造することができるように記載されているものといえる。
なお、申立人は、申立書第19頁ないし第21頁において、(ア)「酸成分」の量比条件、種別が不明であり、「ガラス系充填材の表面」が「変性されている」ことがどのような変性を意味するのか不明であること、(イ)サイジング剤としてポリマレイン酸単独で処理したガラス繊維の意味が不明であること並びに(ウ)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度に係る要件のみが本件発明に係る解決課題に則した「色調」及び「エージング変色性」に係る効果に相関するとはいえないことをそれぞれ主張し、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していない旨主張している。
しかるに、上記(ア)の点については、請求項1において、「(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含」むこと及び「前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である」ことにつき規定されているところ、発明の詳細な説明には、ガラス系充填材は、サイジング剤にて処理され、表面が変性されたものであること及びそのサイジング剤の具体例が記載され(【0033】)、また、当該サイジング剤により変性処理したガラス繊維に係る具体例が記載されている(【0101】)から、当業者であればこれらの記載に照らして過度の試行錯誤をすることなく本件発明1を実施できるといえる。
また、(イ)の点については、発明の詳細な説明の【0101】に記載されているとおり、「(B3)」なるガラス繊維につき、サイジング剤としてポリマレイン酸単独で処理したガラス繊維であり、特に不明な点はないので、申立人の主張は採用できない。
、さらに、上記(ウ)の点についても、本件発明に係る具体例であるものと解される実施例において、本件発明に係る所期の効果を奏していることが確認できるものであって、本件発明のうち、例えば、ポリアセタール樹脂の末端OH濃度が異なれば、色調は多少変化することは、実施例2と4の対比から確認できるところ、申立人が主張する蛍光漂白剤の影響は仮説にすぎず採用できない。
してみると、申立人の上記主張は、いずれも当を得ないものであり、採用することができない。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8に係る物の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。

3.実施可能要件に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件の請求項1ないし8に係る発明につき当業者が実施できる程度に記載されているものであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものであるから、申立人が主張する取消理由4は理由がない。

IV.取消理由A-2及びBについて

1.取消理由A-2について

(1)取消理由A-2の概要
当審が通知した取消理由A-2は、以下の(a)及び(b)の点をいうものである。
(a)訂正前の請求項1における「酸成分」が極めて多種多岐にわたる物性(揮発性など)を有する極めて多種の化合物が含まれるものであり、「ガラス系充填材のサイジング剤として」の「酸成分」がいかなる成分であるのか不明であることに基づき、訂正前の本件の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし8の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確でない。
(b)本件の請求項6における「ポリアセタール樹脂がブロック成分を含む」なる表現では、多義的に理解できるものであることに基づき、請求項6並びに同項を引用する請求項7及び8の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確でない。

(2)検討
上記(a)の点につき検討すると、本件訂正により請求項1における「酸成分」につき「カルボン酸である」旨に減縮規定され、上記II.2,(2)でも説示したとおり、「カルボン酸」であればその種別にかかわらず同等の機能を発現するものと解されるから、本件訂正により請求項1に係る発明は明確になったものといえる。
また、上記(b)の点につき本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき再度検討すると、「ブロック成分」につき、本件特許明細書の「ポリアセタールコポリマーは、ポリアセタールの繰り返し構造単位とは異なる異種のブロックを有するブロックコポリマーであってもよい。」との記載(【0017】)からみて、ポリアセタール樹脂以外の成分ではなく、ポリアセタール樹脂の末端封止基を意味するものもなく、いわゆる「ブロックセグメント」を意味するものであると認められるから、請求項6に係る発明も明確である。

(3)小括
したがって、上記(a)及び(b)の点は、いずれも解消され、本件訂正後の請求項1ないし8の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものといえる。

2.取消理由Bについて
取消理由Bは、令和2年8月31日付け訂正請求により訂正された請求項1又は2を引用する請求項3につき、請求項2が訂正されたことにより技術的に不整合となり、請求項3に係る発明が明確でないというものである。
しかしながら、本件訂正により、請求項3は、請求項1のみを引用するものとなり、請求項2を引用しないものとなったから、当該不整合は解消され。請求項3に係る発明は明確となり、特許法第36条第6項第2号に適合するものといえる。

3.取消理由A-2及びBに係る検討のまとめ
以上のとおり、当審が通知した取消理由A-2及びBは、いずれも理由がない。

V.当審の判断のまとめ
よって、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、当審が通知した取消理由及び申立人が主張する取消理由につき、いずれも理由がなく、取り消すことができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正については適法であるからこれを認める。
また、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、当審が通知した理由並びに申立人が主張する理由及び提示した証拠によっては、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、(B)ガラス系充填材10質量部以上100質量部以下と、を含むポリアセタール樹脂組成物であって、(A)ポリアセタール樹脂の末端OH基濃度が2以上15mmol/kg以下であり、かつ、(B)ガラス系充填材のサイジング剤として少なくとも1種の酸成分を含み、
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がカルボン酸である、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸が、カルボン酸含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体と該カルボン酸無水物含有不飽和ビニル単量体以外の不飽和ビニル単量体とを構成単位として含む共重合体、及び、ポリマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ガラス系充填材のサイジング剤の酸成分がアクリル酸である、請求項1記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、さらに(C)ホルムアルデヒド捕捉剤を0.01?5質量含む、請求項1?3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、さらに(D)耐候剤を0.01?5質量部含む、請求項1?4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリアセタール樹脂がブロック成分を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
前記ブロック成分が水素添加ポリブタジエン成分である、請求項6に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-15 
出願番号 特願2015-188908(P2015-188908)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 明子  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 近野 光知
橋本 栄和
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6563292号(P6563292)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ポリアセタール樹脂組成物及びその成形体  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 大貫 敏史  

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